説明

SIMOXウェーハ製造方法およびSIMOXウェーハ

【課題】表面欠陥(Divot)が拡大しないようなエッチング条件を提供する。
【解決手段】BOX層W4を形成するための酸素注入工程S01および高温アニール処理工程S04と、酸素注入をおこなう側のウェーハ表面WS1を処理する表面酸化膜剥離工程S16と、ウェーハ裏面WS2を処理する裏面酸化膜剥離工程S15とを有し、表裏面酸化膜剥離工程において、それぞれの酸化膜剥離条件が異なる条件として制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SIMOXウェーハ製造方法およびSIMOXウェーハに関するものであり、高速、低消費電力なSOI(Silicon on Insulator)デバイスを形成するための埋め込み酸化膜を有する薄膜SOIウェーハとして、現在量産に使用されている貼り合わせSOI、SIMOX(Silicon Implantation of Oxygen)の2種類のうち、後者のSIMOXウェーハに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
SIMOXウェハは、特許文献1〜3に示すように知られており、また、SOI層の膜厚均一性に特に優れるという特徴を有している。
SIMOXウェハにおいては、SOI層として0.4μm以下の厚さが形成可能であり、0.1μm前後、さらにそれ以下の厚さのSOI層も良好に厚さ制御可能である。特に、厚さ0.02μm以下のSOI層は、完全空乏型動作のMOS−LSI形成に適用されることが多く、その場合、SOI層自体の膜厚がMOSFET動作のしきい値電圧と比例関係があることから、性能の揃ったデバイスを歩留良く作製するには、SOI層の膜厚均一性が重要な品質となる。その観点から、SOI層厚均一性に優れるSIMOXウェハは、次世代MOSFET用基板として期待されている。
【0003】
SIMOXウェーハは、従来から、注入時の酸素ドーズ量が高い高ドーズSIMOX(High dose SIMOX )、及び、注入時の酸素ドーズ量が一桁程度低く、その後のアニール工程を高酸素雰囲気で行うITOX(Internal Oxidation)技術を用いることにより、埋め込み酸化膜を形成する低ドーズSIMOX(Low dose SIMOX)の2種類が、知られている。さらに近年、低ドーズSIMOXの中で、最後の注入工程を、室温付近で少量のドーズで行うことでアモルファス層を形成し、より低ドーズでのBOX形成を可能にした(MLD(Modified Low Dose )法が、開発され、量産提供が成されている。
【0004】
高ドーズSIMOXでは、典型的には、O イオンが注入エネルギー150Kev、注入ドーズが1.5×1018cm−2以上、基板温度500℃の温度で注入され、1300℃以上の温度で、酸素を0.5〜2%含むArあるいは窒素雰囲気で4〜8時間のアニールを行うプロセスである。
このプロセスでは、注入時間が極めて長く、スループットが悪いこと、SOI層の転位密度が1×10cm−2〜1×1017cm−2と極めて高いなどの問題点があった。(非特許文献1)
【0005】
低ドーズSIMOXは、この欠点を改善するための方法であり、典型的には、注入エネルギー150keV以上、注入ドーズ4×1017cm−2〜1×1017cm−2、基板温度400℃〜600℃の温度で注入を行い、その後のアニールを1300℃以上、酸素を30〜60%含むAr雰囲気で行い、アニール中の酸素による内部酸化:ITOX(Internal Oxidation)によって、BOX層を厚膜化するとともに大幅な品質向上を実現している。(非特許文献2)
【0006】
さらに、低ドーズSIMOXの改善版として、従来の高温(400℃〜650℃)での酸素注入工程の後に、室温で1桁低いドーズの注入を行い、アモルファス層を表面に形成する方法(Modified Low Dose法:MLD法)が考案されている。
この方法によると、1.5×1017cm−2〜6×1017cm−2の広い低ドーズ範囲から、連続なBOX成長が可能であり、またその後のITOXプロセスにおいても、従来のITOXの1.5倍の速度で内部酸化が可能になった。結果として、BOX酸化膜(BOX層)は、熱酸化膜に極めて近くなり大幅な品質の改善が成された。
通常、このMLDプロセスでは、SOI層中の酸素量を下げるために、ITOX工程の後に、5〜10時間程度、酸素を0.5〜2%含むAr雰囲気によってアニールを行うことが普通である。(非特許文献3、特許文献4)
【0007】
つまり、従来、MDL−SIMOXウェーハの製造は、図3に示すように、酸素注入工程S01、HFエッチ工程S02、洗浄工程S03、高温アニール処理工程S04、酸化膜剥離工程S05、SOI層膜厚測定工程S07、洗浄工程S08の各工程によりおこなわれていた。
