説明

露光装置及びデバイス製造方法

【課題】
基板または基板ステージ上に残る液体を低減することが可能な露光装置を提供することを提供する。
【解決手段】
本発明の露光装置は、マスクMからの光を投影する投影光学系PLと、基板Pを保持して移動する基板ステージPSTとを有し、投影光学系PLの最終面と基板ステージPSTに保持された基板Pとの間隙に満たされた液体2と投影光学系PLとマスクMとを介して基板Pを露光する露光装置EXであって、間隙に液体2を供給するための供給ノズル12と、間隙から液体2を回収するための回収ノズル13と、回収ノズル13の外側に配置されて液体2を検出するセンサ7と、基板ステージPSTの移動を制御し且つセンサ7の出力に基づいて基板ステージPSTの移動パラメータを設定する制御装置MAINDとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投影光学系の最終面と基板との間隙に満たされた液体を介して基板を露光する露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIや超LSI等の極微細パターンで構成される半導体デバイスの製造工程において、マスクに形成されたパターンを感光剤が塗布された基板に縮小投影して転写する縮小型投影露光装置が用いられている。半導体デバイスにおける集積度の向上のため、パターンの更なる微細化が要求され、レジストプロセスの発展と同時に露光装置の微細化への対応がなされてきた。
【0003】
露光装置の解像力を向上させる手段としては、一般的に、露光波長を短くする方法、及び、投影光学系の開口数(NA)を大きくする方法がある。
【0004】
露光波長については、365nm(i線)や、248nm付近(KrFエキシマレーザ光)、193nm付近(ArFエキシマレーザ光)が実用化されている。また、157nm付近の発振波長を有するフッ素(F2)エキシマレーザの開発も行われた。
【0005】
一方、これらとは別の解像力向上技術として、液浸法が実用化されつつある。従来の構成では、投影光学系の最終面と露光対象基板(例えば、ウエハ)との間隙は気体で満たされていたが、液浸法を用いる場合には、この間隙を液体で満たして投影露光を実施する。
【0006】
液浸法の利点は、従来と同一波長の光源を用いて解像力を向上させることができる点である。例えば、投影光学系とウエハとの間隙に満たされる液体を純水(屈折率:1.44)とし、ウエハに結像する光線の最大入射角が液浸法と従来法とで等しいと仮定した場合、液浸法の解像力は、従来法の1.44倍に向上する。このように、液浸法を用いることは、従来法の投影光学系の開口数(NA)をn倍(nは液体の屈折率)にすることと等価である。液浸法によれば、従来法では不可能なNA=1以上の解像力を得ることも可能となる。
【0007】
特許文献1には、液浸法を適用した露光装置が開示されている。特許文献1に開示された露光装置では、液槽(チャンバ)内に液体を満たすことによって、投影光学系の最終面(光学素子)とウエハとの間隙を液体で満たしている。特許文献1に開示された露光装置では、投影光学系の最終面およびウエハ全体を液体中に配置している。
【0008】
また、液浸法を適用した露光装置として、特許文献2がある。特許文献2に開示された露光装置では、投影光学系とウエハとの間隙が液体で満たされ、ウエハ上の一部の領域のみが液浸している。
【特許文献1】特開平6−124873号公報
【特許文献2】国際公開第99/049504号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、投影光学系とウエハとの間隙に液体を供給し且つ当該間隙から液体を回収しながらウエハステージを高速に移動してウエハを露光する場合、当該間隙から液体が離脱する可能性がある。液体が離脱すると、ウエハに転写されるパターンが劣化したり、または、ウエハステージ上に液体が残るという不都合が生じたりしうる。
【0010】
液体の離脱を抑制するため、液体の回収能力に応じてウエハステージの移動速度等の移動条件(移動パラメータ)を設定しうる。しかし、例えば経時変化によってウエハステージ上面の撥水性の劣化(親水化)が生じると、ウエハステージ上で液体が離脱する可能性が高まりうる。
【0011】
