説明

高減衰積層体用ゴム組成物および高減衰積層体

【課題】減衰性が高く、せん断弾性率にも優れる高減衰積層体を実現することができる、加工性に優れた高減衰積層体用ゴム組成物、およびこれを用いる高減衰積層体の提供。
【解決手段】架橋可能なゴム成分100質量部と、シラノール基を有する無機充填剤10〜60質量部と、ポリ乳酸系樹脂0.1〜30質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物、および当該高減衰積層体用ゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高減衰積層体用ゴム組成物および高減衰積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、振動エネルギーの吸収装置として、防振装置、除振装置、免震装置等が急速に普及しつつある。そして、このような装置においては、振動エネルギー減衰性能を有するゴム組成物が使用されている。
【0003】
例えば、橋梁の支承やビルの免震装置に用いられる免震用積層ゴムには、減衰性(振動をより多くの熱に変換して振動エネルギーを減衰させる)が高いことや、所望のせん断弾性率が発現することが要求されている。
【0004】
このような免震用積層ゴムに用いられるゴム組成物として、本出願人は、特許文献1において「ジエン系ゴム100質量部と、カーボンブラック40〜75質量部と、シリカ5〜35質量部と、無機充填剤5〜55質量部と、石油樹脂5〜50質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物。」を提案している。
【0005】
また、溶液重合により得られたゴム成分100重量部に対し、シリカ5〜100重量部、シリカ重量に対して2〜20重量%のシランカップリング剤、および水または酸性水溶液を配合して混練りすることを特徴とするゴム組成物の製造方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−143849号公報
【特許文献2】特開2000−290431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者は、上記特許文献1に記載の高減衰積層体用ゴム組成物について、更なる減衰性の向上を達成すべくカーボンブラックやシリカ等の配合量を検討したところ、減衰性を向上させることができても、未加硫時の粘度が上昇して加工性が劣ったり、加硫後のせん断弾性率が低下したりする場合があることが明らかとなった。
また、ゴム成分に対してシラノール基を有する無機充填剤を含み、ポリ乳酸系樹脂を含まないゴム組成物を貯蔵し、ゴム組成物が経時的に水分を吸収した場合、貯蔵後のゴム組成物は貯蔵前のゴム組成物に比較して加硫時間は短縮されるものの減衰性が低くなることを本願発明者らは見出した。
そして、本発明者らはこれまでに、架橋可能なゴム成分、ポリ乳酸系樹脂およびシラノール基を有する充填剤を含むゴム組成物が、高減衰ゴムとして有用であり、上記ゴム組成物を加硫しその後さらに加熱を続ける場合、加硫時にトルクが上昇し、加硫後の加熱時にトルクがさらに上昇すること(トルクが加硫時と加熱時に2段階で上昇する。)を見出した。
添付の図面を用いてこれを説明する。図5は、JIS K6300−2:2001「振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に準拠し、レオメータとしてロータレス加硫試験機を使用し、所定の試験温度(150℃)において、得られるトルクを縦軸とし、加硫時間を横軸にして得た加硫曲線の概略を示すグラフである。図5において、ゴム成分に対してシラノール基を有する充填剤を含み、ポリ乳酸系樹脂を含まないゴム組成物(ゴム組成物1)は、トルクの上昇が1段階しかない点線の加硫曲線を示す。これに対して、架橋可能なゴム成分、ポリ乳酸およびシラノール基を有する充填剤を含むゴム組成物(ゴム組成物2)を加硫しその後さらに加熱を続ける場合は、トルクが加硫時と加熱時に2段階で上昇する破線の加硫曲線を示す。
さらに、本発明者らは2段階でトルクが上昇する加硫曲線(破線)において、加硫時のトルクの上昇の際はtanδの上昇はない一方、加熱時のトルクの上昇の際はtanδが急上昇することを確認した。
そこで、本発明は、減衰性が高く、せん断弾性率にも優れる高減衰積層体を実現することができる、加工性に優れた高減衰積層体用ゴム組成物およびその製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、ゴム成分に対して、ポリ乳酸系樹脂、シラノール基を有する無機充填剤を含んだ高減衰材料用のゴム組成物を加硫する際、加硫時間を大幅に短縮させ、減衰性を低下させない高減衰積層体用ゴム組成物およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ゴム成分に対して、シラノール基を有する無機充填剤とポリ乳酸系樹脂とを特定量配合したゴム組成物を用いることにより、加工性に優れ、また、減衰性が高く、せん断弾性率に優れる高減衰積層体が得られることを知見し、本発明を完成させた。
また、本願発明者らは、ゴム成分に対して、シラノール基を有する無機充填剤とポリ乳酸系樹脂とを特定量配合したゴム組成物が適切な量の水を含有することによって、加硫時間を大幅に短縮しながら、減衰性がさらに優れたものとなることを知見して本発明を完成させた。
すなわち、図5は、ゴム成分に対して、シラノール基を有する無機充填剤とポリ乳酸系樹脂とを特定量配合し、さらに適切な量の水を含むゴム組成物(ゴム組成物3、図5における実線の加硫曲線)が、ゴム成分に対してシラノール基を有する無機充填剤を含み、ポリ乳酸系樹脂を含まないゴム組成物1(図5におけるトルクの上昇が1段階しかない点線の加硫曲線)よりトルクが高くなり、架橋可能なゴム成分、ポリ乳酸およびシラノール基を有する充填剤を含むゴム組成物2を加硫しその後さらに加熱を続ける場合(図5におけるトルクが加硫時と加熱時に2段階で上昇する破線の加硫曲線)より生産性に優れることを示す。
即ち、本発明は、以下の1〜16を提供する。
【0009】
1. 架橋可能なゴム成分100質量部と、シラノール基を有する無機充填剤10〜150質量部と、ポリ乳酸系樹脂0.1〜30質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物。
2. 前記ゴム成分100質量部に対して、更に、石油樹脂を5〜50質量部含有する上記1に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
3. さらに、金属化合物を含有する上記1または2に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
4. 前記金属化合物の量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1〜10質量部である上記3に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
5. 前記ゴム成分100質量部に対して、更に、前記シラノール基を有する無機充填剤以外の無機充填剤を5〜55質量部含有する上記1〜4のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
6. 前記ゴム成分が、ジエン系ゴムである上記1〜5のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
7. 前記ゴム成分が、天然ゴムとビニル−シスブタジエンゴムとを含有する上記1〜6のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
8. 前記ゴム成分が、前記ビニル−シスブタジエンゴムを10質量%以上含有する上記7に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
9. 前記ポリ乳酸系樹脂の融点が、150℃以下である上記1〜8のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
