説明

アンチロックブレーキ制御装置

【課題】ABS制御を実行する車輪の回転速度のみに基づいて、実際の路面状態に沿ったABS制御を実行することができるアンチロックブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】アンチロックブレーキ制御手段65は、検知された回転速度Vに基づいて算出された前輪減速度Gが第1スリップ検出閾値G1を超えることで前輪WFのロック状態を判定すると共に、乗員の操作により生じているブレーキ圧を開放制御してロック状態を解消する。ブレーキ圧の開放制御に伴って前輪WFの回転が復帰する際に発生する復帰加速度Gfに基づいて、少なくとも路面摩擦の大きさに起因すると共に自動二輪車1の停止しやすさの指標となる推定減速度Gsを導出する路面摩擦推定手段66を具備する。アンチロックブレーキ制御手段65は、推定減速度Gsに応じて目標前輪回転車速Vmを算出し、ABS制御中は回転速度Vが目標前輪回転速度Vmに収束するようにブレーキ圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチロックブレーキ制御装置に係り、特に、アンチロックブレーキ制御を実行する車輪の回転速度のみに基づいて適切なアンチロックブレーキ制御を実行することができるアンチロックブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、乗員のブレーキ操作に伴う車輪のロック状態を検知した際に、車輪のロック状態の継続を回避するため、ソレノイドバルブのオンオフ駆動等により、ブレーキ圧(ブレーキ制動力)の開放と保持とを繰り返すようにしたアンチロックブレーキ制御装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、アンチロックブレーキ制御を実行する車輪の回転速度のみに基づいて車輪のロック状態を判定すると、車輪の回転速度が予め定められた目標減速度に収束するようにブレーキ圧を制御するようにしたアンチロックブレーキ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−200055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、ロック判定を行う車輪とは別の車輪の速度を検出し、比較してロック判定を行う過去のアンチロック制御とは異なり、自らの車輪速のみでロック判定を行うものであるので、車輪速センサの数を少なくすることができる一方で、車両の速度が検出できないため、アンチロックブレーキ制御中の目標減速度を予め想定された路面摩擦係数等に基づいて設定しているため、実際の路面の摩擦係数が予め想定された値より高かったり低かったりした場合には、アンチロックブレーキ制御中の制動効率が低下する可能性があった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、アンチロックブレーキ制御を実行する車輪の回転速度のみに基づいて、実際の路面状態に沿ったアンチロックブレーキ制御を実行することができるアンチロックブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、車両(1)の車輪(WF)の回転速度(V)を検知する前輪回転速度センサ(54)と、前記検知された回転速度(V)に応じて前記車輪(WF)のブレーキ装置のブレーキ圧を制御して前記車輪(WF)のロック状態を解消するアンチロックブレーキ制御を実行するアンチロックブレーキ制御手段(65)とを備えるアンチロックブレーキ制御装置において、前記アンチロックブレーキ制御手段(65)は、前記検知された回転速度(V)に基づいて算出された減速度(G)が所定値(G1)を超えることで前記前輪(WF)のロック状態を判定すると共に、乗員の操作に応じて発生しているブレーキ圧を開放制御してロック状態を解消し、前記ブレーキ圧の開放制御に伴って前記前輪(WF)の回転が復帰する際に発生する復帰加速度(Gf)に基づいて、少なくとも路面摩擦の大きさに起因すると共に前記車両(1)の停止しやすさの指標となる推定減速度(Gs)を導出する路面摩擦推定手段(66)を具備し、前記アンチロックブレーキ制御手段(65)は、前記推定減速度(Gs)に応じて目標前輪回転車速(Vm)を算出し、前記アンチロックブレーキ制御中は、前記回転速度(V)が前記目標前輪回転速度(Vm)に収束するように前記ブレーキ圧を制御する点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記アンチロックブレーキ制御手段(65)は、ブレーキ圧の開放と復帰とを繰り返すことで、前記車輪(WF)の回転速度(V)が前記目標前輪回転速度(Vm)に収束するように前記ブレーキ圧を制御する点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記路面摩擦推定手段(66)は、前記復帰加速度(Gf)と推定減速度(Gs)との関係を規定したデータマップに対して前記検知された復帰加速度(Gf)を適用することによって、前記推定減速度(Gs)を導出する点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前記車両(1)は自動二輪車であり、前記車輪速度センサ(54)は、前記自動二輪車の前輪(WF)に設けられている点に第4の特徴がある。
【0011】
