説明

静電チャックおよび露光装置

【課題】冷媒の温度を均一化し、ウェハの局所的な熱変形を低減することが可能な静電チャックおよびこの静電チャックを備えた露光装置を提供する。
【解決手段】チャック本体に基板を吸着する吸着面を備えた静電チャックにおいて、チャック本体に、冷媒の流入部から流出部に冷媒を流通させる冷媒通路を形成し、流入部側の冷媒通路と流出部側の冷媒通路とを交互に形成してなる。また、冷媒通路は、渦巻き状に形成されている。さらに、流入部および流出部は、チャック本体の中央部に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ等の基板を吸着するための静電チャックおよびこの静電チャックを備えた露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、露光装置では、ウエハステージのテーブルに、ウエハを吸着する静電チャックが配置されている。そして、テーブルを移動し、ウエハの所定の露光エリア(ショット)を露光位置に移動することによりウエハの露光エリアへの露光が行われる。
しかしながら、従来の露光装置では、ウエハへの露光によりウエハの露光エリアが熱膨張し、ウエハと静電チャックとの熱膨張差により、ウエハに局所的な熱的変形が生じるという問題があった。
【0003】
そこで、従来、静電チャック内に冷媒を流し、冷媒の温度を厳密に温度管理(例えば±0.01℃内)してウエハを冷却し、ウエハの局所的な熱的変形を抑制することが行われている。
【特許文献1】特開2000−81706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したように静電チャックに流す冷媒の温度を厳密に管理しても、ウエハの露光エリアに対応する位置を冷媒が流れると冷媒が温度上昇するため、この下流側に位置する露光エリアを所定の温度に冷却することが困難になるという問題があった。
本発明は、かかる従来の問題を解決するためになされたもので、静電チャック内を流れる冷媒の温度を均一化することができる静電チャック、およびこの静電チャックを備えた露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明の静電チャックは、チャック本体に基板を吸着する吸着面を備えた静電チャックにおいて、前記チャック本体に、冷媒の流入部から流出部に冷媒を流通させる冷媒通路を形成し、前記流入部側の冷媒通路と前記流出部側の冷媒通路とを交互に形成してなることを特徴とする。
第2の発明の静電チャックは、第1の発明の静電チャックにおいて、前記冷媒通路は、渦巻き状に形成されていることを特徴とする。
【0006】
第3の発明の静電チャックは、第1の発明または第2の発明の静電チャックにおいて、前記流入部および前記流出部は、前記チャック本体の中央部に形成されていることを特徴とする。
第4の発明の静電チャックは、第1の発明ないし第3の発明のいずれか1の発明の静電チャックにおいて、前記チャック本体に、前記冷媒の温度を測定する温度センサを配置してなることを特徴とする。
【0007】
第5の発明の露光装置は、第1の発明ないし第4の発明のいずれか1の発明の静電チャックを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の静電チャックでは、流入部側の冷媒通路と流出部側の冷媒通路とを交互に形成したので、静電チャック内を流れる冷媒の温度を均一化することができる。
本発明の露光装置では、本発明の静電チャックを用いているため、ウエハの局所的な熱的変形を低減することが可能になり露光精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明の静電チャックの第1の実施形態を示している。
この実施形態では、静電チャック11がEUV露光装置のウエハステージ13に配置されている。
【0010】
ウエハステージ13は、テーブル15を有している。このテーブル15は、X方向(紙面の左右方向)およびY方向(紙面の上下方向)にnmレベルの位置決め精度で移動可能とされている。テーブル15には、X方向の位置を測定するためのX移動鏡17およびY方向の位置を測定するためのY移動鏡19が直交して固定されている。
X移動鏡17およびY移動鏡19の側方には、X座標測定用のレーザ干渉計であるX干渉計21およびY座標測定用のレーザ干渉計であるY干渉計23が配置されている。X干渉計21は、露光光を投影する投影光学系(不図示)の中心を通るX軸上に配置され、X移動鏡17までの距離を測定する。Y干渉計23は、露光光を投影する投影光学系(不図示)の中心を通るY軸上に配置され、Y移動鏡19までの距離を測定する。
【0011】
