電動パーキングブレーキ用制御装置
【課題】 減速度を監視して高μ路、低μ路それぞれに適したブレーキ性能を提供すること。また、高μ路から低μ路へ移動した場合、低μ路から高μ路へ移動した場合にでもそれぞれ適したブレーキ性能を提供すること。
【解決手段】 車速がV1(km/h)以上の場合では、ステップS43において後輪のロック判定が行なわれ、ロックの危険性があると判定されるとステップS46に移行してロックの回避を優先とした低μ路制御が行なわれる。また、ステップS43においてロックが回避されると判定された場合にはステップS44に移行して車両の減速度が判定される。減速度が低いと判定されるとステップS42に戻り、減速度が高いと判定された場合には、減速度の確保を優先した高μ路制御が行なわれる。
【解決手段】 車速がV1(km/h)以上の場合では、ステップS43において後輪のロック判定が行なわれ、ロックの危険性があると判定されるとステップS46に移行してロックの回避を優先とした低μ路制御が行なわれる。また、ステップS43においてロックが回避されると判定された場合にはステップS44に移行して車両の減速度が判定される。減速度が低いと判定されるとステップS42に戻り、減速度が高いと判定された場合には、減速度の確保を優先した高μ路制御が行なわれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによりパーキングブレーキを作動、解除の制御を行なう電動パーキングブレーキ用制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が停止している状態を検出した信号や、スイッチの操作により電動パーキングブレーキ装置の電動モータを駆動してパーキングブレーキを作動させたり、解除させるようにしたものが提供されている。また、車両の走行中に電動パーキングブレーキ装置を作動させて車両を制動する場合に(ダイナミックパーキング制御)、車輪のロックを回避するようにしたものとして、例えば下記に挙げる特許文献1〜3がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−142513号公報
【特許文献2】特開2004−142514号公報
【特許文献3】特開2002−67916号公報
【0004】
しかしながら、スリップが発生し易く車両の後輪がロックする可能性が大となる低μ路での路面摩擦計数が小さい場合の制御のみではなく、路面摩擦計数が大きい高μ路での制御や、低μ路から高μ路へ移動する場合や、逆に高μ路から低μ路へ移動する場合のそれぞれの走行路に適した制御が要求される。
【0005】
また、電動パーキングブレーキ装置を作動させて車両の走行中に制動を行なわせる場合に、イグニッションオフ、あるいは車内LANが失陥した場合などでは、車輪速情報や車速情報を読み取ることが出来なくなる。
このような場合、前後の車輪速差や車輪速から減速度合いでロック回避を行なうダイナミックパーキングの制御方法では高い確率で走行路に適したブレーキ性能が喪失してしまうことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題点に鑑みて提供したものであって、少なくとも以下の目的を有する電動パーキングブレーキ用制御装置を提供するものである。
(1)電動パーキングブレーキ装置の電動モータを駆動して走行中に車輪に制動をかけるダイナミックパーキング制御を行なう場合に、減速度を監視して高μ路、低μ路それぞれに適したブレーキ性能を提供すること。
(2)高μ路から低μ路へ移動した場合、低μ路から高μ路へ移動した場合にでもそれぞれ適したブレーキ性能を提供すること。
(3)車輪速情報などが受信できない場合でも減速度を確保しつつ、ある程度のロック回避が行なえるブレーキ性能を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明の請求項1記載の電動パーキングブレーキ用制御装置では、車両の走行中に電動モータ16によりコントロールケーブル8を引き作動してパーキングブレーキ4を作動させる電動パーキングブレーキ装置において、
車両が所定の車速以上で走行中に該車両が路面摩擦計数が小さい低μ路または路面摩擦計数が大きい高μ路のいずれを走行しているかを後輪のロック判定により判定するロック判定手段33と、前記ロック判定手段33により後輪のロックの危険性があると判定された場合には低μ路を走行しているとしてロックの回避を優先して制御する低μ路制御手段と、前記ロック判定手段33により後輪のロックが回避されると判定された場合には高μ路を走行しているとして車両の減速度の確保を優先して制御する高μ路制御手段とを備えていることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置では、前記低μ路制御手段における低μ路制御では、前記電動モータ16をコントロールケーブル8の引き作動、該作動の停止、コントロールケーブル8の戻し作動である解除、該解除の停止、引き作動の順序で制御を行なっていることを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置では、予め設定した減速度の閾値より減速度が低い場合には前記電動モータ16を駆動し、減速度が閾値より高い場合には前記電動モータ16を停止させるようにしていることを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置では、車両の走行中に電動モータ16によりコントロールケーブル8を引き作動してパーキングブレーキ4を作動させる電動パーキングブレーキ装置において、
車両の停車時の傾斜角度や車両の減速度が検出可能な傾斜センサ43を有し、車速、車輪速情報がない場合には、前記傾斜センサ43にて減速度を監視し、一定以上の減速度が確保できた場合に引き作動を停止し、且つコントロール前記ケーブル8の引き速度を正常より減じる制御手段を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置によれば、ロック判定手段33により後輪のロックの危険性があると判定された場合には低μ路を走行しているとしてロックの回避を優先して制御する低μ路制御を行ない、前記ロック判定手段33により後輪のロックが回避されると判定された場合には高μ路を走行しているとして車両の減速度の確保を優先して制御する高μ路制御を行なうようにしていることで、低μ路、高μ路それぞれに適したブレーキ性能を提供することができる。また、低μ路では、減速度が低くても後輪がロックし易いため、ロック回避を優先した制御を行なっているので、後輪をロックさせずに停止することができる。さらに、高μ路では、減速度が高くなると後輪がロックするため減速度を優先する制御をしているので、後輪をロックさせずにすばやく停止させることができる。また、高μ路から低μ路へ移動した場合、低μ路から高μ路へ移動した場合にでもそれぞれ適したブレーキ性能を提供することができる。
【0012】
請求項2に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置によれば、前記低μ路制御手段における低μ路制御では、前記電動モータ16をコントロールケーブル8の引き作動、該作動の停止、コントロールケーブル8の戻し作動である解除、該解除の停止、引き作動の順序で制御を行なっているので、後輪をロックさせずにスムーズに停止させることができる。
【0013】
請求項3に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置によれば、予め設定した減速度の閾値より減速度が低い場合には前記電動モータ16を駆動し、減速度が閾値より高い場合には前記電動モータ16を停止させるようにしているので、減速度を優先した高μ路に適したブレーキ性能を提供することができる。
【0014】
請求項4に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置によれば、車両の停車時の傾斜角度や車両の減速度が検出可能な傾斜センサ43を有し、車速、車輪速情報がない場合には、前記傾斜センサ43にて減速度を監視し、一定以上の減速度が確保できた場合に引き作動を停止し、且つ前記コントロールケーブル8の引き速度を正常より減じる制御手段を備えているので、コントロールケーブル8の引き速度が遅くなってドライバーの操作スイッチ11での手操作による調整がし易くなる。つまり、作動/解除という少し引いて戻すという操作がし易くなる。このようにして、減速度を確保しつつ、ある程度のロック回避を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は電動パーキングブレーキ装置を搭載した車両1の概略構成図を示し、左右の後輪2、3にドラム式あるいはディスク式のパーキングブレーキ4が設けられている。また、運転席の周りには電動パーキングブレーキ装置であるアクチュエータ5が配置されており、このアクチュエータ5から導出されているブレーキケーブル6がイコライザー7の中央部分に接続されている。コントロールケーブル8、8の一端が左右のパーキングブレーキ4、4にそれぞれ接続され、コントロールケーブル8、8の他端は該コントロールケーブル8、8の張力を均一化するためのイコライザー7の両端にそれぞれ接続されている。
【0016】
ここで、上記パーキングブレーキ4は周知なものであるので図示はしないが、例えば、ブレーキドラムと、このブレーキドラムの内周面を押し付けるブレーキシューと、ブレーキシューを戻し方向に付勢するリターンスプリングと、コントロールケーブル8で作動するパーキングレバーとで構成されている。
【0017】
上記アクチュエータ5は電動パーキングブレーキコントローラ10(以下、EPKBコントローラ10と称す。)にて駆動制御されるようになっており、また、運転席側のインストールメントパネルあるいはハンドル側などのドライバーの手が届く任意の場所に設けられているアクチュエータ5操作用の操作スイッチ11からの信号がEPKBコントローラ10に入力されるようになっている。
【0018】
図2は上記操作スイッチ11の構成図を示しており、該操作スイッチ11の操作部(図示せず)は跳ね返り式で上側あるいは下側を操作しない限り中立位置を維持する自己復帰型の3位置切換タイプのスイッチである。上記操作部と連動している接片12は図示するように中立位置を維持しており、該接片12が図中の上側の接触端子13に接触するとコントロールケーブル8を引き作動(引き操作)するための作動信号が出力され、また接片12が下側の接触端子14に接触するとコントロールケーブル8を戻し作動(戻し操作)するための解除信号が出力される。
この操作スイッチ11は、いわゆるアクチュエータ5をマニュアル操作をするためのものであり、また、接触端子13側を作動SW(作動スイッチ)と以後称し、接触端子14側を解除SW(解除スイッチ)と以後称する。
【0019】
図3は上記電動パーキングブレーキであるアクチュエータ5の構成図を示し、このアクチュエータ5は、電動モータ16と、歯車などで構成される減速機17と、ケーブル操作部18及びパルスエンコーダなどのストロークセンサ19とで構成されており、ケーブル操作部18にコントロールケーブル8が接続されている。このコントロールケーブル8は、導管と該導管内に挿通される内索とからなっている。
コントロールケーブル8の他端は上述したようにパーキングブレーキ4に接続されており、コントロールケーブル8を引き操作すると、パーキングブレーキ4のブレーキシューなどの摩擦部材がブレーキドラムまたはブレーキディスクに付勢されるようになっている。
【0020】
ここで、コントロールケーブル8を操作するとは、コントロールケーブル8の導管を固定して、導管に対する内索をコントロールケーブル8の軸方向に動かすことである。コントロールケーブル8を操作するには、例えば、コントロールケーブルの内索の端部にボルトを形成し、ボルトに噛み合うナットを軸方向の動きを規制して回転することによって、内索を軸方向に動かすようにすることができる。この場合、ナットを電動モータ16によって正転または逆転することによって、内索を前後に動かすことができる。あるいは、例えば、内索の端部にラックを形成し、ラックに噛み合うピニオンを回転させて内索を前後に動かすような構成でも良い。
【0021】
