説明

4サイクルエンジンおよびそれを備えたエンジン作業機

【課題】出力を確保しながら確実な潤滑を実現して信頼性、耐久性を高めた4サイクルエンジンおよびそれを備えたエンジン作業機を提供する。
【解決手段】4サイクルエンジン1は、吸気ポート21とキャブレター24とを連通する上方吸気通路35および下方吸気通路36と、上方吸気通路35と動弁機構室50とを連通する動弁機構室接続通路45と、動弁機構室接続通路45より吸気ポート21側で上方吸気通路35に接続し、上方吸気通路35と動弁機構室50とを連通するブローバイガス排出通路49と、クランク室40と下方吸気通路36とを連通するクランク室接続通路42と、動弁機構室50とクランク室40とを連通するブリーザ通路とを備え、動弁機構室接続通路45が動弁機構室50に接続する第2混合気導入開口47を、ブローバイガス排出通路49が動弁機構室50に接続するブローバイガス排出開口48から、離間して配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4サイクルエンジン、特に刈払い機、チェンソー、およびブロア等の携帯型エンジン作業機に好適な潤滑油が混合された燃料を用いる4サイクルエンジンおよびそれを備えたエンジン作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
刈払機やチェンソー等の携帯型エンジン作業機に用いられるエンジンには4ストロークエンジンを搭載するものがある。このようなエンジン作業機では、作業者がエンジン作業機を様々な方向に傾けて作業を行うことが多く、エンジンが傾いた状態でも安定して作動するために、エンジンの姿勢に影響されることなくクランク室内部の構成部品やシリンダヘッドの動弁機構室内にある動弁機構の潤滑や冷却を行う必要がある。エンジン作業機に用いられる4ストロークエンジンとしては、例えば、特許文献1に示すように、潤滑油を混合した燃料と空気の混合気を吸気通路に設けた分岐通路からクランク室に導いてピストン、シリンダを潤滑した後に混合気を動弁機構室に導いて動弁機構室内にある動弁機構を潤滑するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−192849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の4サイクルエンジンでは、吸気通路に設けた分岐通路からクランク室に導入される潤滑油を含んだ混合気の量が限られるため、動弁機構室内にある動弁機構の燃料の気化熱による冷却と潤滑油による潤滑とが不足することがあるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、出力を確保しながら確実な潤滑を実現して信頼性、耐久性を高めた4サイクルエンジンおよびそれを備えたエンジン作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点にかかる4サイクルエンジンは、
シリンダブロックに形成されるシリンダボアに摺動可能に収容されるピストンの頂面と、前記シリンダボアと、シリンダヘッドとの間に形成される燃焼室と、
前記シリンダヘッドに形成され前記燃焼室に連通する吸気ポートおよび排気ポートと、
前記吸気ポートの前記燃焼室側の開口を開閉する吸気弁および前記排気ポートの前記燃焼室側の開口を開閉する排気弁と、
前記シリンダヘッドに設けられ、前記吸気弁および前記排気弁を開閉駆動する動弁機構が収容される動弁機構室と、
潤滑油が混合された燃料を供給する気化器と、
前記吸気ポートと前記気化器の吸気通路とを連通する第1通路と、
該第1通路と前記動弁機構室とを連通する第2通路と、
該第2通路より前記吸気ポート側で前記第1通路に接続し、前記第1通路と前記動弁機構室とを連通する、第3通路と、
前記シリンダブロックに取付けられるクランクケースに形成されるクランク室と前記第1通路とを連通する第4通路と、
前記動弁機構室と前記クランク室とを連通する第5通路と、を備え、
前記第2通路が前記動弁機構室に接続する第1接続口を、前記第3通路が前記動弁機構室に接続する第2接続口から、離間して配置する、
ことを特徴とする。
【0007】
また、前記シリンダボアの軸線方向視において、前記第1接続口および前記第2接続口の一方を、前記第1接続口および前記第2接続口の他方より、前記吸気弁の近くに配置する、ことが好ましい。
【0008】
さらに、前記シリンダボアの軸線方向視において、前記第1接続口と前記第2接続口との間を結ぶ線上に、前記動弁機構および前記吸気弁および前記排気弁の少なくとも1つを設けてもよい。
