説明

高い寸法精度が必要とされている切削工具インサートの製造方法

本発明は、硬い構成要素を形成している粉末とバインダー相を製粉して混合し、粉末混合物から所望の形状の物体を形成し、該形成された物体を焼結し、該焼結された物体を高精度で研磨して、所望の形状及び寸法を有するインサートを形成し、所望により、刃先に丸みを付け、そして対摩耗性非ダイアモンド又は非ダイアモンドに類似するコーティングを該研磨されたインサートに提供することにより、高い寸法精度が必要とされている切削工具インサートを製造する方法に関する。本方法によれば、該コーティング操作前に、該研磨されたインサートは、表面領域のミクロ構造が有意な寸法変化を起こすことなく再構成されるような時間に亘って、不活性雰囲気又は真空又は他の保護的な雰囲気において、バインダー相の固相線を下回って熱処理される。このようにして、工具寿命及び寸法精度が予想外に向上したインサート類が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属切削用途のために高い寸法精度が必要とされている工具の表面及び刃の強度を向上させる方法に関する。通常は、そのようなインサート類は所望の寸法へ研磨される。ねじ切りのためのインサート類が一例であるが、本方法は金属切削用途の種類に限定されない。インサート類を最終形態及び寸法へ研磨した後にそれらを熱処理することにより、工具寿命が予想外に延びた。
【背景技術】
【0002】
今日では、コーティングされた超硬合金又はサーメット工具を使用することによる金属切削は、現在の金属工業において最も一般的な構成要素である。それは、適切な形状の刃先を有する刃先交換式インサートの使用によって、高生産性を維持しながら行われる。ねじ切りインサートの一例が図1に示される。圧縮及び焼結、それに続く高精度研磨、刃部ホーニング、そして最終的な対摩耗性コーティングにより、ねじ山の複雑な形状と耐性への高需要が満たされる。しかしながら、研磨及び刃部ホーニングは、破砕した超硬物の粒、ひび割れ、及び形の崩れたバインダー相について、微視的規模に表面の欠陥を起こすものである。これらの欠陥は、弱い表面密着力、及び金属切削中の刃先が割れる危険性の増加につながる。
【0003】
米国特許第5,068,148号明細書には、炭化タングステン系超硬合金基材及びその上に堆積しているダイアモンドコーティングを含む工具インサートが開示されている。インサートを製造するために、最初に成形体が、炭化タングステン系超硬合金基材を提供するために焼結される。その後に、その基材は、破砕され、次に真空又は非酸化雰囲気において1000℃〜1600℃の温度で熱処理される。その後に、真空蒸着法により、その基材上にダイアモンドコーティングが形成される。
【0004】
米国特許第5,701,578号明細書には、金属バインダーにより接合している硬い粒を含む焼結型基材を提供する工程、該焼結型基材から材料を除去して、研磨されたままの基材を形成する工程、該基材における残留応力を低減する工程、該基材を再焼結する工程、及びその上にダイアモンド層を堆積させる工程を含む、コーティングされたインサートの製造方法が開示されている。
【0005】
米国特許第5,066,553号明細書には、炭化タングステン系超硬合金基材及びその上に形成されたハードコーティングを有する、表面コーティングされた工具インサートが開示されている。このコーティングは1つ以上の層を有してよい。その表面からの深さが2μmの表面部分における基材中のコバルト含有率は、前記表面からの深さが約100μmの内部におけるものより少なくとも10%の差で低い。それは、下記工程:
従来の手法により炭化タングステン系超硬合金基材を調製する工程、
前記基材を研磨して、前記基材の表面付近の炭化タングステン粒に応力を掛けて、該炭化タングステン粒を部分的に粉砕して、より小さな粒にする工程、
WC−Co共晶温度以上の温度で前記超硬合金を加熱処理して、炭化タングステン粒を再結晶化する工程、及び
化学蒸着(化学気相成長法)により前記基材上にハードコーティングを形成する工程
により形成される。
【0006】
欧州特許第1247879号明細書において、チタンの旋削のための未コーティングインサートが提供されている。従来技術と比べて、主要な領域の長さを減らしたインサート類を使用することにより、工具寿命及び生産性が予想外に向上した。最終形状及び寸法への研磨後に、インサートを追加の加熱処理に供することにより、前記の良好な結果はさらに向上した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、性能を向上させた、高い寸法精度が必要とされているインサートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
