説明

エレクトロレオロジ的および/またはマグネトレオロジ的な構成素子を有する車両用の制動装置

【課題】制動装置の液圧媒体に影響を及ぼすことができる、非常に簡単且つ廉価に構成された構成素子を有する制動装置を提供する。
【解決手段】エレクトロレオロジ的および/またはマグネトレオロジ的な構成素子(1,10)を用いて制動装置の液圧媒体の粘度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロレオロジ的および/またはマグネトレオロジ的な構成素子を有する車両用の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の制動装置は、従来技術から種々の構成で公知である。通常の場合、公知の制動装置は液圧媒体もしくは作動液により充填されている1つまたは複数の制動回路を有する。車輪ブレーキにおける圧力を調節するために制動装置はポンプ、弁および絞りのような種々の装置を有する。ポンプとして通常の場合、ピストンポンプまたは歯車ポンプが使用される。弁は例えば電気的または電磁的に操作される機械的な遮断装置として設けられている。殊に、制御装置、例えばアンチブレーキシステム(ABS)または電子的な安定プログラム(ESP)を備えた制動装置は複数の機械的な閉ループ制御コンポーネントおよび開ループ制御コンポーネントを有する。これによりその種の制動装置は製造に比較的コストが掛かり、したがって高価である。さらに機械的な調整メカニズムはある程度の構造空間も必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、制動装置の液圧媒体に影響を及ぼすことができる、非常に簡単且つ廉価に構成された構成素子を有する制動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、エレクトロレオロジ的および/またはマグネトレオロジ的な構成素子(1,10)を用いて制動装置の液圧媒体の粘度を制御することによって解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明による制動装置は、制動装置の液圧媒体に影響を及ぼすことができる制動装置の構成素子を非常に簡単且つ廉価に構成することができるという利点を有する。このことは本発明によれば、制動装置の少なくとも1つの構成素子がエレクトロレオロジ的および/またはマグネトレオロジ的な構成素子として構成されていることによって達成される。この種の構成素子は例えば弁、絞りまたはポンプである。制動装置は液圧媒体としてエレクトロレオロジ的な流体(ER流体)および/またはマグネトレオロジ的な流体(MR流体)を有し、この流体の粘度を電界または磁界の印加によってその液体の状態から固体の状態まで変化させることができる。粘度の変化は1ミリ秒以内またはそれよりも速く行われる。したがって電界および/または磁界を印加もしくは除去することによって、液圧媒体の粘度を制御することができる。これによって、従来の制動装置において使用されていたポンプ、弁および絞りをエレクトロレオロジ的ないしマグネトレオロジ的な構成素子に置換することができる。したがって単に液圧媒体としてエレクトロレオロジ的な流体および/またはマグネトレオロジ的な流体が使用されればよい。マグネトレオロジ的な流体として例えば磁気的に極性付け可能な小さい粒子が加えられた懸濁液が使用され、それらの粒子はキャリア流体、例えばオイル内に細かく分散されている。この懸濁液が磁界の領域に到達すると、粒子が極性付けられ、磁界の力線に沿って鎖状に配列される。これによって磁界の領域における流体の粘度の変化が生じる。流体の粘度を固体の状態にまで変化させることができるので、これにより例えば遮断弁の機能を担わせることができる。したがってエレクトロレオロジ的ないしマグネトレオロジ的な構成素子を実質的に摩耗なく作動させることができる。エレクトロレオロジ的な流体は非導電性の流体中の粒子、例えばオイル中の金属酸化物を有し、この粒子は電界が印加されるとその電界に応じて配列され、また流体の粘度を変化させる。
【0006】
従属請求項には本発明の有利な構成が記載されている。
【0007】