テーブル15には、ウエハ(後述する)を吸着する静電チャック11が配置されている。静電チャック11は、両側に切欠部11kが形成される円形状をしておりテーブル15上に固定されている。
静電チャック11のチャック本体11aには、冷媒通路11bが形成されている。この冷媒通路11bの流入部11cおよび流出部11dは、チャック本体11aの中央部に形成されている。流入部11cと流出部11dとは、例えば10から20mmの間隔を置いて形成されている。冷媒通路11bは、チャック本体11aに渦巻き状に形成されている。そして、流入部11c側に位置する流入部側冷媒通路11Iと流出部11d側に位置する流出部側冷媒通路11Oとが交互に形成されている。ここで、流入部側冷媒通路11Iとは、例えば、流入部11c側への通路長が流出部11d側への通路長より短い領域の冷媒通路11bをいう。また、流出部側冷媒通路11Oとは、例えば、流出部11d側への通路長が流入部11c側への通路長より短い領域の冷媒通路11bをいう。
【0012】
図2は、チャック本体11aに形成される冷媒通路11bの詳細を示している。
チャック本体11aの一部を形成する積層部材12には、冷媒通路11bを形成する矩形状の凹溝12aが渦巻き状に形成されている。凹溝12aの一端は、流入部11cに接続され、他端は流出部11dに接続されている。そして、この積層部材12の上面を積層部材14により覆うことにより冷媒通路11bが形成されている。冷媒通路11bは図2の右側においてU字状に蛇行しており、内側が流入部側冷媒通路11Iとされ、外側が流出部側冷媒通路11Oとされている。
【0013】
図3は静電チャック11の詳細を示している。
静電チャック11のチャック本体11aの上面には、ウエハ25を吸着する吸着面11eが形成されている。吸着面11eの内側には電極27が配置されている。この電極27に電源(不図示)から電圧を印加することにより吸着面11eに静電気が発生し、ウエハ25が吸着される。そして、電極27の内側に冷媒通路11bが形成されている。
【0014】
冷媒通路11bの流入部11cは、チャック本体11aに形成される流入通路11eおよび供給管路29を介して温度調整装置31に接続されている。冷媒通路11bの流出部11dは、チャック本体11aに形成される流出通路11fおよび戻り管路33を介して温度調整装置31に接続されている。温度調整装置31は、冷媒(例えばフロリナート)の温度を調整し、冷媒を冷媒通路11bに循環させる。
【0015】
チャック本体11aには、穴部11hが形成されている。この穴部11hには、冷媒の温度を測定する冷媒温度センサ34が配置されている。この冷媒温度センサ34は、冷媒通路11bの近傍に配置され、冷媒の温度をチャック本体11aを介して間接的に測定し温度調整装置31に出力する。また、ウエハステージ13の近傍には、雰囲気温度センサ35が配置されている。この雰囲気温度センサ35は、ウエハステージ13が収容される雰囲気の温度を測定し、温度調整装置31に出力する。
【0016】
温度調整装置31は、冷媒温度センサ34からの温度信号を入力し、冷媒温度センサ34により測定される冷媒の温度が、雰囲気温度センサ35で検出された温度に対して、例えば±0.1℃の範囲内になるように冷媒を冷却して冷媒の温度を制御する。
上述した静電チャック11をウエハステージ13に備えたEUV露光装置では、図3に示したようにチャック本体11aの吸着面11eにウエハ25を吸着した状態で、図4に示すように、テーブル15がX方向およびY方向に移動される。これにより、ウエハ25の所定の露光エリア(ショット)Eが露光位置(投影光学系の光軸位置)に移動され、ウエハ25の露光エリアEへの露光が行われる。そして、この時のテーブル15の移動は、X干渉計21およびY干渉計23により、X移動鏡17およびY移動鏡19までの距離をそれぞれ測定し、X干渉計21およびY干渉計23により得られた位置座標(X,Y)に基づいてテーブル15を移動することにより行われる。
【0017】
一方、ウエハ25の露光エリアEへの露光により、ウエハ25の露光エリアEが加熱されるが、加熱された露光エリアEは、冷媒通路11bを流れる冷媒により冷却されウエハ25の温度上昇が抑制される。そして、チャック本体11aには、流入部側冷媒通路11Iと流出部側冷媒通路11Oとが交互に形成されているため、冷媒通路11b内を流れる冷媒の温度が常に均一化されている。従って、ウエハ25の露光エリアEが存在する部分を所定の温度に冷却し、ウエハ25の局所的な熱的変形を抑制することが可能になる。
【0018】
上述した静電チャック11では、チャック本体11aに、流入部側冷媒通路11Iと流出部側冷媒通路11Oとを交互に形成したので、流入部側冷媒通路11I内の冷媒と流出部側冷媒通路11O内との冷媒がチャック本体11aを介して相互に熱交換し、これにより、冷媒通路11b内を流れる冷媒の温度を均一化することができる。また、冷媒通路11bを渦巻き状に形成したので、流入部側冷媒通路11Iと流出部側冷媒通路11Oとを交互に形成することが容易に可能になる。さらに、チャック本体11aの中央部に流入部11cと流出部11dとを形成したので、流入部側冷媒通路11Iと流出部側冷媒通路11Oとを交互に形成することが容易に可能になる。
