説明

電動パワーステアリング装置

【課題】平坦路と悪路の走行時の車両の直進安定性と操舵フィーリングの向上を図ることが可能な電動パワ−ステアリング装置を提供する。
【解決手段】モータは、二系統のモータコイルに共通のステータ及びロータを有しており、ECU(制御手段)は、これらの各モータコイルに対して、それぞれ独立に駆動電力を供給することにより、そのモータトルクを制御する。
車両が悪路走行していると判断した場合には、操舵トルク及び車速に応じてアシストトルクを制御するトルク制御を実行している系統の他方の系統のモータの少なくとも二相間を短絡して制動動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを駆動源としてステアリングシャフトを回転駆動することにより操舵系にアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)がある。この種のEPSは、1台のモータを制御することにより、走行状態に応じてアシスト特性を変更し、操舵フィーリングの向上を図っている。しかしながら、1台のモータによる制御では、平坦なアスファルト路(平坦路)からベルジャン路などの悪路に至るまで、きめ細かく対応できるアシスト特性設定には限界がある。
このため、アシスト特性設定の自由度を更に向上させるため、ステアリングから転舵輪に至るステアリング系に2つの駆動源を設けたEPSがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−247214号公報 この特許文献1のEPSにおいては、例えば、2つの駆動源として、コラムアシストタイプのEPS(コラムEPS)とピニオンアシストタイプのEPS(ピニオンEPS)を用い、走行状態に応じてコラムEPSとピニオンEPSの各モータを個別に制御することにより、アシスト特性設定の自由度を向上させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1のEPSにおいて、コラムEPSとピニオンEPSとの間は中間シャフト、ジョイントにより連結された構造のため、悪路を走行した場合、路面から転舵輪に逆入力が加わり、コラムEPSとピニオンEPSとの間に捩れが生じ、この捩れによる振動や回転がコラムEPSを介してステアリングに伝達される。
なお、転舵輪からの逆入力は、ピニオンEPSの機械的なフリクションやモータの慣性力による抗力が働き抑制されるが、中間シャフト、ジョイントによりコラムEPSに連結されているため、特に大きな逆入力の場合には、ステアリングへの伝達は避けられない。その結果、ハンドル取られや振動が発生し、車両の直進安定性が失われてしまう。
このように、転舵輪からの逆入力による操舵フィーリングの低下抑制が課題として残っており、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、平坦路と悪路の走行時の車両の直進安定性及び操舵フィーリングの向上を図ることができる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置は、独立に設けられた二系統のモータコイルが発生する起磁力に基づいて操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、各モータコイルに対する電力供給を通じて前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備えるとともに、前記制御手段は、前記アシスト力に対応したモータトルクを発生させるべく前記電力供給の電流指令値を生成する指令手段と、前記電流指令値に基づいて独立した二系統の制御信号を出力する制御信号出力手段と、前記制御信号に基づいて対応する前記モータコイルに三相の駆動電力を出力する独立した二系統の駆動回路とを備え、前記制御信号出力手段は、悪路走行時には前記モータコイルの三相のうち少なくとも二相間を短絡させることにより前記駆動回路に対して前記制御信号を出力すること、を要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、車両が悪路を走行していると判断した場合には、一方の系統のモータの三相のうち少なくとも二相間を短絡して制動動作(ダイナミック制動)させるようにする。その結果、悪路走行により入力される外乱エネルギーをモータの内部抵抗で発熱消費できるため、ステアリングのふらつき(ハンドル取られ)及び振動を抑制し直進安定性を維持できるとともに、操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0008】
