説明

電子写真装置用無端ベルト

【課題】ベルトの端部反りが発生し難く、ベルトの駆動寿命の長い電子写真装置用無端ベルトを提供する。
【解決手段】無端ベルトは熱可塑性樹脂、好ましくはポリアミドイミド樹脂を溶媒に溶かした溶液から、遠心成形で成形された無端ベルトであって、所定サンプルで所定の熱処理を行ったときの反り量Hが20mm以下である。 また無端ベルトは遠心成形後、金型脱型前に、酸素遮断雰囲気下で乾燥される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可撓性を有する無端ベルトに関し、特に電子写真複写機、レーザープリンタ、ファクシミリ、又はこれらを複合したOA機器に使用される電子写真装置用無端ベルト(以下単に「無端ベルト」という。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から無端ベルトは、少なくとも2つ以上のローラの間に巻架されて、中間転写ベルト方式の電子写真方式プリンタ等の各種複写機・プリンターの感光ベルト、転写ベルトなどとして利用されている。
【0003】
無端ベルトは、屈曲可能な可撓性の樹脂材料等で製作され、走行方向においてシームレスに成形される。このように構成された無端ベルトは、無端ベルトが巻架されているローラのセンサが無端ベルトの蛇行を察知し、ローラの調整により無端ベルトを安定的に回転させている。 (特許文献1参照)
【0004】
係る無端ベルトは、電子写真装置の更なる高画質化、高速化、コンパクト化を実現するため、高弾性率、高強度、環境安定性(温度や湿度、又溶剤に対する安定性)及び厚みの均一性や表面粗さの均一性などの外観精度が要求され、更に、無端ベルト自身の長寿命化・高耐久性が要求される。
【0005】
上記要求特性に対し、高強度・高耐熱の熱可塑性エンジニアリングプラスチックスを、特殊なマンドレルで円筒状のフィルムに溶融押出成形した後、所定幅に切断してシームレスベルトとする手法が提案されている。 (特許文献2参照)
【0006】
また更に優れた外観精度を得るため、継ぎ目が無く、表面粗さが全面に亘って一定の範囲に制御でき、ベルトの厚み精度も均質に制御できる、溶媒に溶解された樹脂を遠心成形する方法が提案されている。 (特許文献3参照)
【0007】
しかし、樹脂溶液から遠心成形で製造された無端ベルトは、外観精度は良好であるが、当該無端ベルトを高温高湿の環境で使用するとベルトの両端部に反り返りが発生する問題があった。
【特許文献1】特開2005−028865号公報
【特許文献2】特開2004−279773号公報
【特許文献3】特開2001−038750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
無端ベルトに端部反り返りが発生すると、寸法が不安定になると共に、ローラーユニットに装着され回転する無端ベルトは、反り返ったベルト端部に余分な応力が掛かることとなり、端部に割れが発生したり、極端な場合は裂けてしまい使用ができなくなるなど、無端ベルトの耐久性や寿命を低下させる原因となる。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、樹脂溶液から遠心成形で製造された無端ベルトであって、ベルト端部の反り返りによる耐久性や寿命の低下が少ない無端ベルトを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、遠心成形法で成形された無端ベルトの端部の反りによる不具合を克服するには、所定の高温・高湿エージング処理における反り返りが一定量以下であれば、装着時の耐久性に影響しないことを見出し、更にベルト成形後の残留溶剤量がベルト端部反り返りに影響していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、熱可塑性樹脂が溶媒に溶解された溶液に、導電性付与材を分散してなる溶液から遠心成形された無端ベルトであって、該無端ベルトは下記(1)の条件で測定したときの反り上がり高さが20mm以下である電子写真装置用無端ベルトを特徴としている。
【0012】
(1)前記無端ベルトから直径70mmの円盤形サンプルを切り抜き、温度70℃、相対湿度90%の環境下に72時間静置した後、温度23℃、相対湿度50%の環境下に48時間静置、前記円盤の中心部を基点として反り上がった円周部の最高部を測定。
【0013】