【0009】
また、前記第2通路には、前記第1通路から前記動弁機構室に向かう流れを許容する第1の一方向弁を設け、
前記第3通路には、前記動弁機構室から前記第1通路に向かう流れを許容する第2の一方向弁を設けてもよい。
【0010】
さらに、前記気化器には、前記吸気通路の内壁側に偏在して前記燃料を供給する燃料供給口が設けられ、
前記第1通路には、前記第1通路を流路方向に、前記気化器側の端部において前記燃料供給口側に偏在して開口する第1通路部と第2通路部とに2分割する仕切り壁が設けられ、
前記第2通路が前記第2通路部に接続され、前記第4通路が前記第1通路部に接続されてもよい。
【0011】
また、前記シリンダボアの軸線方向視において、前記動弁機構室の外周近傍に前記第1接続口と前記第2接続口とを設け、
前記第1接続口及び前記第2接続口の一方を、他方より、前記第5通路が前記動弁機構室に接続する第5通路接続開口の近くに配置する、ことが好ましい。
【0012】
本発明の第2の観点にかかるエンジン作業機は、上述の4サイクルエンジンを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による4サイクルエンジンによれば、第2通路が前記動弁機構室に接続する第1接続口を、第3通路が前記動弁機構室に接続する第2接続口から、離間して配置するので、潤滑油が混合された燃料を動弁機構室内に適切に供給することが可能となり、出力を確保しながら確実な潤滑を実現して信頼性、耐久性を高めた4サイクルエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の4サイクルエンジンを搭載した刈払機を示す図。
【図2】図1のエンジン部分の拡大断面図。
【図3】図2のIII−III線断面図。
【図4】図2の要部拡大図。
【図5】図4のV−V線断面図。
【図6】図1のエンジンのシリンダブロックの側面図。
【図7】図6のVII−VII線断面図。
【図8】本発明に係るシリンダブロックの変形例の図6に対応する図。
【図9】図8のIX−IX線断面図。
【図10】本発明に係るインシュレータの変形例の拡張室部分の拡大断面図。
【図11】本発明に係るインシュレータの別の変形例の拡張室部分の拡大断面図。
【図12】本発明に係るインシュレータのさらに別の変形例の拡張室部分の拡大断面図。
【図13】図12のXIII−XIII線断面図。
【図14】本発明に係るエンジンの変形例を示す要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を添付図面に沿って説明する。図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る4サイクルエンジン1(以下エンジン)を搭載した刈払機1001は、操作桿1002の先端に回転刃1003が取り付けられ、操作桿1002の後端には、エンジン1が取り付けられている。エンジン1の出力は、操作桿1002内に挿通させたドライブシャフトを介して回転刃1003に供給される。作業者は操作桿1002に取り付けられたハンドル1004を把持して刈払機1001を操作する。なお、作業者が刈払機1001を把持する通常の正立状態では、エンジン1のシリンダ(図示せず)の軸線方向すなわちピストン(図示せず)の往復動方向が鉛直方向を向くように、エンジン1は操作桿1002に取り付けられている。
【0016】
図2に示すように、エンジン1は空冷OHVエンジンであり、シリンダヘッド2がシリンダブロック3の上部に一体に形成され、シリンダブロック3の下部にはクランクケース4が取り付けられている。シリンダブロック3の周囲にはエンジン1を冷却するための冷却フィン31が形成され、シリンダブロック3のシリンダ(シリンダボア)5内では、図2中で下死点点に位置しているピストン6がシリンダ軸線7の方向(図2中の上下方向)に上下動する。ピストン6はピストンピン8、コンロッド9を介してクランクケース4の内側に形成されるクランク室40に回転可能に支持されたクランクウエイト14を有するクランクシャフト10に接続される。シリンダヘッド2の左側の側部には、吸気ポート21に接続するインシュレータ23を介してエンジン1に混合気を供給するキャブレター(気化器)24が取付けられている。キャブレター24の上流(図2中の左側)にはエアクリーナ25が取付けられる。また、シリンダヘッド2の右側の側部には排気ポート22に接続されるマフラ26が取付けられる。エンジン1およびマフラ26はエンジンカバー27により覆われている。さらに、エンジン1の下方には、潤滑油を混合した燃料を貯蔵する燃料タンク28が設けられ、燃料タンク28は燃料パイプ29を介してキャブレター24に潤滑油を混合した燃料を供給する。
