説明

電動パワーステアリング装置

【課題】操舵補助の非動作時に減速機構での騒音の発生を防止もしくは抑制する。
【解決手段】操舵部材1の操作に応じて電動モータ5,6を駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、第1と第2の各電動モータ5,6の回転軸5a,6aにそれぞれ連結された第1と第2の駆動ギヤ71,72と、操舵軸2に嵌着され上記第1と第2の駆動ギヤ71,72に噛み合う従動ギヤ73と、操舵補助の非動作時に第1と第2の駆動ギヤ71,72から従動ギヤ73に互いに逆方向の回転力が加わるよう第1と第2の電動モータ5,6の駆動を制御する制動制御手段261B(ECU8に含まれるマイクロコンピュータ26のCPU)とを備え、駆動ギヤ71,72と従動ギヤ73との歯部が圧接した状態で従動ギヤ73がいずれの方向にも回転しないようにロックされるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者により行われるステアリングホイール(ハンドル)等の操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して運転者の操舵補助を行う電動パワーステアリング装置に関し、特には、電動モータの回転を減速して操舵軸に伝達する減速機構を備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記電動パワーステアリング装置は、運転者によるステアリングホイールの操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵補助用の電動モータと、電動モータの回転を減速して操舵軸に伝達する減速機構と、トルクセンサ等のセンサ信号に基づいて電動モータを制御する電子制御ユニット(ECU)とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
減速機構は、例えば、電動モータの回転軸に連結された駆動ギヤとしてのウォーム軸と、操舵軸に嵌着された従動ギヤとしてのウォームホイールとからなり、ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合いにより、電動モータの回転を減速して操舵軸に伝達することで、運転者のステアリングホイールの操作によって加えられる操舵トルクと、電動モータが発生する操舵補助トルクとの和を、出力トルクとしてステアリング機構に与える。
【0004】
ところで、上記電動パワーステアリング装置では、操舵補助が行われているときには、ウォーム軸とウォームホイールとの歯部は、電動モータが発生する操舵補助トルクにより圧接した状態にあるので、歯打ち音の発生は抑制されるが、直進走行時のように、ハンドルがほとんど操作されない時には、電動モータの回転が停止していて、ウォーム軸に電動モータによる回転トルクが加わっていないから、ウォーム軸とウォームホイールの歯部は圧接した状態にはない。そのため、車輪側から振動が伝わると、その振動に応じて、ウォーム軸とウォームホイールとの歯部間で歯打ちにより騒音が発生し、この騒音は操舵軸や、この操舵軸を回転可能に支持するハウジング、コラム等を介して車室内に伝播する、という問題がある。
【特許文献1】特開2003−182601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電動モータによる操舵補助が行われない場合に、減速機構での騒音の発生を防止もしくは抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による電動パワーステアリング装置は、操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、第1電動モータの回転軸に連結された第1駆動ギヤと、第2電動モータの回転軸に連結された第2駆動ギヤと、操舵軸に嵌着され上記第1と第2の駆動ギヤに噛み合う従動ギヤと、操舵補助の非動作時に第1と第2の駆動ギヤから従動ギヤに互いに逆方向の回転力が加わるよう第1と第2の電動モータの駆動を制御する制動制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0007】
上記構成の電動パワーステアリング装置において、電動モータによる操舵補助が行われない場合、例えば、車両が直進走行中で、操舵部材がほとんど操作されない場合には、操舵補助が非動作であることに応答して、制動制御手段が第1と第2の電動モータを駆動して、第1と第2の駆動ギヤから従動ギヤに互いに逆方向の回転力を作用させる。従動ギヤは、互いに逆方向に回転駆動されることで、いずれの方向にも回転しないようにロックされる。この場合、両駆動ギヤと従動ギヤとの歯部は圧接した状態に保たれる。そのため、車輪側から振動が伝わっても、歯打ちによる騒音の発生が防止もしくは抑制される。
【0008】
なお、上記構成では、単一の従動ギヤに2つの駆動ギヤが噛み合う構造なので、噛合部を分散して各噛合部の応力を低下させることができ、耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、直進走行時のような、操舵補助の非動作時に騒音の発生を防止もしくは抑制することができ、車室内を静音化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1ないし図3を参照して、本発明による最良の形態に係る電動パワーステアリング装置を説明する。図1は、同電動パワーステアリング装置の減速機構の断面図で、関連する構成を併せて図示している。図2は、図1の装置のECUのブロック構成図、図3は、図1の装置の動作を示すフローチャートである。
