説明

高周波増幅回路とこれを有する無線通信装置

【課題】 電源電圧が変動しても効率の低下を緩和することができ、しかも、製造時の歩留まりを向上し得るエンベロープトラッキング法に基づく高周波増幅回路を提供する。
【解決手段】 本発明の高周波増幅回路12aは、マイクロ波帯の高周波の入力信号が入力される半導体増幅素子21と、入力信号の包絡線の変動に追随する電源電圧を半導体増幅素子21に印加する電源回路22と、半導体増幅素子21の出力側に接続された出力整合回路24と、電源電圧が変動しても半導体増幅素子21の効率が最大となるように当該出力整合回路24のインピーダンスを調整するインピーダンス調整部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯の信号増幅に適した高周波増幅回路とこれを有する無線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信で主流となっているWCDMA方式やOFDM方式等において、高周波増幅回路を高効率化する方法としてエンベロープトラッキング法が注目されている。
このエンベロープトラッキング法は、高周波の入力信号の振幅に応じて半導体増幅素子の電源電圧を調整することにより、不要な消費電力を削減して当該増幅素子の電力効率を改善する方法であり、時間と共に信号振幅が大きく変動する入力信号の増幅に対して特に効果的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8は、上記エンベロープトラッキング法の原理を示す概念図であり、図8(a)は通常方式を示し、図8(b)は当該エンベロープトラッキング法を示している。
すなわち、図8(a)に示すように、通常方式の高周波増幅回路では、増幅素子に入力する電源電圧が一定(固定電圧)であるため消費電力も一定であり、入力信号の振幅が小さいときの無駄な電力消費が大きくなり、効率が悪い。
これに対して、図8(b)に示すように、エンベロープトラッキング法の高周波増幅回路では、入力信号の包絡線を検出し、この包絡線に合わせて電源電圧を低下させることで、消費電力を低減して効率を大幅に改善している。
【0004】
高周波増幅回路の効率は、その増幅回路に使用される増幅素子(例えば、MOSFET等のトランジスタ)そのものの効率や、その周辺の回路構成及び動作点等に依存するが、その一方で、増幅素子に対する負荷条件によっても変化する。この増幅素子の効率が最大になる負荷の状態を効率最大負荷インピーダンス(Γemax)という。
一般的な増幅回路では、電源電圧を変化させることを考慮していないので、通常、ある特定の電源電圧に対応したΓemaxを負荷インピーダンスとしている。
【0005】
そして、従来、エンベロープトラッキング法を用いた増幅回路においても、一般的な増幅回路の場合と同様に、電源電圧の変動範囲内のある特定の電源電圧に対応したΓemaxを負荷インピーダンスとしていた。
【特許文献1】特公平6−69002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、一般的に、電源電圧の変動に伴い増幅素子の出力インピーダンスが変化するため、増幅素子のΓemaxも電源電圧とともに変化する。従って、ある特定の電源電圧に対応してΓemaxを固定値に設定する従来のエンベロープトラッキング法を用いた増幅回路では、負荷インピーダンスを一定としているために、電源電圧の変動と共に負荷条件が最大効率条件から外れることになり、その特定の電源電圧以外では効率の低下が必ず起こることになる。
【0007】
また、高周波増幅回路の製造過程では、半導体等よりなる増幅素子や負荷インピーダンスの構成素子の品質のばらつきにより、これら素子の調整がなくては効率の低下が起こり、歩留まりの低下や後工程の調整工数の増加を引き起こしている。
本発明は、このような実情に鑑み、電源電圧が変動しても効率の低下を緩和することができ、しかも、製造時の歩留まりを向上し得るエンベロープトラッキング法に基づく高周波増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エンベロープトラッキング法に基づく高周波増幅回路において、電源電圧の変動に応じて負荷インピーダンスをできるだけ各電源電圧におけるΓemaxに近づくように調整するインピーダンス調整機能を持たせることを骨子とする。
