説明

2ゾーンイオンビーム炭素蒸着

【課題】複数のアノードを含むイオンビーム蒸着用のイオン源に関する。イオン源は、原材料の複数のゾーンを蒸着し、複数のゾーンのうちの少なくとも2つのゾーンの厚みを異なるようにする。
【解決手段】イオンビーム蒸着で炭素を蒸着する場合、プロセス室の数は制限されるので、2つまたは3つ以上のイオン源を利用することは、スペースの理由で不可能なこと、または費用の理由で現実的でないことが多いが、イオン源として、複数の同心のアノードを含み、異なる電圧が複数のアノードに印加することで、少くとも2つのゾーンの厚みを異ならせることができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
磨耗保護用ダイヤモンド状炭素(diamond−like carbon)層を蒸着する場合、それぞれ異なる膜厚を伴う炭素の2層または3層以上の層を蒸着するのが有利であり、厚い方の層はレーザーテクスチュア(laser texture)ゾーン上であり、そして薄い方の層はデータゾーンである。厚い方の層によって磨耗から保護され、薄い方の層は、ヘッドが媒体により近くで浮上することができ、それによって、磁気性能がより高くなるという有利な点を与える。
【0002】
イオンビーム蒸着で炭素を蒸着する場合、プロセス室の数は制限されるので、2つまたは3つ以上のイオン源を利用することは、スペースの理由で不可能なこと、または費用の理由で現実的でないことが多い。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、複数のアノードを含むイオンビーム蒸着用のイオン源に関し、そこでは、イオン源が原材料の複数のゾーンを蒸着し、複数のゾーンのうちの少なくとも2つのゾーンの厚みが異なる。
【0004】
本発明の好ましい態様は、本発明を実施するために意図された、以下の詳細な記述における最良のモードの説明によって示され、記述される。理解されるように、本発明は、他の態様および異なる態様で可能であり、そして、その詳細は、様々な明白な観点、本発明から逸脱することない全てから変形可能である。したがって、図面および記述は、実際は説明上のものとみなされるべきであり、制約的のものとみなされるべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本発明は、添付された図面とともに考えた場合、詳細な記述を参照することによって、よりよく理解されるであろう。
【図1】図1は、2つの同心のアノードシリンダを含むイオンビーム蒸着源を概略的に示す。
【図2】図2は、基底状態における本発明の一態様の静電場を描く。
【発明を実施するための形態】
【0006】
ディスクに到達する炭素のフラックス分布を調節することによって、ダイヤモンド状炭素層のそれぞれ異なる厚みの2つの同心円ゾーンを蒸着するために、単一イオンビーム源を利用する。イオンの大部分が内側のレーザーテクスチュアゾーンに運ばれるようにイオン源を変更し、少ない方の部分をデータゾーンに蒸着させることによって、これを行うことが可能になる。2つの同心のアノードシリンダを有するようにイオン源を変更する。別々の正電圧がそれぞれのシリンダに印加され、炭素層の厚みは、電圧をそれぞれ調節することによって制御される。略図を図1に示す。
【0007】
本発明の一態様は、複数のアノードを含むイオンビーム蒸着のためのイオン源であり、そこでは、イオン源が、原材料の複数のゾーンを蒸着し、複数のゾーンのうちの少なくとも2つのゾーンの厚みが異なる。一変形例では、イオン源は、複数の同心のアノードを含む。別の変形例では、イオン源は、2つの同心のアノードを含む。一実施によれば、異なる電圧が複数のアノードに印加される。
【0008】
本発明の別の態様は、原材料の複数の同心円ゾーンを基板に蒸着する方法であり、そこでは、同心円ゾーンのそれぞれの厚みが異なり、その方法は、基板を用意する工程、同心のアノードシリンダを含むイオン源を用意する工程、および同心のアノードに印加される電圧を調節する工程を含む。一変形例では、イオン源は、2つの同心のアノードシリンダを含む。
【0009】
一実施によれば、ディスクの中心に近い方の同心円ゾーンの炭素層の厚みは、ディスクの中心から離れている方の同心円ゾーンの炭素層の厚みよりも厚くなる。
【0010】
別の態様は、基板を得る工程、少なくても1層の磁気層を蒸着する工程、および最上の磁気層上に炭素含有層を蒸着する工程を含む磁気記録媒体の製造方法であり、そこでは、炭素含有層が、イオンビーム蒸着によって異なる厚みをそれぞれ有する複数の同心円ゾーンに蒸着される。