【0011】
本形態の電動パワーステアリング装置は、2台の電動モータにより操舵補助を行うもので、ステアリングホイールのような操舵部材1に一端が固着された操舵軸2と、その操舵軸2の他端に連結されたラックピニオン機構等からなるステアリング機構3と、運転者による操舵部材1の操作によって操舵軸2に加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサ4と、操舵部材1の操舵操作による運転者の負荷を軽減するための操舵補助トルクを発生させる第1と第2の電動モータ5,6と、第1と第2の電動モータ5,6が発生する操舵補助トルクを操舵軸2に伝達する減速機構7と、トルクセンサ4等からのセンサ信号に基づき第1と第2の電動モータ5,6の駆動を制御する電子制御ユニット(ECU)8と、イグニッションスイッチ9を介してECU8に電源を供給する車載バッテリ10とを備える。
【0012】
上記電動パワーステアリング装置を搭載した車両においては、運転者が操舵部材1を操作すると、その操作による操舵トルクはトルクセンサ4により検出される。ECU8は、その検出された操舵トルク等の情報に基づいて、第1と第2の電動モータ5,6を駆動制御する。これにより、電動モータ5,6は操舵補助トルクを発生し、これらの操舵補助トルクが減速機構7を介して操舵軸2に伝達されることで、運転者の操舵部材1の操作によって加えられる操舵トルクと、電動モータ5,6が発生する操舵補助トルクとの和が、出力トルクとしてステアリング機構3に与えられる。
【0013】
ステアリング機構3では、入力軸の回転が出力軸であるラック軸の往復運動に変換される。ラック軸の両端はタイロッドおよびナックルアーム等からなる連結部材11を介して操向用の車輪12に連結されており、ラック軸の往復運動に応じて車輪12の向きが変わる。
【0014】
上記の電動パワーステアリング装置において、操舵軸2の中途部は、筒状の入力軸13と、トーションバー14と、筒状の出力軸15とから構成されている。入力軸13は、その筒状内部に挿入したトーションバー14と径方向に貫通するピン16により連結され、この入力軸13およびトーションバー14の上端部は、操舵軸2の上部を構成する軸(図示省略)の下端部に連結されている。トーションバー14は、その中間部に長尺で細径のねじり領域を有するもので、大径の上端部が前記したように入力軸13に連結されるとともに、同じく大径の下端部が出力軸15の筒状内部に挿入されて、径方向に貫通するピン17により出力軸15に連結されている。このトーションバー14の外周で、入力軸13と出力軸15とは、トーションバー14の中間部の側に延出して互いに軸方向に対向している。トルクセンサ4は、入力軸13と出力軸15との軸方向対向部の外周に配置されている。
【0015】
減速機構7は、従動ギヤとしての単一のウォームホイール73に対して、駆動ギヤとして第1と第2の2つのウォーム軸71,72を設けたものである。第1ウォーム軸71は第1電動モータ5の回転軸5aに連結され、第2ウォーム軸72は第2電動モータ6の回転軸6aに連結されている。ウォームホイール73は出力軸15の外周に嵌着されている。ウォームホイール73と、第1と第2のウォーム軸71,72とは互いに噛み合う状態で、ギヤハウジング18の内部に収容されている。第1ウォーム軸71と第2ウォーム軸72とは、ウォームホイール73を間にしてその直径方向両側に配置されている。
【0016】
ギヤハウジング18は、内部に第1ウォーム軸71を収容する第1ウォーム軸収容部181と、第2ウォーム軸72を収容する第2ウォーム軸収容部182と、ウォームホイール収容部183とを有し、第1と第2のウォーム軸収容部181,182の開放端部に、それぞれ第1電動モータ5と第2電動モータ6とがその回転軸5a,6aを内向きにして装着されるようになっている。第1と第2のウォーム軸収容部181,182は、両ウォーム軸71,72とウォームホイール73との配置関係に対応して、ウォームホイール収容部183の直径方向両側に平行に設けられている。
【0017】
ギヤハウジング18の第1ウォーム軸収容部181内において、第1ウォーム軸71は、軸方向の中間に歯部71aを、その両端に軸部71b,71cを有するもので、両端の軸部71b,71cにそれぞれ設けた軸受19,20を介して第1ウォーム軸収容部181内に回転可能に支持され、その一方の軸部71bは第1電動モータ5の回転軸5aに同軸に結合される。上記の両軸受19,20のうち、第1電動モータ5側の軸受19の軸方向外側には、第1ウォーム軸71に軸方向の予圧を付与するための押え環21が設けられている。
【0018】
第2ウォーム軸72は、上記第1ウォーム軸71と同様に、軸方向の中間に歯部72aを、その両端に軸部72b,72cを有し、両端にそれぞれ設けた軸受22,23を介して第2ウォーム軸収容部182内に回転可能に支持され、その一方の軸部72bに第2電動モータ6の回転軸6aが同軸に結合されている。第2電動モータ6側の軸受22の軸方向外側には、第2ウォーム軸72に軸方向の予圧を付与するための押え環24が設けられている。
【0019】
次いで、図2を参照してECU8の構成を説明すると、ECU8は、トルクセンサ4のセンサ信号を処理する入力インタフェース25と、電動パワーステアリング制御の中心を司るマイクロコンピュータ26と、マイクロコンピュータ26からの駆動制御信号sa,sbに応答して第1電動モータ5を駆動する第1モータ駆動回路27と、同じくマイクロコンピュータ26からの駆動制御信号sa,sbにより第2電動モータ6を駆動する第2モータ駆動回路28とを備えている。
【0020】
マイクロコンピュータ26は、CPU261と、プログラムメモリ262と、マップメモリ263と、バッファメモリ264とを含んでいる。
