説明

エンジン制御装置およびエンジン制御システム

【課題】簡易な処理構成で、エンジンの回転数に応じた最も早いタイミングで確実に弁停止機構を動作させること。
【解決手段】トリガFC検知部が、「トリガFCオン」を検知し、弁停止制御部が、検知された「トリガFCオン」およびクランクシャフトの回転によって推移するクランク角に基づいてステータス遷移を制御することとしたうえで、エンジンの回転数に基づき、弁停止機構に対する通電指示のタイミングを所定のクランク角周期単位で早められるか否かを判定し、早められると判定した場合には、弁停止機構が所定の連動動作を完了させるタイミングである目標タイミングを変更することによって、通電指示のタイミングを早めるようにエンジン制御装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置およびエンジン制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温酸化雰囲気下でのフューエルカットにおける触媒の劣化防止を目的として、フューエルカット時に吸気弁または排気弁を閉じた状態で停止させ、シリンダ内への空気のあらたな流入が行われないようにすることで、シリンダの下流に設置された触媒への空気のあらたな流入を防止する弁停止機構を備えたエンジンとその制御装置が知られている。
【0003】
かかるエンジン制御装置は、ドライバのアクセル操作といったフューエルカットの契機となる挙動(以下、「トリガFC」と記載する)を検知したような場合に、弁停止の要求を発生させ、弁停止機構に対して吸気弁または排気弁(以下、まとめて「弁」と記載する)の停止を指示する。なお、かかる停止の指示は、弁停止機構が有するソレノイドアクチュエータに対する通電指示という形で行われる。
【0004】
そして、かかる通電指示を受けて駆動するソレノイドアクチュエータの動作は、弁停止機構をクランクシャフトの回転動作へ連係させ、弁停止機構は、かかるクランクシャフトの回転動作に基づく機械要素の連動によって弁の停止を行う。
【0005】
なお、エンジン制御装置は、通電指示以降の弁停止機構の動作遷移のタイミングを、クランクシャフトの回転角度(以下、「クランク角」と記載する)に応じて決定する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−336577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エンジン制御装置は、回転し続けるクランクシャフトに弁停止機構が確実に連係するようなタイミングで通電指示を行う必要がある。
そのためには、弁停止機構を確実に動作させることができるクランク角の目標値に、ソレノイドアクチュエータの動作が完了するように、ソレノイドアクチュエータの動作時間やエンジン回転数等を考慮したタイミング(クランク角)でソレノイドアクチュエータの通電指示を行う必要がある。
これに対して、ソレノイドアクチュエータの動作を完了させるクランク角の目標値については、弁停止機構の構成上、機構が連動動作を開始するクランク角が決まっているような場合には、値を変化させても機構が連動動作を開始するクランク角に変化は生じないため、処理負荷を考慮すると、この目標値を変化させることはあまり望ましくないといえる。
【0008】
そこで、エンジン制御装置は、余裕を持ってソレノイドアクチュエータが確実に動作を完了すると推知される固定のクランク角を目標値とし、この目標値にソレノイドアクチュエータの動作が完了するようにタイミングを合わせて通電指示を行う簡易な処理構成にすることが考えられる。
また、このように固定のクランク角を目標として通電指示を行う処理構成にした場合、一般的にエンジンが回転してクランク角が変化する時間に対して、ソレノイドアクチュエータの動作に要する時間が長いことから、ソレノイドアクチュエータが確実に動作完了できる時間を確保するために、通電指示のタイミングを算出する処理を開始する時点(弁停止の要求が発生した時点)におけるエンジンのサイクル(回転周期)より後のサイクルにおける固定のクランク角を目標に設定する必要がある。
【0009】
しかしながら、上記のような技術を用いた場合、エンジンの回転数が低い場合に、弁停止の要求が発生してから実際に弁停止機構が弁を停止するまでに大幅な遅延が生じる場合があるという問題があった。
【0010】
これは、エンジンの回転数が低い場合には、所定時間におけるクランク角の推移が小さいため、上述のように目標値として設定された固定のクランク角になるまでに要する時間が増加することと、弁停止の要求が発生した時点におけるエンジンのサイクル(回転周期)より後のサイクルにおける固定のクランク角が目標値に設定されていることに起因する。
【0011】
これらのことから、エンジンの回転数に応じた適切なタイミングで弁停止機構を動作させることができるエンジン制御装置あるいはエンジン制御システムをいかにして実現するかが大きな課題となっている。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解消するためになされたものであって、簡易な処理構成で、エンジンの回転数に応じた最も早いタイミングで確実に弁停止機構を動作させることができるエンジン制御装置およびエンジン制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、クランク軸の回転に連動して動作する吸気弁または排気弁の少なくとも一方の弁を停止させることが可能な弁停止機構を備えたエンジンを制御するエンジン制御装置であって、前記弁停止機構には、当該弁停止機構が前記エンジンの回転と連動して動作する状態にするための連動機構が設けられ、前記連動機構の動作が完了すると前記エンジンの回転に連動して前記弁が停止状態に移行するように構成されており、前記弁の停止要求を受けて前記弁の停止を行うと判断した場合に、当該判断を行った際の前記エンジンのサイクルである第1のサイクル以降のサイクルである第2のサイクルにおける固定のクランク角を、前記連動機構の動作を完了させる目標タイミングとして、前記連動機構を動作させるアクチュエータに対して通電指示を行う弁停止制御手段と、前記エンジンの回転数に基づき、前記弁停止制御手段の前記アクチュエータに対する通電指示のタイミングである通電タイミングを早められると判断した場合に、前記目標タイミングを第2のサイクル以前のサイクルにおけるクランク角に変更する通電タイミング補正手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易な処理構成で、エンジンの回転数に応じた最も早いタイミングで確実に弁停止機構を動作させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係る弁停止制御手法の概要を示す図である。
【図2】図2は、弁停止機構の概略図である。
【図3】図3は、実施例に係るエンジン制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、動弁時における弁停止機構の動作を説明するための図である。
【図5】図5は、弁停止機構による弁停止動作を説明するための図である。
【図6】図6は、弁停止時における弁停止機構の動作を説明するための図である。
