説明

閉断面溶接構造体

【課題】 溶接部端部における疲労強度を高めることができるアルミニウム合金製の溶接構造体を提供する。
【解決手段】 第1フレーム部材1及び第2フレーム部材2は共にアルミニウム合金板の幅方向の両端を断面形状が「U」の字状になるように湾曲された形状を有している。第1フレーム部材1の両端部間に第2フレーム部材2の両端部の外側面を重ね、第1フレーム部材1の両端部を第2フレーム部材2の両端部の外側面に重ねすみ肉溶接して接合する。また、第1フレーム部材1と第2フレーム部材2との重ね代の重ねすみ肉溶接のビード3の近傍をリベット止めしてリベット止め部4を設ける。これによって第1フレーム部材1と第2フレーム部材2との接合強度が向上し、溶接部端部に応力が集中することに起因する疲労亀裂の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用フレーム、自動車用衝突吸収部材、その他の構造部材として使用されるアルミニウム合金製の閉断面溶接構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用フレーム、自動車用衝突吸収部材、その他の構造部材として鉄系部材が多用されている。ところで、これらの構造部材を軽量化することを目的としてアルミニウム材又はアルミニウム合金材の適用が検討されている。なかでも、長手方向にわたって断面形状を自由に設計することができる板溶接構造部材の適用が検討されている。例えば、板材をプレスで断面「コ」の字状に成型した素材同士を溶接することによって形成された閉断面溶接構造体が注目されている。
【0003】
このような閉断面溶接構造体に関する従来技術として例えば特開2003−175858号公報が挙げられる。図3は上記先行技術文献に開示された従来技術を示す斜視図、図4はその縦断面図である。
【0004】
図3及び図4において、この溶接構造体における第1フレーム部材21はアルミニウム合金板の幅方向の両端を断面形状が「コ」字状になるように湾曲された形状を有している。第1フレーム部材21の内面に位置決め部材24が溶接により接合されている。位置決め部材24はアルミニウム合金板の1方向の両端を断面形状が「コ」の字状になるように湾曲した形状を有しており、その両端部の外側面の間隔は、第1フレーム部材21の内側面の間隔と等しくなっている。位置決め部材24はその外面全体が第1フレーム部材21の内面に嵌合するように第1フレーム部材21内に配置され溶接により接合されている。位置決め部材24の端部の先端は第1フレーム部材21の端部の先端よりも低くなっており、この高さの差は第2フレーム22が第1フレーム部材21内に入り込む長さと等しくなっている。
【0005】
アルミニウム合金板からなる連結部材25が位置決め部材24の内面に対して垂直に溶接により接合されている。連結部材25の平面形状は位置決め部材24の断面形状における内面の輪郭と一致している。従って、連結部材25により、位置決め部材24の両端部が連結されている。
【0006】
第2のフレーム部材22はアルミニウム合金板の幅方向の両端部を断面形状が「コ」の字状になるように湾曲された形状を有しており、第2フレーム部材22の両端部の外側面の間隔は第1フレーム部材21の両端部の内側の間隔と一致している。アルミニウム合金板からなる連結部材26が第2フレーム部材22の内面に対して垂直に溶接により接合されている。連結部材26の平面形状は第2フレーム部材22の断面形状における内面の輪郭と一致している。従って、連結部材26により第2フレーム部材22の両端部が連結されている。
【0007】
第2フレーム部材22の端部の外側面を第1フレーム部材21の端部の内側面に重ね合わせながら第2フレーム部材22の端部の先端部を第1レーム部材21の内面に溶接された連結部材24の先端部に当接するように嵌合させ、この状態で、第1フレーム部材21の端部を第2フレーム部材22の外側面に重ねすみ肉溶接し、アルミニウム合金製の溶接構造体が形成される。
【0008】
【特許文献1】特開2003−175858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術には、重ねすみ肉溶接により形成した溶接構造体の溶接部の端部に、被溶接材が未溶接のまま露出する場合があり、溶接端部に被溶接材が未溶接のまま露出した溶接構造体をそのまま複数組み付けてフレーム構造体を形成した場合、組み付け時の荷重又は使用時の荷重が溶接最端部に集中することによって最端部から疲労亀裂が発生するという問題点がある。図5は、重ねすみ肉溶接した溶接構造体の応力集中部を示す説明図である。図5において、外部被溶接材11と内部被溶接材12とが上述した従来技術と同様に重ねすみ肉溶接されている。重ねすみ肉溶接部13の端部に被溶接材の未溶接部分が露出しておりこの部分が応力集中部14となり、この応力集中部14から疲労亀裂が発生し易い。
