説明

鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法

【課題】結晶性の良い鉄シリサイド強磁性体FeSiを得る。
【解決手段】Si基板1の表面を熱酸化して極薄の酸化膜2を形成する(図(a) 及び(b) 参照)。基板温度を10℃から400℃の範囲の適当な温度に保持した状態で、該酸化膜2の表面にFe3とSi4とをほぼ3:1の蒸着速度比で同時蒸着させる。室温付近の基板温度で蒸着させた場合にはFeSiのアモルファスが形成され、400℃に近い基板温度で蒸着させた場合には、モノシリサイド(C−FeSi)を含有したFeSiが形成されるが、いずれの場合にも適正な温度でアニールすれば、鉄シリサイド強磁性体FeSiの結晶が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si基層等と鉄シリサイド強磁性体とからなる鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性体である鉄シリサイドFeSiは、ホイスラー合金とみなせるDO3構造をとり得るためハーフメタルになる可能性を有しており、また、スピン偏極率の高い強磁性体材料として期待されている(例えば、非特許文献1参照)。さらに、この鉄シリサイドFeSiは、Si基板上にエピタキシャル成長させることが可能であるため、Si基板上に高スピン偏極率を有するシリコンベース強磁性体デバイスの作製を可能とする材料として有望視されている。
【非特許文献1】J.Herfortら、“Epitaxial growth of Fe3Si/GaAs(001) hybrid structure”、Appl.Phys. Lett. 83, 3912 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、結晶性の良いFeSiをSi基板等に形成する技術は未だ確立されていない。
【0004】
本発明は、好適な鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、図1に例示するものであって、Si、Ge又はSiGeからなる基層(1)の表面に基層側酸化膜(2)を形成する基層側酸化膜形成工程(図1(b) 参照)と、
10℃から400℃の範囲の温度条件下で前記基層側酸化膜(2)の表面にFe(3)とSi(4)とを略3対1の組成比となるように蒸着させる基層側蒸着工程(図1(c) 参照)と、
該基層側蒸着工程の終了後にアニールを行うアニール工程と、
を実施することにより鉄シリサイド強磁性体を備えたデバイスを製造する鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法に関するものである。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記アニール工程は300℃から600℃の範囲の温度で行うことを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において、前記基層側蒸着工程を実施するときの基板温度が室温付近であって、
前記アニール工程を実施するときの温度が300℃から600℃の範囲であることを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項2に係る発明において、前記基層側蒸着工程を実施するときの基板温度が200℃から400℃の範囲であって、
前記アニール工程を実施するときの温度が400℃から550℃の範囲であることを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発明において、前記基層側蒸着工程におけるFe(3)の蒸着とSi(4)の蒸着とを3+v:1−v(但し、−0.2<x<0.6)の蒸着速度比で同時に行い、Fe3+xSi1−x(−0.2<x<0.6)の組成比の鉄シリサイドを生成することを特徴とする。
【0010】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発明において、前記基層側蒸着工程におけるFe(3)及びSi(4)の供給量を制御することにより、鉄シリサイドをナノドット状、アイランド状、又は薄膜状に形成することを特徴とする。
【0011】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の発明において、前記基層側酸化膜(2)は、前記基層(1)を酸素雰囲気中で熱酸化して0.3nm以上2nm以下の厚さに形成することを特徴とする。
【0012】
請求項8に係る発明は、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の発明において、前記基層側酸化膜形成工程(図1(b) 参照)を実施した後であって前記基層側蒸着工程(図1(c) 及び図4(b) 参照)を実施する前に前記基層側酸化膜(2)の表面にSi又はGe(図4(a)
