説明

電極の作製方法

【課題】金属ドナードープとは全く異なる観点から、電子注入機能および/または正孔注入機能を実現した有機デバイス用電極を提供することを目的とし、また、安定した均質な電極を作製できる電極の形成方法を提供することを目的とする。
【解決する手段】微粒子状の導電性無機化合物からなる導電性微粒子と、π共役系有機化合物とを同一の溶媒に分散させる第1の工程と、前記導電性微粒子と前記π共役系有機化合物とを分散させた前記溶媒を電極形成面へ湿式塗布する第2の工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物の性質を利用したEL素子やFETなどの有機デバイスに用いる有機デバイス用電極と、その有機デバイス用電極を有する電子機器、およびその有機デバイス用電極の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機デバイスにおける電極は、デバイスの機能を発現する有機化合物と配線等の無機化合物とを接続する接点になるため、非常に重要であり、様々な工夫がなされている。例えば、有機EL素子の電子注入電極としては、アルカリ金属等の仕事関数の小さい金属をドーピングする技術が有効である(例えば、特開平10−270171号公報参照)。この技術は、金属をドナーとして作用させ、その金属と有機化合物とが電荷移動錯体を形成することにより電子注入性が向上するというものである。したがって、その金属と有機化合物との比率はモル比で1:1程度が最適とされている(例えば、文献J.キドほか,「金属ドープによる電子注入層を有する高輝度有機EL素子」,アプライド・フィジクス・レターズ,アメリカ,インスティテュート・オブ・フィジックス,1998年11月,vol.70,No.2,p.152−154、参照)。
【0003】
上記のような有機デバイス用電極は、有機化合物と金属とを抵抗加熱によりそれぞれ蒸発させ、気相中で混合して蒸着する方法(いわゆる共蒸着法)で作製する。この時、有機化合物と金属との比率は、水晶振動子でモニターするため、重量比でモニターすることになる。通常、有機デバイスで用いる有機化合物は分子量が数百以上(例えば、上記文献で用いているAlqの分子量は459)のものが多く、一方、金属の原子量はそれに比べると非常に小さい(例えば、上記文献で用いているLiの原子量は7)。したがって、金属と有機化合物との比率をモル比で1:1程度にする場合、重量比での金属の比率は極めて小さくなる。
【0004】
このことから、金属と有機化合物とが電荷移動錯体を形成するように有機デバイス用の電極を作製する場合、金属の蒸着レートの制御性が悪く、安定して均質なデバイスを作製することが困難であった。また、特に、金属以外の半導性あるいは導電性の無機化合物(半導性・導電性の酸化物等)の多くは蒸気圧が低く、抵抗加熱で蒸発させることが困難であるため、これらをドナーとして有機化合物と混合させた有機デバイス用電極を形成することは出来なかった。
【0005】
本発明は、金属ドナードープとは全く異なる観点から、電子注入機能および/または正孔注入機能を実現した有機デバイス用電極を提供することを目的としている。また、本発明に係る有機デバイス用電極の特質から、安定した均質な電極を作製できる有機デバイス用電極の形成方法も提供することを目的としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、有機化合物の性質を利用した機能素子である有機デバイスに用いる有機デバイス用電極において、単一もしくは複数種類の有機化合物からなるマトリクスに、導電性無機化合物を微粒子状とした導電性微粒子を分散させた複合材料を用いたことを特徴とする。
【0007】
また、上記発明の有機デバイス用電極において、上記導電性微粒子の粒径を、1〔nm〕〜100〔nm〕とすることが望ましい。
【0008】
また、上記発明の有機デバイス用電極において、上記導電性微粒子の導電率は、10−5〔S/m〕以上とすることが望ましい。
【0009】
さらに、上記発明に係る有機デバイス用電極を電子機器に搭載しても良い。電子機器としては、携帯電話、パーソナルコンピュータ、モニタ、ビデオカメラ、ディジタルカメラ、ゴーグル型ディスプレイ、ナビゲーションシステム、オーディオコンポ、カーオーディオ、ゲーム機器、モバイルコンピュータ、携帯型ゲーム機、電子書籍、記録媒体を備えた画像再生装置などが挙げられる。
【0010】
また、第2の発明は、有機化合物の性質を利用した機能素子である有機デバイスに用いる有機デバイス用電極の形成方法において、有機化合物と微粒子状の導電性無機化合物である導電性微粒子とを同一の溶媒に分散させ、これを有機デバイス用の電極形成面へ湿式塗布することで、有機デバイス用電極を形成するようにしたことを特徴とする。
