説明

駆動装置

【課題】従来のような受熱・放熱用のリブを設けることなく、潤滑油の熱のケースへの熱伝達を円滑に行え、潤滑油を効率的に冷却できる駆動装置を提供すること。
【解決手段】ケース19およびカバー11で覆われた内部には、外部からの動力によって駆動されるドリブンギヤ13を含む歯車装置、およびドリブンギヤ13の出力を駆動輪に伝達するシャフト17を含む出力軸が収容されているとともに、潤滑油が充填されている駆動装置10であって、ケース19内部には、ドリブンギヤ13側に向けて開口した開口部53を有するとともに、ケース19の外周部19Aとシャフト17を支持する出力軸支持壁とに囲まれた油溜室50が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に係り、例えばフォークリフト等の産業車両での動力伝達に用いられる駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動装置内の潤滑油を冷却する方法としては、駆動装置を構成するケースの一部として蓋体を取り付け、蓋体の外表面から複数の放熱用リブを突設させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
このような蓋体には、ケースの内部に臨む複数の受熱用リブが一体に形成されている。ケース内で高温となった潤滑油は、受熱用リブに接触することで、その熱が受熱用リブから放熱用リブに伝達されて放熱され、冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−5270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、潤滑油の熱を放熱用リブに効率的に伝えるために、放熱用リブと一体の受熱用リブを設け、この受熱用リブに潤滑油を接触させるようになっているが、より効率的に潤滑油の熱を伝達させ、放熱させるためには、さらに大きな受熱・放熱用リブを設けるか、さらに多数の受熱・放熱用リブを設けることしかなく、特に駆動装置の内部にあっては、受熱用リブとギヤ等の回転体との配置スペース上の取り合いが問題となる。
【0005】
本発明の目的は、従来のような受熱・放熱用のリブを設けることなく、潤滑油の熱のケースへの熱伝達を円滑に行え、潤滑油を効率的に冷却できる駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置は、ケースおよびカバーで覆われた内部に、外部からの動力によって駆動される歯車装置、および前記歯車装置の出力を被駆動体に伝達する出力軸が収容されているとともに、潤滑油が充填されている駆動装置であって、前記ケースは、前記歯車装置側に向けて開口した開口部を有するとともに、前記ケースの外周部と前記出力軸を支持する出力軸支持壁とに囲まれた油溜室が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明の駆動装置において、前記ケースおよび前記カバーで覆われた内部には、制動力を生じさせるブレーキ装置の押圧用可動ディスクが収容され、前記油溜室は、前記歯車装置を挟んで前記ブレーキ装置の押圧用可動ディスクとは反対側に設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の駆動装置において、前記油溜室は、前記ギヤの回転方向に沿って配置された複数の油溜小室で構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の駆動装置において、前記出力軸は、前記出力軸支持壁に配置された一対のベアリングで支持され、前記油溜室と前記一対のベアリング間とは、前記出力軸支持壁に設けられたシャフト側潤滑油路により連通していることを特徴とする。
【0010】
本発明の駆動装置において、前記歯車装置としては、前記出力軸に自公転自在に軸支されたプラネットギヤと、前記プラネットギヤと噛み合うリングギヤとを備え、前記開口部は、前記プラネットギヤとリングギヤとの噛み合い部分に向けて開口していることを特徴とする。
【0011】
本発明の駆動装置において、前記歯車装置は外部からの動力が伝達されるドライブギヤを備え、前記ケースおよび前記カバーで覆われた内部には、前記潤滑油を前記ドライブギヤ側に導くギヤ側潤滑油路が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の駆動装置によれば、ケースおよびカバーで覆われた内部に油溜室が設けられ、この油溜室内に潤滑油が入り込む。この際、油溜室の壁部分の一部は、ケースの外周部を形成しているのであり、外気に曝されることから、低温状態に維持されている。従って、そのような外周部を形成している壁部分を有した油溜室もまた低温状態に維持され、十分な奥行きを有する油溜室内に入り込んだ潤滑油は、大きな表面積の壁部分と接触することで、従来のような受熱用リブ等を設けなくとも、その熱を外周部側に円滑に伝達および伝導でき、外周部での放熱や、熱容量の大きいケース全体での熱吸収、あるいは低温状態にある壁部分との接触による低温化を促進できて、潤滑油を効率よく冷却できる。
