説明

エレベータの遠隔監視システム

【課題】消防・救護の指揮を執る者に、迅速かつ正確に火災の発生および現場状況を伝達するエレベータの遠隔監視システムを提供する。
【解決手段】火災報知器等から火災発生信号が出力されたときに火災発生位置を判定し、火災発生信号と火災発生位置情報を出力する火災管理装置と、エレベータの設置位置等を予め記録し、火災管理装置とエレベータ制御装置に接続された遠隔通信制御装置を備える。遠隔通信制御装置は、火災発生信号を最初に受信すると、管轄消防機関の第1の非常時運転指示装置に、火災発生信号等を送信する。また、第2の非常時運転指示装置を搭載した指揮車の出動体制が整った後には、第2の非常時運転指示装置に、火災発生位置情報等を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、火災時における消防・救護活動を効率的に行うためのエレベータ遠隔監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ビルにおける火災発生から消防本部の救出活動までの流れは、火災が発生し火災報知器が作動した時に、火災報知器から管理室に設置された火災管理装置にビル内配線を介して火災発生の信号が伝達され、その火災管理装置が出す音や光を感知した在館者や管理人が通報者となって、電話で消防本部へ救援要請を行う。要請を受けた消防本部は、通報者から火災発生場所や規模、逃げ遅れた人がいる可能性やけが人の有無等の情報を聞き出して救助方針を検討し、必要な車両、機材の準備や派遣する消防隊員数を決定している。
【0003】
一方で、ビル管理企業から委託されエレベータ保守管理を行うエレベータ保守管理企業の中には、保守管理サービスの1つとしてエレベータ遠隔監視システムを運営している企業がある。エレベータ遠隔監視システムは、ビル内のエレベータ制御盤に接続された遠隔通信制御装置と、遠隔地にある監視拠点とを公衆回線あるいは専用線を介して接続し、地震時や火災時にエレベータが管制運転を実施したことやエレベータの故障発生等の情報を検知して遠隔監視拠点に自動発報するシステムである。遠隔監視拠点には24時間体制でエレベータ保守管理企業の監視員が駐在しており、夜間やビル内に管理人が常駐していないビルでエレベータ利用者が閉じ込められる等の異常事態が発生しても、エレベータかご内の通話装置を介してエレベータ利用者と監視員が通話を行い、サービス員を急行させる等の適切な対応をとることができる。また最近はエレベータかご内に設置されたカメラによって撮られた画像を遠隔監視拠点やデータセンタに送信して画像記録データを蓄積するサービスや、カメラ画像を処理することによりエレベータ利用者の暴れや犯罪、動けなくなったけが人や病人等を検知して、遠隔監視拠点の監視員に報知するサービスも実用化されている。
【0004】
特許文献1には、エレベータ遠隔監視システムを利用して、エレベータ保守管理企業の監視員が異常を確認したときに、消防本部等の当局へ通報するシステムが開示されている。このシステムにおいては、先ず、エレベータ保守管理企業の監視員が火災等の異常を確認する必要がある。
【0005】
エレベータ遠隔監視拠点の監視員は、エレベータが火災管制運転を開始したことを示す信号を受け取ることによってビルに火災が発生したと推測でき、またエレベータかご内あるいはホールに設置されたカメラの画像を受信することによって火災発生を確認することも可能であり、かつ通話装置でエレベータかご内にいる在館者と通話できる等、災害状況に関する多くの情報を得る機会があるが、火災避難の専門家ではないため、在館者に対して適切な避難指示を与えることはできない問題点がある。
【0006】
一方、火災時に適切な判断と避難指示ができる消防本部の消防隊員は、前述したように、通報者の口頭による説明でしか現場の火災状況に関する情報を得ることができないため、火災規模や要救助者の有無に関して通報者と消防本部の間で認識の相違が起こる虞がある。
【0007】
