説明

電動乗用車両

【課題】道路の状況に応じて軽快に走行できる上に、発進時に急発進することを防止して運転者の安全を確保することのできる電動乗用車両を提供する。
【解決手段】前輪2又は後輪3の何れか一方が一輪で構成されるとともに、前輪又は後輪の何れか他方が一輪以上で構成され、前輪及び後輪のそれぞれが別個独立の電動モータM1、M2で駆動するように構成された乗用電動乗用車両において、前輪及び後輪の駆動を制御する制御手段13を備え、制御手段13は、現実の走行に必要な電動モータの出力トルクが予め設定された基準トルク値以下の状態で前輪又は後輪の何れか一方の電動モータを駆動し、現実の走行に必要な電動モータの出力トルクが基準トルク値よりも大きい状態で前輪及び後輪の電動モータを駆動するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪又は後輪の何れか一方が一輪で構成されるとともに、前輪又は後輪の何れか他方が一輪以上で構成された原動機付き乗用車両に関し、より詳しくは、前輪及び後輪を駆動する原動機として電動モータが搭載された電動乗用車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、乗用車両には、種々タイプのものが提供されており、その一つとして、前輪又は後輪の何れか一方が一輪で構成されるとともに、前輪又は後輪の何れか他方が一輪以上で構成され、前輪及び後輪を電動モータで駆動する電動タイプのもの(以下、電動乗用車両という)が提供されている。
【0003】
そして、この種の電動乗用車両には、前輪及び後輪のそれぞれを別個独立した電動モータで駆動することで、加速性能や登坂性能等を確保したものがある。かかる電動乗用車両は、前輪及び後輪の両輪を駆動する状態と、後輪のみを駆動する状態とに切り換え可能なスイッチを備えており、運転者がスイッチ操作を行うことで走行状況に応じた出力で走行できるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−204008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構成の電動乗用車両は、走行中に運転者がスイッチを操作しなければ、前輪及び後輪の駆動状態(電動モータの駆動台数)が切り換わらないため、後輪のみの駆動で十分走行できる状況であっても、前輪及び後輪の両輪で駆動し続けることがある。すなわち、前輪及び後輪の両輪を駆動すると、大きな出力を得ることができ、ストレスなく軽快な走行が可能となるため、後輪のみの駆動で十分走行できる状況であっても、運転者がスイッチ操作を忘れて前輪及び後輪の両輪を駆動し続けてしまうことがある。
【0006】
そのため、上記構成の電動乗用車両は、発進時に必要以上のトルクが作用し、急発進する危険性がある。すなわち、前記電動乗用車両は、運転者がスイッチ操作を忘れて停車時に前輪及び後輪の両輪が駆動する状態になっていると、発進時に前輪及び後輪の両輪が駆動して発進に必要なトルク以上のトルクが作用し、急発進する危険性がある。
【0007】
そこで、本発明は、斯かる実情に鑑み、道路の状況に応じて軽快に走行できる上に、発進時に急発進することを防止して運転者の安全を確保することのできる電動乗用車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電動乗用車両は、前輪又は後輪の何れか一方が一輪で構成されるとともに、前輪又は後輪の何れか他方が一輪以上で構成され、前輪及び後輪のそれぞれが別個独立の電動モータで駆動するように構成された乗用電動乗用車両において、前輪及び後輪の駆動を制御する制御手段を備え、該制御手段は、現実の走行に必要な電動モータの出力トルクが予め設定された基準トルク値以下の状態で前輪又は後輪の何れか一方の電動モータを駆動し、現実の走行に必要な電動モータの出力トルクが前記基準トルク値よりも大きい状態で前輪及び後輪の電動モータを駆動するように構成されていることを特徴とする。なお、ここで「現実の走行に必要な電動モータの出力トルク」とは、所望する速度で走行するのに必要な電動モータの出力トルクであって、路面の傾斜等の走行条件に応じた電動モータの出力トルクを意味する。
【0009】
上記構成の電動乗用車両によれば、前輪及び後輪の駆動を制御する制御手段を備え、該制御手段は、現実の走行に必要な電動モータの出力トルクが予め設定された基準トルク値以下の状態で前輪又は後輪の何れか一方の電動モータを駆動し、現実の走行に必要な電動モータの出力トルクが前記基準トルク値よりも大きい状態で前輪及び後輪の電動モータを駆動するように構成されているため、基準トルク値以下のトルクで発進できる場合(例えば、路面が平坦である場合や積載重量が少ない場合)には、前輪又は後輪の何れか一方の電動モータが駆動し、基準トルク値よりも大きなトルクを発生させなければ発進できない場合(例えば、路面が坂道である場合や積載重量が多い場合)には、前輪及び後輪の両輪の電動モータが駆動する。
【0010】
このように、上記構成の電動乗用車両は、制御手段が走行状況(負荷)に応じて自動的に電動モータの駆動台数を切り換える(前輪又は後輪の一輪駆動と前輪及び後輪の両輪駆動とに切り換える)ようになっているため、発進時に大きなトルクを必要としない場合に、前輪及び後輪の電動モータが駆動することがなく、急発進することを防止することができる。
【0011】
そして、前記制御手段は、走行時の電動モータの出力トルク(現実の走行に必要なトルク)が基準トルク値以下であると、前輪又は後輪の何れか一方の電動モータのみを駆動し、加速や道路の上り勾配等が起因して走行時の電動モータの出力トルク(現実の走行に必要なトルク)が基準トルク値よりも大きくなると、前輪及び後輪の両電動モータを駆動し、減速や道路の下り勾配等が起因して前輪及び後輪の電動モータの合計出力トルク(走行に必要なトルク)が基準トルク値以下になると、再び前輪又は後輪の何れか一方の電動モータのみを駆動するため、何れの走行状態においてもトルク不足にならず快適に走行し続けることができる。
【0012】
また、上記構成の電動乗用車両は、走行中に急激なアクセルワークを行っても電動モータの出力トルクが基準トルク値以下であると、他方の電動モータが駆動することがないため、走行中に急加速することを抑制でき、安心して走行し続けることができる。また、このように走行時の加速度が常に抑えられることで、運転(特に、低速走行時の運転)を容易に行うことができる。
【0013】
従って、上記構成の乗用車両は、前輪又は後輪の何れか一方が一輪で構成されているため、四輪車に比して走行時にバランスを崩しやすいタイプのものであるが、加速度が抑えられることで走行時にバランスを崩すことが少なくなり、安全走行が可能である。
【0014】
本発明の一態様として、前記制御手段は、電動モータに供給される電力と対応関係にある現実の電流値で走行中の電動モータの出力トルクを把握するように構成されてもよい。なお、「電動モータに供給される電力と対応関係にある現実の電流値」とは、電動モータの負荷に応じて変動する電流値を意味し、電動モータに供給される電力そのものの電流値は勿論のこと、単一の電源から電動モータの他にも電力を供給するときの全体の電流値を含む概念である。このようにすれば、前輪又は後輪の何れか一方を駆動する状態と前輪及び後輪の両輪を駆動する状態との切り換え(電動モータの駆動台数の変更)を容易且つ適正に行うことができる。すなわち、電動モータに供給される電力の電流値は、電動モータの負荷に対応しているため、電動モータに供給される電力の電流値から現実の走行に必要なトルク(走行中の電動モータにおける現実の出力トルク)を適正に把握でき、電動モータの駆動台数の変更を適確に行うことができる。
