説明

防振装置

【課題】ストッパー部の先端部分における剛性基体と弾性被覆体との剥離を防止することができる防振装置を提供することを目的とする。
【解決手段】第一取付部材2、第二取付部材3、第一取付部材2と第二取付部材3とを弾性的に連結する弾性連結体4と、を備え、第二取付部材3に、ストッパー係止部7に当接することで第一取付部材2と第二取付部材3との相対変位を制限するストッパー部8が設けられた防振装置1であって、ストッパー部8に、剛性基体80と、剛性基体80の表面に被覆された弾性変形可能な弾性被覆体81と、が備えられ、弾性被覆体81に、剛性基体80とストッパー係止部7との間に配設されてストッパー係止部7に当接して圧縮変形することで緩衝する緩衝部86が備えられ、緩衝部86に、圧縮変形での圧縮方向に直交する方向に向けて開口されたスリット88が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車や産業機械等に適用され、エンジン等の振動発生部の振動を吸収および減衰する防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した防振装置として、従来、例えば下記特許文献1に示されているように、第一ブラケット部材を介して振動発生部および振動受部のいずれか一方に連結された筒状の第一取付部材と、第一取付部材の軸方向上側に配設され、第二ブラケット部材を介して振動発生部および振動受部のいずれか他方に連結された第二取付部材と、第一取付部材と第二取付部材を弾性的に連結すると共に第一取付部材の上端開口部を閉塞する弾性連結体と、第一取付部材の下端開口部を閉塞するダイヤフラムと、第一取付部材の内部に形成された液室を、弾性連結体を隔壁の一部とする主液室とダイヤフラムを隔壁の一部とする副液室とに区画する仕切り部材と、を備える構成が知られている。
【0003】
上記した第一ブラケット部材には筒状部が備えられており、この筒状部の内側に上記した第一取付部材が嵌合されている。また、前記した筒状部及び第一取付部材の上端部には、筒状のストッパー係止部材が連結されている。
また、上記した第二取付部材には、ストッパー係止部材の内側に配設されたストッパー部が備えられている。このストッパー部は、第一取付部材と第二取付部材との径方向の相対変位を制限するサイドストッパーであり、その概略構成としては、径方向に突出した環状の剛性基体と、その剛性基体の表面に被覆された弾性変形可能な弾性被覆体と、を備えている。弾性被覆体には、衝撃を緩和する緩衝部が備えられている。この緩衝部は、ストッパー部の先端部分、つまり剛性基体とストッパー係止部材との間に配設されている。
【0004】
上記した従来の防振装置では、第一取付部材と第二取付部材とが径方向に大きく相対変位すると、ストッパー部がストッパー係止部材の内周面に当接する。これにより、第一取付部材と第二取付部材との相対変位が制限される。このとき、弾性被覆体の緩衝部によって金属同士(剛性基体とストッパー係止部材)の当り音が防止されると共に、弾性被覆体の緩衝部が圧縮変形することで衝撃が緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−249063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の防振装置では、ストッパー部がストッパー係止部材の内周面に当接したとき、弾性被覆体の緩衝部が圧縮されるのに伴い当該緩衝部が圧縮方向に直交する方向に膨出される。これにより、剛性基体の先端角部に応力が集中し、ストッパー部の先端部分において剛性基体と弾性被覆体との剥離が生じるおそれがある。このような剛性基体と弾性被覆体との剥離が生じると、第一取付部材と第二取付部材との相対的な最大変位が大きくなり、弾性連結体の耐久にも影響が出る。
【0007】
また、上述した剛性基体の先端角部における応力集中を抑制する技術手段として、緩衝部の角部を切除する構造が考えられるが、この構造では、防振装置に入力される荷重と防振装置のたわみ(第一取付部材及び第二取付部材の相対的な変位)との関係を示す線図が大きく変わってしまい、要求される性能が発揮できないという問題が存在する。
【0008】
さらに、近年、ストッパー部に要求される特性として、段階的に立ち上がる荷重‐たわみ曲線が要求される場合がある。例えば、初期当たりのクリアランスを規定する場合に、ストッパー部によって荷重‐たわみ曲線が2段階で立ち上がる特性を要求される場合がある。
