説明

CPP構造磁気抵抗効果型ヘッド

【課題】CPP構造磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、ピニング層とピン止めされる強磁性層の交換結合特性を劣化させることなく、磁気抵抗効果センサ膜の発熱を抑制し、放熱を向上させ、さらに高いSNRを達成する。
【解決手段】下部シールド層11と上部シールド層21との間に、少なくともピニング層13を有する磁気抵抗効果センサ膜20が配置されているCPP構造の磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、磁気抵抗効果センサ膜20を構成する少なくともピニング層13の側壁に、ピニング層13を構成する材料の電気抵抗率よりも小さい電気抵抗率を有する材料から構成される側面金属層30を設け、さらに側面金属層30が磁気抵抗効果センサ膜側壁に沿って下部シールド層11と接するように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果膜の積層面を貫くようにセンス電流を流すCPP (Current perpendicular to the plane) 構造の磁気抵抗効果型ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
外部磁界の変化に応じて、電気抵抗が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗センサは、優れた磁界センサとして知られており、磁気記録再生装置の主要な部品である磁気ヘッドの再生素子として実用化されている。磁気記録再生装置は小型化が進展しているため、情報を読み書きする磁気ヘッドに対しても性能向上が求められている。そのうち、再生素子の主な課題としては、高記録密度化と高出力化が挙げられる。
【0003】
高記録密度化に関しては、トラック幅の狭小化と再生分解能の向上が必要である。トラック幅の狭小化については、磁気記録媒体から発生する信号磁界を電気信号に変換する磁気抵抗効果センサ膜のトラック幅方向の物理的な幅を狭く形成することによって達成することができ、そのために、フォトリソグラフィー技術を始めとするパターン形成技術の開発とその改良が行われてきた。
【0004】
一方、再生分解能の向上については、磁気抵抗効果センサ膜の上下に配置する下部シールド層および上部シールド層の2層のシールド層の間隔(再生ギャップ長)を狭くすることによって達成することができる。再生ギャップ長を狭くするに際しては、再生ヘッドの構造も考慮することが必要である。磁気抵抗効果センサ膜の膜面内方向にセンス電流を流すCIP(Current into the plane) 構造の再生ヘッド、例えば異方性磁気抵抗効果(AMR)ヘッドや巨大磁気抵抗効果(GMR)ヘッドでは、センス電流がシールド層に漏れて出力が低下することがないように、磁気抵抗効果センサ膜と上下のシールド層との間に絶縁層を設ける必要があるため、再生ギャップ長を50 nm程度以下にするのは困難である。これ以下の再生ギャップ長を実現するためには、上下のシールド層を電極の一部として使って、それらの間に設けた磁気抵抗効果センサ膜の膜面の垂直方向にセンス電流を流すCPP (Current perpendicular to the plane)構造の方が有利となる。CPP構造磁気抵抗効果型ヘッドとしては、トンネル磁気抵抗効果(TMR)ヘッドやCPP-GMRヘッドなどが挙げられる。
【0005】
しかしながら、CPP構造磁気抵抗効果型ヘッドにおいては、CIP構造磁気抵抗効果型ヘッドよりも磁気抵抗効果センサ膜の部分が発熱し易く、しかも、発明者の検討で、シールド層の熱伝導がこれまで予想されていたのに比べて良くないため、放熱し難いという問題があることが分かった。これは、CIP構造ヘッドでは磁気抵抗効果センサ膜の積層面の面内方向にセンス電流を流すため、センス電流は磁気抵抗効果センサ膜を構成する層のより電気抵抗率の低い材料からなる層に多く流れ、電気抵抗率の高い材料に流れるセンス電流は少なくなる。一般的には、前述の電気抵抗率の低い材料は磁気抵抗効果を生じる心臓部である2層の強磁性層に侠持されているCuであり、この層に多くのセンス電流が流れるということは大きな出力が生じるということになる。また、電気抵抗率の高い材料はピニング層、すなわち、反強磁性材料もしくは永久磁石材料であり、これらに流れるセンス電流が少なくなるということは発熱も抑制されるということになる。
【0006】
一方で、CPP構造磁気抵抗効果型ヘッドでは、磁気抵抗効果センサ膜の積層面を貫くようにセンス電流が流れるため、基本的にはどの層にも同じ電流が流れることになる。すなわち、大きな出力を得るために、磁気抵抗効果を生じる心臓部である2層の強磁性層に侠持されている中間層に大きなセンス電流を流すと、同じ電流が電気抵抗率の高いピニング層にも流れてしまい、大きな発熱を生じてしまう。金属の場合には温度が上がると電気抵抗率が増加するので、この発熱によって、CPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの再生素子の抵抗が増加するため、出力が低下したり、抵抗性ノイズ(ジョンソンノイズ)が増加したりなど、再生特性の劣化を招いてしまう。また、発熱源であるCPP構造の磁気抵抗効果センサ膜の両脇および素子高さ方向には、センス電流が磁気抵抗効果センサ膜に流れるように絶縁膜を配置しているため放熱効率も悪い。このように発熱が大きく、しかも放熱が良くないということは、通電寿命などの長期信頼性を損なう懸念がある。
【0007】
特許文献1、特許文献2および特許文献3に、CPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの発熱を抑制したり、放熱効率を向上させる構造が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2002-151756号公報
【特許文献2】特開2004-5763号公報
【特許文献3】特開2004-335071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、CPP積層構造部の両脇に硬磁性層が隣接している構造が開示されているが、この場合の硬磁性層は高抵抗材料という記述がある。Wiedemann-Franzの法則によれば、電気抵抗率が高い、即ち、電気伝導率が低い材料は熱伝導率も低いため、放熱効率は改善されない。
