説明

エンジンの燃焼制御方法および装置

【課題】クランク角信号の欠歯による欠落、または筒内圧力センサの電源地絡、筒内圧力センサ自体の異常、のすべてを的確に捉えて、異常事象に合ったエンジン燃焼制御をすることによって、燃焼診断装置の誤診断によるエンジンの不安定な運転および不要な筒内圧力センサの交換等を避けることができるエンジンの燃焼制御方法および制御装置を提供すること。
【解決手段】前記筒内圧力センサ13は一定間隔のクランク角信号に基づいて筒内圧力をサンプリングするように設定され、前記一定間隔のクランク角信号が発信されずに欠落したことが検出されたとき、または、前記筒内圧力センサ13への供給電源の地絡が検出されたとき、全気筒に対する着火タイミングを一定角度遅角させて全気筒での運転を続行させことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒内圧力センサにより検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を判定する燃焼診断装置を備えたガスエンジン、ディーゼルエンジンの燃焼制御方法および制御装置に関するものであり、特に、燃焼診断装置の故障を判定して、該故障の発生要因に応じた燃焼制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジン、ディーゼルエンジンにおいては、安定的な運転のために、燃焼室内における高温部分または堆積未燃カーボン、剥離カーボン等の表面着火による過早着火及び混合気濃度の不均一等による端ガスの自発火、ノッキングの発生を確実に検知して速やかに対応処置を行うとともに、燃焼室内の最大圧力すなわち筒内最大圧力の過大な上昇や異常な低下を確実に検知して、速やかに対応処置を施すことによってエンジンの耐久性、性能の安定性を維持することが要求される。
このため、燃焼室内における燃焼状態を検知、診断する燃焼診断装置を設置して燃焼状態を監視して、安定燃焼を維持するようにしている。
【0003】
エンジンの燃焼室内における燃焼状態を検知、診断する診断装置として、特許文献1(特開2007−170405号公報)等の技術が提案されている。
特許文献1においては、図7に示すように、ガスエンジンの燃焼室内における筒内圧力検出値Pと吸気圧力を含む圧縮始め以前の基準圧力Pとの差圧ΔP(ΔP=P−P)をクランク角に対応させて算出し、各クランク角における前記差圧ΔPと圧縮行程における一または複数の任意点の差圧ΔPとの筒内圧力比ΔP/ΔPを用いて燃焼室内における筒内圧力状態等の燃焼状態を診断する構成が示されている。
また、筒内圧センサの健全性を判定するために、吸気圧力を含む圧縮始め以前の基準圧力Pの過去の複数サイクルの標準偏差の値が許容閾値を超えているかどうかで判定することが示されている。
【0004】
また、クランク位置検出装置の検出信号の信頼性を高める技術として特許文献2(特開平11−343917号公報)のような技術が知られている。
この特許文献3においては、クランク角センサより出力される位置信号の周期を計測し、周期が計測される毎に今回値と前回値との比である周期比を算出して、該周期比の大きさからノイズの混入を判定する。
【0005】
【特許文献1】特開2007−170405号公報
【特許文献2】特開平11−343917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1の技術においては、燃焼状態を判定する筒内圧力センサ自体の故障を検出圧力値から判定する技術は示されているものの、クランク角信号が適切に発信されずに欠落して筒内圧力センサが正確な筒内圧力波形信号を出力できない場合や、筒内圧力センサの電源の供給において地絡(ショート)によるノイズ等の発生による正確な筒内圧力波形信号を出力できない場合については開示がなく、信頼性の高い燃焼診断装置による診断およびその結果に基づく燃焼制御において十分とは言えない。
【0007】
このクランク角信号の欠落、および筒内圧力センサの電源供給における地絡(ショート)について次に説明する。
