説明

電子放出素子、電子放出装置、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、冷却装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置、電子放出素子の製造方法

【課題】絶縁破壊が発生し難いと共に、容易で安価に製造でき、安定かつ良好な量の電子放出が可能な電子放出素子を提供する。
【解決手段】電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に、絶縁体微粒子5を含み、かつ導電微粒子を含まない電子加速層4を有する。電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加すると、電子加速層4で電子を加速させて、薄膜電極3から電子を放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより電子を放出する電子放出素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子放出素子として、スピント(Spindt)型電極、カーボンナノチューブ(CNT)型電極などが知られている。このような電子放出素子は、例えば、FED(Field Emision Display)の分野に応用検討されている。このような電子放出素子は、尖鋭形状部に電圧を印加して約1GV/mの強電界を形成し、トンネル効果により電子放出させる。
【0003】
しかしながら、これら2つのタイプの電子放出素子は、電子放出部表面近傍が強電界であるため、放出された電子は電界により大きなエネルギーを得て気体分子を電離しやすくなる。気体分子の電離により生じた陽イオンは強電界により素子の表面方向に加速衝突し、スパッタリングによる素子破壊が生じるという問題がある。また、大気中の酸素は電離エネルギーより解離エネルギーが低いため、イオンの発生より先にオゾンを発生する。オゾンは人体に有害である上、その強い酸化力により様々なものを酸化することから、素子の周囲の部材にダメージを与えるという問題が存在し、これを避けるために周辺部材には耐オゾン性の高い材料を用いなければならないという制限が生じている。
【0004】
他方、上記とは別のタイプの電子放出素子として、MIM(Metal Insulator Metal)型やMIS(Metal Insulator Semiconductor)型の電子放出素子が知られている。これらは素子内部の量子サイズ効果及び強電界を利用して電子を加速し、平面状の素子表面から電子を放出させる面放出型の電子放出素子である。これらは素子内部で加速した電子を放出するため、素子外部に強電界を必要としない。従って、MIM型及びMIS型の電子放出素子においては、上記スピント型やCNT型、BN型の電子放出素子のように気体分子の電離によるスパッタリングで破壊されるという問題やオゾンが発生するという問題を克服できる。
【0005】
一般的なMIM素子では、トンネル効果を発生させるために素子内部の電子加速層を数nm程度と薄くする必要があり、ピンホールや絶縁破壊などが発生しやすく、高品質な電子加速層を作製することは非常に困難である。これに対して、特許文献1には、電子加速層として金属または半導体の微粒子を含有した絶縁体膜を有し、絶縁破壊を発生しにくく、歩留まりや再現性が改善された電子放出素子が開示されている。この特許文献1には、金属などの微粒子を分散させた絶縁体膜の作製方法として、(1)絶縁体の液体コーティング剤に金属微粒子を混合した分散液をスピンコート法で塗布する方法、(2)絶縁体の液体コーティング剤に有機金属化合物の溶液を混合した分散液を塗布後に熱分解する方法、(3)プラズマや熱CVD法等による絶縁体の真空堆積法、の3例が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−298623号公報(平成1年12月1日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された作製方法の3例のうち、(1)、(2)の方法で金属などの微粒子を分散させた絶縁体膜を作製する場合には、絶縁体膜中における金属などの微粒子の分散を制御することは困難であり、微粒子の凝集が起こりやすい。微粒子の凝集が発生すると絶縁体膜内の絶縁破壊が生じやすくなる。一方、(3)の方法では、微粒子の分散を制御することは可能であるが、プラズマCVD装置や熱CVD装置を利用することから、大面積化する際の製造コストが他の方法に比べて極端に上がってしまう。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、絶縁破壊が発生し難いと共に、容易で安価に製造でき、安定かつ良好な量の電子放出が可能な、電子放出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を行った結果、電極間に設けられる電子加速層を、絶縁体微粒子を含み、かつ導電微粒子を含まない構成とすることで、絶縁体膜に金属などの微粒子が分散されていなくても、電子放出が可能となることを見出し、本発明を行うに至った。
【0010】
本発明の電子放出素子は、上記課題を解決するために、電極基板と薄膜電極とを有し、該電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、該電極基板と薄膜電極との間で電子を加速させて、該薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子であって、上記電極基板と上記薄膜電極との間には、絶縁体微粒子を含み、かつ、導電微粒子を含まない電子加速層が設けられていることを特徴としている。
【0011】
従来のMIM型やMIS型の電子放出素子では、薄く均一な絶縁体膜を作製することは困難であり、また不均一な部分が存在すると絶縁破壊を起こしやすい。しかしながら、本発明の電子放出素子では、電子加速層は、絶縁体微粒子を含み、かつ、導電微粒子を含まない構成であるため、導電微粒子の分散を制御する必要がなく、導電微粒子の分散が不均一な部分(凝集体など)を含まない電子加速層を形成できる。そのため、絶縁破壊を起こし難い。また、絶縁体微粒子の平均粒径や絶縁体微粒子の積粒数(電子加速層の膜厚)を制御するという簡易な方法で、従来のMIMやMIS素子に比べて電子加速層を厚く形成することもできるので、安定かつ良好な量の電子放出が可能な素子を容易に得ることができる。また、電極基板と薄膜電極との間に絶縁体微粒子が含まれる構成なので、容易に電子加速層を形成できる。また、導電微粒子を含まないため、コストを下げて製造することができる。
【0012】
ここで、本発明の電子放出素子は、絶縁体微粒子の平均粒径や絶縁体微粒子の積粒数(電子加速層の膜厚)により電子放出特性を制御することが可能である。なお、従来のMIS素子で充分な電子放出量を得るためには100V程度の電圧を印加する必要があった。これに対して、本発明の電子放出素子では、20V程度で同程度の電子放出量を得ることができる。
【0013】
上記構成による電子放出素子の電子放出機構は、二つの導電体膜の間に絶縁体層が挿入された、所謂MIM型の電子放出素子における動作機構と類似すると考えられる。MIM型の電子放出素子において、絶縁体層へ電界が印加された時に、電流路が形成されるメカニズムは、一般説として、a)電極材料の絶縁体層中への拡散、b)絶縁体物質の結晶化、c)フィラメントと呼ばれる導電経路の形成、d)絶縁体物質の化学量論的なズレ、e)絶縁体物質の欠陥に起因する電子のトラップと、そのトラップ電子の形成する局所的な強電界領域等、様々な説が考えられているが、未だ明確にはなっていない。いずれの理由にせよ、本発明の上記構成によると、絶縁体層に相当する絶縁体微粒子を含む微粒子層よりなる電子加速層へ電界が印加された時にこの様な電流路の形成と、その電流の一部が電界により加速された結果、弾道電子となり、二つの導電体膜に相当する電極基板と薄膜電極のうちの一方である薄膜電極を通過して、電子が素子外へ放出されると考えられる。
【0014】
このように、本発明の電子放出素子は、絶縁破壊が発生し難いと共に、容易で安価に製造でき、安定かつ良好な量の電子放出を行うことができる。
【0015】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記絶縁体微粒子は、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいてもよい。または有機ポリマーを含んでいてもよい。上記絶縁体微粒子が、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いことにより、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。
