説明

電動機の制御装置

【課題】簡単な調整によって負荷機械に応じた適切な制御パラメータを得ることができ、多種多様な負荷機械を高精度かつ安定に運転可能とした電動機の制御装置を提供する。
【解決手段】電動機16により駆動される負荷機械20の位置が位置指令に一致するように電動機16を制御する制御装置であって、位置制御部12、速度制御部13及び電流制御部16を有する制御装置において、実現したい応答の速さを示す応答性設定信号と負荷機械種別判別信号とに基づいて、位置制御部12、速度制御部13及び電流制御部16にて使用する制御パラメータを自動的に演算する制御パラメータ設定手段23を備え、この制御パラメータ設定手段23における制御パラメータの演算アルゴリズムを、前記負荷機械種別判別信号に応じて変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばロボット、工作機械等に使用される電動機の制御装置に関し、特に位置制御、速度制御等を行うための制御パラメータのチューニング方法を改良した電動機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーボシステムは、電動機を駆動することにより、負荷となる機械の位置制御を高速かつ高精度に行うことが可能な制御装置である。高速かつ高精度の位置制御性能を実現するためには、複数の制御パラメータを適切な値に調整することが必要であるが、調整が必要な制御パラメータの数が多い場合、目標性能を実現し、かつ安定動作を可能にするためのパラメータ調整方法は非常に複雑なものとなる。
【0003】
特許文献1には、上記の問題を解決し、制御パラメータの調整を容易に行うための技術が開示されている。
図3は、この特許文献1に開示された従来技術の構成を示すブロック図である。図3において、指令発生部11は、電動機16の負荷であるメカ部18への位置指令を作成する。位置制御部12では、上記の位置指令と検出器17により得た位置検出値とを比較し、両者が一致するような電動機16の速度指令を出力する。
【0004】
速度制御部13では、上記速度指令と速度信号作成部19により作成した電動機16の速度検出値とが一致するようなトルク指令を出力する。このトルク指令はトルクフィルタ部14によってフィルタ処理され、指令通りのトルクを得るための電流指令へと変換される。電流制御部15では、上記電流指令と電動機16の電流検出値とが一致するような電圧指令を演算し、この電圧指令通りの電圧を電動機16に印加する。
このように制御系を構成することにより、メカ部18の位置を指令発生部11からの位置指令通りに制御することが可能となる。
【0005】
ここで、上記従来技術の特徴は、各部の制御パラメータの決定方法である。
まず、ユーザは運転前に制御パラメータ選定信号を設定する。この制御パラメータ選定信号には、目標応答周波数、負荷イナーシャ、負荷の共振周波数等の情報が含まれる。
【0006】
ワンパラメータチューニング部10では、制御パラメータ選定信号に基づき、所定の演算アルゴリズムを用いて各部で用いる制御パラメータを自動的に演算し、これらの制御パラメータを各部に与える。ワンパラメータチューニング部10に搭載されている演算アルゴリズムは、数式による安定条件解析、及び実機での動作確認結果を考慮して決定されたものである。
【0007】
以上のように、特許文献1に係る従来技術では、目標応答周波数及び負荷に関する簡単な情報を設定するだけで、目標性能を実現し、かつ安定動作を可能とする制御系各部の制御パラメータが自動的に設定されるため、制御パラメータの調整の簡略化が一応可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−27772号公報(段落[0005]〜[0011]、図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら特許文献1に係る従来技術では、基本的には、設定された目標応答周波数から、所定の演算アルゴリズムを用いて各部の制御パラメータを求めており、負荷のイナーシャや共振周波数等の情報が設定された場合は、その設定情報に応じて制御パラメータを修正している。
すなわち、この従来技術では、負荷となる機械(以下、単に負荷機械という)の種類は考慮しておらず、負荷機械の種別が異なっても同一の演算アルゴリズムによって各部の制御パラメータを決定していることになる。
【0010】
しかし、負荷機械としては、ボールねじやベルト負荷など、様々な種類のものが想定される。このため、負荷機械によっては、固有の振動現象が発生する等の問題が考えられると共に、負荷機械の用途によっては、応答周波数以外に固有の要求仕様が課せられる場合もある。
【0011】
特許文献1に係る従来技術では、負荷機械の種類を特に考慮せずに、すべての負荷機械に共通した演算アルゴリズムによって制御パラメータを決定しているので、負荷機械の種類によっては制御パラメータが適切でない場合も生じ、十分な制御性能が得られないケースも発生すると考えられる。
