説明

X線分光情報取得方法及びX線分光装置

【課題】本発明はX線分光装置に関し、広い波長範囲でX線の分光を再現性よく得ることができるX線分光装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 試料11から発生した特性X線13を受ける互いにほぼ90°の角度で配置された2つの分光素子1,2と、該2つの分光素子からの分散光を同時に受けて電気信号に変換する位置敏感検出器15と、該位置敏感検出器の出力を記憶するメモリと、該メモリに記憶されたデータを読み出して所定の画像処理を行なう画像処理部と、該画像処理部の出力を受けて分光情報を表示する表示部と、を有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線分光情報取得方法及びX線分光装置に関し、更に詳しくはより広い波長範囲にわたって分散光を測定することができるようにしたX線分光情報取得方法及びX線分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線マイクロアナライザ(EPMA)は、極めて細かく絞った電子線束を試料表面に照射して、そこから放射される特性X線の波長と強度をX線分光器で測定し、その微小部に含まれている元素を定性、又は定量するための分析機器であり、今や金属、鉄鋼、岩石、鉱物、ガラス、セラミクス等の広い分野の組成、材料研究になくてはならない分析機器となっている。
【0003】
図5はX線マイクロアナライザの構成概念図である。電子銃1から発射された電子線2は、電磁レンズ(コンデンサレンズ)3で集束された後、走査コイル4により偏向され、試料台上の試料6に照射される。電子線2は細い電子プローブ5となって試料6に照射されることになる。この時に、試料6から発生された特性X線はX線検出部20に入る。
【0004】
つまり試料6から発生された特性X線7は、X線検出部20内に配置された分光結晶8に入射され、分光される。分光された特性X線はX線検出部20内に設けられた検出器9で電気信号に変換される。図示しない演算制御手段では、検出器9で検出された特性X線に応じた電気信号に所定の処理を行ない、波長と強度に関するスペクトルを得て、図示しないディスプレイ上に表示させる。操作者はこのディスプレイに表示されたスペクトルを見ることで、試料の元素組成を定性、定量することができる。
【0005】
以下、EPMAの検出系の構成について説明する。図6は従来装置の第1の構成概念図である。光源12から出射された電子プローブ12aは試料11に入射する。この時、試料11から発生された特性X線13は、分光素子14に入射して分光され、分光された分散光は位置敏感検出器15に照射される。位置敏感検出器15は、入射されてきた特性X線の検出位置情報と強度に応じた電気信号を発生するものであり、例えばCCD素子が用いられる。16は分光素子の分散光である。ここで、試料11は図5の6に相当し、光源12は電子銃1に相当し、分光素子14は分光結晶8に相当する。
【0006】
ここで、Aは分光素子14の形状が円筒型のものを示し、Bは分光素子14の形状が円筒型以外の形状、例えば球面やトロイダル等の非円筒型のものを示している。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0007】
光源12から出射された電子プローブ12aは、試料11に照射される。この時、試料11からは特性X線13が発生する。この特性X線13は、分光素子14に入射する。入射した特性X線13は該分光素子14で分光反射され、位置敏感検出器15に照射される。該位置敏感検出器15は照射されたX線に応じた電気信号を発生する。明るい領域は、対応する波長の特性X線強度が強いということであり、暗い部分は対応する波長の特性X線強度が弱いということである。
【0008】
位置敏感検出器上の分散光の検出位置とカウント数により、得られた画像情報を、波長を横軸、縦軸を強度としてプロットすると、試料11の原子構造に関するスペクトルが得られる。ここで、波長領域を広い範囲で測定したい場合には、位置敏感検出器15を図の矢印18A方向又は18B方向に移動することにより広い波長範囲のX線分析を行なうことができる。
