説明

COF用ポリイミドフィルムおよび積層体

【課題】 寸法精度が高く内添無機フィラ−による大きな突起が実質的になく、フィルム表面が平滑であり吸湿寸法精度が高く、高品質の銅張基板を与えるCOF用ポリイミドフィルム、スプリングバックの起こる可能性が低減し、ポリイミドフィルムの剛性および吸湿寸法精度が四元系ポリイミドフィルムに比べて改良された積層体を提供する。
【解決手段】 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを各々主成分として熱イミド化によって製造されるポリイミドからなるフィルムであって、フィルムに添加する前の無機フィラ−が平均粒径1μm以下でありこれより大きい平均粒径の無機フィラ−に起因する突起を有さず、厚みが25〜35μmであるCOF用ポリイミドフィルム、COF用ポリイミドフィルムを真空下に放電処理した後、下地金属薄膜さらに導電性金属メッキ層からなる導電性金属層を形成してなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、COF用ポリイミドフィルムおよび積層体に関し、さらに詳しくは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを各々主成分として製造されるポリイミドからなるフィルムであって、厚みが25〜35μmであるCOF用ポリイミドフィルムおよび該ポリイミドフィルムに直接導電性金属層を形成したCOF用の積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、電気絶縁性、機械的強度等において優れた特性を有することから、種々の分野で広く利用されている。なかでも、高精度が求められる用途にはテ−プ・オ−トメ−テッド・ボンディング(TAB)が主として使用されている。
このTAB用ポリイミドフィルムとしては、厚みが75μmのものが主として使用されており、更に50μmのものが検討されている。
【0003】
従来、TABはポリイミドフィルムを熱硬化性の接着剤で銅箔と張合わせた複合材料が一般的である。しかし、使用できる接着剤の耐熱性が200℃以下であり、ハンダ工程等で高温にさらされる場合など使用に制限を受けるため、銅箔とポリイミドフィルムとの張合わせ複合材料としてはより耐熱性のあるものが期待されていた。また、この場合、銅箔の厚さに制限があり、薄い複合材料を製造できないという問題がある。すなわち、エッチングでファインパタ−ンの回路を形成することが困難となり、一部の用途に適用できなくなる。
【0004】
その対策として接着剤を使用しないで、ポリイミドフィルム支持体に銅層が形成された「無接着剤型の複合材料」が提案されている。
例えば、ベ−スフィルムとして、剛性が高く、熱収縮率が小さく、低吸湿性のビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびp−フェニレンジアミンを使用したポリイミドフィルムを基材として下地金属を蒸着・スパッタにより直接形成した二層フィルムが検討されている。しかし、前記のポリイミドフィルムは複合材料の下地金属との剥離強度が小さいことが指摘されている。
【0005】
このため、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびp−フェニレンジアミンを使用したポリイミドコア層にピロメリット酸二無水物を使用したポリイミド薄層を設けた多層ポリイミドフィルムに金属膜を設けた金属膜付きポリイミドフィルムが提案された(特許文献1、特許文献2)。
しかし、上記の金属膜付きポリイミドフィルムは、金属と接する薄層側のポリイミドの方がポリイミドコア層よりもエッチング速度が大きいためエッチングにより下地金属に異常が生じ良好な電気特性を有する回路基板を形成することが困難となり、ファインパタ−ンの用途には適用できなくなる。
【0006】
また、ポリイミドフィルムに特定の下地金属薄膜および銅メッキ層を形成して接合強度の大きい金属化ポリイミドフィルムが提案された(特許文献3、特許文献4)
さらに、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびp−フェニレンジアミンを使用したポリイミドフィルムにビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびジアミノジフェニルエ−テルを使用したポリイミド薄層を設けた多層ポリイミドフィルムに金属膜を設けたピ−ル強度の大きい銅張積層基板が提案された(特許文献5、特許文献6、特許文献7)。
