説明

アルミニウム塗装板及びプレコートアルミニウムフィン材

【課題】 親水性、耐湿性、耐食性、成形性及びホルムアルデヒド除去性において優れた性能を有するアルミニウム塗装板、ならびに、当該アルミニウム塗装板から加工形成されるプレコートアルミニウムフィン材を提供する。
【解決手段】 アルミニウム板の少なくとも一方の表面に形成した下地被膜層と、下地被膜層上に形成した親水性被覆層とを含むアルミニウム塗装板であって、下地被膜層が所定配合割合の樹脂及びジルコニウム化合物を含有し、親水性被覆層が所定配合割合の樹脂とコロイダルシリカとジルコニウム化合物とを含有し、下地被膜層中の樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比/親水性被覆層中の樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比が0.1〜5であり、下地被膜層が金属換算したジルコニウム量で2〜100mg/m形成され、かつ、親水性被覆層が金属換算したジルコニウム量で1〜40mg/m形成されるアルミニウム塗装板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、特にアルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面に親水性、耐湿性、耐食性、成形性において好適なアルミニウム塗装板に関し、また、烏龍茶成分を含有することにより、ホルムアルデヒド除去性において優れたアルミニウム塗装板に関する。更に本発明は、このようなアルミニウム塗装板を用いた、特に熱交換器用のプレコートアルミニウムフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の表面は親水性に乏しいため、熱交換器のフィン材や印刷の平板印刷版材には、表面に親水性塗膜が被覆されたものが使用されている。以下、空調機を例に挙げてその熱交換器のフィン材について述べることとする。
【0003】
最近の空調機用熱交換器は、軽量化のために熱効率の向上とコンパクト化が要求され、フィン間隔をでき得る限り狭くする設計が取り入れられてきた。空調機用熱交換器では、冷房運転中に空気中の水分がアルミニウムフィン材の表面に凝縮水となって付着する。金属材料の表面は、一般に親水性に乏しいため、この凝縮水はフィン材表面に半円形又はフィン材間にブリッジ状に存在することになる。このような凝縮水によってフィン材間の空気の流れが妨げられることにより、通風抵抗が増大し熱交換効率が著しく低下する。したがって、熱交換器の熱効率を向上させるには、フィン材表面の凝縮水を迅速に排除することが必要となる。
【0004】
フィン材表面の凝縮水を迅速に排除するための方法として、(1)アルミニウムフィン材表面に高親水性塗膜を形成し、凝縮水を薄い水膜として流下せしめる方法、(2)アルミニウムフィン材表面に撥水性塗膜を形成し、凝縮水を表面に付着させないようにする方法、が考えられるが、(2)の方法は、現時点では極めて困難である。一方、(1)の方法は、親水性を得るために表面に塗膜を形成するものであり、このような親水性塗膜によって、アルミニウムフィン材表面における結露水滴の形成が防止され、また、アルミニウムフィン材表面に形成された水膜がその表面に保持される。
【0005】
従来から、親水性塗膜の形成方法が種々提案され、実用化されている。例えば、アルミニウム材表面にアルカリ珪酸塩の防食塗膜を形成させる方法(下記特許文献1)、水性塗料塗膜を形成する方法(下記特許文献2)、アルカリ珪酸塩とカルボニル化合物を有する低分子有機化合物と水溶性有機高分子化合物を含有する組成物をアルミニウムフィン材に塗布し、親水性塗膜を形成する方法(下記特許文献3)等が提案されている。
【特許文献1】特公昭53−48177号公報
【特許文献2】特開昭55−164264号公報
【特許文献3】特開昭60−101156号公報
【0006】
しかしながら、これら親水性塗膜では、親水性の経時的持続性に乏しいこと、ならびに、アルミニウム材等をフィン材に加工する際に、塗膜硬度が高いために金型の磨耗が大きく、フィン材にクラックが発生し易い問題があった。
【0007】
このような金型摩耗やクラック発生等の欠点がない樹脂塗膜を形成する塗料も提案されている(下記特許文献4〜6)。このような塗料組成物として、例えばポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、セルロース系樹脂等の水溶性の親水性樹脂を含む親水性塗料組成物等が挙げられている。
【特許文献4】特開昭63−173632号公報
【特許文献5】特開平5−302042号公報
【特許文献6】特開平9−14889号公報
【0008】
また、親水性付与に伴う耐食性の劣化を補うことや、親水性塗膜の素材への固着性向上等を目的として、クロメート下地処理を行うことが推奨又は例示されている(下記特許文献7)。
【特許文献7】特開平6−322552号公報
【0009】
しかしながら、これらの塗料組成物では、長期に亘り使用していると、化成皮膜と親水性塗膜との界面に浸透した水がたまり、親水性塗膜が剥離してしまう問題があった。
【0010】
更に、近年になって、環境に対する関心がますます高まっており、建物の室内などにおける建物から発生するホルムアルデヒドに起因する環境汚染が指摘されている。ホルムアルデヒドは、人体に対して有害であることが判明しており、合板、建材、家具などに使用されている接着剤が主な発生源で、室内での環境汚染を生じさせている。そのため、このような室内での環境汚染を改善するため、室内の空調を行いながら更に空気清浄を目的とした空調機に、ホルムアルデヒドに代表される揮発性有機化合物(VOCs)を吸着するフィルターが取り付けられているが、VOCsを十分に除去できないのが現状である。そこで、空調機による何らかの手段によって室内中のホルムアルデヒドを低減させようとする要求がある。