また、前記回転速度(V)は、前輪(WF)と同期回転するパルサリング(52)のパルス発生部(53)の通過状態を検知する回転速度センサ(54)によって検出され、前記自動二輪車(1)の後輪(WR)が回転中であるか否かを検知する後輪回転状態検知手段(75)と、前記後輪回転状態検知手段(75)によって前記後輪(WR)の回転が検知されているにも関わらず前記前輪(WF)の回転速度(V)が検知されない場合に、前記パルサリング(52)または回転速度センサ(54)の脱落または前記車両(1)のウィリー状態であると判定する前輪回転速度センサフェール検知手段(76)とを具備する点に第5の特徴がある。
【0012】
また、前記後輪回転状態検知手段(75)は、前記自動二輪車(1)のエンジンが運転中であり、かつ前記自動二輪車(1)の変速機がインギヤ状態であり、かつクラッチが接続状態であることを検知すると、前記後輪(WR)が回転中であると判断する点に第6の特徴がある。
【0013】
また、前記回転速度センサ(54)は、前記パルサリング(52)から同形状のパルス波形を検知する第1回転速度センサ(54a)および第2回転速度センサ(54b)からなる点に第7の特徴がある。
【0014】
さらに、前記第1回転速度センサ(54a)および第2回転速度センサ(54b)は、互いの出力パルスの位相が1/2位相差以外の位置でずれるように配置されている点に第8の特徴がある。
【発明の効果】
【0015】
第1の特徴によれば、アンチロックブレーキ制御手段は、検知された回転速度に基づいて算出された減速度が所定値を超えることで前輪のロック状態を判定すると共に、乗員の操作に応じて発生しているブレーキ圧を開放制御してロック状態を解消し、ブレーキ圧の開放制御に伴って前輪の回転が復帰する際に発生する復帰加速度に基づいて、少なくとも路面摩擦の大きさに起因すると共に車両の停止しやすさの指標となる推定減速度を導出する路面摩擦推定手段を具備し、アンチロックブレーキ制御手段は、推定減速度に応じて目標前輪回転車速を算出し、アンチロックブレーキ制御中は、回転速度が目標前輪回転速度に収束するようにブレーキ圧を制御するので、アンチロックブレーキ制御を実行する車輪の回転速度のみに基づいて、実際の路面状態に応じたアンチロックブレーキ制御を実行することが可能となる。これにより、アンチロックブレーキ制御を実行しない他の車輪に回転速度センサを設ける必要がなくなり、回転速度センサおよびセンサ出力を発生させるためのパルサリングやステー等の部品点数を低減できる。
【0016】
第2の特徴によれば、アンチロックブレーキ制御手段は、ブレーキ圧の開放と復帰とを繰り返すことで、車輪の回転速度が目標前輪回転速度に収束するようにブレーキ圧を制御するので、前輪回転速度を目標値に沿わせることが容易となる。
【0017】
第3の特徴によれば、路面摩擦推定手段は、復帰加速度と推定減速度との関係を規定したデータマップに対して検知された復帰加速度を適用することによって、推定減速度を導出するので、車両の車重や標準タイヤのグリップ特性、路面の標準的な摩擦係数等を考慮して実験等で予め定められたデータマップに基づいて、推定減速度を容易に導出することができる。
【0018】
第4の特徴によれば、車両は自動二輪車であり、車輪速度センサは自動二輪車の前輪に設けられているので、車輪のロック時に車体の安定性が失われやすい前輪にアンチロックブレーキ制御を適用し、安定性を高めた自動二輪車を得ることができる。
【0019】
第5の特徴によれば、回転速度は、前輪と同期回転するパルサリングのパルス発生部の通過状態を検知する回転速度センサによって検出され、自動二輪車の後輪が回転中であるか否かを検知する後輪回転状態検知手段と、後輪回転状態検知手段によって後輪の回転が検知されているにも関わらず前輪の回転速度が検知されない場合に、パルサリングまたは回転速度センサの脱落または車両のウィリー状態であると判定する前輪回転速度センサフェール検知手段とを具備するので、通常、一方の車輪にのみ回転速度センサが設けられている構成の場合、センサ出力がない原因が回転速度センサ関係のフェールであるか否かを判別できないが、後輪回転状態検知手段を有することで、後輪回転速度センサを有していなくてもフェール状態であることを検知することができる。
【0020】
第6の特徴によれば、後輪回転状態検知手段は、自動二輪車のエンジンが運転中であり、かつ自動二輪車の変速機がインギヤ状態であり、かつクラッチが接続状態であることを検知すると後輪が回転中であると判断するので、後輪の回転速度を検知するセンサを有しない場合でも、後輪が回転中であるか否かを推測検知して、回転速度センサ関係のフェールによりセンサ出力が出ない状態であることを判別することができる。
【0021】
第7の特徴によれば、回転速度センサは、パルサリングから同形状のパルス波形を検知する第1回転速度センサおよび第2回転速度センサからなるので、2つの回転速度センサを位置をずらして配置することで、センサ出力信号の分解能を高めることが可能となる。例えば、パルサリングのパルス発生部としての凹部や貫通孔の数を増やして分解能を高めるようとするとパルサリングの強度が低下する可能性があるが、センサを2つとすることで、パルサリングの強度を下げることなく分解能のみを高めることができる。また、一方のセンサに故障等が生じた際にもABS制御を継続することができる。
【0022】