【0010】
また、特許文献2には、GMR膜の素子高さ方向奥部に放熱層を設ける構造が開示されているが、この放熱層は絶縁層を介して設けられている。絶縁層はGMR膜と放熱層とを電気的に絶縁するだけの厚さが必要であり、絶縁材料の熱伝導性が金属に比べると低いことを考慮すると、放熱効果は改善されても大きな効果を期待することは難しい。
【0011】
さらに、特許文献3には、電気抵抗率が高い反強磁性層を固定磁性層のトラック幅方向側面もしくは素子高さ方向側面に接するように配置して、センス電流の主たる経路に反強磁性層を配置しない構造が開示されている。この構造では、電気抵抗率が高い反強磁性層にはセンス電流がわずかに分流する程度であり、反強磁性層自体の発熱は少ないと考えられるが、反強磁性層が固定磁性層の側面のみで接していることから、固定磁性層の磁化を固定する効果が小さく、さらには、固定磁性層の側面はエッチングプロセスにより形成されるものであるため、固定磁性層の結晶にダメージが入っていたり表面が酸化したりしているので、固定磁性層の磁化を固定するのに十分な磁気的な結合を得ることは困難である。
【0012】
本発明の目的は、ピニング層とピン止めされる強磁性層の交換結合特性を劣化させることなく、磁気抵抗効果センサ膜の発熱を抑制し、かつ放熱効率の良好なCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、下部シールド層と上部シールド層との間に、少なくともピニング層と第1の強磁性層と中間層と第2の強磁性層が積層され、ピニング層を構成する材料の電気抵抗率が第1の強磁性層を構成する材料の電気抵抗率よりも高い磁気抵抗効果センサ膜が配置されており、磁気抵抗効果センサ膜が外部磁界の変化によって発生する抵抗変化を、センス電流を中間層と第2の強磁性層の界面を貫くように流すことによって検出する磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、磁気抵抗効果センサ膜を構成する層の側壁のうち、少なくともピニング層の側壁に、ピニング層を構成する材料の電気抵抗率よりも小さい電気抵抗率を有する側面金属層が設けられ、さらに側面金属層が磁気抵抗効果センサ膜側壁に沿って下部シールド層と接するまで配置されることによって達成される。
【0014】
このとき、側面金属層が設けられる磁気抵抗効果センサ膜の側壁としては、トラック幅方向の側壁であっても、素子高さ方向の側壁でもよく、また、これら全ての側壁であってもよい。
【0015】
また、側面金属層の下端は、前述のように下部シールド層と接していることが望ましく、上端は、中間層の側壁には接していないことが望ましい。側面金属層の材料としては、Cu、Rh、Co-Fe系合金、Ni-Fe系合金、RuおよびCrの群の中から選ばれる1種類の金属あるいは合金、またはこれらを少なくとも1種類含む合金であることが望ましい。
【0016】
また、中間層としては、トンネル障壁層であっても、導電材料、あるいは導電材料と高抵抗材料または絶縁材料との混合物であってもよいが、後者において、より効果が大きい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、CPP構造磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、ピニング層とピン止めされる強磁性層の交換結合特性を劣化させることなく、磁気抵抗効果センサ膜の発熱を抑制し、放熱効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
CPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの長期信頼性を確保するためには発熱を極力抑制することが必要であり、そのため、まず、磁気抵抗効果センサ膜において、各層における発熱の大きさの見積もりを行った。
【0019】
以下では、一例としてCPP-GMRセンサ膜の解析結果について説明する。解析を行ったCPP-GMR膜の構成は、下部電極層側から順に シード層 Ta 5 nm / 81 at.%Ni-19 at.%Fe (以下、Ni81Fe19と記す) 2 nm、反強磁性層(ピニング層) PtMn系反強磁性材料 15 nm、第1の強磁性層(ピンド層) Co90Fe10 3 nm / Ru 0.8 nm / Co50Fe50 3 nm、中間層 Cu 3 nm、第2の強磁性層(フリー層) Co50Fe50 1 nm / Cu 0.25 nm / Co50Fe50 1 nm / Cu 0.25 nm / Co50Fe50 1 nm、キャップ層 Cu 2 nm / Ta 1 nmとし、素子サイズはトラック幅 50 nm、素子高さ 50 nmとした。また、センス電流は、磁気抵抗効果センサ膜であるCPP-GMR膜の上下に配置されている電極からCPP-GMR膜に一様に供給されるものとした。なお、磁気抵抗効果型ヘッドは100 mVの定電圧駆動であるとし、センス電流Iは、上述の構成とサイズを有するCPP-GMR膜の電気抵抗値で100 mVを割った値となる。CPP-GMR膜を構成する各層の抵抗値Riを実験的に求めて、各層のジュール発熱パワー Piを次の(1)式で見積もった。
Pi=I2×Ri (1)
その結果を図2に示す。図2において、横軸はCPP-GMRセンサ膜を構成する各々の層で、右側が下部シールド層側、左側が上部シールド層側になっており、縦軸は各層のジュール発熱パワーである。シード層のTaと反強磁性層のPt-Mn系反強磁性材料以外は、いずれも0.02 mW以下と小さな発熱量であるが、シード層のTaで0.13 mW程度の発熱であり、さらに、反強磁性層のPt-Mn系反強磁性材料になると0.40 mWと大きな発熱になることが分かる。この解析より、磁気抵抗効果センサ膜の発熱を抑制するためには、反強磁性層の発熱を抑制する、もしくは、この発熱に対して放熱効率を上げることが重要ということが言える。なお、素子サイズをトラック幅 50 nm、素子高さ 50 nmとして行っているが、素子サイズが変わってもジュール発熱パワー Pi の絶対値は変わるが、発熱パワーの相対関係は変わらない。
【0020】