図4はアクチュエータ5の電動モータ16の電流値と荷重、斜度との関係を示すグラフであり、コントロールケーブル8の引き作動、戻し作動におけるストロークとの関係で、St2(mm)のコントロールケーブル8の引き操作の場合に、モータ電流がIth(A)で、N2 (N)の最大荷重となる。また、この関係は周囲温度をパラメーターとして適宜設定される。
【0022】
図5は本発明に関連するブロック図を示し、アクチュエータ5を制御したり、パーキングブレーキランプ45を点灯、点滅、消灯の制御を行なうEPKBコントローラ10は、コンピュータで構成される制御装置30と、アクチュエータ5の電動モータ16を正転、逆転の駆動制御を行なうモータ駆動部40と、パーキングブレーキランプ45を駆動制御するランプ駆動部41と、車両1の傾斜を検出する傾斜センサ43とで構成されている。
【0023】
また、上記制御装置30の各部の詳細は後述するが、該制御装置30は、アクチュエータ5のコントロールケーブル8のストローク量に応じて電動モータ16にてパーキングブレーキ4を最適荷重、最大荷重まで作動させたり、電動モータ16を逆転させて解除を行なうモータ制御部31と、車両1の速度を判定する車速判定部32と、車両1の後輪2、3のロックの判定を行なうロック判定部33と、車両1の減速の度合いを判定する減速度判定部34と、車両1がV1(km/h)以上の場合にアクチュエータ5を駆動してパーキングブレーキ4を介して後輪2、3に制動をかけるダイナミックパーキング制御部35と、車両1がV1(km/h)以下の場合に車両1を停止するまで制動をかけるスタティックパーキング制御部36と、車両1の停止状態から走行する場合にアクセルを踏んだ場合の信号を受けてパーキングブレーキ4を自動的に解除の制御を行なうアクセル解除制御部37と、本発明の制御を行なわしめるためのプログラムを格納しているROMや各種の信号やデータを一時的に格納するRAMからなる記憶部38とで構成されている。また、記憶部38は、図4に示すテーブルが予め格納されている。
【0024】
また、上記EPKBコントローラ10には、図4に示すように、ドライバーによる手動操作による操作スイッチ11からの作動信号/解除信号と、イグニッションスイッチ21からのオン信号、オフ信号と、アクセルの踏み込みに応じたスロットル開度センサ22からの信号と、後輪2、3にそれぞれ取り付けられている車輪速センサ23からの車輪速の信号と、車速センサ24からの車両1の速度信号と、サービスブレーキのブレーキスイッチ25からのブレーキのオン信号、オフ信号と、各シフトポジションの位置を検出するATポジションセンサ26からは、P(パーキング)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジション、R(リバース)ポジションの各信号と、エンジン回転数センサ27からはエンジンの回転数の信号がそれぞれ入力されるようになっている。
【0025】
なお、図5に示す各部には、イグニッションスイッチ21のオン、オフに関わらずバッテリから電源が供給されている。
【0026】
次に、EPKBコントローラ10によるスタティックパーキング制御での作動制御、解除制御について説明する。先ず、ドライバーの操作スイッチ11の操作によるマニュアル作動開始の制御について図6に示すフローチャートを用いて説明する。ステップS1において、作動許可条件を判定するが、この作動許可条件は実際には複数の条件を有しているが、この説明では、例えば車速がV1(km/h)以下の場合とする。また、この作動制御、解除制御は、図5に示すスタティックパーキング制御部36にて制御が行なわれる。
【0027】
図6に示すステップS1において、車速がV1(km/h)以上の場合にはステップS2に移行し、操作スイッチ11からの作動SWからの作動信号が入力され、該作動信号が一定時間が経過した場合にオンが確定される。作動SWのオンが確定されるとステップS3に移行し、この時点で電動モータ16が作動(正転駆動)してコントロールケーブル8の引き操作が開始されてパーキングブレーキ4が駆動され後輪2、3に制動がかけられる。
【0028】
図7はマニュアル作動開始の場合のタイミングチャートを示しており、時系列的に、より詳しく説明する。図7(a)に示す作動許可条件は図6の場合と同様であり、(d)に示す操作スイッチ11の解除SWはオフ状態であり、また、イグニッションスイッチ21からの信号は、オン、オフのいずれでも良い(図7(e)参照)。
図7(b)に示すように、操作スイッチ11から作動SWの作動信号が時刻t1で入力されて所定時間経過してオンが確定しても、作動許可条件が不成立のためオンが受け付けられない。時刻t2で再度、作動SWがオンされて入力して所定時間経過してオンが確定した場合、作動許可条件が成立しているため、オンが受け付けられる。
【0029】
上記のオンが確定した時刻t3で電動モータ16は停止状態から起動されて正転駆動され(図7(g)参照)、(f)に示すようにモータ電流がコントロールケーブル8の張力に応じて上昇していく。なお、(f)に示すT1は電動モータ16の突入電流が発生している期間であり、この期間は電流値を読み込まないようにしている。
【0030】
なお、図7(c)において、時刻t4で作動SWがオンされた場合に、作動許可条件が不成立であるのでオンが受け付けられないが、作動SWがオン状態で時刻t5で作動許可条件が成立してから所定の時間が経過した後にオンが確定し、オンが受け付けられる。これにより上記と同様に電動モータ16が作動する(図7(f)(g)の破線参照)。
【0031】
これらの制御は、図5において、操作スイッチ11から作動信号がEPKBコントローラ10の制御装置30へ入力され、該制御装置30のスタティックパーキング制御部36にて制御が行なわれ、また、スタティックパーキング制御部36にて制御されるモータ制御部31ではモータ駆動部40を駆動し、アクチュエータ5の電動モータ16を駆動してコントロールケーブル8の引き作動が開始される。
【0032】
次に、スタティックパーキングのオート作動の制御について図8及び図9により説明する。図8のステップS11において、上記と同様に車速がV1(km/h)以下などの場合には作動許可条件が成立し、ステップS12に移行する。ステップS12において、ATポジションがPポジションで、且つドライバーがブレーキを踏んでブレーキスイッチ25がオンしている場合には、ステップS13に移行する。ステップS13に示すように、ATポジションがPポジションで、且つブレーキスイッチ25がオンの場合には、電動モータ16が作動(正転駆動)してコントロールケーブル8の引き作動が開始されてパーキングブレーキ4が駆動され後輪2、3に制動がかけられる。
【0033】
図9において、(b)の解除SWがオフで、(e)のイグニッションスイッチ21はオン、オフのいずれでも良い。(c)(d)に示すようにATポジションがPポジションで、且つブレーキスイッチ25がオンとなっても、(a)に示す作動許可条件が不成立なので、オート作動は受け付けられない。
作動許可条件が成立している状態で、(c)に示すようにATポジションがPポジションとなって所定の時間が経過した後に、オンが確定し(時刻t1)、この時刻t1でブレーキスイッチ25がオンとなっているので、(g)に示すように電動モータ16が起動されて、正転駆動される。(f)に示すように、電動モータ16が駆動されて、コントロールケーブル8の引き作動による張力に応じて電流値が上昇していき、オート作動制御に移る。
【0034】
次に、マニュアル/オート作動における正常停止の制御について説明する。図10はイグニッションスイッチ21がオンの場合であり((a)参照)、電動モータ16のモータ電流値が予め設定した最適荷重になるまで作動される(図4及び図10(b)参照)。図4に示される設定テーブルはEPKBコントローラ10の記憶部38に予め格納されており、アクチュエータ5のコントロールケーブル8の引き作動におけるストローク量からモータ電流を換算し、パーキングブレーキ4の荷重に対応したモータ電流から電動モータ16が駆動制御される。
予め設定した最適荷重に対応したモータ電流に達すると(時刻t1)、図10(c)に示すように、電動モータ16は停止され、電動モータ16が完全に停止するとモータ電流はゼロになる((b)参照)。また、(d)に示すように、パーキングブレーキランプ45は、ランプ駆動部41により点灯される。
【0035】
図11はイグニッションスイッチ21がオフの場合を示しており、この場合には、パーキングブレーキ4が最大荷重になるまで電動モータ16が作動される(図11(b)(c)参照)。最大荷重に達した時刻t1で電動モータ16が停止され、また、電動モータ16が完全に停止した時点でモータ電流はゼロになる。パーキングブレーキランプ45は、ランプ駆動部41により一旦点灯され、所定の時間T2経過後に消灯する(図11(d)参照)。
【0036】
図12は、パーキングブレーキ4が最適荷重に制動がかけられた後に、イグニッションスイッチ21がオフとなった場合を示している。最初はイグニッションスイッチ21がオンの状態で、最適荷重となる時刻t1まで電動モータ16が作動し、その後に電動モータ16は停止し、モータ電流はゼロとなる(図12(b)(c)参照)。
電動モータ16が停止した状態でイグニッションスイッチ21が時刻t2でオフされると、電動モータ16が起動され、最大荷重まで電動モータ16が作動される。その後、電動モータ16が停止し、モータ電流もゼロとなり、電動モータ16が停止する時刻t3から所定の時間T2の経過後にパーキングブレーキランプ45が消灯する。
【0037】
次に、操作スイッチ11によるマニュアル解除の制御について説明する。図13はかかる場合のフローチャートを示し、ステップS21で解除許可条件が判定される。ここで、解除許可条件は複数あり、そのうち例えば、操作スイッチ11が正常の場合である。解除許可条件が成立する場合は、ステップS22に移行し、イグニッションスイッチ21がオンで、且つ操作スイッチ11の解除SWがオンかどうかが判断される。
イグニッションスイッチ21がオンで、且つ解除SWがオンの場合には、ステップS23に移行し、電動モータ16が逆転駆動され、コントロールケーブル8は戻し作動される。これによりパーキングブレーキ4が操作スイッチ11のマニュアル操作により解除されることになる。
【0038】
図14はかかる場合のタイミングチャートを示しており、図14(a)に示す解除許可条件が不成立の場合に、時刻t1で解除SWのオン信号が入力されてもオン(解除動作)は受け付けられない((b)参照)。また、解除許可条件が成立している場合に、時刻t2、時刻t3で解除SWのオン信号が入力されてもイグニッションスイッチ21がオフであるので(図14(e)参照)、オン(解除動作)は受け付けられない。
【0039】
また、解除許可条件が不成立の場合の時刻t6(図14(c)参照)に解除SWのオン信号が入力された後に解除許可条件が成立した場合で、解除SWのオン信号自体が確定しても、イグニッションスイッチ21がオフのため、オンは受け付けられない。
図14(c)の時刻t7で解除SWのオン信号が入力され、オンが確定しても、このオンの確定時の時刻t8において、イグニッションスイッチ21がオンしてからオンが確定していないため、オンは受け付けられない。
【0040】
次に、図14(e)に示すように、イグニッションスイッチ21がオフからオンとなり、その後の(b)に示す時刻t4で解除SWからのオン信号が入力し、イグニッションスイッチ21のオン確定後に、解除SWのオンが確定して時刻t5において、電動モータ16が起動し((g)参照)、該電動モータ16は逆転駆動(解除方向)し始める。
電動モータ16が逆転する場合は、制動をかける場合とは異なり、比較的少ないモータ電流値でもって駆動でき((f)参照)、アクチュエータ5のコントロールケーブル8のストローク量がゼロとなるまで、電動モータ16が駆動される。そして、該ストローク量が完全にゼロとなると、電動モータ16は停止し、同時にパーキングブレーキランプ45が点灯状態から消灯状態となる。これにより車両1を走行させることができる。
【0041】
次に、パーキングブレーキ4が引かれた状態からの車両1の発進をスムーズに行なう場合、特に、パーキングブレーキ4を引いた状態で坂道発進するときに自動解除してスムーズに発進できるようにしたアクセル解除制御について説明する。