また、在館者はビルの管理人の誘導によって整然と行動するべきであるが、ビルの管理人も出火位置や安全な避難経路、消防本部の出動・活動状況等の情報が必ずしも適切に把握できないことが、しばしばあり、避難時にパニックを引き起こす可能性もある。また、先ず、エレベータ保守管理企業の監視員が火災等の異常を確認する必要がある場合には、当局へ通報すべきか否かの判断が遅れる可能性があり、さらに通報を受けた消防本部等の当局も、ビルの管理人や在館者と直接通話できないため適切な避難指示を与えることができない問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−89256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、消防・救護の指揮を執る者に、迅速かつ正確に火災の発生および現場状況を伝達するエレベータの遠隔監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態によるエレベータの遠隔監視システムは、ビル内に設置され火災発生を検知する火災報知器または非常火災ボタンのビル内における設置位置を予め記録し、火災報知器または非常火災ボタンから出力された火災発生信号を受信したときに火災発生信号を出力した火災報知器または非常火災ボタンの設置位置を火災発生位置と判定し、火災発生信号および火災発生位置情報を出力する火災管理装置を備える。また、エレベータの遠隔監視システムは、ビルの所在地を一意的に表す情報およびビルに設置されているエレベータの系統情報および設置位置が予め記録され、火災管理装置およびエレベータの運行を制御するエレベータ制御装置に接続された遠隔通信制御装置を、さらに、備える。
【0011】
遠隔通信制御装置は、火災管理装置から火災発生信号を最初に受信したときに、少なくとも、ビルの所在地を管轄する消防機関に設置され、エレベータ制御装置に対してエレベータの運行指示を送信する機能を有する第1の非常時運転指示装置に、少なくとも火災発生信号とビルの所在地を一意的に表す情報とエレベータの系統情報を含む火災発生情報を送信する。また、遠隔通信制御装置は、ビルの消防活動の現場指揮を執る指揮隊が搭乗し、エレベータ制御装置に対してエレベータの運行指示を送信する機能を有する第2の非常時運転指示装置を搭載した指揮車の出動体制が整った後には、少なくとも、第2の非常時運転指示装置に、少なくともエレベータの系統情報と火災管理装置から受信された火災発生位置情報を含む火災状況情報を送信し、第1の非常時運転指示装置または第2の非常時運転指示装置から、エレベータ制御装置に対するエレベータの運行指示を受信したときには、受信した運行指示をエレベータ制御装置に伝達する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態の構成を説明するためのブロック図である。
【図2】一実施形態におけるエレベータ異常時送信データの一例である。
【図3】一実施形態における火災報知器または非常火災ボタンの設置位置情報を示すデータの一例である。
【図4】エレベータ運転指示データの一例である。
【図5】図4に示したエレベータ運転指示データに含まれるエレベータ運転指示コードの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜、図面を参照しながら本発明の一例としての実施形態の説明を行う。図1に一実施形態の構成を説明するためのブロック図を示す。尚、この図は、本実施形態に関連する機能要素と、それらの関連を示すものであって、構成要素の物理的配置あるいは物理的構成を表すものではない。遠隔通信制御装置1はビル内の防災センタあるいはエレベータ機械室に設置され、例えば、電話回線、ISDN回線、ADSL回線等の公衆回線、無線回線やエレベータ保守管理企業が用いる専用線を介して、遠隔地にあるエレベータ保守管理企業の遠隔監視拠点、ビルの所在地を管轄する消防本部あるいは消防の指揮車と、ビル内におけるエレベータをはじめとする各装置・機器との間のデータ送受信を制御する装置である。遠隔通信制御装置1は、通常、マイクロコンピュータ、RAM、ROM、メモリーカード、またはハードディスク等の磁気記憶装置等のハードウェア資源と、データ送受信の制御に必要なソフトウェアを含む、いわゆる組み込みシステムによって実装される。遠隔通信制御装置1は、また、ハードウェアによって実装することもできる。遠隔通信制御装置1に備えられたROMやメモリーカード、ハードディスク等の記録媒体には、例えば、エレベータが設置されているビルの階床数、ビルの耐火性に関する情報、エレベータの系統情報、例えば、TIFF、JPEGまたはビットマップ等の画像データで表されている各階の非常階段の位置を含む平面図情報、後ほど述べるビル内における各装置・機器の種類やそれぞれの設置場所の情報、遠隔監視拠点等の電話番号や通信アドレス等の通信宛先情報が予め記録されている。ここで、エレベータの系統情報には、例えば、1号機ないし3号機は地下1階から地上12階の各階に着床可能であり、4号機ないし6号機は、地下1階、地上1階および地上12階から地上24階の各階に着床可能であるが地上2階から地上11階には着床しない等の情報が含まれる。また、他の実施形態において、遠隔通信制御装置1は、Webサーバとりわけアプリケーションサーバとしての機能を備え、遠隔監視拠点からのハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP)によるデータ要求に対してデータを加工処理して返信する機能を備える。
