説明

DLL回路とその制御方法

【課題】安定的にジッタを低減する。
【解決手段】入力クロック信号CLKiを電圧制御遅延回路12を介して出力クロック信号CLKoとして出力すると共に、入力クロック信号CLKiと出力クロック信号CLKoとの位相比較結果に基づいて電圧制御遅延回路12における遅延量を制御する。位相比較結果判定回路15は、入力クロック信号CLKiと出力クロック信号CLKoとの位相比較結果を所定の期間に亘って積算し、積算結果の分布に基づいて遅延量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DLL(Delay Locked Loop)回路とその制御方法に係り、特に、DLL回路におけるジッタの低減技術に係る。
【背景技術】
【0002】
DLL回路は、入力されるクロック信号CLKi(基準クロック)と、可変遅延回路(電圧制御遅延線など)が出力するクロック信号CLKoをフィードバックした信号との位相が位相比較回路(PD)により比較され、比較結果を可変遅延回路の遅延時間に反映させる。そして、クロック信号CLKoの位相を進ませ、又は遅らせる制御を行い、最終的にクロック信号CLKoとクロック信号CLKiの位相が一致(ロック)するように動作する。
【0003】
このようなDLL回路では、クロック信号CLKiにジッタが含まれる場合、クロック信号CLKoにもクロック信号CLKiのジッタが反映される。すなわち、クロック信号CLKiのジッタによる位相差を位相比較回路(PD)が検出して位相調整を行うため、クロック信号CLKoのジッタは、クロック信号CLKiのジッタに位相調整による位相変動が足されてしまう。
【0004】
そこでクロック信号CLKoのジッタを低減するために、複数回の位相比較の結果が全て一致する場合に、比較結果に基づいて可変遅延回路の遅延時間を調整するDLL回路が特許文献1において開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−290555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下の分析は本発明において与えられる。
【0007】
ところでジッタの大きさは、一般に時間的な変動を伴う。このジッタの変動の分布によっては、従来技術のような複数回の比較結果が全て一致する場合がかなり限られてしまい充分にジッタを低減することができない場合がある。これを避けるには、複数回を比較的小さな回数とすれば良いが、この場合にはクロック信号CLKoのジッタは、クロック信号CLKiのジッタに位相調整による位相変動が足されてしまう虞が出てくる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つのアスペクト(側面)に係るDLL回路は、入力クロック信号を可変遅延回路を介して出力クロック信号として出力すると共に、入力クロック信号と出力クロック信号との位相比較結果に基づいて可変遅延回路における遅延量を制御するDLL回路であって、入力クロック信号と出力クロック信号との位相比較結果を所定の期間に亘って積算し、積算結果の分布に基づいて遅延量を制御する位相比較結果判定回路を備える。
【0009】
本発明の他のアスペクト(側面)に係るDLL回路の制御方法は、入力クロック信号を可変遅延回路を介して出力クロック信号として出力すると共に、入力クロック信号と出力クロック信号との位相比較結果に基づいて可変遅延回路における遅延量を制御するDLL回路の制御方法であって、入力クロック信号と出力クロック信号との位相比較結果を所定の期間に亘って積算するステップと、積算の結果の分布に基づいて遅延量を制御するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノイズ的な位相ずれに反応し難くなるため、安定的にジッタを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るDLL回路は、入力クロック信号(図1のCLKi)を可変遅延回路(図1の電圧制御遅延回路12)を介して出力クロック信号(図1のCLKo)として出力すると共に、入力クロック信号と出力クロック信号との位相比較結果に基づいて可変遅延回路における遅延量を制御するDLL回路であって、入力クロック信号と出力クロック信号との位相比較結果を所定の期間に亘って積算し、積算結果の分布に基づいて遅延量を制御する位相比較結果判定回路(図1の15)を備える。
【0012】
位相比較結果判定回路は、入力クロック信号に対し出力クロック信号の位相が進んでいることを示す位相比較結果を積算する場合において、積算結果が第1の閾値以上である場合に遅延量を増加させ、積算結果が第1の閾値より小さい第2の閾値以下である場合に遅延量を減少させることが好ましい。
【0013】
また、位相比較結果判定回路は、入力クロック信号に対し出力クロック信号の位相が遅れていることを示す位相比較結果を積算する場合において、積算結果が第1の閾値以上である場合に遅延量を減少させ、積算結果が第1の閾値より小さい第2の閾値以下である場合に遅延量を増加させることが好ましい。
【0014】
可変遅延回路における遅延量を制御するためのカウント値をカウントする位相調整カウンタ(図1の16)を備え、位相調整カウンタは、積算結果と第1および第2の閾値との比較結果に基づいてカウント値を増減させるようにしてもよい。
【0015】
以上のようなDLL回路によれば、位相比較結果の積算結果の分布に基づいて遅延量を増減させるので、入力クロック信号におけるノイズ的な位相ずれに反応し難くなり、安定的にジッタを低減することができる。