請求項2に記載の発明は、トリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物の当量を非プロトン性極性溶媒に溶解した溶液を加熱反応させたポリアミドイミド樹脂溶液に、導電性付与材を分散してなる溶液から遠心成形された無端ベルトであって、該無端ベルトは下記(1)の条件で測定したときの反り上がり高さが20mm以下である電子写真装置用無端ベルトを特徴としている。
【0014】
(1)前記無端ベルトから直径70mmの円盤形サンプルを切り抜き、温度70℃、相対湿度90%の環境下に72時間静置した後、温度23℃、相対湿度50%の環境下に48時間静置、前記円盤の中心部を基点として反り上がった円周部の最高部を測定。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記トリカルボン酸無水物の0乃至50モル%がテトラカルボン酸二無水物で置換され、前記ジイソシアネート化合物の0乃至100モル%がジアミン化合物で置換された請求項2に記載の電子写真装置用無端ベルトを特徴としている。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記無端ベルトは成型後の残留溶剤量が0.40%以下になるように作製された請求項1乃至3の何れか一つに記載の電子写真装置用無端ベルトを特徴としている。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記無端ベルトの製造方法において、遠心成形後、金型を、チャンバー内を過熱水蒸気で置換した空気循環を制限できるオーブン中に投入することで残留溶剤の除去を行う電子写真装置用無端ベルトの製造方法を特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、当該無端ベルトは遠心成形による優れた外観精度を有し、かつ高温高湿下で使用しても端部反り返りによる割れの発生や裂ける不具合が発生せず、印刷不具合が起こり難い、寿命の長い無端ベルトを提供することが出来る。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、ポリアミドイミド樹脂は耐熱性、耐摩耗性、機械的特性に優れるので、優れた外観精度を有しつつ、更に寿命の長い無端ベルトを提供することが出来る。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、テトラカルボン酸二無水物やジアミン化合物を、ポリアミドイミド樹脂の原料の一部又は全部に使用すると、ヤング率の向上が期待でき、無端ベルトを電子写真装置のローラーユニットに巻架したときに掛かるテンションによってベルトが伸びてしまい、高精度の絵出ができなくなる虞が少ない無端ベルトが提供できる。
【0021】
また、相対的にアミド結合比率が低下することにより、無端ベルトの吸湿率が低減され、無端ベルトに接触している感光ドラムの中には、その素材によって湿度により悪影響を受ける場合が有るが、そのようなものと組み合わせて使用されたとき、吸湿率のなるべく小さい無端ベルトの方が都合が良い。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、ベルト成形後の残留溶剤量を0.40%以下にコントロールしたので、所定の高温・高湿エージング処理後の反り返り量が20mm以下である無端ベルトがより確実に得られる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、遠心成形後の無端ベルトを、チャンバー内を過熱水蒸気で置換したオーブンに投入するので、残留溶剤除去効果がより高い無端ベルトの製造方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、この発明の実施の形態である、無端ベルト11及び該無端ベルトを備える電子写真装置について説明する。
【0025】
図1、図2は、この発明の実施の形態の一例として、無端ベルト11の形態及び無端ベルト11使用時の構成を示す。
【0026】
図1で示すように、前記無端ベルト11は、可撓性を有したベルトが継目なくエンドレスに成形されて断面が環状になっており、図2で示すようにローラ41とローラ42との間に巻架されて適度なテンションをかけられている。そして、図4に示す感光ベルト13、又は転写ベルト14のような、電子写真装置内部に装着され使用される。
【0027】