図4は正常な場合の(a)カム軸原点検出信号、(b)クランク歯検出信号、(c)筒内圧力信号をそれぞれ示し、図5は欠落した場合を示し、図5(b)にその欠落の状態を点線で示す。図5(c)は正常な筒内圧力信号を示し、それに対応して(d)に欠落した圧力信号を示す。
等間隔で刻まれたクランク軸に設けられたクランク軸歯車3(図1参照)の歯数をクランク角センサ5によってカウントすると共に、カム軸に取り付けたカム軸原点検出端7(図1参照)の位置をカム軸トップ位置センサ9で検出しカム軸原点検出信号の立ち下がり信号によって、クランク軸歯車3のカウント数をリセットすることによって、1サイクルにおけるクランク角度を割り出している。
【0008】
クランク角度基準で筒内圧力波形のサンプリング計測を行っているため、図5(b)のように歯数の一部の信号が欠落すると、欠落した部分の情報が欠けるため、図5(d)のように本来の筒内圧力波形図(図5(c))とは異なった波形、つまり、図5(c)でのP1点のクランク角信号が欠落して、P2のクランク信号が次に取り入れられる。カウント数の順番ではP1の位置であるが筒内圧力ではP2の位置の値であるため、図5(d)のように左にずれた波形となって燃焼診断装置11に取り込まれる。このため、ずれた圧力波形に基づいて圧力信号が取り込まれるため、燃焼診断装置11は筒内圧力センサ13自体の異常と誤判定してしまい正しい判定をすることができなくなる。
この歯数の信号の一部が欠落する要因としては、クランク軸歯車3またはクランク角センサ5の先端部に金属片が付着すること、または、信号ケーブルの瞬時断線等によることが考えられる。
【0009】
クランク角信号の欠落によって正しい判定ができなくなると、筒内圧力センサ13自体の故障と判定して、故障を判定する前の正常時のサイクルの波形データを用いて燃焼制御、すなわち着火タイミング等の制御することになるため、クランク角信号の欠落が頻繁に発生すると、正常と異常との信号が繰り返され、燃焼制御の応答が追い付かずに着火タイミングが進角側または遅角側に偏ったままとなってしまい、燃焼の悪化を引き起こし安定した運転続行が困難となり、最悪の場合にはエンジンを損傷させるに至るおそれがあった。
【0010】
一方、図6に示すように、各気筒に設けられている筒内圧力センサ13の電源VCCは、共通であり(24V)、各気筒の筒内圧力センサ13は電源に対して並列接続となっている。筒内の圧力信号P〜Pは電源VCCの一方との電位差V〜Vとして得られる。電源VCCは大地に対して接地せずに浮いた状態となっているが、得られる圧力信号が微弱であるため、ケーブルの施工不良や、経年変化によってケーブルの被覆の摩耗等によって電源の+側、または−側が大地に接触した瞬間(図6(a)には地絡の状態を仮想的にスイッチ15,17を用いて示す)、全気筒の筒内圧力信号に図6(b)のようなパルス状のノイズが入る。そのノイズの位置における圧力信号が、クランク角信号の取り込みタイミングと一致して取り込まれた場合には、燃焼診断装置11は筒内圧力センサ13自体の異常と誤判定してしまい正しい判定をすることができなくなり、前記同様に燃焼の悪化を引き起こし安定した運転続行が困難となる。
【0011】
以上のように、従来技術においては、クランク角センサ5のクランク角信号の欠落、または筒内圧力センサ13の電源の地絡を正確に検出できないため、筒内圧力センサ13自体は正常であるにもかかわらず、筒内圧力センサ13の異常と誤判定して誤った燃焼診断をしてしまい、安定した運転続行が困難となり、最悪の場合にはエンジンを損傷させるに至るおそれがあった。
【0012】
そこで、本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、クランク角信号の欠落、または筒内圧力センサの電源地絡、筒内圧力センサ自体の異常、のすべてを筒内圧力センサ自体の異常としか判断できなかったものを、3つの異常事象を的確に捉えて、異常事象に合ったエンジン燃焼制御をすることによって、燃焼診断装置の誤診断によるエンジンの不安定な運転および不要な筒内圧力センサの交換等を避けることができるエンジンの燃焼制御方法および制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、第1発明は、筒内圧力センサにより検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を判定する燃焼診断装置を備えたエンジンの燃焼制御方法において、前記筒内圧力センサは一定間隔のクランク角信号に基づいて筒内圧力をサンプリングするように設定され、前記一定間隔のクランク角信号が発信されずに欠落したことが検出されたとき、または、前記筒内圧力センサへの供給電源の地絡が検出されたとき、全気筒に対する着火タイミングを一定角度遅角させて全気筒での運転を続行させることを特徴とする。
