説明

電界効果トランジスタ及びその製造方法

【課題】半導体材料として特定の有機複素環化合物を用いて、実用的な印刷適性を有し、さらにキャリア移動度、ヒステリシスや閾値安定性などの優れた半導体特性を有し、産業上実用的な特定のトップゲート構造の電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】半導体材料として下記式(1)で表される化合物を含有し、特定のトップゲート−ボトムコンタクト構造を有することを特徴とする電界効果トランジスタ。


(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に無置換またはハロゲノ置換C1−C36脂肪族炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタ及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は特定の有機複素環式化合物を半導体材料として用い、特定のトップゲート構造から成る電界効果トランジスタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタは、一般に、基板上の半導体材料にソース電極、ドレイン電極、及びこれらの電極と絶縁体層を介してゲート電極等を設けた構造を有する。現在、電界効果トランジスタには、シリコンを中心とする無機系の半導体材料が使われており、特にアモルファスシリコンを使用して、ガラスなどの基板上に作成された薄膜トランジスタをディスプレイ等に使用したり、論理回路素子として集積回路に使用されるほか、スイッチング素子等にも幅広く用いられている。さらに最近は半導体材料に酸化物半導体を用いる検討が盛んに行なわれている。しかし、このような無機系の半導体材料を用いた場合、電界効果トランジスタの製造時に高温や真空で処理する必要があり、その基板には耐熱性に劣るフィルムやプラスチック等を利用する事が出来ず、また高額な設備投資や、製造に多くのエネルギーを要するため、コストが非常に高いものとなり、その応用範囲が非常に制限されている。
【0003】
これに対して、電界効果トランジスタの製造時に高温処理を必要としない有機半導体材料を用いた電界効果トランジスタの開発も行われている。有機半導体材料を用いることが出来れば、低温プロセスでの製造が可能になり、使用可能な基板材料の範囲が拡大される。そして、その結果、よりフレキシブルで、且つ軽量で、壊れにくい電界効果トランジスタの作成が可能となる。また、電界効果トランジスタの作製工程において、有機半導体材料を含有する溶液を塗布したり、インクジェット等による印刷方法により、大面積の電界効果トランジスタを低コストで製造できる可能性もある。
しかしながら、従来は、有機半導体材料に用いられた有機化合物の多くが有機溶媒に難溶であるため、塗布印刷などの安価な手法を用いることができず、比較的コストの高い真空蒸着法等で半導体の基板上に薄膜を形成させることが一般的であった。近年、有機溶媒に溶解し、塗布法で製膜、電界効果トランジスタを作製し、比較的高いキャリア移動度を有するデバイスが得られるようになってきているが、現状では、塗布・印刷プロセスを用いて、移動度が高く且つ耐久性に優れた有機半導体を用いた電界効果トランジスタは実用化されておらず、各適性が向上したトランジスタを得るために多くの検討が現在も盛んに行われている。
【0004】
また、有機半導体材料は分子配向に影響されるなど膜の状態によって特性が大きく変わることがあるため、基板などの表面処理によって、基板などとその後に成膜される半導体層との界面部分の分子配向や結晶性が制御されること、また基板や絶縁体層上のトラップ部位が低減されることにより、キャリア移動度等の特性を改良できるものと考えられている。トラップ部位とは、未処理の基板上に存在する例えば水酸基のような官能基を指し、このような官能基が存在すると、電子が該官能基に引き寄せられ、この結果としてキャリア移動度が低下する。従って、トラップ部位を低減することもキャリア移動度等の特性改良には有効な場合が多い。基板の表面処理方法として、例えば基板表面の親水性/疎水性のバランスを調整し、その上に成膜される膜の膜質や基板への塗れ性を改良する方法がある。しかしながら、塗布・印刷プロセスにおいて疎水的な表面に所望の有機半導体層を形成することは、その基板表面での濡れ性の欠如により結果として成膜性を著しく下げてしまい、また、親水性/疎水性のバランスを取るには、精緻なパターンによる基板表面の濡れ性の制御を行わなければならないという問題があった。
【0005】
特許文献1には、ペンタセンを有機溶媒に分散後、100℃に加熱したシリコン基板に該分散液を塗布することによりペンタセンの薄膜及びトランジスタが形成されることが開示されている。
特許文献2にはベンゾセレノ[3,2−b][1]ベンゾセレノフェン(下記式(1)において、式(1)中の硫黄原子がセレン原子であり、R及びRが水素原子である化合物)及びベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(下記式(1)において、R及びRが水素原子である化合物)のアリール誘導体を用いた電界効果トランジスタが開示されている。
特許文献3にはベンゾセレノ[3,2−b][1]ベンゾセレノフェン及びベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンのアルキル誘導体を用いた電界効果トランジスタが開示されている。
