説明

MEMSデバイスとその製造方法

【課題】中空のドーム構造内に可動素子が形成されたMEMSデバイスに、外部からの横揺れや衝撃が加えられた場合でも内部に配置された可動素子の破損を防止することができるMEMSデバイスを提供する。
【解決手段】基板10上にアンカー22を介して形成され、第1の方向に伸長した振動子21を有するMEMS可動素子20と、MEMS可動素子20を覆うように基板10上に設けられる、中空の薄膜ドーム構造の第2の絶縁膜40と、基板10上に設けられ、第2の絶縁膜40の内側であって、MEMS可動素子20の外側に設けられ、一部が振動子21のON時の基板10からの高さ位置とOFF時の基板10からの高さ位置との間の高さ位置にある絶縁膜からなる立脚部31と、備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro ElectroMechanical System)デバイスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MEMSデバイスとして、半導体基板上の第1の方向に延在する第1の電極と、第1の電極と所定の距離をおいて、第1の電極に直交する第2の方向の両側に配置される第2の電極と、第2の電極の第1の電極側端部に設けられる導電性材料からなる一対の柱状部と、一対の柱状部間を接続する導電性材料が帯状に形成されたビーム部と、が、窒化膜などの絶縁膜からなるドーム構造の内部に設けられたものが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような中空のドーム構造のMEMSデバイスに、外部からの横揺れや衝撃が加えられると、ドーム構造内部に配置されたビーム部などの可動素子が大きく変動し、破壊される虞があるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,936,494号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、中空のドーム構造内に可動素子が形成されたMEMSデバイスに、外部からの横揺れや衝撃が加えられた場合でも内部に配置された可動素子の破損を防止することができるMEMSデバイスとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の一態様によれば、基板上に支持部材を介して形成された振動子を有する可動素子と、前記可動素子を覆うように前記基板上に設けられる中空の薄膜ドーム構造のキャップ膜と、前記基板上に設けられ、前記キャップ膜の内側であって、前記可動素子の外側に設けられ、一部が前記振動子のON時の前記基板からの高さ位置とOFF時の前記基板からの高さ位置との間の高さ位置にある絶縁膜からなる立脚部と、を備えることを特徴とするMEMSデバイスが提供される。
【0007】
また、本願発明の一態様によれば、所定形状の配線層を形成した基板上にパッシベーション膜を形成する工程と、前記パッシベーション膜上のMEMSデバイス形成領域に、基板面に垂直な断面がほぼ台形状の有機膜からなる第1の犠牲層を形成する工程と、前記第1の犠牲層の厚さ方向に貫通する貫通孔を、第1の方向に沿って形成する工程と、前記貫通孔を埋めるとともに、前記第1の犠牲層上に金属膜を形成し、前記貫通孔の形成位置を含むように前記金属膜のパターニングを行って、第1の方向に伸長した振動子と、前記振動子を前記基板上に支持する支持部材と、を有する可動素子を形成する工程と、前記可動素子を形成した基板上の全面に、第1の絶縁膜を形成する工程と、前記第1の絶縁膜上にレジストを塗布し、前記振動子の形成位置とその周辺の領域の一部が露出するように開口部を設けるとともに、前記開口部の端部が前記第1の犠牲層の上面から側面の間に位置するように第1のレジストパターンを形成する工程と、前記第1のレジストパターンをマスクとして、前記第1の絶縁膜をエッチングする工程と、前記可動素子を形成した前記第1の犠牲層を覆うように、基板面に垂直な断面がほぼ台形状の有機膜からなる第2の犠牲層を形成する工程と、前記第2の犠牲層を形成した基板上の全面に、第2の絶縁膜を形成する工程と、前記第2の絶縁膜上にレジストを塗布し、前記第2の犠牲層の上面内の所定の位置が露出するように第2のレジストパターンを形成する工程と、前記第2のレジストパターンをマスクとして、前記第2の絶縁膜をエッチングして、前記第2の絶縁膜に犠牲層除去用貫通孔を形成する工程と、前記第2のレジストパターンと、前記犠牲層除去用貫通孔から前記第2および第1の犠牲層と、を除去する工程と、前記第2の絶縁膜上に前記犠牲層除去用貫通孔を塞ぐオーバシール層を形成する工