【0014】
火災管理装置2は、例えば、ビル内の防災センタに設置され、ビル内に設置された複数の火災報知器10および非常火災ボタン11から発信される火災警報を受信し、制御する。火災管理装置2に内蔵されたメモリーカード等の記録媒体には、火災報知器10と非常火災ボタン11それぞれの識別番号と設置場所が予め記録されている。また個々の火災報知器10と非常火災ボタン11は、各々固有な識別番号を持ち、火災検知時には火災警報と個別識別番号を併せて火災管理装置2に発報する。火災管理装置2は、火災警報と個別識別番号を受信すると、火災発生の位置と火災警報を、電力線、同軸ケーブル、ツイストペア線、または光ファイバ等からなるビル内配線を介して遠隔通信制御装置1に発信する。
【0015】
第一の遠隔監視拠点3は、エレベータ保守管理企業が保守管理業務の1つとして運営するエレベータ遠隔監視システムのサービスセンタである。エレベータ遠隔監視システムは、エレベータの故障や異常、地震・火災等の非常時に行う管制運転の実施状況等の情報(以下、エレベータ発報情報という)を遠隔地にあるサービスセンタに自動送信することによって、保守技術員による迅速な復旧処置対応を可能にする。第一の遠隔監視拠点3には、各ビル内に設置された遠隔通信制御装置1から公衆網や専用線等の回線を介して送信されたエレベータ発報情報やエレベータかご内カメラ画像情報を表示するためのソフトウェアがインストールされたコンピュータとモニタ(いずれも図示せず)が設置されている。尚、遅延時間が小さいこと等のQoSが保証されている場合には、通信回線としてインターネットを用いることもできる。また、公衆網、専用線またはインターネット等のネットワークを介してエレベータかご内通話装置であるエレベータかご内インターホン8やホールに設置された非常用電話機9との通話を行うための通話システム(図示せず)が設置されている。
【0016】
第二の遠隔監視拠点4は、当該ビルの所在地を管轄する消防本部の拠点である。通常、市町村の消防署がこれに該当する。第二の遠隔監視拠点4にも、第一の遠隔監視拠点3と同様の遠隔設備が備えられている。
【0017】
エレベータ制御盤5は、エレベータのモータ制御やドア制御を行うことによってエレベータの運行を制御する。エレベータ制御盤5は、地震検知器(図示せず)または火災管理装置2から検知信号が入力されると、地震・火災等の管制運転制御を実行するとともに、管制運転制御の開始および終了を遠隔通信制御装置1に送信する。また、エレベータシステム内の各種安全スイッチ(図示せず)の動作状態を監視し、異常や故障を検知したときにも、それらの情報を遠隔通信制御装置1に送信する。
【0018】
エレベータかご内監視カメラ6およびホール監視カメラ7は、CCDあるいはCMOSセンサ等を用いた撮像装置であり、ROMまたはメモリーカード等の記録媒体を備え、各監視カメラを識別するための固有の識別番号が記録されている。エレベータかご内監視カメラ6は、例えば、エレベータかご内の側板や天井に設置され、また、ホール監視カメラ7は、例えば、エレベータホールの壁面や天井に設置される。これらのカメラは、撮影した画像をMotion JPEG、MPEG4、またはH.264等の動画像データや、JPEG等静止画像データの形式に変換し、ビル内配線を介して、固有の識別番号とともに遠隔通信制御装置1へ送信する。
【0019】
エレベータかご内インターホン8は、エレベータかご内の操作盤内に取り付けられ、マイクとスピーカを備え、エレベータかごの外部とエレベータかご内とで音声通話するための通話装置である。尚、通常、エレベータのインターホンシステムの親機は、ビル内の防災センタや管理人室等ビル管理人が利用しやすい場所に設置されていることが多い。
【0020】
しかし、近年はビル管理人が常駐していないビルも増えているため、エレベータのインターホンシステムは遠隔通信制御装置1から公衆回線あるいは専用線を介してエレベータ保守管理企業のサービスセンタ(すなわち図1の第一の遠隔監視拠点3)と直接通話ができるシステムが増えている。本実施形態において、エレベータかご内インターホン8の通常時の接続先は第一の遠隔監視拠点3であり、火災発生時には、接続先に第二の遠隔監視拠点4および後ほど述べる指揮車13も含める。
