説明

III族窒化物半導体発光素子を製造する方法、及びIII族窒化物半導体発光素子

【課題】コンタクト層と電極との界面における酸化物の影響を低減可能なIII族窒化物半導体発光素子が提供される。
【解決手段】処理装置10においてコンタクト層35を成長すると共に該コンタクト層35を酸化防止膜87で覆った第1の基板生産物E1を処理装置8のエッチャ8aに配置した後に、処理装置8において第1の基板生産物E1から酸化防止膜87を除去して、p型コンタクト層35の表面を露出させて第2の基板生産物E2を形成する。通路8cのシャッタ8dを開けて、処理装置8のエッチャ8aのチャンバから処理装置8の成膜炉8bのチャンバに第2の基板生産物E2を移動する。処理装置8の成膜炉8bのチャンバにおいて、p型コンタクト層35の露出された表面の上に、電極のための導電膜89を成長して、第3の基板生産物E3を形成する。第3の基板生産物E3を処理装置8の成膜炉8bから取り出した後に、導電膜89のパターン形成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体発光素子を製造する方法、及びIII族窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、窒化物系半導体発光素子が記載されている。窒化物系半導体発光素子では、歪みを内包する六方晶系III族窒化物からなる発光層を含み、この発光層からの電子の溢れを低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−67952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らの知見によれば、III族窒化物半導体からなる半極性主面を有する基板を用いて作製される半導体素子では、エピ最表面のIII族窒化物層がc面に比べて酸化されやすい。III族窒化物半導体からなる半極性主面上に、III族窒化物半導体からなるコンタクト層をエピタキシャル成長するとき、コンタクト層の表面も、半極性主面と同様の半極性を示す。基板上に、III族窒化物半導体積層を形成した後に、III族窒化物半導体積層のコンタクト層上に電極を形成する。エピタキシャル基板を成長炉から取り出すと、コンタクト層の表面付近が酸化され、酸化ガリウムといったIII族元素の酸化物が形成される。この結果、発光素子の電極形成の際に、コンタクト層の表面の酸化物層上に電極が形成される。
【0005】
発明者らの実験によれば、上記の作製方法では、半極性面のコンタクト層と電極との電気的接触のコンタクト抵抗値は、c面のコンタクト層と電極との電気的接触に比べて高くなる。これは、III族窒化物からなる半極性のエピ表面はc面に比べて酸化されやすいことにより説明される。着目すべき点は、半極性面のコンタクト層上の自然酸化膜は、c面のコンタクト層上の自然酸化膜よりも厚くなることである。
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、コンタクト層と電極との界面における酸化物の影響を低減可能な、III族窒化物半導体発光素子を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、コンタクト層と電極との界面における酸化物の影響を低減可能なIII族窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法は、(a)III族窒化物半導体からなる半極性主面を有する基板を準備する工程と、(b)第1の装置を用いて、活性層及びp型コンタクト層を含む半導体積層を前記半極性主面の上に形成する工程と、(c)前記第1の装置を用いて前記半導体積層の表面を覆う酸化防止膜を堆積して、第1の基板生産物を形成する工程と、(d)前記第1の装置から第2の装置に前記第1の基板生産物を移動する工程と、(e)前記第2の装置において前記第1の基板生産物から前記酸化防止膜を除去して、前記p型コンタクト層の表面を露出させる工程と、(f)前記第2の装置において、前記p型コンタクト層の前記露出された表面の上に電極のための導電膜を形成する工程とを備える。前記酸化防止膜はIII族窒化物とは異なる材料からなり、前記p型コンタクト層は窒化ガリウム系半導体からなる。
【0008】
このIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法によれば、半導体積層の表面を覆う酸化防止膜を第1の装置内において堆積して第1の基板生産物を形成した後に、第1の装置から第2の装置に第1の基板生産物を移動する。第2の装置内において第1の基板生産物から酸化防止膜を除去してp型コンタクト層の表面を露出した後に、第2の装置において、p型コンタクト層の露出された表面の上に電極のための導電膜を形成する。このため、p型コンタクト層の露出された表面が大気にさらされることなく、p型コンタクト層の表面に電極のための導電膜が成長される。これらの工程により、p型コンタクト層の表面が大気にさらされることに起因した酸化を避けることができる。
【0009】
本発明に係る製造方法では、例えば、前記第1の装置は、第1のチャンバ、第2のチャンバ、及び前記第1のチャンバと前記第2のチャンバを接続する連結通路を含み、前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバは真空排気系に接続され、前記連結通路は、前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバを個別に真空排気可能にするためのシャッタを含み、前記第1の装置の前記第1のチャンバにおいて、前記半導体積層が有機金属気相成長法によって形成され、前記第1の装置の前記第2のチャンバにおいて、前記酸化防止膜の成膜が行われる。
【0010】
この製造方法によれば、大気へのp型コンタクト層表面の露出を避けながら、半導体の成膜と酸化防止膜の成膜とが互いに影響することなく、これらの成膜を連続して行うことができる。
【0011】
本発明に係る製造方法では、前記第2の装置は、第1のチャンバ、第2のチャンバ、及び前記第1のチャンバと前記第2のチャンバを接続する連結通路を含み、前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバは真空排気系に接続され、前記連結通路は、前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバを個別に真空排気可能にするためのシャッタを含み、前記第2の装置の前記第2のチャンバにおいて、前記酸化防止膜の除去が行われ、前記第2の装置の前記第1のチャンバにおいて、前記p型コンタクト層の前記露出された表面の上に前記導電膜を形成することができる。
【0012】
この製造方法によれば、大気へのp型コンタクト層表面の露出を避けながら、酸化防止膜の除去と電極膜の成膜とが互いに影響することなく、これらの処理を連続して行うことができる。
【0013】
本発明に係る製造方法では、前記第1の装置から第2の装置に前記第1の基板生産物を移動する工程において、前記第1の装置から前記第1の基板生産物を取り出して前記第1の基板生産物を大気にさらした後に、前記第2の装置に前記第1の基板生産物を配置することができる。
【0014】
この製造方法によれば、第1の装置からの取り出しに先立ってp型コンタクト層のエピ表面に酸化防止膜を形成するので、第1の装置から第2の装置に第1の基板生産物を移動する際に、酸素を含む大気中を第1の基板生産物が移動するけれども、エピ表面は、大気中の酸素による酸化の影響を基本的に受けない。
【0015】
本発明に係る製造方法では、前記酸化防止膜の材料としては、例えば、シリコン無機化合物、金属酸化物、界面活性剤、導電性ポリマー、導電性を有する粒子が分散された樹脂、シロキサン系樹脂、またはシロキサン系材料等が挙げられる。これらの材料については、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。この製造方法によれば、酸化防止膜は、上記の材料の膜を含むことができる。
【0016】
本発明に係る製造方法では、前記酸化防止膜は、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、水素化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化イットリウム膜、酸化チタン膜、または酸化クロム膜の少なくともいずれかを含むことができる。この製造方法によれば酸化防止膜が酸素と結合しやすいため、p型コンタクト層の酸化を効果的に防止できる。
【0017】
本発明に係る製造方法では、前記電極は、Ni、Ag、Ti、Pt、Pd、Au又はこれらのうちの複数の元素を含む合金の少なくともいずれかを含むことができる。この製造方法によれば、得られる発光素子が低電圧で効率よく発光できる。