【0014】
また、第2発明は、前記第1発明を実施するための装置発明であり、筒内圧力センサにより検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を判定する燃焼診断装置を備えたエンジンの燃焼制御装置において、一定間隔のクランク角信号を発するクランク角検出手段と、前記筒内圧力センサは前記クランク角検出手段からの一定間隔のクランク角信号に基づいて筒内圧力をサンプリングするように設定され、前記クランク角検出手段からの一定間隔のクランク角信号が発信されずに欠落したことを検出するクランク角信号欠落検出手段と、前記筒内圧力センサへの供給電源の地絡を検出する地絡検出手段とを備えて、前記クランク角信号欠落検出手段と地絡検出手段との少なくとも何れかが欠落および地絡を検出したときに、全気筒に対する着火タイミングを一定角度遅角させて全気筒での運転を続行させる制御手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
係る第1発明および第2発明によれば、クランク角信号の欠落や、筒内圧力センサの電源の地絡のように燃焼診断装置の全体に影響する事象の異常を検出した場合には、全気筒とも燃焼診断を正しく判定できないので、特定の気筒に対する制御ではなく全気筒を対象にして、着火タイミングを遅らせることによって、安定な運転を続行することができる。
【0016】
全気筒の着火タイミングを遅らせることで出力は低下するが、従来においては、クランク角信号の欠落や、筒内圧力センサの電源の地絡を燃焼診断装置によって筒内圧力センサの異常と判定されていたので、異常と判定された特定の気筒に対して、前回サイクルの正常データを基に燃焼制御されるが、クランク角信号の欠落や、地絡のように繰り返し生じる現象においては異常と正常とが繰り返され、燃焼制御の応答性が追い付かずに着火タイミングが進角側または遅角側に偏ったままとなってしまうおそれがあり、燃焼の悪化を引き起こし安定した運転続行が困難となり、最悪の場合にはエンジンを損傷させるに至るおそれがあったが、このような危険性が回避され安定運転が続行される。
【0017】
また、着火タイミングを徐々に所定のタイミングまで遅らせることによって、すなわち時間をかけて遅らせることで、その途中でクランク軸歯車またはクランク角センサの先端部に付着した金属片が振動等で自然落下して剥がれ落ちてクランク角信号が回復した場合には、燃焼制御装置が別途有しているフィードバック制御によって正常着火タイミングへと復帰できるようになる。
【0018】
第1発明において、好ましくは、前記クランク角信号の欠落と、前記筒内圧力センサへの供給電源の地絡とがともに正常であって、前記筒内圧力センサが異常であることが検出された場合に、当該筒内圧力センサが設置されている気筒だけの着火タイミングを遅角制御して運転を続行させるとよい。
また、第2発明において、好ましくは、前記筒内圧力センサが異常であることを検出する筒内圧力センサ異常検出手段をさらに備え、前記制御手段は前記クランク角信号欠落検出手段と地絡検出手段とによる判定結果がともに正常であって、前記筒内圧力センサ異常検出手段によって筒内圧力センサの異常を検出しときには当該筒内圧力センサが設置されている気筒だけの着火タイミングを遅角制御して運転を続行させるとよい。
【0019】