【0013】
本発明の駆動装置において、ケース内部には制動力を生じさせるブレーキ装置の押圧用可動ディスクを収容し、前記油溜室を前記歯車装置を挟んで前記ブレーキ装置の押圧用可動ディスクとは反対側に設ける場合、油溜室がブレーキ装置の押圧用可動ディスクから離間することになり、ブレーキ装置で生じる熱の影響が少なくなるため、壁部分の低温状態を良好に維持でき、そのような壁部分との接触による潤滑油の冷却を一層促進できる。
【0014】
本発明の駆動装置において、油溜室を小空間からなる複数の油溜小室に分割する場合には、油溜室を小空間に分割する部分が補強リブとして機能するため、補強リブを設けたことで潤滑油との接触面積をさらに大きくできて、外周部への熱伝達をさらに良好に行えるうえ、ケースとしての強度を向上させることができる。さらに、油溜小室に分割することで、潤滑油がその内部にある程度の時間留まるようになるから、即座にケースの底側に戻ることがなく、潤滑油の熱を油溜小室の壁部分に確実に伝達できる。
【0015】
本発明の駆動装置において、出力軸を一対のベアリングで支持し、油溜室と一対のベアリング間とを出力軸支持壁に設けられたシャフト側潤滑油路により連通させる場合には、油溜室に入り込んだ潤滑油にてベアリングを効率的に潤滑できる。また、油溜室回りには受熱用リブ等が設けられないことから、油溜室に近い位置でベアリングを取り付けることができ、シャフト側潤滑油路としても、キリ孔(ドリル孔)等による単純な構造にできる。
【0016】
本発明の駆動装置において、歯車装置として自公転自在なプラネットギヤと、このプラネットギヤと噛み合うリングギヤとを備えて構成し、開口部をプラネットギヤとリングギヤとの噛み合い部分に向けて開口させる場合には、プラネットギヤの自公転動作時において掻き上げられた潤滑油を、リングギヤとの噛み合いにより油溜室の開口部側に逃がすことができ、油溜室内により確実に流入させることができる。
【0017】
本発明の駆動装置において、歯車装置として電動モータ等の動力が伝達されるドライブギヤを備えて構成し、ケースおよびカバーで覆われた内部には、潤滑油をドライブギヤ側に導くギヤ側潤滑油路を設ける場合、そのようなギヤ側潤滑油路内を通してドライブギヤ側に潤滑油を確実に供給でき、潤滑油にてドライブギヤ側での噛み合い部分や、ドライブギヤを支持するベアリング等を良好に潤滑できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る駆動装置を示す垂直方向の断面図。
【図2】前記駆動装置を示す水平方向の断面図。
【図3】前記駆動装置に用いられるカバーを内側から示す図。
【図4】前記駆動装置に用いられるケースを内側から示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1および図2において、本実施形態の駆動装置10は、電動フォークリフトの駆動輪(被駆動体)を駆動するための装置であり、金属製の各種部材から構成されている。
【0020】
[駆動装置の全体構造]
具体的に駆動装置10は、カバー11の外部に図示しない電動モータが取り付けられるとともに、この電動モータの出力軸に対してスプライン結合されるドライブギヤ12、ドライブギヤ12によって駆動されるドリブンギヤ13、ドリブンギヤ13と一体に回転する出力ギヤ14、出力ギヤ14と噛み合うプラネットギヤ15、プラネットギヤ15と噛み合うリングギヤ16、プラネットギヤ15を自公転自在に軸支するシャフト17、シャフト17にスプライン結合されたハブ取付部材18を備え、ハブ取付部材18に駆動輪を構成するタイヤホイールのハブ部分が取り付けられる。
【0021】
そして、本実施形態では、ドライブギヤ12、ドリブンギヤ13、出力ギヤ14、プラネットギヤ15、およびリングギヤ16を備えて本発明の歯車装置が構成され、シャフト17およびハブ取付部材18により、本発明の出力軸が構成されている。
【0022】