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置は、前記制御信号出力手段は、前記悪路走行時にはアシスト動作を実行していない系統の前記モータコイルの三相のうち少なくとも二相間を短絡させることにより前記駆動回路に対して前記制御信号を出力すること、を要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、車両が悪路を走行していると判断した場合には、一方の系統は操舵トルク及び車速に応じてアシストトルクを制御する従来のトルク制御を実行し、アシスト動作を行わない他方の系統のモータの少なくとも二相間を短絡して制動動作させるようにする。その結果、車両の直進安定性及び操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、平坦路と悪路の走行時の車両の直進安定性及び操舵フィーリングの向上を図ることが可能な電動パワ−ステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】モータの概略構成図。
【図3】EPSの制御ブロック図。
【図4】同じくEPSの制御ブロック図。
【図5】アシスト制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結している。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0013】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0014】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラムアシストタイプのEPSアクチュエータとして構成されている。そして、EPSアクチュエータ10は、このモータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0015】
一方、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されており、同ECU11は、これら各センサの出力信号により検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて操舵系に付与すべきアシスト力(目標アシスト力)を演算する。そして、その目標アシスト力をEPSアクチュエータ10に発生させるべく、駆動源であるモータ12に対する電力供給を通じて、当該EPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
【0016】
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態のモータ12は、独立した二系統のモータコイル21A,21Bを同一のステータ22に巻回することにより形成されている。具体的には、第1系統のモータコイル21A(21ua,21va,21wa)及び第2系統のモータコイル21B(21ub,21vb,21wb)は、ステータ22の各ティース23(23u,23v,23w)に対して、それぞれその対応する相(u,v,w)毎に巻回されている。そして、これらの各ティース23の径方向内側には、回転自在に支承されたロータ24が設けられている。
【0017】
即ち、本実施形態のモータ12は、二系統のモータコイル21A,21Bに共通のステータ22及びロータ24を有しており、ロータ24は、上記のように各ティース23に巻回された各モータコイル21A,21Bが発生する起磁力に基づいて回転する。そして、本実施形態のECU11は、これらの各モータコイル21A,21Bに対して、それぞれ独立に駆動電力を供給することにより、そのモータトルクを制御する構成になっている。
【0018】
図3に示すように、本実施形態のECU11は、上記各モータコイル21A,21Bに対応して独立に設けられた二つの駆動回路26A,26Bと、これらの各駆動回路26A,26Bに対して、それぞれ独立に制御信号Smc_a,Smc_bを出力するマイコン27とを備えている。
【0019】
具体的には,駆動回路26Aは、動力線28A(28ua,28va,28wa)を介して第1系統のモータコイル21Aに接続され、駆動回路26Bは、動力線28B(28ub,28vb,28wb)を介して第2系統のモータコイル21Bに接続されている。また、マイコン27の出力する制御信号Smc_aは、駆動回路26Aに入力され、もう一方の制御信号Smc_bは、駆動回路26Bに入力される。なお、本実施形態では、各駆動回路26A,26Bには、直列接続されたスイッチング素子対を基本単位(アーム)として各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータが採用されており、マイコン27の出力する各制御信号Smc_a,Smc_bは、その各相アームのオンduty比を規定するものとなっている。そして、本実施形態のECU11は、これらの各制御信号Smc_a,Smc_bに基づき各駆動回路26A,26Bが出力する駆動電力を、それぞれ独立に、その対応する各モータコイル21A,21Bに供給する構成となっている。
【0020】
詳述すると、図4に示すように、本実施形態のマイコン27は、目標アシスト力に対応するモータトルクを発生させるべく、モータ12に対する電力供給の電流指令値Iq*を生成するアシスト制御部30と、その電流指令値Iq*に基づいて上記二系統の制御信号Smc_a,Smc_bの出力を実行する制御信号出力部31とを備えている。
【0021】
