説明

電動機の速度制御装置及び速度制御方法

【課題】目標値応答と外乱応答を個別に最適化可能な電動機の速度制御装置を提供する。
【解決手段】速度制御手段を、速度指令と速度帰還の偏差に積分ゲインGIを乗算して積分する積分増幅器221と、速度指令を共通の入力とし、比例ゲインGF1を有する不完全微分器の出力及び比例ゲインGF2を有する1次遅れ演算器の出力を加算して出力するフィードフォワード補償器224と、積分増幅器221の出力から速度帰還を減算すると共に、フィードフォワード補償器224の出力を加算する加減算器222と、この出力にゲイン調整パラメータGを乗算してトルク指令を得る比例増幅器223とで構成する。速度指令応答時定数をτ、トルク外乱応答時定数をτ、電動機を含む負荷慣性モーメントをJとしたとき、G=1/τ、G=σ×J、GF1=1/(σ×τ)、GF2=1−τ/τを満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、改良された電動機の速度制御装置及び速度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機を速度指令に従って速度制御を行う場合、従来からPI(比例積分)制御が広く用いられてきた。しかしながら、このPI制御は1自由度のフィードバック制御であるため、目標値である速度応答と外乱である負荷応答を同時に最適化することができない。
【0003】
PI制御を2自由度制御とするためには、PI制御に補償器を付加する構成となるが、ゲインと応答の関係が複雑であり、そのため調整が極めて困難である上、経年変化に対して敏感であるため定期的に再調整が必要となる。
【0004】
これに対し、ILQ(Inverse Linear Quadratic)設計法は、現代制御理論に基づく最適レギュレータ(LQ)問題の逆問題を用いた最適サーボ設計法であり、LQ問題の解を、重みを与えずに簡単な極配置から導出できる。このILQ制御によれば、パラメータ変動に対して低感度で安定性に関してもロバストであるので、経年変化にも強く、電動機の制御に適用した場合に良好な結果が得られている(例えば非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高見、辻野、藤井「ILQ法によるPM同期電動機のロバスト電流制御実験」、パワーエレクトロニクス学会誌Vol.29No.1、2004年2月、P55−63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電動機の速度制御装置においては、熟練した調整技術者のノウハウに頼って上記最適化を実現していた。しかしながら、近年調整技術者が老齢化しているにもかかわらず、上記調整ノウハウの継承が困難であるという問題が顕在化してきている。非特許文献1に示されたILQ制御法によれば、上述したようにパラメータ変動に対して低感度で、ロバストな制御を実現可能であり、ゲイン調整も簡単で熟練した調整技術者を必要としない。しかしながら、この従来のILQ制御は基本的に1自由度制御であり、目標値(速度)応答と外乱(負荷)応答を同時に最適化することができない。本発明は上記問題に鑑みて為されたもので、目標値応答と外乱応答を個別に最適化することが可能な電動機の速度制御装置及び速度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の電動機の速度制御装置及び速度制御方法は、直流電源または交流電源を入力とし、交流電圧を出力して電動機を駆動する電力変換装置と、前記電力変換装置のインバータ部を構成するスイッチング素子をオンオフ制御する制御手段と、前記電動機の速度を速度帰還として直接または間接的に検出する速度検出手段と、前記電動機の入力電流を検出する電流検出手段とを備え、前記制御手段は、前記速度検出手段によって得られる速度帰還が、速度指令に追従するように制御してトルク指令を出力する速度制御手段と、前記電流検出手段から得られるトルク電流が、前記トルク指令に基づくトルク電流指令に追従するように制御して前記インバータ部の出力電圧指令を得るトルク制御手段と、前記出力電圧指令に従って前記スイッチング素子にゲートパルスを供給するスイッチング指令演算手段とを具備した電動機の速度制御装置において、前記速度制御手段は、前記速度指令と前記速度帰還の偏差に積分ゲインGIを乗算して積分した値と、前記速度帰還との偏差にゲインGを乗算して前記トルク指令を得るようにすると共に、前記速度指令を共通の入力とし、比例ゲインGF1を乗算して不完全微分した値と、比例ゲインGF2を乗算して1次遅れ演算した値を加算し、これをフィードフォワード補償量として前記積分ゲインGを乗算する前の前記偏差に加算するようにし、速度指令応答時定数をτ、トルク外乱応答時定数をτ、電動機を含む負荷慣性モーメントをJ、ゲイン調整パラメータをσとしたとき、GI=1/τ、G=σ×J、GF1=1/(σ×τ)、GF2=1−τ/τの各関係を満たすようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、目標値応答と外乱応答を個別に最適化することが可能な電動機の速度制御装置及び速度制御方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例に係る電動機の速度制御装置の全体回路構成図。
【図2】図1における速度制御器の内部構成図。
【図3】2自由度ILQ速度制御の基本ブロック構成図。
【図4】本発明の一実施例に係る電動機の速度制御装置のステップ応答波形(その1)。
【図5】本発明の一実施例に係る電動機の速度制御装置のステップ応答波形(その2)。
【図6】本発明の一実施例に係る電動機の速度制御装置のステップ応答波形(その3)。
【図7】本発明の一実施例に係る電動機の速度制御装置のステップ応答波形(その4)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1乃至図7を参照して本発明の実施例について説明する。
【0011】
図1は本発明の一実施例に係る電動機の速度制御装置の全体回路構成図である。
【0012】
電力変換装置1は直流電源を受け、これを所望の電圧及び周波数の交流に変換し、その出力で電動機5を駆動する。ここで直流電源は図示しない交流電源からコンバータを介して得るのが普通である。電力変換装置1は、入力側に設けられた平滑用のコンデンサ4と、スイッチング素子(U1、V1、W1、U2、V2、W2)をブリッジ接続したインバータ回路2を備えており、各々のスイッチング素子は制御部7からのゲート信号によってオンオフ制御されている。電動機5には速度検出器6が取り付けられており、この出力は速度帰還用信号として制御部7に与えられる。また、インバータ回路2の出力側には電流検出器3が設けられ、この出力も電流帰還信号として制御部7に与えられる。尚、電流検出器3は通常は図示したように例えばU相及びW相の2相分の電流を検出する。
【0013】
以下、制御部7の内部構成について説明する。外部から与えられた速度指令ω*は、速度制御器22に与えられる。また、前述の速度帰還用信号を速度検出器21によって電動機速度である速度帰還ωに変換して速度制御器22に与える。速度制御器22においてはこれらの信号の偏差が最小となるように調節制御し、その出力をトルク指令T*としてベクトル演算器24に与える。ベクトル制御器24は、磁束指令演算器23から与えられた磁束指令φ*を用いて上記トルク指令T*をトルク電流指令iq*と磁束電流指令i*とに変換する。尚、所謂弱め界磁制御を行う場合は、磁束指令演算器23は、速度帰還ωが所定値(基底速度)以上になったとき、磁束指令φ*を弱めるように動作させる。
【0014】
トルク電流指令iq*は、前述の電流帰還信号を3相−2相変換器31で変換して得られたトルク電流帰還iqと比較され、電流制御器32内の図示しないトルク電流制御器はその偏差が最小となるように調節してトルク電流制御を行う。また同様に、磁束電流指令i*は、電流帰還信号を3相−2相変換器31で変換して得られた磁束電流帰還iと比較され、電流制御器32内の図示しない磁束電流制御器はその偏差が最小となるように調節して磁束電流制御を行う。電流制御器32内のトルク電流制御器及び磁束電流制御器の出力は夫々トルク電圧指令、磁束電圧指令となるが、これらは2相−3相変換器33に入力され、ここでU、V、W各相の電圧指令に変換されてスイッチング指令演算回路35に与えられる。スイッチング指令演算回路35は、例えば所定のキャリア信号を各相の電圧指令によって変調するPWM制御を行ってインバータ回路2のスイッチング素子に与えるゲート信号を出力する。
【0015】