10. 前記ポリ乳酸系樹脂の数平均分子量が、1000〜10000である上記1〜9のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
11. 前記シラノール基を有する無機充填剤と前記ポリ乳酸系樹脂との質量比(無機充填剤/ポリ乳酸系樹脂)が、1/1〜10/1である上記1〜10のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
12. 前記シラノール基を有する無機充填剤および前記ポリ乳酸系樹脂が、これらを予め混合して得られる無機充填剤/ポリ乳酸マスターバッチとして含有する上記1〜11のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
13. 前記シラノール基を有する無機充填剤および前記ポリ乳酸系樹脂が、これらを予め溶媒中で混合した後に、前記溶媒を除去し、乾燥して得られるポリ乳酸表面処理無機充填剤として含有する上記1〜11のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
14. 水分を含有し、架橋前における当該高減衰積層体用ゴム組成物中の水分率X(質量%)が下記式(1)を満たすものである上記1〜13のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
{(c/5b)/(高減衰積層体用ゴム組成物の全体量)}×100≦X≦3 (1)
(式中、c/5bは当該高減衰積層体用ゴム組成物に含まれる水分の近似値を示し、cは前記シラノール基を有する無機充填剤の量であり、bは前記ポリ乳酸系樹脂の量である。)
15. 加硫された上記1〜14のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
16. 上記1〜15のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体。
【0010】
また、本発明は以下の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法を提供する。
17. 前記ゴム成分100質量部と、前記シラノール基を有する無機充填剤10〜150質量部と、前記ポリ乳酸系樹脂0.1〜30質量部とを含有する未加硫ゴム組成物を混練りすることによって得られる上記1〜14のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
18. 前記未加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、更に、前記石油樹脂を5〜50質量部含有する上記17に記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
19. 前記未加硫ゴム組成物は、さらに、金属化合物を含有する上記17または18に記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
20. 前記金属化合物の量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1〜10質量部である上記19に記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
21. 前記未加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、更に、前記シラノール基を有する無機充填剤以外の無機充填剤を5〜55質量部含有する上記17〜20のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
22. 前記シラノール基を有する無機充填剤と前記ポリ乳酸系樹脂との質量比(無機充填剤/ポリ乳酸系樹脂)が、1/1〜10/1である上記17〜21のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
23. 前記シラノール基を有する無機充填剤および前記ポリ乳酸系樹脂は、これらを予め混合して得られる無機充填剤/ポリ乳酸マスターバッチとして配合される上記17〜22のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
24. 前記シラノール基を有する無機充填剤および前記ポリ乳酸系樹脂は、これらを予め溶媒中で混合した後に、前記溶媒を除去し、乾燥して得られるポリ乳酸表面処理無機充填剤として配合される上記17〜22のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
25. 前記未加硫ゴム組成物は、水分を含有し、架橋前における当該高減衰積層体用ゴム組成物中の水分率X(質量%)が下記式(1)を満たすものである上記16〜24のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
{(c/5b)/(高減衰積層体用ゴム組成物の全体量)}×100≦X≦3 (1)
(式中、c/5bは当該高減衰積層体用ゴム組成物に含まれる水分の近似値を示し、cは前記シラノール基を有する無機充填剤の量であり、bは前記ポリ乳酸系樹脂の量である。)
26. 前記未加硫ゴム組成物に水を添加する上記25のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
27. 上記1〜14のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物または上記17〜26のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法によって得られる高減衰積層体用ゴム組成物を加硫して得られる上記15に記載の高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
以下に説明するように、本発明によれば、減衰性が高く、せん断弾性率にも優れる高減衰積層体を実現することができる、加工性に優れた高減衰積層体用ゴム組成物を提供することができる。
また、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物が特定量の水分を含有する場合、加硫時間が大幅に短縮されて生産性に優れるだけでなく、減衰性、水平剛性(=せん断弾性率)がさらに優れるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の積層体の実施態様の一例を表す高減衰積層体の断面概略図である。
【図2】図2は、ラップシェア型せん断試験用試料の模式的な側面図である。
【図3】図3は、ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシス曲線の一例を表したグラフである。
【図4】図4は、オートグラフ引張試験時の応力−歪み曲線を示すグラフである。
【図5】図5は、JIS K6300−2:2001「振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に準拠し、レオメータとしてロータレス加硫試験機を使用し、所定の試験温度において、得られるトルクを縦軸とし、加硫時間を横軸にして得た加硫曲線の概略を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の実施例において測定された加硫曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物(以下、単に「本発明のゴム組成物」ともいう。)は、架橋可能なゴム成分100質量部と、シラノール基を有する無機充填剤10〜60質量部と、ポリ乳酸系樹脂0.1〜30質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物である。
次に、本発明のゴム組成物に含有する架橋可能なゴム成分、シラノール基を有する無機充填剤およびポリ乳酸系樹脂について詳述する。
【0014】
<架橋可能なゴム成分>