SOIウェーハの高温アニール工程S04は、1300℃を超える温度で、10時間以上の長時間、酸素を含むAr雰囲気中で行われる。また、スリップの抑制のために、通常は、縦型炉が用いられている。
【特許文献1】特開2004−200291号公報
【特許文献2】特開2006−351632号公報
【特許文献3】特開2007−5563号公報
【特許文献4】米国特許第5930643号公報
【非特許文献1】K.Izumi etal Electron. Lett.(UK)vol.14(1978)P593
【非特許文献2】S. Nakashima et al. Proc. IEEE int. SOI Conf. (1994)P71-2
【非特許文献3】O.W.Holland et al. Appl.Phys.Lett.(USA)vol. 69 (1996)P574
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高温アニール処理工程S04で使用するアニール炉は、使用前に十分な洗浄、空焼き等により高い清浄度のものが用いられるが、アニール回数が増えるにつれて、どうしてもチューブ、ボート、冶具等からのパーティクルの付着が避けられないという問題がある。また裏面側はホルダーに接触しているため、少なからずパーティクルの付着がみられ、このホルダーとの接触によるパーティクルのサイズも1μm〜5μm程度かそれ以上の大きさと、比較的大きなものが多いことがわかっている。したがって、酸化膜剥離工程S05においては、ウェーハに付着したパーティクル除去も同時におこなっている。
【0009】
高温アニール処理工程S04で形成された酸化膜は、酸化膜剥離工程S05により除去されるが、この酸化膜剥離工程S05は、従来、HF系のエッチャントで20%程度のオーバーエッチ条件としてウェーハ表裏面が同時に処理される。しかしながら、この従来条件では、ウェーハ裏面側の酸化膜が充分剥離された場合でも、ウェーハ表面側のパーティクル除去が不十分であるという問題が明らかになった。
さらに酸化膜剥離工程S05において、上記の従来条件では、ウェーハ裏面側における酸化膜剥離が不充分な場合があるという問題が明らかになった。
【0010】
これを改善するために、単純に、表裏面のパーティクルが除去可能となるような強い条件、つまり、長時間、あるいは、高濃度のHFでのエッチングをおこなったところ、長時間のHFエッチングにより、SOIウェーハに少なからず見られる表面欠陥(Divot )のサイズが大幅に増大してしまうという問題点が生じることがさらに明らかになった。
さらに、この拡大されたサイズの表面欠陥は、その深さ方向においてもウェーハ表面からBOX層まで到達しているために、強い条件のHFエッチングによってBOX層が溶解し欠陥サイズがさらに大きくなり、最悪の場合、SIMOXウェーハとして使用できなくなる状態にまで拡大するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、SIMOXウェーハ製造における高温アニール後の酸化膜剥離プロセスにおいて、ウェーハ裏面のパーティクルを充分除去可能とし、かつ、ウェーハの表面欠陥(Divot )が拡大しないように最適なエッチング条件を提供し、その結果、ウェーハ表裏面ともに、0.1μm〜5μm程度のパーティクルが少なく、かつ、表面欠陥(Divot )のサイズが1μm以下で個数が10以下とその増大も少ないSIMOXウェーハを製造可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のSIMOXウェーハ製造方法は、BOX層を形成するための酸素注入工程および高温アニール処理工程と、該高温アニール処理工程後の酸化膜剥離工程とを有するSIMOXウェーハの製造方法において、
前記酸化膜剥離工程が、酸素注入をおこなう側のウェーハ表面を処理する表面酸化膜剥離工程と、ウェーハ裏面を処理する裏面酸化膜剥離工程と、を有し、
これら表裏面酸化膜剥離工程において、それぞれの酸化膜剥離条件が異なる条件として制御されることにより上記課題を解決した。
本発明において、前記酸化膜剥離工程が、HF系のエッチャントで行われ、表裏面のエッチング時間、エッチング温度、エッチャント濃度を独立に調整することがより好ましい。
本発明の前記酸化膜剥離工程において、前記表面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件が、前記裏面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件より穏やかな条件とされることが可能である。
