説明

電極,電極ペースト及びそれを用いた電子部品

【課題】本発明の目的は、銀電極より低コストで、かつ銀電極同様に大気等の酸化雰囲気中で焼成可能な銅系電極,電極ペースト及びそれを用いた電子部品を提供する。また、本発明は、窒素等の不活性ガス雰囲気で低温焼成可能な電極,電極ペースト及びそれを用いた電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、少なくとも金属粒子と酸化物相からなる電極であって、金属粒子が銅とアルミニウムを含み、かつ酸化物相がリンを含むことを特徴とする。好ましくは、その酸化物相は金属粒子の粒界に存在し、リン酸ガラス相となっている。好ましくは、金属粒子が75〜95体積%及び、酸化物相が5〜25体積%である。また、金属粒子中の銅とアルミニウムの好ましい組成範囲は、酸化雰囲気の焼成では80重量%以上と3重量%以上、不活性ガス雰囲気の焼成では97重量%以上と3重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで、かつ大気等の酸化雰囲気中で焼成可能な電極,電極ペースト及びそれを用いた電子部品に関する。また、本発明は、窒素等の不活性ガス雰囲気で低温焼成可能な電極,電極ペースト及びそれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電極を有する電子部品は、その製造過程で酸化雰囲気に接しない製造プロセスを採用して製造できる場合、LSI配線に代表されるように、電極として純銅が用いられている。一方、プラズマディスプレイパネルや太陽電池素子などの製造プロセスでは、大気等の酸化雰囲気中で熱処理されるため、電極として酸化に耐える銀が使用されている。この銀の電極は、銀粒子と、少量のガラス粉末と、樹脂バインダーと、溶剤とからなるペーストをガラス基板やシリコン基板等に塗布,形成し、電気炉やレーザー等を用いて大気中500℃以上で熱処理することによって焼成される。焼成の際に含有したガラス粉末が軟化流動し、電極が緻密に焼成できるとともに、ガラス基板やシリコン基板等に強固に密着する。
【0003】
銀電極のコスト低減と耐マイグレーション性向上の観点から大気中で焼成可能な銅系電極の開発が強く望まれる。従来技術では、銅を主成分として、モリブデンを0.1〜3.0重量%含有し、銅の粒界にモリブデンを均質に混入させることにより、銅全体の耐候性を向上させる電子部品材料が知られている(例えば、特許文献1)。この従来技術では、モリブデンの添加を必須とし、モリブデンと共に、アルミニウム,金,銀,チタン,ニッケル,コバルト,シリコンからなる群から1または複数の元素を合計で0.1〜3.0重量%添加して、モリブデン単独添加時よりさらに耐候性を改善させる試みがなされている。しかし、この合金ではアルミニウム,金,銀,チタン,ニッケル,コバルト,シリコンからなる群から1または複数の元素を合計で3.0重量%以上添加すると逆に耐候性が劣化することが指摘されている。
【0004】
通常、厚膜の銅電極は、窒素等の不活性ガス雰囲気中、或いはその雰囲気中に水蒸気を導入し、900〜1000℃の高温で焼成されている。高温で焼成される理由は、銅粒子同士を焼結させ、電気抵抗を下げるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−91907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子部品に用いられる電極として、コスト低減と耐マイグレーション性向上の観点から大気中で焼成可能な銅系電極が強く望まれているが、上述したような従来技術では、プラズマディスプレイパネルや太陽電池素子等の銀の代替電極として適用するためには、耐酸化性が不十分であり、電極として所望される導電性が得られなかった。
【0007】
また、銅電極は、窒素等の不活性ガス雰囲気中であっても、たとえば500℃の低温では銅粒子同士の焼結性が乏しく、焼成することは難しかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、銀電極より低コストで、かつ銀電極同様に大気等の酸化雰囲気中で焼成可能な銅系電極,その電極ペースト及びそれを用いた電子部品を提供することにある。また、その他の本発明の目的は、窒素等の不活性ガス雰囲気で低温焼成可能な銅系電極、その電極ペースト及びそれを用いた電子部品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくとも金属粒子と酸化物相からなる電極であって、金属粒子が銅とアルミニウムを含み、かつ酸化物相がリンを含むことを特徴とする電極である。また、この電極中の酸化物相は金属粒子の粒界に存在することを特徴とする。さらに金属粒子が75〜95体積%、及び酸化物相が5〜25体積%からなることが好ましい。特に好ましい範囲は金属粒子が83〜92体積%、及び酸化物相が8〜17体積%である。
【0010】
また、本発明は、電極中金属粒子の銅含有量が80重量%以上であり、好ましくは85〜97重量%である。一方、電極中金属粒子のアルミニウム含有量は3重量%以上であり、好ましく5〜15重量%である。さらに、電極中の金属粒子は、大小異なる粒径の球状粒子からなること、板状粒子からなること、或いは球状粒子と板状粒子からなることが望ましい。
【0011】
また、本発明は、電極中酸化物相がバナジウム,タングステン,モリブデン,鉄,マンガン,コバルト,スズ,バリウム,亜鉛,アルミニウム,銀,銅,アンチモン,テルルのうち少なくとも1種以上が含まれるリン酸ガラス相である。特にバナジウム或いはアルミニウムを含むリン酸ガラス相であることが好ましい。バナジウムを含むリン酸ガラス相には、さらにタングステン,モリブデン,鉄,マンガン,バリウム,亜鉛,アンチモン,テルルのうち少なくとも2種以上が含まれることが望ましい。アルミニウムを含むリン酸ガラス相には、さらに銅が含まれることが有効である。
【0012】
また、本発明の電極は、上記金属粒子と、上記酸化物相を形成する粉末と、樹脂バインダーと溶剤とを含む電極ペーストを用いて、大気等の酸化雰囲気中で焼成されることによって形成される。または上記金属粒子と、上記酸化物相を形成する溶液とを含む電極ペーストを用いて、大気等の酸化雰囲気中で焼成されることによって形成される。
【0013】