【0016】
ここで、上記電子加速層の層厚は、絶縁体微粒子の平均粒径以上であり、1000nm以下であるのが好ましい。
【0017】
電子加速層の層厚は、薄いほど電流が流れやすくなるが、電子加速層の絶縁体微粒子が重なり合わず、電極基板上に均一に一層敷き詰められたときが最小であることから、電子加速層の最小層厚は構成する絶縁体微粒子の平均粒径とする。電子加速層の層厚が絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さい場合は、電子加速層中に絶縁体微粒子が存在しない部分が存在する状態ということであり、電子加速層として機能しない。よって、電子加速層の層厚の下限値としては上記範囲が好ましい。電子加速層の下限層厚のより好ましい値としては、絶縁体微粒子が2から3個以上積まれた状態と考える。その理由としては、電子加速層が構成粒子1個分の厚みであると、電子加速層を流れる電流量は多くなるけれども、リーク電流が多くなり、電子加速層にかかる電界が弱くなってしまうために効率良く電子を放出することができないからである。また1000nmよりも厚いと、電子加速層の抵抗が大きくなり、充分な電流が流れず、そのため十分な電子放出量を得ることができない。
【0018】
ここで、上記絶縁体微粒子の平均粒径は7〜400nmであるのが好ましい。上記したように、電子加速層の層厚は1000nm以下であることが好ましいが、絶縁体微粒子の平均粒径が400nmよりも大きくなると、電子加速層の層厚を適切な厚みに制御することが困難となる。よって、絶縁体微粒子の平均粒径は上記範囲であるのが好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであっても良く、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。
【0019】
本発明の電子放出素子では、上記絶縁体微粒子は、表面処理されていてもよい。ここで、上記表面処理は、シラノールまたはシリル基による処理であってもよい。
【0020】
電子加速層を作製する際、絶縁体微粒子を有機溶媒へ分散させて電極基板に塗布する場合に、粒子表面がシラノールおよびシリル基により表面処理されていることにより有機溶媒への分散性が向上し、絶縁体微粒子が均一に分散した電子加速層を容易に得ることができる。また、絶縁体微粒子が均一に分散することより、層厚が薄く、表面平滑性が高い電子加速層を形成でき、その上の薄膜電極を薄く形成することができる。薄膜電極は電気的導通を確保できる厚さであれば薄い程、効率よく電子を放出させることができる。
【0021】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
【0022】
本発明の電子放出装置は、上記いずれか1つの電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
【0023】
上記構成によると、電気的導通を確保して十分な素子内電流を流し、薄膜電極から弾道電子を高効率で、安定して電子を放出させることができる。ここで、上記電源部は、上記電極基板と上記薄膜電極との間に直流電圧を印加してもよい。
【0024】
さらに、本発明の電子放出装置を自発光デバイス、及びこの自発光デバイスを備えた画像表示装置に用いることにより、真空封止が不要で大気中でも長寿命な面発光を実現する自発光デバイスを提供することができる。
【0025】
また、本発明の電子放出装置を、送風装置あるいは冷却装置に用いることにより、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質の発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより高効率で冷却を行うことができる。
【0026】
また、本発明の電子放出装置を、帯電装置、及びこの帯電装置を備えた画像形成装置に用いることにより、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、被帯電体を帯電させることができる。
【0027】
また、本発明の電子放出装置を、電子線硬化装置に用いることにより、面積的に電子線硬化でき、マスクレス化が図れ、低価格化・高スループット化を実現することができる。
【0028】
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記課題を解決するために、電極基板と薄膜電極とを有し、該電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、該電極基板と薄膜電極との間で電子を加速させて、該薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子の製造方法であって、上記電極基板上に、絶縁体微粒子を含み、かつ、導電微粒子を含まない電子加速層を形成する電子加速層形成工程と、上記電子加速層上に上記薄膜電極を形成する薄膜電極形成工程と、を含むことを特徴としている。
【0029】
上記方法によると、絶縁破壊が発生し難く、真空中だけでなく大気圧中でも安定かつ良好な量の電子放出が可能な電子放出素子を容易に製造することができる。
【0030】
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記電子加速層形成工程は、上記絶縁体微粒子を溶媒に分散した分散液を得る分散工程と、上記電極基板上に上記分散液を塗布する塗布工程と、上記塗布した分散液を乾燥させる乾燥工程と、を含んでいてもよい。
【0031】
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記加速層形成工程後、または上記薄膜電極形成工程後に、前記電子放出素子を焼成する焼成工程を含んでもよい。
【0032】
上記方法によると、加速層形成工程後、または薄膜電極形成工程後に、電子放出素子を焼成することにより、電子加速層にクラックを形成させて、電子放出量の多い電子放出素子を得ることができる。
【0033】
ここで、上記焼成工程では、上記絶縁体微粒子が融解しない条件にて焼成を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の電子放出素子は、上記のように、上記電極基板と上記薄膜電極との間には、絶縁体微粒子を含み、かつ、導電微粒子を含まない電子加速層が設けられている。
【0035】
上記構成によると、本発明の電子放出素子では、電子加速層は、絶縁体微粒子を含み、かつ、導電微粒子を含まない構成であるため、導電微粒子の分散を制御する必要がなく、導電微粒子の分散が不均一な部分(凝集体など)を含まない電子加速層を形成できる。そのため、絶縁破壊を起こし難い。また、絶縁体微粒子の平均粒径や絶縁体微粒子の積粒数(電子加速層の膜厚)を制御するという簡易な方法で、従来のMIMやMIS素子に比べて電子加速層を厚く形成することもできるので、安定かつ良好な量の電子放出が可能な素子を容易に得ることができる。また、電極基板と薄膜電極との間に絶縁体微粒子が含まれる構成なので、容易に電子加速層を形成できる。また、導電微粒子を含まないため、コストを下げて製造することができる。
【0036】
ここで、本発明の電子放出素子は、絶縁体微粒子の平均粒径や絶縁体微粒子の積粒数(電子加速層の膜厚)により電子放出特性を制御することが可能である。なお、従来のMIS素子で充分な電子放出量を得るためには100V程度の電圧を印加する必要があった。これに対して、本発明の電子放出素子では、20V程度で同程度の電子放出量を得ることができる。
【0037】
このように、本発明の電子放出素子は、絶縁破壊が発生し難いと共に、容易で安価に製造でき、安定かつ良好な量の電子放出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態の電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図2】図1の電子放出素子における電子加速層付近の拡大図である。
【図3】電子放出実験の測定系を示す図である。
【図4】本発明の電子放出素子を用いた帯電装置の一例を示す図である。
【図5】本発明の電子放出素子を用いた電子線硬化装置の一例を示す図である。
【図6】本発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの一例を示す図である。
【図7】本発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの他の一例を示す図である。
