説明

アクリルゴム、アクリルゴム組成物およびアクリルゴム架橋物

【課題】 耐寒性を損なわずに、長期熱老化後の伸び変化率の小さいアクリルゴム架橋物を与えるアクリルゴム及びアクリルゴム組成物を提供すること。
【解決手段】 メタクリル酸アルキルエステル単位(A)2〜8重量%、アクリル酸アルキルエステル単位(B)及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位(C)87〜97.5重量%、並びに、カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位(D)0.5〜5重量%からなるアクリルゴムが提供される。また、前記アクリルゴムに架橋剤を含有してなるアクリルゴム組成物、およびそれを架橋してなるアクリルゴム架橋物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐寒性を損なわずに、長期熱老化後の伸び変化率の小さいアクリルゴム架橋物を与えるアクリルゴム及びアクリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸アルキルエステルまたはこれとアクリル酸アルコキシアルキルエステルを重合して得られるアクリルゴムは、使用環境に準じた耐寒性を有し、耐油性、特に高温下での耐油性に優れ、かつ、耐熱性が良好なゴムとして知られている。そのためアクリルゴムは、自動車用のホース、オイルシール、Oリングや装置・機械内蔵コンベアベルト等として需要が増大している。しかしながら、近時、自動車、装置・機械等のさらなる高性能化、メンテナンスフリー化が要求されるようになり、これに伴ってゴム部品の耐熱性の向上、例えば、長期間高温下に置いても物性低下が小さいこと、殊に伸び変化率が小さいことが求められようになった。
このような状況にあって対して特許文献1は、アクリル酸アルキルエステル単位及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位と、特定割合のマレイン酸モノアルキルエステル単位及び/またはマレイン酸モノアルコキシアルキルエステル単位とからなるアクリルゴムと脂肪族モノアミンとを含有するアクリルゴム組成物を開示している。また、特許文献2は、カルボキシル基含有アクリルゴムに、グアニジン化合物、ジアミン化合物、ヒドロキノン系老化防止剤を配合してなるアクリルゴム組成物を提案している。しかしながら、これらのアクリルゴム組成物からなるゴム架橋物は、圧縮永久歪が小さく、耐熱性は比較的良好であるものの、長期間の熱老化により、伸びが大きく低下しまう問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2002−317091号公報
【特許文献2】特開2004−175841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、アクリルゴムは、アクリル酸アルキルエステル単位及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位を主構成単位としており、アクリルゴムを構成する各単量体単位の割合を調節することにより、アクリルゴムの物性を調整している。本発明者らの検討によれば、アクリルゴムを構成する各単量体単位の割合を調節して、耐熱性を改善しようとすると、耐寒性が低下する傾向にあり、かつ、耐熱性の改善効果も十分なものではなかった。
従って、本発明の目的は、耐寒性を損なわずに、耐熱性、特に長期熱老化後の伸び変化率の小さいアクリルゴム架橋物を与えるアクリルゴムおよびアクリルゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究した結果、メタクリル酸アルキルエステル単位と、アクリル酸アルキルエステル単位及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位、並びにカルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位がそれぞれ特定割合からなるアクリルゴムと架橋剤とを含有してなるアクリルゴム組成物により上記の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに到った。
かくして本発明によれば、メタクリル酸アルキルエステル単位(A)2〜8重量%、アクリル酸アルキルエステル単位(B)及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位(C)87〜97.5重量%、並びに、カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位(D)0.5〜5重量%からなるアクリルゴムが提供される。
また、本発明によれば、上記のアクリルゴムに架橋剤を含有してなるアクリルゴム組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、上記のアクリルゴム組成物を架橋してなるアクリルゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐寒性を損なわずに、耐熱性、特に長期熱老化後の伸び変化率の小さいアクリルゴム架橋物を与えるアクリルゴムおよびアクリルゴム組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のアクリルゴムは、メタクリル酸アルキルエステル単位(A)2〜8重量%、アクリル酸アルキルエステル単位(B)及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位(C)87〜97.5重量%、並びに、カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位(D)0.5〜5重量%からなるものである。