本発明の電極及びその電極ペーストは、各種電子部品の電極として広く展開することができる。特にプラズマディスプレイパネルや太陽電池素子等には、有効に適用することが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プラズマディスプレイパネルや太陽電池素子等、銀電極を有する電子部品において、その電極の代替として低コストで、かつ大気等の酸化雰囲気中で焼成可能な銅系電極及びそのペーストを提供することができる。
【0015】
また、本発明の電極は、金属粒子の銅含有量を97重量%以上、アルミニウム含有量を3重量%以下とし、酸化物相をリン酸ガラス相とすることによって、窒素等の不活性ガス雰囲気中にて低温で焼成できることを特徴とする。
【0016】
この電極は、電極を構成する上記金属粒子と、上記リン酸ガラス相を形成するリン酸溶液とを含む電極ペーストを用い、各種の電子部品に搭載することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】銅とアルミニウムを含む金属粒子と、リンを含む酸化物相からなる電極の焼成状態を示す図である。
【図2】銅とアルミニウムを含む金属粒子と、リンを含む酸化物相からなる電極の焼成温度と比抵抗との関係を示す図である。
【図3】銅とアルミニウムを含む金属粒子と、リンを含む酸化物相の割合が電極の比抵抗に及ぼす影響を示す図である。
【図4】金属粒子の銅とアルミニウムの組成が及ぼす電極の焼成温度と比抵抗の関係を示す図である。
【図5】銅とアルミニウムを含む金属粒子の大小異なる粒径の配合割合が電極の比抵抗に及ぼす影響を示す図である。
【図6】銅とアルミニウムを含む板状金属粒子と球状金属粒子の配合割合が電極の比抵抗に及ぼす影響を示す図である。
【図7】代表的なプラズマディスプレイパネルの構成を示す断面図である。
【図8】代表的な太陽電池素子の構成を示す断面図である。
【図9】代表的な太陽電池素子の構成を示す受光面図である。
【図10】代表的な太陽電池素子の構成を示す裏面図である。
【図11】金属粒子の銅とアルミニウムの組成が及ぼす電極の窒素中焼成温度と比抵抗の関係を示す図である。
【図12】銅とアルミニウムを含む金属粒子と、リン酸ガラス相からなる電極の窒素中焼成状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
純銅の粒子は大気中200℃以上で容易に酸化されるが、アルミニウム等の第二成分を含有させることによって酸化が抑制されることが知られている。しかし、これだけでは、電極に適用にするためには、酸化防止効果が不十分であった。そこで、本発明では、銅とアルミニウムを含む金属粒子をリンを含む酸化物相で覆うことによって、酸化がさらに抑制或いは防止できることを見出した。このリンを含む酸化物相は、銅とアルミニウムを含む金属粒子の粒界に存在し、高温での大気中加熱においてもその金属粒子の酸化を抑制または防止でき、それによる電気抵抗の増加を阻止することが可能であり、電極として有効である。しかし、前記金属粒子が75体積%未満、或いは前記酸化物相が25体積%を超えると、酸化防止効果が得られるものの、金属粒子間距離が大きくなるため、電気抵抗が増加し、電極としては適当ではなかった。一方、前記金属粒子が95体積%を超え、或いは前記酸化物相が5体積未満であると、緻密に焼結できず、しかも基板への密着性が低いことから、電極としては好ましいとは言えなかった。このことより、電極としては、前記金属粒子が83〜92体積%、前記酸化物相が8〜17体積%であることが特に良好な範囲であった。
【0020】
銅とアルミニウムを含む金属粒子は、銅含有量が80重量%未満であると、酸化防止効果が得られるものの、電気抵抗が高く、電極としては適用が難しかった。銅含有量が85重量%以上であることが好ましいが、97重量%を超えると、或いはアルミニウム含有量が3重量%未満であると、高温での大気中加熱で酸化が促進してしまう。適切なアルミニウム含有量は5〜15重量%であった。
【0021】
銅とアルミニウムを含む金属粒子に球状粒子を用いる場合には、粒径を揃えるより、大小異なる粒径にした方が、金属粒子のパッキング状態が向上し、電気抵抗をさらに低下させることができた。また、板状粒子を使用することにより、粒子間の接触状態が向上し、さらに電気抵抗を小さくすることができた。球状粒子と板状粒子を混ぜて使用することも可能であった。
【0022】
リンを含む酸化物相は、リンとガラスを形成するバナジウム,タングステン,モリブデン,鉄,マンガン,コバルト,スズ,バリウム,亜鉛,アルミニウム,銀,銅,アンチモン,テルルのうち少なくとも1種以上を含み、リン酸ガラス相とすることによって、緻密で低抵抗な電極形成ができることが分かった。特にバナジウムを含むガラスでは、軟化点が低く、電子伝導性を有するために、電極としては有効であった。さらに成分として、タングステン,モリブデン,鉄,マンガン,バリウム,亜鉛,アンチモン,テルルのうち2種以上を含むことによって、耐湿性,耐水性等の信頼性を確保することができた。この電極形成は、銅とアルミニウムを含む金属粒子と、前記ガラス粉末と、樹脂バインダーと、溶剤とを含むペーストによって印刷し、大気中で焼成し得られた。
【0023】
また、銅とアルミニウムを含む金属粒子をリン酸溶液中で処理し、それを大気中加熱で焼成した電極では、粒界に均一かつ緻密なリン酸ガラス相が形成され、それに金属粒子中のアルミニウムが溶出,拡散していた。これによって、高温の大気中焼成においても酸化されずに、低抵抗な電極形成ができることが分かった。さらに前記リン酸ガラス相には金属粒子からアルミニウムの他に銅も溶出,拡散することもあった。この電極形成は、リン酸溶液中に銅とアルミニウムを含む金属粒子を分散させ、それを塗布し、大気中で焼成することによって得られた。
【0024】
上記電極は、プラズマディスプレイパネルや太陽電池素子の銀電極の代替として検討した結果、問題なく適用できることが確認でき、各種電子部品の電極として展開可能であることが明らかになった。
【0025】
さらに、金属粒子の銅含有量を97重量%以上、アルミニウム含有量を3重量%以下とし、酸化物相をリン酸ガラス相とすることによって、窒素等の不活性ガス雰囲気中にてたとえば500℃の低温で焼成でき、電極として適切な電気抵抗値を有することを見出した。焼成後の状態を研磨して観察すると、金属粒子同士は良好に焼結されており、リン酸ガラス相により金属粒子同士の焼結性が促進されることが分かった。しかし、金属粒子の銅含有量が97重量%未満、或いはアルミニウム含有量が3重量%を超えると、たとえば500℃の低温では金属粒子同士の焼結性が不十分となり、電極としては電気抵抗が高めであった。
【0026】