【図8】本発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの更に別の一例を示す図である。
【図9】本発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスを具備する画像表示装置の一例を示す図である。
【図10】本発明に係る電子放出素子を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の一例を示す図である。
【図11】本発明の電子放出素子を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の別の一例を示す図である。
【図12】比較例の電子放出素子の表面写真を示す図である。
【図13】比較例の電子放出素子の素子内電流を測定した結果を示す図である。
【図14】(a)は焼成前の、(b)は焼成後の、電子加速層のSEM観察画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の電子放出素子の実施形態および実施例について、図1〜11を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施の形態および実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
【0040】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の電子放出素子の一実施形態の構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極3と、その間に挟まれて存在する電子加速層4とからなる。また、電極基板2と薄膜電極3とは電源7に繋がっており、互いに対向して配置された電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加できるようになっている。電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加することで、電極基板2と薄膜電極3との間、つまり、電子加速層4に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、薄膜電極3を透過および/あるいは薄膜電極3の隙間から放出させる。なお、電子放出素子1と電源(電源部)7とから電子放出装置10が成る。
【0041】
下部電極となる電極基板2は、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板、ガラス基板のような絶縁体基板、プラスティック基板等が挙げられる。例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子加速層4との界面に金属などの導電性物質を電極として付着させることによって、下部電極となる電極基板2として用いることができる。上記導電性物質としては、導電性に優れた材料を、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、その構成材料は特に問わないが、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよいが、これら材料および数値に限定されることはない。
【0042】
薄膜電極3は、電子加速層4内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また薄膜電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜55nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は55nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、薄膜電極3で弾道電子の吸収あるいは反射による電子加速層4への再捕獲が生じてしまう。
【0043】
図2は、電子放出素子1の電子加速層4付近を拡大した模式図である。電子加速層4は、図2に示すように、絶縁体微粒子5を含み、かつ、導電微粒子を含まない構成となっている。
【0044】
絶縁体微粒子5の材料はSiO、Al、TiOといったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、分散液中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、分散液の粘度が上昇するため、電子加速層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体微粒子5の材料には、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよく、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、または日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。ここで、絶縁体微粒子5は、2種類以上の異なる粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、あるいは、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。
【0045】
また絶縁体微粒子5の平均粒径は、7〜400nmであるのが好ましい。後述のように、電子加速層4の層厚は1000nm以下であることが好ましいが、絶縁体微粒子5の平均粒径が400nmよりも大きくなると、電子加速層4の層厚を適切な厚みに制御することが困難となる。よって、絶縁体微粒子の平均粒径は上記範囲であるのが好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであっても良く、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。
【0046】
絶縁体微粒子5は、表面処理されていてもよい。この表面処理は、シラノールまたはシリル基による処理であってもよい。
【0047】
電子加速層4を作製する際、絶縁体微粒子5を有機溶媒へ分散させて電極基板に塗布する場合に、粒子表面がシラノールおよびシリル基により表面処理されていることにより有機溶媒への分散性が向上し、絶縁体微粒子5が均一に分散した電子加速層4を容易に得ることができる。また、絶縁体微粒子5が均一に分散することより、層厚が薄く、表面平滑性が高い電子加速層を形成でき、その上の薄膜電極を薄く形成することができる。薄膜電極3は上記したように電気的導通を確保できる厚さであれば薄い程、効率よく電子を放出させることができる。
【0048】
絶縁体微粒子のシラノールまたはシリル基による表面処理方法として、乾式法および湿式法がある。
【0049】
乾式法としては、例えば、撹拌機中で、絶縁体微粒子を激しく撹拌しながら、シラン化合物、またはその希釈水溶液を滴下またはスプレー等を用いて噴霧した後に、加熱乾燥することにより、目的とする表面処理された絶縁体微粒子を得ることができる。
【0050】
湿式法としては、例えば、絶縁体微粒子に溶剤を加えてゾルの状態にし、シラン化合物またはその希釈水溶液を加え、表面処理を行う。次にこの表面処理された微粒子のゾルから溶媒を除去、乾燥、シーブすることにより、目的とする表面処理された絶縁体微粒子を得ることができる。このように得られた表面処理された絶縁体微粒子に再度表面処理を行っても構わない。
【0051】
上記シラン化合物としては、化学構造式RaSiX4−a(式中、aは0〜3の整数であり、Rは水素原子、又はアルキル基やアルケニル基等の有機基を表し、Xは塩素原子、メトキシ基及びエトキシ基等の加水分解性基を表す)で表される化合物を使用することができ、クロロシラン、アルコキシシラン、シラザン、特殊シリル化剤のいずれのタイプを使用することも可能である。
【0052】
具体的なシラン化合物としては、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,O―(ビストリメチルシリル)アセトアミド、N,N―ビス(トリメチルシリル)ウレア、tert―ブチルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β―(3,4―エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ―クロロプロピルトリメトキシシランが、代表的なものとして例示することができる。中でも、特にジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン等が好ましい。
【0053】