図1に示す電動機2は誘導電動機であるので、トルク電流指令iq*と磁束指令φ*からすべり演算器25によって電動機5のすべり周波数を演算する。この演算結果に、速度帰還ωを機械角/電気角換算器26で電気角換算した値を加算してインバータ出力周波数を求め、これを積分器34で積分してインバータ回路2の位相基準θを求めている。この位相基準θは前述の3相−2相変換器31及び2相−3相変換器33の変換位相基準となる。
【0016】
図2に速度制御器22の内部構成を示す。
【0017】
速度指令ω*から速度帰還ωを減算した偏差は、積分ゲインGIを有する積分演算器221に与えられる。そして、積分演算器221の出力から、加減算器222によって速度帰還ωを減算した偏差は、比例ゲインGを有する比例演算器223に与えられる。また、速度指令ω*を入力とするフィードフォワード補償器224の出力はフィードフォワード補償として加減算器222に加算される。ここでフィードフォワード補償器224は、比例ゲインがGF1で目標値応答である速度指令応答時定数がτの不完全微分器225と、比例ゲインがGF2で速度指令応答時定数がτの一次遅れ演算器226とで構成されている。不完全微分器225及び一次遅れ演算器226の各々の入力は何れも速度指令ω*であり、フィードフォワード補償器224の出力は、不完全微分器225及び一次遅れ演算器226の各々の出力を加算したものとなっている。尚、図2において不完全微分器225は、比例ゲインGF1を乗算したあと不完全微分を行っているが、これを不完全微分を行ったあと比例ゲインGF1を乗算するようにしても良い。これは一次遅れ演算器226についても同様である。
【0018】
以上の構成により、速度制御器22の出力、すなわち比例演算器223の出力がトルク指令T*となり、図1に示した制御器7は速度指令ω*に速度帰還ωが追従するようなフィードバック制御系として動作する。
【0019】
ここで、積分ゲインGI、比例ゲインG、比例ゲインGF1及び比例ゲインGF2の各定数を以下の関係に設定する。
【0020】
I=1/τ (1)
=σ×J (2)
F1=1/(σ×τ) (3)
F2=1−τ/τ (4)
上式において、τはトルク外乱応答時定数、σはゲイン調整パラメータ、Jは電動機5を含む負荷の慣性モーメントである。
【0021】
以上の速度制御器22を用いると目標値(速度)応答と外乱(負荷)応答を個別に最適化することが可能な電動機の速度制御装置を得ることができる。これは速度制御器22が2自由度ILQ速度制御を実現しているからに他ならない。以下、この2自由度ILQ速度制御の概要について説明する。
【0022】
図3は2自由度ILQ速度制御の基本ブロック構成図である。
【0023】
速度指令ωから電動機速度である速度帰還ωを減算した偏差は、基準最適ゲインKを有する積分演算器221Aに与えられる。そして、積分演算器221Aの出力から、速度帰還ωに比例演算器227の基準最適ゲインKを乗算した値を減算した偏差は、ゲイン調整パラメータσを有する比例演算器223Aに与えられる。また、速度指令ωを入力とするフィードフォワード補償器224Aの出力はフィードフォワード補償として比例演算器223Aの出力に加算され、トルク指令T*となる。このトルク指令T*に負荷外乱トルクTが加算されて電動機モデル228に与えられる。電動機モデル228は、Jを慣性モーメント、Dを摩擦制動係数、sをラプラス演算子として、1/(sJ+D)の1次遅れ応答で電動機速度である速度帰還ωを出力する。
【0024】
この図3の制御ブロック構成は、従来の1自由度ILQ制御に対して、補償特性G(s)を有するフィードフォワード補償器224Aが付加されていることが特徴である。
【0025】
図3において、フィードフォワード補償器224Aはフィードバックループ内に存在せず、ループ特性に影響を及ぼさないことから、基準最適ゲインK、Kは従来の1自由度ILQ最適制御の手順に従って求めればよい。従って次式で与えられる。
【0026】
=J、K=−Js (5)
ここで、sは指令値応答の速さ(設計仕様)を決定する指定極である。
【0027】
そして、フィードバック系の最適性を保証するゲイン調整パラメータσの下限値σrLは次式となる。
【0028】
σrL=2(A−s) (6)
σrL=0 (7)
ここでA=−D/J(機械時定数)であり、s<Aのとき(6)式が成立し、A<s<0のとき(7)式が成立する。