【0010】
このような問題点を解消するために、すみ肉溶接を延長して回し溶接を行い、これによって未溶接の素材を溶接端部に露出させないような工夫がなされている。図6はこのような回し溶接を示す説明図である。図6において、外側被溶接材11と内側被溶接材12との接合部端部が回し溶接され、回し溶接部15が形成されている。外側及び内側の被溶接材11、12の端部は溶接金属で覆われている。
【0011】
しかしながら、このような回し溶接は、閉断面を有する溶接構造体の中央部におけるトーチの取り回しが困難であることから、その部分におけるミグ自動溶接を行うことが非常に困難であり、この回し溶接だけを採用するには問題がある。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、溶接部端部における応力集中をなくし、溶接部端部における疲労強度を高めることができるアルミニウム合金製の溶接構造体を提供することを目的とする。なお、本願明細書において、アルミニウム合金には純アルミニウムが含まれるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願第1発明に係る閉断面溶接構造体は、アルミニウム合金製の断面「U」字状の第1部材と、アルミニウム合金製の断面「U」字状の第2部材とを、前記第1部材の端部の内面を前記第2部材の端部の外面に重ね合わせてすみ肉溶接することにより閉断面構造とした閉断面溶接構造体において、前記第1部材と前記第2部材との間の重ねすみ肉溶接部と、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ部に設けられた仮付け部と、を有することを特徴とする。
【0014】
本願第2発明に係る閉断面溶接構造体は、アルミニウム合金製の断面「U」字状の第1部材と、アルミニウム合金製の断面「U」字状の第2部材とを、前記第1部材の端部の内面を前記第2部材の端部の外面に重ね合わせてすみ肉溶接することにより閉断面構造とした閉断面溶接構造体において、前記第1部材と前記第2部材との間の重ねすみ肉溶接部分を延長した回し溶接部と、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ部に設けられた仮付け部と、を有することを特徴とする。
【0015】
本願第1及び第2発明に係る閉断面溶接構造体において、前記仮止め部はリベット止め部又はスポット溶接部であることが好ましい。
【0016】
また、本願第3発明に係る閉断面溶接構造体は、アルミニウム合金製の断面「U」字状の第1部材と、アルミニウム合金製の断面「U」字状の第2部材とを、前記第1部材の端部の内面を前記第2部材の端部の外面に重ね合わせてすみ肉溶接することにより閉断面構造とした閉断面溶接構造体において、前記第1部材と前記第2部材との間の重ねすみ肉溶接部と、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ部に前記重ねすみ肉溶接ビードとは別に設けられた接合部分とを有することを特徴とする。
【0017】
この場合において、上記接合部分は、アーク溶接、レーザー溶接、電子ビーム溶接(EBW)又は摩擦攪拌溶接(FSW)による接合部分であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本願第1発明に係る閉断面溶接構造体によれば、前記第1部材と前記第2部材との間の重ねすみ肉溶接部と、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ部に設けられた仮付け部とを有するので、溶接部端部の接合強度が向上し、溶接部端部への応力の集中を防止して疲労強度を高めることができる。また、回し溶接の必要がなくなるか又は回し溶接の長さが短くて済むので、溶接自体が容易となる。
【0019】
本願第2発明に係る閉断面溶接構造体によれば、重ねすみ肉溶接部分を延長した回し溶接部と、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ部に設けられた仮付け部とを有するので、溶接部端部の接合強度が向上し、溶接部端部への応力の集中を防止して疲労強度を高めることができる。また、回し溶接の長さが短くてすむので、溶接自体が容易となる。