【0009】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、要求される防振装置の性能を維持しつつ、ストッパー部の先端部分における剛性基体と弾性被覆体との剥離を防止することができ、さらに、荷重‐たわみ曲線が2段階で立ち上がる特性を実現することができる防振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る防振装置は、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される第一取付部材と、前記振動発生部および振動受部のうちのいずれか他方に連結される第二取付部材と、前記第一取付部材と前記第二取付部材とを弾性的に連結する弾性連結体と、を備えており、前記第二取付部材に、ストッパー係止部に当接することで前記第一取付部材と前記第二取付部材との相対変位を制限するストッパー部が設けられた防振装置であって、前記ストッパー部に、剛性基体と、該剛性基体の表面に被覆された弾性変形可能な弾性被覆体と、が備えられており、該弾性被覆体に、前記剛性基体と前記ストッパー係止部との間に配設されて前記ストッパー係止部に当接して圧縮変形することで緩衝する緩衝部が備えられており、該緩衝部に、前記圧縮変形での圧縮方向に直交する方向に向けて開口されたスリットが形成されていることを特徴としている。
【0011】
このような特徴により、弾性被覆体(緩衝部)のうち、剛性基体の先端角部を被覆する部分のボリュームが小さくなるため、ストッパー部がストッパー係止部材の内周面に当接し、弾性被覆体の緩衝部が圧縮されたとき、弾性被覆体(緩衝部)が圧縮方向に直交する方向に膨出しにくくなり、剛性基体の先端角部における応力集中が抑制される。
また、緩衝部にスリットを形成した構成となっているため、防振装置に入力される荷重と防振装置のたわみとの関係を示す線図(荷重‐たわみ曲線)が大きく変わらず、しかも、荷重‐たわみ曲線が2段階で立ち上がる。
【0012】
また、本発明に係る防振装置は、前記ストッパー係止部に対向する前記緩衝部の当接面に凸部が形成されていることが好ましい。
これにより、荷重‐たわみ曲線のストッパー当たり後の立ち上がりが緩やかになり、所望の荷重‐たわみ曲線の特性に調整することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る防振装置によれば、剛性基体の先端角部における応力集中が抑制されるので、ストッパー部の先端部分において剛性基体と弾性被覆体との剥離が生じることを防止することができる。しかも、防振装置に入力される荷重と防振装置のたわみとの関係を示す線図が大きく変わらないので、要求される性能を維持することができると共に、2段階で立ち上がる荷重‐たわみ曲線を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態を説明するための防振装置の平面図である。
【図2】図1に示すA−A間の断面図であり、本発明の実施の形態を説明するための防振装置の縦断面図である。
【図3】図1に示すB−B間の断面図であり、本発明の実施の形態を説明するための防振装置の縦断面図である。
【図4】本発明の実施の形態を説明するための防振装置の荷重―たわみ曲線を表したグラフである。
【図5】本発明の変形例を説明するためのストッパー部の平面図である。
【図6】本発明の変形例を説明するためのストッパー部の剛性基体の平面図である。
【図7】本発明の変形例を説明するためのストッパー部の部分断面図である。
【図8】本発明の変形例を説明するためのストッパー部の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る防振装置の実施の形態について、図面に基いて説明する。
なお、図1〜3に示す符号Oは防振装置1の中心軸線を示しており、以下、単に「軸線O」と記す。また、軸線Oに沿った方向を「軸方向」とし、軸線Oに垂直な方向を「径方向」とし、軸線O回りの方向を「周方向」とする。
また、図2及び図3における下側がバウンド側、つまり防振装置1を設置した際に静荷重(初期荷重)が入力される方向であり、図2及び図3における上側がリバウンド側、つまり前記静荷重の入力方向の反対側である。以下の説明においてバウンド側を「下」とし、リバウンド側を「上」とする。
【0016】