【図7】図7は、遷移情報の設定例を示す図である。
【図8】図8は、弁停止制御部におけるステータス遷移制御の基本動作を説明するための図である。
【図9】図9は、「通電開始」を早める場合のステータス遷移制御を説明するための図である。
【図10】図10は、「通電開始」を抑制する場合のステータス遷移制御を説明するための図である。
【図11】図11は、弁停止制御部におけるステータス遷移制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図12】図12は、弁停止制御部におけるステータス遷移処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る弁停止制御手法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下では、本発明に係る弁停止制御手法の概要について図1を用いて説明した後に、本発明に係る弁停止制御手法を適用したエンジン制御装置およびエンジン制御システムについての実施例を図2〜図12を用いて説明することとする。
【0017】
また、以下では、エンジンが、一般的な4ストロークエンジンである場合について説明する。これにともない、以下では、所定のクランク角周期という場合には、かかる4ストロークエンジンの1サイクルに対応するクランクシャフトの回転角度「0°〜720°」を指すものとする。また、以下では、「クランク角」を「CA」(Crank Angle)と記載する場合がある。
【0018】
また、以下では、フューエルカットの開始を示す制御信号を「トリガFCオン」と記載するが、かかる「トリガFCオン」を「開始トリガ」と言い換えてもよい。
【0019】
まず、本発明に係る弁停止制御手法の概要について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る弁停止制御手法の概要を示す図である。なお、図1の(A)には、弁停止におけるステータス遷移制御の概要について、図1の(B)には、本発明に係る弁停止制御手法の概要について、それぞれ示している。
【0020】
一般に、エンジン制御装置に限らず、弁停止機構のような機構を動作させる制御装置では、機構の動作を多段階のステータスに区分けして、ステータス間の遷移に必要な処理を逐次施してゆくステータス遷移制御がよく行われている。
【0021】
かかる点について、本発明に係る弁停止制御手法では、図1の(A)に示すように、弁停止に関する一連の動作を7段階のステータスに区分けしたステータス遷移制御を行う。
【0022】
なお、図1の(A)に示す「ステータス4目標」から「ステータス7目標」は、それぞれクランク角であらわされた所定の遷移目標値である。本発明に係る弁停止制御手法では、エンジン制御装置とは分離した弁停止機構のステータス遷移制御を、かかる「ステータス4目標」から「ステータス7目標」を用いて行う。
【0023】
以下、本発明に係る弁停止制御手法におけるステータス遷移制御について、具体的に説明する。図1の(A)に示すように、本発明に係る弁停止制御手法では、「トリガFCオン」を受け付けたタイミングで、エンジン制御装置をステータス「1」の「弁停止要求」状態へ遷移させる。
【0024】
そして、図1の(A)に示すように、弁停止機構上の通電開始禁止区間が解除されるなどのタイミングで、エンジン制御装置をステータス「2」の「弁停止許可」状態へ遷移させる。なお、かかるステータス「2」への遷移は、基本的には「トリガFCオン」を受け付けたクランク角周期、もしくは、その次のクランク角周期において行われる。
【0025】
そして、図1の(A)の「逆算区間」に示すように、ステータス「3」の「通電開始」状態への遷移は、「ステータス4目標」からエンジン回転数を加味して逆算したタイミングで行われる。なお、かかるタイミングの算出などに関する詳細は、図8を用いて後述する。
【0026】
そして、以降の、ステータス「4」の「ガイド着地」状態、ステータス「5」の「ピンスライド開始」状態、ステータス「6」の「ピンスライド完了」状態およびステータス「7」の「ロック完了」状態への遷移は、クランク角が、「ステータス4目標」から「ステータス7目標」の各遷移目標値を超えるタイミングでそれぞれ行われる。
【0027】
なお、「ステータス4目標」から「ステータス7目標」は、弁停止機構の各機械要素が最適なタイミングで滑らかに連動するようにあらかじめ調整されていることが好ましい。
【0028】
ところで、図1の(B)の上段には、図1の(A)を用いて説明した内容を、クランク角周期単位にあてはめて示している。図1の(B)の上段に示すように、「トリガFCオン」に基づき、「クランク角周期#N−1」においてステータス「1」へ遷移した場合、所定の弁停止許可条件が成立した際のクランク角周期においてステータス「2」への遷移が行われる。
【0029】
ここで、図1の(B)の上段に示すように、「ステータス4目標」は、「クランク角周期#N+1」に位置づいているものとする。かかる場合、図1の(B−1)に示すように、「通電開始」にあたるステータス「3」へのタイミングは、上述したように「ステータス4目標」からエンジン回転数を加味して逆算される。
【0030】
ここで、エンジンの回転数が低い場合、所定時間におけるクランク角の推移は小さくなるため、図1の(A)に示した「逆算区間」は比較的小さくなりやすい。このため、図1の(B)の上段に示すように、「通電開始」のタイミングが「クランク角周期#N+1」内となるケースが起こりうる。かかるケースは、弁停止動作の遅延を招くため、フューエルカットをレスポンスよく行うといった観点からは好ましくない。
【0031】
そこで、本発明に係る弁停止制御手法では、特に、「通電開始」のタイミングをクランク角周期の単位で早められるか否かを判定し、早められると判定した場合には、かかる判定に基づいて「通電開始」のタイミングを早めることとした。
【0032】
具体的には、ステータス「2」に遷移した後に、逆算して求めた「通電開始」にあたるステータス「3」への遷移タイミングをクランク角周期の単位で一旦早め(図1の(B−2)参照)、かかるステータス「3」への遷移タイミングと現在のクランク角とを比較する(図1の(B−3)参照)。
【0033】
そして、かかる比較において、ステータス「3」への遷移タイミングが現在のクランク角よりも先のタイミング(クランク角)であると判定された場合には、ステータス「3」への遷移タイミングに対応する「通電開始」のタイミングをクランク角周期の単位で実際に早める。
【0034】
したがって、かかる「通電開始」のタイミングに連動するステータス「4」以降のステータス遷移もまた、クランク角周期の単位で早められることとなる。これは、たとえば、ステータス「4」の「ガイド着地」が、クランク角周期内における位置(図中の区間p参照)を保持したまま行われることを意味するので、弁停止機構の各機械要素を最適なタイミングで動作させることができる。
【0035】
なお、図1の(B)に示したステータス遷移制御処理の詳細については、図8から図12を用いて後述する。
【0036】
このように、本発明に係る弁停止制御手法では、エンジンの回転数が低い場合に、「通電開始」のタイミングをクランク角周期の単位で早められるか否かを判定し、早められると判定した場合には、かかる判定に基づいて「通電開始」のタイミングを早めることとした。したがって、本発明に係る弁停止制御手法によれば、エンジンの回転数に応じた適切なタイミングで弁停止機構を動作させることができる。