【0008】
本発明のアクリルゴムは、通常、メタクリル酸アルキルエステル(a)、アクリル酸アルキルエステル(b)及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル(c)、並びにカルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体(d)からなる単量体混合物を共重合して得られるものである。
【0009】
本発明で用いるメタクリル酸アルキルエステル(a)のアルキル基を構成する炭素数は、特に限定されないが、その炭素数は1〜4の範囲にあることが好ましい。アルキル基を構成する炭素数が多すぎると、熱老化後の伸び変化率が大きくなる傾向がある。メタクリル酸アルキルエステル(a)の例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどが挙げられる。これらは1種でも、または複数種組み合わせて用いても良い。なかでもメタクリル酸メチルが好ましい。
【0010】
本発明で用いるアクリル酸アルキルエステル(b)のアルキル基を構成する炭素数は、特に限定されないが、その炭素数は1〜12の範囲にあることが好ましい。アルキル基を構成する炭素数が多すぎると、耐油性を低下させる傾向がある。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜8である。
アクリル酸アルキルエステル(b)の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸2−メチルペンチル、アクリル酸2−プロピルペンチル、アクリル酸3−エチルペンチル、アクリル酸3−プロピルペンチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸3−プロピルヘキシル、アクリル酸n−ヘプチル、アクリル酸2−メチルヘプチル、アクリル酸3−エチルヘプチル、アクリル酸4−メチルヘプチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−メチルオクチル、アクリル酸3−エチルオクチル、アクリル酸4−メチルオクチルなどが挙げられる。これらは1種でも、または複数組み合わせて用いても良い。なかでも、アクリル酸エチルおよびアクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0011】
本発明で用いるアクリル酸アルコキシアルキルエステル(c)を構成するアルコキシアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、その炭素数は2〜12の範囲にあることが好ましい。アルコキシアルキル基の炭素数が多すぎると耐油性を低下させる傾向にある。該アルコキシアルキル基の炭素数は、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜8であり、そのアルキレン基の炭素数は好ましくは1〜6、より好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜4である。
アクリル酸アルコキシアルキルエステル(c)の具体例としては、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸1−エトキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸1−メトキシプロピル、アクリル酸2−エトキシプロピル、アクリル酸1−メトキシブチル、アクリル酸2−イソブトキシブチル、アクリル酸1−エトキシペンチル、アクリル酸2−メトキシペンチル、アクリル酸3−プロポキシペンチル、アクリル酸1−プロポキシヘキシル、アクリル酸2−エトキシヘキシル、アクリル酸3−メトキシヘキシルなどが挙げられる。これらは1種でも、または複数種組み合わせて用いても良い。なかでもアクリル酸2−メトキシエチルが好ましい。
【0012】
本発明で用いるカルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体(d)は、前記の単量体と共重合可能で、アクリルゴムにカルボキシ基を導入できるものであれば特に限定されない。
【0013】
カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体(d)としては、α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸、α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物、α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステルなどが挙げられる。
α、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などが挙げられる。