【0011】
本発明の追加の態様は、下から上まで以下のものを含む記録媒体である。
(1)基板:研磨されたガラス、ガラスセラミックス、またはAl/NiP。
(2)基板に対する機能層の強い接着を確実にするための接着層。記録媒体は、より強い接着のために2層以上の層を有することができ、または、接着が十分である場合、この層を省略することができる。本例には、Ti合金がある。
(3)軟磁性下地層(SUL)には、様々なデザインタイプがあり、単層SUL、反強磁性結合(AFC)構造、積層SUL、ピン層を有するSUL(または、反強磁性交換バイアス層と呼ばれている)、などがある。SUL材料の例には、FexCoyzに基づく系列およびCoxZryNbz/CoxZryTazに基づく系列がある。
(4)シード層(複数可)および中間層(複数可)は、Co(00.2)成長用のテンプレートである。例には、RuX系列の材料がある。
(5)従来のグラニュラー(granular)媒体のターゲットを使用して酸化物含有磁気層(M1)をスパッタリングによって、反応的に(Oxを使用して)、および/または非反応的に、形成することができる。所望の膜特性および膜性能を達成するために、複数の層を使用することができる。ターゲットの例には、Co100-x-yPtx(MO)yおよび/またはCo100-x-y-zPtx(X)y(MO)z系列(Xは、Crなどの3id添加材、およびMは、Si、TiおよびNbなどの金属元素)がある。粒界における窒化物(Mxy)、炭素(C)および炭化物(Mxy)などの誘電体材料で、M1中の磁性粒子を相互に分離させることができるので、M1中の酸化物のほかに、そのリストを容易に拡張することができる。スパッタリングのターゲットの例には、Co100-x-yPtx(MN)y、Co100-x-yPtx(MC)yおよび/またはCo100-x-y-zPtx(X)y(MN)z、Co100-x-y-zPtx(X)y(MC)z系列がある。
(6)非酸化物含有磁気層(M2):従来の水平媒体合金および/または垂直媒体合金を含むスパッタリングのターゲットを使用することができる。望ましい性能は、反応性スパッタリングによらなくても達成されるであろう。酸化物含有磁気層の頂部の上に、単層もしくは複数層をスパッタリングによって形成することができる。非酸化物磁気層(複数可)が下の酸化物グラニュラー層からエピタキシャル成長するであろう。これらの層が厚すぎる場合、その方位は、やがて変わるかもしれない。これらの例には、Co100-x-y-z-αCrxPtyzαβがある。
(7)上述の炭素キャップ層。
【0012】
上記の一態様の層状構造は例示的構造である。別の態様では、層がより少ないかまたはより多くて、その層状構造が上述の層状構造と異なる可能性がある。
【0013】
NiPが基板上を任意選択的に被覆する代わりに、基板上の層が、NiNb層、Cr/NiNb層、または他のNi含有層のいずれかなどのNi含有層のいずれかになり得る。基板とNi含有層との間に接着層が任意選択的に存在し得る。Ni含有層の表面を任意選択的に酸化することができる。
【0014】
使用される基板には、Al合金、ガラス、またはガラス−セラミックがあり得る。本発明による軟磁性下地層は、アモルファスもしくはナノ結晶であり、FeCoB、FeCoC、FeCoTaZr、FeTaC、FeSi、CoZrNb、CoZrTaなどになり得る。シード層および中間層は、Cu、Ag、Au、Pt、Pd、Ru合金などになり得る。CoPt系磁気記録層は、CoPt、CoPtCr、CoPtCrTa、CoPtCrB、CoPtCrNb、CoPtTi、CoPtCrTi、CoPtCrSi、CoPtCrAl、CoPtCrZr、CoPtCrHf、CoPtCrW、CoPtCrC、CoPtCrMo、CoPtCrRuなどになることができ、アルゴンガス下(たとえば、M2)、またはアルゴンおよび酸素もしくは窒素の混合ガス下(たとえば、M1)で蒸着される。また、酸化物、炭化物もしくは窒化物などの誘電体材料を、ターゲット材料に組み込むことができる。
【0015】
本発明の態様は、磁気記録層において、PtおよびCo、ならびにB、Cr、Co、Pt、Ni、Al、Si、Zr、Hf、W、C、Mo、Ru、Ta、Nb、OおよびNの他の組み合わせを含む様々な磁性合金のいずれかの使用を含む。
【0016】
