説明

エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料

【課題】 耐熱性、靭性共に優れたエポキシ樹脂組成物と、このエポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグおよび繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】 (A)イソシアネート変性エポキシ樹脂 15〜50質量%、(B)ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂 20〜60質量%、(C)多官能エポキシ樹脂 15〜30質量%、のエポキシ樹脂を含んでなり、(D)ポリアミン系エポキシ樹脂硬化剤を、その活性水素当量数が全エポキシ樹脂のエポキシ当量数に対して1.15倍〜1.50倍となるように添加されたエポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、靭性共に優れた硬化物を得ることのできるエポキシ樹脂組成物、この樹脂組成物を用いたプリプレグおよび繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料用のマトリクス樹脂としてのエポキシ樹脂に
優れた耐熱性と優れた靭性とを同時に具備
させる方法として、従来より(1)2官能エポキシ樹脂と3官能以上の多官能エポキシ樹脂とを混合する方法、(2)多官能エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂組成にエポキシ重量に対し多量の熱可塑性樹脂を配合する方法、が提案されている。(特許文献1参照)
【0003】
しかしながら、方法(1)では耐熱性と靭性とがトレードオフとなり、課題の解決は困難である。また、方法(2)では、比較的高粘度となり、樹脂混合過程が非常に複雑となるうえ、強化繊維への含浸性の低下を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−212320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性、靭性共に優れた硬化物を得ることのできるエポキシ樹脂組成物、このエポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグおよび繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。
(A)イソシアネート変性エポキシ樹脂 15〜50質量%
(B)ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂 20〜60質量%
(C)多官能エポキシ樹脂 15〜30質量%
以上の(A)〜(C)のエポキシ樹脂を含んでなり、(D)ポリアミン系エポキシ樹脂硬化剤を、その活性水素当量数が全エポキシ樹脂のエポキシ当量数に対して1.15倍〜1.50倍となるように添加されたエポキシ樹脂組成物を第1の要旨とする。
【0007】
(C)がテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンであることが好ましく、(D)がジアミノジフェニルスルホンであることが好ましく、さらに、(E)としてエポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、その中では(E)がポリエーテルスルホンであることが特に好ましい。さらに、(F)として揺変剤を含むことが好ましく、その中でもシリカ微粒子であることが好ましい。そして、上述のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸してなるプリプレグを第2の要旨とする。さらに、このプリプレグを成形し、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる繊維強化複合材料を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、耐熱性と靭性共に優れた硬化物を得ることのできるエポキシ樹脂組成物、このエポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグおよび繊維強化複合材料を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の要するところは、(A)イソシアネート変性エポキシ樹脂、(B)ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂、(C)多官能エポキシ樹脂、(D)ポリアミン系エポキシ樹脂硬化剤を特定の比率で用いることにより、優れた耐熱性と靭性とを共に備えたエポキシ樹脂組成物になることを見出したものである。
【0010】
「(A)イソシアネート変性エポキシ樹脂」
(A)イソシアネート変性エポキシ樹脂(以下、(A)という。)は、エポキシ樹脂とイソシアネート化合物とを触媒下で反応させることにより得られる。(A)は全エポキシ樹脂100質量%に対し15〜50質量%配合することを要件とする。配合量が15質量%より下回る場合は、エポキシ樹脂硬化物の靭性が極端に低下し、耐熱性も低下する。また配合量が50質量%を上回る場合は、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性、靭性が劣るような傾向はないものの、エポキシ樹脂組成物の常温での粘度が高くなり、さらに樹脂粘度の温度依存性も大きくなるため、エポキシ樹脂組成物の取り扱い性が非常に悪くなる。
【0011】
「(B)ビスフェノールA型エポキシ樹脂・同F型エポキシ樹脂」
(B)ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノーF型エポキシ樹脂(以下、(B)という。)を用いる。(B)は、エポキシ樹脂硬化物に靭性を付与する役割および樹脂混合過程でエポキシ樹脂組成物の粘度を取り扱いやすい程度に調整する役割がある。これらの効果を十分に引き出すために、(A)〜(C)合計量中に(B)を20〜60質量%配合することを要件とする。
【0012】
「(C)多官能エポキシ樹脂」