【0017】
図3に示すように、クランクシャフト10の一方の端部には、エンジン1を始動するためのスタータ機構11が取り付けられ、他方の端部にはフライホイールマグネト12が取り付けられている。フライホイールマグネト12にはエンジン1を冷却するための冷却ファン32が一体に形成されている。また、フライホイールマグネト12にはクラッチ機構(図示せず)が接続されている。クラッチ機構はエンジン1の出力を操作桿内のドライブシャフト(図示せず)に伝達して回転刃を駆動する。また、クランクシャフト10にはカム駆動ギヤ15が取付けられ、カム駆動ギヤ15はカムシャフト13に取付けられた被動ギヤ61に噛合してカムシャフト13を駆動する。
【0018】
シリンダヘッド2には燃焼室20に混合気を供給する吸気ポート21と燃焼室20から燃焼ガスを排出する排気ポート22とが形成され、吸気ポート21は吸気弁18により開閉され、排気ポート22は排気弁19により開閉される。シリンダヘッド2の上部には動弁機構室50が設けられ、動弁機構室50には吸気弁18、排気弁19をそれぞれ開閉駆動する吸気用ロッカーアーム16および排気用ロッカーアーム17が収容される。また、シリンダヘッド2には点火コイル30に接続された点火プラグ53が取付けられる。
【0019】
クランク室40に設けられたカムシャフト13にはカム(図示せず)が形成され、カムはタペット(図示せず)を介して吸気用プッシュロッド(図示せず)と排気用プッシュロッド51を駆動する。そして、吸気用プッシュロッドと排気用プッシュロッド51はそれぞれ、動弁機構室50内に設けられた吸気用ロッカーアーム16(図2参照)と排気用ロッカーアーム17を駆動し、吸気用ロッカーアーム16と排気用ロッカーアーム17は吸気弁18(図2参照)、排気弁19をそれぞれ開閉駆動する。
【0020】
図2、図4に示すように、キャブレター24は吸気通路33を有し、吸気通路33の下方の内壁近傍には燃料タンク28から供給される潤滑油が混合された燃料を供給する燃料供給口34が設けられている。インシュレータ23は、上方吸気通路(第1通路)35と下方吸気通路(第1通路)36とに内部を上下に分割する仕切壁37を有している。上方吸気通路35と下方吸気通路36はそれぞれ左端でキャブレター24の吸気通路33に接続され、下方吸気通路36のキャブレター24との接続位置は燃料供給口34に近い下方に位置し、上方吸気通路35のキャブレター24との接続位置は燃料供給口34から離れた上方に位置している。上方吸気通路35のキャブレター24側の流路の断面積は、下方吸気通路36のキャブレター24側の流路の断面積より大きい。上方吸気通路35はキャブレター24側の端部から下流(図の右側の吸気ポート21側)に向かって斜め上方に傾斜して延びている。下方吸気通路36には下方に向かって凹んで形成された拡張室38が形成されている。下方吸気通路36のキャブレター24側の端部から拡張室38に延びる気化器側通路部39は下流(図の右側の吸気ポート21側)に向かって水平より斜め下方に傾斜して延び、下方吸気通路36の拡張室38から吸気ポート21に向かって延びる吸気ポート側通路部41は下流に向かって斜め上方に傾斜して延びている。拡張室38の下端には、下方吸気通路36とクランク室40とを連通するクランク室接続通路(第4通路)42の一方の端部が接続されている。クランク室接続通路42の他方の端部は、シリンダ5の側部のピストン6が所定の位置より上死点側に位置する場合に開口しピストン6が所定の位置より下死点側に位置する場合にはピストン6の側壁によって閉鎖される位置に設けられた第1混合気導入開口43に接続され、第1混合気導入開口43が開口すると下方吸気通路36(拡張室38)とクランク室40とが連通する。下方吸気通路36との接続位置における拡張室38の通路断面積(図2中のシリンダ軸線7方向の下方に向かう通路の断面積)は、吸気ポート側通路部41の通路断面積より大きい。
【0021】
