説明

アルミニウムキレート系潜在性硬化剤

【課題】ジビニルベンゼン等のラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを共存下で多官能イソシアネートの乳化・界面重合により製造したアルミニウムキレート系潜在性硬化剤よりも、グリシジルエーテル型エポキシ化合物をより低温速硬化できる新規なアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を提供する。
【解決手段】コアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物とが、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルに内包されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルにアルミニウムキレート系硬化剤が内包されているコアシェル型のマイクロカプセル型アルミニウムキレート系潜在性硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂に対する低温速硬化活性を示す硬化剤として、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂にアルミニウムキレート剤を保持したマイクロカプセル化アルミニウムキレート系潜在性硬化剤が提案されている(特許文献1)。
【0003】
ところで、エポキシ化合物とそれを硬化させるための特許文献1に開示されたようなアルミニウムキレート系潜在性硬化剤とを配合した熱硬化型エポキシ樹脂組成物の場合、硬化剤の活性化のために、シランカップリング剤由来のシラノレートアニオンの存在が必要となるが、シラノレートアニオンがエポキシ化合物のエポキシ基のβ位炭素に付加して重合停止反応が生じるという問題があるため、β炭素付加反応が生じやすいグリシジルエーテル系エポキシ化合物を重合停止反応を生じさせることなく重合させることが困難であり、そのため、製造コストが高いが、シラノレートアニオンによるβ位炭素へ付加反応が生じにくい脂環式エポキシ化合物を使用せざるを得ないという問題がある。
【0004】
このため、特許文献1に開示されているようなアルミニウムキレート系潜在性硬化剤でグリシジルエーテル系エポキシ化合物を低温速硬化できるようにするために、熱硬化型エポキシ樹脂組成物において、シランカップリング剤として従来においては使用されていない、特定の化学構造を有する高立体障害性のシラノール化合物をアルミニウムキレート系潜在性硬化剤と併用し、更に、多官能イソシアネート化合物を界面重合させる際に、ジビニルベンゼン等のラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤とを共存させて共重合させることにより多孔質型のマイクロカプセルの機械的性質を改善し、エポキシ化合物の硬化時の熱応答速度を増大させることが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−70051号公報
【特許文献2】特開2009−197206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたような多孔質型のマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を配合した特許文献2の熱硬化型エポキシ樹脂組成物の場合、その低温速硬化性が用途によっては十分とは言えず、低温速硬化性を更に向上させることが求められていた。また、潜在性硬化剤を製造する際の乳化・界面重合反応時に、ジビニルベンゼン等のラジカル重合性モノマーのラジカル重合反応が並行して生ずるため、未反応のラジカル重合性モノマーが多孔質マイクロカプセルに残存する場合がある。そのような未反応ラジカル重合性モノマーが不純物として残存することは、硬化物の性能に影響を及ぼしかねない。
【0007】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、ジビニルベンゼン等のラジカル重合性モノマーとラジカル重合開始剤の共存下で多官能イソシアネートの乳化・界面重合により製造したアルミニウムキレート系潜在性硬化剤よりも、グリシジル型エポキシ化合物をより低温速硬化できる新規なアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、アルミニウムキレート系硬化剤を、多孔質型にマイクロカプセル化するのではなく、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルにアルミニウムキレート系硬化剤をカチオン重合性化合物と共に内包させ、コアシェル型にマイクロカプセル化することにより、上述の目的が達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、コアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤であって、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物とが、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルに内包されているアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を提供する。
【0010】
また、本発明は、上述のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造方法であって、多官能イソシアネートとカチオン重合性化合物とを揮発性有機溶媒に溶解させた油相を、水と分散剤と界面活性剤とを含有する水相に乳化させ、その乳化状態を維持しながら多官能イソシアネートを界面重合させ、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物とを、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルに内包させることを特徴とする製造方法を提供する。
【0011】
更に、本発明は、上述のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤と、グリシジルエーテル型エポキシ化合物と、式(A)で表されるシラノール化合物とを含有することを特徴とする熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0012】
【化1】

【0013】
式(A)中、mは2又は3であり、但しmとnとの和は4である。Arは、置換されてもよいアリール基である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート系硬化剤をカチオン重合性化合物とともに、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルに内包させたコアシェル型のマイクロカプセルである。マイクロカプセル内には、シラノール化合物が存在しないため、アルミニウム系硬化剤とカチオン重合性化合物とは反応しない。また、本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤に、シラノール化合物とグリシジル型エポキシ化合物とを混合して得た熱硬化性エポキシ樹脂組成物の場合、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤のマイクロカプセル壁が圧力あるいは熱により破壊されると、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物とがシラノール化合物と反応して生成した活性種がグリシジルエーテル型エポキシ化合物をカチオン重合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例2のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例2のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤のパージトラッップGC/MSチャートである。
