説明

ガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂、表面処理ガラス繊維及び繊維強化ポリオレフィン系樹脂

【課題】振動疲労強度が飛躍的に改善された成形品を与えるガラス繊維処理用変性ポリプロピレン系樹脂、表面処理ガラス繊維及び繊維強化ポリプロピレン系樹脂を提供する。
【解決手段】(1)沸騰メチルエチルケトン抽出量が8質量%以下であり、(2)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)が6,000〜48,000の範囲内であり、かつ、(3)フーリエ変換赤外線分光法で測定した酸付加量が0.1〜12質量%の範囲内である、ガラス繊維処理用酸変性ポリオレフィン系樹脂、及び酸変性ポリオレフィン系樹脂で処理した表面処理ガラス繊維、並びに表面処理ガラス繊維含有長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット、それを含む成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂、表面処理ガラス繊維及び繊維強化ポリオレフィン系樹脂に関する。より詳細には、振動疲労強度が飛躍的に改善された成形品を与えるガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂(造膜剤、フィルム形成剤、集束剤等ともいう)、表面処理ガラス繊維及び繊維強化ポリオレフィン系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化ポリプロピレン(GFPP)は、アミノシラン処理されたガラス繊維を用い、カルボン酸基含有ポリプロピレンを添加することで強度を向上させることができることは古くから広く知られている。また、ガラス繊維の処理の際に酸変性ポリオレフィンを用いることも知られている。しかし、使用する酸変性ポリオレフィンについては、含浸性や収束性についての検討が主で、GFPPの物性(特に振動疲労強度)を向上させるためのガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂の性状については、ほとんど検討されていなかった。(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【0003】
ガラス繊維の処理と、それを配合した樹脂組成物(ガラス繊維強化ポリプロピレン)の組成とは、これまで、主として別々に検討されており、ガラス繊維の処理と樹脂組成物の組成との組合せの検討例は少なく、卓越した性能を達成するには至っていなかった(例えば、特許文献3を参照)。
【0004】
また、振動疲労強度の向上に関しても検討されてはいたが(例えば、特許文献4及び5を参照)、主にポリプロピレン樹脂部の分子量等の検討でありガラス−樹脂間の界面、特にサイジング剤に使用するポリオレフィンに関する検討は為されていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平3−181528号公報
【特許文献2】特開2003−253563号公報
【特許文献3】特開平7−309979号公報
【特許文献4】特開2004−2837号公報
【特許文献5】特開2003−321555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、振動疲労強度が飛躍的に改善された成形品を与えるガラス繊維処理用変性ポリプロピレン系樹脂、表面処理ガラス繊維及び繊維強化ポリプロピレン系樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは、ガラスの処理と酸変性ポリオレフィンを中心とした組成物配合を詳細に検討し、サイジング剤に用いる酸変性ポリオレフィン(マレイン酸変性ポリプロピレン)の低分子極性成分(沸騰メチルエチルケトン可溶分)を低減することで振動疲労強度を飛躍的に向上させうることを見出し、発明を完成させた。
【0008】
つまり、シランカップリング剤と結合しうる低分子極性成分(沸騰メチルエチルケトン可溶分)がサイジング剤中に存在すると、ガラス繊維表面の官能基(通常アミノ基)と低分子極性成分がガラス繊維の表面処理過程で結合してしまい、樹脂中の酸変性ポリプロピレンが結合できる官能基が減ってしまう為と考えられる。また、低分子極性成分(沸騰メチルエチルケトン可溶分)は分子量が小さい為、質量比率は小さいが、分子数が多い為ガラス表面の多くの官能基と結合してしまい、振動疲労強度への影響が大きくなると考えられる。
【0009】
通常、ガラス繊維の表面処理は組成物の製造に先立って行われる。その為、シランカップリング剤と結合しうる低分子極性成分(沸騰メチルエチルケトン可溶分)がサイジング剤中に存在すると、この低分子極性成分が、酸変性ポリプロピレンより先にシランカップリング剤と結合してしまう為、ガラス繊維の表面処理に用いるサイジング剤中に低分子極性成分(沸騰メチルエチルケトン可溶分)が存在すると、ガラス繊維強化樹脂中に低分子極性成分(沸騰メチルエチルケトン可溶分)が存在する場合よりも悪影響が大きくなっていると考えられる。
【0010】
また、静強度(引張り強度)は振動疲労強度よりも変位量が大きい為、樹脂の破壊が起こりやすく界面強度の差が出難くなっていると考えられる。
低分子極性成分(沸騰メチルエチルケトン可溶分)の成分及び発生原因について完全には分かっていない。その成分としては、有機過酸化物残基及びその反応物、あるいは極低分子(いわゆるオリゴマー)の酸変性ポリオレフィン等の反応副生成物、酸(マレイン酸や無水マレイン酸に代表されるカルボン酸類等)や有機過酸化物等の未反応原料、酸化防止剤や脂肪酸金属塩類等の添加剤が考えられる。
【0011】
そこで、本発明は、
[1](1)沸騰メチルエチルケトン抽出量が8質量%以下であり、
(2)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)が6,000〜48,000の範囲内であり、かつ、
(3)フーリエ変換赤外線分光法で測定した酸付加量が0.1〜12質量%の範囲内である、ガラス繊維処理用酸変性ポリオレフィン系樹脂;