また、基板上に塗布されているレジストやトップコートの種類も多く、それぞれ撥水特性(液体の接触角)が異なる。このため、ウエハステージの移動パラメータを一律に決めることは困難であり、また、得策でない。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、基板または基板ステージ上に残る液体を低減することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面としての露光装置は、原版からの光を投影する投影光学系と、基板を保持して移動する基板ステージとを有し、前記投影光学系の最終面と前記基板ステージに保持された基板との間隙に満たされた液体と前記投影光学系と前記原版とを介して前記基板を露光する露光装置であって、前記間隙に液体を供給するための供給ノズルと、前記間隙から前記液体を回収するための回収ノズルと、前記回収ノズルの外側に配置されて液体を検出する検出器と、前記基板ステージの移動を制御し且つ前記検出器の出力に基づいて前記基板ステージの移動パラメータを設定する制御部とを有する。
【0014】
本発明の他の側面としてのデバイス製造方法は、前記露光装置を用いて基板を露光する工程と、前記工程で露光された基板を現像する工程とを有する。
【0015】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば、基板または基板ステージ上に残る液体を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0018】
まず、本発明の実施例1における露光装置の構成について説明する。図1は、本実施例における露光装置の概略構成図である。
【0019】
本実施例の露光装置は、半導体デバイスや液晶表示デバイス等のデバイスを製造するために用いられ、感光剤が塗布された基板(ウエハ)上に原版(マスク)のパターンを転写する。特に、本実施例の露光装置は、液浸法を用いた露光装置である。すなわち、本実施例の露光装置は、投影光学系の最終面と基板との間隙を液体で満たし、原版・投影光学系・液体を介して基板を露光する露光装置である。
【0020】
図1に示されるように、露光装置EXは、マスクMを保持するマスクステージMST、及び、基板Pを保持する基板ステージPSTを備えている。また、露光装置EXは、マスクステージMSTに保持されたマスクMを露光光ELで照明する照明系IL、及び、露光光ELで照明されたマスクMのパターンからの光を基板ステージPSTに保持された基板Pに投影する投影光学系PLを備えている。また、露光装置EXは、露光装置EXの全体の動作を統括して制御する制御装置MAINDを備えている。
【0021】
本実施例の露光装置EXは、マスクMと基板Pとを走査方向(X軸方向)において互いに異なる向き(逆方向)に同期移動しつつマスクMに形成されたパターンを介して基板Pを露光する走査露光装置(所謂スキャニングステッパ)である。ただし、本実施例はこれに限定されるものではない。
【0022】
本実施例において、投影光学系PLの光軸AXと一致してZ軸、Z軸に垂直な(直交する)平面内でマスクMと基板Pとの同期移動方向(走査方向)をX軸、Z軸方向及びX軸方向の双方に垂直な方向(非走査方向)をY軸とする。また、本実施例における「基板」は、ウエハ上にレジストを塗布したものを含み、「マスク」(原版)は、基板上に縮小投影されるデバイスパターンを形成されたレチクルを含む。
【0023】
照明系ILは、マスクステージMSTに保持されているマスクMを露光光ELで照明する。照明系ILは、露光用光源、及び、露光用光源から射出された光束の照度を均一化するオプティカルインテグレータ等を備えた照明光学系を含みうる。照明光学系は、さらに、オプティカルインテグレータからの露光光ELを集光するコンデンサレンズ、リレーレンズ系、及び、露光光ELによるマスクM上の照明領域をスリット状に規定する可変視野絞り等を含みうる。
【0024】
マスクM上の所定の照明領域は、照明系ILにより均一な照度分布の露光光ELで照明される。照明系ILから射出される露光光ELとしては、例えば、水銀ランプから射出される紫外域の光(g線、h線、またはi線)及びKrFエキシマレーザ光(波長248nm)等の遠紫外光(DUV光)が用いられうる。また、露光光ELとして、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)及びF2レーザ光(波長157nm)等の真空紫外光(VUV光)等を用いうる。本実施例の露光装置EXでは、露光光ELとしてArFエキシマレーザ光が用いられる。
【0025】
マスクステージMSTは、マスクMを保持するために設けられている。マスクステージMSTは、6自由度(XYZ各軸の並進および各軸周りの回転)の運動が可能であり、そのうち走査方向(X軸方向)には走査露光のための移動ストロークが確保されている。マスクステージMSTは、リニアモータ等のマスクステージ駆動装置MSTDにより駆動される。
【0026】