無端ベルト11に用いられる樹脂材料としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PEN等の縮合系エステル型樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリピロメリットイミド樹脂等のイミド系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ポリ−m−フェニレンイソフタラミド(Nomex)、ポリ−p−フェニレンフタラミド(Kevlar)等の縮合系アミド型樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素化ビニル系樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタール(POM)、ポリオキシエチレン(POE)、ポリフェニレンエーテル(PPE)等のエーテル系樹脂、ポリサルフォン(PSF)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、エポキシ樹脂、架橋型ポリエステル樹脂、メラミン樹脂等を用いることができる。 高耐熱・高強度を有するエンジニアリングプラスチックス樹脂等がより好ましく用いられる。
【0028】
表面平滑性が全面に亘って均質であり、かつベルト厚みも均一である、外観精度の優れた無端ベルト11を成形するには、溶媒に溶解した樹脂から、遠心成形法により無端ベルト11を成形する方法が好ましく用いられる、溶媒に溶解し易い樹脂材料として、非結晶性熱可塑樹脂がより好ましく用いられる。
【0029】
更に、熱可塑性樹脂の中でもポリアミドイミド樹脂が、高温下におけるクリープ特性、耐摩耗特性、耐薬品性、機械的強度等の面からより好適に用いられる。また、一般に縮合系樹脂等は減圧条件下で予めポリマリゼーションプロセスにより樹脂化しておく必要があるが、ポリアミドイミド樹脂は非プロトン性極性溶媒中にポリカルボン酸無水物とジイソシアネートを溶解したものを常圧下で加熱して得ることが可能であり、合成した樹脂溶液をそのまま遠心成形機に投入が可能であり、便利である。
【0030】
本発明のポリアミドイミド樹脂の重合には、酸成分にトリカルボン酸無水物を用い、ジイソシアネート化合物と反応させてアミドイミド結合を形成するイソシアネート法が、反応性の面、原料コスト面、そして重合反応で発生する副生成物がCOのみである点から、最も有利に用いられる。
【0031】
ジイソシアネートに代えて、類似構造のジアミン化合物と反応させアミドイミド結合を形成する直接重合法は、反応性に劣るので脱水反応が遅く、脱水触媒を必要とするデメリットを有するが、重合されたポリアミドイミド樹脂のヤング率向上が期待でき、反応性が問題とならない工程では直接重合法を用いてもよい。
【0032】
更にジイソシアネート化合物の一部をそのジアミン化合物として、イソシアネート法と直接重合法を併用した溶液中で重合することも可能である。
【0033】
トリカルボン酸無水物に替えて、その一部をテトラカルボン酸二無水物としても良い。テトラカルボン酸二無水物を一部置換した場合、重合されるポリアミドイミド樹脂中のイミド結合の割合が増加し、アミド結合の割合が減少するため、アミド結合による吸湿の影響が少なくなり、ベルトの寸法安定性が向上する一方、ポリアミドイミド樹脂の有する耐摩耗特性が低下するので、ひいては無端ベルトの耐久性を損なう場合があり、50モル%を越えてテトラカルボン酸二無水物を用いるのは好ましくない。
【0034】
本発明のポリアミドイミド樹脂の合成に使用されるトリカルボン酸無水物は、芳香族トリカルボン酸無水物が好ましい。例示するとトリメリット酸無水物、3,4,4’−ジフェニルエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、1,2,4−、1,4,5−、2,3,6−ナフタレントリカルボン酸無水物、2,3,5−ピリジントリカルボン酸無水物などが挙げられる、これらの1種又は2種以上を混合して用いることができる。特にトリメリット酸無水物及びその誘導体が好ましく用いられる。
【0035】
ジイソシアネート化合物及びジアミン化合物は、芳香族ジイソシアネート及び芳香族ジアミンが好ましく用いられる。その一部を脂肪族ジイソシアネート又はそれらのジアミン、脂環式ジイソシアネート又はそれらのジアミンを併用することもできる。
【0036】
本発明のポリアミドイミド樹脂の合成に使用されるジイソシアネート化合物及びジアミン化合物を例示すると、芳香族ジイソシアネートとしては、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’−ジイソシアネートジフェニルスルホン、4,4’−ジイソシアネートビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等、及びそれらのジアミンが挙げられる。