好ましい態様では、SULの全厚みは、100〜5000Å、より好ましくは600〜2000Åになり得る。2層以上の軟磁性下地層が存在し得る。SULの積層されている層は、同一の厚みもしくは異なる厚みを有することができる。SULの積層されている層の間のスペーサー層は、1Åと50Åとの間の厚みをともなったTa,Cなどになることができる。シード層の厚みtsを1Å<ts<50Åの範囲内にすることができる。中間層の厚みを10〜500Åに、より好ましくは100〜300Åにすることができる。磁気記録層の厚みは約50Å〜約300Åに、より好ましくは80〜150Åである。接着強化層を、10〜50Åの厚みをともなったTi,TiCr、Crなどにすることができる。オーバーコートキャップ層を、10〜80Å、より好ましくは20〜60Åの厚みをともなった水素化、窒化、その混成または他の炭素の形態にすることができる。
【0017】
磁気記録媒体は、約2000〜約10000エルステッドの残留保磁力、約0.2〜約2.0memu/cm2のMrt(残留磁気Mrと磁気記録層の厚みtとの積)を有する。好ましい態様では、保磁力は、約2500〜約9000エルステッド、より好ましくは約4000〜約8000エルステッドの範囲内、もっとも好ましくは約4000〜約7000エルステッドの範囲内である。好ましい態様では、Mrtは、約0.25〜約1memu/cm2、より好ましくは約0.4〜約0.9memu/cm2の範囲内である。
【0018】
ディスク媒体の製造のほぼ全てが、クリーンルーム内で行われ、そこでは、大気中のちりの量が非常に低く維持され、そして、厳密に制御され、監視される。非磁性基板上の1回または2回以上の洗浄処理の後、その基板は、超清浄表面を有し、その基板上の磁気媒体層の蒸着の準備ができる。該媒体に必要な層の全てを蒸着するための装置は、静的スパッタシステムまたはパスバイ(pass−by)システムであり得る。そこでは、潤滑剤を除く層の全てが好適な真空環境の中で連続的に蒸着される。
【0019】
本発明の磁気記録媒体を構成する層のそれぞれを、炭素オーバーコートおよび潤滑剤トップコート層を除いて、好適な物理蒸着技法(PVD)のいずれか、たとえば、スパッタリングで、またはPVD技法の組み合わせ、すなわち、スパッタリング、真空蒸着などで、蒸着または別なように形成することができるが、スパッタリングが好ましい。潤滑剤化合物の溶液が入っている槽の中にその媒体を浸し、続いてふき取るなどで余分な液体を除去することによって、または真空環境中の蒸気潤滑剤蒸着法によって、一般にトップコートとして潤滑剤層を設ける。
【0020】
スパッタリングは、記録媒体を作り出す処理全体の中で、おそらくもっとも重要な工程である。2つのタイプのスパッタリング、すなわちパスバイ(pass−by)スパッタリングと静的スパッタリングとがある。パスバイスパッタリングでは、真空室の中にディスクを通過させ、そこでは、ディスクは、磁性材料または非磁性材料を使用して蒸着され、ディスクが動いているときに1層または2層以上の層としてそれが基板上に蒸着される。静的スパッタリングでは、より小さい装置を利用し、そしてそれぞれのディスクは拾い上げられて、ディスクが動いていないときにそれぞれ蒸着される。本発明の本態様におけるディスク上の層はスパッタ装置の中で静的スパッタリングで蒸着される。
【0021】
スパッタリング装置の上に搭載された、いわゆるボンブの中で、スパッタされた層は蒸着される。ボンブは、いずれかの側にターゲットを備えた真空室である。基板は持ち上げられてボンブの中に移動され、スパッタされた材料を使用して蒸着される。
【0022】
潤滑剤層は、ディスク上のトップコート層の1つとして炭素表面上に好ましくは塗布される。
【0023】
スパッタリングを行うと、スパッタリングを行った後の基板上にいくらかの微粒子が形成する。これらの微粒子によってヘッドと基板との間にひっかき傷が生じないことを確実にするため、これらの微粒子を除去する必要がある。一回、潤滑剤層を塗布して、基板をバッファーステージに移動し、そこで好ましくは基板を主軸の回りに高速回転させながら基板を研磨する。そのディスクをふき取り、そして清浄な潤滑剤を表面に均一に塗布する。
【0024】
その後、場合によって、ディスクが準備され、3段階処理を経る品質テストが行われる。最初に、磨きヘッドが、その表面上を通過し、こぶ(技術用語にもあるように面の凹凸)のいずれかを除去する。その後、すべりヘッドがディスク上を進み、もしあれば、残っているこぶを検査する。最後に、保証ヘッドが、製造による欠陥がないかどうか表面を検査し、さらにディスクの磁気記録能力を測定する。
【0025】