マスクステージ駆動装置MSTDは、制御装置MAINDにより制御される。マスクステージMST上のマスクMのXY平面内の位置及び回転角は、レーザ干渉計(不図示)によりリアルタイムで計測され、計測結果は制御装置MAINDに出力される。制御装置MAINDは、レーザ干渉計の計測結果に基づいて、マスクステージ駆動装置MSTDを駆動制御することにより、マスクステージMSTに保持されているマスクMの位置決めを実行する。
【0027】
投影光学系PLは、マスクMのパターンを所定の投影倍率βで基板Pに投影するために設けられている。投影光学系PLは、複数の光学素子(レンズ)で構成されており、これらの光学素子は、ステンレス(SUS403)等の金属部材で形成された鏡筒PKで支持されている。本実施例において、投影光学系PLは、投影倍率βが例えば1/4又は1/5の縮小系である。ただし、本実施例はこれに限定されるものではなく、投影光学系PLは等倍系又は拡大系でもよい。
【0028】
投影光学系PLの基板P側の先端部には、石英、フッ化カルシウム(蛍石)等のガラス部材から形成された平行平面板(光学素子1)が設けられている。光学素子1は、鏡筒PKに対して着脱(交換)可能に設けられている。投影光学系PLの先端部は、光学素子1、及び、これを保持する鏡筒PK(保持部材)の一部により構成されている。
【0029】
基板ステージPSTは、基板Pを保持するために設けられている。基板ステージPSTは、基板ホルダを介して基板Pを保持するウエハステージ10、及び、ウエハステージ10を支持するベース11を備えている。
【0030】
ウエハステージ10は、リニアモータ等の基板ステージ駆動装置PSTDにより駆動される。基板ステージ駆動装置PSTDは、制御装置MAINDにより制御される。基板ステージ駆動装置PSTDは、制御装置MAINDの指令に基づいて、基板ステージPST(ウエハステージ10)の位置を制御する。具体的には、基板ステージ駆動装置PSTDは、ウエハステージ10の6自由度の座標(X、Y、Z、θ、θ、θ)を制御する。
【0031】
ウエハステージ10をX軸・Y軸方向に駆動することにより、基板PのX軸・Y軸方向における位置(投影光学系PLの像面と実質的に平行なXY面内の位置)が制御される。また、ウエハステージ10は、そのZ座標・ω座標・ω座標を制御されて、投影光学系PLの像面に基板Pの表面を合わせ込むことができる。
【0032】
ウエハステージ10の位置は、レーザ干渉計9によりリアルタイムで計測され、計測結果は制御装置MAINDに出力される。制御装置MAINDは、レーザ干渉計の計測結果に基づいて、基板ステージ駆動装置PSTDを駆動制御することにより、ウエハステージ10に保持されている基板Pの位置決めを実行する。
【0033】
本実施例では、露光波長を実質的に短くして解像度を向上させるため、液浸法が適用される。このため、少なくともマスクMのパターンを介して基板Pを露光している間、基板Pの表面と投影光学系PLの先端部との間隙は液体で満たされる。
【0034】
上述したように、投影光学系PLの先端部には、光学素子1(ガラス部材)及び鏡筒PK(金属部材)の一部が配置されている。このため、光学素子1と基板Pとの間に満たされた液体2は、光学素子1及び鏡筒PKに接触する。本実施例において、光学素子1と基板Pとの間に満たされる液体2としては、純水が用いられる。
【0035】
純水は、露光光ELとしてのArFエキシマレーザ光を透過させる。また純水は、露光光ELとして、水銀ランプから射出される紫外光(g線、h線、またはi線)やKrFエキシマレーザ光(波長248nm)等の遠紫外光(DUV光)を用いた場合でも、露光光ELを透過させることができる。
【0036】
露光装置EXは、投影光学系PLの先端部(最終面)と基板Pとの間隙に液体2を供給する液体供給装置3(供給手段)、及び、この間隙から液体2を回収する液体回収装置5(回収手段)を備えている。
【0037】
液体供給装置3は、液体2を収容するタンク及び加圧ポンプ等を備えている。液体供給装置3には、供給管4の一端部が接続され、供給管の他端部には供給ノズル12が接続されている。液体供給装置3は、供給管4及び供給ノズル12を介して、基板Pと光学素子1との間隙に液体2を供給する。
【0038】
液体回収装置5は、吸引ポンプ及び回収した液体を収容するタンク等を備えている。液体回収装置5には、回収管6の一端部が接続され、回収管6の他端部には回収ノズル13が接続されている。液体回収装置5は、回収ノズル13及び回収管6を介して、基板Pと光学素子1との間隙から液体2を回収する。
【0039】
制御装置MAINDは、この間隙に液体2を満たす際、液体供給装置3を駆動し、供給管4及び供給ノズル12を介して、この間隙に対して単位時間当たり所定量の液体2を供給する。また、制御装置MAINDは、液体回収装置5を駆動し、回収ノズル13及び回収管6を介して、単位時間当たり所定量の液体2をこの間隙から回収する。このようにして、投影光学系PLの先端部と基板Pとの間隙は液体2で満たされる。
