説明

III族窒化物半導体結晶の製造方法、III族窒化物半導体基板およびIII族窒化物半導体結晶

【課題】非極性面または半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶をより簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】極性面を主面とする下地基板10上に、極性面以外のファセット面11〜18を含む凸状ライン部21〜24を2500μm以上のピッチで複数本形成し、前記主面に垂直な方向にIII族窒化物半導体結晶を成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非極性面または半極性面を主面とするIII族窒化物半導体結晶の製造方法と、その方法を利用して製造されるIII族窒化物半導体基板およびIII族窒化物半導体結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体結晶を用いたLEDなどの半導体発光デバイスは、基板上にIII族窒化物半導体結晶を成長させることにより一般に製造されている。このとき、異種基板上にIII族窒化物半導体結晶を成長させると結晶欠陥が発生しやすいために、効率のよい半導体発光デバイスを提供することが困難であるが、同種のIII族窒化物半導体基板上にIII族窒化物半導体結晶をホモエピタキシャル成長させれば結晶欠陥の発生が抑制されるために、高性能な半導体発光デバイスを提供しやすいことが知られている。また、ホモエピタキシャル成長に用いるIII族窒化物半導体基板は、結晶欠陥が少ないほど、その上に良好なIII族窒化物半導体結晶を成長できることも知られている。このため、できるだけ結晶欠陥が少ないIII族窒化物半導体基板を提供することが必要とされている。
【0003】
そこで、このようなIII族窒化物半導体基板として用いることができるような良質なIII族窒化物半導体結晶を製造する方法が、これまでに種々研究され、幾つかの方法が提案されるに至っている。
例えば特許文献1には、ピッチ幅20〜2000μmのストライプ状のマスクパターンをあらかじめ形成した平板状のサファイア基板のC面上に、ファセットからなる直線状のV字溝を形成しながらc軸方向にGaN結晶を0.1〜4.4mm程度成長させることが記載されている。また、成長後の結晶をC面にてスライスして、C面を主面とするGaN基板を得ることも記載されている。この方法によれば、V字溝の底部に欠陥を集合させることができるため、結晶欠陥が少ないGaN結晶を製造することができると説明されている。
【0004】
また、特許文献2には、C面を主面とし短辺が10mmのバー状のGaN基板4枚を5mm間隔で配列したものを下地基板として用い、側面であるM面からc軸方向へ壁状のGaN結晶を成長させる方法が記載されている。特許文献2には、この方法によって成長させた結晶から、c軸方向の長さが35mmのM面を主面とするGaN基板を切り出したことが記載されている。また、この方法により製造されるGaN結晶には、下地基板に由来する結晶欠陥や、表面に平行な転位線が存在しないことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183100号公報
【特許文献2】特開2008−308401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載される方法は、成長させたGaN結晶をC面にてスライスしてC面を主面とするGaN基板を得ることを目的とするものであり、非極性面や半極性面を主面とするGaN基板を得ることについては記載も示唆もされていない。また、特許文献1には、サファイア基板のストライプ状のマスクパターンのピッチ幅を2000μm超にするとファセット面が乱れて結晶欠陥が発生し、ファセットからなる山の頂部が乱れてピットが生じることが記載されている(特許文献1段落番号0143〜0144、0285〜0286参照)。このため、特許文献1に記載される方法では、厚膜結晶を成長することはできない。
一方、上記の特許文献2によれば、非極性面や半極性面を主面とするGaN基板を得ることができるが、下地基板の側面であるM面からc軸方向に結晶を成長するものであるため、主面にて成長する場合に比べて成長の制御が困難であるという問題がある。
本発明者らは、これらの従来技術の課題に鑑みて、非極性面または半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶をより簡便に製造する方法を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その結果、本発明者らは、極性面以外のファセット面を含む凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本形成した下地基板を用いることにより、非極性面または半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶を簡便に製造しうることを見出すに至った。また、この方法を採用すれば、下地基板の作製が簡単であるうえ、主面上に結晶を成長させることができるため、一度の成長で多数の結晶を速い成長速度で効率良く製造しうることも見出すに至った。本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、以下の内容を含むものである。
【0008】
[1] 極性面を主面とする下地基板上に、極性面以外のファセット面を含む凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本形成し、前記主面に垂直な方向にIII族窒化物半導体結晶を成長させることを特徴とするIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[2] 前記下地基板の主面に垂直な方向への前記III族窒化物半導体結晶の平均成長速度が150μm/hr以上であることを特徴とする[1]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[3] 前記下地基板の主面上に、非極性面または半極性面と平行な方向に伸長する複数のストライプ状のマスクがピッチ幅2500μm以上で形成されていることを特徴とする[1]または[2]に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[4] 前記III族窒化物半導体結晶を前記下地基板の主面に垂直な方向へ5mm以上成長させることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[5] 少なくとも1つの前記凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[6] すべての前記凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[7] 成長させる前記III族窒化物半導体結晶が単結晶であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