リン酸ガラス相を低温で形成するためには、ガラス粉末を使用するよりはリン酸溶液を使用した場合の方がより有効であった。これは、上記金属粒子をリン酸溶液中で処理するため、金属粒子全体にリン酸溶液が行き渡り、ほぼ均一に金属粒子同士を低温で焼結させることができるためである。また、低温で安定なリン酸ガラス相を形成させることができるためである。結果として、良好な電極が形成できる。窒素等の不活性ガス雰囲気で加熱処理できる電子部品の電極形成には、このような方法が有効であり、より低温で電子部品を製造できる特徴がある。
【0027】
以下に、本発明の最良の実施形態について、代表的な実施例を用いて詳細を述べる。
【実施例1】
【0028】
銅が90重量%、アルミニウムが10重量%を含む合金を溶融し、水アトマイズ法にて銅とアルミニウムを含む球状金属粒子を合成した。その球状金属粒子を粒径8μm以上でカットして、本実施例では粒径8μm未満を用いた。なお、銅を90重量%、アルミニウムを10重量%含む合金のバルク抵抗は1×10-5Ωcmであった。
【0029】
表1に本実施例で検討したガラスを示す。
【0030】
【表1】

【0031】
G1〜G9はリンをガラス化成分とするリン酸ガラス、G10〜G12はホウ素をガラス化成分とするホウ酸ガラスである。さらに詳細には、G1〜G6は酸化バナジウムを主成分とするリン酸ガラス、G7とG8は酸化リンを主成分とするリン酸ガラス、G9は酸化スズを主成分とするリン酸ガラス、G10は酸化鉛を主成分とするホウ酸ガラス、G11は酸化ビスマスを主成分とするホウ酸ガラス、G12は酸化ホウ素を主成分とするホウ酸ガラスである。ガラスの比重は、アルキメデス法により測定した。ガラスの熱膨張係数は、4×4×20mmに加工したサンプルを用い、熱膨張計により熱膨張曲線を測定し、室温から250℃の範囲で算出した。なお、標準サンプルは石英ガラスを用い、換算した。ガラスの軟化点は、ガラスの粉末を用い、示差熱分析(DTA)によって、第二吸熱ピーク温度より求めた。本実施例では、表1のガラスを粒径2μm以下にまで粉砕して用いた。
【0032】
上記球状金属粒子を85体積%と、表1のガラス粉末をそれぞれ15体積%混ぜ、樹脂バインダーと溶剤とを加え、ペーストを作製した。樹脂バインダーにはエチルセルロース、溶剤にはブチルカルビトールアセテートを用いた。作製したペーストをプラズマディスプレイパネル用ガラス基板にスクリーン印刷法にてそれぞれ塗布した。塗布後、大気中200℃で1時間乾燥した。その後、電気炉にて大気雰囲気で5℃/分の昇温速度でガラスの軟化点より50〜60℃高い温度まで加熱し、30分間保持し、それぞれの焼成塗膜を得た。各焼成塗膜の膜厚は、約20μmであった。
【0033】
各焼成塗膜の上面を若干研磨して比抵抗を測定した。測定は室温にて四端子法によった。G1〜G9のリン酸ガラスを用いた場合には、比抵抗が10-4〜10-3Ωcmであったのに対し、G10〜G12のホウ酸ガラスを用いた場合には、比抵抗が103Ωcm以上と非常に高かった。それぞれの焼成塗膜を走査型電子顕微鏡(SED−EDX)で観察,分析すると、G1〜G9のリン酸ガラスを用いた場合には、図1に示すように銅とアルミニウムを含む金属粒子1の粒界にリンを含む酸化物相2が存在し、緻密に焼成されていた。また、X線回折(XRD)すると、銅とアルミニウムを含む金属粒子に関する回折ピークのみが観測され、粒界は含有したリン酸ガラスの相から構成されていることが分かった。一方、G10〜G12のホウ酸ガラスを用いた場合には、銅とアルミニウムを含む金属粒子とホウ酸ガラスが反応し、金属粒子の粒界には多数の空隙(気泡)が認められるとともに、金属粒子が酸化されている様子が観察された。このことより、銅とアルミニウムを含む金属粒子の焼成には、リン酸ガラスが有効であり、電極としての適用可能性を見出した。
【0034】
また、G1〜G9のリン酸ガラスの中で、特に酸化バナジウムを主成分とするリン酸ガラスG1〜G6を用いた場合の比抵抗が10-4Ωcmオーダーと低めであり、電極としては有効であった。これは、G1〜G6のガラスが電子伝導性を有し、かつ軟化点が低いためと考えられる。これらのガラスは、通常のガラスが絶縁性であるのに対し、105〜108Ωcmの比抵抗を有している。また、これらのガラスは、さらにタングステン,モリブデン,鉄,マンガン,バリウム,亜鉛,アンチモン,テルルのうち少なくとも2種以上が含まれることによって、ガラス化安定と、耐湿性,耐水性等の信頼性を向上している。
【0035】
比較のために、金属粒子として市販の純銅についても上記同様に検討したが、G1〜G12のどのガラスにおいても純銅粒子の酸化が著しく、大気中で焼成,形成できる電極としては適用できるものではなかった。
【実施例2】
【0036】
実施例1で用いた銅とアルミニウムを含む金属粒子をリン酸溶液中に分散して、これをペーストとして検討した。使用したリン酸溶液は、リン酸(H3PO4),精製水(H2O)、及びエタノール(C25OH)から作製し、それぞれ10重量%,75重量%,15重量%で配合した。エタノールは乾燥を速めるためと、乾燥後、吸湿しにくくするために用いた。銅とアルミニウムを含む金属粒子を100重量部に対して、前記リン酸溶液を30重量部添加し、超音波を30分間かけてリン酸溶液中に前記金属粒子を分散させた。これをスクリーン印刷法にてアルミナ基板に塗布した。塗布後、大気中150℃で1時間乾燥した。その後、電気炉にて大気雰囲気で5℃/分の昇温速度で300〜800℃の温度範囲で加熱し、30分間保持し、焼成塗膜を得た。各温度における焼成塗膜の膜厚は、約20μmであった。
【0037】
実施例1と同様にして、比抵抗を測定した。また、SEM−EDXによって観察,分析した。図2に焼成塗膜の比抵抗と焼成温度の関係を示す。大気中焼成にも関らず、300〜750℃の温度範囲で良好な比抵抗を示し、300〜700℃の温度範囲では焼成温度上昇とともに比抵抗は減少する傾向が認められた。700℃を超えると、比抵抗は増加する傾向があり、800℃では顕著に増加した。SEM−EDXより、どの焼成温度においても焼成塗膜は図1に示したとおり緻密に焼結されていた。300〜700℃の温度範囲では、金属粒子が酸化されている様子は認められず、温度上昇とともに金属粒子同士の焼結が進行しているように見受けられた。そのために、比抵抗が低減したと考えられる。また、粒界はリンを含む酸化物相から構成されており、温度上昇とともに、アルミニウムの含有量が増加していることが分かった。これは、銅とアルミニウムを含む金属粒子からアルミニウムが溶出、或いは拡散したものであると考えられる。また、このアルミニウムの溶出,拡散とともに、金属粒子の焼結が進行するものと考えられる。しかし、700℃を超えると、銅の酸化を抑制しているアルミニウムが低減するために、金属粒子の酸化が開始され、比抵抗が増加するためと考えられる。SEM−EDXの結果からは、その様子が観測されており、800℃では金属粒子から粒界へ、アルミニウムが移動し、金属粒子の酸化が進行していることが顕著に認められた。また、300〜800℃の焼成温度範囲において、アルミニウムの他に銅も粒界で検出されたが、これはリン酸溶液が酸性のため、金属粒子を分酸中に銅が溶出したものと考えている。XRDの結果より、粒界に存在している酸化物相は、アルミニウムや銅を含むリン酸ガラス相であることが分かった。また、リン酸ガラス相である粒界は、アルミニウムの含有によって、耐湿性,耐水性等の化学的安定性を向上している。