【0042】
車両1が坂道などの勾配のある路面に停車した場合、その車両1の傾斜角度を図5に示す傾斜センサ43にて検出するようにしており、この傾斜センサ43はEPKBコントローラ10内に設けている。この傾斜センサ43は重力Gの懸かり具合により出力電圧が変化する、あるいは出力パルス周期が変化することを利用して傾斜角度を検出している。
重力Gの変化により出力信号が変化するので、車両1が加速したり、減速したりした際のG変化も検出することになり、この特性を利用し、後述するように傾斜センサ43で車両1の減速度あるいは加速度を検出することができるようになっている。
【0043】
坂道で停車している状態から発進する場合、いわゆる坂道発進する場合には、勾配がゼロや勾配が小さい場合と比べて多くのトルクが必要となり、そのため、勾配が大きいほど、多くのトルクが必要となる。また、多くのトルクが必要となるほど、エンジンの回転数を上げる必要がある。
【0044】
そこで、図15に示すように、勾配とエンジンの回転数とを予め対応させておき、勾配が大きくなるにつれてパーキングブレーキ4を自動解除する時のエンジンの回転数を上げるようにしている。図15に示すテーブルは制御装置30の記憶部38に予め格納している。
図15において、「仰角」は上り坂を表し、「俯角」は下り坂を表している。また、勾配は0%(斜度0°)から30%(斜度16.7°)以上までの5%刻みの8段階に分けている。
【0045】
傾斜センサ43の仰角における出力AOUTは、A0V(ボルト)からA6Vであり、また、俯角における出力AOUTは、−A6VからA0Vである。上り坂においてATポジションがRポジションの場合にはエンジンの回転数は、En0rpmで一定であり、Dポジションの場合にそれぞれパーキングブレーキ4の自動解除のしきい値となるエンジン回転数を勾配が大きくなるほど高くしている(En0rpmからEn7rpm)。
また、下り坂において、ATポジションがDポジションのエンジンの回転数は、En0rpmで一定であり、Rポジションの場合にそれぞれパーキングブレーキ4の自動解除のしきい値となるエンジン回転数を勾配が大きくなるほど高くしている(En0rpmからEn7rpm)。
【0046】
図16は図5に示す制御装置30のアクセル解除制御部37により制御されるタイミングチャートを示し、図17及び図18はアクセル解除制御のフローチャートを示している。図16において、(b)に示すアクセル開度のオン、オフの信号はスロットル開度センサ22からEPKBコントローラ10に入力され、また(c)に示すエンジン回転数は、エンジン回転数センサ27からEPKBコントローラ10に入力される。また、(d)に示すATポジションのRポジション、Dポジションの信号はATポジションセンサ26からEPKBコントローラ10に入力され、(e)に示すアクチュエータ5のコントロールケーブル8のストローク量はアクチュエータ5のストロークセンサ19からEPKBコントローラ10に入力される。
【0047】
先ず、図17に示すステップS31において、イグニッションスイッチ21がオンしている場合には(図16(a)参照)ステップS32に進み、ステップS32においてスロットル開度センサ22がオンしている場合には(図16(b)参照)、ステップS33に進む。
ステップS33において、ATポジションセンサ26からの信号がRポジションかDポジションかを判定し(図16(d)参照)、ステップS34においてRポジションまたはDポジションに応じて路面の勾配に応じたエンジンの回転数データを記憶部38から取り込む。今、例えば、車両1の進行方向がDポジションであって、勾配が25%とする。なお、傾斜センサ43からの路面の勾配データは車両1が停車した後に、サンプリングを行なって該勾配データが記憶部38に一旦記憶される。
【0048】
ステップS34において、図5に示す制御装置30のアクセル解除制御部37が記憶部38から現在の勾配データを読み取り、この勾配データからアクセル解除制御部37は図15のテーブルからパーキングブレーキ4を自動解除するときのエンジン回転数をEn7rpmと設定する。
ドライバーがアクセルペダルを踏み込んでいくにしたがい、図16(c)に示すように、エンジンの回転数が徐々に上昇していき、エンジンの回転数が路面の勾配に応じたトルク(ここでは、上記のEn7rpm)まで上がるまで判断する。つまり、坂道発進に必要なトルクまで上がったかを監視、判断する。
【0049】
次に、エンジンの回転数が坂道発進に必要なトルク(回転数がEn7rpm)まで上がった場合には、図18のステップS36及び図16(f)に示すように、電動モータ16を逆転駆動(解除動作)し、アクチュエータ5のコントロールケーブル8を戻し作動する。
コントロールケーブル8の戻し作動に伴い、図16(e)に示すようにコントロールケーブル8のストローク量は作動完了位置から解除完了位置へと少なくなり、ストローク量がゼロとなる解除完了位置となった場合には、ステップS38に移行して電動モータ16が停止され、パーキングブレーキランプ45が消灯する(図16(f)(g)参照)。
【0050】
なお、上り坂、下り坂における各勾配の違いによるPポジションまたはDポジションにおけるアクセル解除制御は上記と同様の制御でパーキングブレーキ4が自動解除される。
【0051】
このように、ATポジションによって進行方向を判定し、スロットル開度センサ22にてアクセルペダルの踏み込みを判定して、パーキングブレーキ4を引いた状態でエンジン回転数が坂道発進に必要なトルクまで上がったときに、パーキングブレーキ4を自動解除するので、車両1がずり下がることなく、スムーズな発進を実現することができるものである。
【0052】
次に、車両1の走行中に車輪に制動をかけるダイナミックパーキング制御について説明する。本ダイナミックパーキング制御は、車速がV1(km/h)以上の時にパーキングブレーキ4を引き作動するものであり、この制御では、車輪(後輪2、3)の減速度を監視して高μ路、低μ路それぞれに適したブレーキ性能を提供するものである。また、高μ路から低μ路へ移動した場合や、低μ路から高μ路へ移動した場合にでもそれぞれ適したブレーキ性能を提供するものである。
なお、以下に説明する制御は、図5に示す制御装置30の車速判定部32、ロック判定部33、減速度判定部34、ダイナミックパーキング制御部35などにて主に行なわれる。
【0053】
ここで、詳細は後述するが、高μ路でのダイナミックパーキング制御においては、車輪の減速度が高くなると、後輪がロックするため、後輪がロックしないように一定の減速度を確保して制動をかけるようにしている。これにより、後輪をロックさせずに素早く停止することができる。また、低μ路と比べて停止させる場合のフィーリングも良い。
低μ路でのダイナミックパーキング制御においては、減速度が低くても後輪がロックし易いため、ロック回避を優先した制御を行なうものであり、高μ路に比べて減速度が低いため停止までの時間は長いものの、後輪をロックさせずに停止させることができる。
【0054】
本ダイナミックパーキング制御における基本的な制御は以下の通りである。
・車両が高μ路または低μ路のどちらを走行しているかを判定してそれぞれの制御を行なう。
・高μ路では後輪がロックする前に減速度が高くなりやすいため、減速度を確保する制御を優先する。
・低μ路では減速度が低く後輪がロックし易いため、ロックを回避する制御を優先する。
【0055】
図19はこれの制御内容のフローチャートを示し、ステップS41において走行中にドライバーが操作スイッチ11の作動SWを操作してアクチュエータ5のコントロールケーブル8の引き作動を行ない、ステップS42で車両の速度を判定する。この車速は、図5に示す車速センサ24からの信号にて制御装置30の車速判定部32にて判定が行なわれる。
車速が予め設定されている速度、V1(km/h)以上の場合(ここで、該速度は、例えば8km/hである。しかし、数値は任意に設定可能である。)では速度が「高」としてステップS43に移行し、車速がV1(km/h)以下の場合では速度が「低」としてステップS45に移行する。ステップS45では上述したオート作動にてスタティックパーキング制御として停止制御が行なわれる。
【0056】
車速がV1(km/h)以上の場合では、ステップS43において車速と後輪車輪速とを比較して後輪のロック判定が行なわれ、ロックの危険性があると判定されるとステップS46に移行してロックの回避を優先とした低μ路制御が行なわれる。この低μ路制御については後述するが、低μ路制御後はステップS42に戻る。
また、ステップS43においてロックが回避されると判定された場合にはステップS44に移行して車両の減速度が判定される。減速度が低いと判定されるとステップS42に戻り、減速度が高いと判定された場合には、減速度の確保を優先した高μ路制御が行なわれる。この高μ路制御について後述するが、高μ路制御後はステップS42に戻る。
【0057】
次に、ステップS43の後輪のロック判定について説明する。この後輪ロック判定は、前輪車輪速と後輪車輪速の差があるしきい値(閾値)を超えた場合に「ロック危険」と判定するものであり、図5に示す車輪速センサ23と車速センサ24からの信号を受けた制御装置30のロック判定部33にてロックの危険性が判定される。
図20はロックの判定方法と低μ路制御のダイナミックパーキング制御方法を示したものであり、車速がV1(km/h)以上の時にドライバーが操作スイッチ11の作動SWを操作してパーキングブレーキ4の引き作動(引き操作)を開始してから停止するまでの過程を示している。
【0058】
図20において、推定車体速とは、右、左前輪車輪速の平均値であり、左右の車輪速が違う場合が想定されることから、平均値を採っている。また、後車輪速は、後右、左車輪速のセレクトローとし、左右の後輪のうち減速度が大きい方のセレクトローのデータを用いている。
ロック回避閾値は、後車輪速が上記推定車体速の例えば98%になった時の値であり、ロック危険閾値は、後車輪速が上記推定車体速の例えば96%になった時の値としている。また、通常作動移行閾値は、ダイナミックパーキング作動から通常作動(スタティックパーキング作動)へ移行する車速閾値であり、この通常作動移行閾値は上記のV1(km/h)である。なお、車速や後輪の車輪速は、例えば、10msec毎にサンプリングを行なってデータを得ている。
【0059】
低μ路制御は、図20に示すように、後輪2、3のロックの危険性が大となった時にコントロールケーブル8の引き作動を解除し、この解除により後輪2、3が加速されるので、引き作動を行ない、これを繰り返すものである。
【0060】
次に、ステップS46におけるロックの回避を優先した制御を行なう低μ路制御について図20及び図21により説明する。この低μ路制御は、ドライバーが操作スイッチ11の作動SWを所定の時間操作することで制御が開始されるるものであり、車速がV1(km/h)以下になってスタティックパーキング制御に移行した後は、操作スイッチ11をオン操作しても、あるいはオフ操作しても引き作動が継続して停車するオート作動が行なわれる。
【0061】
図21(b)において、時刻t1でドライバーが操作スイッチ11の作動SWを所定の時間オン操作することで、オンが確定して低μ路制御におけるダイナミックパーキング制御が受け付けられる。そして、アクチュエータ5の電動モータ16は、停止状態から起動して引き作動(ダイナミックパーキング制御)が行なわれ(図21(e)参照)、同時にモータ電流が増加していく((d)参照)。また、(f)に示すようにパーキングブレーキランプ45が点滅する。
そして、ドライバーの意思で一旦ダイナミックパーキング制御を停止しようとして、図21(b)に示すように、時刻t2でドライバーが操作スイッチ11の作動SWをオフ操作して所定の時間が経過した後にオフが確定すると、電動モータ16は逆転してコントロールケーブル8の解除(戻し作動)が行なわれる(図21(e)参照)。なお、パーキングブレーキランプ45は点滅している(図21(f)参照)。
【0062】
次に、ドライバーがダイナミックパーキング制御を再度行なおうとして、時刻t3で操作スイッチ11の作動SWを操作して所定の時間が経過した後にオンが確定してダイナミックパーキング制御の受け付けが行なわれる。
