説明

エンジンの始動装置

【課題】エンジン自動停止中の気筒内に漏出した燃料による再始動性の低下を抑制することができるエンジンの始動装置を提供する。
【解決手段】エンジンの自動停止条件が成立したときに自動的に停止させるとともに、再始動条件が成立したときに、燃焼を行わせて自動的に再始動させる停止再始動制御手段を備えたエンジンの始動装置であって、少なくとも吸気弁用の電磁式動弁機構と、電磁式動弁機構による弁開閉時期を設定するバルブタイミング制御手段とを備え、バルブタイミング制御手段は、エンジン自動停止制御によってエンジンが完全に停止した後の所定時期t4に、少なくともエンジン停止時に膨張行程にある気筒12Bおよび圧縮行程にある気筒12Aの各吸気弁を開弁76,78させる停止後弁制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの自動停止条件が成立したときに、いったんエンジンを自動的に停止させるとともに、停止させたエンジンをその後自動的に始動させるエンジンの始動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費低減およびCO排出量の抑制等を図るため、アイドル時にエンジンを自動的にいったん停止させるとともに、その後に発進操作等の再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させるようにしたエンジンの始動装置が開発されてきている。
【0003】
このエンジンの再始動は、再始動条件成立に応じて即座に始動させることが要求されるため、スタータ(始動用のモータ)によりエンジン出力軸を駆動するクランキングを経てエンジンを始動させるような、始動完了までにかなりの時間を要する従来の一般的な始動方法は好ましくない。
【0004】
そこで、停止状態のエンジンの膨張行程にある気筒(以下、エンジン停止時に膨張行程にある気筒を便宜上停止時膨脹行程気筒と称する。他の行程にある気筒も同様である)に燃料を供給して燃焼を行わせ、そのエネルギーでエンジンが即時的に始動されるようにする始動方法が開発されつつある。
【0005】
このような技術において、自動停止中の気筒内への燃料漏れが問題になることがある。例えば気筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を用いる場合、高圧の気筒内に燃料を噴射する必要があるので、その燃料圧力(燃圧ともいう)を充分高めておく必要がある。そのため、燃料噴射弁の噴口からのある程度の燃料漏れは避けられないのが実情である。
【0006】
エンジンの自動停止中には、この漏出した燃料が筒内に残留する。そして、再始動条件が成立すると始動のために燃料を供給(噴射)して燃焼させるのであるが、この燃料と漏出した燃料との合計が過多(オーバーリッチ)となり、燃焼に支障をきたす虞があるのである。
【0007】
このような問題に対し、例えば特許文献1には、燃料の漏出状態を学習制御によって推定し、再始動時に新たに噴射する燃料の量を補正する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−188419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、筒内に漏出し、残留している燃料の量を実際に高精度で推定するのは容易なことではない。これに対し、より推定精度を向上させる方法を求めるのも一案ではあるが、一方で、そもそも燃料が漏出しても再始動時の燃焼に支障をきたさないようにすることも有効な解決策となる。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、エンジン自動停止中の気筒内に漏出した燃料による再始動性の低下を抑制することができるエンジンの始動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、エンジンの自動停止条件が成立したときに、エンジン運転を継続させるための燃料供給を停止してエンジンを自動的に停止させるエンジン自動停止制御を行うとともに、自動停止状態にある上記エンジンの再始動条件が成立したときに、少なくともエンジン停止時に膨張行程にある気筒で燃焼を行わせて上記エンジンを自動的に再始動させる自動再始動制御を行う停止再始動制御手段を備えたエンジンの始動装置であって、上記エンジンの、少なくとも吸気弁を電磁力で開閉駆動する電磁式動弁機構と、上記電磁式動弁機構による弁開閉時期を設定するバルブタイミング制御手段とを備え、上記バルブタイミング制御手段は、上記エンジン自動停止制御によってエンジンが完全に停止した後の所定時期に、少なくともエンジン停止時に膨張行程にある気筒および圧縮行程にある気筒の各上記吸気弁を開弁させる停止後弁制御を実行することを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のエンジンの始動装置において、上記少なくともエンジン停止時に膨張行程にある気筒および圧縮行程にある気筒に燃料を供給する燃料供給手段と、上記燃料供給手段からの燃料漏れ量を推定する漏燃料量推定手段とを備え、上記バルブタイミング制御手段は、上記燃料漏れ量の推定値が所定値より大きいときに上記停止後弁制御を実行することを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2記載のエンジンの始動装置において、上記電磁式動弁機構は上記エンジンの排気弁に対しても開閉駆動を行うものであり、上記バルブタイミング制御手段は、上記停止後弁制御において、エンジン停止時に排気行程にある気筒の吸気弁を開弁するとともに、当該気筒の排気弁を閉弁することを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載のエンジンの始動装置において、上記停止後弁制御が開始される上記所定時期が、エンジン完全停止後に該当気筒の筒内