図1〜図3に示す防振装置1は、自動車における振動発生部であるエンジンを、振動受け部である車体に支持するエンジンマウントである。この防振装置1は、静荷重が入力することで後述する弾性連結体4が圧縮される圧縮式の防振装置であり、後述する主液室11が鉛直方向上側に位置し、後述する副液室12が鉛直方向下側に位置するように取り付けられて用いられる。
【0017】
防振装置1の概略構成としては、図示せぬ車体に図示せぬ車体ブラケットを介して連結される外筒部材2(本発明における第一取付部材に相当する。)と、外筒部材2の上方に配設されて図示せぬエンジンに図示せぬエンジンブラケットを介して連結される内筒部材3(本発明における第二取付部材に相当する。)と、これらの外筒部材2と内筒部材3とを弾性的に連結すると共に外筒部材2の上端開口部を閉塞する弾性連結体4と、外筒部材2の下端開口部を閉塞するダイヤフラム5と、外筒部材2の内部に形成された液室10を、弾性連結体4を隔壁の一部とする主液室11とダイヤフラム5を隔壁の一部とする副液室12とに区画する仕切り部材6と、外筒部材2の上端部に連結されて弾性連結体4を覆う筒状のカバー部材7(本発明におけるストッパー係止部に相当する。)と、を備えている。
【0018】
外筒部材2は、軸線Oを中心軸線にして軸方向に延在する円筒形状の筒部材であり、金属等の剛性材料からなる。この外筒部材2には、上筒部20と、上筒部20の下方に配設された下筒部21と、上筒部20と下筒部21との間に介在された絞り部22と、が備えられている。上筒部20の上端部には、径方向外側に突出したフランジ部23が全周に亘って形成されている。下筒部21は、上筒部20よりも小径の筒部であり、この下筒部21を図示せぬ車体ブラケットの筒状部の内側に嵌合させることで防振装置1が車体側に固定される。絞り部22は、全周に亘って径方向内側に括れて補剛する縦断面視略円弧状の凹リブであり、上筒部20の下端から下方に向かって漸次縮径されていると共に下筒部21の上端から上方に向かって漸次縮径されている。
【0019】
カバー部材7は、上筒部20の上端に連設された円筒形状の有頂筒部材であり、軸線Oを中心軸線にして軸方向に延設されている。このカバー部材7の概略構成としては、軸線Oに対して略水平に配設された平面視円環状の天壁部70と、天壁部70の外縁から垂下された円筒形状の周壁部71と、を備えている。周壁部71の下端部には、上記した外筒部材2のフランジ部23に全周に亘って加締め固定された加締め部72が形成されている。
【0020】
内筒部材3は、軸線Oを中心軸線にして軸方向に延在する金属製の柱状部材である。この内筒部材3には、内筒部材3の上端面の中心から軸方向に沿って下方に延在する有底の雌ねじ孔30が穿設されており、内筒部材3の上端面には、上記した雌ねじ孔30に螺着される図示せぬボルトによって図示せぬエンジンブラケットが固定される。
【0021】
また、上記した内筒部材3には、カバー部材7の内面に当接することで外筒部材2と内筒部材3の相対変位を制限するストッパー部8が設けられている。このストッパー部8は、カバー部材7の周壁部71の内周面に当接して径方向の変位を制限するサイドストッパーと、カバー部材7の天壁部70の下面に当接して上側(リバウンド側)への変位を制限するリバウンドストッパーと、を兼ねたストッパー部であり、カバー部材7の周壁部71の内周面及びカバー部材7の天壁部70の下面に対してそれぞれ間隔をあけて配設されている。また、ストッパー部8は、平面視において長方形の各辺を外側に膨らませた形状に形成されており、水平方向の一方向(図1におけるX方向)に短く、それに直交する他方向(図1におけるY方向)に長い形状となっている。
【0022】
ストッパー部8の概略構成としては、内筒部材3の径方向外側に突出したフランジ状のストッパー金具80(本発明における剛性基体に相当する。)と、ストッパー金具80の表面に被覆された弾性変形可能なストッパーゴム81(本発明における弾性被覆体に相当する。)と、が備えられている。
【0023】
ストッパー金具80は、内筒部材3と一体に形成された金属製の剛体部であって、内筒部材3の外周面から径方向外側に向けて全周に亘って突出したフランジ部である。このストッパー金具80のうち、突出長さの短い短手部分80a(X方向両側の部分)の基端部の板厚さ寸法hは、突出長さの長い長手部分80b(Y方向両側の部分)の基端部の板厚さ寸法hよりも大きくなっている。また、ストッパー金具80の外縁部には、下向きに突出したリブ部82が全周に亘って形成されている。また、ストッパー金具80の外周面83(先端面)は、軸線Oと平行に形成されており、ストッパー金具80の上面84は、軸線Oに対して垂直に形成されている。これらストッパー金具80の外周面83と上面84との間の角部、つまり、ストッパー金具80の上側の外縁角部には、縦断面視円弧状に円面取りされた丸角面85が全周に亘って形成されている。