図21に示す時刻t4でダイナミックパーキング制御が開始され、このダイナミックパーキング制御が行なわれてコントロールケーブル8が引き作動され、コントロールケーブル8により後輪に制動がかかることで後輪の減速度が大きくなる。減速度が大きくなると、図21(e)に示すように後輪のロック近傍に近づくためロックの危険性が大となり、これをロック判定部33で検出して、コントロールケーブル8の戻し作動の解除制御を行なう(図21のA部分参照)。
【0063】
この状態では、後輪のロックの危険性が無くなるため、再度電動モータ16を駆動してコントロールケーブル8の引き作動の制御を行なう(図21のB部分)。この引き作動を行なうと後輪の減速度が大きくなり、ロックの危険性が大となるので、コントロールケーブル8を戻す解除制御を行なう(図21のC部分参照)。
【0064】
このようにして、コントロールケーブル8の戻し作動である解除と、引き作動を繰り返していくと、車体速度と後輪車輪速が徐々に低下していき、通常作動移行閾値であるV1(km/h)以下になると、上述した通常のスタティックパーキング制御が行なわれて、車体が停止する。
なお、引き作動、戻し作動などのダイナミックパーキング制御と電動モータ16の制御(正転と逆転)を行なってコントロールケーブル8の引き作動力を調節する低μ路制御が行なわれている期間は、図21(g)に示すようにパーキングブレーキランプ45は点滅している。
【0065】
また、図21(b)に示すように、車速がV1(km/h)以下になっている場合で操作スイッチ11の作動SWをオフ操作してオフが確定しても解除動作は行なわれず、電動モータ16はコントロールケーブル8が所定の目標荷重になるまで引き作動が行なれる。
コントロールケーブル8の引き作動が完了して電動モータ16がオフされると同時にパーキングブレーキランプ45が点滅から点灯に移行する(図21(e)(f)参照)。
【0066】
このようにして、後輪のロックの危険性があるときは、ロックの回避を優先した低μ路制御を行なうことで、後輪をロックさせずに車両を停止させることができる。
特に、低μ路制御では、前記電動モータ16をコントロールケーブル8の戻し作動である解除と、コントロールケーブル8の引き作動の順序で繰り返して制御を行なっているので、後輪をロックさせずにスムーズに停止させることができる。なお、これらの低μ路制御は、車速がV1(km/h)以下になるまで繰り返して行なわれる。
【0067】
次に、ステップS47における減速度の確保を優先した高μ路制御について説明する。図22(b)において、時刻t1でドライバーが操作スイッチ11の作動SWをオン操作して所定の時間経過後にオンが確定してダイナミックパーキング制御が受け付けられ、アクチュエータ5の電動モータ16は、停止状態から起動して引き作動が行なわれる(図22A部分参照)。また、(f)に示すようにパーキングブレーキランプ45が点滅する。
【0068】
このコントロールケーブル8の引き作動にて後輪の減速度が時刻t2で判定閾値より高くなると(図22(c)参照)、電動モータ16を停止させる(図22のB部分参照)。電動モータ16を停止させてコントロールケーブル8の引き作動を停止させると減速度が下がっていくため、減速度の判定閾値を超える時刻t3で再び電動モータ16を駆動して引き作動を行なう(図22(c)参照)。
また、この引き作動を行なっていると、減速度が上がっていくため、減速度が判定閾値より上がる時刻t4で電動モータ16を停止させる(図22D部分参照)。
【0069】
減速度の判定閾値より減速度が上がるか、下がるかでコントロールケーブル8の引き作動と停止を繰り返して、車速がV1(km/h)以下になるとオート作動にて車両が停止する。電動モータ16が停止すると図22(f)に示すように、パーキングブレーキランプ45が点滅から点灯へと移行する。
このように、高μ路制御では、予め設定した減速度の閾値より減速度が低い場合には前記電動モータ16を駆動し、減速度が閾値より高い場合には前記電動モータ16を停止させるようにしているので、減速度を優先した高μ路に適したブレーキ性能を提供することができる。なお、図22(b)に示すように、このオート作動に入る車速がV1(km/h)以下において、操作スイッチ11をオフ操作してオフが確定してもオート作動が継続して行なわれる。
【0070】
このように本実施形態では、ロック判定部33により後輪のロックの危険性があると判定された場合には低μ路を走行しているとしてロックの回避を優先して制御する低μ路制御を行ない、ロック判定部33により後輪のロックが回避されると判定された場合には高μ路を走行しているとして車両の減速度の確保を優先して制御する高μ路制御を行なうようにしていることで、低μ路、高μ路それぞれに適したブレーキ性能を提供することができる。
また、低μ路では、減速度が低くても後輪がロックし易いため、ロック回避を優先した制御を行なっているので、後輪をロックさせずに停止することができる。さらに、高μ路では、減速度が高くなると後輪がロックするため減速度を優先する制御をしているので、後輪をロックさせずにすばやく停止させることができる。また、高μ路から低μ路へ移動した場合、低μ路から高μ路へ移動した場合にでもそれぞれ適したブレーキ性能を提供することができる。
【0071】
次に、図23により車輪速情報が受け取れない場合でも減速度を確保しつつ、ある程度のロック回避が行なえるブレーキ性能を提供する場合について説明する。ダイナミックパーキング制御を行なっているときに、ステップS51で車輪速情報の受信の判定を行ない、車輪速情報の受信ができている場合には、ステップS43以降に移行する。なお、車輪速情報が受信できている場合は、図19の場合と同様なので、同じステップ番号を付している。
【0072】
イグニッションスイッチ21がオフされた場合、あるいは車内LANが失陥した場合は、車輪速情報あるいは、車速情報が読めなくなる。そのため、前後の車輪速差や車輪速から減速度合いでロック回避を行なう動的パーキング(ダイナミックパーキング)の制御方法では、高い確率でロック回避などの機能を喪失してしまうことになる。
そこで、車速、車輪速情報がなくても、EPKBコントローラ10に搭載された傾斜センサ43により減速度をモニタリングし、一定以上の減速度が確保できれば引き作動を停止し、且つコントロールケーブル8の引き速度を正常時より減じることで、手操作での作動/解除もコントロールし易くするようにしている。
【0073】
すなわち、ステップS51で車速、車輪速情報などが受け取れない場合にはステップS52に進み、傾斜センサ43により減速度を判定し、減速度が低い場合にはステップS51に戻る。減速度が高い場合には、ステップS53に移行してフェールセーフ制御が行なわれる。
すなわち、ステップS53においては、電動モータ16に印加する電圧(パルス出力)のデューティ比を変えることで(デューティ比を小さくすることで)、コントロールケーブル8の引き速度を正常より減じるようにしている。これにより引き速度が遅くなることで、ドライバーの操作スイッチ11での手操作による調整がし易くなる。つまり、作動/解除という少し引いて戻すという操作がし易くなる。このようにして、減速度を確保しつつ、ある程度のロック回避を実現することができる。
【0074】
なお、これらの車速、車輪速情報がない場合の上述の制御は、EPKBコントローラ10の制御装置30にて行なわれる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における操作スイッチの構成図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるアクチュエータの一例を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるストローク量、モータ電流と斜度や荷重との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるマニュアル作動開始におけるフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態におけるマニュアル作動開始のタイミングチャートである。
【図8】本発明の実施の形態におけるオート作動開始におけるフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態におけるオート作動開始におけるタイミングチャートである。
【図10】本発明の実施の形態におけるイグニッションがオンの場合のマニュアル/オート作動の正常停止を示すタイミングチャートである。
【図11】本発明の実施の形態におけるイグニッションがオフの場合のマニュアル/オート作動の正常停止を示すタイミングチャートである。
【図12】本発明の実施の形態におけるイグニッションがオンからオフの場合のマニュアル/オート作動の正常停止を示すタイミングチャートである。
【図13】本発明の実施の形態におけるマニュアル解除開始におけるフローチャートである。
【図14】本発明の実施の形態におけるマニュアル解除開始におけるタイミングチャートである。
【図15】本発明の実施の形態におけるアクセル解除制御を行なう場合の解除開始のしきい値を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態におけるアクセル解除制御のタイミングチャートである。
【図17】本発明の実施の形態におけるアクセル解除制御を行なう場合のフローチャートである。
【図18】本発明の実施の形態におけるアクセル解除制御を行なう場合のフローチャートである。
【図19】本発明の実施の形態における低μ路制御と高μ路制御を行なう場合のフローチャートである。
【図20】本発明の実施の形態におけるロックの判定方法を示す説明図である。
【図21】本発明の実施の形態における低μ路制御のタイミングチャートである。
【図22】本発明の実施の形態における高μ路制御のタイミングチャートである。
【図23】本発明の実施の形態における車輪速情報が受信できない場合のフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1 車両
2、3 後輪
4 パーキングブレーキ
5 アクチュエータ
8 コントロールケーブル
10 電動パーキングブレーキコントローラ
11 操作スイッチ
16 電動モータ
30 制御装置
33 ロック判定部(ロック判定手段)
43 傾斜センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータによりパーキングブレーキを作動、解除の制御を行なう電動パーキングブレーキ用制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が停止している状態を検出した信号や、スイッチの操作により電動パーキングブレーキ装置の電動モータを駆動してパーキングブレーキを作動させたり、解除させるようにしたものが提供されている。また、車両の走行中に電動パーキングブレーキ装置を作動させて車両を制動する場合に(ダイナミックパーキング制御)、車輪のロックを回避するようにしたものとして、例えば下記に挙げる特許文献1〜3がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−142513号公報
【特許文献2】特開2004−142514号公報
【特許文献3】特開2002−67916号公報
【0004】
しかしながら、スリップが発生し易く車両の後輪がロックする可能性が大となる低μ路での路面摩擦計数が小さい場合の制御のみではなく、路面摩擦計数が大きい高μ路での制御や、低μ路から高μ路へ移動する場合や、逆に高μ路から低μ路へ移動する場合のそれぞれの走行路に適した制御が要求される。
【0005】
また、電動パーキングブレーキ装置を作動させて車両の走行中に制動を行なわせる場合に、イグニッションオフ、あるいは車内LANが失陥した場合などでは、車輪速情報や車速情報を読み取ることが出来なくなる。
このような場合、前後の車輪速差や車輪速から減速度合いでロック回避を行なうダイナミックパーキングの制御方法では高い確率で走行路に適したブレーキ性能が喪失してしまうことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題点に鑑みて提供したものであって、少なくとも以下の目的を有する電動パーキングブレーキ用制御装置を提供するものである。