【0040】
走査露光時には、投影光学系PLの先端部直下における矩形の投影領域に、マスクMの一部のパターン像が投影される。このとき、投影光学系PLに対して、マスクMが−X方向(又は+X方向)に速度Vで移動し、これに同期して、基板Pが+X方向(又は−X方向)に速度β・V(β:投影倍率)で移動する。そして、1つのショット領域の露光終了後、ウエハステージ10のステッピングによって次のショット領域が走査開始位置に移動する。以下、ステップ・アンド・スキャン方式で、各ショット領域の露光が順次行われる。
【0041】
図2(a)は、本実施例の露光装置EXにおいて、光学素子1、供給ノズル12及び回収ノズル13の構成(位置関係)を示した平面図である。図2(b)及び(c)は、図2(a)の領域A内の拡大図であり、選択的に用いられるノズル構成の2つの例である。供給ノズル12や回収ノズル13としては、液体2の供給流量や液体2(気体を含みうる)の回収流量の場所ムラを低減するという観点から、図2(b)及び図2(c)に示されるような複数の孔15を備えたノズルとしうる。また、多孔質体やスリットノズルが用いられうる。
【0042】
本実施例の露光装置EXでは、供給ノズル12及び回収ノズル13として、円形(円環)状の部材が用いられている。ただし、各ノズルの形状はこれに限定されるものではない。例えば、矩形形状のノズルを用いた場合でも、本実施例と同様の効果を得ることができる。
【0043】
図3は、本実施例の露光装置における投影光学系PLの先端部近傍の拡大図である。
【0044】
図3において、投影光学系PLの先端部には、液体との親和性を高める表面処理(親液化処理)が施されている。投影光学系PLの先端部は、液体2と接触する部分である。本実施例において、液体2は水(純水)であるため、投影光学系PLの先端部には、水との親和性を高める表面処理(親水化処理)が施されている。
【0045】
図3に示されるように、本実施例の露光装置EXには、投影光学系PLと基板Pとの間隙に供給された液体2の拡がりを監視する監視手段が設けられている。本実施例において、監視手段はセンサ7(検出器)及び検出装置8から構成される。センサ7は、回収ノズル13の外側に配置されて液体2を検出する。
【0046】
本実施例では、センサ7として、例えば、光反射型センサが用いられている。光反射型センサは、例えば、光を射出する射出部とそれによる反射光量を検出する検出部とを含み、検出箇所にある液体2を検出(検出箇所に液体が存在するか否かを監視)する。このような監視手段を設けることにより、光学素子1とウエハPとの間隙からはみだした液体2(または液体2のはみ出し)を検出(監視)することができる。なお、センサ7は、例えば、鏡筒を支持する不図示の鏡筒定盤(鏡筒支持部材)、または供給ノズル12および回収ノズル13を支持する支持部材等により支持しうる。
【0047】
図1に示されるように、センサ7からの出力信号は、検出装置8に入力され、検出装置8において液体2の状態が検出される。検出装置8は、センサ7からの出力信号に基づいて液体の有無(拡がり)を検出すると、制御装置MAINDに所定の信号を出力する。
【0048】
本実施例では、基板Pの表面に、液体2との親和性を高める表面処理(親液化)が施されている。ここでは、基板Pの表面に対して親水化処理が施されている。基板Pに対する親水化処理としては、例えば、アルコール等の極性の大きい分子構造の物質で薄膜を形成することが挙げられる。
【0049】
基板Pの表面にアルコール等を塗布して表面処理した場合、露光後かつ現像前に、塗膜を洗浄するための洗浄工程を設けることが望ましい。
【0050】
次に、本実施例における露光装置EXを用いてマスクMのパターンを介し基板Pを露光する動作(作用)について説明する。
【0051】
マスクMがマスクステージMSTに搭載され、基板PがウエハステージPSTに搭載されると、その後、液体供給装置3及び液体回収装置5を作動させ、光学素子1とウエハステージ10との間隙に液体2を充填させる。これにより、高い解像力を得ることができる。また、本実施例では、マスクM及び基板PをそれぞれマスクステージMST及びウエハステージ10に搭載した後に、光学素子1とウエハステージ10との間隙に液体2を充填した。しかし、例えば、基板ステージの上面と投影光学系の最終面との間隙に液体を保持した状態で、ウエハステージ10上に未露光基板Pを搭載するようにしてもよい。
【0052】
