エンジン制御装置
【課題】1型式のエンジン70に対するECU11の汎用性を向上させたエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】本願発明のエンジン制御装置は、エンジン70と、前記エンジン70に燃料を噴射する燃料噴射装置117と、前記エンジン70の駆動状態を検出する検出手段14,16と、前記検出手段14,16の検出情報と前記エンジン70固有の出力特性データM1とに基づいて前記燃料噴射装置117の作動を制御するECU11とを備える。前記ECU11には、前記燃料噴射装置117の作動を修正するための修正特性データM2を有するデータ提供手段21を接続する。前記ECU11は、前記検出手段14,16の検出情報、前記出力特性データM1及び前記修正特性データM2に基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置117を作動させるように構成する。
【解決手段】本願発明のエンジン制御装置は、エンジン70と、前記エンジン70に燃料を噴射する燃料噴射装置117と、前記エンジン70の駆動状態を検出する検出手段14,16と、前記検出手段14,16の検出情報と前記エンジン70固有の出力特性データM1とに基づいて前記燃料噴射装置117の作動を制御するECU11とを備える。前記ECU11には、前記燃料噴射装置117の作動を修正するための修正特性データM2を有するデータ提供手段21を接続する。前記ECU11は、前記検出手段14,16の検出情報、前記出力特性データM1及び前記修正特性データM2に基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置117を作動させるように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えばトラクタのような車両に搭載されるエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のエンジンにおいては、コモンレール式燃料噴射装置を利用して、各気筒に対するインジェクタに高圧燃料を供給し、各インジェクタからの燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)を電子制御することによって、エンジンから排出される窒素酸化物(NOx)の低減や、エンジンの騒音振動の低減を図るという技術が知られている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−9033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のエンジンを搭載したトラクタ等の車両では、ECUが例えばマップ形式や関数表形式等の出力特性データ、回転速度及びトルクに基づいてコモンレール式燃料噴射装置の作動を制御することにより、変速レバー等の操作量に応じた燃料噴射量にてエンジン出力を調節している。出力特性データとは、エンジンが搭載される車両に対応したものであり、通常、ECUに1種類又は限られた種類だけ記憶させている。このため、前記従来の構成では、エンジンの型式が同じであっても、例えばトラクタ用エンジンのECUを、バックホウ用エンジンのECUとして適用し難い(すなわち、ECUの汎用性が低い)という問題があった。なお、かかる問題は、コモンレール式の燃料噴射装置だけでなく、電子ガバナ式の場合も存在していた。
【0005】
そこで、本願発明は、上記の問題点を解消したエンジン制御装置を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、エンジンと、前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンの駆動状態を検出する検出手段と、前記検出手段の検出情報と前記エンジン固有の出力特性データとに基づいて前記燃料噴射装置の作動を制御するECUとを備えているエンジン制御装置であって、前記ECUには、前記燃料噴射装置の作動を修正するための修正特性データを有するデータ提供手段が接続されており、前記ECUは、前記検出手段の検出情報、前記出力特性データ及び前記修正特性データに基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置を作動させるように構成されているというものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記各特性データは、前記エンジンにおける回転速度とトルクとの関係を示すデータであり、前記修正特性データは、前記出力特性データと比較して、所定回転速度に対するトルクを制限するように設定されているというものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記修正特性データは、前記エンジンにおける回転速度の制限値であるというものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちいずれかに記載したエンジン制御装置において、前記データ提供手段は、前記エンジンの前記ECUとは別のデータ用ECU、メモリといった外部記憶手段、又は、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路にて構成されているというものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、エンジンと、前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンの駆動状態を検出する検出手段と、前記検出手段の検出情報と前記エンジン固有の出力特性データとに基づいて前記燃料噴射装置の作動を制御するECUとを備えているエンジン制御装置であって、前記ECUには、前記燃料噴射装置の作動を修正するための修正特性データを有するデータ提供手段が接続されており、前記ECUは、前記検出手段の検出情報、前記出力特性データ及び前記修正特性データに基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置を作動させるように構成されているから、エンジン製造メーカにとっては、前記エンジンの型式が同じであれば、前記ECUに記憶される出力特性データをいずれも同一(共通)のものにできる。また、前記エンジンを作業車両に搭載するエンジン購入メーカにとっては、自社の仕様に適合した前記修正特性データを、前記データ提供手段を用いて前記ECUに簡単に後付けできる。つまり、前記ECUの汎用性向上というエンジン製造メーカの利点と、前記ECUの作業車両に対する適合性確保というエンジン購入メーカの利点とを両立できるという効果を奏する。
【0011】
請求項2の発明によると、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記各特性データは、前記エンジンにおける回転速度とトルクとの関係を示すデータであり、前記修正特性データは、前記出力特性データと比較して、所定回転速度に対するトルクを制限するように設定されているから、前記修正特性データを用いる燃料噴射制御では、前記出力特性データを用いる燃料噴射制御よりも燃料噴射が抑制されることになる。従って、前記データ提供手段によって、前記エンジンが搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機毎に、最適な燃料噴射制御を選択できるものでありながら、1型式のエンジンに対しては、1種類のECUにて排気ガス規制に対処して環境汚染に配慮できるという効果を奏する。
【0012】
請求項3の発明によると、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記修正特性データは、前記エンジンにおける回転速度の制限値であるから、エンジン購入メーカにとっては、前記修正特性データを前記回転数制限値にするだけで、自社の仕様に適合する燃料噴射制御を実行できることになり、手間のかかるソフトウェア設計(修正特性データ設計)等の負担を軽減できるという効果を奏する。
【0013】
請求項4の発明によると、請求項1〜3のうちいずれかに記載したエンジン制御装置において、前記データ提供手段は、前記エンジンの前記ECUとは別のデータ用ECU、メモリといった外部記憶手段、又は、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路にて構成されているから、前記データ提供手段のバリエーションが多く、エンジン購入メーカ側が前記データ提供手段を設計するに当たり、規格制限等の設計上の負担を少なくできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明を要約した概念説明図である。
【図2】エンジン出荷前後のECUの状態を示す概念説明図である。
【図3】ディーゼルエンジンの燃料系統説明図である。
【図4】出力特性マップの説明図である。
【図5】修正特性マップの説明図である。
【図6】燃料噴射制御のフローチャートである。
【図7】第1別例の修正特性マップの説明図である。
【図8】第2別例における回転速度とトルクとの関係を示す説明図である。
【図9】第2別例の燃料噴射制御のフローチャートである。
【図10】第3別例における回転速度とトルクとの関係を示す説明図である。
【図11】第3別例の燃料噴射制御のフローチャートである。
【図12】ディーゼルエンジンの外観斜視図である。
【図13】トラクタの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を、車両としてのトラクタに搭載されるディーゼルエンジンに適用した場合の図面に基づいて説明する。
【0016】
(1).コモンレールシステム及びディーゼルエンジンの燃料系統構造