本実施形態では、指令手段としてのアシスト制御部30は、上記トルクセンサ14により検出される操舵トルクτ及び車速センサ15により検出される車速Vに基づいて、上記目標アシスト力に対応した電流指令値Iq*を演算する。具体的には,その操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きなアシスト力が発生するような電流指令値Iq*を演算する。そして、アシスト制御部30は、この操舵トルクτ及び車速Vに基づく電流指令値Iq*を、そのモータ12に対する電力供給の電流指令値Iq*として制御信号出力部31に出力する構成となっている。
【0022】
一方、制御信号出力手段を構成する制御信号出力部31には、各系統のモータコイル21A,21B(図2参照)に通電される各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及びIu_b,Iv_b,Iw_b並びにモータ12の回転角θが入力される。なお、本実施形態では、各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及びIu_b,Iv_b,Iw_bは、図3を参照にそれぞれ、各系統の動力線28A,28Bに設けられた電流センサ32A(32ua,32va,32wa),32B(32ub,32vb,32wb)により独立に検出される一方、モータ12の回転角θは、共通の回転角センサ33により検出される。そして、本実施形態の制御信号駆動回路26A,26Bに対応した制御信号Smc_a,Smc_bを出力する構成となっている。
【0023】
更に詳述すると、本実施形態の制御信号出力部31は、第1系統(図3に示す駆動回路26A、モータコイル21A及び動力線28Aを含む系統)に対応する電流制御部35A及びPWM変換部36Aと、第2系統(図3に示す駆動回路26B、モータコイル21B及び動力線28Bを含む系統)に対応する電流制御部35B及びPWM変換部36Bとを備えている。
【0024】
また、制御信号出力部31は、上記アシスト制御部30から入力された電流指令値Iq*を、第1電流指令値Iq*_a又は第2電流指令値Iq*_bとして出力する指令調停部37を備えている。そして、各電流制御部35(35A,35B)は、その入力される電流指令値Iq*_a,Iq*_bに基づいて、それぞれ、独立に電流フィードバック制御を実行する構成となっている。
【0025】
具体的には、各電流制御部35(35A,35B)は、その対応する系統の各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及びIu_b,Iv_b,Iw_bを、モータ12の回転角θに従うd/q座標系のd軸電流値及びq軸電流値に変換する(d/q変換)。また、上記電流指令値Iq*は、q軸電流指令値として入力される(d軸電流指令値は「0」)。そして、各電流指令部35(35A,35B)は、そのd/q座標系における電流フィードバック制御の実行により得られるd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を、三相の交流座標系上に写像することにより(d/q逆変換)、それぞれ、その対応する系統の各相電圧指令値Vu*_a,Vv*_a,Vw*_a及びVu*_b,Vv*_b,Vw*_bを演算する。
【0026】
そして、各PWM変換部36(36A,36B)は、それぞれ、その対応する各電流制御部35(35A,35B)から入力される各相電圧指令値Vu*_a,Vv*_a,Vw*_a及びVu*_b,Vv*_b,Vw*_bに基づいて、その対応する系統の駆動回路26A,26Bに対する制御信号Smc_a,Smc_bの出力を実行する構成になっている。
【0027】
また、図4に示すように、本実施形態のマイコン27には、上記車両が走行する路面状態を検知可能な走行路状態検出部39が設けられている。本実施形態の走行路状態検出部39は、例えば、車速センサ15及び加速度センサ(図示しない)から供給される車速V及び車両の上下加速度Gに基づいて車両が走行している路面状態を判断する。
【0028】
次に、本実施形態におけるEPSの制御について説明する。
図4に示すように、本実施形態のマイコン27には、上記各モータコイル21A,21B(図2参照)に対応する各系統の電力供給路に生じた通電不良の発生を検知可能な異常検知部38が設けられている。
【0029】
具体的には,本実施形態の異常検知部38には、各系統のモータコイル21A,21Bに通電される各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及びIu_b,Iv_b,Iw_b、並びに各制御信号Smc_a,Smc_bが規定する各相のオンdutyを示すデューティ信号Sduty_b,Sduty_b及びモータ12の回転角速度ωが入力される。そして、検知手段としての異常検知部38は、これらの各状態量に基づいて、相毎に、各系統における通電不良の発生を検知する構成となっている。
【0030】
即ち、何れかの相について、そのデューティ信号Sduty_b,Sduty_bが通電状態にあるべき状態にあることを示すにもかかわらず、その相電流値が非通電状態を示す値である場合には,当該相に通電不良が発生したものと判定することができる。そして、本実施形態の異常検知部38は、更に、モータの回転角速度ωに基づく速度条件を付加し、その逆起電圧の影響が顕在化する高速回転時を排除することにより、精度よく、その通電不良の発生を検知することが可能な構成となっている。