【0009】
このような動作を行ないながら、電子プローブ12aが試料11上を走査すると、試料11の全面にわたる分散光が得られる。
図7は従来装置の第2の構成概念図である。図6と同一のものは、同一の符号を付して示す。光源12から出射された電子プローブ12aは、試料11に入射する。この時、試料11からは特性X線13が発生する。この特性X線13は、分光素子14に入射する。入射した特性X線13は該分光素子14で分光反射され、位置敏感検出器15に照射される。該位置敏感検出器15は照射されたX線に応じた電気信号を発生する。
【0010】
位置敏感検出器上の分散光の検出位置とカウント数により、得られた画像情報を、波長を横軸、縦軸を強度としてプロットすると、試料11の原子構造に関するスペクトルが得られる。ここで、波長領域を広い範囲で測定したい場合には、分光素子14を別の場所に配置されている異なる分光波長領域をもつ分光素子14’に切り替えて、同様の動作によりX線スペクトルを得る。このようにすることで、広い範囲のX線分析を行なうことができる。
【0011】
このような動作を行ないながら、電子プローブ12aが試料11上を走査すると、試料11の全面にわたる分散光が得られる。
従来のこの種の装置としては、所定の放物線に沿って湾曲された分光結晶と、この分光結晶で反射されたX線を検出する位置敏感型X線検出器とを備え、かつ、前記分光結晶の焦点が試料上のX線の発生位置に設定されているX線分光装置が知られている(例えば特許文献1参照)。また、単一の検出器を用いた簡単で安価な構成でありながら、波長の相異なる複数の2次X線の各強度を、広い波長範囲において十分な感度で測定できる波長分散型蛍光X線分析装置が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平1−180439号公報(第2頁右上欄第6行〜同頁右下欄第1行、第1図、第2図)
【特許文献2】WO 2004/086018号公報(第5頁第12行〜第7頁第12行、図1〜図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図6に示した従来装置の場合、検出器15を移動させることにより、波長検出位置の再現が難しいという問題がある。また、検出器15の移動の度に位置の微調整や波長校正が必要である。更に機構が複雑になりやすいという問題がある。図7に示す従来装置の場合、分光素子を切り替えることにより、波長検出位置の再現性が悪化しやすいという問題がある。また、分光素子を切り替える毎に位置の微調整や波長校正が必要である。更に、機構が複雑になりやすいという問題がある。また、分光素子へのX線の入射角θが小さい場合、分光素子の傾斜のズレが僅かであっても、図8に示すように、θに対する傾斜ズレの割合が大きくなるため、波長検出位置は大きくずれるという問題がある。また、波長分解能が高くなるほど、波長検出位置の再現が困難になる。
【0014】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、広い波長範囲でX線の分光を再現性よく得ることができるX線分光情報取得方法及びX線分光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)請求項1記載の発明は、試料から発生した特性X線を、互いにほぼ90°の角度で配置された2つの分光素子により分光し、該2つの分光素子からの分散光を位置敏感検出器により同時に受けて検出信号に変換し、該位置敏感検出器からの検出信号を検出データとしてメモリに記憶し、該メモリに記憶された検出データを読み出して所定の画像処理を行ない、該画像処理が行なわれたデータを受けて分光情報を表示することを特徴とする。 (2)請求項2記載の発明は、前記メモリに記憶された検出データを読み出して、各々の分光素子で分光した分散光の波形を分離して得ることを特徴とする。
【0016】
(3)請求項3記載の発明は、前記画像処理は、前記位置敏感検出器で検出した検出データをY軸方向に積算し、各積算値をX軸に投影して得られる波形をg1(x)、該検出データをX軸方向に積算し、各積算値をY軸に投影して得られた波形をg2(y)とする時、前記一方の分光素子で分光した分散光の波形をf1(x)、前記他方の分光素子で分光した分散光の波形をf2(y)とすると、それぞれのオフセット成分を、Σf2、Σf