かかる、構成によって、前記クランク角信号の欠落と、前記筒内圧力センサへの供給電源の地絡とがともに正常で、筒内圧力信号を正しく計測できる条件が揃った後に、筒内圧力センサが異常であることが検出された場合に、当該筒内圧力センサが設置されている気筒だけの着火タイミングを遅角制御して運転を続行させるので、筒内圧力センサへのクランク角信号の欠落、または筒内圧力センサの電源地絡、筒内圧力センサ自体の異常、すべてを筒内圧力センサ自体の異常としか判断できなかったものを、3つの異常事象を的確に区分けして捉えて、異常事象に合ったエンジン燃焼制御をすることが可能となり、誤診断によるエンジンの不安定な運転および不要な筒内圧力センサの交換等を避けることができる。
【0020】
また、筒内圧力センサの異常が発生した気筒のみ、着火タイミングを遅らせて燃焼安定な状態で続行し、他の気筒については、正常に燃焼診断を行うことができるため、他の気筒については燃焼診断結果に従い燃焼制御を続行できる。
【0021】
また、第1発明において、好ましくは、前記クランク角信号が発信されずに欠落したことの検出は、1サイクル中のクランク軸歯車から発信されるパルス数の基準パルス数に対する誤差に基づいて判定するとよい。また、前記クランク角信号の原点検出用として1サイクルに1回だけパルスを検出するカム軸原点検出信号が発信されずに欠落したことを、1サイクル中のクランク軸歯車から発信されるパルス数が一定パルス数以上であることをもって判定するとよい。
【0022】
また、第2発明において、好ましくは、前記クランク角信号欠落検出手段は、1サイクル中のクランク軸歯車から発信されるパルス数の基準パルス数に対する誤差に基づいて判定するとよい。また、前記クランク角信号の原点検出用として1サイクルに1回だけパルスを検出するカム軸原点検出信号が発信されずに欠落したことの検出を1サイクル中のクランク軸歯車から発信されるパルス数が一定パルス数以上であることをもって判定するとよい。
【0023】
エンジンのクランク軸歯車は機械的に歯数が決まっているため、1サイクル中に2回転で得られる歯数は、エンジン回転数、負荷に関わらず2×N(Nはクランク歯車の歯数)となる。しかし、検出信号の一部が欠落すると、図5(d)のように、1サイクル中に観察されるクランク歯数が2×Nでなくなることにより、正常に検出できていないことが分かる。図5(a)、(b)に示すように、クランク角センサと、カム軸トップ位置センサとの位置関係によって、両センサが同時に検出を開始する場合もあるが、2つのセンサの位相位置関係を規定することが難しい場合には、2N±1までは正常検出範囲として、1サイクル中に観察されるクランク歯数が2N±2以上の場合には欠落が生じていると判定することで、簡単且つ確実にクランク角信号の欠落を検出することができる。
なお、カム軸原点検出信号が欠落するとカム軸原点検出後のクランク歯数が4×N以上となるため、この値が2×N+α(α>1)となった場合に欠落が生じていると判定することで簡単且つ確実にカム軸信号の欠落を検出できる。
【0024】
また、第1発明、第2発明において、好ましくは、前記筒内圧力センサの電源電圧に対して、2本の抵抗によって中性点を設けて、該中性点をアースすることによって該アースに対する+側電位と−側電位を形成して、該+側電位と−側電位とのそれぞれの電位をモニタすることによって前記地絡の発生を検出するとよい。
かかる構成によって、該+側電位と−側電位とのそれぞれの電位をモニタすることによって地絡が発生したか否かを簡単に検出することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、クランク角信号の欠落、または筒内圧力センサの電源地絡、筒内圧力センサ自体の異常、すべてを筒内圧力センサ自体の異常としか判断できなかったものを、3つの異常事象を的確に捉えて、異常事象に合ったエンジン燃焼制御をすることによって、燃焼診断装置の誤診断によるエンジンの不安定な運転および不要な筒内圧力センサの交換等を避けることができるエンジンの燃焼制御方法および制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0027】
図1は本発明の実施形態に係る全体構成を示す構成図である。
図1において、エンジン20は、ガスエンジンの例を示す。シリンダ26内に往復摺動自在に嵌合されたピストン28、該ピストン28の往復動を、コネクチングロッド30を介して回転に変換するクランク軸32を備えている。