図3に示すように、シリンダブロック3には、動弁機構室50からシリンダ軸線7方向にクランクケース4に向かって延びてクランク室40に連通するブリーザ通路(第5通路)44が設けられている。吸気用プッシュロッドと排気用プッシュロッド51とはブリーザ通路44を貫通して設けられている。図5に示すように、ブリーザ通路44と動弁機構室50とは、動弁機構室50の下方(図5中の動弁機構室50の下方の側壁の近傍)に設けられ排気用プッシュロッド51が貫通する排気側連通孔(第5通路接続開口)441と吸気用プッシュロッド52が貫通する吸気側連通孔(第5通路接続開口)442を介して連通している。また、図4に示すように、シリンダブロック3に形成される吸気ポート21には、インシュレータ23側(図の左側)において、上方吸気通路35が接続する上方吸気ポート通路部211と下方吸気通路36の吸気ポート側通路部41が接続する下方吸気ポート通路部212とに吸気ポート21を上下に隔てる吸気ポート側仕切壁213が設けられている。吸気ポート側仕切壁213はシリンダ軸線7に向かってシリンダ軸線7方向の幅(上下の幅)が減少するように伸びてシリンダ5の側壁よりインシュレータ23側(左側)で終端し、上方吸気ポート通路部211と下方吸気ポート通路部212とはシリンダ5の側壁より吸気弁18側で合流する。また、シリンダ軸線7方向において、上方吸気ポート通路部211は上方吸気通路35との接続部から吸気弁18に向かって水平からやや下方(下死点向かう方向)に向かって傾斜して延びており、下方吸気ポート通路部212は吸気ポート側通路部41との接続部から吸気弁18に向かって吸気ポート側通路部41と略同じ角度で斜め上方に傾斜して延びている。そして、図6、7に示すように、吸気ポート21の上方吸気ポート通路部211と下方吸気ポート通路部212とは、シリンダ軸線7方向視において、略重なるように位置している。
【0022】
図2、図4に示すように、上方吸気通路35の上部には、上方吸気通路35と動弁機構室50とを連通する動弁機構室接続通路(第2通路)45の一方の端部が接続されている。動弁機構室接続通路45の内部には、上方吸気通路35から動弁機構室50へ向かう流れを許容する一方向弁(第1の位置方向弁)46が設けられている。図5に示すように、動弁機構室接続通路45の他方の端部は、シリンダ軸線7方向視において、動弁機構室50のシリンダ軸線7方向に延びる右側(排気ポート22側、あるいは排気弁19側)の側壁の排気用プッシュロッド51に対向する位置(図5中の右側の側壁の下側)に設けられた第2混合気導入開口(第1接続口)47に接続されている。また、シリンダ軸線7方向視において、動弁機構室50のシリンダ軸線7方向に延びる左側(吸気ポート21側、あるいは吸気弁18側)の側壁の吸気弁18の近傍にはブローバイガス排出開口(第2接続口)48が設けられている。図5に示すように、第2混合気導入開口47とブローバイガス排出開口48とはシリンダ軸線7方向視において動弁機構室50の右下端部近傍と左上端部近傍とに離間して配置されている。そして、第2混合気導入開口47は、ブローバイガス排出開口48より下方、つまり、ブリーザ通路44の排気側連通孔441と吸気側連通孔442の近くに配置されている。そして、第2混合気導入開口47とブローバイガス排出開口48との間(例えば、第2混合気導入開口47とブローバイガス排出開口48とを結ぶ線55方向における第2混合気導入開口47とブローバイガス排出開口48の間)には、吸気弁18、吸気用ロッカーアーム16、吸気用プッシュロッド52、排気弁19、排気用ロッカーアーム17、排気用プッシュロッド51、および、ブリーザ通路44の排気側連通孔441と吸気側連通孔442、が配置されている。図2、図4に示すように、ブローバイガス排出開口48には、ブローバイガス排出開口48からシリンダヘッド2をシリンダ軸線7方向下方に延びて動弁機構室50と吸気ポート21とを連通するブローバイガス排出通路(第3通路)49が接続されている。ブローバイガス排出通路49の内部には、動弁機構室50から吸気ポート21へ向かう流れを許容する一方向弁(第2の位置方向弁)54が設けられている。
【0023】
このように構成されたエンジン1によれば、エンジン1が作動するとエアクリーナ25から流入する空気とともにキャブレター24の燃料供給口34から潤滑油を含んだ燃料が下流(インシュレータ23側)に向かって噴出する。ここで、燃料供給口34は吸気通路33の下方の内壁に偏って配置されているので、インシュレータ23の燃料供給口34の近くに入口を有する下方吸気通路36の気化器側通路部39には、上方吸気通路35に比べて潤滑油を含んだ燃料を多く流入させることができ、これはエンジン1の姿勢が変化した場合でも燃料供給口34と気化器側通路部39との位置が変わらないので保たれる。つまり、エンジン1の姿勢に係わらず、上方吸気通路35には希薄な混合気が流入し、下方吸気通路36には濃厚な混合気が流入するので、下方吸気通路36の流路の断面積が上方吸気通路35の流路の断面積より小さくても潤滑油を含んだ燃料を十分流すことが可能となる。また、上方吸気通路35の流路の断面積が下方吸気通路36の流路の断面積より大きく構成されているため、潤滑油の含有量は少ないが燃料を多く流すことができる。
