説明

III族元素窒化物結晶の製造方法、III族元素窒化物結晶、半導体装置形成用基板および半導体装置

【課題】液相成長法において、種結晶の結晶成長面における多核成長およびインクルージョンの発生を抑制し、前記結晶成長面に結晶を層成長させることが可能であり、結晶の品質、厚みの均一性および成長レートが向上したIII族元素窒化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】III族元素、アルカリ金属およびIII族元素窒化物の種結晶20を結晶成長容器18に入れ、窒素含有ガス雰囲気下において、前記結晶成長容器内18を加圧加熱し、前記III族元素、前記アルカリ金属および前記窒素を含む融液21中で前記III族元素および前記窒素を反応させ、前記種結晶20を核としてIII族元素窒化物結晶を成長させるIII族元素窒化物結晶の製造方法であって、前記融液21を、前記結晶成長面22に沿って一定方向に流動させた状態で、前記種結晶20の結晶成長面22にIII族元素窒化物結晶を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族元素窒化物結晶の製造方法、それにより得られたIII族元素窒化物結晶、半導体装置形成用基板および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)などのIII族元素窒化物化合半導体は、青色や紫外光を発光する半導体素子の材料として注目されている。青色レーザダイオード(LD)は、高密度光ディスクやディスプレイに応用されており、青色発光ダイオード(LED)は、ディスプレイや照明などに応用されている。また、紫外線LDは、バイオテクノロジーなどへの応用が期待され、紫外線LEDは、蛍光灯の紫外光の光源として期待されている。
【0003】
LDやLED用のIII族元素窒化物化合半導体の基板は、通常、サファイア基板上に、気相において、III族元素窒化物結晶をヘテロエピタキシャル成長させることによって形成されており、この成長法を気相エピタキシャル成長という。気相エピタキシャル成長方法としては、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、水素化物気相成長法(HVPE法)、分子線エピタキシー法(MBE法)などがある。通常、この気相エピタキシャル成長法で得られる窒化ガリウム結晶の転位密度は、108cm-2〜109cm-2であるため、得られる結晶の品質に問題がある。この問題を解決する方法として、例えば、ELOG(Epitaxial lateral overgrowth)法が開発されている。この方法によれば、転位密度を105cm-2〜106cm-2程度まで下げることができる。しかし、ELOG法は、工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
一方、気相エピタキシャル成長ではなく、液相で結晶成長を行う方法も検討されている。気相エピタキシャル法に比較して、得られる窒化ガリウム結晶の転位密度が低いという利点があるためである。窒化ガリウムや窒化アルミニウムなどのIII族元素窒化物単結晶の融点における窒素平衡蒸気圧は1万気圧以上であるため、従来、窒化ガリウム結晶や窒化アルミニウム結晶などのIII族元素窒化物結晶を液相で成長させるためには、1200℃で8000atm(8000×1.013×105Pa)という過酷な条件にする必要があった。この問題を解決するために、近年、ナトリウム(Na)などのアルカリ金属をフラックスとして用いる方法が開発されている。この方法によれば、比較的穏やかな条件で窒化ガリウム結晶や窒化アルミニウム結晶などのIII族元素窒化物結晶を得ることができる。例えば、アンモニアを含む窒素ガス雰囲気下において、アルカリ金属であるナトリウムとIII族元素であるガリウムを加圧加熱して溶融させ、この融液(ナトリウムフラックス)を用いて96時間育成することにより、1.2mm程度の最大結晶サイズの窒化ガリウム結晶が得られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、反応容器と結晶成長容器とを分離し、自然核発生を抑えて大型の結晶を成長させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。あるいは、種結晶の主面に平行な方向の成長速度を高くすることで、種結晶から引き継ぐ転位を低減する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2002−293696号公報
【特許文献2】特開2003−300798号公報
【特許文献3】特開2005−350291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶成長法において、成長レートの向上は、フラックス中の窒化ガリウムの過飽和度を上げることで実現できる。しかし、フラックス中の窒化ガリウムの過飽和度を上げると、種結晶の結晶成長面では、結晶面を維持しながら成長する層成長ができなくなり多核成長の状態となる。その結果、異なる結晶粒同士が会合することになり、結晶中にフラックスなどを巻き込むインクルージョンが発生する。また、層成長にすべく窒素含有ガスの圧力、温度を調整しても、種結晶の結晶成長面に沿って、フラックス中の窒化ガリウムの過飽和度、フラックスの温度・流速などが不均一であれば、完全な層成長にはできず、部分的に多核成長の状態になりインクルージョンが発生する。また、この状態では、成長した層の厚みも不均一となる。さらに、前記インクルージョンは、それ自体がIII族元素窒化物結晶の欠陥となる。前記III族元素窒化物結晶の欠陥は、前記結晶を基板として用いた半導体装置の製造において、歩留まりを低下させる。また、前記半導体装置の製造においては、前記結晶基板上に半導体層を形成する際に、前記インクルージョン中のフラックスなどが噴出し、汚染の原因となる。
【0007】
そこで、本発明は、液相成長法において、種結晶の結晶成長面における多核成長およびインクルージョンの発生を抑制し、前記結晶成長面に結晶を層成長させることが可能であり、結晶の品質、厚みの均一性および成長レートが向上したIII族元素窒化物結晶の製造方法、これにより得られたIII族元素窒化物結晶、半導体装置用基板および半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の製造方法は、III族元素、アルカリ金属およびIII族元素窒化物の種結晶を結晶成長容器に入れ、窒素含有ガス雰囲気下において、前記結晶成長容器内を加圧加熱し、前記III族元素、前記アルカリ金属および前記窒素を含む融液中で前記III族元素および前記窒素を反応させ、前記種結晶を核としてIII族元素窒化物結晶を成長させるIII族元素窒化物結晶の製造方法であって、