【0007】
【特許文献1】特開平6−124978号公報
【特許文献2】特開平6−210794号公報
【特許文献3】特開2003−11272号公報
【特許文献4】特開2003−11273号公報
【特許文献5】特開2003−71983号公報
【特許文献6】特開2003−17275号公報
【特許文献7】特開2003−340964号公報
【0008】
一方、芳香族テトラカルボン酸二無水物として少量のビフェニルテトラカルボン酸二無水物およびおよび芳香族ジアミンとして少量のp−フェニレンジアミンを使用した化学イミド化プロセスによって製造される四元系のポリイミドフィルムに下地金属薄膜さらに銅メッキ層を形成した積層体がCOF用に使用されはじめている。
この四元系ポリイミドフィルムは製造プロセスに起因するのかフィルム幅方向における厚み精度が低く、主成分であるピロメリット酸二無水物に起因して吸湿寸法変化率がやや大きく、しかもポリイミド自体の剛性が低いためか多量の粒子径の大きい無機フィラ−が添加されておりこの内添無機フィラ−による大きい突起、例えば1μmより大きい粗さ(高さ)を有する突起がフィルム表面に存在し、製膜プロセスの影響でフィルム表面に微小なうねりがあり、ファインピッチパタ−ンが求められる高品質の銅張基板としては適さないことが指摘されている。
【0009】
また、TAB用ポリイミドフィルムをCOF用ポリイミドフィルムとして使用すると、最終製品(パネル実装部品)にする際にU字型に折り曲げるがこのときの元に戻ろうとする力(スプリングバックと呼ばれる。)が大きくパネルとの接合部に不具合が生じることが指摘されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明の目的は、寸法精度が高く内添無機フィラ−による大きな突起が実質的になく、フィルム表面が平滑であり吸湿寸法精度が高く、高品質の銅張基板を与えるCOF用ポリイミドフィルムを提供することである。
また、この発明の他の目的は、スプリングバックの起こる可能性が低減し、ポリイミドフィルムの剛性および吸湿寸法精度が四元系ポリイミドフィルムに比べて改良された積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを各々主成分として熱イミド化によって製造されるポリイミドからなるフィルムであって、フィルムに添加する前の無機フィラ−が平均粒径1μm以下でありこれより大きい平均粒径の無機フィラ−に起因する突起を有さず、厚みが25〜35μmであるCOF用ポリイミドフィルムに関する。
また、この発明は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを各々主成分として製造されるポリイミドからなるフィルムであって、1)フィルム幅方向における厚み精度に関してTmax−Tminが1μm以下であり、2)フィルムに添加する前の無機フィラ−が平均粒径1μm以下でありこれより大きい平均粒径の無機フィラ−に起因する突起を有さず、厚みが25〜35μmであるCOF用ポリイミドフィルムに関する。
さらに、この発明は、COF用ポリイミドフィルムを真空下に放電処理した後、下地金属薄膜さらに導電性金属メッキ層からなる導電性金属層を形成してなる積層体に関する。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、フィルムの寸法精度が高く、内添無機フィラ−による大きな突起が実質的になく、大きなうねりが実質的になくフィルム表面が平滑であり吸湿寸法精度が高く、高品質の銅張基板を与え、COFに好適なポリイミドフィルムが得られる。
また、この発明によれば、スプリングバックの起こる可能性が低減し、ポリイミドフィルムの剛性および吸湿寸法精度が四元系ポリイミドフィルムに比べて改良された積層体が得られる。
そして、この発明によれば、銅膜などの金属膜形成した金属面の表面状態が良好な金属薄膜付きポリイミドフィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下にこの発明の好ましい態様を列記する。
1)フィルム表面にシランカップリング剤によって表面処理されてなる上記のCOF用ポリイミドフィルム。
2)スプリングバック値が1.5g以下である上記のCOF用ポリイミドフィルム。
3)さらに、3)最大径50μm以上の液滴状の欠陥が15個/1m以下である上記のCOF用ポリイミドフィルム。
4)1)フィルム幅方向における厚み精度に関してTmax−Tminが0.7μm以下である上記のCOF用ポリイミドフィルム。
