説明

飲酒運転判定装置及び飲酒運転判定方法

【課題】車両に乗った乗員の飲酒の有無の判定精度を向上する。
【解決手段】ドア10〜13の開閉を検出すると、車室2内における運転席3周りと、運転席3周り以外の位置とで検知したアルコール検出値を比較して乗員の飲酒の有無を判定する。このとき、ドア10〜13の開閉などの車室2内の換気による車室2内の空気雰囲気の変化を考慮して、運転者の飲酒の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲酒運転を防止するために乗員の飲酒の有無を判定する飲酒運転判定装置及び飲酒運転判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲酒運転によって引き起きる事故は、死亡・重症に至る確率が高い。また、飲酒者当人のみならず、まったく無関係の人を巻き込む事故となる場合が多い。これは、体内にアルコールが残っている状態で自動車を運転すると、注意や判断がおろそかになり、的確な操作ができなくなってしまうためである。このため、飲酒による自動車運転を禁止している。
【0003】
これに対応した従来技術として、特許文献1等に記載してある技術がある。
特許文献1に記載の技術は、運転者のアルコールを検出し、アルコール検出値が所定の値を超えたときに、車両が機能しなくなるようにする技術である。また、車両室内の雰囲気からのアルコール検出では、風向きにより取得できるアルコール濃度が変わってしまう。このため、風向きセンサを用いて、運転席周囲における風下と風上のアルコールを比較することで、運転者周辺のアルコールを検出することが開示してある。
【特許文献1】特開2004−249847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ドア開閉や乗員の乗り込みにより、車室内の換気が行われ、車室内に空気流動が起こる。この結果、風向きを正確に取得することが難しくなり、アルコール濃度やアルコールの発生源を、正確に計測・判定することができないおそれがあるという課題がある。
さらに、アルコール発散源が複数存在する場合を考える。例えば飲酒者が運転席に着座し、その後に別の飲酒者が後ろ席に乗車した場合を考える。この場合には、飲酒発生源が相互に影響しあうため、計測対象の正確なアルコール濃度が測定できないおそれがあるという課題がある。
本発明は、上記のような点に着目したもので、乗員の飲酒の有無の判定精度を向上することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、車室内における運転席周りと、運転席周り以外の位置との各アルコール検知を比較して乗員の飲酒の有無を判定する。このとき、ドアの開閉などの車室内の換気による車室内の空気雰囲気の変化を考慮して、運転者の飲酒の有無を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車室内の空気流動を積極的に利用して、運転者の飲酒状態と、助手席など他の席の乗員の飲酒状態とを判別し易くなる。これによって、乗員の飲酒の有無の判定精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の飲酒運転判定装置、及びその飲酒運転判定装置を使用する飲酒運転防止装置を装備した車両1を示す図であって、上方からみた透視的な概念図である。
(構成)
本実施形態の車両1として、図1に示すように、車室2内に、運転席3と、その横位置の助手席4と、3つの後部座席5とを有する定員5名の4ドアの車両1を例示している。また、符号10〜13は、ドアを示している。
【0008】
そして、上記車室2内に、4つのアルコール検出センサ6〜9を配置する。各アルコール検出センサ6〜9は、例えば、各座席3,4,5の背もたれ上部における、例えばヘッドレスト近傍に配置する。また、後部座席5は、左右の後部ドア12,13に近い座席にだけアルコール検出センサ8,9を配置する。これによって、2つのアルコール検出センサ6、7を前部座席の左右に配置し、残りの2つのアルコール検出センサ8,9を後部座席5の左右に配置する。なお、各2つのアルコール検出センサは、それぞれ車幅方向に左右対称位置となるように配置している。
【0009】
ここで、本実施形態における運転者の飲酒運転判定には、少なくとも運転席3の周囲に位置するアルコール検出センサ6、及び他の位置に配置するアルコール検出センサ7〜9のいずれか一つの、計2箇所のアルコール検出センサがあれば、判定は可能である。
ここで、上記4つのアルコール検出センサ6〜9を区別する場合には、運転席3周囲のアルコール検出センサ6を第1センサ6、助手席4周囲のアルコール検出センサ7を第2センサ7、後部座席5のアルコール検出センサ8,9を第3及び第4センサ8,9と呼ぶ。