また、本発明において、前記酸化膜剥離工程において、前記裏面酸化膜剥離工程の後に前記表面酸化膜剥離工程がおこなわれ、前記裏面酸化膜剥離工程がウェーハ裏面のみを処理する枚葉エッチングとされる手段を採用することもできる。
また、前記表面酸化膜剥離工程において、ウェーハ表面のみ、または、ウェーハ表裏面を処理することができる。
本発明においては、前記酸化膜剥離工程において、HFエッチングに加えてパーティクルの除去効率をあげるためのスクラブ洗浄、または、超音波洗浄を併用して処理することが望ましい。
さらに、前記裏面酸化膜剥離工程において、ウェーハ表面に空気、窒素(N )あるいは、純水を噴射してエッチャントから保護することが可能である。
また、前記裏面酸化膜剥離工程において、前記枚葉エッチングが、ウェーハ中心を回転中心として回転させたウェーハ裏面に前記エッチャントをノズルから噴射して処理することがある。
本発明のSIMOXウェーハにおいては、上記のいずれか記載の製造方法により製造されたことが好ましい。
【0013】
本発明のSIMOXウェーハ製造方法は、BOX層を形成するための酸素注入工程および高温アニール処理工程と、該高温アニール処理工程後の酸化膜剥離工程とを有するSIMOXウェーハの製造方法において、
前記酸化膜剥離工程が、酸素注入をおこなう側のウェーハ表面を処理する表面酸化膜剥離工程と、ウェーハ裏面を処理する裏面酸化膜剥離工程と、を有し、
これら表裏面酸化膜剥離工程において、それぞれの酸化膜剥離条件が異なる条件として制御されることにより、高温アニール処理工程後における酸化膜剥離工程において、形成された酸化膜の剥離条件を、表裏面で独立に最適化することができるので、SOIウェーハの表面パーティクルおよび裏面パーティクルを低減することが可能となる。
【0014】
本発明において、前記酸化膜剥離工程が、HF系のエッチャントで行われ、表裏面のエッチング時間、エッチング温度、エッチャント濃度を独立に調整することにより、パーティクルや表面欠陥(Divot )など異なる条件が存在するので、表裏面の酸化膜剥離処理でそれぞれ異なる対応が求められるそれぞれの面に対して、各々に対応した酸化膜剥離条件として処理することができ、これにより、表裏面がきわめてパーティクルが少なく、表面欠陥のサイズの増大も少ないSIMOXウェーハが作成可能となる。
【0015】
本発明の前記酸化膜剥離工程において、前記表面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件が、前記裏面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件より穏やかな条件とされることにより、表裏面の酸化膜を十分に剥離するとともに、表面パーティクルを充分除去し、かつ、表面欠陥(Divot )が拡大しないようにして、好適な特性を有するSIMOXウェーハを提供することが可能となる。
ここで、穏やかな条件とは、裏面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件を、40〜60%HF、40〜70℃、3〜5min程度、表面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件を、20〜49%HF、25〜70℃、0.5〜30min程度にすることが好ましく、スループットを優先すると、裏面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件を、49%HF、60℃、3min、表面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件を、49%HF、60℃、1minとすることができる。特に、エッチャント濃度に関しては、裏面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件を表面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件より高く設定し、かつ、処理温度関しては、裏面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件を表面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件より高く設定することが好ましい。
【0016】
また、本発明において、前記酸化膜剥離工程において、前記裏面酸化膜剥離工程の後に前記表面酸化膜剥離工程がおこなわれ、前記裏面酸化膜剥離工程がウェーハ裏面のみを処理する枚葉エッチングとされることにより、裏面酸化膜剥離工程におけるエッチャントによるウェーハ表面に対する悪影響を低減して、表面酸化膜剥離工程において、エッチャントの影響が大きいウェーハ表面に対する酸化膜剥離とハーティクル除去を好適におこなうとともに、表面の欠陥(Divot )が拡大しない程度の最適なエッチング条件によりウェーハ表面をエッチングして酸化膜剥離をおこなうことが可能となる。