【0031】
また、本実施形態では、この異常検知部38による異常検知の結果が、異常検知信号として上記制御信号出力部31に入力されるようになっている。そして、本実施形態の制御信号出力部31は、上記各モータコイル21A,21Bに対応する二系統のうち、その一方の系統に通電不良の発生が検知された場合には、他方の系統の駆動回路に対する制御信号の出力を優先する構成となっている。
【0032】
詳述すると、図5のフローチャートに示すように、本実施形態の制御信号出力部31において、指令調停部37は、入力される上記異常検知信号S_trが、通電不良の検知を示す場合(ステップ501:YES)には、続いて、当該通電不良が上記モータコイル21Aに対応する第1系統において発生したものであるか否かを判定する(ステップ502)。そして、その通電不良の発生が第1系統である場合(ステップ502:YES)には、第1系統における電力供給を停止し(ステップ503)、他方の上記モータコイル21Bに対応する第2系統の駆動回路26Bに対する制御信号Smc_bの出力を優先する(ステップ504)。
【0033】
また、指令調停部37は、上記ステップ502において、通電不良の発生が第2系統であると判定した場合(ステップ502:NO)には、第2系統における電力供給を停止し(ステップ505)、第1系統の駆動回路26Aに対する制御信号Smc_aの出力を優先する(ステップ506)。そして、本実施形態では、上記ステップ501において、上記異常検知信号S_trが通電不良の発生を示すものでないと判定した場合(ステップ501:NO)もまた、ステップ510(後述する)において、その第1系統の駆動回路26Aに対する制御信号Smc_aの出力を優先する。
【0034】
本実施形態の制御信号出力部31に設けられた上記各電流制御部35(35A,35B)は、各系統における通電不良の発生が検知されていない正常時において、上記のような三相の駆動電力を供給すべく各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する。上記電流制御部35において演算された各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、上記異常検知信号S_trとともに、PWM変換部36に入力される。即ち、本実施形態の制御信号出力部31において、入力される異常検知信号S_trが「対応する系統における通電不良の発生は検知されていない」ことを示す場合には、車両が悪路走行中か否かを判断し、通常の良好な路面を走行中と判断された場合には、第2系統のモータコイルの三相を開放すべく、その対応するPWM変換部36Bにおいて上下アームが全オフとなる制御信号Smc_bを出力する。(通常制御)
【0035】
一方、車両が悪路走行中と判断された場合には、少なくともモータコイルの二相間が短絡状態となるように第2系統のPWM変換部36Bにおいて上又は下アームが全オンとなる制御信号Smc_bを出力する。
【0036】
詳述すると、図5のフローチャートに示すように、本実施形態の制御信号出力部31は、車速センサ15及び加速度センサ(図示しない)から入力される車速V及び車両の上下加速度Gから走行モード検知信号S_rdが、通常の良好な路面走行中を示す場合(ステップ507:NO)は、第2系統のモータコイルの三相を開放する(ステップ508)。続いて、第1系統でのアシスト制御を継続実行するため第1系統の駆動回路26Aに対する制御信号Smc_aを出力する(ステップ510)。そして、車両が悪路走行中の検知を示す場合(ステップ507:YES)には、第2系統を制動モード(例えば、インバータの上あるいは下アームを通して制動電流を流すダイナミック制動)で駆動する(ステップ509)。続いて、第1系統はアシスト制御を継続実行するため第1系統の駆動回路26Aに対する制御信号Smc_aを出力する。(ステップ510)。
【0037】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
本実施形態のモータは、二系統のモータコイルに共通のステータ及びロータを有しており、ロータは、上記のように各ティースに巻回された各モータコイルが発生する起磁力に基づいて回転する。そして、本実施形態のECU(制御手段)は、これらの各モータコイルに対して、それぞれ独立に駆動電力を供給することにより、そのモータトルクを制御する構成になっている。即ち、本実施形態のECUは、上記各モータコイルに対応して独立に設けられた二つの駆動回路と、これらの各駆動回路に対して、それぞれ独立に制御信号を出力するマイコンとを備えるようにした。
【0038】
上記構成によれば、車両が通常の良好な路面走行時は、一方の系統は操舵トルク及び車速に応じてアシストトルクを制御する従来のトルク制御を実行し、他方の系統は、通常はモータを開放状態として動作させない。また、車両が悪路走行していると判断した場合には、他方の系統のモータの少なくとも二相間を短絡して制動動作(ダイナミック制動)させるようにする。その結果、悪路走行により入力される外乱エネルギーをモータの内部抵抗で発熱消費できるため、ステアリングのふらつき(ハンドル取られ)及び振動を抑制し直進安定性を維持できるとともに、操舵フィーリングの向上を図ることができる。