【0020】
本願の請求項3に係る閉断面溶接構造体によれば、第1部材と第2部材との重ね代にリベット止め部又はスポット溶接部を形成したので、重ね合わせ部における第1部材と第2部材との接合強度が向上し、この部分における応力の集中をなくし、疲労強度を高めることができる。
【0021】
本願第3発明に係る閉断面溶接構造体によれば、前記第1部材と前記第2部材との間の重ねすみ肉溶接部と、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ部に前記重ねすみ肉溶接ビードとは別に設けられた接合部分とを設けたので、溶接部の接合強度が向上し、溶接部端部への応力集中を防止して溶接部端部における疲労強度を高めることができる。
【0022】
本願の請求項5に記載の発明によれば、重ねすみ肉溶接ビードとは別に、アーク溶接、レーザー溶接、電子ビーム溶接(EBW)又は摩擦攪拌溶接(FSW)による接合部分を設けたので、重ね合わせ部における第1部材と第2部材との接合強度が向上し、この部分における応力の集中をなくし、疲労強度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るアルミニウム合金製の溶接構造体の斜視図である。
【0024】
図1において、第1フレーム部材1はアルミニウム合金板の幅方向の両端を断面形状が「U」の字状になるように湾曲された形状を有している。また第2フレーム部材2も第1フレーム部材1と同様、アルミニウム合金板の幅方向の両端部を断面形状が「U」の字状になるように湾曲された形状を有している。
【0025】
第2フレーム部材2の両端部の外側面の間隔は第1フレーム部材1の両端部の内側面の間隔と一致している。このような第1フレーム部材1の両端部間に、第2フレーム部材2の両端部の外側面を嵌合し、重ね代部分における第1フレーム部材1の両端部を第2フレーム部材2の両端部の外側面に重ねすみ肉溶接して両フレーム部材を接合し、重ねすみ肉溶接のビード3を形成して溶接接合体を構成する。
【0026】
第1フレーム部材1と第2フレーム部材2との重ね合わせ部である溶接部端部には、すみ肉溶接のビード3に沿って例えば2乃至3箇所にリベット止め部4が形成されている。リベット止め部4は通常、重ねすみ肉溶接の前に予め形成される。
【0027】
次に、上述の如く構成された本実施形態に係る閉断面溶接構造体の動作について説明する。第1フレーム部材1と第2フレーム部材2との重ね合わせ部である溶接部の端部に、例えば重ねすみ肉溶接のビード3に沿うように、リベット止め部4を設けたので、溶接部端部における第1フレーム部材1と第2フレーム部材2との接合強度が高まる。従って、この溶接構造体を複数組み付けてフレーム構造体を形成した場合、組み付け時の荷重又はフレーム構造体使用時の荷重が溶接最端部に集中することが防止され、これによって疲労亀裂の発生を抑制することができる。
【0028】
また、リベットを用いる場合は、素材を「U」字状に加工する際にプレス加工にて同じ穴をあけることができるので、仮付け、仮付け位置の位置決め及びラップ代の長さ統一が容易になる。なお、溶接のみの場合には、治具又はリブ等で位置決めする必要がある。
【0029】
図2は、本発明の第2実施形態を示す斜視図である。図2において、この閉断面溶接構造体は、第1フレーム部材1と第2フレーム部材2との重ねすみ肉溶接ビード3に沿って重ねすみ肉溶接部とは別にアーク溶接してアーク溶接ビードを形成したものである。
【0030】
このように、重ねすみ肉溶接のビード3に沿ってアーク溶接のビード5を形成することにより、第1フレーム部材1と第2フレーム部材2との接合強度が高まり、溶接部端部への応力の集中がなくなり、これによって、溶接部端部における疲労亀裂の発生を抑制することができる。
【0031】
本発明において、上記各実施形態を夫々重ね合わせ部における第1フレーム部材1と第2フレーム部材2との位置決めを行うための位置決め部材又は連結部材を有しない場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1フレーム部材1又は第2フレーム部材2に、重ね合わせるための位置決め部材又は連結部材を設けることもできる。
【0032】
また、本発明において、第1フレーム部材と第2フレーム部材との重ね合わせ部の端部にリベット止め部を形成する代わりにスポット溶接を施しても良い。
【0033】