圧が略大気圧まで低下した時期に設定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項4記載のエンジンの始動装置において、上記停止後弁制御が開始される上記所定時期が、エンジン完全停止後0.3s乃至3sに設定されていることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載のエンジンの始動装置において、上記バルブタイミング制御手段は、上記停止後弁制御の開始後、所定期間以内に上記再始動条件が成立しないとき、当該停止後弁制御を終了し、通常の弁制御に復帰することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によると、以下説明するように、エンジン自動停止中の気筒内に漏出した燃料による再始動性の低下を抑制することができる。
【0017】
エンジンが自動停止した時点で、停止時膨張行程気筒および停止時圧縮行程気筒の筒内は吸排気弁の閉じた密閉空間となっている。このように筒内が密閉されていると、漏出した燃料が残留し続け、後の再始動時の燃焼に影響を与える虞がある。しかもこれら停止時膨張行程気筒および停止時圧縮行程気筒は、再始動時の初期段階で、再始動の成否にかかわる重要な燃焼を行わせる気筒である。
【0018】
そこで本発明によれば、エンジン停止後に、少なくとも停止時膨張行程気筒および停止時圧縮行程気筒の吸気弁を開弁させるだけで、漏出した燃料を含む混合気を吸気通路側に放出させることができる。この混合気は密閉された筒内で高温となっており、吸気弁を開けると、比較的低温の吸気通路内の空気との間で活発な対流が起きるからである。
【0019】
従って、後の再始動時に筒内に残留している漏出燃料の量(漏燃料量)が少なく、この燃料が燃焼に及ぼす影響が小さくなる。従って良好な再始動を行うことができる。
【0020】
さらに、上記対流によって、比較的低温の空気が筒内に導かれるので、筒内の空気密度を上昇させ、再始動時により大きな燃焼エネルギーを得ることができる。
【0021】
請求項2の発明によると、漏出した燃料が多いと推定されるときに停止後弁制御を行うので、その効果を顕著に享受することができる。
【0022】
請求項3の発明によると、停止時排気行程気筒においても上記対流を起こさせることができる。その際、電磁式動弁機構によって排気弁を閉弁することによって、排気通路側から吸気通路側へのガスの逆流が防止される。
【0023】
請求項4および5の発明によると、エンジン自動停止直後の高い筒内圧を有効利用することができる。エンジン自動停止直後の停止時膨張行程気筒や停止時圧縮行程気筒は比較的筒内圧の高い状態となっている。従って、その状態で再始動を実行すると、大きな燃焼エネルギーを得やすい。また、エンジン自動停止直後は燃料の漏出も少ない。従って、そのようなときに停止時弁制御を実行して(吸気弁を開いて)筒内圧を下げてしまうよりも、停止時弁制御の実行を保留した方が得策である。
【0024】
エンジンが自動停止した後の筒内圧は、3秒程度ないしはそれよりも短時間で略大気圧まで低下する。そこで停止時弁制御の開始時期を、0.3〜3s程度に設定するのが好適である。より望ましくは、0.7〜1.3s程度に設定するのが好適である。
【0025】
請求項6の発明によると、停止時弁制御を長時間行うことに弊害がある場合、それを有効に回避することができる。停止時弁制御を行うと、筒内温度が次第に低下して行く。つまり時間とともにこれを継続する利点が減少して行く。一方、例えば停止時弁制御を継続することにより電磁式動弁機構の消費電力が増大するような場合、その観点からすれば停止時弁制御を早く終わらせた方が得策である。
【0026】
結局、両者のバランスを考慮して、全体として最も有利な時期を停止時弁制御の終了時期とすれば良い。目安としては、エンジン完全停止後1min程度が妥当である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0028】
図1および図2は本発明の一実施形態による4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。このエンジンには、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2とを備える。エンジン本体1には複数の気筒(当実施形態では4つの気筒)12A〜12Dが設けられている。各気筒12A〜12Dにはコンロッドを介してクランクシャフト3に連結されたピストン13が嵌挿され、ピストン13の上方に燃焼室14が形成されている。
【0029】
各気筒12A〜12Dの燃焼室14の頂部には点火装置27に接続された点火プラグ15が装備され、そのプラグ先端が燃焼室14内に臨んでいる。さらに、燃焼室14の側方部には、燃焼室14内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16(燃料供給手段)が設けられている。この燃料噴射弁16は、図略のニードル弁及びソレノイドを内蔵し、パルス信号が入力されることにより、そのパルス入力時期にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。そして、点火プラグ15付近に向けて燃料を噴射するように燃料噴射弁16の噴射方向が設定されている。
【0030】
なお、この燃料噴射弁16には図外の燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給され、かつ、圧縮行程での燃焼室内の圧力よりも高い燃料圧力(燃圧)を与え得るように燃料供給系統が構成されている。また適宜位置に、その燃圧を検出する燃圧センサ55が設けられている。
【0031】
また、各気筒12A〜12Dの燃焼室14に対して吸気ポート17及び排気ポート18が開口し、これらのポート17,18に吸気弁19及び排気弁20が装備されている。これら吸気弁19及び排気弁20は、電磁VVT50(電磁式動弁機構)によって駆動される。
