説明

エポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化剤、ならびにそれらを用いた各製品

【課題】エポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化剤、ならびにそれらを用いた各製品を提供する。
【解決手段】
エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂硬化剤が、アミノ基を有するリグニン、または、アミノ基を有するリグノフェノールであることを特徴とする、エポキシ樹脂組成物を用いることにより、エポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化剤、ならびにそれらを用いた各製品を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化剤、ならびにそれらを用いた各製品に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化を防止する材料として、カーボンニュートラルの観点から、植物性バイオマスの利用が期待されている。中でも、国内に多く存在する木質廃棄物、即ち、未利用の樹木を原料とするバイオマス由来の樹脂の製造が期待されている。具体的には、樹木から抽出することができる、耐熱性に優れたポリフェノール骨格のリグニンやリグノフェノールをエポキシ樹脂やエポキシ樹脂硬化剤として用いたエポキシ樹脂硬化物が期待されている。
【0003】
このようなエポキシ樹脂硬化物に関する技術として、例えば特許文献1には、重量平均分子量300〜10000のバイオマス由来化合物を原料とし、このバイオマス由来化合物をエポキシ化した後の重量平均分子量が600〜20000であり、且つ、ワニスを作製するための有機溶媒に溶解可能なバイオマス由来エポキシ化合物が記載されている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、植物資源より抽出されたリグニンをエポキシ化したエポキシ化リグニンと、硬化剤と、を有するエポキシ樹脂組成物が記載されている。さらに、例えば特許文献3には、リグニンがフェノール誘導体で誘導体化されたリグノフェノール誘導体が含まれているリグノフェノール系成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−150298号公報
【特許文献2】特開2009−263549号公報
【特許文献3】特開平9−278904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記の特許文献に記載の技術においては、以下のような課題がある。
例えば、リグニンを用いて製造されたエポキシ樹脂(リグニン由来のエポキシ樹脂)と、エポキシ樹脂硬化剤として使用可能な例えば無水トリメリット酸等の酸無水物をリグニンへ化学修飾して得られたエポキシ樹脂硬化剤(リグニン由来のエポキシ樹脂硬化剤)と、を反応させた場合に得られるエポキシ樹脂硬化物(リグニン由来のエポキシ樹脂硬化物)において生じる。
【0007】
具体的には、この反応におけるエポキシ樹脂の硬化反応はエステル結合が形成されることによって生じるものである。エステル結合は加水分解性であるため、このようにして形成されたエポキシ樹脂硬化物は、自身が含むエステル結合を起点として加水分解が進行することがあり、その結果エポキシ樹脂硬化物が分解し、エポキシ樹脂硬化物の耐水性が不十分となる可能性がある。
【0008】
また、リグニン由来のエポキシ樹脂硬化物を分解してリグニンを回収する際、エポキシ樹脂硬化物が例えば酸無水物を硬化剤として用いて得られたものである場合には当該エポキシ樹脂硬化物を分解することが困難であり、リグニンの回収率が低いことがある。
【0009】
また、リグニン由来のエポキシ樹脂と、硬化剤としてリグニンと、を反応(具体的にはフェノール硬化)させてエポキシ樹脂硬化物を製造した場合、製造されたエポキシ樹脂硬化物にはリグニンに由来するアルコール性水酸基が残存することがあるため、吸水性が高くなることがあるという課題がある。
【0010】
さらに、前記のように酸無水物をエポキシ樹脂硬化剤として用いて製造されたエポキシ樹脂硬化物の場合と同様に、エポキシ樹脂硬化物を分解してリグニンを回収する際には、分解が困難であるためリグニンの回収率が低いことがある。
【0011】
さらに、従来のエポキシ樹脂硬化物においては、接着性が低いこともある。
【0012】
本発明は前記課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、接着性、低吸水性および高耐水性を兼ね備えるエポキシ樹脂硬化物を調製可能なエポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化剤、ならびにそれらを用いた各製品を提供することにある。
【0013】
本発明者ら前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、エポキシ樹脂硬化剤としてアミノ基を有するリグニンまたはリグノフェノールを用いることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0014】
本発明に拠れば、接着性、低吸水性および高耐水性を兼ね備えるエポキシ樹脂硬化物を調製可能なエポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化剤、ならびにそれらを用いた各製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るリグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化物を製造する際の製造方法をまとめたものである。
【図2】本実施形態に係る部品としてのボールグリッドアレイを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
はじめに、本明細書において使用する文言について説明する。
リグニンとある化合物とが結合し、当該化合物中にリグニン骨格が含まれことになった当該化合物のことを、当該化合物の名称の先頭に「リグニン由来」との名称を冠して呼称するものとする。
【0017】
ただし、例えば後記するリグニン骨格を含むエポキシ樹脂硬化物は、エポキシ樹脂硬化物に対してリグニンが結合してリグニン由来エポキシ樹脂硬化物になったものではない。詳細は後記するが、このようなエポキシ樹脂硬化物は、リグニン由来エポキシ樹脂硬化剤を少なくとも用いて硬化させたものであり、エポキシ樹脂硬化物の構造中にリグニン骨格を含むものである。このように、リグニン骨格を含むものについても、同様に「リグニン由来」との名称を冠して呼称するものとする。
【0018】
なお、前記の定義は、リグニン骨格にフェノールもしくはフェノール誘導体(例えばクレゾール等)が結合してなる「リグノフェノール」についても同様とする。
