説明

非破壊検査方法及び非破壊検査装置

【課題】被検査体の表面欠陥および内部欠陥の検査を同時に実施でき、検査時間を短縮することができる非破壊検査方法及び非破壊検査装置を提供する。
【解決手段】磁性体である被検査体2の表面に検査エリアEを設け、超音波探傷に用いる接触媒質の中に磁粉探傷で用いる磁粉を混合した検査媒質8を検査エリアEの上部側から下部側に向けて被検査体2の表面に塗布しつつ、検査エリアEの上部側において超音波探傷を行い、検査エリアE内であって超音波探傷を行った領域よりも下部側において磁粉探傷を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体を検査する非破壊検査方法及び非破壊検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼製の丸棒材、管材、板材において、その表面および内部に存在する疵などの欠陥(表面欠陥、内部欠陥)を把握し、一定の品質を保証することは非常に重要であり、かかる欠陥を探傷するために各種非破壊検査が行われている。
これら丸棒材や管材などに適用される非破壊検査の方法としては、表面に存在する欠陥には磁粉探傷法、内部に存在する欠陥には超音波探傷法が用いられ、これらは組み合わせて用いられることが一般的である。すなわち、磁粉探傷法は表面欠陥を高感度に検出することができるが、内部欠陥の検出は不可能であり、これを補うために超音波探傷法を行い、製品全体の探傷を行っている。
【0003】
特許文献1には、管材の非破壊検査に当たり、まず8kHzの高周波磁化による表皮面の欠陥を検出し、次いで超音波探傷による内部欠陥を検出し、次に0.1〜1kHzの低周波励磁による管の内表面の欠陥の検査を行い、最後に管端部の磁粉探傷を行う非破壊検査方法の技術が開示されている。これら複数の欠陥検査は、時間的には直列的に行われるものとなっている。
また、特許文献2には、表面検査として、浸透探傷法と超音波探傷とを組み合わせる方法が開示されている。この技術では、超音波探傷の接触媒質として浸透探傷用の浸透液を用いており、浸透探傷法に要する時間的なロスを軽減できるとしている。
【特許文献1】特開2001−272379号公報
【特許文献2】特開平2−186260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の探傷技術は、表面及び内部の欠陥を検出するために複数の探傷法を順次行うような検査であるため、検査時間が長くなってしまうといった欠点がある。
また、特許文献2に示された浸透探傷法は、探傷そのものに時間を要し且つ自動化も難しいという欠点があるため、浸透探傷法と超音波探傷とを組み合わせたとしても、探傷全体の時間的なロスの軽減にはつながらない。
これを解決するため、複数の検査場所を設け、この検査場所において各種探傷検査を行うことができるように準備し、被検査体がこれら検査場所を連続的に移動しつつ複数の探傷検査を受ける方法も考えられる。しかしながら、この方法であると探傷設備が大型になると共に設備費用が嵩むという問題が発生する。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、被検査体の表面欠陥および内部欠陥の検査を同時に実施でき、検査時間を短縮することができる非破壊検査方法及び非破壊検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明にかかる非破壊検査方法は、磁性体である被検査体の表面に検査エリアを設け、超音波探傷に用いる接触媒質の中に磁粉探傷で用いる磁粉を混合した検査媒質を前記検査エリアの上部側から下部側に向けて被検査体の表面に塗布しつつ、前記検査エリアの上部側において超音波探傷を行い、検査エリア内であって前記超音波探傷を行った領域よりも下部側において磁粉探傷を行うことを特徴とする。
この非破壊検査方法を用いることで、被検査体の表面欠陥及び内部欠陥の検出を同時に実施でき、検査時間を短縮することができる。