また、上記シラン化合物以外に、ジメチルシリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイル等のシリコーンオイルを用いても良い。
【0054】
電子加速層4の層厚は、絶縁体微粒子5の平均粒径以上であり、1000nm以下であるのが好ましい。電子加速層4の層厚は薄いほど電流が流れやすくなるが、電子加速層4の絶縁体微粒子5が重なり合わず、電極基板2上に均一に一層敷き詰められたときが最小であることから、電子加速層4の最小層厚は構成する絶縁体微粒子5の平均粒径とする。電子加速層4の層厚が絶縁体微粒子5の平均粒径よりも小さい場合は、電子加速層4中に絶縁体微粒子5が存在しない部分が存在する状態ということであり、電子加速層として機能しない。よって、電子加速層の層厚の下限値としては上記範囲が好ましい。電子加速層の下限層厚のより好ましい値としては、絶縁体微粒子が2から3個以上積まれた状態と考える。その理由としては、電子加速層4が構成粒子1個分の厚みであると、電子加速層4を流れる電流量は多くなるけれども、リーク電流が多くなり、電子加速層にかかる電界が弱くなってしまうために効率良く電子を放出することができないからである。また1000nmよりも厚いと、電子加速層の抵抗が大きくなり、充分な電流が流れず、そのため十分な電子放出量を得ることができない。
【0055】
なお、電子加速層4の層厚は、絶縁体微粒子5の粒径や、絶縁体微粒子5が溶媒に分散された分散液の濃度(粘度)によって制御されるが、特に後者の影響を大きく受ける。
【0056】
さらに、電子加速層4の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)で0.2μm以下であることが好ましく、薄膜電極の膜厚は、100nm以下であることが好ましい。
【0057】
後述のように、電子加速層4上にスパッタリングにて薄膜電極3を形成した場合に、凹部では薄く凸部では厚くなり、膜厚の薄い薄膜電極では、表面に凹凸が強調されて島状になり、表面の導通が取れなくなる。このような電子加速層4の表面の凹凸を吸収して、薄膜電極3の表面の導通が採れるようにするには、薄膜電極3の膜厚を厚くする必要がある。つまり、平坦な面に電極を作製する場合よりも電極を厚く作製する必要がある。このことから電子加速層の表面粗さが粗いほど薄膜電極の膜厚を厚くする必要があるが、薄膜電極の膜厚を厚くすると、薄膜電極を通過して放出される電子の量が減少するために電子放出量が減少する。
【0058】
しかし、ここで、電子加速層4の表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.2μm以下となって最適化されていると、それによって、薄膜電極3を適度な厚み100nm以下まで薄くすることができる。薄膜電極3は、膜厚が厚くなりすぎると、素子表面での導通は取れるけれども薄膜電極3を通過して放出される電子の量が減ってしまうことから、100nm以下が好ましい。
【0059】
電子放出素子1において、電子加速層4は、上記したように、絶縁体微粒子5を含み、かつ、導電微粒子を含まない構成である。
【0060】
従来のMIM型やMIS型の電子放出素子では、薄く均一な絶縁体膜を作製することは困難であり、また不均一な部分が存在すると絶縁破壊を起こしやすい。しかしながら、電子放出素子1では、上記のように、電子加速層4は、絶縁体微粒子5を含み、かつ、導電微粒子を含まない構成であるため、導電微粒子の分散を制御する必要がなく、導電微粒子の分散が不均一な部分(凝集体など)を含まない電子加速層を形成できる。そのため、絶縁破壊を起こし難い。また、電子放出素子1は、絶縁体微粒子の平均粒径や絶縁体微粒子の積粒数(電子加速層の膜厚)を制御するという簡易な方法で、従来のMIMやMIS素子に比べて電子加速層を厚く形成することもできるので、安定かつ良好な量の電子放出が可能な素子を容易に得ることができる。また、電極基板2と薄膜電極3との間に絶縁体微粒子5が含まれる構成であるため、容易に電子加速層を形成できる。また、導電微粒子を含まないため、コストを下げて製造することができる。
【0061】
ここで、電子放出素子1は、絶縁体微粒子5の平均粒径や絶縁体微粒子5の積粒数(電子加速層4の膜厚)により電子放出特性を制御することが可能である。なお、従来のMIS素子で充分な電子放出量を得るためには100V程度の電圧を印加する必要があった。これに対して、電子放出素子1では、20V程度で同程度の電子放出量を得ることができる。
【0062】
次に、本実施形態の電子放出素子1の電子放出機構について説明する。電子放出素子1の電子放出メカニズムは、明確になっていないが、前述したa)〜e)の5つの導電経路形成のメカニズムから、例えばe)の解釈を用いると、次のように説明できる。電極基板2と薄膜電極3との間に電圧が印加されると、電極基板2から絶縁体微粒子5の表面に電子が移る。絶縁体微粒子5の内部は高抵抗であることから電子は絶縁体微粒子5の表面を伝導していく。このとき、絶縁体微粒子5の表面の不純物や絶縁体微粒子5が酸化物の場合に発生することのある酸素欠陥、あるいは絶縁体微粒子5間の接点において、電子がトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。その結果、電子加速層4の薄膜電極3近傍では印加電圧とトラップされた電子の作る電界が合わさって局所的に高電界領域が形成され、その高電界によって電子が加速され、薄膜電極3から該電子が放出される。
【0063】
なお、電源7は、電極基板2と薄膜電極3との間に直流電圧を印加してもよい。
【0064】
以上のように、電子放出素子1は、絶縁破壊が発生し難いと共に、容易に製造でき、安定かつ良好な量の電子放出を行うことができる。
【0065】
なお、電子放出素子1は、絶縁体微粒子5を含み、かつ導電微粒子を含まない電子加速層4の上に、塩基性分散剤が離散的に配置されている構造であってもよい。絶縁体微粒子5を含み、かつ導電微粒子を含まない電子加速層4の上に、塩基性分散剤が離散的に配置されていると、その配置箇所が電子放出部となる。よって、このように塩基性分散剤が離散的に配置されている電子放出素子1は、電子放出部がパターニングされた素子となっている。そのため、電子放出部の位置制御が可能となり、電子加速層4の上に形成される薄膜電極の構成材料が放出される電子により消失する現象を防ぐことができる。また、各電子放出部からの電子放出量を独立して制御することができる。
【0066】
次に、電子放出素子1の製造方法の一実施形態について説明する。まず、絶縁体微粒子5を溶媒に分散させた分散液を得る(分散工程)。ここで用いられる溶媒としては、絶縁体微粒子5を分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール等を用いることができる。
【0067】
そして、上記のように作成した絶縁体微粒子の分散液を電極基板2上にスピンコート法を用いて塗布し(塗布工程)、電子加速層4を形成する(電子加速層形成工程)。スピンコート法による成膜、乾燥(乾燥工程)、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。電子加速層4は、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法でも形成することができる。
【0068】
電子加速層4の形成後、電子加速層4上に薄膜電極3を成膜する(薄膜電極形成工程)。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。また、薄膜電極3は、例えば、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等を用いて成膜してもよい。
【0069】
ここで、電子加速層形成工程後または薄膜電極形成工程後に電子放出素子の焼成を行ってもよい(焼成工程)。焼成を行うことにより、電子加速層4にクラックを形成させ、電子放出量を多い電子放出素子1を得ることができる。
【0070】
焼成条件としては、絶縁体微粒子5の粒子径に依存し、絶縁体微粒子5が完全に溶融しない温度、時間が望ましい。例えば、絶縁体微粒子5がSiOから成る場合では100〜1000℃が望ましい。また、絶縁体微粒子5の粒子径が小さいほど完全に溶融する温度が低くなるため、焼成温度を低くすることが望ましい。
【0071】
絶縁体微粒子5が完全に溶融すると、絶縁膜となってしまうために電子加速層として機能しない。
【0072】
焼成工程は、電子加速層4上に薄膜電極3を形成する前後のどちらに入っても構わない。しかし、薄膜電極3形成後に焼成する場合、焼成温度が高いと、薄膜電極3が電子加速層4から剥がれてしまい、素子として機能しなくなる可能性がある。
【0073】