【0011】
更に、第3の発明は、有機化合物の性質を利用した機能素子である有機デバイスに用いる有機デバイス用電極の形成方法において、蒸着可能な有機化合物と、蒸着可能な導電性無機化合物とを、その重量比が4:1〜1:4の範囲となるように制御しつつ有機デバイス用電極形成面へ共蒸着させることで、過剰な導電性無機化合物が微粒子状となった導電性微粒子を有機化合物からなるマトリクスに分散させて有機デバイス用電極を形成するようにしたことを特徴とする。
【0012】
上記のように構成した本発明に係る有機デバイス用電極によれば、有機化合物のマトリクスに分散された導電性微粒子により電子注入機能や正孔注入機能を実現できるので、有機デバイスへの適用が容易で、極めて実用的価値の高いものとなる。さらに、上記の発明に係る有機デバイス用電極を搭載することにより汎用性した電子機器を提供できる。
【0013】
上記第2の本発明に係る有機デバイス用電極の形成方法によれば、導電性微粒子の粒径や混合量を予め制御できるため、作製が容易で品質がばらつかない。加えて、蒸着が困難な無機化合物(蒸気圧の低い無機化合物)を導電性微粒子として用いることができるため、導電性微粒子の素材選択の幅が広がるという利点もある。
【0014】
上記第3の発明に係る有機デバイス用電極の形成方法によれば、無機化合物の蒸着時の重量レートが有機化合物のそれに近くなるため、重量比での制御性(水晶振動子モニターでの制御性)が高まるという利点がある。更に、蒸着成分である有機化合物と導電性無機化合物以外に不純物が存在しない真空容器中で、導電性無機化合物の微粒子と有機化合物との極めて清浄な接触界面を形成できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る有機デバイス用電極の概略断面図である。
【図2】第2図(a)は、本発明に依る電子を注入する機能を有する有機デバイス用電極の概略断面図である。第2図(b)は、本発明に依る正孔を注入する機能を有する有機デバイス用電極の概略断面図である。第2図(c)は、本発明に依る電子と正孔を注入する機能を有する有機デバイス用電極の概略断面図である。
【図3】第3図は、有機デバイス用電極の断面TEM写真である。
【図4】第4図(a)は、本発明に係る有機デバイス用電極を用いた有機EL素子の一実施例を示す概略構成図である。第4図(b)は、本発明に係る有機デバイス用電極を用いた有機EL素子の他の実施例を示す概略構成図である。
【図5】第5図は、本発明に係る有機デバイス用電極を適用した有機EL素子の特性図である。
【図6】第6図(a)は、本発明に係る有機デバイス用電極を用いた有機電界効果トランジスタの一実施例を示す概略構成図である。第6図(b)は、本発明に係る有機デバイス用電極を用いた有機電界効果トランジスタの他の実施例を示す概略構成図である。
【図7】第7図(a)は、本発明に係わる有機デバイス用電極を搭載した表示装置の一実施例を示す概略図である。第7図(b)は、本発明に係わる有機デバイス用電極を搭載したノート型パーソナルコンピュータの一実施例を示す概略図である。第7図(c)は、本発明に係わる有機デバイス用電極を搭載したモバイルコンピュータの一実施例を示す概略図である。
【図8】第8図(d)は、本発明に係わる有機デバイス用電極を搭載した携帯型の画像再生装置の一実施例を示す概略図である。第8図(e)は、本発明に係わる有機デバイス用電極を搭載したゴーグル型ディスプレイの一実施例を示す概略図である。第8図(f)は、本発明に係わる有機デバイス用電極を搭載したビデオカメラの一実施例を示す概略図である。第8図(g)は、本発明に係わる有機デバイス用電極を搭載した携帯電話の一実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る有機デバイス用電極をより詳細に説述するために、添付図面に従ってこれを説明する。
【0017】
第1図に示すのは、本発明に係る有機デバイス用電極100で、単一もしくは複数種類の有機化合物101に、導電性無機化合物を微粒子状とした導電性微粒子102を分散させた複合材料を、有機デバイスの有機層110の電極形成面へ層状に形成したものである。この導電性微粒子102の粒径は1〔nm〕〜100〔nm〕、好ましくは1〔nm〕〜20〔nm〕とする。すなわち、有機デバイス用電極100は、導電性無機化合物の特性を保持したままの導電性微粒子102を有機化合物101中に分散させたものであり、金属が原子レベルで有機化合物と作用して金属錯体のような状態になっていることによって、本来の金属の性質を保持した成分が集まった部分が電極中に存在しない状態とは、明確に区別される。