【0037】
以下では、図1を用いて説明した弁停止制御手法を適用したエンジン制御装置およびエンジン制御システムについての実施例を詳細に説明する。なお、以下では、図1の(B)を用いた説明で示した、所定の弁停止許可条件が成立した際の、すなわち、弁の停止要求を受けて弁の停止を行うと判定した際のクランク角周期を「第1のサイクル」と、かかる「第1のサイクル」以降のサイクルを「第2のサイクル」と、それぞれ記載する場合がある。
【実施例】
【0038】
まず、弁停止機構の動作の概略について、図2を用いて説明しておく。図2は、弁停止機構20の概略図である。なお、図2では、可変バルブ機構60を搭載した4気筒エンジンを例に挙げて説明を行う。また、図中の#1から#4の番号は各気筒に対応する。
【0039】
図2に示すように、弁停止機構20は、可変バルブ機構60のカムシャフト61に取り付けられた#1から#4のカム(主カム62および副カム63)にそれぞれ対応して設けられている。なお、主カム62は、それぞれカム山の向きが異なるように取り付けられている。
【0040】
また、図2に示すように、#1の弁停止機構20および#2の弁停止機構20は、リンク機構によって連結されている。同様に、#3の弁停止機構20および#4の弁停止機構20は、リンク機構によって連結されている。また、#1および#2の弁停止機構20の組み合わせと、#3および#4の弁停止機構20の組み合わせは、ディレー機構によって連結されている。
【0041】
また、#2の弁停止機構20は、弁停止動作と弁復帰動作とを切り換える切換機構25を備えている。かかる切換機構25への切換指示は、切換機構25が有するソレノイド201への通電開始または通電解除という形でエンジン制御装置によって行われる。
【0042】
なお、エンジン制御装置は、弁停止機構20へ停止動作を行わせる場合、ソレノイド201への通電を開始する。また、弁停止機構20へ復帰動作を行わせる場合、ソレノイド201への通電を解除する。
【0043】
そして、エンジン制御装置によって切換機構25へ与えられる切換指示は、#2の弁停止機構20の動作を決定し、かかる#2の弁停止機構20の動作はリンク機構を介して#1の弁停止機構20へ連動する。また、同様に、#2の弁停止機構20の動作は、ディレー機構を介して#3および#4の弁停止機構20へ連動する。
【0044】
すなわち、エンジン制御装置の切換指示を受けてからかかる一連の連動動作が完了し、各気筒に対応する弁が実際に停止または復帰するまでが、弁停止機構20の所定の停止動作または復帰動作となる。
【0045】
なお、以下では、かかる一連の連動動作の起点となる#2の弁停止機構20の動作を例に挙げて説明を行うこととする。なお、弁停止機構20の詳細な動作については、図4から図6を用いて後述する。
【0046】
次に、本実施例に係るエンジン制御装置10の構成例について、図3を用いて説明する。図3は、実施例に係るエンジン制御装置10の構成を示すブロック図である。なお、図3では、エンジン制御装置10の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0047】
図3に示すように、エンジン制御装置10は、制御部11と、記憶部12とを備えている。また、制御部11は、トリガFC検知部11aと、弁停止制御部11bと、FC制御部11cとをさらに備えている。そして、記憶部12は、遷移情報12aを記憶する。
【0048】
また、エンジン制御装置10の外部には、弁停止機構20と、燃料噴射機構30と、アクセル開度センサ40と、クランク角度センサ50とが配置される。
【0049】
ここで、エンジン制御装置10の外部に配置される各デバイスについて説明する。弁停止機構20は、後述する弁停止制御部11bからの通電開始を示す制御信号に基づいて弁を停止する機構である。また、弁停止機構20は、弁停止制御部11bからの通電解除を示す制御信号に基づいて弁を復帰する機構である。
【0050】
ここで、弁停止機構20の動作の詳細について、図4から図6を用いて説明しておく。なお、図4から図6では、弁停止機構20の動作を説明するために、弁停止機構20およびその周辺に配置される各機構の簡略図を示しているが、各々の形状や向き、ならびに位置関係を限定するものではない。
【0051】
図4は、動弁時における弁停止機構20の動作を説明するための図である。なお、図4の(1)には、動弁時において弁が閉じた状態を、図4の(2)には、動弁時において弁が開いた状態を、それぞれ示している。また、図中の弁70の弁体付近の太線は、シリンダ内との境界を示している。
【0052】
図4の(1)に示すように、弁停止機構20は、ソレノイド201と、ロックピン202とを備えている。ソレノイド201は、後述する弁停止制御部11bからの通電開始を示す制御信号に基づいてロックピン202を突出させる。また、ソレノイド201は、弁停止制御部11bからの通電解除を示す制御信号に基づいてロックピン202の突出を元に戻す。
【0053】
また、弁停止機構20は、第1ロッカーアーム211と、その両端に配置される1対の第2ロッカーアーム212とを備えている。かかる第1ロッカーアーム211および第2ロッカーアーム212は、図示しない共通のロッカーシャフトを中心に揺動可能に取り付けられている。また、1対の第2ロッカーアーム212は、1対の弁70のバルブステムの端部に当接されている。
【0054】
また、弁停止機構20は、第1切換ピン213とその両端に配置される1対の第2切換ピン214と、スライドピン215とを備えている。そして、1対の第2切換ピン214のうちの一方の端部と、スライドピン215の円柱部215aとが当接される。
【0055】
かかる第1切換ピン213、1対の第2切換ピン214および円柱部215aは、軸Xsまわりに回転動作するスライドピン215の軸部を形成する。そして、かかるスライドピン215の軸部は、リターンスプリング216を挟みつつ、第1ロッカーアーム211および第2ロッカーアーム212に貫設される。
【0056】
また、スライドピン215は、円柱部215aのほかに、アーム部215bと、突起部215cと、切欠部215dとを有している。弁停止機構20は、かかるスライドピン215と、ソレノイド201と、ロックピン202と、カムシャフト61の大径部64に切られたガイド溝65とで切換機構25を構成する。
【0057】
なお、かかる切換機構25は、弁停止時においては、最終的にロックピン202とスライドピン215の切欠部215dとを嵌合するように動作するが、かかる点については図5を用いて後述する。
【0058】
また、切換機構25のガイド溝65のほかに、カムシャフト61には、カム山を有する主カム62と、主カム62のベース円と同じ形状の1対の副カム63が備えられている。そして、図4の(1)に示すように、動弁時における弁70が閉じた状態では、主カム62は第1ロッカーアーム211に、1対の副カム63は1対の第2ロッカーアーム212に、それぞれ接している。
【0059】
ここで、図4の(1)に示すように、ロックピン202と切欠部215dとが嵌合していない動弁時においては、スライドピン215の軸部はリターンスプリング216の反力によって矢印501の指す向きへ付勢される。