【0038】
比較のために、金属粒子として市販の純銅についても上記同様に検討したが、300℃においても既に純銅粒子の酸化が進行しており、大気中で焼成,形成できる電極としては適用できるのもではなかった。
【0039】
以上より、本実施例では、大気中300〜750℃の温度範囲で電極形成が可能であることが明らかになった。
【実施例3】
【0040】
実施例2の知見をもとに、実施例2で用いたリン酸溶液にコバルト,アルミニウム,銀,銅をそれぞれ溶解させた。溶解量はリン酸溶液100重量部に対して0.3重量部とした。実施例2と同様にして、大気中700〜800℃でそれぞれ焼成塗膜を作製し、比抵抗を測定した。なお、銅とアルミニウムを含む金属粒子には、実施例1及び2と同じものを用いた。
【0041】
コバルト,アルミニウム,銀,銅のどの元素をリン酸溶液に溶解させても、図2のように800℃で顕著に比抵抗が増加することがなく、10-4Ωcm前半であった。金属イオンをリン酸溶液中に予め導入することによって、大気中高温下における耐酸化性がさらに向上できることが分かった。これは高温下での金属粒子からリン酸ガラス相へのアルミニウムの拡散が抑制されたためであると考えられる。より高温での大気中電極形成には、この方法は有効である。
【実施例4】
【0042】
表2に示す6種類のリン酸溶液P1〜P6を用いて、実施例2と同様な検討をした。
【0043】
【表2】

【0044】
表2のP2が実施例2で使用したリン酸溶液である。銅とアルミニウムを含む金属粒子には実施例1〜3と同じものを使用した。実施例2及び3と同様に、銅とアルミニウムを含む金属粒子を100重量部に対して、表2に示したリン酸溶液をそれぞれ30重量部添加し、超音波を30分間かけてリン酸溶液中に前記金属粒子を分散させた。これらをスクリーン印刷法にてアルミナ基板に塗布した。塗布後、大気中150℃で1時間乾燥した。その後、電気炉にて大気雰囲気で5℃/分の昇温速度で700℃に加熱し、30分間保持し、それぞれの焼成塗膜を得た。各焼成塗膜の膜厚は、約20μmであった。
【0045】
実施例1と同様にして、比抵抗を測定した。また、SEM観察することによって、金属粒子とその粒界の酸化物相の割合(体積比)を面積比より算出した。金属粒子と酸化物相の割合は、P1使用時で95体積%と5体積%、P2使用時で92体積%と8体積%、P3使用時で87体積%と13体積%、P4使用時で83体積%と17体積%、P5使用時で78体積%と22体積%、P6使用時で68体積%と32体積%であった。その割合と比抵抗の関係を図3に示す。酸化物相が25体積%以下、金属粒子が75体積%以上では、10-3Ωcm以下と良好であった。酸化物相が25体積%を超えると、金属粒子間距離が大きくなるために、比抵抗が大きくなるためと考えられる。一方、酸化物相が5体積%、金属粒子が95体積%であるとアルミナ基板への密着性が十分とは言えず、酸化物相が5体積%未満では比抵抗が低くても電極としての適用が難しいと考えられる。このことより、電極として好ましい範囲としては、酸化物相が5〜25体積%、金属粒子が75〜95体積%であると判断できる。さらに好ましい範囲は、比抵抗がより低く、しかも基板との密着性が良好なことから、酸化物相が8〜17体積%、金属粒子が83〜92体積%であると言えよう。
【0046】
SEM−EDXやXRDで金属粒子と酸化物相を分析すると、実施例2と同様な結果であり、粒界の酸化物相は、少なくともアルミニウムを含むリン酸ガラス相であった。また、そのリン酸ガラス相からは銅も検出されることもあった。
【実施例5】
【0047】
実施例1と同様にして、表3に示す銅とアルミニウムからなる合金を溶融し、水アトマイズ法にて銅とアルミニウムを含む球状金属粒子7種を合成した後、粒径8μm以上をカットして、粒径8μm未満の金属粒子を作製した。
【0048】
【表3】

【0049】
表3のC4は実施例1〜4で使用した金属粒子である。表3のC1〜C7の金属粒子を実施例3と同様にアルミニウムイオンを含むリン酸溶液中に超音波を用いてそれぞれ分散した。リン酸溶液には、表2のP2を使用し、アルミニウムを0.5重量部添加,溶解させた。実施例2と同様にスクリーン印刷法にてアルミナ基板へそれぞれ塗布し、大気中150℃で1時間乾燥させた。その後、電気炉にて大気雰囲気で5℃/分の昇温速度で300〜1000℃の温度範囲で加熱し、30分間保持し、焼成塗膜を得た。各温度における焼成塗膜の膜厚は、約20μmであった。
【0050】
実施例1と同様にして、比抵抗を測定した。また、SEM−EDXとXRDにより観察,分析しており、どの金属粒子を使用しても、またどの温度においても、緻密な焼成塗膜となっており、粒界はアルミニウムを含むリン酸ガラス相となっていた。図4に表3のC1〜C7における焼成塗膜の比抵抗と焼成温度の関係を示す。低温領域では、銅の含有量が多く、アルミニウムの含有量が少ないほど焼成塗膜の比抵抗が低い傾向が認められた。一方、高温領域では、銅の含有量が少なく、アルミニウムの含有量が多いほど焼成塗膜の比抵抗が低い傾向が認められた。しかし、C7の金属粒子では、銅の含有量が少なすぎるため、比抵抗か高すぎ、電極に使用するには不十分であった。C6の金属粒子がせいぜい適用できる限界であり、銅の含有量は80重量%以上とする必要がある。C5の金属粒子では、大気中300〜900℃の温度範囲で10-3Ωcm未満の比抵抗を達成していることから、銅の含有量は85重量%以上、アルミニウムの含有量は15重量%以下が好ましい。一方、C1の金属粒子では、銅の含有量が多いが、アルミニウムの含有量が少なすぎるため、酸化が顕著であった。C2の金属粒子では、大気中500℃まで酸化が防止,抑制されているため、その温度範囲では電極に適用可能である。すなわち、酸化を抑制するためのアルミニウムの含有量は、少なくとも3重量%以上が必要である。C3の金属粒子では、大気中700℃近くまで、酸化が防止,抑制され、比抵抗が低いため、電極として適用範囲が広がることから、好ましくは金属粒子のアルミニウム含有量は5重量%以上がよい。