【0018】
斯く構成した有機デバイス用電極100では、高密度に分散した導電性微粒子102が大きな比表面積を有することから、これら導電性微粒子102と有機化合物101との相互作用によりドナーあるいはアクセプタとしての機能を実現できると共に、有機化合物101のマトリクスが存在していることで、有機層110との密着性も良いことから、有機デバイス用の電極に適したものとなる。なお、有機デバイス用電極の導電性を高めるため、導電性微粒子102には、導電率δが10−5〔S/m〕以上の導電性無機化合物を用いることが望ましい。
【0019】
上記有機デバイス用電極100に用いる有機化合物102としては、単一の有機化合物でも、複数種類を混合した有機化合物でも良い。但し、有機デバイス用電極100内でのキャリアの移動を補助するためには、π共役系の有機化合物を用いることが好ましい。π共役系を有する有機化合物としては、例えば、4,4′−ビス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(略称:TPD)、4,4′−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(略称:α−NPD)、4,4′,4″−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4′,4″−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:BND)、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)、2,2′,2″−(1,3,5−ベンゼントリ−イル)−トリス[1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール](略称:TPBI)、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)、ビス(10−ヒドロキシ−ベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム略称:BeBq)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−アルミニウム(略称:BAlq)、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)−ベンゾオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn(BOX))、4,4′−ビス(N−カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、9,10−ビス(2−ナフチル)アントラセン(略称:β−DNA)などの低分子有機化合物や、ポリ(ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVT)、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(2,5−ジアルコキシ−1,4−フェニレンビニレン)(略称:RO−PPV)、ポリ(2,5−ジアルコキシ−1,4−フェニレン)(略称:RO−PPP)、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(略称:PDAF)、ポリ(3−アルキルチオフェン)(略称:PAT)などの高分子有機化合物などが挙げられる。
【0020】
一方、導電性微粒子102としては、一種または複数種の典型金属、遷移金属、ランタノイド等の金属や合金(具体的には、Li、Mg、Ca、Al、Ag、Au、Cu、Ptなど)のほか、第15族元素を含む無機化合物(窒化物、リン化物、ヒ化物)、第16族元素を含む無機化合物(酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物)、第17族元素を含む無機化合物(臭化物、ヨウ化物)等の、金属以外の無機化合物(具体的には、Mg、Ca、ITO、ZnO、NiO、MoO、V、ZnS、CdS、CdSe、CuIなど)、可視光域で透明な導電体(Rh、Pd、Cr、SiO、In、CdO、TiO、ZnSnO、MgInO、CaGaO、TiN、ZrN、HfN、LaBなど)を用いることが出来る。
【0021】