【0018】
本発明に係る製造方法では、前記酸化防止膜は帯電防止膜を含むことができる。この製造方法によれば、酸化防止膜が導電性を有することが良い。これにより、p型コンタクト層の酸化防止と同時に、ゴミ、ホコリ等の付着を防止又は抑制でき、結果、高品質な発光素子を製造できる。
【0019】
本発明に係る製造方法では、前記p型コンタクト層の前記露出された表面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にして45度以上80度以下の範囲の角度で傾斜することができる。また、前記半極性主面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にして45度以上80度以下の範囲の角度で傾斜することができる。上記の製造方法によれば、上記の角度範囲の半極性面は酸化されやすい。
【0020】
本発明に係る製造方法では、前記p型コンタクト層の前記露出された表面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にしてm軸の方向に70度以上80度以下の範囲の角度で傾斜することができる。また、前記半極性主面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にしてm軸の方向に70度以上80度以下の範囲の角度で傾斜することができる。上記の製造方法によれば、上記の角度範囲の半極性面では、酸化されやすいステップが形成される。
【0021】
本発明に係る製造方法では、前記半極性主面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にしてm軸の方向に75度以上79度以下の範囲の角度で傾斜することができる。また、前記p型コンタクト層の前記露出された表面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にしてm軸の方向に75度以上79度以下の範囲の角度で傾斜することができる。この製造方法によれば、酸化されやすい原子ステップがより顕著に形成される傾向がある。
【0022】
本発明に係る製造方法では、前記半極性主面はm軸の方向に傾斜されており、前記基板の前記半極性面の面方位は{20−21}であることは好ましい。この面方位は、活性層におけるIn取り込み量、およびInの均一分散性、ならびにピエゾ電界抑制による素子特性向上の観点から好適である。また、本発明に係る製造方法では、前記基板の前記半極性面は{20−21}面から−5度以上+5度の範囲にあることができる。この角度範囲も、上記の観点から好適である。さらに、本発明に係る製造方法では、前記基板の前記半極性面は{20−21}面から−3度以上+3度の範囲にあることができる。この角度範囲も上記の観点から好適である。
【0023】
本発明に係る製造方法では、前記基板の前記III族窒化物半導体はGaNからなり、前記活性層はInGaN層を含み、前記p型コンタクト層がp型AlGa1−ZN(0≦Z<1)層を含み、前記活性層は480nm以上600nm以下の波長範囲の発光を生成するように設けられることができる。この製造方法によれば、この波長範囲の発光を生成するIII族窒化物半導体発光素子の製造において、良好なオーミック接触を形成できる。
【0024】
本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子は、(a)III族窒化物半導体からなる半極性主面を有する基板と、(b)前記半極性主面の上に設けられ、活性層及びp型コンタクト層を含む半導体積層と、(c)前記半導体積層における前記p型コンタクト層に接触を成す電極とを備える。前記半極性主面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準に傾斜し、前記半導体積層の前記活性層及び前記p型コンタクト層は前記半極性主面の法線方向に積層されており、前記p型コンタクト層と前記電極との界面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にして傾斜し、前記p型コンタクト層は窒化ガリウム系半導体からなり、二次イオン質量分析法により求めた前記界面から前記活性層への方向における酸素濃度の最大値をAとし、この酸素濃度の最小値をBとしたとき、(A−B)/(A+B)が0.9以下である。
【0025】
本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子は、(a)III族窒化物半導体からなる半極性主面を有する基板と、(b)前記半極性主面の上に設けられ活性層及びp型コンタクト層を含む半導体積層と、(c)前記半導体積層における前記p型コンタクト層に接触を成す電極とを備える。前記半極性主面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にして傾斜し、前記半導体積層の前記活性層及び前記p型コンタクト層は前記半極性主面の法線方向に積層されており、前記p型コンタクト層と前記電極との界面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準に傾斜し、前記p型コンタクト層は窒化ガリウム系半導体からなり、前記p型コンタクト層の酸素濃度は、前記界面から前記活性層の方向に関する酸素濃度のプロファイルに関して、前記p型コンタクト層における該酸素濃度の平均値を基準に−1%以上+1%以下の範囲にある。
【0026】
このIII族窒化物半導体発光素子によれば、半導体積層の活性層及びp型コンタクト層が半極性主面の法線方向に積層されている。また、この半極性主面はIII族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準に傾斜している。これ故に、p型コンタクト層のエピ表面は、酸素を含む大気にさらされたとき容易に酸化されて、c面における酸化膜より厚い自然酸化膜が形成される。しかしながら、エピタキシャル成長の完了の後であって電極のための導電膜の成膜の完了までに、p型コンタクト層のエピ表面が、酸素を含む大気にさらされないとき、p型コンタクト層における該酸素濃度の平均値を基準にした上記の範囲にある。この範囲の酸素濃度であれば、III族窒化物半導体発光素子は、良好なオーミック接触を有する。
【0027】
本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子では、透過電子顕微鏡法(TEM)による分析結果において、前記p型コンタクト層と前記電極との界面に酸化膜が存在していない。
【0028】
このIII族窒化物半導体発光素子によれば、エピタキシャル成長の完了の後であって電極のための導電膜の成膜の完了までに、p型コンタクト層のエピ表面が、酸素を含む大気にさらされないとき、TEMによる断面観察において酸化膜の存在を確認できない。
【0029】
本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子では、前記半極性主面の前記傾斜における傾斜角は45度以上80度以下の範囲にあり、前記界面の前記傾斜における傾斜角は45度以上80度以下の範囲にあることが好ましい。このIII族窒化物半導体発光素子によれば、上記の角度範囲の半極性面は酸化されやすいので、酸素を含む大気にコンタクト層の表面がさらされるとき良好なオーミック接触が得られる。
【0030】
本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子では、前記半極性主面はm軸の方向に傾斜されており、前記半極性主面の前記傾斜における傾斜角は、70度以上80度以下の範囲にあり、前記界面の前記傾斜における傾斜角は、70度以上80度以下の範囲にあることが好ましい。このIII族窒化物半導体発光素子によれば、上記の角度範囲の半極性面では、コンタクト層の表面に、酸化されやすいステップが形成される。また、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子では、前記基板の前記半極性面は{20−21}面から−5度以上+5度の範囲にあり、前記界面は{20−21}面から−5度以上+5度の範囲の基準面に沿って延在することが好ましい。上記の角度は、コンタクト層に酸素が取り込まれやすいという性質を示す。さらに、また、本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子では、前記基板の前記半極性面は{20−21}面から−3度以上+3度の範囲にあり、前記界面は{20−21}面から−3度以上+3度の範囲の基準面に沿って延在することが好ましい。上記の角度は、コンタクト層に酸素がより取り込まれやすいという性質を示す。
【0031】
