説明

電磁波検出素子

【課題】ショットキーバリアダイオードとアンテナとのインピーダンスミスマッチを低減することができる電磁波検出素子を提供する。
【解決手段】電磁波検出素子は、基板11に設けられたショットキーバリアダイオード111、112とアンテナとを含む。アンテナが、分割された第一導電要素101と第二導電要素102、分割された第三導電要素103と第四導電要素104、第一及び第三導電要素を電気的に接続する第一接続部105、及び第二及び第四導電要素を電気的に接続する第二接続部104を含む。第一導電要素と第二導電要素、及び第三導電要素と第四導電要素が、夫々、電磁波の入射方向に沿って隔たった基板11上の複数の面に形成される。ショットキーバリアダイオードが、第一導電要素と第二導電要素との間に電気的に接続されて設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流素子を用いた電磁波検出素子に関し、特には、ミリ波帯からテラヘルツ帯まで(30GHz以上30THz以下、以下同様な意味で用いる)の周波数領域内の周波数帯における電磁波検出素子及びそれを用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波帯からテラヘルツ帯までの電磁波検出素子として、熱型検出素子や量子型検出素子がこれまで知られている。熱型検出素子としては、マイクロボロメータ(a-Si、VOxなど)、焦電素子(LiTaO、TGSなど)、ゴーレイセルなどがある。こうした熱型検出素子は、電磁波のエネルギーによる物性変化を熱に変換し、温度変化を熱起電力、抵抗などに変換の上、検出する素子である。冷却を必ずしも必要としない一方、熱交換を利用するため応答が比較的遅い。量子型検出素子としては、真性半導体素子(MCT(HgCdTe)光伝導素子など)や不純物半導体素子などがある。こうした量子型検出素子は、電磁波をフォトンとして捕らえ、バンドギャップの小さい半導体の光起電力或いは抵抗変化を検出する素子である。応答が比較的速い一方、この様な周波数領域における室温の熱エネルギーは無視できないため冷却を必要とする。
【0003】
そこで、最近では、応答が比較的速く冷却の不要な検出素子として、整流素子を利用したミリ波帯からテラヘルツ帯までの電磁波検出素子の開発が行われている。この検出素子は、電磁波を高周波電気信号として捕らえ、アンテナなどによって受信した高周波電気信号を整流素子によって整流して検出する。特許文献1はこうした検出素子を開示している。受信アンテナとしては、非特許文献1に開示される様に、スパイラルアンテナなどの平面アンテナが知られており、2.5THzや28.3THzの電磁波を受信している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-162424号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Kazemi et al, Proc. SPIE Vol.6542,65421J(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のショットキーバリアダイオードを利用した検出素子において、ショットキーバリアダイオードの素子抵抗は、平面アンテナのインピーダンスより大きくなってしまう。これは、ミリ波帯からテラヘルツ帯までの周波数領域に対応するためには素子構造の微細化が必要であり、素子を流れることのできる電流が制限されてしまうことに由る。そのため、インピーダンスの小さな従来の平面アンテナとのインピーダンスミスマッチが課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明の電磁波を検出する検出素子は、基板に設けられたショットキーバリアダイオードとアンテナとを含み、次の特徴を有する。アンテナは、分割された第一導電要素と第二導電要素、分割された第三導電要素と第四導電要素、第一導電要素と第三導電要素を電気的に接続する第一接続部、及び第二導電要素と第四導電要素を電気的に接続する第二接続部を含む。また、第一導電要素と第二導電要素、及び第三導電要素と第四導電要素は、夫々、電磁波の入射方向に沿って隔たる基板上の複数の面に形成され、ショットキーバリアダイオードは、第一導電要素と第二導電要素との間に電気的に接続されて設けられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電磁波検出素子によれば、電磁波の入射方向に沿って異なるレベル位置にある複数の面に跨ってアンテナを形成している。従って、従来の検出素子における平面アンテナよりインピーダンスの大きいアンテナとでき、ショットキーバリアダイオード素子とのインピーダンスミスマッチを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態1に係る検出素子の構成を示す図。
