説明

オイルポンプのリリーフ装置

【目的】エンジンの高回転領域における、オイルポンプから吐出されるオイルの適正油圧を確保すると共に、中回転領域での良好な潤滑性を確保し、エンジンの効率改善を図ることができるオイルポンプのリリーフ装置とすること。
【構成】リリーフ流入部2とバルブ通路部3と凹み部4とリリーフ孔51を有するオイル排出部5とからなるリリーフハウジングAと、第1太径部61と第2太径部62との間に細径部63を有するリリーフバルブ6と、リリーフバルブ6をリリーフ流入部2側に弾性付勢するスプリング7とからなること。凹み部4はオイル排出部5よりもリリーフ流入部2側に近い位置に形成され、凹み部4の軸方向長さはリリーフバルブ6の第1太径部61の軸方向長さより大きく形成され、凹み部4とリリーフ孔51との軸方向最短距離は細径部63の軸方向長さより小さく形成されてなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの高回転領域における、オイルポンプから吐出されるオイルの適正油圧を確保すると共に、中回転領域での良好な潤滑性を確保し、エンジンの効率改善を図ることができるオイルポンプのリリーフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルポンプの下流にはオイルポンプの吐出圧を極端に高くなりすぎないようにするための装置としてリリーフバルブが配置されることが多い。従来、リリーフバルブは、流路や流路上の機器を極端に高い油圧から保護する機能を有しているが、近年では、さらに、低燃費化を達成するため油圧を意図した値に調整することでオイルポンプの無駄仕事を削減することが重要視されている。
【0003】
上記機能を達成するためオイルポンプの吐出圧を調整する手段としてのリリーフバルブに対する研究開発も広く行われている。そこで、オイルポンプの吐出圧を調整する手段としてのリリーフバルブでは、エンジンの中回転領域で一旦オイルをリリーフ(排出)することによって、オイルポンプの無駄仕事を削減する構成が特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1では、制御弁30は、内孔31aを有するとともに、この内孔31aにそれぞれ連通する制御ポート31b、サブポート31c、メインポート31dを有するバルブハウジング31と、このバルブハウジング31の内孔31aに軸方向へ摺動可能に組み付けられて、制御ポート31bを通して流入する作動油の圧力を一端に受けるとともにバルブハウジング31とにより可変絞り部A,Bを形成し、各ポート31b,31c,31d間の連通・遮断をランド部32aにて可変制御するスプール32と、このスプール32を付勢するスプリング33によって構成される。
【0005】
制御ポート31bは吐出ポート21eに連通し、サブポート31cはサブ吸込ポート21dに連通し、メインポート31dはメイン吸込ポート21cに連通している。スプール32のランド部32aは一体形成であってスプール32の一端側に形成されており、ランド部32aの他端側にはランド部32aの外周部分からスプール32の軸心に向けて傾斜するスロープ面32bが形成されている。またスロープ面32bのランド部32a側端部とランド部32aの外周間には径方向の段差32cが形成されている。
【0006】
制御上の特徴としては主に第2制御モード及び第3制御モードに見受けられる。第2制御モードは、サブポート31cとメインポート31dの連通を維持した状態でサブポート31cと制御ポート31bを可変絞り部Aを介して連通させ、サブポート31cにはメインポート31dと制御ポート31bから作動油が流れるようにしたものである。第3制御モードは、サブポート31cと制御ポート31bの連通を維持した状態でサブポート31cとメインポート31dを可変絞り部Bを介して連通させて制御ポート31bからサブポート31cとメインポート31dに作動油が流れるようにしたものである。
【0007】