【0010】
上記各アルコール検出センサ6〜9は、アルコール蒸気を検出する。その各アルコール検出センサ6〜9としては、例えば半導体センサを例示できる。半導体センサでは、金属酸化物半導体の感ガス体表面に吸着したアルコールとの還元性ガスとの間で酸化反応が生じる。そして、感ガス体の結晶表面に形成した電気的な抵抗値の変化を用いて、アルコールを検出する。半導体センサ以外にも、大気中のアルコールを計測できる方式として電気化学式、非分散型赤外線式、検知管式などのアルコール検出センサがある。本実施形態では、応答性の速さや高寿命、価格の優位性を鑑みて、半導体センサを用いた場合を例示している。
【0011】
上記各アルコール検出センサ6〜9は、検出信号を、検出情報として飲酒運転判定装置30に出力する。この検出情報は、計測したアルコールの濃度に対応したものである。
ここで、アルコール検出センサ6〜9で検出するアルコールの濃度とは、単位時間当たりに検出するアルコール量のことである。
また、ドア開閉検出手段15〜17を備える。ドア開閉検出手段15〜17は、各ドア10〜13の開閉をそれぞれ検出する。ドア開閉検出手段15〜17は、ドア10〜13の開閉に対応する信号を飲酒運転判定装置30に出力する。ここで、通常、ドア開閉部に開閉センサを装備している。また、各ドア10〜13の下部や室内を照らす照明のスイッチを備え、そのスイッチは、ドア10〜13の開閉に応じて作動する。したがって、この開閉センサや上記照明のスイッチ部分をドア開閉検出手段15〜17として使用すればよい。
【0012】
また、運転席3の前方には、表示装置21及び警告装置22を配置してある。
表示装置21は、飲酒運転判定装置30からの各種の画面情報を表示する表示部を備える。この表示装置21は、例えばカーナビゲーションを使用し、そのカーナビゲーション画面を表示部として流用する。
警告装置22は、スピーカやランプなどから構成して、飲酒運転判定装置30からの出力情報に応じて警告音や警告の光を発する。
【0013】
また、車両1の機能を制限または作動不能とする機能抑止手段23を備える。機能抑止手段23は、抑止指令を入力すると、車両1の機能を制限または作動不能とする。また、解除指令を入力すると、制限又は作動不能とした車両1の機能を復活させる。上記機能抑止手段23の作動(ロック状態)及びその解除は、飲酒運転判定装置30からの指令によって行われる。
機能抑止手段23は、例えば、セレクトレバー24を前進位置に切り替えることが出来ないように、レバー24のギアをロックすることで、車両1の機能を制限または作動不能とする。また、そのロックを解除することで、機能を復活させる。通常時はロックを解除しておく。
【0014】
上記説明では、機能抑止手段23として、セレクトレバー24の機能を制限または作動不能にする場合を例示した。これに代えて、機能抑止手段23は、エンジンを掛からないようにしてもよいし、一定以上の車両速度が出ないように、エンジンや制動装置を制限制御するようにしても良い。このようなことによって、車両1の機能を制限または作動不能とする機能抑止手段23を構成させても良い。
また、車室2の前部に空調装置25を装備している。その空調装置25は、空調制御装置26の指令に基づき作動する。
【0015】
飲酒運転判定装置30は、図2に示すように、第1飲酒判定手段30Aと、運転者飲酒判定手段30Bとを備える。なお、図2には、第2実施形態に係る第2飲酒判定手段30Cも併記している。
第1飲酒判定手段30Aの処理例について図3を参照して説明する。
上記ドア開閉検出手段15〜17からの信号に基づき、いずれかのドア10〜13が開となったことを検知すると(ステップS10)、各アルコール検出センサ6〜9からのアルコール検知信号の入力を開始する(ステップS20)。
【0016】
続いて、開となったドア10〜13が閉じると(ステップS30)、その開閉が行われたドア10〜13に一番近いアルコール検出センサ6〜9で所定値以上のアルコールを検出したか否かを判定し(ステップS40)、検出しない場合には、そのドア10〜13から乗ってきた乗員は、飲酒していないと判定する(ステップS80)。飲酒していないと判定した場合には、処理を終了して復帰する。ここで、開閉が行われたドア10〜13に一番近いアルコール検出センサ6〜9を、ドア近接のアルコール検出センサ6〜9とも呼ぶ。
【0017】
一方、上記ドア近接のアルコール検出センサ6〜9で所定値以上のアルコールを検出した場合には、比較演算処理を行う(ステップS50)。すなわち、そのドア近接のアルコール検出センサ6〜9でのアルコール検出値と、一番近いドア10〜13が開とならなかったアルコール検出センサ6〜9でのアルコール検出値との比較演算を行う。ここで、上記一番近いドア10〜13が開とならなかったアルコール検出センサ6〜9を、比較のアルコール検出センサ6〜9とも呼ぶ。