【図2】実施形態2に係る検出素子を説明する図。
【図3】実施形態3に係る検出素子の構成を示す断面図。
【図4】実施形態4に係る検出素子の構成を示す断面図。
【図5】本発明の実施例1に係る検出素子の構成とシミュレーション結果を示す図。
【図6】実施例2に係る検出素子の構成とシミュレーション結果を示す図。
【図7】実施例1の変形例に係る検出素子のシミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電磁波検出素子では、電磁波の入射方向に沿って隔たった異なるレベル位置にある複数の面に跨ってアンテナを形成することが特徴である。こうした考え方に基づき、本発明の電磁波検出素子の基本的な構成は、上記の如き構成を有する。
【0011】
本発明の電磁波検出素子の考え方について更に説明する。アンテナなどによって受信した電磁波による高周波電気信号を整流素子によって整流して検出する従来の検出素子において、整流素子はショットキーバリアダイオードである。こうした構成では、例えば、ショットキー電極の面積を0.0007μm(直径0.03μm)に微細加工して、COレーザによる約28THz(波長10.6μm)の電磁波を検出することができる。ショットキーバリアダイオードは、ショットキーバリアにおける接合容量Cjと直列抵抗RsによるRCローパスフィルタを伴う。接合容量Cjはショットキー電極の面積に比例するため、高周波の電磁波を検出できる様にカットオフ周波数fc(=(2π×RsCj-1)を高める最も単純な方法はショットキー電極の面積を小さくすることである。典型的なショットキーバリアダイオードのこれらの関係について単純計算を行えば、ショットキー電極の面積を1μm(直径換算で約1μm)まで微細加工すると、およそ300GHz前後がfcとなる。ショットキー電極の面積をその十分の一の0.1μm(直径換算で約0.3μm)まで微細加工すると、およそ3THz前後がfcとなる。更に、その十分の一の0.01μm(直径換算で約0.1μm)まで微細加工すると、およそ30THz前後がfcとなると見積もられる。この周波数の電磁波を検出対象とする場合、概算して、ショットキーバリアダイオードの素子抵抗は1000Ω程度かそれ以上となってしまう。そのため、インピーダンスの小さな平面アンテナではインピーダンスミスマッチが生じてしまうので、本発明では、ダイポールアンテナなどを基板上の異なるレベル位置にある複数の面に跨って形成してそのインピーダンスを大きくしようする。
【0012】
典型的には、後述する実施形態や実施例で説明する様に、アンテナの複数の導電要素を、誘電体層を介在させて電磁波の入射方向に沿って隔て該入射方向から見てほぼ重なる様に配置するが、その他の隔て方を用いることもできる。例えば、基板に凹部を形成することで凹部の底面と該凹部の周りの上面を形成し、底面に第1と第2の導電要素を凹部に配置し、これらの導電要素と並行して多少ずれて前記上面に第3と第4の導電要素を配置することもできる。この場合、凹部を誘電体層で埋め、第1と第3の導電要素を誘電体層中の接続部で電気的に接続し、第2と第4の導電要素を誘電体層中の別の接続部で電気的に接続する様なことができる。第3と第4の導電要素はほぼ完全に前記上面上に形成されてもよいし、多少凹部側にせり出して形成されてもよい。
【0013】
また、後述する実施形態や実施例で説明する様に、アンテナの各導電要素をストライプ状要素で構成してもよいが、これに替えて、例えば、三角形状(例えば二等辺三角形状)の要素とし、三角形の頂点を間隙を隔ててつき合わせた形態とすることもできる。こうしたボウタイアンテナ形態の場合、対をなす三角形状の要素の各組を電磁波の入射方向に隔たった複数の面上に配置する。そして、三角形の垂線の長さをλ/4、その斜辺の長さをλ’/4(λ≠λ’)とし、三角形の底辺の側において接続部で上下の三角形状の要素を接続する。これによれば、垂線又は斜辺の方向の偏波成分を含むλ又はλ’の波長の電磁波の検出が可能となる。また、ストライプ状の導電要素に替えて、ストライプが折れ曲がった形状の導電要素からなるアンテナとすることもできる。この場合、折れ曲がった形状の一端部を間隙を隔ててつき合わせ、他端部において接続部で上下の折れ曲がり導電要素を接続すればよい。こうしたスパイラルアンテナの形態の場合、異なる方向の偏波成分を含む電磁波(円偏光など)や異なる波長の電磁波の検出が可能となる。