第8の特徴によれば、第1回転速度センサおよび第2回転速度センサは、互いの出力パルスの位相が1/4位相差以外の位置でずれるように配置されているので、2つの回転速度センサを近接配置することができ、回転速度センサの取り付け部分の大型化を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るアンチロックブレーキ制御装置を適用した自動二輪車の側面図である。
【図2】実施形態に係るアンチロックブレーキ制御装置およびその周辺機器の構成を示すブロック図である。
【図3】前輪の油圧ディスクブレーキ装置の構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態に係るアンチロックブレーキ制御の流れを示すタイムチャートである。
【図5】実施形態に係るABS制御の手順を示すフローチャートである。
【図6】前輪復帰加速度と推定減速度との関係を示すデータマップである。
【図7】ABS作動判断処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】前輪回転速度センサ脱落診断処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】パルサリングの一部拡大図である。
【図10】回転速度センサのセンサ出力から得られるパルス波形を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るアンチロックブレーキ制御装置を適用した自動二輪車1の側面図である。自動二輪車1は、車体前後方向に延びる1本のメインフレーム(モノバックボーンフレーム)2を有する。メインフレーム2の前端部に設けられたヘッドパイプ5には、不図示のステアリングステムが回動自在に軸支されている。該ステアリングステムには、前輪WFを回転可能に軸支する左右一対のフロントフォーク13が、トップブリッジ11およびボトムブリッジ12を介して回動自在に取り付けられている。前輪WFは、トップブリッジ11の上部に取り付けられたハンドルバー14によって操舵可能とされる。
【0025】
中空構造のメインフレーム2は、プレス鋼板で形成された上側部材と下側部材とを車体上下方向でスポット溶接することで形成されている。また、メインフレーム2の前方には、車幅方向中央で下方に延びる前側エンジンハンガ7が取り付けられている。プレス鋼板で形成される前側エンジンハンガ7は、その上縁部をメインフレーム2の下側部材に車幅方向でスポット溶接することでメインフレーム2に接合されている。前側エンジンハンガ7の下端部には、エンジンマウント10が設けられている。
【0026】
前側エンジンハンガ7の後方には、車幅方向中央で下方に延びる後側エンジンハンガ6が取り付けられている。また、ピボット軸30の周囲で、後側エンジンハンガ6の車幅方向外側には、左右一対のリヤクッションユニット支持フレーム8がスポット溶接によって接合されている。リヤクッションユニット支持フレーム8は、シートフレーム9の後端部まで延びる形状とされており、メインフレーム2の上側部材と接合されることでシートフレーム9の下面側を構成する。そして、ピボット軸30の周囲で、リヤクッションユニット支持フレーム8の車幅方向外側には、車幅方向の最も外側でピボット軸30を支持する左右一対のピボットプレート31が取り付けられている。
【0027】
メインフレーム2の後方下部には、後輪WRを回転可能に軸支するスイングアーム32が、ピボット軸30によって揺動自在に軸支されている。スイングアーム32の後部は、リヤクッションユニット34によってシートフレーム9に吊り下げられている。エンジン20の回転動力は、ドライブチェーン33を介して後輪WRに伝達される。
【0028】
ピボット軸30の前方かつメインフレーム2の下方には、エンジン20が配設されている。エンジン20は、シリンダ21およびシリンダヘッド22を有し、該シリンダヘッド22の後方に、燃料噴射装置を含むスロットルボディ25が取り付けられている。スロットルボディ25の後方には、エアクリーナボックス24が接続されている。スロットルボディ25の車幅方向左側には、燃料を濾過する二次燃料フィルタ26が配設されており、エアクリーナボックス24の車幅方向左側には、バッテリ23が配設されている。また、エンジン20の前方側には、エンジン20の燃焼ガスを車体後端部に配設されたマフラ28に導く排気管27が取り付けられている。
【0029】
エンジン20には、クランクシャフトに近接配置されてエンジン回転速度を検知するエンジン回転速度センサ62が設けられている。また、エンジン20には、シフトドラムの回転位置に基づいて変速機のニュートラル状態を検知するニュートラルスイッチ(ニュートラルSW)63が設けられている。ハンドルバー14の左側には、エンジン20のクラッチを断接操作するクラッチレバー60が設けられている。クラッチレバー60の基部には、クラッチレバー60の操作状態を検知するクラッチスイッチ(クラッチSW)61が設けられており、このクラッチSW61の出力信号に基づいて、クラッチの断接状態が推測検知されるように構成されている。
【0030】
ヘッドパイプ5の前方側には、正面視略円形の前照灯17が左右一対のライトステー18によって配設されている。ライトステー18と一体のメータ支持ステー16には、メータ装置15が支持されている。また、前輪WFの上方にはフロントフェンダ19が配設されている。メインフレーム2の上部には燃料タンク36が配設され、その後方にはシート37が取り付けられている。メインフレーム2と一体に形成されるシートフレーム9の後端部には、シートカウル39、尾灯装置40、リヤフェンダ41が支持されている。