前記融液を、前記種結晶の結晶成長面に沿って一定方向に流動させた状態で、前記種結晶の結晶成長面にIII族元素窒化物結晶を成長させることを特徴とする。
【0009】
本発明のIII族元素窒化物結晶は、前記本発明の製造方法により得られたIII族元素窒化物結晶であって、波長400nm以上620nm以下の領域にある光吸収係数が、10cm-1以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の半導体装置形成用基板は、前記本発明のIII族元素窒化物結晶を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の半導体装置は、基板上に半導体層が形成されている半導体装置であって、前記基板が、前記本発明の基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
前述のように、本発明の製造方法では、融液(アルカリ金属フラックス)を、前記種結晶の結晶成長面に沿って一定方向に流動させる。このため、本発明の製造方法によれば、前記種結晶の結晶成長面に沿ったフラックス中の窒化ガリウムの過飽和度の均一性を高めることが可能であり、その結果、前記種結晶の結晶成長面における多核成長およびインクルージョンの発生を抑制し、前記種結晶の結晶成長面に高い成長レートで結晶を層成長させることが可能である。
【0013】
本発明の製造方法によれば、高品質であり、厚みの均一性に優れたIII族元素窒化物結晶を得ることが可能である。また、従来の液晶成長法では、前記種結晶の結晶成長面以外において、フラックス中の窒素ガリウムの過飽和度が上がると不均一な核発生が生じ、前記核を基にして雑晶が成長する。前記雑晶の成長は、本来成長させたい前記結晶成長面での結晶成長を抑制し、結果として成長レートを低下させる。
【0014】
これに対し、本発明の製造方法では、例えば、後述のように、種結晶の結晶成長面以外のフラックスの温度を高くし、窒化ガリウムの溶解度を上げることで、相対的に窒化ガリウムの過飽和度を下げ、種結晶の結晶成長面以外での不均一な核発生による雑晶の発生を防止し、成長レートをより向上させることが可能である。また、高い成長レートでの製造が可能であることから、本発明の製造方法では、サイズの大きなIII族元素窒化物結晶の製造が可能となる。本発明の製造方法は、III族元素窒化物結晶全般に有効な方法であるが、アルカリ金属がナトリウムで、III族元素窒化物結晶が窒化ガリウム結晶の場合に、特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において、前記種結晶の「結晶成長面」とは、前記種結晶において、主として結晶を成長させる面である。前記「結晶成長面」は、例えば、前記種結晶が板状の種結晶基板である場合、前記種結晶が存在する平面が「結晶成長面」である。ただし、本発明において、「結晶成長面」以外に、結晶が成長してもよい。また、本発明における「結晶成長面に沿って一定方向に流動させる」ことは、融液の流線が結晶成長面上を結晶成長面に平行かつ乱れが発生しない定常流を形成することを意味する。
【0016】
本発明の製造方法において、熱対流により、前記融液(フラックス)を流動させることが好ましい。ただし、フラックスの流動手段は、熱対流以外の手段を用いてもよい。熱対流以外の流動手段による流動としては、例えば、攪拌羽による流動、ポンプによる流動、容器の回転による流動があり、これらは、単独でもしくは組み合わせ用いても良く、熱対流と組み合わせてもよい。
【0017】
本発明の製造方法において、前記結晶成長面に沿って上流側から下流側に流動するに従って前記融液(フラックス)の温度を低下させることが好ましい。フラックス中の窒化ガリウムは、フラックスが前記結晶成長面に沿って上流側から下流側に流動するに従い、結晶成長に消費され減少する。これに対し、フラックスの温度を、上流側から下流側に流動するに従って低下させることで、前記結晶成長面近傍におけるフラックス中の窒素ガリウムの過飽和度の均一性をより高めることができ、その結果、前記結晶成長面において、より厚みの均一性に優れた結晶を層成長させることが可能となる。
【0018】
本発明の製造方法において、前記種結晶として種結晶基板を用い、前記種結晶基板の前記結晶成長面と鉛直線とが形成する角のうちの上側の狭角が0度以上30度以下の範囲となる状態で、前記種結晶基板を前記結晶成長容器内に配置し、前記種結晶基板の上端側から下端側に向って前記融液(フラックス)を流動させ、上端側と下端側の前記融液(フラックス)の温度差を、0.1℃〜10℃の範囲に設定することが好ましい。前述のとおり、本態様においては、例えば、図7(a)または(b)に示すように、種結晶基板20の結晶成長面22(同図において点線で示す左側の面)と鉛直線Vとが形成する角のうちの「上側の」狭角θが0度または0度を超えて30度以下であるため、結晶成長面22が真横または上を向くこととなり、図7(c)に示すように、種結晶基板20の結晶成長面22(同図において点線で示す左側の面)と鉛直線Vとが形成する角のうちの「下側の」狭角θ’が0度を超えて30度以下である場合のように、結晶成長面22が下を向くことはない。
【0019】
本発明の製造方法において、前記種結晶基板の前記結晶成長面の上端側と下端側の中間点から前記結晶成長面と対面する前記結晶成長容器の側壁までの距離(D)と、前記結晶成長容器の底面から前記融液(フラックス)の液面までの距離(H)との比(H/D)を、0.4〜2.5に設定することが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法において、前記種結晶基板の前記結晶成長面と反対側の面を、前記結晶成長容器の側壁に密着させて前記融液(フラックス)と非接触状態にすることが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、前記結晶成長容器の加熱温度は、850℃〜870℃であり、前記結晶成長容器の加圧圧力は、2.5MPa〜3.3MPaであることが好ましい。前記条件においては、前記結晶成長面上での多核成長およびインクルージョンが発生しにくく、その結果、より高品質のIII族元素窒化物結晶を得ることができる。
【0022】
本発明において、前記III族元素は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびインジウム(In)から選択される少なくとも一つの元素であり、前記III族元素窒化物は、AlsGatIn(1-s-t)N(ただし、0≦s≦1、0≦t≦1、s+t≦1)で表される化合物であることが好ましい。