本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子では、前記基板の前記III族窒化物半導体はGaNからなり、前記活性層は、InGaN層を含み、前記p型コンタクト層がp型AlGa1−ZN(0≦Z<1)層を含み、前記活性層は480nm以上600nm以下の波長範囲の発光を生成するように設けられることができる。このIII族窒化物半導体発光素子によれば、上記の波長範囲の発光を生成するIII族窒化物半導体発光素子において、コンタクト層と電極との電気的接触を低抵抗にできる。
【0032】
本発明に係るIII族窒化物半導体発光素子では、前記電極は、Ni、Ag、Ti、Pt、Pd、Au又はこれらのうちの複数の元素を構成元素として含む合金の少なくともいずれかを含むことができる。このIII族窒化物半導体発光素子によれば、上記の金属を電極のために使用できる。
【0033】
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、コンタクト層と電極との界面における酸化物の影響を低減可能な、III族窒化物半導体発光素子を製造する方法が提供される。また、本発明によれば、コンタクト層と電極との界面における酸化物の影響を低減可能なIII族窒化物半導体発光素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本実施の形態に係る窒化物半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。
【図2】図2は、本実施の形態に係る窒化物半導体光素子を製造する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図3】図3は、本実施の形態に係る窒化物半導体光素子を製造する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図4】図4は、本実施の形態に係る窒化物半導体光素子を製造する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図5】図5は、本実施の形態に係る窒化物半導体光素子を製造する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図6】図6は、本実施の形態に係る窒化物半導体光素子を製造する方法における主要な工程を模式的に示す図面である。
【図7】図7は、実施例において作製された半導体レーザの構造を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明のIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法、及びIII族窒化物半導体発光素子に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
【0037】
図1は、本実施の形態に係る窒化物系半導体光素子の構造を概略的に示す図面である。窒化物系半導体光素子LD1としては、例えば半導体レーザ等があるが、本実施の形態は発光ダイオード(LED)にも適用可能である。図1を参照すると、座標系Sが示されている。窒化物系半導体光素子LD1は基板11上に設けられる。基板11の主面11aの法線VNはZ軸の方向を向いており、また主面11aはX方向及びY方向に延びている。Y軸はa軸の方向に向いている。本実施例では、主面11aは半極性面を含み、この半極性主面はIII族窒化物半導体からなる。このIII族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にして、主面13aは傾斜している。本実施例では、傾斜の方向は、例えば該III族窒化物半導体のm軸の方向である。半導体レーザLD1のための光導波路は、主面11aの法線方向VN及びm軸方向によって規定されるm−n面に沿って延在している。
【0038】
窒化物系半導体光素子LD1は、半導体レーザに好適な構造を有する。窒化物系半導体光素子LD1は、第1の窒化ガリウム系半導体領域13と、発光領域15と、第2の窒化ガリウム系半導体領域17を備える。発光層15は、活性層19を含み、活性層19は、交互に配列された井戸層21及び障壁層23を含む量子井戸構造を有する。発光層15は、第1の窒化ガリウム系半導体領域13と第2の窒化ガリウム系半導体領域17との間に設けられている。第1の窒化ガリウム系半導体領域13は、一又は複数のn型窒化ガリウム系半導体層(本実施例では、窒化ガリウム系半導体層55、57)を含むことができる。第2の窒化ガリウム系半導体領域17は、障壁層のバンドギャップよりも大きな窒化ガリウム系半導体層31と、一又は複数のp型窒化ガリウム系半導体層(本実施例では、窒化ガリウム系半導体層51、53)とを含む。
【0039】
窒化物系半導体光素子LD1では、井戸層21は、そのc軸方向に延びる基準軸(ベクトルVC1で示される)に直交する面に対して傾斜角αで傾斜した基準平面SR1に沿って延びている。傾斜角αは45度以上80度未満の範囲であることができる。この半導体発光素子LD1によれば、上記の角度範囲の半極性面は酸化されやすい。
【0040】
窒化物系半導体光素子LD1における基板11を説明する。基板11の主面11aは、III族窒化物半導体InAlGa1−S−TN(0≦S≦1、0≦T≦1、0≦S+T≦1)からなることができる。六方晶系半導体としては、例えばGaN、InGaN、AlGaN、AlN、InAlGaN等であることができる。基板11の主面11aは、該六方晶系半導体のc軸(例えばベクトルVC2で示される)に直交する平面から45度以上80度以下の範囲の傾斜角βで傾斜した平面に沿って延びている。傾斜角βは、発光層15の歪みによる結晶軸のわずかな傾斜を除けば、傾斜角αに実質的に等しい。また、ベクトルVC2は、発光層15の歪みによる結晶軸のわずかな傾斜を除けば、ベクトルVC1に実質的に等しい。
【0041】
第1の窒化ガリウム系半導体領域13、発光層15、及び第2の窒化ガリウム系半導体領域17は、基板11の主面11a上において所定の軸Axの方向(例えばZ軸の方向)に配列されている。所定の軸Axの方向は、基板11のc軸の方向と異なる。
【0042】
井戸層21は歪みを内包しており、井戸層21におけるピエゾ電界は第2の窒化ガリウム系半導体領域17から第1の窒化ガリウム系半導体領域13へ向かう方向と逆向きの成分を有する。第2の窒化ガリウム系半導体領域17の窒化ガリウム系半導体層31は発光層15に隣接している。井戸層21は六方晶系の窒化ガリウム系半導体からなり、井戸層21は例えばInGaNといった、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなることができる。障壁層23は窒化ガリウム系半導体からなり、障壁層23は、例えば、GaN、InGaN、AlGaN、AlGaInN等であることができる。井戸層21の厚さは障壁層23の厚さより小さい。図1に示されたベクトルVC1は、例えば結晶軸<0001>軸及び結晶軸<000−1>のいずれかの方向を向く、ここで<0001>軸に対して逆向きの結晶軸は<000−1>で表される。
【0043】
InNのa軸及びc軸方向の格子定数はGaNのa軸及びc軸方向の格子定数より大きいので、井戸層21がInGaNからなるとき、InGaN井戸層は、キャリアに対して障壁を提供する障壁層から応力(圧縮歪み)を受けて、歪みを内包することになる。
【0044】
半導体発光素子LD1では、第1の窒化ガリウム系半導体領域13内のn型窒化ガリウム系半導体層55は、例えばSiドープn型AlGaNクラッド層であり、その厚さは例えば2300nmである。そのAl組成は例えば0.04である。n型窒化ガリウム系半導体層55は例えばSiドープn型GaN層であり、その厚さは例えば50nmである。発光層15は、第1及び第2の光ガイド層59a、59bを含むことができる。活性層19は光ガイド層59a、59bの間に設けられている。光ガイド層59a、59bは、例えばアンドープInGaN及び/又はアンドープInGaNからなることができ、インジウム組成は例えば0.06である。光ガイド層59a、59bの厚さは例えば100nmである。
【0045】
また、第2の窒化ガリウム系半導体領域17のp型窒化ガリウム系半導体層31は、例えばMgドープp型AlGaN層であり、アルミニウム組成は例えば0.18である。p型窒化ガリウム系半導体層31の厚さは例えば20nmである。p型窒化ガリウム系半導体層51は、Mgドープp型AlGaNクラッド層であり、アルミニウム組成は例えば0.06である。Mgドープp型窒化ガリウム系半導体層51の厚さは例えば400nmである。p型窒化ガリウム系半導体層53はp型AlGa1−ZN(0≦Z<1)層を含む。p型窒化ガリウム系半導体層53はMgドープp+型GaNコンタクト層であり、その厚さは例えば50nmである。
【0046】