【0021】
非常用電話機9は、前述したエレベータかご内インターホン8と同様に、マイクとスピーカを備え、ビルの外部への音声通話を行うための通話装置である。非常用電話機9はエレベータホールに設置され、エレベータかご内インターホン8と同様に、遠隔通信制御装置1から公衆回線、無線回線あるいは専用線を介して、第一の遠隔監視拠点3、第二の遠隔監視拠点4あるいは指揮車13と接続可能であり、直接通話ができる。
【0022】
火災報知器10は、ビル内の、例えば、複数箇所の天井に取り付けられ、火災を検知する。内部に煙センサおよび熱センサの少なくとも一方を備え、センサが作動すると、内蔵されたROMやメモリーカード等の記録媒体に予め記録された固有の識別番号を火災警報とともにビル内配線を介して、火災管理装置2へ送る。
【0023】
非常火災ボタン11は押しボタンを備え、ビル内の、例えば、複数箇所の壁面に取り付けられ、在館者が火災を発見したときに押しボタンを押すことによって火災管理装置2へ火災発生を通報する。非常火災ボタン11も、火災報知器10と同様に、内蔵された記録媒体に固有の識別番号が予め記録されており、在館者が押しボタンを押したときに識別番号とともに火災警報を、ビル内配線を介して、火災管理装置2へ送る。
【0024】
非常時運転指示装置12は、第二の遠隔監視拠点4および指揮車13に設置され、遠隔通信制御装置1からの火災に関する情報を受信し、消防隊員の入力操作によって遠隔地の火災が発生しているビルに設置されたエレベータに対する運行指示信号を送信する。非常時運転指示装置12は、このような動作を行うためのソフトウェアがインストールされたコンピュータとディスプレイによって実装することができる。非常時運転指示装置12は、公衆回線、無線回線あるいは専用線を介して、遠隔地のビル内の防災センタに設置された遠隔通信制御装置1に火災情報要求信号または運行指示信号を送信する。これらの信号を受信した遠隔通信制御装置1は、ビル内配線を介して、指定されたエレベータ制御盤5やエレベータかご内監視カメラ6、ホール監視カメラ7、エレベータかご内インターホン8、非常電話機9等に対して情報要求信号または運行指示信号を送信する。情報要求信号を受信した機器は要求された情報を遠隔通信制御装置1に返信し、運行指示信号を受信した機器は指示された動作を行う。情報要求信号に対応する情報を受信した遠隔通信制御装置1は、受信した情報を非常時運転指示装置12に送信する。運行指示信号を受信したエレベータ制御盤5は、指示されたエレベータの運行を行う。ここで、運行指示信号には、火災・地震時の管制運転の開始および終了、非常時に乗客を迅速に避難させるための避難運転の開始および終了、消防隊員が消防活動のためにエレベータを利用するための非常運転の開始と終了、在館者の救護等のために状況に応じて指定される指定階への走行および着床、ビルについて予め定められた特定階への走行および着床の指示、エレベータのドアの開閉等の指示を表す信号がある。尚、特定階の例としては、避難階が挙げられる。
【0025】
指揮車13は、火災が発生したビルの消防活動の現場指揮を執る指揮隊が搭乗する車両である。第二の遠隔監視拠点4、すなわちビルの所在地を管轄する消防本部の責任者は、火災発生の連絡を受けると速やかに指揮隊員および指揮車13を指定する。指揮車13は、第二の遠隔監視拠点4と連絡をとる消防無線通信装置と、前述した非常時運転指示装置12と同様の機能を有する非常時運転指示装置12’を搭載している。
【0026】
次に、図1に示した構成を備えた実施形態の動作例を説明する。先ず、火災が発生していないとき、すなわち火災報知器10または非常火災ボタン11が火災警報を発報していない場合の動作を説明する。
【0027】