そして、本発明に係る有機デバイス用電極は、その応用範囲も広く、電子注入機能に特化させたり、正孔注入機能に特化させたり、或いは、電子注入機能と正孔注入機能を併せ持つように構成したりすることが可能である。
【0022】
第2図(a)に示す有機デバイス用電極100aは、有機化合物101aのマトリクスに分散させる導電性微粒子102aとして、仕事関数が4.2〔eV〕以下の導電性無機化合物(例えば、Li,Mg,Ca,Mg,Caなど)やn型を示す半導体(例えば、ZnO,ZnS,CdS,CdSeなど)を用いることで、有機デバイスの有機層110に電子を注入する機能を実現する。なお、有機化合物101aとしては、電子輸送性の有機化合物(例えば、BND,PBD,OXD−7,TAZ,BPhen,BCP,TPBI,Alq,BeBq,BAlq,Zn(BOX)など)を用いることが望ましい。
【0023】
第2図(b)に示す有機デバイス用電極100bは、有機化合物101bのマトリクスに分散させる導電性微粒子102bとして、仕事関数が4.2〔eV〕より大きい導電性無機化合物(例えば、Ag,Au,Cu,Pt,ITOなど)やp型を示す半導体(例えば、NiO、MoO、Vなど)を用いることで、有機デバイスの有機層110に正孔を注入する機能を実現する。なお、有機化合物101bとしては、正孔輸送性の有機化合物(例えば、TPD,α−NPD,TDATA,MTDATA,PVT,PVKなど)を用いることが望ましい。
【0024】
第2図(c)に示す有機デバイス用電極100cは、有機化合物101cのマトリクスに分散させる導電性微粒子102cとして、仕事関数が4.2〔eV〕以下の導電性無機化合物(例えば、Li,Mg,Ca,Mg,Caなど)やn型を示す半導体(例えば、ZnO,ZnS,CdS,CdSeなど)と、仕事関数が4.2〔eV〕より大きい導電性無機化合物(例えば、Ag,Au,Cu,Pt,ITOなど)やp型を示す半導体(例えば、NiO、MoO、Vなど)を、適宜な割合で混在させることにより、有機デバイスの第1有機層110aから第2有機層110bへの電圧印加に応じて、例えば、第1有機層110aへ電子を注入し、一方、第2有機層110bへ正孔を注入する機能を実現する。なお、有機化合物101cとしては、バイポーラ性を有しているπ共役系の有機化合物を用いることが望ましい。
【0025】
次に、上述した有機デバイス用電極の形成方法につき詳述する。
【0026】
第1の形成方法は、有機化合物と微粒子状の導電性無機化合物である導電性微粒子とを同一の溶媒に分散させ、これを有機デバイス用の電極形成面へ湿式塗布(ディップコート、スピンコート、インクジェット等)することで、有機デバイス用電極を形成する方法である。本方法によれば、導電性微粒子の粒径や混合量を予め制御できるため、作製が容易で品質がばらつかない。加えて、蒸着が困難な無機化合物(蒸気圧の低い無機化合物)を導電性微粒子として用いることができるため、導電性微粒子の素材選択の幅が広がるという利点もある。なお、通常、微粒子状の金属や無機化合物と有機化合物を均一に混合して膜状物を形成することは困難である場合が多いが、あらかじめ、金属や無機化合物の表面をアルキルチオールやトリクロロアルキルシランなどの表面安定化剤で処理しておけば、分散性を向上させることができる。また、空気酸化を受けやすい金属や無機化合物を用いて有機デバイス用電極を形成する場合には、不活性雰囲気下で、有機溶媒中で反応により導電性無機化合物を生成し、導電性無機化合物が微粒子に成長した状態から有機化合物との混合分散液を調製し、湿式塗布により膜状物として形成することもできる。
【0027】
第2の形成方法は、蒸着可能な有機化合物と、蒸着可能な導電性無機化合物とを、その重量比が4:1〜1:4の範囲となるように制御しつつ有機デバイス用電極形成面へ共蒸着させることで、過剰な導電性無機化合物が微粒子状となった導電性微粒子を有機化合物からなるマトリクスに分散させて有機デバイス用電極を形成する方法である。すなわち、本形成方法では、有機化合物と無機化合物のモル比を1:1程度にして共蒸着することで、金属が原子レベルで有機化合物と作用して金属錯体のような状態となり、金属の性質を保持した成分が形成した膜中に存在しないようにするのではなく、導電性無機化合物/有機化合物が1/4以上(好ましくは1/2以上)4/1以下(好ましくは2/1以下)となるように重量比を制御しつつ共蒸着することで、有機化合物からなるマトリクスに導電性微粒子を分散させた状態とするのである。本方法によれば、無機化合物の蒸着時の重量レートが有機化合物のそれに近くなるため、重量比での制御性(水晶振動子モニターでの制御性)が高まるという利点がある。また、本形成方法によれば、蒸着成分である有機化合物と導電性無機化合物以外に不純物が存在しない真空容器中で、導電性無機化合物の微粒子と有機化合物との極めて清浄な接触界面を形成できるという利点を有している。