5)フィルムが、熱イミド化によって製造されたものである上記のCOF用ポリイミドフィルム。
【0014】
6)2)フィルムに添加する前の無機フィラ−が、平均粒径が0.005〜0.3μmでありこれより大きい平均粒径の無機フィラ−に起因する突起を有さない上記のCOF用ポリイミドフィルム。
7)フィルムが、MDおよびTDとも10×10−6〜17×10−6cm/cm/℃のCTE(線膨張係数)を有し、CTE(TD)−CTE(MD)が0以上で5×10−6cm/cm/℃以下である上記のCOF用ポリイミドフィルム。
8)導電性金属メッキ層が、銅メッキ層である上記の積層体。
9)下地金属薄膜が、平均厚みが0.05〜5nmのNiとCrとの合金あるいはMoとNi、Al、WおよびFeからから選択される少なくとも1種の金属との合金および平均厚みが10nm以上の銅層からなる上記の積層体。
【0015】
この明細書において、前記のフィルムの、スプリングバック値、フィルム幅方向における厚み精度に関してTmaxおよびTmin、無機フィラ−の平均粒径、フィルムの厚み、フィルムの線膨張係数は次の測定法により測定される値を意味する。
フィルム幅方向における厚み精度:フィルムの幅方向(TD方向)は全幅、フィルムの進行方向(MD方向)は50mm長さの帯状試験片を採取し、中央部より両端部に向かって30mm間隔毎に厚み計(ファインプリュ−フ社製、ミリトロン)により測定し、厚みの最大値(Tmax)と最小値(Tmin)を求めた。
フィルムのスプリングバック値:短冊状(1cm×7cm)に切取ったフィルムのMD方向を長辺にし、短い辺を合わせて円筒状にした合わせ目に接着剤を少量付け、スライドガラスに固定する。スライドガラスに固定したフィルムを天秤にのせフィルムを治具で上から押さえ、スライドガラスと治具との間隔が19mmになった時点で固定し1分後の荷重を測定し、スプリングバック値とした。
フィルムの平滑性:三次元非接触式表面形状測定システムにより、表面形状測定装置(菱化システム社製、MM520ME−M100)を用いてフィルム表面を測定し、平均うねり、2乗平均平方根うねりおよび最大突起高さを求めた。
前記の平均うねりは10nm以下、特に1nm以下であることが好ましく、2乗平均平方根うねりは10nm以下、実用的には0.1〜10nm、特に0.1〜1nmであることが好ましく、最大突起高さは1000nm(1μm)以下、実用的には1〜1000nm、特に1〜300nm(0.3μm)、その中でも1〜30nmであることが好ましい。
なお、前記のうねりとは、断面曲線にカットオフ値λc(0.08mm)の輪郭フィルタをかけることによって得られる輪郭曲線を意味する。
無機フィラ−の平均粒径:粒度分布計(例えば、堀場製作所製、LA910)を用いて粒度分布測定し、平均粒径を求めた。
フィルムの厚み:フィルム幅方向における厚み精度と同じ測定法で測定した。
フィルムの線膨張係数(50〜200℃):300℃で30分加熱して応力緩和したサンプルをTMA装置(引張りモ−ド、2g荷重、試料長10mm、20℃/分)で測定した。
【0016】
この発明においては、芳香族テトラカルボン酸成分として主として(50モル%以上)、好適には75モル%以上の割合で3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が使用される。主成分が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外の芳香族テトラカルボン酸二無水物では、吸湿寸法精度が低下し目的とするCOF用ポリイミドフィルムを得ることができない。
この発明の効果を損なわない範囲で他の芳香族テトラカルボン酸を使用してもよい。このような芳香族テトラカルボン酸成分としては、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物などを挙げることができる。
【0017】
この発明においては、芳香族ジアミン成分として主として(50モル%以上)、好適には75モル%以上の割合でp−フェニレンジアミンが使用される。主成分がp−フェニレンジアミン以外の芳香族ジアミンでは、フィルムの寸法精度が低下し、目的とするCOF用ポリイミドフィルムを得ることができない。
この発明の効果を損なわない範囲で他の芳香族ジアミンを使用してもよい。このような芳香族ジアミン成分としては、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2’−ビス〔4−(アミノフェノキシ)フェニル〕1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エ−テル、o−トリジンなどを挙げることができる。