【0031】
前輪WFには、ブレーキディスク50およびブレーキキャリパ51からなる油圧ディスクブレーキ装置が備えられている。この油圧ディスクブレーキ装置は、ハンドルバー14の右側に取り付けられた前輪ブレーキレバー(不図示)を乗員が操作することにより、第1油圧ホース55に満たされたブレーキ液の圧力が高められ、これにより、ブレーキキャリパ51に保持されているブレーキパッドがブレーキディスク50に押し当てられて前輪WFの制動力が生じるように構成されている。
【0032】
フロントフォーク13には、前輪WFの回転速度を検知するための前輪回転速度センサ54が固定されている。一方、ブレーキディスク50の内側には、ブレーキディスク50に固定されて同期回転するパルサリング52が配設されている。パルサリング52にはパルス発生部としての貫通孔53が等間隔に複数形成されており、前輪回転速度センサ54は、パルサリング52と所定の隙間を有するように近接配置されて、非接触で貫通孔53の通過状態を検知する。本実施形態では、パルサリング52の貫通孔53の数を増やすことなくセンサ出力の分解能を高めると共に、万一の故障時のフェールセーフを図るため、回転速度センサ54が第1前輪回転速度センサ54aおよび第2前輪回転速度センサ54bからなる2つの同一部品で構成されている。
【0033】
自動二輪車1は、前輪回転速度センサ54によって検知された前輪回転速度に基づいて乗員のブレーキ操作に伴う前輪WFのロック状態を検知すると、前輪WFのロック状態が継続することを回避するために、ブレーキ圧(ブレーキ液圧)の開放と保持とを繰り返すことでブレーキ制動力のオンオフを繰り返すアンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御と示すこともある)を実行するように構成されている。本実施形態では、前輪WF側にのみアンチロックブレーキ制御装置が適用されている。
【0034】
シートフレーム9の上面には、燃料噴射装置や点火装置等を制御するFI−ECU38が配設されており、このFI−ECU38の車体前方には、前輪WFのアンチロックブレーキ制御を実行するABS−ECU64が配設されている。
【0035】
図2は、本実施形態に係るアンチロックブレーキ制御装置およびその周辺機器の構成を示すブロック図である。また、図3は、前輪WFの油圧ディスクブレーキ装置の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。
【0036】
第1前輪回転速度センサ54aおよび第2前輪回転速度センサ54bからなる前輪回転速度センサ54のセンサ出力は、ABS−ECU64に入力される。ABS−ECU64は、前輪回転速度センサ54のセンサ出力に基づいてアンチロックブレーキ制御を実行するアンチロックブレーキ制御手段65と、前記アンチロックブレーキ制御に用いられる車体の推定減速度を検知する路面摩擦推定手段66と、前輪回転速度センサ54のフェール状態を検知する前輪回転速度センサフェール検知手段67とを備える。
【0037】
アンチロックブレーキ手段65は、乗員のブレーキ操作によって走行中に前輪WFがロック状態となった場合に、油圧ディスクブレーキ装置に備えられるソレノイドバルブ57を駆動することでアンチロックブレーキ制御を実行する。ソレノイドバルブ57は、第1ソレノイドバルブ57aおよび第2ソレノイドバルブ57bからなる。
【0038】
メータ装置15には、アンチロックブレーキ制御装置の作動状態を報知するABS作動インジケータ73およびアンチロックブレーキ制御装置にフェールが生じた際に点灯するABSフェールインジケータ74が設けられている。ABS−ECU64の指令に応じて点灯する各インジケータの作動条件は後述する。
【0039】
FI−ECU38には、燃料噴射装置71を制御する燃料噴射装置制御手段73、点火装置72を制御する点火装置制御手段74のほか、自動二輪車1の後輪WRが回転中であるか否かを検知する後輪回転状態検知手段75が設けられている。この後輪回転状態検知手段75は、クラッチが接続状態とされることでクラッチSW61がオンとなり、かつ変速機がニュートラル以外のインギヤ状態とされることでニュートラルSW63がオフとなり、かつエンジン回転数センサ62が所定値以上のエンジン回転数が検知された場合に、後輪WRが回転中であると判定するように構成されている。
【0040】
図3を参照して、本実施形態に係る油圧ディスクブレーキ装置は、油圧経路内に第1ソレノイドバルブ57aおよび第2ソレノイドバルブ57bを備えている。両ソレノイドバルブ57a,57bは、アンチロックブレーキ制御が実行されない通常動作時にはいずれもオフ状態(図3に示す状態)とされている。この状態で前輪ブレーキレバーが操作されると、該前輪ブレーキレバーに連動するマスタシリンダ56によって生じた油圧が、第2油圧ホース55aから第1ソレノイドバルブ57aを通過して第1油圧ホース55およびキャリパ51に伝達される。このとき、オフ状態の第2ソレノイドバルブ57bは、第3油圧ホース55bとの間を閉鎖している。
【0041】