【0028】
上述した第2の方法により作製した有機デバイス用電極の断面TEM写真を第3図に示す。これは、「Al/有機デバイス用電極/Al」の順に積層した構造で、導電性無機化合物として用いたMgの蒸着レートを0.1〔nm/s〕に固定し、有機化合物として用いたAlqも蒸発させ、トータルの蒸着レートが0.2〔nm/s〕となるように調整しつつMgとAlqの共蒸着を行った。すなわち、MgとAlqの比率が重量比で1:1となるように条件設定したのである。但し、実際には、両成分の蒸発初期にMg成分の蒸着レートが大きくなる傾向があり、基板上に形成されたAl薄膜にごく近い側でMgの供給過剰になってしまう。この断面TEM写真では、粒径が数nm〜十数nm程度の陰影が基板側のAl薄膜直上の電極層に観測された。これは不均質なコントラストを呈していることから、金属の結晶と考えられる。したがって、共蒸着によってMgの微結晶(すなわち導電性微粒子)を有機化合物のマトリクスに分散形成できることが確認された。なお、不均質なコントラストが観察される部分の上方においてはMg微粒子の直接観察はできないものの、この部分には粒径が数nm以下のMg微粒子が形成されているものと推定される。
【0029】
〔有機デバイス構成例1〕
次に、上述した有機デバイス用電極を用いて構成した有機デバイスの構成例1として、有機EL素子への適用例を説明する。その素子構造を第4図(a)に示す。
【0030】
第4図(a)は、電子注入機能を有する有機デバイス用電極(上述した第2図(a)のタイプ)を電子注入電極として導入した公知の有機EL素子であり、201は陽極、202は陰極、203は電界発光層、204は電子注入電極である。なお、電界発光層203は、電界発光可能な、あるいはキャリア注入により発光可能な有機化合物を含む層である。
【0031】
〔有機EL素子の実施例1〕
上述した有機EL素子における電子注入電極として、本発明に係る有機デバイス用電極を適用した有機EL素子の作製例を説明する。
【0032】
まず、陽極201として用いるITOがパターンされたガラス基板をエタノールで煮沸洗浄し、さらにオゾンプラズマ洗浄機で基板表面を洗浄した。この洗浄した基板と蒸着する材料を真空蒸着装置内にセットした後、チャンバー内を10−4〔Pa〕程度まで減圧した。
【0033】
目的の真空度に到達した後、まず、TPDを0.2〜0.4〔nm/s〕程度のレートで蒸着し、70〔nm〕成膜した。次いで、Alqを0.2〜0.4〔nm/s〕程度のレートで蒸着し、60〔nm〕成膜した。以上が電界発光層203となる。
【0034】
次に、Mgの蒸着レートを0.1〔nm/s〕に固定しつつ、Alqも蒸発させることにより、MgとAlqの共蒸着を行った。この時、トータルの蒸着レートが0.2〔nm/s〕となるように調整したため、MgとAlqの比率は重量比で1:1となっている。したがって、第3図で観察されたような本発明の有機デバイス用電極と同一の構造を得ることができる。また、仕事関数が4.2〔eV〕以下の導電性無機化合物であるMgを導電性微粒子として使用しているため、電子注入電極205として作用する。なお、この電子注入電極205は10〔nm〕形成した。次いで0.2〜0.4〔nm/s〕程度の蒸着レートにてAlを80〔nm〕成膜することにより、陰極202とした。
【0035】
上記のように作製した有機EL素子の素子特性を第5図(図中の実施例1)に示す。なお、横軸は電流密度〔V〕、縦軸は外部量子効率〔%:外部に取り出されるフォトンの数/注入されたキャリアの数〕である。発光時の外部量子効率は0.6〜1.1%程度であった。
【0036】
〔有機デバイス構成例2〕
上述した有機デバイス用電極を用いて構成した有機デバイスの構成例2として、他の有機EL素子への適用例を説明する。その素子構造を第4図(b)に示す。
【0037】
第4図(b)は、電子注入機能と正孔注入機能を併せ持つ有機デバイス用電極(上述した第2図(c)のタイプの電極、もしくは、第2図(a)のタイプと第2図(b)のタイプを積層した構造の電極)を内部電極として導入した公知の有機EL素子(MPE素子)であり、201は陽極、202は陰極、203aは第一の電界発光層、203bは第二の電界発光層、205は電子注入電極層205aと正孔注入電極層205bからなる電荷発生層である。なお、第一の電界発光層203aおよび第二の電界発光層203bは、電界発光可能な、あるいはキャリア注入により発光可能な有機化合物を含む層である。また、電荷発生層205は外部回路と接続しておらず、フローティング状の内部電極となっている。