程と、を含むことを特徴とするMEMSデバイスの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、中空のドーム構造内に可動素子が形成されたMEMSデバイスに、外部からの横揺れや衝撃が加えられた場合でも内部に配置された可動素子の破損を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態によるMEMSデバイスの構造の一例を模式的に示す平面図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の形態によるMEMSデバイスの構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、MEMSデバイスの構造の他の例を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、第1の実施の形態によるMEMSデバイスの製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である(その1)。
【図5】図5は、第1の実施の形態によるMEMSデバイスの製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である(その2)。
【図6】図6は、第1の実施の形態によるMEMSデバイスの製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である(その3)。
【図7】図7は、第1の実施の形態によるMEMSデバイスの製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図である(その4)。
【図8】図8は、第2の実施の形態によるMEMSデバイスの構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図9】図9は、第3の実施の形態によるMEMSデバイスの構造の一例を模式的に示す平面図である。
【図10】図10は、図9のMEMSデバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施の形態にかかるMEMSデバイスとその製造方法を詳細に説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の実施の形態で用いられるMEMSデバイスの断面図は模式的なものであり、層の厚みと幅との関係や各層の厚みの比率などは現実のものとは異なる。さらに、以下で示す膜厚は一例であり、これに限定されるものではない。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態によるMEMSデバイスの構造の一例を模式的に示す平面図であり、(a)は第1の実施の形態によるMEMSデバイスの構造の一例を模式的に示す平面図であり、(b)は薄膜ドーム構造内の構造の一例を模式的に示す平面図である。また、図2は、本発明の第1の実施の形態によるMEMSデバイスの構造の一例を模式的に示す断面図であり、(a)は図1(b)のA−A断面に対応する断面図であり、(b)は図1(b)のB−B断面に対応する断面図である。
【0012】
半導体基板や絶縁体基板などの基板10は、MEMS部13が形成されるMEMS部形成領域RMと、MEMS部13以外の配線部が形成される配線部形成領域RLと、を有するが、ここではMEMS部形成領域RMとその周辺の配線部形成領域RLのみを図示して、その説明を行う。
【0013】
基板10上の所定の位置には、MEMS部13を駆動するためのAlなどの材料からなる厚さ数百nm〜数μmの配線層11がパターニングされている。この配線層11が形成された基板10上のほぼ全面にはシリコン酸化膜(SiO膜)やシリコン窒化膜(SiN膜)などからなる厚さ数百nm〜数μmのパッシベーション膜12が形成されている。
【0014】
配線部形成領域RLのパッシベーション膜12上には、第1の絶縁膜30と第2の絶縁膜40がさらに積層されている。第1の絶縁膜30は、たとえば厚さ数百nm〜数μmのシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などで構成され、第2の絶縁膜40は、たとえば厚さ数百nm〜数μmのシリコン窒化膜やシリコン酸化膜などで構成される。第1の絶縁膜30がシリコン酸化膜の場合には第2の絶縁膜40はシリコン窒化膜であることが望ましく、第1の絶縁膜30がシリコン窒化膜の場合には第2の絶縁膜40はシリコン酸化膜であることが望ましい。なお、図示していないが、配線部形成領域RLでは、配線の一部が露出するように、パッシベーション膜12と第1および第2の絶縁膜30,40とからなる積層膜に開口部が設けられており、この部分で外部の配線と接続される。