【0051】
以上より、銅とアルミニウムを含む金属粒子の粒界がリン酸ガラス相からなる場合には、金属粒子の銅含有量が80重量%以上、好ましくは85〜97重量%、アルミニウム含有量は3重量%以上、好ましくは5〜15重量%であることが分かった。
【実施例6】
【0052】
本実施例では、銅とアルミニウムを含む金属粒子の粒径について検討した。表3のC4の金属粒子において、既に粒径8μm以上をカットした8μm未満の球状金属粒子をさらに平均粒径1μmと5μmの2種類になるように分級した。表4に示すC41〜C45の組み合わせで、粒径の異なる金属粒子をそれぞれ混合し、C41〜C45の金属粒子100重量部に対して、表2のリン酸溶液P2をそれぞれ30重量部添加し、超音波を30分間かけてリン酸溶液中に前記混合金属粒子を分散させた。これらをスクリーン印刷法にてアルミナ基板に塗布した。塗布後、大気中150℃で1時間乾燥した。その後、電気炉にて大気雰囲気で5℃/分の昇温速度で700℃に加熱し、30分間保持し、それぞれの焼成塗膜を得た。各焼成塗膜の膜厚は、約20μmであった。
【0053】
実施例1と同様にして比抵抗を測定した。また、SEM−EDXとXRDにより観察,分析しており、どの混合金属粒子を使用しても、緻密な焼成塗膜となっており、粒界は少なくともアルミニウムを含むリン酸ガラス相となっていた。このアルミニウムは金属粒子より溶出,拡散したものである。図5に表4のC41〜C45における焼成塗膜の比抵抗と大小異なる粒径の配合割合との関係を示す。
【0054】
【表4】

【0055】
C41とC45のように金属粒子の平均粒径が単一であるより、大小異なる粒径を混合した方が焼成塗膜の比抵抗が低いことが分かった。これは金属粒子のパッキング状態が向上したためで、SEMの観察結果からもその様子は窺われた。
【0056】
よって、好ましくは銅とアルミニウムからなる金属粒子の平均粒径は、大小異なる粒径を組み合わせて用いた方が低抵抗化でき、電極としては適している。
【実施例7】
【0057】
本実施例では、銅とアルミニウムを含む金属粒子の形状について検討した。先ずは、実施例6と同様にして、表3のC4の球状金属粒子において、平均粒径1μmを分級した。この球状金属粒子を有機溶媒中でボールミルをかけ、板状粒子とした。さらに、この板状粒子の熱的安定性を向上させるために、還元雰囲気で700℃アニール処理を行った。また、本実施例では、板状金属粒子と球状金属粒子の混合についても検討した。球状金属粒子には、上記C4の平均粒径1μmの金属粒子を用いた。表5に検討したC4の板状粒子と球状粒子の割合を示す。表5のC401〜C405の割合で板状金属粒子と球状金属粒子をそれぞれ混合し、金属粒子100重量部に対して表2のリン酸溶液P2をそれぞれ30重量部添加し、超音波を30分間かけてリン酸溶液中に前記混合金属粒子を分散させた。これらをスクリーン印刷法にてアルミナ基板に塗布した。塗布後、大気中150℃で1時間乾燥した。その後、電気炉にて大気雰囲気で5℃/分の昇温速度で700℃に加熱し、30分間保持し、それぞれの焼成塗膜を得た。各焼成塗膜の膜厚は、約20μmであった。
【0058】
実施例1と同様にして比抵抗を測定した。また、SEM−EDXとXRDにより観察,分析しており、どの混合金属粒子を使用しても、緻密な焼成塗膜となっており、粒界は少なくともアルミニウムを含むリン酸ガラス相となっていた。このアルミニウムは金属粒子より溶出,拡散したものである。図6に表5のC401〜C405における焼成塗膜の比抵抗と形状が異なる金属粒子の配合割合との関係を示す。
【0059】
【表5】

【0060】
板状粒子の割合が大きいほど、焼成塗膜の比抵抗が低下することが分かった。これは板状粒子の導入によって金属粒子同士の接触状態が向上したためで、SEMの観察結果からもその様子は窺われた。
【0061】
よって、好ましくは銅とアルミニウムからなる金属粒子の形状は、板状か、或いは板状と球状の混合であることが低抵抗化でき、電極としては適している。
【実施例8】
【0062】
本実施例では、本発明の電極をプラズマディスプレイパネルに適用した例について説明する。プラズマディスプレイパネルの断面図の概要を図7に示す。
【0063】
プラズマディスプレイパネルでは、前面板10,背面板11が100〜150μmの間隙をもって対向させて配置され、各基板の間隙は隔壁12で維持されている。前面板10と背面板11の周縁部は封着材料13で気密に封止され、パネル内部に希ガスが充填されている。隔壁12により区切られた微小空間(セル14)には、赤色,緑色,青色の蛍光体15,16,17がそれぞれ充填され、3色のセルで1画素を構成する。各画素は信号に応じ各色の光を発光する。
【0064】
前面板10,背面板11には、ガラス基板上に規則的に配列した電極が設けられている。前面板10の表示電極18と背面板11のアドレス電極19が対となり、この間に表示信号に応じて選択的に100〜200Vの電圧が印加され、電極間の放電により紫外線20を発生させて赤色,緑色,青色蛍光体15,16,17を発光させ、画像情報を表示する。表示電極18,アドレス電極19は、これら電極の保護と、放電時の壁電荷の制御等のために、誘電体層22,23で被覆される。誘電体層22,23には、ガラスの厚膜が使用される。
【0065】
背面板11には、セル14を形成するために、アドレス電極19の誘電体層23の上に隔壁12が設けられる。この隔壁12はストライプ状或いはボックス状の構造体である。また、コントラストを向上するために、隣接するセルの表示電極間にブラックマトリックス(黒帯)21が形成されることもある。
【0066】
表示電極18,アドレス電極19としては、現在一般的には銀厚膜配線が使用されている。この銀厚膜配線は、コストの低減と銀のマイグレーション対策のために、銀厚膜配線から銅厚膜配線への変更が好ましいが、そのためには、酸化雰囲気において銅厚膜配線の焼成,形成時に銅が酸化され電気抵抗が上昇しないこと、さらに酸化雰囲気において誘電体層の焼成,形成時に銅厚膜配線と誘電体層とが反応して銅が酸化され電気抵抗が増加しないこと、その上銅厚膜配線近傍に空隙(気泡)が発生し耐圧が減少しないこと等の条件が挙げられる。表示電極18,アドレス電極19、及びブラックマトリックス21の形成は、スパッタリング法によっても可能であるが、価格低減のためには印刷法が有利である。誘電体層22,23は、一般的には印刷法で形成される。印刷法で形成される表示電極18,アドレス電極19,ブラックマトリックス21,誘電体層22,23は、大気等の酸化雰囲気中で450〜620℃の温度範囲で焼成されることが一般的である。