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)を具体的に説明するが、本実施形態は以下の内容に制限されるものではなく、本発明の要旨を損なわない範囲で任意に変更して実施可能である。
【0020】
まず、本実施形態に係るリグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化物を製造する際の製造方法を、図1を参照しながら簡単に説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係るリグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂組成物は、植物由来資源(例えば木材等)から得られる。つまり、リグニンまたはリグノフェノールを含む植物由来資源からリグニンまたはリグノフェノールを得、得られたリグニンまたはリグノフェノールに対してアミノ基を有するカップリング剤を作用させることにより、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化剤を得ることができる。
【0022】
一方で、先に得られたリグニンまたはリグノフェノールに対してエピクロルヒドリンやグリシジルエーテルを作用させることにより、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂(プレポリマー)が得られる。
【0023】
そして、先のリグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化剤とリグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂とを混合することにより、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂組成物を得ることができる。そして、当該エポキシ樹脂組成物をアミン硬化させることにより、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化物が得られる。
【0024】
なお、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂の代わりに石油由来エポキシ樹脂とリグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化剤とをアミン硬化させても、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化物が得られる。
【0025】
以下、それぞれの成分について詳細に説明する。
【0026】
[1.エポキシ樹脂組成物]
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂硬化剤が、アミノ基を有するリグニン、または、アミノ基を有するリグノフェノールであるものである。即ち、前記の定義に拠れば、本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤は「リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化剤」となる。
【0027】
[1−1.エポキシ樹脂]
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂は、所謂プレポリマー(中間生成物)と呼称されるものであり、エポキシ基を有するとともに比較的低分子量を有するものである。そして、エポキシ樹脂を後記するエポキシ樹脂硬化剤によって硬化(重合)させることにより、硬化物であるエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0028】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の種類は特に制限されない。具体的には、例えば、石油等に含まれる原料を用いて製造された公知のエポキシ樹脂であってもよく、植物(例えばリグニン等)由来資源を用いて製造されたものであってもよい。石油由来のエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールAとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるもの、ビスフェノールAとメチルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテルとを反応させて得られるもの等が挙げられる。
【0029】
中でも、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂としては、限りある石油資源に依存せず、植物由来資源をより有効に利用する観点から、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂を用いることが好ましい。即ち、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂としては、リグニンまたはリグノフェノールをエポキシ化した樹脂であることが好ましい。このようなリグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂の製造方法としては、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されるものではなく、例えば前記特許文献1に記載の公知の方法によって製造することができる。
【0030】
[1−2.エポキシ樹脂硬化剤]
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂硬化剤(以下、適宜、「本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤」と言う。)は、アミノ基を有するリグニンまたはアミノ基を有するリグノフェノールである。
【0031】
リグニンは樹木等に含まれる植物性バイオマスの一種であり、プロピルフェノールを基本骨格とする強固なポリマーである。リグニンには、樹木等からの抽出方法によって様々な種類があり、例えばアルカリリグニン、klasonリグニン、水蒸気爆砕リグニン等が挙げられる。なお、リグニンは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率および組み合わせで用いてもよい。
【0032】
さらに、リグニンが抽出される樹木等の具体的な種類、抽出の具体的な方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されるものではない。
【0033】
また、リグノフェノールは、リグニンに対してフェノールもしくはフェノール誘導体(例えばクレゾール等)が結合しているものである。このようなリグノフェノールの製造方法は、リグニン同様特に制限されるものではないが、例えば前記特許分文献4に記載されている方法により得られる。具体的には、例えばリグノセルロースをリグノフェノールと炭水化物とに分離することにより、リグノフェノールを得ることができる。また、リグニンに対してフェノール等を直接導入(結合)して調製してもよい。