制動装置のためのエレクトロレオロジ的もしくはマグネトレオロジ的な構成素子は有利には、エレクトロレオロジ的な弁またはマグネトレオロジ的な弁、および/または、エレクトロレオロジ的なポンプまたはマグネトレオロジ的なポンプ、および/または、エレクトロレオロジ的な絞りまたはマグネトレオロジ的な絞りである。制動装置内に存在するただ1つまたは全ての相応の機械的な構成素子を本発明による構成素子に置換することができる。
【0008】
有利にはエレクトロレオロジ的な弁に2つのプレート素子が設けられており、これらの2つのプレート素子は制御線路と接続されており、また管路部分に配置されており、電界を2つのプレート素子間に発生させることができる。
【0009】
さらに有利には、エレクトロレオロジ的な弁のための制御装置は、この制御装置が電界の電界強度を連続的に変化させることができるように構成されている。これによってエレクトロレオロジ的な弁を制動回路内の可変の絞りとして使用することもできる。択一的に、制御装置はエレクトロレオロジ的な弁のための電界の電界強度を第1の値と第2の値の間で変化させることができる。これによって簡単に制動回路内の遮断弁を提供することができる。このために第1の値は有利には0またはほぼ0であり、それにより液圧媒体の粘度は影響を受けない、または殆ど影響を受けない。また第2の値は高い値であり、それにより液圧媒体内の帯電した粒子は管路部分を遮断する。
【0010】
さらに有利には、エレクトロレオロジ的な弁はエレクトロレオロジ的なポンプであり、このポンプは複数のプレート素子を有し、これらのプレート素子は制動装置の管路部分に沿って並んで配置されている。電界を発生させるための各プレート組を制御装置によって別個に制御することができる。これによって、移動する電界を発生させるためにそれぞれ連続的に相互に並んで隣接しているプレート組が制御されることにより、移動する電界を発生させることができる。これによって制動装置内のポンプ作用が達成される。マグネトレオロジ的なポンプは有利には複数のコイルを相互に並べて管路部分に配置することにより得られる。コイルは別個に制御することができ、またポンプ機能を達成するために磁界を連続的に発生させる。
【0011】
本発明の別の有利な実施形態によれば、制動装置の管路部分内の振動を減衰させるため、または高めるためのエレクトロレオロジ的またはマグネトレオロジ的な構成素子が達成される。したがって一方では振動を効果的且つ簡単に減衰させることができるか、振動を高めることによって一時的に非常に高い圧力を制動回路内に発生させることができる。
【0012】
さらに有利には、制動装置が少なくとも1つの温度センサおよび調整装置を有し、この調整装置は温度センサによって検出された温度に基づき液圧媒体の粘度をエレクトロレオロジ的またはマグネトレオロジ的な構成素子を用いて目標値に調整する。これによって本発明によれば、温度が液圧媒体の粘度に及ぼす影響を補償することができる。
【0013】
本発明による制動装置を全ての種類の車両、例えば乗用車、トラックまたはオートバイに使用することができる。本発明による制動装置は有利には、例えばアンチブレーキシステム(ABS)、電子的な安定プログラム(ESP)、駆動装置滑り制御(TCS)のような調整装置またはこの種の調整装置の任意の組み合わせを備えた制動装置に使用される。有利には吸気弁および/または切り換え弁がレオロジ的な構成素子として構成されている。エレクトロレオロジ的および/またはマグネトレオロジ的な構成素子は殊に、各車輪における圧力形成(能動的でもある)、圧力除去、圧力勾配制御および/または圧力維持の機能も担うことができる。
【実施例】
【0014】
以下では図1を参照しながら、車両の制動装置のためのマグネトレオロジ的なポンプ1を詳細に説明する。
【0015】