[8] [1]〜[7]のいずれか1項に記載の製造方法にて得られたIII族窒化物半導体結晶を加工して得られるIII族窒化物半導体基板。
[9] 極性面以外のファセット面を含む凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本有することを特徴とするIII族窒化物半導体結晶。
[10] 前記凸状ライン部の底面に垂直な方向の最大長が5mm以上であることを特徴とする[9]に記載のIII族窒化物半導体結晶。
[11] 少なくとも1つの前記凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在することを特徴とする[9]または[10]に記載のIII族窒化物半導体結晶。
[12] すべての前記凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在することを特徴とする[9]または[10]に記載のIII族窒化物半導体結晶。
【発明の効果】
【0009】
本発明のIII族窒化物半導体結晶の製造方法によれば、非極性面または半極性面を主面とする良質なIII族窒化物半導体結晶を簡便に製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、速い成長速度で効率良くIII族窒化物半導体結晶を製造することが可能である。さらに、本発明の製造方法によれば、主面が大きなIII族窒化物半導体結晶を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ストライプ状のマスクを形成した下地基板の斜視図である。
【図2】ストライプ状のマスクを形成した下地基板の側面図である。
【図3】凸状ライン部が形成された下地基板の側面図である。
【図4】ピッチ幅が狭い従来法によりIII族窒化物半導体結晶を成長させたときの断面図である。
【図5】ピッチ幅が広い本発明の製造方法によりIII族窒化物半導体結晶を成長させたときの断面図である。
【図6】本発明の製造方法で用いることができる製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。例えば、III族窒化物半導体結晶の代表例としてGaN結晶を例に挙げて説明がなされることがあるが、本発明はGaN結晶およびその製造方法に限定されるものではない。
【0012】
本明細書においてIII族窒化物半導体結晶の「主面」とは、当該III族窒化物半導体結晶における最も広い面であって、結晶成長を行うべき面を指す。本明細書において「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{0001}面と等価な面であり、極性面である。III族窒化物半導体結晶では、C面はIII族面またはV族面であり、窒化ガリウムではそれぞれGa面またはN面に相当する。また、本明細書において「M面」とは、{1−100}面、{01−10}面、[−1010]面、{−1100}面、{0−110}面、{10−10}面として包括的に表される非極性面であり、具体的には(1−100)面、(01−10)面、(−1010)面、(−1100)面、(0−110)面、(10−10)面を意味する。さらに、本明細書において「A面」とは、{2−1−10}面、{−12−10}面、{−1−120}面、{−2110}面、{1−210}面、{11−20}面として包括的に表される非極性面であり、具体的には(2−1−10)面、(−12−10)面、(−1−120)面、(−2110)面、(1−210)面、(11−20)面を意味する。本明細書において「c軸」「m軸」「a軸」とは、それぞれC面、M面、A面に垂直な軸を意味する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
本明細書において「非極性面」とは、表面にIII族元素と窒素元素の両方が存在しており、かつその存在比が1:1である面を意味する。具体的には、M面やA面を好ましい面として挙げることができる。本明細書において「半極性面」とは、例えば、III族窒化物が六方晶であってその主面が(hklm)で表される場合、h,i,kのうち少なくとも2つが0でなく、且つlが0でない面をいう。また、半極性面は、c面、すなわち(0001)面に対して傾いた面で、表面にIII族元素と窒素元素の両方あるいはC面のように片方のみが存在する場合で、かつその存在比が1:1でない面を意味する。h、k、l、mはそれぞれ独立に−5〜5のいずれかの整数であることが好ましく、−2〜2のいずれかの整数であることがより好ましく、低指数面であることが好ましい。本発明において好ましく採用できる半極性面として、例えば(10−11)面、(10−1−1)面、(20−21)面、(20−2−1)面、(10−12)面、(10−1−2)面などを挙げることができる。
なお、本明細書においてC面、M面、A面や特定の指数面を称する場合には、±0.01°以内の精度で計測される各結晶軸から10°以内のオフ角を有する範囲内の面を含む。好ましくはオフ角が5°以内であり、より好ましくは3°以内である。
【0014】
[III族窒化物半導体結晶の製造方法]
(基本構成)
本発明のIII族窒化物半導体結晶の製造方法は、極性面を主面とする下地基板上に、極性面以外のファセット面を含む凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本形成し、前記主面に垂直な方向にIII族窒化物半導体結晶を成長させることを特徴とする。以下に本発明の製造方法で用いる下地基板や形成する凸状ライン部などについて詳細に説明する。