1として、f1(x)、f2(y)を次式で求めるものであることを特徴とする。
【0017】
1(x)=g1(x)−Σf2
2(y)=g2(y)−Σf1
(4)請求項4記載の発明は、前記f1(x)にf2(y)をつなぎ合わせて一度に分光可能な波長範囲を広くするようにしたことを特徴とする。
【0018】
(5)請求項5記載の発明は、前記分光素子は円筒型又は球面型又はトロイダル型等の2次曲面型であることを特徴とする。
(6)請求項6記載の発明は、前記分光素子の形状が球面型又はトロイダル型等の円筒型以外の2次曲面型である場合、非分散方向の曲率を十分に大きくして結像面を直線とみなして分散光を求めるようにしたことを特徴とする。
【0019】
(7)請求項7記載の発明は、試料から発生した特性X線を受ける互いにほぼ90°の角度で配置された2つの分光素子と、該2つの分光素子からの分散光を同時に受けて検出信号に変換する位置敏感検出器と、該位置敏感検出器からの検出信号を検出データとして記憶するメモリと、該メモリに記憶された検出データを読み出して所定の画像処理を行なう画像処理部と、該画像処理部からの出力データを受けて分光情報を表示する表示部と、
を有することを特徴とする。
【0020】
(8)請求項8記載の発明は、前記メモリに記憶された検出データを読み出して、各々の分光素子で分光した分散光の波形を分離して得ることを特徴とする。
(9)請求項9記載の発明は、前記画像処理部は、前記位置敏感検出器で検出した検出データをY軸方向に積算し、各積算値をX軸に投影して得られる波形をg1(x)、該検出データをX軸方向に積算し、各積算値をY軸に投影して得られた波形をg2(y)とする時、前記一方の分光素子で分光した分散光の波形をf1(x)、前記他方の分光素子で分光した分散光の波形をf2(y)とすると、それぞれのオフセット成分を、Σf2、Σ
1として、f1(x)、f2(y)を次式で求めることを特徴とする。
【0021】
1(x)=g1(x)−Σf2
2(y)=g2(y)−Σf1
(10)請求項10記載の発明は、前記f1(x)にf2(y)をつなぎ合わせて波長幅の広い分光特性を得るようにしたことを特徴とする。
【0022】
(11)請求項11記載の発明は、前記分光素子は円筒型又は球面型又はトロイダル型等の2次曲面型であることを特徴とする。
(12)請求項12記載の発明は、前記分光素子の形状が球面型又はトロイダル型等の円筒型以外の2次曲面型である場合、非分散方向の曲率を十分に大きくして結像面を直線とみなして分散光を求めるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
(1)請求項1記載の発明によれば、試料から発生される特性X線を受ける互いにほぼ90°の角度に配置された2つの分光素子を用意し、これら分光素子で分光された特性X線を位置敏感検出器で検出し、検出した特性X線のデータを演算処理することで、広い波長範囲でX線の分光スペクトルを再現性よく得ることができる。
【0024】
(2)請求項2記載の発明によれば、検出された分散光の像から各々の分光素子で分光した分散光の波形を分離して得ることにより、これら2つの分散光の波形をつないで、広い波長範囲のX線の分光スペクトルを得ることができる。
【0025】
(3)請求項3記載の発明によれば、前記位置敏感検出器で検出したY軸方向に積算しX軸に投影した画像と、X軸方向に積算しY軸に投影した画像を用いて、X方向及びY方向に分離した分散光の波形を求めることができる。
【0026】
(4)請求項4記載の発明によれば、前記求めたX方向及びY方向の分散光の波形をつなぎ合わせて試料の広い波長範囲の分光特性を得ることができる。
(5)請求項5記載の発明によれば、分光素子として円筒形又は球面又はトロイダルの何れを用いても広い波長範囲の試料の分光特性を得ることができる。
【0027】
(6)請求項6記載の発明によれば、分光素子がどのような形状のものであっても、広い波長範囲の試料の分光特性を得ることができる。