【図4】実施例1、実施例2及び比較例1の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSCチャートである。
【図5】実施例3のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例3のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例3のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤のパージトラッップGC/MSチャートである。
【図8】実施例2及び実施例3の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSCチャートである。
【図9】実施例4のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例4のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例3、実施例4及び実施例5の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSCチャートである。
【図12】実施例3及び実施例6の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSCチャートである。
【図13】実施例2、実施例3、実施例7及び比較例2の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSCチャートである。
【図14】実施例3、比較例3及び4の熱硬化型エポキシ樹脂組成物のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物とが、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルに内包されているものである。このため、シェル層の厚みを調整することにより、硬化温度のコントロールが容易になる。また、シェルの破壊を伴う感圧接着剤への応用が期待できる。
【0017】
このアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、乳化・界面重合法を利用して製造されるため、その形状は球状であり、その粒子径は硬化性及び分散性の点から、好ましくは0.1〜50μmであり、より好ましくは0.1〜10μmである。
【0018】
また、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、多官能性イソシアネートの界面重合物からなるカプセル壁の架橋度が小さすぎるとその潜在性が低下し、大きすぎるとその熱応答性が低下する傾向があるので、使用目的に応じてその架橋度を調整することが好ましい。ここで、カプセル壁の架橋度は、微少圧縮試験により計測することができる。
【0019】
アルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、その界面重合時に使用する有機溶剤を実質的に含有していないこと、具体的には、1ppm以下であることが、硬化安定性の点で好ましい。
【0020】
<アルミニウムキレート系硬化剤>
本発明のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤のコアを構成するアルミニウムキレート系硬化剤としては、式(1)に表される、3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。
【0021】
【化2】

【0022】
ここで、R、R及びRは、それぞれ独立的にアルキル基又はアルコキシル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基等が挙げられる。
【0023】
式(1)で表されるアルミニウムキレート剤の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0024】
<カチオン重合性化合物>
また、アルミニウムキレート系硬化剤とともにマイクロカプセルに内包されるカチオン重合性化合物は、マイクロカプセルが破壊された際に、外部のシラノール化合物により活性化され、アルミニウムキレート系硬化剤により素早くカチオン重合するものである。従って、このようなカチオン重合性化合物をアルミニウムキレート系硬化剤とともにマイクロカプセルに内包させることにより、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の低温速硬化性を向上させることができる。
【0025】
このようなカチオン重合性化合物としては、低温速硬化性の点から、環状エーテル系化合物を好ましく挙げることができる。中でも、アルミニウムキレート剤との相溶性及び流動性の点から室温で液状のものが好ましい。このような環状エーテル系化合物としては、多官能のグリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物やオキセタン化合物を好ましく挙げることができる。これらの中では、多官能の脂環式エポキシ化合物やオキセタン化合物を好ましく使用することができる。これらのカチオン重合性化合物は、それぞれ単独で使用することもでき、併用することもできる。脂環式エポキシ化合物とオキセタン化合物とを併用する場合、前者100質量部に対し、好ましくは後者を10〜100質量部使用する。また、2種以上のカチオン重合性化合物を混合して使用することもできる。
【0026】
なお、ジビニルベンゼンなどの多官能オレフィン化合物はラジカル重合性であるため、本発明に適用する必要はない。従って、界面重合後にラジカル重合性化合物の残存による悪影響を考慮する必要がない。
【0027】
脂環式エポキシ化合物の好ましい例としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(サイラキュアUVR−6110(ユニオン・カーバイド社製):セロキサイド2021P(ダイセル化学工業(株)))、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド(ERL−4206(ユニオン・カーバイド社製))、リモネンジオキシド(セロキサイド3000(ダイセル化学工業(株))、アリルシクロヘキセンジオキシド、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル−2−プロピレンオキシド、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート(サイラキュアUVR−6128(ユニオン・カーバイド社製))、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)エーテル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)ジエチルシロキサン等が挙げられる。