【0018】
この発明においては、ポリイミドフィルムは、フィルムに添加する前の無機フィラ−が平均粒径1μm以下でありこれより大きい平均粒径の無機フィラ−に起因する突起を有さず、厚みが25〜35μm、好適には30〜35μm、特に好ましくは33〜35μmである。
また、この発明においては、ポリイミドフィルムは、1)フィルム幅方向における厚み精度に関してTmax−Tminが1μm以下、好適には0.7μm以下であり、2)フィルムに添加する前の無機フィラ−が平均粒径1μm以下でありこれより大きい平均粒径の無機フィラ−に起因する突起を有さず、厚みが25〜35μm、好適には30〜35μm、特に好ましくは33〜35μmである。
フィルムに添加する前の無機フィラ−が平均粒径1μmより大きい無機フィラ−を添加して得られるポリイミドフィルムではファインパタ−ンの求められる用途に好適ではない。また、ポリイミドフィルムの厚みが前記の下限より小さいと安定した搬送が困難となり好ましくないため厚みは大きい程好ましく、また前記の上限より大きいと積層体のスプリングバックが大きくなる。このため、厚みは前記の範囲内であることが好ましい。
さらに、ポリイミドフィルムのフィルム幅方向における厚み精度に関してTmax−Tminが1μmより大きいと、ポリイミドフィルムに形成した下地金属薄膜上に導電性金属メッキ層を形成する際に均一な導電性金属層を形成することが困難となり得られる積層体に大きな反りが生じてしまう。
【0019】
この発明の厚み精度、無機フィラ−に起因する突起および厚みを前記の範囲内に制御したポリイミドフィルムは、例えば以下のようにして製造することができる。好適には先ず前記3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとをN,N−ジメチルアセトアミドやN−メチル−2−ピロリドンなどのポリイミドの製造に通常使用される有機極性溶媒中で、好ましくは10〜80℃で1〜30時間重合して、ポリマ−の対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ml溶媒、溶媒:N−メチル−2−ピロリドン)が1.5〜5、ポリマ−濃度が15〜25質量%であり、回転粘度(30℃)が500〜4500ポイズであるポリアミック酸(イミド化率:5%以下)溶液を得る。
【0020】
次いで、例えば上記のようにして得られたポリアミック酸溶液に、好適には、リン化合物を、好ましくはこのポリアミック酸100質量部に対して0.01〜2質量部の割合で有機リン化合物、好適には(ポリ)リン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩あるいは無機リン化合物を添加し、さらに好適にはポリアミック酸100質量部に対して0.1〜3質量部のコロイダルシリカ、窒化珪素、タルク、酸化チタン等の微細無機フィラ−であって好適には平均粒径が0.005〜0.3μm、特に0.005〜0.1μmのものを添加してポリイミド前駆体溶液組成物を得る。
【0021】
このポリイミド前駆体溶液組成物を平滑な表面を有する金属製の支持体表面に200〜300μmの厚みで連続的に流延して前記溶液の薄膜を形成し、その薄膜を乾燥する際に、120〜170℃、2〜20分間程度加熱乾燥することにより、固化フィルム中、前記溶媒及び生成水分からなる揮発分含有量が25〜30質量%程度の自己支持性フィルムを得る。この自己支持性フィルムにシランカップリング剤などの表面処理剤を塗布処理してもよいし、これをさらに乾燥してもよい。前記のシランカップリング剤としては、アミノシラン化合物、エポキシシラン化合物を挙げることができる。すなわち、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチル−トリメトキシシラン、γ−グリシリドキシプロプル−トリメトキシシランなどのエポキシシラン化合物、γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−(アミノカルボミル)−γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−〔β−(フェニルアミノ)エチル〕−γ−アミノプロピル−トリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピル−トリエトキシシランなどのアミノシラン化合物が好ましい。なかでも特にN−フェニル−γ−アミノプロピル−トリエトキシシランが好ましい。前記のシランカップリング剤は、この化合物を0.5〜60質量%の濃度で含有している溶液として用いることが好ましい。低級アルコ−ル、アミド系溶媒などの有機溶媒に均一に溶解している低い粘度の溶液が好ましい。前述の芳香族ポリアミック酸の製造に使用される重合溶媒あるいはエチルアルコ−ル、メチルアルコ−ル、プロプルアルコ−ル、ブチルアルコ−ルなどの低級アルコ−ルを使用することができる。