【0032】
電磁VVT50は、電磁力で吸排気弁19,20を開閉駆動する電磁式動弁機構である。電磁VVT50は周知の構造なので簡潔に記すが、電磁石のオン・オフによって直接吸排気弁19,20を開閉させるもの(通電時に開弁)であって、一種のVVT(Variable Valve Timing)である。但し従来のカム位相をずらすようなVVTよりも格段に制御自由度が高く、任意のクランク角で吸排気弁19,20を開閉することができる。吸気弁19には吸気側VVT51が、排気弁20には排気側VVT52がそれぞれ設けられている。
【0033】
上記吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。上記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられるとともに、この共通吸気通路21cには、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23からなる吸気流量調節手段が配設されている。スロットル弁23に、アイドル運転時の回転速度を調節する図略のISC(Idle Speed Control)ユニットを併設しても良い。このスロットル弁23の上流側には吸気流量を検出するエアフローセンサ25と吸気温度を検出する吸気温センサ29とが配設されている。またスロットル弁23の下流側には吸気圧力(ブースト圧)を検出する吸気圧センサ26が配設されている。また排気通路22には、排気を浄化する排気浄化装置37が設けられている。
【0034】
また、エンジン本体1には、タイミングベルト等によりクランクシャフト3に連結されたオルタネータ(発電機)28が付設されている。このオルタネータ28は、図略のフィールドコイルの電流をレギュレータ回路28aで制御して出力電圧を調節できるように構成され、ECU2からの制御信号に基づき、通常時に車両の電気負荷および車載バッテリーの電圧等に対応した目標発電電流の制御が実行されるように構成されている。
【0035】
また、エンジン本体1には、クランクシャフト3に直結されたリングギヤ(そのピッチ円の一部を一点鎖線で示す)を駆動するスタータモータ(以下スタータ36と称す)が設けられている。スタータ36は、必要に応じてピニオンギヤをリングギヤに噛合させ、そのピニオンギヤを駆動することにより、エンジンを正転方向に駆動する。スタータ36として、オルタネータを統合したモータ(ISG:Integrated Starter Generator)を用いても良い。スタータ36は、通常のエンジン始動時に用いられる他、当実施形態のエンジン自動停止後の再始動時に、その始動を補助するアシスト始動を行うときにも用いられる。
【0036】
さらに、上記エンジンには、クランクシャフト3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30,31が設けられ、一方のクランク角センサ30から出力される検出信号に基づいてエンジンの回転速度が検出されるとともに、上記両クランク角センサ30,31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランクシャフト3の回転方向および回転角度が検出されるようになっている。
【0037】
また、上記エンジンでは、カムシャフトの特定回転位置を検出して気筒識別信号として出力するカム角センサ32と、エンジンの冷却水温度を検出する水温センサ33とが設けられ、さらに運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサ34と、運転者がブレーキ操作を行ったことを検出するブレーキセンサ35と、車速を検出する車速センサ38とが設けられている。
【0038】
ECU2は、エンジンの運転を統括的に制御するコントロールユニットである。当実施形態のエンジンは、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を所定のタイミングで停止(燃料カット)して自動的にエンジンを停止させるエンジン自動停止制御を行うとともに、その後に運転者によるアクセル操作が行われる等により再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる自動再始動制御を行うように構成されている。つまりECU2は停止再始動制御手段として機能する。
【0039】
以下ECU2の説明にあたり、上記エンジン自動停止制御、自動再始動制御および停止時弁制御に関する部分を中心に説明する。
【0040】
ECU2には、エアフローセンサ25、吸気圧センサ26、吸気温センサ29、クランク角センサ30,31、カム角センサ32、水温センサ33、アクセル開度センサ34、ブレーキセンサ35、車速センサ38および燃圧センサ55からの各検知信号が入力されるとともに、燃料噴射弁16、スロットル弁23のアクチュエータ24、点火プラグ15の点火装置27、オルタネータ28のレギュレータ回路28aおよびスタータ36のそれぞれに各駆動信号を出力する。ECU2は、燃料噴射制御部41、点火制御部42、吸気流量制御部43、発電量制御部44、ピストン位置検出部45、スタータ制御部46、電磁VVT制御部48および漏燃料量推定部56を機能的に含んでいる。
【0041】
燃料噴射制御部41は、燃料噴射時期と、各噴射における燃料噴射量とを設定して、その信号を燃料噴射弁16に出力する燃料噴射制御手段である。特に当実施形態のエンジン自動停止制御では、後述するように、エンジンの自動停止条件が成立したときに、エンジン運転を継続させるための燃料噴射を停止させる。
【0042】
点火制御部42は、各気筒12A〜12Dに対して適切な点火時期を設定し、各点火装置27に点火信号を出力する。
【0043】