【0024】
気化器側通路部39に流入した混合気の一部は拡張室38に流入し、残りは下流の吸気ポート側通路部41に流入する。ここで、気化器側通路部39は拡張室38に向かって斜め下方に傾斜して延びているので、潤滑油を含んだ燃料の一部が液状となって気化器側通路部39に流入した場合でも、気化器側通路部39の下方の内壁を伝って拡張室38に燃料を導くことができる。また、下方吸気通路36との接続位置における拡張室38の通路断面積が吸気ポート側通路部41の通路断面積より大きいので、混合気が下方吸気通路36から拡張室38に流入すると流速が低下して混合気中の空気と燃料の分離を促進することが可能となる。そして、拡張室38から燃料および燃料をより多く含む濃い混合気をクランク室接続通路42に流入させることが可能となる。拡張室38に流入した混合気はクランク室接続通路42を通ってピストン6が上死点方向に移動して所定の位置を越えると第1混合気導入開口43が開口し、負圧となったピストン6より下方のシリンダ5内に流入する。このため、エンジン1の姿勢に係わらず混合気をシリンダ5内に導くことができる。また、ピストン6が下降してクランク室40内の圧力が高い状態では第1混合気導入開口43閉鎖されるので、混合気が拡張室38に逆流することを防止することができる。第1混合気導入開口43からシリンダ5内に流入した混合気は、ピストン6やシリンダ5に接触し、燃料が気化することで冷却を行うとともに燃料中の潤滑油がシリンダ5の内壁やピストン6のピストンピン8に付着して潤滑を行う。また、混合気はクランク室40内に流入してクランク室40内部のクランクシャフト10やカムシャフト13のカム等に対しても同様に冷却および潤滑を行う。クランク室40内の混合気は、ピストン6の下降によってクランク室40内の圧力が高まると、ブローバイガスとともに、ブリーザ通路44から排気側連通孔441、吸気側連通孔442を通って動弁機構室50へ流入する。排気側連通孔441、吸気側連通孔442を通って動弁機構室50に流入した混合気は、排気用プッシュロッド51と吸気用プッシュロッド52が突出する動弁機構室50の図5中の下方の側壁近傍位置から、動弁機構室50の図5中の左上の吸気弁18近傍のブローバイガス排出開口48に向かって移動するので、その間に高温の吸・排気弁18、19、吸・排気用ロッカーアーム16、17の近傍を通過する。このため、混合気中の燃料が気化して吸・排気弁18、19、吸・排気用ロッカーアーム16、17の冷却を行うことができるとともに、混合気中の潤滑油が付着して吸・排気弁18、19、吸・排気用ロッカーアーム16、17の潤滑を行うことができる。すなわち、第2混合気導入開口47とブローバイガス排出開口48とは、開口47と48の間に弁、アーム等が位置するように互いに離れた位置に設けられているため、弁等の冷却及び潤滑を確実に行うことができる。そして、ブローバイガス排出開口48からブローバイガス排出通路49に流入した混合気は一方向弁54を通過して逆流することなく吸気ポート21に流入する。この時、吸気ポート21に流入する混合気中の燃料は気化が促進しているので、燃焼室20内での燃焼を効率的に行なうことができる。
【0025】
また、上方吸気通路35に流入した混合気の一部は動弁機構室接続通路45に流入し、残りは吸気ポート21に向かって流れる。動弁機構室接続通路45に流入した混合気は、一方向弁46を通過して逆流することなく第2混合気導入開口47から動弁機構室50へ流入する。第2混合気導入開口47から動弁機構室50へ流入した混合気は、排気用プッシュロッド51に対向する動弁機構室50の図5中の右側下方の側壁から、動弁機構室50の図5中の左上の吸気弁18近傍のブローバイガス排出開口48に向かって移動するので、その間に高温の吸・排気弁18、19、吸・排気用ロッカーアーム16、17の近傍を通過する。上方吸気通路35から流入した混合気中の燃料の濃度はブリーザ通路44から流入する混合気より高いため、混合気中の燃料が気化して吸・排気弁18、19、吸・排気用ロッカーアーム16、17の冷却をより効果的に行うことができるとともに、混合気中の潤滑油が付着して吸・排気弁18、19、吸・排気用ロッカーアーム16、17の潤滑をより効果的に行うことができる。そして、ブローバイガス排出開口48からブローバイガス排出通路49に流入した混合気は一方向弁54を通過して吸気ポート21に流入する。この時、吸気ポート21に流入する混合気中の燃料は気化が促進しているので、燃焼室20内での燃焼を効率的に行なうことができる。