火災が発生していない状態で、エレベータ制御盤5が地震管制運転を開始したとき、あるいはエレベータの故障・異常を検知したときは、エレベータ制御盤5から遠隔通信制御装置1に対してエレベータ異常信号を出力する。エレベータ異常信号を受信した遠隔通信制御装置1は、エレベータ制御盤5内のメモリから異常情報を収集し、例として図2に示すようなエレベータ異常時送信データを、アプリケーション層データフォーマットとして生成する。さらに遠隔通信制御装置1は、送信先の通信アドレスを第一の遠隔監視拠点3に設定したパケットヘッダ情報をエレベータ異常時送信データに付加してパケットを作成し、ネットワークに送出する。尚、実際の運用の際には、セキュリティを考慮して、データを暗号化するか、VPN等の仮想専用線を利用することが望ましい。例として図2に示した異常時送信データは、次のような情報から構成されている。予め遠隔通信制御装置1あるいはエレベータ制御盤5の記憶媒体に記録されている固有のビル番号(8バイト)、エレベータ番号(2バイト)、エレベータ制御盤5あるいは遠隔通信制御装置1に搭載されたRTC(リアルタイムクロック)から読み出した当該異常発生の日時情報(12バイト)、エレベータ制御盤5のメモリに格納され、異常の種類に応じて予め定められた異常コード(2バイト)である。尚、異常コードは、異常の発生要因に応じて複数のサブコード(2バイト×n個)が付加される場合もある。固有のビル番号は、ビルの所在地を一意的に表す情報の一例であり、コード化された住所を固有のビル番号に付加してもよい。
【0028】
エレベータかご内監視カメラ6からは1時間ごと、1日ごと等、定期的に圧縮された、MotionJPEGやMPEG4やH.264等の動画像データ、あるいはJPEG等の静止画像データ等の画像データが、エレベータかご内監視カメラ6の識別情報とともに遠隔通信制御装置1に伝達される。画像データを受信した遠隔通信制御装置1は、画像データおよび監視カメラ6の設置位置データをHTTPで、例えば、HTMLまたはXMLのようなマークアップ言語で記述された文書の形式として、エレベータ異常時送信データと同様に、画像データに送信先の通信アドレスを第一の遠隔監視拠点3に設定したパケットヘッダ情報を付加してパケットを生成し、ネットワークヘ送出する。尚、エレベータかご内監視カメラ6の画像データを処理することによって、エレベータ乗客の異常状態を検出したときは、検出された異常状態の種類や発生日時情報をアプリケーション層データに付加してパケットを生成する。
【0029】
エレベータかご内に設置されたインターホン8の通話ボタンがエレベータ乗客によって押されたときは、エレベータかご内インターホン8と第一の遠隔監視拠点3との間の通信リンクを確立する。通話ボタンが押されたとき、エレベータかご内インターホン8は、マイクで収集した音声をG.711等のストリーミング圧縮コーデックによってデジタル化し、例えば、HTMLで記述された文書として作成する。さらに、予め設定された識別情報を付加してアプリケーション層データを生成し、送信先の通信アドレスを第一の遠隔監視拠点3に設定したパケットヘッダ情報を付加してパケットを生成し、例えばHTTPで、ネットワークヘ送出する。また、第一の遠隔監視拠点3の監視員からの通話は、第一の遠隔監視拠点3に設置されたマイクで収集した音声を同様にデジタル化し、送信先の通信アドレスを当該ビルの遠隔通信制御装置1に設定したパケットヘッダ情報を付加してパケットを生成し、ネットワークヘ送出する。
【0030】
次に、火災が発生したとき、すなわち火災報知器10または非常火災ボタン11が火災警報を発報した場合の動作を説明する。火災報知器10が火災を検知、または非常火災ボタン11が在館者によって押されたとき、火災報知器10または非常火災ボタン11は各々の識別情報とともに火災警報を火災管理装置2に伝達する。火災警報と識別番号を受信した火災管理装置2は、予め記録された識別番号ごとの火災報知器設置位置情報に基づいて、火災報知器設置位置を火災発生位置と見なし、火災警報とともに火災発生位置情報を遠隔通信制御装置1に伝達する。
【0031】
図3に、火災報知器10または非常火災ボタンの設置位置情報を示すデータの一例を示す。火災報知器10または非常火災ボタン11の識別番号ごとに、その設置位置が(x、y、z)座標で記録されている。これらの座標は建物のある1点を原点として定められている。ここでは、例として、地下1階にある防災センタの位置を原点とする。x座標は東西方向の位置を表し、y座標は南北方向の位置を表し、z座標は高さ方向の位置を表す。また、x−y座標については、北および東を正数、南および西を負数として、1mを1単位としている。z座標については、原点より上方階を正数、下方階を負数として1階床を1単位としている。例えば、図3において、識別番号0001の火災報知器10または非常火災ボタン11は、防災センタの位置を基準にして東に10m、南に35m離れた位置の1階に設置されていることを示している。この火災報知器設置位置情報と動作した火災報知器10または非常火災ボタン11からの火災警報を元に、火災管理装置2は火災発生位置を判定する。尚、遠隔通信制御装置1に予め格納されている他の機器の設置位置情報を表すデータも、同様の形式で格納されているため、説明は省略する。