【0017】
また、前記表面酸化膜剥離工程においては、ウェーハ表面のみ、または、ウェーハ表裏面を処理することにより、裏面酸化膜剥離工程におけるエッチャントによるウェーハ表面に対する悪影響を低減して、表面酸化膜剥離工程において、エッチャントの影響が大きいウェーハ表面に対する酸化膜剥離とハーティクル除去を好適におこなうとともに、表面の欠陥(Divot )が拡大しない程度の最適なエッチング条件によりウェーハ表面をエッチングして酸化膜剥離をおこなうことが可能となる。これは、前記表面酸化膜剥離工程においては、裏面酸化膜剥離工程と同様にウェーハ表面のみ処理してもよいが、ウェーハ表面と同時にウェーハ裏面がさらにエッチングされても問題ないためである。
【0018】
本発明においては、前記酸化膜剥離工程において、HFエッチングに加えてパーティクルの除去効率をあげるためのスクラブ洗浄、または、超音波洗浄を併用して処理することにより、ウェーハ裏面において、高温アニール工程においてアニール装置内のホルダーとの接触で付着している可能性のある最大5μm程度の酸化物パーティクルを効率よく除去できるとともに、ウェーハ表面において、表面の欠陥(Divot )が拡大しない程度のエッチング条件でも確実にパーティクルを除去することができる。
【0019】
さらに、前記裏面酸化膜剥離工程において、ウェーハ表面に空気、窒素(N )あるいは、純水を噴射してエッチャントから保護することにより、裏面酸化膜剥離工程におけるエッチャントによるウェーハ表面に対する悪影響を排除して、確実に裏面のみを処理することができ、表面酸化膜剥離工程において、表面の欠陥(Divot )が拡大しない程度の最適なエッチング処理をすることが可能となる。
【0020】
また、前記裏面酸化膜剥離工程において、前記枚葉エッチングが、ウェーハ中心を回転中心として回転させたウェーハ裏面に前記エッチャントをノズルから噴射して処理することにより、酸化膜剥離工程における最初の工程を裏面酸化膜剥離工程として、その裏面酸化膜剥離工程は、バッチタイプの片面枚葉エッチング装置で行われ、その後で行われる表面酸化膜剥離工程が、片面、あるいは両面の枚葉エッチング装置で行われることができ、これにより、ウェーハ表裏面のうち、被処理面と反対の面にはエッチャントによる影響を排除した状態で、被処理面を処理することができ、また、酸化膜剥離におけるエッチング取り代等の、処理量を正確に制御することが可能となる。
【0021】
ここで、枚葉エッチングとは、以下のような方法であり、以下の装置によりおこなわれる。
(1)半導体インゴットをスライスして得られたウェーハの少なくとも片側表面を枚葉エッチングによりエッチングする方法であって、
回転状態の前記ウェーハ表面にエッチング液を噴射するとともに、
前記ウェーハ表面の面内各点におけるエッチング液の流速・流量を制御することにより、前記ウェーハ表面の面内各点におけるエッチング取り代を制御することを特徴とする枚葉エッチング方法。
(2)前記ウェーハの回転状態、前記エッチング液組成、前記エッチング液粘度、前記エッチング液の噴射状態、前記エッチング液の噴射位置および噴射位置の移動状態、前記エッチング液の噴射時間、前記ウェーハの径寸法、のいずれか1つ以上を制御することによって前記ウェーハ表面の面内各点において前記エッチング液の流速・流量を制御することを特徴とする上記(1)記載の枚葉エッチング方法。
(3)前記エッチング液が酸エッチング液とされることを特徴とする上記(1)または(2)記載の枚葉エッチング方法。
(4)上記(1)から(3)のいずれか記載の枚葉エッチング方法をおこなう装置であって、
前記ウェーハ回転手段と、
前記エッチング液を供給するエッチング液供給手段と、
前記エッチング液を前記ウェーハに噴射するノズルと、
前記ノズルから前記エッチング液の噴射状態を制御する噴射制御手段とを有することを特徴とする枚葉エッチング装置。
(5)前記噴射制御手段が、前記ウェーハに対する前記ノズルからの前記エッチング液噴射位置を設定するノズル位置制御手段を有することを特徴とする上記(4)記載の枚葉エッチング装置。
(6)前記噴射制御手段が、前記ウェーハの表面における所定の点に対して前記ノズルからの前記エッチング液噴射状態を設定する噴射状態制御手段を有することを特徴とする上記(4)記載の枚葉エッチング装置。
(7)上記(1)から(3)のいずれか記載の枚葉エッチング方法または上記(4)から(6)のいずれか記載の枚葉エッチング装置によって表面処理されたことを特徴とする半導体ウェーハ。
【0022】