【0015】
(下地基板)
本発明の製造方法で用いる下地基板は、本発明により成長しようとしているIII族窒化物半導体結晶と同種の結晶からなる基板であってもよいし、異種の結晶からなる基板であってもよい。例えば、窒化ガリウム結晶を製造しようとしている場合は、窒化ガリウム基板を用いてもよいし、サファイアなどの異種基板を用いてもよい。異種の結晶としては、サファイア以外にSiC、ZnOなどを挙げることができる。異種の結晶として好ましいのは、サファイアである。
【0016】
本発明の製造方法で用いる下地基板は、極性面を主面とするものである。例えば窒化ガリウム基板やサファイア基板を用いる場合は、(0001)面や(000−1)面を主面とする基板を用いることができる。このうち、本発明の製造方法における結晶成長には、(0001)面側を用いることが好ましい。
【0017】
本発明の製造方法で用いる下地基板は、平坦な基板でもよいし、凹凸加工を施した基板であってもよい。例えば平坦な基板上に平坦なIII族窒化物(例えば窒化ガリウム)の薄膜を成長したものでも良いし、平坦な基板上に成長を阻害するマスクを施してからIII族窒化物の薄膜を成長して凹凸をつけても良い。平坦な基板上に成長を阻害するマスクを施してからIII族窒化物の薄膜を成長して凹凸をつけてから更にエッチングにより成長を阻害するマスクを除去して空隙を形成してもよいし、凹凸をつけた基板上にIII族窒化物の薄膜を成長して空隙を形成してもよい。
【0018】
本発明の製造方法で用いる下地基板の形状は、後述する複数の凸状ライン部を形成しうるものであれば特に制限されない。例えば、円形、楕円形、正方形、長方形、5角形以上の多角形などの主面を有する下地基板を、成長しようとしているIII族窒化物半導体結晶の形状やサイズ等を考慮して適宜選択して使用することができる。例えば、大型のIII族窒化物半導体基板を数多く取得したい場合は、長方形の主面を有する下地基板を好ましく選択することができる。下地基板は自己支持性を有する厚みを持つことが好ましく、通常は厚みが0.20mm以上であり、好ましくは0.25mm以上であり、さらに好ましくは0.30mm以上であり、また、上限値としては例えば1.00mm以下のものを用いることができる。
【0019】
本発明の製造方法では、下地基板の主面上に凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本形成する。このため、下地基板には、凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本形成しうるような処理を行ってから、III族窒化物半導体結晶の成長を行うことが好ましい。そのような処理の例として、極性面からなる主面の一部をマスクする態様を挙げることができる。あるいは、下地基板の主面の一部をエッチングによりストライプ状に除去した溝を形成してもよい。
【0020】
具体的には、下地基板の主面上に、非極性面または半極性面と平行な方向に伸長する複数のストライプ状のマスクをピッチ幅2500μm以上で形成しておくことができる。例えば図1に示すように、C面を主面とし、A面とM面を側面とする長方形の下地基板10を想定したとき、非極性面であるM面と平行な方向に伸長するストライプ状のマスク1,2,3,4,5をC面上に形成することができる。このとき、ストライプ状のマスクのピッチ幅は図2のPMで表され、2500μm以上となるように設置する。ピッチ幅は、2500μm以上であることが好ましく、2750μm以上であることがより好ましく、3000μm以上であることがさらに好ましい。ピッチ幅が2500μm以上であれば、非マスク領域に成長するIII族窒化物半導体結晶の頂部がストライプ状のマスク上で互いに結合して一体化することなく成長し、良好な品質を有するIII族窒化物半導体結晶が得られやすくなる。一方、ピッチ幅の上限値は、9000μm以下であることが好ましく、8000μm以下であることがより好ましく、7000μm以下であることがさらに好ましい。ピッチ幅はある程度以上確保すれば、得られるIII族窒化物半導体結晶の品質や形状はほぼ同等となるため、III族窒化物半導体結晶の製造効率を考慮すれば上記の上限値以下にすることが好ましい。また、ピッチの幅は、すべての隣り合うストライプ状マスクの間で同じにする必要はなく、2500μm以上離れていれば異なっていても構わない。ただ、下地基板上において、より均一なIII族窒化物半導体結晶の成長を図る場合は、間隔を等しくしておくことが好ましい。
【0021】
マスクの幅WMは、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。また、1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。また、マスクの高さHMは100Å以上であることが好ましく、300Å以上であることがより好ましく、500Å以上であることがさらに好ましい。また、3000Å以下であることが好ましく、2000Å以下であることがより好ましく、1000Å以下であることがさらに好ましい。また、マスクの材質は、成長を阻害するものであれば特段限定されず、具体的にはSiO2、SiN、Al23、AlN、ZrO2、Y23、MgOなどがあげられる。
【0022】
(凸状ライン部)
本発明の製造方法では、下地基板の主面上に、極性面以外のファセット面を含む凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本形成する。凸状ライン部のファセット面は、半極性面であっても非極性面であってもよい。このような凸状ライン部は、例えば上記のストライプ状のマスクを形成した下地基板上にIII族窒化物半導体結晶を成長させることにより、形成することができる。凸状ライン部は、外表面が2つ以上のファセット面により構成されていることが好ましい。例えば2つのファセット面で構成されている場合、下で説明する図3に示す態様のように、2つのファセット面は凸状ライン部の断面が対称形となるように配置され、ファセット面の接合部が凸状ライン部の頂部稜線を形成していることが好ましい。また、2つのファセット面の面積は等しいかほぼ等しいことが好ましい。2つのファセット面の組み合わせとしては、例えば(11−22)面と(−1−122)面の組み合わせ、(10−11)面と(−1011)面の組み合わせなどを挙げることができる。