半導体積層(13、15、17)12上に電極65を形成する。第1の電極(例えば、アノード電極)65がコンタクト層53上に形成される。必要な場合には、電極65上に開口を有する保護膜をエピ表面上に設けることができる。また、第2の電極(例えば、カソード電極)67が基板裏面13b上に形成される。これらの電極を介するキャリアの注入に応答して活性層19はレーザ光を生成する。活性層19のピエゾ電界は小さいので、ブルーシフトが小さい。
【0047】
半導体発光素子LD1では、電極65は、Ni、Ag、Ti、Pt、Pd、Au又はこれらの元素を構成元素として含む合金の少なくともいずれかを含むことができる。上記の金属を電極65のために使用できる。
【0048】
半導体発光素子LD1の半導体積層12は、主面11aの上に設けられ活性層19及びp型コンタクト層53を含み、電極65は半導体積層12におけるコンタクト層53に接触を成す。半導体積層12の活性層19及びコンタクト層53は主面11aの法線方向Axに配列されている。p型コンタクト層53と電極65との界面JCは、III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面SR2に沿って延在する。p型コンタクト層53の成膜中には、酸素が不可避的に取り込まれる。しかしながら、電極65の形成の際にコンタクト層35の表面が大気にさらされないので、大気からの酸素の追加がない。このため、p型コンタクト層53の酸素濃度は、p型コンタクト層53における該酸素濃度の平均値を基準に−1%以上+1%以下の範囲にある。
【0049】
この半導体発光素子LD1によれば、半導体積層12及びコンタクト層53が、半極性を示す主面11aの法線方向VNに積層されている。また、この半極性主面11aはIII族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準に傾斜するので、コンタクト層53のエピ表面53aは、酸素を含む大気にさらされたとき容易に酸化されて、c面における酸化膜より厚い自然酸化膜(例えば酸化ガリウム)が形成される。これは、コンタクト層35の酸素プロファイルに影響を与える。しかしながら、エピタキシャル成長の完了の後であって電極65のための導電膜の成膜の完了までに、コンタクト層53のエピ表面53aが、酸素を含む大気にさらされないとき、コンタクト層53における該酸素濃度の平均値を基準に−1%以上+1%以下の範囲にある。この範囲の酸素濃度であれば、半導体発光素子LD1は、良好なオーミック接触を有する。
【0050】
具体的には、TEMによる分析結果において、p型コンタクト層53と電極65との界面JCに、ガリウム酸化物といった自然酸化膜が実質的に存在していない。エピタキシャル成長の完了の後であって電極のための導電膜の成膜の完了までに、p型コンタクト層のエピ表面が、酸素を含む大気にさらされないとき、TEMによる断面観察において酸化膜の存在を確認できない。
【0051】
活性層19は480nm以上600nm以下の波長範囲の発光を生成するように設けられることができる。上記の波長範囲の発光を生成する半導体発光素子LD1において、コンタクト層53と電極65との電気的接触を低抵抗にできる。
【0052】
半導体発光素子LD1では、主面11aはm軸の方向に傾斜されることができる。主面11aの傾斜における傾斜角は、c面を基準にして70度以上80度以下の範囲にあることが好ましい。また、界面JCの傾斜における傾斜角も、c面を基準にして70度以上80度以下の範囲にあることが好ましい。この半導体発光素子LD1によれば、上記の角度範囲の半極性面11aでは、コンタクト層53の表面53aは、酸化されやすいステップが形成される。また、主面11aの傾斜における傾斜角は、c面を基準にして75度以上79度以下の範囲にあることが好ましい。また、界面JCの傾斜における傾斜角も、c面を基準にして75度以上79度以下の範囲にあることが好ましい。この半導体発光素子LD1によれば、上記の角度範囲の半極性面11aは良好な発光特性を付与できる。さらに、半導体発光素子LD1では、基板11の主面11aは{20−21}面から−5度以上+5度の範囲にあることが好ましい。界面JCは{20−21}面から−5度以上+5度の範囲の基準面に沿って延在することが好ましい。この角度範囲では、コンタクト層53の表面53aは、酸化されやすいステップが形成される。さらにまた、上記の角度は、{20−21}面と同様の性質を示す。さらに、基板11の主面11aは{20−21}面から−3度以上+3度の範囲にあることが好ましい。また、界面JCは{20−21}面から−3度以上+3度の範囲の基準面に沿って延在することが好ましい。上記の角度では、原子ステップが顕著に現れるため、コンタクト層に酸素がとりこまれやすい。
【0053】
半導体発光素子LD1では、基板11がGaNからなり、活性層19はInGaN井戸層を含み、コンタクト層53がp型AlGa1−ZN(0≦Z<1)層を含むことが好適である。このコンタクト層53と電極65との界面に自然酸化物膜は形成されていないとき、良好なオーミック特性が得られる。
【0054】
窒化物系半導体光素子LD1では、基準平面SR1はa軸の方向に傾斜していることができる。本実施例では、窒化物系半導体光素子LD1の光導波路がc軸及びm軸により規定される平面に延在するけれども、本実施の形態は、これに限定されることなく、m面劈開が可能であるようにc軸の傾斜をa軸の方向に為すことができる。また、a面劈開が可能であるようにc軸の傾斜をm軸の方向に為すことができる。
【0055】
図2〜図4は、本実施の形態に係る窒化物系半導体光素子を製造する方法及びエピタキシャルウエハを製造する方法における主要な工程を示す図面である。図2の(a)部に示されるように、工程S101では、窒化物系半導体光素及びエピタキシャルウエハを製造するための基板71を準備する。基板71は、例えば六方晶系半導体からなることができる。基板71は主面71a及び裏面71bを有する。図2の(a)部を参照すると、基板71の六方晶系半導体のc軸方向を示すベクトルVC及び主面71aの法線ベクトルVNが記載されており、ベクトルVC2は例えば{0001}面の向きを示している。この基板71によれば、成長用の主面が傾斜角(オフ角)βを有する半極性を提供できる。基板71の主面71aの傾斜角は、該六方晶系半導体の{0001}面を基準にして、45度以上80度以下の範囲である。六方晶系半導体III族窒化物からなる表面の傾斜角が45度以上80度以下であるとき、その表面は、酸素を含む大気において、六方晶系半導体III族窒化物からなるc面に比べて酸化されやすく、これ故に、厚い自然酸化膜が形成される。
【0056】
基板71のエッジ上における2点間の距離の最大値Diaは45mm以上であることができる。このような基板は例えばウエハと呼ばれている。基板71の裏面11bについては、基板71と実質的に平行にできる。また、基板71はGaNからなるとき、良好な結晶品質のエピタキシャル成長が可能である。
【0057】
引き続く工程では、半導体結晶がエピタキシャルに成長される。上記の傾斜角の主面71aの基板71は、活性層内に井戸層がc面から上記の角度範囲内で傾斜するように、エピタキシャル半導体領域を形成することを可能にする。
【0058】
また、本実施例では、基板71のc軸は、該六方晶系半導体III族窒化物のm軸の方向に傾斜している。基板71の主面71aが基板71の六方晶系半導体のm軸方向に傾斜すると共にレーザ導波路がm軸によって規定される平面に沿って延在するとき、レーザ特性が向上する。
【0059】
III族窒化物のエピタキシャル成長が可能な成長炉を含む処理装置10の成長炉10aのチャンバに基板71を配置する。処理装置10は、成長炉10aの第1のチャンバ及び成膜炉10bの第2のチャンバ、及び第1のチャンバ10aと第2のチャンバ10bとを接続する連結通路10cを含む。連結通路10cは、成長炉10aの第1のチャンバ及び成膜炉10bの第2のチャンバを個別に真空排気可能にするためのシャッタ10dを含む。成長炉10aの第1のチャンバ及び成膜炉10bの第2のチャンバは真空排気系10eに接続される。
【0060】
図2の(b)部に示されるように、工程S102では、成膜に先立って、処理装置10の成長炉10aにガスG0を供給しながら基板71に熱処理を行って、改質された主面71cを形成する。この熱処理は、アンモニア及び水素を含むガスの雰囲気中で行われることができる。熱処理温度T0は、例えば摂氏800度以上1200度以下であることができる。熱処理時間は、例えば10分程度である。この工程によれば、主面71aの傾斜によって、半極性の主面にはc面主面とは異なる表面構造が形成される。成膜に先立つ熱処理を基板71の主面71aに施すことによって、c面主面では得られない半導体主面に改質が生じる。窒化ガリウム系半導体からなるエピタキシャル成長膜が、基板71の改質された主面71c上に堆積される。