図1に示されているように、マグネトレオロジ的なポンプ1は複数のコイル3を有し、これらのコイル3は制動装置の制動回路の管路部分2に一列に並んで配置されている。この実施例においては6つのコイルが管路部分2に配置されている。これらのコイル3は制御部4と接続されている。各コイル3を個別に制御することができる。図1に示されている状態においては、3番目のコイルには搬送方向において真っ直ぐに電流が流されており、これは図1においてはNとSで表されており、NはN極またSはS極を表す。したがってN極とS極との間には磁界が生じ、この磁界は管路部分2に対して垂直に存在する。これによって管路部分2内に存在するマグネトレオロジ的な流体5は磁界の領域において栓6に変わる。この栓6が管路部分2を詰まらせる。ポンプとしての機能を有するために、管路部分2に並んで配置されているコイル3を通る磁界が隣接するコイルによって連続的に形成される。これによって実際には連続的な栓6が生じ、これは矢印Aによって示唆されている。したがってこの連続的な栓6は液圧媒体を前方へと押し出し、これにより後方の管路部分における圧力が高まる。したがってマグネトレオロジ的な構成素子はポンプとして動作する。ポンプ動作時における個々のコイル3間の移行は常に、液圧媒体の粘度が高い領域が管路部分2内に存在したままであるように行われる。もちろん、複数のコイルのうちの1つにのみ電流が流され、それにより管路部分2に栓がされることによって、構成素子1を弁として機能させることもできる。磁界が進む方向に依存してマグネトレオロジ的なポンプ1を両方の運動方向に動作させることができる。さらに磁界を連続的に変化させることによって、連続的な圧力経過を形成することもできる。
【0016】
ポンプ1はマグネトレオロジ的な原理を使用する。つまり液圧媒体内に含まれている粒子が磁化されて磁界において整列され、これによって磁界の領域において栓6として管路部分を詰まらせる。しかしながら磁界強度に依存して、例えば絞りの効果のみをこの領域における高い粘度によって達成することもできる。
【0017】
ここで液圧媒体を相応に選択すると、エレクトロレオロジ的な構成素子もマグネトレオロジ的な構成素子も制動回路において使用できるということを言及しておく。全ての機械的な弁、絞りおよびポンプがマグネトレオロジ的および/またはエレクトロレオロジ的な構成素子に置換されている場合には、殊にメンテナンスが少なくて済む制動装置が得られる。何故ならば、回路装置は実質的に可動の部分をもはや有していないからである。ここで本発明による機能は管路部分2の小さい断面積によってさらに付加的に支援されることを言及しておく。何故ならば、この場合にはますます粘着および摩擦効果が生じるからである。必要とされる流れを生じさせるために、複数の平行の管路を使用することも考えられる。さらには本発明による制動装置は非常に少ないノイズおよび改善された制御快適性を有する。また本発明は従来の弁およびポンプとは異なり汚れが生じることはない。これによって本発明によるマグネトレオロジ的および/またはエレクトロレオロジ的な構成素子は長い寿命を有することができる。
【0018】
さらには、制動装置におけるマグネトレオロジ的およびエレクトロレオロジ的な構成素子と従来の弁、絞りおよびポンプの組み合わせも勿論可能であることを言及しておく。
【0019】
以下では図2を参照しながら、本発明の第2の実施例を詳細に説明する。同一の部分または同様に機能する部分には前述の実施例と同一の参照番号が付されている。
【0020】
図2は、エレクトロレオロジを基礎として動作する弁10を示す。このために弁10は2つのプレートコンデンサ7,8を有し、これらのプレートコンデンサ7,8は対になって管路部分2に配置されている。2つのプレートコンデンサ7,8は制御部4と接続されている。2つのプレートコンデンサ7,8は金属性の電極として機能するので、電圧が印加されるとこれらのプレートコンデンサ7,8間には電界が発生する。管路部分2内の液圧媒体はエレクトロレオロジ的な流体であり、この流体は電界の領域において栓6を形成する。栓6は管路部分2を詰まらせるで、第2の実施例の構成素子10はエレクトロレオロジ的な弁である。電界の強度に依存して流体5の粘度を制御することができる。これによって、液圧媒体5の粘度を2つのプレートコンデンサ7,8間の領域において変化させる絞りとして弁が動作することも考えられる。
【0021】
択一的に、弁10は円筒コンデンサを有していても良い。
【0022】
第2の実施例の弁を殊に有利には、慣例の制動装置における無電流式に開かれる機械的な弁に置換することができる。
【0023】
さらには、静的な電界の代わりに図2を参照しながら説明するように、交番磁界または交流成分を有する静的な電界も使用できることを言及しておく。これによって液圧媒体の粘度を所期のように制御することができる。