【0024】
ストッパーゴム81は、ストッパー金具80の外周面83及び上面84をそれぞれ被覆するゴム体であって、ストッパー金具80と共に加硫成形することでストッパー金具80の外周面83や上面84に接着されている。このストッパーゴム81の外周面は上記したカバー部材7の周壁部71の内周面から離間されており、また、ストッパーゴム81の上面は上記したカバー部材7の天壁部70の下面から離間されている。
【0025】
上記したストッパーゴム81には、ストッパー金具80の外周面83とカバー部材7の周壁部71の内周面との間に配設されたサイド緩衝部86(本発明における緩衝部に相当する。)と、ストッパー金具80の上面84とカバー部材7の天壁部70の下面との間に配設されたリバウンド緩衝部87と、が備えられている。
【0026】
サイド緩衝部86は、カバー部材7の周壁部71の内周面に当接して圧縮変形することで緩衝する弾性部であり、ストッパー金具80の外周面83の外周に全周に亘って周設されている。サイド緩衝部86は、カバー部材7の周壁部71の内周面に対して間隔をあけて配設されている。また、サイド緩衝部86のうち、ストッパー金具80の短手部分80aを被覆する短手方向(X方向)両側の部分(長辺部86a)のゴム厚さ寸法dは、ストッパー金具80の長手部分80bを被覆する長手方向(Y方向)両側の部分(短辺部86b)のゴム厚さ寸法dよりも大きくなっている。
【0027】
上記したサイド緩衝部86の上面には、平面視において内筒部材3を挟んで対称に配設された一対のスリット88,88が形成されている。このスリット88は、当該サイド緩衝部86が圧縮変形する際の圧縮方向に直交する方向(上方)に向けて開口された溝部であり、サイド緩衝部86のうちの基端側の部分に配設されている。詳しく説明すると、スリット88は、平面視円弧状に延在する溝部であり、ストッパー部8の長手方向の一端から他端にかけてストッパー部8の外縁に沿って延在している。そして、一対のスリット88,88の長さ方向中間部の間には内筒部材3が配設され、一対のスリット88,88の長さ方向両端部の間にはリバウンド緩衝部87,87がそれぞれ配設されている。
【0028】
また、スリット88は、縦断面視において上方に向かって漸次拡幅された略V字状の溝部であり、スリット88を形成する内面のうち、軸線O側の内面88aは、上記したストッパー金具80の丸角面85に沿って円弧状に形成されている。このスリット88の深さは、ストッパー金具80の上面84よりも下方の位置まで延びており、スリット88の断面視円弧状の底面は、丸角面85の下端(丸角面85と外周面83との接続箇所)と略同じ高さ位置に形成されている。
【0029】
また、サイド緩衝部86の外周面、つまりカバー部材7の周壁部71に当接するサイド緩衝部86の当接面86cには、縦断面視円弧状の凸部89が形成されている。この凸部89は、ストッパー部8の長手方向の一端から他端にかけてストッパー部8の外縁に沿って延在する凸条部であり、平面視においてスリット88と平行に延設されている。つまり、凸部89は、サイド緩衝部86のうちの両側の長辺部86a,86aの外周面にそれぞれ配設されており、当該長辺部86aの一端から他端に亘って延設されている。この凸部89は、縦断面視においてサイド緩衝部86の当接面86cのうちの上側部分に配設されており、縦断面視においてスリット88に対して径方向に隣り合う位置に配設されている。また、この凸部89の体積は、上記したスリット88の内容積と略同一となっている。つまり、凸部89の縦断面視における断面積は、縦断面視におけるスリット88の断面積と略等しくなっている。
【0030】
リバウンド緩衝部87は、カバー部材7の天壁部70の下面に当接して圧縮変形することで緩衝する弾性部であり、ストッパー部8の長手方向(Y方向)両側の部分にそれぞれ配設されている。このリバウンド緩衝部87は、カバー部材7の天壁部70の下面に対して間隔をあけて配設されている。
【0031】