本発明のゴム組成物に含有するゴム成分は、硫黄化合物や過酸化物による架橋が可能なゴム成分であれば特に限定されず、その具体例としては、ジエン系ゴム、二重結合を有する熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0015】
上記ジエン系ゴムとしては、具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ビニル−シスブタジエンゴム(VCR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。
また、上記二重結合を有する熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、その水素化(水添)物(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)およびスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)等が挙げられる。
これらの架橋可能なゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本発明においては、これらの架橋可能なゴム成分のうち、得られる本発明のゴム組成物の加硫後の引張強さ、切断時伸び等の物性が良好となり、また、本発明のゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる本発明の高減衰積層体(以下、「本発明の積層体」ともいう。)において、ゴム組成物と硬質板(例えば、一般構造用鋼板、冷間圧延鋼板等)との接着性が良好となる理由から、ジエン系ゴムであるのが好ましい。
なかでも、天然ゴムとビニル−シスブタジエンゴムとを含有するジエン系ゴムであるのがより好ましく、ビニル−シスブタジエンゴムを10質量%以上含有するジエン系ゴムであるのが更に好ましい。
【0017】
ここで、ビニル−シスブタジエンゴムとは、C4留分を主成分とする不活性有機溶媒中における、シス−1,4−重合とシンジオタクチック−1,2重合とからなるポリブタジエンゴム複合体である。
ビニル−シスブタジエンゴムとしては、具体的には、例えば、シス1,4−結合含量90%以上のシス−1,4−ポリブタジエンゴム97〜80質量%と、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン3〜20質量%とからなる複合体等が挙げられる。
【0018】
本発明においては、このようなビニル−シスブタジエンゴムとして、例えば、宇部興産社製のUBEPOL−VCR等の市販品を用いることができる。
【0019】
<シラノール基を有する無機充填剤>
本発明のゴム組成物に含有するシラノール基を有する無機充填剤は、表面の少なくとも一部にシラノール基(Si−OH)を有する無機充填剤であれば特に限定されない。
シラノール基を有する無機充填剤としては、例えば、シリカ、クレー、タルク等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
シリカとしては、具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、コロイダルシリカ等を挙げることができる。
また、シリカは、平均凝集粒径が、5〜50μmのものが好ましく、5〜30μmのものがより好ましい。
【0021】
クレーとしては、具体的には、例えば、T−クレー、カオリンクレー、ろう石クレー、セリサイトクレー、焼成クレー、シラン改質クレー等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、上記シラノール基を有する無機充填剤の含有量は、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して10〜150質量部であり、10〜60質量部であるのが好ましく、15〜50質量部であるのがさらに好ましく、20〜40質量部であるのが特に好ましい。
【0023】
<ポリ乳酸系樹脂>
本発明のゴム組成物に含有するポリ乳酸系樹脂は、乳酸の単独重合体および/または乳酸の共重合体である。
ここで、乳酸の単独重合体は、ポリ乳酸である。
また、乳酸の共重合体は、乳酸以外のヒドロキシ酸、ラクトンおよび乳酸と共重合可能なジエン系化合物からなる群から選択される1種のモノマーと、乳酸との共重合体である。
【0024】
乳酸以外のヒドロキシ酸としては、具体的には、例えば、ヒドロキシ酢酸(グリコール酸)、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、クエン酸、リシノール酸、シキミ酸、サリチル酸、クマル酸等が挙げられる。
ラクトンとしては、具体的には、例えば、ε−カプロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、ε−メチル−ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン等が例示される。
乳酸と共重合可能なジエン系化合物としては、具体的には、例えば、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。
また、これらと乳酸との共重合体は、乳酸が主成分であれば、ブロック共重合体、ランダムブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト重合体のいずれでもよいが、ブロック共重合体であるのが好ましい。
【0025】
本発明においては、このようなポリ乳酸系樹脂のうち、得られる本発明のゴム組成物の加硫後の引張強さ、切断時伸び等の物性が良好となる理由から、融点が150℃以下であるのが好ましく、135℃以下であるのがより好ましい。
また、同様の理由から、数平均分子量が1000〜10000であるのが好ましく、2000〜8000であるのがより好ましい。
ここで、融点は、示差走査熱量測定(DSC−Differential Scanning Calorimetry)により、昇温速度10℃/minで測定した値である。
また、数平均分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(Gel permeation chromatography(GPC))により測定した数平均分子量(ポリスチレン換算)であり、測定にはテトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルムを溶媒として用いるのが好ましい。
【0026】
また、本発明においては、上記ポリ乳酸系樹脂の含有量は、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して0.1〜30質量部であり、1〜20質量部であるのがより好ましく、3〜15質量部であるのが更に好ましい。
【0027】
更に、本発明においては、このようなポリ乳酸系樹脂として、例えば、三井化学社製のLACEA H−440(融点:155℃、数平均分子量:78000、重量平均分子量:150000)、島津社製のラクティ#1012(融点:170℃、数平均分子量:180000)等の市販品を用いることができる。
【0028】
本発明においては、上述したシラノール基を有する無機充填剤およびポリ乳酸系樹脂を上述した含有量の範囲内で含有することにより、得られる本発明のゴム組成物の加工性に優れ、また、本発明の積層体の減衰性が高く、せん断弾性率が良好となる。
これは、詳細なメカニズムは不明であるが、シラノール基を有する無機充填剤がシロキサン結合による架橋を形成するとともに、残存するシラノール基やシロキサン結合とポリ乳酸系樹脂のエステル結合との相互作用により、架橋した充填剤の周囲にポリ乳酸系樹脂が集まり結晶化するためであると考えられる。
また、これは、後述する比較例2〜4に示す結果からも明らかなように、比較例1に対してカーボンブラック、シリカ、石油樹脂の含有量を調整しても得られない極めて優れた効果である。
【0029】
また、本発明においては、得られる本発明のゴム組成物の加工性がより良好となり、また、本発明の積層体の減衰性がより高く、せん断弾性率がより良好となる理由から、上述したシラノール基を有する無機充填剤とポリ乳酸系樹脂との質量比(無機充填剤/ポリ乳酸系樹脂)が、1/1〜10/1であるのが好ましく、8/1〜4/1であるのがより好ましい。