【0014】
以下、図を用いて本発明の実施形態と実施例を説明する。
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る検出素子について、図1を用いて説明する。図1(a)は、本実施形態の検出素子を表す断面図であり、図1(b)はその斜視図である。
【0015】
本実施形態は、アンテナを構成する4つの導電要素と2つの接続部であるビアを備える。分割された第一導電要素101及び第二導電要素102は、夫々、長さが電磁波の波長の4分の1(λ/4)のストライプ状の金属膜である。要素101、102はλ/2ダイポールアンテナをなし、長さ方向が電磁波の共振方向になる。λは、検出したい電磁波の波長であって、真空中のものではなく、基板11に依存する波長圧縮率が掛けられた後の実効波長である。これらの金属膜101、102は、非導電性基板11における低キャリア濃度半導体111と高キャリア濃度半導体112とに夫々接する。金属膜101、102は夫々ショットキー金属、オーミック金属である。ショットキーバリアダイオードは、ショットキー金属101、低キャリア濃度半導体111、高キャリア濃度半導体112、オーミック金属102から構成される。故に、要素101、102はλ/2ダイポールアンテナをなすとともに、ショットキーバリアダイオード素子の電極にもなる。
【0016】
分割された第三導電要素103及び第四導電要素104は、要素101、102の直上の別の層に配置される。こうして、電磁波の入射方向に沿って異なる位置にある複数の面に跨ってアンテナを形成する様にしている。要素103は、誘電体113中に設けた第一接続部である第一ビア105を介して要素101と接続されている。同様に、要素104は、誘電体113中に設けた第二接続部である第二ビア106を介して要素102と接続されている。ビア105、106はダイポールアンテナ101、102の端に位置するため、上記4要素は、ダイポールアンテナが折り返された擬似的なフォールデッドダイポールアンテナ(Folded Dipole Antennas)を構成する。ここでは、ビア105、106の形状が円柱状であるが、電気的接続ができる限り、この形状や断面積は自由である。通常、フォールデッドダイポールアンテナは全要素が短絡していることで知られているが、本実施形態では、DCカット107を設け、要素103、104は物理的には接触していない。これは、ショットキーバリアダイオード101、111、112、102からの検出信号を取り出すためのものである。従って、電磁波を検出したかどうかの検出信号は、電圧や電流として電極101、102から取り出すことができる。
【0017】
ショットキーバリアダイオードは、その電流電圧特性が順方向電圧においては電流が流れ、逆方向電圧においては電流が流れない素子である。そのターニングポイントにおいて、電流密度Jは、指数関数Exp(eV/kT)に比例する。Vは電圧、eは素電荷、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。比例係数J0は、熱電界放出に基づけばAT×Exp(-φ/kT)である。Aは有効リチャードソン定数であり、典型的な半導体を想定して、例えば10A/cm2K程度の定数である。温度を固定すれば、J0はショットキー電極101と半導体111との界面ポテンシャルであるショットキーバリア高さφのみによって決定される。ショットキーバリア高さφは、典型的には数百meVとなる。例えば200meVを想定すると、室温において比例係数J0は400A/cm程度となる。ミリ波帯からテラヘルツ帯までの周波数領域に対応するためには、ショットキー金属101と半導体111とのコンタクト面積Sの微細化が必要で、1μm2以下の素子構造で換算すると、I0(=S×J0)は4μA以下となる。電流I(=S×J)の逆数をVで微分した素子の抵抗値はkT/(e×I0)×Exp(-eV/kT)に等しい。これは、室温において動作点電圧V=0mVで6000Ω以上となり、検出感度を持つ範囲において比較的高めの動作点電圧V=100mVでも130Ω以上となる。従って、概算ではあるが、ショットキーバリアダイオード101、111、112、102の素子抵抗は、上述した様に、1000Ω程度かそれ以上となってしまう。