【0022】
次いで、この自己支持性フィルムをレ−ルに沿って駆動するチェ−ンに取り付けたフィルム把持装置に両端部を把持させて連続加熱炉の挿入し、その際に加熱炉に導入される自己支持性フィルムが揮発成分を27〜28質量%含有する乾燥状態に調整し、キュア炉内における最高加熱温度:400〜525℃程度、特に475〜500℃程度の温度が0.5〜30分間となる条件で該乾燥フィルムを加熱して乾燥およびイミド化して、残揮発物量0.4質量%以下程度で、イミド化を完了することによって長尺状の芳香族ポリイミドフィルムを好適に製造することができる。
【0023】
上記のようにして得られた芳香族ポリイミドフィルムを、好適には低張力下あるいは無張力下に200〜400℃程度の温度で加熱して応力緩和処理して、巻き取って、フィルム厚みが30〜35μmでって、好適には50〜200℃におけるCTE(線膨張係数)(MD)およびCTE(TD)が10X10−6〜17X10−6cm/cm/℃で、かつCTE(TD)−CTE(MD)が0以上で5X10−6cm/cm/℃以下であり、特に引張弾性率(MDおよびTD)が700kgf/mm以上、実用的(工業的に容易に生産できかつ効果上有益という意、以下同じ)には700〜1000kgf/mmであるポリイミドフィルムを得ることができる。
前記の方法によって得られるポリイミドフィルムは、キュア工程において液滴状の欠陥が生じる危険性が低く、液滴状の欠陥を含めて最大径50μm以上の前記の欠陥は15個/1mm以下、実用的には1〜15個/1mmであり、特にCOF用ポリイミドフィルムとして好適である。
【0024】
また、このようにして厚みを制御した、剛性が大きく良好な表面を有するポリイミドフィルムは、好適には真空下にプラズマ等の放電処理される。
前記の放電処理は、フィルム表面を処理せずあるいはアセトン、イソプロピルアルコ−ル、エチルアルコ−ルなどの有機溶媒で処理した後行ってもよい。
【0025】
前記の真空プラズマ放電処理を行う雰囲気の圧力は特に限定されないが、0.1〜1500Paの範囲が好ましい。前記プラズマ処理を行う雰囲気のガス組成としては、特に限定されないが酸素を含有することが好ましい。あるいは、希ガスを少なくとも20モル%含有していてもよい。希ガスとしてはHe、Ne、Ar、Xeなどが挙げられるが、Arが好ましい。希ガスにCO、N、H、HOなどを混合して使用してもよい。前記プラズマ処理を行うプラズマ照射時間は1秒〜10分程度が好ましい。
【0026】
この発明の積層体は、次いで、金属蒸着および金属メッキ層とで金属層を形成することによって得られる。この金属を蒸着する方法としては真空蒸着法、スパッタリング法などの蒸着法を挙げることができる。真空蒸着法において、真空度が、10−5〜1Pa程度であり、蒸着速度が5〜500nm/秒程度であることが好ましい。スパッタリング法において、特にDCマグネットスパッタリング法が好適であり、その際の真空度が13Pa以下、特に0.1〜1Pa程度であり、その層の形成速度が0.05〜50nm/秒程度であることが好ましい。得られる金属蒸着膜(下地+中間層)の厚みは10nm以上、1μm以下であり、そのなかでも0.1μm以上、0.5μm以下であることが好ましい。この上に好適には金属メッキにより肉厚の膜を形成することが好ましい。その厚みは、約1〜20μm程度、特に5〜20μmである。
【0027】
金属薄膜の材質としては、種々の組み合わせが可能である。金属蒸着膜として下地層と表面蒸着金属層を有する2層以上の構造としてもよい。下地層としては、ニッケル、クロム、モリブデン、チタン、パラジウム、亜鉛、アルミニウム、錫、コバルト、ジルコニウム、鉄、タングステンなどを単独で、あるいはこれらの金属の合金あるいはこれらの金属と銅との合金等が挙げられ、下地層の厚みは0.01nm以上10nm以下が好ましい。表面層(あるいは中間層)としては銅が挙げられる。蒸着層上に設ける金属メッキ層の材質としては、銅が使用される。金属メッキ層の形成方法としては、無電解メッキ法および電解メッキ法のいずれでもよい。また、真空プラズマ放電処理したポリイミドフィルムの片面に、ニッケル、クロム、モリブデン、チタン、パラジウム、亜鉛、アルミニウム、錫、コバルト、ジルコニウム、鉄、タングステンなどを単独で、あるいはこれらの金属の合金あるいはこれらの金属と銅との合金の下地金属層を形成し、その上に中間層として銅の蒸着層を形成した後、銅の無電解メッキ層を形成し(無電解メッキ層を形成することは発生したピンホ−ルをつぶすのに有効である。)、あるいは、金属蒸着層の厚みを大きくして、例えば0.1〜1.0μmとして銅などの無電解金属メッキ層を省略し、表面層として電解銅メッキ層を形成してもよい。