【0030】
更に、本発明においては、上述したポリ乳酸系樹脂を上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して10質量部程度以上含有させる場合、得られる本発明のゴム組成物の加硫後の切断時伸びや引裂強さの低下を抑制できる理由から、上述したシラノール基を有する無機充填剤およびポリ乳酸系樹脂は、これらを予め混合して得られる無機充填剤/ポリ乳酸マスターバッチとして含有するのが好ましい。
ここで、上記無機充填剤/ポリ乳酸マスターバッチの製造方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、上述したシラノール基を有する無機充填剤とポリ乳酸系樹脂とを混合した後にペレタイザーでペレット化する方法等が挙げられる。
また、同様の理由から、上述したシラノール基を有する無機充填剤およびポリ乳酸系樹脂は、これらを予め溶媒(例えば、トルエン、アセトン、クロロホルム等)中で混合した後に、溶媒を除去し、乾燥して得られるポリ乳酸表面処理無機充填剤として含有するのが好ましい。
【0031】
<石油樹脂>
本発明のゴム組成物は、加硫後の引張強さや切断時伸び等の物性を良好とし、また、本発明の積層体の減衰性をより高くする観点から、石油樹脂を含有するのが好ましい。
石油樹脂としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体等を使用することができる。
【0032】
C5系の脂肪族不飽和炭化水素としては、具体的には、例えば、ナフサの熱分解により得られるC5留分中に含まれる、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンのようなオレフィン系炭化水素;2−メチル−1,3−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエンのようなジオレフィン系炭化水素;等が挙げられる。
これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0033】
C9系の芳香族不飽和炭化水素としては、具体的には、例えば、ナフサの熱分解により得られるC9留分中に含まれる、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエンのようなビニル置換芳香族炭化水素等が挙げられる。
これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC9系の芳香族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC9系の芳香族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0034】
また、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、該共重合体の軟化点が高くなる点で、C9系の芳香族不飽和炭化水素ユニットが60モル%以上であるものが好ましく、90モル%以上であるものがより好ましい。
C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、適当な触媒の存在下で、共重合可能である。
【0035】
上記石油樹脂は、上述した架橋可能なゴム成分(特に、ジエン系ゴム)の物性に対し、その分子量および二重結合の反応性が影響を与えるので、軟化点(JIS K2207)が100℃以上のものが好ましく、120℃以上のものがより好ましい。
【0036】
本発明においては、所望により石油樹脂を含有する場合の含有量は、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、5〜50質量部であるのが好ましく、10〜45質量部であるのがより好ましい。
【0037】
<無機充填剤>
本発明のゴム組成物は、本発明の積層体の減衰性をより高く、せん断弾性率をより良好とする観点から、上述したシラノール基を有する無機充填剤以外の無機充填剤を含有するのが好ましい。
このような無機充填剤としては、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、石英とカオリナイトとの凝集体、けいそう土等が挙げられる。
【0038】
本発明においては、これらの無機充填剤のうち、減衰性、および、長期せん断変形に対する安定性を特に高く保つことができるという理由から、石英とカオリナイトとの凝集体であるのが好ましい。
【0039】
本発明においては、所望により無機充填剤を含有する場合の含有量は、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、5〜55質量部であるのが好ましく、10〜50質量部であるのがより好ましく、15〜40質量部であるのが更に好ましい。
【0040】
また、本発明においては、シラノール基を有する無機充填剤とシラノール基を有する無機充填剤以外の無機充填剤との合計量は、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、20〜75質量部であるのが好ましく、30〜65質量部がより好ましい。合計量がこのような範囲である場合、減衰性がより高くなり、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率がより安定なものとなる、バランスの優れた高減衰積層体用ゴム組成物が得られる。
【0041】
そして、シラノール基を有する無機充填剤とシラノール基を有する無機充填剤以外の無機充填剤との質量比は、1/1〜1/2.5であるのが好ましく、1/1〜1/2.0であるのがより好ましい。質量比がこの範囲の場合、良好な加工性が得られる。
【0042】
<カーボンブラック>
本発明のゴム組成物は、加硫後の引張強さや切断時伸び等の物性を良好とし、本発明の積層体の減衰性をより高く、せん断弾性率をより良好とする観点から、カーボンブラックを含有するのが好ましい。
【0043】
本発明においては、CTAB吸着比表面積が100m2/g以上のカーボンブラックを用いるのが好ましく、110〜370m2/gのカーボンブラックを用いるのがより好ましい。
CTAB吸着比表面積が100m2/g以上の範囲であると、得られる本発明の積層体の減衰性をより高く維持することができる。
ここで、CTAB吸着比表面積は、カーボンブラックがゴム分子との吸着に利用できる表面積を、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)の吸着により測定した値である。
このようなカーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF、HAFを挙げることができる。なお、CATB吸着比表面積は、ASTM D3765−80に記載の方法により測定することができる。
【0044】
また、本発明においては、所望によりカーボンブラックを含有する場合の含有量は、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、40〜75質量部であるのが好ましく、50〜75質量部であるのがより好ましい。
【0045】
<金属化合物>
本発明のゴム組成物は、上述したポリ乳酸系樹脂の分解を促進し、ポリ乳酸系樹脂とシラノール基を有する無機充填剤とが相互作用する部位を増加させる観点から、金属化合物を含有するのが好ましい。
上記金属化合としては、例えば、亜鉛化合物、アルミニウム化合物、銅化合物等が挙げられる。
これらのうち、亜鉛化合物であるのが好ましく、具体的には、酸化亜鉛、有機リン酸亜鉛、脂肪酸亜鉛であるのがより好ましい。なかでも、酸化亜鉛であるのが更に好ましい。
【0046】
本発明においては、所望により金属化合物を含有する場合の含有量は、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましく、0.1〜3質量部であるのがより好ましい。
【0047】