【0023】
例えば、図1および図2に示すストライプ状のマスクを形成した下地基板上にIII族窒化物半導体結晶を成長させると、非マスク領域の極性面上に図3に示すようにファセット面11,12を有する凸状ライン部21;ファセット面13,14を有する凸状ライン部22;ファセット面15,16を有する凸状ライン部23;ファセット面17,18を有する凸状ライン部24が形成される。このような凸状ライン部は、例えばストライプ状のマスクを形成したGaN下地基板やサファイヤ下地基板の極性面上に本発明にしたがってGaN結晶を成長させた場合に観察される。
【0024】
凸状ライン部のピッチPLは2500μm以上である。ピッチ幅が2500μm以上であれば、非マスク領域に成長するIII族窒化物半導体結晶の頂部がストライプ状のマスク上で互いに結合して一体化することなく成長し、良好な品質を有するIII族窒化物半導体結晶が得られやすくなる。凸状ライン部のピッチPLの好ましい範囲は、上記のストライプ状のマスクのピッチPMの好ましい範囲と同じである。なお、ここでいう凸状ライン部のピッチPLは、図3に示すような断面を観察したときに、凸状ライン部が下地基板の極性面に接する最左端部と、その隣の凸状ライン部が下地基板の極性面に接する最左端部との距離を意味する。
【0025】
凸状ライン部の幅WLは、上記のストライプ状のマスクのピッチ幅Pm及びマスクの幅Wmの組み合わせにより決定する事ができる。凸状ライン部の幅WLを大きくすれば、それだけ凸状ライン部の頂点を高くすることができ、サイズが大きなIII族窒化物半導体結晶を最終的に取得することが可能になる。このため、大型なIII族窒化物半導体結晶を得たい場合は、それに応じて凸状ライン部の幅WLが大きくなるようにPm及びWmを設定することが好ましい。
【0026】
凸状ライン部の高さHLは、上記のストライプ状のマスクのピッチ幅Pmやマスクの幅Wmにより、ある程度定まる。凸状ライン部の高さHLは、通常は上記凸状ライン部の幅WLの1.0倍以上であることが好ましく、WLの1.5倍以上であることがより好ましく、WLの2.0倍以上であることがさらに好ましい。
【0027】
凸状ライン部の形状やサイズについては、III族窒化物半導体結晶の成長を完了した後に、例えば凸状ラインに直交する結晶断面を蛍光顕微鏡観察することにより確認することができる。凸状ライン部は、その上に成長するIII族窒化物半導体結晶とは明確に区別して観察することができる。このため、例えば下地基板の下面(主面と反対側の面)側から図3の下から上へ透過観察することにより、凸状ライン部の幅WLを測定することが可能である。
【0028】
(III族窒化物半導体結晶の成長)
本発明の製造方法では、さらにIII族窒化物半導体結晶を成長させる。III族窒化物半導体結晶の成長は、凸状ライン部のファセット面上において主として行われる。III族窒化物半導体結晶は、下地基板の主面である極性面に垂直な方向に成長する。つまり、下地基板の主面である極性面に垂直な方向に、前記結晶の厚みが増していく。例えば、C面を主面とする下地基板を用いた場合は、c軸方向にIII族窒化物半導体結晶が成長する。III族窒化物半導体結晶の成長は、凸状ライン部の形成と連続して間断なく行うことが可能であり、そうすることが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法にしたがって、凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本形成してからIII族窒化物半導体結晶を形成させることによって、従来の方法が抱えていた課題を解決することができるようになった。上記の特許文献1に記載されているように、従来はピッチ幅が20〜2000μmのストライプ状のマスクパターンを下地基板上に形成した後に、III族窒化物半導体結晶を形成させる方法が採用されていた。この方法では、図4に示すように、最初は凸状ライン部25のファセット面上にIII族窒化物半導体結晶31がc軸方向に成長して行くが(図4(a))、成長を続けると頂部のC面成長部41が隣のラインと互いに近づき合う方向に不規則に曲がり始め、やがて隣どうしで部分的な結合が始まる(図4(b))。さらに成長を続けると、頂部のC面成長端42が完全に結合して一体化し(図4(c))、さらになお成長を続けると、結合したラインどうしがさらに結合してさらにより大きなラインへと一体化する(図4(d))。このような結合と一体化を繰り返して、やがて壁面成長に近い成長となる。隣どうしのラインが結合すると、C面成長する頂部が大きくなり、そこに多結晶が発生する。この傾向は、図4(c)から図4(d)へ至るように、ラインどうしの結合を繰り返すたびに大きくなり、多結晶の発生量も増えてくる。このため、大型の結晶を製造しようとしてIII族窒化物半導体結晶の成長を継続すると、次第に多結晶が増えて結晶の品質が低下してしまう。
【0030】
一方、図5に示すように、本発明の製造方法にしたがって、凸状ライン部26,27を2500μm以上のピッチで複数本形成してからIII族窒化物半導体結晶32,33を形成させた場合は、成長を続けても頂部のC面成長端43,44が互いに近づくことなくc軸方向に成長しやすくなる。このため、各凸状ライン部26,27の上に形成されるIII族窒化物半導体結晶32,33の間には、凹部51が認められる。このような成長態様は、図4(c)や図4(d)のような結合と一体化とは異なるため、頂部に多結晶が発生するのを効果的に防ぐことができる。このため、本発明の製造方法によれば、結晶性が高くて大型なIII族窒化物半導体結晶を容易に製造することができる。上記の従来法と比較する場合は、特にIII族窒化物半導体結晶を厚膜成長させたときに差異が顕著になる。具体的には、III族窒化物半導体結晶を下地基板の主面に垂直な方向(例えばc軸方向)へ5mm以上成長させたときに差異が顕著に観察される。本発明の製造方法における下地基板の主面に垂直な方向への成長厚みは、例えば10mm以上にすることができ、さらには15mm以上にすることもできる。なお、成長厚みとは、下地基板の主面である極性面から、結晶頂部のC面成長端までの結晶厚みを差す。
【0031】