吸気流量制御部43は、各気筒12A〜12Dに対して適切な吸気流量を設定し、その吸気流量に応じたスロットル弁23の開度信号をアクチュエータ24に出力する。スロットル弁23にISCユニットが併設されている場合は、その制御(ISC制御)も行う。
【0044】
発電量制御部44は、オルタネータ28の適切な発電量を設定し、その駆動信号をレギュレータ回路28aに出力する。特に当実施形態では、エンジン自動停止制御においてオルタネータ28の発電量を調節することによってクランクシャフト3の負荷を変化させ、ピストン13が再始動に適した適正範囲に停止するような制御を行っている。発電量制御部44は、その際のオルタネータ28の発電量の調節も行う。
【0045】
ピストン位置検出部45は、クランク角センサ30,31の各検出信号に基づき、ピストン位置を検出する。ピストン位置とクランク角(°CA)とは1対1に対応するので、一般的になされているように当明細書においてもピストン位置をクランク角で表す。当実施形態では、膨張行程気筒および圧縮行程気筒の自動停止中のピストン位置に基いて各筒内空気量を算出し、それに応じて再始動時における各気筒の燃焼制御を行っている。
【0046】
スタータ制御部46は、スタータ36の駆動制御を行う。通常は、運転者のエンジン始動操作に応じてスタータ36に駆動信号を送る。また自動再始動制御において、必要に応じてエンジン始動を補助するアシスト始動を行う際にもスタータ36に駆動信号を送る。
【0047】
電磁VVT制御部48は、電磁VVT50による吸気弁19および排気弁20の開閉時期を設定するバルブタイミング制御手段である。また電磁VVT制御部48は、後述するように、エンジン自動停止後の所定期間、停止時膨張行程気筒および停止時圧縮行程気筒を含む全気筒の吸気弁19を開弁するとともに、停止時排気行程気筒の排気弁20を閉弁する停止時弁制御を行う。
【0048】
漏燃料量推定部56は、燃料噴射弁16の噴口からの燃料の漏れ量を推定する漏燃料量推定手段である。具体的には、漏燃料量推定部56は、燃圧センサ55によって検知される燃圧の単位時間当たりの低下量、つまり燃圧低下率を算出する。この燃圧低下率が大きいほど漏燃料量も多い。漏燃料量推定部56は、予め設定されたマップ等を参照し、燃料低下率から漏燃料量を推定するようにしても良く、燃料低下率自体を漏燃料量の代用特性として用いるようにしても良い。
【0049】
以上のような構成のECU2によってエンジンを自動停止させた後、自動再始動制御を行うにあたり、当実施形態では最初に圧縮行程気筒で燃焼を行わせることにより、そのピストン13を押し下げてクランクシャフト3を少しだけ逆転させる。これによって膨張行程気筒のピストン13を一旦上昇(上死点に近づける)させ、その気筒内の空気(燃料噴射後は混合気となる)を圧縮した状態で、この混合気に点火して燃焼させることにより、クランクシャフト3に正転方向の駆動トルクを与えてエンジンを再始動させるように構成されている。
【0050】
上記のように原則としてスタータ36を使用することなく、特定の気筒に噴射された燃料に点火するだけでエンジンを適正に再始動させるためには、上記膨張行程気筒の混合気を燃焼させることにより得られる燃焼エネルギーを充分に確保することにより、これに続いて圧縮上死点を迎える気筒(当実施形態では圧縮行程気筒および吸気行程気筒)がその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるようにしなければならない。したがって、膨張行程気筒内に充分な空気量を確保しておく必要がある。
【0051】
図3(a),(b)に示すように、圧縮行程気筒と膨張行程気筒とでは、それぞれ位相が180°CAだけずれているため、各ピストン13が互いに逆方向に作動する。膨張行程気筒のピストン13が行程中央よりも下死点側に位置していれば、その気筒の空気量が多くなって充分な燃焼エネルギーが得られる。しかし、上記膨張行程気筒のピストン13が極端に下死点側に位置した状態となると、圧縮行程気筒内の空気量が少なくなり過ぎて、再始動時の初回燃焼でクランクシャフト3を逆転させるための燃焼エネルギーが充分に得られなくなる。
【0052】
これに対して上記膨張行程気筒の行程中央、つまり圧縮上死点後のクランク角が90°CAとなる位置よりもやや下死点側の所定範囲R、例えば圧縮上死点後のクランク角が100°〜120°CAとなる範囲R内にピストン13を停止させることができれば、圧縮行程気筒内に所定量の空気が確保されて上記初回の燃焼によりクランクシャフト3を少しだけ逆転させ得る程度の燃焼エネルギーが得られることになる。しかも、膨張行程気筒内に多くの空気量を確保することにより、クランクシャフト3を正転させるための燃焼エネルギーを充分に発生させてエンジンを確実に再始動させることが可能となる(以下この範囲Rを適正停止範囲Rとする)。そこで、ピストン13を適正停止範囲R内に停止させるよう、ECU2によってスロットル弁23の開度を調節する等のエンジン自動停止制御が行われる。
【0053】
ところで、たとえピストン13が適正停止範囲Rに停止したとしても、エンジン完全停止後、燃料噴射弁16の噴口から僅かに漏出した燃料が膨張行程気筒や圧縮行程気筒に滞留していると、後の再始動時に新たに噴射された燃料との合計が過多(オーバーリッチ)になり、良好な燃焼が行えない虞、すなわち再始動性が低下する虞がある。そこで当実施形態では、以下に詳述するような停止時弁制御を行っている。
【0054】
図4は、エンジン自動停止制御、自動再始動制御、および停止時弁制御を含むタイムチャートであり、上段にはエンジン回転速度Ne(特性71、72)、下段には各気筒の行程推移チャート(「吸」は吸気行程、「圧」は圧縮行程、「膨」は膨張行程、「排」は排気行程)を示す。なお行程推移チャートには、各吸気行程における吸気弁19の開弁期間75〜84を併記している。また停止時弁制御中の停止時排気行程気筒における排気弁20の閉弁期間85を併記している。
【0055】