【0039】
また、モータを共通のステータ及びロータ構成にすることにより装置の大型化を招くことなく、モータの低コスト化を図ることができる。そして、アシスト制御を実行している系統のインバータに通電不良が発生した場合に、他方の正常な系統のインバータで従来のトルク制御を実行させアシスト動作を継続する。その結果、通電不良が発生した系統の電力供給を停止して、正常な系統でのアシスト制御に切替えることによって、トルクリップルの発生がなく操舵を継続できる。
【0040】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、本発明をコラムアシストタイプのEPS1に具体化したが、本発明は、ピニオンアシストタイプやラックアシストタイプのEPSに適用してもよい。
・上記各実施形態では、EPSアクチュエータ10は、二系統のモータコイル21A,21Bに対して共通のステータ22及びロータ24を有するモータ12を駆動源とすることとした。しかし、これに限らず、各モータコイルが個別のステータ又は個別のロータを有する構成に具体化してもよい。そして、更に、2台のモータを駆動源とするものに適用してもよい。
・また、各系統のモータコイルについては、その位相が互いにずれた関係となるように配置される構成であってもよい。
・上記実施形態では、車両が悪路走行中に第2系統のモータコイルの少なくとも二相を短絡させて制動モードで駆動するとしたが、間欠的に短絡、開放を繰り返し、制動、フリー状態で制御してもよい。また、モータの回転速度に応じて間欠から短絡へ変化させるPWM制御としてもよいし、モータ回転変動の周期に応じて変化させてもよい。
・上記実施形態では、車両が通常路面を走行中は、第2系統のモータコイルを開放しているが、第2系統のモータトルク出力が0となるように制御してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1:電動パワーステアリング装置(EPS)、2:ステアリング、
3:ステアリングシャフト、3a:コラムシャフト、3b:インターミディエイトシャフト、3c:ピニオンシャフト、4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、
6:タイロッド、7:転舵輪、10:EPSアクチュエータ、11:ECU、12:モータ、13:減速機構、14:トルクセンサ、15:車速センサ、
21A,21B:モータコイル、22:ステータ、24:ロータ、26A,26B:駆動回路、27:マイコン、28A,28B:動力線、30:アシスト制御部、31:制御信号出力部、32A,32B:電流センサ、Iu_a、Iv_a、Iw_a、Iu_b、Iv_b、Iw_b:各相電流値、33:モータ回転角センサ、35:電流制御部、36:PWM変換部、37:指令調停部、38:異常検知部、39:走行路状態検出部、
Iq*:q軸電流指令値、Iq*_a:第1電流指令値、Iq*_b:第2電流指令値、
Vu*_a,Vv*_a,Vw*_a,Vu*_b,Vv*_b,Vw*_b:各相電圧指令値、
Smc_a,Smc_b:制御信号、S_tr:異常検知信号、S_rd:走行モード検知信号、
Sduty_b,Sduty_b:デューティ信号
θ:モータ回転角、V:車速、τ:操舵トルク、G:車両の上下加速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立に設けられた二系統のモータコイルが発生する起磁力に基づいて操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、各モータコイルに対する電力供給を通じて前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備えるとともに、
前記制御手段は、前記アシスト力に対応したモータトルクを発生させるべく前記電力供給の電流指令値を生成する指令手段と、
前記基礎指令に基づいて独立した二系統の制御信号を出力する制御信号出力手段と、
前記制御信号に基づいて対応する前記モータコイルに三相の駆動電力を出力する独立した二系統の駆動回路と、を備え、
前記制御信号出力手段は、悪路走行時には前記モータコイルの三相のうち少なくとも二相間を短絡させることにより前記駆動回路に対して前記制御信号を出力すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記制御信号出力手段は、前記悪路走行時にはアシスト動作を実行していない系統の前記モータコイルの三相のうち少なくとも二相間を短絡させることにより前記駆動回路に対して前記制御信号を出力すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−71759(P2012−71759A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219392(P2010−219392)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】