【0007】
なお好ましくは、前記検査媒質が検査エリアの上部側では超音波探傷に適する状態となり、検査エリアの下部側では磁粉探傷に適する状態となるように、前記検査媒質の塗布状況を設定し、前記超音波探傷及び磁粉探傷を行うとよい。
これにより、それぞれの探傷時に必要とされる検査媒質の状態(接触媒質の厚みや磁粉探傷液の厚み)を適切なものに設定可能となり、超音波探傷と磁粉探傷とを同時に行うことができる。
本発明にかかる非破壊検査装置は、磁性体である被検査体の表面に設けられた検査エリアの上部側を探傷領域とする超音波探傷装置と、前記検査エリアの下部側を探傷領域とする磁粉探傷装置と、前記超音波探傷装置に用いる接触媒質の中に磁粉探傷装置で用いる磁粉を混合した検査媒質を前記検査エリアの上部側から下部側に向けて被検査体の表面に塗布する塗布手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、塗布手段により、超音波探傷時に必要な検査媒質(接触媒質)を供給できると共に、磁粉探傷で用いる検査媒質(磁粉探傷液)を確実に供給でき、検査エリアの上部側における内部欠陥を超音波探傷装置で検出しつつ、同時に検査エリアの下部側における表面欠陥を磁粉探傷装置で検出し、検査エリア内の表面欠陥及び内部欠陥を短時間で確実に見つけることが可能となる。
好ましくは、前記塗布手段は、前記検査媒質が検査エリアの上部側では超音波探傷に適する状態となり、検査エリアの下部側では磁粉探傷に適する状態となるように、前記検査媒質の塗布状況を設定可能に構成されているとよい。
【0009】
これにより、それぞれの探傷時に必要とされる検査媒質の状態を適切なものに設定可能となり、超音波探傷装置と磁粉探傷装置とを同時に作動させることができるようになる。
また好ましくは、前記塗布手段は、前記検査媒質を探傷プローブの周囲に貯留させる貯留部を有しているとよい。
この貯留部により、探傷プローブと被検査体との間に気泡を排除しつつ確実に検査媒質を充填できるようになる。
なお、前記検査エリアの幅方向両側には、前記検査媒質が当該検査エリア外に広がることを防ぐための拡散防止手段が設けられているとよい。
【0010】
こうすることで、検査エリアの幅方向両側に検査媒質が広がることを防ぐことができ、少ない量の検査媒質で非破壊検査を行うことができる。
さらに好ましくは、前記磁粉の平均粒径を、前記検査媒質中における超音波の波長の1/4以上1/2以下に設定するとい。
こうすることで、検査媒質中を進む超音波が磁粉により乱反射されることを確実に防ぐことができ、超音波による正確な内部探傷ができる。
また、前記検査エリアの下方側には検査媒質を回収する回収手段が設けられ、該回収手段は、検査媒質を濾過する濾過手段を備えているとよい。
【0011】
こうすることで、探傷に用いられた後の検査媒質を回収し再利用することができるようになる。加えて、検査媒質を濾過手段により濾過することで、検査媒質中の磁粉だまり(磁粉が凝集し大きな固まりとなったもの)、ゴミなどを除去できるようになる。
さらに、前記超音波探傷装置に備えられた探傷プローブは、絶縁体で被覆されていることが好ましい。
磁粉探傷を行っている被検査体には大電流が流される場合があり、この被検査体に超音波探傷装置の探傷プローブが接触すると、探傷プローブばかりか超音波探傷装置自体が破壊されることになる。しかしながら、探傷プローブが絶縁体で被覆されていれば、万が一、当該探傷プローブが被検査体に接触したとしても、その破壊を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる非破壊検査方法及び非破壊検査装置を用いることで、被検査体の表面欠陥および内部欠陥の検査を同時に実施でき、検査時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る非破壊検査装置及び非破壊検査方法を、図を基に説明する。