【0018】
比較演算は、対象とする2つのアルコール検出センサ6〜9において、上記ドア10〜13が開状態となってから閉状態となる第1検出期間L1の間において、アルコール検出値が所定値以上となってからのアルコール検出値の時間変化の傾き角度を比較する。なお、アルコール検出値が所定値以上となっていない場合には、時間経過におけるアルコール濃度の変化の傾き角度はゼロとする。
そして、ドア近接のアルコール検出センサ6〜9での検出値の時間変化の方が、比較のアルコール検出センサ6〜9での検出値の時間変化よりも大きければ(立上りが大きければ)、その開閉したドア10〜13から飲酒者が乗り込んで座ったと判定する。
【0019】
ここで、ドア近接のアルコール検出センサ6〜9で所定以上のアルコールを検知しない場合でも、上記比較演算を行っても良い。この場合には、比較のアルコール検出センサ6〜9の検出値が所定以上で、かつ比較のアルコール検出センサ6〜9の検出値の方が傾きが大きい場合には、比較のアルコール検出センサ6〜9に対応する座席の乗員が飲酒者の可能性があると判定することが出来る。この場合には、例えば、車室2内に乗り込んだ後の飲酒を検知する場合の判定方法の一つとすることが可能となる。またこの場合には、ドア近接のアルコール検出センサ6〜9に対応する座席の乗員は飲酒をしていない。
【0020】
上記処理を各ドア10〜13毎に行う。
少なくとも、4つのドア10〜13が同時に開閉しなければ、2以上のドア10〜13が同時期に開閉した場合でも上記処理は有効である。すなわち、開閉されなかったドア10〜13に近いアルコール検出センサ6〜9を、上記比較のアルコール検出センサ6〜9とすることで、開閉ドア10〜13から飲酒者が乗り込んで着座したか否かを判定することが出来る。
【0021】
ここで、4つのドア10〜13が同時期に開閉することに対応するために、次のようにしても良い。すなわち、平面視における車室2の中央部に対し、どの座席にも対応しない第5のアルコール検出センサを配置しておく。そして、4つのドア10〜13が同時期に開閉した場合には、その第5のアルコール検出センサを比較のアルコール検出センサとしても良い。また、4つのドア10〜13が同時期に開閉した場合には、運転者近傍のアルコール検出センサ6の検出値の絶対値だけで判定するようにしても良い。
【0022】
そして、運転席3に一番近いドア10が開閉して飲酒者が乗り込んで来たと判定したら、飲酒運転になると判定する。すなわち、運転席3に一番近いドア10が開閉した際に、ドア近接のアルコール検出センサ6のアルコール検出値と、比較のアルコール検出センサ7〜9のアルコール検出値とを比較する。そして、ドア近接のアルコール検出センサ6のアルコール検出値の方が時間変化が大きい場合には、運転者は飲酒していると判定する。
【0023】
運転者飲酒判定手段30Bは、第1飲酒判定手段30Aの判定に基づき、運転者が飲酒していると判定すると、機能抑止手段23に抑止指令を出力する。また、運転者が飲酒していないと判定すると、機能抑止手段23に解除指令を出力する。
更に、運転者飲酒判定手段30Bは、運転者が飲酒していると判定すると、表示装置21、及び警告装置22を通じ警告を運転者に通知する。例えば、ナビゲーション画面に図形と文字を用いて表示をする。また、スピーカから、音声メッセージを発し運転者に運転をしないように警告する。
ここで、運転席3に近いドア10が開閉した場合における、ドア近接のアルコール検出センサ6によるアルコール検出値が第1アルコール検出値となる。また、その他のアルコール検出センサ6〜9によるアルコール検出値が第2アルコール検出値となる。
【0024】
(作用)
図4に、助手席4に誰も着座していない(助手席4の乗員が飲酒をしていない状態と同等)で、飲酒している運転者が運転席3に一番近いドア10を開閉して乗ってきた場合の計測例を示す。
図4に示すように、運転席3側のドア10の開閉による換気による空気の流動によって、運転席3に飲酒者が座った場合にも、助手席4に設置したアルコール検出センサ7でもアルコールを検出する。
【0025】
しかし、ドア10が開状態となってから閉状態となるまでの第1検出期間L1に着目すると、ドア近接のアルコール検出センサ6での検出値の時間変化の傾きの方が、比較のアルコール検出センサ7での検出値の時間変化の傾きよりも、検出量の立上りが大きい。ここで、図4では、運転席3周りのアルコール検出センサ6がドア近接のアルコール検出センサに対応する。また、助手席4周りのアルコール検出センサ7が比較のアルコール検出センサに対応する。