なお、以下説明を簡潔にするため、エンジンが完全に停止した時、#1気筒12Aが圧縮行程、#2気筒12Bが膨張行程、#3気筒12Cが吸気行程、#4気筒12Dが排気行程にあるものとする。そして便宜上、#1気筒12Aを停止時圧縮行程気筒12A、#2気筒12Bを停止時膨張行程気筒12B、#3気筒12Cを停止時吸気行程気筒12C、#4気筒12Dを停止時排気行程気筒12Dと称する。
【0056】
図4のタイムチャートにおいて、ECU2は、所定のアイドルストップ条件(例えば、車速V<20km/h、アクセルオフ、ブレーキオン、エアコンオフ、AT60のロックアップオフ、ステアリング操舵角が所定値以下、ウインカーオフ、バッテリー電圧が所定値以上等)が成立した時点(時点t1よりも前の段階)で、エンジンの目標回転速度を、エンジンを自動停止させない時の通常のアイドル回転速度(以下、通常のアイドル回転速度という)よりも高い目標回転速度に設定する。そうすることにより、エンジン完全停止(時点t3)までの期間を適度に延長させ、掃気性の向上が図られる。またピストンを狙いの位置に停止させる制御が行い易くなる。当実施形態では、通常のアイドル回転速度が650rpmに設定されており、目標回転速度は850rpm程度に設定されている。
【0057】
またブースト圧Btの目標値が比較的高い所定の値(約−400mmHg)に設定される。そしてその目標ブースト圧Btとなるようにスロットル弁23の開度Kの調節またはISC制御が行われる。こうして予めブースト圧Btを高めておくことにより、掃気性の向上が図られる。
【0058】
エンジンの回転速度が目標回転速度で安定する(時点t1)と、ECU2は所定の待ち時間待機した後、時点t2で燃料噴射停止A1を行う。それに伴い、ECU2はスロットル弁23の開度KをK1に増大させる(例えば開度K1=30%程度)。またはISC制御によって吸気流量を増大させる。これによってブースト圧Btが増大し始めるので、排気ガスの掃気が促進される。
【0059】
時点t2で燃焼噴射を停止するとエンジンの回転速度が低下し始める。そして予め設定された基準速度(例えば760rpm)以下になったことが確認された時点でスロットル弁23が閉止される。するとやや遅れてブースト圧Btが減少し始め、エンジンの各気筒に吸入される吸気流量が減少する。スロットル開度Kを増大させている間に吸入された空気は、共通吸気通路21c及びサージタンク21bを経由して各気筒の分岐吸気通路21aに導かれる。スロットル開度Kの増大期間を上記のようにすることによって、エンジン完全停止時点t3において、停止時圧縮行程気筒12Aよりも停止時膨張行程気筒12Bの方がより多くの空気を吸入することになり、結果的にピストン13が図3(b)に示す適正停止範囲Rで停止することとなる。
【0060】
時点t2以降はエンジンが惰性で回転するため、エンジンの回転速度が次第に低下し、やがて時点t3で停止する。このエンジンの回転速度の低下は、図4に示すように、波打ちながら低下して行く。この波の谷のタイミングは、何れかの気筒が圧縮上死点となるタイミングと一致している。つまりエンジンの回転速度は、各気筒が順次圧縮上死点を経過する度に一時的に落ち込んだ後、その圧縮上死点を超えた後に再び上昇するという小刻みなアップダウンを繰り返しながら次第に低下する。
【0061】
以下、当明細書では、気筒を指定せず圧縮TDCという場合、エンジン全体から見て何れかの気筒が圧縮TDCであるポイントを指すものとする(つまりエンジン回転速度の振動の各谷のポイントを指す)。
【0062】
停止直前の最後の圧縮TDC(特にこれを最終TDCともいう)を通過した後に圧縮上死点を迎える停止時圧縮行程気筒12Aでは、慣性力によるピストン13の上昇に伴って空気圧が高まり、その圧縮反力によりピストン13が上死点を超えることなく押し返されてクランクシャフト3が逆転する(エンジン回転速度が負の値となる)。このクランクシャフト3の逆転によって停止時膨張行程気筒12Bの空気圧が上昇するため、その圧縮反力に応じて停止時膨張行程気筒12Bのピストン13が下死点側に押し返されてクランクシャフト3が再び正転し始め、このクランクシャフト3の逆転と正転とが数回繰り返されてピストン13が往復作動した後に停止することになる。
【0063】
このようにしてエンジンを自動停止させ、エンジン回転速度が低下する過程において、各気筒12A〜12Dが圧縮TDCを通過する際のエンジン回転速度(上死点回転速度)と、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置との間に明確な相関関係がある。すなわち、各段階(停止前から2番目、3番目、4番目・・・)の上死点回転速度がそれぞれ一定の速度範囲内にあるときに膨張行程気筒12Aのピストン停止位置が適正停止範囲R内となる確率が高くなるのである。
【0064】
この特性を利用し、当実施形態ではエンジン回転速度の低下過程における所定の段階(特に重要なのは停止前から2番目)の上死点回転速度が一定の速度範囲内となるような制御を行って、膨張行程気筒12Aのピストン13がより確実に適正停止範囲R内で停止するような制御を行っている。具体的には、オルタネータ28の発電量を増減させることによってクランクシャフト3の負荷(エンジン負荷)を調節し、停止前から2番目の上死点回転速度が、350±50rpmの範囲内となるようにしている。
【0065】
時点t3でエンジンが完全に停止すると、電磁VVT制御部48は停止時弁制御の要否を判定する。すなわち、漏燃料量推定部56によって推定された漏燃料量が所定値より大きいか否かを判定し、大きい場合に停止時弁制御を実行する。そうでない場合は通常の弁制御(通常モード)を継続する。図4には停止時弁制御を実行する場合を示している。
【0066】