【0016】
以下、実施例に即し、図面を参照して詳しく説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の実施例に係るDLL回路の構成を示すブロック図である。図1において、DLL回路は、入力バッファ11、電圧制御遅延回路(VCDL)12、出力バッファ13、位相比較回路(PD)14、位相比較結果判定回路15、位相調整カウンタ16、D/A変換回路17を備える。
【0018】
入力バッファ11は、外部からクロック信号CLKiを入力し、電圧制御遅延回路12および位相比較結果判定回路15に出力する。また、クロック信号CLKiは、位相比較回路14の一方の入力端子にも入力される。電圧制御遅延回路12は、D/A変換回路17の出力信号に基づいて遅延量を制御する可変遅延回路であって、入力バッファ11の出力信号を遅延し、出力バッファ13に出力する。出力バッファ13は、電圧制御遅延回路12の出力信号をバッファリングし、クロック信号CLKoとして外部に出力すると共に位相比較回路14の他方の入力端子に出力する。
【0019】
位相比較回路14は、クロック信号CLKiとクロック信号CLKoの位相を比較し、比較結果を位相比較結果判定回路15に出力する。位相比較結果判定回路15は、位相比較結果を複数サイクルにわたりカウントして、位相比較結果の累積(積算)を求め、累積値が所定の閾値を変えたか否かの比較結果を位相調整カウンタ16に出力する。
【0020】
位相調整カウンタ16は、比較結果をカウントし、D/A変換回路17は、カウント結果をD/A変換して電圧制御遅延回路12における遅延量を制御するように電圧制御遅延回路12に与える。
【0021】
次に、位相比較結果判定回路15の詳細について説明する。位相比較結果判定回路15は、AND回路AND1、AND2、位相比較結果用のカウンタ21、リセット用カウンタ22、カウンタ値の判定回路23を備える。DLL回路における所定の動作により位相ロックが完了した後、カウンタ21は、予め定められた複数サイクル(期間内)に亘って、位相比較回路14の位相比較結果(位相UPまたは位相DOWN)をAND回路AND1を介して入力しカウントする。AND回路AND1は、入力バッファ11の出力信号がHレベルにある場合の位相比較結果のみをカウンタ21に出力する。
【0022】
判定回路23は、位相UP(あるいはDOWN)信号が、複数サイクルの例えば25%未満に存在すれば位相DOWN(あるいは位相UP)、25%〜75%に存在すれば位相HOLD(位相をずらさない)、75%を超えて存在すれば位相UP(あるいは位相DOWN)とする位相比較の判定結果を出力する。リセット用カウンタ22は、入力バッファ11の出力信号をカウントすることでカウンタ21をリセットして前述の予め定められた複数サイクルの期間を作り出す。また同時にAND回路AND2によるゲートをアクティブとすることで判定回路23の判定結果をAND回路AND2を介して位相調整カウンタ16に出力させる。
【0023】
図2は、本発明の実施例に係る位相比較結果判定回路の動作を表すフローチャートである。ここでは、一例としてカウンタ21は、6進カウンタであり、位相比較結果である位相UPを0〜63の範囲でカウントするものとする。
【0024】
ステップS10において、カウンタ21は、リセット用カウンタ22からのリセット信号でリセットされ、カウンタ値が0となる(ステップS11)。
【0025】
ステップS12において、カウンタ21は、位相UP(位相比較UP)の回数をカウントし、ステップS13において、カウントを終了し、判定回路23は、カウント値の判定を行う。
【0026】
カウント値の判定の結果、判定回路23は、0〜15回がUp判定つまり75%以上がDown判定であるならば、位相調整カウンタ16をカウントダウンさせるように判定結果を出力する(ステップS14)。また、49〜63回がUp判定つまり75%以上がUp判定であるならば、位相調整カウンタ16をカウントアップさせるように判定結果を出力する(ステップS16)。さらに、16〜48回がUp判定であるならば、Up、Down判定間に大きな差がないとして位相調整カウンタ16を動作させないように判定結果を出力する(ステップS15)。
【0027】
ステップS17において、リセット用カウンタ22によってリセット信号が出力され、上記の判定結果にしたがって位相調整カウンタ16が動作し、ステップS10に戻る。
【0028】
図3は、本発明の実施例に係るDLL回路の動作を表すタイミングチャートである。図3において、DLL回路がロックした後におけるクロック信号CLKiのライズエッジのジッタに注目した動作波形を示す。ここでは描画の簡略化のために、カウンタ21が8進カウンタである場合を例とする。クロック信号CLKiにジッタが存在する場合、クロック信号CLKiの波形に示すように理想エッジからΔTの時間ずれ(ジッタ)が発生する。この時間ずれΔTは、サイクルごとに変動することもあるため、クロック信号CLKiの波形のようになり、ジッタのピーク量をΔTJextとする。
【0029】