【0037】
脂肪族ジイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等、及びそれらのジアミンが挙げられる。
【0038】
脂環式ジイソシアネートとしては、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等、及びそれらのジアミンが挙げられる。
【0039】
これらのイソシアネート化合物の中でも耐熱性、機械的特性、溶解性などから全ジイソシアネート成分を100モル%としたとき、60モル%以上、好ましくは70モル%以上がジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(ジアミン)、2,4−トルエンジイソシアネート(ジアミン)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル(o−トリジン)、イソホロンジイソシアネート(イソホロンジアミン)を用いることが好ましい。寸法安定性の点からは70モル%以上がジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0040】
テトラカルボン酸二無水物を例示すると、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3、4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0041】
トリカルボン酸無水物とジイソシアネート又はジアミンとを重合反応させる際の溶媒として、溶解性などの点より極性溶媒が好適に用いられる。更に、非プロトン性極性溶媒は重合反応を阻害することがなく、反応媒体としてより好適に用いられる。これらの極性溶媒を例示すると、N,N−ジアルキルアミド類が好ましく、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0042】
上記以外の非プロトン性極性溶媒を例示すると、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単独又は複数併用することができる。
【0043】
溶媒は、蒸発、置換、又は拡散により、ポリアミドイミド前駆体或いはポリアミドイミド成形品から除去することができる。
【0044】
上記のポリカルボン酸無水物又はポリカルボン酸、ジイソシアネート化合物又はジアミン化合物を出発物質として、上記非プロトン性極性溶媒中で重合されたポリアミドイミド樹脂は、本願の無端ベルト11用の材料として用いることができるが、特にポリトリメリットジフェニルメタンアミドイミド樹脂が好適に用いられる。
【0045】
熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し、遠心成形法にて本願の無端ベルト11を成形する際の有機溶媒としては、上記非プロトン性極性溶媒以外に、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。ベルト成形品から除去するときの、除去し易さの面から、低分子量の低沸点溶媒が好適に用いられる。
【0046】
この無端ベルト11に使用する導電性付与材は、金属や合金からなる針状、球状、板状、不定形等の粉末、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボン粉末、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛粉末、セラミック粉末、表面が金属めっきされた各種粒子等が挙げられる。
【0047】
これらの導電性付与材のサイズは、0.01〜10μmが好ましく、添加量は導電性の程度によるが、おおよそ5〜25質量%の範囲が好ましい。これは、5質量%未満では導電性物質同士の距離が大きいので導電性が発現せず、25質量%を超えると、無端ベルト11の強度に悪影響を及ぼす虞があるからである。導電性付与剤は、ミキシングロール、加圧式ニーダ、押出機、三本ロール、ホモジナイザ、ボールミル、又はビーズミル等を用いる公知の分散方法により樹脂材料に分散される。
【0048】
特にpH5以下の酸化処理カーボンブラックが、酸化処理カーボンブラックの表面の酸素含有官能基が、樹脂中へのカーボンブラック分散性を良好なものとするため、良好な分散安定性が得られ、ベルト内の抵抗バラツキを小さくすることができると共に、酸素含有官能基を有することから、繰返しの電圧印加による酸化の影響を受けにくく、転写電圧による抵抗低下を低減させることができるので、好適に用いられる。