【0029】
図3のILQ最適制御のゲインには,摩擦制動係数Dが存在しないので、Dに対してロバストであることが予想できる。実際に,ゲイン調整パラメータσがσrL以上であり、ILQ制御系が最適性を保証されていれば、ILQ最適速度制御系は摩擦制動係数Dの変動に対して強いロバスト性を示す。尚、ILQ制御系の最適性が保証されているとは、応答が1次遅れに近くなるということである。調整パラメータσが下限値σrLを下回ると応答が若干振動気味となる。従って、例えば調整パラメータσを下限値σrLの2倍程度に設定しておくことが好ましい。
【0030】
次に、フィードフォワード補償器224Aの補償特性G(s)の設計法について述べる。ILQ最適速度制御系は摩擦制動係数Dの変動に対して強いロバスト性を発揮するので、図3においてDを無視して閉ループ伝達関数を求めると次式が得られる。
【0031】
G(s)=ω(s)/ω(s)
=(−σJ+G(s)s)/{(s+σs−σ)J} (8)
ここで、目標応答の仕様を与える目標伝達関数G(s)は、速度指令応答時定数τを用いて次式で表される。
【0032】
(s)=1/(1+τs) (9)
そして、(8)式と(9)式より、G(s)=G(s)とおけば、フィードフォワード補償器224Aの補償特性G(s)が次式のように求められる。
【0033】
(s)=J(s+σ+στ)/(1+τs) (10)
なお、外乱に対する閉ループ伝達関数は、
(s)=ω(s)/T(s)=−s/{(s+σs−σ)J} (11)
で与えられる。
【0034】
上記の結果より、(10)式の補償特性によって(9)式の目標応答仕様が得られ、(5)式の基準最適ゲインと(6)、(7)式の調整パラメータを与えることによって(11)式の外乱応答仕様が得られることが分かる。これにより、目標(速度)応答と外乱(負荷)応答を独立に制御することが可能になり、簡単なフィードフォワード補償器を用いてパラメータ変動に対して強いロバスト性を有する2自由度速度制御を達成できる。
【0035】
次に、図3の2自由度ILQ速度制御の基本ブロック構成図と図2の速度制御器22の内部構成図が基本的に同一のものであることを説明する。
【0036】
まず、図2のトルク外乱応答時定数τと図3の指令値応答の速さ(設計仕様)を決定する指定極sとは、τ=−1/sの関係にある。
【0037】
また、図3の制御ループは、基準最適ゲインKを有する比例演算器227を用いているが、(5)式よりK=Jであるので、基準最適ゲインK及びKをJで除算し、比例演算器223Aのゲイン調整パラメータσをJ倍して整合をとれば、比例演算器227のゲインは1となることが分かる。同様に、フィードフォワード補償器224Aの補償特性G(s)をJ×σで除算すれば、比例演算器223Aの出力側に加算していたフィードフォワード補償器224Aの補償出力を、比例演算器223Aの入力側に加算するように変更すべきことも分かる。この結果、図3の制御ブロックと図2の制御ブロックは同一構成となる。
【0038】
上記条件を用い、(10)式をJ×σで除算して更に変形すると、
(s)/(Jσ)=(s+σ+στ)/{(1+τ×s)σ}
=GF1×τs/(1+τs)+GF2×1/(1+τs) (12)
ただし、GF1=1/(στ)、GF2=1−τ/τである。この(12)式の第1項は不完全微分であり、第2項は1次遅れであるので、(12)式は図2のフィードフォワード補償器224の補償特性そのものであることが分かる。
【0039】
以上の説明によって、本願の図2に示した速度制御器22の構成において各ゲインを式(1)乃至式(4)を満たすように定めると、2自由度ILQ速度制御を実現できることが分かる。ここで、(6)式及び(7)式を図2の速度制御器の特性に当てはめると、以下の条件となる。
【0040】
すなわち、トルク外乱応答時定数τがJ/D以上のとき、ゲイン調整パラメータσの値を0以上とし、トルク外乱応答時定数τがJ/D未満のとき、ゲイン調整パラメータσの値を2(1/τ−D/J)以上に設定することによって、フィードバック系の最適性が保証される。
【0041】
尚、図1において、速度センサ6を用いない所謂センサレスベクトル制御を使用する場合は、速度検出器21に代えて電圧、電流の信号から速度を推定する速度推定器を用いる。
【0042】