上記記述は、当業者が本発明を作製し使用することが可能であるように示され、特定の用途およびその要求の状況において提示される。好ましい態様に対する様々な変形が当業者に対して容易に明らかになり、本発明の精神および範囲を逸脱することなく本明細書で定まる一般原則を他の態様および用途に適用することができる。したがって、本発明は、示された本態様に制限することを意図するものではなく、しかし、本明細書で開示された原則および特徴に調和する範囲でもっとも広い範囲に一致すべきである。
【0026】
上述の実施および他の実施は、以下の請求項の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアノードを含むイオンビーム蒸着用のイオン源であって、
前記イオン源が、原材料の複数のゾーンを蒸着し、前記複数のゾーンのうちの少なくとも2つのゾーンの厚みが異なるイオン源。
【請求項2】
複数の同心のアノードを含む請求項1に記載のイオン源。
【請求項3】
2つの同心のアノードを含む請求項1に記載のイオン源。
【請求項4】
異なる電圧が前記複数のアノードに印加される請求項1に記載のイオン源。
【請求項5】
異なる電圧が前記複数の同心のアノードに印加される請求項2に記載のイオン源。
【請求項6】
異なる電圧が前記2つの同心のアノードに印加される請求項3に記載のイオン源。
【請求項7】
原材料の複数の同心円ゾーンを基板上に蒸着する方法であって、
前記同心円ゾーンのそれぞれの厚みは異なり、
当該方法は、
基板を用意する工程、
同心のアノードシリンダを含むイオン源を用意する工程、および
前記同心のアノードに印加する電圧を調節する工程を含む。
【請求項8】
前記イオン源が、2つの同心のアノードシリンダを含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記基板が磁気記録媒体ディスクを含む請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記原材料が炭素である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
炭素層の厚みは、前記ディスクの中心に近い方の同心円ゾーンの方が、前記ディスクの中心から遠い方の同心円ゾーンよりも厚い請求項10に記載の方法。
【請求項12】
基板を得る工程、少なくとも1層の磁気層を蒸着する工程、および最上の磁気層の上に炭素含有層を蒸着する工程を含む磁気記録媒体を製造する方法であって、
前記炭素含有層が、イオンビーム蒸着によって蒸それぞれ異なる厚みを有する複数の同心円ゾーンに着される方法。
【請求項13】
前記炭素含有層が2つの同心円ゾーンに蒸着される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
同心円ゾーンの前記炭素含有層の厚みが、前記ディスクの中心から遠い方よりも、前記ディスクの中心に近い方が厚い請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記最上の磁気層の上に炭素含有層を蒸着する工程が、複数のアノードを含むイオン源から炭素を蒸着することを含む請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記イオン源が複数の同心のアノードを含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記イオン源が、2つの同心のアノードを含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
異なる電圧を前記複数のアノードに対して印加する請求項15に記載の方法。
【請求項19】
異なる電圧を前記複数の同心のアノードに対して印加する請求項16に記載の方法。
【請求項20】
異なる電圧を前記2つの同心のアノードに対して印加する請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−92578(P2010−92578A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−173204(P2009−173204)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(509123747)シーゲイト テクノロジー リミティド ライアビリティー カンパニー (8)
【Fターム(参考)】