【0061】
図2の(c)部に示されるように、工程S103では、熱処理の後に、第1導電型窒化ガリウム系半導体領域73を基板71の表面71c上にエピタキシャルに成長する。この成長のために有機金属気相成長法が用いられる。成長用の原料ガスとしては、ガリウム源、インジウム源、アルミニウム源及び窒素源が使用される。ガリウム源、インジウム源及び窒素源は、それぞれ、例えばTMG、TMI、TMA及びNHである。この成長のために、原料ガスG1を処理装置10の成長炉10aに供給する。窒化ガリウム系半導体領域73の主面73aは、窒化ガリウム系半導体のc面から45度以上80度以下の範囲の角度(基板主面の傾斜角)で傾斜している。以下、同様に、窒化ガリウム系半導体層は主面71aの法線方向に順に形成されるとき、成長された窒化ガリウム系半導体層の表面は、基板71の主面71aの傾斜を反映した面方位を示し、成長されたエピ表面は主面71aの表面構造を引き継ぐ。第1導電型窒化ガリウム系半導体領域73は、一又は複数の窒化ガリウム系半導体層(例えば窒化ガリウム系半導体層25、27、29)を含むことができる。例えば、窒化ガリウム系半導体層25、27、29は、それぞれ、n型AlGaN層、n型GaN層、n型InGaN層又はn型InAlGaN層であることができる。窒化ガリウム系半導体層25、27、29は、基板71の主面71c上に順にエピタキシャルに成長される。n型AlGaN層25は例えば基板71の全表面を覆うバッファ層である。n型AlGaN層25の厚さは例えば50nmである。n型AlGaN層25上にn型InAlGaN層27を成長する。n型InAlGaN層27は例えばn型クラッド層である。n型InAlGaN層27上にn型InGaN層29を成長する。n型InGaN層29は例えば活性層のための緩衝層又は光ガイド層であり、n型InGaN層29の厚さは例えば100nmである。
【0062】
次の工程では、図3〜図4に示されるように、窒化物系半導体発光素子の活性層75を作製する。活性層75は、370nm以上650nm以下の波長領域にピーク波長を有する発光スペクトルを生成するように設けられる。また、基板71の主面71aが70度以上80度以下の範囲の角度で傾斜するとき、より好ましくは、活性層75は、480nm以上600nm以下の波長領域にピーク波長を有する発光スペクトルを生成するように設けられる。
【0063】
工程S104では、図3の(a)部に示されるように、窒化ガリウム系半導体からなり活性層75の量子井戸構造のための障壁層77を形成する。処理装置10の成長炉10aに原料ガスG2を供給して、障壁層77は緩衝層上に成長温度TBで成長される。この障壁層77はInGa1−YN(インジウム組成Y:0≦Y≦0.05、Yは歪み組成)からなる。障壁層77の成長は、例えば摂氏700度以上摂氏1000度以下の温度範囲内の成長温度TBで行われる。本実施例では、ガリウム源及び窒素源を含む原料ガスG2を処理装置10の成長炉10aに供給してアンドープGaNを成長温度TBで成長する。GaN障壁層の厚さは例えば15nmである。障壁層77は、主面73a上に成長されるので、障壁層77の表面は、主面73aの表面構造を引き継ぐ。
【0064】
障壁層77の成長終了後に、ガリウム原料の供給を停止して窒化ガリウム系半導体の堆積を停止させる。障壁層77を成長した後に、井戸層を成長する前に成長温度TBから成長温度TWに成長装置10の成長炉10aの温度を変更する。この変更期間中に、例えばアンモニアといった窒素源ガスを処理装置10の成長炉10aに供給する。
【0065】
工程S105では、図3の(b)部に示されるように、処理装置10の成長炉10aの温度を井戸層成長温度TWに保ちながら、障壁層77上に量子井戸構造のための井戸層79を成長する。井戸層79はInGa1−XN(インジウム組成X:0<X<1、Xは歪み組成)といった、インジウムを含む窒化ガリウム系半導体からなる。井戸層79は、障壁層77のバンドギャップエネルギより小さいバンドギャップエネルギを有する。井戸層79の成長温度TWは成長温度TBより低い。本実施例では、ガリウム源、インジウム源及び窒素源を含む原料ガスG3を処理装置10の成長炉10aに供給してアンドープInGaNを成長する。井戸層79の膜厚は、1nm以上10nm以下が好ましい。また、InGa1−XN井戸層79のインジウム組成Xは、0.05より大きいことが好ましい。井戸層79のInGa1−XNは0.5より小さいことが好ましい。この範囲のインジウム組成のInGaNの成長が可能となり、波長370nm以上650nm以下の発光素子を得ることができる。井戸層79の成長は、例えば摂氏600度以上摂氏900度以下の温度範囲内の成長温度TWで行われる。InGaN井戸層の厚さは例えば3nmである。井戸層79の主面は、障壁層77の主面上にエピタキシャルに成長されるので、井戸層79の表面は、障壁層77の表面構造を引き継ぐ。また、障壁層77の主面の傾斜角に応じて、窒化ガリウム系半導体のc面から所定の範囲の角度で傾斜する。
【0066】
井戸層79の成長が完了する後に、障壁層を成長する前に成長温度TWから成長温度TBに処理装置10の成長炉10aの温度を変更する。この変更期間中に、例えばアンモニアといった窒素源ガスを処理装置10の成長炉10aに供給する。処理装置10の成長炉10aの昇温が完了した後に、図3の(c)部に示されるように、工程S106では、処理装置10の成長炉10aの温度を成長温度TBに保ち、原料ガスG4を処理装置10の成長炉10aに供給しながら、窒化ガリウム系半導体からなる障壁層81を成長する。本実施例では、障壁層81は例えばGaNからなり、障壁層81の厚さは例えば15nmである。障壁層81の主面は、井戸層79の主面上にエピタキシャルに成長されるので、障壁層81の表面は、井戸層79の表面構造を引き継ぐ。
【0067】
工程S107で同様に繰り返し成長を行って、図4の(a)部に示されるように量子井戸構造の活性層75を成長する。活性層75は3つの井戸層79と4つの障壁層77、81を含む。この後に、工程S108では、図4の(b)部に示されるように、原料ガスG5を供給して必要な半導体層(例えば光ガイド層)を含む発光層83を形成する。活性層75と第2導電型窒化ガリウム系半導体領域85との間にある発光層83内の半導体層のバンドギャップは、第2導電型窒化ガリウム系半導体領域85内にあり発光層83に隣接する窒化ガリウム系半導体層のバンドギャップより小さい。また、必要な場合には半導体レーザの光ガイドのために一対の光ガイド層84a、84bを成長することができる。一対の光ガイド層は活性層を挟む。これらの光ガイド層は例えばInAlGaN、InGaNまたはGaNからなることができる。
【0068】
図4の(c)部に示されるように、工程S109では、発光層83上に、原料ガスG6を供給して第2導電型窒化ガリウム系半導体領域85をエピタキシャルに成長する。この成長は、処理装置10の成長炉10aを用いて行われる。第2導電型窒化ガリウム系半導体領域85は、例えば電子ブロック層32、p型窒化ガリウム系半導体層33及びp型コンタクト層35を含むことができる。p型窒化ガリウム系半導体層33は例えばp型クラッド層であることができる。電子ブロック層32は例えばアンドープ又はpドープのAlGaNからなることができる。p型窒化ガリウム系半導体層33はp型GaN、p型AlGaN又はp型InAlGaNからなることができる。p型コンタクト層35はp型GaNからなることができる。本実施例では、電子ブロック層32、p型窒化ガリウム系半導体層33、p型コンタクト層35の成長温度は、例えば摂氏1100度である。第2導電型窒化ガリウム系半導体領域31の形成の後に、図4の(c)部に示されるエピタキシャルウエハEが完成する。
【0069】
エピタキシャルウエハEにおいて、第1導電型窒化ガリウム系半導体領域73、発光層83、及び第2導電型窒化ガリウム系半導体層85は、通常、基板71の主面71aの法線軸の方向に配列されている。該六方晶系半導体のc軸の方向は基板71の主面71aの法線軸の方向と異なる。エピタキシャル成長の成長方向はc軸方向である一方で、この成長方向は半導体層73、83、85の積層方向と異なる。
【0070】
次いで、図5及び図6を参照しながら、p型コンタクト層として窒化ガリウム系半導体層を有するエピタキシャウエハE上に電極を形成する。第1の電極(例えば、アノード電極)をコンタクト層35上に形成する。
【0071】
まず、工程S110では、図5の(a)部に示すように、通路10cのシャッタ10dを開けて、処理装置10の成長炉10aのチャンバから処理装置10の成膜炉10bのチャンバにエピタキシャウエハEを移動する。移動が完了した後にシャッタ10dを閉じて、処理装置10の成膜炉10bのチャンバの真空排気を行う。
【0072】