研磨処理後にインサート類がバインダーの固相線を下回る熱処理に供されるならば、工具寿命が予想外に延び、そして有意な形態歪みが起こらないことが分かった。
【0009】
したがって、本発明は:
硬い構成要素を形成している粉末とバインダー相を製粉することにより混合し、
該粉末混合物から所望の形状の物体を形成し、
該形成された物体を焼結し、
該焼結された物体を高精度で研磨して、所望の形状及び寸法を有するインサートを形成し、
所望により、刃先に丸みを付け、
表面領域のミクロ構造が有意な寸法変化を起こすことなく再構成されるような時間に亘って、不活性雰囲気又は真空又は他の保護的な雰囲気において、バインダー相の固相線を下回って、好ましくは1050〜1250℃の温度で、最も好ましくは1150℃〜1250℃の温度で、そして好ましくは、30〜120分間、最も好ましくは60〜90分間に亘って、該研磨されたインサートを熱処理し、
非ダイアモンド又は非ダイアモンドに類似する対摩耗性コーティングを該研磨及び熱処理されたインサートに提供することによって、
硬い構成要素及びバインダー相を含む、高い寸法精度が必要とされている超硬合金又はサーメットインサート(例えば、ねじ切りインサートなど)を製造する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】高い寸法安定性を要するねじ切りのためのインサートの一例を示す図である。
【図2】研磨され、加熱処理され、かつコーティングされた本発明によるインサートの断面のSEM像である。
【図3】研磨され、かつコーティングされた先行技術によるインサートの断面のSEM像である。
【図4】研磨され、加熱処理され、かつコーティングされた本発明によるインサートの表面上におけるロックウェル押し込み試験の影響を示すSEM像である。
【図5】研磨され、かつコーティングされた先行技術によるインサートの表面上におけるロックウェル押し込み試験の影響を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の方法は、超硬合金又はサーメットの全種類に提供されることができる。特にそれは、3〜15質量%、好ましくは5〜13質量%のCo、及び25質量%以下、好ましくは0〜15質量%の、周期表のIVb族、Vb族及びVIb族に由来する元素(好ましくは、Ti、Nb及び/又はTa)から形成されている1つ以上の立方晶炭化物から成る組成を有する超硬合金に有用である。
【0012】
対摩耗性コーティングは、当技術分野で知られているような物理気相成長法(PVD)又は化学気相成長法(CVD)のいずれかで、好ましくはアーク蒸発PVD技術により、堆積させられることができる。一実施形態では、そのコーティングは、1〜5μmの厚さを有する(Ti1−xAl)N{式中、0.4<x<0.7}の少なくとも1つの層を含む。別の実施形態では、そのコーティングは、1〜15μmの厚さを有するAl(好ましくは、そのα相)の少なくとも1つの層を含む。好ましい実施形態では、そのコーティングは、TiCの形態の立方晶炭窒化物の層、及びAlの形態の金属酸化物の層を含み、2〜25μmの全コーティング厚を有する。
【0013】
本発明によって形成されたインサート類は、高い寸法精度が必要とされている機械加工操作の全種類、好ましくは、ねじ切り操作に有用である。それは、石油・ガスの適用のためにガス密閉パイプにねじ切りを行うという需要の高い操作に特に有用である。
【実施例】
【0014】
例1
基材及びコーティングから成るSeco Tools5−1113型(図1参照)の超硬合金ねじ切りインサートを調製した。製粉、圧縮及び焼結によりその基材を形成した。その組成は、5.9質量%のCo、2.3質量%のNbC、3.6質量%のTaC、2.5質量%のTiC及び残分としてWCであった。平均WC粒径は約1μmであった。このインサートを適切な形状に研磨して、70μmの刃半径まで磨いた。
【0015】
例2
本発明に従って、1000mbar(約1atm)でアルゴン雰囲気において1.4時間に亘って1200℃で、例1のインサートを熱処理した。
【0016】
4.0Paの全圧で反応性N雰囲気におけるTiAlカソードのアーク蒸発を用いて、2μm厚の(Ti0.34Al0.66)N層を堆積させた。堆積中に、そのインサートを−110Vで負にバイアスした。その堆積温度は約400℃であった。図2に、そのインサートの断面のSEM像を示す。
【0017】
例3
本発明に従って、真空下で1時間に亘って1240℃で、例1のインサートを熱処理した。
【0018】
4μmのTi(C,N)+3μmのα−Al層から成るCVDコーティングを堆積させた。堆積温度は、Ti(C,N)の堆積中に約850℃であり、Alの堆積中に1030℃であった。
【0019】
例4