<シランカップリング剤>
本発明のゴム組成物は、得られる本発明のゴム組成物の加硫後の引張強さ、切断時伸び等の物性を向上させる観点から、シランカップリング剤を含有するのが好ましい。
上記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド、ビス−[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]ジスルフィド、メルカプトプロピル−トリメトキシシラン、メルカプトプロピル−トリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明においては、所望によりシランカップリング剤を含有する場合の含有量は、上述したシラノール基を有する無機充填剤の含有量の0.1〜10質量%であるのが好ましく、1〜8質量%であるのがより好ましい。
【0049】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物はさらに水分を含有するのが、加硫時間が大幅に短縮されて生産性に優れるだけでなく、減衰性、水平剛性(=せん断弾性率)がさらに優れるものとなるため好ましい。
【0050】
さらに、架橋前における高減衰積層体用ゴム組成物(未加硫のゴム組成物)中の水分率X(質量%)が下記式(1)を満たすものである場合、加硫時間が大幅に短縮されて生産性に優れるだけでなく、減衰性、水平剛性(=せん断弾性率)がさらに優れるものとなるため好ましい。
{(c/5b)/(高減衰積層体用ゴム組成物の全体量)}×100≦X≦3 (1)
(式中、c/5bは本発明の高減衰積層体用ゴム組成物に含まれる水分の近似値を示し、cは前記シラノール基を有する無機充填剤の量であり、bは前記ポリ乳酸系樹脂の量である。)
上記式(1)においてc/5bは本発明の高減衰積層体用ゴム組成物に含まれる水分の近似値を示す。c/5bが本発明の高減衰積層体用ゴム組成物に含まれる水分の近似値を示すことは本願発明者らが実験的に得たものである。c/5bにおいて分子がcであることの理由はシラノール基を有する無機充填剤は水分を多く含み、水分を吸収しやすいため、組成物中の水分の量はシラノール基を有する無機充填剤の量に比例すると考えられるからである。
本願発明者らは、ポリ乳酸系樹脂が加水分解することによって減衰性だけでなく水平剛性がより高くなると推察している。c/5bにおいて分母(5b)にbがあることの理由は、未加硫ゴム組成物中のポリ乳酸系樹脂の量が増えることによって加水分解によって組成物中の水分が消費され組成物中の水分が減少するためと考えられるからである。なおここでbは組成物中の水分に対する相対的な値とし単位を有さないものとする。
【0051】
本発明において架橋可能なゴム成分100質量部に対して、シラノール基を有する無機充填剤10〜150質量部と、ポリ乳酸系樹脂0.1〜30質量部とを含有する場合、水分率Xは式(1)を満足することができる。また、本発明において架橋可能なゴム成分100質量部に対して、シラノール基を有する無機充填剤10〜150質量部と、ポリ乳酸系樹脂0.1〜30質量部とを含有する場合、c/5bをc/25とすることができる。
【0052】
水分率Xの上限値が3質量%である以下の場合、加硫阻害が起こりにくくトルクが低下しにくいため、減衰性により優れ水平剛性に優れるという観点から好ましい。
水分率Xの下限値が[{(c/5b)/(高減衰積層体用ゴム組成物の全体量)}×100]質量%以上である場合、減衰性により優れ水平剛性に優れるという観点から好ましい。
水分率Xは、加硫時間が大幅に短縮されて生産性に優れるだけでなく、減衰性、水平剛性(=せん断弾性率)がさらに優れるという観点から、0.5≦X≦1.5であるのが好ましく、0.6≦X≦1.2であるのがより好ましい。
【0053】
架橋前における高減衰積層体用ゴム組成物(未加硫のゴム組成物)中に含有される水分には、例えば、未加硫ゴム組成物にもともと含有される水分、未加硫ゴム組成物が吸湿した水分、未加硫ゴム組成物に水を添加した場合の水分が挙げられる。
【0054】
<その他の添加剤>
本発明のゴム組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、加硫助剤、難燃剤、耐候剤、耐熱剤等が挙げられる。
加硫剤としては、具体的には、例えば、硫黄;TMTDなどの有機含硫黄化合物;ジクミルペルオキシドなどの有機過酸化物;等が挙げられる。
加硫促進剤としては、具体的には、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)などのスルフェンアミド類;メルカプトベンゾチアゾールなどのチアゾール類;テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム類;ステアリン酸;等が挙げられる。
老化防止剤としては、具体的には、例えば、TMDQなどのケトン・アミン縮合物;DNPDなどのアミン類;スチレン化フェノールなどのモノフェノール類;等が挙げられる。
可塑剤としては、具体的には、例えば、フタル酸誘導体(例えば、DBP、DOP等)、セバシン酸誘導体(例えば、DBS等)のモノエステル類等が挙げられる。
軟化剤としては、具体的には、例えば、パラフィン系オイル(プロセスオイル)等が挙げられる。
【0055】
本発明のゴム組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、前記ゴム成分100質量部と、前記シラノール基を有する無機充填剤10〜150質量部と、前記ポリ乳酸系樹脂0.1〜30質量部とを含有する未加硫ゴム組成物を混練りすることによって得られる高減衰積層体用ゴム組成物の製造方法が挙げられる。また、例えば、上述した各成分を配合した未加硫ゴム組成物を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等)を用いて、混練等により調製できる。
また、上述したように、上述したポリ乳酸系樹脂を上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して10質量部程度以上含有させる場合は、上述した各成分のうち、上述したシラノール基を有する無機充填剤とポリ乳酸系樹脂とを予め混合することで、無機充填剤/ポリ乳酸マスターバッチやポリ乳酸表面処理無機充填剤を調製するのが好ましい。
【0056】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物が水分を含有する場合、例えば、組成物に水を添加する方法、組成物を吸湿させる方法、組成物に水分を多く含む充填剤(例えば、シラノール基を有する無機充填剤)を含有させる方法によって、組成物を製造することができる。
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物が水分を含有する場合、架橋前における当該高減衰積層体用ゴム組成物中の水分率X(質量%)が下記式(1)を満たすものであるのが加硫時間が大幅に短縮されて生産性に優れるだけでなく、減衰性、水平剛性(=せん断弾性率)がさらに優れるものとなるため好ましい。
{(c/5b)/(高減衰積層体用ゴム組成物の全体量)}×100≦X≦3 (1)
(式中、c/5bは当該高減衰積層体用ゴム組成物に含まれる水分の近似値を示し、cは前記シラノール基を有する無機充填剤の量であり、bは前記ポリ乳酸系樹脂の量である。)
式(1)は上記と同義である。
【0057】
本発明のゴム組成物の加硫条件(一次架橋)は特に限定されず、硫黄化合物や過酸化物を用いた従来公知の加硫条件で加硫することができる。
本発明において一次架橋温度は、水平剛性により優れるという観点から、130〜200℃であるのが好ましい。
【0058】
本発明においては、一次架橋した本発明のゴム組成物に対して加熱処理を施すのが好ましい。
加熱処理の温度条件は、一次架橋温度と同程度の温度であれば特に限定されないが、一次架橋の温度より10℃低い温度から10℃高い温度の範囲内であるのが好ましく、一次架橋の温度より5℃低い温度から5℃高い温度の範囲内であるのがより好ましく、一次架橋の温度より2℃低い温度から2℃高い温度の範囲内であるのが更に好ましい。