の符号13参照)を蒸着してSi核又はGe核(10)を形成する核形成工程、を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項9に係る発明は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の発明において、図6(a) に示すように、蒸着された鉄シリサイド(5)を覆うように、Si、Ge又はSiGeからなるスペーサー層(6)を形成するスペーサー層形成工程と、
前記スペーサー層(同図(b) の符号6参照)の表面にスペーサー層側酸化膜(12)を形成するスペーサー層側酸化膜形成工程と、
10℃から400℃の範囲の温度条件下で前記スペーサー層側酸化膜(同図(c) の符号12参照)の表面にFe(3)とSi(4)とを略3対1の組成比となるように蒸着させるスペーサー層側蒸着工程と、
を前記基層側蒸着工程が終了した後に少なくとも1回実施して鉄シリサイド強磁性体層(図5の符号B,B参照)を複数形成することを特徴とする。
【0014】
請求項10に係る発明は、請求項9に係る発明において、前記スペーサー層側蒸着工程におけるFe(3)の蒸着とSi(4)の蒸着とを3+v:1−v(但し、−0.2<x<0.6)の蒸着速度比で同時に行い、Fe3+xSi1−x(−0.2<x<0.6)の組成比の鉄シリサイドを生成することを特徴とする。
【0015】
請求項11に係る発明は、請求項9又は10に係る発明において、前記スペーサー層側蒸着工程におけるFe(3)及びSi(4)の供給量を制御することにより、鉄シリサイドをナノドット状、アイランド状、又は薄膜状に形成することを特徴とする。
【0016】
請求項12に係る発明は、請求項11に係る発明において、前記基層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量と、前記スペーサー層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量とを異ならせることにより、鉄シリサイドの形状やサイズを一方の強磁性体層(B)と他方の強磁性体層(B)とで異ならせることを特徴とする。
【0017】
請求項13に係る発明は、請求項9乃至12のいずれか1項に記載の発明において、前記スペーサー層側酸化膜(12)は、前記スペーサー層(6)を酸素雰囲気中で熱酸化して0.3nm以上2nm以下の厚さに形成することを特徴とする。
【0018】
なお、括弧内の番号などは、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【発明の効果】
【0019】
請求項1、2、5、7〜10、及び13に係る発明によれば、基層の表面に基層側酸化膜を形成し、FeとSiの蒸着はその基層側酸化膜に対して10℃〜400℃の低温で行うようになっているので、基層と蒸着材料(つまり、FeやSi)との間の拡散(例えば、蒸着されたFeの基層への拡散)を抑えることができ、FeとSiの組成比が略3対1であって結晶性の良い鉄シリサイド強磁性体FeSiを得ることができる。また、FeやSi等の材料は比較的安価であるので、強磁性体デバイス自体も安価に製造することができる。さらに、鉄シリサイド強磁性体をSi基板に形成して強磁性体デバイスとSiテクノロジーとの融合を図ることができ、様々な用途に応じたデバイスを作製することも可能となる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、蒸着時の基板温度が低いため、Feの基層への拡散がほとんど起こらずモノシリサイド(C−FeSi)も形成されないので、FeとSiの組成比が3:1に近く不純物もほとんど無い鉄シリサイド強磁性体を得ることができる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、FeSi以外に余分なモノシリサイド(C−FeSi)も形成されてしまうが、アニールを行うことでモノシリサイドを少なくすることができる。
【0022】
請求項6及び11に係る発明によれば、特性の異なる強磁性体を得ることが可能となり、Si基板上に作製した超高密度メモリデバイス、スピン偏極発光ダイオード等の強磁性デバイスを実現できる可能性がある。
【0023】
請求項12に係る発明によれば、強磁性の層と軟磁性の層とを作製することができ、様々な機能や用途を持つ強磁性体デバイスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図1乃至図9に沿って、本発明を実施するための最良の形態について説明する。ここで、図1は、本発明に係る鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法の手順の一例を示す模式図であり、図2は、本発明によって製造される鉄シリサイド強磁性体デバイスの構成の一例を示す断面図であり、図3(a) はボイドが酸化膜中に存在するときの様子を説明するための模式図であり、図3(b) はボイドが酸化膜中に存在しないときの様子を説明するための模式図である。また、図4(a)