弾性連結体4は、外筒部材2の上端開口部の内側に配設されたゴム体であり、上面及び下面が上方に向かうに従い漸次縮径された略円錐台形状に形成されていると共に軸線Oを中心軸線にして配設されている。この弾性連結体4を外筒部材2、内筒部材3及びストッパー金具80と共に加硫することで、弾性連結体4の下端部が外筒部材2の上筒部20及び絞り部22の内周面にそれぞれ接着されていると共に、弾性連結体4の上端部が内筒部材3の下端部の底面及び外周面、並びにストッパー金具80の下面にそれぞれ接着されている。なお、この弾性連結体4は、上記したストッパー部8のストッパーゴム81と一体に形成されており、また、外筒部材2の下筒部21の内周面を被覆する被覆ゴム13と一体に形成されている。
【0032】
ダイヤフラム5は、変形容易な膜体を有する蓋体であり、その概略構成としては、円環状のダイヤフラムリング50と、このダイヤフラムリング50の内側に張設された膜状のダイヤフラムゴム51と、を備えている。ダイヤフラムゴム51は、ダイヤフラムリング50と共に加硫することで、外縁部が全周にわたってダイヤフラムリング50の内周面に接着されている。そして、ダイヤフラムリング50は、外筒部材2(下筒部21)の下端部の内側に被覆ゴム13を挟んで嵌合されており、この外筒部材2の下端部と共にダイヤフラムリング50を径方向内側に加締めることで、ダイヤフラム5が外筒部材2の下端部に固定されている。
【0033】
上記したダイヤフラム5と弾性連結体4との間に位置する外筒部材2の内部が、これらのダイヤフラム5および弾性連結体4によって液密に閉塞されて封入液が充填された液室10となっている。そして、外筒部材2の内側には、上記した液室10を弾性連結体4側の主液室11とダイヤフラム5側の副液室12とに区画する仕切り部材6が嵌合されている。
【0034】
仕切り部材6は、円環状の仕切り部材本体60と、その仕切り部材本体60の内側に張設されたメンブラン61と、を備えている。この仕切り部材6の外周面側と外筒部材2の内周面側との間には、外筒部材2の周方向に沿って延在して上記した主液室11と副液室12とを連通するオリフィス14(制限通路)が形成されている。
【0035】
仕切り部材本体60は、樹脂製の部材であり、仕切り部材本体60の外周面には、オリフィス14となる周溝62が形成され、仕切り部材本体60の内周面には、径方向内側に突出したフランジ部63が全周に亘って形成されている。前記周溝62は、外筒部材2の内周面に被覆された被覆ゴム13によって、仕切り部材6の径方向の外側から閉塞されており、これにより、オリフィス14が形成されている。また、仕切り部材本体60の上面(周溝62の上壁部)には、オリフィス14と主液室11とを連通する主液室側開口64が形成されており、仕切り部材本体60の下面(周溝62の下壁部)には、オリフィス14と副液室12とを連通する副液室側開口65が形成されている。
【0036】
メンブラン61は、円板状のゴム製の部材であり、このメンブラン61によって円環状の仕切り部材本体60の内側が閉塞されている。メンブラン61は、仕切り部材本体60と共に加硫することで、外縁部が仕切り部材本体60のフランジ部63に接着されている。
【0037】
次に、上記した構成の防振装置1の作用について説明する。
【0038】
上記した防振装置1を介して図示せぬエンジンが図示せぬ車体に搭載された状態で、図示せぬエンジンが図示せぬ車体に対して相対的に横方向に変位し、外筒部材2と内筒部材3とが径方向に大きく相対変位すると、ストッパー部8がカバー部材7の周壁部71の内周面に当接する。これにより、外筒部材2と内筒部材3との相対変位が制限されるので、弾性連結体4に過度な変形が生じることが防止される。また、ストッパー部8がカバー部材7の周壁部71の内周面に当接したとき、ストッパーゴム81のサイド緩衝部86によってストッパー金具80とカバー部材7の金属当り音が防止されると共に、ストッパーゴム81のサイド緩衝部86が圧縮変形することで衝撃が緩和される。
【0039】
例えば、内筒部材3が外筒部材2に対して相対的にストッパー部8の短手方向(X方向)に大きく変位すると、サイド緩衝部86の長辺部86aが、カバー部材7の周壁部71の内周面に当接して内筒部材3と外筒部材2との相対変位が規制される。このとき、サイド緩衝部86の長辺部86aは、カバー部材7の周壁部71とストッパー金具80との間に挟まれて圧縮変形する。詳しく説明すると、まず、長辺部86aの外周面に突設された凸部89がカバー部材7の周壁部71の内周面に当接して押し潰されると共に、長辺部86aが圧縮されてスリット88の幅が漸次小さくなり、スリット88の内面88a,88b同士が重ね合わせられてスリット88が潰れた後、長辺部86aが圧縮変形する。
【0040】