【0032】
火災管理装置2から火災警報および(x、y、z)座標で表された火災発生位置情報を最初に受信した遠隔通信制御装置1は、先ず、火災警報検出信号と、ビル番号のようなビルの所在地情報と、エレベータの系統情報を含む火災発生情報を、パケットヘッダ情報の送信先通信アドレスを予め記録されている第二の遠隔監視拠点4(ここでは、そのビルの所在地を管轄する消防署を示すため、以下、消防署(4)ということがある)に設定してネットワークに送出する。尚、火災時には、第二の遠隔監視拠点4である消防署に送信するとともに、第一の遠隔監視拠点3であるエレベータ保守管理企業の遠隔監視拠点にも、火災発生情報を送信してもよい。このような動作によって、迅速かつ正確にビル火災の発生および火災発生地を、消防署に伝達することができる。
【0033】
他の実施形態において、遠隔通信制御装置1は、火災が発生したビルの階床数および耐火性に関する情報を火災発生情報に含め、第二の遠隔監視拠点4に送信してもよい。出動させるべき車両の種類および台数、隊員の人数等はビルの階床数および耐火性にも依存するためである。但し、受信した火災発生情報に含まれるビルの所在地情報のみから火災が発生したビルの階床数および耐火性が消防署側で直ちに分かる場合には、この限りではない。
【0034】
消防署に設置され、ネットワークに常時接続された非常時運転指示装置12が遠隔通信制御装置1から送信された火災発生情報を受信すると、消防署4の責任者は、出動体制を検討し決定する。この時、現場における消火・防護活動の指揮を執る指揮隊員および指揮隊員が搭乗する指揮車13も指定される。指揮車が指定され、出動体制が整うと、消防署に設置された非常時運転指示装置12は、遠隔通信制御装置1からの送信先に、少なくとも指揮車13に搭載された非常時運転指示装置12’を含める指示を遠隔通信制御装置1に送信する。また、指揮車13に搭載された非常時運転指示装置12’または消防署に設置された非常時運転指示装置12は、ビル内の火災発生位置情報およびエレベータの系統情報を含む火災状況情報の送信を要求する信号を、例えばHTTPで、遠隔通信制御装置1に対して送信する。エレベータの系統情報の送信を要求するのは、指揮車13に搭載された非常時運転指示装置12’がエレベータの系統情報を必要とするためである。
【0035】
ビル内の火災発生位置情報の送信を要求する信号を受信した遠隔通信制御装置1は、予め記録されている各階の平面図から火災発生位置情報のz座標値に基づいて火災発生階の平面図を選択し、さらにx−y座標値に基づいて火災発生階の平面図に火災発生位置を示す印を加えて火災発生階図面を生成する。ビル内の火災発生位置情報を含む火災発生階図面とエレベータの系統情報を、例えば、HTML形式の文書として、HTTPで、少なくとも指揮車13に搭載された非常時運転指示装置12’へ送信する。このことによって、現場を指揮する消防隊員がビル内の火災発生中の正確な場所を知ることができ、適切な消防活動が可能となる。
【0036】
また、別な実施形態においては、前述したように火災報知器10の位置情報と同様の方法で遠隔通信制御装置1に格納されているホール監視カメラ7設置位置情報を元に、火災発生位置に最も近いホール監視カメラ7を特定し、前述した火災発生階図面にカメラの設置位置を示す印を加えて、例えば、HTML形式の文書を作成し、非常時運転指示装置12および非常時運転指示装置12’に送信する。さらに、そのホール監視カメラ7が撮像した動画像または静止画像を、例えば、HTML形式の文書にして、非常時運転指示装置12および非常時運転指示装置12’に送信する。このような動作によって、通常時はエレベータ監視拠点に送られている監視カメラによって撮られた画像を、現場を指揮する消防隊員が、リアルタイムで見ることができるため、迅速に現場状況を理解し適切な消防活動が可能となる。
【0037】