【0067】
前面板10では、背面板11のアドレス電極19に直交するように、表示電極18やブラックマトリックス21を形成した後に、誘電体層22を全面に形成する。その誘電体層22の上には、放電より表示電極18等を保護するために、保護層24が形成される。一般的には、その保護層24には、酸化マグネシウム(MgO)の蒸着膜が使用される。背面板11には、アドレス電極19,誘電体層23の上に隔壁12が設けられる。ガラス構造体よりなる隔壁は、少なくともガラス組成物とフィラーを含む構造材料よりなり、その構造材料を焼結した焼成体から構成される。隔壁12は、隔壁部に溝が切られた揮発性シートを貼り付け、その溝に隔壁用のペーストを流し込み、500〜600℃で焼成することによって、シートを揮発させるとともに隔壁12を形成することができる。また、印刷法にて隔壁用ペーストを全面に塗布し、乾燥後にマスクして、サンドブラストや化学エッチングによって、不要な部分を除去し、500〜600℃で焼成することにより隔壁12を形成することもできる。隔壁12で区切られたセル14内には、各色の蛍光体15,16,17のペーストをそれぞれ充填し、450〜500℃で焼成することによって、赤色,緑色,青色蛍光体15,16,17をそれぞれ形成する。
【0068】
通常、別々に作製した前面板10と背面板11を対向させ、正確に位置合わせし、周縁部を420〜500℃でガラス封着する。封着材料13は、事前に前面板10或いは背面板11のどちらか一方の周縁部にディスペンサー法或いは印刷法により形成される。一般的には、封着材料13は背面板11の方に形成される。また、封着材料13は赤色,緑色,青色蛍光体15,16,17の焼成と同時に事前に仮焼成されることもある。この方法を取ることによって、ガラス封着部の気泡を著しく低減でき、気密性の高い、すなわち信頼性の高いガラス封着部が得られる。ガラス封着は、加熱しながらセル14内部のガスを排気し、希ガスを封入し、パネルが完成する。封着材料13の仮焼成時やガラス封着時に、封着材料13が表示電極18やアドレス電極19と直接的に接触することがあり、電極を形成する配線材料と封着材料13が反応して、配線材料の電気抵抗を増加させることは問題であり、この反応を防止する必要がある。
【0069】
完成したパネルを点灯するには、表示電極18とアドレス電極19の交差する部位で電圧を印加して、セル14内の希ガスを放電させ、プラズマ状態とする。そして、セル14内の希ガスがプラズマ状態から元の状態に戻る際に発生する紫外線20を利用して、赤色,緑色,青色蛍光体15,16,17を発光させて、パネルを点灯させ、画像情報を表示する。各色を点灯させるときには、点灯させたいセル14の表示電極18とアドレス電極19との間でアドレス放電を行い、セル内に壁電荷を蓄積する。次に表示電極対に一定の電圧を印加することで、アドレス放電で壁電荷が蓄積されたセルのみ表示放電が起こり、紫外線20を発生させることによって、蛍光体を発光させる仕組みで画像情報の表示が行われる。
【0070】
実施例7で検討した表5の銅とアルミニウムを含む金属粒子C402と表2のリン酸溶液P2を用い、前面板10の表示電極18と背面板11のアドレス電極19へ適用することによって、図7で示したプラズマディスプレイパネルを試作した。実施例7と同様に金属粒子C402を100重量部に対して、リン酸溶液P2を30重量部添加し、さらに感光剤を少量入れ、超音波を30分かけて感光剤を含むリン酸溶液中に金属粒子を分散させた。これを電極形成用ペーストとして、スクリーン印刷法によって前面板10と背面板11の全面に塗布し、大気中150℃で乾燥した。続いて、塗布した面にマスクを付け、紫外線を照射することによって、余分な箇所を除去し、表示電極18,背面板11を形成した。その後、大気中600℃で30分間焼成した。次にブラックマトリックス21や誘電体層22,23をそれぞれ塗布し、大気中610℃で30分間焼成した。このようにして、前面板10と背面板11を別々に作製し、外周部をガラス封着して、図7に示したプラズマディスプレイパネルを試作した。本発明の電極を用いた表示電極18とアドレス電極19は酸化による変色もなく、また表示電極18と誘電体層22,アドレス電極19と誘電体層23の界面部に空隙の発生も認められず、外観上、良好な状態でプラズマディスプレイパネルに搭載することができた。
【0071】
続いて、試作したプラズマディスプレイパネルの点灯実験を行った。表示電極18,アドレス電極19の電気抵抗が増加することもなく、また耐圧が減少することもなく、さらに銀厚膜電極のようにマイグレーションすることなく、パネル点灯できた。その他においても特に支障があるような点は認められず、本発明の電極は、プラズマディスプレイパネルの電極として適用できることが分かった。また、高価な銀電極の代替となり得るので、コスト低減にも大きく期待できる。
【実施例9】
【0072】
本実施例では、本発明の電極を太陽電池素子の電極へ適用した例について説明する。代表的な太陽電池素子の断面図,受光面及び裏面の概要を図8,図9及び図10に示す。
【0073】
通常、太陽電池素子の半導体基板30には、単結晶または多結晶シリコンなどが使用される。この半導体基板30は、ホウ素などを含有し、p形半導体とする。受光面側は、太陽光の反射を抑制するために、エッチングにより凹凸を形成する。その受光面にリンなどをドーピングし、n型半導体の拡散層31をサブミクロンオーダーの厚みで生成させるとともに、p形バルク部分との境界にpn接合部を形成する。さらに受光面に窒化シリコンなどの反射防止層32を蒸着法などによって膜厚100nm前後で形成する。
【0074】
次に受光面に形成される受光面電極33と、裏面に形成される集電電極34及び出力取出し電極35の形成について説明する。通常、受光面電極33と出力取出し電極45にはガラス粉末を含む銀電極ペースト、集電電極34にはガラス粉末を含むアルミニウム電極ペーストが使われ、スクリーン印刷にて塗布される。乾燥後、大気中500〜800℃程度で焼成され、電極形成される。その際に、受光面では、受光面電極33に含まれるガラス組成物と反射防止層32とが反応して、受光面電極33と拡散層31が電気的に接続される。また、裏面では、集電電極34中のアルミニウムが半導体基板30の裏面に拡散して、電極成分拡散層36を形成することによって、半導体基板30と集電電極34,出力取出し電極35との間にオーミックコンタクを得ることができる。