上記した防振装置1によれば、サイド緩衝部86にスリット88が形成されていることにより、サイド緩衝部86が圧縮された際にサイド緩衝部86の上面及び下面が膨出しにくいため、ストッパー金具80の先端角部(丸角面85)における応力集中が抑制される。これにより、ストッパー部8の先端部分においてストッパー金具80とストッパーゴム81との剥離が生じることを防止することができる。
【0041】
また、上記した防振装置1では、サイド緩衝部86にスリット88を形成した構成となっているため、図4に示すように、防振装置1に入力される荷重と防振装置1のたわみ(変位)との関係を示す線図(荷重‐たわみ曲線)が大きく変わらない。したがって、防振装置1に要求される性能を維持することができる。
また、上記した防振装置1では、図4に示すように、2段階で立ち上がる荷重‐たわみ曲線を実現することができる。
【0042】
なお、図4では、本実施の形態における防振装置1の荷重‐たわみ曲線を実線で示している。また、図4では、参考例として、スリット88が形成されて凸部89が省略された構成の防振装置(参考例1)の荷重‐たわみ曲線を破線で示しており、さらに、スリット88が形成されてなく、凸部89も省略された構成の防振装置(参考例2)の荷重‐たわみ曲線を一点鎖線で示している。また、図4に示す「P1」は、本実施の形態の防振装置1においてストッパー部8がカバー部材7の周壁部71に当接した時点を示しており、「P1´」は、上記した参考例1、2の防振装置においてストッパー部がカバー部材の周壁部に当接した時点を示している。また、図4に示す「P2」は、本実施の形態の防振装置1及び上記した参考例1の防振装置においてスリット88が潰れた時点を示している。
【0043】
上記した防振装置1では、サイド緩衝部86の当接面86cに凸部89が形成されているため、図4に示すように、荷重‐たわみ曲線のストッパー当たり後の立ち上がりが緩やかになり、所望の荷重‐たわみ曲線の特性に調整することが可能である。
【0044】
以上、本発明に係る防振装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本発明は、図5(a)に示すように、平面視において内筒部材3の周りに全周に亘って延在する環状のスリット188が形成されていてもよい。また、図5(b)に示すように、ストッパー部8の片側の部分にだけスリット288が形成されていてもよい。また、図5(c)に示すように、長さが異なる非対称のスリット388A,388Bが形成されていてもよい。さらに、複数のスリットを間欠的に形成してもよく、或いは、平面視において直線状、或いは、屈曲線状(例えばL字状やコ字状)に延在するスリットであってもよく、或いは、幅や深さが異なる複数のスリットを形成してもよい。
【0045】
また、本発明における剛性基体(ストッパー金具)の形状は適宜変更可能であり、たとえば、図6(a)に示すように、環状のストッパー金具180のうち、突出長さの短い短手部分180aの外周面に、平面視曲線状に窪んだ複数の凹み部181が形成されていてもよい。なお、前記凹み部181が短手部分180aの外周面に1つだけ形成されていてもよい。また、図6(b)に示すように、環状のストッパー金具280のうち、突出長さの短い短手部分280aの外周面に、平面視矩形状に窪んだ凹み部282が形成されていてもよく、また、環状のストッパー金具280のうち、突出長さの長い長手部分280bの外周面に、平面視曲線状に窪んだ凹み部281が形成されていてもよい。なお、前記した平面視曲線状の凹み部281が省略され、前記した平面視矩形状の凹み部282だけが形成されていてもよい。また、図6(c)に示すように、環状のストッパー金具380のうち、突出長さの短い短手部分380aの外周面に、平面視矩形状に窪んだ凹み部382が形成され、さらに、その凹み部382の内側に複数の突起部383が形成されていてもよい。なお、前記突起部383が凹み部382の内側に1つだけ形成されていてもよい。
【0046】
また、本発明は、図7(a)に示すように、サイド緩衝部86の上面及び下面にそれぞれスリット88,88が形成されていてもよく、そして、それら上下のスリット88,88にそれぞれ対応する凸部89,89がサイド緩衝部86の当接面86cに形成されていてもよい。なお、凸部89の数は適宜変更可能であり、図7(b)に示すように、3段以上の凸部89を形成してもよい。また、凸部89の形状は、断面視円弧状或いは断面視半楕円形状であることが好ましいが、他の形状にすることも可能であり、例えば、断面視矩形状の凸部を形成することも可能である。また、上記したスリット88の容積と凸部29の体積(当接面86cから膨出した部分の体積)が略等しくなっていることが望ましく、これにより、スリット88が潰れた後の反力を面で均一化することができる。