(7)請求項7記載の発明によれば、試料から発生される特性X線を受ける互いにほぼ90°の角度に配置された2つの分光素子を用意し、これら分光素子の分光反射特性X線を位置敏感検出器で検出し、検出した分光反射特性X線のデータを演算処理することで、広い波長範囲でX線の分光スペクトルを再現性よく得ることができるX線分光装置を提供することができる。
【0028】
(8)請求項8記載の発明によれば、検出された分散光の像から各々の分光素子で分光した分散光の波形を分離して得ることにより、これら2つの分散光の波形をつないで、広い範囲のX線の分光スペクトルを得ることができる。
【0029】
(9)請求項9記載の発明によれば、前記位置敏感検出器で検出したY軸方向に積算しX軸に投影した画像と、X軸に積算しY軸に投影した画像を用いて、X方向及びY方向に分離した分散光の波形を求めることができる。
【0030】
(10)請求項10記載の発明によれば、前記求めたX方向及びY方向の分散光の波形をつなぎ合わせて試料の広い波長範囲の分光特性を得ることができる。
(11)請求項11記載の発明によれば、分光素子として円筒形又は球面型又はトロイダル型等2次曲面型の何れを用いても広い波長範囲の試料の分光特性を得ることができる。
【0031】
(12)請求項12記載の発明によれば、分光素子がどのような形状のものであっても、広い波長範囲の試料の分光特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態の構成概念図である。
【図2】位置敏感検出器の検出像の説明図である。
【図3】波長範囲を拡大した分光スペクトルの求め方の説明図である。
【図4】検出器で検出した分散光の像を示す図である。
【図5】X線マイクロアナライザの構成概念図である。
【図6】従来装置の第1の構成概念図である。
【図7】従来装置の第2の構成概念図である。
【図8】分光素子へのX線の入射の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態の構成概念図である。第1の実施の形態は、分光素子を2枚ほぼ90°の角度で配置し、広い波長範囲における試料の分光特性を得るようにしたものである。図1において、図6と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、12は例えば電子線を出射する光源、12aは光源12から出射された電子プローブ、13は光源12から出射された電子プローブ12aが試料11に入射することにより出力される特性X線13である。14Aと14Bとはほぼ90°の角度で配置され、特性X線13を受けて分光させる分光素子である。14Aを分光素子1、14Bを分光素子2と呼ぶ。これら分光素子は、分光波長範囲が異なるものである。
【0034】
15はこれら分光素子1,2により分光された特性X線の分散光を受けてそれに応じた電気信号(検出信号)を発生する位置敏感検出器である。該位置敏感検出器15としては、例えばCCDが好適に用いられる。該位置敏感検出器15はX方向とY方向を持つ2次元平面である。図の位置敏感検出器15は、受けたX線の分散光の様子を示すために階調を持たせている。16Aは分光素子14Aの分散光、16Bは分光素子14Bの分散光である。分散光16AはY軸にほぼ平行に現れ、分散光16BはX軸にほぼ平行に現れる。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0035】
光源12からの電子プローブ12aを試料12に照射し、該試料11から発生された特性X線を分光波長範囲の異なる2種の分光素子1,2で分光し、その分散光をCCD等の位置敏感検出器15で検出する。この場合において、バックグラウンドを低減する必要性から、位置敏感検出器15には、試料11からのX線が直接入らないようにすることが必要である。
【0036】
光源12から出射された電子プローブ12aは、試料11に照射される。この時、試料11からは特性X線13が発生する。この特性X線13は、分光素子14A,14Bに入射する。入射した特性X線13は該分光素子14A,14Bで分光され、位置敏感検出器15に到達する。該位置敏感検出器15は到達した特性X線に応じた電気信号を発生する。明るい領域は、対応する波長の特性X線が強いということであり、暗い部分は対応する波長の特性X線が弱いということである。