【0018】
一方、フォールデッドダイポールアンテナのインピーダンスは、λ/2ダイポールアンテナのインピーダンスである73Ωの4倍ということが理論的に知られている。つまり、約300Ω程度ということになる。これは、スパイラルアンテナ、ボウタイアンテナ、ログペリアンテナなどの自己補対アンテナの理論インピーダンスである188Ω(典型的には50Ω〜100Ω)より大きな値である。従って、フォールデッドダイポールアンテナを用いた方が、上述のショットキーバリアダイオード素子とのインピーダンスマッチと言う観点では好ましい。マッチした場合、ショットキーバリアダイオード素子からの反射はゼロとなるから、反射係数Γ=(Ra-Rd)/(Ra+Rd)を用いて、電力効率は1-Γ2で求められる。ここで、Raはアンテナの共振点におけるインピーダンス、Rdはショットキーバリアダイオードの素子抵抗である。ショットキーバリアダイオードの素子抵抗を1000Ωと仮定すると、電力効率は、フォールデッドダイポールアンテナを使用した場合では70%となる。上記他のアンテナに言及すれば、インピーダンス188Ωの自己補対アンテナでは53%、インピーダンス73Ωのλ/2ダイポールアンテナでは25%である。実際には基板11の誘電率のため、いずれのアンテナもインピーダンスは小さくなるが、それでもフォールデッドダイポールアンテナを用いた方が好ましい。
【0019】
空気より高い基板11の誘電率εr(>1)のため、本実施形態のフォールデッドダイポールアンテナの指向性は基板11側の方向に偏る。従って、図1に示す様に、検出したい電磁波は基板裏面から入射させる。その際、基板11の裏面に誘電体レンズを設け、基板11の裏面における全反射を防止するとともに指向性を高めてもよい。検出したい電磁波の波長選択は、要素101、102によるλ/2ダイポールアンテナによって行われる。前述した通り、λは基板11に依存する波長圧縮率が掛けられた後の実効波長である。この様に、要素103、104、ビア105、106は、アンテナのインピーダンスを4倍にする効果を与え、インピーダンスミスマッチを低減させることができる。故に、検出素子を高感度化することができる。
【0020】
その他の検出動作の詳細は、前述した先行技術文献と同様である。すなわち、ショットキーバリアダイオードのバリアのエネルギー障壁において、或る方向の電界が掛けられたときに始めて多数キャリアが通過することのできる構造となっている。つまり、或る方向の電界で、多数キャリアはエネルギー障壁より熱電界放出(thermoionic-field-emission)され、これとは逆の方向の電界で、多数キャリアはエネルギーをトンネリングできない。このメカニズムは、エネルギー障壁を構成する片側の半導体において多数キャリアが十分に少なくなるときに生じる。本実施形態の素子では、この或る方向の電界(入射する電磁波による電界)が掛けられたとき(順方向電圧と呼ぶ)にのみ、同じ多数キャリアがショットキー障壁を通過するバンドプロファイルとなっている。これとは逆の逆方向電界(これも、入射する電磁波による電界)においては電流が流れない。こうした本実施形態の素子で、ショットキー電極101とオーミック電極102の間に被検出電磁波の電界成分が誘起されたとき、上述のメカニズムに基づいて一方向に電流が流れる。この電流は被検出電磁波の周波数と等しい振動数の振動成分を含むが、その実効値はゼロでないため、検出電流となる。従って、本実施形態による素子の構成は、いわゆる整流素子に位置付けられ、整流を利用した方式の検出素子となっている。
【0021】
本実施形態の金属膜要素は、厚さが数百nm、幅が数μmを想定している。ミリ波帯からテラヘルツ帯までの周波数領域に対応する金属膜の表皮深さを考慮すれば、この金属膜要素は幅が広い。しかしながら、この影響は、インピーダンスの大きさを変えるものではなく、共振点を僅かにシフトさせるのみである。要素101と要素103を隔てる誘電体113の厚さ(同様に、要素102と要素104を隔てる誘電体113の厚さ)は、薄ければアンテナは誘導性に、厚ければ容量性になる。そのため、ビア105(同様にビア106)の高さとしては、金属膜の幅と同程度の数μmを確保しておけばよい。また、金属膜要素の幅は全て同じでなくてもよい。要素103、104の幅を要素101、102の幅より少し太く設計することで、アンテナのインピーダンスは大きくなる。これとは反対に、少し細く設計することで、アンテナのインピーダンスは小さくなる。いずれにせよ、この様な寸法は、半導体プロセス技術を用いて作製することができるため、本実施形態のフォールデッドダイポールアンテナは基板上の平面アンテナとして好ましい。