(b) は、FeとSiの同時蒸着を行う前にSi核又はGe核を形成する様子を説明するための模式図であり、図5は、本発明によって製造される鉄シリサイド強磁性体デバイスの構成の他の例を示す断面図であり、図6は、本発明に係る鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法の手順の他の例を示す模式図であり、図7(a)
(b) は、本発明によって製造される鉄シリサイド強磁性体デバイスの構成の他の例を示す断面図であり、図8は、FeSi鉄シリサイド強磁性体のナノドットの走査トンネル顕微鏡(STM)像と反射高速電子線回折(RHEED)図形を示す写真であり、図9は、本発明によって製造される鉄シリサイド強磁性体デバイスの構成の他の例を示す断面図である。
【0025】
本発明に係る鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法は、図1(a) 〜(c) に例示するものであって、
・ Si、Ge又はSiGeからなる基層1の表面に酸化膜(本明細書において“基層側酸化膜”とする)2を形成する基層側酸化膜形成工程(図1(a) (b) 参照)と、
・ 略3対1の組成比となるようにFe(同図(c) の符号3参照)とSi(同図(c) の符号4参照)とを該基層側酸化膜2の表面に蒸着させて鉄シリサイド5を形成する基層側蒸着工程と、
・ 該基層側蒸着工程の終了後にアニールを行うアニール工程と、
からなる。図1(b)
(c) 中の符号7,8は蒸着装置を示す。この方法により、例えば図2に示すような構成の強磁性体デバイスAを得ることができる。図2中の符号9は、鉄シリサイド5を覆うように形成されたキャップ層を示す。
【0026】
ここで、上述の“Si、Ge又はSiGeからなる基層”とは、
・ 単結晶Siからなる層
・ 単結晶Geからなる層
・ 単結晶SiGeからなる層
・ エピタキシャル成長したSi層
・ エピタキシャル成長したGe層
・ エピタキシャル成長したSiGe混晶層
を意味するものとし、本明細書においては単に“基層”と称することとする。基板自体がそれらの層で構成されていても、基板自体がSiやGeやSiGe以外の材料で構成されていて前記基層が基板に支持される形で形成されていても、いずれでも良い。なお、上述の基層側酸化膜2や鉄シリサイド5は、例えば、Si基板の(111)面に形成すると良いが、該面以外の面に形成しても良い。
【0027】
一方、前記基層側酸化膜2は、前記基層1を酸素雰囲気中で熱酸化して形成すると良く、0.3nm以上2nm以下の厚さに形成すると良い。基層側酸化膜2の厚さをその範囲内にした場合には、蒸着時の基板温度を調整することで、基層側酸化膜2にボイド2aを形成したりしなかったりできるため(図3(a) (b) 参照)、鉄シリサイド強磁性体をエピタキシャル成長、非エピタキシャル成長させることを選択することができる。また、このような極薄の酸化膜を用いた場合、Fe及びSiの蒸着量や基板温度を適正に制御することにより、従来よりも、高密度でしかも小さい鉄シリサイド強磁性体ドットを得ることができ、次のような効果を得ることができる。すなわち、
・ 一つの微結晶あたりの不純物を少なくすることができる。たとえば、平均1018/cmの割合で不純物や点欠陥を含む場合でも、10ナノメータースケールの微結晶の場合、1個の微結晶中には不純物や点欠陥は0−1個程度し得ない。
・ また、Si層、Ge層、或いはSiGe層と鉄シリサイド強磁性体の格子不整合により、膜厚によっては格子不整合から生じる歪みを緩和するために不整合転位が存在してしまうが、鉄シリサイド強磁性体をナノドット状にした場合にはそのような不整合転位は存在しにくい。
【0028】
ところで、上述の基層側酸化膜2は、基層側蒸着工程にて蒸着されるFeの基層側への拡散を防止等するために形成されるものである。図2においては、基層側蒸着工程を経た後において基層側酸化膜2が均一な膜厚のまま残っている状態を示しているが、基層側蒸着工程においてFeの拡散を防止さえすれば、
・ 該蒸着工程によって多少の凹凸が出来て、デバイス完成時点では膜厚が均一でなくなっていても、
・ 図3(a) に符号2aに示すようなボイド(或いはSi核やGe核)が形成されてしまっていても、
・ 蒸着工程の実施に際して酸化膜のほとんどが消失してしまい、鉄シリサイド強磁性体が基層側酸化膜2の表面に形成されるのではなく、基層1の表面に直接形成された状態であっても、
いずれでも良い。
【0029】