【0026】
このように、ドア近接のアルコール検出センサ6での検出値の時間変化の傾きと、比較のアルコール検出センサ7での検出値の時間変化の傾きとを比較することで、開閉したドア10から乗り込んできた乗員が飲酒者か否かを判別可能である。
ここで、助手席4に対し先に飲酒をした者が着座している場合も、同様となる。すなわち、運転席3のドア10が開状態となってから閉状態となるまでの第1検出期間L1に着目すると、ドア近接のアルコール検出センサ6での検出値の時間変化の傾きの方が、比較のアルコール検出センサ7での検出値の時間変化の傾きよりも、立上りが大きい。
【0027】
この理由は、次のためである。すなわち、運転席3側のドア10が開閉されることによる換気は、当該開閉されたドア10近傍の空気が一番影響を受ける。このような車室2内の空気雰囲気の変化のため、運転席3側のドア10から載っていた乗員が飲酒している場合には、アルコール検出値の時間変化の傾きは立上りが大きくなる。一方、助手席4の乗員が飲酒していた場合には、上記運転席3側のドア10の開閉に伴う換気の影響は、運転席3側に比べて小さいため、検出値の時間変化の傾きは小さい(立上りが小さい)。なお、助手席4の乗員が飲酒していた場合には、アルコール検出センサ7でのアルコール検出値の絶対値は大きい可能性はある。
【0028】
ここで、上記実施形態の処理では、運転者よりも先に助手席4に飲酒者が乗り込めば、助手席4に飲酒者が着座していることを、予め検知できる。
また、飲酒運転防止の観点からは、運転席3に着座した運転者が飲酒しているか否かが重要で、助手席4や後部座席5の乗員が飲酒しているか否かは必ずしも必要ではない。もっとも、上述のようにして、助手席4や後部座席5の乗員が飲酒しているか否かを検出しておくと良い。運転席3以外のアルコール発散源によるアルコール分布等によって、上記運転者が飲酒しているか否かの判定の補正を行うことが可能となる。
ここで、車室2に乗り込んだ乗員が飲酒している場合には、その乗員からの発汗や呼気から未分解のアルコールが体外へ蒸散する代謝現象によって、アルコールが所定時間継続して車室2内に放出される。
【0029】
(本実施形態の効果)
(1)車室2内の換気に伴う空気雰囲気の変化に伴い、換気の影響が大きな位置に近いドア近接のアルコール検出センサ6〜9の検出値と、比較のアルコール検出センサ6〜9の検出値とを比較演算する。これによって、開閉したドア10〜13から載ってきた乗員が飲酒しているか否かを判定することが出来る。
(2)またこのとき、換気による空気雰囲気の変化によるアルコール濃度の時間変化の傾きを使用することで、開閉したドア10〜13から載ってきた乗員が飲酒しているか否かを判定することが出来る。
(3)第1検出期L1に判定することで、乗員の乗り込み直後に飲酒の有無を判定可能となる。
【0030】
(4)開閉したドア10〜13が運転席3近傍のドア10であれば、運転者が飲酒しているか否かを判定することが出来る。
(5)換気手段としてドア10〜13の開閉を適用することで、飲酒判定する乗員の車両1への乗り込み時が判断できる。
そして、アルコール検出センサ6〜9のアルコール検出状況から、飲酒乗員がいつ乗り込んできたかが判別できる。
さらに、開閉したドア10〜13の近傍に着座することから、乗員がどこに座席に着座したか判定することができる。
【0031】
(変形例)
(1)上記実施形態では、実際のドア10〜13の開閉を検出している。これに代えて、図5のように、各座席に乗員の着座の有無を検出する着座センサ40を設け、その着座センサ40によってドア10〜13の開閉を推定しても良い。
着座センサ40としては、例えばシート座面下部に圧力センサを配置して、その圧力センサを着座センサ40とする。また、車両内カメラ41で乗員が着座したかを判定してもよい。
上記着座センサ40や車両内カメラ41は、着座検出手段を構成する。
ここで、着座センサ40で乗員の着座を検出する前に、通常、その乗員の近くのドア10〜13の開閉が行われている。したがって、着座センサ40で乗員の着座を検出したときよりも所定時間だけ前から着座検出までの期間を、第1検出期間L1とみなして、上述の判定処理を行えば良い。
【0032】
(2)また、実際のドア10〜13の開閉を検出とは別に、着座センサ40を設けても良い。この場合には、ドア10〜13から乗ってきた乗員が、どこに着座したかの推定精度が向上する。
(3)また、上記実施形態では、第1検出期間L1における、アルコール検出値の時間的な変化の傾きを比較して、乗り込んできた乗員が飲酒者か否かを判定している。これに代えて、アルコール検出値の揺らぎ幅を比較して、飲酒者か否かを判定しても良い。