【0022】
(実施形態2)
実施形態2に係る検出素子について、図2を用いて説明する。本実施形態は、図2(b)に示す様に、要素201、202の長さと半導体211、212の位置が実施形態1と異なっている。それ以外は実施形態1と同様である。つまり、要素203、204、ビア205、206、DCカット207、誘電体213は実施形態1の同様である。要素201、202の長さの和はλ/2であって、要素201、202がλ/2ダイポールアンテナであることにも変わりはない。本実施形態は、ショットキーバリアダイオード201、211、212、202の位置をオフセットさせ、アンテナの入力インピーダンスを大きくするための実施形態1の変形例である。
【0023】
要素201、202及び要素203、204上の検出電磁波の電流分布Iは、図2(a)に示す様に、電磁波の共振方向に沿ったダイポールアンテナ201、202の端にあたる位置で最小であって、これらを結ぶちょうど中央の位置で最大になる。ここで、アンテナの入力インピーダンスは電流Iに反比例するため、半導体211、212の位置を中央からオフセットするとアンテナの入力インピーダンスを大きくすることができる。しかし、半導体211、212の位置を中央からオフセットさせ過ぎると、インピーダンスの虚部がゼロとなる共振点が生成されなくなってしまう。そのため、簡易的なモーメント法による電磁界シミュレーションを用いて確認したところ、オフセットは中央からλ/8以内が望ましい。第一導電要素201と第二導電要素202の長さの観点から言えば、これらが、夫々、電磁波の共振方向に沿って電磁波の波長の8分の1以上8分の3以下の範囲の長さを有してダイポールアンテナを構成するのが望ましい。このとき、入力インピーダンスは約300Ω(オフセットなし)から約450Ω(オフセットλ/8)程度まで変化する。実際には基板21の誘電率のため、インピーダンスは小さくなるが、それでもオフセットを用いた方がアンテナの入力インピーダンスは大きくなり、好ましい。
【0024】
(実施形態3)
実施形態3に係る検出素子について、図3を用いて説明する。本実施形態は、アンテナを構成する4つの要素と2つのビアと、更に付加的な第五導電要素である金属膜要素308とを備える。ここで、要素301、302、303、304、ビア305、306、DCカット307、半導体311、312、誘電体313は実施形態1の同様である。付加要素308は、アンテナが設けられた基板の面とは反対側の面である基板31裏面上に位置し、長さをλ/2より少し長めに設定する。本実施形態は、実施形態1のアンテナの指向性を、基板31の表面方向(図3の上方)に変化させる例を示す。
【0025】
λ/2より少し長めの要素308は、八木アンテナなどで知られた反射器と呼ばれる技術であって、このとき、フォールデッドダイポールアンテナの指向性は、基板31の表面方向(空気側)に偏る様になる。そのため、基板31の厚さは、λ/4程度に調整されると好ましい。好都合には、ミリ波帯からテラヘルツ帯までの周波数領域のλ/4に対応する基板31の厚さは、基板の研磨や、別の基板を重ねることにより容易に達成できる。更に、反射器の効果を拡張するために、これと同様の厚さがλ/4の別の基板にλ/2より少し長めの金属膜要素を付け加え、基板31の裏面に重ねてもよい。反対に、付加要素308の長さをλ/2より少し短めに設定すれば、導波器となる。このとき、フォールデッドダイポールアンテナの指向性は基板31側(図3の下方)の方向に更に偏る様になり、アンテナ利得やダイレクティビティが増大し、好ましい。この場合は、電磁波は基板31の裏面側から入射する。
【0026】
(実施形態4)
実施形態4に係る検出素子について、図4を用いて説明する。本実施形態は、アンテナを構成する4つの要素と2つのビアと、更に第一スタブであるスタブ421と第二スタブである422とキャパシタンス425と読み出し線426、427とを備える。ここで、要素401、402、403、404、ビア405、406、DCカット407、半導体411、412、誘電体413は実施形態1の同様である。要素401と要素402、及び要素403と要素404は、夫々、λ/2の長さとなっている。本実施形態は、検出電磁波に影響を与えない様に検出信号を読み出す例を示す。