上記制御を行うため、ランド部32aの軸方向寸法Lはサブポート31cの軸方向寸法よりも小さく形成されている。これによりランド部32aがサブポート31cの丁度真横に位置する時はランド部32aの軸方向上下両端に隙間ができるため、作動油がランド部32aの脇を連通可能となっている(特許文献1に記載された図7、図8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10―318158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記構成及び制御が開示された特許文献1には、以下の課題が存在する。まず、エンジン(オイルポンプ20)の高回転領域は、第5制御モード及び特許文献1に記載された図10に相当する。これによれば、エンジンの高回転領域では制御ポート31b(吐出ポート21e)からサブポート31c(サブ吸込ポート21d)とメインポート31d(メイン吸込ポート21c)の両方に作動油が流れていってしまう。これによりエンジンの高回転領域で油圧が想定以上に下がりすぎてしまうといった課題があった。
【0010】
また、特許文献1の構成では、クランクシャフト10の回転数NがN1(a点の特性)以上の時はサブポート31cは、常に開口されている。言い換えると、アイドリング回転領域より若干高い回転領域から最高(MAX)回転領域で常に最低1箇所は開弁している状態となっている。
【0011】
よって、特許文献1では、前記サブポート31cが常時、開口されている状態である構成のために、例えばエンジンの中回転領域で潤滑確保のために一旦制御弁30を閉弁し、且つエンジンの高回転領域で効率改善のため再度制御弁30を開弁するような制御を行うことは構造上、不可能である。本発明の目的(解決しようとする技術的課題)は、エンジンの高回転領域における、オイルポンプから吐出されるオイルの適正油圧を確保すると共に、中回転領域での良好潤滑性を確保し、エンジンの効率改善を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、リリーフ流入部とバルブ通路部と凹み部とリリーフ孔を有するオイル排出部とからなるリリーフハウジングと、第1太径部と第2太径部との間に細径部を有するリリーフバルブと、該リリーフバルブを前記リリーフ流入部側に弾性付勢するスプリングとからなり、前記凹み部は前記オイル排出部よりも前記リリーフ流入部側に近い位置に形成され、前記凹み部の軸方向長さは前記リリーフバルブの第1太径部の軸方向長さより大きく形成され、前記凹み部と前記リリーフ孔との軸方向最短距離は前記細径部の軸方向長さより小さく形成されてなるオイルポンプのリリーフ装置としたことにより、上記課題を解決した。
【0013】
請求項2の発明を、請求項1において、前記凹み部は前記バルブ通路部の手前側に形成された主凹部と、該主凹部に対して前記バルブ通路部を挟んだ反対側に形成された副凹部とから形成され、前記主凹部と前記副凹部とは直線状に形成されてなるオイルポンプのリリーフ装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2において、前記凹み部は軸方向に長い細長孔として形成されてなるオイルポンプのリリーフ装置としたことにより、上記課題を解決した。請求項4の発明を、請求項1において、前記凹み部の幅方向寸法は、前記バルブ通路部の直径よりも小さくされてなるオイルポンプのリリーフ装置としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明では、エンジンの低回転領域から中回転領域に亘る範囲ではオイルのリリーフを行い、また中回転領域から高回転領域に亘る範囲でリリーフを停止し、エンジンのそれぞれの回転数で適正なオイルの油圧を維持することができる。そして、オイルの油圧がそれぞれの回転域において適正な状態から急激に下がりすぎてしまう不安定な状態を防止できる。さらに、上記効果を有するにも係わらず、本発明の装置は、極めて簡単な構成にすることができ、組付が簡単にでき、低価格にて提供することができる。
【0015】
請求項2の発明では、主凹部だけで無く副凹部も形成することにより低回転領域乃至中回転領域での凹み部でのオイルの流通量を増加させることができる。すなわち副凹部の容積を増減させることで、低回転領域乃至中回転領域での圧力調整を容易に行うことができる。さらに主凹部及び副凹部を直線状に形成することにより鋳抜きピンにより容易に形成することができるため、安価に製造することができる。