本発明で(C)多官能エポキシ樹脂(以下、(C)という。)とは3官能以上のエポキシ樹脂であり、エポキシ樹脂硬化物に耐熱性を付与する役割がある。(A)〜(C)合計量中に15〜30質量%配合することを要件とする。配合量が15質量%以上とすることでエポキシ樹脂硬化物の耐熱性が所望の範囲になり、また30質量%以下とすればエポキシ樹脂硬化物の架橋密度が必要以上に高くなることがなく靭性の低下を抑えられる。(C)としては、ノボラック型、グリシジルエーテル型、芳香族グリシジルエーテル型および芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが好ましいものとして挙げられる。中でもテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンを前記の配合量で配合した場合、エポキシ樹脂硬化物に良好な耐熱性を付与しつつ、良好な靭性を保持できるので好ましい。
【0013】
「(D)ポリアミン系エポキシ樹脂硬化剤」
(D)ポリアミン系エポキシ樹脂硬化剤(以下、(D)という。)は、脂肪族ポリアミン、ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどが好ましく挙げられる。中でも芳香族ポリアミンであるジアミノジフェニルスルホンを用いることで、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性と靭性とを共に優れたものとすることができる。また(D)の配合量は、ポリアミン系エポキシ樹脂硬化剤のアミノ基の活性水素当量数が、(A)〜(B)を含む全エポキシ樹脂のエポキシ当量数の1.15倍〜1.50倍であることを要件とする。これらのエポキシ樹脂硬化剤の配合量が1.15倍〜1.50倍とすることで、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性および靭性を良好な範囲にすることができる。
【0014】
「(E)エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂」
(E)エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂(以下、(E)という。)は、必要な場合に粘度調整剤としてエポキシ樹脂組成に配合する。(A)は、樹脂粘度の温度依存性が高く、(A)を多量に配合した場合エポキシ樹脂組成物にもこの性質が強く現れる傾向にある。エポキシ樹脂組成物に(E)を配合することにより、温度による樹脂粘度の依存性が軽減され、取り扱い性が良好となる。ここで(E)としてはポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリールエーテル、ポリアリールスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテルなどを挙げることができ、中でもポリエーテルスルホンは、添加による樹脂組成物の耐熱性、機械的物性に低下が見られない。
【0015】
「(F)揺変剤」
(F)揺変剤(以下、(F)という。)とは、エポキシ樹脂組成物に対し揺変性を付与するものであり、アマイドワックス、硬化ひまし油などの有機系のものと、ベントナイト、シリカ微粒子などの無機系のものとがある。好ましくはエポキシ樹脂組成物の硬化時にも揺変剤としての効果が持続し、さらに樹脂組成物の硬化性や硬化物物性に影響の少ないもの、具体的にはシリカ微粒子が特に好ましい。
【0016】
「他の添加剤」
本発明のエポキシ樹脂組成物には発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて公知の硬化剤、熱硬化性樹脂、充填剤、安定剤、難燃剤、顔料などの各種添加剤を含有させてもよい。
【0017】
「プリプレグ」
本発明のプリプレグは、強化繊維に本発明のエポキシ樹脂組成物を公知の方法で含浸することにより得られる。強化繊維としては炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などが挙げられ、中でも炭素繊維をプリプレグに使用すると、高い比強度、高い比弾性率を示す。
【0018】
本発明のプリプレグを必要に応じて積層し、成形し、エポキシ樹脂組成物を硬化することにより、本発明の繊維強化複合材料を製造することができる。熱および圧力を付与する方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法などが挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明をさらに説明する。実施例で用いたエポキシ樹脂等原料、エポキシ樹脂組成物の調製方法および各物性の測定方法を下に示した。各実施例で用いたエポキシ樹脂組成物の組成、各物性の測定結果を表1にまとめて示した。
【表1】

【0020】
<原料>
本発明のエポキシ樹脂は次の市販品を用いた。
(A):AER4152(旭化成エポキシ(株)製)
(B):ビスフェノールA型エポキシ樹脂としてjER828(ジャパンエポキシレジン(株)製)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂としてjER807(ジャパンエポキシレジン(株)製)
(C):jER604(ジャパンエポキシレジン(株)製)テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
(D):4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化工業(株)製)
(E):PES5003P(住友化学(株)製)ポリエーテルスルホン
(F):アエロジル380(日本アエロジル(株)製)シリカ微粒子
【0021】
<エポキシ樹脂組成物の調製とエポキシ樹脂硬化物の作成>
表1で示した樹脂組成の比率で原料をフラスコへ入れ、加熱・撹拌することでエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を180℃で2時間硬化することで、エポキシ樹脂硬化物を作成した。
【0022】
<エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度の測定>
表1のエポキシ樹脂組成物を硬化して硬化樹脂板を作製し、DMA法によりガラス転移温度を測定した。
測定条件
装置:ARES−RDA(ティー・エー・インスツルメント社製)
試験片サイズ:長さ55mm、幅12.7mm、厚み2mm
昇温速度:5℃/min
測定周波数:1Hz
歪:0.5%
測定温度範囲:30℃〜250℃
【0023】
<エポキシ樹脂硬化物の曲げ試験>