上述の基層側蒸着工程においては、Feの蒸着とSiの蒸着とを同時に行うと良い。なお、鉄シリサイド中のFeとSiの組成比を3:1にすればハーフメタルになる可能性があるが、強磁性の性質を得るためだけなら、厳密に3:1にする必要はなく、Fe3+xSi1−x(−0.2<x<0.6)を形成すると良い。そして、そのような組成比の鉄シリサイドを生成するには、Feの蒸着速度とSiの蒸着速度との比を3+v:1−v(但し、−0.2<x<0.6)にすると良い。つまり、単位時間当たり(微小単位時間当たり)のFeとSiの供給量は蒸着速度に依存するので、FeとSiの蒸着速度比を適正にすればそれらの組成比を適正にできることとなる。また、Fe及びSiの総蒸着量は6〜24monolayer(ML)程度にすると良い。さらに、Fe及びSiを蒸着する方法としては、
・ Feの蒸着に電子線蒸着装置を用い、Siの蒸着にKundsenセルや電子線蒸着装置を用いた分子線エピタキシャル法や、
・ スパッタ法や、
・ Siなどを含む反応ガス使用する化学気相成長法、
などを挙げることができる。
【0030】
また、前記基層側蒸着工程を実施するときの基板温度(温度条件)は10℃から400℃の範囲が好ましい。さらに、アニール工程は300℃から600℃の範囲の基板温度で行うことが好ましいが、基層側蒸着工程時の基板温度に応じて温度調整すると良い。具体的には、
・ 前記基層側蒸着工程を実施するときの基板温度を室温付近の温度とした場合には、アニール工程時の基板温度は300℃から600℃の範囲にすると良く、
・ 前記基層側蒸着工程を実施するときの基板温度を200℃から400℃の程度とした場合には、アニール工程時の基板温度は400℃から550℃の範囲、
にすると良い。蒸着工程のときの基板温度を室温付近とした場合には鉄シリサイドはアモルファス状となるが、上述のようにアニールを行うことで、結晶性の良い鉄シリサイド強磁性体を得ることができる。この場合は、蒸着時の基板温度が低いため、Feの基層1への拡散がほとんど起こらずモノシリサイド(C−FeSi)も形成されないので、FeとSiの組成比が3:1に近く不純物もほとんど無い鉄シリサイド強磁性体を得ることができる。一方、蒸着工程のときの基板温度を200℃から400℃とした場合には、アモルファスではない鉄シリサイドFeSiの結晶と、余分なモノシリサイド(C−FeSi)とが形成されてしまうが、上述のようにアニールを行うことでモノシリサイドを少なくすることができる。ここで、アニール工程を実施する前の時点で鉄シリサイドが強磁性体になっている必要は必ずしも無く、アニール工程を実施した後に強磁性体になっていれば足りる。
【0031】
本発明によれば、基層1の表面に基層側酸化膜2を形成し、FeとSiの蒸着はその基層側酸化膜2に対して10℃〜400℃の低温で行うようになっているので、基層1と蒸着材料(つまり、FeやSi)との間の拡散(例えば、蒸着されたFeの基層1への拡散)を抑えることができ、FeとSiの組成比が略3対1であって結晶性の良い鉄シリサイド強磁性体FeSiを得ることができる。また、FeやSi等の材料は比較的安価であるので、強磁性体デバイス自体も安価に製造することができる。さらに、鉄シリサイド強磁性体をSi基板に形成して強磁性体デバイスとSiテクノロジーとの融合を図ることができ、様々な用途に応じたデバイスを作製することも可能となる。例えば、図7(a) (b) に示す構成の鉄シリサイド強磁性体デバイスを作製することも可能となる。図中の符号20は、SiやGeやSiGeからなるキャップ層を示し、符号21は、III−V族半導体を示し、符号22は、絶縁層である酸化膜を示す。
【0032】
本発明によれば、前記基層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量(蒸着量)や基板温度を制御することによって、生成する鉄シリサイドの形状を
・ ナノドット状や
・ アイランド状(本明細書においては、直径が1nm〜1μm程度となるドット状を意味するものとする)や
・ 薄膜状
に自由に選択することができ、また、ナノドットやアイランドのサイズも自由に調整することができる。そして、鉄シリサイド強磁性体におけるFeとSiの組成比やドットサイズを調整することで、特性の異なる強磁性体を得ることが可能となり、Si基板上に作製した超高密度メモリデバイス、スピン偏極発光ダイオード等の強磁性デバイスを実現できる可能性がある。
【0033】
ところで、前記基層側酸化膜形成工程(図1(b) 参照)を実施した後であって前記基層側蒸着工程(図1(c) 及び図4(b) 参照)を実施する前に、図4(a) に例示するように、前記基層側酸化膜2の表面にSiやGe(図4(a)