なお、薄膜電極3が電子加速層4から剥離する温度は、絶縁体微粒子5と薄膜電極3とを構成する材料それぞれの熱膨張率に依存する。熱膨張率の差が大きいほど加熱した際に剥離が発生しやすくなるため、焼成後に薄膜電極を作製する方が望ましい。
【0074】
焼成することによって電子放出量が増加するメカニズムは定かではないが、下記のようなメカニズムではないかと考える。
【0075】
焼成することにより、絶縁体微粒子5が熱膨張し、また粒子間で結合することによる歪みによって、電子加速層4にクラックが発生する。このクラックにより、電子が放出されやすくなり電子放出量が増加すると考える。ここで、図14(a)に電子加速層4の焼成前のSEM観察画像を示す。また、図14(b)に焼成後のSEM観察画像を示す。これらSEM観察画像は、後述の実施例7の電子放出素子の電子加速層4の画像である。これらから、焼成することで電子加速層4にクラックが発生していることがわかる。
【0076】
以上により電子放出素子1が製造される。
【0077】
(実施例)
以下の実施例では、本発明に係る電子放出素子を用いて電流測定した実験について説明する。なお、この実験は実施の一例であって、本発明の内容を制限するものではない。
【0078】
まず実施例1〜5の電子放出素子と比較例1の電子放出素子を以下のように作製した。そして、作製した実施例1〜4と比較例1の電子放出素子について、図3に示す実験系を用いて単位面積あたりの電子放出電流の測定実験を行った。図3の実験系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ9を挟んで対向電極8を配置させる。そして、電子放出素子1および対向電極8は、それぞれ、電源7に接続されており、電子放出素子1にはV1の電圧、対向電極8にはV2の電圧が印加されるようになっている。このような実験系を真空中に配置して、V1を段階的に上げていき、電子放出実験を行った。また、実験では、絶縁体スペーサ9を挟んで、電子放出素子と対向電極との距離は5mmとした。また、対抗電極への印加電圧V2=100Vとした。
【0079】
(実施例1)
溶媒としてエタノールを3mL入れた試薬瓶を4つ用意し、絶縁体微粒子5としてヘキサメチルジシラザン(HMDS)で表面処理をしたシリカ粒子(平均粒径110nm、比表面積30m/g)を、それぞれ0.15g,0.25g,0.35g,0.50g投入し、各試薬瓶を超音波分散器にかけ、濃度の違うシリカ粒子分散液A,B,C,Dを作製した。
【0080】
次に、電極基板2として25mm角のSUS基板を4つ用意し、それぞれのSUS基板上に、シリカ粒子分散液A,B,C,Dを滴下し、スピンコート法を用いて電子加速層A,B,C,Dを形成した。スピンコート法による成膜条件は、500rpmにて5秒間回転している間に、上記シリカ粒子分散液A,B,C,Dを基板表面へ滴下し、続いて3000rpmにて10秒間の回転を行う、ものとした。この条件での成膜を2度繰り返し、SUS基板上に微粒子層を2層堆積させた後、室温で自然乾燥させた。
【0081】
電子加速層A,B,C,Dの表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、実施例1の電子放出素子A,B,C,Dを得た。成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.014cmとした。
【0082】
この電子放出素子A,B,C,Dの電子加速層の層厚はレーザー顕微鏡(VK−9500、キーエンス社製)を用いて測定した。また、この電子放出素子A,B,C,Dの電子放出電流を測定した。
【0083】
電子放出素子Aは、電子加速層4の層厚は0.2μmであり、1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極3への印加電圧V1=12Vにおける電子放出電流は3.5×10−4mA/cmであった。この素子はV1=13V以上においては電子放出が途絶えてしまった。この原因は定かではないが、電子加速層の層厚が薄いためにリーク電流が多く発生したためと考える。
【0084】
電子放出素子Bは、電子加速層4の層厚は0.3μmであり、1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極3への印加電圧V1=25Vにおける電子放出電流は0.1mA/cmであった。
【0085】
電子放出素子Cは、電子加速層4の層厚は0.4μmであり、1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極3への印加電圧V1=20Vにおける電子放出電流は1.0×10−2mA/cmであった。
【0086】
電子放出素子Dは、電子加速層4の層厚は0.8μmであり、1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極3への印加電圧V1=15Vにおける電子放出電流は4.3×10−3mA/cmであった。
【0087】
なお、25mm角のSUS基板上に、1mm×1.4mmの薄膜電極3を30個作製し、つまり、電子放出素子を30個作製して、電子放出電流を測定した。
【0088】
(実施例2)
試薬瓶を4つ用意し、平均粒径12nmのシリカ粒子(比表面積200m/g)、上記平均粒径12nmのシリカ粒子の表面をジメチルジクロロシラン(DDS)処理したDDS処理粒子、上記平均粒径12nmのシリカ粒子の表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)処理したHMDS処理粒子、上記平均粒径12nmのシリカ粒子の表面をシリコーンオイル処理したシリコーンオイル処理粒子を、それぞれ0.15g、別々の試薬瓶に投入し、溶媒としてエタノールを6mLそれぞれの試薬瓶に加えて超音波分散器にかけて、シリカ粒子分散液E,F,G,Hを作製した。
【0089】
シリカ粒子分散液E,F,G,Hを用いて、実施例1と同様に実施例2の電子放出素子E,F,G,Hを作製した。
【0090】
これら電子放出素子E,F,G,Hの電子加速層の層厚を、レーザー顕微鏡(VK−9500、キーエンス社製)を用いて測定したところ、電子放出素子Eは0.6−1.2μm、電子放出素子Fは0.8μm、電子放出素子Gは0.7μm、電子放出素子Hは1.4μmであった。ここで電子放出素子Eは電子加速層の層厚の厚い部分と薄い部分とが存在した。
【0091】
これら電子放出素子E,F,G,Hの電子放出電流を1×10−8ATMの真空中にて測定した結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
(実施例3)
試薬瓶に溶媒としてエタノールを3mL入れ、ジメチルジクロロシラン(DDS)で表面処理をしたシリカ粒子(平均粒径7nm、比表面積300m/g)を0.06g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、シリカ粒子分散液Iを作製した。
【0094】
このシリカ粒子分散液Iを用いて、実施例1と同様に実施例3の電子放出素子Iを作製した。この電子放出素子Iの電子加速層の層厚を、レーザー顕微鏡(VK−9500、キーエンス社製)を用いて測定したところ、0.5μmであった。また、電子放出素子Iは、1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極3への印加電圧V1=15Vにおける電子放出電流が3.2×10−3mA/cmであった。
【0095】
(実施例4)
試薬瓶に溶媒としてエタノールを3mL入れ、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)で表面処理をしたシリカ粒子(平均粒径200nm、比表面積30m/g)を0.25g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、シリカ粒子分散液Jを作製した。
【0096】
このシリカ粒子分散液Jを用いて、実施例1と同様に実施例4の電子放出素子Jを作製した。この電子放出素子Jの電子加速層の層厚を、レーザー顕微鏡(VK−9500、キーエンス社製)を用いて測定したところ、0.4μmであった。また、電子放出素子Jは1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極3への印加電圧V1=15Vにおける電子放出電流が0.3mA/cmであった。
【0097】
(実施例5)
試薬瓶に溶媒として、トルエンを3mL入れ、絶縁体微粒子5として、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のシリコーン樹脂微粒子(トスパール、平均粒径0.7μm)を0.15g投入した。この試薬瓶を超音波分散器にかけ、シリコーン微粒子の分散を行ってシリコーン微粒子分散液Kを得た。