すなわち、本発明の高周波増幅回路は、マイクロ波帯の高周波の入力信号が入力される半導体増幅素子と、前記入力信号の包絡線の変動に追随する電源電圧を前記半導体増幅素子に印加する電源回路と、前記半導体増幅素子の出力側に接続された出力整合回路と、前記電源電圧が変動しても前記半導体増幅素子の効率が最大となるように当該出力整合回路のインピーダンスを調整するインピーダンス調整部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、上記インピーダンス調整部が、電源電圧が変動しても半導体増幅素子の効率が最大となるように当該出力整合回路のインピーダンスを調整するので、入力信号の包絡線に対応する電源電圧の変動が前提となるエンベロープトラッキング法を採用した高周波増幅回路において、その電源電圧の変動に伴う半導体増幅素子の効率低下を緩和することができる。
また、本発明によれば、インピーダンス調整部によって出力整合回路の負荷インピーダンスを調整できるので、半導体増幅素子を始めとする構成素子のばらつきによるΓemaxのばらつきを吸収させることもでき、このため、高周波増幅回路の製造時の歩留まりを向上し得るという利点もある。
【0010】
本発明において、具体的には、前記インピーダンス調整部は、前記出力整合回路を構成する可変容量ダイオードと、前記電源電圧の変動に対応して前記ダイオードの容量を変化させることで前記出力整合回路のインピーダンスを調整する容量制御部とを備えたものとして構成することができる。
また、本発明において、前記インピーダンス調整部は、前記出力整合回路を構成する可変抵抗ダイオードと、前記電源電圧の変動に対応して前記ダイオードの抵抗を変化させることで前記出力整合回路のインピーダンスを調整する抵抗制御部とを備えたものとして構成することもできる。
【0011】
もっとも、半導体増幅素子の出力側に配置される出力整合回路に対して、そのインピーダンス調整のために可変の抵抗成分を挿入すると、その分だけエネルギー損失が大きくなることから、可変の容量成分を挿入する方が好ましい。
従って、出力整合回路でのエネルギー損失をより小さくするという観点からは、上記二種類のインピーダンス調整部のうち、可変容量ダイオードの容量を制御して出力整合回路の負荷インピーダンスを調整する手段の方が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上の通り、本発明によれば、電源電圧の変動に伴う半導体増幅素子の効率低下を緩和することができるので、エンベロープトラッキング法を採用した高周波増幅回路の効率低下を抑制することができる。
また、本発明によれば、半導体増幅素子等の構成素子のばらつきによるΓemaxのばらつきを吸収することで、高周波増幅回路の製造時の歩留まりを向上し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の高周波増幅回路を有する無線通信装置を採用した無線通信システムを示している。
この無線通信システムは、無線通信装置としての無線基地局1aと、同じく無線通信装置としての端末装置1b,1c,1dとを備えている。これらの無線通信装置1a〜1dは、WCDMA方式又はOFDM方式でマイクロ波帯の周波数を使用して無線通信するものであり、その無線信号を受信するための受信機11と、無線信号を送信するための送信機12と、送受信信号の処理を行う処理部13とをそれぞれ備えている。
【0014】
上記受信機11は、線形変調信号を受信するものであり、その変調信号を受信して増幅するために低雑音増幅回路11aを有している。また、送信機12は、線形変調信号を送信するものであり、その変調信号を電力増幅する高周波増幅回路12aを有している。
図2は、本発明の一実施形態に係る高周波増幅回路12aの回路構成を示している。
図2に示すように、この高周波増幅回路12aは、前記エンベロープトラッキング法によって消費電力を低減するものであり、半導体増幅素子21と、入力信号の包絡線の変動に追随する電源電圧を半導体増幅素子21に印加する電源回路22と、半導体増幅素子21の入力側に接続された入力整合回路23と、半導体増幅素子21の出力側に接続された出力整合回路24とから主構成されている。
【0015】
上記半導体増幅素子21は、ソース接地の電界効果トランジスタ(FET)よりなる。この増幅素子21のゲートは、入力整合回路23を介して当該増幅回路12aの信号入力端子25に繋がっていて、この入力端子25にはマイクロ波帯の高周波の入力信号が入力される。また、上記入力整合回路23は、半導体増幅素子21の入力側と信号源との間のインピーダンス整合を行う。