【0047】
また、本発明は、図7(c)に示すように、上下のスリット188A,188Bが千鳥に配設され、サイド緩衝部186がアコーディオン状に形成されていてもよい。
【0048】
また、本発明は、図7(d)に示すように、サイド緩衝部86に1つ以上の空洞部86dが形成されていてもよく、或いは、図7(e)に示すように、サイド緩衝部86に1つ以上の補強金具86eが埋設されていてもよい。
また、本発明は、図7(f)に示すように、スリット88の軸線O(図2に示す。)側の内面88aの開口端部に断面視円弧状の窪み部86fを形成し、ストッパー金具80の丸角面85を被覆するゴム厚さ(弾性被覆体の厚さ)を薄くしてもよい。
【0049】
また、本発明は、図8(a)に示すように、スリット488の内面に突起488aが形成されていてもよい。なお、突起488aは、1つでも複数でもよく、或いは、片側の内面にのみ形成されていてもよい。
また、本発明は、図8(b)に示すように、2段以上のテーパーが付いたスリット588であってもよい。
【0050】
また、本発明は、図8(c)に示すように、サイド緩衝部86の当接面86cに断面視曲線状に窪んだ凹み部86gを形成してもよい。なお、この凹み部86gを複数形成してもよい。
また、本発明は、図8(d)に示すように、サイド緩衝部86の上面や下面に、複数のスリット688を平行に形成してもよい。
さらに、本発明は、図8(e)に示すように、サイド緩衝部86の上面や下面に、大きさ(深さ)の異なる複数のスリット788A,788Bを形成してもよい。なお、図8(e)では、サイド緩衝部86の基端側(ストッパー金具80側)に大きいスリット788Aが形成され、サイド緩衝部86の先端側に複数の小さいスリット788Bが形成されているが、サイド緩衝部86の基端側に小さいスリットが形成され、サイド緩衝部86の先端側に大きいスリットが形成されてもよく、また、複数の大きいスリットが形成されてもよい。
【0051】
また、本発明は、図8(f)に示すように、鉛直面に対して傾斜した当接面286cを有するサイド緩衝部286であってもよい。例えば、上端側に向かって先端方向に傾倒した当接面286cであってもよく、或いは、上端側に向かって基端方向に傾倒した当接面であってもよい。
【0052】
また、上記した実施の形態では、サイド緩衝部86の圧縮方向に直交する方向のうち、軸線Oに沿った方向に向けて開口されたスリット88が形成されているが、本発明は、サイド緩衝部86の圧縮方向に直交する方向のうちの何れかの方向に向けて開口されたスリットであればよい。例えば、サイド緩衝部86の外周面にスリットが形成されていてもよい。
【0053】
また、上記した実施の形態では、静荷重が入力することで弾性連結体4が圧縮される圧縮式の防振装置1について説明しているが、本発明は、静荷重が入力することで弾性連結体4に引張力が作用する吊り下げ式の防振装置であってもよい。例えば、筒状の第一取付部材の下方に第二取付部材が配設された構成の防振装置であってもよい。
【0054】
また、上記した実施の形態では、外筒部材2の内側に液室10が形成され、外筒部材2にダイヤフラム5及び仕切り部材6がそれぞれ組み付けられた液封式の防振装置について説明しているが、本発明は、液封式の防振装置に限定されるものではない。例えば、上記したダイヤフラム5及び仕切り部材6を備えてなく、外筒部材2の内側に液室10が形成されていない防振装置であってもよく、或いは、筒状の第一取付部材の内側に第二取付部材が配設され、第一取付部材の内周面と第二取付部材の外周面との間に弾性連結体が介在された防振装置であってもよい。
【0055】
また、上記した実施の形態では、ストッパー部8を係止するカバー部材7(ストッパー係止部)が外筒部材2に連結されているが、本発明は、ストッパー部8を係止するストッパー係止部が、図示せぬ車体ブラケット(第一取付部材を振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結するためのブラケット)に設けられていてもよく、或いは、図示せぬ車体(振動発生部および振動受部のうちの第一取付部材が連結する方)に設けられていてもよい。つまり、ストッパー係止部は、第一取付部材側に固定されていればよい。
【0056】
また、上記した実施の形態では、内筒部材3とストッパー金具80とが一体に形成されているが、本発明は、内筒部材3とストッパー金具80とが別体に形成されていてもよい。