【0038】
上述した構成の有機EL素子において、陽極201と陰極202との間に電圧Vを印加した場合、電荷発生層205の電子注入電極層205aから第一の電界発光層203aに対しては電子が、電荷発生層205の正孔注入電極層205bから第二の電界発光層203bに対しては正孔が、それぞれ注入される。一方、外部回路から見れば、陽極201から第一の電界発光層203aに対しては正孔が、陰極202から第二の電界発光層203bに対しては電子が注入されるため、第一の電界発光層203aおよび第二の電界発光層203bの両方でキャリアの再結合が起こり、発光に至る。この時、電流Iが流れているとすると、第一の電界発光層203aおよび第二の電界発光層203b共に、電流Iに対応する分のフォトンを放出することができる。したがって、電界発光層が一層のみの有機EL素子に比べると、同じ電流で二倍の量の光を放出できるというメリットがある。
【0039】
なお、本構成例では、二層の電界発光層を電荷発生層で積層するものとしたが、より多くの電界発光層を積層する(各電界発光層の間には各々電荷発生層を挿入する)ことにより、電流効率を何倍にも向上させることができ、理論上においては、電流効率の向上に伴い、素子寿命に関しても大きな向上が期待される。但し、電界発光層の積層数が増えれば、同じ電流Iを流すために、高電圧が必要となる。
【0040】
〔有機EL素子の実施例2〕
上述した有機EL素子(MPE素子)における電荷発生層として、本発明に係る有機デバイス用電極を適用した有機EL素子の作製例を説明する。
【0041】
まず、陽極201として用いるITOがパターンされたガラス基板をエタノールで煮沸洗浄し、さらにオゾンプラズマ洗浄機で基板表面を洗浄した。この洗浄した基板と蒸着する材料を真空蒸着装置内にセットした後、チャンバー内を10−4Pa程度まで減圧した。
【0042】
目的の真空度に到達した後、まず、TPDを0.2〜0.4nm/s程度のレートで蒸着し、70nm成膜した。次いで、Alqを0.2〜0.4nm/s程度のレートで蒸着し、60nm成膜した。以上が第一の電界発光層203aとなる。
【0043】
次に、Mgの蒸着レートを0.1nm/sに固定しつつ、Alqも蒸発させることにより、MgとAlqの共蒸着を行った。この時、トータルの蒸着レートが0.2nm/sとなるように調整したため、MgとAlqの比率は重量比で1:1となっている。なお、この共蒸着層は10nm形成した。さらに、Auの蒸着レートを0.1nm/sに固定しつつ、TPDも蒸発させることにより、AuとTPDの共蒸着を行った。この時、トータルの蒸着レートが0.2nm/sとなるように調整したため、AuとTPDの比率は重量比で1:1となっている。なお、この共蒸着層は10nm形成した。以上の計20nmの共蒸着層が本発明の有機デバイス用電極であり、電荷発生層205として作用する。
【0044】
このようにして形成された電荷発生層205上に、第一の電界発光層203aと同様に、TPD(70nm)とAlq(60nm)とを積層した第二の電界発光層203bを形成した。さらに、上述と同様の手法にてMgとAlqが重量比で1:1となるように共蒸着して10nmの共蒸着層を形成し、次いで0.2〜0.4nm/s程度の蒸着レートにてAlを80nm成膜することにより、陰極202とした。
【0045】
上述のようにして形成された本発明の有機デバイス用電極を用いたマルチフォトンエミッション素子(ITO/TPD(70nm)/Alq(60nm)/Mg:Alq(10nm)/Au:TPD(10nm)/TPD(70nm)/Alq(60nm)/Mg:Alq(10nm)/Al(80nm))の特性を第5図(図中の実施例2)に示す。発光時の外部量子効率は1.2〜1.6%程度であった。
【0046】
この結果から、上記実施例2として示した素子では、実施例1の素子に比べて駆動電圧が上昇しているが、外部量子効率で実施例1の素子を上回っており、マルチフォトンエミッション素子として動作していることがわかる。したがって、本発明の有機デバイス用電極を上記実施例2のような構成とすることで、電荷発生層として機能し、正孔および電子の両方のキャリアを注入できることが明らかとなった。
【0047】
〔有機デバイス構成例3〕
次に、上述した各実施形態に係る有機デバイス用電極を用いて構成した有機デバイスの構成例3として、有機電界効果トランジスタへの適用例を説明する。その素子構造を第6図に示す。
【0048】