【0034】
前記リグニンおよびリグノフェノールの構造を模式的に示すと、以下のようなものになる。下記式(1)で示される化合物がリグニン、下記式(2)で示される化合物がリグノフェノールである。下記式(1)および(2)で示されるように、リグニンおよびリグノフェノールのいずれにおいても、多数の水酸基(より具体的には、アルコール性水酸基およびフェノール性水酸基)を有している。
【0035】
【化1】

【化2】

【0036】
本実施形態において用いられるリグニンおよびリグノフェノールに含まれる水酸基の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に制限されない。ただし、本実施形態において用いられるリグニンおよびリグノフェノールが有する水酸基の量は、JIS K 6755の方法に従って測定される量として、50g/eq以上500g/eq以下が好ましい。なお、「eq」は、「当量」を表す。
【0037】
また、リグニンおよびリグノフェノールの分子量についても、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に制限は無い。ただし、リグニンおよびリグノフェノール(アミノ基が導入される前のもの)のいずれにおいても、その分子量は小さいことが好ましい。具体的には、リグニンおよびリグノフェノールの重量平均分子量としては、それぞれ独立して300以上が好ましく、1200よりも大きいことがより好ましく、また、その上限としては、10000以下が好ましい。重量平均分子量が小さすぎる場合、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性が低下する可能性がある。また、重量平均分子量が大きすぎる場合には、エポキシ樹脂硬化剤としたときの重量平均分子量が20000よりも大きくなり、例えばワニス等を調製する際の溶媒への溶解性が低下する可能性がある。なお、重量平均分子量は、例えばGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)の装置を用いて測定することができる。
【0038】
前記のように、リグニンおよびリグノフェノールの分子量は小さいことが好ましい。このように、低分子量のリグニンおよびリグノフェノールを用いることにより、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化剤の溶媒への溶解性および得られるエポキシ樹脂組成物の成形性を優れたものとすることができる。
【0039】
なお、本実施形態においては、リグニンおよびリグノフェノールは、有機溶媒に溶解することが極めて重要である。具体的には、有機溶媒として2−メトキシエタノールおよびメチルエチルケトンを等重量ずつ混合した混合溶媒100mLに対して、重量平均分子量が1500のリグニンまたはリグノフェノールが、20g以上溶解することが好ましい。リグニンおよびリグノフェノールが有機溶媒に溶解しない場合、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物を後記するワニスに溶解させようとした際に、当該ワニス中に未溶解物が残存する可能性がある。残存した結果、例えば銅張積層体を得るためのガラスクロスにエポキシ樹脂組成物を含浸させることが困難となるため、良好な銅張積層体を得ることができない可能性がある。また、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂硬化剤の部分的な配合割合が化学量論比と異なるため、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性、安定性、耐吸水性等が低下することがある。
【0040】
前記のように、本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤においては、前記のリグニンまたはリグノフェノールがアミノ基を有するものを用いる。リグニンまたはリグノフェノールにおけるアミノ基の結合の形態は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されない。即ち、リグニン骨格またはリグノフェノール骨格にアミノ基が直接結合する形態としてもよいし、任意の結合基を介してアミノ基がリグニンまたはリグノフェノールに結合するようにしてもよい。
【0041】
ただし、本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤としては、アミノ基を有するカップリング剤がリグニンまたはリグノフェノールに結合して得られたものであることが好ましい。つまり、リグニンまたはリグノフェノールに対して、アミノ基を有するカップリング剤の主鎖が任意の結合基として機能し、リグニンまたはリグノフェノールに対してアミノ基が結合する形態が好ましい。以下、本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤の説明として、このような結合の形態を有するエポキシ樹脂硬化剤を具体例に挙げて説明する。
【0042】
(アミノ基を有するカップリング剤)
前記のアミノ基を有するカップリング剤としては、アミノ基、および、リグニンまたはリグノフェノールと結合しうる官能基を有する限り、その具体的な構造に制限は無い。そして、本実施形態においては、前記のアミノ基が、エポキシ樹脂を硬化させる際の硬化剤としての機能を有することになる。
【0043】
また、リグニンまたはリグノフェノールと結合する官能基としては、好ましくは水酸基またはアルコキシ基(炭素数が1以上3以下であることが好ましい)、より好ましくはアルコキシ基である。なお、このような官能基は1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が任意の比率および組み合わせで含まれていてもよい。
【0044】
カップリング剤の具体的な種類としても、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されないが、例えばシラン系、チタネート系、アルミネート系、ジルコネート系カップリング剤等が挙げられ、中でもシラン系のカップリング剤、即ちシランカップリング剤が好適である。なお、カップリング剤は1種が単独で用いられてもよく、2種以上が任意の比率および組み合わせで用いられてもよい。
【0045】
これらの観点から、本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤として好適なものとしては、リグニンまたはリグノフェノールに対して下記式(3)が結合してなるものである。即ち、前記アミノ基を有するカップリング剤が、下記式(3)で表されるシランカップリング剤(以下、適宜「シランカップリング剤(3)と言う。」)であることが好ましい。
【化3】