図1,図2に示す如く、本実施形態の非破壊検査装置1は、クランクシャフト等の丸棒材を被検査体2としていて、当該被検査体2は磁性体である。
被検査体2は、回転装置3上に軸心が水平方向を向くように載置されている。回転装置3は、回転基台4を有しており、この回転基台4上に、軸心が水平方向を向く前後一対の回転支持ロール5,5が左右方向にそれぞれ配備されていて、この回転支持ロール5,5上に被検査体2が軸心を水平にして載置されている。回転支持ロール5,5を同方向に回転させることで、その上に載置されている被検査体2が軸心回りに回転するようになっている。
【0014】
なお、実施形態の説明において、図1の右側を前側、左側を後側と呼び、図2における左右を装置説明での左右、図2の上下を装置説明の上下と呼ぶ。
この被検査体2には、その周方向に沿って検査エリアEが設定されている。この検査エリアEは、被検査体2における上部側から下部側に亘る領域となっている。この検査エリアE内の上部側に対応する位置には超音波探傷装置6が配備されて、超音波探傷エリアEUとなっている。また、検査エリアEの下部側すなわち被検査体2の前側部は、磁粉探傷装置7による検査領域(磁粉探傷エリアEM)となっている。
【0015】
さらに、非破壊検査装置1は、検査媒質8(以降、検査液ということがある)を超音波探傷エリアEUから磁粉探傷エリアEMに向けて塗布する塗布手段9を備えている。
ここで、検査液8とは、超音波探傷装置6に備えられた探傷プローブ11と被検査体2の表面との隙間を埋める接触媒質の中に、磁粉探傷装置7で用いる磁粉P(鉄粉に蛍光体を付着させたもの)を分散させたものである。本実施形態の場合、超音波探傷に用いる接触媒質は水であって、その中に混ぜられる磁粉Pの平均粒径を、水中における超音波の波長の1/4以上1/2以下に設定している。このようにすることで、検査液8を進む超音波が磁粉Pにより反射されることが無くなり、磁粉Pを含まない通常の接触媒質を用いた場合と同じ検査結果を得ることができる。さらに、前述の如く、検査液8中の磁粉Pには紫外線に反応する蛍光塗料が含有されており、後述する磁粉探傷において、磁粉模様の可視化を容易としている。
【0016】
図1,図4,図5に示すように、超音波探傷装置6は、超音波探触子12と超音波探傷制御部13とを有している、
超音波探触子12は、被検査体2の内部に向かって、例えば2〜5MHzの超音波を発射すると共に被検査体2内部から反射されてきた超音波を受信する探傷プローブ11と、この探傷プローブ11を外側から覆う円筒状のカバー筒体14とから構成される。本実施形態の場合、カバー筒体14は塗布手段9の機能を有し、絶縁体で形成され、平面視略円形の上板16とこの上板16の周縁から垂下する周壁板17とから構成されている。この周壁板17と探傷プローブ11の周囲との間には、一定の内部空間(貯留部15)が確保されている。
【0017】
探傷プローブ11は超音波探傷制御部13に接続されており、この超音波探傷制御部13から超音波を発射する指令が発せられると共に、受信された超音波は超音波探傷制御部13に送られ解析されて、内部欠陥の大きさや位置が明らかとなる。探傷プローブ11は公知のものが採用可能である。
探傷プローブ11の基端部(超音波の送受信側とは反対側)は、カバー筒体14の上板16の中央部に取り付けられている。上板16には、検査液8の導入口18が設けられており、外部に設けられた検査液供給手段19から当該導入口18を介して検査液8が貯留部15に供給される。
【0018】
貯留部15に導入された検査液8は、探傷プローブ11の周りを取り囲む池のようになり、探傷プローブ11の先端と被検査体2の表面との間の隙間(=使用する超音波の波長以下であって約0.1〜0.2mm)を確実に充填しており、その間に空気等の気泡が入り込まないようになっている。すなわち、検査液8が検査エリアEの上部側では超音波探傷に適する状態となっている。したがって、探傷プローブ11の先端から発射された2〜5MHzの超音波が探傷プローブ11の先端〜被検査体2間の気泡等で散乱されることなく被検査体2内部に確実に進入するようになる。