なお、この入力整合回路23と半導体増幅素子21のゲートの間には、直流阻止用のコンデンサ26が挿入されている。また、このコンデンサ26と半導体増幅素子21のゲートの間には、当該素子21にゲートバイアス電圧Vgを印加する高周波阻止用のインダクタ26aが設けられている。
【0016】
また、半導体増幅素子21のドレインには、当該素子21に電源供給するための前記電源回路22が接続されており、この電源回路22は、包絡線検波器27と、直流増幅器28と、電圧制御回路29とから構成されている。
このうち、包絡線検波器27は、高周波の入力信号の時系列における包絡線のみを取り出す回路である。この包絡線検波器27の回路構成としては、入力信号をダイオードに通して、その出力を抵抗器とコンデンサの並列回路で受けるものである。抵抗器とコンデンサの時定数を適切に設計すると、その出力波形は入力波形の包絡線に近い波形となる。
【0017】
包絡線検波器27が出力する包絡線信号は、直流増幅器28によって増幅されて電圧制御回路29に入力される。この電圧制御回路29は、電源入力端子30の電源電圧を包絡線信号に応じて変化させ半導体増幅素子21のドレインに印加するもので、電源電圧をトランジスタやダイオードを用いて包絡線に応じて変調する回路構成や、スイッチングレギュレータの周波数を可変にして出力電圧を可変にした電圧可変の直流・直流変換回路等より構成することができる。
なお、この電圧制御回路29と半導体増幅素子21のドレインの間には、高周波阻止用のチョークコイル31が挿入されている。
【0018】
前記出力整合回路24は、半導体増幅素子21のドレインと負荷が接続される出力端子32との間に設けられており、半導体増幅素子21の出力側における負荷インピーダンスの整合を行うものである。
本実施形態の出力整合回路24は、接地コイル33と、このコイル33に直列接続されたコンデンサ34と、このコンデンサ34に並列接続された可変容量ダイオード(バリキャップ)35とから構成されており、当該出力制御回路24には、可変容量ダイオード35の容量を変動させる容量制御部として機能する制御器36が接続されている。
【0019】
なお、この出力整合回路24と制御器36の間には、高周波阻止用のチョークコイル37が挿入され、同整合回路24と半導体増幅素子21のドレインのとの間、及び、同整合回路24と出力端子32との間には、直流阻止用のコンデンサ38が挿入されている。
上記制御器36は、例えば図3に示すように、オペアンプ39を利用した反転増幅回路によって構成することができる。この制御器36の入力端子には、前記電圧制御回路29の出力電圧が印加され、この制御器36の出力端子は出力整合回路24の可変容量ダイオード35に繋がっており、当該制御器36は、包絡線の変動に追随する電源電圧に比例した制御電圧を生成する
【0020】
このため、制御器36が生成した制御電圧を出力整合回路24の可変容量ダイオード35に印加して当該ダイオード35の容量を変化させることにより、出力整合回路24のインピーダンスを変化させ増幅素子の負荷インピーダンスを電源電圧の変動に対応した効率最大負荷インピーダンス(Γemax)に設定できるようになっている。
このように、本実施形態の高周波増幅回路12aでは、上記制御器36と、出力整合回路24の構成要素である可変容量ダイオード35とから、電源電圧が変動しても増幅素子の負荷インピーダンスを効率最大となるように当該出力整合回路24のインピーダンスを調整するインピーダンス調整部が構成されている。
【0021】
ここで、例えば、電圧制御回路29の電源電圧の変動範囲をV2≦V≦V1とすると、図2の出力整合回路24の場合、その負荷インピーダンスは図7のスミスチャートにおいて矢印Aのように変動する。
【0022】
なお、本実施形態では、制御電圧の傾きやオフセットを調整する簡単な回路の制御器36(図3)を採用しているが、より正確に出力整合回路24の可変容量ダイオード35に制御電圧を付与する手段としては、デジタル信号処理で最適な制御信号を発生させる手段を採用し得る。
【0023】
図4〜図6は、本発明の他の実施形態に係る高周波増幅回路12aを示している。
このうち、図4の高周波増幅回路12aは、可変容量ダイオード35を対地間に接続した点で図2の場合と相違しており、その他の構成は図2の場合と同様である。この図4の高周波増幅回路12aにおいて、可変容量ダイオード35の容量を変化させると、出力整合回路24の負荷インピーダンスは図7のスミスチャートの矢印Bのように変動する。