一方、両ソレノイドバルブ57a,57bが駆動される、すなわち、オン状態とされた場合には、第1ソレノイドバルブ57aが油路を閉鎖すると共に、第2ソレノイドバルブ57bが油路を連通状態とする。これにより、マスタシリンダ56によって生じた油圧がブレーキキャリパ51に伝達されなくなると共に、破線矢印で示すように、第1油圧ホース55のブレーキ液が第2ソレノイドバルブ57bを介して第3油圧ホース55bに流入し、油圧が低減することとなる。そして、両ソレノイドバルブ57a,57bは、後述する所定条件が満たされるとオフ(停止)状態に戻され、再度、マスタシリンダ56で生じた油圧がブレーキキャリパ51に伝達されるようになる。
【0042】
モータMによって駆動されるポンプ59は、アンチロックブレーキ制御持に第3油圧ホース55bを介してリザーバータンク58に戻るブレーキ液を、第2油圧ホース55a側に環流させる機能を有する。
【0043】
図4は、本実施形態に係るアンチロックブレーキ制御の流れを示すタイムチャートである。本発明に係るアンチロックブレーキ制御装置は、アンチロックブレーキ制御中の油圧制御の指標となる目標車速を、予め定められた値とするのではなく、前輪回転速度センサ54で検知されるセンサ出力に基づいて算出する点に特徴がある。具体的には、アンチロックブレーキ制御中にブレーキ油圧を開放した際に生じる前輪WFの加速度(復帰加速度)Gに基づいて、路面の整地状態やタイヤの摩耗度等に応じて変化する車体の止まりやすさを検知し、この検知結果を目標車速の算出に反映させるように構成されている。
【0044】
このタイムチャートでは、上から順に、前輪回転速度V、前輪加速度G、ソレノイドバルブの駆動状態をそれぞれ表示しており、乗員のブレーキ操作により前輪WFがロック状態となり、アンチロックブレーキ制御が実行される際の流れを示している。
【0045】
本実施形態では、前輪WFの加速度Gに基づいて、前輪WFがロック状態に至ったことを判定するように構成されている。時刻t1では、走行中からのブレーキ操作による最初のスリップ(1次スリップ)によって、前輪加速度Gが予め定められた1次スリップ検出閾値G1を下回ったことが検知される、換言すれば、前輪WFの負の加速度(減速加速度)の絶対値が予め定められた所定値を超えたことが検知される。これにより、アンチロックブレーキ制御手段65は、前輪WFがロック状態に至ったものと判定する。
【0046】
次に、時刻t1から予め定められた所定時間T1が経過した時刻t2では、ソレノイドバルブ54がオフからオンに切り換えられ、これにより、ブレーキ液圧が開放される(図示フキダシA)。
【0047】
時刻t2でのブレーキ液圧の開放に伴い、前輪WFは、路面との摩擦力により連れ回されて加速(1次復帰)する。この1次復帰時の前輪加速度Gfは、路面状態、タイヤの摩耗度および空気圧、路面接地圧等に応じて変動するものであり、本実施形態では、この1次復帰の際に検知される前輪復帰加速度Gf(1次復帰加速度Gf1)に基づいて、少なくとも路面摩擦に起因すると共に車体の止まりやすさの指標となる、車体の推定減速度Gsを導出する。
【0048】
推定減速度Gsは、図6に示すように、前輪復帰加速度Gfと推定減速度Gsとの関係を示すデータマップを用いて導出される。予め実験等で定められたこのデータマップは、路面摩擦推定手段66に収納されている。そして、導出された推定減速度GsおよびABS制御に突入する際の車速等に基づいて、ABS制御中の車体の目標車速が算出される。なお、目標車速が算出されると、前輪WFの外径寸法をパラメータとして、目標前輪回転速度Vmに換算される。
【0049】
時刻t3では、前輪回転速度Vが、1次復帰に伴って目標前輪回転速度Vmに到達したことに応じて、ソレノイドバルブ54がオフに切り換えられる。これにより、ブレーキ液圧が復帰して前輪WFに再度制動力が発生する(図示フキダシB)。
【0050】
次に、時刻t4では、時刻t3で発生した制動力によって前輪WFが再びロック状態に近づき、前輪WFの前輪加速度Gが2次スリップ検出閾値G2を下回ったことが検知されることで、ブレーキ液圧が開放される。この2次スリップ検出閾値G2も、1次復帰に伴って導出された推定減速度Gsに基づいて、図6のデータマップと同様のデータマップから導出される。
【0051】
そして、前輪WFは、時刻t4でのブレーキ液圧の開放に伴い、路面との摩擦力により連れ回されて加速(2次復帰)する。アンチロックブレーキ制御手段65は、この2次復帰の際に検知される前輪復帰加速度Gf(2次復帰加速度Gf2)に基づいて、再度、推定減速度Gsを算出し、目標前輪回転速度Vmおよび2次スリップ検出閾値を補正するように構成されている。
【0052】
以降のアンチロックブレーキ制御は、時刻t5で復帰、時刻t6で開放、時刻t7で復帰、時刻t8で開放、時刻t9で復帰、時刻t10で開放、時刻t11で復帰…と、前輪WFのロック状態が発生しなくなるまでブレーキ液圧の開放と復帰とを繰り返すサイクリック制御によって実行される。そして、ブレーキ液圧の2次復帰時に2次復帰加速度Gf2が検知されるたびに、目標前輪回転速度Vmおよび2次スリップ検出閾値G2の補正が実行されることとなる。
【0053】
図5は、本実施形態に係るABS制御の手順を示すフローチャートである。ステップS1では、1次スリップ検出フラグ=1、すなわち、1次スリップ検出フラグが立っているか否かが判定される。ステップS1で否定判定されると、ステップS2に進み、前輪減速度(負の前輪加速度)Gが1次スリップ検出閾値G1を超えたか否かが判定される。
【0054】