その後、前述したように、ウエハステージ10とマスクステージMSTとを同期して移動させ、かつ、照明系ILからレーザ(露光光EL)をマスクMに照射することによって、基板P上にマスクM上のパターンが転写される。これらの露光動作に関する主な制御は、制御装置MAINDによって行われる。
【0053】
光学素子1と基板Pとの間隙に液体2を保持しながら、ウエハステージ10を高速に動作させると、図4に示されるように、液体2がウエハステージ10の駆動方向に引っ張られる現象が起こる。図4(a)は、ウエハステージ10を−X方向に駆動した場合における液体2の挙動であり、図4(b)は、ウエハステージ10を+X方向に駆動した場合における液体2の挙動である。なお、ウエハステージ10の移動に伴う液体2の挙動は、X方向に限定されるものではなく、Y方向におけるウエハステージ10の移動の場合でも同様である。
【0054】
露光装置EXは、露光時、ウエハステージ10のステップ・アンド・スキャンを繰り返す。すなわち、ウエハステージ10は、X方向及びY方向におけるステップ移動又はスキャン移動を繰り返す。本実施例では、ノズルの液体供給量及び液体回収量に応じて、ウエハステージ10の速度や加速度等は予め所定値に調整されている。
【0055】
ここで、ウエハステージ10の最大加速度・最大速度の設定例を図5に示す。
【0056】
図5に示されるように、本実施例のウエハステージ10は、X軸方向及びY軸方向における最大加速度をそれぞれaX及びaY、X方向及びY方向における最大速度をそれぞれvX及びvYとしている。また、本実施例では、加速度及び速度に関するパラメータについて説明しているが、露光装置EXは、これら以外のパラメータを持つことも可能である。例えば、加速度の微分値であるジャークやステップ時の移動軌跡等をパラメータとしうる。これらのパラメータを移動パラメータともいうものとする。
【0057】
次に、本実施例における露光装置の処理(動作)の流れについて説明する。図6は、本実施例における処理のフローである。
【0058】
図6に示されるように、露光を行う前に、制御装置MAINDによりキャリブレーションが行われる(ステップS1)。キャリブレーションは、例えば、ウエハステージ10とマスクステージMSTとの相対位置合わせを含みうる。キャリブレーションにより、6軸(X、Y、Z、θ、θ、θ)に関してウエハステージ10とマスクステージMSTとの相対位置合わせが行われうる。
【0059】
また、ステップS1におけるキャリブレーションは、照明系ILのキャリブレーションも含みうる。例えば、照明系ILのキャリブレーションは、照明系IL中の露光量センサの校正や照明形状(有効光源分布)の校正等を含みうる。
【0060】
さらに、ステップS1のキャリブレーションは、ウエハステージ10の移動パラメータのキャリブレーションを含みうる。光学素子1と基板Pとの間隙に液体2を満たしている状態でウエハステージ10を移動したときにセンサ7(検出装置8)が液体を検出した場合の状態遷移図を図7に示す。
【0061】
図7に示されるように、センサ7(検出装置8)が液体を検出していない場合(通常状態)、状態は正常(T1)の状態を維持する。しかし、センサが液体を検出すると、状態は、正常(T1)の状態から異常(T2)の状態へ遷移する。一旦、状態が正常(T1)の状態から異常(T2)の状態へ遷移すると、制御装置MAINDは、ウエハステージの駆動用の設定値(移動パラメータ)を変更する。制御装置MAINDがこの設定値を変更すると、状態は正常(T1)の状態に再び遷移する。
【0062】
図8は、図7に示される状態遷移図において、異常(T2)の状態から正常(T1)の状態へ遷移するときに用いられる計算式である。
【0063】
本実施例では、図5に示される最大加速度及び最大速度(移動パラメータ)の初期設定値と行列Aとの積から、ウエハステージ10の新たな設定値が算出される。行列Aは、例えば、0より大きく1より小さい実数(係数)の要素からなる。なお、新たな設定値を求める際に用いる計算は、係数の積に限定されるものではない。
【0064】
前述のとおり、液体を検出した場合、図7及び図8に示されるように、ウエハステージ10の駆動用の設定値を調整することにより正常(T1)の状態へ遷移させる。正常(T1)の状態へ遷移した後、設定した移動パラメータにしたがってウエハステージ10を移動させる。このとき再度センサ7(検出装置8)が液体を検出した場合には、図7及び図8を参照して上述したように、ウエハステージ10の移動パラメータの再設定を行う。
【0065】
ステップS1においてキャリブレーションが完了すると、制御装置MAINDは、ショットループを開始する。なお、図6に示されるショットループ開始(ステップS2)、及び、ショットループ終了(ステップS4)は、実際にマスクパターンを露光するループの開始および終了を示している。通常、1枚のウエハには1〜数百ショットのパターンが露光される。なお、制御装置MAINDは、基板P上のショットの走査露光中におけるセンサ7の出力に基づいて、ウエハステージ10の移動パラメータ(最大速度、最大加速度等)を設定することができる。