【0026】
吸気ポート21では、インシュレータ23の上方吸気通路35から上方吸気ポート通路部211を通って流入する混合気と、インシュレータ23の吸気ポート側通路部41から下方吸気ポート通路部212を通って流入する混合気と、ブローバイガス排出通路49から流入する混合気とが合流する。ここで、シリンダ軸線7方向において、上方吸気ポート通路部211は下流に向かって水平からやや下方に傾斜して延び、下方吸気ポート通路部212は下流に向かって斜め上方に傾斜して延びるので、合流部より下流ではそれぞれの通路211、212から流入する混合気がブローバイガス排出通路49から流入する混合気とともに衝突して燃料の濃度の均一化を促進することができる。そして、吸気弁18が開いて混合気が燃焼室20内に流入する際にも混合気が混合されるので燃焼室20内では十分に燃料の濃度が均一になり、燃焼を効率的に行うことが可能となり、エンジン1の出力を向上させることができるうえ、燃焼後の排気ガス中のCO、HC、NO等の濃度を低下させることもできる。燃焼後の排気ガスは排気弁19が開くと排気ポート22を通ってマフラ26に流入し、大気中に排出される。また、ブローバイガス排出通路49は、一方向弁54を介して、下方吸気通路36より潤滑油が少ない燃料が流れる上方吸気通路35に開口している。下方吸気通路36には上方吸気通路35より潤滑油を多く含んだ燃料が流れるが、ブローバイガス排出通路49に戻ってきた燃料は、ロッカーアーム等の潤滑のために潤滑油が消費されて潤滑油の含有率が少なくなった燃料となる。従って、もともと潤滑油の含有率が少ない燃料が流れる上方吸気通路35に、潤滑油の含有率が少なくなった燃料を戻すことにより、吸気ポート21で潤滑油の少ない燃料同士を混ざり易くすることができる。
【0027】
このように、エンジン1は、エンジン1の姿勢に係わらず、効率的に潤滑油を混合した燃料をクランク室40および動弁機構室50内に供給することができるので、クランク室40および動弁機構室50内の構成部品の冷却および潤滑を実現するとともに、エンジン1の出力を向上させる一方で、排出ガス特性の悪化を抑制し、エンジン1の信頼性と耐久性を向上することができる。
【0028】
なお、上述の実施形態では、インシュレータ23の上方吸気通路35と下方吸気通路36と、およびシリンダブロック3の上方吸気ポート通路部211と下方吸気ポート通路部212とは、それぞれシリンダ軸線7方向視において略重なるように構成されているが、このような構成に限られるものでは無い。例えば、図8、図9に示すように、シリンダブロック3の下方吸気ポート通路部212の下方吸気通路36との接続位置を水平方向に、例えば図8中で右側に移動し、図9に点線で示すように吸気弁18に向かって斜め(右斜め上)に延ばすとともに、インシュレータ23の下方吸気通路36も下方吸気ポート通路部212と滑らかに接続するよう水平方向に移動してもよい。このように構成されたエンジン1によれば、下方吸気ポート通路部212とから流入する混合気は、図9中で点線の矢印で示すようにスワールを発生させることができ、上方吸気ポート通路部211から流入する混合気との混合をより強化して燃料濃度をより均一にして、燃焼室20内での混合気をより燃焼しやすくすることができる。
【0029】
また、拡張室38は上述の構成に限られるものでは無く、例えば、図10乃至図13に示すような構成としてもよい。図10に示す構成では、下方吸気通路36の気化器側通路部39の途中に拡張室38と接続する拡張室接続開口56を設け、拡張室接続開口56から拡張室38の内部に向かう(図の下方に向かう)にしたがって、通路の断面積が拡張室接続開口56の断面積に比べて広がっている。このように構成された拡張室38の場合も、上述の場合と同様、混合気が拡張室38に流入することで流速が低下して混合気中の空気と燃料の分離を促進することが可能となる。そして、拡張室38から燃料および燃料をより多く含む濃い混合気をクランク室接続通路42に流入させることが可能となる。
【0030】