本発明のSIMOXウェーハにおいては、上記のいずれか記載の製造方法により製造されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、表裏面酸化膜剥離工程において、それぞれの酸化膜剥離条件が異なる条件として制御されることにより、高温アニール処理工程後における酸化膜剥離工程において、形成された酸化膜の剥離条件を、表裏面で独立に最適化することができるので、SOIウェーハの表面パーティクルおよび裏面パーティクルを低減することが可能となるという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係るの一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるSIMOXウェーハ製造方法を示すフローチャートであり、図2は、SIMOXウェーハ製造工程の各工程におけるウェーハを示す側断面図であり、図において、符号Wは、シリコンウェーハ(SIMOXウェーハ)である。
【0025】
本実施形態において、SIMOXウェーハ製造方法は、図1に示すように、酸素注入工程S01、HFエッチ工程S02、洗浄工程S03、高温アニール処理工程S04、裏面酸化膜剥離工程S15、表面酸化膜剥離工程S16、SOI層膜厚測定工程S07、洗浄工程S08を有するものとされる。
【0026】
酸素注入工程S01においては、酸素イオンをシリコンウェーハWに注入することにより、図2(a)に示すように、酸素の高濃度層W2およびアモルファス層W3を形成する。このとき、酸素イオン注入は二段階に分けておこなわれ、例えばシリコンウェーハWを300℃以上、好ましくは400℃〜650℃の高温に加熱して、酸素注入エネルギーとして140〜220keV好ましくは170KeVの加速エネルギで、ドーズ量2×1016cm−2〜4×1017cm−2、好ましくは、2.5×1017cm−2の酸素イオン注入をおこなう第1の注入段階と、その後で、酸素注入エネルギーとして140〜220keV好ましくは160KeVの加速エネルギで、ドーズ量1×1014cm−2〜5×1016cm−2、好ましくは、2×1015cm−2の室温注入による第2の注入段階とをおこなうことで、シリコンウェーハ1の表面WS1から注入し、表面WS1から少し内部へ入った領域に酸素の高濃度層W2を形成する。
【0027】
図2(a)は、酸素イオンの注入後のシリコンウェーハW断面を表しており、矢印は酸素イオンを注入する様子を模式的に表している。1回目の酸素イオン注入は、シリコンウェーハWを比較的高温に加熱することで、シリコンウェーハWの表面WS1を単結晶のまま維持して酸素の高濃度層W2を形成し、2回目の酸素イオン注入では、1回目の酸素イオン注入時よりも低い温度にすることで、アモルファス層W3を形成する。
【0028】
次いで、HFエッチ工程S02において、エッチャントHF、HF濃度1〜5%、10〜20℃、1〜5minの処理条件で、酸素注入したシリコンウェーハWを表面処理する。
その後、洗浄工程S03において、通常の場合、SC−1洗浄(NHOH /H/HO の1:1:10の混合液による洗浄)やSC−2洗浄(HCl/H/HO の混合液による洗浄)、硫酸過水洗浄(HSO/Hの混合液による洗浄)といった、洗浄が40〜85℃で程度の温度範囲として適宜組み合わせて用いられる。
これら、HFエッチ工程S02および洗浄工程S03は、エッチャント、洗浄液、または、リンス液である純水等の処理液中にシリコンウェーハWを浸漬する処理とされることができる。
【0029】
図2(b)は、高温アニール処理工程後に得られたSIMOXウェーハの断面を表している。
高温アニール処理工程S04においては、酸素と不活性ガスが設定比率(例えば、酸素分圧比が2〜45%程度)となる混合ガス雰囲気を熱処理雰囲気として設定し、1300℃以上、より好ましくは 1320〜1350℃に設定された状態で、6〜20時間の熱処理を施し、BOX層W4およびSOI層W5を形成する。
本実施形態では、まず、熱処理を1350℃未満、好ましくは1280〜1320℃の範囲で所定時間かけて熱処理した後、1350℃以上シリコンの融点未満の温度に昇温してさらに高温の熱処理をおこなう。
具体的には、アニール条件は、1320℃、10時間のITOXプロセスの後に、1350℃、5〜10時間のアニールプロセスを、Ar雰囲気(酸素2%)でおこなうことが好ましい。
【0030】
これによって、熱処理雰囲気中の酸素をシリコンウェーハ1に取り込むことになる。
このとき、酸素濃度が5%以上の熱処理雰囲気での熱処理であるから、シリコンウェーハWの表面WS1が酸化された表面酸化膜W6、裏面WS2が酸化された裏面酸化膜W7が形成される。
【0031】
図2(c)は、裏面酸化膜剥離工程S15後に得られたSIMOXウェーハの断面を表している。