図4に示すように、ドア10が開いた状態からドア10が閉じた状態までの第1検出期間L1では、ドア10の開閉による空気流動と乗員の乗り込みによる空気流動が、ドア10近傍で大きい。これに基づき、ドア近接のアルコール検出センサ6による検出値は、比較のアルコール検出センサ7の検出値に比べて濃度が大きく揺らぐ。すなわち、ドア近接のアルコール検出センサ6の近傍が、相対的に揺らぎの変動幅が大きい雰囲気状態となっている。
【0033】
従って、2つのアルコール検出センサ6〜9による検出値の時間変化において、ドア近接のアルコール検出センサ6〜9の検出値の方が、濃度の揺らぎ幅が大きいと判定した場合には、その開閉したドア10〜13からの乗員は、飲酒者と判定することが出来る。
ここで、比較のアルコール検出センサ6〜9の検出値が所定以上でかつ比較のアルコール検出センサ6〜9の検出値の方が濃度の揺らぎ幅が大きい場合には、比較のアルコール検出センサ6〜9に対応する座席の乗員が飲酒者と判定することが出来る。
【0034】
(4)また、上記実施形態では、第1検出期間L1における、アルコール検出値の時間的な変化の傾きを比較して、乗り込んできた乗員が飲酒者か否かを判定している。これに代えて、アルコール検出値の絶対値を比較して、飲酒者か否かを判定しても良い。
すなわち、図4に示すように、ドア近接のアルコール検出センサ6の検出値の絶対値の方が、比較のアルコール検出センサ7の絶対値よりも大きければ、ドア近接のアルコール検出センサ6に近い乗員は飲酒者と判定することが出来る。検出値の絶対値としては、例えば、第1検出期間L1におけるピーク値を使用すればよい。
【0035】
なお、運転席3のドア10の開閉が行われる前に、助手席4や後部座席5に飲酒者が乗員していれば、先にその乗員が飲酒者か否かが先に判定している。従って、飲酒者が着座していない座席周りのアルコール検出センサ6〜9を比較の検出センサ6〜9とすることが好ましい。
また、絶対値で判定する場合には、開閉したドア10〜13に近い座席の空気雰囲気はドア10〜13の開閉で換気が行われるので、ドア近接のアルコール検出センサ6〜9の検出値単独で、当該検出値のピーク値が所定以上の場合に無条件に飲酒者と判定しても良い。
【0036】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお上述の実施形態と同様な装置などについては同一の符号を付して説明する。
本実施形態の装置の基本構成は、上記第1実施形態と同様である。
飲酒判定手段による比較演算方法が異なる。
第1実施形態では、第1飲酒判定手段30Aによって、ドア10〜13が開いてから閉じるまでの第1検出期間L1におけるアルコール検出値に基づき飲酒を判定している。
この第2実施形態では、図2に一点鎖線で示す第2飲酒判定手段30Cによって、開いたドア10〜13が閉じてから所定時間経過までの第2検出期間L2におけるアルコール検出値に基づき飲酒の有無を判定する。
【0037】
ここで、第1検出期間L1での飲酒判定と、第2検出期間L2の飲酒判定とは、異なるシーンでの飲酒判定である。したがって、第1実施形態で説明した飲酒判定に加えて、第2実施形態の飲酒判定を行うようにしても構わない。
また、ドア10が閉状態となると、車室2内は閉鎖空間となる。このため、図4に示すように、飲酒者から発散したアルコールは時間と共に徐々に分散することで、室内の空気雰囲気は、車室2内のアルコール濃度が均一となる方向に変化する。そして、ドア10が閉じてから所定時間経過すると、車室2内のアルコール濃度が均一化に近い状態となる。この車室2内のアルコール濃度が均一化に近い状態、若しくはアルコール濃度が均一化した状態を、アルコール濃度均一化状態と呼ぶ。
【0038】
このアルコール濃度均一化状態となる時間を予め実験などから求めておく。そして、その時間若しくは、若干の余裕代だけ小さな時間を上記所定時間とすればよい。
本実施形態の第2飲酒判定手段30Cでは、ドア10〜13の開若しくは開から閉への変化を検出すると、各アルコール検出センサ6〜9によるアルコール検出を開始する。アルコール検出は、もっと前から連続的に実施していてもよい。
【0039】
第2飲酒判定手段30Cの処理例について、図6を参照して説明する。
いずれかのドア10〜13が開となった否かを判定し、いずれかのドア10〜13が開となったことを判定すると(ステップS110)、アルコールの検知を開始する(ステップS120)。
更に、開となったドア10〜13が閉じると(ステップS130)、ドア近接のアルコール検出センサ6〜9で所定値以上のアルコールを検出したか否かを判定し(ステップS140)、検出しない場合には、そのドア10〜13かの飲酒車の乗員は無かったと判定する(ステップS190)。