また、前記エンジン20は、ピストン28の上面とシリンダ26の内面との間に区画形成される燃焼室34、該燃焼室34に接続される給気ポート36及び給気管38、該給気ポート36を開閉する給気弁40を備え、さらに前記燃焼室34に接続される排気ポート42、該排気ポート42を開閉する排気弁44を備えて構成されている。
【0028】
前記給気管38の途中にはガスミキサー46が設置され、ガス供給管48からガス供給電磁弁50を通して供給された燃料ガスと図示しない過給機から供給された圧縮空気(過給機を備えない場合は無過給空気)とを該ガスミキサー46で混合し、この予混合ガスを前記給気ポート36及び給気弁40を通して燃焼室34に供給するようになっている。
また、着火装置52は、パイロット燃料噴射弁54を介して図示しない副室内に軽油、またはガス等のパイロット燃料を噴射ノズル56により噴射して着火燃焼させ、この燃焼火炎を前記燃焼室34に噴出するパイロット噴射装置で構成されている。
【0029】
多気筒の各気筒の燃焼室34には、筒内圧力センサ13が設置され、燃焼制御装置58に、各筒内圧力センサ13により検出された筒内圧力検出値が入力される。
さらに、クランク軸歯車3に対向配置されたクランク角センサ(クランク角検出手段)5によって検出されたエンジン20のクランク角の検出値、および、カム軸原点検出端7に対向配置されたカム軸トップ位置センサ9によって検出されたカム軸トップ位置の検出信号(カム軸原点検出信号)が入力される。
【0030】
燃焼制御装置58には燃焼診断装置60が設けられ、該燃焼診断装置60の診断結果は表示装置62に出力されるようになっており、さらに、燃焼診断装置60の診断結果は燃焼制御手段64に入力され、ガス供給電磁弁50を遮断あるいは開度制御するとともに、パイロット燃料噴射弁54を制御して着火装置52の燃料着火タイミング、燃料噴射量の制御を行うようになっている。
【0031】
また、燃焼制御装置58には、クランク角信号欠落検出手段66、カム軸原点信号欠落検出手段67、地絡検出手段68、筒内圧力センサ異常検出手段70が設けられ、クランク角信号欠落検出手段66では、クランク軸歯車3による一定間隔のクランク角信号が発信されていないことを検出し、カム軸原点信号欠落検出手段67では、1サイクルに1回、すなわちクランク軸32が2回転に1回だけ検出する原点信号が欠落したかを検出する。
燃焼診断装置60では一定間隔のクランク角信号に基づいて筒内圧力をサンプリングするように設定されて、そのサンプリング圧力値に基づいて燃焼状態が判定される。また、地絡検出手段68においては、筒内圧力センサ13の電源が地絡(ショート)したかどうかが判定される。
【0032】
クランク角信号欠落検出手段66では、次のように欠落を検出している。
エンジンのクランク軸歯車3は機械的に歯数が決まっているため、1サイクル中に2回転で得られる歯数は、エンジン回転数、負荷に関わらず2×N(Nはクランク歯車の歯数)となる。しかし、検出信号の歯数が欠歯して欠落すると、1サイクル中に観察されるクランク歯数が2×Nでなくなることにより、正常に一定間隔で信号が取り込まれない。図5(a)、(b)に示すように、クランク角センサ5と、カム軸トップ位置センサ9との位置関係によって、両センサが同時に検出を開始する場合もあるが、2つのセンサの位相位置関係を規定することが難しい場合には、2N±1までは正常検出範囲として、1サイクル中に観察されるクランク歯数が2N±2以上の場合には欠落が生じていると判定することで、簡単且つ確実にクランク角信号の欠落を検出することができる。
【0033】
また、カム軸原点信号欠落検出手段67の例として、カム軸原点検出信号が欠落すると、カム軸原点検出後のクランク歯数が4×N以上となるため、この値が2×N+α(α>1)となった場合に欠落が生じていると判定することで、簡単且つ確実にクランク角信号の欠落を検出することができる。
【0034】