本願第2発明において、重ねすみ肉溶接ビードとは別に設ける接合部分は、アーク溶接、レーザー溶接、電子ビーム溶接(EBW)又は摩擦攪拌溶接(FSW)による接合部分であるが、これらの溶接は、線溶接のみならず点溶接であってもよい。レーザー溶接、EBW(電子ビーム)溶接による接合は片面施工が可能であり、下穴が不要であるため好ましい。また。アーク溶接は片面施工可能であり、しかも本溶接と同手段を使用することができるので、特に好ましい。
【0034】
なお、第1部材と第2部材との接合に適用される回し溶接とリベット止めとの接合強度は、例えば次ぎのようになる。即ち、回し溶接とリベット止めとの併用は回し溶接のみ又はリベット止めのみの場合に比べて接合強度が強く、また回し溶接のみはリベット止めのみの場合よりも接合強度が強い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の閉断面溶接構造体は、複数組み付けてフレーム構造体を構成した場合、組み付け時の荷重又は使用時の荷重が溶接最端部に集中することによる疲労亀裂の発生を抑制することができるものであり、構成材料の軽量化を図る自動車製造分野で特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態に係る閉断面溶接構造体を示す斜視図である。
【図2】第2実施形態に係る閉断面溶接構造体を示す斜視図である。
【図3】従来技術を示す斜視図である。
【図4】図3の縦断面図である。
【図5】重ねすみ肉溶接された溶接構造体を示す斜視図である。
【図6】回しすみ肉溶接された溶接構造体を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1:第1フレーム部材
2:第2フレーム部材
3:重ねすみ肉溶接のビード
4:リベット止め部
5:アーク溶接のビード
11:外側被溶接材
12:内側被溶接材
13:重ねすみ肉溶接部
14:応力集中部
15:回し溶接部
21:第1フレーム部材
22:第2フレーム部材
24:位置決め部材
25:連結部材
26:連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金製の断面「U」字状の第1部材と、アルミニウム合金製の断面「U」字状の第2部材とを、前記第1部材の端部の内面を前記第2部材の端部の外面に重ね合わせてすみ肉溶接することにより閉断面構造とした閉断面溶接構造体において、前記第1部材と前記第2部材との間の重ねすみ肉溶接部と、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ部に設けられた仮付け部と、を有することを特徴とする閉断面溶接構造体。
【請求項2】
アルミニウム合金製の断面「U」字状の第1部材と、アルミニウム合金製の断面「U」字状の第2部材とを、前記第1部材の端部の内面を前記第2部材の端部の外面に重ね合わせてすみ肉溶接することにより閉断面構造とした閉断面溶接構造体において、前記第1部材と前記第2部材との間の重ねすみ肉溶接部分を延長した回し溶接部と、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ部に設けられた仮付け部と、を有することを特徴とする閉断面溶接構造体。
【請求項3】
前記仮止め部は、リベット止め部又はスポット溶接部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の閉断面溶接構造体。
【請求項4】
アルミニウム合金製の断面「U」字状の第1部材と、アルミニウム合金製の断面「U」字状の第2部材とを、前記第1部材の端部の内面を前記第2部材の端部の外面に重ね合わせてすみ肉溶接することにより閉断面構造とした閉断面溶接構造体において、前記第1部材と前記第2部材との間の重ねすみ肉溶接部と、前記第1部材と前記第2部材との重ね合わせ部に前記重ねすみ肉溶接ビードとは別に設けられた接合部分とを有することを特徴とする閉断面溶接構造体。
【請求項5】
上記接合部分は、アーク溶接、レーザー溶接、電子ビーム溶接(EBW)又は摩擦攪拌溶接(FSW)による接合部分であることを特徴とする請求項4に記載の閉断面溶接構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−116568(P2006−116568A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307482(P2004−307482)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】