【0059】
また、加熱処理の時間は、一次架橋前(未加硫)の本発明のゴム組成物を使用してJIS K6300−2:2001に規定されたレオメータのトルクから得られる加硫曲線から求められるT95の0.5〜3倍にするのが好ましく、0.5〜2倍にするのがより好ましい。
ここで、加硫曲線とは、JIS K6300−2:2001「振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に準拠し、レオメータとしてロータレス加硫試験機を使用し、所定の試験温度において、得られるトルクを縦軸とし、加硫時間を横軸にして得られるものである。なお、レオメータの試験温度は上述した一次架橋温度とする。
このような加硫曲線において、トルクが最小値MLから最大値Mに達したことが明らかなときは、加硫開始からトルクが最小値と最大値の幅の95%に達するまで要した加硫時間をT95とする。
また、加硫時間の経過によりトルクが上がり続けて明確な最大値MHを示さないときは、JIS K6300−2:2001において「加硫曲線が上昇し続け加硫曲線の傾きが安定した領域での特定時間における値を最大値とする」と定義されているので、本発明においては、特定時間として挙示されたうちからtc(max)=30分とし、そのときのトルクをMとする。
【0060】
このような加熱処理を行うことにより、本発明の積層体の減衰性をより向上させるとともに、広い温度範囲において優れた制振性を確保することができる。これは、上述したポリ乳酸系樹脂の分解を促進することにより、シラノール基を有する無機充填剤と相互作用し、無機充填剤のネットワークが成長するためであると考えられる。
【0061】
本発明の積層体は、上述した本発明のゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体であり、橋梁の支承やビルの基礎免震等に用いられる構造体である。
【0062】
図1に、本発明の積層体の実施態様の一例を表す高減衰積層体の断面概略図を示す。図1において、符号1は高減衰積層体(免震積層体)を表し、符号2は硬質板を表し、符号3は本発明の高減衰積層体用ゴム組成物を表す。
【0063】
図1に一例として示すように、本発明の高減衰積層体1は、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と、硬質板2(例えば、一般構造用鋼板、冷間圧延鋼板等)とが交互に積層されて構成される。
また、この高減衰積層体1は、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と硬質板2との間に接着層を設けて構成してもよく、また、接着層を設けずに直接加硫して構成してもよい。
【0064】
図1においては、本発明の高減衰積層体1は、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と、硬質板2とを交互に積層させた状態が図示されているが、高減衰積層体用ゴム組成物3は2層以上を積層させた構造としてもよい。
また、図1においては、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3について6層、硬質板2について7層の合計13層の例を示してあるが、本発明の高減衰積層体1の本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と硬質板2との積層数はこれに限定されず、用いられる用途、要求される特性等に応じて、任意に設定できる。
更に、本発明の高減衰構造体1の大きさ、全体の厚さ、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3の層の厚さ、硬質板の厚さ等についても、用いられる用途、要求される特性等に応じて、任意に設定できる。
【0065】
本発明の積層体を製造するには、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物をシート状に成形した後に加硫して、シート状のゴム組成物を得た後、接着剤を含む層を設けて硬質板と交互に積層させてもよいし、また、あらかじめ未加硫の本発明の高減衰積層体用ゴム組成物をシート状に成形し、硬質板と交互に積層した後、加熱して加硫・接着を同時に行ってもよい。
【0066】
本発明の積層体は、上述した本発明のゴム組成物を用いているため、減衰性が高く、せん断弾性率にも優れるという効果を有する。
具体的には、後述するラップシェアせん断試験により測定する減衰性能の指標となる等価減衰定数(Heq)が0.21以上となり、同様に測定するせん断弾性率(Geq)が0.78〜0.96となる。
【0067】
等価減衰定数(Heq)およびせん断弾性率(Geq)は、ラップシェアせん断試験により測定される。
図2は、ラップシェア型せん断試験用試料の模式的な側面図である。図2において、符号4はラップシェア型せん断試験用試料を表し、符号5は圧延した未加硫ゴム組成物を表し、符号6は鋼板を表す。
未加硫ゴム組成物5は、幅25mm×長さ25mm×厚さ5mmのサイズに圧延された、本発明のゴム組成物の未加硫ゴム組成物である。鋼板6は、表面がサンドブラストされ、金属接着剤が塗布された鋼板(幅25mm×長さ100mm×厚さ20mm)である。
ラップシェア型せん断試験用試料4は、未加硫ゴム組成物5と鋼板6とを、図2に示されるように配置(積層)した後に、130℃で120分プレス加硫して得られる。
【0068】
ラップシェアせん断試験は、加振機(サギノミヤ社製)、入力信号発振機、出力信号処理機を用いて、以下に示す条件で行われる。
上記のように作製されたラップシェア型せん断試験用試料を用いて、2軸せん断試験機による変形周波数0.5Hz、測定温度23℃で、175%歪みを10回加えたときの各1回のせん断特性値の平均を求める。
具体的には、上記ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシス曲線が示すXmaxおよびQmaxを用い、等価減衰定数(Heq)およびせん断弾性率(Geq)を下記式(1)、(2)に従って算出する。図3に、ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシス曲線の一例を示す。
【0069】
【数1】

【0070】
式(1)中、△Wはヒステリシスループの面積(図3中、斜線部分)である。
式(2)中、Keqは下記式(3)で表され、Hは高減衰積層体中に積層されるゴム層の合計の厚みを表し、Aはゴム層の断面積である。
【0071】
【数2】

【0072】
高減衰積層体は、振動エネルギーの吸収装置として用いられればその用途、適用条件等は、特に限定されない。中でも、上述の優れた特性を有するため、建築用の振動エネルギーの吸収装置として用いられるのが好ましく、例えば、各種の免震、除振、防振等の振動エネルギーの吸収装置(より具体的には、例えば、道路橋の支承や、橋梁、ビルの基礎免震、戸建免震用途)に好適に用いられる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例に従ってより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0074】
(実施例1〜11、比較例1〜4:ラップシェア型せん断試験用試料の作製)
まず、下記第1表に示す組成(単位は質量部)になるように、各化合物を配合してB型バンバリーミキサーにて5分間混練し、未加硫ゴム組成物を調製した。
次に、調製した未加硫ゴム組成物を幅25mm×長さ25mm×厚さ5mmのサイズに圧延した。
圧延後の未加硫ゴム組成物(図2中の5)と、表面をサンドブラストして金属接着剤を塗布した鋼板(幅25mm×長さ100mm×厚さ20mm、図2中の6)とを、図2のラップシェア型せん断試験用試料4の側面図に示すように配置(積層)した後に、130℃で120分プレス加硫してラップシェア型せん断試験用試料を作製した。
【0075】
<ムーニー粘度>
得られた未加硫のゴム組成物について、JIS K6300−1:2001に準じて、L形ロータを使用し、予熱時間1分、試験温度125℃の条件で、ムーニー粘度を測定した。
【0076】