【0024】
その他の点に関しては、この実施例は前述の実施例に対応するので、その実施例についての説明を参照することができる。
【0025】
さらに有利には、マグネトレオロジ的またはエレクトロレオロジ的な構成素子に配置されている、制動装置の管路部分2は先細りに構成されている。殊に有利には管路部分2はテーパ状である。先細りにされた断面によって、磁界または電界の印加時に液圧媒体5の粘度を一層高めることができる。これによって殊に磁界または電界の印加時に管路部分2をより確実に閉じることができる。
【0026】
本発明の別の有利な実施形態によれば、マグネトレオロジ的な構成素子は管路部分2の周囲に配置されているコイルを有するマグネトレオロジ的な弁である。コイルに電流を流すことによってコイルの内部には磁界が形成され、その磁界の強度に依存して、管路部分2内の液圧媒体5の粘度を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施例による制動装置のためのマグネトレオロジ的なポンプの概略図を示す。
【図2】本発明の第2の実施例によるマグネトレオロジ的な弁の概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのエレクトロレオロジ的および/またはマグネトレオロジ的な構成素子(1,10)を有する車両用の制動装置において、
前記エレクトロレオロジ的および/またはマグネトレオロジ的な構成素子(1,10)を用いて制動装置の液圧媒体の粘度を制御することを特徴とする、制動装置。
【請求項2】
前記構成素子はエレクトロレオロジ的な弁またはマグネトレオロジ的な弁またはエレクトロレオロジ的なポンプまたはマグネトレオロジ的なポンプまたはエレクトロレオロジ的な絞りまたはマグネトレオロジ的な絞りである、請求項1記載の制動装置。
【請求項3】
前記エレクトロレオロジ的な構成素子はエレクトロレオロジ的な弁であり、該エレクトロレオロジ的な弁は、制御装置(4)と接続されており、且つ制動装置の管路部分(2)に電界を発生させるプレートコンデンサ(8,9)または円筒コンデンサを有する、請求項1記載の制動装置。
【請求項4】
前記制御装置(4)は前記電界の電界強度を連続的に変化させる、請求項3記載の制動装置。
【請求項5】
前記制御装置(4)は前記電界の電界強度を第1の値と第2の値の間で変化させる、請求項3記載の制動装置。
【請求項6】
前記第1の値は0またはほぼ0である、請求項5記載の制動装置。
【請求項7】
前記構成素子はエレクトロレオロジ的なポンプであり、且つ管路部分(2)に沿って並んで配置されており、制御装置(4)によって各々が別個に制御される複数のプレートコンデンサを有する、または前記構成素子はマグネトレオロジ的なポンプであり、且つ管路部分(2)に沿って並んで配置されており、制御装置(4)によって各々が別個に制御される複数のコイルを有する、請求項1記載の制動装置。
【請求項8】
前記エレクトロレオロジ的な構成素子または前記マグネトレオロジ的な構成素子は制動装置の管路部分(2)内の振動を減衰させる、または高める、請求項1から7までのいずれか1項記載の制動装置。
【請求項9】
前記構成素子はマグネトレオロジ的な弁であり、該弁は管路部分(2)の周囲に配置されているコイルを有する、請求項1記載の制動装置。
【請求項10】
さらに、温度センサおよび調整装置を有し、該調整装置は前記温度センサによって検出された液圧媒体の温度に基づき、液圧媒体の粘度を目標値に調整する、請求項1から9までのいずれか1項記載の制動装置。
【請求項11】
エレクトロレオロジ的な構成素子またはマグネトレオロジ的な構成素子が配置されている制動装置の管路部分(2)は先細りに、例えばテーパ状に構成されている、請求項1から10までのいずれか1項記載の制動装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−29414(P2009−29414A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190926(P2008−190926)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】