【0049】
pH5以下の酸化処理カーボンブラックは、酸化処理により表面に酸素含有官能基(例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基等、更にオルト位又はパラ位の二つのヒドロキシル基を酸化したキノイド構造、環状構造化合物をエステル化したラクトン構造)を付与して得ることができる。pHの測定方法は、JIS K 6221−1982に準ずる。
【0050】
酸化処理は、高温雰囲気下で空気と接触させ、反応させる空気酸化法、常温下で窒素酸化物やオゾンと反応させる方法、及び高温下での空気酸化後、低温度下でオゾン酸化する方法などのいずれかの方法により行うことができる。
【0051】
本実施形態では樹脂材料に導電性付与材を添加したものを示すが、これ以外にも、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、老化防止剤、酸化防止剤、補強性フィラー、反応助剤、反応抑制剤等の添加剤を必要に応じて適宜添加することが可能である。またカーボンブラック等の導電性付与材は2種類以上含有してもよい。
【0052】
pH5以下の酸化処理カーボンブラックとして、具体的には、デグサ社製の「プリンテックス150T」(pH4.5、揮発成分10.0%)、同社製の「スペシャルブラック350」(pH3.5、揮発成分2.2%)、同社製の「スペシャルブラック100」(pH3.3、揮発成分2.2%)、同社製の「スペシャルブラック250」(pH3.1、揮発成分2.0%)、同社製の「スペシャルブラック5」(pH3.0、揮発成分15.0%)、同社製の「スペシャルブラック4」(pH3.0、揮発成分14.0%)、同社製の「スペシャルブラック4A」(pH3.0、揮発成分14.0%)、同社製の「スペシャルブラック550」(pH2.8、揮発成分2.5%)、同社製の「スペシャルブラック6」(pH2.5、揮発成分18.0%)、同社製の「カラーブラックFW200」(pH2.5、揮発成分20.0%)、同社製の「カラーブラックFW2」(pH2.5、揮発成分16.5%)、同社製の「カラーブラックFW2V」(pH2.5、揮発成分16.5%)、
【0053】
キャボット社製の「MONARCH1000」(pH2.5、揮発成分9.5%)、同社製の「MONARCH1300」(pH2.5、揮発成分9.5%)、同社製の「MONARCH1400」(pH2.5、揮発成分9.0%)、同社製の「MOGUL−L」(pH2.5、揮発成分5.0%)、同社製の「REGAL400R」(pH4.0、揮発成分3.5%)等が挙げられる。
【0054】
上記材料から無端ベルト11を遠心成形する方法の一例を以下に示す。
【0055】
無端ベルト11の基材を遠心成形するには、ポリアミドイミド樹脂が極性溶媒に溶解された流動性の材料を用意する。
【0056】
流動性材料の調整方法の一例として、トリメリット酸無水物とジフェニルメタンジイソシアネートとの当量を非プロトン性極性溶媒、例えばN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、加熱して反応させ芳香族ポリアミドイミド溶液を得る。これにN−メチル−2−ピロリドンを更に加え、固形分濃度15質量%のポリアミドイミド溶液を調製する。
【0057】
上記樹脂溶液を1000rpmの速度で回転する金型内周に注入する。遠心成形金型は、円筒形外観を有し、金型内面はポリッシングにより鏡面研磨されている。そして金型両端の開口部にはリング状の蓋をそれぞれ嵌合して材料漏れを防止する。
【0058】
金型に材料を注入したら、1000rpmの速度でレベリングして遠心成形し、熱風乾燥機等で雰囲気温度が80℃に保たれた中で、この状態を30分間保持して金型を停止させ、次いで金型ごと後述する各実施例及び比較例に示す条件のオーブンに投入し、残留溶媒を除去し、所定時間後に金型を取り出した。
【0059】
オーブン投入による残留溶媒の除去は、ベルト状に成形された樹脂が熱変形や熱溶融しない限りにおいて、高温で行うのが効率的であり、通常はポリアミドイミド樹脂のガラス転移温度近傍に温度設定されたオーブンで行う。
【0060】
樹脂の合成に使用した出発原料の違い、すなわちポリアミドイミド樹脂の種類にもよるが、トリメリット酸無水物と芳香族ジイソシアネートから重合されたポリアミドイミド樹脂は、通常260〜280℃近傍のガラス転移温度を有するので、残留溶媒除去もこの近傍に温度設定したオーブンに、金型ごと数十分間投入して行う。
【0061】