(1)電動パーキングブレーキ装置の電動モータを駆動して走行中に車輪に制動をかけるダイナミックパーキング制御を行なう場合に、減速度を監視して高μ路、低μ路それぞれに適したブレーキ性能を提供すること。
(2)高μ路から低μ路へ移動した場合、低μ路から高μ路へ移動した場合にでもそれぞれ適したブレーキ性能を提供すること。
(3)車輪速情報などが受信できない場合でも減速度を確保しつつ、ある程度のロック回避が行なえるブレーキ性能を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明の請求項1記載の電動パーキングブレーキ用制御装置では、車両の走行中に電動モータ16によりコントロールケーブル8を引き作動してパーキングブレーキ4を作動させる電動パーキングブレーキ装置において、
車両が所定の車速以上で走行中に該車両が路面摩擦計数が小さい低μ路または路面摩擦計数が大きい高μ路のいずれを走行しているかを後輪のロック判定により判定するロック判定手段33と、前記ロック判定手段33により後輪のロックの危険性があると判定された場合には低μ路を走行しているとしてロックの回避を優先して制御する低μ路制御手段と、前記ロック判定手段33により後輪のロックが回避されると判定された場合には高μ路を走行しているとして車両の減速度の確保を優先して制御する高μ路制御手段とを備えていることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置では、前記低μ路制御手段における低μ路制御では、前記電動モータ16をコントロールケーブル8の引き作動、該作動の停止、コントロールケーブル8の戻し作動である解除、該解除の停止、引き作動の順序で制御を行なっていることを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置では、予め設定した減速度の閾値より減速度が低い場合には前記電動モータ16を駆動し、減速度が閾値より高い場合には前記電動モータ16を停止させるようにしていることを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置では、車両の走行中に電動モータ16によりコントロールケーブル8を引き作動してパーキングブレーキ4を作動させる電動パーキングブレーキ装置において、
車両の停車時の傾斜角度や車両の減速度が検出可能な傾斜センサ43を有し、車速、車輪速情報がない場合には、前記傾斜センサ43にて減速度を監視し、一定以上の減速度が確保できた場合に引き作動を停止し、且つコントロール前記ケーブル8の引き速度を正常より減じる制御手段を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置によれば、ロック判定手段33により後輪のロックの危険性があると判定された場合には低μ路を走行しているとしてロックの回避を優先して制御する低μ路制御を行ない、前記ロック判定手段33により後輪のロックが回避されると判定された場合には高μ路を走行しているとして車両の減速度の確保を優先して制御する高μ路制御を行なうようにしていることで、低μ路、高μ路それぞれに適したブレーキ性能を提供することができる。また、低μ路では、減速度が低くても後輪がロックし易いため、ロック回避を優先した制御を行なっているので、後輪をロックさせずに停止することができる。さらに、高μ路では、減速度が高くなると後輪がロックするため減速度を優先する制御をしているので、後輪をロックさせずにすばやく停止させることができる。また、高μ路から低μ路へ移動した場合、低μ路から高μ路へ移動した場合にでもそれぞれ適したブレーキ性能を提供することができる。
【0012】
請求項2に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置によれば、前記低μ路制御手段における低μ路制御では、前記電動モータ16をコントロールケーブル8の引き作動、該作動の停止、コントロールケーブル8の戻し作動である解除、該解除の停止、引き作動の順序で制御を行なっているので、後輪をロックさせずにスムーズに停止させることができる。
【0013】
請求項3に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置によれば、予め設定した減速度の閾値より減速度が低い場合には前記電動モータ16を駆動し、減速度が閾値より高い場合には前記電動モータ16を停止させるようにしているので、減速度を優先した高μ路に適したブレーキ性能を提供することができる。
【0014】
請求項4に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置によれば、車両の停車時の傾斜角度や車両の減速度が検出可能な傾斜センサ43を有し、車速、車輪速情報がない場合には、前記傾斜センサ43にて減速度を監視し、一定以上の減速度が確保できた場合に引き作動を停止し、且つ前記コントロールケーブル8の引き速度を正常より減じる制御手段を備えているので、コントロールケーブル8の引き速度が遅くなってドライバーの操作スイッチ11での手操作による調整がし易くなる。つまり、作動/解除という少し引いて戻すという操作がし易くなる。このようにして、減速度を確保しつつ、ある程度のロック回避を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は電動パーキングブレーキ装置を搭載した車両1の概略構成図を示し、左右の後輪2、3にドラム式あるいはディスク式のパーキングブレーキ4が設けられている。また、運転席の周りには電動パーキングブレーキ装置であるアクチュエータ5が配置されており、このアクチュエータ5から導出されているブレーキケーブル6がイコライザー7の中央部分に接続されている。コントロールケーブル8、8の一端が左右のパーキングブレーキ4、4にそれぞれ接続され、コントロールケーブル8、8の他端は該コントロールケーブル8、8の張力を均一化するためのイコライザー7の両端にそれぞれ接続されている。
【0016】
ここで、上記パーキングブレーキ4は周知なものであるので図示はしないが、例えば、ブレーキドラムと、このブレーキドラムの内周面を押し付けるブレーキシューと、ブレーキシューを戻し方向に付勢するリターンスプリングと、コントロールケーブル8で作動するパーキングレバーとで構成されている。
【0017】
上記アクチュエータ5は電動パーキングブレーキコントローラ10(以下、EPKBコントローラ10と称す。)にて駆動制御されるようになっており、また、運転席側のインストールメントパネルあるいはハンドル側などのドライバーの手が届く任意の場所に設けられているアクチュエータ5操作用の操作スイッチ11からの信号がEPKBコントローラ10に入力されるようになっている。
【0018】
図2は上記操作スイッチ11の構成図を示しており、該操作スイッチ11の操作部(図示せず)は跳ね返り式で上側あるいは下側を操作しない限り中立位置を維持する自己復帰型の3位置切換タイプのスイッチである。上記操作部と連動している接片12は図示するように中立位置を維持しており、該接片12が図中の上側の接触端子13に接触するとコントロールケーブル8を引き作動(引き操作)するための作動信号が出力され、また接片12が下側の接触端子14に接触するとコントロールケーブル8を戻し作動(戻し操作)するための解除信号が出力される。
この操作スイッチ11は、いわゆるアクチュエータ5をマニュアル操作をするためのものであり、また、接触端子13側を作動SW(作動スイッチ)と以後称し、接触端子14側を解除SW(解除スイッチ)と以後称する。
【0019】
図3は上記電動パーキングブレーキであるアクチュエータ5の構成図を示し、このアクチュエータ5は、電動モータ16と、歯車などで構成される減速機17と、ケーブル操作部18及びパルスエンコーダなどのストロークセンサ19とで構成されており、ケーブル操作部18にコントロールケーブル8が接続されている。このコントロールケーブル8は、導管と該導管内に挿通される内索とからなっている。
コントロールケーブル8の他端は上述したようにパーキングブレーキ4に接続されており、コントロールケーブル8を引き操作すると、パーキングブレーキ4のブレーキシューなどの摩擦部材がブレーキドラムまたはブレーキディスクに付勢されるようになっている。
【0020】
ここで、コントロールケーブル8を操作するとは、コントロールケーブル8の導管を固定して、導管に対する内索をコントロールケーブル8の軸方向に動かすことである。コントロールケーブル8を操作するには、例えば、コントロールケーブルの内索の端部にボルトを形成し、ボルトに噛み合うナットを軸方向の動きを規制して回転することによって、内索を軸方向に動かすようにすることができる。この場合、ナットを電動モータ16によって正転または逆転することによって、内索を前後に動かすことができる。あるいは、例えば、内索の端部にラックを形成し、ラックに噛み合うピニオンを回転させて内索を前後に動かすような構成でも良い。
【0021】
図4はアクチュエータ5の電動モータ16の電流値と荷重、斜度との関係を示すグラフであり、コントロールケーブル8の引き作動、戻し作動におけるストロークとの関係で、St2(mm)のコントロールケーブル8の引き操作の場合に、モータ電流がIth(A)で、N2 (N)の最大荷重となる。また、この関係は周囲温度をパラメーターとして適宜設定される。
【0022】
図5は本発明に関連するブロック図を示し、アクチュエータ5を制御したり、パーキングブレーキランプ45を点灯、点滅、消灯の制御を行なうEPKBコントローラ10は、コンピュータで構成される制御装置30と、アクチュエータ5の電動モータ16を正転、逆転の駆動制御を行なうモータ駆動部40と、パーキングブレーキランプ45を駆動制御するランプ駆動部41と、車両1の傾斜を検出する傾斜センサ43とで構成されている。
【0023】
また、上記制御装置30の各部の詳細は後述するが、該制御装置30は、アクチュエータ5のコントロールケーブル8のストローク量に応じて電動モータ16にてパーキングブレーキ4を最適荷重、最大荷重まで作動させたり、電動モータ16を逆転させて解除を行なうモータ制御部31と、車両1の速度を判定する車速判定部32と、車両1の後輪2、3のロックの判定を行なうロック判定部33と、車両1の減速の度合いを判定する減速度判定部34と、車両1がV1(km/h)以上の場合にアクチュエータ5を駆動してパーキングブレーキ4を介して後輪2、3に制動をかけるダイナミックパーキング制御部35と、車両1がV1(km/h)以下の場合に車両1を停止するまで制動をかけるスタティックパーキング制御部36と、車両1の停止状態から走行する場合にアクセルを踏んだ場合の信号を受けてパーキングブレーキ4を自動的に解除の制御を行なうアクセル解除制御部37と、本発明の制御を行なわしめるためのプログラムを格納しているROMや各種の信号やデータを一時的に格納するRAMからなる記憶部38とで構成されている。また、記憶部38は、図4に示すテーブルが予め格納されている。
【0024】
また、上記EPKBコントローラ10には、図4に示すように、ドライバーによる手動操作による操作スイッチ11からの作動信号/解除信号と、イグニッションスイッチ21からのオン信号、オフ信号と、アクセルの踏み込みに応じたスロットル開度センサ22からの信号と、後輪2、3にそれぞれ取り付けられている車輪速センサ23からの車輪速の信号と、車速センサ24からの車両1の速度信号と、サービスブレーキのブレーキスイッチ25からのブレーキのオン信号、オフ信号と、各シフトポジションの位置を検出するATポジションセンサ26からは、P(パーキング)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジション、R(リバース)ポジションの各信号と、エンジン回転数センサ27からはエンジンの回転数の信号がそれぞれ入力されるようになっている。
【0025】
なお、図5に示す各部には、イグニッションスイッチ21のオン、オフに関わらずバッテリから電源が供給されている。
【0026】