【0028】
以下にこの発明の実施例を示す。以下の各例において、ポリイミドフィルムの物性測定は以下の方法によって行った。なお、以下の測定値は特記した場合を除き25℃での測定値である。
引張弾性率:ASTM D882に従って測定(MD、TD)
接着強度:銅張積層体について90度剥離強度を引張速度:50mm/分で測定した。
フィルム表面の欠陥:顕微鏡で最大径(楕円形や矩形など非円形状の場合最も長い部分の径を意味する)50μm以上の欠陥数を顕微鏡で測定した。
積層体の銅面の表面状態:表面を顕微鏡観察し、大きな凹凸が認められない場合を表面状態が良好とし、大きな凹凸が認められる場合を表面状態が不良と判断した。
以下の記載で%は質量%を意味する。
【0029】
比較例1
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とP−フェニレンジアミンとから得られるポリアミック酸の18質量%のN,N−ジメチルアセトアミド溶液に、ポリアミック酸100質量部に対してモノステアリルリン酸エステルトリエタノ−ルアミン塩0.1質量部およびシリカフィラ−(平均粒径:0.08μm、日産化学社製、ST−ZL)0.5質量部を添加して、乾燥後のフィルム厚みが50μmとなるようにステンレス基板上に流延して120℃の熱風で乾燥を行い、基板から剥離して自己支持性フィルムを得た。得られた自己支持性フィルムを加熱炉にて140℃から450℃に徐々に昇温して溶媒の除去、イミド化を行って、厚み50μmのポリイミドフィルムを得た。
得られたフィルムの凹凸およびスプリングバック値を測定した。
3個のサンプルについて、スプリングバック値の平均は2.99gであった。
【実施例1】
【0030】
N,N−ジメチルアセトアミドに、p−フェニレンジアミンおよび当量の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を加えて、重合反応させてポリマ−濃度18質量%、ポリマ−の対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ml溶媒、溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド)が1.8、溶液粘度1800ポイズ(30℃)のポリアミック酸溶液を得た。 この溶液に、ポリアミック酸100質量部に対して0.1質量部の割合でモノステアリルリン酸エステルトリエタノ−ルアミン塩および0.5質量部の割合で平均粒径0.08μmのコロイダルシリカを添加して均一に混合して、ポリイミド前駆体溶液組成物を得た。
このポリイミド前駆体溶液組成物を、Tダイのスリットより厚み300μmで連続的に押出し、平滑な金属支持体上に薄膜を形成した。この薄膜を120〜160℃で10分間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを形成し、さらにこれを乾燥し揮発分含有量を27.5質量%とした。
次いで、この自己支持性フィルムを両端部を把持させて連続加熱炉の挿入し、キュア炉内における最高加熱温度:500℃程度の温度が0.5分間となる条件で該乾燥フィルムを加熱して乾燥およびイミド化して、残揮発物量0.4質量%以下で、イミド化が完了した厚み35μmの長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
得られたフィルムについて測定した結果を次に示す。
3個のサンプルについて、スプリングバック値の平均は1.36gであった。
最大径50μm以上の前記の欠陥:8個/1m
平均うねり:0.586nm
2乗平均平方根うねり:0.747nm
うねり高さ:6.661nm
平均粗さ:0.471nm
2乗平均平方根粗さ:0.604nm
最大粗さ:17.0nm
厚み精度
max=35.4μm
min=34.7μm
CTE(MD):14.5X10−6cm/cm/℃
CTE(TD):16.3X10−6cm/cm/℃
引張弾性率(MD):970kgf/mm
【実施例2】
【0031】
このポリイミドフィルムについて以下の条件で処理を行った。