4.0Paの全圧で反応性N雰囲気においてTiAlカソードのアーク蒸発を用いて、2μm厚の(Ti0.34Al0.66)N層を例1のインサート上に堆積させた。堆積中に、そのインサートを−110Vで負にバイアスした。堆積温度は約400℃であった。図3に、そのインサートの断面のSEM像を示す。
【0020】
例5
40mbarでアルゴン雰囲気において1時間に亘って1400℃で、例1のインサートを熱処理した。その熱処理によって、そのインサートは幾何公差から外れた。
【0021】
例6
ロックウェルA押し込み試験により、例2及び4のインサートのコーティングと基材の接着力を決定した。図4には、例2によるインサートに関する結果を示す。図5には、例4によるインサートに関する結果を示す。本発明によるインサートは、基材とコーティングの接着力に優れることが明らかである。
【0022】
例7
下記条件で工具寿命について例2、3及び4のコーティングされたインサートを試験した。例4は従来技術の現状であり、対照品としての役割を果たす。
切削データ:
回転速度:n=380回転/分
切削速度:v=233m/分
送り速度:f=5,080mm/回転
用途: 外部ねじ切り
工具: Seco5−1113

加工対象物:
直径:Φ192,87〜Φ196,40mm
長さ:L=254,50mm
材料:L80−1(API−標準)
硬度:750N/mm
【0023】
結果:
工具寿命基準は、233m/分の切削速度での切削における最大時間(分単位)であり、刀部のチッピング又は破損が失敗の典型的な原因であった。
例2(PVDコーティングされている):平均インサート寿命:(6個のインサートを試験して)31個の部品
例3(CVDコーティングされている):平均インサート寿命:(4個のインサートを試験して)29個の部品
例4(PVDコーティングされている対照品):平均インサート寿命:(6個のインサートを試験して)9個の部品
【0024】
この試験では、本発明によるインサートは、従来技術の現状品と比べて工具寿命を3倍以上にすることができると示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬い構成要素を形成している粉末とバインダー相を製粉することにより混合し、
該粉末混合物から所望の形状の物体を形成し、
該形成された物体を焼結し、
該焼結された物体を高精度で研磨して、所望の形状及び寸法を有するインサートにし、
所望により、刃先に丸みを付け、そして
表面領域のミクロ構造が有意な寸法変化を起こすことなく再構成されるような時間に亘って、不活性雰囲気又は真空又は他の保護的な雰囲気において、バインダー相の固相線を下回って、該研磨されたインサートを熱処理した後に、コーティング操作を行って、対摩耗性非ダイアモンド又は非ダイアモンドに類似するコーティングを該研磨されたインサートに提供することによって、
硬い構成要素及びバインダー相を含む、高い寸法精度が必要とされている超硬合金又はサーメットインサート、好ましくは、ねじ切りインサートを製造する方法。
【請求項2】
1050℃〜1250℃、好ましくは1150℃〜1250℃の温度で、30〜120分間、好ましくは60〜90分間に亘って熱処理することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記超硬合金は、3〜15質量%、好ましくは5〜13質量%のCo、及び25質量%以下、好ましくは0〜15質量%の、周期表のIVb族、Vb族及びVIb族に由来する元素、好ましくはTi、Nb及び/又はTaから形成されている1つ以上の立方晶炭化物から成る組成を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングは、物理気相成長法(PVD)により堆積させられた1〜5μmの厚さを有する(Ti1−xAl)N{式中、0.4<x<0.7}の少なくとも1つの層を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングは、化学気相成長法(CVD)により堆積させられた1〜15μmの厚さを有するAl(好ましくは、そのα相)の少なくとも1つの層を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−511437(P2012−511437A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540660(P2011−540660)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【国際出願番号】PCT/SE2009/051392
【国際公開番号】WO2010/068168
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(591106875)セコ ツールズ アクティエボラーグ (28)
【Fターム(参考)】