次に、EPKBコントローラ10によるスタティックパーキング制御での作動制御、解除制御について説明する。先ず、ドライバーの操作スイッチ11の操作によるマニュアル作動開始の制御について図6に示すフローチャートを用いて説明する。ステップS1において、作動許可条件を判定するが、この作動許可条件は実際には複数の条件を有しているが、この説明では、例えば車速がV1(km/h)以下の場合とする。また、この作動制御、解除制御は、図5に示すスタティックパーキング制御部36にて制御が行なわれる。
【0027】
図6に示すステップS1において、車速がV1(km/h)以上の場合にはステップS2に移行し、操作スイッチ11からの作動SWからの作動信号が入力され、該作動信号が一定時間が経過した場合にオンが確定される。作動SWのオンが確定されるとステップS3に移行し、この時点で電動モータ16が作動(正転駆動)してコントロールケーブル8の引き操作が開始されてパーキングブレーキ4が駆動され後輪2、3に制動がかけられる。
【0028】
図7はマニュアル作動開始の場合のタイミングチャートを示しており、時系列的に、より詳しく説明する。図7(a)に示す作動許可条件は図6の場合と同様であり、(d)に示す操作スイッチ11の解除SWはオフ状態であり、また、イグニッションスイッチ21からの信号は、オン、オフのいずれでも良い(図7(e)参照)。
図7(b)に示すように、操作スイッチ11から作動SWの作動信号が時刻t1で入力されて所定時間経過してオンが確定しても、作動許可条件が不成立のためオンが受け付けられない。時刻t2で再度、作動SWがオンされて入力して所定時間経過してオンが確定した場合、作動許可条件が成立しているため、オンが受け付けられる。
【0029】
上記のオンが確定した時刻t3で電動モータ16は停止状態から起動されて正転駆動され(図7(g)参照)、(f)に示すようにモータ電流がコントロールケーブル8の張力に応じて上昇していく。なお、(f)に示すT1は電動モータ16の突入電流が発生している期間であり、この期間は電流値を読み込まないようにしている。
【0030】
なお、図7(c)において、時刻t4で作動SWがオンされた場合に、作動許可条件が不成立であるのでオンが受け付けられないが、作動SWがオン状態で時刻t5で作動許可条件が成立してから所定の時間が経過した後にオンが確定し、オンが受け付けられる。これにより上記と同様に電動モータ16が作動する(図7(f)(g)の破線参照)。
【0031】
これらの制御は、図5において、操作スイッチ11から作動信号がEPKBコントローラ10の制御装置30へ入力され、該制御装置30のスタティックパーキング制御部36にて制御が行なわれ、また、スタティックパーキング制御部36にて制御されるモータ制御部31ではモータ駆動部40を駆動し、アクチュエータ5の電動モータ16を駆動してコントロールケーブル8の引き作動が開始される。
【0032】
次に、スタティックパーキングのオート作動の制御について図8及び図9により説明する。図8のステップS11において、上記と同様に車速がV1(km/h)以下などの場合には作動許可条件が成立し、ステップS12に移行する。ステップS12において、ATポジションがPポジションで、且つドライバーがブレーキを踏んでブレーキスイッチ25がオンしている場合には、ステップS13に移行する。ステップS13に示すように、ATポジションがPポジションで、且つブレーキスイッチ25がオンの場合には、電動モータ16が作動(正転駆動)してコントロールケーブル8の引き作動が開始されてパーキングブレーキ4が駆動され後輪2、3に制動がかけられる。
【0033】
図9において、(b)の解除SWがオフで、(e)のイグニッションスイッチ21はオン、オフのいずれでも良い。(c)(d)に示すようにATポジションがPポジションで、且つブレーキスイッチ25がオンとなっても、(a)に示す作動許可条件が不成立なので、オート作動は受け付けられない。
作動許可条件が成立している状態で、(c)に示すようにATポジションがPポジションとなって所定の時間が経過した後に、オンが確定し(時刻t1)、この時刻t1でブレーキスイッチ25がオンとなっているので、(g)に示すように電動モータ16が起動されて、正転駆動される。(f)に示すように、電動モータ16が駆動されて、コントロールケーブル8の引き作動による張力に応じて電流値が上昇していき、オート作動制御に移る。
【0034】
次に、マニュアル/オート作動における正常停止の制御について説明する。図10はイグニッションスイッチ21がオンの場合であり((a)参照)、電動モータ16のモータ電流値が予め設定した最適荷重になるまで作動される(図4及び図10(b)参照)。図4に示される設定テーブルはEPKBコントローラ10の記憶部38に予め格納されており、アクチュエータ5のコントロールケーブル8の引き作動におけるストローク量からモータ電流を換算し、パーキングブレーキ4の荷重に対応したモータ電流から電動モータ16が駆動制御される。
予め設定した最適荷重に対応したモータ電流に達すると(時刻t1)、図10(c)に示すように、電動モータ16は停止され、電動モータ16が完全に停止するとモータ電流はゼロになる((b)参照)。また、(d)に示すように、パーキングブレーキランプ45は、ランプ駆動部41により点灯される。
【0035】
図11はイグニッションスイッチ21がオフの場合を示しており、この場合には、パーキングブレーキ4が最大荷重になるまで電動モータ16が作動される(図11(b)(c)参照)。最大荷重に達した時刻t1で電動モータ16が停止され、また、電動モータ16が完全に停止した時点でモータ電流はゼロになる。パーキングブレーキランプ45は、ランプ駆動部41により一旦点灯され、所定の時間T2経過後に消灯する(図11(d)参照)。
【0036】
図12は、パーキングブレーキ4が最適荷重に制動がかけられた後に、イグニッションスイッチ21がオフとなった場合を示している。最初はイグニッションスイッチ21がオンの状態で、最適荷重となる時刻t1まで電動モータ16が作動し、その後に電動モータ16は停止し、モータ電流はゼロとなる(図12(b)(c)参照)。
電動モータ16が停止した状態でイグニッションスイッチ21が時刻t2でオフされると、電動モータ16が起動され、最大荷重まで電動モータ16が作動される。その後、電動モータ16が停止し、モータ電流もゼロとなり、電動モータ16が停止する時刻t3から所定の時間T2の経過後にパーキングブレーキランプ45が消灯する。
【0037】
次に、操作スイッチ11によるマニュアル解除の制御について説明する。図13はかかる場合のフローチャートを示し、ステップS21で解除許可条件が判定される。ここで、解除許可条件は複数あり、そのうち例えば、操作スイッチ11が正常の場合である。解除許可条件が成立する場合は、ステップS22に移行し、イグニッションスイッチ21がオンで、且つ操作スイッチ11の解除SWがオンかどうかが判断される。
イグニッションスイッチ21がオンで、且つ解除SWがオンの場合には、ステップS23に移行し、電動モータ16が逆転駆動され、コントロールケーブル8は戻し作動される。これによりパーキングブレーキ4が操作スイッチ11のマニュアル操作により解除されることになる。
【0038】
図14はかかる場合のタイミングチャートを示しており、図14(a)に示す解除許可条件が不成立の場合に、時刻t1で解除SWのオン信号が入力されてもオン(解除動作)は受け付けられない((b)参照)。また、解除許可条件が成立している場合に、時刻t2、時刻t3で解除SWのオン信号が入力されてもイグニッションスイッチ21がオフであるので(図14(e)参照)、オン(解除動作)は受け付けられない。
【0039】
また、解除許可条件が不成立の場合の時刻t6(図14(c)参照)に解除SWのオン信号が入力された後に解除許可条件が成立した場合で、解除SWのオン信号自体が確定しても、イグニッションスイッチ21がオフのため、オンは受け付けられない。
図14(c)の時刻t7で解除SWのオン信号が入力され、オンが確定しても、このオンの確定時の時刻t8において、イグニッションスイッチ21がオンしてからオンが確定していないため、オンは受け付けられない。
【0040】
次に、図14(e)に示すように、イグニッションスイッチ21がオフからオンとなり、その後の(b)に示す時刻t4で解除SWからのオン信号が入力し、イグニッションスイッチ21のオン確定後に、解除SWのオンが確定して時刻t5において、電動モータ16が起動し((g)参照)、該電動モータ16は逆転駆動(解除方向)し始める。
電動モータ16が逆転する場合は、制動をかける場合とは異なり、比較的少ないモータ電流値でもって駆動でき((f)参照)、アクチュエータ5のコントロールケーブル8のストローク量がゼロとなるまで、電動モータ16が駆動される。そして、該ストローク量が完全にゼロとなると、電動モータ16は停止し、同時にパーキングブレーキランプ45が点灯状態から消灯状態となる。これにより車両1を走行させることができる。
【0041】
次に、パーキングブレーキ4が引かれた状態からの車両1の発進をスムーズに行なう場合、特に、パーキングブレーキ4を引いた状態で坂道発進するときに自動解除してスムーズに発進できるようにしたアクセル解除制御について説明する。
【0042】
車両1が坂道などの勾配のある路面に停車した場合、その車両1の傾斜角度を図5に示す傾斜センサ43にて検出するようにしており、この傾斜センサ43はEPKBコントローラ10内に設けている。この傾斜センサ43は重力Gの懸かり具合により出力電圧が変化する、あるいは出力パルス周期が変化することを利用して傾斜角度を検出している。
重力Gの変化により出力信号が変化するので、車両1が加速したり、減速したりした際のG変化も検出することになり、この特性を利用し、後述するように傾斜センサ43で車両1の減速度あるいは加速度を検出することができるようになっている。
【0043】
坂道で停車している状態から発進する場合、いわゆる坂道発進する場合には、勾配がゼロや勾配が小さい場合と比べて多くのトルクが必要となり、そのため、勾配が大きいほど、多くのトルクが必要となる。また、多くのトルクが必要となるほど、エンジンの回転数を上げる必要がある。
【0044】
そこで、図15に示すように、勾配とエンジンの回転数とを予め対応させておき、勾配が大きくなるにつれてパーキングブレーキ4を自動解除する時のエンジンの回転数を上げるようにしている。図15に示すテーブルは制御装置30の記憶部38に予め格納している。
図15において、「仰角」は上り坂を表し、「俯角」は下り坂を表している。また、勾配は0%(斜度0°)から30%(斜度16.7°)以上までの5%刻みの8段階に分けている。
【0045】
傾斜センサ43の仰角における出力AOUTは、A0V(ボルト)からA6Vであり、また、俯角における出力AOUTは、−A6VからA0Vである。上り坂においてATポジションがRポジションの場合にはエンジンの回転数は、En0rpmで一定であり、Dポジションの場合にそれぞれパーキングブレーキ4の自動解除のしきい値となるエンジン回転数を勾配が大きくなるほど高くしている(En0rpmからEn7rpm)。
また、下り坂において、ATポジションがDポジションのエンジンの回転数は、En0rpmで一定であり、Rポジションの場合にそれぞれパーキングブレーキ4の自動解除のしきい値となるエンジン回転数を勾配が大きくなるほど高くしている(En0rpmからEn7rpm)。
【0046】
図16は図5に示す制御装置30のアクセル解除制御部37により制御されるタイミングチャートを示し、図17及び図18はアクセル解除制御のフローチャートを示している。図16において、(b)に示すアクセル開度のオン、オフの信号はスロットル開度センサ22からEPKBコントローラ10に入力され、また(c)に示すエンジン回転数は、エンジン回転数センサ27からEPKBコントローラ10に入力される。また、(d)に示すATポジションのRポジション、Dポジションの信号はATポジションセンサ26からEPKBコントローラ10に入力され、(e)に示すアクチュエータ5のコントロールケーブル8のストローク量はアクチュエータ5のストロークセンサ19からEPKBコントローラ10に入力される。
【0047】
先ず、図17に示すステップS31において、イグニッションスイッチ21がオンしている場合には(図16(a)参照)ステップS32に進み、ステップS32においてスロットル開度センサ22がオンしている場合には(図16(b)参照)、ステップS33に進む。