さらに異なる実施形態においては、エレベータかご内インターホン8または非常用電話機9が利用者によって操作され、非常時運転指示装置12または非常時運転指示装置12’との通話リンクが確立したときに、遠隔通信制御装置1は操作されたエレベータかご内インターホン8または非常用電話機9の設置位置情報を火災位置情報と同様の方法で取得し、前述したように、マイクで取得した音声をデジタル化し、例えば、HTML形式の文書にしてHTTPで、非常時運転指示装置12または非常時運転指示装置12’に送信する。尚、エレベータかご内インターホン8の設置位置のx、y座標値はエレベータの設置位置のx、y座標値に等しく、また、z座標値はエレベータ制御盤5から取得したエレベータかご位置情報に等しいためこれらの座標を利用する。このことによって、火災が起きているビルに取り残された在館者は、消防隊員と直接話をすることができ、適切な避難指示を受けることができる。また、消防隊員にとっては、迅速に在館者の状況を理解し、取り残された在館者の救護に有効な情報を取得することができる。
【0038】
非常時運転指示装置12または非常時運転指示装置12’は、遠隔通信制御装置1に対してエレベータの運行指示を送信する。非常時運転指示装置12または12’を操作する消防署員が運行指示を入力すると、非常時運転指示装置12または12’は、図4に示すようなエレベータ運転指示データを、アプリケーション層データフォーマットとして生成する。さらに非常時運転指示装置12は、送信先の通信アドレスを火災が発生し火災検出信号を送信した当該ビルの遠隔通信制御装置1(cookie等を用いて記憶している)に設定したパケットヘッダ情報を、エレベータ運行指示データに付加してパケットを作成しネットワークに送出する。非常時における運行指示が、消防署員によって入力されるため、火災現場の状況に応じた適切なエレベータ運行が可能となる。
【0039】
図4に示すエレベータ運転指示データは次のような情報から構成されている。遠隔通信制御装置1から送信された火災発生階図面を見た消防署員が、遠隔操作の対象とするエレベータを指定するためのエレベータ番号(例えば2バイト)、消防署員が遠隔操作する動作項目の種類に応じて予め定められたエレベータ運転指示コード(例えば2バイト)である。尚、エレベータ運転指示コードは、複数のサブコード(例えば2バイト×n個)が付加される場合もある。
【0040】
図5に、エレベータ運転指示コードの一例を示す。例えば、消防署員が火災発生ビルのエレベータ2号機について火災管制運転を開始させる場合、エレベータ番号は0002であり、指示コードは0001となる。火災管制運転の場合、指示サブコードは付加されない。また、例えば、4階ヘエレベータ3号機を走行させたい場合には、エレベータ番号は0003であり、指示コードは000Aであり、指示サブコードは指定階4階の階床インデックスを表す0004となる。
【0041】
遠隔通信制御装置1は、非常時運転指示装置12または12’からエレベータ運転指示データを受信すると、指定されたエレベータ番号のエレベータ制御盤5に対して、指定された動作を実行するように指示信号を伝達する。
【0042】
尚、本発明は上記の実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で開示した構成要素を変形して具体化できる。例えば、前述した実施形態では、第二の遠隔監視拠点(すなわち消防署)に非常時運転指示装置を備えた構成とし、遠隔通信制御装置との送受信を非常時運転指示装置を用いて行うこととしたが、遠隔通信制御装置のWebアプリケーションサーバ上で非常時運転指示アプリケーションソフトを動作させる方式とすれば、市販のPC上で動作する市販のWebブラウザでの操作とすることもできる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示した全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1・・・遠隔通信制御装置、 2・・・火災管理装置、
3・・・第一の遠隔監視拠点、 4・・・第二の遠隔監視拠点(消防署)、
5・・・エレベータ制御盤、 6・・・エレベータかご内防犯カメラ、
7・・・ホール防犯カメラ、 8・・・エレベータかご内インターホン、
9・・・非常用電話機、 10・・・火災報知器、
11・・・非常火災ボタン、 12、12’・・・非常時運転指示装置、
13・・・指揮車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビル内に設置され火災発生を検知する火災報知器または非常火災ボタンの前記ビル内における設置位置を予め記録し、前記火災報知器または前記非常火災ボタンから出力された火災発生信号を受信したときに火災発生信号を出力した前記火災報知器または前記非常火災ボタンの前記設置位置を火災発生位置と判定し、火災発生信号および火災発生位置情報を出力する火災管理装置と、