ステップS2で肯定判定されると、ステップS3に進み、1次スリップ検出フラグが1に設定される。次に、ステップS4で所定時間待機すると、ステップS5において、ソレノイドバルブ54(図2,3参照)が駆動(オン)されて、最初のブレーキ液圧の開放制御が実行される。なお、前記ステップS2で否定判定されると、そのまま一連の制御を終了する。
【0055】
ステップS1で肯定判定される、すなわち、1次スリップ検出フラグが1である場合は、ステップS6に進んで、2次スリップ検出待ちフラグ=1、すなわち、2次スリップ検出待ちフラグが立っているか否かが判定される。ステップS6で否定判定されると、ステップS7で前輪WFの復帰加速度Gfが算出され、続くステップS8において、この復帰加速度Gfおよびデータマップを用いて推定減速度Gsが導出される。
【0056】
ステップS9では、前記導出された推定減速度Gsに基づいて目標車速が算出され、ステップS10では、目標車速に基づいて目標前輪回転速度Vmが算出される。なお、目標車速と目標前輪回転速度Vmとは、互いに前輪外径をパラメータとする換算値であり、推定減速度Gsに基づいて目標前輪回転速度Vmを直接求めることもできる。
【0057】
ステップS11では、2次スリップ検出閾値G2が算出される。ステップS12では、前輪回転速度Vが目標前輪回転速度Vmを超えたか否かが判定され、肯定判定されるとステップS16に進んでソレノイドバルブ54を停止、すなわち、ブレーキ液圧を復帰させて、一連の制御を終了する。なお、ステップS12で否定判定されると、そのまま制御を終了する。
【0058】
前記ステップS6で肯定判定される、すなわち、2次スリップ検出待ちフラグ=1である場合には、ステップS13に進む。ステップS13では、2次スリップ検出フラグ=1、すなわち、2次スリップが検出されて、2次スリップ検出フラグが立っているか否かが判定され、否定判定されると、ステップS14に進む。
【0059】
ステップS14では、前輪減速度(負の前輪加速度)Gが2次スリップ検出閾値G2を超えたか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS18に進んで2次スリップ検出フラグ=1に設定する。そして、続くステップS19においてソレノイドバルブを駆動(ブレーキ液圧開放)して、一連の制御を終了する。
【0060】
ステップS14で否定判定されると、ステップS15で2次スリップの未検出時間が所定時間以上であるか否かが判定され、肯定判定されると1次スリップ検出フラグを0に設定する、すなわち、1次スリップ検出フラグを下げて一連の制御を終了する。これは、ABS制御を実行中に所定時間以上2次スリップが検出されなかった場合は、自動二輪車1がABS制御を必要とする制動状態ではなくなったと判定して、次回の1次スリップを検知する準備を整えるためである。これにより、乗員が前輪ブレーキをロックするまで握り込んだ場合に、まず、予め定められた1次スリップ検出閾値G1を適用してABS制御に突入させ、その後、制動効率が最も高いスリップ率(例えば、10〜15%)が保持されるように1次スリップ検出閾値G1より小さな減速度に設定された2次スリップ検出閾値G2を適用して、ブレーキ液圧の開放と保持とを繰り返すアンチロックブレーキ制御を実行することができる。なお、ステップS15で否定判定される、すなわち、2次スリップの未検出時間が所定時間未満である場合には、そのまま一連の制御を終了する。
【0061】
前記ステップS13で肯定判定される、すなわち、2次スリップ検知フラグ=1である場合には、ステップS20に進んで目標車速が算出される。前記したように、目標車速は、前輪WFの外径をパラメータとして目標前輪回転速度Vmに換算される。
【0062】
続くステップS21では、前輪回転速度Vが目標前輪回転速度Vmを超えているか否かが判定され、肯定判定されると、ステップS22に進んでソレノイドバルブ54が停止される。続くステップS23では、2次スリップ前輪復帰加速度Gf2が算出される。そして、ステップS24では、2次スリップ前輪復帰加速度Gf2およびデータマップを用いて推定減速度Gsが補正される。
【0063】
ステップS25では、2次スリップ検知フラグ=0に設定する、すなわち、2次スリップ検出フラグが下げられて、一連の制御を終了する。なお、ステップS21で否定判定されると、そのまま一連の制御を終了する。
【0064】
図7は、ABS作動判断処理の手順を示すフローチャートである。自動二輪車1のメータ装置15に備えられるABS作動インジケータ73(図2参照)は、アンチロックブレーキ制御装置を非作動とする場合にこの非作動状態を乗員に知らせるために点灯するものであり、通常走行中におけるアンチロックブレーキ制御に突入可能な作動状態では消灯するように構成されている。ステップS100では、前記後輪回転状態検知手段75(図2参照)によって後輪WRが回転中であるか否かが判断され、肯定判定されるとステップS101に進む。前記したように、後輪回転状態検知手段75は、クラッチが接続状態で、かつ変速機がニュートラル状態で、かつ所定値以上のエンジン回転数が検知された場合に、後輪WRが回転中であると判定するように構成されている。
【0065】
ステップS100で否定判定されると、自動二輪車1が非走行状態であるとしてステップS104に進み、メータ装置15内のABS作動インジケータ73を点灯すると共に、アンチロックブレーキ制御装置を作動停止して、一連の制御を終了する。
【0066】