【0066】
制御装置MAINDは、必要なユニットを制御してショットの露光(ステップS3)を実行する。ステップS3のショット露光は、例えば、マスクステージMST、ウエハステージ10、及び、レーザ(露光光EL)光源を同期して動作するように制御して実行される。本実施例で用いられるスキャナ装置の場合、マスクステージMST及びウエハステージ10は、露光時にスキャン動作を行う。
【0067】
スキャン動作中に監視手段(センサ7、検出装置8)が液体を検出した場合にも、制御装置MAINDは、ウエハステージ10の移動パラメータの再設定値を算出する。そして、制御装置MAINDは、同期するべきユニット(ウエハステージ10、マスクステージMST、露光光EL光源等)のその後の駆動に当該移動パラメータの変更を反映させる。
【0068】
本実施例では、ステップS1においてウエハステージ10の移動パラメータを初期値に戻してキャリブレーションを開始している。ただしこれに限定されるものではなく、ウエハステージ10の移動パラメータを上書きして更新し、更新された移動パラメータの値からキャリブレーションを開始しても構わない。
【0069】
また、移動パラメータの初期の設定値において液体を検出しない場合は、移動パラメータの設定値を増加させることも可能である。その結果、ショット露光(ステップS3)の処理時間が短縮し得るため、生産性を向上させることができる。
【0070】
また、ウエハステージ10の移動パラメータを変更したことによって同期精度が悪化しうるが、露光装置EXは、同期精度エラーが生じたことをオペレータに通知しうる構成となっている。
【0071】
図9は、本実施例の露光装置における投影光学系の先端部(最終面)近傍の拡大図である。
【0072】
まず、ウエハステージ10が移動することにより液体2(液膜)が移動すると(液体2の領域が変化すると)、センサ7(光反射型センサ)の近傍に液体2が存在することになり、センサ7が液体2を検知する(図9中の(1)参照)。センサ7(検出装置8)は、液体2を検知すると、それに対応する信号を制御装置MAIND(制御部)に伝達する((2)参照)。
【0073】
制御装置MAINDは、センサ7の出力に基づいてウエハステージ10の移動パラメータ(移動条件)を算出する。制御装置MAINDは、例えば、ウエハステージ10の移動速度(最大速度)を低下させるように、ウエハステージ10の移動パラメータを算出する((3)参照)。移動パラメータが算出されると、制御装置MAIND(制御部)は、それに従ったウエハステージ10の移動制御を行う((4)参照)。制御装置MAIND(制御部)は、センサ7により液体2が検出されなくなるように、移動パラメータの再設定を繰り返しうる。
【0074】
なお、本実施例では、液体2が検出されなくなるようにウエハステージ10の速度および加速度の少なくとも一方を低下させることについて説明しているが、これに限定されるものではない。基板Pの性質上、速度又は加速度を上げる必要がある場合には、算出手段は、液体2が検出されないことを条件にして、ウエハステージ10の速度又は加速度を上げるように移動パラメータを再設定しうる。
【0075】
以上、本実施例によれば、ウエハステージを移動しているときの液体離脱の可能性(センサ7の計測箇所まで液体が到達したこと)を検知できる。また、液体監視手段(センサ7、検出装置8)の出力に応じて、ウエハステージ10の移動パラメータを再設定することで、液体の離脱を低減できる。その結果、基板Pに転写されるパターン(潜像)の劣化、又は、ウエハステージ上に液体が残る不都合を低減することができる。
【0076】
このように、本実施例によれば、基板や基板ステージ上に液体が残ることを低減することができる。
【実施例2】
【0077】
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0078】
本実施例の基本構成は実施例1と同様であるが、本実施例は、ウエハステージ10の移動パラメータ(最大速度、最大加速度等)の変更履歴を記憶する記憶手段を備える点で、実施例1とは異なる。
【0079】
具体的には、本実施例の露光装置EXは、図6に示されるキャリブレーション(ステップS1)やショット露光(ステップS3)における移動パラメータの変更履歴を記憶部に記憶させる。記憶部は、例えば、制御装置MAIND内に備えうる。その結果、移動パラメータ(最大速度や最大加速度等)に対応する基板ステージ表面の撥液(撥水)度の経時変化の傾向やレジスト表面の撥液(撥水)度の変化を推定することが可能となる。