【0015】
この場合、前記制御手段は、電動モータに供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値を超えて所定時間経過した時、又は、電動モータに供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値よりも大きな第二の設定電流値を超えた時に、前輪及び後輪の両輪を駆動する一方、電動モータに供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値以下になって所定時間経過した時に、前輪又は後輪の何れか一方を駆動するように構成されていることが好ましい。ここで「第一の設定電流値」は、電動モータを熱破損させることなく連続使用すること(平坦な道路上で走行可能な出力トルクを発揮すること)のできる電流値、より好ましくは、電流を流し続けても電動モータが熱破損することのない電動モータ固有の連続定格電流値(自然冷却による放熱量とモータ内部の発熱量とがつり合う電流値)に設定される。すなわち、「第一の設定電流値」は、電動モータに必要トルクを発生させることの電流値であって、バッテリーに蓄えられた電力を使い切るまで連続的に通電しても電動モータが熱破損しない最大電流値(電動モータの保護回路が設けられている場合には保護回路が作動することのない最大電流値)、好ましくは、電動モータを連続駆動しても熱破損させることのない連続定格電流値に設定される。そして、「所定時間」は、電動モータの過熱を適度に抑えることのできる時間であって、第二の設定電流値を基準にして前輪及び後輪の両輪を駆動するように切り換える時間よりも長い時間、より好ましくは、温度上昇の影響を後に残すことのないようにできるだけ長い時間に設定される。そして、「第二の設定電流値」は、第一の設定電流値よりも大きな電流値であって、登坂時に停止してしまうことのないように走行性能上必要なトルクを確保できる電流値に設定される。
【0016】
このようにすれば、電動乗用車両の走行状態に応じてトルクの切り換え制御を行うことができる上に、電動モータの過熱制御を行うことができる。すなわち、電流値によってモータの駆動台数の切り換え制御を行うと、結果としてトルクによる切り替え制御を行うことができ、さらに、モータの過熱制御を適正に行うことができるという利点がある。車両の加速度を抑制して運転しやすくするためには、できるだけ駆動するモータ数を少なくするのが良いが、駆動モータ数が少ないとモータに加わる負荷が大きくなって電流が大きくなり、モータの温度上昇が大きくなる。そこで、モータの電流値を見ながら制御することで、モータの過熱を防ぎやすくなる。
【0017】
なお、モータの過熱を防ぐという観点から、前輪又は後輪の一方を駆動する場合には、前輪を駆動するようにすることが好ましい。これは、登坂時には後輪の負荷が大きくなり、前後輪駆動状態になった場合でも、前輪より後輪により大きな電流が流れやすいためであり、後輪の温度上昇が大きくなりやすいためである。
【0018】
本発明の他態様として、前記制御手段は、電動モータの駆動台数の変更するときに、前輪又は後輪の何れか一方の電動モータの出力トルクと前輪及び後輪の両輪の電動モータの出力トルクの合計とが同じ又は略同じになるように電動モータを駆動するように構成されてもよい。このようにすれば、電動モータの駆動台数を変更する(切り換える)際に、その電動モータの駆動台数の変更に伴うトルク変動を抑えることができ、スムーズな走行が可能となる。
【0019】
この場合、電動モータの出力を変更するためのアクセル装置を備え、該アクセル装置は、アクセル開度に対応し、且つ電動モータの出力トルク又は回転数に関連づけられた指令電圧を制御手段に対して印加するように構成され、前記制御手段は、電動モータの駆動台数を増加させる時及び電動モータの駆動台数が増加した後に、アクセル装置からの指令電圧よりも低く設定され、且つ、電動モータの出力トルク又は回転数に関連づけられてアクセル装置からの指令電圧と対応して変動する仮想指令電圧に基づいて前輪及び後輪の両輪の電動モータを駆動するように構成され、電動モータの駆動台数を減少させる時及び電動モータの駆動台数が減少した後に、アクセル装置からの指令電圧に基づいて前輪又は後輪の何れか一方の電動モータを駆動するように構成されることが好ましい。このようにすることで、電動モータの駆動台数を変更する(切り換える)際に、その電動モータの駆動台数の変更に伴うトルク変動を抑えることができ、スムーズに走行することができる。
【0020】
具体的に説明すると、電動モータの出力トルクが基準トルク値を超えて電動モータの駆動台数が増加する時に、指令電圧に基づいて前輪及び後輪の電動モータを駆動すると、両電動モータが指令電圧と対応する出力トルクを発生するため、トルク(又は回転数)が急激に増加して一時的に加速してしまう。これに対し、電動モータの出力トルクが基準トルク値以下になって電動モータの駆動台数が減少する時に、指令電圧に基づいて前輪又は後輪の何れか一方の電動モータを駆動すると、出力トルクが瞬時に半減して急激に減速してしまう。
【0021】
しかしながら、本発明に係る電動乗用車両の制御装置は、電動モータの駆動台数を増加させる時及び電動モータの駆動台数が増加した後に、アクセル装置からの指令電圧よりも低く設定され、且つ、電動モータの出力トルク又は回転数に関連づけられてアクセル装置からの指令電圧と対応して変動する仮想指令電圧に基づいて前輪及び後輪の両輪の電動モータを駆動するように構成されるため、電動モータの駆動台数の変更前後におけるトルクの変動がなく、スムーズな走行が可能となる。また、本発明に係る電動乗用車両の制御装置は、電動モータの駆動台数を減少させる時及び電動モータの駆動台数が減少した後に、アクセル装置からの指令電圧に基づいて前輪又は後輪の何れか一方の電動モータを駆動するように構成されるため、電動モータの駆動台数の変更前後における出力トルク又は回転数の変動がなく、スムーズな走行が可能となる。
【0022】
本発明の別の態様として、前記制御手段は、電動モータに対する出力トルクが基準トルク値以下の状態で前輪の電動モータを駆動するように構成されることが好ましい。このようにすれば、前輪のみが駆動した状態で登坂走行するようになった場合に、前輪が当該電動乗用車両全体を引っ張ることになるため、円滑な登坂走行が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の電動乗用車両によれば、道路の状況に応じて軽快に走行できる上に、発進時に急発進することを防止して運転者の安全を確保することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る電動乗用車両(電動二輪車)の斜視図を示す。
【図2】同実施形態に係る電動乗用車両(電動二輪車)の側面図を示す。