【0028】
オキセタン化合物の好ましい具体例としては、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、4,4´−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸 ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)]メチルエステル、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等を挙げることができる。
【0029】
以上説明した重合性化合物のアルミニウムキレート系硬化剤に対する使用量は、少なすぎると硬化活性が小さくなり、多すぎると硬化温度が高温化する傾向があるので、アルミニウムキレート系硬化剤100質量部に対し、好ましくは10〜300質量部、より好ましくは10〜100質量部である。
【0030】
<多官能イソシアネート化合物>
マイクロカプセル壁を構成する多官能イソシアネート化合物は、好ましくは一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する化合物である。このような3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた式(2)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた式(3)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した式(4)のビュウレット体が挙げられる。
【0031】
【化3】

【0032】
上記(2)〜(4)において、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
このような多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得られるカプセル壁(コアセル型カプセルのカプセル壁)は、界面重合の間にイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基とイソシアネート基とが反応して尿素結合を生成してポリマー化するものである。このようなカプセル壁を有するアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、硬化のために加熱されると、カプセル重合壁の分子鎖が緩み、内包されているアルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物とが、潜在性硬化剤の外部に存在している後述する式(A)のシラノール化合物やグリシジルエーテル型エポキシ化合物と接触できるようになり、硬化反応を進行させることができる。
【0034】
また、多官能性イソシアネートの界面重合物からなるカプセル壁の架橋度が小さすぎると、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の潜在性が低下し、大きすぎるとその熱応答性が低下する傾向があるので、使用目的に応じてその架橋度を調整することが好ましい。ここで、カプセル壁の架橋度は、微少圧縮試験により計測することができる。
【0035】
また、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤におけるカプセル壁で内包するアルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物の合計量は、その合計量が少なすぎると熱応答性が低下し、多すぎると潜在性が低下するので、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセル壁100質量部で、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物とを合計で好ましくは100〜2000質量部、より好ましくは100〜1000質量部内包する。
【0036】
また、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の低温速硬化性の向上のために、カプセル壁に対し、アルミニウムキレート系硬化剤溶液の含浸処理を施してもよい。含浸の方法としては、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤を、有機溶媒(例えば、エタノール)中に分散させ、その分散液にアルミニウムキレート系硬化剤(例えば、モノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)のイソプロパノール溶液)を投入し、室温〜50℃程度の温度で数時間〜一晩撹拌を続ける方法を挙げることができる。
【0037】
<アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造方法>
本発明のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、多官能イソシアネートとカチオン重合性化合物とを揮発性有機溶媒に溶解させた油相を、水と分散剤と界面活性剤とを含有する水相に乳化させ、その乳化状態を維持しながら多官能イソシアネートを界面重合させ、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物とを、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルに内包させることにより製造することができる。以下により詳細に説明する。
【0038】
この製造方法においては、まず、アルミニウムキレート系硬化剤と多官能イソシアネート化合物とカチオン重合性化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させ、界面重合における油相となる溶液を調製する。ここで、揮発性有機溶剤を使用する理由は以下の通りである。即ち、通常の界面重合法で使用するような沸点が300℃を超える高沸点溶剤を用いた場合、界面重合の間に有機溶剤が揮発しないために、イソシアネート−水との接触確率が増大せず、それらの間での界面重合の進行度合いが不十分となるからである。そのため、界面重合させても良好な保形性の重合物が得られ難く、また、得られた場合でも重合物に高沸点溶剤が取り込まれたままとなり、熱硬化型樹脂組成物に配合した場合に、高沸点溶剤が熱硬化型樹脂組成物の硬化物の物性に悪影響を与えるからである。このため、この製造方法においては、油相を調製する際に使用する有機溶剤として、揮発性のものを使用する。
【0039】
このような揮発性有機溶剤としては、アルミニウムキレート系硬化剤と多官能イソシアネート化合物とカチオン重合性化合物とに対する良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0040】
