説明

エピタキシャルウェーハの製造方法

【課題】従来の自転回転のみを採用した枚葉式エピタキシャル装置を用いたときに生じていた、回転半径毎に同じような厚さ分布になる成長むらを抑制し、ウェーハ表面に形成されるエピタキシャル層の厚さ分布均一性が向上したエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【解決手段】チャンバ内に設けられた水平状態で回転するサセプタの上に単一の半導体ウェーハを水平に載置し、サセプタを回転させながらチャンバ内に水平方向に流れるように原料ガスを供給して、載置したウェーハの表面にエピタキシャル層を形成する枚葉式エピタキシャル装置を用いたエピタキシャルウェーハの製造方法において、サセプタが水平状態で自転しながら公転することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形成されるエピタキシャル層の厚さ分布均一性を向上し得る、枚葉式エピタキシャル装置を用いたエピタキシャルウェーハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デバイスの露光工程では、ウェーハ表面と光源との距離が、場所によってばらつくと、露光時のピントが合わずに、パターンが設計通りに形成されない部位ができてしまう。このような症状はデフォーカス不良と呼ばれる。このため、ウェーハには、それぞれの品種でのデザインルールを満足する平坦度が要求されている。
【0003】
従来、エピタキシャルウェーハを製造するに際し、箱型形状のチャンバを有し、このチャンバ内に原料ガスが水平方向に流れる構造で、単一のウェーハをエピタキシャル成長する枚葉式エピタキシャル装置が使用されている。このような枚葉式エピタキシャル装置では、チャンバ内に設置されたサセプタの上に単一のウェーハを載置して、チャンバ内を加熱し、チャンバ内に水平方向に流れるように原料ガスを供給することで、サセプタ上に載せたウェーハにエピタキシャル成長するものである。通常、枚葉式エピタキシャル装置では、ウェーハ上に形成されるエピタキシャル層の厚さをできるだけ均一にするために、サセプタを水平状態で回転させることで、ウェーハを回転させながらエピタキシャル成長を行っている。
【0004】
そして、この枚葉式エピタキシャル装置を用いて所望の厚さのエピタキシャル層を形成したエピタキシャルウェーハについて観察すると、例えば、図5に示すような、厚さ分布になるケースが多く見られる。図5のウェーハ内に描いた細線は等高線であり、ウェーハ面内全体の厚さの変化を示したものである。
【0005】
この厚さ分布では、厚さの変化がなだらかな領域と厚さの変化が急激な領域がそれぞれ存在している。特に、ウェーハの中心に位置する領域が所望の厚さよりも厚くなり、外側に向かうにつれてなだらかな変化で薄くなり、外周近傍では所望の厚さよりも薄くなることが確認できる。
【0006】
このようにウェーハ面内の領域によって厚さが異なるのは、ウェーハ上のそれぞれの点は、常に同じ回転半径を回るため、一定したガス流れ、一定した温度分布を保っているエピタキシャル装置内において、ウェーハ中心付近の点では回転による移動速度が小さく、原料ガスとの接触時間がより長くなることからエピタキシャル成長速度が大きくなり、一方、ウェーハ外周付近の点では回転による移動速度が大きく、原料ガスとの接触時間がより短くなることからエピタキシャル成長速度が小さくなるため、ウェーハ面内で成長のむらが生じ、同じ回転半径毎に、同じような厚さ分布になる傾向が高いものと推察される。
【0007】
特に、回転半径が小さい枚葉式エピタキシャル装置では、狭いサイトの中でエピタキシャル層の厚さが急峻に変わりやすく、サイト平坦度が大きく、問題となる。
【0008】
一方、良好な膜厚分布を確保するために、基板上に流れる原料ガスの流通経路を制御し、原料ガスが比較的まっすぐサセプタ上を流れるようにすることで、基板上での均一な流通経路を確保した気相成長装置とそれを用いたエピタキシャルウェーハの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−183511号公報(請求項1、段落[0007],[0042]、図7)
【特許文献2】特開2003−203866号公報(請求項1、段落[0007],[0010],[0044]、図13)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記従来の特許文献1及び2に記載の装置及び方法でも、ウェーハ面内で同じ回転半径毎に、同じような厚さ分布の成長むらが生じてしまい、要求される平坦度をまだ十分に満たすことができないおそれがあった。
【0011】
本発明の目的は、ウェーハ表面に形成されるエピタキシャル層の厚さ分布均一性を向上し得る、枚葉式エピタキシャル装置を用いたエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点は、チャンバ内に設けられた水平状態で回転するサセプタの上に単一の半導体ウェーハを水平に載置し、サセプタを回転させながらチャンバ内に水平方向に流れるように原料ガスを供給して、載置したウェーハの表面にエピタキシャル層を形成する枚葉式エピタキシャル装置を用いたエピタキシャルウェーハの製造方法において、サセプタが水平状態で自転しながら公転することを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に公転半径がウェーハ径の10〜50%であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に自転速度が10〜40rpm、公転速度が5〜40rpmであることを特徴とする。