駆動装置10の各部材12〜17およびハブ取付部材18の一部は、カバー11で覆われたケース19内に収容されている。ここで、ドリブンギヤ13は回転体21の段差部22に圧入され、出力ギヤ14は回転体21の回転軸の一端側に予め一体に設けられている。回転体21の出力ギヤ14側の端部は、シャフト17に嵌め込まれたベアリング23で軸支され、反対側の端部がベアリング24で軸支されている。ベアリング24は、円環状の保持部材25の内周側に嵌め込まれている。保持部材25は、図3にも示すように、カバー11の内面から突設した4箇所の取付ボス26にボルトにより固定されている。
【0023】
回転体21の段差部22には、保持部材25の外周側を囲う円筒状のディスク取付部27が、出力ギヤ14とは反対側に突出して設けられ、ディスク取付部27の外周には、複数のブレーキディスク28が回転不能に取り付けられている。この際、出力ギヤ14、回転体21、およびディスク取付部27は、鋳造、鍛造、あるいは適宜な機械加工等により同一基材から一体ものとして形成されている。なお、出力ギヤ14と回転体21とを別部材とし、スプライン結合、溶接、ボルト止め、圧入等によって一体に連結してもよい。また、ドリブンギヤ13の段差部22へ連結も圧入に限定されず、前記の他の連結方法を採用できる。
【0024】
一方、プラネットギヤ15と噛み合うリングギヤ16は、周方向の複数箇所にてケース19の内部に固定プレート16A(図2)を介してボルト止めされている。シャフト17は、スプライン結合されたハブ取付部材18の筒状部分と共に一対のベアリング29にて軸支されている。これらのベアリング29は、ケース19に対して内方側および外方側からそれぞれ嵌め込まれている。
【0025】
[ブレーキ装置]
本実施形態の駆動装置10には、ブレーキディスク28を挟み込んで駆動輪に制動力を生じさせる湿式のブレーキ装置30が設けられている。
ブレーキ装置30は、カバー11内に位置する略円板状の押圧用可動ディスク31を、カバー11の外部から油圧アクチュエータ32により駆動することで制動力を生じさせる構成であり、押圧用可動ディスク31が軸方向(ドリブンギヤ13等の回転軸の軸方向)に沿ってカバー11に対して近接離間する方向に進退駆動される。
【0026】
より具体的に先ず、カバー11の開口側の端縁には、環状の押さえ板33がボルトにより固定されている。押さえ板33および押圧用可動ディスク31は互いに対向面を有し、これらの対向面間にはブレーキディスク28が位置している。各ブレーキディスク28の間、および各対向面とブレーキディスク28との間には、カバー11の内側に取り付けられた複数の別のブレーキディスク34が介装されている。押圧用可動ディスク31の進出により、各ブレーキディスク28,34が対向面間で挟持され、制動力が生じる。
【0027】
押圧用可動ディスク31には、図3にも2点鎖線で示すように、カバー11から突出した取付ボス26が貫通する4つの開口部35が設けられている。4つの開口部35のうち、円柱状に形成された対角線上の一対の取付ボス26用の開口部35Aは丸孔開口とされている。開口部35A内にはスリーブ35Cが挿入され、取付ボス26の外周がスリーブ35Cの内周と摺接する。つまり、スリーブ35Cと摺接する円柱状の一対の取付ボス26は、押圧用可動ディスク31が進退する際のガイドポストとして機能する。
【0028】
油圧アクチュエータ32は、ブレーキ操作時に油が流入する圧油室36と、流入した油によって進出するプランジャ37とを有し、このプランジャ37の動きを動力伝達部材38を介して押圧用可動ディスク31に伝達することで、押圧用可動ディスク31を進出させる構成である。これに対して、押圧用可動ディスク31とベアリング24保持用の保持部材25との間にはコイルバネ39が介装され、ブレーキ操作を解除することで、コイルバネ39のバネ力により押圧用可動ディスク31、動力伝達部材38、およびプランジャ37が退却する
【0029】
[ブレーキ装置の潤滑構造]
ブレーキ装置30は、駆動装置10の内部に充填された潤滑油にて潤滑、油冷される。駆動輪が停止状態にあるとき、ケース19の底側に滞留する潤滑油は、図1に示す油面レベルL1にある。駆動輪が駆動されると潤滑油は、回転する主にドリブンギヤ13で攪拌されて飛散し、周囲の回転部分を潤滑し、また、ドリブンギヤ13の表裏に付着して駆動装置10内部の上部側にまで掻き上げられる。
【0030】
この際、本実施形態でのケース19の内壁は、ドリブンギヤ13の外周や表側面と僅かな隙間CL1,CL2で近接していることや、ドリブンギヤ13が押さえ板33やリングギヤ16と周方向に沿って間近で対向していることにより、必要以上に大量の潤滑油を攪拌するのを防止でき、潤滑油の攪拌損失が小さく抑えられるようになっている。
【0031】