さらに、図11に示す構成では、下方吸気通路36の気化器側通路部39の拡張室38との接続位置を、吸気ポート側通路部41の拡張室38との接続位置より、下方(図の下方であって、上死点から下死点に向かう方向)に設けている。そして、吸気ポート側通路部41の断面積を気化器側通路部39の断面積より小さくし、拡張室38の吸気ポート側通路部41側に気化器側通路部39より上下方向(図の下方であって、上死点から下死点に向かう方向)の長さが長い垂直壁部57を形成している。このような構成よれば、上述の場合と同様、混合気が拡張室38に流入することで流速が低下して混合気中の空気と燃料の分離を促進することが可能となるうえ、気化器側通路部39から流入する混合気が垂直壁部57に衝突するため、空気と燃料の分離をより促進することが可能となる。そして、拡張室38から燃料および潤滑油をより多く含む濃い混合気をクランク室接続通路42に流入させることが可能となる。
【0031】
また、図12、図13に示す構成では、下方吸気通路36の気化器側通路部39と拡張室38とが接続する気化器側通路部開口58の位置を、吸気ポート側通路部41と拡張室38とが接続する吸気ポート側通路部開口59の接続位置より、下方(図12中の下方であって、上死点から下死点に向かう方向)に設けている。また、吸気ポート側通路部41および吸気ポート側通路部開口59の断面積は、気化器側通路部39および気化器側通路部開口58の断面積より小さくしている。そして、図13に示すように、拡張室38の上下方向視(シリンダ軸線7方向視)において、気化器側通路部39はインシュレータ23の長手方向の軸(インシュレータ23の上方吸気通路35が延びる軸)62に対して傾斜して配置されている。このような構成よれば、上述の場合と同様、混合気が拡張室38に流入することで流速が低下して混合気中の空気と燃料の分離を促進することが可能となる。加えて、傾斜して配置された気化器側通路部39の気化器側通路部開口58から流入する混合気が拡張室38内で旋回して上側の吸気ポート側通路部開口59に向かうため、旋回により、空気と燃料の分離をより促進することが可能となる。そして、拡張室38から燃料および燃料をより多く含む濃い混合気をクランク室接続通路42に流入させることが可能となる。さらに、気化器側通路部開口58の延長上に拡張室38の壁が位置するため、開口58から拡張室38に流入した燃料が拡張室38の壁に衝突するため、燃料に含まれる潤滑油が液化し易くなり、潤滑油をより多く含む濃い混合気をクランク室接続通路42に流入させることが可能となる。なお、拡張室38の壁をクランク室接続通路42に向けて斜め下方に傾斜させても良い。
【0032】
なお、上述の実施形態では、動弁機構室50のブローバイガス排出開口48から延びるブローバイガス排出通路49は吸気ポート21に接続するように構成されているが、このような構成に限られるものでは無い。例えば、図14に示すように、動弁機構室50のブローバイガス排出開口48から延びる一方向弁(図示せず)を有するブローバイガス排出通路49を下方吸気通路36の拡張室38より下流の吸気ポート側通路部41の吸気ポート側通路部接続開口63に接続するように構成してもよい。このような構成よれば、燃料をより多く含む濃い混合気が拡張室38からクランク室接続通路42に流れることで燃料の濃度が希薄になった吸気ポート側通路部41内に、動弁機構室50から燃料を含んだ混合気が戻すことができる。このため、安定した濃度の混合気を燃焼室20に供給することが可能となり、エンジン1の回転の追従性が向上するうえ、排気ガスの特性の悪化を抑制することが可能となる。なお、吸気ポート側通路部接続開口63をインシュレータ23の上方吸気通路35の動弁機構室接続通路45との接続位置より下流側に設けるような構成にしても、上述の効果を得ることができる。
【0033】
また、上述の実施形態では、インシュレータ23が仕切壁37により上方吸気通路35と下方吸気通路36に隔てられるだけでなく、シリンダブロック3の吸気ポート21とキャブレター24の吸気通路33も部分的に上下に隔てられる構成となっている。しかし、必ずしもこのような構成に限られるものではなく、例えば、通路が全く仕切られていない構成、インシュレータ23のみが仕切壁37を有する構成、インシュレータ23の仕切壁37が部分的に上下に隔てる構成、インシュレータ23と吸気ポート21の一部とが上下に隔てられる構成、あるいは、吸気通路33の一部とインシュレータ23とが上下に隔てられる構成であってもよく、この場合にも上述と同様の効果を得ることができる。
【0034】
なお、上述の実施形態では、エンジン1は刈払機1001に搭載されているが、このエンジン1は刈払機1001への搭載に限られるものでは無く、チェンソー、ブロワ、ヘッジトリマ等のエンジン工具に搭載されていてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 エンジン
2 シリンダヘッド
3 シリンダブロック