【0075】
実施例6で検討した表4の銅とアルミニウムを含む金属粒子C43と表2のリン酸溶液P2を用い、受光面電極33と出力取出し電極35へ適用することによって、図8〜図10で示した太陽電池素子を試作した。実施例6と同様に金属粒子C43を100重量部に対して、リン酸溶液P2を30重量部添加し、超音波を30分かけてリン酸溶液中に金属粒子を分散させた。これを受光面電極33用と出力取出し電極35用のペーストとして用いた。
【0076】
先ず、上記集電電極34用アルミニウム電極ペーストを図8及び図10に示すように半導体基板30の裏面にスクリーン印刷で塗布し、乾燥後、赤外線急速加熱炉にて大気中で600℃まで加熱した。600℃での保持時間は3分とした。これにより、先ずは半導体基板30の裏面に集電電極34を形成した。
【0077】
次に、拡散層31と反射防止層32を形成してある半導体基板30の受光面と、既に集電電極34が形成してある半導体基板30の裏面に、スクリーン印刷で、図8〜図10に示すように塗布し、乾燥した後に赤外線急速加熱炉にて大気中で750℃まで加熱した。
保持時間は1分とした。
【0078】
作製した太陽電池素子は、受光面では受光面電極33と拡散層31が形成された半導体基板30が電気的に接続されていた。また、裏面では電極成分拡散層36が形成され、半導体基板30と集電電極34,出力取出し電極35との間にオーミックコンタクを得ることができた。さらに、85℃,85%の高温高湿試験を100時間実施し、電極の配線抵抗や接触抵抗がほとんど大きくなるようなことはなかった。
【0079】
以上より、本発明の電極は、実施例8で説明したプラズマディスプレイパネルと同様に、太陽電池素子の電極としても展開できることが分かった。また、高価な銀電極の代替となり得るので、コスト低減にも貢献することができる。
【0080】
本発明の電極の代表的な適用例として、プラズマディスプレイパネルと太陽電池素子を説明したが、これら2つの電子部品に限った話ではなく、その他の電子部品の電極としても広く適用できるものである。特に、高価な銀電極を多数使用している電子部品では、本発明の電極を適用することによって、大きなコスト低減を図ることも可能である。
【実施例10】
【0081】
本実施例では、実施例5の知見をもとに、銅とアルミニウムを含む金属粒子が不活性ガス雰囲気中で低温焼成可能かどうかを検討した。金属粒子としては、表3のC1〜3と純銅球状粒子、そして銅が99.5重量%及びアルミニウムが0.5重量%を含む球状金属粒子を用いた。また、それらの金属粒子は、分級することにより、平均粒径1μmとした。前記5種類の金属粒子を表2のリン酸溶液P2にそれぞれ分散して、これをペーストとして用いた。なお、金属粒子とリン酸水溶液の配合割合は、前者100重量部に対して後者25重量部とし、超音波を30分間かけてリン酸溶液中に金属粒子を均一に分散させた。このペーストをスクリーン印刷法にてアルミナ基板に塗布し、80℃に保持した乾燥機で2時間乾燥させた。その後、電気炉にて窒素雰囲気で10℃/分の昇温速度で300〜900℃の温度範囲で加熱し、30分間保持し、焼成塗膜を得た。各温度における焼成塗膜の膜厚は、約20μmであった。
【0082】
実施例1と同様にして、比抵抗を測定した。図11に窒素雰囲気中での焼成塗膜の比抵抗と焼成温度の関係を示す。図中のC′が純銅粒子、C0が銅を99.5重量%及びアルミニウムを0.5重量%含む金属粒子、C1〜3は表3の銅とアルミニウムを含む金属粒子C1〜3である。C0〜2の焼成塗膜では、低温領域においても、良好な比抵抗値が得られた。特にC0とC1の焼成塗膜では400℃以上、C2の焼成塗膜では500℃以上で10-6Ωcmオーダーの比抵抗が得られ、電極として十分に適用できることが明らかになった。通常の銅電極では、窒素等の不活性ガス雰囲気中で900〜1000℃の高温で焼成されることから、それに比べると、著しい低温で焼成できることを見出した。しかし、C3の焼成塗膜では、C0〜2の焼成塗膜に比べると比抵抗が高めであり、窒素等の不活性ガス雰囲気での低温焼成には、銅が97重量%以上、アルミニウムが3重量%以下の金属粒子からなることが好ましいことが分かった。また、アルミニウムをまったく含まない純銅C′の焼成塗膜では、C3の焼成塗膜よりも比抵抗が高く、少なくともアルミニウムを含むことが重要である。金属粒子の好ましい組成範囲は、銅が97.0〜99.5重量%、アルミニウムが0.5〜3.0重量%であった。
【0083】
次にC′及びC0〜3の焼成塗膜を研磨して、SEM−EDXによって観察,分析した。どの焼成塗膜においても、またどの温度においても、表2のリン酸溶液P2により、緻密に焼成されていた。C0〜2の焼成塗膜においては、図12に示すように、低温においても、金属粒子1同士の焼結が進行し、金属粒子1の粒成長が起こっていた。たとえば、500℃では、平均粒径1μmの球状金属粒子1が約20μmぐらいにまで粒成長していた。このため、低温焼成においても低抵抗化が図られたものと考えられる。粒界はリン酸ガラス相2より構成されており、金属粒子からの銅やアルミニウムが検出された。特に金属粒子中のアルミニウムの大部分は、焼成中にそのリン酸ガラス相2へ溶出されることが分かった。また、アルミニウムが溶出した金属粒子は、ほぼ純銅に近い状態になっていたが、酸化されている様子は認められなかった。低温焼成であっても金属粒子からアルミニウムや銅がリン酸ガラス相中へ溶出することによって、金属粒子同士が焼結及び粒成長するために、500℃程度の低温であっても、窒素等の不活性ガス雰囲気であれば低抵抗化でき、電極として適用できることが分かった。
【0084】
C3の焼成塗膜では、C0〜2の焼成塗膜と同様に金属粒子の酸化は認められなかった。しかし、C0〜2の焼成塗膜に比べると、金属粒子同士の焼結や粒成長が抑制されていた。このために、比抵抗が高くなっていたものと考えられる。これは、アルミニウム含有量が多いためであると考えられる。大気中焼成では、金属粒子からのアルミニウムの溶出によって、耐酸化性が低下するために、銅とアルミニウムを含む金属粒子としては、より多くのアルミニウムの含有量が必要となるが、不活性ガス雰囲気ではアルミニウムの含有量が少ない方がより低温で焼成できることから好ましい。
【0085】