の符号13参照)を蒸着してSi核やGe核(符号10参照)を形成する核形成工程を実施すると良い。その蒸着を行う際の基板温度は500℃から700℃にすると良い。なお、核形成時の基板温度を高くするとボイド径(核の径)が大きくなるので、ボイド径を小さくしたい場合には500℃程度にすると良い。また、核形成時のためのSiやGeの蒸着量は0.2bilayer(BL)から2BLの範囲にすると良い。さらに、SiやGeの蒸着は、上述のような分子線エピタキシャル法やスパッタ法や化学気相成長法により行うと良い。
【0034】
図2に示すデバイスでは鉄シリサイド強磁性体層は1層のみ(符号B参照)であるが、もちろんこれに限られるものではない。例えば、図5に符号B,Bで示すように、鉄シリサイド強磁性体層を二層形成しても良く、三層以上形成しても良い。図5中の符号6は強磁性体層Bを覆うように配置されるスペーサー層を示し、符号16は強磁性体層Bを覆うように配置されるスペーサー層を示す。スペーサー層6,16はSi、Ge、或いはSiGe混晶にて形成すると良く、蒸着によって形成すると良い。
【0035】
図5に示すように二層の強磁性体層B,Bを形成する場合、少なくとも一層B又はBを上述の製造方法(つまり、酸化膜を形成する工程と、該酸化膜表面にFe及びSiを蒸着させる工程と、アニールする工程)により製造すると良く、両方の強磁性体層B,Bを該製造方法により製造するようにしても良い。両方の強磁性体層B,Bを該製造方法により製造する場合には、
(1) 前記基層1の表面に前記基層側酸化膜2を形成する基層側酸化膜形成工程(図1(b)
参照)と、
(2) 略3対1の組成比となるようにFe3とSi4とを該基層側酸化膜2の表面にFe3とSi4とを蒸着させる基層側蒸着工程(図1(c)
参照)と、
(3) 該蒸着された鉄シリサイド5を覆うように、Si、Ge又はSiGeからなるスペーサー層6を形成するスペーサー層形成工程(図6(a) 参照)と、
(4) 該スペーサー層6の表面に酸化膜(本明細書において“スペーサー層側酸化膜”とする)12を形成するスペーサー層側酸化膜形成工程(図6(b)
参照)と、
(5) 略3対1の組成比となるようにFe3とSi4とを該スペーサー層側酸化膜12の表面にFe3とSi4とを蒸着するスペーサー層側蒸着工程(図6(c)
参照)と、
(6) アニールを行うアニール工程と、
を実施すると良い。
【0036】
上述のスペーサー層側蒸着工程は基層側蒸着工程と同様の方法で実施すれば良い。すなわち、
・ Feの蒸着とSiの蒸着とを同時に行うと良く、
・ 強磁性の性質を得るためならば、FeとSiの組成比を厳密に3:1にする必要はなく、Feの蒸着速度とSiの蒸着速度との比を3+v:1−v(但し、−0.2<x<0.6)としてFe3+xSi1−x(−0.2<x<0.6)を形成すると良く、
・ 蒸着方法としては分子線エピタキシャル法やスパッタ法や化学気相成長法を用いると良く、
・ 基板温度は10℃から400℃の範囲にすると良く、
・ スペーサー層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量を制御することにより、鉄シリサイドをナノドット状、アイランド状、又は薄膜状に形成する
と良い。
【0037】
ところで、図5に示すような構成の鉄シリサイド強磁性体デバイスAを製造するに際し、基層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量と、スペーサー層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量とを異ならせることにより、鉄シリサイドの形状(ナノドット状、アイランド状、及び薄膜状)やサイズ(ドット径やアイランド径)を一方の強磁性体層Bと他方の強磁性体層Bとで異ならせると良い。例えば、一方の強磁性体層を
・ 複数の鉄シリサイドドットや
・ 複数の鉄シリサイドアイランド
で構成し、他方の強磁性体層を、
・ 前記一方の強磁性体層と径の異なる鉄シリサイドドットや鉄シリサイドアイランド
・ 薄膜状の鉄シリサイド
などで形成すると良い。鉄シリサイドの磁性は形状やサイズに応じて異なるので、強磁性の層と軟磁性の層とを作製することができ、様々な機能や用途を持つ強磁性体デバイスを製造することができる。また、それらの強磁性の層及び軟磁性の層は、同じ材料(Fe及びSi)を使用し、製造条件を変更するだけで作ることができるので、安価でかつ簡単にデバイスを製造できる。また、三層以上の鉄シリサイド層を有するデバイスにおいて、各層の鉄シリサイドのサイズや形状を変更するようにしても良い。
【0038】
ところで、上述のスペーサー層側酸化膜12は前記スペーサー層6を酸素雰囲気中で熱酸化して形成すると良く、0.3nm以上2nm以下の厚さに形成すると良い。スペーサー層側酸化膜12の厚さを上述の範囲(つまり、0.3nm以上2nm以下の範囲)にした場合には、蒸着時の基板温度を調整することで、スペーサー層側酸化膜12にボイドを形成したりしなかったりできるため、鉄シリサイド強磁性体をエピタキシャル成長、非エピタキシャル成長させることを選択することができる。また、このような極薄の酸化膜を用いた場合、Fe及びSiの蒸着量や基板温度を適正に制御することにより、従来よりも、高密度でしかも小さい鉄シリサイド強磁性体ドットを得ることができる。