【0040】
一方、上記ドア近接のアルコール検出センサ6〜9で所定値以上のアルコールを検出した場合には、所定時間経過したか否かを判定し(ステップS150)、所定時間経過したと判定すると、第2検出期間L2経過であるので、処理を終了する。
一方、所定時間経過前と判定した場合には、そのドア近接のアルコール検出センサ6〜9でのアルコール検出値と、比較のアルコール検出センサ6〜9との比較演算を行う(ステップS160)。
【0041】
比較演算は、対象とする2つのアルコール検出センサ6〜9において、上記ドア10〜13が閉状態に変化してから所定期間経過までの第1検出期間L1の間において、アルコール検出の時間変化の傾き角度を比較する。
そして、ドア近接のアルコール検出センサ6〜9での検出値の時間変化の方が、比較のアルコール検出センサ6〜9での検出値の時間変化よりも小さければ、その開閉したドア10〜13から飲酒者が乗り込んで座ったと判定する(ステップS180)。
運転者飲酒判定手段30Bは、上記第2飲酒判定手段30Cの判定に基づき、第1実施形態と同じ処理を行う。
【0042】
(作用)
図4に示すように、ドア10の開閉にともなう空気の流動によって、運転席3に飲酒者が座った場合にも、助手席4に設置したアルコール検出センサ6でもアルコールが検出される。ただし、ドア10の閉直後は運転席3と助手席4とではアルコール濃度に差がある。この状態から、車室2内は閉鎖空間となるので、時間経過とともに運転席3に着座した飲酒者のアルコールの影響をうける。したがって、車室2内の空気雰囲気は、アルコール濃度が均一化に向けてアルコールが分散する。
【0043】
このとき、上述のようにドア10が閉となった直後は、運転席3と助手席4とではアルコール濃度に差がある。つまり、第2検出期間L2の初期値として飲酒している運転者位置の方が、アルコール濃度が高い。この結果、運転者周囲の方が、アルコール検知の時間的変化の傾きが相対的に低くなる。
これによって、ドア近接のアルコール検出センサ6〜9の時間変化の傾きが相対的に小さければ飲酒していると判定することが可能である。
【0044】
(本実施形態の効果)
(1)車室2内の換気に伴う空気雰囲気の変化に伴い、換気の影響が大きな位置に近いドア近接のアルコール検出センサ6〜9の検出値と、比較のアルコール検出センサ6〜9の検出値とを、第2検出期間L2において、比較演算する。これによって、開閉したドア10〜13から載ってきた乗員が飲酒しているか否かを判定することが出来る。
(2)その他の効果は上記第1実施形態と同様である。
【0045】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお上述の実施形態と同様な装置などについては同一の符号を付して説明する。
第3実施形態は、上述の第1実施形態と第2実施形態の判定方法を併用した場合である。
すなわち、第1検出期間L1では、第1実施形態で説明した飲酒の比較判定方法を使用する。続いて、第2検出期間L2では、第2実施形態で説明した比較判定方法を使用する。
ここで、比較判定方法として、アルコール検出の時間変化の傾きを比較して判定する場合とする。
この場合には、上述のように、第1検出期間L1と第2検出期間L2とでは、相対的な傾きの比較判定が逆である。従って、第1検出期間L1と第2検出期間L2とでは比較演算方法を変更する。すなわち、第1検出期間L1と第2検出期間L2とでは比較条件を変更する。
【0046】
(効果)
(1)第1検出期間L1と第2検出期間L2とで比較演算方法を変更する。これによって、第1検出期間L1と第2検出期間L2の両方の検出期間間に亘って、適切に乗員の飲酒の有無を検出することが出来る。
(変形例)
(1)濃度の揺らぎ幅で比較演算する場合について説明する。
揺らぎの幅で比較判定する場合には、第1検出期間L1及び第2検出期間L2ともに、揺らぎ幅を大きい場合に、飲酒している可能性が高いと判定する。
但し、第2検出期間L2に比べて第1検出期間L1の方が揺らぎ幅の相対的な大きさが大きい。これに鑑みて、第1検出期間L1は揺らぎ幅の大きさで比較演算を行い、第2検出期間L2は、濃度による比較演算を行うように、比較演算方法を変更するようにしても良い。
これによって、検出期間間に応じて適切に飲酒の有無を判定することができる。
【0047】
(2)ここで、第1検出期間L1による比較演算による判定内容によって、第2検出期間L2の比較演算の内容について補正を実施してもよい。
すなわち、第1検出期間L1によって検出した濃度状態に応じて、第2検出期間L2における、各アルコール検出センサ6〜9によるアルコール検出値を補正しても良い。