特許文献4にはベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンのアルキル誘導体と高分子化合物の混合液を用いた電界効果トランジスタが開示されている。
【0006】
非特許文献1には、特定の置換基を導入して、有機溶媒に可溶になったペンタセン誘導体などを用いた有機電界効果トランジスタが開示されている。
非特許文献2には、SAM処理による基板表面の接触核の変化とそのトランジスタ特性の高性能化に関する技術が開示されている。
非特許文献3には、ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンのアルキル誘導体を用いた電界効果トランジスタが開示されている。
非特許文献4には、ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンのアルキル誘導体を用いて、表面選択析出法により作製した電界効果トランジスタが開示されている。
しかし、ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンのアルキル誘導体を用いて、トップゲート構造の電界効果トランジスタを形成した例は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−281180号公報
【特許文献2】WO2006/077888号国際公開パンフレット
【特許文献3】WO2008/047896号国際公開パンフレット
【特許文献4】特開2009−267372号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.2005,127,4986−4987.
【非特許文献2】化学と教育 55巻1号(2007),12−15.
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.2007,129,15732−15733.
【非特許文献4】Applied Physics Letters,94.093307 (2009).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は実用的な印刷適性を有し、さらにキャリア移動度、ヒステリシスや閾値安定性などの半導体特性に優れた実用的な電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、半導体材料として特定の有機複素環式化合物を用いて、特定のトップゲート構造、すなわちトップゲート−ボトムコンタクト構造の電界効果トランジスタを形成した場合に、実用的な印刷適性を有し、さらにキャリア移動度、ヒステリシスや閾値安定性などの半導体特性に優れた実用的な電界効果トランジスタを提供出来ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
(1)半導体材料として下記式(1)で表される化合物を含有し、トップゲート構造を有することを特徴とする電界効果トランジスタ、
【化1】


(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に無置換またはハロゲノ置換C1−C36脂肪族炭化水素基を表す。)
(2)式(1)におけるR及びRがそれぞれ独立に直鎖のC6−C12アルキル基である、上記(1)に記載の電界効果トランジスタ、
(3)トップゲート構造が、ソース電極とドレイン電極とを有する基板上に式(1)で表される化合物を含む半導体層が設けられ、該半導体層の上にゲート絶縁膜層、該ゲート絶縁膜層の上部の一部又は全部に、該ゲート絶縁膜層と接するようにゲート電極がそれぞれ設けられているトップゲート−ボトムコンタクト型構造である、上記(1)又は(2)に記載の電界効果トランジスタ、
(4)式(1)で表される化合物を含む半導体層が塗布印刷プロセスにより形成され、ゲート絶縁膜層が塗布印刷プロセスにより形成される、上記(3)に記載の電界効果トランジスタの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
半導体材料として上記式(1)の化合物を用いることにより、実用的な印刷適性を有し、かつ基板表面処理等による高疎水的表面を形成せずとも優れたキャリア移動度などの半導体特性を有する、ヒステリシスや閾値安定性に優れた実用的な特定のトップゲート構造の電界効果トランジスタを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電界効果トランジスタのトップゲート−ボトムコンタクト構造の一例である。
【図2】実施例1の電界効果トランジスタの特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を詳細に説明する。
本発明は特定の有機複素環式化合物を半導体材料として用い、さらに特定のトップゲート構造から成る有機系の電界効果トランジスタ及びその製造方法に関する。
【0015】
先ず、上記式(1)で表される化合物について説明する。上記式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に無置換またはハロゲノ置換C1−C36脂肪族炭化水素基を表す。脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖又は環状の脂肪族炭化水素基であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、さらに好ましくは直鎖の脂肪族炭化水素基が挙げられる。炭素数は通常C1−C36であり、好ましくはC2−C24、さらに好ましくはC4−C20、最も好ましくはC6−C12である。