まず、図3及び図12を参照しながら、コモンレールシステム117(コモンレール式燃料噴射装置)及びディーゼルエンジン70の燃料系統構造について説明する。図3及び図12に示すように、ディーゼルエンジン70に設けられた4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレールシステム117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118が接続されている。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレールシステム117は円筒状のコモンレール120を備えている。
【0017】
図3及び図12に示すように、燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続される。燃料タンク118内の燃料が燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料供給ポンプ116に吸い込まれる。実施形態の燃料供給ポンプ116は吸気マニホールド73の近傍に配置されている。具体的には、シリンダブロック75の右側面側(吸気マニホールド73設置側)で且つ吸気マニホールド73の下方に設けられている。一方、燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続される。また、コモンレール120には、4本の燃料噴射管126を介して4気筒分の各インジェクタ115がそれぞれ接続されている。
【0018】
上記の構成により、燃料タンク118の燃料が燃料供給ポンプ116によってコモンレール120に圧送され、高圧の燃料がコモンレール120に蓄えられる。各燃料噴射バルブ119がそれぞれ開閉制御されることによって、コモンレール120内の高圧の燃料が各インジェクタ115からディーゼルエンジン70の各気筒に噴射される。すなわち、各燃料噴射バルブ119を電子制御することによって、各インジェクタ115から供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。従って、ディーゼルエンジン70からの窒素酸化物(NOx)を低減できると共に、ディーゼルエンジン70の騒音振動を低減できる。
【0019】
なお、図3及び図12に示すように、燃料タンク118には、燃料戻り管129を介して燃料供給ポンプ116が接続されている。円筒状のコモンレール120の長手方向の端部に、コモンレール120内の燃料の圧力を制限する戻り管コネクタ130を介して、コモンレール戻り管131が接続されている。すなわち、燃料供給ポンプ116の余剰燃料とコモンレール120の余剰燃料とが、燃料戻り管129及びコモンレール戻り管131を介して、燃料タンク118に回収されることになる。
【0020】
(2).コモンレールの燃料噴射制御
次に、図1〜図5を参照しながら、コモンレール120の燃料噴射制御について説明する。図3に示す如く、ディーゼルエンジン70における各気筒の燃料噴射バルブ119を作動させるECU11を備えている。詳細は図示しないが、ECU11は、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるEEPROM、フラッシュメモリ、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるRAM、CANコントローラ及び入出力インターフェイス等を備えており、ディーゼルエンジン70又はその近傍に配置されている。
【0021】
ECU11の入力側には、少なくともコモンレール120内の燃料圧力を検出するレール圧センサ12と、燃料ポンプ116を回転又は停止させる電磁クラッチ13と、ディーゼルエンジン70の回転速度(クランク軸74のカムシャフト位置)を検出するエンジン速度センサ14と、インジェクタ115の燃料噴射回数(1行程の燃料噴射期間中の燃料噴射回数)を検出及び設定する噴射設定器15と、スロットルレバー又はアクセルペダル等のアクセル操作具(図示省略)の操作位置を検出するスロットル位置センサ16と、ターボ過給機100の圧力を検出するターボ昇圧センサ17と、吸気マニホールド73の吸気温度を検出する吸気温度センサ18と、ディーゼルエンジン70の冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ19とが接続されている。これらセンサ類12〜19がディーゼルエンジン70の駆動状態を検出する検出手段を構成している。
【0022】
また、ECU11の出力側には、少なくとも4気筒分の各燃料噴射バルブ119の電磁ソレノイドがそれぞれ接続されている。すなわち、コモンレール120に蓄えた高圧燃料が燃料噴射圧力、噴射時期及び噴射期間等を制御しながら、1行程中に複数回に分けて燃料噴射バルブ119から噴射されることによって、窒素酸化物(NOx)の発生を抑えると共に、すすや二酸化炭素等の発生も低減した完全燃焼を実行し、燃費を向上させるように構成されている。
【0023】
ECU11に設けられた記憶手段(フラッシュメモリやEEPROM)には、ディーゼルエンジン70の回転速度NとトルクT(負荷)との関係を示す出力特性データとしての出力特性マップM1(図4参照)が予め記憶されている。この種の出力特性マップM1は実験等にて求められる。なお、出力特性データとしては、実施形態のようなマップ形式に限らず、例えば関数表やセットデータ(データテーブル)等でも差し支えない。図4に示す出力特性マップM1では、回転速度Nを横軸に、トルクTを縦軸に採っている。出力特性マップM1において、上向き凸湾曲状に描かれた実線Tmx1が各回転速度Nに対する最大トルクを表した最大トルク線である。この場合、ディーゼルエンジン70の型式が同じであれば、ECU11に記憶される出力特性マップM1はいずれも同一(共通)のものになる。
【0024】
ECU11は基本的に、エンジン速度センサ14にて検出される回転速度Nとスロットル位置センサ16にて検出されるスロットル位置とからトルクTを求め、トルクTと出力特性マップM1とを用いて目標燃料噴射量Rを演算し、当該演算結果に基づいてコモンレールシステム117を作動させるという燃料噴射制御を実行するように構成されている。ここで、燃料噴射量は、各燃料噴射バルブ119の開弁期間を調節して、各インジェクタ115への噴射期間を変更することによって調節される。
【0025】
図2及び図3に示すように、ECU11には、データ提供手段としてのデータ用ECU21がCAN通信バス22を介して電気的に接続されている。データ用ECU21は、ECU11と同様に、CPU、EEPROM、フラッシュメモリ、RAM、CANコントローラ及び入出力インターフェイス等を備えており、ディーゼルエンジン70が搭載される作業車両の任意の箇所に配置できる。もちろん、ECU11と共に、ディーゼルエンジン70又はその近傍に配置してもよい。CAN通信バス22は、CAN(コントローラ・エリア・ネットワーク)プロトコルによるデータ通信のための通信ラインである。この点からも明らかなように、ECU11とデータ用ECU21とには、CAN通信環境が適用されている。CAN通信プロトコルによるデータ通信はLAN通信環境を発展させたものであり、CAN通信プロトコルは、共通のリターン(サブルーチンや割込ルーチンに移ったプログラムをメインルーチンに戻す命令)を有する差動の2ワイヤバスラインを用いる分散リアルタイム制御及び多重化を保つシリアル通信プロトコルである。
【0026】
データ用ECU21の記憶手段(フラッシュメモリやEEPROM)には、コモンレールシステム117の作動を修正するための修正特性データとしての修正特性マップM2(図5参照)が予め記憶されている。修正特性マップM2は、ECU11の出力特性マップM1と同様に、ディーゼルエンジン70の回転速度NとトルクT(負荷)との関係を示すものである。図5に示す修正特性マップM2でも、回転速度Nを横軸に、トルクTを縦軸に採っている。修正特性マップM2において、上向き凸湾曲状に描かれた実線Tmx2が各回転速度Nに対する最大トルクを表した最大トルク線である。なお、修正特性データとしては、出力特性データと同様に、実施形態のようなマップ形式に限らず、例えば関数表やセットデータ(データテーブル)等でも差し支えない。
【0027】
修正特性マップM2(図5では実線で示す)においては、出力特性マップM1(図5では破線で示す)と比較して、所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように設定されている。すなわち、同一回転速度Nでの最大トルクは出力特性マップM1から求めた場合より修正特性マップM2から求めた方が小さくなるように(Tmx1≦Tmx2)、修正特性マップM2と出力特性マップM1との関係が設定されている(出力特性マップM1側の最大トルク線Tmx1の内側(下側)に修正特性マップM2側の最大トルク線Tmx2が位置するように設定されている)。
【0028】
データ用ECU21に記憶される修正特性マップM2は、ディーゼルエンジン70の型式が同じであっても、ディーゼルエンジン70が搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機(耕耘機やプラウ、バケット等)毎に各別に設定できる。かかる修正特性マップM2の設定の一例としては、例えば負荷変動が大きい作業に対してエンストを抑制するため、広範囲の回転速度域にわたって高トルクを得るようにした出力特性や、負荷変動が小さい作業に対して作業能率を高めるため、負荷変動による回転変動を小さくするようにした出力特性、クラッチの接続作業に対して接続の衝撃を緩和するため、接続前に回転速度を低下させるようにした出力特性等が考えられる。なお、修正特性データを有するデータ提供手段は、ECU11と別体のものであれば、フラッシュメモリやハードディスク等の外部記憶手段であってもよいし、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路(例えば可変抵抗器を利用してアナログ信号をECU11に送信する類のもの)でも構わない。