【0023】
本発明において、前記III族元素は、Gaであり、前記III族元素窒化物は、GaNであり、前記アルカリ金属は、Naを含むことが好ましい。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明において、前記III族元素は、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)およびインジウム(In)の少なくとも一つであるが、特に、ガリウム(Ga)が好ましい。また、III族元素窒化物は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)、窒化ガリウム(GaN)などがあるが、特に、窒化ガリウム(GaN)が望ましい。
【0026】
本発明において、前記アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)であるが、この中で、ナトリウム(Na)が好ましい。また、これらアルカリ金属は単独で使用してもよいが、二種類以上のアルカリ金属を混合して用いてもよい。混合して用いる場合のアルカリ金属の主たる成分は、ナトリウムが望ましい。また、フラックス成分として、アルカリ土類金属を併用してもよい。前記アルカリ土類金属としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Baがある。また、フラックス中には、ドーパントを添加してもよい。n型ドーパントとしては、例えば、Si、Ge、Sn、Oがある。p型ドーパントとしては、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Znがある。ドーパントの量は、得られる結晶中において、例えば、1×1017〜1×1019cm-3の範囲である。
【0027】
つぎに、アルカリ金属としてナトリウム(Na)を使用し、窒化ガリウム(GaN)を製造した場合を例にあげて、本発明を説明する。ただし、本発明において、窒化ガリウム以外のIII族元素窒化物結晶であってもよく、窒化ガリウム以外のIII族元素窒化物であっても、下記の記載を参考にして製造することが可能である。
(実施の形態1)
本実施形態は、種結晶として種結晶基板を用い、種結晶基板の結晶成長面と鉛直線とが形成する角のうちの上側の狭角が0度(種結晶基板の結晶成長面と鉛直線とが平行)となる状態(種結晶基板を結晶成長容器内に略垂直に立てた状態)で配置した例である。本実施形態においては、種結晶基板の下端側のフラックスの温度を、種結晶基板の上端側のフラックスの温度より低くする。この結果、フラックスは、種結晶基板の上端側から下端側へと結晶成長面に沿って一定方向に熱対流により流動し、結晶成長面にIII族元素窒化物結晶が成長する。
【0028】
本発明の製造方法に用いる製造装置の構成の一例を、図1に示す。図1に示すように、前記製造装置は、ガス供給装置1と、圧力調整器3と、密閉耐圧耐熱容器15と、反応容器17と、加熱装置16と、排気装置14とを、主要構成要素として備えている。ガス供給装置1には、原料ガスとして窒素含有ガスが充填されており、パイプ2を介して前記圧力調整器3に接続されている。圧力調整器3は、原料ガスを最適なガス圧に調整する機能を有し、パイプ4およびバルブ5を介して脱着可能な継手7に接続されている。
【0029】
さらに、パイプ4は途中でパイプ11に分岐し、パイプ11はバルブ13およびパイプ12を介して前記排気装置14に接続されている。反応容器17の内部には、密閉耐圧耐熱容器15が収容可能である。反応容器17は、加熱装置16によって加熱可能である。反応容器17は、継手7と脱着できる構造となっている。一方、ゲージポート8は、パイプ4の継手7の近傍に接続されており、真空計、圧力計、露点計、酸素計などを必要に応じて接続できる。
【0030】
加熱装置16としては、例えば、断熱材およびヒータから構成される電気炉などを用いることができる。また、加熱装置16は、特に、ナトリウムフラックスの凝集を防止する観点から、密閉耐圧耐熱容器15および加熱装置16内の耐熱パイプ10の部分は、温度が均一に保持されるように温度管理をすることが好ましい。加熱装置16によって、反応容器17内の温度を、例えば、600℃(873K)〜1100℃(1373K)に制御できる。圧力調整器3によって、反応容器17内の窒素含有ガス圧力を、100気圧(100×1.013×105Pa)以下の範囲で制御できる。
【0031】
密閉耐圧耐熱容器15に使用する材質は、例えば、SUS316などのSUS系材料、インコネル、ハステロイもしくはインコロイなどのニッケル系合金などの高温高圧に耐性のある材料が使用できる。特に、インコネル、ハステロイもしくはインコロイなどの材料は、高温高圧化における酸化に対しても耐性があり、不活性ガス以外の雰囲気でも利用でき、再利用、耐久性の点から好ましい。
【0032】
加熱装置16の底部には、密閉耐圧耐熱容器15底部の温度を下げるため冷却棒19が設けられている。冷却棒19は、一端が密閉耐圧耐熱容器15底部に接触し、他端が断熱材23を通して加熱装置16の外部まで伸びている。この冷却棒19により、密閉耐圧耐熱容器15底部の熱を加熱装置16の外部に逃がすことで、密閉耐圧耐熱容器15底部の一部を冷却することができる。冷却温度は、冷却棒19の太さを変えることで調整することができる。
【0033】
図2(a)に、密閉耐圧耐熱容器15内部の一例を示す。同図において、図1と同一部分には同一符号を付している。図2(a)に示すように、密閉耐圧耐熱容器15の底面には、結晶成長容器18を冷却するための冷却台26が設けられている。結晶成長容器18は、その底部の中央部が冷却台26に接するように密閉耐圧耐熱容器15内部に配置されている。結晶成長容器18と冷却台26との接触部の面積は、結晶成長容器18底部の外形の1/4〜3/4の面積とすることが好ましい。結晶成長容器18内部には、ガリウム(Ga)およびナトリウム(Na)が融解したフラックス(融液)21が充填され、且つ、種結晶基板20が前記接触部の略中央に略垂直に立てた状態で配置されている。
【0034】
結晶成長容器18に使用する材質は、特に制限されないが、例えば、アルミナ(Al23)、サファイア、イットリア(Y23)、BN、PBN、MgO、CaO、W、SiC、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素系材料等が使用できる。特に、サファイアは、高温下でもフラックスへの酸素やアルミニウムの融解が少ないため、不純物の少ない窒化ガリウム結晶を成長させることができ、さらに、耐久性が高く再利用が可能なため好ましい。