裏面酸化膜剥離工程S15においては、まず裏面のみの酸化膜を剥離する。このとき、酸化膜剥離条件を、エッチャント濃度、エッチング温度、エッチング時間が、それぞれ40〜60%HF、40〜60℃、3〜5min程度、より好ましくは、49%HF、60℃、3min、に設定して、シリコンウェーハWの裏面WS2の裏面酸化膜W7を剥離する。
【0032】
この裏面は栗工程S15においては、シリコンウェーハWの裏面WS2のみを処理するために、ウェーハの片面のみに処理液を噴出して、反対面には影響を及ぼさないようにする枚葉エッチング装置により処理がおこなわれる。
【0033】
図5は、本実施形態における裏面酸化膜剥離工程で剥離をおこなう枚葉エッチング装置を示す模式図である。
【0034】
枚葉エッチング装置1は、ウェーハWを支持するステージ11と、このステージ11に回転軸12によって接続され、ステージ11を回転軸12を介して回転駆動するモータ等の回転駆動源13を有しており、これらはウェーハ回転手段を構成している。
また、枚葉エッチング装置1は、エッチング液を供給するエッチング液供給手段20と、このエッチング液供給手段20からエッチング液を供給されてウェーハWへエッチング液を噴出するノズル31と、このノズル31を移動可能に支持するためのノズル基部32およびノズル基部32の位置・移動を規制するためのガイド部33とを有しており、これらは、ノズル位置制御手段30を構成するものである。ノズル基部32には、ノズル基部32に対してノズル31の角度を調節する機構、ノズル31先端部のウェーハWからの高さ位置を調節する機構、および、ノズル31からのエッチング液噴出・非噴出切り替え機構が設けられ、これらは噴射状態制御手段40を構成するものである。
【0035】
さらに、枚葉エッチング装置1は、回転駆動源13の回転数を制御してウェーハ回転数を設定するとともに、エッチング液供給手段20を制御してエッチング液の供給状態を規定するとともに、ノズル位置制御手段30、噴射状態制御手段40を制御してノズル31の状態・位置を設定する制御部50を有する。この制御部50はCPU等の演算部51と複数のメモリー52,53・・を有するものとされる。
【0036】
エッチング液供給手段20は、酸エッチング液をノズル31に供給するものとされ、具体的にシリコンウェーハWを処理する場合には、HFを供給する。
【0037】
ノズル位置制御手段30においては、ノズル基部32の移動を規制するガイド部33が、ウェーハWの回転中心を通りウェーハW半径方向にノズル31を移動可能なようにノズル基部32を支持している。ガイド部33は、ノズル基部32がその長さ方向に移動可能な構成とすることもできる、ノズル31のウェーハW回転中心に対する位置はノズル基部32のガイド部33の長さ方向の移動位置により設定可能とされている。ノズル基部32はガイド部33に対してその長さ方向に移動する機構を有するものとされている。
また、ガイド部33が、ウェーハW回転中心を通るように一端が設けられて他端が水平方向に回転可能に支持されており、ガイド部材33を水平方向に回動することで移動しているノズル31がウェーハW面内方向に移動可能とする構成とすることもできる。
【0038】
噴射状態制御手段40は、ノズル基部32に設けられ、ノズル基部32に対してノズル31の角度を調節する角度調節手段と、ノズル31先端部のウェーハWからの高さ位置を調節する高さ調節手段、および、ノズル31からのエッチング液噴出・非噴出を切り替える弁対とを有するものとされる。また、弁体を設けずにエッチング液供給手段20からの供給を切り替えるようにすることも可能である。
【0039】
制御手段50は、メモリー52,53・・として、処理前のウェーハW形状を記憶するもの、ノズル31位置とエッチング状態を記憶するもの、エッチング液の噴出量とエッチング状態を記憶するもの、処理後に基準となるウェーハWの形状を記憶するものを少なくとも有するとともに、これらを演算して、ノズル31の移動およびエッチング液の噴射状態を演算する演算部51と、を有するものとされる。
【0040】
裏面WS2には、高温アニール時の炉内でウェーハWを支持するホルダーとの接触で最大5μm程度の酸化物パーティクルが付着している可能性がある。そこで、裏面WS2のみを、上記のような枚葉式の片面エッチング装置を用いて、かつ、エッチング条件を、高濃度HF、必要によって温度を60℃程度に上げることで、より短時間で裏面のパーティクルを完全に除去することができる。この時の表面側は、エッチングに対して完全に保護されていることが必要である。例えば、上述したように裏面WS2側にHFをノズルで供給し回転させるタイプの枚葉エッチング装置1では、表面WS1は、空気、窒素(N )あるいは、純水をかけてエッチングから保護した状態とすることができる。この時、空気、窒素を用いるタイプでは、薬液の濃度が変化しないため薬液回収が可能となる。