本発明の製造方法によれば、成長する領域が頂部のC面成長端に集中するため、表面全体を成長する従来法よりも速い速度でIII族窒化物半導体結晶を成長させることが可能である。下地基板の主面に垂直な方向へのIII族窒化物半導体結晶の平均成長速度は、好ましくは150μm/hr以上であり、より好ましくは175μm/hr以上であり、さらに好ましくは200μm/hr以上であり、特に好ましくは250μm/hr以上である。上限値は例えば500μm/hrとすることができる。なお、ここでいう平均成長速度は下地基板の主面である極性面から、頂部C面成長端までの結晶厚みを、成長時間で除することにより求めることができる。
【0032】
本発明で成長させるIII族窒化物半導体結晶は、III族元素の窒化物からなる。具体的には、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウム、またはこれらが混ざった単結晶を挙げることができる。好ましくは窒化ガリウムである。
【0033】
本発明においてIII族窒化物半導体結晶を成長させる方法としては、例えば、ハイドライド気相成長(HVPE)法、有機金属化学気相堆積(MOCVD)法、昇華法などの気相法を採用することが可能であり、HVPE法を好ましく用いることができる。以下において、好ましい製造装置の一例として、図6を参照しながらHVPE法の製造装置を説明する。
【0034】
1)基本構造
図6の製造装置は、リアクター100内に、下地基板(シード)110を載置するためのサセプター108と、成長させるIII族窒化物半導体の原料を入れるリザーバー106とを備えている。また、リアクター100内にガスを導入するための導入管101〜104と、排気するための排気管109が設置されている。さらに、リアクター100を側面から加熱するためのヒーター107が設置されている。
【0035】
2)リアクターの材質、雰囲気ガスのガス種
リアクター100の材質としては、石英、焼結体窒化ホウ素、ステンレス等が用いられる。好ましい材質は石英である。リアクター100内には、反応開始前にあらかじめ雰囲気ガスを充填しておく。雰囲気ガス(キャリアガス)としては、例えば、水素、窒素、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0036】
3)サセプターの材質、形状、成長面からサセプターまでの距離
サセプター108の材質としてはカーボンが好ましく、SiCで表面をコーティングしているものがより好ましい。サセプター108の形状は、本発明で用いる下地基板を設置することができる形状であれば特に制限されないが、結晶成長する際に結晶成長面付近に構造物が存在しないものであることが好ましい。結晶成長面付近に成長する可能性のある構造物が存在すると、そこに多結晶体が付着し、その生成物としてHClガスが発生して結晶成長させようとしている結晶に悪影響が及んでしまう。下地基板110とサセプター108の接触面は、下地基板の主面(結晶成長面)から1mm以上離れていることが好ましく、3mm以上離れていることがより好ましく、5mm以上離れていることがさらに好ましい。
【0037】
4)リザーバー
リザーバー106には、成長させるIII族窒化物半導体の原料を入れる。具体的には、III族源となる原料を入れる。そのようなIII族源となる原料として、Ga、Al、Inなどを挙げることができる。リザーバー106にガスを導入するための導入管103からは、リザーバー106に入れた原料と反応するガスを供給する。例えば、リザーバー106にIII族源となる原料を入れた場合は、導入管103からHClガスを供給することができる。このとき、HClガスとともに、導入管103からキャリアガスを供給してもよい。キャリアガスとしては、例えば水素、窒素、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0038】
5)窒素源(アンモニア)、セパレートガス、ドーパントガス
導入管104からは、窒素源となる原料ガスを供給する。通常はNH3を供給する。また、導入管101からは、キャリアガスを供給する。キャリアガスとしては、導入管103から供給するキャリアガスと同じものを例示することができる。このキャリアガスは原料ガス同士の気相での反応を抑制し、ノズル先端にポリ結晶が付着することを防ぐ効果もある。また、導入管102からは、ドーパントガスを供給することもできる。例えば、SiH4やSiH2Cl2、H2S等のn型のドーパントガスを供給することができる。
【0039】
6)ガス導入方法
導入管101〜104から供給する上記ガスは、それぞれ互いに入れ替えて別の導入管から供給しても構わない。また、窒素源となる原料ガスとキャリアガスは、同じ導入管から混合して供給してもよい。さらに他の導入管からキャリアガスを混合してもよい。これらの供給態様は、リアクター100の大きさや形状、原料の反応性、目的とする結晶成長速度などに応じて、適宜決定することができる。
【0040】
7)排気管の設置場所
ガス排気管109は、リアクター内壁の上面、底面、側面に設置することができる。ゴミ落ちの観点から結晶成長端よりも下部にあることが好ましく、図6のようにリアクター底面にガス排気管109が設置されていることがより好ましい。
【0041】
8)結晶成長条件
上記の製造装置を用いた結晶成長は、950℃以上で行うことが好ましく、970℃以上で行うことがより好ましく、980℃以上で行うことがさらに好ましい。また、1120℃以下で行うことが好ましく、1100℃以下で行うことがより好ましく、1090℃以下で行うことがさらに好ましい。結晶成長中の温度低下は60℃以内に制御することが好ましく、40℃以内に制御することがより好ましく、20℃以内に制御することがさらに好ましい。リアクター内の圧力は10kPa以上とすることが好ましく、30kPa以上とすることがより好ましく、50kPa以上とすることがさらに好ましい。また、200kPa以下とすることが好ましく、150kPa以下とすることがより好ましく、120kPa以下とすることがさらに好ましい。
【0042】
[III族窒化物半導体結晶]
本発明のIII族窒化物半導体結晶の製造方法により製造される凸状ライン部を含む結晶は、従来にない特徴的な構造を有している。すなわち、極性面以外のファセット面を含む凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本有している点で特徴的である。特に、前記凸状ライン部の底面に垂直な方向の最大長が5mm以上もある結晶は、2500μm以上のピッチで配列した凸状ライン部上でIII族窒化物半導体結晶を大きく成長させた例がないことから、斬新であり、またIII族窒化物半導体結晶が高品質で大型であることから有用性が高いものである。