揮発性有機溶剤の使用量は、アルミニウムキレート系硬化剤と多官能イソシアネート化合物とカチオン重合性化合物との合計量100質量部に対し、少なすぎると潜在性が低下し、多すぎるとカプセル壁が多孔質化し、熱応答性が低下するので、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部である。なお、この配合範囲は、従来の多孔質タイプのアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造の際の使用量よりも相対的に少なくなっている。このため、有機溶剤の使用量を減らせる点で、従来より環境負荷を小さくできる。
【0041】
なお、揮発性有機溶剤の使用量範囲内において、揮発性有機溶剤の使用量を比較的多く使用すること等により、油相となる溶液の粘度を下げることができるが、粘度を下げると撹拌効率が向上するため、反応系における油相滴をより微細化かつ均一化することが可能になり、結果的に得られる潜在性硬化剤粒子径をサブミクロン〜数ミクロン程度の大きさに制御しつつ、粒度分布を単分散とすることが可能となる。油相となる溶液の粘度は1〜300mPa・sに設定することが好ましい。
【0042】
アルミニウムキレート系硬化剤と多官能イソシアネート化合物とカチオン重合性化合物とを揮発性有機溶剤に溶解させる際には、大気圧下、室温で混合撹拌するだけでもよいが、必要に応じ、加熱してもよい。
【0043】
次に、この製造方法においては、アルミニウムキレート系硬化剤と多官能イソシアネート化合物とカチオン重合性化合物とが揮発性有機溶剤に溶解した油相溶液を、分散剤を含有する水相に投入して、乳化し、その乳化状態を維持しながら界面重合させる。ここで、分散剤としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の通常の界面重合法において使用されるものを使用することができる。分散剤の使用量は、通常、水相の0.1〜10.0質量%である。
【0044】
油相溶液の水相に対する配合量は、油相溶液が少なすぎると多分散化し、多すぎると微細化により凝集が生ずるので、水相100質量部に対し、好ましくは5〜50質量部である。
【0045】
乳化・界面重合条件としては、油相の大きさが好ましくは1〜30μmとなるような撹拌条件(撹拌装置ホモジナイザー;撹拌速度8000rpm以上)で、通常、大気圧下、温度30〜80℃(好ましくは50〜80℃)、撹拌時間2〜12時間、加熱撹拌する条件を挙げることができる。
【0046】
また、多官能イソシアネート化合物を乳化分散する際にPVAを用いた場合、PVAの水酸基と多官能イソシアネート化合物が反応してしまうため、副生成物が異物として潜在性硬化剤粒子の周囲を付着してしまったり、および粒子形状そのものが異形化してしまったりする。この現象を防ぐためには、多官能イソシアネート化合物と水との反応性を促進すること、あるいは多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応性を抑制することが挙げられる。
【0047】
多官能イソシアネート化合物と水との反応性を促進するためには、アルミニウムキレート系硬化剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の質量で好ましくは1/2以下、より好ましくは1/3以下とする。これにより、多官能イソシアネート化合物と水とが接触する確率が高くなり、PVAが油相滴表面に接触する前に多官能イソシアネート化合物と水とが反応し易くなる。
【0048】
また、多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応性を抑制するためには、油相中のアルミニウムキレート系硬化剤の配合量を増大させることが挙げられる。具体的には、アルミニウムキレート系硬化剤の配合量を多官能イソシアネート化合物の質量で好ましくは等倍以上、より好ましくは1.0〜2.0倍とする。これにより、油相滴表面におけるイソシアネート濃度が低下する。さらに多官能イソシアネート化合物は水酸基よりも加水分解により形成されるアミンとの反応(界面重合)速度が大きいため、多官能イソシアネート化合物とPVAとの反応確率を低下させることができる。
【0049】
界面重合終了後に、重合体微粒子を濾別し、自然乾燥することにより本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得ることができる。ここで、多官能イソシアネート化合物の種類や使用量、アルミニウムキレート剤の種類や使用量、界面重合条件を変化させることにより、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の硬化特性をコントロールすることができる。例えば、重合温度を低くすると硬化温度を低下させることができ、反対に、重合温度を高くすると硬化温度を上昇させることができる。
【0050】
<熱硬化型エポキシ樹脂組成物>
次に、本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を含有する熱硬化型エポキシ樹脂組成物について説明する。
【0051】
この熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤に加えて、更に、立体障害の比較的大きなシラノール化合物とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂とを含有する。従って、この熱硬化型エポキシ樹脂組成物においては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂を、重合停止反応を生起させることなく熱重合させることができる。
【0052】
熱硬化型エポキシ樹脂組成物におけるアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の含有量は、少なすぎると十分に硬化せず、多すぎるとその組成物の硬化物の樹脂特性(例えば、可撓性)が低下するので、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂組成物100質量部に対し1〜70質量部、好ましくは1〜50質量部である。
【0053】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物に配合するシラノール化合物は、トリアルコキシ基を有している従来のシランカップリング剤とは異なり、以下の式(A)の化学構造を有する、アリールシランオールである。
【0054】
【化4】

【0055】
式中、mは2又は3であり、但しmとnとの和は4である。従って、式(A)のシラノール化合物は、モノまたはジオール体となる。“Ar”は、置換されてもよいアリール基であるが、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、アズレニル基、フロオレニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基等を挙げることができる。中でも、入手容易性、入手コストの観点からフェニル基が好ましい。m個のArは、いずれも同一でもよく異なっていてもよいが、入手容易性の点から同一であることが好ましい。
【0056】