【0027】
金属膜要素401、402を延長した部分421、422は、延長の長さがλ/4となる位置423、424で容量結合しているため、λ/4の長さのショートスタブ421、422を構成する金属膜となる。ショートスタブ421、422における検出電磁波の電流分布は、位置423、424において大きく、スタブ421、422とダイポールアンテナ401、402の接続部にあたる位置では小さい。故に、スタブ421、422はアンテナの機能には影響しない。容量結合のためのキャパシタンス425は数百fFもあれば十分なため、例えば、同一基板41にMIM(Metal/Insulator/Metal)構造を設けるなどして形成してもよい。この様に構成すると、検出電磁波に影響を与えない様に検出信号を読み出すことができるため、好ましい。読み出し線426、427は、例えば、キャパシタンス425の二端子の間に接続すればよい。例えば、基板41の表面にMIM構造を設け、スタブ421、422の外端からの配線を基板41の表面に配してMIM構造の端子に接続する。勿論、この様な検出信号の読み出しは一例である。
【0028】
更に具体的な検出素子について、以下の実施例で説明する。
(実施例1)
実施例1に係る検出素子について、図5を用いて説明する。図5(a)は、本実施例の検出素子を表す断面図、図5(b)は、全電磁界シミュレーションに用いた解析モデルの鳥瞰図、図5(c)は、インピーダンスの周波数依存性を示すグラフである。全電磁界シミュレーションでは、3次元有限要素法ソルバとして知られる商用のアンソフト社HFSS ver11.2を用いた。
【0029】
本実施例はFz−Si基板51上に構成される。図5(a)において、アンテナ要素501、502、503、504は、幅4μm、厚さ350nmのAl金属から構成される。本実施例では、350GHzの周波数のテラヘルツ波を受信する検出素子を例にとり、要素501、要素502の長さは夫々80μmに設計した。なお、誘電率εの基板51上の実効波長λは、真空中の波長λ0に実効誘電率εeffの波長圧縮率を掛けたλ0/√εeff(ただしεeff=(ε+1)/2)で概算することができる。要素503、504は、要素501、502の直上のレイヤに位置する。これらは厚さ方向(電磁波の入射方向)に5μmだけ間隔をおく。誘電体513には、低損失なベンゾシクロブテン(BCB)を用いる。要素503はBCB513中に設けたビア505を介して要素501と接続されており、同様に要素504は誘電体513中に設けたビア506を介して要素502と接続されている。図5(b)では、これらの位置関係を視覚的に理解することができる。
【0030】
本実施例において、DCカットは、要素503、504を変形させて実現している。すなわち、要素503の一部分を保護膜515によって絶縁した要素504の直上に重ね合わせ、DCカットかつACショートを実現している。従って、保護膜515は薄い方がよく、本実施例では厚さ200nmのSiO2を用いる。本実施例では、要素503の長さは160μm(λ/2)、要素504の長さは40μmである。この様な本実施例のフォールデットダイポールアンテナの各アンテナ要素において、受信した電磁波の表面電流分布を表したものが、図5(b)である。実施形態2で説明した通り、表面電流分布の大きい部分は中央付近にあり、ビア505、506の部分で小さくなっている。また、本実施例のフォールデットダイポールアンテナのインピーダンスを示したものが、図5(c)である。全電磁界シミュレーションによれば、アンテナの共振点(虚数部Im(Z)がゼロとなる点であって、350GHz)付近において、アンテナのインピーダンスは約120Ωとなった。基板51の影響(εeff=(ε+1)/2)を除去すれば、インピーダンスは約300Ωと見積られるため、正しく設計されていることが分かる。この値は、同一基板上の他の平面アンテナを考えても、比較的大きいインピーダンスである。
【0031】