【0060】
したがって、動弁時においては、第1ロッカーアーム211および1対の第2ロッカーアーム212の境目と、スライドピン215の軸部の境目とは、互いにずれた状態となる。
【0061】
そして、図4の(2)に示すように、カムシャフト61が軸Xpまわりに回転動作した場合、主カム62のカム山は、接している第1ロッカーアーム211を押し下げる。
【0062】
このとき、第1ロッカーアーム211および1対の第2ロッカーアーム212の連結は、上述のようにスライドピン215の軸部の境目がずれていることによって保持されるので、第1ロッカーアーム211とともに1対の第2ロッカーアーム212もまた押し下げられる。
【0063】
すなわち、かかる第2ロッカーアーム212に当接されている弁70も押し下げられるので、弁70が開かれることとなる。
【0064】
次に、弁停止機構20による弁停止動作について、図5を用いて説明する。図5は、弁停止機構20による弁停止動作を説明するための図である。
【0065】
図5の(1)に示すように、弁停止機構20は、弁を停止するにあたってソレノイド201への通電を受けると、図5の(2)に示すように、ロックピン202を突出させる。そして、図5の(3)に示すように、突出したロックピン202は、スライドピン215の端部を弾く。
【0066】
そして、図5の(4)に示すように、端部を弾かれることによって付勢されたスライドピン215は、軸Xsまわりに回転動作し、ガイド溝65へ着地する。なお、具体的には、スライドピン215の突起部215cが、ガイド溝65へ係合する。また、かかるタイミングは、ステータス4の「ガイド着地」(図1参照)に対応する。
【0067】
なお、このようにロックピン202の突出に基づいてスライドピン215が「ガイド着地」することによって、弁70(図4参照)はエンジンの回転に連動した停止状態へ移行することとなる。したがって、ロックピン202およびスライドピン215で「連動機構」を構成すれば、前述のステータス4の「ガイド着地」(図1参照)は、かかる「連動機構」の動作を完了させる「目標タイミング」と言い換えてもよい。
【0068】
つづいて、図5の(5)に示すように、カムシャフト61が軸Xpまわりに回転動作すると、スライドピン215は、ガイド溝65に沿って図中の矢印の向きに移動する。なお、かかる移動を開始するタイミングは、ステータス5の「ピンスライド開始」(図1参照)に対応する。
【0069】
また、図示していないが、ガイド溝65は底部が徐々に浅くなるように切られており、スライドピン215は、図中の矢印の向きに移動するにしたがって徐々にガイド溝65から外れやすくなる。
【0070】
そして、図5の(6)に示すように、スライドピン215は所定位置でガイド溝65から外れ、また、スライドピン215はガイド溝65の深さが浅くなるに従ってロックピン202が設けられた方向に押し出されるため、突出したままのロックピン202と切欠部215dにおいて嵌合する。
【0071】
なお、スライドピン215が、上述の所定位置までの移動を完了したタイミングが、ステータス6の「ピンスライド完了」(図1参照)に対応する。また、ロックピン202と切欠部215dとが嵌合したタイミングが、ステータス7の「ロック完了」(図1参照)に対応する。
【0072】
そして、図5の(7)に示すように、ロックピン202と切欠部215dとの嵌合によって、第1ロッカーアーム211および1対の第2ロッカーアーム212の境目と、スライドピン215の軸部の境目とが一致することとなる。
【0073】
つづいて、図5を用いて説明した弁停止動作完了後の、弁停止時における弁停止機構20の動作について、図6を用いて説明する。図6は、弁停止時における弁停止機構20の動作を説明するための図である。
【0074】
既に図5の(7)においても述べたが、図6の(1)に示すように、弁停止時においては、第1ロッカーアーム211および1対の第2ロッカーアーム212の境目と、スライドピン215の軸部の境目とは一致している。
【0075】
これは、スライドピン215の軸部の境目とずれていたことによって保持されていた第1ロッカーアーム211および1対の第2ロッカーアーム212の連結が、解除されたことを意味している。
【0076】
したがって、図6の(2)に示すように、カムシャフト61が軸Xpまわりに回転動作しても、カム山を有する主カム62が矢印504の指す向きへ押し下げるのは、かかる主カム62に接する第1ロッカーアーム211のみとなる。
【0077】
すなわち、弁70に当接する1対の第2ロッカーアーム212は押し下げられないため、弁70は閉じたままとなる。
【0078】
なお、ここで、同じく図6を用いて、弁停止機構20による弁復帰動作についても述べておく。弁停止機構20は、弁を復帰するにあたっては、ソレノイド201への通電を解除されることによって突出したロックピン202を元に戻し、スライドピン215とロックピン202との嵌合を外す(図6の(1)参照)。
【0079】
そして、かかる嵌合を外されたスライドピン215の軸部は、リターンスプリング216の反力によって付勢され、矢印502の指す向きへ移動する(図6の(1)参照)。すなわち、第1ロッカーアーム211および1対の第2ロッカーアーム212の境目とスライドピン215の軸部の境目とがずれ、ふたたび第1ロッカーアーム211および1対の第2ロッカーアーム212を連結する。
【0080】
なお、ソレノイド201の通電を解除するタイミングは、図6の(2)に示したように、主カム62が第1ロッカーアーム211のみを押し下げたときが好ましい。なぜなら、主カム62が第1ロッカーアーム211を押し下げていないときには(図6の(1)参照)、リターンスプリング216の反力は矢印502の指す向きに直接スライドピン215にかかるが、図6の(2)のように、第1ロッカーアーム211が押し下げられていれば、リターンスプリング216の反力は分断されて弱まるため(図中の破線の矢印503参照)、スライドピン215とロックピン202との嵌合を外しやすいからである。
【0081】
図3の説明に戻り、燃料噴射機構30について説明する。燃料噴射機構30は、後述するFC制御部11cからフューエルカット開始指示を受け付けた場合に、シリンダ内への燃料供給を停止し、FC制御部11cからフューエルカット解除指示を受け付けた場合に、シリンダ内への燃料供給を再開する機構である。
【0082】
アクセル開度センサ40は、ドライバのアクセル操作によるアクセル開度の検出デバイスであり、検出したアクセル開度をトリガFC検知部11aへ出力する。クランク角度センサ50は、図示しないクランクシャフトのクランク角の検出デバイスであり、検出したクランク角をトリガFC検知部11aおよび弁停止制御部11bへ出力する。なお、エンジン制御装置10は、検出したクランク角度からエンジン回転数を演算で算出する。
なお、アクセル開度センサ40の代わりに、ドライバによってアクセルが操作されているか否かを検出するアイドルSWを用いる構成であっても良い。
【0083】