これらのアリール基は、1〜3個の置換基を有することができ、例えば、クロロ、ブロモ等のハロゲン;トリフルオロメチル;ニトロ;スルホ;カルボキシル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル等のアルコキシカルボニル;ホルミル等の電子吸引基、メチル、エチル、プロピルなどのアルキル;メトキシ、エトキシ等のアルコキシ;ヒドロキシ;アミノ;モノメチルアミノ等のモノアルキルアミノ;ジメチルアミノ等のジアルキルアミノ等の電子供与基などが挙げられる。なお、置換基として電子吸引基を使用することによりシラノールの水酸基の酸度を上げることができ、逆に、電子供与基を使用することにより酸度を下げることができるので、硬化活性のコントロールが可能となる。ここで、m個のAr毎に、置換基が異なっていてもよいが、m個のArについて入手容易性の点から置換基は同一であることが好ましい。また、一部のArだけに置換基があり、他のArに置換基が無くてもよい。
【0057】
式(A)のシラノール化合物の中でも、好ましいものとして、トリフェニルシラノール又はジフェニルシラノールが挙げられる。特に好ましいものは、トリフェニルシラノールである。
【0058】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物において、式(A)のシラノール化合物の含有量に関し、シラノール化合物とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂との合計に対する当該シラノール化合物の含有割合は、少なすぎると硬化不足となり、多すぎると樹脂特性(可撓性等)が低下するので、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0059】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物を構成するグリシジルエーテル型エポキシ化合物は、成膜成分として使用されているものである。このようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100〜4000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、エステル型エポキシ化合物等を挙げることができる。中でも、樹脂特性の点からビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ化合物にはモノマーやオリゴマーやポリマーも含まれる。これらの2種以上のエポキシ化合物を混合して使用してもよい。
【0060】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、樹脂成分として、グリシジルエーテル型エポキシ化合物の他に、カプセルに内包させるカチオン重合性化合物として例示されている脂環型エポキシ化合物やオキセタン化合物を併用することもできる。オキセタン化合物を使用する場合、その使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは20〜70質量部である。
【0061】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、更に必要に応じて式(1)のシラノール化合物とは別に、シランカップリング剤、シリカ、マイカなどの充填剤、顔料、帯電防止剤などを含有させることができる。
【0062】
シランカップリング剤は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、アルミニウムキレート剤と共働して熱硬化性樹脂(例えば、熱硬化性エポキシ樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。従って、このようなシランカップリング剤を少量併用することにより、エポキシ樹脂の硬化を促進するという効果が得られる。このようなシランカップリング剤としては、分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、本発明の潜在性硬化剤がカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0063】
このようなシランカップリング剤の具体例としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0064】
シランカップリング剤を少量併用する場合、その含有量は、少なすぎると添加効果が望めず、多すぎるとシランカップリング剤から発生するシラノレートアニオンによる重合停止反応の影響が生じてくるので、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤100質量部に対し1〜300質量部、好ましくは1〜100質量部である。
【0065】
<熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製>
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤、式(A)のシラノール化合物及びグリシジルエーテル型エポキシ化合物、更に必要に応じて添加剤を常法に従って均一に混合撹拌することにより製造することができる。
【0066】
このようにして得られた本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、硬化剤としてアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を使用しているので、一剤型であるにも関わらず、保存安定性に優れている。また、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤で十分に硬化させることができなかったグリシジルエーテル系エポキシ化合物を含有しているにも関わらず、高立体障害性の特定のシラノールを含有しているので、熱硬化型エポキシ樹脂組成物を低温速硬化でカチオン重合させることができる。
【0067】
<異方性導電接着剤>
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物の有用な用途として、異方性導電接着剤が挙げられる。このような異方性導電接着剤は、熱硬化型エポキシ樹脂組成物に導電粒子を分散させたものであり、ペーストとしてもしくはフィルムに成型して使用される。導電粒子としては、従来より異方性導電接着剤の導電粒子として使用されているニッケル、コバルト、銀、銅、金、パラジウムなどの金属粒子、金属被覆樹脂粒子などを使用することができる。これらは、2種以上を併用することができ、また、粒径、配合量も従来と同様の構成とすることができる。このようない異方性導電接着剤に、更に必要に応じて充填剤、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤(顔料、染料)、有機溶剤、イオンキャッチャー剤などを配合することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0069】
実施例1(脂環式エポキシ化合物を内包させた場合)