処理1:減圧プラズマ処理によるフィルム表面エッチング
減圧プラズマ処理装置内にポリイミドフィルムを設置後、0.1Pa以下に減圧後、Arガスを導入しAr=100%、圧力=0.67Pa、パワ−=300W(13.56MHz)にて処理を行った。
処理2:NiCr下地層形成
DCスパッタリング装置に処理1のポリイミドフィルムを入れ、2×10−4Pa以下の真空に排気後、Arを導入し、0.67Paとした後にNi/Cr=20/80(質量比)となるタ−ゲットを用いて、DCスパッタにより5nmの厚みでニッケル−クロム合金薄膜を形成した。
処理3:銅膜形成
処理2に連続して、Ar0.67Pa雰囲気にてDCスパッタリングにより、Cu薄膜を300nm形成し、大気中に取り出した。
さらに、酸性硫酸銅溶液を用いて電解メッキを行い、金属膜が20μmとなるように銅メッキを施した。
なお、酸性硫酸銅電解メッキは、アルカリ脱脂−水洗−酸洗−メッキ処理の手順、電流値が1A/dm(5分)次いで8A/dm(20分)にて行って、下地金属として5nmの厚みでNi/Cr合金層を有し、銅蒸着層厚み300nm、銅電解メッキ層厚み20μmの金属膜厚み20μmの金属薄膜付きポリイミドフィルムを得た。
初期剥離強度:0.5kgf/cm
熱処理(150℃×168時間)の剥離強度:0.2kgf/cm
銅面の表面状態:良好
【0032】
比較例2
市販の他社品の4元系COF用ポリイミドフィルム(厚み38μm)について評価した。このポリイミドフィルムについて測定したところ平均粒径1μm以上の無機フィラ−が内添されている。
最大径50μm以上の前記の欠陥:31個/1m
平均うねり:15.1nm
2乗平均平方根うねり:19.2nm
うねり高さ:130.0m
平均粗さ:50.0nm
2乗平均平方根粗さ:0.604nm
最大粗さ:1904.7nm
厚み精度
max=37.9μm
min=37.3μm
【実施例3】
【0033】
自己支持性フィルム上にシラン系カップリング剤(日本ユニカ−社製、Y9669)の3%溶液を塗布し、120℃の熱風で乾燥を行い、基板から剥離して自己支持性フィルムを得た。得られた自己支持性フィルムを加熱炉にて140℃から450℃に徐々に昇温して溶媒の除去、イミド化を行った他は実施例6と同様にして、厚み35μmの表面がシランカップリング剤で処理した長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
得られたフィルムについて測定した結果を次に示す。
3個のサンプルについて、スプリングバック値の平均は1.23gであった。
最大径50μm以上の前記の欠陥:8個/1m
平均うねり:0.289nm
2乗平均平方根うねり:0.340nm
うねり高さ:1.404nm
平均粗さ:0.815nm
2乗平均平方根粗さ:1.095nm
最大粗さ:21.0nm
厚み精度
max=35.5μm
min=34.8μm
CTE(MD):12.7X10−6cm/cm/℃
CTE(TD):13.7X10−6cm/cm/℃
引張弾性率(MD):990kgf/mm
【実施例4】
【0034】
Tダイのスリットより厚み290μmで連続的に押出した他は実施例3と同様にして、平滑な金属支持体上に薄膜を形成した。この薄膜を120〜160℃で10分間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを形成し、さらにこれを乾燥し揮発分含有量を27.5質量%とした。
この自己支持性フィルムを用いた他は実施例3と同様にして、厚み33μmの表面がシランカップリング剤で処理した長尺状ポリイミドフィルムを製造した。
得られたフィルムについて測定した結果を次に示す。
3個のサンプルについて、スプリングバック値の平均は1.01gであった。
最大径50μm以上の前記の欠陥:8個/1m
平均うねり:0.328nm
2乗平均平方根うねり:0.383nm
うねり高さ:1.40nm
平均粗さ:0.958nm
2乗平均平方根粗さ:1.208nm
最大粗さ:18.47nm
厚み精度
max=33.4μm
min=32.7μm
CTE(MD):11.4X10−6cm/cm/℃
CTE(TD):13.0X10−6cm/cm/℃
引張弾性率(MD):990kgf/mm
【実施例5】
【0035】
実施例1のポリイミドフィルムに代えて、実施例3で得られたポリイミドフィルムを用いた他は実施例2と同様にして、ポリイミドフィルムの処理、下地金属層形成、銅膜形成および銅電解メッキ層を形成して、金属膜厚み20μmの金属薄膜付きポリイミドフィルムを得た。
銅面の表面状態:良好