停止時弁制御が必要と判定されたら、電磁VVT制御部48は、所定の待ち時間T34(t3〜t4)の後、停止時弁制御を実行する。所定期間T34は、0.5〜3s、さらに望ましくは1s程度(0.7〜1.3s)に設定するのが良い。この期間は、特に停止時膨張行程気筒12Bや停止時圧縮行程気筒12Aが比較的筒内圧の高い状態となっている。従って、仮に期間T34内に再始動条件が成立し、自動再始動制御を実行することになったら、大きな燃焼エネルギーが得られる。またこの程度の短時間では燃料の漏出も少ない。従って、そのようなときに停止時弁制御を実行して(吸気弁19を開いて)筒内圧を下げてしまうよりも、停止時弁制御の実行を保留した方が得策となる。
【0067】
待ち時間T34が経過すると(時点t4)、電磁VVT制御部48は停止時弁制御を実行する。すなわち電磁VVT制御部48は、既に開弁している停止時吸気行程気筒12Cの吸気弁19を含め、全気筒の吸気弁19を開弁させる(開弁期間76、78、83)。また停止時排気行程気筒12Dについては、開弁中の排気弁20を閉弁させる(閉弁期間85)。
【0068】
各気筒内には、漏出した燃料を含む混合気が滞留しているが、この混合気は比較的高温(停止時圧縮行程気筒12A、停止時膨張行程気筒12Bでは密閉されていたので、特に高温となっている)なので、吸気弁19を開けるだけで、比較的低温の吸気通路21内の空気との間で活発な対流が起きる。従って、各気筒内の混合気が吸気通路21側に放出され、吸気通路21側から比較的低温の新気が導入される。
【0069】
なお停止時排気行程気筒12Dでは、排気弁20を閉弁することにより、排気通路22側から吸気通路21側へのガスの逆流が防止される。
【0070】
この停止時弁制御中に所定の再始動条件が成立したら(時点t5)、電磁VVT制御部48は停止時弁制御を終了し、電磁VVT50を通常モードに復帰させる。そしてECU2は自動再始動制御に移行する。
【0071】
但し、所定時間Tx(例えばエンジン完全停止後1min程度に設定される)経過しても再始動条件が成立しなかった(再始動要求がなかった)場合、電磁VVT制御部48は停止時弁制御を終了させる。各気筒の筒内温度は時間の経過とともに低下して行き、それに伴って停止時弁制御を継続させる利点も減少して行く。一方、電磁VVT50は通電時に開弁する構造のため、その消費電力が増大して行く。従って、効果と不利益とがバランスする時期Txを予め実験等で求め、その所定時期Txで停止時弁制御を終了させるのが全体として得策となる。
【0072】
図5は、エンジン自動停止条件成立時点から自動再始動制御に至るまでの、電磁VVT制御部48を中心とした制御のフローチャートである。
【0073】
このフローチャートがスタートし、エンジン自動停止条件が成立すると(ステップS1でYES)、ECU2は上述のエンジン自動停止制御に移行する(ステップS3)。そしてエンジンが完全に停止したら(ステップS5でYES)、漏燃料量が所定値よりも大であるか否かが判定される(ステップS7)。
【0074】
ステップS7でYESのとき、停止時弁制御が要と判断される。そしてエンジン停止カウンタCTがリセットされる(ステップS11)。次に待ち時間T34の間、再始動要求があるか否かが確認される(ステップS13〜S17)。この間に再始動要求があった場合(ステップS13でYES)、電磁VVT50が通常モードのまま(ステップS31)、自動再始動制御に移行する(ステップS33)。
【0075】
一方、待ち時間T34の間に再始動要求がなかった場合(ステップS17でYES)、停止時弁制御が開始される。すなわち電磁VVT50の吸気側VVT51で全気筒の吸気弁19が開弁され(ステップS19)、排気側VVT52で停止時排気行程気筒12Dの排気弁20が閉弁される(ステップS21)。
【0076】
その後、所定期間Txの間、再始動要求があるまで停止時弁制御が継続される(ステップS13〜S23)。そして再始動要求があったら(ステップS13でYES)、電磁VVT50が通常モードに復帰され(ステップS31)、自動再始動制御に移行する(ステップS33)。
【0077】
また、カウンタCTのリセット時(ステップS11)から期間Txの間に再始動要求がなかった場合には(ステップS23でYES)、電磁VVT50を通常モードに復帰させて停止時弁制御を終了する(ステップS25)。その後、再始動要求がある(ステップS9でYES)まで待機する。またステップS7でNO、つまりエンジン完全停止時点で停止時弁制御が不要と判定された場合も同様に待機状態となる。そして再始動要求のあった時点で(ステップS9でYES)、電磁VVT50を通常モードとしたまま(ステップS31)、自動再始動制御に移行する(ステップS33)。
【0078】
次に再び図4に戻り、自動再始動制御について説明する。時点t6で所定のエンジン再始動条件(アクセルオン、ブレーキオフ、エアコンオン、バッテリー電圧が低下などのうち、少なくとも1つがYESのときに成立)が成立すると、ECU2は、まずピストン13の停止位置に基づいて停止時圧縮行程気筒12Aおよび停止時膨張行程気筒12B内の空気量を求め、さらにその空気量に応じて適宜空燃比となるように各気筒への燃料噴射量を設定する。
【0079】
そして、まず停止時圧縮行程気筒12Aに対して1回目の燃料噴射91が行われる。この燃料噴射91は、理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比となるようにすることが望ましい。そうすることにより、停止時圧縮行程気筒12A内の空気量が少ないときであっても、逆転のための燃焼エネルギーを充分得ることができる。
【0080】
なお、停止時圧縮行程気筒12Aには、停止時弁制御によって比較的低温で空気密度の高い新気が導かれている。従って停止時弁制御を行わない場合に比べて大きな燃焼エネルギーを得ることができる。
【0081】
そして燃料噴射91から気化時間を考慮して設定した時間の経過後に、当該気筒に対して点火92が行われる。このとき、停止時弁制御によって停止時圧縮行程気筒12Aに残留している漏出燃料が低減されているので、オーバーリッチの燃焼が抑制され、良好な燃焼を行わせることができる。この燃焼によって、エンジン(クランクシャフト3)は逆回転する。すなわちエンジン回転速度が負の値となる。