蒸留水800質量部と、界面活性剤(ニューレックスR、日油(株))0.05質量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA−205、(株)クラレ)4質量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合した。この混合液に、更に、アルミニウムキレート系硬化剤としてアルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24%イソプロパノール溶液(アルミニウムキレートD、川研ファインケミカル(株))100質量部と、多官能イソシアネートとしてメチレンジフェニル−4,4´−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−109、三井化学(株))70質量部と、脂環式エポキシ化合物として3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(セロキサイド2021P、ダイセル化学工業(株))70質量部とを、揮発性有機溶媒である酢酸エチル30質量部に溶解した油相溶液を投入し、ホモジナイザー(T−50、IKAジャパン(株);乳化条件 10000rpm/5分)で乳化混合後、80℃で6時間界面重合させた。
【0070】
反応終了後、重合反応液を室温まで放冷し、界面重合粒子を濾過により濾別し、自然乾燥することにより塊状物を得た。この塊状物を、解砕装置(AO−JET MILL、(株)セイシン企業)を用いて解砕処理し、平均粒径5μmの球形のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得た。
【0071】
得られたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤4質量部、トリフェニルシラノール(東京化成工業(株))8質量部、及びビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828、三菱化学(株))80質量部を、均一に混合することにより実施例1の熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。なお、トリフェニルシラノールは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂中に80℃で2時間加熱溶解したものを使用した。
【0072】
実施例2(脂環式エポキシ化合物を内包させた場合)
多官能イソシアネートであるメチレンジフェニル−4,4´−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−109、三井化学(株))の使用量を70質量部から50質量部に変更すること以外、実施例1と同様の処理を繰り返すことにより、体積換算平均粒径5μmの球形のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得た。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0073】
実施例2のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真を、図1(×1000)及び図2(×12000)に示す。これらの顕微鏡写真から、実施例2のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤が、真球状のコアシェル型マイクロカプセルであることがわかる。
【0074】
<パージトラップGC/MSによるカプセル内カチオン重合性化合物の検出>
図3に、実施例2のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤のパージトラップチャートを示す。このチャートの15.084分の位置に、セロキサイド2021P固有のピークが検出された。従って、加熱により、カプセルに内包されていたカチオン重合性化合物がカプセル外に漏れ出していることが確認できた。
【0075】
なお、パージトラップは、キャピラリーカラムを備えたガスクロ質量分析装置(HP6890/5973MS(Agilent社))を使用し、120℃で15分間の加熱という条件で行った。
【0076】
比較例1(ジビニルベンゼン/ラジカル重合開始剤を内包させた場合)
油相溶液として、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24%イソプロパノール溶液(アルミニウムキレートD、川研ファインケミカル(株))100質量部と、メチレンジフェニル−4,4´−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−109、三井化学(株))70質量部と、ジビニルベンゼン30質量部と、ラジカル重合開始剤(パーロイルL、日本油脂(株))0.3質量部とを、酢酸エチル100質量部に溶解した溶液を使用すること以外、実施例1と同様の処理を繰り返すことにより、体積換算平均粒径3μmの球形の多孔質樹脂にアルミニウムキレート系硬化剤が保持されてなるアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得た。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0077】
<実施例1、2、比較例1の評価>
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル社)を用いて熱分析した。得られた結果を表1及び図4に示す。ここで、アルミニウムキレート系潜在性硬化剤の硬化特性に関し、発熱開始温度は硬化開始温度を意味しており、発熱ピーク温度は最も硬化が活性となる温度を意味しており、発熱終了温度は硬化終了温度を意味しており、そしてピーク面積は総発熱量を意味している。
【0078】
【表1】

【0079】
表1及び図4からわかるように、アルミニウムキレート系硬化剤と脂環式エポキシ化合物とを、多官能イソシアネートの乳化・界面重合物でカプセル化したアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を使用した実施例1及び2の熱硬化型エポキシ樹脂組成物の場合、カチオン重合性化合物を多官能イソシアネートと共にマイクロカプセル化せずに、界面重合時にジビニルベンゼンのラジカル重合を行った硬化剤を含有する比較例1の熱硬化型エポキシ樹脂組成物に比べ、発熱ピーク温度を約15℃、発熱開始温度を約20℃も低温化することができた。
【0080】
また、実施例1及び2の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、発熱開始温度が70℃を超えているため、室温での保存性に優れ、硬化剤としての潜在性も申し分ないものであった。
【0081】
なお、ジビニルベンゼンとラジカル重合開始剤とを共に使用しない以外は比較例1と同様の操作を繰り返して得たアルミニウムキレート系硬化剤と熱硬化型エポキシ樹脂組成物の場合、比較例1の場合に比べ、発熱開始温度と発熱ピーク温度とが約20℃高温側にシフトしたため、低温速硬化性に問題があったことをここに付記する。
【0082】
実施例3(オキセタン化合物を内包させた場合)
脂環式エポキシ化合物である3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートに代えて、オキセタン化合物(ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル(OXT−221、東亞合成(株))を使用すること以外、実施例2の操作を繰り返すことにより、体積換算平均粒径5μmの球形のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得た。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0083】