【0098】
このシリコーン微粒子分散液Kを用いて、電極基板2として25mm角のSUS基板上に、スピンコート法により、実施例1と同様に、電子加速層Kを形成した。そして、電子加速層Kの表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極を成膜することにより、実施例5の電子放出素子Kを得た。成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は70nm、同面積は0.014cmとした。
【0099】
この電子放出素子Kの電子加速層の層厚を、レーザー顕微鏡(VK−9500、キーエンス社製)を用いて測定したところ、1.0μmであった。
【0100】
この電子放出素子Kは、1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極への印加電圧V1=20Vにおける電子放出電流は4.0×10−6mA/cmであった。
【0101】
(実施例6)
試薬瓶に溶媒としてエタノールを3mL入れ、絶縁体微粒子5としてヘキサメチルジシラザン(HMDS)で表面処理をしたシリカ粒子(平均粒径110nm、比表面積30m/g)を0.25g投入した。この試薬瓶を超音波分散器にかけ、シリカ粒子分散液Lを作製した。
【0102】
次に、電極基板2として25mm角のSUS基板を用意し、このSUS基板上に、シリカ粒子分散液Lを滴下し、スピンコート法を用いて電子加速層を形成した。スピンコート法による成膜条件は、500rpmにて5秒間回転している間に、上記シリカ粒子分散液を基板表面へ滴下し、続いて3000rpmにて10秒間の回転を行う、ものとした。この成膜条件を2度繰り返し、SUS基板上に電子加速層を2層堆積させた後、室温で自然乾燥させた。その後、電子加速層を形成した電極基板を、電気炉を用いて300℃で1時間焼成した。
【0103】
上記焼成後、電子加速層の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、実施例6の電子放出素子を得た。成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.01cmとした。
【0104】
この実施例6の電子放出素子は、1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極3への印加電圧V1=20Vにおける電子放出電流は2.3×10−1mA/cmであった。
【0105】
(実施例7)
電気炉を用いた焼成条件を100℃で1時間とし、焼成前に薄膜電極3を形成した以外は実施例6と同様にして、実施例7の電子放出素子を作製した。
【0106】
この実施例7の電子放出素子は、1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極3への印加電圧V1=20Vにおける電子放出電流は3.6×10−2mA/cmであった。
【0107】
(実施例8)
電気炉を用いた焼成条件を600℃で1時間とした以外は実施例6と同様にして、実施例8の電子放出素子を作製した。
【0108】
この実施例8の電子放出素子は、1×10−8ATMの真空中において電子放出電流を測定したところ、薄膜電極3への印加電圧V1=20Vにおける電子放出電流は6.5×10−2mA/cmであった。
【0109】
さらに、この実施例8の電子放出素子について、薄膜電極3への印加電圧V1=25V、対向電極への印加電圧V2=200V、電子放出素子と対向電極との距離1mmとして、大気中において電子放出電流を測定したところ、電子放出電流は4.9×10−5mA/cmであった。
【0110】
なお、実施例8と同様の条件で薄膜電極3作製後に焼成を行った電子放出素子では、薄膜電極3の剥離が確認され、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加しても電流が流れず、電子放出も確認されなかった。
【0111】
(比較例)
10mLの試薬瓶に溶媒としてトルエン3.0g入れ、その中に絶縁体微粒子5として0.25gのシリカ微粒子(直径50nmのフュームドシリカC413(キャボット社)であり、表面はヘキサメチルシジラザン処理されている)を投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけて分散させた。約10分後、導電微粒子として0.065gの銀ナノ粒子(平均粒径10nm、うち絶縁被膜アルコラート1nm厚(応用ナノ研究所))を追加投入し、超音波分散処理を約20分行い、絶縁体微粒子/導電微粒子分散液を作製した。ここでシリカ微粒子の全質量に対する銀ナノ粒子の占める割合は、約20%である。
【0112】
次に電極基板2として、30mm角のSUS基板を用意し、該SUS基板表面に、作成した絶縁体微粒子/導電微粒子分散液を滴下し、スピンコート法を用いて、電子加速層を形成した。スピンコート法による成膜条件は、500rpmにて5秒間回転している間に、上記シリカ粒子分散液Aを基板表面へ滴下し、続いて3000rpmにて10秒間の回転を行う、ものとした。この条件での成膜を2度繰り返し、SUS基板上に微粒子層を2層堆積させた後、室温で自然乾燥させた。
【0113】
SUS基板の表面に電子加速層を形成後、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜した。成膜材料として材料には金を使用し、膜厚は45nm、同面積は0.071cmの円形とした。このようにすることで、電子加速層4に導電微粒子を含む比較例の電子放出素子を得た。
【0114】
図12に、比較例の電子放出素子の表面写真を示す。図12中の丸いものが、薄膜電極3であり、リング状のものは、薄膜電極3が設けられていない電子加速層4の表面である。また、参照符号111にて示す部材は、薄膜電極3に接触して電圧を印加するコンタクトプローブである。図12より、比較例の電子放出素子の表面が荒れていることが分かる。
【0115】
上記のように作製した比較例の電子放出素子について、図3に示す測定系を用いて電子放出実験を行った。
【0116】
図13に、比較例の電子放出素子の素子内電流I1を測定した結果と、電子放出素子から放出された電子放出電流I2を測定した結果を示す。印加電圧V1は、0〜40Vまで段階的に上げ、印加電圧V2は100Vとした。
【0117】
図13よりわかるように、比較例の電子放出素子では、十分な素子内電流I1を流すことができなくなっている。これは、素子表面が微粒子の再凝集により荒れてしまったため、電子加速層が十分な導電状態を維持できないことと、主に銀ナノ粒子が凝集したことで電子加速層をなす微粒子層内の電気伝導特性が低下してしまったことによるものと考えられる。
【0118】
また、印加電圧V1=35V前後にスパイク状の電子放出電流I2が測定されている。これは、電子加速層を構成する絶縁体微粒子に蓄積した電荷が、一気に絶縁破壊を起こしたことによるものである。このような波形が生じた場合、電子加速層は物理的に破壊を生じている。このように、電子加速層をなす微粒子層において、導電微粒子の分散状態の悪い素子では、絶縁破壊が生じ易いことが分かる。
【0119】
これら実施例および比較例から、電子加速層が、絶縁体微粒子を含み、かつ、導電微粒子を含まない構成であると、安定かつ良好な量の電子放出が可能でることがわかる。
【0120】
なお、実施例2の結果について考察したところ、下記の(1)〜(3)の可能性があると考える。
(1)表面処理が施されていない絶縁体微粒子を用いると、電子加速層中における絶縁体微粒子の分散状態が悪くなる。つまり、絶縁体微粒子が均一に分散せず、絶縁体微粒子の凝集体が存在することになる。絶縁体微粒子の凝集体が存在すると、均一に微分散したものと比較して、絶縁体微粒子間の隙間が多くなり、電子加速層の抵抗が高くなる。
(2)表面処理が施されていない絶縁体微粒子を用いると、電子加速層中における絶縁体微粒子の分散状態が悪くなる。つまり、絶縁体微粒子が均一に分散せず、絶縁体微粒子の凝集体が存在することになる。絶縁体微粒子の凝集体が存在すると、均一に微分散したものと比較して、電子加速層の層厚が厚くなり、また電子加速層の層厚に薄い部分と厚い部分が生じる。層厚の薄い部分は抵抗が低く、厚い部分は抵抗が高くなるため、電子加速層の抵抗が高くなる。
(3)表面処理が施された絶縁体微粒子を用いると、表面処理剤が導電微粒子や塩基性分散剤のように働いて、電子伝達の加速に貢献している可能性が高い。しかし、表面処理が施されていない絶縁体微粒子を用いると、表面処理剤による電子伝達加速現象が生じないため、電子加速層の抵抗が高くなる。
【0121】
〔実施の形態2〕