α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステルとしては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニルなどのブテンジオン酸モノエステル;イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノエステル;などが挙げられる。
これらは1種でも、または複数種組み合わせて用いても良い。
なかでも、圧縮永久歪が小さいゴム架橋物が得られる点で、α、β−エチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステルが好ましく、ブテンジオン酸モノエステルがより好ましく、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノシクロヘキシルおよびマレイン酸モノシクロヘキシルが特に好ましい。
【0014】
本発明のアクリルゴム中のカルボキシル基含有量は、ゴム100g当たり、好ましくは5×10−4〜4×10−1当量、より好ましくは2×10−3〜2×10−1当量、特に好ましくは4×10−3〜1×10−1当量である。カルボキシル基含有量が上記範囲であると、架橋により十分な引張強度と伸びを有するゴム架橋物が得られる。
【0015】
本発明のアクリルゴムは、本発明の目的を本質的に損なわない限り、上記の単量体と共重合可能な他の単量体の単位(「他の単量体単位」ということがある。)を含有していてもよい。
このような共重合可能な他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体;エチレングリコールの(メタ)アクリル酸ジエステル、プロピレングリコールの(メタ)アクリル酸ジエステルなどの(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有する単量体(多官能アクリル単量体);3,4−エポキシ−1−ブテン、1.2−エポキシ−3−ペンテン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエン、(メタ)アクリル酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、ヘプテン−4−グリシジル、リノレン酸グリシジル、3−シクロヘキセンカルボン酸、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルギリシジルエーテル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、アクリル酸2−クロルエチル、2−クロルエチルビニルエーテル、、塩化酢酸ビニル、塩化酢酸アリル、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。これらの単量体は、1種でも、または複数種組み合わせて用いても良い。
本発明のアクリルゴム中の他の単量体単位の含有量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下であり、他の単量体単位を含有しないことが特に好ましい。
【0016】
本発明のアクリルゴムは、メタクリル酸アルキルエステル単位(A)2〜8重量%、好ましくは3〜8重量%、アクリル酸アルキルエステル単位(B)及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位(C)87〜97.5重量%、好ましくは88〜96.5重量%、より好ましくは89〜96重量%、並びに、カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位(D)0.5〜5重量%、好ましくは0.8〜4重量%、より好ましくは1〜3重量%からなる。
【0017】
メタクリル酸アルキルエステル単位(A)が少ないと、ゴム架橋物の熱老化後の伸び変化率が大きくなり、逆に多すぎると耐寒性が低下したり、熱老化後の引張強度変化率が大きくなったりする不具合が生じる。
カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位(D)が少ないと、架橋密度が高くならず、引張強度や圧縮永久歪に劣るゴム架橋物となり、実用的でない。逆にその含有量が多いと、架橋密度が高くなりすぎて、伸びに劣るゴム架橋物となり、実用的でない。
アクリル酸アルキルエステル単位(B)及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位(C)が少ないと、ゴム架橋物の熱老化後の伸び変化率が大きくなる。逆にその含有量が多いと、メタクリル酸アルキルエステル単位(A)及び/又はカルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位(D)の含有量がその範囲を外れる。
【0018】
本発明のアクリルゴムにおいては、熱老化後の伸び変化率をより小さくために、アクリル酸アルコキシアルキルエステル単位(C)を含有させないことが好ましい。
その場合、本発明のアクリルゴムは、メタクリル酸アルキルエステル単位(A)2〜8重量%、好ましくは3〜8重量%、アクリル酸アルキルエステル単位(B)87〜97.5重量%、好ましくは88〜96.5重量%、より好ましくは89〜96重量%、並びに、カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位(D)0.5〜5重量%、好ましくは0.8〜4重量%、より好ましくは1〜3重量%からなる。