例えば、助手席4に飲酒者が存在していなくても、図4のように、時間経過によって助手席4周りでもアルコールを検出する。この時間的な濃度の影響度を差し引くことで、助手席4側に着座した乗員からのアルコールは検出されていないか小さな値に、助手席4周りのアルコール検出センサ7による検出値を補正する。同様に、後ろの席についても、時間に応じた影響分を差し引くことで各席のアルコール濃度の比較演算の精度を向上させることが出来る。
【0048】
ここで、図7(a)のように、飲酒者が(ア)席に乗車した場合(イ)席(隣席)、(ウ)席(後席)、(エ)席(斜め席)は、図7(b)のように薄い色の棒グラフの量だけアルコール量の影響を受けた。実際に(イ)、(ウ)、及び(エ)席に飲酒者が着座していなくても、アルコールが検出された。次に、さらに、斜め席に飲酒者が乗車した場合は、濃い色の棒グラフ分だけのアルコール量が加算された。このように、アルコール量が各センサ位置によって影響受ける量が推定できた。
【0049】
また、図8に、各座席に取り付けたアルコール検出センサと、飲酒者席のアルコール量の関係を示す。飲酒者が着座した(ア)席に対し、(エ)の斜め席は影響度が少なく、相対値を比較すると他の席と比較して一番大きくなる。相対値が一番大きくなる座席のアルコール検出センサを比較することで、アルコール量が一番多いアルコール検出センサを配置した席に飲酒者が着座した位置であると判定できた。
【0050】
(3)第2検出期間L2を経過すると第3検出期間L3となる。この第3検出期間L3では、図4に示すように、アルコール濃度が均一に近い状態となっている。この場合には、単純に運転席3近傍のアルコール検出センサ6〜9で所定以上のアルコールを検出しても、運転者は飲酒していない場合もある。
この場合には、運転席3前方のエアコン(空調装置25)を駆動させて、定期的に、室内の強制換気を行う。これによって、上述のような、アルコール検知の濃度差によって飲酒の有無の検知が可能となる。また、エアコンを起動させ外部からの空気を運転者にあて、その風下のセンサによってアルコール濃度を計測し、運転者が飲酒しているかを判定することもできる。
【0051】
なお、走行中であれば、窓を開け外気を一度取り込んでから計測を開始する制御をしてもよい。
この場合において、換気を行っている部分に近いほど、空気雰囲気の変化が一番大きくなる。
ここで、本実施形態での空調装置25とは、外気との空気の置換と車両1内の空気の流れを制御するものをいう。そして、空調制御装置26は、エアコンを制御し、風量、風向、外気導入、内気循環を制御した。また、空調制御として車両1備えつけの空気清浄機や窓ガラスの開閉も制御できるようにした。本発明における空調装置25とは、外気との空気の置換と車両1内の空気の流れを制御するものをいう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る各装置の配置例を示す透視的に図示した車両1の上面図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係る飲酒運転判定装置の構成を説明する図である。
【図3】第1飲酒判定手段の処理例を説明する図である。
【図4】運転席と助手席でのアルコール濃度の時間的変化を例示する図である。
【図5】着座センサの配置例を示す側面図である。
【図6】第2飲酒判定手段の処理例を説明する図である。
【図7】各座席でのアルコール検出量の例を示す図である。
【図8】各座席でのアルコール検出量の例を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
2 車室
3 運転席
4 助手席
5 後部座席
6〜9 アルコール検出センサ
10〜13 ドア
15〜17 ドア開閉検出手段
21 表示装置
22 警告装置
23 機能抑止手段
24 セレクトレバー
25 空調装置
26 空調制御装置
20 飲酒運転判定装置
30A 第1飲酒判定手段
30B 運転者飲酒判定手段
30C 第2飲酒判定手段
32 運転席
40 着座センサ
41 車両内カメラ
L1 検出期間
L2 検出期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内における運転席周りおよび運転席周り以外の位置の各アルコールを検出する複数のアルコール検出センサと、
上記複数のアルコール検出センサのアルコール検知に基づき乗員の飲酒の有無を判定する飲酒判定手段と、
車室内の換気を行う換気手段と、を備え、
飲酒判定手段は、車室内の換気を検知すると、換気による車室内の空気雰囲気の変化、及びアルコール検出センサのアルコール検出値に基づき、乗員の飲酒の有無を判定することを特徴とする飲酒運転判定装置。
【請求項2】