【0012】
そこで、本発明の解決課題は、簡単な調整によって負荷機械の種別に応じた適切な制御パラメータを得ることができ、多種多様な負荷機械を高精度かつ安定に運転可能とした電動機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電動機により駆動される負荷機械の位置が位置指令に一致するように前記電動機を制御する制御装置であって、前記電動機の位置制御部、速度制御部及び電流制御部を有する制御装置において、
実現したい応答の速さを示す応答性設定信号と負荷機械種別判別信号とに基づいて、前記位置制御部、速度制御部及び電流制御部にて使用する制御パラメータを自動的に演算する制御パラメータ設定手段を備え、この制御パラメータ設定手段における前記制御パラメータの演算アルゴリズムを、前記負荷機械種別判別信号に応じて変更するものである。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した電動機の制御装置において、
前記位置指令に対してフィルタ処理を行うことにより前記負荷機械を始動・停止させる際の振動を抑制するためのフィルタ手段を備え、
前記負荷機械種別判別信号に応じて、前記制御パラメータ設定手段により前記フィルタ手段の動作の有効・無効を切り替えるものである。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載した電動機の制御装置において、
前記位置指令から速度フィードフォワード指令を演算する第1のフィードフォワード指令演算手段と、前記電動機の速度指令から電流フィードフォワード指令を演算する第2のフィードフォワード指令演算手段と、を備え、
前記負荷機械種別判別信号に応じて、前記制御パラメータ設定手段により前記第1,第2のフィードフォワード指令演算手段の動作の有効・無効を切り替えるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、負荷機械の種別に応じた演算アルゴリズムによって制御パラメータを設定することにより、常に適切な制御パラメータを用いて電動機を制御することができる。
この結果、電動機にどのような種類の負荷機械を駆動する場合でも、複雑なパラメータ調整を必要とせずに、高精度の制御性能を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1における制御パラメータ設定手段の構成を示すブロック図である。
【図3】特許文献1に記載された従来技術を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
この実施形態に係る制御装置の基本的な構成は図3に示した従来技術と同様であり、機能が共通する部分には図3と同一の番号を付して説明を省略し、以下では図3との相違点を中心に説明する。
【0019】
図1において、指令フィルタ部24は、指令発生部11により作成した位置指令に対してフィルタ処理を行い、負荷機械20を始動・停止させるときの振動を抑制する。位置制御フィードフォワード部25では、フィルタ処理後の位置指令から速度フィードフォワード指令を演算し、これを加算手段26において位置制御部12からの速度指令に加算する。また、速度制御フィードフォワード部27では、加算手段26の出力である速度指令から電流フィードフォワード指令を演算し、これを加算手段28において速度制御部13の出力に加算して電流制御部15に入力する。
【0020】
上述した位置制御フィードフォワード部25及び速度制御フィードフォワード部27では、検出値を用いずにフィードフォワード演算によって各指令を求めており、これによって応答性を向上させるように機能している。
なお、21は負荷機械20の位置(電動機16の出力軸等の位置)を検出する位置検出回路、22は電動機16の速度を検出する速度検出回路である。
【0021】
制御パラメータ設定手段23は、後述する応答性設定信号及び負荷機械種別判別信号の内容に応じて、指令フィルタ部24、各フィードフォワード部25,27及び各制御部12,13,15で用いる制御パラメータと、これら各部の動作の有効・無効を切り替えるための制御機能有効・無効切替信号とを出力する。
本発明の特徴的な部分は、この制御パラメータ設定手段23の内部構成である。
【0022】
図2は、制御パラメータ設定手段23の内部構成を示している。
制御パラメータ設定手段23に入力される応答性設定信号及び負荷機械種別判別信号は、ユーザにより手動で設定される信号である。
応答性設定信号は、実現したい応答の速さを示す信号である。例えば、目標とする応答周波数を直接設定する形でもよいし、単なる整数値を設定し、その数値の大きさによって段階的に応答を変化させる形にしても構わない。何れの場合においても、応答性設定信号として大きな数値を設定するほど、高い応答性が得られるような制御パラメータが設定される。
【0023】