前記ビルの所在地情報および前記ビルに設置されているエレベータの系統情報および設置位置を予め記録し、前記火災管理装置および前記エレベータの運行を制御するエレベータ制御装置に接続された遠隔通信制御装置とを備え、
前記遠隔通信制御装置は、
前記火災管理装置から火災発生信号を最初に受信したときに、少なくとも、前記ビルの所在地を管轄する消防機関に設置され、前記エレベータ制御装置に対してエレベータの運行指示を送信する機能を有する第1の非常時運転指示装置に、少なくとも火災発生信号と前記ビルの所在地情報と前記エレベータの系統情報を含む火災発生情報を送信し、
前記ビルの消防活動の現場指揮を執る指揮隊が搭乗し、前記エレベータ制御装置に対してエレベータの運行指示を送信する機能を有する第2の非常時運転指示装置を搭載した指揮車の出動体制が整った後には、少なくとも、前記第2の非常時運転指示装置に、少なくとも前記エレベータの系統情報と前記火災管理装置から受信された火災発生位置情報を含む火災状況情報を送信し、
前記第1の非常時運転指示装置または前記第2の非常時運転指示装置から、前記エレベータ制御装置に対するエレベータの運行指示を受信したときには、受信した運行指示を前記エレベータ制御装置に伝達することを特徴とするエレベータの遠隔監視システム。
【請求項2】
前記遠隔通信制御装置は、この遠隔通信制御装置に接続され、前記エレベータのホールおよび前記エレベータのかご内の搭乗者の様子を画像情報として送信する機能を有する撮像装置の前記ビルにおける設置位置情報を、さらに、予め記録し、
前記遠隔通信制御装置が前記第1の非常時運転指示装置に送信する前記火災発生情報および前記第2の非常時運転指示装置に送信する前記火災状況情報は、さらに、前記画像情報および前記画像情報を送信した撮像装置の設置位置情報を含むことを特徴とする請求項1に記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項3】
前記システムは、
前記エレベータホールまたは前記エレベータかご内の少なくとも一方に設置され、前記遠隔通信制御装置を介して、前記消防機関のスタッフおよび前記指揮車の指揮隊員との通話を行うための通話装置を、さらに、備え、
前記遠隔通信制御装置は、さらに、前記通話装置の前記ビルにおける設置位置情報を予め記録し、前記通話装置と前記消防機関または前記指揮車との通話リンクが確立したときに、前記通話装置の前記ビルにおける設置位置情報を前記消防機関または前記指揮車に送信することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項4】
前記火災発生情報は、前記ビルの階床数および耐火性に関する情報を、さらに、含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項5】
前記遠隔通信制御装置は、前記火災発生情報または前記火災状況情報を、マークアップ言語で記述された文書の形式で、前記第1の非常時運転指示装置または前記第2の非常時運転指示装置に送信することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項6】
前記遠隔通信制御装置が前記第1の非常時運転指示装置または前記第2の非常時運転指示装置から受信する前記エレベータの運行指示は、前記エレベータの火災管制運転の開始および終了、避難運転の開始および終了、消防士による非常運転の開始および終了、前記ビルについて予め定められた特定階への走行および着床、状況に応じて指定される指定階への走行および着床、および前記エレベータのドアの開閉の指示のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載のエレベータの遠隔監視システム。
【請求項7】
前記遠隔通信制御装置は、さらに、前記第1の非常時運転指示装置または前記第2の非常時運転指示装置から火災情報要求を受信し、この要求に対応する情報を要求元の非常時運転指示装置に送信することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のエレベータの遠隔監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−6743(P2012−6743A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146182(P2010−146182)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】