地絡検出手段68は、筒内圧力センサ13への供給電源が地絡しても、電源VCCの+側と−側の電位差が常に一定に保たれるので、地絡が生じると図3(b)に示すように対地電圧が変化する。そこで、図3(a)のように前記筒内圧力センサ13の電源電圧に対して、2本の高抵抗(1MΩ)によって中性点Mを設けて、該中性点Mをアースすることによって該アースに対する+側電位と−側電位を形成して、該+側電位と−側電位とのそれぞれの電位をモニタすることによって前記地絡の発生を検出する。
【0035】
例えば、−側電位が地絡すると、仮想的にスイッチ17だけが入った状態となり、図3(b)のRの位置に電位差がシフトする。また、+側電位が地絡すると、仮想的にスイッチ15だけが入った状態となり、図3(b)のSの位置に電位差がシフトする。従って、+側電位、または−側の電位を検出するだけで簡単に地絡が発生したか否かを検出することができる。
【0036】
また、筒内圧力センサ13自体の異常の検出を、筒内圧力センサ異常検出手段70によって行う。この判定手法は、吸気圧力を含む圧縮始め以前の基準圧力Pの過去複数サイクルの標準偏差の値が標準偏差許容閾値を超えていないことによって判定する。
【0037】
次に、図2のフローチャートを参照して、燃焼制御装置58の制御フローについて説明する。
まず、ステップS1で制御を開始するとステップS2で、すでに説明したように、1サイクル間(カムトップ信号の立下りまでの間)に数えたクランク軸歯車3の歯数は正しいか、すなわちクランク軸歯車3の歯数をNとすると、2N歯、または、2N±1内にあるかをクランク角信号欠落検出手段66で判定する。
2N±1は、クランク角センサ5とカム軸トップ位置センサ9との位置関係によって、両センサが同時に検出する場合もあるが、2つのセンサの位相位置関係を規定することが難しい場合には、2N±1までは正常検出範囲として、1サイクル中に観察されるクランク歯数が2N±2以上の場合には欠落が生じていると判定する。
このステップS2での判定は、歯数をカウトして判定するのではなく、筒内圧力検出値の筒内最高圧力Pmaxと基準筒内圧力Pとの比を算出し、該Pmax/Pに基づいて行ってもよいことは前述のとおりである。
【0038】
ステップS2で正常範囲であると判定した場合には、次に、ステップS3に進み、地絡が発生したか否かを地絡検出手段68によって判定する。地絡が発生していない場合には、ステップS4へ進み、気筒番号を初期設定のゼロに設定し、ステップS5で気筒番号を1増加し、次のステップS6で該当する気筒Kに対する筒内圧力センサ異常判定を筒内圧力センサ異常検出手段70によって実施する。次に、ステップS7で、筒内圧力センサ異常判定の結果が正常の場合には、ステップS8に進み該当する気筒Kの筒内圧力センサ13の圧力信号に基づいて燃焼診断判定を実施する。ステップS7で筒内圧力センサ13が異常であると判定した場合には、ステップS9へ進んで、該当する気筒Kの燃焼診断は正確にできないので、気筒Kの着火タイミングのみを遅らせて、燃焼安定な状態で運転継続する。
【0039】
そして、ステップS10で、処理対象気筒が全気筒数nに達したかを判定して、達していなければステップS5に戻って次の気筒を対象に同様のことを繰り返し、全気筒処理したらステップS11で終了する。
【0040】
また、ステップS2で、燃焼診断装置60に取り込まれるクランク角信号に欠落がある場合には、ステップS12に進み、クランク軸歯車の歯数検出に異常があることを表示装置62にメッセージ表示して警報を発する。また、同様に、ステップS3において、地絡が発生している判定した場合には、ステップS13に進み、地絡が発生して異常であることを表示装置62にメッセージ表示して警報を発する。
【0041】
そして、ステップS14で、全気筒とも診断結果が正しく判定できないので、全気筒の着火タイミングを遅らせることによって燃焼の安定状態で運転を継続することができ、その後ステップ11で終了する。
【0042】
ステップS9、S14における着火タイミングの遅角処理は、例えば、現状の着火タイミングから略3度遅らした位置まで徐々に(0.1度/1秒程度の割合)遅角処理する。
クランク角信号に欠落がある場合や、地絡が発生していて、筒内圧力信号を正しく計測できる条件が整っていない場合には、このように、全気筒に対して、着火タイミングを一律に遅らす制御を燃焼制御手段64によって、ガス供給電磁弁50、着火装置52に対して実施する。