また、上記した実施の形態では、ストッパーゴム81と弾性連結体4とが一体に形成されているが、本発明は、ストッパーゴム81(弾性被覆体)と弾性連結体4とが別体に形成されていてもよい。
【0057】
また、上記した実施の形態では、内筒部材3及びストッパー金具80は金属製の部材であるが、本発明における第二取付部材(内筒部材3)や剛性基体(ストッパー金具80)は、金属製以外の部材であってもよく、例えば硬質樹脂からなる第二取付部材や剛性基体部材であってもよい。
また、上記した実施の形態では、弾性連結体4及びストッパーゴム81は、ゴム材料からなる部材であるが、本発明は、ゴム材料以外からなる弾性連結体や弾性被覆体(ストッパーゴム81)であってもよく、例えば合成樹脂等からなる弾性連結体や弾性被覆体であってもよい。
【0058】
また、上記した実施の形態では、ストッパー部8が内筒部材3から全周に亘って突出した環状に形成されているが、本発明におけるストッパー部は環状のものに限定されず、ストッパー部の形状は適宜変更可能である。例えば、内筒部材3から両側にそれぞれ突出された一対のストッパー部が設けられていてもよく、或いは、複数のストッパー部が内筒部材3から放射状に突出されていてもよく、或いは、1つのストッパー部が一方向に向かって突出されていてもよい。
【0059】
また、上記した実施の形態では、ストッパー部8が径方向の変位を制限するサイドストッパーと、リバウンド方向の変位を規制するリバウンドストッパーと、を兼ねているが、本発明は、少なくとも一方向の変位を制限するストッパー部であればよい。
【0060】
また、上記した実施の形態では、外筒部材2(第一取付部材)が車体(振動受部)に連結され、内筒部材3(第二取付部材)がエンジン(振動発生部)に連結されているが、本発明は、外筒部材2がエンジン(振動発生部)に連結され、内筒部材3が車体(振動受部)に連結されてもよい。
【0061】
また、本発明に係る防振装置は、車両のエンジンマウントに限定されるものではなく、エンジンマウント以外に防振装置に適用することも可能である。例えば、建設機械に搭載された発電機のマウントにも適用することも可能であり、或いは、工場等に設置される機械のマウントにも適用することも可能である。
【0062】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 防振装置
2 外筒部材(第一取付部材)
3 内筒部材(第二取付部材)
4 弾性連結体
7 カバー部材(ストッパー係止部)
8 ストッパー部
80、180、280、380 ストッパー金具(剛性基体)
81 ストッパーゴム(弾性被覆体)
86、286 サイド緩衝部(緩衝部)
86c、286c 当接面
88、188、188A、188B、288、388A、388B、488、588、688、788A、788B スリット
89 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される第一取付部材と、
前記振動発生部および振動受部のうちのいずれか他方に連結される第二取付部材と、
前記第一取付部材と前記第二取付部材とを弾性的に連結する弾性連結体と、
を備えており、
前記第二取付部材に、ストッパー係止部に当接することで前記第一取付部材と前記第二取付部材との相対変位を制限するストッパー部が設けられた防振装置であって、
前記ストッパー部に、剛性基体と、該剛性基体の表面に被覆された弾性変形可能な弾性被覆体と、が備えられており、
該弾性被覆体に、前記剛性基体と前記ストッパー係止部との間に配設されて前記ストッパー係止部に当接して圧縮変形することで緩衝する緩衝部が備えられており、
該緩衝部に、前記圧縮変形での圧縮方向に直交する方向に向けて開口されたスリットが形成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
請求項2に記載の防振装置において、
前記ストッパー係止部に対向する前記緩衝部の当接面に凸部が形成されていることを特徴とする防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−57780(P2012−57780A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204522(P2010−204522)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】