初期剥離強度:0.8kgf/cm
熱処理(150℃×168時間)の剥離強度:0.34kgf/cm
【実施例6】
【0036】
実施例1のポリイミドフィルムに代えて、実施例4で得られたポリイミドフィルムを用いた他は実施例2と同様にして、ポリイミドフィルムの処理、下地金属層形成、銅膜形成および銅電解メッキ層を形成して、金属膜厚み20μmの金属薄膜付きポリイミドフィルムを得た。
銅箔面の表面状態:良好
初期剥離強度:0.98kgf/cm
熱処理(150℃×168時間)の剥離強度:0.28kgf/cm
【0037】
比較例3
実施例1のポリイミドフィルムに代えて、比較例2の市販の他社4元系ポリイミドフィルムを用いた他は実施例2と同様にして、ポリイミドフィルムの処理、下地金属層形成、銅膜形成および銅電解メッキ層を形成して、金属膜厚み20μmの金属薄膜付きポリイミドフィルムを得た。
銅面の表面状態:不良
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、実施例1で得られたCOF用ポリイミドフィルムの表面を三次元非接触式表面形状測定により表面形状を測定したものである。
【図2】図2は、比較例2の他社品である四元系のCOF用ポリイミドフィルムの表面を三次元非接触式表面形状測定により表面形状を測定したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを各々主成分として熱イミド化によって製造されるポリイミドからなるフィルムであって、フィルムに添加する前の無機フィラ−が平均粒径1μm以下でありこれより大きい平均粒径の無機フィラ−に起因する突起を有さず、厚みが25〜35μmであるCOF用ポリイミドフィルム。
【請求項2】
フィルム表面にシランカップリング剤によって表面処理されてなる請求項1に記載のCOF用ポリイミドフィルム。
【請求項3】
スプリングバック値が1.5g以下である請求項1に記載のCOF用ポリイミドフィルム。
【請求項4】
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンとを各々主成分として製造されるポリイミドからなるフィルムであって、1)フィルム幅方向における厚み精度に関してTmax−Tminが1μm以下であり、2)フィルムに添加する前の無機フィラ−が平均粒径1μm以下でありこれより大きい平均粒径の無機フィラ−に起因する突起を有さず、厚みが25〜35μmであるCOF用ポリイミドフィルム。
【請求項5】
さらに、3)最大径50μm以上の欠陥が15個/m以下である請求項4に記載のCOF用ポリイミドフィルム。
【請求項6】
1)フィルム幅方向における厚み精度に関してTmax−Tminが0.7μm以下である請求項4に記載のCOF用ポリイミドフィルム。
【請求項7】
フィルムが、熱イミド化によって製造されたものである請求項1あるいは4に記載のCOF用ポリイミドフィルム。
【請求項8】
2)フィルムに添加する前の無機フィラ−が、平均粒径が0.005〜0.3μmでありこれより大きい平均粒径の無機フィラ−に起因する突起を有さない請求項4に記載のCOF用ポリイミドフィルム。
【請求項9】
フィルムが、MDおよびTDとも10×10−6〜17×10−6cm/cm/℃のCTE(線膨張係数)を有し、CTE(TD)−CTE(MD)が0以上で5×10−6cm/cm/℃以下である請求項4に記載のCOF用ポリイミドフィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のCOF用ポリイミドフィルムを真空下に放電処理した後、下地金属薄膜さらに導電性金属メッキ層からなる導電性金属層を形成してなる積層体。
【請求項11】
導電性金属メッキ層が、銅メッキ層である請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
下地金属薄膜が、平均厚みが0.05〜5nmのNiとCrとの合金あるいはMoとNi、Al、WおよびFeからから選択される少なくとも1種の金属との合金および平均厚みが10nm以上の銅層からなる請求項10に記載の積層体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−124685(P2006−124685A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283834(P2005−283834)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】