【0037】
分散光の検出位置とカウント数により、得られた画像情報を、波長を横軸、縦軸を強度としてプロットしていくと、試料11の原子構造に関するスペクトル(X線分光スペクトル)が得られる。
【0038】
このような動作を行ないながら、電子プローブ12aが試料11上を走査すると、試料11の全面にわたる分散光が得られる。
図1の位置敏感検出器15で検出したカウント(検出値)をY軸方向に積算し、各積算値をX軸に投影した波形をg1(x)、当該カウントをX軸方向に積算し、各積算値をY軸に投影した波形をg2(y)とする。分光素子1から得られた分散光16Aの波形をf1(x)、分光素子から得られた分散光16Bの波形をf2(y)とすると、f1(x),f2(y)はそれぞれ次式のようになる。
【0039】
1(x)=g1(x)−Σf2 (1)
2(y)=g2(y)−Σf1 (2)
ここで、Σf2,Σf1はそれぞれ分散光f1(x),f2(y)のオフセット成分(詳細後述)である。
【0040】
図2は位置敏感検出器の検出像の説明図である。30は検出像である。該検出像30は、図に示すようにx,y方向に平面画像として現れる。図中にハッチングで描いた部分は、輝度が高い部分を表している。g1(x)は図中に破線で示し、f1(x)は実線で示す。g1(x)とf1(x)の差分(オフセット分)がΣf2である。一方、g2(y)
は図中に破線で示し、f2(y)は実線で示す。g2(y)とf2(y)の差分(オフセット分)がΣf1である。Σf2とΣf1は、それぞれの方向の分光画像のオフセットと
見なせる。つまり、f1(x)は、投影画像g1(x)からオフセット分Σf2を引いた
ものとして示されている。f2(y)についても同様である。即ち、f2(y)は、投影画像g2(y)からオフセット分Σf1を引いたものとして示されている。この場合において、Σf2とΣf1は、図2に示す分光画像g1(x)、g2(y)の波形形状から差
分として求めることができる。
【0041】
このようにして求めた分光スペクトルをディスプレイ(図示せず)に表示する方法について説明する。位置敏感検出器15で、図2に示すようなg1(x)とΣf2、g2(y)とΣf1とが求まったら、画像処理装置(図示せず)は、これら画像をメモリ(図示せず)に記憶する。そして、試料11の全面にわたる分光画像が求まったら、(1)式,(2)式によりf1(x)とf2(y)を求める。
【0042】
1(x)とf2(y)が求まったら、f1(x)とf2(y)を横につないで、波長範囲を拡大した分光スペクトルを求める。図3は波長範囲を拡大した分光スペクトルの求め方の説明図である。図において、(a)は前述した分光スペクトルf1(x)、(b)は前述した分光スペクトルf2(y)である。(a)の波長範囲をW1〜W2、(b)の波長範囲をW3からW4とする。分光素子を適当に選ぶとW2とW3がほぼ同じ波長になるようにすることができ、(a)と(b)を合わせたものが(c)に示す分光スペクトルである。波長範囲がW1〜W4まで広がった分光スペクトルが得られたことになる。
【0043】
第1の実施の形態によれば、試料から反射される特性X線を受ける互いにほぼ90°の角度に配置された2つの分光素子を用意し、これら分光素子の分光反射特性X線を位置敏感検出器で検出し、検出した分光反射特性X線のデータを演算処理することで、広い波長範囲でX線の分光スペクトルを再現性よく得ることができるX線分光装置を提供することができる。
【0044】
また、検出された分散光の像から各々の分光素子で分光した分散光の波形を分離して得ることにより、これら2つの分散光の波形をつないで、広い波長範囲のX線の分光スペクトルを得ることができる。また、前記位置敏感検出器で検出したY軸方向に積算し、各積算値をX軸に投影して得られる波形と、X軸方向に積算し、各積算値をY軸に投影して得られる波形を用いて、X方向及びY方向に分離した分散光の波形を求めることができる。
【0045】