【0015】
また、MEMS部形成領域RMのパッシベーション膜12上には、MEMS可動素子20が形成され、このMEMS可動素子20の周囲を覆うように薄膜ドーム構造が、第2の絶縁膜40とオーバシール層50とで形成されている。具体的には、MEMS可動素子20は、第1の方向に所定の間隔をおいて、パッシベーション膜12の上面から所定の高さで第1の方向に直交する第2の方向に延在した2つの振動子21と、各振動子21を支持する支持部材としてのアンカー22(22A,22B)と、を備える。ここでは、1つの振動子21に対して2本のアンカー22A,22Bが設けられており、そのうちの1本のアンカー22Aの下部は、MEMS部形成領域RMに形成された配線層11と接続されている。また、この例では、2つの振動子21には、第1の絶縁膜30で接続される構成となっている。
【0016】
第2の絶縁膜40は、MEMS可動素子20を覆うようなドーム状の構造を有し、基板面とほぼ平行な上面部41と、上面部41と基板面とを接続する側面部42と、を有する。これによって、第2の絶縁膜40と基板10とで囲まれる領域は、中空構造となる。
【0017】
この第2の絶縁膜40内では、配線部形成領域RLから延びる第1の絶縁膜30が、振動子21の第1の方向の大きな変位に対するストッパの役割を有している。つまり、第1の絶縁膜30は、振動子21の側面と所定の間隔をおいて、振動子21の上下方向の可動領域内に位置するように形成される立脚部31を構成する。なお、この図1と図2の例では、立脚部31は、基板面に平行な方向に形成される上面部31と、上面部311と基板10との間を接続する側面部312と、を有する構造となっている。
【0018】
第2の絶縁膜40の上面部41には、第2の絶縁膜40を貫通する犠牲層除去用貫通孔45が形成されており、この犠牲層除去用貫通孔45を覆うように第2の絶縁膜40の上面にはオーバシール層50が設けられている。このオーバシール層50は、たとえば、ポリイミドなどの有機材料膜、またはシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの絶縁膜によって形成される。なお、第2の絶縁膜40とオーバシール層50とが、MEMS可動素子20を覆うキャップ膜としての役割を果たしている。
【0019】
このような構造のMEMSデバイスにおいて、たとえばMEMS可動素子20(振動子21)が上にある状態をオフとし、下に変位した状態をオンとすると、MEMS可動素子20への信号の入力を切り替えることによって、MEMS可動素子20が上下方向(第1と第2の方向の両方に垂直な方向、高さ方向)に振動することになる。
【0020】
ここで、薄膜ドーム構造内が真空ではなく、気体が封入されている場合で、第1の絶縁膜30による立脚部31が形成されていない場合には、MEMS可動素子20への信号をオフにした後も、振動子21はしばらく上下方向に振動することになる。しかし、第1の実施の形態では、第1の絶縁膜30で構成される立脚部31が、MEMS可動素子20の周囲を覆うように存在するため、第1の絶縁膜30とMEMS可動素子20とで形成される空間内に存在する気体の動き(移動)を抑制する働きを有する。その結果、信号がオフにされた後、第1の絶縁膜30による立脚部31が存在しない場合に比して速く振動子21の残留振動を抑制することが可能となる。
【0021】
また、このMEMSデバイスに第1の方向の振動(横揺れ)や衝撃が加わった場合に、振動子21が第1の方向に大きく変位してしまうが、第1の絶縁膜30による立脚部31が存在することによって、振動子21の第1の方向への必要以上の変位が抑制されることになる。
【0022】
なお、振動子21には、アンカー22が第2の方向に沿って形成されているため、第1の方向に比べて第2の方向には振動子21は大きく変位することがない。そのため、MEMSデバイスの第2の方向の端部側には、第1の絶縁膜30の立脚部31を設けない構造としてもよい。また、ここでは、MEMS可動素子20は、2つの振動子21が並列して設けられる場合を示しているが、1つの振動子21からなるものでもよいし、3つ以上の振動子21が並列して設けられるものでもよい。
【0023】
なお、この図1と図2の例では、立脚部31は、基板面に平行な方向に形成される上面部311と、上面部311と基板10との間を接続する側面部312と、を有する構造となっているが、これに限定されるものではない。図3は、MEMSデバイスの構造の他の例を模式的に示す断面図である。この図3において、図2と同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0024】