処理装置10の成長炉10aの第1のチャンバにおいて、半導体積層12を有機金属気相成長法で形成した。引き続き、処理装置10の成膜炉10bの第2のチャンバにおいて、酸化防止膜87の堆積が行われる。酸化防止膜87は、コンタクト層35に構成元素として含まれる、例えばガリウムといったIII族元素の酸化物よりも酸素と結合しやすい元素を含むことが好適である。工程S111では、図5の(b)部に示すように、処理装置10の成膜炉10bを用いて半導体積層12の表面(コンタクト層表面)を覆う酸化防止膜87を形成して、第1の基板生産物E1を形成する。この製造方法によれば、p型コンタクト層35の表面が大気へ露出されることを避けながら、半導体積層12の成膜と酸化防止膜87の成膜とが互いに影響することなく、これらの成膜を連続して行うことができる。酸化防止膜87の厚さは、コンタクト層表面の原子ステップを効果的に覆うために、1nm以上であることが好ましい。酸化防止膜87の厚さは生産性等の観点から1000nm以下であることが好ましい。
【0073】
酸化防止膜87は例えばIII族窒化物とは異なる材料からなることが好ましい。酸化防止膜87の材料は、シリコン無機化合物、金属酸化物、界面活性剤、導電性ポリマー、導電性を有する粒子が分散された樹脂、シロキサン系樹脂、またはシロキサン系材料の少なくともいずれかを含むことができる。この製造方法によれば、酸化防止膜87は、上記の材料の膜を含むことができる。また、酸化防止膜87は、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、水素化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化イットリウム膜、酸化チタン膜、または酸化クロム膜の少なくともいずれかを含むことができる。これらの材料によれば、酸化防止膜が酸素を効果的に取り込むことができ、結果、酸化ガリウム膜の形成を確実に防止又は抑制できる。
【0074】
また、酸化防止膜87は帯電防止膜を含むことができる。酸化防止膜が導電性を有することにより、p型コンタクト層の酸化防止と同時に、ゴミ、ホコリ等の付着を防止又は抑制でき、結果、高品質な発光素子を製造できる。帯電防止膜としては、界面活性剤、導電性ポリマー、カーボンブラックや銀などの導電性を有する粒子が分散された樹脂、シロキサン系樹脂またはシロキサン系材料などを用いることができる。具体的に界面活性剤として、非イオン系のグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン、N−2−ヒドロキシエチル−N−2−ヒドロキシアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアマイドなど、アニオン系のアルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルホスフェートなど、カチオン系のテトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩など、両性のアルキルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタインなどを用いると良い。そして界面活性剤を用いる場合、帯電防止膜109、帯電防止膜110の膜厚は、それぞれ0.01μm〜1μm程度とするのが良い。導電性ポリマーは、例えばポリピロール系、ポリチオフェン系のポリマーを用いることができる。なおシロキサン系樹脂とは、シロキサン系材料を出発材料として形成されたSi−O−Si結合を含む樹脂に相当する。シロキサン系樹脂は、置換基に水素の他、フッ素、アルキル基、または芳香族炭化水素のうち、少なくとも1種を有していても良い。シロキサン系樹脂にはオリゴマーも含まれる。
【0075】
工程S112では、図5の(c)部に示すように、処理装置10から別の処理装置8に第1の基板生産物E1を移動する。処理装置10から第1の基板生産物E1を取り出して、別の処理装置8に第1の基板生産物E1を配置するために第1の基板生産物E1は大気にさらされる。
【0076】
この製造方法によれば、成長炉10aからの取り出しに先立ってp型コンタクト層35のエピ表面に酸化防止膜87を形成するので、処理装置10から別の処理装置8に第1の基板生産物E1を移動する際に、酸素を含む大気中を第1の基板生産物E1が移動するけれども、エピ表面は、大気中の酸素による酸化の影響を受けない。
【0077】
工程S113では、図6の(a)部に示すように、処理装置8のエッチャ8aに第1の基板生産物E1を配置した後に、処理装置8において第1の基板生産物E1から酸化防止膜87を除去して、p型コンタクト層35の表面を露出させて第2の基板生産物E2を形成する。この除去は、例えばドライエッチング等により行われる。
【0078】
第1の基板生産物E1の移動により、酸化防止膜の除去及び電極のための導電膜の成膜が可能な処理装置8のエッチャ8aのチャンバに基板生産物E1を配置する。処理装置8は、エッチャ8aの第2のチャンバ及び成膜炉8bの第1のチャンバ、及び第2のチャンバ8aと第1のチャンバ8bとを接続する連結通路8cを含む。連結通路10cは、エッチャ8aの第2のチャンバ及び成膜炉8bの第1のチャンバを個別に真空排気可能にするためのシャッタ8dを含む。エッチャ8aの第2のチャンバ及び成膜炉8bの第1のチャンバは真空排気系8eに接続される。処理装置8の第2のチャンバにおいて酸化防止膜87の除去が行われることができ、処理装置8の第1のチャンバにおいてp型コンタクト層35の露出された表面の上に電極のための導電膜を形成することができる。この製造方法によれば、大気へのp型コンタクト層表面の露出を避けながら、酸化防止膜87の除去とその後の電極膜の成膜とが互いに影響することなく、これらの処理を連続して行うことができる。
【0079】
工程S114では、図6の(b)部に示すように、通路8cのシャッタ8dを開けて、処理装置8のエッチャ8aのチャンバから処理装置8の成膜炉8bのチャンバに第2の基板生産物E2を移動する。移動が完了した後にシャッタ8dを閉じて、処理装置8の成膜炉8bのチャンバの真空排気を行う。
【0080】
工程S115では、図6の(c)部に示すように、処理装置8の成膜炉8bのチャンバにおいて、p型コンタクト層35の露出された表面の上に、電極のための導電膜89を成長して、第3の基板生産物E3を形成する。導電膜89は、Ni、Ag、Ti、Pt、Pd、Au又はこれらの合金の少なくともいずれかを含むことができる。この導電膜89によれば低電圧で効率よく発光させることができる。
【0081】
工程S115の後に、第3の基板生産物E3を処理装置8の成膜炉8bから取り出した後に、導電膜89のパターン形成を行う。このパターン形成方法としてはフォトリソグラフィ、エッチング等が挙げられる。パターン形成の後に、必要な場合には、電極のための開口を有する保護膜をエピ面上に形成することができる。さらに次の工程では、第2の電極(例えば、カソード電極)を基板裏面71b上に形成する。これらの工程により、基板生産物が形成される。電極の形成の後に、基板生産物を分離して、レーザキャビティのための共振器面を有するレーザバーを作製することができる。
【0082】
上記の製造方法によれば、エピタキシャル基板Eの表面を覆う酸化防止膜87を処理装置10で形成して第1の基板生産物E1を形成した後に、処理装置10から処理装置8に第1の基板生産物E1を移動する。処理装置8において第1の基板生産物E1から酸化防止膜87を除去してp型コンタクト層35の表面を露出した後に、処理装置8において、p型コンタクト層の露出された表面の上に導電膜89を形成する。このため、p型コンタクト層35が成長された後にp型コンタクト層35の露出された表面が大気にさらされることなく、導電膜89が成長される。これらの工程により、p型コンタクト層35の表面が大気にさらされることに起因した酸化を避けることができる。
【0083】
(実施例1)
図7に示す構造を有する半導体レーザLD0を作製した。m軸方向に75度オフしたGaNウエハ90を準備した。GaNウエハ90を成長炉に配置した後に、アンモニア及び水素の雰囲気中で熱処理を行った。熱処理温度は摂氏1100度であり、熱処理時間は約10分であった。
【0084】
熱処理の後に、TMG(98.7μmol/分)、TMA(8.2μmol/分)、NH(6slm)及びSiHを成長炉に供給して、クラッド層のためのn型AlGaN層91をGaNウエハ90上に摂氏1150度で成長した。n型AlGaN層91の厚さは2300nmであった。n型AlGaN層91の成長速度は46.0nm/分であった。n型AlGaN層91のAl組成は0.04であった。
【0085】
次いで、TMG(98.7μmol/分)、NH(5slm)及びSiHを成長炉に供給して、n型AlGaN層91上にn型GaN層92を摂氏1150度で成長した。n型GaN層92の厚さは50nmであった。n型GaN層92の成長速度は58.0nm/分であった。
【0086】