式(3)中、Rは炭素数1以上3以下のアルキル基または水素原子を表す。また、Rは炭素数1以上3以下のアルキル基を表す。さらに、aは1以上3以下の整数、bは1以上5以下の整数、cは0または1を表す。
【0046】
なお、シランカップリング剤(3)が有するアルキル基は、直鎖状であってもよく分岐を有していてもよい。また、シランカップリング剤(3)は、環を有していてもよい。
【0047】
ただし、前記式(3)中のRおよびRの官能基の大きさや、a、bおよびcの数値によって、リグニンおよびリグノフェノールに対するカップリング剤(3)の立体障害が通常は変化する。従って、例えばRおよびRが嵩高い構造である場合には、反応温度を高くしなければならないことがある。そのため、Rがアルキル基である場合には、RおよびRのアルキル基は直鎖状であることが好ましい。このような直鎖状アルキル基とすることにより、立体障害をより小さなものとすることができ、カップリング剤(3)とリグニンまたはリグノフェノールとの反応温度を低くすることができる。
【0048】
シランカップリング剤(3)剤の具体例としては、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランまたは、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。なお、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率および組み合わせで用いてもよい。
【0049】
以下、カップリング剤の説明として、好適な前記カップリング剤(3)を具体例に主に挙げて説明する。
【0050】
(シランカップリング剤(3)とリグニンまたはリグノフェノールとの反応)
本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤として好適なシランカップリング剤(3)と、リグニンまたはリグノフェノールと、を反応させて、本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤を得る際の具体的な反応条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されない。ただし、通常は、任意の有機溶媒中にカップリング剤(3)とリグニンまたはリグニンフェノールとを混合し、60℃〜90℃程度の温度にて1時間〜数時間程度加熱還流を行う。その後、加熱還流後の反応溶液に対して抽出等の単離精製操作を行うことにより、エポキシ樹脂硬化剤を得ることができる。
【0051】
ただし、シランカップリング剤(3)が結合したリグニンおよびリグノフェノールを製造する際、シランカップリング剤(3)が水と反応して、リグニンまたはリグノフェノールとの結合能が失われる可能性がある。そのため、リグニンまたはリグノフェノールとシランカップリング剤(3)とを例えば有機溶媒中で反応させる際には、有機溶媒中の水を完全に除去することが極めて重要である。
【0052】
また、エポキシ樹脂硬化剤を製造する際の、リグニンまたはリグノフェノールに対するカップリング剤(3)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されない。ただし、ケイ素原子に結合している酸素原子を介して、前記式(3)で表されるカップリング剤とリグニンまたはリグノフェノールとが結合する。つまり、式(3)中のアルコキシ基または水酸基とリグニンまたはリグノフェノール中の水酸基とが脱水縮合して結合することになる。従って、リグニンまたはリグノフェノールが有する水酸基当量から算出した水酸基の物質量に対して、5倍当量以上10倍当量以下のカップリング剤(3)を用いることが好ましい。
【0053】
なお、使用するカップリング剤の量は、シランカップリング剤(3)を用いる場合を例に記載したが、エポキシ樹脂硬化剤中にアミノ基、ならびに水酸基もしくはアルコキシ基を有する他のカップリング剤であっても、同様に適用できる。
【0054】
[1−3.その他の成分]
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物には、前記のエポキシ樹脂およびエポキシ樹脂硬化剤の他にも、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、任意の成分を含有させることが可能である。任意の成分としては、例えば硬化促進剤、カップリング剤、難燃剤、無機充填材、樹脂、触媒、レベリング剤、消泡剤、イオントラッパー剤、応力緩和剤、染料、着色剤等が挙げられる。これらの任意の成分は、1種が単独で含まれてもよく、2種以上が任意の比率および組み合わせで含まれていてもよい。
【0055】
硬化促進剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、例えば、三級アミン化合物、イミダゾール類、有機スルフィン類、リン化合物、テトラフェニルボロン塩およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0056】
カップリング剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、例えば、エポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、アルキルシラン、有機チタネート、アルミニウムアルキレート等が挙げられる。
【0057】
難燃剤としても、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、例えば、赤燐、燐酸、燐酸エステル、メラミン、メラミン誘導体、トリアジン環を有する化合物、シアヌル酸誘導体、イソシアヌル酸誘導体の窒素含有化合物、シクロホスファゼン等の燐窒素含有化合物、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化モリブデン、フェロセン等の金属化合物、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、ブロム化エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0058】
無機充填材としても、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、ジルコン、フォステライト、ステアライト、スピレル、ムライト、チタニア等の粉体、また、これらを球形化したビーズ、ガラス繊維等が挙げられる。無機充填材を含有させることにより、得られるエポキシ樹脂組成物を用いたエポキシ樹脂硬化物の吸湿性、熱伝導性および接着性の向上、熱膨張係数の低減を図ることができる。
【0059】
また、無機充填材としても、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛等を含有させることができる。これらを含有させることにより、難燃効果の向上を図ることができる。
【0060】