しかしながら、上述の親水性塗料組成物を用いた塗膜では、空気中のホルムアルデヒドを効果的に吸着、除去することも困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、プレコートフィン材等の親水性塗膜を有する熱交換器用アルミニウム材について、親水性、耐湿性、耐食性、成形性に優れており、しかも、ホルムアルデヒド除去性にも優れたアルミニウム塗装板の開発について鋭意検討した結果、これらの特性に関しいずれにおいても優れた性能を発揮するアルミニウム塗装板を見出し、本発明を完成するに至った。このように、本発明の目的は、アルミニウム材の表面に親水性、耐湿性、耐食性、成形性及びホルムアルデヒド除去性に優れたアルミニウム塗装板、ならびに、このようなアルミニウム塗装板を用いたプレコートアルミニウムフィン材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は請求項1において、アルミニウム板の少なくとも一方の表面に形成した下地被膜層と、当該下地被膜層上に形成した親水性被覆層とを含むアルミニウム塗装板であって、前記下地被膜層が、樹脂100重量部に対して金属換算したジルコニウム1〜50重量部の割合で樹脂及びジルコニウム化合物を含有し、前記親水性被覆層が、樹脂100重量部に対して、コロイダルシリカ25〜400重量部と、金属換算したジルコニウム0.5〜25重量部の割合で、樹脂とコロイダルシリカとジルコニウム化合物とを含有し、(前記下地被膜層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)/(前記親水性被覆層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)が、0.1〜5であり、前記下地被膜層が金属換算したジルコニウム量で2〜100mg/m形成され、かつ、前記親水性被覆層が金属換算したジルコニウム量で1〜40mg/m形成されるアルミニウム塗装板とした。
【0013】
本発明は請求項2において、前記下地被膜層に含有される樹脂を、エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくともいずれか一方とした。
【0014】
本発明は請求項3において、前記親水性被覆層に含有される樹脂を、アクリル系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくともいずれか一方とした。
【0015】
本発明は請求項4において、前記親水性被覆層が、樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部の割合で烏龍茶成分を含有するようにした。
【0016】
本発明は請求項5において、前記親水性被覆層が、烏龍茶成分に加えて樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部の割合で緑茶成分及び紅茶成分の少なくともいずれか一方を更に含有するようにした。
【0017】
本発明は請求項6において、前記親水性被覆層上に、ポリエチレングリコール系樹脂を含有し当該樹脂量で0.05〜3g/mの潤滑性被膜層を形成するようにした。
【0018】
本発明は請求項7において、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板を用いたプレコートアルミニウムフィン材とした。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アルミニウム材等の材料表面に長期にわたる親水性、耐湿性、耐食性、成形性及びホルムアルデヒド除去性において優れた塗装アルミニウム板を提供でき、これを用いて製造された、例えば熱交換器用のプレコートアルミニウムフィン材は、親水性、耐湿性、耐食性及びホルムアルデヒド除去性に優れる熱交換効率を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
A.アルミニウム塗装板
まず、本発明におけるアルミニウム塗装板について説明する。アルミニウム塗装板は、アルミニウム板の少なくとも一方の表面に形成された下地被膜層と、この下地被膜層上に形成された親水性被覆層を含む。
【0021】
A−1.アルミニウム板
本発明で用いるアルミニウム塗装板の基材となるアルミニウム板としては、純アルミニウム材及びアルミニウム合金材が用いられる。アルミニウム合金材としては、A1200、A3003、A5052等が用いられる。なお、本発明では、「アルミニウム材」又は単に「アルミニウム」の用語は、純アルミニウム材及びアルミニウム合金材の双方を含む意とする。
本発明では、塗装板の基材とてアルミニウム材を用いるが、この他の基材として、アルミニウム以外の金属や合金、セラミックス、プラスチック等を用いることもできる。
【0022】
A−2.下地被膜層
アルミニウム材の表面に形成される第1層としての下地被膜層は、樹脂及びジルコニウム化合物を含む。樹脂としては、アルミニウム材との密着性、耐湿性(耐透水性)を有し、かつ、親水性被覆層との密着性に優れているものであれば特に制限はないが、エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくともいずれか一方を含むのが好ましい。エポキシ系樹脂は強靭性、耐食性及び加工性を付与し、アクリル系樹脂はアルミニウム材との密着性及び耐透水性、ならびに、親水性被覆層との密着性を付与する。
【0023】
エポキシ系樹脂としては、ビスフェノール型、ノボラック型、グリシジルエーテル型などの環状脂肪族型、或いは、非環状脂肪族型などが用いられる。これらの中でも、工業的汎用性及び耐食性が良好である点から、ビスフェノール類を反応させて得られるエポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA等が挙げられ、1種のみを単独で使用しても、2種以上の混合物として使用してもよい。ビスフェノール類の中でも、工業的汎用性から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に制限されるものではないが、エマルジョン化が容易で、かつ、これを塗料として用いた際の防食性に優れている点から、150〜3000g/eqであるのが好ましく、160〜1800g/eqであるのが更に好ましい。上記エポキシ樹脂を1種用いても、又は、異なる種類のエポキシ樹脂を2種以上用いてもよい。