<引張物性>
得られた未加硫ゴム組成物を148℃のプレス成型機を用い、面圧3.0MPaの圧力下で45分間加硫して、2mm厚の加硫シートを作製した。このシートからJIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251-2004に準拠して行い、引張強さ(TB)[MPa]、切断時伸び(EB)[%]および150%モジュラス(M150)[MPa]を室温にて測定した。結果を第1表に示す。
【0077】
<ラップシェアせん断試験>
上記ラップシェア型せん断試験用試料に対して、加振機(サギノミヤ社製)、入力信号発振機、出力信号処理機を用い、ラップシェアせん断試験を行った。なお、各実施例で使用したラップシェア型せん断試験用試料の数は10個であった。
具体的には、上記ラップシェア型せん断試験用試料に対し、2軸せん断試験機による変形周波数0.5Hz、測定温度23℃で、175%歪みを10回加えたときの各1回のせん断特性値の平均を求めた。
このラップシェアせん断試験によって得られたヒステリシス曲線が示すXmaxおよびQmaxを用い、上記式(1)および(2)に従って平均せん断特性値(Geq、Heq)を求めた。結果を第1表に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
第1表中の各成分は、以下のものを使用した。
・天然ゴム:STR20、SIAM INDO RUBBER社製
・ビニル−シスブタジエンゴム:UBEPOL−VCR412、宇部興産社製
・カーボンブラック:ダイヤブラックI、三菱化学社製
・シリカ:ニップシールVN3、東ソー・シリカ社製
・クレー:SUPREX CLAY、ケンタッキーテネシークレイカンパニー社製
・石油樹脂:ハイレジン#120S(軟化点120℃、東邦化学社製)
・酸化亜鉛:亜鉛華3号、正同化学工業社製
・ポリ乳酸1:LACEA H−440(融点:155℃、数平均分子量:78000、重量平均分子量:150000、三井化学社製)
・ポリ乳酸2:次の合成により得られたポリマー(融点:116℃、数平均分子量:2500、重量平均分子量:3500)を用いた。まず、LL−ラクチド80gに開始剤としてn−ドデカノール1gを加え、窒素雰囲気下で150℃で3時間撹拌した。その後、150℃で溶融している部分をメタノール中に滴下し、沈殿物を生じさせ、白色の粉末状のポリマーを回収した。
・硫黄:粉末イオウ、細井化学工業社製
・加硫促進剤:ノクセラーCZ、大内新興化学工業社製
【0081】
第1表から明らかなように、比較例1で調製した高減衰積層体用ゴム組成物に対してカーボンブラック、石油樹脂、シリカの配合量を変化させて調製したゴム組成物(比較例2〜4)は、比較例1に比べて減衰性は向上するものの、粘度が上昇して加工性が悪くなったり、せん断弾性率が劣ったりすることが分かった。
これに対し、実施例1〜11で調製した高減衰積層体用ゴム組成物は、いずれも比較例1と同等程度の粘度(加工性)を維持しつつ、減衰性が高くなり、せん断弾性率も優れることが分かった。
【0082】
(実施例12)
まず、ポリ乳酸(LACEA H−440(融点:155℃、数平均分子量:78000、重量平均分子量:150000、三井化学社製))300gに対してシリカ(ニップシールVN3、東ソー・シリカ社製)150gを添加して、200℃で5分間混合した後、ペレタイザーでペレット(シリカ/ポリ乳酸マスターバッチ)を作製した。
次いで、得られたペレット15g(シリカ:5g、ポリ乳酸:10g)とともに、下記第2表に示す組成(単位は質量部)になるように、各化合物を配合してB型バンバリーミキサーにて5分間混練し、未加硫ゴム組成物を調製した。
得られた未加硫ゴム組成物について、上述した方法と同様の方法で加硫後の切断時伸びを測定し、以下に示す方法で引裂強さを測定し、減衰性を評価した。
【0083】
<引裂強さ>
上述した引張物性と同様の加硫シートを作製し、JIS K6252-2007に準拠して、クレセント形の試験片を打ち抜き、引裂き強さ(N/mm)を測定した。
【0084】
<減衰性>
上述した引張物性と同様の加硫シートを作製し、10mm幅、2mm厚の短冊状の試験片を作製した。作製した試験片をオートグラフ引張試験機によってクロスヘッドスピード500mm/分で5回150%伸張させた際の、5回目のヒステリシスロス[%]を算出した。ヒステリシスロスは、図4に示す応力−歪み曲線図におけるABCDAに相当する面積とABCEAに相当する面積との比(ABCDA/ABCEA)に100を乗じることによって算出した。ヒステリシスロスからエネルギーの減衰性を評価した。結果を第2表に示す。
【0085】
(実施例13)
まず、ポリ乳酸(LACEA H−440(融点:155℃、数平均分子量:78000、重量平均分子量:150000、三井化学社製))100gをトルエン1Lに溶解させた後、シリカ(ニップシールVN3、東ソー・シリカ社製)50gを添加し、70℃で3時間撹拌させた。次いで、トルエンをろ過により除去した後、乾燥することで、ポリ乳酸表面処理シリカを調製した。
ここで、得られたポリ乳酸表面処理シリカについて、昇温速度20℃/分の条件で室温から600℃まで熱重量測定(TGA)を行ったところ、有機分(ポリ乳酸)が50質量%有していることが分かった。
次いで、得られたポリ乳酸表面処理シリカ20g(シリカ:10g、ポリ乳酸:10g)とともに、下記第2表に示す組成(単位は質量部)になるように、各化合物を配合してB型バンバリーミキサーにて5分間混練し、未加硫ゴム組成物を調製した。
得られた未加硫ゴム組成物について、上述した方法と同様の方法で加硫後の切断時伸びおよび引裂強さを測定し、減衰性を評価した。
【0086】
【表3】

【0087】
第2表中の各成分は、以下のもの以外は、第1表中の各成分と同様である。
・シリカ/ポリ乳酸マスターバッチ:実施例12で調製したもの。
・ポリ乳酸表面処理シリカ:実施例13で調製したもの。
【0088】
第2表から明らかなように、ポリ乳酸を天然ゴム100質量部に対して10質量部程度以上含有させる場合は、シリカ/ポリ乳酸マスターバッチやポリ乳酸表面処理シリカとして含有させる方が、高い減衰性を維持しつつ、切断時伸びや引裂き強さの低下を抑制できることが分かった。
【0089】
[実施例II]
<高減衰積層体用ゴム組成物の製造>
下記第3表に示す成分を同表に示す量(質量部)で配合してB型バンバリーミキサーにて5分間混練りし、未加硫ゴム組成物(コンパウンド)を得た。得られたコンパウンドを配合1〜4とする。
【0090】
【表4】

【0091】
第3表に示す各成分の詳細は以下のとおりである。
・天然ゴム:STR20、SIAM INDO RUBBER社製
・ビニル−シスブタジエンゴム:UBEPOL−VCR412、宇部興産社製
・カーボンブラック:ダイヤブラックI、三菱化学社製
・シリカ1:シラノール基を有する無機充填剤、ニップシールVN3、東ソー・シリカ社製
・クレー:シラノール基を有する無機充填剤、SUPREX CLAY、ケンタッキーテネシークレイカンパニー社製
・石油樹脂:ハイレジン#120S(軟化点120℃、東邦化学社製)
・酸化亜鉛:亜鉛華3号、正同化学工業社製
・ポリ乳酸1:LACEA H−440(融点:155℃、数平均分子量:78000、重量平均分子量:150000、三井化学社製)
・酸性水溶液:酸性成分としてリン酸二水素ナトリウム(和光純薬社製)を8質量%含む水溶液
・硫黄:粉末イオウ、細井化学工業社製
・加硫促進剤:ノクセラーCZ、大内新興化学工業社製
【0092】
配合1〜4を下記第4表に示す処理条件下(常温23℃、湿熱、乾燥)に同表に示す処理時間置いて未加硫ゴム組成物中の水分率を変化させた。配合3については第3表に示すとおり水を添加し下記第4表に示す処理条件下に同表に示す処理時間置くことによって未加硫ゴム組成物中の水分率を変化させた。湿熱は使用する未加硫ゴム組成物を湿熱オーブン(湿度:95%RH、温度:60℃)に入れて行った。乾燥は使用する未加硫ゴム組成物を減圧オーブン(温度:80℃)に入れて行った。
【0093】
<評価>
配合1〜4を下記第4表に示す処理条件下に置いた後、生産性、等価減衰定数、水平剛性定数(水平剛性)、水分率を以下の方法に従って測定した。結果を第4表に示す。また、各実施例が有する上記式(1)で表される水分率Xの下限値を第4表に示す。