【0019】
また、カバー筒体14の周壁板17の下端部であって、磁粉探傷エリアEMを向く側には、凹状切り込み部20が形成されている。この凹状切り込み部20からカバー筒体14の内部に充満している検査液8が流れ出すようになっている。さらに、カバー筒体14の上板16であって磁粉探傷エリアEMを向く側には、周壁板17に沿った長孔21が形成されている。この長孔21はカバー筒体14の貯留部15に連通するように形成されているため、この長孔21からも検査液8が磁粉探傷エリアEMへ流れ出すようになっている。この凹状切り込み部20及び長孔21の長さや高さ、カバー筒体14への検査液8の供給量を適切に設定することで、検査液8が検査エリアEの下部側では、後述する磁粉探傷に適する状態(検査液8の厚さが約1mm程度)となる。
【0020】
なお、カバー筒体14の上板16には、カバー筒体14の貯留部15に供給された検査液8が貯留部15を確実に充満できるように、空気抜き孔22を設けることは非常に好ましい。また、探傷プローブ11の先端部(超音波の送受信部側)には、絶縁体で構成されたキャップ23が取り付けられている。この絶縁体キャップ23により、後述する磁粉探傷のため大電流が流されている被検査体2に探傷プローブ11が接触したとしても、探傷プローブ11及び超音波探傷装置6の破壊を防止できる。
一方、被検査体2の軸心方向両端部には接触電極24,24が設けられ、この接触電極24,24間には交流電流又は直流電流が印可され、被検査体2全体に磁場が形成されている(軸通電法)。この状態で、磁粉探傷エリアEMに向けて、紫外線照射手段25から紫外線を照射し、その様子をCCDカメラ等で構成された撮像手段26が撮像するようになっている。かかる撮像手段26で撮像された画像は、オペレータが目視確認したり、画像解析部27に送られ、例えば2値化処理やパターンマッチングを行うことで表面欠陥模様すなわち表面欠陥を認識する。
【0021】
磁粉探傷検査における具体的な条件は、JIS規格G−0565に規定されたものを採用することが好ましい。
図3に示すように、磁場形成の方法としては、コ字状の磁性体28の基端部にコイル29を巻き付けることで構成された極間磁化装置30を採用してもよい。磁性体28の一対の先端部(極部)の間を磁粉探傷エリアEMに近づけ、コイル29に交流電流又は直流電流を印可することで、両極部間に位置する被検査体2に磁場を印可するようにしてもよい。
【0022】
なお、超音波探傷エリアEUと磁粉探傷エリアEMとの周表面に沿った上下方向の距離、言い換えるならば、超音波探触子12と撮像手段26の撮像領域との周表面に沿った上下方向の距離は、被検査体2の表面を流れている検査液8の流動時間が0.5〜2secとなる距離にするとよい。0.5〜2secという時間は、被検査体2の表面欠陥に磁粉Pが凝集するのに必要な時間である。
ところで、検査エリアEの上部側に磁粉探傷装置7及び塗布手段9、下部側に超音波探傷装置6というように逆に配置した場合を考える。かかる逆配置においては、塗布手段9(貯留部15)から垂れ落ちてきた検査液8が、検査エリアEの下部側に位置する超音波探傷装置6の探傷プローブ11先端と被検査体2との間に確実に入り込むことは難しく、この隙間には気泡などが存在する状況下になることは否めない。
【0023】
しかしながら、本発明の非破壊検査装置1は、検査エリアE内の上部側の同位置に超音波探傷装置6と塗布手段9とが配備され、検査エリアEの下部側に磁粉探傷装置7が設けられていて、検査液8が検査エリアEの上側部から下側部へ流れ落ちるようになっているため、検査液8が検査エリアEの上部側では超音波探傷に適する状態(検査液8が前記隙間を確実に充填する状態)となり、検査エリアEの下部側では磁粉探傷に適する膜厚となるように、検査液8の塗布状況を設定できる。
なお、検査エリアEの幅方向両側には、検査液8が当該検査エリアE外に広がることを防ぐための拡散防止手段31が設けられている。