ステップS101では、前輪回転速度Vを検出したか否か、換言すれば、前輪回転速度センサ54からセンサ出力か出力されたか否かが判定され、否定判定されるとステップS102に進む。ステップS102では、前輪回転速度Vの未検出時間が所定時間Zより大きいか否かが判定され、否定判定されるとABS作動インジケータ73を消灯すると共にABSの作動を開始して、一連の制御を終了する。ステップS102の判定によれば、後輪WRが回転中で前輪回転速度Vが検出されない状態となっても、わずかな時間であれば、ABSの作動を継続することができる。
【0067】
一方、ステップS102で肯定判定されると、後輪WRが回転中に前輪回転速度Vが検出されない時間が長いため、前輪回転速度Vの検出システムに何らかの不具合が発生しているとしてステップS105に進み、ABS作動インジケータ73を点灯すると共にABSの作動を停止して、一連の制御を終了する。
【0068】
前記ステップS101で肯定判定されると、ステップS106に進んで、前輪回転速度Vの未検出から検出開始までの時間が所定時間Yより大きいか否かが判定される。ステップS106で否定判定されると、前輪回転速度Vが検出されたものの検出されるまでの時間が長すぎるため、前輪回転速度Vの検出システムに何らかの不具合が発生したとしてステップS107に進み、ABS作動インジケータ73を点灯すると共にABSの作動を停止して、一連の制御を終了する。
【0069】
一方、ステップS106で肯定判定されると、ステップS108に進んで、ABS作動前診断を実行した上で、ABS作動インジケータ73を消灯すると共にABSの作動を開始して、一連の制御を終了する。
【0070】
図8は、前輪回転速度センサ脱落診断処理の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、第1前輪回転速度センサ54aおよび第2前輪回転速度センサ54bのいずれからもセンサ出力がない場合に実行される。ステップS200では、後輪回転状態検知手段75により、後輪WRが回転中であるか否かが判定され、肯定判定されるとステップS201に進む。
【0071】
ステップS201では、前輪回転速度Vが所定値より小さい状態で所定時間が経過したか否かが判定される。ステップS201で肯定判定されると、ステップS203に進んで、第1前輪回転速度センサ54aおよび第2前輪回転速度センサ54bからのセンサ出力がない原因が、前輪回転速度センサ54の脱落、または、パルサリング52の脱落、または、自動二輪車1がウィリー状態であると確定されて、一連の制御を終了する。これに伴い、ABS−ECU64(図2参照)は、メータ装置15内のABSフェールインジケータ74を点灯して、乗員に前輪回転速度Vの検出システムに不具合が発生したことを報知することができる。なお、ステップS201で否定判定されると、ステップS202で判定未確定とされて、そのまま一連の制御を終了する。
【0072】
図9は、パルサリング52の一部拡大図である。また、図10は、回転速度センサ54のセンサ出力から得られるパルス波形を示す模式図である。前記したように、ブレーキディスク50に固定されて同期回転するパルサリング52は、円環状の鋼板に複数の貫通孔53を等間隔で形成した構成とされる。そして、同一部品からなる第1前輪回転速度センサ54aおよび第2前輪回転速度センサ54bは、図10(a),(b)に示すように、第1前輪回転速度センサ54aおよび第2前輪回転速度センサ54bから出力される同波形のセンサ出力が互いに1/4位相(90度)だけずれるように配置されている。これにより、(a)および(b)の排他的論理和(c)を用いて、前輪回転速度センサ54の分解能を実質的に2倍にすることを可能としている。なお、両センサ54a,54bは、有効な排他的論理和がとれるように、両センサ出力の位相差が1/2(180度)となる位置を除いた任意の位置に配設することができる。
【0073】
上記したように、本発明に係るアンチロックブレーキ制御装置によれば、アンチロックブレーキ制御中にブレーキ液圧を開放した際の車輪の復帰加速度に基づいて推定減速度を導出し、この推定減速度に収束するようにアンチロックブレーキ制御を実行するので、路面の整地状態やタイヤの摩耗度に影響される車体の止まりやすさに合わせて、適切なアンチロックブレーキ制御を実行することが可能となる。
【0074】
なお、ブレーキシステムの構造、ブレーキシステムの油圧ラインやソレノイドバルブの構造、前輪回転速度センサの構造、前輪復帰加速度と推定減速度との関係を示すデータマップ、第1スリップ検出閾値および第2スリップ検出閾値の設定等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、ブレーキシステムは、油圧式シングルディスクのほか、油圧式のダブルディスク式や機械式のドラム式等であってもよい。また、パルサリングは、貫通孔に代えてパルス信号を検出可能な凹凸形状を形成したものとしてもよい。さらに、上記実施形態では、クラッチレバーの操作状態に基づいてクラッチの接続状態を推測検知したが、クラッチレバーの操作に連動して駆動する他の部材にクラッチSWを設けたり、また、油圧クラッチの場合には、油圧ホースの圧力を検知するように構成することもできる。