この図3では、第2の絶縁膜40とオーバシール層50とからなるキャップ膜内に、第1の絶縁膜30からなる立脚部31が設けられている。しかし、この立脚部31は、図2で示した基板面に平行な方向に形成される上面部311は形成されておらず、側面部312のみから構成される構造となっている。ただし、この側面部312は、振動子21の上下方向の可動範囲内に位置するように形成されている。このような構造の立脚部31であっても、蒸気のような振動子21の第1の方向への必要以上の変位を抑制することが可能である。
【0025】
つぎに、このような構造のMEMSデバイスの製造方法について説明する。図4〜図7は、第1の実施の形態によるMEMSデバイスの製造方法の手順の一例を模式的に示す断面図であり、図4〜図6は、図1(b)のA−A断面に対応する断面図であり、図7は、図1(b)のB−B断面に対応する断面図である。
【0026】
まず、基板10上にAlなどの金属膜を数百nm〜数μmの厚さで形成し、リソグラフィ技術とエッチング技術とを用いて、所定形状にパターニングして配線層11を形成する。また、配線層11を形成した基板10上にCVD(Chemical Vapor Deposition)法などの成膜法を用いて、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜などのパッシベーション膜12を形成する。このパッシベーション膜12の厚さは、数百nm〜数μm程度である。さらに、パッシベーション膜12上にポリイミドなどの有機材料を用いて、断面が台形状となるようにパターニングを行って、第1の犠牲層61をMEMS部形成領域RM上に形成する(図4(a))。この第1の犠牲層61は、たとえば、目的とする部分にポリイミド膜を塗布成膜した後、感光性パターニングを行うことによって、または、リソグラフィ技術で所定形状に露光、現像し、ドライエッチング法でエッチングすることによって、形成される。第1の犠牲層61の厚さは、数百nm〜数μmである。また、図7に示されるように、この第1の犠牲層61の振動子21を形成する部分には、第1の犠牲層61を厚さ方向に貫通する貫通孔62が、1つの振動子21に対して少なくとも2つ形成される。そのうちの1つの貫通孔62は、さらにパッシベーション膜12を貫通して、下層の配線層11の上面が露出する状態となる。
【0027】
ついで、第1の犠牲層61を形成したパッシベーション膜12上に、スパッタ法などの成膜法によって、Alなどの金属膜を形成する。このとき、貫通孔62内にも金属膜が埋め込まれるように金属膜を形成する。その後、リソグラフィ技術とエッチング技術を用いて、第2の方向に延在し、第1の方向に所定の間隔をおいて配置されるMEMS可動素子20の振動子21を形成する(図4(b))。この振動子21の厚さは、数百nm〜数μmである。また、貫通孔62内に形成された金属膜は、MEMS可動素子20のアンカー22となる。
【0028】
その後、パッシベーション膜12上と、振動子21を形成した第1の犠牲層61上に、CVD法などの成膜法によって第1の絶縁膜30を形成する(図4(c))。この第1の絶縁膜30は、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などからなり、数百nm〜数μmの厚さで形成される。これによって、配線部形成領域RL上と、MEMS部形成領域RMの第1の犠牲層61と振動子21の露出された面を覆うように、第1の絶縁膜30が形成される。
【0029】
ついで、第1の絶縁膜30上にレジストを塗布し、リソグラフィ技術によって露光、現像を行って、所定の形状のレジストパターン63を形成する(図4(d))。ここでは、振動子21の上面と外側の側面が露出するようにパターニングを行う。ここで、振動子21の外側の側面とは、薄膜ドーム構造を構成する第2の絶縁膜40の側面部42と対向する振動子21の第1の方向の側面のことをいう。なお、このとき、後のエッチング工程によって、振動子21の外側の側面と第1の絶縁膜30との間の距離が所定の距離だけ開くように、レジストパターン63が形成される。また、このとき、MEMS部形成領域RMに形成するレジストパターン63の開口部の端部の位置は、第1の犠牲層61上の側面(第1の絶縁膜30の側面部312)以上の位置となるようにパターニングされることが望ましい。これは、MEMS部形成領域RMに形成するレジストパターン63の開口部の端部の位置が、たとえば露光パターンの重ね合わせずれの影響などによって、基板10上に位置してしまった場合には、後の第1の絶縁膜30のエッチング工程で、開口の太い部分よりも細い部分の方が深くエッチングされるので、露出した基板10上の第1の絶縁膜30のほかに、パッシベーション膜12およびその下の配線層11や基板10までエッチングされてしまう可能性が高いからである。