【図3】同実施形態に係る電動乗用車両(電動二輪車)の正面図を示す。
【図4】同実施形態に係る電動乗用車両(電動二輪車)の制御系の概略ブロック図を示す。
【図5】同実施形態に係る電動乗用車両(電動二輪車)の駆動制御を説明するためのグラフであって、(a)は、電動モータの現実の電流値と現実の出力トルクとの相関を表すグラフを示し、(b)は、発進乃至加速時における指令電圧と電動モータの出力トルクとの相関を表すグラフを示し、(c)は、減速乃至加速時における指令電圧と電動モータの出力トルクとの相関を表すグラフを示す。
【図6】同実施形態に係る電動乗用車両(電動二輪車)の駆動制御と比較される別の駆動制御(加速及び減速時に前輪及び後輪の出力トルクを一定量で増加又は減少させる駆動制御)を説明するためのグラフであって、(a)は、発進乃至加速時における指令電圧と電動モータの出力トルクとの相関を表すグラフを示し、(b)は、減速乃至加速時における指令電圧と電動モータの出力トルクとの相関を表すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係る電動乗用車両について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0026】
本実施形態に係る電動乗用車両1は、図1及び図2に示す如く、前輪2及び後輪3のそれぞれが一輪で構成され、前輪2及び後輪3のそれぞれが別個独立の電動モータM1,M2で駆動するように構成されている。
【0027】
より具体的に説明すると、本実施形態に係る電動乗用車両(以下、電動二輪車という)1は、運転者が着座するシート部40の取り付けられた車体フレーム4と、該車体フレーム4の前部に対して縦方向に延びる軸線回りに回転自在に取り付けられたフロントフォーク5と、該フロントフォーク5の上端側に連結されたハンドルバー6と、前記フロントフォーク5の下端部に対して前記縦方向と直交する方向(以下、横方向)に延びる軸線回りで回転可能に取り付けられた前輪2と、前記車体フレーム4の後部に対して横方向に延びる軸線を支点にして上下方向に揺動可能に取り付けられたスイングアーム7と、車体フレーム4及びスイングアーム7に懸架されたリアサスペンション8と、前記スイングアーム7に対して横方向に延びる軸線回りで回転可能に取り付けられた後輪3とを備えている。
【0028】
また、本実施形態に係る電動二輪車1は、後輪3の上方にバッテリーを収容するバッテリーボックス9が配置されるとともに、フロントフォーク5(前輪2)の上方に前輪2及び後輪3に対する駆動を制御する制御手段(制御基板)13を収容した制御ボックス10が配置されている。なお、バッテリーボックス9は、車体フレーム4に支持され、制御ボックス10は、フロントフォーク5に支持されている。
【0029】
本実施形態において、前記前輪2及び後輪3のそれぞれは、バッテリーからの電力供給を受けて駆動する前記電動モータであるインホイールモータM1,M2を備えている。すなわち、前輪2及び後輪3は、自身を回転させるためのインホイールモータM1,M2が回転中心に組み込まれている。該インホイールモータM1,M2は、バッテリー(直流電源)からの電力供給で制御駆動できれば、直流モータ又は交流モータの何れであってもよく、バッテリーでの駆動を考慮すれば、モータ効率が高く小型で耐久性のあるDCブラシレスモータを採用することが好ましい。
【0030】
また、電動二輪車1は、前輪2及び後輪3のそれぞれにブレーキ手段(例えば、ドラムブレーキ)が組み込まれており、ハンドルバー6に取り付けられたブレーキレバー(図示しない)を引き操作することで制動できるようになっている。また、該電動二輪車1は、パーキングブレーキレバー(図示しない)を備えており、該パーキングブレーキレバーに対する操作を行うことで前輪2又は後輪3(本実施形態においては後輪3)のブレーキ手段が機能し、駐車時に前輪2又は後輪3(本実施形態においては後輪3)の回転を規制できるようになっている。
【0031】
そして、本実施形態に係る電動二輪車1は、上記構成に加え、図1乃至図3に示す如く、後輪3の両側に補助輪70,70を備えている。該補助輪70,70は、図1及び図2に示す如く、スイングアーム7に対して取り付けられた補助アーム71に対して横方向に延びる軸回りで回転自在に取り付けられている。該補助アーム71は、スイングアーム7の回転軸と略平行な回転軸を中心にして回転可能に構成されている。そして、該電動二輪車1は、補助アーム71とスイングアーム7との間に補助サスペンション72が介装され、一対の補助輪70,70のそれぞれが補助サスペンション72の付勢力で下方に押し下げられて路面に接触し、また、路面の起伏に応じて上下動するようになっている。
【0032】
これにより、本実施形態に係る電動二輪車1は、旋回等を円滑に行えるようにした上で転倒防止が図られ、特に、低速で走行するのに適している。なお、本実施形態に係る電動二輪車1は、一対の補助輪70,70が後輪3の両側に配置されることで、後輪3が三つあるように見えるが、ここで言う後輪3は駆動を受ける車輪のことを意味しており、回転自在な補助輪70,70は後輪3には含まれない。
【0033】
そして、本実施形態に係る電動二輪車1は、電動モータM1,M2の出力を変更するためのアクセル装置11を備えている。本実施形態において、アクセル装置11は、一般的な二輪車1(自動二輪車や原動機付き自転車)と同様に、ハンドルバー6に取り付けられている。
【0034】
前記アクセル装置11は、アクセル開度に対応して電動モータM1,M2の出力トルク又は回転数(本実施形態においては出力トルク)に関連づけられた指令電圧を制御手段13に対して印加するように構成されている。すなわち、アクセル装置11は、ハンドルバー6に外嵌されて該ハンドルバー6回りで回転自在なスロットル12と、該スロットル12の回転量に応じて電圧を変化させるボリューム装置(図示しない)とを備え、該ボリューム装置で変化させた電圧を指令電圧として制御手段13に印加するようになっている。
【0035】
前記アクセル装置11(ボリューム装置)は、図4に示す如く、制御手段13に対して電気的に接続されており、制御手段13から供給される電力の電圧をスロットル12の回転量(アクセル開度)に応じて変化させて制御手段13に戻す(印加)するようになっている。
【0036】
そして、本実施形態に係る制御手段13は、アクセル装置11から印加される指令電圧量に応じた電力を電動モータ(インホイールモータ)M1,M2に供給するようになっている。すなわち、制御手段13は、バッテリーB、アクセル装置11(ボリューム装置)、及び前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2のそれぞれに電気的に接続されており、アクセル装置11及び前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2のそれぞれに対してバッテリーBからの電力を適正な状態で供給するようになっている。
【0037】
そして、本実施形態に係る電動二輪車1は、インホイールモータM1,M2の負荷状況を把握するための電流計14を備えている。該電流計14は、バッテリーBと制御手段13とを接続する配線上に設けられており、インホイールモータM1,M1に供給される総電力の電流値を検知するようになっている。