【0024】
拡散防止手段31は、例えば、プラスチック等の絶縁体で構成された板状の拡散防止板であって、その底辺部31Aは被検査体2の周縁に沿う円弧状とされている。図1,図2に示すように、拡散防止板31は検査エリアEの幅方向両側にそれぞれ配備され、被検査体2の周表面に拡散防止板31の底辺部31Aが接するように立てた状態で設置される。
これにより、検査エリアEの幅方向両側に検査液8が広がることを防ぐことができ、少ない量の検査液8で非破壊検査を行うことができるようになる。
また、非破壊検査装置1は、検査エリアEの下方側において検査液8を回収する回収手段32を有している。
【0025】
この回収手段32は、回転基台4上であって被検査体2の前部下方側の位置に、検査液8を回収する回収箱33を有しており、この回収箱33内に超音波探傷エリアEU→磁粉探傷エリアEMと流れてきた検査液8が流れ込むようになっている。回収箱33に回収された検査液8は、ポンプ35により濾過手段34を介し濾過された後、再び検査液供給手段19に戻されるようになる。
かかる回収手段32により、磁粉探傷エリアEMを通過して被検査体2の下方に垂れ落ちる検査液8は、回転基台4上に設置された回収箱33に回収され、濾過手段34によって、磁粉Pが凝集し大きな固まりとなったもの(磁粉だまり)や被検査体2上のゴミ、スケールなどが除去される。
【0026】
以下、本発明にかかる非破壊検査装置1を用いて、丸棒材である被検査体2の表面欠陥ならびに内部欠陥を検査するやり方について説明する。
まず、被検査体2を、回転装置3上の回転支持ロール5,5上に軸心が水平方向を向くようにして配置する。その後、被検査体2の上部に超音波探傷装置6の超音波探触子12を載せる。さらに、被検査体2の軸心方向両端部に接触電極24を取り付け、両方の接触電極24間に、商用周波数(50Hz又は60Hz)の交流電流を印可し被検査体2全体に磁場を形成する。この状態で、超音波探触子12の貯留部15に検査液供給手段19から当該導入口18を介して検査液8を供給するようにする。これにより、探傷プローブ11と被検査体2の表面との間の隙間を充填し、超音波が被検査体2内部に進入するようになり、探傷プローブ11直下すなわち超音波探傷エリアEUの内部欠陥を検出することができるようになる。
【0027】
さらに、貯留部15に導入された検査液8は、カバー筒体14の凹状切り込み部20や長孔21を介して外部に溢れ出し、超音波探傷装置6の下部側に設けられた磁粉探傷エリアEMに及ぶことになる。検査エリアEの幅方向両側には、拡散防止板31が配備されているため、検査エリアE以外に検査液8が広がることを防ぐことができる。
拡散防止板31で左右に広がることを防がれつつ検査液8は、下方に垂れながら広がってゆき磁粉探傷エリアEMに達することになる。超音波探傷エリアEUから磁粉探傷エリアEMに検査液8が達する時間は0.5〜2sec程度が好ましく、その間に、被検査体2の表面に表面欠陥があった場合には、その部分から漏れ磁束が発生し、この磁束に磁粉Pが引き寄せられることで欠陥に凝集した磁粉模様が発生する。磁粉探傷エリアEMに向けては、紫外線照射手段25から紫外線が照射され、その磁粉模様を撮像手段26が撮像する。撮像された磁粉模様に画像処理を施すことで表面欠陥の有無を調べる。
【0028】
なお、検査液8が被検査体2の後方側に流れ落ちるのを防止するために、検査液8を供給する場所(超音波探触子12の設置場所)は、被検査体2の最頂部よりも被検査体2周方向に沿ってやや前側の場所が好ましい。検査液8の供給量は、磁粉探傷エリアEMでの膜厚を1mm程度確保するに十分なものとすることが好ましい。検査液8の厚さを1mm程度とすることで、表面欠陥への磁粉の凝集がスムーズとなると共に、撮像手段26により撮像された表面欠陥の画像が非常に明るく鮮明なものとなることを、本願発明者らは数々の実験を通じて確認している。
【0029】