このとき、高温雰囲気中に長時間暴露されることによる、ベルト樹脂の空気酸化劣化が問題となるので、残留溶媒除去に使用するオーブンは、例えばギャーオーブンのような空気循環を制限できるものが好ましく、更に好ましくは真空オーブンの様な、加熱チャンバーの密封が可能でチャンバー側面にバルブ機能が付いたオーブンを使用し、チャンバー内を水蒸気や窒素、或いはアルゴン等の不活性ガスで空気を置換して加熱するのがよい。特に過熱水蒸気でオーブンチャンバー内を置換し加熱を行う方法は残留溶剤除去効果が高く、より有効な方法である。
【0062】
過熱水蒸気とは、飽和水蒸気に更に熱を加え100℃以上の高温の水蒸気としたものをいい、より好ましくは、常圧下であれば170℃以上に加熱した水蒸気を用いるのが良い。過熱水蒸気は乾燥空気より物質を乾燥させる能力があり、乾燥空気より伝熱効率が高く、飽和水蒸気のように湿ることがなく、水蒸気は油分を抱え込む性質があるので脱油効果が得られると共に、非常に酸素の少ない殆ど無酸素雰囲気を作り出すので、樹脂ベルトを酸化劣化することなく効率的に溶剤除去できる。
【0063】
金型を取り出したら、金型を室温で放置して冷却し、金型とベルト基材の熱膨張差を利用してベルト基材を脱型する。
【0064】
脱型後、ベルト基材の両端部をそれぞれカットして240mm幅とし、厚さ約100μmの無端ベルト11を作製し、後述する各実施例及び比較例に示す無端ベルト11とした。
【0065】
無端ベルト11の残留溶媒量の測定方法は以下の様に行う。
【0066】
試料として、ベルト基材から樹脂500mgをバイエルビンに採り、エタノール(内部標準:DMA(ジメチルアセトアミド)1000ppm含む)20mlを加えて密栓し、60℃×24hrs抽出する。
【0067】
エタノール抽出液をGC−MS(カラム:DB−5MS)に打ち込み、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)のピーク面積と内部標準DMAのピーク面積の比から残留溶媒量(この場合はNMPの量)を求める。
【0068】
本発明の搬送ベルトにおいて、樹脂ベルトはポリアミドイミド樹脂を主体とする2以上の層から構成されてもよく、その層構成は特に限定されるものではない。例えば、かかる樹脂ベルトがポリアミドイミド樹脂を主体とする内層及び外層の2層からなる場合、内層と外層とのそれぞれの物性(電気的性質、物理的性質など)を異ならせることにより、単一の層構成では得られない、2つの物性のバランスを満足させ得るという優れた特性を付与することができる。
【0069】
具体的には、硬度が低い内層と、硬度が高い外層と、からなる樹脂ベルトは、可とう性と剛性とのバランスを満足させることができるものとなる。また、外層及び内層の層厚を調整することにより、より高精度で2つの物性のバランスを制御することができる。なお、設けられたポリアミドイミド樹脂を主体とする各層の物性を異ならせるためには、層中に所望の添加剤を加える方法や、ポリアミドイミド樹脂を構成するトリカルボン酸無水物とジアミンとを、適宜、選択する方法等を用いることができる。
【0070】
このようにして得られる本発明の無端ベルト11の表面抵抗率は、常用対数値が8〜15(logΩ/□)、好ましくは9〜14(logΩ/□)の間である。
【0071】
本発明の無端ベルト11を転写ベルトとして用いる場合、表面抵抗率が15(logΩ/□)より高い場合には、転写材(例えば、用紙)と転写ベルトが剥離するに、剥離放電が発生しやすくなり、放電が発生した部分は、白抜けする画像欠陥が発生することがある。一方、8(logΩ/□)未満の場合には、静電吸着力が弱くなるので、転写材の搬送に問題が発生することがある。
【0072】
転写ベルトの表面抵抗率を9〜14(logΩ/□)の範囲にすることによって、剥離放電による白抜けや画質の粒状性悪化を防ぎ、良好な画像を得ることができる。表面抵抗率を上記範囲とすることで、表面抵抗率が高い場合に発生する放電による白抜け、表面抵抗率が低い場合に発生する画質が悪化する問題を防止することができる。なお、この表面抵抗率は、転写面における表面抵抗率を示す。
【0073】
表面抵抗率は、円形電極(例えば、三菱油化(株)製ハイレスターIPのHRプローブ等)を用い、JIS K 6991に準じて測定した。
<電子写真装置>
【0074】
本発明の無端ベルト11が使用された例示的一態様としての電子写真装置の概要を図4に示す。図4に示す電子写真装置は、トナー画像を転写材に転写する転写領域に、転写材を搬送する転写ベルト14を備え、該転写ベルトが本発明の無端ベルト11であることを特徴とする。転写ベルト14は転写材を静電的に吸着して搬送し、転写材は後述する転写手段よって電圧印加され、それによる電界でトナー画像が転写される。