そして、ドリブンギヤ13裏側(押さえ板33側)の外周近傍には、図1に示すように、外周先端に向かうに従って押さえ板33に近接するようになる傾斜面13Aが設けられている。これに対して、押さえ板33の上部位置には、表裏を連通させる切欠部33Aが設けられている。このため、ドリブンギヤ13の裏側を伝って掻き上げられた潤滑油は、遠心力により外周側に追いやられた後、傾斜面13Aを伝って切欠部33A側に飛散し、切欠部33Aに入り込む(図1中の矢印A)。
【0032】
一方、図1および図3において、カバー11の内部には、押圧用可動ディスク31から離間するように外方に膨出した膨出部41が上下にわたって所定幅で設けられている。膨出部41と押圧用可動ディスク31との間の空間は、上部側に掻き上げられた潤滑油を溜める油貯留部42となっている。つまり、ドリブンギヤ13の裏側を伝って上部側に掻き上げられた潤滑油のうち、前述の切欠部33Aに入り込んだ潤滑油は、膨出部41の上部側から油貯留部42内に流入し、油貯留部42内を満たす。
【0033】
駆動装置10の駆動中においては、油貯留部42内での油面レベルがL2に維持され、その分、ケース19の底側での油面レベルがL3に大きく下がる。この油面レベルL3は、作動中にケース内で常時滞留させていた従来の潤滑油の油面レベルに比して低く、ドリブンギヤ13の回転およびこれと一体で回転するブレーキディスク28での攪拌損失が十分に小さい。なお、ブレーキ装置30側に飛散した潤滑油は、油貯留部42のみに溜まるのではなく、押圧用可動ディスク31の裏側とカバー11の内壁との間の隙間全体にわたって入り込んでいる。
【0034】
他方、カバー11に設けられた前述の取付ボス26のうち、ガイドポストとして機能しない一対の取付ボス26は、図3に示すように、略扇形の異形状に形成されている。これらの取付ボス26が挿通される押圧用可動ディスク31側の開口部35Bもやはり略扇形とされ、取付ボス26よりも一回り大きく開口している。このことにより、押圧用可動ディスク31の進退方向に沿って貫通した開口部35Bの一部は、押圧用可動ディスク31の表裏を連通させる連通部43となる。そして、連通部43の一部はさらに、油貯留部42と押圧用可動ディスク31の表側(ブレーキディスク28,34が設けられる側)とを直接連通させる。
【0035】
従って、油貯留部42に溜まった潤滑油、および油貯留部42部分以外で押圧用可動ディスク31の背面側に溜まった潤滑油は、連通部43を通って押圧用可動ディスク31の表側に流出し、回転体21等に接触することで、その遠心力にて外周側に導かれ、ディスク取付部27と押圧用可動ディスク31との間や、ディスク取付部27において径方向に沿って設けられた複数の孔27Aを通ってブレーキディスク28,34を内方側から効率的に潤滑し、冷却する。この際、開口部35Bの開口面積は、連通部43から所定流量の潤滑油が絞られて流出するように設定されており、連通部43が絞りとして機能する。
【0036】
また、押圧用可動ディスク31の外周縁とカバー11の内壁との間は、潤滑油が入り込む上方部分を除き、互いに近接した隙間CL3となっており、隙間CL3によって絞りが形成されている。従って、この絞りにより油貯留部42内の潤滑油の貯留時間を長くでき、ケース19側での放熱量を高めることができる。ブレーキディスク28,34以外の潤滑等に必要な潤滑油は、ドリブンギヤ13にて掻き上げられて供給される他、油貯留部42から連通部43をバイパスして供給される。
【0037】
駆動装置10が停止した状態になると、油貯留部42内の潤滑油は、連通部43から下方に流れ出るとともに、カバー11の下部側において、押圧用可動ディスク31外周との間の隙間から押さえ板33の別の切欠部33Cを通してケース19側に流出し、油面レベルがL1に戻る。
【0038】
ところで、図2に示すように、ドライブギヤ12に対応した位置では、カバー11と押さえ板33とは接触しておらず、カバー11の凹状部11A(図2、図3)と押さえ板33とによりギヤ側潤滑油路44が形成されている。ギヤ側潤滑油路44はドリブンギヤ13の外周近傍であって、ブレーキディスク28,34の丁度外方側に設けられ、ブレーキディスク28,34を冷却した後の潤滑油がギヤ側潤滑油路44を通してドライブギヤ12側に導かれる(図2中の矢印B)。
【0039】
加えて、押さえ板33には、ギヤ側潤滑油路44に対応した位置にも、表裏を連通させる切欠部33Bが設けられており、ドリブンギヤ13の裏側を伝う潤滑油が傾斜面13Aから切欠部33Bを通してドライブギヤ12側に供給される(図2中の矢印C)。これらの潤滑油により、ドライブギヤ12用のベアリング45等が潤滑される。
【0040】
[潤滑油の冷却構造]