【0016】
請求項3の発明では、凹み部を軸方向に長く、周方向に狭い細長孔として形成したことにより、単にスプリング強度の大小調整よりも広い回転領域で凹み部でのオイル流通を行うことができる。凹み部の軸方向長さを変更することによりオイル流通を行う回転領域を広げたり狭めたりできるため、狙った通りのきめ細かい圧力制御を行うことができる。請求項4の発明では、前記凹み部の幅方向寸法は、前記バルブ通路部の直径よりも小さくされ、且つ該バルブ通路部の内周面に周方向の一部に溝状に形成されてなる構成としたことにより、低回転領域から中回転領域に亘る範囲のリリーフ動作におけるリリーフオイルの量を少なく設定することができ、急激なオイル圧力の減少を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(A)は本発明におけるリリーフバルブ装置が備わったオイルポンプの平面図、(B)は(A)の(ア)部拡大図、(C)は(B)のX1−X1矢視断面図、(D)は(C)の(イ)部拡大図である。
【図2】(A)は本発明におけるリリーフハウジングとリリーフバルブとスプリングとが分離された断面図、(B)は(A)の(ウ)部拡大平面斜視図、(C)は(B)のY1−Y1矢視断面図である。
【図3】(A)は本発明におけるセット状態のリリーフバルブの動作を示す要部断面図、(B)は(A)の(エ)部拡大図である。
【図4】(A)は本発明における低回転領域のリリーフバルブの動作を示す要部断面図、(B)は(A)の(オ)部拡大図である。
【図5】(A)は本発明における低回転領域から中回転領域に亘る範囲のリリーフバルブの動作を示す要部断面図、(B)は(A)の(カ)部拡大図である。
【図6】(A)は本発明における中回転領域のリリーフバルブの動作を示す要部断面図、(B)は(A)の(キ)部拡大図である。
【図7】(A)は本発明における中回転領域から高回転領域に亘る範囲のリリーフバルブの動作を示す要部断面図、(B)は(A)の(ク)部拡大図である。
【図8】(A)は本発明における高回転領域のリリーフバルブの動作を示す要部断面図、(B)は(A)の(ケ)部拡大図である。
【図9】(A)は、凹み部の第2実施形態を示す要部断面図、(B)は本発明における別の実施形態のリリーフハウジングの平面図である。
【図10】本発明と従来技術を比較するグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明は、図1に示すように、主に、リリーフハウジングAと、リリーフバルブ6と、スプリング7とから構成される。前記リリーフハウジングAは、エンジンにオイルを供給する機械駆動式のオイルポンプ84のポンプボディ8の本体部81内に一体的に形成されている。オイルポンプ84は内接歯車式のポンプで、具体的にはインナーロータ84aとアウターロータ84bから構成されるトロコイド歯車ポンプ等である。さらに、オイルポンプ84は、エンジンルーム内の適所に配置されるものである。
【0019】
リリーフハウジングAは、ポンプボディ8内に形成されたオイルポンプ84の吐出流路82の下流側に、略中空円筒形状のトンネル状に形成される。リリーフハウジングAは、覆い部1と、リリーフ流入部2と、バルブ通路部3とから構成されている〔図1(A),(B)及び図2〕。前記覆い部1は、ポンプボディ8の所定箇所に筐体として形成されたものであり、具体的には、ポンプボディ8の所定箇所の表面に軸方向に沿って内部に略管状通路を有するようにした略トンネル状の円筒状膨出部として形成されたものである。
【0020】
ここで、軸方向とは、リリーフハウジングA内の通路(バルブ通路部3)の長手方向のことであり、また通路内に収納される(後述する)リリーフバルブ6が往復移動を行う方向のことであり、具体的には、図1(B),(C)において水平方向となる。覆い部1の内部に、前記リリーフ流入部2と前記バルブ通路部3とが連通するように配置されている。覆い部1内において、リリーフ流入部2は、上流側に位置し、バルブ通路部3は下流側に位置する。
【0021】
つまり、リリーフ流入部2はバルブ通路部3よりもオイルポンプ側に位置しており、吐出流路82からのオイルは、最初にリリーフ流入部2から入ってくるものである。リリーフ流入部2は、バルブ通路部3に対して直交する方向で交わるように連通される。リリーフ流入部2には、リリーフ導入路21が形成され、該リリーフ導入路21がバルブ通路部3と連通している〔図2(A)参照〕。