ステップS33において、ATポジションセンサ26からの信号がRポジションかDポジションかを判定し(図16(d)参照)、ステップS34においてRポジションまたはDポジションに応じて路面の勾配に応じたエンジンの回転数データを記憶部38から取り込む。今、例えば、車両1の進行方向がDポジションであって、勾配が25%とする。なお、傾斜センサ43からの路面の勾配データは車両1が停車した後に、サンプリングを行なって該勾配データが記憶部38に一旦記憶される。
【0048】
ステップS34において、図5に示す制御装置30のアクセル解除制御部37が記憶部38から現在の勾配データを読み取り、この勾配データからアクセル解除制御部37は図15のテーブルからパーキングブレーキ4を自動解除するときのエンジン回転数をEn7rpmと設定する。
ドライバーがアクセルペダルを踏み込んでいくにしたがい、図16(c)に示すように、エンジンの回転数が徐々に上昇していき、エンジンの回転数が路面の勾配に応じたトルク(ここでは、上記のEn7rpm)まで上がるまで判断する。つまり、坂道発進に必要なトルクまで上がったかを監視、判断する。
【0049】
次に、エンジンの回転数が坂道発進に必要なトルク(回転数がEn7rpm)まで上がった場合には、図18のステップS36及び図16(f)に示すように、電動モータ16を逆転駆動(解除動作)し、アクチュエータ5のコントロールケーブル8を戻し作動する。
コントロールケーブル8の戻し作動に伴い、図16(e)に示すようにコントロールケーブル8のストローク量は作動完了位置から解除完了位置へと少なくなり、ストローク量がゼロとなる解除完了位置となった場合には、ステップS38に移行して電動モータ16が停止され、パーキングブレーキランプ45が消灯する(図16(f)(g)参照)。
【0050】
なお、上り坂、下り坂における各勾配の違いによるPポジションまたはDポジションにおけるアクセル解除制御は上記と同様の制御でパーキングブレーキ4が自動解除される。
【0051】
このように、ATポジションによって進行方向を判定し、スロットル開度センサ22にてアクセルペダルの踏み込みを判定して、パーキングブレーキ4を引いた状態でエンジン回転数が坂道発進に必要なトルクまで上がったときに、パーキングブレーキ4を自動解除するので、車両1がずり下がることなく、スムーズな発進を実現することができるものである。
【0052】
次に、車両1の走行中に車輪に制動をかけるダイナミックパーキング制御について説明する。本ダイナミックパーキング制御は、車速がV1(km/h)以上の時にパーキングブレーキ4を引き作動するものであり、この制御では、車輪(後輪2、3)の減速度を監視して高μ路、低μ路それぞれに適したブレーキ性能を提供するものである。また、高μ路から低μ路へ移動した場合や、低μ路から高μ路へ移動した場合にでもそれぞれ適したブレーキ性能を提供するものである。
なお、以下に説明する制御は、図5に示す制御装置30の車速判定部32、ロック判定部33、減速度判定部34、ダイナミックパーキング制御部35などにて主に行なわれる。
【0053】
ここで、詳細は後述するが、高μ路でのダイナミックパーキング制御においては、車輪の減速度が高くなると、後輪がロックするため、後輪がロックしないように一定の減速度を確保して制動をかけるようにしている。これにより、後輪をロックさせずに素早く停止することができる。また、低μ路と比べて停止させる場合のフィーリングも良い。
低μ路でのダイナミックパーキング制御においては、減速度が低くても後輪がロックし易いため、ロック回避を優先した制御を行なうものであり、高μ路に比べて減速度が低いため停止までの時間は長いものの、後輪をロックさせずに停止させることができる。
【0054】
本ダイナミックパーキング制御における基本的な制御は以下の通りである。
・車両が高μ路または低μ路のどちらを走行しているかを判定してそれぞれの制御を行なう。
・高μ路では後輪がロックする前に減速度が高くなりやすいため、減速度を確保する制御を優先する。
・低μ路では減速度が低く後輪がロックし易いため、ロックを回避する制御を優先する。
【0055】
図19はこれの制御内容のフローチャートを示し、ステップS41において走行中にドライバーが操作スイッチ11の作動SWを操作してアクチュエータ5のコントロールケーブル8の引き作動を行ない、ステップS42で車両の速度を判定する。この車速は、図5に示す車速センサ24からの信号にて制御装置30の車速判定部32にて判定が行なわれる。
車速が予め設定されている速度、V1(km/h)以上の場合(ここで、該速度は、例えば8km/hである。しかし、数値は任意に設定可能である。)では速度が「高」としてステップS43に移行し、車速がV1(km/h)以下の場合では速度が「低」としてステップS45に移行する。ステップS45では上述したオート作動にてスタティックパーキング制御として停止制御が行なわれる。
【0056】
車速がV1(km/h)以上の場合では、ステップS43において車速と後輪車輪速とを比較して後輪のロック判定が行なわれ、ロックの危険性があると判定されるとステップS46に移行してロックの回避を優先とした低μ路制御が行なわれる。この低μ路制御については後述するが、低μ路制御後はステップS42に戻る。
また、ステップS43においてロックが回避されると判定された場合にはステップS44に移行して車両の減速度が判定される。減速度が低いと判定されるとステップS42に戻り、減速度が高いと判定された場合には、減速度の確保を優先した高μ路制御が行なわれる。この高μ路制御について後述するが、高μ路制御後はステップS42に戻る。
【0057】
次に、ステップS43の後輪のロック判定について説明する。この後輪ロック判定は、前輪車輪速と後輪車輪速の差があるしきい値(閾値)を超えた場合に「ロック危険」と判定するものであり、図5に示す車輪速センサ23と車速センサ24からの信号を受けた制御装置30のロック判定部33にてロックの危険性が判定される。
図20はロックの判定方法と低μ路制御のダイナミックパーキング制御方法を示したものであり、車速がV1(km/h)以上の時にドライバーが操作スイッチ11の作動SWを操作してパーキングブレーキ4の引き作動(引き操作)を開始してから停止するまでの過程を示している。
【0058】
図20において、推定車体速とは、右、左前輪車輪速の平均値であり、左右の車輪速が違う場合が想定されることから、平均値を採っている。また、後車輪速は、後右、左車輪速のセレクトローとし、左右の後輪のうち減速度が大きい方のセレクトローのデータを用いている。
ロック回避閾値は、後車輪速が上記推定車体速の例えば98%になった時の値であり、ロック危険閾値は、後車輪速が上記推定車体速の例えば96%になった時の値としている。また、通常作動移行閾値は、ダイナミックパーキング作動から通常作動(スタティックパーキング作動)へ移行する車速閾値であり、この通常作動移行閾値は上記のV1(km/h)である。なお、車速や後輪の車輪速は、例えば、10msec毎にサンプリングを行なってデータを得ている。
【0059】
低μ路制御は、図20に示すように、後輪2、3のロックの危険性が大となった時にコントロールケーブル8の引き作動を解除し、この解除により後輪2、3が加速されるので、引き作動を行ない、これを繰り返すものである。
【0060】
次に、ステップS46におけるロックの回避を優先した制御を行なう低μ路制御について図20及び図21により説明する。この低μ路制御は、ドライバーが操作スイッチ11の作動SWを所定の時間操作することで制御が開始されるるものであり、車速がV1(km/h)以下になってスタティックパーキング制御に移行した後は、操作スイッチ11をオン操作しても、あるいはオフ操作しても引き作動が継続して停車するオート作動が行なわれる。
【0061】
図21(b)において、時刻t1でドライバーが操作スイッチ11の作動SWを所定の時間オン操作することで、オンが確定して低μ路制御におけるダイナミックパーキング制御が受け付けられる。そして、アクチュエータ5の電動モータ16は、停止状態から起動して引き作動(ダイナミックパーキング制御)が行なわれ(図21(e)参照)、同時にモータ電流が増加していく((d)参照)。また、(f)に示すようにパーキングブレーキランプ45が点滅する。
そして、ドライバーの意思で一旦ダイナミックパーキング制御を停止しようとして、図21(b)に示すように、時刻t2でドライバーが操作スイッチ11の作動SWをオフ操作して所定の時間が経過した後にオフが確定すると、電動モータ16は逆転してコントロールケーブル8の解除(戻し作動)が行なわれる(図21(e)参照)。なお、パーキングブレーキランプ45は点滅している(図21(f)参照)。
【0062】
次に、ドライバーがダイナミックパーキング制御を再度行なおうとして、時刻t3で操作スイッチ11の作動SWを操作して所定の時間が経過した後にオンが確定してダイナミックパーキング制御の受け付けが行なわれる。
図21に示す時刻t4でダイナミックパーキング制御が開始され、このダイナミックパーキング制御が行なわれてコントロールケーブル8が引き作動され、コントロールケーブル8により後輪に制動がかかることで後輪の減速度が大きくなる。減速度が大きくなると、図21(e)に示すように後輪のロック近傍に近づくためロックの危険性が大となり、これをロック判定部33で検出して、コントロールケーブル8の戻し作動の解除制御を行なう(図21のA部分参照)。
【0063】
この状態では、後輪のロックの危険性が無くなるため、再度電動モータ16を駆動してコントロールケーブル8の引き作動の制御を行なう(図21のB部分)。この引き作動を行なうと後輪の減速度が大きくなり、ロックの危険性が大となるので、コントロールケーブル8を戻す解除制御を行なう(図21のC部分参照)。
【0064】
このようにして、コントロールケーブル8の戻し作動である解除と、引き作動を繰り返していくと、車体速度と後輪車輪速が徐々に低下していき、通常作動移行閾値であるV1(km/h)以下になると、上述した通常のスタティックパーキング制御が行なわれて、車体が停止する。
なお、引き作動、戻し作動などのダイナミックパーキング制御と電動モータ16の制御(正転と逆転)を行なってコントロールケーブル8の引き作動力を調節する低μ路制御が行なわれている期間は、図21(g)に示すようにパーキングブレーキランプ45は点滅している。
【0065】
また、図21(b)に示すように、車速がV1(km/h)以下になっている場合で操作スイッチ11の作動SWをオフ操作してオフが確定しても解除動作は行なわれず、電動モータ16はコントロールケーブル8が所定の目標荷重になるまで引き作動が行なれる。
コントロールケーブル8の引き作動が完了して電動モータ16がオフされると同時にパーキングブレーキランプ45が点滅から点灯に移行する(図21(e)(f)参照)。
【0066】
このようにして、後輪のロックの危険性があるときは、ロックの回避を優先した低μ路制御を行なうことで、後輪をロックさせずに車両を停止させることができる。
特に、低μ路制御では、前記電動モータ16をコントロールケーブル8の戻し作動である解除と、コントロールケーブル8の引き作動の順序で繰り返して制御を行なっているので、後輪をロックさせずにスムーズに停止させることができる。なお、これらの低μ路制御は、車速がV1(km/h)以下になるまで繰り返して行なわれる。
【0067】
次に、ステップS47における減速度の確保を優先した高μ路制御について説明する。図22(b)において、時刻t1でドライバーが操作スイッチ11の作動SWをオン操作して所定の時間経過後にオンが確定してダイナミックパーキング制御が受け付けられ、アクチュエータ5の電動モータ16は、停止状態から起動して引き作動が行なわれる(図22A部分参照)。また、(f)に示すようにパーキングブレーキランプ45が点滅する。
【0068】
このコントロールケーブル8の引き作動にて後輪の減速度が時刻t2で判定閾値より高くなると(図22(c)参照)、電動モータ16を停止させる(図22のB部分参照)。電動モータ16を停止させてコントロールケーブル8の引き作動を停止させると減速度が下がっていくため、減速度の判定閾値を超える時刻t3で再び電動モータ16を駆動して引き作動を行なう(図22(c)参照)。
また、この引き作動を行なっていると、減速度が上がっていくため、減速度が判定閾値より上がる時刻t4で電動モータ16を停止させる(図22D部分参照)。