【0029】
データ用ECU21が接続されたECU11は、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値と、出力特性マップM1と、修正特性マップM2とに基づきトルクTを演算して目標燃料噴射量Rを求め、当該演算結果に基づいて(所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように)コモンレールシステム117を作動させる(修正特性マップM2を参照する修正燃料噴射制御の実行を許容する)ように構成されている(図1及び図2参照)。ここで、例えば修正特性データとして例えば関数(数式)やセットデータを採用した場合は、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値と、出力特性データと、修正特性データとから、制限トルク値を求めて目標燃料噴射量Rを求め、当該演算結果に基づいて(所定回転速度Nに対するトルクTが制限されるように)コモンレールシステム117を作動させることになる。
【0030】
なお、修正特性マップM2を用いるか否かを設定する選択手段を備えることも可能である。選択手段としては、ECU11に設けられたジャンパピンや、作業車両のキャビン内に設けられた選択スイッチにて選択する構成が考えられる。実施形態では、ECU11にデータ用ECU21を接続していれば、両特性マップM1,M2を用いてトルク制限された目標燃料噴射量Rを演算し、ECU11にデータ用ECU21を接続していなければ、出力特性マップM1を用いて目標燃料噴射量Rを演算するように構成されている。すなわち、ECU11に対するデータ用ECU21の接続の有無が選択手段として機能している。
【0031】
(3).燃料噴射制御の説明
次に、図6のフローチャートを参照しながら、燃料噴射制御の一例を説明する。前述の通り、実施形態のECU11は、データ用ECU21が接続されているために、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値と、出力特性マップM1と、修正特性マップM2とに基づきトルクTを演算して目標燃料噴射量Rを求め、当該演算結果に基づいて(所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように)コモンレールシステム117を作動させる。この場合、図6のフローチャートに示すように、ECU11は、データ用ECU21の接続の有無を判別する(ステップS1)。データ用ECU21が接続されていなければ(S1:NO)、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定タイミング(適宜時間毎)にて読み込み(ステップS2)、次いで、ECU11が、自身の有する出力特性マップM1を参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて目標燃料噴射量Rを演算する(ステップS3)。そして、目標燃料噴射量Rに基づいてコモンレールシステム117を作動させる(ステップS4)。その後、電源印加用のキースイッチ(図示省略)が入り状態であればステップS2に戻って、出力特性マップM1を用いた燃料噴射制御を続行する。
【0032】
データ用ECU21が接続されていれば(S1:YES)、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定タイミング(適宜時間毎)にて読み込み(ステップS5)、次いで、ECU11が、出力特性マップM1とデータ用ECU21内の修正特性マップM2とを参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて、(トルク制限された)目標燃料噴射量Rを演算する(ステップS6)。そして、トルク制限された目標燃料噴射量Rに基づいてコモンレールシステム117を作動させる(ステップS7)。その後、電源印加用のキースイッチ(図示省略)が入り状態であればステップS5に戻って、修正特性マップM2をも参照する修正燃料噴射制御を続行するのである。
【0033】
上記の記載並びに図1〜図6から明らかなように、エンジン70と、前記エンジン70に燃料を噴射する燃料噴射装置117と、前記エンジン70の駆動状態を検出する検出手段14,16と、前記検出手段14,16の検出情報と前記エンジン70固有の出力特性データM1とに基づいて前記燃料噴射装置117の作動を制御するECU11とを備えているエンジン制御装置であって、前記ECU11には、前記燃料噴射装置117の作動を修正するための修正特性データM2を有するデータ提供手段21が接続されており、前記ECU11は、前記検出手段14,16の検出情報、前記出力特性データM1及び前記修正特性データM2に基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置117を作動させるように構成されているから、エンジン製造メーカにとっては、前記エンジン70の型式が同じであれば、前記ECU11に記憶される出力特性データM1をいずれも同一(共通)のものにできる。また、前記エンジン70を作業車両に搭載するエンジン購入メーカにとっては、自社の仕様に適合した前記修正特性データM2を、前記データ提供手段21を用いて前記ECU11に簡単に後付けできる。つまり、前記ECU11の汎用性向上というエンジン製造メーカの利点と、前記ECU11の作業車両に対する適合性確保というエンジン購入メーカの利点とを両立できるという効果を奏する。
【0034】
上記の記載並びに図5から明らかなように、前記各特性データM1,M2は、前記エンジン70における回転速度NとトルクTとの関係を示すデータであり、前記修正特性データM2は、前記出力特性データM1と比較して、所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように設定されているから、前記修正特性データM2を用いる燃料噴射制御では、前記出力特性データM1を用いる燃料噴射制御よりも燃料噴射が抑制されることになる。従って、前記データ提供手段21によって、前記エンジン70が搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機毎に、最適な燃料噴射制御を選択できるものでありながら、1型式のエンジン70に対しては、1種類のECU11にて排気ガス規制に対処して環境汚染に配慮できるという効果を奏する。
【0035】
上記の記載から明らかなように、前記データ提供手段は、前記エンジン70の前記ECU11とは別のデータ用ECU21、メモリといった外部記憶手段、又は、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路にて構成されるから、前記データ提供手段のバリエーションが多く、エンジン購入メーカ側が前記データ提供手段を設計するに当たり、規格制限等の設計上の負担を少なくできるという効果を奏する。
【0036】
ところで、修正特性マップ(修正特性データ)は、図5に示すように1種類に限るものではなく、図7に示すように、ディーゼルエンジン70が搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機(耕耘機やプラウ、バケット等)毎に対応して複数種類記憶させていてもよい。このような第1の別例の場合、各修正特性マップM2,M3の選択は、ECU11に設けられたジャンパピンや、作業車両のキャビン内に設けられた選択スイッチにて行ってもよいし、作業車両に作業機を装着することによって、当該作業機に対応する修正特性マップM2,M3が選択されるように構成してもよい。また、作業車両に設けられた本機ECU(別ECU)からの制御信号にて、各特性マップM2,M3を選択する構成でもよい。
【0037】
また、修正特性データは、前述したマップ形式M2,M3や関数表等に限らないことは言うまでもないが、例えば前述の修正特性マップM2,M3の代わりに、データ用ECU21に記憶させたトルク制限率Drを修正特性データとして採用することも可能である(図8及び図9参照)。このような第2の別例の場合、図9に示す制御フローは基本的に図6の場合と同様であるが、目標燃料噴射量Rを演算するに当たって、ECU11がデータ用ECU21内のトルク制限率Drを参照して、回転速度N及びスロットル位置と、出力特性マップM1と、トルク制限率Drとに基づく演算を実行することになる。
【0038】
更に、データ用ECU21に記憶させた回転速度制限値Ltを修正特性データとして採用することも可能である(図10及び図11参照)。このような第3の別例の場合は、目標燃料噴射量Rを演算するに当たって、ECU11がデータ用ECU21内の回転速度制限値Ltを参照して、回転速度N及びスロットル位置と、出力特性マップM1と、回転速度制限値Ltとに基づく演算を実行することになる。従って、エンジン購入メーカにとっては、前記修正特性データを前記回転数制限値Ltにするだけで、自社の仕様に適合する燃料噴射制御を実行できることになり、手間のかかるソフトウェア設計(修正特性データ設計)等の負担を軽減できる。図10においては、実線Tmx4が回転速度設定値Ltを設定した場合の最大トルク線(ドループ特性)を示している。なお、この場合、回転速度制限値Ltだけでなく、ドループ特性を変更する制御信号も併せてECU11に送ることによって、図10に示すドループ特性Tmx5〜Tmx7のように変化させることも可能である。つまり、回転速度制限値Ltを基にしたドループ特性のバリエーションを簡単に設定でき、種々の燃料噴射制御の設定に対処し易いのである。
【0039】
(4).ディーゼルエンジンの全体構造