直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、iso−ペンチル、t−ペンチル、sec−ペンチル、n−ヘキシル、iso−ヘキシル、n−ヘプチル、sec−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、sec−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−ノナデシル、n−エイコシル、ドコシル、n−ペンタコシル、n−オクタコシル、n−トリコンチル、5−(n−ペンチル)デシル、ヘネイコシル、トリコシル、テトラコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、ノナコシル、n−トリアコンチル、スクアリル、ドトリアコンチル、ヘキサトリアコンチル等が挙げられる。
また、環状の飽和脂肪族炭化水素基の具体例としては、シクロヘキシル、シクロペンチル、アダマンチル、ノルボルニル等が挙げられる。
直鎖又は分岐鎖の不飽和脂肪族炭化水素基の具体例としてはビニル、アリル、エイコサジエニル、11,14−エイコサジエニル、ゲラニル(トランス−3,7−ジメチル−2,6−オクタジエン−1−イル)、ファルネシル(トランス,トランス−3,7,11−トリメチル−2,6,10−ドデカトリエン−1−イル)、4−ペンテニル、1−プロピニル、1−ヘキシニル、1−オクチニル、1−デシニル、1−ウンデシニル、1−ドデシニル、1−テトラデシニル、1−ヘキサデシニル、1−ノナデシニル等が挙げられる。
直鎖、分岐鎖及び環状の脂肪族炭化水素基のうち、好ましいものは直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基であり、さらに好ましくは直鎖の脂肪族炭化水素基である。
飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基とは、飽和のアルキル基、炭素−炭素二重結合を含むアルケニル基及び炭素−炭素三重結合を含むアルキニル基が挙げられ、より好ましくはアルキル基又はアルキニル基であり、さらに好ましくはアルキル基である。脂肪族炭化水素残基としては、これらの飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基を組み合わせたもので、すなわち脂肪族炭化水素基中の部位に炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合を同時に含む場合も全て含まれる。
ハロゲノ置換脂肪族炭化水素基とは、任意の種類のハロゲン原子が上記の脂肪族炭化水素基の任意の位置に任意の数で置換されているものを意味する。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、さらに好ましくはフッ素原子及び臭素原子が挙げられる。ハロゲノ置換脂肪族炭化水素基の具体例としては、クロロメチル、ブロモメチル、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、n−ペルフルオロプロピル、n−ペルフルオロブチル、n−ペルフルオロペンチル、n−ペルフルオロオクチル、n−ペルフルオロデシル、n−(ドデカフルオロ)−6−ヨードヘキシル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル、2,2,3,3−テトラフルオロピロピル等が挙げられる。
【0016】
上記式(1)で表される化合物は、例えば非特許文献2に記載の公知の方法により合成することができる。また、特許文献3、非特許文献2に記載の方法でも得ることができる。
【0017】
上記式(1)で表される化合物の精製方法は、特に限定されず、再結晶、カラムグロマトグラフィー、及び真空昇華精製等の公知の方法が採用できる。また必要に応じてこれらの方法を組合わせて用いてもよい。
【0018】
下記表1に上記式(1)で表される化合物の具体例を示す。
【表1−1】


【表1−2】

【0019】
本発明の電界効果トランジスタ(Field effect transistor、以下FETと略記する場合がある)は、半導体層に接してソース電極及びドレイン電極の2つの電極があり、その2つの電極間に流れる電流を、ゲート絶縁膜層を介してゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものであることが好ましく、特にトップゲート−ボトムコンタクト構造から成ることが好ましい。
【0020】
図1に示されるトップゲート−ボトムコンタクト構造から成る電界効果トランジスタの各構成要素につき説明する。
基板1は、その上に形成される各層が剥離することなく保持できることが必要である。例えば、樹脂板や樹脂フィルム、紙、ガラス、石英、セラミックなどの絶縁性材料;金属や合金などの導電性基板上に絶縁層をコーティングした形成物;樹脂と無機材料など各種組合せからなる材料等が使用できる。中でも一般に使用される樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。樹脂フィルムや紙を用いると、半導体素子に可撓性を持たせることができ、フレキシブルで、軽量となり、実用性が向上する。基板の厚さは、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜3mmである。