被検査体2全体を検査するためには、一対の回転支持ロール5,5を同方向に回し、被検査体2を例えば後方側から前方側へ回転させながら、軸方向に超音波探触子12と紫外線照射手段25と撮像手段26とを軸心方向に連続的に移動させて検査する。結果として、検査エリアEは螺旋状に全表面を覆うことが可能になる。移動ピッチは、探傷プローブ11の幅方向の長さ以下が好ましい。
磁粉探傷エリアEMを通過して、被検査体2の下方に垂れ落ちる検査液8は、回転基台4上に設置された回収箱33に回収され、ポンプ35により濾過手段34を介して再び検査液供給手段19に戻されるようになる。濾過手段34によって、磁粉Pが凝集し大きな固まりとなったもの(磁粉だまり)や被検査体2上のゴミ、スケールなどが除去される。
【0030】
以上述べた非破壊検査装置1の使用において、例えば、5MHzの超音波を使用して超音波垂直探傷を行うとすると、5MHzにおける接触媒質としての水での超音波の波長は0.3mmであるので、検査液8に分散させる磁粉Pは75μm以下の平均粒径を持ったものが好ましい。この場合、濾過手段34としては、75μm以上の粒径を持った磁粉Pや磁粉だまりを濾過可能な、例えば100μm程度のメッシュを有する濾過フィルタが好ましい。
【実施例】
【0031】
本発明の非破壊検査装置1を用いて被検査体の非破壊検査を行った場合(実施例)の計測時間について、以下述べる。
被検査体2は、直径150mm、長さ3000mm、表面積約1.4m2の丸棒材である。
実施例においては、丸棒材の周速が150mm/secとなるように回転支持ロール5を19rpmで回転させた。また、探傷プローブ11の直径は20mmであり、軸心方向の移動ピッチ(探傷ピッチ)を20mmとした。この条件であると全長を探傷するにあたっては、丸棒材を150回転する必要があった。
【0032】
この条件下で、非破壊検査装置1を用いて超音波探傷と磁粉探傷とを同時に行った場合、全周面を探傷するのに約8分程度必要であった。本発明においては、超音波探傷が完了すると同時に磁粉探傷も完了するので、2種類の探傷を行っても検査にかかる時間は約8分である。
一方、従来からのやり方に従って、まず磁粉探傷が完了した後、別に超音波探傷を行った場合を考えると、磁粉探傷に約8分要し、2分程度かけて人手で磁粉探傷に用いた検査液を拭き取り、次いで超音波探傷に約8分を要することになる。ゆえに、丸棒材の全周面を探傷するのに18分程度の検査時間が必要となる。
【0033】
磁粉探傷と超音波探傷とを逆の順序で行ったとしても、従来のやり方では、磁粉探傷に使用する検査液と超音波探傷に用いる検査液とが異なるため、両探傷を続けて行う際には、検査液の拭き取りといった工程が必ず発生し、時間ロスの原因となる。
なお、本発明にかかる自動探傷装置は、上記実施の形態に限定されるものではない。
すなわち、本実施形態の探傷プローブ11は、超音波の発信部と受信部とが同一のものを採用しているが、別々ものを採用し、カバー筒体14内の最適位置に適宜配置するようにしてもよい。
【0034】
また、磁粉探傷エリアEMの磁粉模様は、撮像装置で撮像することなく、検査員が直接目視確認するようにしてもよい。
また、塗布手段9は、本実施形態で示したカバー筒体14に限定されるものではなく、様々な装置が採用可能である。
また、被検査体2として丸棒材を例示したがこれに限定されるものではない。板材等の表面検査にも採用可能である。その場合、板材をその検査対象面が傾くように設置し、傾き方向に沿って検査エリアEを設定し、当該検査エリアEの高い位置を超音波探傷エリアEU、低い位置を磁粉探傷エリアEMとするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】非破壊検査装置が被検査体に取り付けられた状態を示す側面図である。
【図2】非破壊検査装置が被検査体に取り付けられた状態を示す正面図である。
【図3】別実施形態に係る非破壊検査装置が被検査体に取り付けられた状態を示す正面図である。