また、前記求めたX方向及びY方向の分散光の波形をつなぎ合わせて試料の広い波長範囲の分光特性を得ることができる。更に、分光素子がどのような形状のものであっても、広い波長範囲の試料の分光特性を得ることができる。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、分光素子として実施の形態1で用いた円筒型のものではなく、球面、トロイダル等の円筒型以外の分光素子を用いたものである。その構成は、図1に示すものと同じであり、分光素子が異なるだけである。図1に示すように、試料11上の光源12から出た光を分光波長範囲の異なる2種類の分光素子14A,14Bで分光し、その分散光をCCD等の位置敏感検出器15で検出するものである。この場合において、バックグラウンドを低減するため、試料11で発生するX線が直接位置敏感検出器15に入らないようにする。実施の形態2の動作を以下に説明する。
【0046】
図4に示すように、位置敏感検出器15で検出した分散光の像31を分散光32の波形のピーク(f1(x),f2(y)の極大値)の位置が直線状32’になるように平行移動し、配置し直す。ここで、分光素子14A,14Bとして球面、トロイダル等の円筒型以外の分光素子を用いると、位置敏感検出器15で検出される像は図4に示すように曲がっている。このような像のデータを一旦メモリ(図示せず)に取り込む。画像処理装置(図示せず)は、メモリに取り込んだ画像データを読み出し、曲がった図形がまっすぐになるように画像データの演算処理を行なう。この演算処理を、ここでは「平行移動し、配置し直す」と表現している。
【0047】
再配置後の分散光の像39において長方形で囲める領域37から実施の形態1と同様に、位置敏感検出器15で検出したカウント(検出データ)をY軸方向に積算し、各積算値をX軸に投影したものをg1(x)とする。
【0048】
また、同様に分散光33の波形のピーク(f1(x),f2(y)の極大値)の位置が直線33’になるように平行移動し配置し直す。再配置後の分散光の像38において長方形で囲める領域41から、X軸方向に積算し、各積算値をY軸に投影したものをg2(y)とする。
【0049】
実施の形態1と同様に、図1の分光素子14Aで分光した分散光の波形をf1(x)、分光素子14Bで分光した分散光の波形をf2(y)とすると、f1(x)、f2(y)は以下のようになる。
【0050】
1(x)=g1(x)−Σf2 (1)
2(y)=g2(y)−Σf1 (2)
ここで、Σf1,Σf2はg2(y),g1(x)のスペクトル形状から見積もる。見積
もり方法については、図2について説明した通りである。
【0051】
この場合において、第2の実施の形態によれば、分光素子として球面、トロイダル等の円筒型以外の分光素子の何れを用いても広い波長範囲の試料の分光特性を得ることができる。また、分光素子がどのような形状のものであっても、広い波長範囲の試料の分光特性を得ることができる。
【0052】
この場合において、前記分光素子の形状が球面型又はトロイダル型等の円筒型以外の2次曲面型である場合、非分散方向の曲率を十分に大きくして結像面を直線とみなして分散光を求めるようにすることができる。これによれば、分光素子がどのような形状のものであっても、広い波長範囲の試料の分光特性を得ることができる。
【0053】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、複数の分光素子の分散光(回折光)を一つの位置敏感検出器で同時に検出して、分光器の駆動部をなくすことにより、波長再現性を向上させることができる。また、同時に複数の分光素子の分散光(回折光)を検出可能なため、複数の分光素子にまたがる広い波長範囲の測定時間の短縮ができる。更に、検出器を一つにすることにより、分光器の小型化や取り付けスペースを小さくすることができる。
【符号の説明】
【0054】
11 試料
12 光源
13 特性X線
14A 分光素子1
14B 分光素子2
15 位置敏感検出器
16A 分光素子1の分散光
16B 分光素子2の分散光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から発生した特性X線を、互いにほぼ90°の角度で配置された2つの分光素子により分光し、
該2つの分光素子からの分散光を位置敏感検出器により同時に受けて検出信号に変換し、