ショットキーバリアダイオード501、511、512、502は、イオン注入などによって設けたn型領域511とn+型領域512を確保する。ショットキーバリアはAl金属501とn型領域511の間に生じる。Al金属502とn+型領域512との間では熱電界放出よりもトンネル放出が支配的なため、オーミック接触となる。350GHzの周波数を受信するため、本実施例では、Al金属501とn型領域511とのコンタクト面積を0.8μm2に設計する。このため、例えば、内径が1μmのリング状の絶縁膜514を用いて、コンタクト面積を確保する。素子抵抗はおおよそ1000Ω程度となる。この場合、受信アンテナからショットキーバリアダイオード素子への電力伝送効率は40%程度となる。
【0032】
こうした構造は、まず、Fz−Si基板51上にnウェル511とn+ウェル512を、イオン注入を用いて形成する。更に、絶縁膜514によるコンタクトホールを形成後、Al金属501、502を成膜する。その後、BCB513を塗布し、ドライエッチングなどによってビア505、506の下地となる穴を形成した後、タングステンなどの金属CVDとメタルスパッタリングなどを用いてこの穴を埋める。続いて、Al金属504を成膜し、SiO515によるパッシベーションを行う。最後にAl金属503の成膜を行い、本実施例の構造は完成する。この様に、半導体プロセス技術によって作製できるフォールデッドダイポールアンテナは、ショットキーバリアダイオード素子とのインピーダンスミスマッチを低減できる平面アンテナとして優れている。
【0033】
図7に、本実施例の変形例となるアンテナのインピーダンスを示す。本実施例の要素503、504の幅Wを変更した場合、W=4μmではインピーダンスが120Ωであるのに対してW=6μmでは140Ωと計算され、インピーダンスミスマッチを更に低減することができる。
【0034】
(実施例2)
実施例2に係る検出素子について、図6を用いて説明する。図6(a)は、本実施例に係る検出素子を表す断面図、図6(b)は、全電磁界シミュレーションに用いた解析モデルの鳥瞰図、図6(c)は、インピーダンスの周波数依存性を示すグラフである。
【0035】
本実施例もFz−Si基板61上に構成される。図6(a)において、アンテナ要素601、602、603、604は、実施例1と同様のAl金属から構成される。本実施例では、350GHzと700GHzの周波数を受信する電磁波検出素子を例にとり、要素601、602、603、604の長さLは80μmと40μmに設計した。DCカットされた要素603、604は、要素601、602の直上のレイヤに位置する。これらは厚さ方向に5μmだけ間隔をおき、実施例1と同様に、誘電体613には低損失なベンゾシクロブテン(BCB)を用いる。要素603(604)はビア605(606)を介して要素601(602)と接続されており、図6(b)では、これらの位置関係が視覚的に理解できる。本実施例において、DCカットかつACショートは、別の金属膜要素607を、保護膜615によって絶縁した要素603、604の直上に重ね合わせて実現する。本実施例では、要素607の長さは、共振の長さである2×Lである。
【0036】
この様な本実施例のフォールデットダイポールアンテナの各アンテナ要素において、受信した電磁波の表面電流分布を表したものが、図6(b)である。実施例1と同様に、表面電流分布の大きい部分は中央付近にあり、ビア605、606の部分で小さくなっている。また、本実施例のフォールデットダイポールアンテナのインピーダンスを示したものが、図6(c)である。全電磁界シミュレーションによれば、L=80μm、40μmのアンテナの共振点(夫々350GHz、700GHz)付近において、アンテナのインピーダンスは夫々120Ω、100Ωとなった。共振周波数は、アンテナの長さに反比例するが、インピーダンスの周波数依存性の傾向はアンテナの長さに基本的にはよらないことが分かる。そのため、より高い周波数を受信するためには、Lを更に短くすればよい。ショットキーバリアダイオード601、611、612、602は、実施例1と同様である。勿論、より高い周波数を受信するためにはコンタクト面積を実施例1より小さくすればよく、カットオフ周波数fcがアンテナの共振周波数より高くなる様に設計すればよい。コンタクト面積は、リング状の絶縁膜614の内径を小さくすることなどで、小さくすることができる
【0037】