次に、反強磁性層の発熱が大きい理由を考えてみる。電気抵抗Rは、電気抵抗率をρ、電流が通る経路の断面積をA、その長さをLとすると、次の(2)式で与えられる。
R=ρ×L/A (2)
反強磁性層は、一般的にはマンガンを含む金属材料もしくは酸化物であるため、他の層に比べて、電気抵抗率ρが大きい。また、反強磁性層の役割は、磁気記録再生装置内に配置されている磁気記録媒体からの漏洩磁界やモーターなどから発生する外部からの磁界が作用した状態においても、第1の強磁性層の磁化方向を所望の方向に固定しておくことである。そのためには、前述の外乱磁界に打ち勝つ自己エネルギーが要求されるが、トラック幅や素子高さは所望の大きさに制限されるので、厚い膜厚が必要となる。ここで、膜厚は(2)式ではLに相当するので、電気抵抗としては大きくなる。
【0021】
このように、反強磁性層は、他の層に比べて、電気抵抗率ρと膜厚Lが大きいためにジュール発熱パワーが大きいが、反強磁性層の他にピニング層に用いられる硬磁性層でも、他の層に比べて電気抵抗率が大きい、厚い膜厚が必要であるという状況は変わらないので、反強磁性層の代わりに硬磁性層を用いた場合においても、磁気抵抗効果センサ膜のうちで硬磁性層のジュール発熱パワーが最大となる。
【0022】
また、解析を行った膜構成と膜厚が変わったとしても、ピニング層に必要な要件は上述の通りであるため、発熱量の相対的な関係は変わるが、ピニング層が最大の発熱源であることには変わりはない。
【0023】
なお、中間層が厚いトンネル障壁層の場合には、トンネル障壁層が厚く、また、センス電流がトンネル障壁層を通ったトンネル電流であり、その絶対値が小さいことから、ピニング層のジュール発熱パワーは支配的にはならない。しかし、磁気記録再生装置の高記録密度化、高速転送化により、TMR(Tunneling magnetoresistive)膜の面積抵抗 RA (電気抵抗値Rとセンス電流が通る経路の面積Aの積)を1Ω*μm2程度か、より小さくすることが要求されており、そのため、トンネル障壁層も薄くする必要がある。この場合には、トンネル障壁層が薄いためにトンネル障壁層の抵抗が小さくなり、しかも定電圧駆動によってセンス電流が増えるため、ピニング層の発熱量がトンネル障壁層の発熱量を上回って、磁気抵抗効果センサ膜のなかで最大となる。
【0024】
次に、以上の解析で明らかになった、CPP-GMRセンサ膜および低抵抗TMRセンサ膜におけるピニング層の発熱を抑制する方法について述べる。(1)式を見ると、ジュール発熱パワー Piは、センス電流Iと各層の抵抗値Riで与えられるので、これらの値を小さくすればPiを小さくすることができるが、Riを変えるということは、その層の材料や膜厚を変えることになり、磁気抵抗変化率、即ち再生出力も変えてしまうので、ここでは、センス電流Iを変えることによりPiを小さくする構造を考える。
【0025】
図1は、その基本構成の一例であり、磁気抵抗効果センサの構造模式図である。下部シールド層(下部電極層)11と上部シールド層(上部電極層)21の間に、シード層12、ピニング層13、第1の強磁性層14、中間層15、第2の強磁性層16およびキャップ層17で構成されているCPP-GMR膜20を配置し、その両脇に側面金属層30を設けたものである。なお、側面金属層30を設ける前のCPP-GMR膜20のトラック幅と素子高さは、CPP-GMR膜20の膜厚方向に一定である。ここで、側面金属層30は、その上端は第1の強磁性層14と中間層15の界面に、下端は下部シールド層11に接しており、上端から下端に向かってテーパー角31で徐々に幅広になっている。ここで、テーパー角31は、CPP-GMR膜20の壁面の平均的な角度と、側面金属層30の外側傾斜面の平均的な角度との差として定義することとする。この構造では、磁気抵抗効果を生じる第1の強磁性層14と中間層15の界面、中間層15と第2の強磁性層16の界面の2つの界面には所定のセンス電流が通り貫けるが、第1の強磁性層14から下部シールド層11側においては、CPP-GMR膜20を構成する各層と両脇に設けられた側面金属層30との並列回路が形成され、センス電流はCPP-GMR膜20と側面金属層30とに分流する。このように、磁気抵抗効果を生じる2つの界面においてはセンス電流は分流することなく流れるので出力の低下を招くことはなく、第1の強磁性層14から下部シールド層(下部電極層)11側においては、CPP-GMR膜20を構成する層に流れるセンス電流が小さくなるので、特にピニング層13からのジュール発熱パワーも従来構造に比べて減少する。
【0026】
この効果を解析した結果を図3に示す。解析に用いたCPP-GMR膜の構成は、図2の解析に用いた構成と同様のものを用い、側面金属層30としてCuを用いた。なお、テーパー角31(図中でTaperで表記)は0〜60°で変えている。テーパー角0°は側面金属層30を設けない場合であるので、図2の解析に用いた構成と同一であるが、側面金属層30を設けることにより、第1の強磁性層14の中間層側強磁性層143よりも下部シールド層11側でジュール発熱パワーが減少している。但し、第1の強磁性層14を構成する中間層側強磁性層143、スペーサ層142およびピニング層側強磁性層141はジュール発熱パワーの絶対値が小さいので、側面金属層30を設けた効果が顕著に表れず、電気低効率と膜厚が大きいピニング層13(この場合はPt-Mn系反強磁性層)とシード層12のTaで効果が際立っている。さらに、テーパー角を大きくすることによって、より大きな効果として表れていることが分かる。図4は、CPP-GMR膜全体のジュール発熱パワーをテーパー角に対してプロットしたものであり、側面金属層30を設けていないテーパー角0°では0.61 mWであった発熱が、側面金属層30をテーパー角5°で設けただけで約1/2の0.32 mWまで減少し、テーパー角60°で設けると0.08 mWとなる。このように、側面金属層30を設けることにより発熱量が減少するが、側面金属層30が下部シールド層11にまで伸延していることにより、CPP-GMR膜で発生した熱は、側面金属層30を通して下部シールド層11に放熱される。下部シールド層11は、磁気抵抗効果センサ膜20に比べて面積が広いことから、放熱の効率は改善されるので、広い放熱経路で下部シールド層11に放熱することは有効な手段である。ここで、側面金属層30による放熱は、材料の熱伝導率が大きいほど、その効果は大きくなる。なお、Wiedemann-Franzの法則によると、電気抵抗率が小さい材料は熱伝導率が大きいので、発熱抑制効果の大きい材料は放熱効果も大きくなる。