【0030】
その後、RIE(Reactive Ion Etching)法やウエットエッチング法などの方法で、レジストパターン63をマスクとして第1の絶縁膜30をエッチングする(図4(e))。これによって、振動子21の上面と、外側の側面と、第1の犠牲層61の上面の一部が露出する。さらに、O2ガスなどを用いたアッシングまたは薬液による処理などの手法でレジストパターン63を除去する(図5(a))。なお、この第1の絶縁膜30のエッチング時において、基板10上にはパッシベーション膜12と第1の絶縁膜30が積層して形成されているので、局所的にエッチングが進行しても、パッシベーション膜12下の基板10または配線層11をエッチングしてしまう可能性を低下させることができる。
【0031】
ついで、ポリイミドなど有機材料を用いて、第1の犠牲層61を覆うように断面形状が台形状となるようにパターニングを行って、第2の犠牲層64を形成する(図5(b))。この第2の犠牲層64は、たとえば、目的とする部分にポリイミド膜を塗布成膜した後、感光性パターニングを行うことによって、または、リソグラフィ技術で所定形状に露光、現像し、ドライエッチング法でエッチングすることによって、形成される。第2の犠牲層64の厚さは、数百nm〜数μmである。
【0032】
その後、第1の絶縁膜30上と第2の犠牲層64上に、CVD法などの成膜法によって、第2の絶縁膜40を形成する(図5(c))。この第2の絶縁膜40は、シリコン窒化膜やシリコン酸化膜などからなり、数百nm〜数μmの厚さで形成される。これによって、配線部形成領域上と、MEMS部形成領域の第2の犠牲層64を覆うように、第2の絶縁膜40が形成される。
【0033】
ついで、第2の絶縁膜40上にレジストを塗布し、リソグラフィ技術によって、露光、現像を行って、所定の形状のレジストパターン65を形成する(図5(d))。これは、第2の絶縁膜40に犠牲層除去用貫通孔45を形成するためのレジストパターン65である。そして、このレジストパターン65をマスクとして、RIE法やウエットエッチング法などの方法で、第2の絶縁膜40をエッチングする(図5(e))。このとき、第2の犠牲層64の一部をエッチングしても構わない。これによって、第2の絶縁膜40を厚さ方向に貫通する犠牲層除去用貫通孔45が形成される。
【0034】
その後、O2ガスなどを用いたアッシングによって、第2の絶縁膜40上に形成されたレジストパターン65、第2および第1の犠牲層64,61の除去を行う(図6(a))。第2の犠牲層64は、犠牲層除去用貫通孔45を介して流入したO2ガスによってアッシングが行われ、また、第1の犠牲層61よりも上面に形成された第2の犠牲層64がアッシングされると、第1の犠牲層61上に形成された第1の絶縁膜30の端部と振動子21との間に設けられた間隙を介して流入したO2ガスによって第1の犠牲層61のアッシングが行われる。これによって、第2の絶縁膜40内が中空となる。また、MEMS可動素子20の周りに形成されていた第1の犠牲層61が除去される。さらに、MEMS可動素子20の第1の方向の側面から所定の距離だけ離れた位置に、第1の絶縁膜30からなる立脚部31の端部が位置するように形成される。この図の例では、基板面に平行な上面部311と、上面部311と基板10との間を結ぶ側面部212とを有する立脚部31が形成される。
【0035】
そして、第2の絶縁膜40に形成された犠牲層除去用貫通孔45を塞ぐように、第2の絶縁膜40上に、オーバシール層50を形成する(図6(b))。このオーバシール層50は、ポリイミドなどの有機材料を塗布して成膜することによって、あるいは、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜などの絶縁膜をCVD法などの成膜法によって成膜することによって形成される。これによって、中空部分が封止され、MEMS部形成領域RMに薄膜ドーム構造が完成し、MEMSデバイスの製造方法が終了する。
【0036】
この第1の実施の形態によれば、第2の絶縁膜40によって形成される薄膜ドーム構造内に形成されたMEMS可動素子20の振動子21から所定の距離を隔てて、振動子21のオン時とオフ時の可動範囲内の高さに第1の絶縁膜30からなる立脚部31を設けた。これによって、MEMSデバイスの横方向の振動(揺れ)が生じた場合に、通常の可動範囲を大きく超えて振動しようとする振動子21の動きが抑制される。その結果、振動子21の破損を防止することができ、MEMSデバイスがモバイル製品に使用されていく上で、可動部分の信頼性を向上することができるという効果を有する。