TMG(24.4μmol/分)、TMI(4.6μmol/分)及びNH(6slm)を成長炉に供給して、光ガイド層のためのアンドープInGaN層93aをn型GaN層94上に摂氏840度で成長した。n型InGaN層93aの厚さは65nmであった。n型InGaN層93aの成長速度は6.7nm/分であった。アンドープInGaN層93aのIn組成は0.05であった。
【0087】
次いで活性層94を形成した。TMG(15.6μmol/分)、TMI(29.0μmol/分)及びNH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープInGaN井戸層を摂氏745度で成長した。InGaN層の厚さは3nmであった。InGaN層の成長速度は3.1nm/分であった。
【0088】
次いで、成長炉の温度を摂氏745度に維持しながら、TMG(15.6μmol/分)、TMI(0.3μmol/分)及びNH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープGaN層をInGaN層上に摂氏745度で成長した。GaN層の厚さは1nmであった。GaN層の成長速度は3.1nm/分であった。アンドープGaN層を成長した後に、成長炉の温度を摂氏745度から摂氏870度に変更した。TMG(24.4μmol/分)、TMI(1.6μmol/分)及びNH(6slm)を成長炉に供給して、障壁層のためのアンドープInGaN層をアンドープInGaN井戸層上に摂氏870度で成長した。InGaN層の厚さは15nmであった。InGaN層の成長速度は6.7nm/分であった。アンドープInGaN層のIn組成は0.02であった。
【0089】
次いで、成長炉の温度を摂氏870度から摂氏745度に変更した。この後に、TMG(15.6μmol/分)、TMI(29.0μmol/分)及びNH(8slm)を成長炉に供給して、アンドープInGaN井戸層をInGaN層上に摂氏745度で成長した。InGaN層の厚さは3nmであった。InGaN層の成長速度は3.1nm/分であった。アンドープInGaN層のIn組成は0.25であった。
【0090】
井戸層及び障壁層の成長を2回繰り返した。この後に、TMG(13.0μmol/分)、TMI(4.6μmol/分)及びNH(6slm)を成長炉に供給して、光ガイド層のためのアンドープInGaN層93bを活性層94上に摂氏840度で成長した。InGaN層93bの厚さは65nmであった。InGaN層93bの成長速度は6.7nm/分であった。次いで、TMG(98.7μmol/分)及びNH(5slm)を成長炉に供給して、アンドープGaN層96をInGaN層93b上に摂氏1100度で成長した。GaN層96の厚さは50nmであった。GaN層96の成長速度は58.0nm/分であった。アンドープInGaN層93bのIn組成は0.05であった。
【0091】
次いで、TMG(16.6μmol/分)、TMA(2.8μmol/分)、NH(6slm)及びCpMgを成長炉に供給して、p型AlGaN層97をGaN層96上に摂氏1100度で成長した。AlGaN層97の厚さは20nmであった。AlGaN層97の成長速度は4.9nm/分であった。p型AlGaN層97のAl組成は0.15であった。
【0092】
TMG(36.6μmol/分)、TMA(3.0μmol/分)、NH(6slm)及びCpMgを成長炉に供給して、p型AlGaN層98をp型AlGaN層97上に摂氏1100度で成長した。AlGaN層98の厚さは400nmであった。Alの組成は0.06であった。AlGaN層98の成長速度は13.0nm/分であった。また、TMG(34.1μmol/分)、NH(5slm)及びCpMgを成長炉に供給して、p型GaN層99をp型AlGaN層98上に摂氏1100度で成長した。GaN層99の厚さは50nmであった。p型GaN層99の成長速度は18.0nm/分であった。これらの工程によってエピタキシャルウエハが作製された。
【0093】
このエピタキシャルウエハをエピ成長チャンバから、酸素を含む大気から隔離可能な導通路を介して別のチャンバに移動する。この別のチャンバにおいて、このエピタキシャルウエハ上に非イオン系グリセリン脂肪酸エステルの界面活性剤膜からなる酸化防止膜をアンモニア雰囲気の下で形成して、第1の基板生産物を作製する。酸化防止膜の厚さは例えば0.05μmであった。この形成は例えばスパッタ法で行った。この後に、第1の基板生産物を、大気中を経由して、別の装置のチャンバに配置する。このチャンバにおいて、エピタキシャルウエハの表面を覆う酸化防止膜を除去して、第1の基板生産物から第2の基板生産物を作製する。別の装置のチャンバにおいて、第2の基板生産物のp型GaN層99の表面が露出される。この露出、つまり酸化防止膜の除去は、例えばドライエッチング法によって行われる。この除去の後に、p型GaN層上にアノード電極のためのNi膜を成長した。この成膜は真空蒸着法を用いた。
【0094】
アノード電極100aは、p型GaN層に電気的に接続される。アノード電極はNi/Auからなる。
【0095】
この後に、カソード電極100bを形成した。カソードはTi/Al/Ti/Auからなる。a面において劈開して、600マイクロメートル長のレーザバーを作製した。図に示されたレーザダイオードが得られた。発振波長は520nmであり、しきい値電流は900mAであった。
【0096】
二次イオン質量分析装置(Cameca製)を用いて、上記のエピタキシャルウエハのp型コンタクト層の深さ方向の酸素濃度を測定した。一次イオン種としては、水素(H)、炭素(C)、酸素(O)、シリコン(Si)についてはCsを採用し、ボロン(B)についてはO2+を採用した。p型コンタクト層における酸素濃度の最大値A及び最小値Bはそれぞれ17.15×1017cm−3、1.38×1017cm−3であり、(A−B)/(A+B)は約0.68であった。また、得られたレーザダイオードの断面TEM像(透過電子顕微鏡法による像)を観察したが、p型GaN層とアノード電極との界面に酸化ガリウム膜の存在を確認できなかった。
【0097】
一方、実施例1と同様にして作製したエピタキシャルウエハの表面を酸化防止膜で覆うことなく成長炉から取り出した後に、電極膜の成膜のために真空蒸着装置においてアノード電極のための電極膜を形成した。このレーザダイオードの断面TEM像を観察したところ、p型GaN層とアノード電極との界面に酸化ガリウム膜の存在を確認できた。
【0098】
p型コンタクト層に関し、界面(例えば界面JC)から活性層への方向における酸素濃度を二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した結果において、その酸素濃度の最大値をAと表し、該酸素濃度の最小値をBと表すとき、発明者らの実験から、(A−B)/(A+B)は0.9以下であり、好ましくは0.8以下であり、より好ましくは0.7以下である。上記の式の下限値については、二次イオン質量分析装置の感度等に依存するが、発明者らは0.1以上であると考えている。最大値Aは、2.0×1018cm−3以下であることが好ましい。最大値Aの下限値は、1.4×1017cm−3であることができる。最小値Bは、1.5×1017cm−3以下であることが好ましい。最小値Bの下限値は、1.0×1017cm−3であることができる。
【0099】
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本実施の形態によれば、コンタクト層と電極との界面における酸化物の影響を低減可能なIII族窒化物半導体発光素子が提供される。また、本実施の形態によれば、コンタクト層と電極との界面における酸化物の影響を低減可能な、III族窒化物半導体発光素子を製造する方法が提供される。
【符号の説明】
【0101】
8、10…処理装置、LD1…窒化物半導体光素子、11…基板、13…第1の窒化ガリウム系半導体領域、15…発光領域、17…第2の窒化ガリウム系半導体領域、19…活性層、21…井戸層、23…障壁層、25、27、29…窒化ガリウム系半導体層、31…窒化ガリウム系半導体層、33、35…窒化ガリウム系半導体層、α、β…傾斜角、SR1…基準平面、VC1、VC2…c軸方向のベクトル、51、53…窒化ガリウム系半導体層、55、57…窒化ガリウム系半導体層、59a、59b…光ガイド層、61…アンドープGaN層、65、67…電極、87…酸化防止膜、89…導電膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体発光素子を製造する方法であって、
III族窒化物半導体からなる半極性主面を有する基板を準備する工程と、
第1の装置を用いて、活性層及びp型コンタクト層を含む半導体積層を前記半極性主面の上に形成する工程と、
前記第1の装置を用いて前記半導体積層の表面を覆う酸化防止膜を堆積して、第1の基板生産物を形成する工程と、