イオントラッパー剤としても、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、例えば、ハイドロタルサイト類、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ビスマス等の元素の含水酸化物等が挙げられる。イオントラッパー剤を含有させることにより、得られるエポキシ樹脂組成物を用いた電子機器の耐湿性、高温放置特性(耐熱性)を向上させることができる。
【0061】
応力緩和剤としても、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、例えばシリコーンゴム粉末等が挙げられる。さらに、着色剤としても、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、例えばカーボンブラック等が挙げられる。
【0062】
[1−4.混合方法]
前記のように、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ならびに、エポキシ樹脂硬化剤としてのアミノ基を有するリグニンもしくはリグノフェノールを含むものである。ただし、通常は、エポキシ樹脂と、アミノ基を有するリグニンまたはリグノフェノールと、必要に応じて用いられる任意の成分とを混合することにより得られる。
【0063】
これらを混合する方法および装置は、これらの成分を均一に分散混合でき、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されない。ただし、通常は、これらの成分を所定量秤量して同一の系に存在させた後、例えばボールミル、三本ロールミル、真空雷潰機、ポットミル、ハイブリッドミキサー等を用いて分散混合を行えばよい。
【0064】
[1−5.用途]
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は任意の用途に用いることができる。例えば、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物と、当該組成物を溶解可能な溶媒とを混合してワニス(以下、適宜「本実施形態に係るワニス」と言う。)を得ることが可能である。
【0065】
本実施形態に係るワニスに含まれる溶媒は通常は有機溶媒であり、その具体例としては、例えば、アルコール、ケトン、芳香族化合物等である。溶媒として使用可能なアルコールの具体例としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−プロピロキシエタノール、2−ブトキシエタノール等が挙げられる。また、ケトンの具体例としては、メチルエチルケトン、イソブチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。さらに、芳香族化合物の具体例としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。なお、これらは1種が単独で用いられてもよく、2種以上が任意の比率および組み合わせで用いられてもよい。
【0066】
前記の本実施形態に係るワニスは、例えばプリプレグ、プリント基板等の用途に使用可能である。ワニスを基材に含浸させ、その後乾燥させることによりプリプレグを得ることができる。そして、このようにして得られたプリプレグは、例えば銅張積層体、プリント基板として、また、これらを内蔵する各種コンピュータや携帯電話等の電子機器、さらにはコイル部をプリプレグにより絶縁した各種モータ、このモータを搭載する産業用ロボットや回転機等にも適用可能である。さらには、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物を用いて封止したチップサイズパッケージ、接着剤、塗料等にも適用可能である。
【0067】
[1−6.本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物が奏する効果]
従来のエポキシ樹脂の硬化方法としては、例えば酸無水物硬化やフェノール硬化が知られている。しかしながら、例えば酸無水物硬化を利用する場合、水により加水分解が進行し、耐水性が低い傾向があるという課題があった。また、例えばフェノール硬化を利用する場合、反応系に水酸基が大量にあるため吸水性が高く、得られる樹脂の耐久性が短くなったり、接着性が低かったりする傾向があるという課題があった。
【0068】
しかしながら、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物に用いられるアミノ基を有する硬化剤は、酸無水物を用いないため耐水性に優れ、さらには、前記フェノール硬化の場合と比べて水酸基が少ないため耐久性や接着性に優れると言う利点がある。従って、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物を用いている製品の信頼性が大幅に向上したものとなる。
【0069】
さらに、エポキシ樹脂硬化剤は植物由来原料であるリグニンまたはリグノフェノールを用いるため石油への依存度が低い。特に、エポキシ樹脂についてもリグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂を用いることにより、石油由来原料の使用比率を極めて低下させることができ、限りある資源である石油資源への依存からの脱却を図ることができる。
【0070】
[2.エポキシ樹脂硬化物]
冒頭において説明したように、本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化物は、リグニン、リグノフェノールもしくは石油由来エポキシ樹脂に対して、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化剤(即ち本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤)を作用させることにより得られる。エポキシ樹脂硬化物を調製する際の方法および条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に制限されず、例えば本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物を塗布する等して成形し、その後加熱する等して調製することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本実施形態を実施例を挙げてより具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
〔エポキシ樹脂硬化剤の調製〕
以下の方法に従って、アミノ基を有するリグニン由来エポキシ樹脂硬化剤(エポキシ樹脂硬化剤(1)および(2))と、アミノ基を有するリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化剤(エポキシ樹脂硬化剤(3)および(4))と、を製造した。
【0073】
(エポキシ樹脂硬化剤(1))
はじめに、木材(杉)試料を水蒸気爆砕により加水分解し、有機溶媒を用いてリグニンを抽出した。そして、抽出したリグニンから有機溶媒を除去した後乾燥させて、リグニンを精製した。