つづいて、エンジン制御装置10内部の構成要素について説明する。制御部11は、エンジン制御装置10の全体制御を行う制御部である。トリガFC検知部11aは、アクセル開度センサ40から入力したアクセル開度や、クランク角度センサ50から入力したクランク角およびエンジン回転数などから「トリガFC」を判定し、「トリガFCオン」または「トリガFCオフ」を示す制御信号を弁停止制御部11bおよびFC制御部11cへ出力する。
【0084】
弁停止制御部11bは、トリガFC検知部11aから入力した「トリガFCオン」または「トリガFCオフ」に基づき、弁停止および弁復帰に関するステータス遷移を制御しつつ、適切なタイミングで弁停止機構20のソレノイド201へ「通電開始」または「通電解除」を示す制御信号を出力する処理を行う処理部である。なお、本実施例は、弁停止制御部11bにおいての、「トリガFCオン」に基づく弁停止動作に関するステータス遷移制御について主に述べるものである。
【0085】
そして、弁停止制御部11bは、かかる弁停止動作における通電の開始タイミングを、クランク角度センサ50から入力したクランク角およびエンジン回転数と、記憶部12の遷移情報12aとに基づいて制御する。遷移情報12aは、弁停止制御部11bにおけるステータス遷移制御に関する情報であり、弁停止制御部11bによって逐次読み出しまたは書き込みが行われる。
【0086】
ここで、遷移情報12aの設定例について図7を用いて説明する。図7は、遷移情報12aの設定例を示す図である。図7に示すように、遷移情報12aは、「ステータス番号」項目と、「ステータス名称」項目と、「ステータス目標」項目とを含んだ情報である。
【0087】
「ステータス番号」項目は、ステータス遷移制御における各ステータス番号が格納される項目である。「ステータス名称」項目は、各ステータス番号に対応するステータス名称が格納される項目である。
【0088】
「ステータス目標」項目は、各ステータス番号に対応するステータス目標が格納される項目である。なお、ステータス目標は、所定のタイミングからの累計クランク角であらわした遷移目標値であり、ここでは、クランク角周期#N−1(図1参照)において「トリガFCオン」を受け付けた後にステータスが「1」から「2」に遷移したタイミングからの累計クランク角であらわしている。
【0089】
たとえば、図7には、ステータス番号が「4」から「7」のステータス目標が、それぞれ順に、「810」、「1400」、「1720」、「1880」である例を示している。
【0090】
なお、ステータス目標に「−」が設定されているステータス番号「1」から「3」については、ステータス目標が固定値ではないことをあらわしている。たとえば、ステータス番号「1」の「弁停止要求」については、「トリガFCオン」を受け付けたタイミングがかかるステータス目標に相当する。
【0091】
また、ステータス番号「2」の「弁停止許可」については、機構上の通電開始禁止区間を過ぎたタイミングなどがかかるステータス目標に相当する。また、ステータス番号「3」の「通電開始」については、ステータス番号「4」の「ガイド着地」のステータス目標、クランク角度センサ50から入力したエンジン回転数などから算出される。かかる点の詳細な内容については、図8を用いて後述する。
【0092】
このような遷移情報12aは、弁停止制御部11bが行うステータス遷移制御処理において参照される。なお、弁停止制御部11bは、かかる遷移情報12aに対して最新のステータスを示す情報を書き込むことによって、ステータス管理を行ってもよい。
【0093】
たとえば、図7には図示していないが、遷移情報12aが、各ステータス番号に対応するフラグ値が格納される項目をさらに含むこととしたうえで、弁停止制御部11bが、ステータスが遷移するごとに対応するステータス番号のフラグ値のみをオンとするようにしてもよい。
【0094】
なお、図7には、遷移情報12aの各項目の格納値が、数値やテキストである例を示したが、遷移情報12aにおけるデータ形式を限定するものではない。
【0095】
つづいて、図7において示した遷移情報12aの設定例を用いつつ、弁停止制御部11bにおけるステータス遷移制御の基本動作について、図8を用いて説明する。図8は、弁停止制御部11bにおけるステータス遷移制御の基本動作を説明するための図である。
【0096】
なお、図8に示す「実CA」は、実際のクランク角の動きを示す「実クランクカウンタ」を、「内部CA」は、「実CA」をラッチしたうえで累算してゆく弁停止制御部11b内部の「内部カウンタ」を、それぞれ示している。
【0097】
図8に示すように、クランク角周期#N−1において「トリガFCオン」が検知されたものとする。弁停止制御部11bは、かかる「トリガFCオン」が検知されたタイミングにおいて、ステータスを「1」へ遷移させる。
【0098】
そして、弁停止制御部11bは、クランク角周期#Nの、機構上の通電開始禁止区間を過ぎたタイミングなどにおいて、ステータスを「2」へ遷移させる。なお、図8では、説明を分かりやすくするために、ステータス「2」へ遷移したタイミングがクランク角周期#Nの起点と一致している場合を示している。
【0099】
そして、弁停止制御部11bは、かかるステータス「2」へ遷移したタイミングにおいて、「内部CA」のカウントを開始する(図8の(1)参照)。このとき、弁停止制御部11bは、かかるタイミングにおける「実CA」をラッチした値を「内部CA」の初期値とする(図8の(2)参照)。したがって、図8に示した例では、かかるタイミングにおける「内部CA」は「0」である。
【0100】
そして、弁停止制御部11bは、累算される「内部CA」が所定の値をとるタイミングでステータスを遷移させてゆく。たとえば、「通電開始」を示すステータス「3」への遷移は、「内部CA」が「ステータス3目標」に達したタイミングで行われる。
【0101】
ここで、「ステータス3目標」は、「通電開始」の遷移目標値であり、「ガイド着地」に対応する「ステータス4目標」に基づく式「ステータス3目標=ステータス4目標−(エンジン回転数*ガイド着地所要時間/(60*1000)*360)」(図8の矩形に囲まれた式参照)によって算出することができる。なお、以下では、かかる「ステータス3目標」を「通電タイミング」と、「ステータス4目標」を「目標タイミング」(図5を用いた説明を参照)と、それぞれ記載する場合がある。
【0102】
なお、上述の式に含まれる「ガイド着地所要時間」は、既に図5の(1)に示したソレノイド201への通電から、同じく図5の(4)に示したスライドピン215がガイド溝65へ着地するまでに要する時間を示している。
【0103】
そして、上述の式の下線部「エンジン回転数*ガイド着地所要時間/(60*1000)*360」は、かかる「ガイド着地所要時間」をクランク角であらわした換算値(以下、「ガイド着地所要CA」と記載する)である。
【0104】
なお、かかる図8の式は、「エンジン回転数」の単位が「rpm」であり、「ガイド着地所要時間」の単位が「ms」である場合の、クランク角への変換係数が「1/(60*1000)*360」であることを示しているが、「エンジン回転数」や「ガイド着地所要時間」の単位が異なれば、かかる変換係数はこれらの単位に応じて異なるものとなる。
【0105】
そして、このように算出される「ステータス3目標」は、エンジンの回転数に応じて、エンジンの回転数が低い場合には大きく、エンジンの回転数が高い場合には小さくなる可変値をとる。
【0106】