また、電動機5が同期電動機の場合は、速度検出器6に代えて位置センサを設け、この出力を微分して速度を求めれば良い。この場合、電動機5のすべり周波数はゼロとなるので、すべり周波数演算器25と積分器34を省略し、位置センサの出力を位相基準θとして3相−2相変換器31及び2相−3相変換器33に与える構成とする。
【0043】
次に、本発明に係る電動機の速度制御装置の実験結果の概要について図4乃至図7を参照して説明する。実験は図1に示した構成で行い、電動機5としては、4P−1.5kW−1799rpmの誘導電動機を用いた。
【0044】
図4乃至図7は、上記条件における本発明に係る電動機の速度制御装置の(a)速度ステップ応答と(b)外乱ステップ応答の実測結果であり、上段から順に速度、トルク、電流(トルク電流及び磁束電流)の各応答波形が示されている。尚、速度Nの単位は回転数(min-1)としてある。
【0045】
ここで、図4は速度指令応答時定数τ=0.025sec、トルク外乱応答時定数τ=0.025secの場合であり、図5はτ=0.025sec、τ=0.05sec、図6はτ=0.05sec、τ=0.025sec、そして図7はτ=0.05sec、τ=0.05secの場合である。各図の時間軸を見れば、ほぼ設定された応答時間どおりのステップ応答となっていることが分かる。
【0046】
ここで、図4から図5への変化を見ると、速度指令応答時定数をτ=0.025secと速いままとし、トルク外乱応答時定数をτ=0.025secからτ=0.05secと倍の時間に遅くしている。結果として外乱ステップ応答だけが遅くなり、速度ステップ応答は変化していない。同様に、図4から図6への変化を見ると、トルク外乱応答時定数をτ=0.025secと速いままとし、速度指令応答時定数をτ=0.025secからτ=0.05secと倍の時間に遅くしている。結果として速度ステップ応答だけが遅くなり、外乱ステップ応答は変化していない。同様に図7から図5への変化は、トルク外乱応答時定数をτ=0.05secと遅いままとし、速度指令応答時定数をτ=0.05secからτ=0.025secと速くしている。こでも速度ステップ応答だけが速くなり、外乱ステップ応答は変化していない。図7から図6への変化は、速度指令応答時定数をτ=0.05secと遅いままとし、トルク外乱応答時定数をτ=0.05secからτ=0.025secと速くしている。ここでも外乱ステップ応答だけが速くなり、速度ステップ応答は変化していない。
【0047】
このような図4乃至図7の特性を得るための調整は、前述の通り、まず調整パラメータσを適切な値に選定する。そして、トルク外乱応答時定数τのみを調整する場合は、(1)式に従って積分ゲインGIを調整する。また、速度指令応答時定数τのみを調整する場合は、積分ゲインGIを固定した状態で、(2)乃至(4)式の関係を維持したまま比例ゲインG、GF1及びGF2を調整すれば良い。
【0048】
以上説明したように、本願の電動機の速度制御装置によれば、目標値応答である速度ステップ応答と外乱応答であるトルク外乱ステップ応答とを個別に最適化することが可能で、且つ設定値どおりの応答が得られることが検証された。
【符号の説明】
【0049】
1 電力変換装置
2 インバータ回路
3 電流検出器
4 コンデンサ
5 電動機
6 速度検出器
7 制御器
21 速度検出器
22 速度制御器
23 磁束指令演算器
24 ベクトル演算器
25 すべり演算器
26 機械角/電気角換算器
31 3φ/2φ変換器
32 電流制御器
33 2φ/3φ変換器
34 積分器
35 スイッチング指令演算器
221、221A 積分演算器
222 加減算器
223、223A 比例演算器
224、224A フィードフォワード補償器
225 不完全微分器
226 一次遅れ演算器
227 比例演算器
228 電動機モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源または交流電源を入力とし、交流電圧を出力して電動機を駆動する電力変換装置と、
前記電力変換装置のインバータ部を構成するスイッチング素子をオンオフ制御する制御手段と、
前記電動機の速度を速度帰還として直接または間接的に検出する速度検出手段と、
前記電動機の入力電流を検出する電流検出手段と
を備えた電動機の速度制御装置であって、
前記制御手段は、
前記速度検出手段によって得られる速度帰還が、速度指令に追従するように制御してトルク指令を出力する速度制御手段と、