本発明に係るアンチロックブレーキ制御装置は、自動二輪車に限られず、鞍乗型の三/四輪車等の各種車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…自動二輪車(車両)、50…ブレーキディスク、51…ブレーキキャリパ、54…前輪回転速度センサ、54a…第1前輪回転速度センサ、54b…第2前輪回転速度センサ、57…ソレノイドバルブ、57a…第1ソレノイドバルブ、57b…第2ソレノイドバルブ、56…マスタシリンダ、61…クラッチSW、62…エンジン回転数センサ、63…ニュートラルSW、65…アンチロックブレーキ制御手段、66…路面摩擦推定手段、67…前輪回転速度センサフェール検知手段、73…ABS作動インジケータ、74…ABSフェールインジケータ、75…後輪回転状態検知手段、WF…前輪、WR…後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の車輪(WF)の回転速度(V)を検知する前輪回転速度センサ(54)と、前記検知された回転速度(V)に応じて前記車輪(WF)のブレーキ装置のブレーキ圧を制御して前記車輪(WF)のロック状態を解消するアンチロックブレーキ制御を実行するアンチロックブレーキ制御手段(65)とを備えるアンチロックブレーキ制御装置において、
前記アンチロックブレーキ制御手段(65)は、前記検知された回転速度(V)に基づいて算出された減速度(G)が所定値(G1)を超えることで前記前輪(WF)のロック状態を判定すると共に、乗員の操作に応じて発生しているブレーキ圧を開放制御してロック状態を解消し、
前記ブレーキ圧の開放制御に伴って前記前輪(WF)の回転が復帰する際に発生する復帰加速度(Gf)に基づいて、少なくとも路面摩擦の大きさに起因すると共に前記車両(1)の停止しやすさの指標となる推定減速度(Gs)を導出する路面摩擦推定手段(66)を具備し、
前記アンチロックブレーキ制御手段(65)は、前記推定減速度(Gs)に応じて目標前輪回転車速(Vm)を算出し、前記アンチロックブレーキ制御中は、前記回転速度(V)が前記目標前輪回転速度(Vm)に収束するように前記ブレーキ圧を制御することを特徴とするアンチロックブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記アンチロックブレーキ制御手段(65)は、ブレーキ圧の開放と復帰とを繰り返すことで、前記車輪(WF)の回転速度(V)が前記目標前輪回転速度(Vm)に収束するように前記ブレーキ圧を制御することを特徴とする請求項1に記載のアンチロックブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記路面摩擦推定手段(66)は、前記復帰加速度(Gf)と推定減速度(Gs)との関係を規定したデータマップに対して前記検知された復帰加速度(Gf)を適用することによって、前記推定減速度(Gs)を導出することを特徴とする請求項1または2に記載のアンチロックブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記車両(1)は自動二輪車であり、
前記車輪速度センサ(54)は、前記自動二輪車の前輪(WF)に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアンチロックブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記回転速度(V)は、前輪(WF)と同期回転するパルサリング(52)のパルス発生部(53)の通過状態を検知する回転速度センサ(54)によって検出され、
前記自動二輪車(1)の後輪(WR)が回転中であるか否かを検知する後輪回転状態検知手段(75)と、
前記後輪回転状態検知手段(75)によって前記後輪(WR)の回転が検知されているにも関わらず前記前輪(WF)の回転速度(V)が検知されない場合に、前記パルサリング(52)または回転速度センサ(54)の脱落または前記車両(1)のウィリー状態であると判定する前輪回転速度センサフェール検知手段(76)とを具備することを特徴とする請求項4に記載のアンチロックブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記後輪回転状態検知手段(75)は、前記自動二輪車(1)のエンジンが運転中であり、かつ前記自動二輪車(1)の変速機がインギヤ状態であり、かつクラッチが接続状態であることを検知すると、前記後輪(WR)が回転中であると判断することを特徴とする請求項4または5に記載のアンチロックブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記回転速度センサ(54)は、前記パルサリング(52)から同形状のパルス波形を検知する第1回転速度センサ(54a)および第2回転速度センサ(54b)からなることを特徴とする請求項5に記載のアンチロックブレーキ制御装置。
【請求項8】
前記第1回転速度センサ(54a)および第2回転速度センサ(54b)は、互いの出力パルスの位相が1/2位相差以外の位置でずれるように配置されていることを特徴とする請求項7に記載のアンチロックブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−96753(P2012−96753A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248480(P2010−248480)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】