【0022】
バルブ通路部3は、リリーフハウジングAの覆い部1の内部において、円筒形状の空隙として形成された通路である。バルブ通路部3内には、後述するリリーフバルブ6及びスプリング7が収納される。バルブ通路部3は、前記リリーフ導入路21と軸方向において同一軸線状に連続形成される〔図2(A)参照〕。
【0023】
そして、リリーフ流入部2から流入したオイルがリリーフ導入路21を介して、リリーフオイルをバルブ通路部3側に送り込む。リリーフ導入路21は、後述するリリーフバルブ6が往復移動するための通路ではなく、したがってリリーフバルブ6はリリーフ導入路21には進入しないし、出入もしない〔図1(C),(D)参照〕。
【0024】
バルブ通路部3は、リリーフバルブ6が往復移動する通路であり、前記リリーフ導入路21よりも直径が大きく形成されている。バルブ通路部3とリリーフ導入路21との境目には、段差面31が形成される〔図2(A),(B)参照〕。該段差面31は、リリーフバルブ6の移動におけるストッパとしての役目をなし、リリーフバルブ6の移動範囲を規制するものである〔図1(C),(D)参照〕。
【0025】
段差面31は、後述するリリーフバルブ6の頭部61aの形状に合わせて裁頭円錐形状の内周面として形成されているが〔図2(A),(B)参照〕、特にこの形状に限定されるものではなく、軸方向に直交する平坦面としてもかまわない。バルブ通路部3には、凹み部4及びオイル排出部5が形成されている。凹み部4とオイル排出部5の位置関係は、凹み部4が上流側で、オイル排出部5が下流側となる。さらに具体的には、前記リリーフ流入部2側から見て凹み部4が手前側に形成され、オイル排出部5が奥側に形成されている。
【0026】
前記凹み部4は、リリーフハウジングAの覆い部1における内周面に沿って形成された窪み状の部位である。凹み部4は、バルブ通路部3の内部に流入するリリーフオイルがその圧力Pでリリーフバルブ6を押圧移動させることによって、覆い部1の内周面に最初に露出すると共に、リリーフオイルが流れ込む部位である。さらに、凹み部4は、バルブ通路部3内の軸方向に沿って次に露出するオイル排出部5との間で、後述する特定の条件のもとでのみリリーフオイルの移送を行う役目をなすものである(図5参照)。
【0027】
凹み部4には種々の実施形態が存在し、その第1実施形態は、リリーフハウジングAの軸方向に対する直交断面形状が、直線状の略「U」字形状の溝としたものである〔図2(B),(C)参照〕。つまり、凹み部4は、覆い部1の内周面の回りを断面略「U」 字形状となるように、軸方向に対して垂直に除去された丸孔と見ることもできる。
【0028】
そして、前記凹み部4において覆い部1側(手前側)の窪みを主凹部41と称する。また、主凹部41のバルブ通路部3を挟んだ反対側(奥側)の窪みを副凹部42と称する。凹み部4の主凹部41及び副凹部42の直径は、バルブ通路部3の内径よりも小さく形成されている。主凹部41は、副凹部42よりも、その容積が大きく形成されている〔図2(A)参照〕。
【0029】
また、凹み部4の第2実施形態では、凹み部4において主凹部41のみ形成され、副凹部42は形成されないものである〔図9(A)参照〕。第2実施形態においても、主凹部41においてオイルの流通を行えるため、本発明の効果を十分に奏することができる。また凹み部4は鋳造にて製造するならば鋳抜きピンを抜くことにより形成されるが、鋳抜きピンの位置により凹み部4の深さの調整は容易であるため、コスト変動はほとんど無いものである。
【0030】
さらに、凹み部4の第3実施形態では、凹み部4は丸孔では無く軸方向に長く、周方向に狭い細長孔として形成される〔図9(B)参照〕。第3実施形態でも第1実施形態及び第2実施形態と同様に、凹み部4は抜き勾配があるため完全に同一形状とはならないが表面から奥に亘ってほぼ同一形状の孔となっている。凹み部4を軸方向に長い細長孔とすることにより丸孔と比較して、凹み部4でオイルが流通する回転領域を広くすることができる。つまり凹み部4の軸方向長さを調整することにより、スプリング7の強度のみを調整する場合と比較して圧力調整を容易に行うことができる。