【0075】
図4に示す電子写真装置において、感光ベルト13は矢印方向に回転し、その表面が一様に帯電され、帯電された感光ベルトに、露光ユニットにより静電潜像が形成される。この静電潜像はB、C、M、Yの各現像機22により現像されて可視化されたトナー画像が形成される。
【0076】
トナー画像は感光ベルト13の回転で転写ベルト14に到り、それと同時に、転写材(トナー)が静電的に転写ベルト14に吸着して転写領域(現像ローラ)まで搬送され、転写ベルトからトナー画像に逆極性の電界を作用させることにより、トナー画像が、静電的に転写媒体31(紙)表面に転写される。トナー画像を転写された転写媒体31(紙)は、更に定着器23に搬送され、定着が行われる。以上により媒体表面に所望の画像が形成される。
【0077】
以上説明したように、様々な構成の無端ベルト式の電子写真装置において、本発明の無端ベルト11は、端部反りによる印刷不良を改善し、環境による寸法の変化が少なく、更に長期間駆動してもベルト端部の割れが発生し難い。そのため、本発明の無端ベルトが装着された電子写真装置は、長期間安定して高品質のプリント画像を得ることができるものとなる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を、実施例を挙げて更に具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明をその方法に制限するものではない。
(実施例1)
【0079】
トリメリット酸無水物とジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートとの当量をN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、加熱反応させ固形分濃度28質量%の芳香族ポリアミドイミド溶液を得た。これにN−メチル−2−ピロリドンを更に加え、固形分濃度15質量%のポリアミドイミド溶液とした。
【0080】
乾燥したpH5以下の酸化処理カーボンブラック(プリンテックス150T(Degussa社製、pH4.5、揮発分10.0%)を、出来上がった無端ベルト11におけるカーボンブラック量が16質量%となるよう添加して、ボールミルで攪拌混合した。
【0081】
上記樹脂溶液を1000rpmの速度で回転する金型内周に190g注入し、金型に材料を注入したら、1000rpmの速度でレベリングして遠心成形し、雰囲気温度が80℃に保たれた熱風乾燥機中で、この状態を30分間保持して金型を停止させた。
【0082】
次いで、酸素による酸化劣化を防ぐため、空気循環が制限されたギャーオーブン中に金型ごと投入し、280℃−45分間の乾燥を行った。取り出した無端ベルト11中の残留溶剤量は0.08質量%であった。
(実施例2)
【0083】
実施例1と同様にして遠心成形した後、同様に空気循環が制限されたギャーオーブン中に金型ごと投入し、280℃−30分間の乾燥を行った。取り出した無端ベルト11中の残留溶剤量は0.16質量%であった。
(実施例3)
【0084】
実施例1と同様にして遠心成形した後、同様に空気循環を制限したギャーオーブン中に金型ごと投入し、260℃−45分間の乾燥を行った。取り出した無端ベルト11中の残留溶剤量は0.24質量%であった。
(実施例4)
【0085】
実施例1と同様にして遠心成形した後、空気循環を制限できるバルブ機能付きオーブンを使用し、成形されたベルトを金型ごと投入し、チャンバー内を水蒸気で置換した後に、280℃−45分間の乾燥を行った。取り出した無端ベルト11中の残留溶剤量は0.05質量%であった。
(比較例1)
【0086】
実施例1と同様にして遠心成形した後、同様に空気循環を制限したギャーオーブン中に金型ごと投入し、260℃−30分間の乾燥を行った。取り出した無端ベルト11中の残留溶剤量は0.46質量%であった。
(反り返り量の評価)
【0087】
図5に反り返りの発生した測定サンプルの外観の一例を示す。図3は前記測定サンプルを用いた反り返り量の測定方法を模式的に示している。本願発明の請求項にも記載したように、反り返り量は、無端ベルト11から直径70mmの円盤形に切り抜いたサンプル12を金型面側、すなわち無端ベルト11表面側を上にして、温度70℃、相対湿度90%の環境下に72時間静置した後、温度23℃、相対湿度50%の環境下で48時間静置し、その後、図5に示すような状態になった測定サンプルを、図3に示す向きに置いて、前記円盤の中心部を基点として反り上がった円周部の最高部を測定している。