【0024】
アクリル系樹脂としては、α、βモノエチレン系不飽和単量体とこれに重合可能な単量体との共重合体やブロック重合体、或いは、α、βモノエチレン系不飽和単量自体の重合体からなる樹脂が用いられる。
α、βモノエチレン系不飽和単量体としては、例えばアクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸nブチル、アクリル酸2エチルへキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2エチルブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸3エトキシプロピル等);メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸nへキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸デシルオクチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2メチルへキシル、メタクリル酸3メトキシブチル等);アクリロニトリル;メタクリロニトリル;酢酸ビニル;塩化ビニル;ビニルケトン;ビニルトルエン;及びスチレン等が用いられる。
【0025】
上記α、βモノエチレン系不飽和単量体と共重合し得る単量体とは、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、エチレン、トルエン、プロピレン、アクリルアミド、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸2ヒドリキシエチル、メタクリル酸2ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、Nメチロールアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸等が用いられる。
上記アクリル樹脂を1種用いても、又は、異なる種類のアクリル樹脂を2種以上用いてもよい。
【0026】
下地被膜層に含有されるジルコニウム化合物は、上記樹脂と共に配合されることにより、親水性被覆層の親水性低下を防ぐと共に耐食性、耐透水性を向上させる。ジルコニウム化合物は、ジルコニウムを含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、フッ化ジルコニウム(ジルコニウムフッ化水素酸)、フッ化ジルコニウムアンモニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、硝酸ジルコニウム等が用いられる。分散性、塗装性、製造時の臭気発生防止などの観点より、炭酸ジルコニウムカリウムが好ましい。これらのジルコニウム化合物は、1種単独で用いても、或いは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
ジルコニウム化合物は、樹脂100重量部に対して金属換算したジルコニウムとして1〜50重量部、好ましくは3〜20重量部配合される。金属換算したジルコニウが1重量部未満では耐食性や耐透水性が低下する。金属換算したジルコニウが50重量部を超えると、原材料費が増加する。
【0028】
A−3.親水性被覆層
下地被膜層上に形成される第2層としての親水性被覆層は、樹脂、コロイダルシリカ、ジルコニウム化合物を含む。樹脂としては、コロイダルシリカの担持性、樹脂そのものの親水性、ならびに、下地被膜層との密着性に優れているものであれば特に制限はないが、アクリル系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂が、親水性と塗膜密着性に優れており好適である。
【0029】
アクリル系樹脂としては、下地被膜層と同じ種類のものが使用可能であるが、親水性や密着性を更に向上させるために、スルホン酸基、スルホン酸のナトリウム、カリウム等の塩、水酸基、カルボキシル基等の極性基を導入した種類のものを用いてもよい。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂は、好ましくは、鹸化度が90モル%以上のもの、或いは、完全鹸化タイプのものが用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、500〜2500、より好ましくは1500〜2500のものが用いられる。鹸化度が90モル%未満であったり、平均重合度が500未満では、親水性が劣ったり、密着性が劣ったりする。また、平均重合度が2500より高くなると粘度上昇が著しくなって塗装性に問題を生じる。
【0031】
このようなポリビニルアルコール系樹脂には、上記のもの以外に、例えば、酢酸ビニルの重合時に少量(例えば5重量%以下)のアリルグリシジルエーテルを共重合させ、水酸基の一部がエポキシ基で置換されたもの、或いは、同じく酢酸ビニルの重合時にクロトン酸、アクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、MMA(メタクリル酸メチル)等のカルボキシル基を有するモノマーを共重合させることによって主鎖中にカルボキシル基を導入した変性ポリビニルアルコール等も含まれる。
【0032】
上記アクリル樹脂を1種用いても、又は、異なる種類のアクリル樹脂を2種以上用いてもよい。また、上記ポリビニルアルコール樹脂を1種用いても、又は、異なる種類のポリビニルアルコール樹脂を2種以上用いてもよい。更に、アクリル樹脂とポリビニルアルコール樹脂とを一緒に用いてもよい。
【0033】
コロイダルシリカとしては、いわゆるシリカゾル又は微粉状シリカであって、粒子径が5〜10000nm、好ましくは7〜100nmで、通常、水分散液として供給されているものをそのまま使用するか、或いは、微粉状シリカを水に分散させて使用することができる。本発明において、コロイダルシリカは、得られる親水性被覆層に親水性を付与して水接触角を低下させる成分として作用する。
【0034】