前記電流検出手段から得られるトルク電流が、前記トルク指令に基づくトルク電流指令に追従するように制御して前記インバータ部の出力電圧指令を得るトルク制御手段と、
前記出力電圧指令に従って前記スイッチング素子にゲートパルスを供給するスイッチング指令演算手段と
を具備し、
前記速度制御手段は、
前記速度指令と前記速度帰還の偏差に積分ゲインGIを乗算して積分する積分増幅器と、
前記速度指令を共通の入力とし、比例ゲインGF1を有する不完全微分器の出力及び比例ゲインGF2を有する1次遅れ演算器の出力を加算して出力するフィードフォワード補償器と、
前記積分器の出力から前記速度帰還を減算すると共に、前記フィードフォワード補償器の出力を加算する加減算器と、
前記加減算器の出力にゲインGを乗算して前記トルク指令を得る比例増幅器と
から構成され、
速度指令応答時定数をτ、トルク外乱応答時定数をτ、電動機を含む負荷慣性モーメントをJ、ゲイン調整パラメータをσとしたとき、GI=1/τ、G=σ×J、GF1=1/(σ×τ)、GF2=1−τ/τの各関係を満たすようにしたことを特徴とする電動機の速度制御装置。
【請求項2】
前記電動機負荷の摩擦制動係数をDとし、
前記トルク外乱応答時定数τがJ/D以上のとき、前記ゲイン調整パラメータσの値を0以上とし、
前記トルク外乱応答時定数τがJ/D未満のとき、前記ゲイン調整パラメータσの値を2(1/τ−D/J)以上に設定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の電動機の速度制御装置。
【請求項3】
直流電源または交流電源を入力とし、交流電圧を出力して電動機を駆動する電力変換装置と、
前記電力変換装置のインバータ部を構成するスイッチング素子をオンオフ制御する制御手段と、
前記電動機の速度を速度帰還として直接または間接的に検出する速度検出手段と、
前記電動機の入力電流を検出する電流検出手段と
を備え、
前記制御手段は、
前記速度検出手段によって得られる速度帰還が、速度指令に追従するように制御してトルク指令を出力する速度制御手段と、
前記電流検出手段から得られるトルク電流が、前記トルク指令に基づくトルク電流指令に追従するように制御して前記インバータ部の出力電圧指令を得るトルク制御手段と、
前記出力電圧指令に従って前記スイッチング素子にゲートパルスを供給するスイッチング指令演算手段と
を具備した電動機の速度制御装置における速度制御方法であって、
前記速度制御手段は、
前記速度指令と前記速度帰還の偏差に積分ゲインGIを乗算して積分した値と、前記速度帰還との偏差にゲインGを乗算して前記トルク指令を得るようにすると共に、
前記速度指令を共通の入力とし、比例ゲインGF1を乗算して不完全微分した値と、比例ゲインGF2を乗算して1次遅れ演算した値を加算し、これをフィードフォワード補償量として前記積分ゲインGを乗算する前の前記偏差に加算するようにし、
速度指令応答時定数をτ、トルク外乱応答時定数をτ、電動機を含む負荷慣性モーメントをJ、ゲイン調整パラメータをσとしたとき、GI=1/τ、G=σ×J、GF1=1/(σ×τ)、GF2=1−τ/τの各関係を満たすようにしたことを特徴とする電動機の速度制御方法。
【請求項4】
前記電動機負荷の摩擦制動係数をDとし、
前記トルク外乱応答時定数τがJ/D以上のとき、前記ゲイン調整パラメータσの値を0以上とし、
前記トルク外乱応答時定数τがJ/D未満のとき、前記ゲイン調整パラメータσの値を2(1/τ−D/J)以上に設定するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の電動機の速度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−23798(P2012−23798A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157614(P2010−157614)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月16日 学校法人芝浦工業大学発行の「平成21年度 修士論文概要(電気電子情報工学専攻)」に発表
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】