該位置敏感検出器からの検出信号を検出データとしてメモリに記憶し、
該メモリに記憶された検出データを読み出して所定の画像処理を行ない、
該画像処理が行なわれたデータを受けて分光情報を表示する
ことを特徴とするX線分光情報取得方法。
【請求項2】
前記メモリに記憶された検出データを読み出して、各々の分光素子で分光した分散光の波形を分離して得ることを特徴とする請求項1記載のX線分光情報取得方法。
【請求項3】
前記画像処理は、前記位置敏感検出器で検出した検出データをY軸方向に積算し、各積算値をX軸に投影して得られる波形をg1(x)、該検出データをX軸方向に積算し、各積算値をY軸に投影して得られた波形をg2(y)とする時、前記一方の分光素子で分光した分散光の波形をf1(x)、前記他方の分光素子で分光した分散光の波形をf2(y)とすると、それぞれのオフセット成分を、Σf2、Σf1として、f1(x)、f2
y)を次式で求めるものであることを特徴とする請求項1記載のX線分光情報取得方法。
1(x)=g1(x)−Σf2
2(y)=g2(y)−Σf1
【請求項4】
前記f1(x)にf2(y)をつなぎ合わせて一度に分光可能な波長範囲を広くするようにしたことを特徴とする請求項3記載のX線分光情報取得方法。
【請求項5】
前記分光素子は円筒型又は球面型又はトロイダル型等の2次曲面型であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のX線分光情報取得方法。
【請求項6】
前記分光素子の形状が球面型又はトロイダル型等の円筒型以外の2次曲面型である場合、非分散方向の曲率を十分に大きくして結像面を直線とみなして分散光を求めるようにしたことを特徴とする請求項5記載のX線分光情報取得方法。
【請求項7】
試料から発生した特性X線を受ける互いにほぼ90°の角度で配置された2つの分光素子と、
該2つの分光素子からの分散光を同時に受けて検出信号に変換する位置敏感検出器と、
該位置敏感検出器からの検出信号を検出データとして記憶するメモリと、
該メモリに記憶された検出データを読み出して所定の画像処理を行なう画像処理部と、
該画像処理部からの出力データを受けて分光情報を表示する表示部と、
を有することを特徴とするX線分光装置。
【請求項8】
前記メモリに記憶された検出データを読み出して、各々の分光素子で分光した分散光の波形を分離して得ることを特徴とする請求項7記載のX線分光装置。
【請求項9】
前記画像処理部は、前記位置敏感検出器で検出した検出データをY軸方向に積算し、各積算値をX軸に投影して得られる波形をg1(x)、該検出データをX軸方向に積算し、各積算値をY軸に投影して得られた波形をg2(y)とする時、前記一方の分光素子で分光した分散光の波形をf1(x)、前記他方の分光素子で分光した分散光の波形をf2(y)とすると、それぞれのオフセット成分を、Σf2、Σf1として、f1(x)、f2
(y)を次式で求めることを特徴とする請求項7記載のX線分光装置。
1(x)=g1(x)−Σf2
2(y)=g2(y)−Σf1
【請求項10】
前記f1(x)にf2(y)をつなぎ合わせて波長幅の広い分光特性を得るようにしたことを特徴とする請求項9記載のX線分光装置。
【請求項11】
前記分光素子は円筒型又は球面型又はトロイダル型等の2次曲面型であることを特徴とする請求項7乃至10の何れか1項に記載のX線分光装置。
【請求項12】
前記分光素子の形状が球面型又はトロイダル型等の円筒型以外の2次曲面型である場合、非分散方向の曲率を十分に大きくして結像面を直線とみなして分散光を求めるようにしたことを特徴とする請求項11記載のX線分光装置。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate

【図1】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−160094(P2010−160094A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3340(P2009−3340)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】