コロイダルシリカは、樹脂100重量部に対して25〜400重量部、好ましくは50〜300重量部配合される。25重量部未満では親水性被覆層の親水性が十分ではなく、400重量部を超えると、下地被膜層との密着性を阻害する。
【0035】
親水性被覆層中に含有されるジルコニウム化合物としては、樹脂と共に配合されることにより、耐透水性及び下地被膜層との密着性を向上し、下地被膜層の溶出を抑制可能なものが用いられる。このようなジルコニウム化合物としては、下地被膜層に用いられる上述のジルコニウムが用いられる。
【0036】
このようなジルコニウム化合物は、樹脂100重量部に対して金属換算したジルコニウムとして0.5〜25重量部、好ましくは1〜20重量部配合される。0.5重量部未満では親水性被覆層の溶解性を防止できず、長期に亘る親水性を確保できない。また、25重量部を超えると、親水性被覆層に含有される樹脂そのものの親水性が劣化する。
【0037】
A−4.下地被膜層と親水性被覆層におけるジルコニウム量
下地被膜層と親水性被覆層の構成成分として、それぞれのジルコニウム含有量を規定することにより、下地被膜層層と親水性被覆層との密着性を確保できる。良好な密着性を確保することにより、長期に亘る湿潤雰囲気においても、親水性被覆層の剥離を防止でき、優れた耐湿性を合わせ持つアルミニウム塗装板が得られる。両層におけるジルコニウム含有量に関して、(下地被膜層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)/(親水性被覆層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)を0.1〜5とすることにより、両層の更に良好な密着性が得られる。上記比率が0.1未満であると、親水性被覆層におけるジルコニウム含有率に比べて下地被膜層におけるジルコニウム含有率が極端に少ないため、切断端部等における下地被膜層とアルミニウム材との界面等に水が浸透し易くなり腐食が促進されることになる。一方、上記比率が5を超えると、親水性被覆層のジルコニウム含有量が少な過ぎるため、下地被膜層と親水性被覆層との十分な塗膜密着性が得られず、長期に亘る湿潤雰囲気では親水性被覆層が剥離して親水性の低下を招くことになる。
【0038】
A−5.下地被膜層と親水性被覆層の形成量
下地被膜層の形成量は、金属換算したジルコニウム量で2〜100mg/mである。形成量が2mg/m未満であると耐食性を満足することができず、100mg/mを超えると、耐食性等の諸性能が飽和し不経済となる。このような形成量により、強固で、耐食性及び耐透水性を備える下地被膜層とすることができる。このような特性を一層高めるために、下地被膜層の形成量を5〜50mg/mとするのが好ましい。
親水性被覆層の形成量は、金属換算したジルコニウム量で1〜40mg/mである。形成量が1mg/m未満であると、下地被膜層を十分に被覆できないので親水性を満足できず、40mg/mを超えると、親水性が飽和し不経済となる。このような形成量により、下地被膜層を十分に被覆して親水性を満足できる。このような特性を一層高めるために、親水性被覆層の形成量を2〜20mg/mとするのが好ましい。
【0039】
上記のように金属換算したジルコニウム量によって、下地被膜層及び親水性被覆層の形成量が規定される。ここで、両層において、金属換算したジルコニウム量と樹脂量について規定されていることから、樹脂量によっても下地被膜層及び親水性被覆層の形成量を規定可能である。下地被膜層の形成量は、樹脂量で0.05〜200g/mが好ましく、親水性被覆層の形成量は、樹脂量で0.01〜100g/mが好ましい。
【0040】
A−6.烏龍茶成分
本発明においては、親水性被覆層に烏龍茶成分を添加する。樹脂成分中の烏龍茶成分は、ホルムアルデヒドを吸着する機能を有する成分である。烏龍茶成分は、樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部であり、好ましくは0.1〜10重量部である。烏龍茶成分が0.01重量部より少ないとホルムアルデヒド吸着性が得られ難くなり、20重量部を超えると所望の親水性が低下してしまう。
【0041】
本発明に用いられる烏龍茶成分の製造方法は特に限定されるものではない。例えば、烏龍茶の葉や茎を、室温から所定温度に加熱する際に、水、酸性水溶液、含水エタノール、エタノール、含水メタノール、メタノール、アセトン、酢酸エチル又はグリセリン水溶液等の溶媒又はこれらの混合溶媒によって抽出した抽出物が用いられる。抽出液から溶媒を除去した抽出物を用いるだけでなく、抽出によって得られる抽出液(烏龍茶成分と抽出溶媒からなる)としても、或いは、当該抽出液の濃縮液としても用いることができる。特に、室温水又は温水によって抽出した抽出液自体を塗料組成物に添加する方法が、ホルムアルデヒド吸着性の観点から好ましい。
【0042】
このような抽出によって得られる烏龍茶成分には、カテキン類(カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート);タンニン類が含有される。その他、ケンフェロール、クエルセチン、ミリセチン等のフラボノイド;GODポリフェノール等のポリフェノール類;マロン酸、コハク酸、没食子酸等の有機酸;カフェイン;アミノ酸;糖類;ビタミン類;等の種々の成分が含有されている。
【0043】
上記カテキン類等の烏龍茶成分を親水性被覆層に含有させることにより、ホルムアルデヒドの吸着性が高められる。烏龍茶成分の中でも、カテキン類(カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート)がホルムアルデヒド吸着性に大きく寄与する。特に、これらのカテキン類が会合した多量体、好ましくはカテキン2量体及び3量体が、ホルムアルデヒドの吸着性を高めるのに有効に作用する。このカテキンの2量体及び3量体は茶類の中でも特に烏龍茶に多く含まれているので、ホルムアルデヒド吸着性を確保するのために烏龍茶成分を親水性被覆層に含有させることにより、より効果的にホルムアルデヒドを吸着することができる。また、下地被膜層にも烏龍茶成分を含有させることにより、更に効果的にホルムアルデヒドを吸着することができる。