【0021】
ソース電極2、ドレイン電極3、ゲート電極6には導電性を有する材料が用いられる。例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫、チタン、インジウム、パラジウム、モリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、リチウム、カリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金;InO、ZnO、SnO、ITO等の導電性酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン(PEDOT・PSSなど)、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物;BED−TTFなどの有機電荷移動錯体;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料等が使用できる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングを行ってもよく、ドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸;PF、AsF、FeCl等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子、リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属原子、等が用いられる。電極の接触抵抗を低下させるために酸化モリブデンのドーピングや金属にチオールなどにより処理をしてもよい。また、上記材料にカーボンブラックや金、白金、銀、銅などの金属粒子などを分散した導電性の複合材料も用いられる。各電極2、3、6には配線が連結されるが、配線も電極とほぼ同じ材料で作製される。ソース電極2、ドレイン電極3、ゲート電極6の膜厚は、材料によって異なるが、通常0.1nm〜100μmであり、好ましくは0.5nm〜10μmであり、より好ましくは1nm〜5μmである。
【0022】
ゲート絶縁膜層5は絶縁性を有する材料であり、例えば、ポリパラキシリレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体;二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の酸化物;SrTiO、BaTiO等の強誘電性酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物;硫化物;フッ化物などの誘電体、あるいはこれら誘電体の粒子を分散させたポリマー等が使用できる。ゲート絶縁膜層5の膜厚は、材料によって異なるが、通常0.1nm〜100μm、好ましくは0.5nm〜50μm、より好ましくは5nm〜10μmである。
【0023】
半導体層4に含まれる半導体材料である前記式(1)で表される化合物としては、前記の通りアルキル誘導体、アルケニル誘導体及びアルキニル誘導体が挙げられるが、アルキル誘導体が好ましい。半導体層4の半導体材料としては上記式(1)で表される化合物の数種類の誘導体を混合して用いてもよいが、式(1)で表される化合物を総量に対して50質量%以上、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは95質量%以上含むことが必要である。電界効果トランジスタの特性を改善したり他の特性を付与するために、必要に応じて他の有機半導体材料や各種添加剤を混合してもよい。また半導体層4は複数の層から成っていてもよい。半導体層4の膜厚は、必要な機能を失わない範囲で、薄いほど好ましい。電界効果トランジスタにおいては、所定以上の膜厚があれば半導体素子の特性は膜厚に依存しないが、膜厚が厚くなると漏れ電流が増加する場合がある。逆に薄すぎると電荷の通り道(チャネル)が形成できなくなる場合があるため、適度の膜厚は必要である。半導体が必要な機能を示すための半導体層の膜厚は、通常、0.1nm〜10μm、好ましくは0.5nm〜5μm、より好ましくは1nm〜3μmである。
保護膜層7の材料としては特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜や、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等、無機酸化膜や窒化膜等の誘電体からなる膜が好ましく用いられ、特に、酸素透過率や吸水率の低い樹脂(ポリマー)が好ましい。また、有機ELディスプレイ用に開発されている保護材料も使用が可能である。保護膜層の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を採用できるが、通常100nm〜1mmである。保護膜層を形成すると、湿度などの外気の影響を小さくすることができ、また、デバイスのON/OFF比を上げることが出来るなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
【0024】