第6図(a)は、電荷発生層を内部電極として導入した有機電界効果トランジスタであり、基板301、第一のゲート電極302、第一のゲート絶縁膜303、第一のソース電極304a、第一のドレイン電極304b、電子輸送性の有機化合物を用いた電子輸送層305a、正孔輸送性の有機化合物を用いた正孔輸送層305b、電荷発生層306、第二のドレイン電極307a、第二のソース電極307b、第二のゲート絶縁膜308、第二のゲート電極309、から構成されている。なお、以下では、電子輸送層305aと正孔輸送層305bとを併せて有機半導体層と称する。
【0049】
この構造において、第一のゲート電極302にVg1(>0)を、第二のゲート電極309にVg2(<0)を印加すると、第3図(a)に示すように、電界効果によって、電荷発生層306から電子輸送層305aに電子が、正孔輸送層305bに正孔が、それぞれ注入される。一方、第一のゲート絶縁膜303および第二のゲート絶縁膜308が存在するため、第一のゲート電極302や第二のゲート電極309から有機半導体層中にキャリアが注入されることはない。したがって、第一のゲート絶縁膜303表面近傍の有機半導体層中に電子が、第二のゲート絶縁膜308表面近傍の有機半導体層中に正孔が、それぞれ蓄積され、電子と正孔それぞれの電荷蓄積チャネル層を形成する。
【0050】
この時、第3図(b)に示すように、第一のソース電極304aと第一のドレイン電極304bとの間にVsd1(>0)を、第二のソース電極307bと第二のドレイン電極307aとの間にVsd2(<0)を印加する。すると、第一のゲート絶縁膜303近傍の電子蓄積チャネル層の電子と、第二のゲート絶縁膜308近傍の正孔蓄積チャネル層の正孔が、それぞれのソース−ドレイン回路に電流を流す。
【0051】
一般に、有機電界効果トランジスタは、ソースードレイン電極間を流れる電流量がソース電極から注入される電荷量で決まるとされており、このことが有機電界効果トランジスタの高速制御性、制御電流の大きさの制限要因となっている。上述した電荷発生層を用いた有機電界効果トランジスタにおいては、ソース電極から注入される電荷ではなく、電荷発生層から電界印加で発生させた電荷を用いるので、大きな電流量を高速に制御できる利点を有する。このためには、電荷発生層が、第6図における上方向に正孔を、下方向に電子を、それぞれ注入する機能を持つ必要がある。すなわち、本発明に係る有機デバイス用電極を電荷発生層306(内部電荷発生電極)として用いれば、上述した有機電界効果トランジスタを実現できる。
【0052】
本発明に依る有機デバイス用電極を用いた有機電界効果トランジスタの説明をしたが、本発明に係る有機デバイス用電極は電子機器に搭載することもできる。電子機器としては、携帯電話、パーソナルコンピュータ、モニタ、ビデオカメラ、ディジタルカメラ、ゴーグル型ディスプレイ、ナビゲーションシステム、オーディオコンポ、カーオーディオ、ゲーム機器、モバイルコンピュータ、携帯型ゲーム機、電子書籍、記録媒体を備えた画像再生装置などが挙げられる。これらの電子機器の具体例を第7図又は第8図における(a)〜(g)に示す。
第7図(a)は表示装置の一実施例を示し、筐体1001、支持台1002、表示部1003、スピーカー部1004、ビデオ入力端子1005等を含む。本発明の有機デバイス用電極は、上記表示部1003等に搭載されている。なお、有機デバイス用電極を搭載した表示装置としては、コンピュータ用、TV放送受信用、広告表示用などの情報表示用装置が含まれる。
【0053】
第7図(b)はノート型パーソナルコンピュータの一実施例を示し、本体1201、筐体1202、表示部1203、キーボード1204、外部接続ポート1205、ポインティングマウス1206等を含む。本発明の有機デバイス用電極は上記表示部1203等に掲載されている。
【0054】
第7図(c)はモバイルコンピュータの一実施例を示し、本体1301、表示部1302、スイッチ1303、操作キー1304、赤外線ポート1305等を含む。本発明の有機デバイス用電極は、上記表示部1302等に搭載されている。
【0055】
第8図(d)は記録媒体を備えた携帯型の画像再生装置(具体的にはDVD再生装置)の一実施例を示し、本体1401、筐体1402、表示部1403、表示部1404、記録媒体(DVD等)読み込み部1405、操作キー1406、スピーカー部1407等を含む。表示部1403は主として画像情報を表示し、表示部1404は主として文字情報を表示するが、本発明の有機デバイス用電極をこれら表示部1403、1404等に搭載されている。なお、記録媒体を備えた画像再生装置には家庭用ゲーム機器なども含まれる。
【0056】
第8図(e)はゴーグル型ディスプレイの一実施例を示し、本体1501、表示部1502、アーム部1503を含む。本発明の有機デバイス用電極は、上記表示部1502等に搭載されている。