図1、図2、および図4に示すケース19内部において、ドリブンギヤ13を挟んだブレーキ装置30の押圧用可動ディスク31とは反対側には、潤滑油が入り込む複数(本実施形態では8つ)の油溜小室51が周方向に沿って適宜な間隔で設けられている。各油溜小室51はドリブンギヤ13の回転軸の軸方向に沿い、かつ該ドリブンギヤ13から離間する方向の奥行きを有しており、隣接する油溜小室51間は補強リブ52で仕切られている。
【0041】
換言すれば、各油溜小室51は、ケース19の外周部19Aと所定厚さの出力軸支持壁19Bとに囲まれた環状の大きな油溜室50を8つの補強リブ52で仕切った構造である。油溜小室51の壁部分の一部は、ケース19において所定厚さの外周部19Aを形成している。外周部19Aの外表面は外気に曝されるうえ、ドリブンギヤ13を挟んでブレーキ装置30側の特にブレーキディスク28,34とは反対側に位置することで常時低温状態にある。
【0042】
このような油溜小室51は、プラネットギヤ15およびリングギヤ16の噛み合い部分に向けて開口した開口部53を有している。従って、油溜小室51へは、ケース19底側に滞留する潤滑油が主にプラネットギヤ15の自公転動作により掻き上げられ、入り込むことになる。油溜小室51へ入り込んだ潤滑油は、補強リブ52を含む油溜小室51の壁部分に広い範囲で接触するとともに、その壁部分も外周部19Aの内側として形成されていることで低温状態にあることから、効率よく冷却される。
【0043】
つまり、潤滑油の熱は、従来のような受熱・放熱用リブを設けなくとも、ケース19におけるブレーキ装置30から離れた低温部分に大きな面積で接触して、ケース19の外周部19Aに円滑に伝達され、迅速に冷却される。また、油溜小室51の壁部分の他の一部は、ケース19において出力軸支持壁19Bを形成しており、この出力軸支持壁19Bを利用して、シャフト17を支持する一対のベアリング29の取付部が設けられている。従来のような受熱リブ等が一切不要なことで、受熱に用いられる出力軸支持壁19Bの直ぐ内方側をベアリング29の取付部として用いることが可能なのである。
【0044】
加えて本実施形態では、複数の油溜小室51のうち、最も上部に位置する油溜小室51Aへは、ドリブンギヤ13の表側面(プラネットギヤ15側の面)にて掻き上げられた潤滑油を積極的に逃がす構成になっている。
【0045】
すなわち、ケース19の内部の上側部分には、図1、図4に示すように、径方向の外方側に向けて窪み、かつ油溜小室51Aおよび押さえ板33の切欠部33Aと連通した油切り空間54が軸方向に沿って所定幅で設けられている。油切り空間54内の周方向の中央位置には、外方側の天井部分から内方側に向けて垂下した油切り部55が設けられている。油切り部55は油切り空間54の中央にあるのは、ドリブンギヤ13の正逆双方の回転を考慮したことによる。
【0046】
油切り部55は、ドリブンギヤ13外周の最上部近傍に対応して位置することになり、その一端は油溜小室51Aの開口部53に達し、他端はドリブンギヤ13の歯の側面(噛み合い面ではない面)から歯先にかけて近接している。このことから、ドライブギヤ12とドリブンギヤ13との噛み合い部分は、ドリブンギヤ13の最上部分には存在せず、最上部分からその回転方向の一方側にずれた位置に設定され、本実施形態では、最上部から約90°ずれた位置で噛み合っている。
【0047】
ドリブンギヤ13の表側面を伝って歯先側へと掻き上げられた潤滑油は、近接する油切り部55の他端側で掻き取られ、回転軸の軸方向の一端側へと導かれる(図1中の矢印D)。一端側へと導かれた潤滑油は、開口部53から油溜小室51Aに入り込み、その内部で冷却される。従って、油切り部55を設けることにより、ドリブンギヤ13の表側で掻き上げられた潤滑油を、ドライブギヤ12との噛み合い位置ではなく、油溜小室51Aに対応した位置で軸方向に確実に逃がすことが可能である。
【0048】
また、ドリブンギヤ13の歯間によって掻き上げられた潤滑油、およびケース11との隙間CL1との間にあって歯先を覆うように掻き上げられた潤滑油は、ドリブンギヤ13が油切り空間54に達した時点でさらに外方に向けて飛散しようとするが、油切り部55の歯先と対向した部分において掻き取られ、油切り空間54内の天井部分に沿って軸方向に導かれ、油溜小室51A側に供給されるか、または押さえ板33の切欠部33A側に供給される。
【0049】
ここで、油溜小室51Aの底側には、下方に向けてキリ孔(ドリル孔)からなるシャフト側潤滑油路56が設けられている。シャフト側潤滑油路56は、一対のベアリング29間と連通してそれらのベアリング29を潤滑し、かつシャフト17とハブ取付部材18とのスプライン結合部分に達して該結合部分を潤滑する。
【0050】
そして、各油溜小室51内に入り込んだ潤滑油は、油溜小室51Aからシャフト側潤滑油路56に流れ込むものの他は、油溜小室51内で冷却された後、その開口部53から流れ出てケース19の底側に滞留することになる。