上記換気手段は、開閉によって車室内を換気するドアであり、
上記飲酒判定手段は、ドアの開閉を推定若しくは検知することで、車室内の換気を検知することを特徴とする請求項1に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項3】
上記飲酒判定手段は、運転席周りのアルコール検出センサによる第1アルコール検出値と、運転席周り以外の位置のアルコール検出センサによる第2アルコール検出値とを比較することで、運転者の飲酒の有無を判定することを特徴とする請求項2に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項4】
上記飲酒判定手段は、運転者に一番近いドアが開状態から閉状態に変化するまでの間における、運転席周りのアルコール検出センサによる第1アルコール検出値と、運転席周り以外の位置のアルコール検出センサによる第2アルコール検出値とを比較することで、運転者の飲酒の有無を判定することを特徴とする請求項3に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項5】
上記飲酒判定手段は、運転者に一番近いドアが開状態から閉状態に変化したことを検知すると、当該閉状態となってから所定時間経過までにおける、運転席周りのアルコール検出センサによる第1アルコール検出値と、運転席周り以外の位置のアルコール検出センサによる第2アルコール検出値とを比較することで、運転者の飲酒の有無を判定することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項6】
上記飲酒判定手段は、運転者に一番近いドアが開状態から閉状態に変化するまでの第1検出期間と、閉状態となってから所定時間経過までの第2検出期間とで、飲酒の有無の判定のための上記第1アルコール検出値と第2アルコール検出値との比較条件を変更することを特徴とする請求項3に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項7】
上記飲酒判定手段は、アルコール検出値の時間経過による濃度変化を比較することを特徴とする請求項3〜請求項6のいずれか1項に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項8】
上記飲酒判定手段は、アルコール検出値の絶対値を比較することを特徴とする請求項3〜請求項7のいずれか1項に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項9】
座席に乗員が着座したことを検知する着座検出手段を備え、
上記飲酒判定手段は、着座検出手段からの信号に基づきドアの開閉を推定することを特徴とする請求項2〜請求項8のいずれか1項に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項10】
座席に乗員が着座したことを検知する着座検出手段を備え、着座検出手段の検出によって、開閉したドアから乗り込んだ乗員の着座位置を判定することを特徴とする請求項2〜請求項9のいずれか1項に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項11】
上記換気手段として、空調装置を備えることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項12】
上記飲酒判定手段は、車室内の空気雰囲気状態がアルコール濃度均一状態若しくはアルコール濃度が均一に近い状態と判定すると、上記空調装置を作動させて車室内を換気させることを特徴とする請求項11に記載した飲酒運転判定装置。
【請求項13】
車両のドアの開閉を検知すると、そのドアの開閉による車室内の空気雰囲気の変化を考慮して、車室内における上記ドアに近い座席周りで検出されるアルコール検知と、当該ドアに近い座席周りとは異なる車室内位置で検出されるアルコール検知とを比較することで乗員の飲酒の有無を判定する飲酒運転判定方法。
【請求項14】
上記ドアに近い座席は運転席であることを特徴とする請求項13に記載した飲酒運転判定方法。
【請求項15】
上記比較は、時間経過に伴う濃度変化を比較することを特徴とする請求項13又は請求項14に記載した飲酒運転判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−202656(P2009−202656A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44713(P2008−44713)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】