【0038】
そして、本実施形態に係る電動二輪車1は、走行状況に応じて、前輪2又は後輪3の何れか一方(本実施形態においては前輪2)のインホイールモータM1を駆動する状態と、前輪2及び後輪3の各インホイールモータM1,M2を駆動する状態とに自動的に切り替わるようになっている。
【0039】
すなわち、本実施形態に係る制御手段13は、現実の走行に必要なインホイールモータM1,M2の出力トルクが予め設定された基準トルク値以下の状態で前輪2のインホイールモータM1を駆動し、現実の走行に必要なインホイールモータM1,M2の出力トルクが前記基準トルク値よりも大きい状態で前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2を駆動するように構成されている。
【0040】
本実施形態に係る制御手段13は、インホイールモータM1,M2に供給される電力と対応関係にある現実の電流値で走行中のインホイールモータM1,M2の出力トルクを把握するように構成されている。ここで「インホイールモータM1,M2に供給される電力と対応関係にある現実の電流値」とは、インホイールモータM1,M2の負荷に応じて変動する電流値を意味し、インホイールモータM1,M2に供給される電力そのものの電流値は勿論のこと、単一の電源(バッテリーB)からインホイールモータM1,M2の他にも電力を供給するときの全体の電流値を含む概念である。
【0041】
本実施形態においては、アクセル装置11(ボリューム装置)、及び前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2のそれぞれに電力を供給する制御手段13とバッテリーBとを接続する配線上に設けられた電流計14でインホイールモータM1,M2に供給される電力と対応関係にある現実の電流値を測定してインホイールモータM1,M2の出力トルクを把握している。かかる電流計14で測定される電流値は、アクセル装置11(ボリューム装置)に供給される電力成分が含まれることになるが、その電力成分にかかる電流は非常に小さく、電流値の変動の多くがインホイールモータM1,M2の負荷によるものであるため、アクセル装置11等に供給する電力成分が含まれていても適切に出力トルクを把握することができる。
【0042】
そして、本実施形態に係る制御手段13は、図5(a)に示す如く、インホイールモータM1,M2の駆動台数を変更するための第一の設定電流値A1、第二の設定電流値A2が設定されている。第一の設定電流値A1は、インホイールモータM1を熱破損させることなく連続使用すること(平坦な道路上で走行可能な出力トルクT1を発揮すること)のできる電流値、より好ましくは、電流を流し続けてもモータが熱破損することのないインホイールモータM1固有の連続定格電流値(自然冷却による放熱量とモータ内部の発熱量とがつり合う電流値)に設定される。すなわち、第一の設定電流値A1は、インホイールモータM1に必要トルクを発生させることのできる電流値であって、バッテリーに蓄えられた電力を使い切るまで連続的に通電してもインホイールモータM1が熱破損しない最大電流値(インホイールモータM1の保護回路が設けられている場合には保護回路が作動することのない最大電流値)、好ましくは、インホイールモータM1を連続駆動しても熱破損させることのない連続定格電流値に設定される。そして、第二の設定電流値A2は、第一の設定電流値A1よりも大きな電流値であって、登坂時に停止してしまうことのないように走行性能上必要な出力トルクT2を確保できる値(電流値)に設定される。本実施形態において、第二の設定電流値A2は、前記基準トルク値Tbと対応している。すなわち、本実施形態に係る制御手段13は、インホイールモータM1,M2の出力トルクが基準トルク値Tbとなる電流値が第二の設定電流値A2として設定されている。
【0043】
具体的には、本実施形態において、第一の設定電流値A1は、10Aに設定され、第二の設定電流値A2は、15Aに設定されている。ここで、10Aは、電動モータ(インホイールモータ)M1,M2の連続定格電流値であり、15Aは、60kgの大人が乗車して3°の坂を登坂する際に必要となるモータトルクを出力している際に流れる電流値である。
【0044】
そして、前記制御手段13は、インホイールモータM1に供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値A1を超えて所定時間経過した時、又は、インホイールモータM1に供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値Aよりも大きな第二の設定電流値A2を超えた時に、前輪2及び後輪3の両輪を駆動する一方、インホイールモータM1,M2に供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値A1以下になって所定時間経過した時に、前輪2又は後輪3の何れか一方(本実施形態においては前輪2)を駆動するように構成されている。ここで前輪2及び後輪3の両輪を駆動するタイミングとなる「所定時間」は、インホイールモータM1の過熱を適度に抑えることのできる時間であって、第二の設定電流値A2を基準にして前輪2及び後輪3の両輪を駆動するように切り換える時間よりも長い時間、より好ましくは、温度上昇の影響を後に残すことのないようにできるだけ長い時間に設定される。
【0045】
具体的には、本実施形態に係る電動二輪車1(制御手段13)は、一輪駆動時に第一の設定電流値A1以上の電流が10秒以上継続すると二輪駆動に、第二の設定電流値A2以上の電流が0.5秒以上継続すると二輪駆動に、二輪駆動時に第一の設定電流値A1未満の電流が10秒以上継続すると一輪駆動に切り替えるようになっている。
【0046】
そして、前記制御手段13は、インホイールモータM1,M2の駆動台数を変更するときに、前輪2又は後輪3の何れか一方のインホイールモータM1,M2の出力トルクと前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2の出力トルクの合計とが同じ又は略同じになるようにインホイールモータM1,M2を駆動するように構成されている。
【0047】
具体的には、前記制御手段13は、図5(b)に示す如く、インホイールモータM1,M2の駆動台数を増加させる時及びインホイールモータM1,M2の駆動台数が増加した後に、アクセル装置11からの指令電圧V1,V2よりも低く設定され、且つ、インホイールモータM1,M2の出力トルク又は回転数(本実施形態においては出力トルク)に関連づけられてアクセル装置11からの指令電圧V1,V2と対応して変動する仮想指令電圧V1’,V2’に基づいて前輪2及び後輪3の両輪のインホイールモータM1,M2を駆動するように構成されている。
【0048】
すなわち、該制御手段13は、インホイールモータM1,M2の駆動台数を増加させる時及びインホイールモータM1,M2の駆動台数が増加した後に、アクセル装置11から印加される現実の指令電圧V1,V2をそれよりも低い電圧値に仮想的に変換し、その変換された仮想指令電圧V1’,V2’を現実の指令電圧(アクセル装置11から印加された指令電圧)として取り扱い、該仮想指令電圧V1’,V2’(現実の指令電圧V1,V2として取り扱われる仮想指令電圧V1’,V2’)を基にインホイールモータM1,M2を駆動するようになっている。