【0082】
点火92から一定時間内にクランク角センサ30,31からの信号により、ピストン13が動いた(逆転を始めた)ことを確認後、停止時膨張行程気筒12Bに燃料噴射を行う。当実施形態では、停止時膨張行程気筒12Bへの燃料噴射を93と94とに分割して行う。前段噴射93によって気化が促進される。また後段噴射94によって、ピストン13が上死点に接近したときの筒内圧が低減され、ピストン13をより上死点近くにまで上昇させることができる。なお、前段噴射93は、もっと早期、例えば燃料噴射91と略同時期、あるいはそれよりも早い時期(再始動条件成立以前)に行っても良い。
【0083】
その後、所定のディレー時間経過後に点火され(95)、燃焼が行われる。この点火95による停止時膨張行程気筒12Bでの燃焼により、エンジンは逆転から正転に転ずる(時点t7)。従って停止時圧縮行程気筒12Aのピストン13は上死点側に移動し、内部のガス(点火92によって燃焼した既燃ガス)を圧縮し始める。
【0084】
この点火95による燃焼は、エンジンを逆転から正転に転じさせる重要な燃焼であり、大きな燃焼エネルギーが望まれる。停止時膨張行程気筒12Bには、停止時弁制御によって比較的低温で空気密度の高い新気が導かれている。従って停止時弁制御を行わない場合に比べて大きな燃焼エネルギーを得ることができる。しかも、停止時弁制御によって停止時膨張行程気筒12Bに残留している漏出燃料が低減されているので、オーバーリッチの燃焼が抑制され、良好な燃焼を行わせることができる。
【0085】
点火92後、燃料気化時間を考慮に入れ、停止時圧縮行程気筒12Aに2回目の燃料噴射96が行われる。燃料噴射96の噴射量は、燃料噴射92の噴射量とを合計した噴射量に基づく全体の空燃比が可燃空燃比(下限は7〜8)よりも更にリッチ(例えば6程度)になるように設定される。この燃料噴射96の気化潜熱によって、停止時圧縮行程気筒12Aの圧縮上死点(第1TDC。時点t8)付近の圧縮圧力が低減するので、少ないエネルギー消費量で第1TDCを越えることができる。
【0086】
なお、この停止時圧縮行程気筒12Aへの燃料噴射96は、専ら筒内の圧縮圧力を低減させるためになされるものであって、これに対する点火、燃焼は行われない(可燃空燃比よりもリッチなので自着火も起こらない)。この不燃燃料は、その後、排気通路22の排気浄化装置37によって無害化され、排出される。
【0087】
しかも当実施形態では、時点t7でエンジンが正転に転じた後、電磁VVT制御部48が停止時圧縮行程気筒12Aの吸気弁19を所定期間開弁させる(開弁期間79)。こうすることによって停止時圧縮行程気筒12Aの圧縮反力が一層低減され、第1TDCが超え易くなる。すなわち再始動性が高められる。
【0088】
上記のように停止時圧縮行程気筒12Aでの燃料噴射96による燃焼が行われないので、停止時膨張行程気筒12Bでの最初の燃焼に続く次の燃焼は、停止時吸気行程気筒12Cでの最初の燃焼となる。停止時吸気行程気筒12Cのピストン13が圧縮上死点(第2TDC。時点t9)を越えるためのエネルギーとして、停止時膨張行程気筒12Bにおける初回燃焼のエネルギーの一部が充てられる。停止時膨張行程気筒12Bにおける初回燃焼のエネルギーは、停止時圧縮行程気筒12Aが第1TDCを超えるためと停止時吸気行程気筒12Cが第2TDCを越えるためとの両方に供される。従って、円滑な再始動のためには停止時吸気行程気筒12Cが第2TDCを越えるためのエネルギーが小さいことが望ましい。
【0089】
また、停止時吸気行程気筒12Cは、エンジン停止中にサージタンク21b内で滞留して高温になった空気を吸気するため、その圧縮行程における筒内温度が高くなりがちである。そのため、第2TDC前の圧縮行程で自着火してしまう虞がある。このような自着火が起こると、その燃焼によって第2TDC前に停止時吸気行程気筒12Cのピストン13を下死点側に押し戻す逆トルクが発生する(いわゆる温間ロック)。これはその分第2TDCを越えるためのエネルギーを多く消費するので望ましくない。
【0090】
そこで、停止時吸気行程気筒12Cが第2TDCを越えるためのエネルギーを小さくするために、また自着火を起こさせないようにするために、電磁VVT制御部48が停止時吸気行程気筒12Cの吸気弁閉弁時期を通常よりもリタード(遅延)させる(81a)。こうすることによって停止時吸気行程気筒12Cの圧縮行程における圧縮反力が低減されるので、第2TDCを超え易くなり、また自着火も抑制される。
【0091】
さらに、停止時吸気行程気筒12Cへの燃料噴射97が当該圧縮行程において行われる。燃料噴射97が行われると、その気化潜熱によって圧縮圧力が低減するので、第2TDCを越えるための必要エネルギーが低減する。すなわち第2TDCが超えやすくなる。その噴射時期は、エンジンの自動停止期間、吸気温度、エンジン水温等に基いて、圧縮行程内の適宜タイミングとなるように設定される。そしてその後の点火98は、第2TDC以降に遅延して行われる。そのため、点火98による燃焼圧が第2TDCを超える妨げとならず、より第2TDCが超えやすくなっている。また、燃料噴射97の気化潜熱によって圧縮圧力が低減するので、第2TDC前の自着火が抑制され、温間ロックが効果的に防止される。
【0092】
時点t9以降は、停止時排気行程気筒12Dでの燃料噴射99と、これに対する点火が行われ、以下順次通常制御に移行して行く。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明したが、この実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。その変形例を以下に説明する。
【0094】
(1)上記実施形態では、電磁VVT50として、吸気側VVT51と排気側VVT52とを設けたが、吸気側VVT51のみであっても良い。しかし排気側VVT52を設けることによって、停止時排気行程気筒12Dにも停止時弁制御を適用することができ、より効果的となる。