【0094】
1.生産性
生産性は加硫曲線から得られる、トルクが下記に定義されるT95に達するまで要した加硫時間をもとに評価された。
加硫曲線において、トルクが最小値MLから最大値Mに達したことが明らかなときは、加硫開始からトルクが最小値と最大値の幅の95%に達するまで要した加硫時間をT95とする。
また、加硫時間の経過によりトルクが上がり続けて明確な最大値MHを示さないときは、JIS K6300−2:2001において「加硫曲線が上昇し続け加硫曲線の傾きが安定した領域での特定時間における値を最大値とする」と定義されているので、本発明においては、特定時間として挙示されたうちからtc(max)=30分とし、そのときのトルクをMとする。
加硫曲線は、JIS K6300−2:2001「振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に準拠し、レオメータとしてロータレス加硫試験機を使用し、所定の試験温度(150℃)において、得られるトルクを縦軸とし、加硫時間を横軸にして得た。
加硫曲線を評価する際に使用される未加硫ゴムの試験片は、JIS K 6300に準拠して、厚さが3mmの未加硫ゴムシートから各約8cm3のゴム塊を切り出して作製された。
得られた加硫曲線の結果を図6に示す。図6は、本発明の実施例において測定された加硫曲線を示すグラフである。
【0095】
2.等価減衰定数、水平剛性定数
実施例1と同様に、ラップシェア型せん断試験用試料を作製し、ラップシェアせん断試験を行った。ラップシェアせん断試験によって得られたヒステリシス曲線が示すXmaxおよびQmaxを用い、上記式(1)および(2)に従って平均せん断特性値[等価減衰定数(Heq)、水平剛性定数(Geq)]を求めた。水平剛性定数(Geq)はせん断弾性率(Geq)と同様に上記式(2)に従って算出した。
【0096】
3.水分率X
各配合に含まれる実際の水分率をカールフィッシャー法(水と選択的・定量的に反応するカールフィッシャー試薬を用いて測定する方法)によって測定した。各配合に含まれる水分の測定は、電量滴定法に従い、カールフィッシャー試薬としてヨウ化物イオン・二酸化硫黄・アルコールを主成分とする電解液(商品名 アクアミクロンCXU、エーピーアイコーポレーション社製)を用い、水分測定装置(大倉理研社製)を用いて行われた。
【0097】
【表5】

【0098】
第4表に示す結果から明らかなように、比較例II−2は経時的に吸湿して水分率が比較例II−1より高くなり、その結果生産性が上がった。しかし比較例II−1、2はポリ乳酸系樹脂を含有せず生産性、減衰性、水平剛性が低かった。また比較例II−2は減衰性、水平剛性が比較例II−1より低下した。酸性水溶液を含有する比較例II−3は生産性が低かった。リン酸二水素ナトリウム、グリコール酸のような低分子酸性成分は加硫を阻害しスコーチを早くする欠点がある。
これに対して、実施例II−1〜5は減衰性、水平剛性、生産性に優れる。水分率が式(1)を満たす実施例II−2、3、5は実施例II−1、4より生産性がより優れた。
また、図6に示す結果から明らかなように、ポリ乳酸系樹脂を含有しない比較例II−1〜3はトルクの上昇が1段階しかなく、トルクの最高値が低かった。
これに対して、実施例II−1、4はトルクの上昇が2段階認められ、トルクの1段階目の上昇時の加硫時間は比較例II−1〜3と同等程度ではあるがトルクの最高値が20dN・m以上と格段に高く、減衰性、水平剛性に優れる。水分率が式(1)を満たす実施例II−2、3は、生産性により優れ、さらにトルクの最高値が25dN・m以上と高くなり減衰性、水平剛性により優れる。
【符号の説明】
【0099】
1 高減衰積層体(免震積層体)
2 硬質板
3 本発明の高減衰積層体用ゴム組成物
4 ラップシェア型せん断試験用試料
5 圧延した未加硫ゴム組成物
6 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋可能なゴム成分100質量部と、シラノール基を有する無機充填剤10〜150質量部と、ポリ乳酸系樹脂0.1〜30質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部に対して、更に、石油樹脂を5〜50質量部含有する請求項1に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項3】
さらに、金属化合物を含有する請求項1または2に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項4】
前記金属化合物の量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1〜10質量部である請求項3に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分100質量部に対して、更に、前記シラノール基を有する無機充填剤以外の無機充填剤を5〜55質量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分が、ジエン系ゴムである請求項1〜5のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分が、天然ゴムとビニル−シスブタジエンゴムとを含有する請求項1〜6のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項8】
前記ゴム成分が、前記ビニル−シスブタジエンゴムを10質量%以上含有する請求項7に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項9】
前記ポリ乳酸系樹脂の融点が、150℃以下である請求項1〜8のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項10】
前記ポリ乳酸系樹脂の数平均分子量が、1000〜10000である請求項1〜9のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項11】
前記シラノール基を有する無機充填剤と前記ポリ乳酸系樹脂との質量比(無機充填剤/ポリ乳酸系樹脂)が、1/1〜10/1である請求項1〜10のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項12】
前記シラノール基を有する無機充填剤および前記ポリ乳酸系樹脂が、これらを予め混合して得られる無機充填剤/ポリ乳酸マスターバッチとして含有する請求項1〜11のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項13】
前記シラノール基を有する無機充填剤および前記ポリ乳酸系樹脂が、これらを予め溶媒中で混合した後に、前記溶媒を除去し、乾燥して得られるポリ乳酸表面処理無機充填剤として含有する請求項1〜11のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項14】
水分を含有し、架橋前における当該高減衰積層体用ゴム組成物中の水分率X(質量%)が下記式(1)を満たすものである請求項1〜13のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
{(c/5b)/(高減衰積層体用ゴム組成物の全体量)}×100≦X≦3 (1)
(式中、c/5bは当該高減衰積層体用ゴム組成物に含まれる水分の近似値を示し、cは前記シラノール基を有する無機充填剤の量であり、bは前記ポリ乳酸系樹脂の量である。)
【請求項15】
加硫された請求項1〜14のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−38069(P2011−38069A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297244(P2009−297244)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】