【0069】
減速度の判定閾値より減速度が上がるか、下がるかでコントロールケーブル8の引き作動と停止を繰り返して、車速がV1(km/h)以下になるとオート作動にて車両が停止する。電動モータ16が停止すると図22(f)に示すように、パーキングブレーキランプ45が点滅から点灯へと移行する。
このように、高μ路制御では、予め設定した減速度の閾値より減速度が低い場合には前記電動モータ16を駆動し、減速度が閾値より高い場合には前記電動モータ16を停止させるようにしているので、減速度を優先した高μ路に適したブレーキ性能を提供することができる。なお、図22(b)に示すように、このオート作動に入る車速がV1(km/h)以下において、操作スイッチ11をオフ操作してオフが確定してもオート作動が継続して行なわれる。
【0070】
このように本実施形態では、ロック判定部33により後輪のロックの危険性があると判定された場合には低μ路を走行しているとしてロックの回避を優先して制御する低μ路制御を行ない、ロック判定部33により後輪のロックが回避されると判定された場合には高μ路を走行しているとして車両の減速度の確保を優先して制御する高μ路制御を行なうようにしていることで、低μ路、高μ路それぞれに適したブレーキ性能を提供することができる。
また、低μ路では、減速度が低くても後輪がロックし易いため、ロック回避を優先した制御を行なっているので、後輪をロックさせずに停止することができる。さらに、高μ路では、減速度が高くなると後輪がロックするため減速度を優先する制御をしているので、後輪をロックさせずにすばやく停止させることができる。また、高μ路から低μ路へ移動した場合、低μ路から高μ路へ移動した場合にでもそれぞれ適したブレーキ性能を提供することができる。
【0071】
次に、図23により車輪速情報が受け取れない場合でも減速度を確保しつつ、ある程度のロック回避が行なえるブレーキ性能を提供する場合について説明する。ダイナミックパーキング制御を行なっているときに、ステップS51で車輪速情報の受信の判定を行ない、車輪速情報の受信ができている場合には、ステップS43以降に移行する。なお、車輪速情報が受信できている場合は、図19の場合と同様なので、同じステップ番号を付している。
【0072】
イグニッションスイッチ21がオフされた場合、あるいは車内LANが失陥した場合は、車輪速情報あるいは、車速情報が読めなくなる。そのため、前後の車輪速差や車輪速から減速度合いでロック回避を行なう動的パーキング(ダイナミックパーキング)の制御方法では、高い確率でロック回避などの機能を喪失してしまうことになる。
そこで、車速、車輪速情報がなくても、EPKBコントローラ10に搭載された傾斜センサ43により減速度をモニタリングし、一定以上の減速度が確保できれば引き作動を停止し、且つコントロールケーブル8の引き速度を正常時より減じることで、手操作での作動/解除もコントロールし易くするようにしている。
【0073】
すなわち、ステップS51で車速、車輪速情報などが受け取れない場合にはステップS52に進み、傾斜センサ43により減速度を判定し、減速度が低い場合にはステップS51に戻る。減速度が高い場合には、ステップS53に移行してフェールセーフ制御が行なわれる。
すなわち、ステップS53においては、電動モータ16に印加する電圧(パルス出力)のデューティ比を変えることで(デューティ比を小さくすることで)、コントロールケーブル8の引き速度を正常より減じるようにしている。これにより引き速度が遅くなることで、ドライバーの操作スイッチ11での手操作による調整がし易くなる。つまり、作動/解除という少し引いて戻すという操作がし易くなる。このようにして、減速度を確保しつつ、ある程度のロック回避を実現することができる。
【0074】
なお、これらの車速、車輪速情報がない場合の上述の制御は、EPKBコントローラ10の制御装置30にて行なわれる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態における電動パーキングブレーキ装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における操作スイッチの構成図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるアクチュエータの一例を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるストローク量、モータ電流と斜度や荷重との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるマニュアル作動開始におけるフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態におけるマニュアル作動開始のタイミングチャートである。
【図8】本発明の実施の形態におけるオート作動開始におけるフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態におけるオート作動開始におけるタイミングチャートである。
【図10】本発明の実施の形態におけるイグニッションがオンの場合のマニュアル/オート作動の正常停止を示すタイミングチャートである。
【図11】本発明の実施の形態におけるイグニッションがオフの場合のマニュアル/オート作動の正常停止を示すタイミングチャートである。
【図12】本発明の実施の形態におけるイグニッションがオンからオフの場合のマニュアル/オート作動の正常停止を示すタイミングチャートである。
【図13】本発明の実施の形態におけるマニュアル解除開始におけるフローチャートである。
【図14】本発明の実施の形態におけるマニュアル解除開始におけるタイミングチャートである。
【図15】本発明の実施の形態におけるアクセル解除制御を行なう場合の解除開始のしきい値を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態におけるアクセル解除制御のタイミングチャートである。
【図17】本発明の実施の形態におけるアクセル解除制御を行なう場合のフローチャートである。
【図18】本発明の実施の形態におけるアクセル解除制御を行なう場合のフローチャートである。
【図19】本発明の実施の形態における低μ路制御と高μ路制御を行なう場合のフローチャートである。
【図20】本発明の実施の形態におけるロックの判定方法を示す説明図である。
【図21】本発明の実施の形態における低μ路制御のタイミングチャートである。
【図22】本発明の実施の形態における高μ路制御のタイミングチャートである。
【図23】本発明の実施の形態における車輪速情報が受信できない場合のフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1 車両
2、3 後輪
4 パーキングブレーキ
5 アクチュエータ
8 コントロールケーブル
10 電動パーキングブレーキコントローラ
11 操作スイッチ
16 電動モータ
30 制御装置
33 ロック判定部(ロック判定手段)
43 傾斜センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行中に電動モータ(16)によりコントロールケーブル(8)を引き作動してパーキングブレーキ(4)を作動させる電動パーキングブレーキ装置において、
車両が所定の車速以上で走行中に該車両が路面摩擦計数が小さい低μ路または路面摩擦計数が大きい高μ路のいずれを走行しているかを後輪のロック判定により判定するロック判定手段(33)と、
前記ロック判定手段(33)により後輪のロックの危険性があると判定された場合には低μ路を走行しているとしてロックの回避を優先して制御する低μ路制御手段と、
前記ロック判定手段(33)により後輪のロックが回避されると判定された場合には高μ路を走行しているとして車両の減速度の確保を優先して制御する高μ路制御手段とを備えていることを特徴とする電動パーキングブレーキ用制御装置。
【請求項2】
前記低μ路制御手段における低μ路制御では、前記電動モータ(16)をコントロールケーブル(8)の引き作動、該作動の停止、コントロールケーブル(8)の戻し作動である解除、該解除の停止、引き作動の順序で制御を行なっていることを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置。
【請求項3】
前記高μ路制御手段における高μ路制御では、予め設定した減速度の閾値より減速度が低い場合には前記電動モータ(16)を駆動し、減速度が閾値より高い場合には前記電動モータ(16)を停止させるようにしていることを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置。
【請求項4】
車両の走行中に電動モータ(16)によりコントロールケーブル(8)を引き作動してパーキングブレーキ(4)を作動させる電動パーキングブレーキ装置において、
車両の停車時の傾斜角度や車両の減速度が検出可能な傾斜センサ(43)を有し、
車速、車輪速情報がない場合には、前記傾斜センサ(43)にて減速度を監視し、一定以上の減速度が確保できた場合に引き作動を停止し、且つ前記コントロールケーブル(8)の引き速度を正常より減じる制御手段を備えていることを特徴とする電動パーキングブレーキ用制御装置。
【請求項1】
車両の走行中に電動モータ(16)によりコントロールケーブル(8)を引き作動してパーキングブレーキ(4)を作動させる電動パーキングブレーキ装置において、
車両が所定の車速以上で走行中に該車両が路面摩擦計数が小さい低μ路または路面摩擦計数が大きい高μ路のいずれを走行しているかを後輪のロック判定により判定するロック判定手段(33)と、
前記ロック判定手段(33)により後輪のロックの危険性があると判定された場合には低μ路を走行しているとしてロックの回避を優先して制御する低μ路制御手段と、
前記ロック判定手段(33)により後輪のロックが回避されると判定された場合には高μ路を走行しているとして車両の減速度の確保を優先して制御する高μ路制御手段とを備えていることを特徴とする電動パーキングブレーキ用制御装置。
【請求項2】
前記低μ路制御手段における低μ路制御では、前記電動モータ(16)をコントロールケーブル(8)の引き作動、該作動の停止、コントロールケーブル(8)の戻し作動である解除、該解除の停止、引き作動の順序で制御を行なっていることを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置。
【請求項3】
前記高μ路制御手段における高μ路制御では、予め設定した減速度の閾値より減速度が低い場合には前記電動モータ(16)を駆動し、減速度が閾値より高い場合には前記電動モータ(16)を停止させるようにしていることを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ用制御装置。
【請求項4】
車両の走行中に電動モータ(16)によりコントロールケーブル(8)を引き作動してパーキングブレーキ(4)を作動させる電動パーキングブレーキ装置において、
車両の停車時の傾斜角度や車両の減速度が検出可能な傾斜センサ(43)を有し、
車速、車輪速情報がない場合には、前記傾斜センサ(43)にて減速度を監視し、一定以上の減速度が確保できた場合に引き作動を停止し、且つ前記コントロールケーブル(8)の引き速度を正常より減じる制御手段を備えていることを特徴とする電動パーキングブレーキ用制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2006−306299(P2006−306299A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132424(P2005−132424)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコ−ポレ−ション (362)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコ−ポレ−ション (362)
【Fターム(参考)】
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