【0019】
また、上述した静電チャック11では、チャック本体11aに冷媒の温度を測定する冷媒温度センサ34を設けたので、チャック本体11a内を流れる冷媒の温度を所定の温度に容易,確実に制御することができる。
(第2の実施形態)
図5は本発明の静電チャックの第2の実施形態を示している。
【0020】
なお、この実施形態において第1の実施形態と同一の部材には、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
この実施形態では、チャック本体11aの外周部に、流入部11cと流出部11dとが、例えば10から20mmの間隔を置いて形成されている。冷媒通路11bは、チャック本体11aに渦巻き状に形成されている。そして、流入部側冷媒通路11Iと流出部側冷媒通路11Oとが交互に形成されている。
【0021】
この実施形態においても第1の実施形態と略同様の効果を得ることができる。
(露光装置の実施形態)
図6は、上述した静電チャック11が配置されるEUV露光装置を模式化して示している。なお、この実施形態において第1の実施形態と同一の部材には、同一の符号を付している。この実施形態では、露光の照明光としてEUV光が用いられる。EUV光は0.1〜400nmの間の波長を持つもので、この実施形態では特に1〜50nm程度の波長が好ましい。投影系は像光学系システム101を用いたもので、ウエハ25上にレチクル103によるパターンの縮小像を形成するものである。
【0022】
ウエハ25上に照射されるパターンは、レチクルステージ102の下側に静電チャック104を介して配置されている反射型のレチクル103により決められる。この反射型のレチクル103は、真空ロボットによって搬入および搬出される(真空ロボットの図示は省略する)。また、ウエハ25はウエハステージ13のテーブル15上に静電チャック11を介して配置されている。典型的には、露光はステップ・スキャンによりなされる。
【0023】
露光時の照明光として使用するEUV光は大気に対する透過性が低いので、EUV光が通過する光経路は、適当な真空ポンプ107を用いて真空に保たれた真空チャンバ106に囲まれている。またEUV光はレーザプラズマX線源によって生成される。レーザプラズマX線源はレーザ源108(励起光源として作用)とキセノンガス供給装置109からなっている。レーザプラズマX線源は真空チャンバ110によって取り囲まれている。レーザプラズマX線源によって生成されたEUV光は真空チャンバ110の窓111を通過する。
【0024】
放物面ミラー113は、キセノンガス放出部の近傍に配置されている。放物面ミラー113はプラズマによって生成されたEUV光を集光する。放物面ミラー113は集光光学系を構成し、ノズル112からのキセノンガスが放出される位置の近傍に焦点位置がくるように配置されている。EUV光は放物面ミラー113の多層膜で反射し、真空チャンバ110の窓111を通じて集光ミラー114へと達する。集光ミラー114は反射型のレチクル103へとEUV光を集光、反射させる。EUV光は集光ミラー114で反射され、レチクル103の所定の部分を照明する。すなわち、放物面ミラー113と集光ミラー114はこの装置の照明システムを構成する。
【0025】
レチクル103は、EUV光を反射する多層膜とパターンを形成するための吸収体パターン層を持っている。レチクル103でEUV光が反射されることによりEUV光は「パターン化」される。パターン化されたEUV光は像光学システム101を通じてウエハ25に達する。
この実施形態の像光学システム101は、凹面第1ミラー115a、凸面第2ミラー115b、凸面第3ミラー115c、凹面第4ミラー115dの4つの反射ミラーからなっている。各ミラー115a〜115dにはEUV光を反射する多層膜が備えられている。
【0026】
レチクル103により反射されたEUV光は第1ミラー115aから第4ミラー115dまで順次反射されて、レチクル103パターンの縮小(例えば、1/4、1/5、1/6)された像を形成する。像光学系システム101は、像の側(ウエハ25の側)でテレセントリックになるようになっている。
レチクル103は可動のレチクルステージ102によって少なくともX−Y平面内で支持されている。ウエハ25は、好ましくはX,Y,Z方向に可動なウエハステージ13によって支持されている。ウエハ25上のダイを露光するときには、EUV光が照明システムによりレチクル103の所定の領域に照射され、レチクル103とウエハ25は像光学系システム101に対して像光学システム101の縮小率に従った所定の速度で動く。このようにして、レチクルパターンはウエハ25上の所定の露光範囲(ダイに対して)に露光される。