【0080】
記録手段に記録されたデータは、例えば、部品(基板ステージ表面を構成する部品等)の交換時期を予測するために用いられうる。図10は、移動パラメータを変更した(最大速度や最大加速度等を低下させた)累積回数と時間との関係を示すグラフである。縦軸は、当該累積回数を示し、横軸は時間(時刻)を示している。
【0081】
例えば、当該累積回数(A)に対する閾値を設定することで、図10に示されるグラフから、撥液(撥水)度の低下に関連した部品交換の時期(T)を予測することが可能となる。なお、グラフの縦軸は、移動パラメータの値であってもよい。交換対象となる部品(ユニット)は、例えば、ウエハステージ10の上面を構成し且つ基板ホルダ(チャックともいう)の周囲に配置された撥液(撥水)性部材(液体支持部)である。当該撥液性部材は、その上面と基板ホルダに保持された基板の上面とが段差(Z軸方向の位置の差)をもたないように構成されている。また、部品の撥液(撥水)度の増加に関連した指標として、ウエハステージ10の最大速度や最大加速度等を増加させた累積回数を縦軸とし且つ時間(時刻)を横軸としたグラフを生成して出力してもよい。
【0082】
このように、制御装置MAINDは、例えば、記録手段に記録された変更履歴に基づいて、ウエハステージ10に含まれる撥液(撥水)性部材の劣化を推定し、当該部材の交換時期を報知することができる。
【0083】
本実施例の露光装置によれば、例えば、制御装置により算出された移動パラメータに関する統計から、基板ステージの上面を構成している撥液(撥水)性部材の交換時期を予測することができる。
【実施例3】
【0084】
次に、本発明の実施例3について説明する。
【0085】
本実施例における露光装置EXは、照明系ILや投影光学系PL等のサブシステムを、所定の機械的精度、電気的精度、光学的精度を保つように組み立てることで製造される。
【0086】
これら各種精度を確保するため、サブシステムの組み立ての前後には、各種光学系については光学的精度を達成するための調整、各種機械系については機械的精度を達成するための調整、各種電気系については電気的精度を達成するための調整が行われる。
【0087】
各種サブシステムから露光装置への組み立て工程は、各種サブシステム相互の、機械的接続、電気的接続、光学的接続等が含まれる。この各種サブシステムから露光装置への組み立て工程の前に、各サブシステム個々の組み立て工程があることはいうまでもない。
【0088】
各種サブシステムの露光装置への組み立て工程が終了すると、総合調整が行われ、露光装置全体としての各種精度が確保される。なお、露光装置の製造は、温度及びクリーン度等が管理されたクリーンルームで行われることが望ましい。
[デバイス製造方法の実施形態]
次に、本発明の一実施形態のデバイス(半導体デバイス、液晶表示デバイス等)の製造方法について説明する。当該方法において、本発明を適用した露光装置を使用し得る。
【0089】
半導体デバイスは、ウエハ(半導体基板)に集積回路を作る前工程と、前工程で作られたウエハ上の集積回路チップを製品として完成させる後工程とを経ることにより製造される。前工程は、前述の露光装置を用いて、感光剤が塗布されたウエハを露光する工程と、その工程で露光されたウエハを現像する工程とを含みうる。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)とを含みうる。また、液晶表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラス基板に感光剤を塗布する工程と、前述の露光装置を用いて、感光剤が塗布されたガラス基板を露光する工程と、その工程で露光されたガラス基板を現像する工程とを含みうる。なお、本実施例におけるデバイス製造方法は、基板の露光前に、撥液(撥水)性または親液(親水)性を調整するために基板の表面処理を行う工程を含みうる。
【0090】
本実施形態のデバイス製造方法は、デバイスの生産性、品質および生産コストの少なくとも一つにおいて従来よりも有利である。 上記各実施例の露光装置によれば、投影光学系の最終面と基板との間隙に供給された液体の離脱を低減し、基板上または基板ステージ上における液体の残存を低減することができる。このため、上記各実施例は、製造されるデバイスの品質や露光装置の維持の上で従来よりも有利である。
【0091】
以上、本発明の実施例について具体的に説明した。ただし、本発明は上記実施例として記載された事項に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例1における露光装置の概略構成図である。