【0043】
本実施形態によれば、クランク各信号の欠落や、筒内圧力センサの電源の地絡を検出したときには、筒内圧力信号を正しく計測できる条件が整っていないと判断して、全気筒の着火タイミングを遅らせることで出力は低下するが、従来においては、クランク角信号の欠落や、筒内圧力センサ13の電源の地絡を燃焼診断装置によって筒内圧力センサの異常と判定されていた問題が回避される。
【0044】
すなわち、従来技術では、異常と判定された特定の気筒に対して、前回サイクルの正常データを基に燃焼制御されるが、クランク角信号の欠落や、地絡のように繰り返し生じる現象においては異常と正常とが繰り返され、燃焼制御の応答性が追い付かずに着火タイミングが進角側または遅角側に偏ったままとなってしまうおそれがあり、燃焼の悪化を引き起こし安定した運転続行が困難となり、最悪の場合にはエンジンを損傷させるに至るおそれがあったが、このような危険性が回避され安定運転が続行される。また、不要な筒内圧力センサの交換等を避けることができる。
【0045】
また、着火タイミングを徐々に所定のタイミングまで遅らせることによって、すなわち時間をかけて遅らせることで、その途中でクランク軸歯車3またはクランク角センサ5の先端部に付着した金属片が振動等で自然落下して剥がれ落ちてクランク角信号が回復した場合には、燃焼制御装置が別途有しているフィードバック制御によって正常着火タイミングへと復帰できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、クランク角信号の欠落、または筒内圧力センサの電源地絡、筒内圧力センサ自体の異常、すべてを筒内圧力センサ自体の異常としか判断できなかったものを、3つの異常事象を的確に捉えて、異常事象に合ったエンジン燃焼制御をすることによって、燃焼診断装置の誤診断によるエンジンの不安定な運転および不要な筒内圧力センサの交換等を避けることができるので、エンジンの燃焼制御方法および制御装置への適用に際して有益である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの燃焼制御装置の全体構成図である。
【図2】燃焼制御方法を示すフローチャートである。
【図3】(a)は地絡検出手段の作動を説明する回路図であり、(b)は地絡が発生したときの電位差の変化を示す説明図である。
【図4】クランク角信号が正常な場合を示し、(a)はカム軸原点検出信号、(b)はクランク歯検出信号、(c)は筒内圧力信号をそれぞれ示す。
【図5】(a)はカム軸原点検出信号、(b)はクランク角信号の欠落の状態、(c)は正常な筒内圧力信号、(d)に欠落した場合の筒内圧力信号をそれぞれ示す。
【図6】(a)は地絡を説明する回路図、(b)は地絡発生時の筒内圧力信号を示す。
【図7】筒内圧力信号の概要を示す説明図。
【符号の説明】
【0048】
3 クランク軸歯車
5 クランク角センサ
7 カム軸原点検出端
9 カム軸トップ1センサ
11,60 燃焼診断装置
13 筒内圧力センサ
20 エンジン
50 ガス供給電磁弁
52 着火装置
58 燃焼制御装置
64 燃焼制御手段
66 クランク角信号欠落検出手段
67 カム軸原点信号欠落検出手段
68 地絡検出手段
70 筒内圧力センサ異常検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内圧力センサにより検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を判定する燃焼診断装置を備えたエンジンの燃焼制御方法において、
前記筒内圧力センサは一定間隔のクランク角信号に基づいて筒内圧力をサンプリングするように設定され、前記一定間隔のクランク角信号が発信されずに欠落したことが検出されたとき、または、前記筒内圧力センサへの供給電源の地絡が検出されたとき、全気筒に対する着火タイミングを一定角度遅角させて全気筒での運転を続行させることを特徴とするエンジンの燃焼制御方法。
【請求項2】