実施例3のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真を、図5(×2000)及び図6(×15000)に示す。これらの顕微鏡写真から、実施例3のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤が、真球状のコアシェル型マイクロカプセルであることがわかる。
【0084】
<パージトラップGC/MSによるカプセル内カチオン重合性化合物の検出>
図7に、実施例3のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤のパージトラップチャートを示す。このチャートの12.859分の位置に、OXT−221固有のピークが検出された。従って、加熱により、カプセルに内包されていたカチオン重合性化合物がカプセル外に漏れ出していることが確認できた。
【0085】
なお、パージトラップは、実施例2の場合と同じである。
【0086】
<実施例3の評価>
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル社)を用いて熱分析した。得られた結果を表2及び図8に示す。比較のために、実施例2の結果も併記する。
【0087】
【表2】

【0088】
表2及び図8から、脂環式エポキシ化合物に代えて、オキセタン化合物を使用することにより、発熱ピークがよりシャープとなり、速硬化性が向上したことがわかる。
【0089】
実施例4(オキセタン化合物を内包させた場合)
多官能イソシアネートの配合量を50質量部から40質量部に変更すること以外、実施例3の操作を繰り返すことにより、実施例4の体積換算平均粒径5μmの球形のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得た。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0090】
実施例4のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の電子顕微鏡写真を、図9(×2000)及び図10(×15000)に示す。これらの顕微鏡写真から、実施例4のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤が、真球状のコアシェル型マイクロカプセルであることがわかる。
【0091】
実施例5(オキセタン化合物を内包させた場合)
多官能イソシアネートの配合量を50質量部から30質量部に変更すること以外、実施例3の操作を繰り返すことにより、実施例5の体積換算平均粒径5μmの球形のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得た。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0092】
<実施例4及び5の評価>
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル社)を用いて熱分析した。得られた結果を表3及び図11に示す。比較のために、実施例3の結果も併記する。
【0093】
【表3】

【0094】
表3及び図11の結果からわかるように、多官能イソシアネートの配合量を少なくすると、発熱ピーク温度を低温側にシフトさせることができた。なお、実施例4の場合が最も大きな発熱総量を示した。
【0095】
実施例6(オキセタン化合物を内包させ、更にアルミニウムキレート系硬化剤の含浸処理した場合)
実施例3で得られたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤10質量部を、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24%イソプロパノール溶液(アルミニウムキレートD、川研ファインケミカル(株))40質量部とエタノール60質量部との混合液に投入し、30℃で6時間撹拌を続けた後、シクロヘキサンを使用して濾過洗浄し、真空乾燥(60℃、4時間)することにより、アルミニウムキレート系硬化剤が含浸したアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得た。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0096】
<実施例6の評価>
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル社)を用いて熱分析した。得られた結果を表4及び図12に示す。比較のために、実施例3の結果も併記する。
【0097】
【表4】

【0098】
表4及び図12の結果から、マイクロカプセルのカプセル壁に対しアルミニウムキレート系硬化剤の含浸処理を行うと、発熱ピーク温度を低温側にシフトさせることができ、低温硬化性の向上が可能となることがわかる。この場合も、発熱開始温度が約70℃であるため、室温保存安定性が優れていることがわかる。
【0099】
実施例7(グリシジルエーテル型エポキシ化合物を内包させた場合)
脂環式エポキシ化合物50質量部に代えて、グルシジルエーテル型エポキシ化合物としてトリメチロールプロパングリシジルエーテル(エポライト100MF、共栄社化学(株))50質量部を使用すること以外、実施例2の操作を繰り返すことにより、実施例7の体積換算平均粒径5μmの球形のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得た。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0100】
比較例2(高沸点の親油性溶媒を内包させた場合)
脂環式エポキシ化合物50質量部に代えて、沸点390℃のジベンジルトルエン(B−18、松村石油(株)50質量部を使用すること以外、実施例2の操作を繰り返すことにより、比較例2の体積換算平均粒径5μmの球形のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を得た。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0101】
<実施例7及び比較例2の評価>
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル社)を用いて熱分析した。得られた結果を表5及び図13に示す。比較のために、実施例2及び3の結果も併記する。
【0102】
【表5】

【0103】
表5及び図13の結果から、グリシジルエーテル型エポキシ化合物をマイクロカプセルに内包させた実施例7の場合、脂環式エポキシ化合物やオキセタン化合物をカプセルに内包させた実施例2及び3の場合に比べ、潜在性(開始温度)と速硬化性(総発熱量)が若干劣ることがわかる。これは、実施例7で使用したグルシジルエーテル型エポキシ化合物(エポライト100MF)の25℃における粘度(カタログ値)は100〜160mPa・sと低く、カプセル内での流動性が向上するため、重合開始温度を低温化することができたものの、グリシジルエーテル型エポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物やオキセタン化合物に比べて、カチオン重合性が低いためであると考えられる。
【0104】