【0049】
本実施形態においては、上述の如く、インホイールモータM1の電流値が第一の設定電流値A1を超えて所定時間経過した時、又は第二の設定電流値A2を超えた時に、インホイールモータM1,M2の駆動台数を増加させるようにしているため、第一の設定電流値A1を超えることでインホイールモータM1,M2の駆動台数を増加させる時に、第一の設定電流値A1と対応する出力トルクT1と関連づけられた指令電圧V1の半分の電圧が仮想指令電圧V1’とされ、第二の設定電流値A2を超えることでインホイールモータM1,M2の駆動台数を増加させる時に、第二の設定電流値A2と対応する出力トルクT2(基準トルク値Tb)と関連づけられた指令電圧V2の半分の電圧が仮想指令電圧V2’とされるようになっている。これにより、本実施形態に係る電動二輪車1は、前輪2及び後輪3の両輪を駆動した状態で、前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2のそれぞれの出力トルクが等しくなるようにもなっている。
【0050】
そして、前記制御手段13は、実際のアクセル装置11のアクセルの開度に対応して変動する実際の指令電圧と連動する仮想指令電圧V1’,V2’を前輪2及び後輪3のそれぞれのインホイールモータM1,M2に対する現実の指令電圧とし、該指令電圧に対応する電力を前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2に供給するようになっている。
【0051】
また、該制御手段13は、図5(c)に示す如く、インホイールモータM1,M2の駆動台数を減少させる時及びインホイールモータM1,M2の駆動台数が減少した後に、アクセル装置11からの指令電圧V3に基づいて前輪2のインホイールモータM1を駆動するように構成されている。すなわち、インホイールモータM1,M2の駆動台数を減少させる時、インホイールモータM1,M2に電力を供給する基準が仮想指令電圧V3’から現実の指令電圧V3に戻り、インホイールモータM1の駆動台数が減少した後に、アクセル装置11から印加される現実の指令電圧V3と対応する電力が前輪2のインホイールモータM1に供給されるようになっている。
【0052】
これにより、本実施形態に係る電動二輪車1は、インホイールモータM1,M2の駆動台数を変更する(切り換える)際に、そのインホイールモータM1,M2の駆動台数の変更に伴うインホイールモータM1,M2の出力トルクの変動を抑えることができるようになっている。
【0053】
具体的には、図6(a)に示す如く、インホイールモータM1,M2の出力トルクが基準トルク値Tbを超えてインホイールモータM1,M2の駆動台数が増加する時に、指令電圧Vに基づいて前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2を駆動すると、両インホイールモータM1,M2が指令電圧Vに応じた出力トルクで駆動することになり、急激なトルクの増加に伴って走行時に一時的に加速してしまう。また、図6(b)に示す如く、インホイールモータM1,M2の出力トルクが基準トルク値Tb以下になってインホイールモータM1,M2の駆動台数が減少する時に、指令電圧Vに基づいて前輪2のインホイールモータM1を駆動すると、インホイールモータM1が指令電圧Vに応じた出力トルクで駆動することになり、急激な出力トルクの減少に伴って走行時に急激に減速してしまう。
【0054】
しかしながら、本実施形態においては、図5(b)に示す如く、インホイールモータM1,M2の駆動台数を増加させる時及びインホイールモータM1,M2の駆動台数が増加した後に、アクセル装置11からの指令電圧V1,V2よりも低く設定され、且つ、インホイールモータM1,M2の出力トルク又は回転数に関連づけられてアクセル装置11からの指令電圧V1,V2と対応して変動する仮想指令電圧V1’,V2’に基づいて前輪2及び後輪3の両輪のインホイールモータM1,M2を駆動するように構成されるため、インホイールモータM1,M2の駆動台数の変更前後におけるトルクの変動がなく、スムーズな走行が可能となる。
【0055】
また、本実施形態においては、図5(c)に示す如く、インホイールモータM1,M2の駆動台数を減少させる時及びインホイールモータM1,M2の駆動台数が減少した後に、アクセル装置11からの指令電圧V3に基づいて前輪2のインホイールモータM1を駆動するように構成されるため、インホイールモータM1,M2の駆動台数の変更前後における出力トルク又は回転数の変動がなく、スムーズな走行が可能となる。
【0056】
なお、この指令電圧V1,V2,V3によるインホイールモータM1,M2の駆動制御は、本実施形態以外にも、別の基準でインホイールモータM1,M2の駆動台数を切り換える場合にも適用できる。
【0057】
本実施形態に係る電動二輪車1は、以上の通りであり、次に、該電動二輪車1(制御手段13)の駆動制御について説明する。
【0058】
本実施形態に係る電動二輪車1は、基準トルク値Tb以下のトルクで発進できる場合(例えば、路面が平坦である場合や積載重量が少ない場合)、前輪2のインホイールモータM1が駆動し、基準トルク値Tbよりも大きなトルクを発生させなければ発進できない場合(例えば、路面が坂道である場合や積載重量が多い場合)、前輪2及び後輪3の両輪のインホイールモータM1,M2が駆動する。
【0059】
これにより、本実施形態に係る電動二輪車1は、トルクを必要としない場合に、前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2が駆動することがないため、急発進してしまうことが防止される。
【0060】
そして、発進後に加速するために運転者がアクセル装置11のスロットル12を回転させてアクセルを開くと、アクセル装置11から制御手段13に印加される指令電圧が高くなり、該指令電圧に対応する電力が制御手段13からインホイールモータM1に供給され、該インホイールモータMの出力トルクが増大する。そして、加速時又は加速後の等速走行時におけるインホイールモータM1の出力トルク(走行に必要なトルク)が基準トルク値Tb以下であると、前輪2(インホイールモータM1)のみが駆動し続けることになる。そして、前輪2のインホイールモータM1の出力トルクが基準トルク値Tb以下の走行状態からさらに加速したり、道路の勾配の変化が大きくなったりすると、運転者が所望する走行状態にする(加速又は定速運転する)ためにアクセル装置11を操作することになる。
【0061】
そうすると、アクセル装置11から制御手段13に印加される指令電圧がさらに高くなり、該指令電圧に対応する電力が制御手段13からインホイールモータM1に供給され、該インホイールモータM1の出力トルク(走行に必要なトルク)がさらに大きくなる。そして、制御手段13は、インホイールモータM1の出力トルク(走行に必要なトルクであって当該電動二輪車1全体のトルク)が基準トルク値Tbを超えると、前輪2及び後輪3の各インホイールモータM1,M2を駆動する。
【0062】