上記の場合、アクリル酸アルキルエステル単位(B)は、アクリル酸エチル単位とアクリル酸n−ブチル単位とから構成されることが好ましく、その比率は、アクリル酸エチル単位/アクリル酸n−ブチル単位の重量比で、10/90〜90/10が好ましく、30/70〜70/30がより好ましい。上記範囲であれば、耐寒性と耐油性とのバランスに優れるアクリルゴムとなる。
【0019】
本発明のアクリルゴムは、メタクリル酸アルキルエステル(a)、アクリル酸アルキルエステル(b)及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル(c)、カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体(d)、並びに、必要に応じて加えられるこれらと共重合可能な他の単量体からなる単量体混合物を、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合などの従来公知の方法を採用して製造することができる。なかでも、重合反応の制御の容易性等から、常圧下での乳化重合法が好ましく採用できる。
上記の単量体は必ずしも反応の当初から全種、全量が反応の場に供給されていなくても良く、共重合反応性比、反応転化率などを考慮して反応時間の全体にわたって連続的または断続的に添加され、または、途中ないし後半に一括もしくは分割で導入されても良い。
【0020】
重合反応における上記各単量体の仕込み割合は、各単量体の反応性によって調整する必要があるが、ほぼ定量的に重合反応が進行するため、取得したいアクリルゴムの単量体単位組成に合わせればよい。
【0021】
本発明のアクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜90、より好ましくは15〜80、特に好ましくは20〜70である。ムーニー粘度が小さすぎると、アクリルゴム組成物の形状保持性が低下することによって成形加工性が低下したり、ゴム架橋物の引張強度が低下したりするおそれがある。一方、ムーニー粘度が大きすぎると、アクリルゴム組成物の流動性が低下することによって成形加工性が低下する可能性がある。
【0022】
本発明のアクリルゴム組成物は、上記のアクリルゴムに架橋剤を含有してなるものである。
架橋剤としては、アクリルゴム中の架橋点として作用するカルボキシル基と反応して架橋構造を形成するものであれば限定されない。このカルボキシル基用架橋剤としては、多価アミン化合物、多価ヒドラジド化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、アジリジン化合物などが挙げられる。
【0023】
多価アミン化合物は、炭素数4〜30のものが好ましい。このような多価アミン化合物としては、たとえば、脂肪族多価アミン化合物、芳香族多価アミン化合物などが挙げられ、グアニジン化合物のように非共役の窒素−炭素二重結合を有するものは含まれない。
脂肪族多価アミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメ−ト、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミンなどが挙げられる。これらは1種でも、または複数種組み合わせて用いても良い。
芳香族多価アミン化合物としては、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3,5−ベンゼントリアミンなどが挙げられる。これらは1種でも、または複数種組み合わせて用いても良い。
【0024】
多価ヒドラジド化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、ナフタル酸ジヒドラジド、アセトンジカルボン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、トリメリット酸ジヒドラジド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸ジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジド、アコニット酸ジヒドラジドなどが挙げられる。これらは1種でも、または複数種組み合わせて用いても良い。
【0025】
多価エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物、臭素化ビスフェノールF型エポキシ化合物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物などのグリシジルエーテル型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物などのその他の多価エポキシ化合物;などの分子内に2以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられ、これらは1種でも、または複数種組み合わせて用いても良い。
【0026】
イソシアナート化合物としては、炭素数6〜24のジイソシアナート類及びトリイソシアナート類が好ましい。ジイソシアナート類の具体例としては、2,4−トリレンジイソシアナート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアナート(2,6−TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナート、m−フェニレンジイソシアナート、1,5−ナフチレンジイソシアナートなどが挙げられる。トリイソシアナート類の具体例としては、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアナート、1,6,11−ウンデカントリイソシアナート、ビシクロヘプタントリイソシアナートなどが挙げられる。これらは1種、又は2種以上併せて使用することができる。