また、比較例2の結果から、通常の界面重合で用いられている高沸点の親油性溶媒をマイクロカプセルに内包させると、十分な潜在性を実現できないことがわかる。これは、マイクロカプセル内での界面重合が阻害されるために、カプセル壁強度が低くなってしまったためと考えられる。
【0105】
比較例3(オキセタン化合物、ジビニルベンゼンおよびラジカル重合開始剤を内包させた場合)
多官能イソシアネートの配合量を50質量部から40質量部とし、ジビニルベンゼン(メルク(株))10質量部とラジカル重合開始剤(パーロイルL、日本油脂(株))0.1質量部とを新たに配合すること以外、実施例3の操作を繰り返すことにより、比較例3のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を調製した。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0106】
比較例4(オキセタン化合物、ジビニルベンゼンおよびラジカル重合開始剤を内包させた場合)
多官能イソシアネートの配合量を50質量部から30質量部とし、ジビニルベンゼン(メルク(株))20質量部とラジカル重合開始剤(パーロイルL、日本油脂(株))0.2質量部とを新たに配合すること以外、実施例3の操作を繰り返すことにより、比較例4のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤を調製した。更に、実施例1と同様に熱硬化型エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0107】
<比較例3及び4の評価>
得られた熱硬化型エポキシ樹脂組成物を、示差熱分析装置(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル社)を用いて熱分析した。得られた結果を表6及び図14に示す。比較のために、実施例3の結果も併記する。
【0108】
【表6】

【0109】
表6及び図14から、カチオン重合性化合物に加えてラジカル重合性化合物を使用した比較例3及び4の場合、発熱開始温度及び発熱ピーク温度とも高温側にシフトし、しかもブロードなピークとなった。これは、界面重合時にラジカル重合性化合物のラジカル重合が、カプセル表面だけでなくカプセル内部においても並行して生ずるため、良好なコアシェル構造が形成されなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂として安価で汎用のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を低温短時間で硬化させることができる。従って、汎用のエポキシ樹脂組成物の硬化剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤であって、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物が、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルに内包されている(ラジカル重合性化合物が内包される場合を除く)アルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【請求項2】
カチオン重合性化合物が、環状エーテル系化合物である請求項1記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【請求項3】
環状エーテル系化合物が、脂環式エポキシ化合物および/またはオキセタン樹脂である請求項2記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【請求項4】
カプセル壁に対し、アルミニウムキレート系硬化剤溶液の含浸処理が施されている請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【請求項5】
アルミニウムキレート系硬化剤100質量部に対し、カチオン重合性化合物が10〜300質量部配合されている請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【請求項6】
多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセル壁100質量部で、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物との合計100〜2000質量部を内包している請求項1〜5のいずれかに記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤。
【請求項7】
請求項1記載のコアシェル型にマイクロカプセル化されたアルミニウムキレート系潜在性硬化剤の製造方法であって、多官能イソシアネートとカチオン重合性化合物とを揮発性有機溶媒に溶解させた油相を、水と分散剤と界面活性剤とを含有する水相に乳化させ、その乳化状態を維持しながら多官能イソシアネートを界面重合させ、アルミニウムキレート系硬化剤とカチオン重合性化合物とを、多官能イソシアネートの界面重合物からなるカプセルに内包させることを特徴とする製造方法。
【請求項8】
油相における多官能イソシアネートとカチオン重合性化合物と揮発性有機溶媒との配合割合が、多官能イソシアネート100質量部に対し、カチオン重合性化合物10〜500質量部および揮発性有機溶媒1〜100質量部という配合割合である請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のアルミニウムキレート系潜在性硬化剤と、グリシジルエーテル型エポキシ化合物と、式(A)
【化1】

(式中、mは2又は3であり、但しmとnとの和は4である。Arは、置換されてもよいアリール基である。)
で表されるシラノール化合物とを含有することを特徴とする熱硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
シラノール化合物が、トリフェニルシラノール又はジフェニルシラノールである請求項9記載の熱硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
シラノール化合物とグリシジルエーテル型エポキシ化合物との合計に対する当該シラノール化合物の含有割合が5〜30質量%である請求項9又は10記載の熱硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又は/及びビスフェノールF型エポキシ樹脂である請求項9〜11のいずれかに記載の熱硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
更に、オキセタン化合物を含有する請求項9〜12のいずれかに記載の熱硬化型エポキシ樹脂組成物。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれかに記載の熱硬化型エポキシ樹脂組成物中に、導電粒子が分散してなる異方性導電接着剤。
【請求項15】
フィルム状に成型されている請求項14記載の異方性導電接着剤。

【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−209359(P2010−209359A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−146468(P2010−146468)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】