【0043】
本発明のIII族窒化物半導体結晶の製造方法により製造される凸状ライン部を含む結晶では、少なくとも1つの凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在する。好ましくは、すべての前記凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在する。特に、凸状ライン部の底面に垂直な方向の最大長が5mm以上であるときに、このような条件を満たす結晶は従来法では製造することができなかったものである。
【0044】
[III族窒化物半導体基板]
本発明のIII族窒化物半導体結晶の製造方法により製造した結晶を加工することにより、III族窒化物半導体基板を製造することができる。所望の形状のIII族窒化物半導体基板を得るために、得られたIII族窒化物半導体結晶に対してスライス、外形加工、表面研磨などを適宜行うことが好ましい。これらの方法は、いずれか1つだけを選択して用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いる場合は、例えば、スライス、外形加工、表面研磨の順に行うことができる。各処理について詳しく説明すると、スライスは、例えばワイヤーで切断することにより行うことができる。外形加工とは、基板形状を円形にしたり、長方形にしたりすることを意味し、例えばダイシング、外周研磨、ワイヤーで切断する方法などを挙げることができる。表面研磨の例として、ダイヤモンド砥粒などの砥粒を用いて表面を研磨する方法、CMP(chemical mechanical polishing)、機械研磨後のRIEでのダメージ層エッチングなどを挙げることができる。
【0045】
本発明の製造方法によれば、高品質でサイズが大きなIII族窒化物半導体結晶を得ることができる。このため、従来法では取得することが困難であった大きな非極性主面や半極性主面を有するIII族窒化物半導体基板を得ることが可能である。また、本発明の製造方法によれば、効率良く一度に多くのIII族窒化物半導体基板を製造することが可能である。
本発明を利用すれば、例えば1つの結晶から10mm×20mmのIII族窒化物半導体基板を50枚以上提供することが可能であり、さらには10mm×50mmのIII族窒化物半導体基板を10枚以上提供することも可能である。
【実施例】
【0046】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0047】
(実施例1)
下地として、凹凸をつけた基板上に窒素化ガリウムの薄膜を成長して空隙を形成した、直径70mm空隙付サファイアC面基板を使用した。
上記サファイアC面基板上に、プラズマCVD法によって、厚さ800ÅのSiNx膜を形成した。更に、フォトリソグラフィによってラインパターンを露光し、現像を行い、ドライエッチングによりSiNxのラインパターンを形成した。ラインパターンは、成長すべきGaNの(10−10)面に平行になるように配置している。SiNxのライン幅は50μmとし、GaN露出部の幅は2950μmとした。3000μmピッチのラインパターンであり、GaN露出部ラインは面内で24本である。
図6に示すHVPE装置のリアクター100内のサセプター108に、+C面[(0001)面]が上向きになるように上記基板をセットした。この時−C面[(000−1)面]は基板ホルダーに接しており、直接原料ガスと触れることはない。まず、反応室の温度を980℃に上げ、原料を+C面方向から供給することにより、初期成長を15分間成長した。その後、反応室の温度を1030℃まで上げ、原料を+C面方向から供給することによりGaN結晶を130時間にわたって成長させた。この成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、NH3ガスの分圧を1.34×104Pa、N2ガスの分圧を1.11×104Pa、GaClガスの分圧を6.60×102Pa、H2ガスの分圧を7.58×104Paとし、原料を導入管より導入した。
130時間成長した後、室温まで降温した。得られたGaN単結晶の形状はGaN露出部の中央を頂点としたラインが形成されており、SiNxが谷部となった高低差の大きいファセット成長となっている。直径70mmの下地基板を使用した結果、ラインの長さは最長70mm、頂点部の膜厚は20mm、頂点の平均成長速度は154μm/hrであった。
このバルク結晶をカッティング、スライスすることによりライン頂点部から10mm×20mm以上の非極性(10−10)GaN基板を複数枚得ることが見込める。
【0048】
(実施例2)
下地として、直径50mmC面GaN自立基板を使用した。
上記C面GaN自立基板上に、プラズマCVD法によって、厚さ800ÅのSiNx膜を形成した。更に、フォトリソグラフィによってラインパターンを露光し、現像を行い、ドライエッチングによりSiNxのラインパターンを形成した。ラインパターンは、成長すべきGaNの(10−10)面に平行になるように配置している。SiNxのライン幅は50μmとし、GaN露出部の幅は2950μmとした。3000μmピッチのラインパターンであり、GaN露出部ラインは面内で16本である。
図6に示すHVPE装置のリアクター100内のサセプター108に、+Cが上向きで上記基板をセットした。この時−C面は基板ホルダーに接しており、直接原料ガスと触れることはない。まず、反応室の温度を980℃に上げ、原料を+C面方向から供給することにより、初期成長を15分間成長した。その後、反応室の温度を1030℃まで上げ、原料を+C面方向から供給することによりGaN結晶を130時間にわたって成長させた。この成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、NH3ガスの分圧を1.34×104Pa、N2ガスの分圧を1.11×104Pa、GaClガスの分圧を6.60×102Pa、H2ガスの分圧を7.58×104Paとし、原料を導入管より導入した。