また、インホイールモータM1の出力トルクが基準トルク値Tbを超えなくても、連続定格電流を一定時間越えてインホイールモータ(電動モータ)M1が駆動されると、該モータM1の過熱を防ぐために前後輪の二輪駆動に切り替わる。さらに、インホイールモータM1の出力トルクが基準トルク値Tbを下回っても、連続定格電流未満を一定時間以上継続しなければ、過熱を防ぐために二輪駆動が継続される。
【0063】
本実施形態において、前記制御手段13は、アクセル装置11からの指令電圧によって前輪2及び後輪3の駆動を制御し、インホイールモータM1,M2に供給される電力と対向関係にある電流値で走行時のトルクを把握するようにしているため、指令電圧に対応して電力が供給され、その供給される電力の電流値が第一の設定電流値A1の状態で所定時間経過すると前輪2及び後輪3の各インホイールモータM1,M2が駆動し、該電流値が第一の設定電流値A1の状態で所定時間経過しなければ前輪2のインホイールモータM1のみが駆動する。また、指令電圧に対応して供給される電力の電流値が第二の設定電流値A2になると、前輪2及び後輪3の各インホイールモータM1,M2が駆動する。これにより、本実施形態に係る電動二輪車1は、インホイールモータM1,M2の出力トルクが基準トルク値Tbを超えた状態で前輪2及び後輪3が駆動することになり、高速走行時や登坂走行時にトルク不足にならずに快適に走行し続けることができる。
【0064】
そして、本実施形態に係る制御手段13は、上述の如く、インホイールモータM1,M2の駆動台数の変更するときに、図5(b)に示す如く、前輪2のインホイールモータM1の出力トルクと前輪2及び後輪3の両輪のインホイールモータM1,M2の出力トルクの合計とが同じ又は略同じになるようにインホイールモータM1,M2を駆動する。本実施形態に係る電動二輪車1は、インホイールモータM1,M2の駆動台数を増加させる時及びインホイールモータM1,M2の駆動台数が増加した後に、アクセル装置11からの指令電圧V1,V2よりも低く設定され、且つ、インホイールモータM1,M2の出力トルクに関連づけられてアクセル装置11からの指令電圧V1,V2と対応して変動する仮想指令電圧V1’,V2’に基づいて前輪2及び後輪3の両輪のインホイールモータM1,M2を駆動するように構成されるため、インホイールモータM1,M2の駆動台数の変更前後におけるトルクの変動がなく、スムーズな走行が可能となる。また、このように前輪2のみの駆動から前輪2及び後輪3の両輪を駆動する状態に切り換えることで、前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2のぞれぞれの出力トルクは前輪2のみを駆動していたときの出力トルクの半分になり、各インホイールモータM1,M2に供給される電力の電流値も半分にまで下がることになる。
【0065】
これに対し、電動二輪車1は、前輪2及び後輪3の各インホイールモータM1,M2が駆動する状態で減速したり、坂道を下ったりしたときに、インホイールモータM1,M2の出力トルク(前輪のインホイールモータM1の出力トルクと後輪のインホイールモータM2の出力トルクとの合計)が小さくなり、図5(c)に示す如く、インホイールモータM1,M2の出力トルク(走行に必要なトルクであって当該電動二輪車1全体のトルク)が基準トルク値Tb以下になると、再び前輪2のインホイールモータM1の駆動のみで走行する。すなわち、前輪2及び後輪3の各インホイールモータM1,M2が駆動する状態で減速したり、坂道を下ったりする場合、運転者はアクセル装置11のアクセル開度を小さくすることになり、アクセル装置11から制御手段13に印加される指令電圧も小さくなる。
【0066】
これにより、制御手段13から前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2に供給される電力も少なくなり、結果的に各インホイールモータM1,M2に供給される電力の電流値が小さくなる。そして、その電流値が第一の設定電流値A1の状態で所定時間経過すると、前輪2のインホイールモータM1のみが駆動する。すなわち、電流値が第一の設定電流値A1の状態で所定時間経過することで、以後の走行でも負荷が低い状態が続くとして前輪2のみが駆動することになる。
【0067】
そして、本実施形態に係る制御手段13は、上述の如く、インホイールモータM1,M2の駆動台数が減少するときにおいても、前輪2のインホイールモータM1の出力トルクと前輪2及び後輪3の両輪のインホイールモータM1,M2の出力トルクの合計とが同じ又は略同じになるようにインホイールモータM1,M2を駆動する。
【0068】
具体的には、本実施形態に係る電動二輪車1は、インホイールモータM1,M2の駆動台数を減少させる時及び電動モータの駆動台数が減少した後に、アクセル装置11からの指令電圧V3に基づいて前輪2のインホイールモータM1,M2を駆動する。これにより、該電動二輪車1は、前輪2及び後輪3の両輪を駆動した状態から前輪2のみを駆動する状態に切り換えるときにおいても、インホイールモータM1,M2の駆動台数の変更前後における出力トルクの変動がなく、スムーズな走行が可能となる。
【0069】
以上のように、本実施形態に係る電動二輪車1は、走行状態に応じて自動的に前輪2のみの駆動と前輪2及び後輪3の両輪の駆動とに切り替わるため、発進時に大きなトルクを必要としない場合に、前輪2及び後輪3のインホイールモータ(電動モータ)M1,M2が駆動することがなく、急発進することを防止して運転者の安全を確保することができるという優れた効果を奏し得る。
【0070】
そして、本実施形態に係る電動二輪車1の制御手段13は、走行時のインホイールモータM1,M2の出力トルク(現実の走行に必要なトルク)が基準トルク値以下であると、前輪2のインホイールモータM1のみを駆動し、加速や道路の上り勾配等が起因して走行時のインホイールモータM1の出力トルク(現実の走行に必要なトルク)が基準トルク値よりも大きくなると、前輪2及び後輪3の両インホイールモータM1,M2を駆動し、減速や道路の下り勾配等が起因して前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2の合計出力トルク(走行に必要なトルク)が基準トルク値以下になると、再び前輪2のインホイールモータM1のみを駆動するため、何れの走行状態においてもトルク不足にならず快適に走行し続けることができる。
【0071】
また、本実施形態に係る電動二輪車1は、走行中に急激なアクセルワークを行っても前輪2のインホイールモータM1の出力トルクが基準トルク値以下であると、後輪3のインホイールモータM2が駆動することがないため、走行中に急加速することを抑制でき、安心して走行し続けることができる。また、このように走行時の加速度が常に抑えられることで、運転(特に、低速走行時の運転)を容易に行うことができる。
【0072】
従って、本実施形態に係る電動二輪車1は、前輪2及び後輪3が一輪で構成されているため、四輪車に比して走行時にバランスを崩しやすいタイプのものであるが、加速度が抑えられることで走行時にバランスを崩すことが少なくなり、安全走行が可能である。
【0073】