【0035】
図2(b)に、結晶成長容器18内のフラックス21の流動の一例を示す。同図において、図1および図2(a)と同一部分には同一符号を付している。図2(b)に示すように、種結晶基板20は、フラックス21を二分するように、結晶成長容器18内に略垂直に立てた状態で配置されている。同図において、種結晶基板20の結晶成長面22は、図中に点線で示した面(左側の面)である。
【0036】
本発明において、種結晶は、単結晶、多結晶、非晶質(アモルファス)のいずれであってもよいが、単結晶が望ましい。また、種結晶の形態は、特に制限されないが、種結晶基板が好ましい。種結晶基板としては、例えば、窒化ガリウムの単結晶基板、もしくは窒化ガリウムの薄膜基板の形態が好ましい。窒化ガリウムの薄膜基板は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)、ハイドライド気相成長法(HVPE法)、分子線エピタキシー法(MBE法)などにより、サファイアなどの基板上に窒化ガリウム薄膜を形成したものである。温度上昇時に、フラックスの温度が700℃を超えると、急激に、窒素を溶解できる量が増加するため、雰囲気ガスからの窒素の供給が追いつかず、フラックスが極端な窒素不足の状態になり、そのため、種結晶基板の窒化ガリウムが溶解(メルトバック)する。従って、窒化ガリウム薄膜は、厚い方がよい。具体的には、窒化ガリウム薄膜の厚みは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
【0037】
つぎに、フラックス21の流動について説明する。フラックス21の流動状態の確認は、実際に測定もしくは観察して確認してもよいし、シミュレーションによる計算により確認してもよい。
【0038】
結晶成長容器18と冷却台26との接触部は、冷却棒19により冷却され(図2(a)参照)、低温部27となる。前記接触部が低温部27となることで、種結晶基板20の下端側Bのフラックス21の温度が低くなる。その結果、フラックス21が、図中に実線の矢印で示すように熱対流により流動する。
【0039】
結晶成長容器18内部において、フラックス21の流動は、種結晶基板20の結晶成長面22側(図2(b)において左側)で必須であり、角丸長方形の単一の循環流であることが好ましい。前記循環流であれば、所望の結晶成長に直接寄与する結晶成長面22近傍のフラックス21の流動が、結晶成長面22の上端側Aから下端側Bに向かう結晶成長面22に沿った一定方向の流動となるからである。この場合には、フラックス21は、まず、気液界面で窒素含有ガス中の窒素を溶解する。フラックス21中に溶解した窒素は、フラックス21中のガリウムと窒化ガリウムを形成する。ついで、フラックス21は、窒素の供給を受け続けることで窒化ガリウムの溶解度を越え、過飽和度を上げながら、種結晶基板20の結晶成長面22の上端付近まで流動する。
【0040】
つぎに、種結晶基板20近傍で下降をはじめ、結晶成長面22に沿って結晶成長容器18の底部付近まで流動する。つぎに、結晶成長容器18の底面に沿って結晶成長容器18の側壁(図2(b)において左側の側壁)付近まで流動した後、気液界面付近まで上昇し、再び、窒素を溶解する。
【0041】
このような好ましいフラックス21の循環流は、例えば、種結晶基板20の結晶成長面22から結晶成長面22と対面する結晶成長容器18の側壁(図2(b)において左側の側壁)までの距離(D)と、結晶成長容器18の底面からフラックス21の液面までの距離(H)との比(H/D)、種結晶基板20の上端側Aのフラックス21の温度(T1)と種結晶基板20の下端側Bのフラックス21の温度(T2)との差ΔT(=T2−T1)を調整することで得ることができる。
【0042】
前記比(H/D)は、0.4〜2.5であることが好ましい。前記比(H/D)を2.5以下とすることで、前記種結晶基板20の上側と下側の2つに循環流が分離し、結晶成長面22に沿った一定方向の流動でなくなるのを防止できる。また、前記比(H/D)を0.4以上とすることで、循環流が円形に近づき、結晶成長面22に沿った一定方向の流動でなくなるのを防止できる。前記比(H/D)は、より好ましくは、0.6〜2.0である。
【0043】
前記差ΔTは、0.1℃〜10℃であることが好ましい。前記差ΔTを0.1℃以上とすることで、熱対流によるフラックス21の流速(流動速度)が速くなり、前記差ΔTを10℃以下とすることで、種結晶基板20の下端側Bのフラックス21の温度低下による窒化ガリウムの溶解度の下がり過ぎを抑え、相対的に窒化ガリウムの過飽和度の上がりすぎを防ぐことができる。これにより、窒化ガリウムの過飽和度を多核成長が発生しにくい適正な範囲に維持することができる。前記差ΔTは、より好ましくは、1℃〜5℃である。
【0044】
本実施形態においては、図2(b)中に破線の矢印で示すように、種結晶基板20の結晶成長面22と反対側の面側(同図において右側)においても、結晶成長面22側(同図において左側)と同様の循環流が生じる。
【0045】
つぎに、フラックス21中の窒化ガリウムの過飽和度、温度および結晶成長の状態について説明する。本実施形態においては、フラックス21の窒化ガリウム濃度が過飽和状態で、結晶成長面22に結晶が成長する。ここで、フラックス21の窒化ガリウム濃度は、種結晶基板20の上端側では高く、フラックス21が下方向に流動するに従い窒化ガリウムが結晶として析出するため低くなる。
【0046】
そのため、フラックス21の温度が、種結晶基板20の上端側Aと下端側Bで同じ温度であれば、種結晶基板20の上端側Aでは結晶成長速度が高く、下にいくほど低くなる。そこで、種結晶基板20の下端側Bのフラックス21の温度を、上端側Aのフラックス21の温度より低くすることで、結晶成長面22に沿ったフラックス21の窒化ガリウムの過飽和度を、均一性に優れた状態に調整できる。また、結晶成長容器18内の温度および圧力を、後述のような結晶成長面22全体で多核成長が発生しにくい条件に設定することで、結晶成長面22に厚みの均一性に優れた結晶を層成長させることができる。
【0047】
さらに、フラックス21を結晶成長面22に沿って一定方向に流動させることで、局所的なフラックス21の窒化ガリウムの過飽和度、温度、流速の変化も抑制できるため、多核成長をほぼ完全に抑制でき、結果的にインクルージョンの発生の抑制と成長レートの向上を両立させることができる。また、結晶成長容器18においては、低温部27以外の温度を高い状態にすることができる。これにより、種結晶基板20の下端側B以外のフラックス21の温度を高くし、フラックス21の窒化ガリウムの溶解度を上げることで、相対的にフラックス21の過飽和度を下げ、結晶成長容器18内面での不均一な核発生による雑晶の発生を抑制できる。