上記実施形態や実施例において、半導体基板の材料はFz(Floating Zone)法によるSiには限らない。比較的比抵抗の高い10Ωcm以上のCz(Czochralski)法によるSiでもよい。比較的安価なCz−Siは、自由電子吸収の小さな1THz以上で有効である。また、Siに限ることはなく、同じ寸法なら、より高いカットオフ周波数となる半絶縁性GaAsや半絶縁性InPを用いてもよい。また、金属膜材料もAl金属には限らない。Ti、Pd、Pt、Ni、Cr、Au金属などを用いてもよいし、金属膜(601など)と半導体(611など)の間に、バリア調節のための別の材料(金属、半金属など)を挟んでもよい。また、上記実施形態や実施例において、ダイポールアンテナの長さはλ/2に限らない。例えば、ビアを高くすることによってループアンテナに変形することもできる。この際、アンテナを形成する4要素の長さと2つのビアの高さの和がλと等しくなる様に設計すればよい。
【0038】
更に、本発明による検出素子をアレイ状に配置し、複数の検出素子が夫々検出する被検出電磁波の電界に基づいて電界分布の画像を形成する画像形成部を備えた画像形成装置とすることも可能である。この際、アンテナ長が異なる本発明による検出素子を配置することによって、異なる周波数に対応する画像形成装置とすること可能である。アンテナの方向が異なる本発明による検出素子を配置することによって、異なる偏波に対応する画像形成装置とすることも可能である。
【符号の説明】
【0039】
11・・・基板、101・・・第一導電要素、102・・・第二導電要素、103・・・第三導電要素、104・・・第四導電要素、105・・・第一接続部(第一ビア)、106・・・第二接続部(第二ビア)、111・・・低キャリア濃度半導体(ショットキーバリアダイオード)、112・・・高キャリア濃度半導体(ショットキーバリアダイオード)、113・・・誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に設けられたショットキーバリアダイオードとアンテナとを含む電磁波を検出する検出素子であって、
前記アンテナが、分割された第一導電要素と第二導電要素、分割された第三導電要素と第四導電要素、前記第一導電要素と前記第三導電要素を電気的に接続する第一接続部、及び前記第二導電要素と前記第四導電要素を電気的に接続する第二接続部を含み、
前記第一導電要素と前記第二導電要素、及び前記第三導電要素と前記第四導電要素が、夫々、前記電磁波の入射方向に沿って隔たった前記基板上の複数の面に形成され、前記ショットキーバリアダイオードが、前記第一導電要素と前記第二導電要素との間に電気的に接続されて設けられていることを特徴とする検出素子。
【請求項2】
前記第一導電要素と前記第二導電要素、及び前記第三導電要素と前記第四導電要素は、夫々、誘電体層により前記電磁波の入射方向に沿って隔てられていることを特徴とする請求項1に記載の検出素子。
【請求項3】
前記第一導電要素と前記第二導電要素が、ダイポールアンテナを構成することを特徴とする請求項1又は2に記載の検出素子。
【請求項4】
前記第一導電要素と前記第二導電要素が、夫々、前記電磁波の共振方向に沿って前記電磁波の波長の4分の1の長さを有し、前記ダイポールアンテナを構成することを特徴とする請求項3に記載の検出素子。
【請求項5】
前記第一導電要素と前記第二導電要素が、夫々、前記電磁波の共振方向に沿って前記電磁波の波長の8分の1以上8分の3以下の範囲の長さを有し、前記ダイポールアンテナを構成することを特徴とする請求項3又は4に記載の検出素子。
【請求項6】
前記アンテナが設けられた前記基板の面とは反対側の面上に、第五導電要素を備えることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の検出素子。
【請求項7】
前記第一導電要素と前記第二導電要素に電気的に夫々接続された第一スタブと第二スタブを備え、前記第一スタブと前記第二スタブが容量結合していることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の検出素子。
【請求項8】
複数の請求項1から7の何れか1項に記載の検出素子をアレイ状に配し、
前記複数の検出素子が夫々検出する被検出電磁波の電界に基づいて電界分布の画像を形成することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−222833(P2011−222833A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91682(P2010−91682)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】