【0044】
更に、本発明においては、親水性被覆層中に、烏龍茶成分に加えて緑茶成分及び紅茶成分の少なくともいずれか一方を添加する。これら緑茶成分及び紅茶成分は、烏龍茶成分によって吸着したホルムアルデヒドを組成物中に定着する機能を有する。したがって、緑茶成分や紅茶成分を親水性被覆層中に添加することにより、吸着したホルムアルデヒドの脱着率が低減することにより定着性が高められる。結果的に、アルミニウム塗装板やフィンのホルムアルデヒド吸着除去性が一層向上することになる。
【0045】
A−7.成分及び紅茶成分
緑茶及び紅茶成分の少なくともいずれか一方は、樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部配合される。緑茶及び紅茶成分の少なくともいずれか一方が0.01重量部より少ないとホルムアルデヒド定着性が得られ難くなり、20重量部より多いと所望の親水性が得られなくなる。なお、これら含有量は、緑茶成分単独又は紅茶成分単独の場合にはそれぞれ単独含有量としてのものであり、緑茶成分と紅茶成分の両方を用いる場合には両者を合計した含有量としてのものである。
【0046】
本発明に用いられる緑茶成分及び紅茶成分の製造方法もまた、特に限定されるものではない。これら緑茶成分及び紅茶成分の製造方法としては、上記の烏龍茶成分の抽出方法と同様の方法が用いられる。緑茶成分及び紅茶成分のうちポリフェノール類が示すホルムアルデヒド定着性が特に優れているので、ポリフェノール類をより多く含有する緑茶成分や紅茶成分を添加するのが好ましい。
なお、下地被膜層にも緑茶成分及び紅茶成分の少なくともいずれか一方を含有させてもよく、これにより、更に効果的にホルムアルデヒドを定着することができる。
【0047】
なお、本発明で用いる烏龍茶成分はホルムアルデヒドだけでなく、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等の他のアルデヒド類、更には、他の種類の臭気成分等の吸着にも用いることができる。また、本発明で用いる緑茶成分、紅茶成分はホルムアルデヒドだけでなく、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等の他のアルデヒド類、更には、他の種類の臭気成分等の定着にも用いることができる。
【0048】
A−8.潤滑性被膜層
本発明では、親水性被覆層上に第3層としての潤滑性被膜層を更に形成してもよい。このような潤滑性被膜層はポリエチレングリコール系樹脂を含有し、アルミニウム塗装板の成形性を向上させる機能を発揮する。また、この潤滑性被膜層に烏龍茶成分を含有させることにより、ホルムアルデヒド吸着性を更に高めることができる。そして、烏龍茶成分に加えて緑茶成分及び紅茶成分の少なくともいずれか一方を更に含有させることによって、ホルムアルデヒド定着性を更に高めることができる。この潤滑性被膜層の形成量は、ポリエチレングリコール系樹脂量で0.05〜3g/mである。形成量が0.05g/m未満であると、十分な成形性が得られない。また、形成量が3g/mを超えても、成形性が飽和し不経済となる。形成量は、0.1〜1g/mが好ましい
【0049】
ポリエチレングリコール系樹脂としては、好ましくは1,000〜40,000、より好ましくは8,000〜25,000の重量平均分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体等が用いられる。
【0050】
A−9.溶媒
下地被膜層、親水性被覆層及び潤滑性被膜層を形成するには、各層の成分を媒体となる溶媒に溶解又は分散した塗料組成物が用いられる。このような溶媒としては、塗料成分を溶解又は分散可能であれば特に限定されるものではなく、例えば、水などの水性溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルiso−ブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、ペンタノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤;ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル系溶剤;及び、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の上記一連のグリコールアルキルエーテル系溶剤のエステル化物;等が含まれる。これらの中でも、水性溶媒が好ましく、水が特に好ましい。
【0051】
A−10.その他の成分
本発明では必要に応じて、下地被膜層(第1層)、親水性被覆層(第2層)及び潤滑性被膜層(第3層)に、貯蔵中の腐敗防止を目的とした有機銅系、有機ヨード系、イミダゾール系、イソチアゾリン系、ピリチオン系、トリアジン系、銀系等の抗菌・抗黴作用を有する防腐剤;タンニン酸、没食子酸、フイチン酸、ホスフィン酸等の防錆剤;ポリアルコールのアルキルエステル類、ポリエチレンオキサイド縮合物等のレベリング剤;相溶性を損なわない範囲で添加されるポリアクリルアミド、ポリビニルアセトアミド等の充填剤;アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩系等の界面活性剤;酸化亜鉛、酸化クロム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、カーボンブラック等の無機顔料;アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系等の有機顔料;酸化亜鉛、酸化アルミ(アルミナ)、酸化チタン等の無機酸化物;等を添加してもよい。
特に上述の無機顔料、有機顔料を添加することにより、湿潤雰囲気において顔料の溶出が低減でき、長期間に亘る着色性を備えたアルミニウム塗装板やフィン材を得ることができる。
【0052】
A−11.アルミニウム塗装板の製造方法