【0027】
また、側面金属層30のテーパー角を変えたときのCPP-GMR膜の素子抵抗RとMR比を図5に示す。側面金属層30を設けていないときに16.4ΩであったRは、テーパー角5°で側面金属層30を設けると8.7Ωに減少し、テーパー角を大きくすると、さらにRは小さくなる。一方で、磁気抵抗効果は損なわれないので、CPP-GMR膜そのもので7%であったMR比は、Rが減少することにより向上している。これは、同じセンス電流においては、小さな素子抵抗で同じ出力が得られることを意味するが、定電圧駆動ではRの低下によってセンス電流も大きくなるので、出力も大きくなる。このように、Rが減少することにより抵抗性ノイズ(ジョンソンノイズ)が減少し、さらに出力も向上するので、その結果、高い信号雑音比(SNR, Signal noise ratio)が得られる。
【0028】
上記では、側面金属層30の材料としてCuの場合について詳細に説明したが、他の材料についても同様の解析を行った。図6は、Cu以外に磁気抵抗効果型ヘッドに使用する材料であるCr、Ni-Fe系合金、Co-Fe系合金、Ru、Rhを側面金属層30に用いた場合について、側面金属層30のテーパー角を変えたときの磁気抵抗効果センサ膜全体のジュール発熱パワーをプロットしたものである。また、図6には、側面金属層30を設けずに、磁気抵抗効果センサ膜を第1の強磁性層14からシード層12にかけてテーパー形状にした場合(図中、センサ テーパー化で表記)についてもプロットした。いずれの材料においても、磁気抵抗効果センサ膜をテーパー形状にしたものに比べて発熱量が抑制されていることが分かる。また、その効果は電気抵抗率が小さいほど大きく、比較した材料を効果が大きい順に並べると、Cu、Rh、Co-Fe系合金、Ni-Fe系合金、Ru、Crであった。
【0029】
以上は、ピニング材料がPt-Mn系反強磁性材料の場合の解析結果であるが、その他のピニング材料、例えばMn-Ir系反強磁性材料、Co-Pt系硬磁性材料、Co-Cr-Pt系硬磁性材料を用いた場合にも同様の効果が得られる。以下では、その一例として、上述のCPP-GMR膜20のピニング層13を膜厚10 nmのMn-Ir系反強磁性材料としたときの解析結果を示しておく。この場合には、ピニング層13の膜厚が薄くなって素子抵抗が減少するため、100 mVの定電圧駆動では、センス電流が増えることになる。図7は、側面金属層30をCuとしたときの各層のジュール発熱パワーであるが、ピニング層で発熱量が大きいという基本的な傾向に変わりはないが、センス電流が大きくなっているために発熱量の絶対値が増えている。図8はこのときの磁気抵抗効果センサ膜全体のジュール発熱パワーであり、テーパー角を大きくすることにより、ジュール発熱パワーが小さくなるが、絶対値についてはセンス電流の増加により図4に比べて大きくなっている。図9は、側面金属層30のテーパー角を変えたときのCPP-GMR膜の素子抵抗RとMR比を示しており、図5と同様の傾向になっている。また、図10は、側面金属層30の材料としてCu以外の材料について解析を行った結果であるが、いずれの材料においても、磁気抵抗効果センサ膜をテーパー形状にしたものに比べて発熱量が抑制されているという効果、また、その効果が大きい材料の順序も図6と同じである。
【0030】
次に、図面を用いて、本発明の具体的な実施例を説明する。
<実施例1>
図11に、実施例1によるCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの磁気抵抗効果センサ膜部分のトラック幅方向の層構成を示す。アルミナとチタンカーバイドを含有する焼結体などからなる基板101の上に、アルミナなどの絶縁膜102を被覆し、その表面を精密研磨により平坦にした後、Ni-Fe系合金などからなる下部シールド層(下部電極層)11を形成する。これは、例えば、スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、あるいは、めっき法で成膜した膜を、所定の形状にパターニングした後に、アルミナなどの絶縁膜を基板全面に形成し、化学的機械研磨法(CMP)によって平坦化することによって、その周囲に設けられた絶縁膜とほぼ同じ高さにする。このとき、さらに下部シールド層11の表面凹凸の大きさも所定の大きさ以下になるように制御される。
【0031】
成膜装置内でこの上の表面酸化層などをクリーニングした後、シード層12、ピニング層13、第1の強磁性層(ピンド層)14、中間層15、第2の強磁性層(フリー層)16、キャップ層17を、基板側からこの順に成膜する。ここで、シード層12およびキャップ層17としては、Cu、Ta、Ru、Rh、Ni-Cr-Fe系合金あるいはこれらの積層膜を用いることができ、ピニング層13としてはPt-Mn系合金、Mn-Ir系合金などの反強磁性層、Co-Pt系合金やCo-Cr-Pt系合金などの硬磁性層を用いることができる。第1の強磁性層14は、ピニング層側強磁性層141、スペーサ層142および中間層側強磁性層143からなる積層膜を用いた。ピニング層側強磁性層141、中間層側強磁性層143および第2の強磁性層16としては、Ni-Fe系合金、Co-Fe系合金、Co-Ni-Fe系合金、例えばマグネタイトやホイスラー合金などの高分極率材料、およびこれらの積層膜を用いることができる。スペーサ層142としては、Ru、Rh、Ir、および少なくともこれらを1種類以上含む金属を用い、その厚さは10オングストローム以下が好ましい。中間層15は、CPP−GMR効果を用いる場合には導電層あるいは電流狭窄層を有する導電層であり、具体的には、Al、Cu、Ag、Au、あるいはこれらの混合物や積層体の他、これらの一部を部分的に酸化、窒化などによって電流狭窄を行う層などを挿入してもよい。TMR効果を用いる場合にはトンネル障壁層であり、具体的には、Al、Mg、Si、Zr、Ti、これらの混合物の酸化物、あるいはこれらの酸化物の積層体である。以上のように、シード層12からキャップ層17までの磁気抵抗効果センサ膜20を成膜した後、必要に応じて、第1の強磁性層14の磁化を特定の方向に向けるための磁界中熱処理あるいは着磁を施す。特に、ピニング層13が規則格子を有する反強磁性体、例えばPt-Mn系合金やMn-Ir系合金の場合には、規則構造が構成され、第1の強磁性層14との間に交換結合が生じるまで、磁界中で熱処理することが必要となる。