ここでt0のタイミング以降における動作について説明する。位相比較回路14は、「クロック信号CLKi」と「クロック信号CLKi+位相調整結果となるクロック信号CLKo」との位相を比較し、位相DOWNあるいは位相UPとなる位相比較結果(PD出力)を出力する。8進カウンタを用いた例では、カウンタ21により、位相比較回路14の出力をサイクル毎にカウントし、8サイクル中の位相比較結果の分布を判定回路23により判断する。図3の例では、t1のタイミングでUP判定が50%であるため、位相ホールドの判定となり、位相調整カウンタのUP信号、DN信号の両方が“L”とされ、位相調整カウンタ値がvの値のまま保持される。この結果、位相比較結果判定回路15を設けない場合にクロック信号CLKoのジッタのピーク量がΔTJintと増大するのに対し、位相比較結果判定回路15を設けることでクロック信号CLKoのジッタのピーク量がΔTJextとなる。なお、カウンタ21は、8サイクル毎にリセットされる。
【0030】
以上のようなDLL回路によれば、位相比較回路14の位相比較結果の積算の分布から判断して位相調整カウンタ16をUp/Downを判定することで、ノイズ的な位相ずれに反応し難くなるため平均的なエッジ位置を維持することができる。ここでは判定方法にカウンタ21を用いて、ある一定期間でのカウンタ21の値を元に位相調整カウンタ16をUp/Downする。この判定値はプログラマブルにすることも可能であり、システム毎に調整可能とする。
【0031】
なお、本発明のDLL回路において、位相比較結果のカウンタを多段構成とし、位相比較結果判定のサイクル数を可変とするように構成してもよい。また、位相調整を行う分布のしきい値を可変とする構成であってもよい。
【0032】
さらに、クロック信号CLKiのフォールエッジに適用する構成としてもよい。また、クロック信号CLKiのライズ、フォールの両エッジに適用する構成としてもよい。
【0033】
以上説明したようにクロック信号CLKiにジッタが存在する場合において、一定の複数サイクル内における位相比較結果の分布を元にクロック信号CLKoの位相調整を行うことで、複数サイクル内のジッタによる位相変動の影響をフィルタする。この結果、クロック信号CLKoのジッタ量は、クロック信号CLKiのジッタのピーク値であるΔTJextを超えることがなくなる。
【0034】
なお、前述の特許文献等の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例に係るDLL回路の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例に係る位相比較結果判定回路の動作を表すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例に係るDLL回路の動作を表すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0036】
11 入力バッファ
12 電圧制御遅延回路
13 出力バッファ
14 位相比較回路
15 位相比較結果判定回路
16 位相調整カウンタ
17 D/A変換回路
21 カウンタ
22 リセット用カウンタ
23 判定回路
AND1、AND2 AND回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力クロック信号を可変遅延回路を介して出力クロック信号として出力すると共に、入力クロック信号と出力クロック信号との位相比較結果に基づいて可変遅延回路における遅延量を制御するDLL回路であって、
前記入力クロック信号と前記出力クロック信号との位相比較結果を所定の期間に亘って積算し、積算結果の分布に基づいて前記遅延量を制御する位相比較結果判定回路を備えることを特徴とするDLL回路。
【請求項2】
前記位相比較結果判定回路は、前記入力クロック信号に対し前記出力クロック信号の位相が進んでいること示す前記位相比較結果を積算する場合において、前記積算結果が第1の閾値以上である場合に前記遅延量を増加させ、前記積算結果が前記第1の閾値より小さい第2の閾値以下である場合に前記遅延量を減少させることを特徴とする請求項1記載のDLL回路。
【請求項3】
前記位相比較結果判定回路は、前記入力クロック信号に対し前記出力クロック信号の位相が遅れていること示す前記位相比較結果を積算する場合において、前記積算結果が第1の閾値以上である場合に前記遅延量を減少させ、前記積算結果が前記第1の閾値より小さい第2の閾値以下である場合に前記遅延量を増加させることを特徴とする請求項1記載のDLL回路。
【請求項4】
前記可変遅延回路における遅延量を制御するためのカウント値をカウントする位相調整カウンタを備え、
前記位相調整カウンタは、前記積算結果と前記第1および第2の閾値との比較結果に基づいて前記カウント値を増減させることを特徴とする請求項2または3記載のDLL回路。
【請求項5】
入力クロック信号を可変遅延回路を介して出力クロック信号として出力すると共に、入力クロック信号と出力クロック信号との位相比較結果に基づいて可変遅延回路における遅延量を制御するDLL回路の制御方法であって、
前記入力クロック信号と前記出力クロック信号との位相比較結果を所定の期間に亘って積算するステップと、
前記積算の結果の分布に基づいて前記遅延量を制御するステップと、
を含むことを特徴とするDLL回路の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−103759(P2010−103759A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273236(P2008−273236)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(500174247)エルピーダメモリ株式会社 (2,599)
【Fターム(参考)】