本発明のアルミニウム塗装板は、まず、基材となるアルミニウム板を脱脂処理して乾燥した後に、下地被膜層の成分を適当な溶媒に溶解又は分散した塗料組成物をアルミニウム板上に塗布して下地被膜層を形成する。下地被膜層用の塗料組成物の塗布方法としては、ロールコーター法、ロールスクイズ法、ケミコーター法、エアナイフ法、浸漬法、スプレー法、静電塗装法等の方法が用いられ、塗膜の均一性に優れ、生産性が良好なロールコーター法が好ましい。ロールコーター法としては、塗布量管理が容易なグラビアロール方式や、厚塗りに適したナチュラルコート方式や、塗布面に美的外観を付与するのに適したリバースコート方式等を採用することができる。また、下地被膜層の乾燥には一般的な加熱法、誘電加熱法等が用いられる。
【0053】
下地被膜層を形成する際の焼付けは、焼付け温度(到達表面温度)が100〜300℃で、焼付け時間が1〜60秒の条件で行うのが好ましい。塗膜形成における焼付け温度が100℃未満であったり、焼付け時間が1秒未満である場合には、塗膜が十分に形成されず塗膜密着性が低下する。焼付け温度が300℃を超えたり、焼付け温度が60秒を超える場合には、オーバーベークとなり変色などが生じてしまう。
【0054】
次いで、親水性被覆層の成分を適当な溶媒に溶解又は分散した塗料組成物を、焼き付けした下地被膜層上に塗布して親水性被覆層を形成する。この塗料組成物の塗布方法及び焼き付け方法は、下地被膜層において示したのと同様の方法が用いられる。親水性被覆層には、烏龍茶成分(更に、緑茶成分及び紅茶成分の少なくともいずれか一方を含有する場合がある)を含有することにより、ホルムアルデヒド吸着性を向上させることができる。焼付け温度が300℃を超えたり、焼付け温度が60秒を超える場合には、親水性被覆層中の烏龍茶成分、緑茶成分、紅茶成分が分解してしまい、ホルムアルデヒドの吸着性を著しく低下させることになる。
【0055】
第3層としての、ポリエチレングリコール系樹脂を含有する潤滑性被膜層の形成方法としては、(1)焼付けされた下地被膜層上に、親水性被覆層用と潤滑性被膜層用の混合塗料組成物を塗布する。このような混合塗料組成物を焼付けることによって、混合塗料組成物から形成される層が、下層側(下地被膜層側)の親水性被覆層と、上層側(下地被膜層とは反対側)の潤滑性被膜層とから成る、分離した2層構造の塗膜となる方法;(2)焼付けされた下地被膜層上に塗布され、かつ、焼付けされる前の状態にある親水性被覆層用の塗料組成物上に、潤滑性被膜層用の塗料組成物を塗布する。このような2層の塗料組成物を焼付けることによって、2層の塗料組成物から形成される層が、下層側(下地被膜層側)の親水性被覆層と、上層側(下地被膜層とは反対側)の潤滑性被膜層の塗膜となる方法や、(3)焼付けされた下地被膜層上に親水性被覆層用の塗料組成物を塗布して焼付けした後に、親水性被覆層上に潤滑性被膜層用の塗料組成物を塗布して焼付けすることにより潤滑性被膜層を形成する方法;を採用することができる。(3)に示す「3度塗布3度焼付け」による塗膜形成方法は、(1)に示す「2度塗布2度焼付け」や(2)に示す「3度塗布2度焼付け」による塗膜形成方法に比べて経済性に劣る。(1)の「2度塗布2度焼付け」による塗膜形成方法を採用するのが好ましい。なお、上記親水性被覆層はアルミニウム塗装板に親水性を付与する機能を有し、上記潤滑性被膜層はアルミニウム塗装板に潤滑性を付与する機能を有する。
なお、上記(1)の方法においては、塗布された混合塗料組成物は、焼付け工程前において、下地被膜層側の親水性被覆層用塗料組成物層と、その上の潤滑性被膜層用塗料組成物層に層分離することが確認された。また、上記(2)の方法においては、下層側(下地被膜層側)の親水性被覆層用塗料組成物層と、その上に塗布された潤滑性被膜層用塗料組成物層とは、2層のまま層が混合状態にならないことが確認された。
【0056】
B.プレコートアルミニウムフィン材
本発明に係るプレコートアルミニウムフィン材は、上述のアルミニウム塗装板の表面にプレス成形加工用の揮発性プレス油を塗布してからスリット加工やコルゲート加工等の成形加工を施すことにより、所望形状のフィン材としたものである。このようなプレコートアルミニウムフィン材は、例えば空調機用熱交換器のフィン材として好適に用いられるが、フィン材間の結露等を防止する用途であれば、空調機用熱交換器に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1〜35及び比較例1〜11
実施例1〜35及び比較例1〜11では、アルミニウム板に第1層として下地被膜層を形成し、更にその上に親水性被覆層を形成したアルミニウム塗装板を製造した。下地被膜層及び親水性被覆層の成分組成、下地被膜層及び親水性被覆層の形成量であって金属換算したジルコニウム量で表わした形成量、ならびに、rとして示した(下地被膜層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)/(親水性被覆層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)を、実施例1〜35について表1に、比較例1〜11について表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
下地被膜層及び親水性被覆層は以下のようにして形成した。アルミニウム板(1100−H24材、0.100mm厚さ)を弱アルカリ脱脂し、水洗した後に乾燥した。次いで、このようにして処理したアルミニウム板表面に、表1、2に示す下地被膜層の塗料組成物をロールコーターにて塗布し、到達板表面温度(PMT)250℃で20秒間焼付けし、金属換算したジルコニウムとして所定量の下地被膜層を形成した。この下地処理アルミニウム板に、表1、2に示す親水性被覆層の塗料組成物をロールコーターにて塗布し、PMT200度で20秒間焼付けし、金属換算したジルコニウムとして所定量の親水性被覆層を形成した。
【0061】
このようにして製造した、下地被膜層と親水性被覆層とを備えたアルミニウム塗装板の親水性、耐湿性、耐食性、成形性及びホルムアルデヒド除去性を以下の方法で測定した。実施例1〜35についての結果を表3に、比較例1〜11についての結果を表4に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
〔親水性〕