また、前記制御手段13は、インホイールモータM1,M2の駆動台数の変更するときに、前輪2のインホイールモータM1の出力トルクと前輪2及び後輪3の両輪のインホイールモータM1,M2の出力トルクの合計とが同じ又は略同じになるようにインホイールモータM1,M2を駆動するように構成されているため、インホイールモータM1,M2の駆動台数を変更する(切り換える)際のトルク変動を抑えることができ、スムーズに走行することができる。
【0074】
また、本実施形態において、前記制御手段13は、インホイールモータM1,M2に供給される電力と対応関係にある電流値で走行中のインホイールモータM1,M2の出力トルクを把握するように構成されているので、前輪2又は後輪3の何れか一方を駆動する状態と前輪2及び後輪3の両輪を駆動する状態との切り換え(インホイールモータM1,M2の駆動台数の変更)を容易且つ適正に行うことができる。すなわち、インホイールモータM1,M2に供給される電力の電流値は、インホイールモータM1,M2の負荷に対応しているため、インホイールモータM1,M2に供給される電力の電流値から現実の走行に必要なトルク(走行中のインホイールモータM1,M2における現実の出力トルク)を適正に把握でき、インホイールモータM1,M2の駆動台数の変更を適確に行うことができる。
【0075】
特に、前記制御手段13は、インホイールモータM1に供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値A1を超えて所定時間経過した時、又は、インホイールモータM1に供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値A1よりも大きな第二の設定電流値A2を超えた時に、前輪2及び後輪3の両輪を駆動する一方、インホイールモータM1,M2に供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値A1以下になって所定時間経過した時に、前輪2又は後輪3の何れか一方(前輪2)を駆動するように構成されているため、電動乗用車両1の走行状態に応じてトルクの切り換え制御を行うことができる上に、インホイールモータM1,M2の過熱制御を行うことができる。
【0076】
また、前記制御手段13は、インホイールモータM1,M2の駆動台数の変更するときに、前輪2のインホイールモータM1の出力トルクと前輪2及び後輪3の両輪のインホイールモータM1,M2の出力トルクの合計とが同じ又は略同じになるようにインホイールモータM1,M2を駆動するように構成されているため、インホイールモータM1,M2の駆動台数を変更する(切り換える)際に、そのインホイールモータM1,M2の駆動台数の変更に伴うトルク変動を抑えることができ、スムーズな走行が可能である。
【0077】
さらに、本実施形態に係る電動二輪車1は、インホイールモータM1,M2の出力を変更するためのアクセル装置11を備え、該アクセル装置11は、アクセル開度に対応し、且つインホイールモータM1,M2の出力トルク又は回転数に関連づけられた指令電圧V1,V2,V3を制御手段13に対して印加するように構成され、前記制御手段13は、インホイールモータM1,M2の駆動台数を増加させる時及びインホイールモータM1,M2の駆動台数が増加した後に、アクセル装置11からの指令電圧V1,V2よりも低く設定され、且つ、インホイールモータM1,M2の出力トルク又は回転数に関連づけられてアクセル装置11からの指令電圧V1,V2と対応して変動する仮想指令電圧V1’,V2’に基づいて前輪2及び後輪3の両輪のインホイールモータM1,M2を駆動するように構成され、インホイールモータM1,M2の駆動台数を減少させる時及びインホイールモータM1,M2の駆動台数が減少した後に、アクセル装置11からの指令電圧V3に基づいて前輪2又は後輪3の何れか一方のインホイールモータM1,M2を駆動するように構成されているため、インホイールモータM1,M2の駆動台数を変更する(切り換える)際に、そのインホイールモータM1,M2の駆動台数の変更に伴うトルク変動を抑えることができ、スムーズに走行することができる。
【0078】
また、本実施形態に係る電動二輪車1は、前輪2のみが駆動した状態で登坂走行するようになった場合に、前輪2が当該電動二輪車1全体を引っ張ることになるため、円滑に登坂走行することができる。
【0079】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加え得ることは言うまでもない。
【0080】
また、上記実施形態において、前輪2及び後輪3のそれぞれを一輪で構成したが、これに限定されるものではなく、前輪2及び後輪3の何れか一方が一輪で構成されるとともに、前輪2及び後輪3の何れか他方が二輪以上で構成されたもの(いわゆる、トライクや三輪バギー等)であってもよい。
【0081】
上記実施形態において、前輪2又は後輪3の何れか一方を駆動する場合に、前輪2を駆動するようにしたが、これに限定されるものではなく、後輪3を駆動するようにしてもよい。
【0082】
上記実施形態において、前輪2及び後輪3を駆動する電動モータM1,M2にインホイールモータM1,M2を採用したが、これに限定されるものではなく、例えば、前輪2や後輪3から独立した電動モータM1,M2を設け、該電動モータM1,M2の出力をチェーンや歯車等の伝達手段を介して前輪2や後輪3に伝達するようにしてもよい。
【0083】
そして、上述の如く、前輪2又は後輪3の何れか一方が二輪以上で構成される場合、その二輪のそれぞれに電動モータを設けてもよいし、ディファレンシャルギア等を介して一台の電動モータの出力を二輪のそれぞれに伝達するようにしてもよい。そして、上述の如く、前輪2又は後輪3の何れか一方を構成する車輪(二輪以上の車輪)のそれぞれに電動モータを設ける場合、前輪2又は後輪3の何れか他方を構成する一輪の電動モータの出力トルクとのバランスをとるために、前輪2又は後輪3の何れか一方を構成する車輪のそれぞれの電動モータの出力トルクが、前輪2又は後輪3の何れか他方を構成する一輪の電動モータの出力トルクを他方の車輪の数で割った値になるようにすることは言うまでもない。すなわち、前輪2又は後輪3の何れか一方が二輪以上で構成され、その車輪のそれぞれに電動モータを設ける場合には、それらの電動モータを前輪2又は後輪3の何れか一方における一つの出力として取り扱うことは言うまでもない。
【0084】
上記実施形態において、電動モータM1,M2の駆動台数を変更するときに、その前後の電動モータM1,M2の出力トルクが同じ又は略同じになるようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、電動モータM1,M2の駆動台数を変更するときに、その前後で多少のトルク変動を生じさせるようにしてもよい。但し、よりスムーズな走行を実現するには、上記実施形態と同様に電動モータM1,M2の駆動台数の変更の前後で出力トルクが同じ又は略同じになるようにすることが好ましいことは言うまでもない。
【0085】
上記実施形態において、第一の設定電流値A1及び第二の設定電流値A2を設定し、これらに応じたタイミングで電動モータM1,M2の駆動台数を変更するようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、基準トルク値Tbと対応した電流値のみを基準にして電動モータM1,M2の駆動台数を変更するようにしてもよい。