【0074】
得られたリグニンについて、東ソー社製高速GPC装置(HLC-8320GPC ECOSEC)を用いて重量平均分子量を測定し、また、JIS K 0070の方法に従って水酸基当量を測定した。その結果、得られたリグニンの重量平均分子量は1500であり、水酸基当量は140g/eqであった。なお、以下の記載において、特に断らない限り、重量平均分子量および水酸基当量を測定には同様の装置および方法を用いた。
【0075】
得られたリグニン100gを、60℃に加熱したバキュームオーブンでさらに12時間乾燥させた。攪拌羽、冷却管および温度計を備えている2L用の四つ口フラスコを窒素雰囲気にし、12時間乾燥させたリグニン100gと脱水テトラヒドロフラン500mLとを入れ、30分攪拌して溶解した。
【0076】
その後、アミノ基を有するカップリング剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製 KBM−602)45gを前記四つ口フラスコに加え、オイルバスを用いて前記四つ口フラスコを75℃に加熱して、1時間加熱還流した。そして、反応溶液を室温まで放冷し、分液漏斗に反応溶液と1N塩酸とを入れた後、油層(テトラヒドロフラン)を回収し、油層が中性になるまで純水で洗浄した。さらに油層に酢酸エチルを加え目的物を析出させ、ろ過後、真空乾燥を行ってエポキシ樹脂硬化剤(1)を得た。
【0077】
得られたエポキシ樹脂硬化剤(1)の収量は107gであり、重量平均分子量は2300であった。
【0078】
また、得られたエポキシ樹脂硬化剤(1)について、H−NMR(JEOL社製 EGA−500FT−NMR)によりCHO−Si−由来の3.4〜3.7ppmのシグナルを、FT−IR(PerkinElmer社製 Spectrum100 FT−IR Spectrometer)によりCHO−Si−由来の1100〜1020cm−1の吸収を得たことから、リグニンへのシランカップリング反応によるアミノ基の導入を確認した。
【0079】
(エポキシ樹脂硬化剤(2))
アミノ基を有するカップリング剤として、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランの代わりにN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製 KBE−603)を用いたこと以外は、エポキシ樹脂硬化剤(1)の調製方法と同様にして、エポキシ樹脂硬化剤(2)を得た。得られたエポキシ樹脂硬化剤(2)の収量は104gであり、重量平均分子量は2200であった。
【0080】
(エポキシ樹脂硬化剤(3))
リグニンの代わりにリグノフェノール(東洋樹脂社製;重量平均分子量4400、水酸基当量160g/eq)を用いたこと以外はエポキシ樹脂硬化剤(1)の調製方法と同様にして、エポキシ樹脂硬化剤(3)を得た。得られたエポキシ樹脂硬化剤(3)の収量は121gであり、重量平均分子量は4200であった。
【0081】
(エポキシ樹脂硬化剤(4))
アミノ基を有するカップリング剤として、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランの代わりにN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製 KBE−603)を用いたこと以外は、エポキシ樹脂硬化剤(3)の調製方法と同様にして、エポキシ樹脂硬化剤(4)を得た。得られたエポキシ樹脂硬化剤(4)の収量は135gであり、重量平均分子量は5400であった。
【0082】
以上得られたエポキシ樹脂硬化剤(1)〜(4)について、植物由来原料およびカップリング剤を表1にまとめた。なお、表1には、後記するエポキシ樹脂硬化剤(5)および(6)も併せて示している。
【0083】
【表1】

【0084】
〔エポキシ樹脂の調製〕
(リグニン由来エポキシ樹脂)
攪拌羽根、冷却管および温度計を備えている2L用の四ツ口フラスコに、リグニン100gならびにpH調整のための10質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液300gを加え、30分攪拌して溶解した。完全に溶解した後、エピクロルヒドリン300gを加え、オイルバスを用いて四ツ口フラスコを120℃に加熱し、1時間加熱還流した。そして、反応溶液を室温まで冷却後、分液漏斗に移し、油層が中性になるまで純水で洗浄した。
【0085】
水層を除去した後、20質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液50gを加え、120℃で1時間加熱還流し、水洗した。これをロータリーエバポレータでエピクロルヒドリン、水および副生成物を8割程度蒸発させて除去した後、2Lのエチルアルコールに溶解した。ろ過後、真空乾燥して、リグニン由来エポキシ樹脂(プレポリマー)を得た。
【0086】
得られたリグニン由来エポキシ樹脂の収量は106gであり、重量平均分子量は2800であった。さらに、得られたリグニン由来エポキシ樹脂は、等重量の2−メトキシエタノールに良く溶解した。
【0087】
また、得られたリグニン由来エポキシ樹脂について、前記(エポキシ樹脂硬化剤(1))に記載した装置を用いてH−NMR測定およびFT−IR測定を行った。その結果、H−NMRにおいては2.6ppmおよび2.8ppmにシグナルが、またFT−IRにおいては914cm−1の吸収を得た。これらの結果から、リグニンにエポキシ基が導入されたことを確認した。
【0088】
(リグノフェノール由来エポキシ樹脂)
前記リグニン由来エポキシ樹脂と同様にしてリグノフェノール由来エポキシ樹脂(プレポリマー)を調製した。得られたリグノフェノール由来エポキシ樹脂について、リグニン由来エポキシ樹脂と同様にしてH−NMR測定およびFT−IR測定を行い、リグノフェノールにエポキシ基が導入されたことを確認した。
【0089】
また、得られたリグノフェノール由来エポキシ樹脂の収量は102gであり、重量平均分子量は7600であった。さらに、得られたリグノフェノール由来エポキシ樹脂は、等重量の2−メトキシエタノールに良く溶解した。
【0090】
〔エポキシ樹脂組成物の調製および評価〕
(実施例1〜8)
調製した前記のリグニン由来エポキシ樹脂に対して、前記のエポキシ樹脂硬化剤(1)〜(4)をそれぞれ加えた後、2−メトキシエタノールおよびメチルエチルケトンの等重量の混合溶媒を樹脂分濃度50質量%になるように加えて混合し、エポキシ樹脂組成物ワニス(1)〜(4)を得た。
【0091】
厚さ100μmの6枚のガラスクロス(30cm×30cm)にエポキシ樹脂組成物ワニス(1)〜(4)をそれぞれ含侵させ、130℃で8分間温風乾燥機内でエポキシ樹脂組成物を中間硬化状態(Bステージ)にした。その結果、それぞれのエポキシ樹脂組成物ワニスが硬化した、ベとつかないプリプレグをそれぞれ6枚ずつ得た。得られたプリプレグ6枚を重ね、さらに、上下に厚さ35μmの銅箔を重ねて、真空プレスで220℃まで加熱(昇温速度6℃/分)し、更に完全に硬化(220℃で1時間;Cステージ)させることにより、欠陥の無い、実施例1〜4の銅張積層板(1)〜(4)を作製した。