アルミニウム塗装板を流量が1リットル/分の水道水に8時間浸漬した後、80℃で16時間乾燥する工程を1サイクルとして20サイクル行ない、ゴニオメーターで純水の接触角を測定した。また、接触角を測定したアルミニウム塗装板にテープを貼り、親水性被覆層の剥離の有無を観察した。評価結果である表中の記号の意味は以下の通りであり、◎及び○を性能を満足する合格とした。
◎:接触角が10°以下であり非常に良好であることを示す。
○:接触角が10゜を越え、かつ20°以下であり、良好であることを示す。
△:接触角が20゜を越え、かつ40゜以下であり、不良であることを示す。
×:接触角が40゜を越え非常に不良であることを示す。
また、剥離試験においては、親水性被覆層の剥離が生じない場合を○とし、剥離が生じた場合を×とした。
【0065】
〔耐湿性〕
得られたアルミニウム合金塗装板を49℃±1℃、相対湿度95%以上の雰囲気に500時間曝し、塗膜の変色面積率を下記基準に基づいて評価した。◎及び○を性能を満足する合格とした。
◎:変色面積率 10%未満
○:変色面積率 10〜25%未満
△:変色面積率 25〜50%未満
×:変色面積率 50〜100%
【0066】
〔耐食性〕
JIS Z2371に基づき、SST480時間行い、レイティングナンバー(L.N.)により耐食性を測定した。L.N.が9以上を合格とした。
【0067】
〔成形性〕
実機フィンプレスにてドローレス成形を実施した状況で評価した。成形条件は、揮発性プレスオイルとしてAF−2C(出光興産)を使用し、しごき率58%、成形スピード250spmであった。下記基準に基づいて成形性を評価した。ここで、◎及び○を性能を満足する合格とした。
◎:良好 (カラー部内面に傷、焼付けが全く見られない)
○:概ね良好 (カラー部内面に軽微な傷、焼付けが見られるもの実使用に問題なし)
×:不良 (カラー部内面に激しく傷、焼付けがあり、座屈、カラー飛びも発生)
なお、各層の密着性は、この成形性を示す一つの因子と考えられる。
【0068】
ホルムアルデヒド除去性
1.ホルムアルデヒド吸着性
ホルムアルデヒド雰囲気の容器中に各アルミニウム塗装板を配置し、ホルムアルデヒドを吸着させた後の容器内のホルムアルデヒド濃度(Ca)を測定した。Caは未吸着のホルムアルデヒド量に対応する濃度である。下記のホルムアルデヒド初期濃度(15ppm)から上記ホルムアルデヒド濃度Caを差し引いた濃度(Cb)が、アルミニウム塗装板によるホルムアルデヒド吸着量に対応する濃度である。ここで、アルデヒド吸着率として、(Cb/15)×100(%)として求めた。
試料の面積 :100×200 mm
試料容器 :5リットルデシケータ
容器のガス量:5リットル
ガス初期濃度:ホルムアルデヒド 15ppm
ガス測定方法:ホルムアルデヒド検知管
試験室温度 :20℃
測定時間 :24時間
【0069】
評価基準は、以下のとおりである。
◎:吸着率75〜100%
○:吸着率50〜75%未満
×:吸着率0〜50%未満
【0070】
2.ホルムアルデヒド定着性
大気雰囲気の容器中にホルムアルデヒドを吸着した各アルミニウム塗装板を配置し、ホルムアルデヒドを脱着させた後の容器内のホルムアルデヒド濃度(Cc)を測定した。上記ホルムアルデヒド濃度Cbから上記ホルムアルデヒド濃度Ccを差し引いた濃度(Cd)が、アルミニウム塗装板によるホルムアルデヒド定着量に対応する濃度である。したがって、ホルムアルデヒドの定着率(%)は、(Cd/Cb)×100で表わされる。
試料の面積 :100×200 mm
試料容器 :5リットルデシケータ
容器のガス量:5リットル
ガス初期濃度:ホルムアルデヒド 0ppm
ガス測定方法:ホルムアルデヒド検知管
試験室温度 :20℃
測定時間 :24時間
【0071】
評価基準は、以下のとおりである。
◎:定着率75%以上〜100%
○:定着率50%以上〜75%未満
△:定着率25以上〜50%未満
×:定着率25%未満
【0072】
実施例36〜45
表5に示すように、実施例36〜45では親水性被覆層に烏龍茶成分を含有させ、このうち実施例40〜45では、烏龍茶成分に加えて緑茶成分及び紅茶成分の少なくともいずれか一方を含有させた。実施例1〜35と同様に、アルミニウム板に第1層として下地被膜層を形成し、更にその上に親水性被覆層を形成したアルミニウム塗装板を製造して諸特性を評価した。結果を表6に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
【表6】

【0075】
なお、烏龍茶成分、緑茶成分及び紅茶成分は、表7の成分にて調整された抽出液であり、それぞれの烏龍茶抽出液、緑茶抽出液及び紅茶抽出液は、Aは市販の烏龍茶抽出液であり、Bは市販の烏龍茶葉からの抽出液成分であり、緑茶Aは、市販の緑茶抽出液成分であり、緑茶Bは市販の緑茶葉からの抽出液成分であり、紅茶Aは市販の紅茶葉からの抽出液を使用した。(緑茶A+紅茶A)は、緑茶Aと紅茶Aを50重量%ずつ加えたものである。それぞれの成分は、高速液体クロマト法により測定した。
【0076】
【表7】

【0077】
実施例46〜50
表8に示すように、実施例46〜50では、親水性被覆層の上にポリエチレングリコールを含有する潤滑性被膜層を更に形成した。このうち実施例49、50では、親水性被覆層に烏龍茶成分と緑茶成分を含有させた。潤滑性被膜層は、以下のようにして形成した。実施例1〜35と同様の焼付けによって下地被膜層を形成し、その上に、親水性被覆層の塗料組成物と潤滑性被膜層の塗料組成物との混合塗料組成物をロールコーターにて塗布した。次いで、PMT200度で20秒間焼付けして、下地被膜層上に、親水性被覆層と潤滑性被膜層とから成る分離した2層を同時に形成した。このような分離した2層は、下地被膜層上に形成された親水性被覆層と、親水性被覆層上に形成された潤滑性被膜層とから成る。このようにして得られたアルミニウム塗装板の諸特性を評価した。結果を表9に示す。
【0078】
【表8】

【0079】
【表9】

【0080】
表3、6及び9に示すように本発明に係る実施例1〜50は、いずれも長期に亘る親水性、耐湿性、耐食性及び成形性に優れ、例えば熱交換器用のプレコートアルミニウムフィン材として十分な効果を発揮している。