【0032】
次に、トラック幅方向の形成を行う。磁気抵抗効果センサ膜20のトラック幅方向のセンサ部分となる領域にリフトマスク材を形成し、不要な部分の磁気抵抗効果センサ膜などをエッチングにより除去する。このとき、エッチングされずに残る磁気抵抗効果センサ膜20の側壁に再付着物が残らないようにエッチングすることが重要である。この後で、側面金属層30を、イオンビームスパッタリングや、スパッタ粒子の方向制御板の設置や基板側にバイアス電位を与えながらスパッタリングを行って、被着粒子の方向およびエネルギーを調整することにより、その上端が中間層側強磁性層143と中間層15の界面に接するように形成する。側面金属層30としては、ピニング層13に用いる材料よりも電気抵抗率が小さい材料を用いることができるが、磁気ヘッドが形成される全てのプロセスでの化学的な安定性を考慮して選択する方がよいと考えると、磁気抵抗効果型ヘッドに用いられているCu、Rh、Co-Fe系合金、Ni-Fe系合金、Ru、Crは望ましい材料である。さらに、トラック幅方向絶縁層22を介して、所望の縦バイアス磁界が発生するだけの十分な厚さの縦バイアス印加層23を、磁気抵抗効果センサ膜20の外部磁界に応じて磁化方向が回転する強磁性層である第2の強磁性層(フリー層)16とほぼ同じ高さになるように形成する。この後、リフトマスク材を除去することにより、トラック幅方向の形成が完了する。
【0033】
なお、トラック幅方向絶縁層22としては、アルミナ、酸化シリコン、酸化タンタル、窒化アルミニウム、窒化シリコン、窒化タンタルなどの単層膜、混合膜および積層膜を用いることができ、縦バイアス印加層23としては、Co-Pt系合金やCo-Cr-Pt系合金などの硬磁性層や、Ni-Fe系合金やCo-Fe系合金などの強磁性層とPt-Mn系合金、Mn-Ir系合金などの反強磁性層やCo-Pt系合金やCo-Cr-Pt系合金などの硬磁性層との積層膜などを用いることができる。このとき、縦バイアス印加層23として硬磁性層を用いる場合には、硬磁性層の特性、特に保磁力を制御するためにCrなどの下地層を設けてもよく、プロセス中のダメージを抑制するために、Cr、Cr-Mo系合金、Cr-Ti系合金、Ni-Fe系合金、Ta、Ru、Rhなどからなる保護層を設けてもよい。
【0034】
トラック幅方向の形成が完了した後、素子高さ方向の磁気抵抗効果センサ部分となる領域にリフトマスク材を形成して、エッチングにより磁界を検知する磁気抵抗効果センサ部の必要な領域以外にある磁気抵抗効果センサ膜、および、トラック幅方向絶縁層22、縦バイアス印加層23を除去する。このとき、トラック幅方向と同様に、磁気抵抗効果センサ膜20の端部に再付着物を残さないようにすることが重要である。この後、アルミナ、酸化シリコン、酸化タンタル、窒化アルミニウム、窒化シリコン、窒化タンタルなどの単層膜、混合膜および積層膜からなる素子高さ方向絶縁膜を成膜し、リフトオフマスク材を除去して素子高さ方向の形成が完了する。
【0035】
次に、下部シールド層(下部電極層)11および上部シールド層(上部電極層)21にセンス電流を供給するリード線を形成する。リード線の材料としては、Cu, Au, Ta, Rh, Moなどの低抵抗金属を用い、必要に応じて、その下側、上側あるいは両側に他の金属層を設けてもよい。
【0036】
また、必要に応じて絶縁保護層を形成した後、磁気抵抗効果センサ膜20やリード線などの最表面をクリーニングした後、上部シールド層21の下地膜を兼ねて上部ギャップ層172、および、上部シールド層(上部電極層)21を形成し、再生素子部40の工程が完了する。
【0037】
再生ヘッドとしてのCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの場合は、この段階でウェハ工程が完了する。この後、再生素子部40のトラック幅方向に磁界を印加しながら熱処理を行い、第1の強磁性層(ピンド層)14の磁化の方向を概ね素子高さ方向に保ったまま、第2の強磁性層(フリー層)16の磁化の方向をトラック幅方向に向ける熱処理を行う。
【0038】
一方、再生素子と記録素子を有するCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの場合は、図12に斜視図で示すように、再生素子部40の上に、再生素子部と記録素子部を分離するための分離層45を介して記録素子部50を形成して、ウェハ工程が完了する。記録素子部50は垂直記録用ヘッドであり、補助磁極51、コイル52、コイル絶縁層53、主磁極54を有している。この場合は、記録素子部50の形成中あるいは終了後に、再生素子部40のトラック幅方向に磁界を印加しながら熱処理を行い、第1の強磁性層(ピンド層)14の磁化の方向を概ね素子高さ方向に保ったまま、第2の強磁性層(フリー層)16の磁化の方向をトラック幅方向に向ける熱処理を行ってもよい。
【0039】
続いて、所望の素子高さになるまで磁気ヘッド素子を機械研磨により削る研磨工程、磁気記録(再生)装置内で再生素子(および記録素子)を保護するための保護膜形成工程、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間隔(浮上量)を制御するために媒体対向面に所定の溝形状を形成する工程、個々の磁気ヘッドをサスペンションに接着する組立て工程などを経て、ヘッド・ジンバル・アッセンブリが完成する。
【0040】
比較のため、側面金属層30を設けない従来構造の磁気ヘッドも作成し、同じ出力が得られるようにセンス電流を調整したときの磁気ヘッドの温度上昇と、そのセンス電流で通電試験を行ったときの平均故障時間(MTTF, Mean time to failure)の評価を行った。磁気ヘッドの温度上昇は、磁気ヘッドを環境温度が変えられるオーブン中に設置し、低電圧(この場合は5 mV)を印加して環境温度を変えたときの磁気ヘッドの電気抵抗値と、室温で印加電圧を変えたときの電気抵抗値の関係を取得することにより、評価することができる。また、通電試験におけるMTTFは、簡易的に、次の(3)式で与えられる。
【0041】
1/MTTF = A0×exp(-Ea/kB/T) (3)