次に、図12を参照して、ディーゼルエンジン70の全体構造について説明する。実施形態のディーゼルエンジン70は4気筒型のものであり、ディーゼルエンジン70におけるシリンダヘッド72の左側面に排気マニホールド(図示省略)が配置されている。シリンダヘッド72の右側面には吸気マニホールド73が配置されている。シリンダヘッド72は、クランク軸及びピストン(図示省略)が内蔵されたシリンダブロック75上に搭載されている。シリンダブロック75の前後両側面からクランク軸の前後先端部をそれぞれ突出させている。シリンダブロック75の前面側に冷却ファン76が設けられている。クランク軸74の前端側からVベルト77を介して冷却ファン76に回転力を伝達するように構成されている。
【0040】
シリンダブロック75の後面にフライホイールハウジング78が固着されている。フライホイールハウジング78内にフライホイール(図示省略)が配置されている。フライホイールはクランク軸の後端側に軸支されていて、クランク軸と一体的に回転するように構成されている。作業車両の駆動部に、フライホイールを介してディーゼルエンジン70の動力を取り出すように構成されている。シリンダブロック75の下面にはオイルパン81が配置されている。シリンダブロック75の左右側面とフライホイールハウジング78の左右側面とには、機関脚取付部82がそれぞれ設けられている。各機関脚取付部82には、防振ゴムを有する機関脚体(図示省略)がボルト締結される。ディーゼルエンジン70は、各機関脚体を介して、トラクタ201のエンジン支持シャーシ84に防振支持される。
【0041】
吸気マニホールド73の入口側には、EGR装置91(排気ガス再循環装置)を構成するコレクタ92を介して、エアクリーナ(図示省略)が連結される。エアクリーナ88にて除塵・浄化された外気は、EGR装置91のコレクタ92を介して、吸気マニホールド73に送られ、そして、ディーゼルエンジン70の各気筒に供給される。EGR装置91は、ディーゼルエンジン70の再循環排気ガス(排気マニホールド71からのEGRガス)と新気(エアクリーナからの外部空気)とを混合させて吸気マニホールド73に供給するコレクタ(EGR本体ケース)92と、排気マニホールド71にEGRクーラ94を介して接続する再循環排気ガス管95と、再循環排気ガス管95にコレクタ92を連通させるEGRバルブ96とを備えている。
【0042】
上記の構成により、エアクリーナからコレクタ92内に外部空気を供給する一方、排気マニホールド71からEGRバルブ96を介してコレクタ92内にEGRガス(排気マニホールド71から排出される排気ガスの一部)を供給する。エアクリーナからの外部空気と、排気マニホールド71からのEGRガスとが、コレクタ92内で混合された後、コレクタ92内の混合ガスが吸気マニホールド73に供給される。すなわち、ディーゼルエンジン70から排気マニホールド71に排出された排気ガスの一部が、吸気マニホールド73からディーゼルエンジン70に還流されることによって、高負荷運転時の最高燃焼温度が下がり、ディーゼルエンジン70からのNOx(窒素酸化物)の排出量が低減される。
【0043】
シリンダヘッド72の左側面には、ターボ過給機100が取り付けられている。ターボ過給機100は、タービンホイール(図示省略)を内蔵したタービンケース101と、ブロアホイール(図示省略)を内蔵したコンプレッサケース102とを備えている。タービンケース101の排気ガス取入れ管105に排気マニホールドが接続される。図示は省略するが、タービンケース101の排気ガス排出管103には、マフラー又はディーゼルパティキュレートフィルタ等を介してテールパイプが接続される。すなわち、ディーゼルエンジン70の各気筒から排気マニホールド71に排出された排気ガスは、ターボ過給機100等を経由して、テールパイプから外部に放出される。
【0044】
一方、コンプレッサケース102の給気取入れ側には、給気管104を介してエアクリーナの給気排出側が接続される。コンプレッサケース102の給気排出側には、過給管108を介して吸気マニホールド73が接続される。すなわち、エアクリーナによって除塵された外気は、コンプレッサケース102から過給管108を介してディーゼルエンジン70の各気筒に供給される。
【0045】
ディーゼルエンジン70に設けられた4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレールシステム117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118(図3参照)が接続される。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレールシステム117は円筒状のコモンレール120を備えている。燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続される。燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続される。
【0046】
(5).トラクタの概略
次に、図13を参照しながら、ディーゼルエンジン70が搭載される作業車両としてのトラクタ201の概略について説明する。トラクタ201は、走行機体202を左右一対の前車輪203と同じく左右一対の後車輪204とで支持し、走行機体202の前部に搭載されたディーゼルエンジン70にて後車輪204及び前車輪203を駆動することにより、前後進走行するように構成される。
【0047】
走行機体202の前部に搭載されたディーゼルエンジン70はボンネット206にて覆われている。走行機体202の上面にはキャビン207が設置され、キャビン207の内部には、オペレータが着座する操縦座席208と、操縦座席208の前方に位置する操向手段としての丸ハンドル形状の操縦ハンドル209が設けられている。操縦座席208に着座したオペレータが操縦ハンドル209を回動操作することにより、その操作量に応じて左右前車輪203のかじ取り角(操向角度)が変わるように構成されている。キャビン207の底部には、オペレータが搭乗するためのステップ210が設けられている。キャビン207のフロントコラム内にECU11が配置されている。
【0048】
走行機体202は、前バンパ212及び前車軸ケース213を有するエンジンフレーム214と、エンジンフレーム214の後部にボルトの締結にて着脱可能に連結する左右の機体フレーム216とにより構成される。前車輪203は、エンジンフレーム214の外側面から外向きに突出するように装着された前車軸ケース213を介して取り付けられている。また、機体フレーム216の後部には、ディーゼルエンジン70からの出力を適宜変速して後車輪204(前車輪203)に伝達するためのミッションケース217が連結されている。後車輪204は、ミッションケース217に対して、当該ミッションケース217の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース(図示省略)を介して取り付けられている。
【0049】
ミッションケース217の後部上面には、耕耘機やプラウ等の作業機(図示省略)を昇降動するための油圧式の作業機用昇降機構220が着脱可能に取り付けられている。作業機は、ミッションケース217の後部にロワーリンク(図示省略)及びトップリンク222を介して昇降動可能に連結される。更に、ミッションケース217の後側面に、作業機を駆動するPTO軸223が設けられている。
【0050】
図示は省略するが、ディーゼルエンジン70の後面側からクランク軸及びフライホイール等を介して、ミッションケース217の前面側にディーゼルエンジン70の回転動力を伝達するように構成している。ディーゼルエンジン70の回転動力をミッションケース217に伝達し、次いで、ミッションケース217の油圧無段変速機や走行副変速ギヤ機構にてディーゼルエンジン70の回転動力を適宜変速して、差動ギヤ機構等を介してミッションケース217から後車輪204に駆動力を伝達するように構成している。また、走行副変速ギヤ機構にて適宜変速したディーゼルエンジン70の回転を、前車軸ケース213の差動ギヤ機構等を介してミッションケース217から前車輪203に伝達するように構成している。
【0051】
(6).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明はトラクタに搭載されるエンジンのエンジン制御装置に限らず、コンバインや田植機等の農作業機や、ホイルローダ等の特殊作業用車両に搭載されるエンジンのエンジン制御装置としても適用可能である。燃料噴射装置はコモンレール式のものに限らず、電子ガバナ式のものであってもよい。通信バスはCAN通信バスに限らず、LAN通信バスといった他の通信バスであってもよい。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
M1 出力特性マップ(出力特性データ)
M2,M3 修正特性マップ(修正特性データ)
N 回転速度
T トルク
11 ECU
14 エンジン速度センサ(検出手段)
16 スロットル位置センサ(検出手段)
21 データ用ECU(データ提供手段)
22 CAN通信バス
70 ディーゼルエンジン
115 インジェクタ
117 コモンレールシステム
120 コモンレール