これら実施例の中でも、烏龍茶抽出物A又はBを含有する本発明例36〜45、49及び50は、ホルムアルデヒド吸着性に優れている。その中でも、緑茶成分及び紅茶成分の少なくともいずれか一方を含有している40〜45は、ホルムアルデヒド定着性に優れている。
また、実施例46〜50では、第3層としてポリエチレングリコールを含有する潤滑層を形成しているため、成形性に優れている。実施例49及び50は、親水性被覆層に烏龍茶成分と緑茶成分を含有するので、ホルムアルデヒド除去性を含む全ての評価項目において優れていた。また、実施例50では、下地被膜層に着色剤(黄色顔料)を樹脂100重量部に対して5重量部含有させたので、着色性も付与できた。
【0081】
これに対し、表4に示すように、比較例1では、下地被膜層が形成されていないため、親水性、耐湿性、耐食性において満足できなかった。
比較例で2は、下地被膜層として化成処理によるリン酸クロメート皮膜を用いたため、親水性被覆層とのバランスが悪く、長期に亘る親水性試験を行なうと剥離が生じ、一部脱落したため、親水性を満足できなかった。
比較例3では、親水性被覆層を設けなかったため、親水性を得ることができなかった。
比較例4では下地被膜層にジルコニウム化合物を含有せず、親水性、耐食性及び耐湿性を満足できなかった。比較例5では下地被膜層のジルコニウム化合物の含有量が少なかったため、層剥離性は満足できたが接触角は満足できず、また、耐湿性も満足できなかった。なお、比較例4及び5では、親水性被覆層との密着性が確保できず、耐湿性試験を行なうと、切断端面より水が浸透して変色を生じてしまった。
比較例6では、下地被膜層の形成量が少な過ぎたため、耐湿性及び耐食性を満足することはできなかった。
比較例7では親水性被覆層にジルコニウム化合物が含有されず、比較例8では親水性被覆層に含有されるジルコニウム化合物が少な過ぎたため、いずれにおいても長期親水性試験にて、溶解・脱離し、親水性を満足することはできなかった。
比較例9では、親水性被覆層の形成量が少な過ぎたため、下地被膜層を完全に覆うことができず、接触角の点で親水性を満足することはできなかった。
比較例10では、(下地被膜層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)/(親水性被覆層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)を示す比率rが小さ過ぎたため、浸透した水による腐食を促進させ、耐湿性を満足することができなかった。
比較例11では、上記比率rが大き過ぎたため、親水性を満足することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の親水性塗料組成物を用いて、親水性、耐湿性、耐食性、成形性及びホルムアルデヒド除去性において優れた性能を発揮する層を表面に備えるアルミニウム塗装板が得られ、さらにこのアルミニウム塗装板を加工成形することにより得られる、例えば空調機の熱交換用のプレコートアルミニウムフィン材を用いた熱交換器は長期に亘って優れた熱交換効率を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板の少なくとも一方の表面に形成した下地被膜層と、当該下地被膜層上に形成した親水性被覆層とを含むアルミニウム塗装板であって、
前記下地被膜層が、樹脂100重量部に対して金属換算したジルコニウム1〜50重量部の割合で樹脂及びジルコニウム化合物を含有し、
前記親水性被覆層が、樹脂100重量部に対して、コロイダルシリカ25〜400重量部と、金属換算したジルコニウム0.5〜25重量部の割合で、樹脂とコロイダルシリカとジルコニウム化合物とを含有し、
(前記下地被膜層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)/(前記親水性被覆層中における樹脂に対する金属換算したジルコニウムの重量比)が、0.1〜5であり、
前記下地被膜層が金属換算したジルコニウム量で2〜100mg/m形成され、かつ、前記親水性被覆層が金属換算したジルコニウム量で1〜40mg/m形成されることを特徴とするアルミニウム塗装板。
【請求項2】
前記下地被膜層に含有される樹脂が、エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくともいずれか一方を含む、請求項1に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項3】
前記親水性被覆層に含有される樹脂が、アクリル系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくともいずれか一方を含む、請求項1又は2に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項4】
前記親水性被覆層が、樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部の割合で烏龍茶成分を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項5】
前記親水性被覆層が、樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部の割合で緑茶成分及び紅茶成分の少なくともいずれか一方を更に含有する、請求項4に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項6】
前記親水性被覆層上に、ポリエチレングリコール系樹脂を含有し当該樹脂量で0.05〜3g/mの潤滑性被膜層が形成された、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板を用いたプレコートアルミニウムフィン材。

【公開番号】特開2007−7914(P2007−7914A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189256(P2005−189256)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】