【0037】
また、薄膜ドーム構造内で、立脚部31を構成する第1の絶縁膜30が振動子21の周囲に形成されることで、第1の絶縁膜30とMEMS可動素子20とで囲まれる空間内の気体の動きを抑制するので、信号がオフにされたときの振動子21の残留振動を早く収束させることができるという効果も有する。
【0038】
さらに、第1の絶縁膜30をエッチングする際のレジストパターン63を形成する際に、レジストパターン63の開口の端部は、第1の犠牲層61上にあることが望ましいが、露光時のずれによって、レジストパターン63の開口の端部が第1の犠牲層61が形成されていない基板10上にずれてしまうことがある。このような場合でも、第1の絶縁膜30のエッチング時に、基板10上にはパッシベーション膜12と第1の絶縁膜30とが存在するので、パッシベーション膜12よりも下層の基板10または配線層11がエッチングされる虞を低減できるという効果も有する。
【0039】
さらにまた、薄膜ドーム構造を形成する第2の絶縁膜40と、パッシベーション膜12または基板10との間の接着性が悪い場合がある。このような場合でも、MEMS部形成領域RM以外の配線部形成領域RLにも第1の絶縁膜30と第2の絶縁膜40を積層したので、第1の絶縁膜30として両者の接着性を高めるような材料を選択することで、第2の絶縁膜40と基板10との間の密着性を高めることもできる。また、第2の絶縁膜40を基板10上に形成することによって生じる応力を、第2の絶縁膜40と基板10との間に第1の絶縁膜30を形成することによって、緩和することもできる。
【0040】
(第2の実施の形態)
図8は、第2の実施の形態によるMEMSデバイスの構造の一例を模式的に示す断面図である。この図に示されるように、このMEMSデバイスは、第1の実施の形態の薄膜ドーム構造内における第1の絶縁膜30で構成される立脚部31の側面部312が第2の絶縁膜40の側面部42と接触した構造を有している。なお、その他の構成は第1の実施の形態で説明したものと同じであるので、その説明を省略する。また、このような構造のMEMSデバイスの製造方法も、第1の実施の形態で説明したものと同様であるので、その説明を省略する。なお、この第2の実施の形態でも、立脚部31は、図3に示されるような構造であってもよい。
【0041】
この第2の実施の形態によれば、薄膜ドーム構造内における第1の絶縁膜30で構成される立脚部31の側面部312が、薄膜ドーム構造を形成する第2の絶縁膜40の側面部42に密着して形成されるので、薄膜ドーム構造の側面部の強度を高めることができるという効果を、第1の実施の形態の効果に加えて有する。また、第1の絶縁膜30と第2の絶縁膜40の側面間の距離がなくなるので、MEMS部13の面積を小さくすることができるという効果も有する。
【0042】
(第3の実施の形態)
図9は、第3の実施の形態によるMEMSデバイスの構造の一例を模式的に示す平面図であり、図10は、図9のMEMSデバイスの断面図であり、図10(a)は、図9のC−C断面に対応する断面図であり、図9(b)は、図9のD−D断面に対応する断面図である。このMEMSデバイスは、第1の実施の形態の薄膜ドーム構造内において、第1の絶縁膜30の立脚部31がひだ状に形成された構造を有している。
【0043】
たとえば、図9のC−C線上のMEMSデバイスの構造を見ると、図10(a)に示されるように、その断面は、第1の実施の形態と同様の構造となっている。つまり、この部分においては、第1の絶縁膜30によって上面部311と上面部311を支持する役目を有する側面部312と、を有する立脚部31が設けられている。
【0044】
一方、図9のD−D線上のMEMSデバイスの構造を見てみると、図10(b)に示されるように、その断面は、第1の実施の形態と異なり、第1の絶縁膜30による立脚部31が形成されていない構造となっている。
【0045】
このように、第3の実施の形態のMEMSデバイスでは、薄膜ドーム構造の各辺よりも短い長さの、第1の絶縁膜30によって形成される立脚部31が、所定の間隔で薄膜ドーム構造の辺に沿って形成される。
【0046】
なお、この説明では、第1と第2の絶縁膜30,40の側面部312,42の位置関係が第1の実施の形態の場合を例に挙げたが、第1と第2の絶縁膜30,40の側面部312,42の位置関係が第2の実施の形態の場合であってもよい。また、この第3の実施の形態でも、立脚部31は、図3に示されるような構造であってもよい。
【0047】