【0095】
(2)上記実施形態では、再始動要求のないまま所定期間Txが経過すると停止時弁制御を終了させるようにしたが、停止時弁制御を継続することの不利益がない、もしくは小さい場合には、再始動要求があるまで停止時弁制御を継続するようにしても良い。
【0096】
(3)漏燃料量推定部56は、燃圧低下率を求める以外の方法によって漏燃料量を推定するものであっても良い。また電磁VVT制御部48は、漏燃料量の多少にかかわらず、常に停止時弁制御を実行するようにしても良い。
【0097】
(4)上記実施形態における完全停止後の再始動制御では、エンジン再始動時にエンジンをいったん逆転作動させてから正転作動させるものとされているが、最初から正転作動だけで再始動させるものであってもよい。ただし、エンジンをいったん逆転作動させると、停止時膨張行程気筒12Bの燃焼エネルギーが高まることから、より確実にエンジンを再始動させることができる。
【0098】
(5)上記実施形態では、説明の都合上、#1気筒12Aを停止時圧縮行程気筒、#2気筒12Bを停止時膨張行程気筒、#3気筒12Cを停止時吸気行程気筒、#4気筒12Dを停止時排気行程気筒であるとしたが、必ずしもそのようにする必要はなく、また自動停止する度に変動しても良い。但し着火順序は変動しないので、どの気筒が停止時膨張行程気筒であるかが決定すれば、他の気筒は一義的に決定する。
【0099】
(6)上記実施形態では、燃料噴射弁16について筒内噴射型のものを採用しているが、ポート噴射型の燃料噴射弁を採用する場合にも適用することができる。しかし筒内直噴型であるほうが、燃料漏れに対する懸念が大きいので、本発明の効果を顕著に享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明に係る始動装置を備えたエンジンの概略断面図である。
【図2】エンジンの吸気系および排気系の構成を示す説明図である。
【図3】エンジンを自動停止させる際の圧縮行程気筒と膨張行程気筒との関係を示す図である。(a)は圧縮行程気筒および膨張行程気筒のピストンの位置関係を示す図であり、(b)はピストンの停止位置と各気筒内の空気量との関係を示す図である。
【図4】エンジン自動停止制御から自動再始動制御に亘るタイムチャートである。
【図5】停止時弁制御を中心とする概略フローチャートである。
【符号の説明】
【0101】
1 エンジン本体
2 ECU(停止再始動制御手段)
12A #1気筒(停止時圧縮行程気筒)
12B #2気筒(停止時膨張行程気筒)
12C #3気筒(停止時吸気行程気筒)
12D #4気筒(停止時排気行程気筒)
16 燃料噴射弁(燃料供給手段)
19 吸気弁
20 排気弁
48 電磁VVT制御部(バルブタイミング制御手段)
50 電磁VVT(電磁式動弁機構)
56 漏燃料量推定部(漏燃料量推定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの自動停止条件が成立したときに、エンジン運転を継続させるための燃料供給を停止してエンジンを自動的に停止させるエンジン自動停止制御を行うとともに、自動停止状態にある上記エンジンの再始動条件が成立したときに、少なくともエンジン停止時に膨張行程にある気筒で燃焼を行わせて上記エンジンを自動的に再始動させる自動再始動制御を行う停止再始動制御手段を備えたエンジンの始動装置であって、
上記エンジンの、少なくとも吸気弁を電磁力で開閉駆動する電磁式動弁機構と、
上記電磁式動弁機構による弁開閉時期を設定するバルブタイミング制御手段とを備え、
上記バルブタイミング制御手段は、上記エンジン自動停止制御によってエンジンが完全に停止した後の所定時期に、少なくともエンジン停止時に膨張行程にある気筒および圧縮行程にある気筒の各上記吸気弁を開弁させる停止後弁制御を実行することを特徴とするエンジンの始動装置。
【請求項2】
上記少なくともエンジン停止時に膨張行程にある気筒および圧縮行程にある気筒に燃料を供給する燃料供給手段と、
上記燃料供給手段からの燃料漏れ量を推定する漏燃料量推定手段とを備え、
上記バルブタイミング制御手段は、上記燃料漏れ量の推定値が所定値より大きいときに上記停止後弁制御を実行することを特徴とする請求項1記載のエンジンの始動装置。
【請求項3】
上記電磁式動弁機構は上記エンジンの排気弁に対しても開閉駆動を行うものであり、
上記バルブタイミング制御手段は、上記停止後弁制御において、エンジン停止時に排気行程にある気筒の吸気弁を開弁するとともに、当該気筒の排気弁を閉弁することを特徴とする請求項1または2記載のエンジンの始動装置。
【請求項4】
上記停止後弁制御が開始される上記所定時期が、エンジン完全停止後に該当気筒の筒内圧が略大気圧まで低下した時期に設定されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のエンジンの始動装置。
【請求項5】
上記停止後弁制御が開始される上記所定時期が、エンジン完全停止後0.3s乃至3sに設定されていることを特徴とする請求項4記載のエンジンの始動装置。
【請求項6】
上記バルブタイミング制御手段は、上記停止後弁制御の開始後、所定期間以内に上記再始動条件が成立しないとき、当該停止後弁制御を終了し、通常の弁制御に復帰することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のエンジンの始動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−270791(P2007−270791A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100880(P2006−100880)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】