表1のエポキシ樹脂組成物を硬化して硬化樹脂板を作製し、3点曲げ試験を行った。
試験条件
装置:インストロン4465型(インストロン社製)
試験片サイズ:長さ60mm、幅8mm、厚み2mm
クロスヘッドスピード:2.0mm/min
スパン/厚み比:16
測定温度:23℃
【0024】
<プリプレグの作成>
実施例1、4のエポキシ樹脂組成物をそれぞれ炭素繊維織物へ含浸して、プリプレグを得た。得られたプリプレグは、適当なタックと硬さを有しており作業性に優れていた。炭素繊維織物は、三菱レイヨン(株)製の炭素繊維TR50S6Lを経緯共に織り密度8.9本/2.5cm、織り組織5枚朱子で製織したものである。炭素繊維織物プリプレグの炭素繊維目付は、280g/m、樹脂含有率は37質量%であった。
【0025】
<衝撃後圧縮強度試験用繊維強化成形板の作成>
得られた炭素繊維織物プリプレグを経糸が+45°、0°、+45°、0°、+45°、0°、0°、+45°、0°、+45°、0°、+45°に配向するように計12枚積層し、真空バックを施した。これをオートクレーブ内で温度180℃まで昇温後2時間保持してエポキシ樹脂組成物を硬化し、繊維複合材料を作成した。
【0026】
<衝撃後圧縮強度試験>
得られた繊維複合材料について、SACMA−SRM−2に準拠した衝撃後圧縮強度試験(衝撃エネルギー1500in/lb/in)を行った。その際、装置として
UH―500kNI型((株)島津製作所製)を用いた。
【0027】
実施例1、比較例1および2は、(D)の配合量が異なる。実施例1では、全エポキシ樹脂のエポキシ当量数に対して(D)の活性水素当量数が1.24倍となるよう(D)を配合したのに対し、比較例1は全エポキシ樹脂のエポキシ当量数に対して(D)の活性水素当量数が1.00倍となるよう、比較例2では1.75倍となるよう(D)を配合した。比較例1では、エポキシ樹脂組成物硬化物のガラス転移温度が実施例1と比較して5℃低下し、さらに曲げ試験における13%歪での未破断試験体数は実施例1が6体中5体であるのに対し、比較例1は6体中2体であった。また比較例2でも、エポキシ樹脂組成物硬化物のガラス転移温度、曲げ試験における13%歪での未破断試験体数が低下した。ここで、曲げ試験における13%歪での未破断数試験体は、エポキシ樹脂組成物硬化物のその靭性の指標である。
【0028】
実施例1、4は、曲げ試験における13%歪での未破断試験体数が6体中5体であり、これらのエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料は、衝撃後圧縮強度値が201MPaと良好な値を示した。
【0029】
比較例3は、(A)を含まず(B)を増量した組成である。比較例3では、エポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度、曲げ試験での歪13%における未破断試験体数が大きく低下した。
【0030】
実施例1、2および比較例4は、(A)、(B)の配合比を一定とし、(C)の配合量を変化させた組成である。実施例1のエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度は186℃であるのに対し、(C)の配合量を実施例1と比較して減らした実施例2は177℃であり、(C)の配合量を増やした比較例4は189℃であった。比較例4は、曲げ試験での歪13%における未破断試験体数が、実施例1の6体中5体から6体中2体と大きくに低下した。
【0031】
実施例4は、
実施例3の組成に更に(E)および(F)をエポキシ樹脂組成物硬化物の特性を下げない範囲で添加したもので、取り扱い性がより良好であった。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物をプリプレグのマトリクス樹脂として用いたところ、取り扱い性の良好なプリプレグとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イソシアネート変性エポキシ樹脂 15〜50質量%
(B)ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂 20〜60質量%
(C)多官能エポキシ樹脂 15〜30質量%
のエポキシ樹脂を含んでなり、
(D)ポリアミン系エポキシ樹脂硬化剤
を、その活性水素当量数が全エポキシ樹脂のエポキシ当量数に対して1.15倍〜1.50倍となるように添加されたエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(C)がテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
である、請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(D)がジアミノジフェニルスルホン
である、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、
(E)としてエポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂
を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
(E)がポリエーテルスルホンである、請求項4記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、
(F)として揺変剤
を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
(F)がシリカ微粒子である請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸してなるプリプレグ。
【請求項9】
強化繊維が炭素繊維である請求項8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
請求項8または9に記載のプリプレグを成形しエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2011−231187(P2011−231187A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101404(P2010−101404)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】