【0092】
さらに、リグニン由来エポキシ樹脂の代わりに前記リグノフェノール由来エポキシ樹脂を用いて、同様に欠陥の無い、実施例5〜8の銅張積層板(5)〜(8)を作製した。
【0093】
(比較例1〜8)
本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤の代わりに、硬化剤として、前記リグニン40gもしくは前記リグノフェノール40g又はそれらの酸無水物45gを用いて、さらに、エポキシ樹脂としてリグニン由来エポキシ樹脂もしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂を用いたこと以外は実施例1〜8の銅張積層板と同様にして、比較例1〜8の銅張積層板(9)〜(16)を作製した。この際、前記硬化剤とともにイミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤P−200(三菱化学社製)を、エポキシ樹脂組成物に対して0.5質量%になるように加えた。各銅張積層板(9)〜(16)における、用いたエポキシ樹脂硬化剤の種類およびエポキシ樹脂の組み合わせは、下記表2に示すとおりである。
【0094】
(評価方法)
作製した銅張積層板(1)〜(16)(実施例1〜8および比較例1〜8)について、以下に示す方法に従って、銅ピール強度試験、吸水率測定および耐水性試験を行った。
【0095】
・銅ピール強度試験
作製した銅張積層板を50mm×100mmに切り出し、オートグラフ(島津社製 AGS−X)を用いて10mm幅銅張積層板の垂直方向に引っ張ったときの荷重を測定した。単位はkN/mである。3つの試験片について測定を行い、その平均値で評価した。オートグラフの引張速度は50mm/分とした。
【0096】
・吸水率測定
吸水率の評価としてJIS−C6481に準拠し、50mm×50mmの銅張積層板を全面エッチングで除去し試験片を作製した。120℃の乾燥機にて5時間乾燥後、五酸化二リンの入ったデシケータ中で冷却し初期重量を測定した。次に、高加速寿命試験機(平山社製 PC−242HS−A/E)に5時間入れた後、取り出して、直ちに水に投入し10分間放置した。試験片を取り出して水分を拭き取り、試験片の質量(5時間後の質量)を測定した。そして、5時間後の吸水率(%)を、下記式(A)に基づいて算出した。
【数1】

【0097】
・耐水性試験
銅張積層板を100mm×100mmに成形し、試験片を作製した。そして、試験片の絶縁抵抗値を絶縁抵抗計(アドバンテック社製 PCM−3730)にて測定した。次いで、試験片を85℃85%(相対湿度)の恒温恒湿槽(アドバンテック社製 FUH600)に静置し、恒温恒湿槽内で試験片に対して直流電圧1kVを印加し、絶縁破壊時間を測定した。絶縁破壊時間が1000時間以上の試験片は、耐水性に優れた試験片とし、絶縁破壊時間が1000時間未満の試験片は高温高湿条件下で、耐水性が不十分とした。表2では、絶縁破壊時間が1000時間以上の積層板を○(耐水性に優れる)、1000時間未満の積層板を×(耐水性が不十分)として示した。なお、耐水性が高いことは、絶縁抵抗の低下量が小さいことを表している。
【0098】
得られた結果を、表2に示す。なお、表2には、各銅張積層板に用いたエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂硬化剤およびエポキシ樹脂の種類も併せて示している。
【0099】
【表2】

【0100】
表2に示すように、実施例1〜8の全ての銅張積層板において良好な銅ピール強度を示した。特に、リグノフェノールではなくリグニン由来エポキシ樹脂硬化剤(1)および(2)を用いた銅張積層板(実施例1、2、5および6)においては、銅ピール強度が1kN/mを超え、とりわけ良好な強度を有していた。
【0101】
さらに、実施例1〜8の銅張積層板の吸水率は、比較例1〜8の銅張積層板の吸水率から40%〜60%程度低下しており、従来の銅張積層板と比べて吸水率が極めて低いものとなっていた。
【0102】
また、比較例1〜8の銅張積層板の絶縁破壊時間はいずれも1000時間未満であったが、実施例1〜8では絶縁破壊時間は1000時間以上であった。従って、リグニンもしくはリグノフェノール由来エポキシ樹脂硬化剤を用いた銅張積層板では、耐水性が従来よりも向上していることが確認された。
【0103】
前記のように、実施例1〜8における銅張積層体はアミン硬化を利用して作製されたものであり、比較例1〜8における銅張積層体はフェノール硬化または酸無水物硬化を利用して作製されたものである。
【0104】
従って、本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤を用いた、アミン硬化を利用した実施例1〜8の銅張積層板においては、接着性、低吸水率および良耐水性を兼ね備えていた。即ち、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物に拠れば、従来よりも優れた成形体を製造できることがわかった。
【0105】
(実施例9)
次に、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物を用い、図2に示すフリップチップ型ボールグリッドアレイ(FC−BGA)を作製した。
【0106】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(日本化薬社製 RE404S、エポキシ当量165g/eg)45g、重量平均分子量1000のリグニンを用いて前記リグニン由来エポキシ樹脂の調製方法と同様にして調製したリグニン由来エポキシ樹脂(重量平均分子量2800)55g、および前記エポキシ樹脂硬化剤(1)120gを混合し、さらに、この混合物に対してカップリング剤濃度が2.0質量%となるように加え、これらを三本ロールと真空雷潰機とにより混錬し、樹脂封止剤(エポキシ樹脂組成物)を調製した。なお、カップリング剤としては、γ−グリドキシドプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製 KBM403)を用いた。
【0107】
混錬して調製した樹脂封止剤に対して、さらにイオントラッパー(東亜合成社製 IWE500)を樹脂封止剤の1.0質量%加えた。また、高純度球状フィラー3種類を混合して、前記樹脂封止剤の50体積%の量の当該混合物を樹脂封止剤にさらに加えた。3種類の高純度球状フィラーは、SP−4B(扶桑化学社製、平均粒径5.1μm)、QS4F2(三菱レイヨン社製)、平均粒径4.6μm)、SO25R(龍森社製;平均粒径0.68μm)である。これらのフィラーは、それぞれ質量比で、60:30:10となるように用いた。
【0108】
最終的に得られた樹脂封止剤の溶融粘度は25℃で120Pa・s、120℃で0.08Pa・sであった。なお、溶融粘度は、HAAKE社製 RheoStressRS100TC500を用いて測定した。
【0109】