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えばトラクタのような車両に搭載されるエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のエンジンにおいては、コモンレール式燃料噴射装置を利用して、各気筒に対するインジェクタに高圧燃料を供給し、各インジェクタからの燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)を電子制御することによって、エンジンから排出される窒素酸化物(NOx)の低減や、エンジンの騒音振動の低減を図るという技術が知られている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−9033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のエンジンを搭載したトラクタ等の車両では、ECUが例えばマップ形式や関数表形式等の出力特性データ、回転速度及びトルクに基づいてコモンレール式燃料噴射装置の作動を制御することにより、変速レバー等の操作量に応じた燃料噴射量にてエンジン出力を調節している。出力特性データとは、エンジンが搭載される車両に対応したものであり、通常、ECUに1種類又は限られた種類だけ記憶させている。このため、前記従来の構成では、エンジンの型式が同じであっても、例えばトラクタ用エンジンのECUを、バックホウ用エンジンのECUとして適用し難い(すなわち、ECUの汎用性が低い)という問題があった。なお、かかる問題は、コモンレール式の燃料噴射装置だけでなく、電子ガバナ式の場合も存在していた。
【0005】
そこで、本願発明は、上記の問題点を解消したエンジン制御装置を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、エンジンと、前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンの駆動状態を検出する検出手段と、前記検出手段の検出情報と前記エンジン固有の出力特性データとに基づいて前記燃料噴射装置の作動を制御するECUとを備えているエンジン制御装置であって、前記ECUには、前記燃料噴射装置の作動を修正するための修正特性データを有するデータ提供手段が接続されており、前記ECUは、前記検出手段の検出情報、前記出力特性データ及び前記修正特性データに基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置を作動させるように構成されているというものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記各特性データは、前記エンジンにおける回転速度とトルクとの関係を示すデータであり、前記修正特性データは、前記出力特性データと比較して、所定回転速度に対するトルクを制限するように設定されているというものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記修正特性データは、前記エンジンにおける回転速度の制限値であるというものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちいずれかに記載したエンジン制御装置において、前記データ提供手段は、前記エンジンの前記ECUとは別のデータ用ECU、メモリといった外部記憶手段、又は、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路にて構成されているというものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、エンジンと、前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンの駆動状態を検出する検出手段と、前記検出手段の検出情報と前記エンジン固有の出力特性データとに基づいて前記燃料噴射装置の作動を制御するECUとを備えているエンジン制御装置であって、前記ECUには、前記燃料噴射装置の作動を修正するための修正特性データを有するデータ提供手段が接続されており、前記ECUは、前記検出手段の検出情報、前記出力特性データ及び前記修正特性データに基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置を作動させるように構成されているから、エンジン製造メーカにとっては、前記エンジンの型式が同じであれば、前記ECUに記憶される出力特性データをいずれも同一(共通)のものにできる。また、前記エンジンを作業車両に搭載するエンジン購入メーカにとっては、自社の仕様に適合した前記修正特性データを、前記データ提供手段を用いて前記ECUに簡単に後付けできる。つまり、前記ECUの汎用性向上というエンジン製造メーカの利点と、前記ECUの作業車両に対する適合性確保というエンジン購入メーカの利点とを両立できるという効果を奏する。
【0011】
請求項2の発明によると、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記各特性データは、前記エンジンにおける回転速度とトルクとの関係を示すデータであり、前記修正特性データは、前記出力特性データと比較して、所定回転速度に対するトルクを制限するように設定されているから、前記修正特性データを用いる燃料噴射制御では、前記出力特性データを用いる燃料噴射制御よりも燃料噴射が抑制されることになる。従って、前記データ提供手段によって、前記エンジンが搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機毎に、最適な燃料噴射制御を選択できるものでありながら、1型式のエンジンに対しては、1種類のECUにて排気ガス規制に対処して環境汚染に配慮できるという効果を奏する。
【0012】
請求項3の発明によると、請求項1に記載したエンジン制御装置において、前記修正特性データは、前記エンジンにおける回転速度の制限値であるから、エンジン購入メーカにとっては、前記修正特性データを前記回転数制限値にするだけで、自社の仕様に適合する燃料噴射制御を実行できることになり、手間のかかるソフトウェア設計(修正特性データ設計)等の負担を軽減できるという効果を奏する。
【0013】
請求項4の発明によると、請求項1〜3のうちいずれかに記載したエンジン制御装置において、前記データ提供手段は、前記エンジンの前記ECUとは別のデータ用ECU、メモリといった外部記憶手段、又は、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路にて構成されているから、前記データ提供手段のバリエーションが多く、エンジン購入メーカ側が前記データ提供手段を設計するに当たり、規格制限等の設計上の負担を少なくできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明を要約した概念説明図である。
【図2】エンジン出荷前後のECUの状態を示す概念説明図である。
【図3】ディーゼルエンジンの燃料系統説明図である。
【図4】出力特性マップの説明図である。
【図5】修正特性マップの説明図である。
【図6】燃料噴射制御のフローチャートである。
【図7】第1別例の修正特性マップの説明図である。
【図8】第2別例における回転速度とトルクとの関係を示す説明図である。
【図9】第2別例の燃料噴射制御のフローチャートである。
【図10】第3別例における回転速度とトルクとの関係を示す説明図である。
【図11】第3別例の燃料噴射制御のフローチャートである。
【図12】ディーゼルエンジンの外観斜視図である。
【図13】トラクタの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を、車両としてのトラクタに搭載されるディーゼルエンジンに適用した場合の図面に基づいて説明する。
【0016】
(1).コモンレールシステム及びディーゼルエンジンの燃料系統構造
まず、図3及び図12を参照しながら、コモンレールシステム117(コモンレール式燃料噴射装置)及びディーゼルエンジン70の燃料系統構造について説明する。図3及び図12に示すように、ディーゼルエンジン70に設けられた4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレールシステム117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118が接続されている。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレールシステム117は円筒状のコモンレール120を備えている。
【0017】
図3及び図12に示すように、燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続される。燃料タンク118内の燃料が燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料供給ポンプ116に吸い込まれる。実施形態の燃料供給ポンプ116は吸気マニホールド73の近傍に配置されている。具体的には、シリンダブロック75の右側面側(吸気マニホールド73設置側)で且つ吸気マニホールド73の下方に設けられている。一方、燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続される。また、コモンレール120には、4本の燃料噴射管126を介して4気筒分の各インジェクタ115がそれぞれ接続されている。
【0018】
上記の構成により、燃料タンク118の燃料が燃料供給ポンプ116によってコモンレール120に圧送され、高圧の燃料がコモンレール120に蓄えられる。各燃料噴射バルブ119がそれぞれ開閉制御されることによって、コモンレール120内の高圧の燃料が各インジェクタ115からディーゼルエンジン70の各気筒に噴射される。すなわち、各燃料噴射バルブ119を電子制御することによって、各インジェクタ115から供給される燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射期間(噴射量)が高精度にコントロールされる。従って、ディーゼルエンジン70からの窒素酸化物(NOx)を低減できると共に、ディーゼルエンジン70の騒音振動を低減できる。
【0019】