【0031】
次に、オイル排出部5は、リリーフ孔51と排出流路52とから構成されている〔図1(C),(D)及び図2参照〕。リリーフ孔51は、リリーフハウジングAの覆い部1の壁部を貫通する孔であって、該覆い部1の内周面と外周面とが連通するように形成されたものである。排出流路52は、前記リリーフ孔51を介して、覆い部1の内部と外部と連通し、オイル排出部5から排出されたリリーフオイルをオイルポンプ84の吸入側に戻す役目をなしている。
【0032】
また、前記リリーフハウジングAは、ポンプボディ8を含めて鋳造によって形成されるものであり、そのため、ポンプボディ8の本体部81の一面は開放された面となっている。その開放面を覆うためのカバー材83がポンプボディ8を構成する部材として備わっており、カバー材83が本体部81の開放面を被覆するように装着することで、前記吐出流路82やオイルポンプ84のポンプ室等が構成される。
【0033】
前記凹み部4は、カバー材83によって、周囲が閉鎖状に包囲された溝状の空隙が構成されることになり、凹み部4のカバー材83側寄りの部位が主凹部41となり、反対側の円周状の部位が副凹部42となる〔図2(B),(C)参照〕。また、オイル排出部5の排出流路52は、前記カバー材83がリリーフハウジングAに装着されることによって形成される〔図2(B),(D)参照〕。
【0034】
具体的には、前記覆い部1の外周面でリリーフ孔51が形成された周囲は、僅かに薄肉部として窪むように形成されている。この窪み部分が排出流路52の一部を構成し、カバー材83を装着することにより覆い部1の外周面のリリーフ孔51箇所の周囲に空隙が形成され、該空隙が排出流路52として使用されるものである〔図2(B),(D)参照〕。また、前記リリーフハウジングAの覆い部1のリリーフ流入部2と連通する側とは反対側の端部には、閉部材としてシーリングボルト1bが装着されている。
【0035】
次に、リリーフバルブ6は、円筒形状に形成され、第1太径部61,第2太径部62及び細径部63とから構成されており、第1太径部61と第2太径部62との間に細径部63が形成されている〔図1(C),(D)及び図2(A)参照〕。第1太径部61と第2太径部62とは、直径が同一径又は略同一である〔図2(A)参照〕。第1太径部61は、前述したように円筒形状であるが、具体的には扁平円筒形状であり、且つその先端である頭部61aの外周縁は傾斜状に加工形成され、次第に直径が小さくなる裁頭円錐形状となっている。また、第1太径部61の頭部61aとは反対側の外周縁も傾斜状に面取加工されている〔図1(D),図2(A)等参照〕。
【0036】
第2太径部62は、前記第1太径部61よりも軸方向寸法は長く形成されている。そして、第2太径部62の内部には、中空円筒形状の空隙62aが形成され、軸方向端部は開放されている。該空隙62aには、後述するスプリング7の一部が挿入される〔図1(C)参照〕。第1太径部61と細径部63とは、中実円筒形状に形成されている。
【0037】
細径部63は、第1太径部61及び第2太径部62に対して、その直径が数割程度小さく形成されており、リリーフバルブ6において細径部63の形成箇所は、周方向に沿って形成された溝として見ることができる。またリリーフバルブ6は、バルブ通路部3内で軸方向に円滑に移動できるように、バルブ通路部3の内径よりも僅かに外径が小さく形成されるものであり、両者は、精度の比較的高いすきま嵌めの嵌め合いを備えている。
【0038】
次に、リリーフハウジングAにおける凹み部4及びオイル排出部5の構成と、リリーフバルブ6の構成との関係について説明する。まず、リリーフバルブ6の第1太径部61の最大直径の円筒部の軸方向長さ寸法L1は、凹み部4の軸方向長さ寸法Laよりも短く、すなわち、L1<Laとなる〔図1(D),図2(A),図3(B),図5(B)等参照〕。
【0039】
ここで、リリーフバルブ6の第1太径部61における最大直径の円筒部の軸方向長さ寸法L1とは、前述した頭部61a及び該頭部61aとは軸方向において反対側の周縁に形成された傾斜状の面取り部分を除いた円筒部分のことをいう〔図1(D),図2(A)等参照〕。
【0040】