本発明の電界効果トランジスタは、基板表面の洗浄処理として塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュア・ブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理、機械的処理、コロナ放電などの電気的処理等を行うことで優れた印刷適正を示すことができるが、その他、上記した各層の間や、半導体素子の外面に必要に応じて他の層を設けてもよい。また半導体層が積層される基板またはゲート絶縁膜層上などに予め表面処理を行うことにより、デバイスの均一性を更に向上させることが可能である。このような基板処理としては、例えば、フェネチルトリクロロシラン等によるシランカップリング処理や繊維等を利用したラビング処理等が挙げられる。
【0025】
本発明において各層を設ける方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾル−ゲル法等が適宜使用できるが、生産性を考慮すると、塗布法や、インクジェット印刷などの印刷法が好ましい。
【0026】
次に、本発明の電界効果トランジスタの製造方法について、図1の態様例に基づき以下に説明する。
【0027】
(基板及び基板処理)
本発明の電界効果トランジスタは、上記でも説明した基板1上に必要な電極や各種の層を設けることで作製される(図1参照)。この基板上には前述の表面処理などを行う事も可能である。基板1の厚みは、必要な機能を妨げない範囲で薄い方が好ましい。材料によっても異なるが、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜3mmである。
【0028】
(ソース電極及びドレイン電極の形成)
上記の電極材料等を用いて基板1上にソース電極2及びドレイン電極3を形成する。ソース電極2及びドレイン電極3の材料は同じでも、異なってもよい。電極を形成する方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、熱転写法、印刷法、ゾル−ゲル法等が挙げられる。成膜時又は成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行うのが好ましい。パターニングの方法としても各種の方法を使用できるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法等が挙げられる。また、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィー法、及びこれら手法を複数組み合わせた手法を利用し、パターニングすることも可能である。ソース電極2及びドレイン電極3の膜厚は、材料によっても異なるが、通常0.1nm〜100μmであり、好ましくは0.5nm〜10μmであり、より好ましくは1nm〜5μmである。ソース電極2及びドレイン電極3の膜厚も同じでもよく、異なっていてもよい。
【0029】
(半導体層の形成)
上記で説明した有機半導体材料は、前記式(1)で表される化合物を単独で、または数種の該化合物の混合物で、総量に対し、50質量%以上含まれる。半導体層の成膜方法としては、例えばスパッタリング法、CVD法、分子線エピタキシャル成長法、真空蒸着法等の真空プロセスでの形成方法;ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法等の塗布法;インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの塗布印刷プロセス、等の形成方法に大別される。以下、半導体層の形成方法について詳細に説明する。
【0030】
先ず、有機半導体材料を真空プロセスによって成膜して有機半導体層を作製する方法、すなわち、真空蒸着法について説明する。この真空蒸着法は、前記の有機半導体材料をルツボや金属のボート中で真空(真空度は、通常1.0×10−1Pa以下、好ましくは1.0×10−4Pa以下である)下で加熱し、気化した有機半導体材料を基板(ソース電極及びドレイン電極の露出部)に付着(蒸着)させる方法であるが、蒸着時の基板温度によって半導体層、ひいては電界効果トランジスタの特性が変化するので、適切な基板温度を選択する必要がある。蒸着時の基板温度は、通常0〜200℃、好ましくは10〜150℃である。蒸着速度は、通常0.001nm/秒〜10nm/秒であり、好ましくは0.01nm/秒〜1nm/秒である。形成される半導体層の膜厚は、上記の半導体層4に同じである。また、真空プロセスの別法として、加速したアルゴン等のイオンを材料ターゲットに衝突させて材料を原子の状態にして基板に付着させるスパッタリング法を用いてもよい。
【0031】
次に、有機半導体材料を塗布印刷プロセスによって成膜して有機半導体層を作製する方法について説明する。塗布印刷プロセスとは、溶剤可溶性を有する半導体材料、例えば本発明の前記式(1)で表される化合物、を予め有機溶媒に溶解し、得られた有機半導体材料の溶解液を塗布・乾燥して優れた半導体特性を有する半導体層を容易に形成できる半導体層の作製方法を意味する。塗布による製造方法、すなわち塗布印刷プロセスはデバイス製造時の環境を真空や高温状態にする必要が無く、大面積の電界効果トランジスタを低コストで製造できるため工業的にも有利であり、各種半導体層の作製方法の中でも特に好ましい。
【0032】