【図2】実施例1における光学素子、供給ノズル及び回収ノズルの拡大図である。
【図3】実施例1の露光装置における投影光学系の先端部近傍の拡大図である。
【図4】実施例1において、ウエハステージを駆動させた場合の液体の挙動を示す図である。
【図5】実施例1において、ウエハステージの装置調整時におけるステップ・アンド・スキャンに関する設定例を示す図である。
【図6】実施例1における露光時のフローである。
【図7】実施例1におけるセンサ(検出装置)が液体剥離の可能性を検出した場合の状態遷移図である。
【図8】図7の状態遷移図において、異常(T2)の状態から正常(T1)の状態へ遷移するときに用いられる計算式である。
【図9】実施例1の露光装置における投影光学系の先端部近傍の拡大図である。
【図10】実施例2において、初期状態からのウエハステージの速度及び加速度が低下した回数と時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0093】
EX 露光装置
IL 照明系
EL 露光光
AX 光軸
M マスク
MST マスクステージ
MSTD マスクステージ駆動装置
PL 投影光学系
PK 鏡筒
P 基板
PST 基板ステージ
PSTD 基板ステージ駆動装置
MAIND 制御装置
1 光学素子
2 液体
3 液体供給装置
4 供給管
5 液体回収装置
6 回収管
7 センサ
8 検出装置
9 干渉計
10 ウエハステージ
11 ベース
12 供給ノズル
13 回収ノズル
15 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原版からの光を投影する投影光学系と、基板を保持して移動する基板ステージとを有し、前記投影光学系の最終面と前記基板ステージに保持された基板との間隙に満たされた液体と前記投影光学系と前記原版とを介して前記基板を露光する露光装置であって、
前記間隙に液体を供給するための供給ノズルと、
前記間隙から前記液体を回収するための回収ノズルと、
前記回収ノズルの外側に配置されて液体を検出する検出器と、
前記基板ステージの移動を制御し且つ前記検出器の出力に基づいて前記基板ステージの移動パラメータを設定する制御部と、
を有することを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記検出器は、光を射出する射出部と光量を検出する検出部とを含み、
前記制御部は、前記検出器が液体を検出した場合、前記基板ステージの速度および加速度の少なくとも一方が低下するように、前記移動パラメータを設定することを特徴とする請求項1記載の露光装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記移動パラメータの変更履歴を記憶し、記憶された前記変更履歴に基づいて、前記基板ステージの液体支持部の劣化を示す出力を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の露光装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記基板を露光しない状態で前記基板ステージの移動を制御し且つ前記検出器の出力に基づいて前記基板ステージの移動パラメータを設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の露光装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記基板上のショットの走査露光中における前記検出器の出力に基づいて前記基板ステージの移動パラメータを設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の露光装置。
【請求項6】
前記移動パラメータは、前記基板ステージの移動軌跡を含む、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の露光装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
前記工程で露光された基板を現像する工程と、
を有することを特徴とするデバイス製造方法。

【図8】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−135683(P2010−135683A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312305(P2008−312305)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】