【0048】
つぎに、図1に示した製造装置を用いた窒化ガリウム結晶の製造について、具体的に説明する。
【0049】
まず、結晶成長容器18内に、ナトリウム(Na)、ガリウムを入れ、種結晶基板20を、結晶成長容器18の中央部に、略垂直に立てた状態で配置する。
【0050】
本発明において、ナトリウムは、不均一な核発生の抑制および結晶品質の確保の点から高純度のものが望ましく、具体的には、純度は99%以上、さらには純度99.95%以上が好ましい。ガリウムの純度も同様に、99%以上が好ましく、さらには99.9%以上が好ましい。ナトリウム(Na)とガリウム(Ga)との質量比(Na:Ga)は、窒素の溶解度との関係で、Na:Ga=4:1〜1:4の範囲が好ましく、さらには、Na:Ga=2:1〜1:2の範囲が好ましい。ナトリウムとガリウムの合計質量は、結晶成長容器18内において、フラックス21の液面から下に種結晶基板20が位置するように設定することが好ましい。結晶成長容器18内において、種結晶基板20の最も高い位置は、前記フラックス21の液面から0mm〜60mmの範囲で下に位置することが好ましく、さらに好ましくは、2mm〜40mmの範囲で下に位置することである。
【0051】
本発明において、結晶成長容器18に、さらに、炭化水素を添加してもよい。前記炭化水素は、例えば、鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、およびこれらの混合物があげられる。前記炭化水素は、常温(例えば、25℃)で、液体、固体あるいは液体と固体の混合状態が好ましい。
【0052】
本発明において、前記炭化水素に代えて、もしくは前記炭化水素に加え(併用して)、炭素を結晶成長容器18に入れてもよい。前記炭素は、例えば、カルビン、グラファイト、ダイヤモンド、および、これらの混合物があげられる。特に、秤量のしやすさ、物質の安定性、純度の面からグラファイト性の炭素が好ましく、具体的には、微粒子状態のカーボンブラックや固体状の等方性高純度グラファイトなどが好ましい。炭素の添加量は、例えば、下記炭化水素の添加量と同じとすればよい。
【0053】
前記炭化水素の添加量の下限は、例えば、ナトリウム100質量部に対し、0.03質量部(%)以上が好ましく、より好ましくは、0.05質量部(%)以上である。
【0054】
前記炭化水素の添加量の上限は、種結晶として窒化ガリウム単結晶の自立基板(単独基板)を用いる場合と、窒化ガリウムの薄膜基板を用いる場合とに分けて、て、適宜決定することが好ましい。
【0055】
種結晶として窒化ガリウム単結晶の自立基板(単独基板)を用いる場合、前記炭化水素の添加量上限は、ナトリウム100質量部に対し、1質量部(%)以下が好ましい。1%を超えると、得られる窒化ガリウム結晶において、欠陥の増加や着色などの品質低下の原因となるおそれがあるからである。
【0056】
一方、種結晶として窒化ガリウムの薄膜基板(例えば、窒化ガリウム薄膜の厚みが10μm程度)を用いる場合、前記炭化水素の添加量上限は、ナトリウム100質量部に対し、0.8質量部(%)以下が好ましく、より好ましくは、0.4質量部(%)以下である。これは、前記炭化水素による窒化ガリウム薄膜のメルトバックを防止するためである。
【0057】
なお、「メルトバック」とは、結晶成長初期にナトリウムフラックスの温度が上昇すると、ナトリウムフラックス中に溶解できる窒素量が急激に上昇する反面、ナトリウムフラックスへの窒素の溶け込みが遅れ、そのため種結晶の窒化ガリウムを溶解することである。このように溶解量が多いと、例えば、窒化ガリウムの薄膜基板を種結晶として用いる場合、窒化ガリウム薄膜が溶解してなくなる(過剰溶解または過剰メルトバックする)場合がある。
【0058】
メルトバックの発生メカニズムは、例えば、つぎのように推測される。窒化ガリウムの薄膜基板に結晶成長させる場合、添加量上限を超える第2の炭化水素を添加すると、ナトリウムフラックス中の窒素(N)の一部が第2の炭化水素中の炭素(C)の一部と結合し、シアン化物イオン(−CN-)を生成する。このため、結晶成長初期にナトリウムフラックス中の窒素が不足する時間が長くなり、その結果、種結晶の窒化ガリウムが溶解しやすくなる。従って、種結晶として窒化ガリウムの薄膜基板を用いる場合は、炭化水素の上述の範囲にすることが好ましい。
【0059】
なお、窒化ガリウム薄膜の厚みが10μmより厚い場合は、薄膜の厚みにほぼ比例して添加量の上限を増やすことが好ましく、窒化ガリウムの厚みが10μmより薄い場合は、厚みに比例して上限を下げることが好ましい。また、前記メルトバックの発生メカニズムは推測であり、本発明を何ら限定しない。
【0060】
つぎに、各種原料を入れた結晶成長容器18を、密閉耐圧耐熱容器15内に配置する。その後、前記密閉耐圧耐熱容器15の上部に、バルブ9が取り付けられたパイプ10の一端を連結して反応容器17を組み立てる。ついで、パイプ10の他端を継手7と接続する。その後、雰囲気ガスが混入しないようにバルブ9を閉める。ここまでの準備工程は、ナトリウムの酸化や水酸化を防止するために、酸素濃度と水分含有量が管理された窒素ガスやアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で作業することが好ましい。不活性ガスの酸素濃度(容積比)は、5ppm以下が好ましく、さらには1ppm以下が好ましい。また、不活性ガスの水分含有量(容積比)は、3ppm以下が好ましく、さらには、0.5ppm以下が好ましい。不活性ガスにおいて、特に、酸素濃度が1ppm以下かつ、水分含有量(容積比)が0.5ppm以下であれば、ナトリウム表面の酸化や水酸化が数時間程度では進行しないため、より好ましい。
【0061】
つぎに、反応容器17を不活性ガス雰囲気から取り出し、密閉耐圧耐熱容器15を加熱装置16内に配置し、継手7をパイプ4に接続する。その後、バルブ13を開いて、排気装置14により、パイプ4から密閉耐圧耐熱容器15の中の不活性ガスを排気する。
【0062】
つぎに、ガス供給装置1から窒素含有ガスを密閉耐圧耐熱容器15内に導入して加圧し、さらに、加熱装置16により密閉耐圧耐熱容器15を結晶成長温度まで加熱することで、窒化ガリウム結晶を成長させる。
【0063】
密閉耐圧耐熱容器15の加熱温度は、830℃〜890℃が好ましく、さらには、850℃〜870℃がより好ましい。また、窒素含有ガスの加圧圧力は、1.5MPa〜5.0MPaが好ましく、さらには、2.5MPa〜3.3MPaがより好ましい。加熱温度が850℃〜870℃、かつ加圧圧力が2.5MPa〜3.3MPaの範囲は、多核成長せず層成長し易い条件であり、特に好ましい。