そして、弁停止制御部11bは、図7の遷移情報12aの設定例に沿えば、「内部CA」が、クランク角周期#N+1に含まれる「810」に達したタイミングにおいて、ステータスを「4」へ遷移させ、「内部CA」が、「1400」に達したタイミングにおいて、ステータスを「5」へ遷移させることとなる。
【0107】
ここまでは、弁停止制御部11bにおけるステータス遷移制御の基本動作について、図8を用いて説明した。次に、ステータス「3」への遷移に対応する「通電開始」を早める場合について、図9を用いて説明する。図9は、「通電開始」を早める場合のステータス遷移制御を説明するための図である。なお、ここでは、図8において説明した内容と重複する部分については、その説明を省略する場合がある。
【0108】
図9に示すように、「通電開始」を早める場合とは、「ガイド着地所要CA<ステータス4目標−720CA」および「実CA+720CA≦ステータス3目標」の両条件がともに成立した場合を示す。かかる場合、弁停止制御部11bは、「通電開始」を早められると判定する。
【0109】
これは、「ステータス4目標」からエンジンの回転数などを考慮して逆算した「ステータス3目標」に対応する「通電開始」を、クランク角周期単位で1周期分早いタイミングで行っても、クランク角周期単位における「ステータス4目標」の相対的なタイミングを保持できることを意味している。すなわち、「通電開始」を1周期分早めつつも、機構上最適なタイミングで「ガイド着地」を行わせることができる。
【0110】
かかる場合、具体的には、図9に示すように、弁停止制御部11bは、ステータス「2」へ遷移したタイミングにおいて、「内部CA」のカウントを開始する(図9の(1)参照)。
【0111】
このとき、弁停止制御部11bは、かかるタイミングにおける「実CA」を一旦「内部CA」へラッチする(図9の(2)参照)。そして、弁停止制御部11bは、ラッチした「内部CA」へ、クランク角周期の1周期分に相当するクランク角(ここでは、「720CA」)を加算する(図9の(3)参照)。すなわち、「内部CA」の初期値を1周期分早めることとなる。
【0112】
そして、弁停止制御部11bは、「内部CA」を累算してゆき、「内部CA」が所定の値をとるタイミングでステータスを遷移させてゆく。
【0113】
たとえば、図7の遷移情報12aの設定例に沿えば、図9に示すように、弁停止制御部11bは、「内部CA」が、クランク角周期#Nに含まれる「810」に達したタイミングにおいて、すなわち、図8に示したクランク角周期#N+1よりも1周期分早いタイミングにおいてステータスを「4」へ遷移させることができる。なお、ステータス「5」以降についても同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0114】
すなわち、弁停止制御部11bは、「通電タイミング」を早められると判定した場合に、「第2のサイクル」における固定のクランク角であった「目標タイミング」を、「第2のサイクル」より前のサイクルにおけるクランク角へ変更する、通電タイミング補正処理を行う。
【0115】
なお、ここでは、弁停止制御部11bが、かかる通電タイミング補正処理を行うような説明を行っているが、たとえば、かかる処理に特化した「通電タイミング補正処理部」を別途設ける構成としてもよい。
【0116】
これにより、エンジンの回転数が低い場合であっても、不要な待ち合わせを行うことなく弁停止機構20に対して弁を停止させることができる。すなわち、エンジンの回転数に応じた適切なタイミングで弁停止機構20を動作させることができる。
【0117】
また、エンジンの回転数に応じた適切なタイミングで弁停止機構20を動作させることができるので、フューエルカットを「トリガFC」の検知区間に応じて適切に行うことが可能となり、ドライバビリティを向上させつつ、燃費ロスを抑えることができる。
【0118】
また、特に、エンジンの回転数が低い場合の弁停止機構20による弁停止動作の遅れは、機構上、弁復帰動作の遅れを招いてしまう。また、フューエルカット制御は、この弁停止動作に合わせてフューエルカットを行い、弁停止動作完了後に、弁復帰動作に合わせてフューエルカット解除を行う構成であるので、フューエルカット実施後にすぐにフューエルカットの解除を行う必要があるような場合には、弁停止動作の遅れはフューエルカット解除の遅れに繋がる。そして、フューエルカットの要求があった時点のエンジン回転数が低くてエンジン回転数が低下しているような状態にある場合のフューエルカットの実施の遅れはその後のフューエルカットの解除の遅れに繋がり、その間にエンジン回転数の低下を招いて、エンストにいたる可能性もあったが、エンジンの回転数に応じた最も早いタイミングで確実に弁停止機構20を動作させるので、弁復帰動作の遅れも防ぐことができ、エンストにいたる機会を減らすことができる。
【0119】
なお、かかる図9を用いた説明では、「内部CA」へ「720CA」を加算する例を示したが、「ステータス3目標」から「ステータス7目標」の各遷移目標値から「720CA」を減算することとしてもよい。
【0120】
なお、これまでは「通電開始」のタイミングを早められるかどうか判定した結果、早められると判定される場合について説明を行ったが、ステータス「2」への遷移のタイミングによっては「通電開始」のタイミングを早められない場合もある。
【0121】
そこで、以下では、かかる場合について図10を用いて説明する。図10は、「通電開始」を抑制する場合のステータス遷移制御を説明するための図である。なお、ここでは、図8および図9において説明した内容と重複する部分については、その説明を省略する場合がある。
【0122】
図10に示すように、弁停止制御部11bは、「実CA+720CA>ステータス3目標」の条件が成立した場合、「通電開始」を抑制するステータス遷移制御を行う。
【0123】
これは、「ステータス4目標」から逆算した「ステータス3目標」に対応する「通電開始」を、クランク角周期単位で1周期分早いタイミングで行っても、機構上最適なタイミングでは「ガイド着地」を行えないことを意味している。
【0124】
かかる場合、具体的には、図10に示すように、弁停止制御部11bは、ステータス「2」へ遷移したタイミングにおいて、「内部CA」のカウントを開始しない(図10の(1)参照)。
【0125】
したがって、弁停止制御部11bは、かかるタイミングにおける「実CA」の「内部CA」へのラッチを抑制する(図10の(2)参照)。そして、弁停止制御部11bは、「内部CA」をカウントしないまま保持しつつ(図10の(3)参照)、次回のクランク角周期#N+1の起点まで待ち合わせる。
【0126】
そして、弁停止制御部11bは、クランク角周期#N+1の起点において「実CA」を「内部CA」へラッチしたうえで「内部CA」を累算してゆき(図10の(4)参照)、「内部CA」が所定の値をとるタイミングでステータスを遷移させる。
【0127】
すなわち、弁停止制御部11bは、図10の冒頭に示した条件が成り立つ場合であっても、機構上最適なタイミングで「ガイド着地」を行えるように、クランク角周期をやり過ごしてあらためて「通電開始」タイミングを計るステータス遷移制御を行う。これにより、弁停止機構20の挙動に合致したステータス遷移を実現することができる。
【0128】