なお、図3及び図12に示すように、燃料タンク118には、燃料戻り管129を介して燃料供給ポンプ116が接続されている。円筒状のコモンレール120の長手方向の端部に、コモンレール120内の燃料の圧力を制限する戻り管コネクタ130を介して、コモンレール戻り管131が接続されている。すなわち、燃料供給ポンプ116の余剰燃料とコモンレール120の余剰燃料とが、燃料戻り管129及びコモンレール戻り管131を介して、燃料タンク118に回収されることになる。
【0020】
(2).コモンレールの燃料噴射制御
次に、図1〜図5を参照しながら、コモンレール120の燃料噴射制御について説明する。図3に示す如く、ディーゼルエンジン70における各気筒の燃料噴射バルブ119を作動させるECU11を備えている。詳細は図示しないが、ECU11は、各種演算処理や制御を実行するCPUの他、制御プログラムやデータを記憶させるEEPROM、フラッシュメモリ、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるRAM、CANコントローラ及び入出力インターフェイス等を備えており、ディーゼルエンジン70又はその近傍に配置されている。
【0021】
ECU11の入力側には、少なくともコモンレール120内の燃料圧力を検出するレール圧センサ12と、燃料ポンプ116を回転又は停止させる電磁クラッチ13と、ディーゼルエンジン70の回転速度(クランク軸74のカムシャフト位置)を検出するエンジン速度センサ14と、インジェクタ115の燃料噴射回数(1行程の燃料噴射期間中の燃料噴射回数)を検出及び設定する噴射設定器15と、スロットルレバー又はアクセルペダル等のアクセル操作具(図示省略)の操作位置を検出するスロットル位置センサ16と、ターボ過給機100の圧力を検出するターボ昇圧センサ17と、吸気マニホールド73の吸気温度を検出する吸気温度センサ18と、ディーゼルエンジン70の冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ19とが接続されている。これらセンサ類12〜19がディーゼルエンジン70の駆動状態を検出する検出手段を構成している。
【0022】
また、ECU11の出力側には、少なくとも4気筒分の各燃料噴射バルブ119の電磁ソレノイドがそれぞれ接続されている。すなわち、コモンレール120に蓄えた高圧燃料が燃料噴射圧力、噴射時期及び噴射期間等を制御しながら、1行程中に複数回に分けて燃料噴射バルブ119から噴射されることによって、窒素酸化物(NOx)の発生を抑えると共に、すすや二酸化炭素等の発生も低減した完全燃焼を実行し、燃費を向上させるように構成されている。
【0023】
ECU11に設けられた記憶手段(フラッシュメモリやEEPROM)には、ディーゼルエンジン70の回転速度NとトルクT(負荷)との関係を示す出力特性データとしての出力特性マップM1(図4参照)が予め記憶されている。この種の出力特性マップM1は実験等にて求められる。なお、出力特性データとしては、実施形態のようなマップ形式に限らず、例えば関数表やセットデータ(データテーブル)等でも差し支えない。図4に示す出力特性マップM1では、回転速度Nを横軸に、トルクTを縦軸に採っている。出力特性マップM1において、上向き凸湾曲状に描かれた実線Tmx1が各回転速度Nに対する最大トルクを表した最大トルク線である。この場合、ディーゼルエンジン70の型式が同じであれば、ECU11に記憶される出力特性マップM1はいずれも同一(共通)のものになる。
【0024】
ECU11は基本的に、エンジン速度センサ14にて検出される回転速度Nとスロットル位置センサ16にて検出されるスロットル位置とからトルクTを求め、トルクTと出力特性マップM1とを用いて目標燃料噴射量Rを演算し、当該演算結果に基づいてコモンレールシステム117を作動させるという燃料噴射制御を実行するように構成されている。ここで、燃料噴射量は、各燃料噴射バルブ119の開弁期間を調節して、各インジェクタ115への噴射期間を変更することによって調節される。
【0025】
図2及び図3に示すように、ECU11には、データ提供手段としてのデータ用ECU21がCAN通信バス22を介して電気的に接続されている。データ用ECU21は、ECU11と同様に、CPU、EEPROM、フラッシュメモリ、RAM、CANコントローラ及び入出力インターフェイス等を備えており、ディーゼルエンジン70が搭載される作業車両の任意の箇所に配置できる。もちろん、ECU11と共に、ディーゼルエンジン70又はその近傍に配置してもよい。CAN通信バス22は、CAN(コントローラ・エリア・ネットワーク)プロトコルによるデータ通信のための通信ラインである。この点からも明らかなように、ECU11とデータ用ECU21とには、CAN通信環境が適用されている。CAN通信プロトコルによるデータ通信はLAN通信環境を発展させたものであり、CAN通信プロトコルは、共通のリターン(サブルーチンや割込ルーチンに移ったプログラムをメインルーチンに戻す命令)を有する差動の2ワイヤバスラインを用いる分散リアルタイム制御及び多重化を保つシリアル通信プロトコルである。
【0026】
データ用ECU21の記憶手段(フラッシュメモリやEEPROM)には、コモンレールシステム117の作動を修正するための修正特性データとしての修正特性マップM2(図5参照)が予め記憶されている。修正特性マップM2は、ECU11の出力特性マップM1と同様に、ディーゼルエンジン70の回転速度NとトルクT(負荷)との関係を示すものである。図5に示す修正特性マップM2でも、回転速度Nを横軸に、トルクTを縦軸に採っている。修正特性マップM2において、上向き凸湾曲状に描かれた実線Tmx2が各回転速度Nに対する最大トルクを表した最大トルク線である。なお、修正特性データとしては、出力特性データと同様に、実施形態のようなマップ形式に限らず、例えば関数表やセットデータ(データテーブル)等でも差し支えない。
【0027】
修正特性マップM2(図5では実線で示す)においては、出力特性マップM1(図5では破線で示す)と比較して、所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように設定されている。すなわち、同一回転速度Nでの最大トルクは出力特性マップM1から求めた場合より修正特性マップM2から求めた方が小さくなるように(Tmx1≦Tmx2)、修正特性マップM2と出力特性マップM1との関係が設定されている(出力特性マップM1側の最大トルク線Tmx1の内側(下側)に修正特性マップM2側の最大トルク線Tmx2が位置するように設定されている)。
【0028】
データ用ECU21に記憶される修正特性マップM2は、ディーゼルエンジン70の型式が同じであっても、ディーゼルエンジン70が搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機(耕耘機やプラウ、バケット等)毎に各別に設定できる。かかる修正特性マップM2の設定の一例としては、例えば負荷変動が大きい作業に対してエンストを抑制するため、広範囲の回転速度域にわたって高トルクを得るようにした出力特性や、負荷変動が小さい作業に対して作業能率を高めるため、負荷変動による回転変動を小さくするようにした出力特性、クラッチの接続作業に対して接続の衝撃を緩和するため、接続前に回転速度を低下させるようにした出力特性等が考えられる。なお、修正特性データを有するデータ提供手段は、ECU11と別体のものであれば、フラッシュメモリやハードディスク等の外部記憶手段であってもよいし、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路(例えば可変抵抗器を利用してアナログ信号をECU11に送信する類のもの)でも構わない。
【0029】
データ用ECU21が接続されたECU11は、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値と、出力特性マップM1と、修正特性マップM2とに基づきトルクTを演算して目標燃料噴射量Rを求め、当該演算結果に基づいて(所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように)コモンレールシステム117を作動させる(修正特性マップM2を参照する修正燃料噴射制御の実行を許容する)ように構成されている(図1及び図2参照)。ここで、例えば修正特性データとして例えば関数(数式)やセットデータを採用した場合は、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値と、出力特性データと、修正特性データとから、制限トルク値を求めて目標燃料噴射量Rを求め、当該演算結果に基づいて(所定回転速度Nに対するトルクTが制限されるように)コモンレールシステム117を作動させることになる。
【0030】
なお、修正特性マップM2を用いるか否かを設定する選択手段を備えることも可能である。選択手段としては、ECU11に設けられたジャンパピンや、作業車両のキャビン内に設けられた選択スイッチにて選択する構成が考えられる。実施形態では、ECU11にデータ用ECU21を接続していれば、両特性マップM1,M2を用いてトルク制限された目標燃料噴射量Rを演算し、ECU11にデータ用ECU21を接続していなければ、出力特性マップM1を用いて目標燃料噴射量Rを演算するように構成されている。すなわち、ECU11に対するデータ用ECU21の接続の有無が選択手段として機能している。
【0031】
(3).燃料噴射制御の説明