【0015】
本発明の第4の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に公転が円軌道であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、エピタキシャル成長時にウェーハを載置するサセプタを水平状態で自転しながら公転するような構成としたので、自転と公転を組合せた回転によってウェーハ上のそれぞれの点の位置がずれながら移動していくため、従来の枚葉式エピタキシャル装置のような自転のみの回転に比べて、ウェーハ中心付近と外周付近における原料ガスとの接触時間が均一化され、回転半径毎に同じような厚さ分布になる成長むらが抑制されるため、ウェーハ表面に形成されるエピタキシャル層の厚さ分布均一性が向上したエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の製造方法におけるサセプタに載置したウェーハが自転及び公転する構成を有する概略図である。
【図2】本発明の製造方法におけるサセプタに載置したウェーハが自転及び公転したときの軌跡を示す図である。
【図3】実施例1でのウェーハ中心から外周までのエピタキシャル層の厚さ分布を示す図。
【図4】比較例1でのウェーハ中心から外周までのエピタキシャル層の厚さ分布を示す図。
【図5】従来の自転のみの回転をする枚葉式エピタキシャル装置を用いてエピタキシャル成長したウェーハのエピタキシャル層の厚さ分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
本発明は、エピタキシャル成長により、単一のシリコンウェーハの表面に、エピタキシャル層を形成する、枚葉式エピタキシャル装置を用いたエピタキシャルウェーハの製造方法である。
【0020】
ここで、エピタキシャル層を形成する基材となるシリコンウェーハは、エピタキシャル成長させる装置の大きさ等の実用的な面を考慮すると、直径5〜12インチ(125〜300mm)の大きさが好ましい。また、シリコンウェーハは、オリエンテーションフラット又はノッチを有するものが使用される。
【0021】
本発明の製造方法に使用するエピタキシャル装置は、単一のウェーハをエピタキシャル成長することが可能な枚葉式エピタキシャル装置である。この枚葉式エピタキシャル装置は、箱形形状のチャンバ、単一のウェーハを載置するサセプタ、原料ガスをチャンバ内に供給する原料ガス供給手段、キャリアガスをチャンバ内に供給するキャリアガス供給手段及びチャンバ内を加熱する加熱手段を備えている。サセプタの形状は円盤形状であり、水平状態で自転し、かつ公転するようにチャンバ内に設置される。具体的には、サセプタが水平状態でサセプタ中心と同軸に位置する第1軸を中心に自転し、かつこの第1軸に偏倚した第2軸を中心に公転するように構成される。例えば、図1に示すように、サセプタ11の中心11aと第1軸12とが同軸に位置し、第1軸12の下にこの第1軸12を回転させる第1モーター13が接続され、この第1モーター13が第1軸12に偏倚した第2軸14の公転半径R上に設置され、第2軸14の下にこの第2軸14を回転させる第2モーター15が接続された構成で本発明のサセプタの回転を達成してもよい。第2軸の偏倚は、処理するウェーハの大きさにもよるが、エピタキシャル成長させる装置の大きさ等の実用的な面を考慮すると、第1軸から12〜150mm偏倚させることが好適である。上記範囲の偏倚で公転半径がウェーハ径の10〜50%となる。また、公転は円軌道をとる。また、サセプタには、単一のウェーハがサセプタの中心と同心円状に位置するように、ウェーハを載置する位置に凹みが設けられている。また、原料ガス供給手段からは、原料ガスがチャンバ内に供給され、キャリアガス供給手段からは、キャリアガスがチャンバ内に供給される。原料ガスとしてはSiH2Cl2、SiHCl3、SiH4又はSiCl4等が、キャリアガスとしてはH2が挙げられる。また、原料ガス供給手段及びキャリアガス供給手段のそれぞれの供給口の向きは、供給される原料ガス及びキャリアガスがチャンバ内に水平方向に流れるような向きに固定されている。更に、加熱手段は、チャンバ内を1000〜1200℃まで加熱することが可能な構成となっている。
【0022】
本発明の製造方法を上記構成を有する枚葉式エピタキシャル装置を用いて説明する。
【0023】
先ず、チャンバ内に設けられたサセプタの上に単一のオリエンテーションフラット付きウェーハをサセプタに設けられた凹みに水平に載置する。次いで、チャンバ内をエピタキシャル成長に適した1000〜1200℃の温度範囲に加熱する。
【0024】
次に、ウェーハが載置されたサセプタを水平状態で回転させる。具体的には、第1軸を10〜40rpmの速度で時計回りに回転させてサセプタを第1軸を中心に自転させるとともに、第2軸を5〜40rpmの速度で時計回りに回転させてサセプタを第2軸を中心に公転させる。この自転と公転を組合せた回転により、ウェーハは図2(a)及び図2(b)に示すような軌跡をとり、ウェーハ上のそれぞれの点の位置がずれながら移動していくため、従来の自転のみの回転に比べて、ウェーハ中心付近と外周付近における原料ガスとの接触時間が均一化され、従来の方法で生じていた回転半径毎に同じような厚さ分布になる成長むらを抑制することができる。そして、その状態でチャンバ内に水平方向に流れるように原料ガスとキャリアガスとを一定の割合で供給して、ウェーハの表面にそれぞれ所定の膜厚となるまでエピタキシャル層を形成する。原料ガスとキャリアガスの供給割合は12:88〜30:70が好ましい。