【0041】
裏面酸化膜剥離工程S15における、枚葉エッチング装置1においては、HFエッチングに加えてパーティクルの除去効率をあげるためのスクラブ洗浄、超音波洗浄を併用できるとともに、HF系の薬液は、すべて回収可能である。これにより、処理に伴う汚水の処理工程を減縮し、作業時間を減少して作業コストを低下させ、ウェーハの製造コストを低減することが可能となる。
【0042】
裏面WSP2の酸化膜W7の剥離が終了したら、ウェーハWを裏返して、表面WS1の酸化膜剥離をおこなう表面酸化膜剥離工程S16をおこなう。
【0043】
図2(d)は、表面酸化膜剥離工程S16後に得られたSIMOXウェーハの断面を表している。
表面酸化膜剥離工程S16においては、酸化膜WS1を十分に剥離するとともに、表面パーティクルを充分除去し、かつ、表面欠陥(Divot )が拡大しないように裏面酸化膜剥離工程S15の酸化膜剥離条件より穏やかな条件になるよう処理条件が設定され、具体的には、エッチャント濃度、エッチング温度、エッチング時間が、それぞれ20〜49%HF、25〜70℃、0.5〜30min程度、スループットを優先すれば、49%HF、60℃、1minとして、シリコンウェーハWの表面WS1の表面酸化膜W6を剥離するものである。特に、エッチャント濃度に関しては、表面酸化膜剥離工程S16の酸化膜剥離条件を裏面酸化膜剥離工程S15の酸化膜剥離条件より低く設定し、かつ、処理温度関しては、表面酸化膜剥離工程S16の酸化膜剥離条件を裏面酸化膜剥離工程S15の酸化膜剥離条件より低く設定することが好ましい。
【0044】
表面酸化膜剥離工程S16においては、裏面酸化膜剥離工程S15における裏面WS2への処理と同様の片面エッチング装置を用いてもよいが、表面酸化膜剥離工程S16に裏面WS2側がさらにエッチングされても問題ないため、通常の枚葉式両面エッチング装置、あるいは、HFエッチング漕(処理液を貯留した処理槽)にウェーハW全体を浸漬するタイプのバッチエッチング装置を用いることができる。表面WS1のエッチング条件は、エッチング量をあまり多くすると、SIMOXウェーハに見られる表面欠陥(Divot)では、欠陥が表面からBOX層W4まで到達してしまうために、結果的にBOXW4がHFエッチングによって溶解し欠陥サイズが大きくなる。このため、最適な時間を見つけることが必要である。具体的には、HF濃度と処理温度と処理時間とは、それぞれ、20〜49%HF、25〜70℃、0.5〜30min程度あるいは、Siに対する処理量がこの条件と等しい処理条件とされることができる。これにより、表面WS1のみの処理、あるいは、表裏面WS1,WS2の同時処理が可能となる。
【0045】
次いで、SOI層膜厚測定工程S07において、分光エリプソメーターによりSOI層W5の膜厚を測定し、膜厚が厚すぎる場合はウェーハ表面WS1ぞ上記の枚葉エッチング装置により処理して、SOI層W5膜厚を適正な範囲とするとともに、SOI層W5が薄すぎる場合には、製品として不適合として製造ラインから排除するという判定をおこなう。
【0046】
最後に、洗浄工程S03と同様にSP−1等の条件を選択可能な洗浄工程S08をおこなう。この洗浄工程S08における条件は、製造されるウェーハの規格によって選択されることができる。
【0047】
本実施形態によれば、高温アニール工程S04後の酸化膜剥離工程において、裏面酸化膜剥離工程S15として、まず片面の枚葉エッチング装置1を用いて、十分なエッチング量を確保したエッチング条件(長時間、高HF濃度、高温)で裏面WS2のパーティクルを除去し、その後、表面酸化膜剥離工程S16として、枚葉、バッチタイプのどちらかのエッチング装置によって表面の欠陥(Divot )が拡大しない程度の最適なエッチング条件により表面WS1をエッチングすることで、表裏面WS1,WS2がきわめてパーティクルが少なく、表面欠陥のサイズの増大も少ないSIMOXウェーハWが作成可能である。
【0048】
以下、本発明に係る実施例を説明する。
【0049】
本発明の実施例は、MLD法によるSIMOXプロセスに適用したもので、φ300mmのシリコンウェーハWを用意し、酸素注入工程S01において、酸素注入エネルギーとして170KeVで、2.5×1017cm−2の注入を行い、その後で、2×1015cm−2のドーズの室温注入をおこないSP−1により洗浄をおこなった。
次に、高温アニール工程S04として、1320℃、10時間のITOXプロセスの後に、1350℃、5〜10時間のアニールプロセスを、Ar雰囲気(酸素2%)で、おこなった後、酸化膜剥離をおこなった結果を図4に示す。