【0057】
第8図(f)はビデオカメラの一実施例を示し、本体1601、表示部1602、筐体1603、外部接続ポート1604、リモコン受信部1605、受像部1606、バッテリー1607、音声入力部1608、操作キー1609、接眼部1610等を含む。本発明の有機デバイス用電極は、表示部2602等に搭載にされている。
【0058】
ここで、第8図(g)は携帯電話の一実施例を示し、本体1701、筐体1702、表示部1703、音声入力部1704、音声出力部1705、操作キー1706、外部接続ポート1707、アンテナ1708等を含む。本発明の有機デバイス用電極をその表示部1703等に用いることにより作製される。なお、表示部1703は黒色の背景に白色の文字を表示することで携帯電話の消費電力を抑えることができる。
【0059】
以上の様に、本発明の有機デバイス用電極の適用範囲は極めて広く、この有機デバイス用電極をあらゆる分野の電子機器に搭載することにより汎用性が拡大する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子状の導電性無機化合物からなる導電性微粒子と、π共役系有機化合物とを同一の溶媒に分散させる第1の工程と、
前記導電性微粒子と前記π共役系有機化合物とを分散させた前記溶媒を電極形成面へ湿式塗布する第2の工程と、を有することを特徴とする電極の作製方法。
【請求項2】
請求項1において、前記導電性微粒子の表面を、アルキルチオール又はトリクロロアルキルシランにより安定化させることを特徴とする電極の作製方法。
【請求項3】
不活性雰囲気下において、溶媒中で導電性無機化合物を生成する第1の工程と、
微粒子状に成長した前記導電性無機化合物からなる導電性微粒子を有する前記溶媒に、π共役系有機化合物を分散させる第2の工程と、
前記導電性微粒子と前記π共役系有機化合物とを分散させた前記溶媒を電極形成面へ湿式塗布する第3の工程と、を有することを特徴とする電極の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、前記湿式塗布は、ディップコート、スピンコート又はインクジェットであることを特徴とする電極の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、前記導電性微粒子としてLi、Mg、Ca、Mg、Ca、ZnO、ZnS、CdS又はCdSeを用いることで、前記電極は電子を注入する機能を有することを特徴とする電極の作製方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、前記導電性微粒子としてAg、Au、Cu、Pt、ITO、NiO、MoO又はVを用いることで、前記電極は正孔を注入する機能を有することを特徴とする電極の作製方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、前記導電性微粒子として仕事関数がLi、Mg、Ca、Mg、Ca、ZnO、ZnS、CdS又はCdSeと、Ag、Au、Cu、Pt、ITO、NiO、MoO又はVとを混合して用いることで、前記電極は電子及び正孔を注入する機能を有することを特徴とする電極の作製方法。
【請求項8】
請求項5において、前記π共役系有機化合物は、BND、PBD、OXD−7、TAZ、BPhen、BCP、TPBI、Alq、BeBq、BAlq又はZn(BOX)から選ばれた低分子有機化合物であることを特徴とする電極の作製方法。
【請求項9】
請求項6において、前記π共役系有機化合物は、TPD、α−NPD、TDATA若しくはMTDATAから選ばれた低分子有機化合物、又はPVT若しくはPVKから選ばれた高分子有機化合物であることを特徴とする電極の作製方法。
【請求項10】
請求項7において、前記π共役系有機化合物は、バイポーラ性を有する有機化合物であることを特徴とする電極の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−77044(P2011−77044A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240047(P2010−240047)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【分割の表示】特願2005−513833(P2005−513833)の分割
【原出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】