【0027】
アジリジン化合物としては、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、トリス〔1−(2−メチル)アジリジニル〕ホスフィノキシド、ヘキサ〔1−(2−メチル)アジリジニル〕トリホスファトリアジンなどが挙げられ、これらを1種、又は2種以上併せて使用することができる。
【0028】
カルボキシル基用架橋剤のなかでは、圧縮永久歪が小さいゴム架橋物が得られる点で、多価アミン化合物及び多価ヒドラジド化合物が好ましく、多価アミン化合物がより好ましく、脂肪族ジアミン及び芳香族ジアミンが特に好ましく使用できる。脂肪族ジアミンの中ではヘキサメチレンジアミンカーバメ−トが好ましく、芳香族ジアミンの中では、2,2’−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンが好ましい。
【0029】
本発明のゴム組成物における架橋剤の含有量は、アクリルゴム100重量部に対し、好ましくは0.05〜20重量部、より好ましくは0.1〜10重量部、特に好ましくは0.2〜7重量部である。架橋剤の含有量が少なすぎると架橋が不十分となり、ゴム架橋物の形状維持が困難になるおそれがある。一方、多すぎるとゴム架橋物が硬くなりすぎ、弾性が損なわれる可能性がある。
【0030】
本発明のアクリルゴム組成物は、その他必要に応じて架橋促進剤、加工助剤、老化防止剤、光安定剤、可塑剤、補強剤(例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウムなど)、滑剤、シランカップリング剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤などの添加剤を含有してもよい。
【0031】
架橋促進剤としては、特に限定されないが、特に架橋剤として多価アミンを使用した場合において、この多価アミン化合物と組み合わせて用いられる架橋促進剤として、水中、25℃での塩基解離定数が10−12〜10であるものが好ましい。上記の架橋促進剤を、多価アミン化合物と組み合わせることにより、適切な架橋速度に調整でき、かつゴム架橋物の物性バランスを最適に調整することができる。
このような架橋促進剤としては、たとえば、脂肪族一価二級アミン化合物、脂肪族一価三級アミン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物などが挙げられる。
【0032】
脂肪族一価二級アミン化合物は、脂肪族炭化水素基の炭素数が好ましくは1〜30、より好ましくは8〜20のものである。具体的には、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジアリルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジセチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジオクタデシルアミン、ジ−シス−9−オクタデセニルアミン、ジノナデシルアミンなどが例示される。これらの中でも、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジセチルアミン、ジオクタデシルアミン、ジ−シス−9−オクタデセニルアミン、ジノナデシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどが好ましい。
【0033】
脂肪族一価三級アミン化合物は、アンモニアの三つの水素原子と置換する脂肪族炭化水素基の炭素数が、好ましくは1〜30、より好ましくは1〜22のものである。具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリアリルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−t−ブチルアミン、トリ−sec−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミン、トリトリデシルアミン、トリテトラデシルアミン、トリペンタデシルアミン、トリセチルアミン、トリ−2−エチルヘキシルアミン、トリオクタデシルアミン、トリ−シス−9−オクタデセニルアミン、トリノナデシルアミン、N,N−ジメチルデシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルテトラデシルアミン、N,N−ジメチルセチルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミン、N,N−ジメチルベヘニルアミン、N−メチルジデシルアミン、N−メチルジドデシルアミン、N−メチルジテトラデシルアミン、N−メチルジセチルアミン、N−メチルジオクタデシルアミン、N−メチルジベヘニルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミンなどが例示される。これらの中でも、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルテトラデシルアミン、N,N−ジメチルセチルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミン、N,N−ジメチルベヘニルアミンなどが好ましい。