なお、図10の(1)のタイミングにおいて、「内部CA」から「720CA」を減算することとしても同様の効果を得ることが可能である。
【0129】
図3の説明に戻り、FC制御部11cについて説明する。FC制御部11cは、トリガFC検知部11aからの「トリガFCオン」と弁停止制御部11bからの弁が実際に停止したタイミング通知とに基づき、燃料噴射機構30へフューエルカット開始指示を示す制御信号を出力する。
【0130】
記憶部16は、ハードディスク、不揮発性メモリあるいはレジスタといった記憶デバイスで構成される記憶部であり、遷移情報12aを記憶する。遷移情報12aについては既に述べたため、ここでの記載を省略する。
【0131】
なお、これまで説明したエンジン制御装置10と、弁停止機構20と、燃料噴射機構30とを少なくとも備えることによって、エンジン制御システムを構成することができる。
【0132】
次に、実施例に係るエンジン制御装置10の弁停止制御部11bが実行するステータス遷移制御処理の処理手順について図11を用いて説明する。図11は、弁停止制御部11bにおけるステータス遷移制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0133】
なお、本ステータス遷移制御処理は、所定のクランク角が推移するごとに実行されるものであり、本実施例においては、かかる所定のクランク角は「30CA」であるものとする。また、上述してきたように、所定のクランク角周期については「720CA」であるものとする。
【0134】
図11に示すように、弁停止制御部11bは、ワーク用の「セット用実CA」へ、実際のクランク角である「実CA」をセットする(ステップS101)。そして、弁停止制御部11bは、「ガイド着地所要CA」を算出したうえで(図8参照)、かかる「ガイド着地所要CA」が、「ステータス4目標−720CA」を下回るか否かを判定する(ステップS102)。
【0135】
ここで、ステップS102の判定条件を満たす場合(ステップS102,Yes)、弁停止制御部11bは、「内部CA」を補正するか否かを示す「内部CA補正フラグ」を「ON」とする(ステップS103)。また、ステップS102の判定条件を満たさない場合(ステップS102,No)、弁停止制御部11bは、「内部CA補正フラグ」を「OFF」とする(ステップS104)。
【0136】
つづいて、弁停止制御部11bは、ステータス1からステータス2へ遷移するタイミングであるか、または、「実CA」をラッチするか否かを示す「ラッチ抑制フラグ」が「ON」であるかを判定する(ステップS105)。
【0137】
ここで、ステップS105の判定条件を満たす場合(ステップS105,Yes)、弁停止制御部11bは、「内部CA補正フラグ」が「ON」であるか否かを判定する(ステップS106)。
【0138】
そして、ステップS106の判定条件を満たすならば(ステップS106,Yes)、「セット用実CA」へ「720CA」を足し込む(ステップS107)。また、ステップS106の判定条件を満たさないならば(ステップS106,No)、ステップS108の処理へ制御を移す。
【0139】
そして、弁停止制御部11bは、「ステータス3目標」を算出したうえで(図8参照)、「セット用実CA」が「ステータス3目標」以下であるか否かを判定する(ステップS108)。
【0140】
ここで、ステップS108の判定条件を満たす場合(ステップS108,Yes)、弁停止制御部11bは、弁停止制御部11b内部のCAカウンタである「内部CA」へ、「セット用実CA」をセットし(ステップS109)、「ラッチ抑制フラグ」を「OFF」とする(ステップS110)。
【0141】
また、ステップS108の判定条件を満たさない場合(ステップS108,No)、弁停止制御部11bは、「内部CA」へ「0CA」をセットし(ステップS111)、「ラッチ抑制フラグ」を「ON」とする(ステップS112)。
【0142】
なお、ステップS105の判定条件を満たさない場合(ステップS105,No)、弁停止制御部11bは、「内部CA」へ「30CA」を足し込んでカウントアップする(ステップS113)。
【0143】
そして、弁停止制御部11bは、図12を用いて後述する「ステータス遷移処理」を実行して(ステップS114)、処理を終了する。
【0144】
つづいて、図11において示した「ステータス遷移処理」の処理手順について図12を用いて説明する。図12は、弁停止制御部11bにおけるステータス遷移処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0145】
図12に示すように、ステータス遷移処理において、弁停止制御部11bは、現在のステータスがいずれのステータス番号であるかによって制御を分岐する(ステップS201)。
【0146】
ここで、現在のステータスが「2」であるならば(ステップS201,「2」)、弁停止制御部11bは、「ステータス3目標」が「内部CA」以下であるか否かを判定する(ステップS202)。そして、ステップS202の判定条件を満たすならば(ステップS202,Yes)、弁停止制御部11bは、ステータスを「3」へ遷移する(ステップS203)。
【0147】
なお、図示していないが、かかるステップS203のタイミングで、「通電開始」を示す制御信号が上述のソレノイド201へ出力される。また、ステップS202の判定条件を満たさないならば(ステップS202,No)、弁停止制御部11bは、ステータス「2」からの遷移を行わない。
【0148】
また、現在のステータスが「3」であるならば(ステップS201,「3」)、弁停止制御部11bは、「ステータス4目標」が「内部CA」以下であるか否かを判定する(ステップS204)。そして、ステップS204の判定条件を満たすならば(ステップS204,Yes)、弁停止制御部11bは、ステータスを「4」へ遷移する(ステップS205)。また、ステップS204の判定条件を満たさないならば(ステップS204,No)、弁停止制御部11bは、ステータス「3」からの遷移を行わない。
【0149】
また、現在のステータスが「4」であるならば(ステップS201,「4」)、弁停止制御部11bは、「ステータス5目標」が「内部CA」以下であるか否かを判定する(ステップS206)。そして、ステップS206の判定条件を満たすならば(ステップS206,Yes)、弁停止制御部11bは、ステータスを「5」へ遷移する(ステップS207)。また、ステップS206の判定条件を満たさないならば(ステップS206,No)、弁停止制御部11bは、ステータス「4」からの遷移を行わない。
【0150】
また、現在のステータスが「5」であるならば(ステップS201,「5」)、弁停止制御部11bは、「ステータス6目標」が「内部CA」以下であるか否かを判定する(ステップS208)。そして、ステップS208の判定条件を満たすならば(ステップS208,Yes)、弁停止制御部11bは、ステータスを「6」へ遷移する(ステップS209)。また、ステップS208の判定条件を満たさないならば(ステップS208,No)、弁停止制御部11bは、ステータス「5」からの遷移を行わない。
【0151】