本発明における塗布印刷プロセスについて説明する。先ず、上記式(1)の化合物を溶媒に溶解、または分散化することで半導体デバイス作製用インクを調製する。使用できる溶媒としては化合物が基板上に成膜出来れば特に限定されるものではないが、有機溶媒が好ましく、具体的にはクロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどのハロゲノ炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;オクタフルオロペンタノール、ペンタフルオロプロパノールなどのフッ化アルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル、炭酸ジエチルなどのエステル系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロベンゼン、メシチレン、エチルベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン、テトラヒドロナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;テトラヒドロフラン、ジイソブチルエーテルなどのエーテル系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、テトラリンなど炭化水素系溶媒を用いることが出来る。これらは単独でも、混合しても使用することが出来る。
インク中における上記式(1)の化合物または複数の該化合物の濃度は、溶媒の種類や、作製する半導体層の膜厚によって異なるが、インク総量に対して通常0.001質量%〜50質量%であり、0.01質量%〜20質量%であることが好ましい。
半導体層の成膜性の向上や、後述のドーピングなどの為に添加剤や他種の半導体材料を混合することも可能である。
インクを調製するには、上記の半導体材料などを上記の溶媒に溶解させる必要があるが、場合により加熱溶解処理を行ってもよい。さらに得られた半導体材料の溶液をフィルターを用いてろ過し、不純物などの固形分を除去することにより、半導体デバイス作製用のインクが調製される。このインクを基板上に塗布すると、半導体層の成膜性の向上が見られ、上記式(1)の化合物を含む半導体層作製用インクは好適に使用できる。
【0033】
上記の通りに調製した半導体デバイス作製用のインクを、基板(ソース電極及びドレイン電極の露出部)に塗布する。塗布法としては、キャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法;インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷、グラビア印刷等の印刷法;マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィー法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法を採用出来る。また、塗布法に類似した方法として水面上に上記のインクを滴下することにより作製した半導体層の単分子膜を基板に移して積層するラングミュア・ブロジェット法、液晶や融液状態の材料を2枚の基板で挟んで毛管現象で基板間に導入する方法等も採用出来る。これらの方法により作製される有機半導体層の膜厚は、機能を損なわない範囲で薄い方が好ましい。膜厚が大きくなると漏れ電流が増大する場合がある。有機半導体層の膜厚は、上記の半導体層4に同じである。
【0034】
このように作製された半導体層は、後処理により半導体特性を改良することができる。例えば、半導体層を形成した後に基板を熱処理することによって、成膜時に生じた膜中の歪みが緩和され、膜中の配列・配向を制御できる等の理由により、半導体特性の向上や安定化を図ることができ、ピンホール等も低減できる。熱処理は半導体層が形成されていればどの段階で行ってもよい。熱処理の温度は特に制限は無いが、通常室温〜150℃で、好ましくは40℃〜120℃、さらに好ましくは45℃〜100℃である。熱処理の時間は、特に制限は無いが、通常1秒〜24時間、好ましくは1分〜1時間である。熱処理時の雰囲気は大気中でもよいが、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下でもよい。また、その他の半導体層の後処理方法として、膜中のキャリア密度の増減を目的に、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や、酸化性あるいは還元性の液体などで処理し、酸化又は還元により特性の変化を誘起する手法がある。
【0035】
ドーピングとは、微量の元素、原子団、分子、高分子を半導体層に加えることにより、半導体層中のキャリア密度が増減し、半導体特性である電気伝導度、キャリア極性(p型−n型変換)、フェルミ準位等を変化させる手法であり、特にシリコンなどの無機系の材料を用いた半導体素子では一般的に利用されている。ドーピングは、半導体層に対して、例えば、酸素及び水素などのガスを接触させたり、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、またはPF、AsF、FeCl等のルイス酸等を含む溶液に浸したり、ヨウ素等のハロゲン原子、またはナトリウム、カリウム等の金属原子等を電気化学的に処理することにより達成できる。これらのドーピングは半導体層の作製後でなくても、合成された半導体材料に、または塗布印刷プロセスに用いる半導体デバイス作製用インクに実施できる。さらに、真空蒸着法により半導体層を形成する材料に、またはドーピングに用いる材料を添加して共蒸着したり、半導体層作製時の雰囲気中に混合したり(ドーピング材料を存在させた環境下で半導体層を作製する方法)、さらにはイオンを真空中で加速して半導体層に衝突させてドーピングすることも可能である。