130時間成長した後、室温まで降温した。得られたGaN単結晶の形状は頂点の一部が隣のラインと結合しているが、高低差の大きいファセット成長となっている。直径50mmの下地基板を使用した結果、ラインの長さは最長50mm、頂点部の膜厚は約14mm、頂点の平均成長速度は108μm/hrであった。
このバルク結晶をカッティング、スライスすることによりライン頂点部から最大で12mm×45mmの非極性(10−10)GaN基板が複数枚得られた。また10mm×20mmの定型サイズ非極性(10−10)GaN基板は38枚の切出しが可能であった。
【0049】
(比較例1)
下地として、凹凸をつけた基板上に窒素化ガリウムの薄膜を成長して空隙を形成した、直径70mm空隙付サファイアC面基板を使用した。
上記サファイアC面基板上にはSiNxのラインパターンは形成しない。
図6に示すHVPE装置のリアクター100内のサセプター108に、+Cが上向きで上記基板をセットした。この時−C面は基板ホルダーに接しており、直接原料ガスと触れることはない。まず、反応室の温度を1080℃に上げ、原料を+C面方向から供給することにより、初期成長を45分間成長した。その後、反応室の温度を1015℃まで上げ、原料を+C面方向から供給することによりGaN結晶を105時間にわたって成長させた。この成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、NH3ガスの分圧を7.02×103Pa、N2ガスの分圧を1.32×104Pa、GaClガスの分圧を5.37×102Pa、H2ガスの分圧を8.02×104Paとし、原料を導入管より導入した。
105時間成長した後、室温まで降温した。得られたGaN単結晶は凹凸の無い平坦な形状となっている。直径70mmの下地基板を使用した結果、平坦部の膜厚は約8mm、平均成長速度は76μm/hrであった。しかしこの結晶には表面で直径約6mmの穴が10個程度発生していること及び結晶内にクラックが内在していることにより、非極性面(10−10)の5mm×5mm以上の切出しは不可能であった。
【0050】
(比較例2)
下地として、凹凸をつけた基板上に窒素化ガリウムの薄膜を成長して空隙を形成した、直径70mm空隙付サファイアC面基板を使用した。
上記サファイアC面基板上に、プラズマCVD法によって、厚さ800ÅのSiNx膜を形成した。更に、フォトリソグラフィによってラインパターンを露光し、現像を行い、ドライエッチングによりSiNxのラインパターンを形成した。ラインパターンは、成長すべきGaNの(10−10)面に平行になるように配置している。SiNxのライン幅は50μmとし、GaN露出部の幅は400μmとした。450μmピッチのラインパターンであり、GaN露出部ラインは面内で155本である。
図6に示すHVPE装置のリアクター100内のサセプター108に、+Cが上向きで上記基板をセットした。この時−C面は基板ホルダーに接しており、直接原料ガスと触れることはない。まず、反応室の温度を980℃に上げ、原料を+C面方向から供給することにより、初期成長を15分間成長した。その後、反応室の温度を1030℃まで上げ、原料を+C面方向から供給することによりGaN結晶を130時間にわたって成長させた。この成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、NH3ガスの分圧を8.14×103Pa、N2ガスの分圧を1.17×104Pa、GaClガスの分圧を7.00×102Pa、H2ガスの分圧を8.04×104Paとし、原料を導入管より導入した。
130時間成長した後、室温まで降温した。得られたGaN単結晶の形状はGaN露出部からのGaN成長がSiNxを超えて、隣のGaN露出部からのGaN成長と不規則に繰返し結合していた。このため頂点ライン及び谷ラインも不規則に曲がっていた。
このバルク結晶を非極性(10−10)面でカッティング、スライスすると切出した面内に頂点と谷部が混在することになり、非極性面(10−10)の10mm×10mm以上の切出しは不可能であった。
【0051】
(比較例3)
下地として、直径70mmサファイアC面基板を使用した。
上記サファイアC面基板上に、プラズマCVD法によって、厚さ800ÅのSiNx膜を形成した。更に、フォトリソグラフィによってラインパターンを露光し、現像を行い、ドライエッチングによりSiNxのラインパターンを形成した。ラインパターンは、成長すべきGaNの(11−20)面に平行になるように配置している。SiNxのライン幅は50μmとし、GaN露出部の幅は700μmとした。750μmピッチのラインパターンであり、GaN露出部ラインは面内で93本である。
図6に示すHVPE装置のリアクター100内のサセプター108に、+Cが上向きで上記基板をセットした。この時−C面は基板ホルダーに接しており、直接原料ガスと触れることはない。まず、反応室の温度を970℃に上げ、原料を+C面方向から供給することにより、初期成長を15分間成長した。その後、反応室の温度を1005℃まで上げ、原料を+C面方向から供給することによりGaN結晶を128時間にわたって成長させた。この成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、NH3ガスの分圧を1.51×104Pa、N2ガスの分圧を1.35×104Pa、GaClガスの分圧を4.57×102Pa、H2ガスの分圧を7.20×104Paとし、原料を導入管より導入した。
128時間成長した後、室温まで降温した。得られたGaN結晶の一部は多結晶化していた。GaN単結晶が得られた部分の形状はGaN露出部からのGaN成長がSiNxを超えて、隣のGaN露出部からのGaN成長と不規則に結合していた。
このバルク結晶を非極性(10−10)面でカッティング、スライスすると多結晶化した部分からの割れが多数発生して非極性面(10−10)の5mm×5mm以上の切出しは不可能であった。
【0052】
(比較例4)
下地として、直径70mmの約1/4片サファイアC面基板を使用した。
上記サファイアC面基板上に、プラズマCVD法によって、厚さ800ÅのSiNx膜を形成した。更に、フォトリソグラフィによってラインパターンを露光し、現像を行い、ドライエッチングによりSiNxのラインパターンを形成した。ラインパターンは、成長すべきGaNの(11−20)面に平行になるように配置している。SiNxのライン幅は50μmとし、GaN露出部の幅は1075μmとした。1125μmピッチのラインパターンである。