次に、図6のフローチャートを参照しながら、燃料噴射制御の一例を説明する。前述の通り、実施形態のECU11は、データ用ECU21が接続されているために、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値と、出力特性マップM1と、修正特性マップM2とに基づきトルクTを演算して目標燃料噴射量Rを求め、当該演算結果に基づいて(所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように)コモンレールシステム117を作動させる。この場合、図6のフローチャートに示すように、ECU11は、データ用ECU21の接続の有無を判別する(ステップS1)。データ用ECU21が接続されていなければ(S1:NO)、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定タイミング(適宜時間毎)にて読み込み(ステップS2)、次いで、ECU11が、自身の有する出力特性マップM1を参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて目標燃料噴射量Rを演算する(ステップS3)。そして、目標燃料噴射量Rに基づいてコモンレールシステム117を作動させる(ステップS4)。その後、電源印加用のキースイッチ(図示省略)が入り状態であればステップS2に戻って、出力特性マップM1を用いた燃料噴射制御を続行する。
【0032】
データ用ECU21が接続されていれば(S1:YES)、エンジン速度センサ14及びスロットル位置センサ16の検出値を所定タイミング(適宜時間毎)にて読み込み(ステップS5)、次いで、ECU11が、出力特性マップM1とデータ用ECU21内の修正特性マップM2とを参照して、先ほど読み込まれた回転速度N及びスロットル位置からトルクTを求めて、(トルク制限された)目標燃料噴射量Rを演算する(ステップS6)。そして、トルク制限された目標燃料噴射量Rに基づいてコモンレールシステム117を作動させる(ステップS7)。その後、電源印加用のキースイッチ(図示省略)が入り状態であればステップS5に戻って、修正特性マップM2をも参照する修正燃料噴射制御を続行するのである。
【0033】
上記の記載並びに図1〜図6から明らかなように、エンジン70と、前記エンジン70に燃料を噴射する燃料噴射装置117と、前記エンジン70の駆動状態を検出する検出手段14,16と、前記検出手段14,16の検出情報と前記エンジン70固有の出力特性データM1とに基づいて前記燃料噴射装置117の作動を制御するECU11とを備えているエンジン制御装置であって、前記ECU11には、前記燃料噴射装置117の作動を修正するための修正特性データM2を有するデータ提供手段21が接続されており、前記ECU11は、前記検出手段14,16の検出情報、前記出力特性データM1及び前記修正特性データM2に基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置117を作動させるように構成されているから、エンジン製造メーカにとっては、前記エンジン70の型式が同じであれば、前記ECU11に記憶される出力特性データM1をいずれも同一(共通)のものにできる。また、前記エンジン70を作業車両に搭載するエンジン購入メーカにとっては、自社の仕様に適合した前記修正特性データM2を、前記データ提供手段21を用いて前記ECU11に簡単に後付けできる。つまり、前記ECU11の汎用性向上というエンジン製造メーカの利点と、前記ECU11の作業車両に対する適合性確保というエンジン購入メーカの利点とを両立できるという効果を奏する。
【0034】
上記の記載並びに図5から明らかなように、前記各特性データM1,M2は、前記エンジン70における回転速度NとトルクTとの関係を示すデータであり、前記修正特性データM2は、前記出力特性データM1と比較して、所定回転速度Nに対するトルクTを制限するように設定されているから、前記修正特性データM2を用いる燃料噴射制御では、前記出力特性データM1を用いる燃料噴射制御よりも燃料噴射が抑制されることになる。従って、前記データ提供手段21によって、前記エンジン70が搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機毎に、最適な燃料噴射制御を選択できるものでありながら、1型式のエンジン70に対しては、1種類のECU11にて排気ガス規制に対処して環境汚染に配慮できるという効果を奏する。
【0035】
上記の記載から明らかなように、前記データ提供手段は、前記エンジン70の前記ECU11とは別のデータ用ECU21、メモリといった外部記憶手段、又は、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路にて構成されるから、前記データ提供手段のバリエーションが多く、エンジン購入メーカ側が前記データ提供手段を設計するに当たり、規格制限等の設計上の負担を少なくできるという効果を奏する。
【0036】
ところで、修正特性マップ(修正特性データ)は、図5に示すように1種類に限るものではなく、図7に示すように、ディーゼルエンジン70が搭載される車種毎や、作業車両に装着される作業機(耕耘機やプラウ、バケット等)毎に対応して複数種類記憶させていてもよい。このような第1の別例の場合、各修正特性マップM2,M3の選択は、ECU11に設けられたジャンパピンや、作業車両のキャビン内に設けられた選択スイッチにて行ってもよいし、作業車両に作業機を装着することによって、当該作業機に対応する修正特性マップM2,M3が選択されるように構成してもよい。また、作業車両に設けられた本機ECU(別ECU)からの制御信号にて、各特性マップM2,M3を選択する構成でもよい。
【0037】
また、修正特性データは、前述したマップ形式M2,M3や関数表等に限らないことは言うまでもないが、例えば前述の修正特性マップM2,M3の代わりに、データ用ECU21に記憶させたトルク制限率Drを修正特性データとして採用することも可能である(図8及び図9参照)。このような第2の別例の場合、図9に示す制御フローは基本的に図6の場合と同様であるが、目標燃料噴射量Rを演算するに当たって、ECU11がデータ用ECU21内のトルク制限率Drを参照して、回転速度N及びスロットル位置と、出力特性マップM1と、トルク制限率Drとに基づく演算を実行することになる。
【0038】
更に、データ用ECU21に記憶させた回転速度制限値Ltを修正特性データとして採用することも可能である(図10及び図11参照)。このような第3の別例の場合は、目標燃料噴射量Rを演算するに当たって、ECU11がデータ用ECU21内の回転速度制限値Ltを参照して、回転速度N及びスロットル位置と、出力特性マップM1と、回転速度制限値Ltとに基づく演算を実行することになる。従って、エンジン購入メーカにとっては、前記修正特性データを前記回転数制限値Ltにするだけで、自社の仕様に適合する燃料噴射制御を実行できることになり、手間のかかるソフトウェア設計(修正特性データ設計)等の負担を軽減できる。図10においては、実線Tmx4が回転速度設定値Ltを設定した場合の最大トルク線(ドループ特性)を示している。なお、この場合、回転速度制限値Ltだけでなく、ドループ特性を変更する制御信号も併せてECU11に送ることによって、図10に示すドループ特性Tmx5〜Tmx7のように変化させることも可能である。つまり、回転速度制限値Ltを基にしたドループ特性のバリエーションを簡単に設定でき、種々の燃料噴射制御の設定に対処し易いのである。
【0039】
(4).ディーゼルエンジンの全体構造
次に、図12を参照して、ディーゼルエンジン70の全体構造について説明する。実施形態のディーゼルエンジン70は4気筒型のものであり、ディーゼルエンジン70におけるシリンダヘッド72の左側面に排気マニホールド(図示省略)が配置されている。シリンダヘッド72の右側面には吸気マニホールド73が配置されている。シリンダヘッド72は、クランク軸及びピストン(図示省略)が内蔵されたシリンダブロック75上に搭載されている。シリンダブロック75の前後両側面からクランク軸の前後先端部をそれぞれ突出させている。シリンダブロック75の前面側に冷却ファン76が設けられている。クランク軸74の前端側からVベルト77を介して冷却ファン76に回転力を伝達するように構成されている。
【0040】
シリンダブロック75の後面にフライホイールハウジング78が固着されている。フライホイールハウジング78内にフライホイール(図示省略)が配置されている。フライホイールはクランク軸の後端側に軸支されていて、クランク軸と一体的に回転するように構成されている。作業車両の駆動部に、フライホイールを介してディーゼルエンジン70の動力を取り出すように構成されている。シリンダブロック75の下面にはオイルパン81が配置されている。シリンダブロック75の左右側面とフライホイールハウジング78の左右側面とには、機関脚取付部82がそれぞれ設けられている。各機関脚取付部82には、防振ゴムを有する機関脚体(図示省略)がボルト締結される。ディーゼルエンジン70は、各機関脚体を介して、トラクタ201のエンジン支持シャーシ84に防振支持される。
【0041】
吸気マニホールド73の入口側には、EGR装置91(排気ガス再循環装置)を構成するコレクタ92を介して、エアクリーナ(図示省略)が連結される。エアクリーナ88にて除塵・浄化された外気は、EGR装置91のコレクタ92を介して、吸気マニホールド73に送られ、そして、ディーゼルエンジン70の各気筒に供給される。EGR装置91は、ディーゼルエンジン70の再循環排気ガス(排気マニホールド71からのEGRガス)と新気(エアクリーナからの外部空気)とを混合させて吸気マニホールド73に供給するコレクタ(EGR本体ケース)92と、排気マニホールド71にEGRクーラ94を介して接続する再循環排気ガス管95と、再循環排気ガス管95にコレクタ92を連通させるEGRバルブ96とを備えている。
【0042】