また、DMA装置を用いて測定したガラス転移温度Tgは180℃であった。
【0110】
さらに、せん断強度は7.8MPaであった。
【0111】
前記樹脂封止剤を用いて、図2に示すフリップチップ型ボールグリットアレイ(FC−BGA)を作製した。図2において、1は配線回路基板、2は金メッキ、3は金バンプ(半田バンプ)、4は半導体素子、5は半田ボール、6はエポキシ樹脂硬化物をそれぞれ示す。
【0112】
図2に示すように、配線回路基板1の金メッキ2と半導体素子4とは、金バンプ3を用いて接続されている。そして、配線回路基板1と半導体素子4との間のギャップに、前記樹脂封止材を塗布してキャピラリーフロー法を適用し加熱(150℃)で封止し、エポキシ樹脂硬化物6とした。このギャップは100μm、バンプピッチ(金バンプ3の紙面横方向の間隔)は150μmとした。このように、本実施形態に係るエポキシ樹脂硬化剤を用いて、良好なFC−BGAを作製することができた。
【0113】
(参考例1)
重量平均分子量が1500のリグニンの代わりに重量平均分子量が12000のリグニンを用いたこと以外はエポキシ樹脂硬化剤(1)の場合と同様にして、エポキシ樹脂硬化剤(5)を調製した。得られたエポキシ樹脂硬化剤(5)の収量は134gであり、重量平均分子量は18500であった。
【0114】
調製した前記のリグニン由来エポキシ樹脂に対して、エポキシ樹脂硬化剤(5)を加えた後、2−メトキシエタノールおよびメチルエチルケトンの等重量の混合溶媒を樹脂分濃度50質量%になるように加えて混合した。しかし、エポキシ樹脂硬化剤(5)は、混合溶媒に溶解しなかった。これは、得られたエポキシ樹脂硬化剤(5)の分子量が大きすぎたためであると考えられる。
【0115】
このように、アミノ基を導入する前のリグニンの重量平均分子量が、10000より大きい場合、リグニン由来エポキシ樹脂硬化剤(アミノ基の導入後)の溶解性が低下することがわかった。
【0116】
(参考例2)
重量平均分子量が4400のリグノフェノールの代わりに重量平均分子量が16400のリグノフェノールを用いたこと以外はエポキシ樹脂硬化剤(3)の場合と同様にして、エポキシ樹脂硬化剤(6)を調製した。得られたエポキシ樹脂硬化剤(6)の収量は156gであり、重量平均分子量は21100であった。
【0117】
調製した前記のリグニン由来エポキシ樹脂に対して、エポキシ樹脂硬化剤(6)を加えた後、2−メトキシエタノールおよびメチルエチルケトンの等重量の混合溶媒を樹脂分濃度50質量%になるように加えて混合した。しかし、エポキシ樹脂硬化剤(6)は、混合溶媒に溶解しなかった。これは、得られたエポキシ樹脂硬化剤(6)の分子量が大きすぎたためであると考えられる。
【0118】
このように、アミノ基を導入する前のリグノフェノールの重量平均分子量が、10000より大きい場合、リグニン由来エポキシ樹脂硬化剤(アミノ基の導入後)の溶解性が低下することがわかった。
【符号の説明】
【0119】
1 配線回路基板
2 金めっき
3 金バンプ
4 半導体素子
5 半田ボール
6 エポキシ樹脂硬化物
10 フリップチップ型ボールグリッドアレイ(FC−BGA)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂硬化剤が、アミノ基を有するリグニン、または、アミノ基を有するリグノフェノールであることを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂硬化剤であって、
下記式(1)で表されるリグニン、または、下記式(2)で表されるリグノフェノールに、アミノ基を有するカップリング剤を結合して得られたものであることを特徴とする、エポキシ樹脂硬化剤。
【化1】

【化2】

【請求項3】
前記アミノ基を有するカップリング剤が、下記式(3)で表されるシランカップリング剤であることを特徴とする、請求項2に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【化3】

式(3)中、Rは炭素数1以上3以下のアルキル基もしくは水素原子を表す。また、Rは炭素数1以上3以下のアルキル基を表す。さらに、aは1以上3以下の整数、bは1以上5以下の整数、cは0または1を表す。
【請求項4】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物、または、請求項2もしくは3に記載のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物であって、
前記リグニンまたは前記リグノフェノールの重量平均分子量が、300以上10000以下であることを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1もしくは4に記載のエポキシ樹脂組成物、または、請求項2もしくは3に記載のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、前記リグニンまたは前記リグノフェノールをエポキシ化した樹脂であることを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1、4もしくは5に記載のエポキシ樹脂組成物、または、請求項2もしくは3に記載のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成物を溶解する溶媒と、を含むことを特徴とする、ワニス。
【請求項7】
請求項6に記載のワニスを基材に含浸させた後に乾燥させてなることを特徴とする、プリプレグ。
【請求項8】
請求項7に記載のプリプレグを用いていることを特徴とする、プリント基板。
【請求項9】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物、または、請求項2もしくは3に記載のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を用いたことを特徴とする、エポキシ樹脂硬化物。
【請求項10】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物、または、請求項2もしくは3に記載のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする、電子機器。
【請求項11】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物、または、請求項2もしくは3に記載のエポキシ樹脂硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする、回転機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−224787(P2012−224787A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95173(P2011−95173)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】