【0036】
(ゲート絶縁膜層の形成)
上記の絶縁体材料等を用いて半導体層4上にゲート絶縁膜層5を形成する(図1参照)。ゲート絶縁膜層5の形成方法としては、例えばスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、キャスト、バーコート、ブレードコーティングなどの塗布法;スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット等の印刷法;真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、CVD法などのドライプロセス法、等が挙げられる。また、ゾル−ゲル法やアルミニウム上のアルマイトのように金属表面に酸化物膜を形成する方法も使用できる。
ゲート絶縁膜層5の膜厚は、その機能を損なわない範囲で薄い方が好ましく、通常0.1nm〜100μmであり、好ましくは0.5nm〜50μmであり、より好ましくは5nm〜10μmである。
【0037】
(ゲート電極の形成)
ゲート電極6は、ソース電極2及びドレイン電極3の作製方法と同じ方法で形成することが出来る。膜厚は、材料によっても異なるが、通常0.1nm〜100μmであり、好ましくは0.5nm〜10μmであり、より好ましくは1nm〜5μmである。
【0038】
(保護膜層)
前記の保護膜層材料を使用して保護膜層7を形成すると、外気の影響を最小限にでき、電界効果トランジスタの電気的特性を安定化できるという利点がある(図1参照)。保護膜層7の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を採用できるが、通常100nm〜1mmである。保護膜層を成膜するには各種の方法を採用できるが、保護膜層が樹脂からなる場合は、例えば、樹脂を含有する溶液を塗布後に乾燥させて樹脂膜とする方法、樹脂モノマーを塗布あるいは蒸着した後に重合する方法などが挙げられ、成膜後に架橋処理を行ってもよい。保護膜層が無機物からなる場合は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスによる形成方法や、ゾル−ゲル法等の塗布印刷プロセスによる形成方法を用いることができる。本発明の電界効果トランジスタは、保護膜層は通常半導体表面上に設けるが、各層の間にも必要に応じて設けることも出来る。設置された保護膜層は、電界効果トランジスタの電気的特性の安定化に役立つ場合がある。
【0039】
一般に電界効果トランジスタの動作特性は、半導体層のキャリア移動度、電導度、絶縁層の静電容量、素子の構成(ソース・ドレイン電極間距離及び幅、絶縁層の膜厚等)などにより決まる。電界効果トランジスタの半導体層に用いられる有機材料には、高いキャリア移動度が要求されるが、低コストで製造できる本発明の上記式(1)の化合物は有機半導体材料として高いキャリア移動度を発現する。また、本発明の電界効果トランジスタは比較的低温プロセスでの製造が可能であり、高温条件下では使用できないプラスチック板、プラスチックフィルム等のフレキシブルな材質も基板として用いることができる。その結果、軽量で柔軟性に優れた壊れにくい素子の製造が可能であり、ディスプレイのアクティブマトリクスのスイッチング素子等として利用することができる。ディスプレイとしては、例えば液晶ディスプレイ、高分子分散型液晶ディスプレイ、電気泳動型ディスプレイ、ELディスプレイ、エレクトロクロミック型ディスプレイ、粒子回転型ディスプレイ等が挙げられる。さらに、本発明の電界効果トランジスタは、成膜性が良好であることから、塗布などの塗布印刷プロセスで製造でき、従来の真空蒸着プロセスと比べて非常に低コストで大面積ディスプレイ用途の電界効果トランジスタの製造にも適用できる。
【0040】
本発明の電界効果トランジスタは、メモリー回路素子、信号ドライバー回路素子、信号処理回路素子などのデジタル素子やアナログ素子としても利用でき、これらを組み合わせることによりICカードやICタグの作製が可能である。更に、本発明の電界効果トランジスタは化学物質等の外部刺激によりその特性に変化を起こすことができるので、FETセンサーとしての利用も期待できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。実施例中、部は特に指定しない限り質量部を、また%は質量%をそれぞれ表す。
【0042】
実施例1
(トップゲート−ボトムコンタクト素子の作成)
ガラス基板上にメタルマスクを用いた真空蒸着法によりチャネル長300μm、チャネル幅3mmのソース電極及びドレイン電極(クロム/金)を作製した後、UV/オゾンを2h照射した。
この基板上に濃度が0.75%となるように調製した化合物(11)のクロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、有機薄膜を形成した。さらに、この有機薄膜上にCYTOP(旭硝子製)をスピンコート法により塗布して有機絶縁膜(ゲート絶縁膜)を形成した。そして、メタルマスクを用いた真空蒸着法により有機絶縁膜上に、ゲート電極としてアルミニウムを蒸着し、トップゲート−ボトムコンタクト素子を作製した。
(特性評価)
上記のようにして得られた有機電界効果トランジスタにドレイン電圧を−60V、ゲート電圧Vgを20〜−60Vに変化させた条件でトランジスタ特性を評価した結果、算出された移動度は最大で2.8cm/Vs、そのときの閾値電圧は−4Vであった。また、16素子の平均移動度は1.8cm/Vs、その標準偏差は0.44cm/Vsであった。