【0034】
グアニジン化合物としては、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジンなどが挙げられる。
イミダゾール化合物としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどが挙げられる。
【0035】
架橋促進剤の使用量は、アクリルゴム100重量部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.2〜15重量部、特に好ましくは0.3〜10重量部である。架橋促進剤が多すぎると、架橋時に架橋速度が早くなりすぎたり、架橋物表面ヘの架橋促進剤のブルームが生じたり、架橋物が硬くなりすぎたりするおそれがある。架橋促進剤が少なすぎると、架橋物の引張強度が著しく低下したり、熱負荷後の伸びや引張強度の変化が大きすぎたりする可能性がある。
【0036】
また、本発明のゴム組成物には、必要に応じて、本発明のアクリルゴム以外のゴム、エラストマー、樹脂などの重合体を配合してもよい。
エラストマーとしては、たとえば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリシロキサン系エラストマーなどが挙げられる。
樹脂としては、たとえば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドなどが挙げられる。
【0037】
本発明のゴム組成物を調製する方法としては、ロール混合、バンバリー混合、スクリュー混合、溶液混合などの混合方法が適宜採用できる。配合順序は特に限定されないが、熱で反応や分解を起こしにくい成分を充分に混合した後、熱で反応しやすい成分あるいは分解しやすい成分(たとえば、架橋剤、架橋促進剤など)を、反応や分解が起こらない温度で短時間で混合すればよい。
【0038】
本発明のアクリルゴム架橋物は、前記のアクリルゴム組成物を架橋してなる。
架橋は、通常、アクリルゴム組成物を加熱することにより行われる。架橋条件は、架橋温度が、好ましくは130〜220℃、より好ましくは140℃〜200℃で、架橋時間は、好ましくは30秒間〜2時間、より好ましくは1分間〜1時間である。この第1段階の架橋を一次架橋ということもある。
所望の形状のアクリルゴム架橋物を得るための成形方法としては、押出成形、射出成形、トランスファー成形、圧縮成形などの従来公知の成形法を採用できる。当然、成形と同時に加熱し、架橋することもできる。
押出成形には、一般的なゴムの加工手順を採用することができる。すなわち、ロール混合などによって調製したゴム組成物を、押出機のフィード口に供給し、スクリューでヘッド部に送る過程でバレルからの加熱により軟化させ、ヘッド部に設けた所定形状のダイスに通すことにより、目的の断面形状を有する長尺の押出成形品(板、棒、パイプ、ホース、異形品など)を得る。
射出成形、トランスファー成形及び圧縮成形では、製品1個分の又は数個分の形状を有する金型のキャビティに本発明のアクリルゴム組成物を充填して賦形することができる。この金型を加熱することにより、賦形と架橋をほぼ同時に行うことができる。
さらに、前記の一次架橋に加えて、必要に応じて、このゴム架橋物を電気、熱風、蒸気などを熱源とするオーブンなどで130℃〜220℃、より好ましくは140℃〜200℃で1〜48時間加熱して二次架橋することもできる。
【0039】
本発明のアクリルゴム架橋物は、引張強さ、伸び、硬さなどの、アクリルゴムとしての基本特性を保持する他、長期熱老化後の物性低下が小さく、殊に伸びの変化率が小さい。そのため本発明のアクリルゴム架橋物は、例えば、自動車等の輸送機械、一般機器、電気機器等の幅広い分野におけるO−リング、ガスケット、オイルシール、ベアリングシール等のシール材;工業用ベルト類;緩衝材、防振材;電線被覆材;チューブ・ホース類;シート類;等として好適に使用される。
【実施例】
【0040】
以下に製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。これらの例中の(部)は、特に断わりのない限り重量基準である。ただし本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、試験、評価は以下の方法によった。
【0041】
(1)ムーニー粘度(ML1+4、100℃)
JIS K6300の未架橋ゴム物理試験法のムーニー粘度試験に従って、測定温度100℃におけるアクリルゴムのムーニー粘度を測定した。
(2)共重合体組成
プロトン−NMRを用いて組成比を求めた。
【0042】
(3)常態物性
アクリルゴム組成物を170℃、20分間の圧縮成形によって成形及び一次架橋し、縦15cm、横15cm、厚さ2mmのシートを作製し、さらに170℃の電気オーブンに4時間放置して二次架橋してシート状の架橋物を得た。次いで、このシート状の架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて作製した試験片を用いて常温でJIS K6251に従って引張強さ(MPa)および伸び(%)を、また、JIS K6253に従って硬さをそれぞれ測定した。
【0043】
(4)熱老化試験(耐熱性)
上記(3)と同様に行って得た試験片を、温度175℃の環境下に1,000時間置いて空気加熱による老化を行いった後、(3)と同様にして引張強さ(MPa)および伸び(%)を測定した。