まず裏面酸化膜剥離工程S15における条件の最適化を実験例1〜実験例5として裏面のみの処理をおこない、プロセス時間も考慮して裏面剥離条件を決定した。その条件の後に、表面酸化膜剥離工程S16として実験例6〜実験例10として表面の剥離条件の最適化をおこなった。裏面パーティクルと表面パーティクルはそれぞれ検出された個数を示している。
【0050】
この結果から、実験例6に示す条件が最適であることがわかる。このように、本発明のプロセスを用いて表裏面酸化膜剥離条件の最適化を各々おこなうことで、表面欠陥(Divot )のサイズの増大を抑えて(<1μm)、表裏面ともにパーティクルの少ない(<10個)のSIMOXウェーハを作成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明に係る一実施形態におけるSIMOXウェーハ製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明に係る一実施形態におけるSIMOXウェーハ製造工程のにおけるウェーハを示す側断面図である。
【図3】図3は、従来のSIMOXウェーハ製造方法を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本発明の実施例を示す結果である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態における裏面酸化膜剥離工程で剥離をおこなう枚葉エッチング装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0052】
W…シリコンウェーハ(SIMOXウェーハ)
W4…BOX層
W5…SOI層
W6…表面酸化膜
W7…裏面酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BOX層を形成するための酸素注入工程および高温アニール処理工程と、該高温アニール処理工程後の酸化膜剥離工程とを有するSIMOXウェーハの製造方法において、
前記酸化膜剥離工程が、酸素注入をおこなう側のウェーハ表面を処理する表面酸化膜剥離工程と、ウェーハ裏面を処理する裏面酸化膜剥離工程と、を有し、
これら表裏面酸化膜剥離工程において、それぞれの酸化膜剥離条件が異なる条件として制御されることを特徴とするSIMOXウェーハ製造方法。
【請求項2】
前記酸化膜剥離工程が、HF系のエッチャントで行われ、表裏面のエッチング時間、エッチング温度、エッチャント濃度を独立に調整することを特徴とする請求項1記載のSIMOXウェーハ製造方法。
【請求項3】
前記酸化膜剥離工程において、前記表面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件が、前記裏面酸化膜剥離工程の酸化膜剥離条件より穏やかな条件とされることを特徴とする請求項1または2記載のSIMOXウェーハ製造方法。
【請求項4】
前記酸化膜剥離工程において、前記裏面酸化膜剥離工程の後に前記表面酸化膜剥離工程がおこなわれ、前記裏面酸化膜剥離工程がウェーハ裏面のみを処理する枚葉エッチングとされることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のSIMOXウェーハ製造方法。
【請求項5】
前記表面酸化膜剥離工程において、ウェーハ表面のみ、または、ウェーハ表裏面を処理することを特徴とする請求項4記載のSIMOXウェーハ製造方法。
【請求項6】
前記酸化膜剥離工程において、HFエッチングに加えてパーティクルの除去効率をあげるためのスクラブ洗浄、または、超音波洗浄を併用して処理することを特徴とする請求項2記載のSIMOXウェーハ製造方法。
【請求項7】
前記裏面酸化膜剥離工程において、ウェーハ表面に空気、窒素(N )あるいは、純水を噴射してエッチャントから保護することを特徴とする請求項4記載のSIMOXウェーハ製造方法。
【請求項8】
前記裏面酸化膜剥離工程において、前記枚葉エッチングが、ウェーハ中心を回転中心として回転させたウェーハ裏面に前記エッチャントをノズルから噴射して処理することを特徴とする請求項4または7記載のSIMOXウェーハ製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか記載の製造方法により製造されたことを特徴とするSIMOXウェーハ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−54837(P2009−54837A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220943(P2007−220943)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】