【0021】
CPU261は、本実施形態では、後にフローチャートを参照して詳述するように、トルクセンサ3等のセンサ信号に基づいて操舵補助のために第1と第2の電動モータ5,6の駆動を制御する操舵補助制御手段261Aとして機能するほか、上記の操舵補助が行われない場合に、第1と第2の両ウォーム軸71,72からウォームホイール73に互いに逆方向の回転力が加わるよう第1と第2の電動モータ5,6の駆動を制御する制動制御手段261Bとしても機能する。上記制動制御手段261Bは、操舵補助の非動作時、第1と第2の電動モータ5,6を駆動して、第1と第2のウォーム軸71,72からウォームホイール73に互いに逆方向で同トルクの回転力を作用させ、これにより、ウォームホイール73をいずれの方向にも回転しないようにロックする。
【0022】
上記各メモリ262,263,264のうち、プログラムメモリ262は、CPU261の動作の実行のための基本プログラムや、本形態の第1と第2の電動モータ5,6の駆動制御の実行に必要なプログラムを格納している。マップメモリ263は、操舵補助のために操舵トルクと各電動モータ5,6の駆動量との関係を示す制御マップを格納しており、この制御マップにより、各車速毎に、操舵トルクに対する第1と第2の各電動モータ5,6の駆動量が割り出せるようになっている。バッファメモリ264は、CPU261の作業の実行時にデータの一時的な格納に使用される。
【0023】
次に、図3のフローチャートを参照してCPU261の動作を説明する。ステップS1においては、トルクセンサ4で検出されている操舵トルクが所定レベル以上か否かを判断する。その判断がYes、すなわち、操舵トルクが所定レベル以上であれば、ステップS2に進み、このステップS2と、続くステップS3とで、操舵補助の動作を行う。ステップS2では、トルクセンサ4から得られる操舵トルクの情報等に基づいて、マップメモリ263を参照して、各電動モータ5,6の駆動量を決定し、ステップS3では、その駆動量に対応する駆動制御信号sa,saを各モータ駆動回路27,28に出力する。これにより、各電動モータ5,6は操舵補助トルクを発生し、その操舵補助トルクは、減速機構7を介して操舵軸2に伝達されて、運転者による操舵トルクに付加される。
【0024】
この場合、両電動モータ5,6は、直結するウォーム軸71,72によりウォームホイール73を同一方向に回転させるように、同位相で回転駆動されるが、ウォームホイール73の回転の変動を少なくするために位相をずらせて回転駆動してもよい。
【0025】
ステップS1において、その判断がNo、すなわち、検出されている操舵トルクが所定レベル未満であれば、ステップS4に移る。ステップS4では、操舵補助が行われない場合に対応した処理として、第1と第2のウォーム軸71,72からウォームホイール73に互いに逆方向で同トルクの回転力が加わるよう、第1と第2の各モータ駆動回路27,28に制動のための駆動制御信号sb,sbを出力して、第1と第2の各電動モータ5,6の駆動を制御する。図1に即して言えば、第1ウォーム軸71がウォームホイール73に時計方向(矢印イの方向)の回転力を加えるとすれば、第2ウォーム軸72がウォームホイール73に反時計方向(矢印ロの方向)の回転力を加えるように、第1と第2の各電動モータ5,6の駆動を制御する。
【0026】
減速機構7では、上記のように、第1と第2のウォーム軸71,72からウォームホイール73に互いに逆方向の回転力が作用することで、ウォームホイール73は、いずれの方向にも回転しないようにロックされる。この場合、両ウォーム軸71,72とウォームホイール73との歯部は圧接した状態に保たれるので、車輪側から振動が伝わっても、歯打ちによる騒音を発生しない。
【0027】
上記形態において、減速機構7は、ウォーム軸71,72とウォームホイール73とから構成されるものに限らず、ヘリカルギヤ等、他種のギヤで構成されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の最良の形態に係る電動パワーステアリング装置の減速機構の断面図で、関連する構成を併せて図示している。
【図2】図1の装置のECUのブロック構成図
【図3】図1の装置の動作を示すフローチャート
【符号の説明】
【0029】
1 操舵部材
2 操舵軸
3 ステアリング機構
5 第1電動モータ
5a 第1電動モータの回転軸
6 第2電動モータ
6a 第2電動モータの回転軸
7 減速機構
71 第1ウォーム軸(第1駆動ギヤ)
72 第2ウォーム軸(第2駆動ギヤ)
73 ウォームホイール(従動ギヤ)
8 電子制御ユニット(ECU)
15 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材の操作に応じて電動モータを駆動して操舵補助する電動パワーステアリング装置であって、
第1電動モータの回転軸に連結された第1駆動ギヤと、
第2電動モータの回転軸に連結された第2駆動ギヤと、
操舵軸に嵌着され上記第1と第2の駆動ギヤに噛み合う従動ギヤと、
操舵補助の非動作時に、第1と第2の駆動ギヤから従動ギヤに互いに逆方向の回転力が加わるよう第1と第2の電動モータの駆動を制御する制動制御手段と、
を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−76353(P2006−76353A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259813(P2004−259813)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】