【実施例1】
【0039】
本実施例では、図1及び図6に示す製造方法によって、図5に示す構造の鉄シリサイド強磁性体デバイスAを作製した。
【0040】
本実施例では、基層1としてSi基板を使用し、10−4Pa程度の酸素圧力下で該Si基板1の表面を熱酸化させて極薄Si酸化膜2を形成した。次に、図4(a) に符号11で示す蒸着装置を用いて、超高真空下で、基板温度500℃でGe(符号13参照)を酸化膜上に蒸着して核10を形成し、その後、蒸着装置7,8を用いて、超高真空下で、基板温度を23℃程度でFeとSi(符号3,4参照)を同時に蒸着して鉄シリサイド5を形成し、その後、300〜400℃程度の温度でアニールを行い、鉄シリサイド強磁性体を形成した。この条件では鉄シリサイド強磁性体はエピタキシャル成長している。FeとSiの蒸着速度比は3:1とし、総蒸着量は24monolayer(ML)程度とした。そして、形成した鉄シリサイド強磁性体を埋めるようにSiのスペーサー層(図6の符号6参照)を形成し、該スペーサー層6を熱酸化してスペーサー層側酸化膜12を形成し(図6(b)
参照)、該酸化層12の表面には上述と同様の方法で、10ML程度の鉄シリサイド強磁性体を形成した(図6(c) 参照)。そして、該鉄シリサイド強磁性体を埋め込むようにSiのキャップ層(図5の符号16参照)を形成して鉄シリサイド強磁性体のデバイスを作製した。
【0041】
一層目と二層目の強磁性体層B,B中の鉄シリサイド強磁性体の蒸着量を異ならせ、一層目と二層目においてアイランドサイズの異なる鉄シリサイド強磁性体を有する鉄シリサイド強磁性体デバイスを幾つか作製してみた。図8に12MLのFeSi鉄シリサイド強磁性体のナノドットの走査トンネル顕微鏡(STM)像と反射高速電子線回折(RHEED)図形を示す。
【実施例2】
【0042】
本実施例では、図9に示す構造のスピン偏極発光ダイオード(強磁性体デバイス)を作製した。まず、n型のSi基板31上に酸化膜32を形成し、鉄シリサイド強磁性体35、n型GaSb半導体層36、活性層であるGaSb半導体層37、p型GaSb半導体層38を該酸化膜32に順番に積層した。その後、蒸着法を用いて、Au電極34とAl電33とを図示の位置にそれぞれ形成した。本実施例によれば、良質のスピン偏極発光ダイオードを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明に係る鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法の手順の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明によって製造される鉄シリサイド強磁性体デバイスの構成の一例を示す断面図である。
【図3】図3(a) はボイドが酸化膜中に存在するときの様子を説明するための模式図であり、図3(b)はボイドが酸化膜中に存在しないときの様子を説明するための模式図である。
【図4】図4(a)(b) は、FeとSiの同時蒸着を行う前にSi核又はGe核を形成する様子を説明するための模式図である。
【図5】図5は、本発明によって製造される鉄シリサイド強磁性体デバイスの構成の他の例を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明に係る鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法の手順の他の例を示す模式図である。
【図7】図7(a)(b) は、本発明によって製造される鉄シリサイド強磁性体デバイスの構成の他の例を示す断面図である。
【図8】図8は、FeSi鉄シリサイド強磁性体のナノドットの走査トンネル顕微鏡(STM)像と反射高速電子線回折(RHEED)図形を示す写真である。
【図9】図9は、本発明によって製造される鉄シリサイド強磁性体デバイスの構成の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 基層
2 基層側酸化膜
3 Fe
4 Si
6 スペーサー層
10 Si核又はGe核
12 スペーサー層側酸化膜
,A 鉄シリサイド強磁性体デバイス
,B 強磁性体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si、Ge又はSiGeからなる基層の表面に基層側酸化膜を形成する基層側酸化膜形成工程と、
10℃から400℃の範囲の温度条件下で前記基層側酸化膜の表面にFeとSiとを略3対1の組成比となるように蒸着させる基層側蒸着工程と、