【0025】
以上、本発明の製造方法により、従来の自転回転のみを採用した枚葉式エピタキシャル装置を用いたときに生じていた、回転半径毎に同じような厚さ分布になる成長むらが抑制されるため、ウェーハ表面に形成されるエピタキシャル層の厚さ分布均一性が向上したエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0027】
<実施例1>
先ず、直径6インチ(約150mm)で、オリエンテーションフラットを有する結晶方位が(100)のシリコンウェーハを用意した。
【0028】
また、単一のウェーハをエピタキシャル成長することが可能な枚葉式エピタキシャル装置を用意した。この枚葉式エピタキシャル装置は、チャンバ、単一のウェーハを載置するサセプタ、原料ガスをチャンバ内に供給する原料ガス供給手段、キャリアガスをチャンバ内に供給するキャリアガス供給手段及びチャンバ内を加熱する加熱手段を備える。サセプタは円盤形状であり、水平状態で第1軸を中心に自転し、かつこの第1軸から50mm偏倚した第2軸を中心に公転するようにチャンバ内に設置されている。また、6インチのウェーハが1枚載置可能な大きさを有し、ウェーハがサセプタ中心から同心円状に位置するように、ウェーハを載置する位置に凹みが設けられている。また、原料ガス供給手段及びキャリアガス供給手段のそれぞれの供給口の向きは、供給される原料ガス及びキャリアガスがチャンバ内に水平方向に流れるような向きに固定されている。
【0029】
次に、用意した6インチのウェーハをサセプタ上に載置した。そして、チャンバ内を1000〜1200℃に加熱し、ウェーハが載置されたサセプタの第1軸を15rpmの速度で時計回りに、かつ第1軸から50mm偏倚した第2軸を8rpmの速度で時計回りに水平状態で回転させ、その状態でチャンバ内に水平方向に流れるように原料ガスであるトリクロロシランと水素とをそれぞれ10slmと50slmの割合で供給して、ウェーハの表面に20μmの厚さとなるようにエピタキシャル層を形成して、エピタキシャルウェーハを得た。
【0030】
<比較例1>
従来の水平状態で第1軸を中心に回転するサセプタが設けられた枚葉式エピタキシャル装置を用い、ウェーハが載置されたサセプタの第1軸を15rpmの速度で時計回りに水平状態で回転させた以外は実施例1と同様にしてエピタキシャル層を形成して、エピタキシャルウェーハを得た。即ち、使用した枚葉式エピタキシャル装置には、第1軸に偏倚した第2軸は備えていない。
【0031】
<比較試験1>
実施例1及び比較例1でそれぞれ得られたエピタキシャルウェーハについて、エピタキシャル層の厚さをFTIR(Fourier transform infrared spectroscopy)にて測定した。その結果を図3及び図4にそれぞれ示す。なお、図3及び図4の縦軸は、所望のエピタキシャル層の膜厚20μmを1.000としたときの比で表した。
【0032】
図4から明らかなように、比較例1のエピタキシャルウェーハでは、ウェーハ中心から15mmまでの距離では、膜厚が1.005〜1.015の範囲内と所望の厚さよりも厚く、また厚さ傾斜差が大きくなっていた。膜厚が15mm〜55mmまでの距離では、0.995〜1.005の範囲内とほぼ所望の厚さで推移していたが、膜厚が55〜60mmを越えると0.990〜0.995の範囲内と所望の厚さよりも薄く、また厚さが急激に減少していた。そして、ウェーハ中心から一方の外周の分布とウェーハ中心から他方の外周の分布では、同じような曲線を示していることから、回転半径毎の成長むらが生じていることが確認された。
【0033】
一方、図3から明らかなように、実施例1のエピタキシャルウェーハでは、ウェーハ中心から外周までの膜厚が0.995〜1.005の範囲内にあり、またウェーハ中心から外周まで、極端な厚さの変化は生じておらず、厚みの変化がなだらかであった。
【0034】
以上のことから、本発明の製造方法が、エピタキシャルウェーハの厚さ分布均一性を向上させるのに有効であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に設けられた水平状態で回転するサセプタの上に単一の半導体ウェーハを水平に載置し、前記サセプタを回転させながら前記チャンバ内に水平方向に流れるように原料ガスを供給して、前記載置したウェーハの表面にエピタキシャル層を形成する枚葉式エピタキシャル装置を用いたエピタキシャルウェーハの製造方法において、
前記サセプタが水平状態で自転しながら公転することを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
公転半径がウェーハ径の10〜50%である請求項1記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
自転速度が10〜40rpm、公転速度が5〜40rpmである請求項1記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
公転が円軌道である請求項1記載のエピタキシャルウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−60979(P2011−60979A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208750(P2009−208750)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】