【0027】
露光の際には、ウエハ25上のレジストから生じるガスが像光学システム101のミラー115a〜115dに影響を与えないように、ウエハ25はパーティション116の後ろに配置されることが望ましい。パーティション116は開口116aを持っており、それを通じてEUV光がミラー115dからウエハ25へと照射される。パーティション116内の空間は真空ポンプ117により真空排気されている。このように、レジストに照射することにより生じるガス状のゴミがミラー115a〜115dあるいはレチクル103に付着するのを防ぐ。それゆえ、これらの光学性能の悪化を防いでいる。
【0028】
この実施形態の露光装置では、上述した第1の実施形態の静電チャック11を用いているため、ウエハ25の局所的な熱的変形を低減することが可能になり露光精度を向上することができる。
(実施形態の補足事項)
以上、本発明を上述した実施形態によって説明してきたが、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下のような形態でも良い。
【0029】
(1)上述した実施形態では、冷媒温度センサ34により冷媒通路11bを流れる冷媒の温度をチャック本体11aを介して間接的に測定した例について説明したが、例えば、冷媒通路11b内に冷媒温度センサを配置し冷媒の温度を直接的に測定しても良い。
(2)上述した実施形態では、ウエハ25を保持する静電チャック11に本発明を適用した例について説明したが、例えば、レチクル等の基板を保持する静電チャックに広く適用することができる。
【0030】
(3)上述した実施形態では、EUV露光装置に本発明の静電チャック11を適用した例について説明したが、パターンを転写するエネルギ線は特に限定されず、光、紫外線、X線(軟X線等)、荷電粒子線(電子線、イオンビーム)等であっても良い。また、露光方式も限定されず、縮小投影露光、近接等倍転写、直描式等に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の静電チャックの第1の実施形態を備えたウエハステージを示す説明図である。
【図2】図1のチャック本体に形成される冷媒通路を示す斜視図である。
【図3】図1の静電チャックを断面で模式的に示す説明図である。
【図4】図1のテーブルを移動した状態を示す説明図である。
【図5】本発明の静電チャックの第2の実施形態を示す説明図である。
【図6】本発明の露光装置の一実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
11:静電チャック、11a:チャック本体、11b:冷媒通路、11c:流入部、11d:流出部、11e:吸着面、11I:流入部側冷媒通路、11O:流出部側冷媒通路、13:ウエハステージ、15:テーブル、25:ウエハ、34:冷媒温度センサ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック本体に基板を吸着する吸着面を備えた静電チャックにおいて、
前記チャック本体に、冷媒の流入部から流出部に冷媒を流通させる冷媒通路を形成し、前記流入部側の冷媒通路と前記流出部側の冷媒通路とを交互に形成してなることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
請求項1記載の静電チャックにおいて、
前記冷媒通路は、渦巻き状に形成されていることを特徴とする静電チャック。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の静電チャックにおいて、
前記流入部および前記流出部は、前記チャック本体の中央部に形成されていることを特徴とする静電チャック。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の静電チャックにおいて、
前記チャック本体に、前記冷媒の温度を測定する温度センサを配置してなることを特徴とする静電チャック。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の静電チャックを有することを特徴とする露光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−332518(P2006−332518A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157266(P2005−157266)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】