また、現在のステータスが「6」であるならば(ステップS201,「6」)、弁停止制御部11bは、「ステータス7目標」が「内部CA」以下であるか否かを判定する(ステップS210)。そして、ステップS210の判定条件を満たすならば(ステップS210,Yes)、弁停止制御部11bは、ステータスを「7」へ遷移する(ステップS211)。また、ステップS210の判定条件を満たさないならば(ステップS210,No)、弁停止制御部11bは、ステータス「6」からの遷移を行わない。
【0152】
これらの、ステップS201における判定に基づいて分岐したいずれかの処理を実行した後、弁停止制御部11bは、処理を終了する。
【0153】
上述してきたように、本実施例では、トリガFC検知部が、「トリガFCオン」を検知し、弁停止制御部が、検知された「トリガFCオン」および推移するクランク角に基づいてステータス遷移を制御することとしたうえで、エンジンの回転数に基づき、弁停止機構に対して通電指示を行うタイミングを所定のクランク角周期単位で早めるか否かを決定するようにエンジン制御装置を構成した。したがって、エンジンの回転数に応じた適切なタイミングで弁停止機構を動作させることができる。
【0154】
なお、上述した実施例では、エンジンが4ストロークエンジンであり、所定のクランク角周期がかかる4ストロークエンジンの1サイクルに対応する「720CA」である場合について説明したが、エンジン形式などを限定するものではない。したがって、エンジン形式に応じた1サイクルに対応する所定のクランク角周期を用いることができる。
【0155】
また、上述した実施例では、1サイクル分の所定のクランク角周期単位(すなわち、「720CA」)で内部CAなどを増減する場合について説明したが、2サイクル分以上増減することとしてもよい。たとえば、あらかじめ2サイクル分を増加させておき、状況に応じて適宜、1サイクル分を減らしたり、2サイクル分を減らしたり、減らさなかったりしてもよい。
【0156】
また、上述した実施例では、エンジンが、可変バルブ機構を搭載した4気筒エンジンである場合について説明したが、気筒数などを特に限定するものではない。また、上述した実施例では、4気筒エンジンのうちの1気筒についてのみ弁停止制御を行い、他の気筒についてはそれに連動させる場合について説明したが、気筒ごとに弁停止制御を個別に行うこととしてもよい。
【0157】
また、上述した実施例では、自動車のエンジンを制御するエンジン制御装置およびエンジン制御システムに適用する場合について主に説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、種々の異なる内燃機関を制御する内燃機関制御装置および内燃機関制御システムにて実施されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0158】
以上のように、本発明に係るエンジン制御装置およびエンジン制御システムは、簡易な処理構成で、エンジンの回転数に応じた最も早いタイミングで弁停止機構を確実に動作させたい場合に有用であり、特に、燃費性能の向上とドライバビリティの向上との両立を企図して開発されるエンジン制御装置およびエンジン制御システムへの適用に適している。
【符号の説明】
【0159】
10 エンジン制御装置
11 制御部
11a トリガFC検知部
11b 弁停止制御部
11c FC制御部
12 記憶部
12a 遷移情報
20 弁停止機構
25 切換機構
30 燃料噴射機構
40 アクセル開度センサ
50 クランク角度センサ
60 可変バルブ機構
61 カムシャフト
62 主カム
63 副カム
64 大径部
65 ガイド溝
70 弁
201 ソレノイド
202 ロックピン
211 第1ロッカーアーム
212 第2ロッカーアーム
213 第1切換ピン
214 第2切換ピン
215 スライドピン
215a 円柱部
215b アーム部
215c 突起部
215d 切欠部
216 リターンスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸の回転に連動して動作する吸気弁または排気弁の少なくとも一方の弁を停止させることが可能な弁停止機構を備えたエンジンを制御するエンジン制御装置であって、
前記弁停止機構には、当該弁停止機構が前記エンジンの回転と連動して動作する状態にするための連動機構が設けられ、前記連動機構の動作が完了すると前記エンジンの回転に連動して前記弁が停止状態に移行するように構成されており、
前記弁の停止要求を受けて前記弁の停止を行うと判断した場合に、当該判断を行った際の前記エンジンのサイクルである第1のサイクル以降のサイクルである第2のサイクルにおける固定のクランク角を、前記連動機構の動作を完了させる目標タイミングとして、前記連動機構を動作させるアクチュエータに対して通電指示を行う弁停止制御手段と、
前記エンジンの回転数に基づき、前記弁停止制御手段の前記アクチュエータに対する通電指示のタイミングである通電タイミングを早められると判断した場合に、前記目標タイミングを第2のサイクル以前のサイクルにおけるクランク角に変更する通電タイミング補正手段と
を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記通電タイミング補正手段は、
前記エンジンの回転数と、前記弁停止制御手段が前記弁の停止を行うと判断したときのクランク角とに基づき、前記通電タイミングを早められるか否かを判断することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記弁停止制御手段は、
フューエルカットを行う場合に前記弁の停止要求を受けることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記通電タイミング補正手段は、
前記通電タイミングを早められると判断した場合に、前記クランク軸の回転から検知したクランク角に対して前記エンジンの1サイクルを示すクランク角周期単位分を加算した値と、前記アクチュエータの動作時間および前記エンジンの回転数に基づいて算出した前記通電タイミングの目標値とを比較することによって前記通電タイミングを決定することを特徴とする請求項1、2または3に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記通電タイミング補正手段は、
前記通電タイミングを早められると判断した場合に、前記アクチュエータの動作時間および前記エンジンの回転数に基づいて算出した前記通電タイミングの目標値から前記エンジンの1サイクルを示すクランク角周期単位分のクランク角を減算した値と、前記クランク軸の回転から検知したクランク角とを比較することによって前記通電タイミングを決定することを特徴とする請求項1、2または3に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記弁停止機構と、
請求項1〜5のいずれか一つに記載のエンジン制御装置と
を備えたことを特徴とするエンジン制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−24132(P2013−24132A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159593(P2011−159593)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】