(3)式において、Eaは通電による劣化現象の活性化エネルギー、kBはボルツマン定数、Tは磁気ヘッドの温度、A0は定数である。なお、磁気ヘッドの温度Tは、環境温度にセンス電流による温度上昇分を足した値となる。実験としては、センス電流を一定にして、環境温度を変えて磁気ヘッドに通電し続け、特性が所望の値から外れた通電時間を求めることになる。上記磁気ヘッドの評価においては、抵抗値が初期値の95〜105%の範囲、出力が初期値の90〜110%の範囲を適正範囲とし、これらのうち早く適正範囲から外れた時間を故障時間とした。測定を行った磁気ヘッドは、実施例1による磁気ヘッド、従来構造ヘッドともに各240本である。
【0042】
センス電流通電時の温度上昇は、従来構造ヘッドでは110°Cであるのに対し、実施例1の磁気ヘッドでは35°Cと、側面金属層30を設けることによる発熱抑制の効果と放熱効率向上の効果が顕著に表れた。また、通電試験により得られた活性化エネルギーは、従来構造ヘッドでも実施例1のヘッドでも約2.0 eVであったが、環境温度60°CにおけるMTTFを算出すると、従来ヘッドでは2.4 h、実施例1のヘッドでは1.16×105 hと大きな違いがあり、側面金属層30による通電信頼性の向上が確認できた。
【0043】
以上の説明のとおり、実施例1のCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドは、ピニング層とピン止めされる強磁性層の交換結合特性が劣化することなく、磁気抵抗効果センサ膜の発熱が抑制され、放熱効率が良くなるので、通電寿命などの長期信頼性に優れている。同時に、再生ヘッドのヘッド抵抗が小さくなるので、抵抗性ノイズを抑制することができ、さらに、定電圧駆動においては出力が大きくなるため、高い信号雑音比(SNR, Signal noise ratio)も達成することができる。
【0044】
<実施例2>
上記実施例1では、発熱抑制および放熱の最大の効果を得るために、側面金属層30をその上端が中間層側強磁性層143と中間層15の界面に接するように形成したが、側面金属層30が中間層15の側面や第2の強磁性層16の側壁まで達してしまうと出力が低下してしまうため、高い歩留まりを得るためには側面金属層30形成プロセスの高精度の最適化が必要となる。
【0045】
形成プロセスのマージンの拡大は、側面金属層30の上端の位置を、第1の強磁性層14あるいはピニング層13の下部シールド層12側に下げることにより達成できる。その一例として、図13に実施例2による磁気抵抗効果センサ膜部分のトラック幅方向の層構成を示す。本実施例では、側面金属層30の上端をピニング層13の膜厚の半分の高さ位置に調整した。
【0046】
作成した磁気ヘッドについて、実施例1と同様の評価を行った結果、センス電流通電時の温度上昇は48°C、環境温度60°CにおけるMTTFは1.31×104 hであった。実施例1のヘッドに比べると温度上昇は大きく、MTTFも1桁短くなっているが、従来ヘッドに比べると温度上昇は60°C程度抑制されており、MTTFも3桁長くなっている。
【0047】
<実施例3>
発熱抑制および放熱の最大の効果と、高い歩留まりを両立するため、実施例3として図14に示すCPP構造磁気抵抗効果ヘッドを作成した。図14は、磁気抵抗効果センサ膜部分のトラック幅方向の層構成を示す。本実施例の磁気ヘッドは、磁気抵抗効果センサ膜20の形成までは実施例1と同様に行った後、トラック幅方向の形成を以下のように行った。磁気抵抗効果センサ膜20のトラック幅方向のセンサ部分となる領域にリフトマスク材を形成し、マスキングされていない部分のキャップ層17、第2の強磁性層16および中間層15までをエッチングした後、エッチングされて形成された側壁に、酸化あるいは窒化処理、または、酸化物あるいは窒化物の成膜により絶縁物33を形成する。引き続き、第1の強磁性層14、ピニング層13およびシード層12などをエッチングし、側面金属層30、トラック幅方向絶縁層22および縦バイアス印加層23などを形成した後、リフトオフマスク材を除去する。この後の素子高さ方向の形成以降の工程は、実施例1に記載したものと同様である。このようなヘッド構造にすると、工程は長くなるが、再生出力の低下による歩留まり劣化がなくなる。すなわち、発熱抑制および放熱の最大の効果と、高い歩留まりを両立させることができる。
【0048】
<実施例4>
側面金属層30は、トラック幅方向だけではなく、素子高さ方向にも設けることができる。図15は、素子高さ方向にも側面金属層30を設けた実施例4による磁気抵抗効果センサ膜部分の素子高さ方向の層構成を示す図である。
【0049】
素子高さ方向を形成する際に、素子高さ方向の磁気抵抗効果センサ部分となる領域にリフトマスク材を形成して、エッチングにより、磁界を検知する磁気抵抗効果センサ部の必要な領域以外にある磁気抵抗効果センサ膜、トラック幅方向絶縁層22および縦バイアス印加層23などを除去した後、側面金属層30をその上端が中間層側強磁性層143と中間層15の界面に接するように形成し、さらに、素子高さ方向絶縁膜24を形成することにより、図15の構造を作成した。
【0050】
トラック幅方向に側面金属層30を設置する場合には、縦バイアス印加層23から第2の強磁性層16に印加される縦バイアス磁界が所望の大きさになるように考慮して、その厚さやテーパー角を選択する必要があるが、素子高さ方向の場合には、素子高さ方向絶縁膜24の厚さが薄くなって静電容量が大きくなり転送速度を制限することがない限りは、側面金属層30の厚さやテーパー角は比較的任意に選択できる。
【0051】
また、素子高さ方向においてもトラック幅方向と同様に、工程を長くすることなく歩留まりを向上させることを目的に、図16のように側面金属層30の上端が少なくともピニング層13の側壁の一部と接するように下部シールド層11側に下げてもよく、また、図17のように発熱抑制および放熱の最大の効果と高歩留まりを両立させるために、側面絶縁膜33を設けた後に側面金属層30を設けてもよい。
【0052】
<実施例5>
上記実施例1−3では磁気抵抗効果センサ膜20のトラック幅方向の壁面に、実施例4ではトラック幅方向の壁面と素子高さ方向の壁面に側面金属層30を設けたが、図15に示すように磁気抵抗効果センサ膜20の素子高さ方向の壁面にのみ側面金属層30を設けるようにしてもよい(実施例5)。実施例5によれば、実施例1と同等の効果が得られ、さらに、上記実施例4で説明したように、素子高さ方向の壁面に側面金属層30を形成するので、素子高さ方向絶縁膜24の厚さが薄くなって静電容量が大きくなり転送速度を制限することがない限りは、側面金属層30の厚さやテーパー角は比較的任意に選択できるという効果を有する。