図4に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を利用した本発明に係る帯電装置90の一例を示す。帯電装置90は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10から成り、感光体11を帯電させるものである。本発明に係る画像形成装置は、この帯電装置90を具備している。本発明に係る画像形成装置において、帯電装置90を成す電子放出素子1は、被帯電体である感光体11に対向して設置され、電圧を印加することにより、電子を放出させ、感光体11を帯電させる。なお、本発明に係る画像形成装置では、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いればよい。ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子1は、感光体11から、例えば3〜5mm隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子1への印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子1の電子加速層の構成は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。
【0122】
帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、放電を伴わず、従って帯電装置90からのオゾンの発生は無い。オゾンは人体に有害であり環境に対する各種規格で規制されているほか、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば感光体11やベルトなどを酸化し劣化させてしまう。このような問題を、本発明に係る電子放出装置10を帯電装置90に用い、また、このような帯電装置90を画像形成装置が有することで、解決することができる。また、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、帯電装置90は、効率よく帯電できる。
【0123】
さらに帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、面電子源として構成されるので、感光体11の回転方向へも幅を持って帯電を行え、感光体11のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
【0124】
〔実施の形態3〕
図5に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る電子線硬化装置100の一例を示す。電子線硬化装置100は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10と、電子を加速させる加速電極21とを備えている。電子線硬化装置100では、電子放出素子1を電子源とし、放出された電子を加速電極21で加速してレジスト(被硬化物)22へと衝突させる。一般的なレジスト22を硬化させるために必要なエネルギーは10eV以下であるため、エネルギーだけに注目すれば加速電極は必要ない。しかし、電子線の浸透深さは電子のエネルギーの関数となるため、例えば厚さ1μmのレジスト22を全て硬化させるには約5kVの加速電圧が必要となる。
【0125】
従来からある一般的な電子線硬化装置は、電子源を真空封止し、高電圧印加(50〜100kV)により電子を放出させ、電子窓を通して電子を取り出し、照射する。この電子放出の方法であれば、電子窓を透過させる際に大きなエネルギーロスが生じる。また、レジストに到達した電子も高エネルギーであるため、レジストの厚さを透過してしまい、エネルギー利用効率が低くなる。さらに、一度に照射できる範囲が狭く、点状で描画することになるため、スループットも低い。
【0126】
これに対し、電子放出装置10を用いた本発明に係る電子線硬化装置は、大気中動作が期待でき、真空封止の必要がない。また、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、電子線硬化装置は、効率よく電子線を照射できる。また、電子透過窓を通さないのでエネルギーのロスも無く、印加電圧を下げることができる。さらに面電子源であるためスループットが格段に高くなる。また、パターンに従って電子を放出させれば、マスクレス露光も可能となる。
【0127】
〔実施の形態4〕
図6〜8に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
【0128】
図6に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置と、さらに、電子放出素子1と離れ、対向した位置に、基材となるガラス基板34、ITO膜33、および蛍光体32が積層構造を有する発光部36と、から成る。
【0129】
蛍光体32としては赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適しており、例えば、赤色ではY:Eu、(Y,Gd)BO:Eu、緑色ではZnSiO:Mn、BaAl1219:Mn、青色ではBaMgAl1017:Eu2+等が使用可能である。ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に、蛍光体32を成膜する。蛍光体32の厚さ1μm程度が好ましい。また、ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
【0130】
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
【0131】
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体へ向けて加速する必要があり、その場合は電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33の間に、電子を加速する電界を形成するための電圧印加するために、電源35を設けるとよい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
【0132】
図7に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7、さらに、蛍光体32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に蛍光体32が配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
【0133】
図8に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7を有する電子放出装置10を備え、さらに、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子5に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子5として球状シリカ粒子(平均粒径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均粒径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
【0134】
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32’に衝突させて発光させる。電子放出素子1は電子放出効率が高いため、自発光デバイス31,31’,31”は、効率よく発光を行える。なお、電子放出装置10を用いた本発明に係る自発光デバイス31,31’,31”は、大気中動作が期待できるが、真空封止すれば電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
【0135】
さらに、図9に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図9に示す画像表示装置140は、図8で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
【0136】
また、本発明に係る画像表示装置として、図6に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。
【0137】
〔実施の形態5〕
図10及び図11に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る送風装置の例をそれぞれ示す。以下では、本願発明に係る送風装置を、冷却装置として用いた場合について説明する。しかし、送風装置の利用は冷却装置に限定されることはない。