【0064】
そして、原料として投入したガリウムの約70%〜95%が窒化ガリウム結晶として析出する時点で、結晶成長を終了し、結晶成長容器18から種結晶基板20を取り出す。種結晶基板20の結晶成長面上に、目的とする窒化ガリウム結晶が成長している。
【0065】
本発明において、結晶成長容器18の断面形状は、フラックス21が結晶成長面22側で一定方向に流動できる形状であれば、特に制限されず、例えば、円形であってもよいし、四角形であってもよい。
【0066】
また、本実施形態においては、種結晶基板20を、フラックス21を二分するように、結晶成長容器18内に略垂直に立てた状態で配置したが、結晶成長面22側のフラックスの量が多くなるように配置してもよい。これにより、結晶成長面22側の成長後の結晶膜厚を厚くできる。
【0067】
また、本実施形態においては、種結晶基板20を、結晶成長容器18内に傾けて配置してもよい。その一例を、図3に示す。同図において、図2(b)と同一部分には同一符号を付している。図3に示すように、種結晶基板20の上方で、フラックス21に単一の循環流が生じている。
【0068】
このような好ましいフラックス21の循環流は、例えば、種結晶基板20の結晶成長面22と鉛直線Vとが形成する角のうちの上側の狭角(θ)、種結晶基板20の結晶成長面22の上端側Aと下端側Bの中間点から結晶成長面22と対面する結晶成長容器18の側壁(同図において左側の側壁)までの距離(D)と、結晶成長容器18の底面からフラックス21の液面までの距離(H)との比(H/D)、種結晶基板20の上端側Aのフラックス21の温度(T1)と種結晶基板20の下端側Bのフラックス21の温度(T2)との差ΔT(=T2−T1)を調整することで得ることができる。前記上側の狭角(θ)は、0度を超えて30°以下の範囲とすることが好ましい。前記上側の狭角(θ)を30°以下とすることで、種結晶基板20の上方の循環流が左右に分離し、結晶成長面22に沿った一定方向の流動でなくなるのを防止できる。前記比(H/D)および前記差ΔTについては、前述のとおりである。
【0069】
本実施形態においては、結晶成長容器18の底面の一部を冷却することによりフラックス21を熱対流により流動させたが、結晶成長容器18の側面を加熱することによりフラックスを熱対流により流動させてもよい。また、フラックスの流動は、フラックスの温度制御と分離して、撹拌子による撹拌とフラックスの加熱の組み合わせにより制御してもよい。
(実施の形態2)
本実施形態は、種結晶として種結晶基板を用い、種結晶基板の結晶成長面と反対側の面を、結晶成長容器の側壁に密着させてフラックスと非接触状態とした例である。以下、本実施形態で特に言及しない事項は、前述の実施形態1と同じである。
【0070】
本実施形態の製造方法では、例えば、前述の実施形態1と同様に、図1に示す製造装置を使用することができる。以下、図1に示す製造装置を用いた本実施形態の窒化ガリウムの製造方法の一例について説明する。
【0071】
図4(a)に、密閉耐圧耐熱容器15内部の一例を示す。同図において、図2(a)と同一部分には同一符号を付している。図4に示すように、本実施形態における密閉耐圧耐熱容器15の内部は、結晶成長容器18が、その底部の右端側が冷却台26と接するように密閉耐圧耐熱容器15内部に配置されている点、および種結晶基板20が、結晶成長面22と反対側の面を結晶成長容器18の右側側壁に密着させて配置されている点を除き、図2(a)に示すのと同様である。
【0072】
図4(b)に、結晶成長容器18内のフラックスの流動の一例を示す。同図において、図2(b)と同一部分には同一符号を付している。
【0073】
前述のとおり、本実施形態においては、種結晶基板20が、結晶成長面22と反対側の面を結晶成長容器の右側側壁に密着させて配置されている。このため、前記結晶成長面22と反対側の面は、フラックス21と接しておらず、その結果、雑晶の発生や結晶成長面22からの結晶の回りこみを防止できる。そのため、フラックス21中のガリウム(Ga)を効率よく結晶成長面22に成長させることができ、結晶膜厚を厚くすることができる。
【0074】
また、本実施形態においては、結晶成長容器18自体を傾けることで、種結晶基板20を傾けて配置してもよい。その一例を図5に示す。同図において、図3と同一部分には同一符号を付している。図5に示すように、結晶成長容器18自体を傾けることで、種結晶基板20を傾けて配置している。例えば、前述の実施形態1と同様の前記上側の狭角(θ)、前記比H/Dおよび前記差ΔTとすることで、好ましいフラックスの単一の循環流を得ることができる。
(実施の形態3)
つぎに、本発明のIII族元素窒化物結晶について、説明する。本発明のIII族元素窒化物結晶は、前述のように、本発明の製造方法により製造されたものである。本発明のIII族元素窒化物結晶は、波長400nm以上620nm以下の光の光吸収係数が、10cm-1以下である。光吸収係数は、好ましくは、5cm-1以下である。なお、光吸収係数の下限は、0を超える値である。また、本発明の製造方法により製造されたIII族元素窒化物結晶は、炭素を含んでいてもよい。例えば、本発明のIII族元素窒化物結晶は、SIMS分析において、5×1017(cm-3)以下の炭素を含んでいてもよい。
【0075】
本発明のIII族元素窒化物結晶において、III族元素は、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも一つの元素であり、III族元素窒化物は、AlsGatIn(1-s-t)N(ただし、0≦s≦1、0≦t≦1、s+t≦1)で表される化合物であることが好ましい。本発明III族元素窒化物結晶は、窒化ガリウム結晶であることが好ましい。
(実施の形態4)
本発明の半導体装置形成用基板は、本発明のIII族元素窒化物結晶を含む。本発明の半導体装置は、本発明の半導体装置形成用基板上に半導体層が形成されているという構成である。前記半導体層としては、特に限定されるものではなく、例えば、AlsGatIn(1-s-t)Nで表わされる化合物半導体から形成された層であってもよい。前記半導体層は、単層または積層構造のいずれであってもよい。本発明の半導体装置の種類は、特に制限されず、例えば、レーザダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)などがあげられる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例について説明する。実施例1および実施例2における各種特性および物性は、下記の方法により評価若しくは測定した。