該基層側蒸着工程の終了後にアニールを行うアニール工程と、
を実施することにより鉄シリサイド強磁性体を備えたデバイスを製造する鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記アニール工程は300℃から600℃の範囲の温度で行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記基層側蒸着工程を実施するときの基板温度が室温付近であって、
前記アニール工程を実施するときの温度が300℃から600℃の範囲である、
ことを特徴とする請求項2に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記基層側蒸着工程を実施するときの基板温度が200℃から400℃の範囲であって、
前記アニール工程を実施するときの温度が400℃から550℃の範囲である、
ことを特徴とする請求項2に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記基層側蒸着工程におけるFeの蒸着とSiの蒸着とを3+v:1−v(但し、−0.2<x<0.6)の蒸着速度比で同時に行い、Fe3+xSi1−x(−0.2<x<0.6)の組成比の鉄シリサイドを生成する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記基層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量を制御することにより、鉄シリサイドをナノドット状、アイランド状、又は薄膜状に形成する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記基層側酸化膜は、前記基層を酸素雰囲気中で熱酸化して0.3nm以上2nm以下の厚さに形成する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記基層側酸化膜形成工程を実施した後であって前記基層側蒸着工程を実施する前に前記基層側酸化膜の表面にSi又はGeを蒸着してSi核又はGe核を形成する核形成工程、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項9】
蒸着された鉄シリサイドを覆うように、Si、Ge又はSiGeからなるスペーサー層を形成するスペーサー層形成工程と、
前記スペーサー層の表面にスペーサー層側酸化膜を形成するスペーサー層側酸化膜形成工程と、
10℃から400℃の範囲の温度条件下で前記スペーサー層側酸化膜の表面にFeとSiとを略3対1の組成比となるように蒸着させるスペーサー層側蒸着工程と、
を前記基層側蒸着工程が終了した後に少なくとも1回実施して鉄シリサイド強磁性体層を複数形成する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記スペーサー層側蒸着工程におけるFeの蒸着とSiの蒸着とを3+v:1−v(但し、−0.2<x<0.6)の蒸着速度比で同時に行い、Fe3+xSi1−x(−0.2<x<0.6)の組成比の鉄シリサイドを生成する、
ことを特徴とする請求項9に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記スペーサー層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量を制御することにより、鉄シリサイドをナノドット状、アイランド状、又は薄膜状に形成する、
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記基層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量と、前記スペーサー層側蒸着工程におけるFe及びSiの供給量とを異ならせることにより、鉄シリサイドの形状やサイズを一方の強磁性体層と他方の強磁性体層とで異ならせる、
ことを特徴とする請求項11に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記スペーサー層側酸化膜は、前記スペーサー層を酸素雰囲気中で熱酸化して0.3nm以上2nm以下の厚さに形成する、
ことを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の鉄シリサイド強磁性体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−26847(P2009−26847A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186686(P2007−186686)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】