これらの結果は、上記の有機電界効果トランジスタは、非特許文献3のTable1で示されているボトムゲート−トップコンタクトのトランジスタ特性(移動度0.46〜1.8cm/Vs、閾値電圧−17V)よりも高い移動度を示すだけでなく、均一な印刷特性をもち、素子間のばらつきも低減できていることを示している。更には閾値電圧自体も低下しておりトランジスタ特性としては非常に良好なものであることを示している。
(バイアスストレス試験)
上記の有機電界効果トランジスタにゲート電圧を−60V、ドレイン電圧を0Vの条件で初期、100秒、1000秒、10000秒間電圧を連続印加した。印加後のトランジスタの伝達特性の変化(図2a)、移動度の変化(図2b)、閾値電圧の変化(図2c)の結果を図2に示す。図2から明らかなように、得られたトランジスタの伝達特性は10000秒後であってもバイアスストレスによる顕著な変化は認められなかった。移動度、閾値電圧といったトランジスタ特性の変化も見られず、このトランジスタの高い信頼性が認められた。また、ヒステリシスも見られなかった。
【0043】
比較例1
(ボトムゲート−ボトムコンタクト素子の作製)
300nmのSiO熱酸化膜付nドープシリコンウエハー上に真空蒸着法によりチャネル長50μm、チャネル幅3mmのソース電極及びドレイン電極(クロム/金)を作製した後、UV/オゾンを2時間照射した。この基板上に濃度が0.4%となるように調製した化合物(11)のクロロホルム溶液をスピンコート法により塗布し、ボトムゲート−ボトムコンタクト素子を作製した。
(特性評価)
上記のようにして得られた有機電界効果トランジスタにドレイン電圧を−80V、ゲート電圧Vgを20〜−60Vに変化させた条件でトランジスタ特性を評価した結果、算出された移動度は最大で0.0035cm/Vs、閾値電圧は−13Vであった。また、複数個の素子から算出した平均移動度は0.00043cm/Vsであった。
【0044】
実施例2
比較例1と同一のチャネル長50μmとする以外は実施例1と同様にしてトップゲート−ボトムコンタクト素子を作製した。
(特性評価)
上記のようにして得られた有機電界効果トランジスタにドレイン電圧を−60V、ゲート電圧Vgを20〜−60Vに変化させた条件でトランジスタ特性を評価した結果、算出された平均移動度は1.09cm/Vs、その標準偏差は0.26cm/Vsであり、閾値電圧の平均値は−1.5Vであった。比較例1のボトムゲート−ボトムコンタクト素子よりも非常に優れた移動度、均一性を示すとともに閾値電圧自体の改善も認められた。
【0045】
各実施例に記載した半導体特性の結果より、本発明のトップゲート−ボトムコンタクト構造の電界効果トランジスタは長時間駆動において極めて高い動作安定性を示し、従来のボトムゲート構造の電界効果トランジスタよりも高い半導体特性を示すだけでなく、高い信頼性も示した。また、半導体層を作製する際には特別な設備などを必要とする真空蒸着法を用いる必要がないだけでなく、基板表面処理におけるパターニング等の煩雑な作業を必要とせずとも塗布法などにより簡便かつ安価に作製できることが確認された。
従って、本発明のトップゲート−ボトムコンタクト構造から成る電界効果トランジスタとすることでより優れたトランジスタ性能を発揮することが出来、極めて有用なものであると言える。
【符号の説明】
【0046】
図1において同じ名称には同じ番号を付すものとする。
1 基板
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 半導体層
5 ゲート絶縁膜層
6 ゲート電極
7 保護膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体材料として下記式(1)で表される化合物を含有し、トップゲート構造を有することを特徴とする電界効果トランジスタ。
【化1】


(式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に無置換またはハロゲノ置換C1−C36脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項2】
式(1)におけるR及びRがそれぞれ独立に直鎖のC6−C12アルキル基である請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
トップゲート構造が、ソース電極とドレイン電極とを有する基板上に式(1)で表される化合物を含む半導体層が設けられ、該半導体層の上にゲート絶縁膜層、該ゲート絶縁膜層の上部の一部又は全部に、該ゲート絶縁膜層と接するようにゲート電極がそれぞれ設けられているトップゲート−ボトムコンタクト型構造である、請求項1又は2に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
式(1)で表される化合物を含む半導体層が塗布印刷プロセスにより形成され、ゲート絶縁膜層が塗布印刷プロセスにより形成される、請求項3に記載の電界効果トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−44109(P2012−44109A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186428(P2010−186428)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】