【0024】
また、図5及び図6の高周波増幅回路12aは、可変容量ダイオード35ではなく、可変抵抗ダイオード40を使用した点で図2の場合と相違している。この可変抵抗ダイオード35は、前記制御器36からの制御電圧によって抵抗が変化するものであり、この抵抗の変化によって出力整合回路24の負荷インピーダンスを可変にしている。
もっとも、図5や図6のように、半導体増幅素子21の出力側に配置される出力整合回路24に対し、そのインピーダンス調整のために可変抵抗ダイオード40を挿入すると、その分だけエネルギー損失が大きくなる。このため、出力整合回路24の負荷インピーダンスを可変にする手段としては、図2や図4のように、可変容量ダイオード35を採用する方が好ましい。
【0025】
なお、図5の高周波増幅回路12aにおいて、可変抵抗ダイオード40の抵抗を変化させると、出力整合回路24の負荷インピーダンスは図7のスミスチャートの矢印Cのように変動する。
また、図6の高周波増幅回路12aにおいて、可変抵抗ダイオード40の抵抗を変化させると、出力整合回路24の負荷インピーダンスは図7のスミスチャートの矢印Dのように変動する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】無線通信システムの全体構成図である。
【図2】高周波増幅回路の一実施形態を示す回路構成図である。
【図3】制御器の一例を示す回路構成図である。
【図4】高周波増幅回路の他の実施形態を示す回路構成図である。
【図5】高周波増幅回路の他の実施形態を示す回路構成図である。
【図6】高周波増幅回路の他の実施形態を示す回路構成図である。
【図7】効率最大負荷インピーダンスの変化を示すスミスチャートである。
【図8】エンベロープトラッキング法の原理を示す概念図である。
【符号の説明】
【0027】
1a:無線基地局(無線通信装置)、1b:端末装置(無線通信装置)、
1c:端末装置(無線通信装置)、1d:端末装置(無線通信装置)、
11:受信機、11a:低雑音増幅回路、12:送信機、12a:高周波増幅回路、
21:半導体増幅素子、22:電源回路、23:入力整合回路、24:出力整合回路、
25:信号入力端子、26:コンデンサ(直流阻止用)、27:包絡線検波器、
28:直流増幅器、29:電圧制御回路、30:電源入力端子、
31:チョークコイル(高周波阻止用)、32:出力端子、33:接地コイル、
34:コンデンサ、35:可変容量ダイオード、
36:制御器(容量制御部、抵抗制御部)、37:チョークコイル(高周波阻止用)、
38:コンデンサ(直流阻止用)、39:オペアンプ、40:可変抵抗ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波帯の高周波の入力信号が入力される半導体増幅素子と、
前記入力信号の包絡線の変動に追随する電源電圧を前記半導体増幅素子に印加する電源回路と、
前記半導体増幅素子の出力側に接続された出力整合回路と、
前記電源電圧が変動しても前記半導体増幅素子の効率が最大となるように当該出力整合回路のインピーダンスを調整するインピーダンス調整部と
を備えていることを特徴とする高周波増幅回路。
【請求項2】
前記インピーダンス調整部は、前記出力整合回路を構成する可変容量ダイオードと、前記電源電圧の変動に対応して前記ダイオードの容量を変化させることで前記出力整合回路のインピーダンスを調整する容量制御部とを備えている請求項1に記載の高周波増幅回路。
【請求項3】
前記インピーダンス調整部は、前記出力整合回路を構成する可変抵抗ダイオードと、前記電源電圧の変動に対応して前記ダイオードの抵抗を変化させることで前記出力整合回路のインピーダンスを調整する抵抗制御部とを備えている請求項1に記載の高周波増幅回路。
【請求項4】
無線信号を受信するための受信機と、無線信号を送信するための送信機であって請求項1〜3のいずれか1項に記載の高周波増幅回路を内蔵した送信機とを備えている無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−288977(P2008−288977A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132997(P2007−132997)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】