【0053】
以上、実施例1−5について説明したが、実施例1−5において、磁気抵抗効果センサ膜20として、中間層15が導電層あるいは電流狭窄層を有する導電層であるCPP−GMR膜や、障壁層であるTMR膜を取り上げたが、磁性半導体を用いたものや、偏極スピンの拡散や蓄積現象を利用したものなど、磁気抵抗効果センサ膜を構成する材料の膜面を貫くようにセンス電流が流れるデバイスで、ピニング層13を有し、その電気抵抗率が他の層に比べて高いものであれば、本発明の効果は変わらない。また、第1の強磁性層14及び第2の強磁性層16は、それぞれ異なる積層構造を示したが、これらは特定の例であり、必ずしもこれらに限定されるものではない。シード層12、キャップ層17、上部ギャップ層172は、必須のものではなく、構造上あるいは製造工程上必要でなければ設けなくともよい。
【0054】
製造方法に関しては、トラック幅方向を先に作る製造方法を一例に説明したが、素子高さ方向を先に作る製造方法でも、本発明の効果に変わることは無い。
【0055】
さらに磁気ヘッドの構造に関しては、磁気抵抗効果センサ膜が媒体対向面に露出するように配置された磁気抵抗効果型ヘッドについて述べたが、磁気抵抗効果センサ膜が媒体対向面から離れたところに配置されて、媒体対向面に全く露出していない、あるいは、一部のみ露出しているような磁気抵抗効果型ヘッドでも同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの基本構成を示すトラック幅方向の構造模式図である。
【図2】CPP-GMR膜の各層のジュール発熱パワーの解析結果を示す図である。
【図3】図1に示すCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの側面金属層のテーパー角を変えた場合のCPP-GMR膜の各層のジュール発熱パワーの解析結果を示す図である。
【図4】図1に示すCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの側面金属層のテーパー角を変えた場合のCPP-GMR膜全体のジュール発熱パワーを示す図である。
【図5】図1に示すCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの側面金属層のテーパー角を変えた場合の素子抵抗RとMR比を示す図である。
【図6】図1に示すCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの側面金属層の材料を変えた場合のCPP-GMR膜全体のジュール発熱パワーを示す図である。
【図7】図1に示すCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドにおいてピニング層にMn-Ir反強磁性を用い、側面金属層のテーパー角を変えた場合のCPP-GMR膜の各層のジュール発熱パワーの解析結果を示す図である。
【図8】図7に示すCPP-GMR膜の側面金属層のテーパー角を変えた場合のCPP-GMR膜全体のジュール発熱パワーを示す図である。
【図9】図7に示すCPP-GMR膜の側面金属層のテーパー角を変えた場合の素子抵抗とMR比を示す図である。
【図10】図7に示すCPP-GMR膜の側面金属層の材料を変えた場合のCPP-GMRセンサ膜全体のジュール発熱パワーを示す図である。
【図11】実施例1によるCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドのトラック幅方向の構造模式図である。
【図12】実施例1によるCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドにおいて記録素子を有する構成を示す斜視図である。
【図13】実施例2によるCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドのトラック幅方向の構造模式図である。
【図14】実施例3によるCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドのトラック幅方向の構造模式図である。
【図15】実施例4によるCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの素子高さ方向の構造模式図である。
【図16】実施例4の変形例によるCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの素子高さ方向の構造模式図である。
【図17】実施例4の他の変形例によるCPP構造磁気抵抗効果型ヘッドの素子高さ方向の構造模式図である。
【符号の説明】
【0057】
11:下部シールド層(下部電極層)、12:シード層、13:ピニング層、14:第1の強磁性層、141:ピニング層側強磁性層、142:スペーサ層、143:中間層側強磁性層、15:中間層、16:第2の強磁性層、17:キャップ層、20:磁気抵抗効果センサ膜、21:上部シールド層(上部電極層)、22:トラック幅方向絶縁層、23:縦バイアス印加層、24:素子高さ方向保護膜、30:側面金属層、31:テーパー角、33:側面絶縁膜、40:再生素子部、45:分離層、50:記録素子部、100:トラック幅方向、101:基板、102:絶縁膜、110:素子高さ方向、172:上部ギャップ層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部シールド層と上部シールド層との間に、少なくともピニング層と第1の強磁性層と中間層と第2の強磁性層が積層された磁気抵抗効果センサ膜を有し、前記中間層と前記第2の強磁性層の界面を貫くようにセンス電流を流し、外部磁界の変化によって発生する前記磁気抵抗効果センサ膜の抵抗変化を検出する磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記磁気抵抗効果センサ膜を構成する層の側壁のうち、少なくとも前記ピニング層の側壁に、該ピニング層の電気抵抗率よりも小さい電気抵抗率を有する側面金属層が設けられ、該側面金属層は前記下部シールド層と接していることを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項2】