【0138】
図10に示す送風装置150は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10からなる。送風装置150において、電子放出素子1は、電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。冷却させる場合、電子放出素子1に印加する電圧は、18V程度が好ましく、この電圧で、雰囲気下に、例えば、単位時間当たり1μA/cmの電子を放出することが好ましい。
【0139】
図11に示す送風装置160は、図10に示す送風装置150に、さらに、送風ファン42が組み合わされている。図11に示す送風装置160は、電子放出素子1が電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出し、さらに、送風ファン42が被冷却体41に向かって送風することで電子放出素子から放出された電子を被冷却体41に向かって送り、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。この場合、送風ファン42による風量は、0.9〜2L/分/cmとするのが好ましい。
【0140】
ここで、送風によって被冷却体41を冷却させようとするとき、従来の送風装置あるいは冷却装置のようにファン等による送風だけでは、被冷却体41の表面の流速が0となり、最も熱を逃がしたい部分の空気は置換されず、冷却効率が悪い。しかし、送風される空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含まれていると、被冷却体41近傍に近づいたときに電気的な力によって被冷却体41表面に引き寄せられるため、表面近傍の雰囲気を入れ替えることができる。ここで、本発明に係る送風装置150,160では、送風する空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含んでいるので、冷却効率が格段に上がる。さらに、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、送風装置150,160は、より効率よく冷却することができる。送風装置150および送風装置160は、大気中動作が期待できる。
【0141】
本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明に係る電子放出素子は、容易に製造でき、絶縁破壊が発生し難いと共に、安定かつ良好な量の電子放出が可能である。よって、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の帯電装置や、電子線硬化装置、或いは発光体と組み合わせることにより画像表示装置、または放出された電子が発生させるイオン風を利用することにより冷却装置等に、好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0143】
1 電子放出素子
2 電極基板
3 薄膜電極
4 電子加速層
5 絶縁体微粒子
7 電源(電源部)
8 対向電極
9 絶縁体スペーサ
10 電子放出装置
11 感光体
21 加速電極
22 レジスト(被硬化物)
31,31’,31” 自発光デバイス
32,32’ 蛍光体(発光体)
33 ITO膜
34 ガラス基板
35 電源
36 発光部
41 被冷却体
42 送風ファン
90 帯電装置
100 電子線硬化装置
140 画像表示装置
150 送風装置
160 送風装置
330 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基板と薄膜電極とを有し、該電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、該電極基板と薄膜電極との間で電子を加速させて、該薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子であって、
上記電極基板と上記薄膜電極との間には、絶縁体微粒子を含み、かつ、導電微粒子を含まない電子加速層が設けられていることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
上記絶縁体微粒子は、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、または有機ポリマーを含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
上記電子加速層の層厚は、絶縁体微粒子の平均粒径以上であり、1000nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
上記絶縁体微粒子の平均粒径は、7〜400nmであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項5】
上記絶縁体微粒子は、表面処理されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項6】
上記表面処理は、シラノールまたはシリル基による処理であることを特徴とする請求項5に記載の電子放出素子。
【請求項7】
上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴とする電子放出装置。
【請求項9】
上記電源部は、上記電極基板と上記薄膜電極との間に直流電圧を印加することを特徴とする請求項8に記載の電子放出装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の電子放出装置と発光体とを備え、該電子放出装置から電子を放出して該発光体を発光させることを特徴とする自発光デバイス。
【請求項11】
請求項10に記載の自発光デバイスを備えたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項12】
請求項8または9に記載の電子放出装置を備え、該電子放出装置から電子を放出して送風することを特徴とする送風装置。
【請求項13】
請求項8または9に記載の電子放出装置を備え、該電子放出装置から電子を放出して被冷却体を冷却することを特徴とする冷却装置。
【請求項14】
請求項8または9に記載の電子放出装置を備え、該電子放出装置から電子を放出して感光体を帯電することを特徴とする帯電装置。
【請求項15】
請求項14に記載の帯電装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項16】
請求項8または9に記載の電子放出装置を備え、該電子放出装置から電子を放出して被硬化物を硬化させることを特徴とする電子線硬化装置。
【請求項17】
電極基板と薄膜電極とを有し、該電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、該電極基板と薄膜電極との間で電子を加速させて、該薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子の製造方法であって、
上記電極基板上に、絶縁体微粒子を含み、かつ、導電微粒子を含まない電子加速層を形成する電子加速層形成工程と、
上記電子加速層上に上記薄膜電極を形成する薄膜電極形成工程と、を含むことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項18】
上記電子加速層形成工程は、
上記絶縁体微粒子を溶媒に分散した分散液を得る分散工程と、
上記電極基板上に上記分散液を塗布する塗布工程と、
上記塗布した分散液を乾燥させる乾燥工程と、
を含むことを特徴とする請求項17に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項19】
上記加速層形成工程後、または上記薄膜電極形成工程後に、前記電子放出素子を焼成する焼成工程を含むことを特徴とする請求項18に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項20】
上記焼成工程では、上記絶縁体微粒子が融解しない条件にて焼成を行うことを特徴とする請求項19に記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−3521(P2011−3521A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213572(P2009−213572)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】