上記の構成により、エアクリーナからコレクタ92内に外部空気を供給する一方、排気マニホールド71からEGRバルブ96を介してコレクタ92内にEGRガス(排気マニホールド71から排出される排気ガスの一部)を供給する。エアクリーナからの外部空気と、排気マニホールド71からのEGRガスとが、コレクタ92内で混合された後、コレクタ92内の混合ガスが吸気マニホールド73に供給される。すなわち、ディーゼルエンジン70から排気マニホールド71に排出された排気ガスの一部が、吸気マニホールド73からディーゼルエンジン70に還流されることによって、高負荷運転時の最高燃焼温度が下がり、ディーゼルエンジン70からのNOx(窒素酸化物)の排出量が低減される。
【0043】
シリンダヘッド72の左側面には、ターボ過給機100が取り付けられている。ターボ過給機100は、タービンホイール(図示省略)を内蔵したタービンケース101と、ブロアホイール(図示省略)を内蔵したコンプレッサケース102とを備えている。タービンケース101の排気ガス取入れ管105に排気マニホールドが接続される。図示は省略するが、タービンケース101の排気ガス排出管103には、マフラー又はディーゼルパティキュレートフィルタ等を介してテールパイプが接続される。すなわち、ディーゼルエンジン70の各気筒から排気マニホールド71に排出された排気ガスは、ターボ過給機100等を経由して、テールパイプから外部に放出される。
【0044】
一方、コンプレッサケース102の給気取入れ側には、給気管104を介してエアクリーナの給気排出側が接続される。コンプレッサケース102の給気排出側には、過給管108を介して吸気マニホールド73が接続される。すなわち、エアクリーナによって除塵された外気は、コンプレッサケース102から過給管108を介してディーゼルエンジン70の各気筒に供給される。
【0045】
ディーゼルエンジン70に設けられた4気筒分の各インジェクタ115に、コモンレールシステム117及び燃料供給ポンプ116を介して、燃料タンク118(図3参照)が接続される。各インジェクタ115は電磁開閉制御型の燃料噴射バルブ119を備えている。コモンレールシステム117は円筒状のコモンレール120を備えている。燃料供給ポンプ116の吸入側には、燃料フィルタ121及び低圧管122を介して燃料タンク118が接続される。燃料供給ポンプ116の吐出側には、高圧管123を介してコモンレール120が接続される。
【0046】
(5).トラクタの概略
次に、図13を参照しながら、ディーゼルエンジン70が搭載される作業車両としてのトラクタ201の概略について説明する。トラクタ201は、走行機体202を左右一対の前車輪203と同じく左右一対の後車輪204とで支持し、走行機体202の前部に搭載されたディーゼルエンジン70にて後車輪204及び前車輪203を駆動することにより、前後進走行するように構成される。
【0047】
走行機体202の前部に搭載されたディーゼルエンジン70はボンネット206にて覆われている。走行機体202の上面にはキャビン207が設置され、キャビン207の内部には、オペレータが着座する操縦座席208と、操縦座席208の前方に位置する操向手段としての丸ハンドル形状の操縦ハンドル209が設けられている。操縦座席208に着座したオペレータが操縦ハンドル209を回動操作することにより、その操作量に応じて左右前車輪203のかじ取り角(操向角度)が変わるように構成されている。キャビン207の底部には、オペレータが搭乗するためのステップ210が設けられている。キャビン207のフロントコラム内にECU11が配置されている。
【0048】
走行機体202は、前バンパ212及び前車軸ケース213を有するエンジンフレーム214と、エンジンフレーム214の後部にボルトの締結にて着脱可能に連結する左右の機体フレーム216とにより構成される。前車輪203は、エンジンフレーム214の外側面から外向きに突出するように装着された前車軸ケース213を介して取り付けられている。また、機体フレーム216の後部には、ディーゼルエンジン70からの出力を適宜変速して後車輪204(前車輪203)に伝達するためのミッションケース217が連結されている。後車輪204は、ミッションケース217に対して、当該ミッションケース217の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース(図示省略)を介して取り付けられている。
【0049】
ミッションケース217の後部上面には、耕耘機やプラウ等の作業機(図示省略)を昇降動するための油圧式の作業機用昇降機構220が着脱可能に取り付けられている。作業機は、ミッションケース217の後部にロワーリンク(図示省略)及びトップリンク222を介して昇降動可能に連結される。更に、ミッションケース217の後側面に、作業機を駆動するPTO軸223が設けられている。
【0050】
図示は省略するが、ディーゼルエンジン70の後面側からクランク軸及びフライホイール等を介して、ミッションケース217の前面側にディーゼルエンジン70の回転動力を伝達するように構成している。ディーゼルエンジン70の回転動力をミッションケース217に伝達し、次いで、ミッションケース217の油圧無段変速機や走行副変速ギヤ機構にてディーゼルエンジン70の回転動力を適宜変速して、差動ギヤ機構等を介してミッションケース217から後車輪204に駆動力を伝達するように構成している。また、走行副変速ギヤ機構にて適宜変速したディーゼルエンジン70の回転を、前車軸ケース213の差動ギヤ機構等を介してミッションケース217から前車輪203に伝達するように構成している。
【0051】
(6).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明はトラクタに搭載されるエンジンのエンジン制御装置に限らず、コンバインや田植機等の農作業機や、ホイルローダ等の特殊作業用車両に搭載されるエンジンのエンジン制御装置としても適用可能である。燃料噴射装置はコモンレール式のものに限らず、電子ガバナ式のものであってもよい。通信バスはCAN通信バスに限らず、LAN通信バスといった他の通信バスであってもよい。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
M1 出力特性マップ(出力特性データ)
M2,M3 修正特性マップ(修正特性データ)
N 回転速度
T トルク
11 ECU
14 エンジン速度センサ(検出手段)
16 スロットル位置センサ(検出手段)
21 データ用ECU(データ提供手段)
22 CAN通信バス
70 ディーゼルエンジン
115 インジェクタ
117 コモンレールシステム
120 コモンレール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンの駆動状態を検出する検出手段と、前記検出手段の検出情報と前記エンジン固有の出力特性データとに基づいて前記燃料噴射装置の作動を制御するECUとを備えているエンジン制御装置であって、
前記ECUには、前記燃料噴射装置の作動を修正するための修正特性データを有するデータ提供手段が接続されており、前記ECUは、前記検出手段の検出情報、前記出力特性データ及び前記修正特性データに基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置を作動させるように構成されている、
エンジン制御装置。
【請求項2】
前記各特性データは、前記エンジンにおける回転速度とトルクとの関係を示すデータであり、前記修正特性データは、前記出力特性データと比較して、所定回転速度に対するトルクを制限するように設定されている、
請求項1に記載したエンジン制御装置。
【請求項3】
前記修正特性データは、前記エンジンにおける回転速度の制限値である、
請求項1に記載したエンジン制御装置。
【請求項4】
前記データ提供手段は、前記エンジンの前記ECUとは別のデータ用ECU、メモリといった外部記憶手段、又は、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路にて構成されている、
請求項1〜3のうちいずれかに記載したエンジン制御装置。
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンに燃料を噴射する燃料噴射装置と、前記エンジンの駆動状態を検出する検出手段と、前記検出手段の検出情報と前記エンジン固有の出力特性データとに基づいて前記燃料噴射装置の作動を制御するECUとを備えているエンジン制御装置であって、
前記ECUには、前記燃料噴射装置の作動を修正するための修正特性データを有するデータ提供手段が接続されており、前記ECUは、前記検出手段の検出情報、前記出力特性データ及び前記修正特性データに基づき制限トルク値を演算し、前記制限トルク値に応じて前記燃料噴射装置を作動させるように構成されている、
エンジン制御装置。
【請求項2】
前記各特性データは、前記エンジンにおける回転速度とトルクとの関係を示すデータであり、前記修正特性データは、前記出力特性データと比較して、所定回転速度に対するトルクを制限するように設定されている、
請求項1に記載したエンジン制御装置。
【請求項3】
前記修正特性データは、前記エンジンにおける回転速度の制限値である、
請求項1に記載したエンジン制御装置。
【請求項4】
前記データ提供手段は、前記エンジンの前記ECUとは別のデータ用ECU、メモリといった外部記憶手段、又は、手動操作にて可変調節可能な信号補正回路にて構成されている、
請求項1〜3のうちいずれかに記載したエンジン制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−64159(P2011−64159A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216589(P2009−216589)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
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