C′の焼成塗膜では、純銅粒子同士の焼結や粒成長が観察されたが、窒素中での焼成にも関らず、純銅粒子が酸化されている様子が認められた。このため、比抵抗が大きくなってしまったものと考えられる。酸化の原因は、表2のリン酸溶液P2が焼成される際に、水が揮発されるために、これにより純銅粒子が酸化されてしまったと考えられる。金属粒子には多少のアルミニウムの含有は必要であり、好ましい組成範囲は銅が97.0〜99.5重量%、アルミニウムが0.5〜3.0重量%であり、さらに金属粒子の粒界はリン酸ガラス相とすることが有効である。
【0086】
窒素等の不活性ガス雰囲気で製造できる電子部品では、今までの銅電極を使用していた約半分の低温、具体的には500℃程度で電極形成が可能になることから、生産性やコストの面で大変有利になることは間違いない。また、耐熱性が低い電子部品への新規展開も期待できる。
【符号の説明】
【0087】
1 銅とアルミニウムを含む金属粒子
2 リンを含む酸化物相
10 前面板
11 背面板
12 隔壁
13 封着材料
14 セル
15,16,17 赤色,緑色,青色蛍光体
18 表示電極
19 アドレス電極
20 紫外線
21 ブラックマトリックス
22,23 誘電体層
24 保護層
30 半導体基板
31 拡散層
32 反射防止層
33 受光面電極
34 集電電極
35 出力取出し電極
36 電極成分拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属粒子と酸化物相からなる電極であって、該金属粒子が銅とアルミニウムを含み、かつ該酸化物相がリンを含むことを特徴とする電極。
【請求項2】
請求項1に記載された電極であって、
前記酸化物相が前記金属粒子の粒界に存在することを特徴とする電極。
【請求項3】
請求項1または2に記載された電極であって、
前記金属粒子が75〜95体積%、及び前記酸化物相が5〜25体積%からなることを特徴とする電極。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された電極であって、
前記金属粒子が83〜92体積%、及び前記酸化物相が8〜17体積%からなることを特徴とする電極。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれに記載された電極であって、
前記金属粒子の銅含有量が80重量%以上であることを特徴とする電極。
【請求項6】
請求項5に記載された電極であって、
前記金属粒子の銅含有量が85〜97重量%であることを特徴とする電極。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載された電極であって、
前記金属粒子のアルミニウム含有量が3重量%以上であることを特徴とする電極。
【請求項8】
請求項7に記載された電極であって、
前記金属粒子のアルミニウム含有量が5〜15重量%であることを特徴とする電極。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載された電極であって、
前記金属粒子が大小異なる粒径の球状粒子からなることを特徴とする電極。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれかに記載された電極であって、
前記金属粒子が板状粒子からなることを特徴とする電極。
【請求項11】
請求項1ないし8のいずれかに記載された電極であって、
前記金属粒子が球状粒子と板状粒子からなることを特徴とする電極。
【請求項12】
請求項1ないし4のいずれかに記載された電極であって、
前記酸化物相にバナジウム,タングステン,モリブデン,鉄,マンガン,コバルト,スズ,バリウム,亜鉛,アルミニウム,銀,銅,アンチモン,テルルのうち少なくとも1種が含まれることを特徴とする電極。
【請求項13】
請求項1ないし4、または12のいずれかに記載された電極であって、
前記酸化物相がリン酸ガラス相であることを特徴とする電極。
【請求項14】
請求項1ないし4,12または13のいずれかに記載された電極であって、
前記酸化物相がバナジウムを含むリン酸ガラス相であることを特徴とする電極。
【請求項15】
請求項14に記載された電極であって、
前記酸化物相がさらにタングステン,モリブデン,鉄,マンガン,バリウム,亜鉛,アンチモン,テルルのうち少なくとも2種以上が含まれることを特徴とする電極。
【請求項16】
請求項1ないし4,12または13のいずれかに記載された電極であって、
前記酸化物相がアルミニウムを含むリン酸ガラス相であることを特徴とする電極。
【請求項17】
請求項16に記載された電極であって、
前記酸化物相がさらに銅が含まれることを特徴とする電極。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれかに記載された電極を構成する前記金属粒子と前記酸化物相を形成する粉末と、樹脂バインダーと、溶剤とを含むことを特徴とする電極ペースト。
【請求項19】
請求項1ないし17のいずれかに記載された電極を構成する前記金属粒子と前記酸化物相を形成する溶液とを含むことを特徴とする電極ペースト。
【請求項20】
請求項1ないし17のいずれかに記載された電極を有することを特徴とする電子部品。
【請求項21】
請求項20に記載された電子部品であって、
前記電極が請求項18または19に記載された電極ペーストにより塗布,形成され、大気等の酸化雰囲気中にて焼成されてなることを特徴とする電子部品。
【請求項22】
請求項20または21に記載された電子部品であって、
該電子部品がプラズマディスプレイパネル或いは太陽電池素子であることを特徴とする電子部品。
【請求項23】
請求項1ないし5のいずれかに記載された電極であって、
前記金属粒子の銅含有量が97重量%以上、アルミニウム含有量が3重量%以下であることを特徴とする電極。
【請求項24】
請求項23に記載された電極を構成する前記金属粒子と、請求項13に記載された前記リン酸ガラス相を形成するリン酸溶液とを含むことを特徴とする電極ペースト。
【請求項25】
請求項23に記載された電極を有することを特徴とする電子部品。
【請求項26】
請求項25に記載された電子部品であって、
前記電極が請求項24に記載された電極ペーストにより塗布,形成され、窒素等の不活性ガス雰囲気中500℃以下にて焼成されてなることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−161331(P2010−161331A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139766(P2009−139766)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】