(1)窒化ガリウムの生成確認
窒化ガリウムの生成確認は、元素分析(EDX)およびフォトルミネッセンス測定(PL)により行った。元素分析は、電子顕微鏡より試料の位置を確認しながら、加速電圧15kVの電子照射により行った。また、フォトルミネッセンス測定は、常温でヘリウム・カドミウムレーザ光照射により行った。
(2)生成量
生成量は、結晶生成量と雑晶生成量とに区分し、以下の方法で測定した。結晶生成量は、結晶成長後の種結晶(結晶成長部分を含む)の質量から予め測定しておいた種結晶基板単体の質量を減算して求めた。また、雑晶生成量は、結晶成長容器の内面に付着した結晶を集めて質量を測定して求めた。
(3)窒化ガリウム(GaN)の収率
窒化ガリウム(GaN)の収率は、投入したガリウムの質量に対する、種結晶基板上に成長した量(=結晶生成量)のガリウムに相当する質量の割合を求めた。
(4)上下膜厚比(下/上)
上下膜厚比(下/上)は、略垂直に立てた状態で設置(縦置き)した種結晶の上端から5mmの部分の結晶成長厚みを上厚みとし、下端から5mmの部分の結晶成長厚みを下厚みとし、下厚み/上厚みで求めた。
(5)不純物面積比
不純物面積比は、結晶成長部分の中央の7mm角を評価した。不純物が混入している面積を画像処理にて求め、前記7mm角の面積に対する割合として求めた。
(実施例1)
図1に示す製造装置を用い、前述の実施形態1と同じ手法により、7つの条件(実施例1−1〜5、比較例1−1〜2)で窒化ガリウム結晶を製造した。共通の製造条件を、下記に示す。
【0077】
(共通製造条件)
種結晶 :窒化ガリウムの薄膜基板
寸法 :14mm×15mm窒化ガリウム薄膜(膜厚:10μm)
原料ガス種 :窒素ガス(N2)、純度99.999%
ナトリウム :純度99.9〜99.99%
ガリウム :純度99.999〜99.99999%
結晶成長容器の材質:Al23(アルミナ)、純度99.9〜99.99%
成長温度 :865℃
成長圧力 :3.2MPa
成長時間 :144時間
種結晶基板配置位置:結晶成長容器の中央
前記共通製造条件以外の製造条件を、下記表1のようにして、実施例1−1〜5、比較例1−1〜2の窒化ガリウム結晶を得た。なお、下記表1において、差ΔTについては、フラックスが結晶成長容器内に充填された状態で温度T1およびT2を計測することが困難であったため、図2(b)に示す種結晶基板20の上端側A上方の気液界面の温度および種結晶基板20の下端側B直下の結晶成長容器18の底部外側の温度を測定し、それらの温度から温度T1およびT2を推定して求めた。下記表2に、実施例1−1〜5、比較例1−1〜2における各種特性および物性の評価若しくは測定結果を示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
前記表2に示すように、実施例1−1〜5、比較例1−1〜2の全てにおいて、窒化ガリウムの生成を確認した。結晶成長面に沿って一定方向のフラックス流が形成された実施例1−1〜5では、GaN収率が75〜85%と高く、上下膜厚比も0.9〜1.1と良好であった。また、不純物面積比も2〜22%で比較的低く、インクルージョンなどの少ない高品質のGaN結晶を得ることができた。特に、実施例1−1では、不純物面積比の値が2%でインクルージョンが殆ど無い高品質なGaN結晶を得ることができた。一方、ΔT(=T2−T1)が0℃であり、結晶成長面に沿った一定方向のフラックス流が形成されなかった比較例1−1では、GaN収率がやや低く、不均一な核発生と思われる雑晶が結晶成長容器内に発生し、さらに、上下膜厚比も0.3と小さく、成長結晶の厚みが結晶成長面の上下で不均一であった。また、H/Dが3.0であり、結晶成長面側に発生するフラックスの循環流が上下に分離し、結晶成長面に沿った一定方向のフラックス流が形成されなかった比較例1−2では、比較例1−1と同様に、GaN収率がやや低く、不均一な核発生と思われる雑晶が結晶成長容器内に発生し、さらに、上下膜厚比も0.3と小さく、成長結晶の厚みが結晶成長面の上下で不均一であった。
【0081】
図6に、実施例1−1の窒化ガリウム結晶30の写真を示す。図6に示すように、差ΔTが1℃、かつH/Dが1の実施例1−2では、結晶中の不純物であるインクルージョンが少なく、また、表面の凹凸も少なく層成長していた。
(実施例2)
図1に示す製造装置を用い、前述の実施形態2と同じ手法により、2つの条件(実施例2−1〜2)で窒化ガリウム結晶を製造した。共通の製造条件を、下記に示す。
(共通製造条件)
種結晶 :窒化ガリウムの薄膜基板
寸法 :14mm×15mm窒化ガリウム薄膜(膜厚:10μm)
原料ガス種 :窒素ガス(N2)、純度99.999%
ナトリウム :純度99.9〜99.99%
ガリウム :純度99.999〜99.99999%
炭素 :比重1.0g/cm3(黒鉛)、沸点4000℃
結晶成長容器の材質 :Al23(アルミナ)、純度99.9〜99.99%
結晶成長容器の大きさ:内径 φ17(半円形状)
成長温度 :865℃
成長圧力 :3.2MPa
成長時間 :144時間
種結晶基板配置位置 :結晶成長面と反対側の面を結晶成長容器の右側側壁に密着
前記共通製造条件以外の製造条件を、下記表3のようにして、実施例2−1〜2の窒化ガリウム結晶を得た。なお、下記表3において、差ΔTについては、フラックスが結晶成長容器内に充填された状態で温度T1およびT2を計測することが困難であったため、図4(b)に示す種結晶基板20の上端側Aの約10mm上部の温度および種結晶基板20の下端側B直下の結晶成長容器18の底部外側の温度を測定し、それらの温度から温度T1およびT2を推定して求めた。下記表4に、実施例2−1〜2における各種特性および物性の評価若しくは測定結果を示す。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
前記表4に示すように、実施例2−1〜2の双方において、窒化ガリウムの生成を確認した。実施例2−1〜2では、GaN収率が高く雑晶も少なかった。また、不純物面積比の値も比較的低く高品質のGaN結晶が得られた。さらに、実施例2−1〜2では、結晶成長面側にのみ結晶成長しており、投入したGaの質量が半分にも関わらず実施例1−2〜4の結晶膜厚とほぼ同じであった。
(実施例3)
実施例1−2の種結晶基板部を除去し、裏面研磨、表面研磨を行い、厚み400μmのGaN結晶を取り出した。このGaN結晶は、結晶性に優れ、EPD密度が1×104〜5×105cm-2の低転位なGaN自立結晶基板であった。また、結晶の透明性も良好で、着色もほとんど観測されなかった。このGaN自立結晶基板の波長400nm以上620nm以下の領域にある光吸収係数は、10cm-1であった。