5 シリンダ
6 ピストン
7 シリンダ軸線
18 吸気弁
19 排気弁
20 燃焼室
21 吸気ポート
22 排気ポート
23 インシュレータ
24 キャブレター
33 吸気通路
34 燃料供給口
35 上方吸気通路
36 下方吸気通路
37 仕切壁
38 拡張室
39 気化器側通路部
41 吸気ポート側通路部
42 クランク室接続通路
43 第1混合気導入開口
45 動弁機構室接続通路
46 一方向弁
47 第2混合気導入開口
48 ブローバイガス排出開口
49 ブローバイガス排出通路
50 動弁機構室
51 排気用プッシュロッド
52 吸気用プッシュロッド
54 一方向弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックに形成されるシリンダボアに摺動可能に収容されるピストンの頂面と、前記シリンダボアと、シリンダヘッドとの間に形成される燃焼室と、
前記シリンダヘッドに形成され前記燃焼室に連通する吸気ポートおよび排気ポートと、
前記吸気ポートの前記燃焼室側の開口を開閉する吸気弁および前記排気ポートの前記燃焼室側の開口を開閉する排気弁と、
前記シリンダヘッドに設けられ、前記吸気弁および前記排気弁を開閉駆動する動弁機構が収容される動弁機構室と、
潤滑油が混合された燃料を供給する気化器と、
前記吸気ポートと前記気化器の吸気通路とを連通する第1通路と、
該第1通路と前記動弁機構室とを連通する第2通路と、
該第2通路より前記吸気ポート側で前記第1通路に接続し、前記第1通路と前記動弁機構室とを連通する、第3通路と、
前記シリンダブロックに取付けられるクランクケースに形成されるクランク室と前記第1通路とを連通する第4通路と、
前記動弁機構室と前記クランク室とを連通する第5通路と、を備え、
前記第2通路が前記動弁機構室に接続する第1接続口を、前記第3通路が前記動弁機構室に接続する第2接続口から、離間して配置する、
ことを特徴とする4サイクルエンジン。
【請求項2】
前記シリンダボアの軸線方向視において、前記第1接続口および前記第2接続口の一方を、前記第1接続口および前記第2接続口の他方より、前記吸気弁の近くに配置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の4サイクルエンジン。
【請求項3】
前記シリンダボアの軸線方向視において、前記第1接続口と前記第2接続口との間を結ぶ線上に、前記動弁機構および前記吸気弁および前記排気弁の少なくとも1つを設ける、
ことを特徴とする請求項2に記載の4サイクルエンジン。
【請求項4】
前記第2通路には、前記第1通路から前記動弁機構室に向かう流れを許容する第1の一方向弁を設け、
前記第3通路には、前記動弁機構室から前記第1通路に向かう流れを許容する第2の一方向弁を設ける、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の4サイクルエンジン。
【請求項5】
前記気化器には、前記吸気通路の内壁側に偏在して前記燃料を供給する燃料供給口が設けられ、
前記第1通路には、前記第1通路を流路方向に、前記気化器側の端部において前記燃料供給口側に偏在して開口する第1通路部と第2通路部とに2分割する仕切り壁が設けられ、
前記第2通路が前記第2通路部に接続され、前記第4通路が前記第1通路部に接続される、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の4サイクルエンジン。
【請求項6】
前記シリンダボアの軸線方向視において、前記動弁機構室の外周近傍に前記第1接続口と前記第2接続口とを設け、
前記第1接続口及び前記第2接続口の一方を、他方より、前記第5通路が前記動弁機構室に接続する第5通路接続開口の近くに配置する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の4サイクルエンジン。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の4サイクルエンジンを備える、
ことを特徴とするエンジン作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−231753(P2011−231753A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105757(P2010−105757)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】