【0086】
また、上述の如く、電流値を基に電動モータM1,M2の駆動台数を変更する場合、その基準となる電流値は、上述の如く、基準トルク値Tbに対応する電流値の一点を設定してもよいし、基準トルク値Tbに対応する電流値を一点として含めた上で二点以上設定してもよいし、基準トルク値Tbに対応する電流値を挟んだ上下二点を設定してもよい。但し、電動モータM1,M2の駆動台数を変更するタイミングの基準となる電流値を二点以上設ける場合には、その設定された電流値に応じて電動モータM1,M2の駆動台数の変更のタイミングを設定することが好ましいことは言うまでもない。
【0087】
上記実施形態において、アクセル装置11からの指令電圧及びそれに対応する仮想指令電圧を基に電動モータM1,M2の駆動台数の変更の前後で出力トルクが同じになるようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば、電動モータM1,M2の電流値を基に電動モータM1,M2の駆動台数の変更の前後で出力トルクが同じになるようしてもよい。この場合、電動モータM1,M2の駆動台数を増加させるときに、前輪2及び後輪3の両輪の電動モータM1,M2のそれぞれの電流値が前輪2又は後輪3の何れか一方の電動モータM1,M2の電流値(現実の測定値)の半分になるように前輪2及び後輪3の両輪の電動モータM1,M2を駆動するようにし、電動モータM1,M2の駆動台数を減少させるときに、前輪2又は後輪3の何れか一方の電動モータM1,M2の電流値が前輪2及び後輪3の両輪の電動モータM1,M2の一方の電流値(現実の測定値)の二倍になるように前輪2又は後輪3の何れか一方の電動モータM1,M2を駆動するようにしてもよい。このようにしても、電動モータM1,M2の駆動台数の変更の前後で出力トルクが同じ又は略同じにすることができ、スムーズな走行を実現できる。すなわち、電動モータM1,M2の電流値が該電動モータM1,M2の出力トルクと相関関係にあることから、電動モータM1,M2の電流値を基にしても電動モータM1,M2の駆動台数の変更前後で出力トルクを同じ又は略同じにすることができ、スムーズな走行が可能である。
【0088】
上記実施形態において、前輪2及び後輪3の電動モータM1,M2に電力供給するためのバッテリーBを制御手段13に電気的に接続し、アクセル装置11にも信号発生用(指令電圧発生用)の電力を供給するようにしたが、これに限定されるものではなく、アクセル装置11に指令電圧を発生させるための電力や制御手段13を動作させるための電力を他のバッテリーから供給してもよいことは言うまでもない。
【0089】
上記実施形態において、アクセル装置11(ボリューム装置)、及び前輪2及び後輪3のインホイールモータM1,M2のそれぞれに電力を供給する制御手段13とバッテリーBとを接続する配線上に設けられた電流計14でインホイールモータM1,M2に供給される電力と対応関係にある現実の電流値を測定してインホイールモータM1,M2の出力トルクを把握するようにしたが、これに限定されるものではなく、制御装置13とインホイールモータM1,M2とを接続する配電の電流値を測定し、該電流値を基にインホイールモータM1,M2の出力トルクを把握するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1…電動二輪車(電動乗用車両)、2…前輪、3…後輪、4…車体フレーム、5…フロントフォーク、6…ハンドルバー、7…スイングアーム、8…リアサスペンション、9…バッテリーボックス、10…制御ボックス、11…アクセル装置、12…スロットル、13…制御手段、14…電流計、40…シート部、70…補助輪、71…補助アーム、72…補助サスペンション、V1,V2,V3…指令電圧、V1’,V2’,V3’…仮想指令電圧、M1,M2…インホイールモータ(電動モータ)、Tb…基準トルク値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪又は後輪の何れか一方が一輪で構成されるとともに、前輪又は後輪の何れか他方が一輪以上で構成され、前輪及び後輪のそれぞれが別個独立の電動モータで駆動するように構成された乗用電動乗用車両において、前輪及び後輪の駆動を制御する制御手段を備え、該制御手段は、現実の走行に必要な電動モータの出力トルクが予め設定された基準トルク値以下の状態で前輪又は後輪の何れか一方の電動モータを駆動し、現実の走行に必要な電動モータの出力トルクが前記基準トルク値よりも大きい状態で前輪及び後輪の電動モータを駆動するように構成されていることを特徴とする電動乗用車両。
【請求項2】
前記制御手段は、電動モータに供給される電力と対応関係にある現実の電流値で走行中の電動モータの出力トルクを把握するように構成されている請求項1に記載の電動乗用車両。
【請求項3】
前記制御手段は、電動モータに供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値を超えて所定時間経過した時、又は、電動モータに供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値よりも大きな第二の設定電流値を超えた時に、前輪及び後輪の両輪を駆動する一方、電動モータに供給される電力と対応関係にある現実の電流値が第一の設定電流値以下になって所定時間経過した時に、前輪又は後輪の何れか一方を駆動するように構成されている請求項2に記載の電動乗用車両。
【請求項4】
前記制御手段は、電動モータの駆動台数の変更するときに、前輪又は後輪の何れか一方の電動モータの出力トルクと前輪及び後輪の両輪の電動モータの出力トルクの合計とが同じ又は略同じになるように電動モータを駆動するように構成されている請求項1乃至3の何れか1項に記載の電動乗用車両。
【請求項5】
電動モータの出力を変更するためのアクセル装置を備え、該アクセル装置は、アクセル開度に対応し、且つ電動モータの出力トルク又は回転数に関連づけられた指令電圧を制御手段に対して印加するように構成され、前記制御手段は、電動モータの駆動台数を増加させる時及び電動モータの駆動台数が増加した後に、アクセル装置からの指令電圧よりも低く設定され、且つ、電動モータの出力トルク又は回転数に関連づけられてアクセル装置からの指令電圧と対応して変動する仮想指令電圧に基づいて前輪及び後輪の両輪の電動モータを駆動するように構成され、電動モータの駆動台数を減少させる時及び電動モータの駆動台数が減少した後に、アクセル装置からの指令電圧に基づいて前輪又は後輪の何れか一方の電動モータを駆動するように構成されている請求項4に記載の電動乗用車両。
【請求項6】
前記制御手段は、電動モータに対する出力トルクが基準トルク値以下の状態で前輪の電動モータを駆動するように構成されている請求項1乃至5の何れか1項に規制の電動乗用車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−75259(P2012−75259A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218802(P2010−218802)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】