制御パラメータ設定演算部231では、入力された応答性設定信号から制御系の各部で使用する制御パラメータを演算する。しかし、同程度の応答性を実現するにしても、各部の制御パラメータの最適値は、負荷機械20の種類によって異なる。
【0024】
そこで、制御パラメータ設定演算部231には、応答性設定信号以外に負荷機械種別判別信号も入力されており、この判別信号が示す負荷機械20の種別に応じて、制御パラメータ設定演算部231が用いる制御パラメータの演算アルゴリズムを変更可能となっている。従って、本実施形態によれば、負荷機械20の種別に応じて演算された適切な制御パラメータが常に得られるようになっている。
【0025】
一方、制御機能切替部232は、負荷機械種別判別信号に応じて制御系の各部の動作の有効・無効を切り替えるために、制御機能有効・無効切替信号を出力する。制御機能有効・無効切替信号は制御系の各部へと受け渡され、信号の内容に応じて各部の動作の有効・無効が切り替えられる。
【0026】
制御機能切替部232の動作については種々の方式が考えられるが、例えば、工作機械のように位置指令通りに機械を動作させたい負荷機械20に対しては、指令フィルタ部24の動作やフィードフォワード部25,27の動作を無効とする方式が有効である。指令フィルタ部24は遅れ要素であるため、本来の位置指令に対して偏差を生じる原因となり、フィードフォワード部25,27による各指令値は、指令急変時にオーバーシュートにより大きな偏差を発生させる要因となるため、これらの機能を無効に切り替えた方が位置指令に対する偏差が小さくなる。
【0027】
一方で、負荷機械20が物を搬送する機械である場合のように、機械の停止する位置さえ正確に制御できればよい用途では、指令フィルタ部24を有効として、機械停止時の振動を抑制する方が望ましい。
以上のように、制御機能切替部232では、負荷機械20の種類に応じて必要な制御機能を自動的に選択することにより、複雑な調整を行うことなく高精度の制御性能を実現することができる。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、負荷機械20の種類に応じて適切な制御パラメータが設定されると共に、制御系各部の動作の有効・無効を自動的に切り替えて必要な制御機能のみを用いることにより、どのような負荷機械であっても簡単な調整のみで高い制御性能を実現することができる。
【符号の説明】
【0029】
11:指令発生部
12:位置制御部
13:速度制御部
15:電流制御部
16:電動機
20:負荷機械
21:位置検出回路
22:速度検出回路
23:制御パラメータ設定手段
231:制御パラメータ設定演算部
232:制御機能切替部
24:指令フィルタ部
25:位置制御フィードフォワード部
26,28:加算手段
27:速度制御フィードフォワード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機により駆動される負荷機械の位置が位置指令に一致するように前記電動機を制御する制御装置であって、位置制御部、速度制御部及び電流制御部を有する制御装置において、
実現したい応答の速さを示す応答性設定信号と負荷機械種別判別信号とに基づいて、前記位置制御部、速度制御部及び電流制御部にて使用する制御パラメータを自動的に演算する制御パラメータ設定手段を備え、この制御パラメータ設定手段における前記制御パラメータの演算アルゴリズムを、前記負荷機械種別判別信号に応じて変更することを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した電動機の制御装置において、
前記位置指令に対してフィルタ処理を行うことにより前記負荷機械を始動・停止させる際の振動を抑制するためのフィルタ手段を備え、
前記負荷機械種別判別信号に応じて、前記制御パラメータ設定手段により前記フィルタ手段の動作の有効・無効を切り替えることを特徴とする電動機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した電動機の制御装置において、
前記位置指令から速度フィードフォワード指令を演算する第1のフィードフォワード指令演算手段と、前記電動機の速度指令から電流フィードフォワード指令を演算する第2のフィードフォワード指令演算手段と、を備え、
前記負荷機械種別判別信号に応じて、前記制御パラメータ設定手段により前記第1,第2のフィードフォワード指令演算手段の動作の有効・無効を切り替えることを特徴とする電動機の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−97758(P2011−97758A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249877(P2009−249877)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】