前記第1の装置から第2の装置に前記第1の基板生産物を移動する工程と、
前記第2の装置において前記第1の基板生産物から前記酸化防止膜を除去して、前記p型コンタクト層の表面を露出させる工程と、
前記第2の装置において、前記p型コンタクト層の前記露出された表面の上に電極のための導電膜を形成する工程と、
を備え、
前記酸化防止膜はIII族窒化物とは異なる材料からなり、
前記p型コンタクト層は窒化ガリウム系半導体からなる、III族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項2】
前記第1の装置は、第1のチャンバ、第2のチャンバ、及び前記第1のチャンバと前記第2のチャンバを接続する連結通路を含み、
前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバは真空排気系に接続され、
前記連結通路は、前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバを個別に真空排気可能にするためのシャッタを含み、
前記第1の装置の前記第1のチャンバにおいて、前記半導体積層が有機金属気相成長法によって形成され、
前記第1の装置の前記第2のチャンバにおいて、前記酸化防止膜の成膜が行われる、請求項1に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項3】
前記第2の装置は、第1のチャンバ、第2のチャンバ、及び前記第1のチャンバと前記第2のチャンバを接続する連結通路を含み、
前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバは真空排気系に接続され、
前記連結通路は、前記第1のチャンバ及び前記第2のチャンバを個別に真空排気可能にするためのシャッタを含み、
前記第2の装置の前記第2のチャンバにおいて、前記酸化防止膜の除去が行われ、
前記第2の装置の前記第1のチャンバにおいて、前記p型コンタクト層の前記露出された表面の上に前記導電膜を形成する、請求項1又は請求項2に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項4】
前記第1の装置から第2の装置に前記第1の基板生産物を移動する工程では、前記第1の装置から前記第1の基板生産物を取り出して前記第1の基板生産物を大気にさらした後に、前記第2の装置に前記第1の基板生産物を配置する、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項5】
前記酸化防止膜の材料は、シリコン無機化合物、金属酸化物、界面活性剤、導電性ポリマー、導電性を有する粒子が分散された樹脂、シロキサン系樹脂、またはシロキサン系材料の少なくともいずれかを含む、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項6】
前記酸化防止膜は、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜、水素化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、酸化イットリウム膜、酸化チタン膜、または酸化クロム膜の少なくともいずれかを含む、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項7】
前記導電膜は、Ni、Ag、Ti、Pt、Pd、Au又は、Ni、Ag、Ti、Pt、Pd及びAuのうちの複数の元素を含む合金の少なくともいずれかを含む、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項8】
前記酸化防止膜は帯電防止膜を含む、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項9】
前記p型コンタクト層の前記露出された表面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にして45度以上80度以下の範囲の角度で傾斜する、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項10】
前記半極性主面はm軸の方向に傾斜されており、
前記基板の前記半極性面は{20−21}面から−5度以上+5度の範囲にある、請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項11】
前記p型コンタクト層の前記露出された表面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にしてm軸の方向に75度以上79度以下の範囲の角度で傾斜する、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項12】
前記基板の前記半極性面の面方位は{20−21}である、請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項13】
前記基板の前記III族窒化物半導体はGaNからなり、
前記活性層は、InGaN層を含み、
前記p型コンタクト層がp型AlGa1−ZN(0≦Z<1)層を含み、前記活性層は480nm以上600nm以下の波長範囲の発光を生成するように設けられる、請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子を製造する方法。
【請求項14】
III族窒化物半導体発光素子であって、
III族窒化物半導体からなる半極性主面を有する基板と、
前記半極性主面の上に設けられ、活性層及びp型コンタクト層を含む半導体積層と、
前記半導体積層における前記p型コンタクト層に接触を成す電極と、
を備え、
前記半極性主面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準に傾斜し、
前記半導体積層の前記活性層及び前記p型コンタクト層は前記半極性主面の法線方向に積層されており、
前記p型コンタクト層と前記電極との界面は、前記III族窒化物半導体のc軸の方向に延在する基準軸に直交する平面を基準にして傾斜し、
前記p型コンタクト層は窒化ガリウム系半導体からなり、
二次イオン質量分析法により求めた前記界面から前記活性層への方向における酸素濃度の最大値をAとし、該酸素濃度の最小値をBとしたとき、(A−B)/(A+B)が0.9以下である、III族窒化物半導体発光素子。
【請求項15】
透過電子顕微鏡法による分析結果において、前記p型コンタクト層と前記電極との界面に酸化膜が存在していない、請求項14に記載されたIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項16】
前記半極性主面の前記傾斜における傾斜角は、45度以上80度以下の範囲にあり、
前記界面の前記傾斜における傾斜角は、45度以上80度以下の範囲にある、請求項14又は請求項15に記載されたIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項17】
前記半極性主面はm軸の方向に傾斜されており、
前記半極性主面の前記傾斜における傾斜角は、70度以上80度以下の範囲にあり、
前記界面の前記傾斜における傾斜角は、70度以上80度以下の範囲にある、請求項14〜請求項16のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項18】
前記基板の前記半極性面の面方位は{20−21}である、請求項14〜請求項17のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項19】
前記基板の前記III族窒化物半導体はGaNからなり、
前記活性層は、InGaN層を含み、
前記p型コンタクト層がp型AlGa1−ZN(0≦Z<1)層を含み、
前記活性層は480nm以上600nm以下の波長範囲の発光を生成するように設けられる、請求項14〜請求項18のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項20】
前記電極は、Ni、Ag、Ti、Pt、Pd、Au又は、Ni、Ag、Ti、Pt、Pd及びAuのうちの複数の元素を含む合金の少なくともいずれかを含む、請求項14〜請求項19のいずれか一項に記載されたIII族窒化物半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−84836(P2012−84836A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46578(P2011−46578)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】