次に、細径部63の軸方向寸法L3は、凹み部4とオイル排出部5のリリーフ孔51との最短距離Lbよりも大きく、L3>Lbとなる〔図1(D),図2(A),図3(B),図5(B)等参照〕。ここで、凹み部4とオイル排出部5のリリーフ孔51との最短距離Lbとは、凹み部4側より見て、リリーフ孔51の周縁の最も凹み部4に近接した部分と、リリーフ孔51から見て凹み部4の縁の最もリリーフ孔51に近接した部分との軸方向間隔のことをいう〔図1(D),図2(A),図3(B),図5(B)等参照〕。
【0041】
本発明の構成により、リリーフ動作の行程は、概ね以下のように行われる。まず、オイルポンプ84の吐出流路82の上流側から下流側に流れるオイルの一部がリリーフオイルとしてリリーフバルブ装置のリリーフ流入部2,リリーフ導入路21からバルブ通路部3に流れ込む〔図1(A),図3参照〕。そして、リリーフオイルの圧力Pが上昇すると、リリーフバルブ6は、スプリング7の弾性力を超えて、バルブ通路部3におけるリリーフ流入部2側とは反対側の方向に移動を始める(図4参照)。なお、ここで圧力Pは、分布荷重である(図3乃至図8参照)。
【0042】
さらに、圧力Pが特定値を超えると、リリーフバルブ6は移動を続け、第1太径部61により閉鎖されていた凹み部4が開く。そして、第1太径部61が凹み部4の軸方向略中間位置に到達したときには、第1太径部61の軸方向の長さ寸法L1は、凹み部4の軸方向長さ寸法Laよりも小さい(L1<La)ため、第1太径部61の頭部61a側と細径部63側と、凹み部4との間においてリリーフオイルの流通が可能となる。
【0043】
また、細径部63の軸方向長さ寸法L3は、凹み部4とオイル排出部5のリリーフ孔51との最短距離Lbよりも大きい(L3>Lb)ため、リリーフハウジングAの凹み部4とオイル排出部5と、リリーフバルブ6の細径部63とによって、リリーフオイルの流通路が構成される。よって、凹み部4からオイル排出部5に向かってリリーフオイルが流れ、リリーフ動作が行われる(図5参照)。
【0044】
そして、リリーフオイルの圧力Pがさらに上昇すると、第1太径部61は、凹み部4とオイル排出部5との間を閉鎖し、リリーフオイルの排出は停止する。そして、さらにリリーフオイルの圧力Pが上昇することによって、第1太径部61がオイル排出部5を開いてリリーフオイルを直接排出することができるようになる。
【0045】
次に、エンジンの低、中、高回転領域におけるそれぞれの制御状態について述べる。なお、低、中、高回転領域における具体的な回転数は、エンジン又はポンプごとに異なるため具体的数値については記載しない。まず、セット状態では、図3に示すように、リリーフバルブ6は、スプリング7の弾性付勢力によってリリーフ流入部2側に完全に押し付けられている。この状態でオイルポンプが始動する。リリーフオイルのリリーフは停止状態である。
【0046】
次に、低回転領域では、図4に示すように、回転数が低いためオイルポンプ84の吐出圧は低く、この吐出圧による力よりもスプリング7の弾性付勢力の方が大きいためリリーフバルブ6はほとんど動かないか、僅かに移動する程度である。リリーフバルブ6の第1太径部61によってバルブ通路部3では、オイル排出部5は完全に閉鎖されるためオイルポンプ84から吐出されたオイルは凹み部4及びオイル排出部5に流れ込むことは無く、全量吐出される。これにより低回転領域での油圧及び流量を確保できる。
【0047】
次に、低回転領域乃至中回転領域では、図5に示すように、リリーフオイルの圧力Pがしだいに上昇してゆく。そして、リリーフオイルの圧力Pが特定の値に到達すると、スプリング7による弾性付勢力を超えてリリーフバルブ6をバルブ通路部3におけるリリーフ流入部2とは反対側の方向に移動させる。
【0048】
そして、リリーフバルブ6の第1太径部61の頭部61aが凹み部4の軸方向中間箇所に位置すると、リリーフオイルは、リリーフバルブ6の細径部63と、リリーフハウジングAの凹み部4とオイル排出部5との間で流通路を構成し、リリーフオイルをオイル排出部5から排出し、リリーフ動作を行う〔図5(B)参照〕。これによりリリーフオイルの圧力Pが低減されるので、低回転領域乃至中回転領域においてオイルポンプ84の無駄仕事が削減できる。
【0049】