【0088】
真横からみて、円盤の中心から反り上がった端部(円周部)までの高さHを左右測定し、平均を出したものを反り返り量とした。結果を「表1」に示す。
(無端ベルト11耐久性の評価)
【0089】
実施例1乃至4、及び比較例1それぞれにおいて、反りによる無端ベルト11の耐久性を試験するため、図2に示す形態で駆動ユニットに組み込み、駆動させた。
【0090】
通常無端ベルト11の耐久性は100K回転以上が必要とされている。そこで、200K回転以上駆動しても端部からの割れを起こさず正常に運転できたときを非常に好ましい(◎)、100K回転以上200K回転未満の範囲では駆動しても端部からの割れを起こさず正常に運転できたときは好ましい(○)、100K回転未満の駆動で端部割れの発生や、裂けてしまい使用できなかったものを不良品(×)とした。
【0091】
【表1】

【0092】
表1から明らかな通り、残留溶剤量が0.4%以下の無端ベルト11は、本願の所定方法で熱処理後の反り返り量が20mm以下であり、そのような無端ベルト11は100K回以上の駆動耐久回数を有している。電子写真装置用の無端ベルトとして最適である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の無端ベルトの例示的一態様を示す斜視図である。
【図2】本発明の無端ベルト駆動時の例示的一態様を示す斜視図である。
【図3】本発明の無端ベルト反り量の測定方法を示す模式図である。
【図4】本発明の無端ベルトを用いた電子写真装置の例示的一態様を示す概略構成図である。
【図5】高温・高湿試験後の反り測定サンプルを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0094】
11 無端ベルト
12 円盤形反り測定サンプル
13 感光ベルト(静電潜像坦持体)
14 転写ベルト(中間転写ベルト)
21 露光ユニット
22 現像機
23 定着ローラ(定着機)
24 現像ローラ
31 転写媒体(紙)
41 駆動ローラ
42 従動ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂が溶媒に溶解された溶液に、導電性付与材を分散してなる溶液から遠心成形された無端ベルトであって、該無端ベルトは下記(1)の条件で測定したときの反り上がり高さが20mm以下であることを特徴とする電子写真装置用無端ベルト。
(1)前記無端ベルトから直径70mmの円盤形サンプルを切り抜き、温度70℃、相対湿度90%の環境下に72時間静置した後、温度23℃、相対湿度50%の環境下に48時間静置、前記円盤の中心部を基点として反り上がった円周部の最高部を測定。
【請求項2】
トリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物の当量を非プロトン性極性溶媒に溶解した溶液を加熱反応させたポリアミドイミド樹脂溶液に、導電性付与材を分散してなる溶液から遠心成形された無端ベルトであって、該無端ベルトは下記(1)の条件で測定したときの反り上がり高さが20mm以下であることを特徴とする電子写真装置用無端ベルト。
(1)前記無端ベルトから直径70mmの円盤形サンプルを切り抜き、温度70℃、相対湿度90%の環境下に72時間静置した後、温度23℃、相対湿度50%の環境下に48時間静置、前記円盤の中心部を基点として反り上がった円周部の最高部を測定。
【請求項3】
前記トリカルボン酸無水物の0乃至50モル%がテトラカルボン酸二無水物で置換され、前記ジイソシアネート化合物の0乃至100モル%がジアミン化合物で置換されたことを特徴とする請求項2に記載の電子写真装置用無端ベルト。
【請求項4】
前記無端ベルトは成型後の残留溶剤量が0.40%以下になるように作製されたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の電子写真装置用無端ベルト。
【請求項5】
前記無端ベルトの製造方法において、遠心成形後、金型を、チャンバー内を過熱水蒸気で置換した空気循環を制限できるオーブン中に投入することで残留溶剤の除去を行うことを特徴とする電子写真装置用無端ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−330539(P2006−330539A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156738(P2005−156738)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】