【図4】被検査体に設置された非破壊検査装置を平面視した図である。
【図5】(a)は超音波探触子の平面図、(b)は超音波探触子の側面断面図である
【符号の説明】
【0036】
1 非破壊検査装置
2 被検査体
3 回転装置
6 超音波探傷装置
7 磁粉探傷装置
8 検査媒質(検査液)
9 塗布手段
11 探傷プローブ
12 超音波探触子
14 カバー筒体
15 貯留部
25 紫外線照射手段
26 撮像手段
30 極間磁化装置
31 拡散防止手段(拡散防止板)
32 回収手段
E 検査エリア
EU 超音波探傷エリア
EM 磁粉探傷エリア
P 磁粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体である被検査体の表面に検査エリアを設け、
超音波探傷に用いる接触媒質の中に磁粉探傷で用いる磁粉を混合した検査媒質を前記検査エリアの上部側から下部側に向けて被検査体の表面に塗布しつつ、
前記検査エリアの上部側において超音波探傷を行い、検査エリア内であって前記超音波探傷を行った領域よりも下部側において磁粉探傷を行うことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項2】
前記検査媒質が検査エリアの上部側では超音波探傷に適する状態となり、検査エリアの下部側では磁粉探傷に適する状態となるように、前記検査媒質の塗布状況を設定し、前記超音波探傷及び磁粉探傷を行うことを特徴とする請求項1に記載の非破壊検査方法。
【請求項3】
磁性体である被検査体の表面に設けられた検査エリアの上部側を探傷領域とする超音波探傷装置と、
前記検査エリアの下部側を探傷領域とする磁粉探傷装置と、
前記超音波探傷装置に用いる接触媒質の中に磁粉探傷装置で用いる磁粉を混合した検査媒質を前記検査エリアの上部側から下部側に向けて被検査体の表面に塗布する塗布手段と、を備えていることを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項4】
前記塗布手段は、前記検査媒質が検査エリアの上部側では超音波探傷に適する状態となり、検査エリアの下部側では磁粉探傷に適する状態となるように、前記検査媒質の塗布状況を設定可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の非破壊検査装置。
【請求項5】
前記塗布手段は、前記検査媒質を探傷プローブの周囲に貯留させる貯留部を有していることを特徴とする請求項4に記載の非破壊検査装置。
【請求項6】
前記検査エリアの幅方向両側には、前記検査媒質が当該検査エリア外に広がることを防ぐための拡散防止手段が設けられていることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の非破壊検査装置。
【請求項7】
前記磁粉の平均粒径を、前記検査媒質中における超音波の波長の1/4以上1/2以下に設定していることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の非破壊検査装置。
【請求項8】
前記検査エリアの下方側には検査媒質を回収する回収手段が設けられ、該回収手段は、検査媒質を濾過する濾過手段を備えていることを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の非破壊検査装置。
【請求項9】
前記超音波探傷装置に備えられた探傷プローブは、絶縁体で被覆されていることを特徴とする請求項3〜8のいずれかに記載の非破壊検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−209148(P2008−209148A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44210(P2007−44210)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】