【0051】
つまり、本実施形態では、ケース19の底側に滞留した潤滑油は、駆動装置10が動作している間、その一部がドリブンギヤ13の裏側で掻き上げられて油貯留部42に入り込み、そこからブレーキディスク28,34の潤滑、冷却、およびドライブギヤ12の潤滑に回される一方、他の一部はドリブンギヤ13の表側やプラネットギヤ15で掻き上げられて、他の箇所の潤滑および油溜小室51での冷却に回されるのである。
【0052】
なお、本実施形態は以上に説明した通りであるが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、複数の補強リブ52を設けることで、環状の油溜室50を複数の油溜小室51に分割していたが、そのような補強リブ52を設けずに、環状の油溜室50を採用してもよい。
【0053】
前記実施形態では、本発明に係るギヤとしては、ドリブンギヤ13、プラネットギヤ15、リングギヤ16であったが、本発明の駆動装置に係るギヤ構成はこれに限定されるものではなく、任意である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、電動フォークリフトの駆動輪を駆動する駆動装置に利用できる他、一般の自動車や各種産業車両での差動装置、つまり1方向からの入力を2方向の出力として分配する差動装置などにも利用できる。
【符号の説明】
【0055】
10…駆動装置、11…カバー、12…ドライブギヤ、13…ドリブンギヤ、15…プラネットギヤ、16…リングギヤ、17…シャフト、19…ケース、19A…外周部、19B…出力軸支持壁、29…ベアリング、30…ブレーキ装置、31…押圧用可動ディスク、44…ギヤ側潤滑油路、50…油溜室、51,51A…油溜小室、52…補強リブ、53…開口部、56…シャフト側潤滑油路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースおよびカバーで覆われた内部には、外部からの動力によって駆動される歯車装置、および前記歯車装置の出力を被駆動体に伝達する出力軸が収容されているとともに、潤滑油が充填されている駆動装置であって、
前記ケースは、前記歯車装置側に向けて開口した開口部を有するとともに、前記ケースの外周部と前記出力軸を支持する出力軸支持壁とに囲まれた油溜室が設けられている
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動装置において、
前記ケースおよび前記カバーで覆われた内部には、制動力を生じさせるブレーキ装置の押圧用可動ディスクが収容され、
前記油溜室は、前記歯車装置を挟んで前記ブレーキ装置の押圧用可動ディスクとは反対側に設けられている
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の駆動装置において、
前記油溜室は、前記ギヤの回転方向に沿って配置された複数の油溜小室で構成されている
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の駆動装置において、
前記出力軸は、前記出力軸支持壁に配置された一対のベアリングで支持され、
前記油溜室と前記一対のベアリング間とは、前記出力軸支持壁に設けられたシャフト側潤滑油路により連通している
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の駆動装置において、
前記歯車装置としては、前記出力軸に自公転自在に軸支されたプラネットギヤと、前記プラネットギヤと噛み合うリングギヤとを備え、
前記開口部は、前記プラネットギヤとリングギヤとの噛み合い部分に向けて開口している
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の駆動装置において、
前記歯車装置は外部からの動力が伝達されるドライブギヤを備え、
前記ケースおよび前記カバーで覆われた内部には、前記潤滑油を前記ドライブギヤ側に導くギヤ側潤滑油路が設けられている
ことを特徴とする駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−196477(P2011−196477A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64860(P2010−64860)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(000184643)コマツユーティリティ株式会社 (106)
【Fターム(参考)】