図6に示すHVPE装置のリアクター100内のサセプター108に、+Cが上向きで上記基板をセットした。この時−C面は基板ホルダーに接しており、直接原料ガスと触れることはない。まず、反応室の温度を980℃に上げ、原料を+C面方向から供給することにより、初期成長を15分間成長した。その後、反応室の温度を980℃に保ったまま、原料を+C面方向から供給することによりGaN結晶を50時間にわたって成長させた。この成長工程においては成長圧力を1.01×105Paとし、NH3ガスの分圧を1.51×104Pa、N2ガスの分圧を1.35×104Pa、GaClガスの分圧を4.57×102Pa、H2ガスの分圧を7.20×104Paとし、原料を導入管より導入した。
50時間成長した後、室温まで降温した。得られたGaN結晶の一部は多結晶化していた。GaN単結晶が得られた部分の形状はGaN露出部からのGaN成長がSiNxを超えて、隣のGaN露出部からのGaN成長と不規則に結合していた。この状態では100時間以上の長時間成長により頂点10mm以上の成長厚みを得たとしても、スライスする際に多結晶化した部分からの割れが予想され、非極性面(10−10)の5mm×5mm以上の切出しは難しいと考えられる。
【0053】
(比較例5)
実施例1のラインパターンのピッチを750μmにし、GaN露出部の幅を700μmに変更した点以外は実施例1と同じ条件で結晶成長を行う。その結果、比較例3と同様の結果を得る。
【0054】
(比較例6)
実施例1のラインパターンのピッチを1025μmにし、GaN露出部の幅を975μmに変更した点以外は実施例1と同じ条件で結晶成長を行う。その結果、比較例4と同様の結果を得る。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の製造方法によれば、非極性面または半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶を簡便に製造することができる。非極性面または半極性面を主面とする大型で良質なIII族窒化物半導体結晶は、従来法では容易に製造することができなかったことから、本発明によれば高品質なIII族窒化物半導体基板やそれを利用したデバイスの提供が可能になる。したがって、本発明の産業上の利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0056】
1〜5 ストライプ状のマスク
10 下地基板
11〜18 ファセット面
21〜27 凸状ライン部
31〜33 III族窒化物半導体結晶
41〜44 C面成長部
51 凹部
100 リアクター
101 キャリアガス用配管
102 ドーパントガス用配管
103 III族原料用配管
104 窒素原料用配管
106 III族原料用リザーバー
107 ヒーター
108 サセプター
109 排気管
110 下地基板(シード)
G1 キャリアガス
G2 ドーパントガス
G3 III族原料ガス
G4 窒素原料ガス
G5 HClガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性面を主面とする下地基板上に、極性面以外のファセット面を含む凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本形成し、前記主面に垂直な方向にIII族窒化物半導体結晶を成長させることを特徴とするIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
前記下地基板の主面に垂直な方向への前記III族窒化物半導体結晶の平均成長速度が150μm/hr以上であることを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記下地基板の主面上に、非極性面または半極性面と平行な方向に伸長する複数のストライプ状のマスクがピッチ幅2500μm以上で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記III族窒化物半導体結晶を前記下地基板の主面に垂直な方向へ5mm以上成長させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
少なくとも1つの前記凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
すべての前記凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
成長させる前記III族窒化物半導体結晶が単結晶であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法にて得られたIII族窒化物半導体結晶を加工して得られるIII族窒化物半導体基板。
【請求項9】
極性面以外のファセット面を含む凸状ライン部を2500μm以上のピッチで複数本有することを特徴とするIII族窒化物半導体結晶。
【請求項10】
前記凸状ライン部の底面に垂直な方向の最大長が5mm以上であることを特徴とする請求項9に記載のIII族窒化物半導体結晶。
【請求項11】
少なくとも1つの前記凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在することを特徴とする請求項9または10に記載のIII族窒化物半導体結晶。
【請求項12】
すべての前記凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶と、その凸状ライン部の隣の凸状ライン部上に成長したIII族窒化物半導体結晶との間に凹部が存在することを特徴とする請求項9または10に記載のIII族窒化物半導体結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−75791(P2013−75791A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216931(P2011−216931)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/LED照明の高効率化・高品質化に係る基盤技術開発/窒化物等の結晶成長手法の高度化に関する基盤技術開発」にかかわる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】