耐熱性を評価するに際し、引張強さおよび伸びの常態物性の測定値に対する熱老化後の測定値の変化率(百分率)を求めた。熱老化後の引張強さおよび伸びの絶対値は一般に小さくなるが、変化率の絶対値が0に近いほど耐熱性に優れる。
【0044】
(5)低温ねじり試験(耐寒性)
JIS K 6261に従い、ゲーマンねじり試験により評価し、室温時(23℃)のモジュラスに対する比モジュラスが10倍になる時の温度(T10)で示す。T10の温度が低いほど耐寒性に優れる。
【0045】
(実施例1)
(アクリルゴムAの製造)
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び減圧装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部、アクリル酸エチル52部、アクリル酸n−ブチル25部、アクリル酸2−メトキシエチル20部、メタクリル酸メチル1部およびフマル酸モノ-n-ブチル2部を仕込み、減圧による脱気および窒素置換を3回くり返して酸素を十分除去した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.002部およびクメンハイドロパーオキシド0.005部を加えて常圧、常温下で乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続した。得られた乳化重合液を塩化カルシウム水溶液で凝固させ、水洗、乾燥してアクリルゴムAを得た。得られたアクリルゴムAの組成とムーニー粘度(ML1+4、100℃)を表1に示す。
【0046】
(アクリルゴム組成物およびゴム架橋物)
アクリルゴムA100部、FEFカーボンブラック60部、ステアリン酸2部および4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(老化防止剤)2部を50℃にてバンバリーミキサで混練し、その後、ヘキサメチレンジアミンカーバメイト(脂肪族ジアミン架橋剤)0.5部、オクタデシルアミン(スコーチ防止剤)0.3部およびジ−o−トリルグアニジン(架橋促進剤)2部を加えて40℃にてオープンロールで混練して、架橋性アクリルゴム組成物を調製した。調製した架橋性アクリルゴム組成物を用いて上記各試験用試験片を作製し、常態物性(引張強度、伸び、硬さ)、低温ねじり試験(耐寒性)、および熱老化後の引張強度及び伸びの変化率(耐熱性)を測定した結果を表1に示す。
【0047】
(実施例2〜5、比較例1〜2)
実施例1において、各単量体の仕込みを表1に記す部数に変更した他は実施例1と同様に反応を行ってアクリルゴムB〜Gを得た。アクリルゴムB〜Gの組成及びムーニー粘度(ML1+4、100℃)を表1に示す。
アクリルゴムAに代えて、アクリルゴムB〜Gを用いる以外は、実施例1と同様に、それぞれ、アクリルゴム組成物およびアクリルゴム架橋物を得た。それぞれのアクリルゴム架橋物の常態物性(引張強度、伸び、硬さ)、低温ねじり試験(耐寒性)、および熱老化後の引張強度及び伸びの変化率(耐熱性)を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1が示すように、メタクリル酸アルキルエステルを用いない比較例1のゴム架橋物の熱劣化後の伸び変化率は大きい。また、メタクリル酸アルキルエステルを本発明で規定する範囲を超えて含有する比較例2のゴム架橋物は、熱劣化後の伸び変化率が改善されるものの、熱劣化後の引張強度変化率を大きくなる。
これらの比較例に比べ、本発明のアクリルゴム架橋物は、耐寒性を損なうことなく、熱劣化後の伸び変化率が向上していることがわかる(実施例1〜5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸アルキルエステル単位(A)2〜8重量%、アクリル酸アルキルエステル単位(B)及び/又はアクリル酸アルコキシアルキルエステル単位(C)87〜97.5重量%、並びに、カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位(D)0.5〜5重量%からなるアクリルゴム。
【請求項2】
メタクリル酸アルキルエステル単位(A)が、炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単位である請求項1記載のアクリルゴム。
【請求項3】
メタクリル酸アルキルエステル単位(A)が、メタクリル酸メチル単位である請求項1記載のアクリルゴム。
【請求項4】
カルボキシ基含有α、β−エチレン性不飽和単量体単位(D)が、ブテンジオン酸モノエステル単位である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリルゴム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリルゴムに架橋剤を含有してなるアクリルゴム組成物。
【請求項6】
架橋剤が、多価アミン化合物である請求項5記載のアクリルゴム組成物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のアクリルゴム組成物を架橋してなるアクリルゴム架橋物。

【公開番号】特開2008−214418(P2008−214418A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51156(P2007−51156)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】