次に、中回転領域では、図6に示すように、リリーフオイルの圧力Pがさらに上昇するので、リリーフバルブ6がさらに移動し、第1太径部61が、凹み部4とオイル排出部5の間に位置する。この状態ではリリーフオイルは、バルブ通路部3内の軸方向において凹み部4とオイル排出部5との間を第1太径部61によって遮断する。したがって、リリーフオイルは凹み部4のみに充満するが、オイル排出部5には到達できず、オイル排出部5のリリーフ孔51を開けないので、リリーフは停止状態である。
【0050】
これによりオイルの油圧が上昇し、目的とした回転領域でエンジン等の摺動部品の潤滑を確保することが可能となる。次に、中回転領域乃至高回転領域においても、中回転領域と略同様であるが、図7に示すように、リリーフオイルの圧力Pが上昇を続けるので、リリーフバルブ6も移動を続けている。しかし、リリーフは停止状態である。
【0051】
次に、高回転領域では、図8に示すように、リリーフオイルの圧力Pがさらに上昇し、リリーフバルブ6がバルブ通路部3内をさらに移動して、第1太径部61がバルブ通路部3内においてオイル排出部5のリリーフ孔51を開き、リリーフオイルを直接オイル排出部5から排出することができる。これは、一般的な排出行程である。これによって、リリーフオイルの異常な圧力上昇を防ぐことができる。そして、高回転領域を超えても、同様にリリーフオイルがオイル排出部5から排出される一般的な排出行程となり、オイルの異常な圧力上昇を防止する。
【0052】
このように、本発明では、特に低回転領域から中回転領域において、リリーフオイルの圧力上昇過程でリリーフオイルは一旦、オイル排出部5から排出される。しかし、その排出期間は、僅かであり、したがってリリーフオイルの排出量も僅かである。これによって、低回転領域から中回転領域における、オイルの圧力が想定外に減少することはなく、安定したオイル圧力を維持することができる。そして、さらに、リリーフオイルの圧力Pが上昇した場合には、リリーフバルブ6の第1太径部61がオイル排出部5を開き、リリーフオイルを直接オイル排出部5から排出する一般的な排出手段に切り替わるものである。
【符号の説明】
【0053】
A…リリーフハウジング、2…リリーフ流入部、3…バルブ通路部、4…凹み部、
5…オイル排出部、6…リリーフバルブ、61…第1太径部、62…第2太径部、
63…細径部、7…スプリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リリーフ流入部とバルブ通路部と凹み部とリリーフ孔を有するオイル排出部とからなるリリーフハウジングと、第1太径部と第2太径部との間に細径部を有するリリーフバルブと、該リリーフバルブを前記リリーフ流入部側に弾性付勢するスプリングとからなり、前記凹み部は前記オイル排出部よりも前記リリーフ流入部側に近い位置に形成され、前記凹み部の軸方向長さは前記リリーフバルブの第1太径部の軸方向長さより大きく形成され、前記凹み部と前記リリーフ孔との軸方向最短距離は前記細径部の軸方向長さより小さく形成されてなることを特徴とするオイルポンプのリリーフ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記凹み部は前記バルブ通路部の手前側に形成された主凹部と、該主凹部に対して前記バルブ通路部を挟んだ反対側に形成された副凹部とから形成され、前記主凹部と前記副凹部とは直線状に形成されてなることを特徴とするオイルポンプのリリーフ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記凹み部は軸方向に長い細長孔として形成されてなることを特徴とするオイルポンプのリリーフ装置。
【請求項4】
請求項1において、前記凹み部の幅方向寸法は、前記バルブ通路部の直径よりも小さくされてなることを特徴とするオイルポンプのリリーフ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−19365(P2013−19365A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154357(P2011−154357)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】