【0085】
実施例1〜3では、ドーパントを添加した例は示していないが、n型ドーパント(Si、O、Ge、Sn)やp型ドーパント(Mg、Sr、Ba、Zn)などを適度に含んだ場合にも使用するこが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、液相成長法によるIII族元素窒化物結晶の製造おいて、種結晶の結晶成長面における多核成長およびインクルージョンの発生を抑制し、前記結晶成長面に結晶を層成長させることが可能であり、結晶の品質、厚みの均一性および成長レートを向上させることができる。本発明のIII族元素窒化物結晶、それを用いた半導体装置形成用基板および半導体装置の用途は、例えば、レーザダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)などがあげられ、その用途は限定されず、広い分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の製造方法に用いる製造装置の構成の一例を示す図
【図2】(a)本発明の一実施形態における密閉耐圧耐熱容器の内部の一例を示す図(b)前記実施形態における結晶成長容器内のフラックスの流動の一例を示す断面図
【図3】前記実施形態において種結晶基板を傾けて配置した一例を示す断面図
【図4】(a)本発明のその他の実施形態における密閉耐圧耐熱容器の内部の一例を示す断面図(b)前記実施形態における結晶成長容器内のフラックスの流動の一例を示す断面図
【図5】前記実施形態において結晶成長容器自体を傾けることで、種結晶基板を傾けて配置した一例を示す断面図
【図6】本発明の一実施例1の窒化ガリウム結晶のを示す図
【図7】本発明の製造方法における種結晶基板の結晶成長面と鉛直線とが形成する角のうちの狭角について説明する断面図
【符号の説明】
【0088】
1 ガス供給装置
2、4、11、12 パイプ
3 圧力調整器
5、6、9、13 バルブ
7 継手
8 ゲージポート
10 耐熱パイプ
14 排気装置
15 密閉耐圧耐熱容器
16 加熱装置
17 反応容器
18 結晶成長容器
19 冷却棒
20 種結晶基板
21 フラックス(融液)
22 結晶成長面
23 断熱材
26 冷却台
27 低温部
30 窒化ガリウム結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族元素、アルカリ金属およびIII族元素窒化物の種結晶を結晶成長容器に入れ、窒素含有ガス雰囲気下において、前記結晶成長容器内を加圧加熱し、前記III族元素、前記アルカリ金属および前記窒素を含む融液中で前記III族元素および前記窒素を反応させ、前記種結晶を核としてIII族元素窒化物結晶を成長させるIII族元素窒化物結晶の製造方法であって、
前記融液を、前記種結晶の結晶成長面に沿って一定方向に流動させた状態で、前記種結晶の結晶成長面にIII族元素窒化物結晶を成長させることを特徴とするIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
熱対流により、前記融液を流動させる請求項1記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記結晶成長面に沿って上流側から下流側に流動するに従って前記融液の温度を低下させる請求項1または2記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記種結晶として種結晶基板を用い、前記種結晶基板の前記結晶成長面と鉛直線とが形成する角のうちの上側の狭角が0度以上30度以下の範囲となる状態で、前記種結晶基板を前記結晶成長容器内に配置し、前記種結晶基板の上端側から下端側に向って前記融液を流動させ、上端側と下端側の前記融液の温度差を、0.1℃〜10℃の範囲に設定する請求項3記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項5】
前記種結晶基板の前記結晶成長面の上端側と下端側の中間点から前記結晶成長面と対面する前記結晶成長容器の側壁までの距離(D)と、前記結晶成長容器の底面から前記融液の液面までの距離(H)との比(H/D)を、0.4〜2.5の範囲に設定する請求項4記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記種結晶基板の前記結晶成長面と反対側の面を、前記結晶成長容器の側壁に密着させて前記融液と非接触状態にする請求項4または5記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記結晶成長容器の加熱温度は、850℃〜870℃であり、
前記結晶成長容器の加圧圧力は、2.5MPa〜3.3MPaである
請求項1から6のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記III族元素は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)およびインジウム(In)から選択される少なくとも一つの元素であり、
前記III族元素窒化物は、AlsGatIn(1-s-t)N(ただし、0≦s≦1、0≦t≦1、s+t≦1)で表される化合物である請求項1から7のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
前記III族元素は、Gaであり、
前記III族元素窒化物は、GaNであり、
前記アルカリ金属は、Naを含む
請求項1から8のいずれか一項に記載のIII族元素窒化物結晶の製造方法。
【請求項10】
III族元素窒化物結晶であって、請求項1から9のいずれか一項に記載の製造方法により得られ、波長400nm以上620nm以下の領域にある光吸収係数が、10cm-1以下であることを特徴とするIII族元素窒化物結晶。
【請求項11】
半導体装置形成用基板であって、請求項10記載のIII族元素窒化物結晶を含むことを特徴とする半導体装置形成用基板。
【請求項12】
基板上に半導体層が形成されている半導体装置であって、前記基板が、請求項11記載の基板であることを特徴とする半導体装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−52967(P2010−52967A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217700(P2008−217700)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】