前記側面金属層が前記磁気抵抗効果センサ膜のトラック幅方向の側壁及び素子高さ方向の側壁に設けられていることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項3】
前記ピニング層が、反強磁性層又は硬磁性層であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項4】
前記反強磁性層は、Mn-Ir系合金層またはPt-Mn系合金層であることを特徴とする請求項3記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項5】
前記硬磁性層は、Co-Pt系合金層またはCo-Cr-Pt系合金層であることを特徴とする請求項3記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項6】
前記側面金属層が、前記ピニング層の側壁に接しているが、前記中間層の側壁には接していないことを特徴とする特許請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項7】
前記側面金属層が、前記ピニング層の側壁に接しているが、前記中間層及び第1の強磁性層の側壁には接していないことを特徴とする特許請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項8】
前記側面金属層が、Cu、Rh、Co-Fe系合金、Ni-Fe系合金、RuおよびCrの群の中から選ばれる一種類の金属あるいは合金、またはこれらを少なくとも一種類含む合金から構成されていることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項9】
前記中間層が、導電材料、もしくは導電材料と高抵抗材料との混合物、もしくは導電材料と絶縁材料との混合物であることを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項10】
前記中間層と第2強磁性層の側壁に絶縁層を有することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項11】
前記磁気抵抗効果センサ膜のトラック幅方向の両側に絶縁層を介して縦バイアス印加層を有することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項12】
前記縦バイアス印加層が、硬磁性層、強磁性層と反強磁性層の積層膜、または強磁性層と硬磁性層の積層膜であることを特徴とする請求項11記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項13】
前記上部シールド層の上部に分離層を介して設けられた誘導型書き込みヘッドを有することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項14】
下部シールド層と上部シールド層との間に、少なくともピニング層と第1の強磁性層と中間層と第2の強磁性層が積層された磁気抵抗効果センサ膜を有し、前記中間層と前記第2の強磁性層の界面を貫くようにセンス電流を流し、外部磁界の変化によって発生する前記磁気抵抗効果センサ膜の抵抗変化を検出する磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記磁気抵抗効果センサ膜を構成する層のトラック幅方向の側壁のうち、少なくとも前記ピニング層の側壁に、該ピニング層の電気抵抗率よりも小さい電気抵抗率を有する側面金属層が設けられ、該側面金属層は前記下部シールド層と接していることを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項15】
前記ピニング層が、反強磁性層又は硬磁性層であることを特徴とする請求項14記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項16】
前記側面金属層が、前記ピニング層の側壁に接しているが、前記中間層の側壁には接していないことを特徴とする特許請求項14記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項17】
前記側面金属層が、Cu、Rh、Co-Fe系合金、Ni-Fe系合金、RuおよびCrの群の中から選ばれる金属あるいは合金、またはこれらを少なくとも一種類含む合金から構成されていることを特徴とする請求項14記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項18】
前記中間層と第2強磁性層の側壁に絶縁層を有することを特徴とする請求項14記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項19】
前記上部シールド層の上部に分離層を介して設けられた誘導型書き込みヘッドを有することを特徴とする請求項14記載の磁気抵抗効果型ヘッド。
【請求項20】
下部シールド層と上部シールド層との間に、少なくともピニング層と第1の強磁性層と中間層と第2の強磁性層が積層された磁気抵抗効果センサ膜を有し、前記中間層と前記第2の強磁性層の界面を貫くようにセンス電流を流し、外部磁界の変化によって発生する前記磁気抵抗効果センサ膜の抵抗変化を検出する磁気抵抗効果型ヘッドにおいて、
前記磁気抵抗効果センサ膜を構成する層の素子高さ方向の側壁のうち、少なくとも前記ピニング層の側壁に、該ピニング層の電気抵抗率よりも小さい電気抵抗率を有する側面金属層が設けられ、該側面金属層は前記下部シールド層と接していることを特徴とする磁気抵抗効果型ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−55657(P2010−55657A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216634(P2008−216634)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】