この第3の実施の形態によれば、横揺れが生じたときに、通常の可動範囲を大きく超えて振動しようとする振動子21が、立脚部31で制止されるときに、立脚部31が振動子21と接触する面積を小さくすることができるという効果を第1の実施の形態の効果に加えて得ることができる。
【符号の説明】
【0048】
10…基板、11…配線層、12…パッシベーション膜、13…MEMS部、20…MEMS可動素子、21…振動子、22,22A,22B…アンカー、30…第1の絶縁膜、31…立脚部、311…上面部、312…側面部、40…第2の絶縁膜、41…上面部、42…側面部、45…犠牲層除去用貫通孔、50…オーバシール層、61…第1の犠牲層、62…貫通孔、63,65…レジストパターン、64…第2の犠牲層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に支持部材を介して形成された振動子を有する可動素子と、
前記可動素子を覆うように前記基板上に設けられる中空の薄膜ドーム構造のキャップ膜と、
前記基板上に設けられ、前記キャップ膜の内側であって、前記可動素子の外側に設けられ、一部が前記振動子のON時の前記基板からの高さ位置とOFF時の前記基板からの高さ位置との間の高さ位置にある絶縁膜からなる立脚部と、
を備えることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項2】
前記キャップ膜は、基板面にほぼ平行な上面部と、前記上面部の周縁部と前記基板との間を接続する側面部と、を有し、
前記ストッパ膜は、前記立脚部の上端に前記基板面にほぼ平行な上面部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のMEMSデバイス。
【請求項3】
前記キャップ膜は、基板面にほぼ平行な上面部と、前記上面部の周縁部と前記基板との間を接続する側面部と、を有し、
前記ストッパ膜の前記立脚部は、前記キャップ膜の側面部から距離をおいて配置または側面部に接して形成されることを特徴とする請求項1に記載のMEMSデバイス。
【請求項4】
前記ストッパ膜は、前記キャップ膜の長さよりも短い幅の前記立脚部を、前記キャップ膜に沿って所定の間隔で配置したひだ状構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のMEMSデバイス。
【請求項5】
所定形状の配線層を形成した基板上にパッシベーション膜を形成する工程と、
前記パッシベーション膜上のMEMSデバイス形成領域に、基板面に垂直な断面がほぼ台形状の有機膜からなる第1の犠牲層を形成する工程と、
前記第1の犠牲層の厚さ方向に貫通する貫通孔を、第1の方向に沿って形成する工程と、
前記貫通孔を埋めるとともに、前記第1の犠牲層上に金属膜を形成し、前記貫通孔の形成位置を含むように前記金属膜のパターニングを行って、第1の方向に伸長した振動子と、前記振動子を前記基板上に支持する支持部材と、を有する可動素子を形成する工程と、
前記可動素子を形成した基板上の全面に、第1の絶縁膜を形成する工程と、
前記第1の絶縁膜上にレジストを塗布し、前記振動子の形成位置とその周辺の領域の一部が露出するように開口部を設けるとともに、前記開口部の端部が前記第1の犠牲層の上面から側面の間に位置するように第1のレジストパターンを形成する工程と、
前記第1のレジストパターンをマスクとして、前記第1の絶縁膜をエッチングする工程と、
前記可動素子を形成した前記第1の犠牲層を覆うように、基板面に垂直な断面がほぼ台形状の有機膜からなる第2の犠牲層を形成する工程と、
前記第2の犠牲層を形成した基板上の全面に、第2の絶縁膜を形成する工程と、
前記第2の絶縁膜上にレジストを塗布し、前記第2の犠牲層の上面内の所定の位置が露出するように第2のレジストパターンを形成する工程と、
前記第2のレジストパターンをマスクとして、前記第2の絶縁膜をエッチングして、前記第2の絶縁膜に犠牲層除去用貫通孔を形成する工程と、
前記第2のレジストパターンと、前記犠牲層除去用貫通孔から前記第2および第1の犠牲層と、を除去する工程と、
前記第2の絶縁膜上に前記犠牲層除去用貫通孔を塞ぐオーバシール層を形成する工程と、
を含むことを特徴とするMEMSデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−280035(P2010−280035A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135339(P2009−135339)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】