前記クランク角信号の欠落と、前記筒内圧力センサへの供給電源の地絡とがともに正常であって、前記筒内圧力センサが異常であることが検出された場合に、当該筒内圧力センサが設置されている気筒だけの着火タイミングを遅角制御して運転を続行させることを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃焼制御方法。
【請求項3】
前記クランク角信号が発信されずに欠落したことの検出は、1サイクル中のクランク軸歯車から発信されるパルス数の基準パルス数に対する誤差に基づいて判定することを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃焼制御方法。
【請求項4】
前記クランク角信号の原点検出用として1サイクルに1回だけパルスを検出するカム軸原点検出信号が発信されずに欠落したことを、1サイクル中のクランク軸歯車から発信されるパルス数が一定パルス数以上であることをもって判定することを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃焼制御方法。
【請求項5】
前記筒内圧力センサの電源電圧に対して、2本の抵抗によって中性点を設けて、該中性点をアースすることによって該アースに対する+側電位と−側電位を形成して、該+側電位と−側電位とのそれぞれの電位をモニタすることによって前記地絡の発生を検出することを特徴とする請求項1記載のエンジンの燃焼制御方法。
【請求項6】
筒内圧力センサにより検出された筒内圧力検出値に基づいてシリンダ内の燃焼状態を判定する燃焼診断装置を備えたエンジンの燃焼制御装置において、
一定間隔のクランク角信号を発するクランク角検出手段と、前記筒内圧力センサは前記クランク角検出手段からの一定間隔のクランク角信号に基づいて筒内圧力をサンプリングするように設定され、前記クランク角検出手段からの一定間隔のクランク角信号が発信されずに欠落したことを検出するクランク角信号欠落検出手段と、前記筒内圧力センサへの供給電源の地絡を検出する地絡検出手段とを備えて、前記クランク角信号欠落検出手段と地絡検出手段との少なくとも何れかが欠落および地絡を検出したときに、全気筒に対する着火タイミングを一定角度遅角させて全気筒での運転を続行させる制御手段を備えたことを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。
【請求項7】
前記筒内圧力センサが異常であることを検出する筒内圧力センサ異常検出手段をさらに備え、前記制御手段は前記クランク角信号欠落検出手段と地絡検出手段とによる判定結果がともに正常であって、前記筒内圧力センサ異常検出手段によって筒内圧力センサの異常を検出しときには当該筒内圧力センサが設置されている気筒だけの着火タイミングを遅角制御して運転を続行させることを特徴とする請求項6記載のエンジンの燃焼制御装置。
【請求項8】
前記クランク角信号欠落検出手段は、1サイクル中のクランク軸歯車から発信されるパルス数の基準パルス数に対する誤差に基づいて判定することを特徴とする請求項6記載のエンジンの燃焼制御装置。
【請求項9】
前記クランク角信号の原点検出用として1サイクルに1回だけパルスを検出するカム軸原点検出信号が発信されずに欠落したことの検出を1サイクル中のクランク軸歯車から発信されるパルス数が一定パルス数以上であることをもって判定するカム軸原点信号欠落検出手段を有することを特徴とする請求項6記載のエンジンの燃焼制御装置。
【請求項10】
地絡検出手段は前記筒内圧力センサの電源電圧に対して、2本の抵抗によって中性点を設けて、該中性点をアースすることによって該アースに対する+側電位と−側電位を形成して、該+側電位と−側電位とのそれぞれの電位をモニタすること特徴とする請求項6記載のエンジンの燃焼制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−106684(P2010−106684A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276836(P2008−276836)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】