[2]マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂である、上記[1]に記載のガラス繊維処理用酸変性ポリオレフィン系樹脂;
[3]上記[1]又は[2]に記載のガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂を含むサイジング剤で処理された、ガラス繊維の繊維径が3〜30μmの範囲内である表面処理ガラス繊維;
[4]上記[3]に記載の表面処理ガラス繊維を含む、ガラス繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が50〜6000である繊維強化ポリオレフィン系樹脂;
[5]ポリプロピレン系樹脂である、上記[5]に記載の繊維強化ポリオレフィン系樹脂;
[6]上記[3]に記載の表面処理ガラス繊維を用いたペレット長2〜200mmの長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット;
[7]樹脂中に0.2〜50質量%の酸変性ポリオレフィン系樹脂を含む上記[6]に記載の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット;
[8]ポリプロピレン系樹脂である、上記[6]又は[7]に記載の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット;
[9]上記[6]〜[8]のいずれかに記載の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットと熱可塑性樹脂とをドライブレンドしたドライブレンド混合物;
[10]熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である上記[9]に記載のドライブレンド混合物;
[11]熱可塑性樹脂が、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂を含んだポリオレフィン系樹脂である、上記[9]又は[10]に記載のドライブレンド混合物;
[12]ポリプロピレン系樹脂100質量部、一分間半減期(t1/2)80〜260℃の有機過酸化物0.01〜20質量部、及び不飽和カルボン酸0.1〜30質量部を、シリンダー温度100〜230℃で溶融反応させた後、脱気・洗浄・精製のうち1以上の低分子極性成分の除去(削減)処理を行なう酸変性ポリプロピレン系樹脂の製造方法;
[13]請求項1又は2に記載のガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂を含有するサイジング剤で一旦サイジング処理された繊維束の連続物を引きながら、オレフィン系樹脂成分を該繊維束中に含浸させ、組成物中に5〜80質量%のガラス繊維を含有させる、長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットの製造方法;
[14]請求項4〜11のいずれかに記載の繊維強化ポリオレフィン系樹脂、長繊維強化樹脂ペレット又はドライブレンド混合物を成形してなる成形品;
[15]平均残存繊維長が0.4mm以上である、上記[14]に記載の成形品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サイジング剤に用いる酸変性ポリオレフィンの低分子極性成分(沸騰メチルエチルケトン可溶分)が低減され、これを用いて処理された処理ガラス繊維を用いた繊維強化ポリオレフィン系樹脂からなる成形品の振動疲労強度が飛躍的に向上する。従って、本発明の繊維強化ポリオレフィン系樹脂から製造された自動車部品等の各種成形品は、長期に渡って高い信頼性を保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.ガラス繊維処理用酸変性ポリオレフィン系樹脂
本発明のガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂(以下、本発明の処理用樹脂という)は、下記(1)〜(3)を満たすことを特徴とする。
(1)沸騰メチルエチルケトン(MEK)抽出量が、8質量%以下
(2)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)が、6,000〜48,000の範囲内
(3)フーリエ変換赤外線分光法で測定した酸付加量が、0.1〜12質量%の範囲内
上記(1)〜(3)を満たす酸変性ポリオレフィン系樹脂を用いて処理されたガラス繊維を含むポリオレフィン系樹脂(繊維強化ポリオレフィン系樹脂)によれば、振動疲労強度が飛躍的に改善された成形品を製造できる。
【0014】
(I−1)ポリオレフィン系樹脂
本発明の処理用樹脂に用いる変性前のポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、特にプロピレン単独重合体又はエチレン・プロピレンランダム共重合体が好ましく、プロピレン単独重合体がより好ましい。
また、その135℃デカリン中での極限粘度(η)は、通常0.5〜40、好ましくは1〜30、より好ましくは2〜20、さらに好ましくは3〜15、特に好ましくは4〜10である。0.5より小さいと変性時に低分子量化し過ぎるおそれがあり、40より大きいと工業的に生産が困難である。また、そのGPCで測定した分子量分布(Mw/Mn)は、通常2〜10、好ましくは2.1〜6より好ましくは2.2〜5、さらに好ましくは2.3〜4、特に好ましくは2.4〜3である。分子量分布が2より小さいポリプロピレン系樹脂の製造は困難であり、10を超えると変性後に低分子極性成分が発生して振動疲労強度を低下させるおそれがある。
また、変性前のポリオレフィン系樹脂の立体規則性(mmmm分率)は、通常90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上である。90%より小さいと、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
また、変性前のポリオレフィン系樹脂の形態に制限はないが、一部或いは全部がパウダー又はグラニュー状態であると、反応効率が上がるため低分子極性成分が少なくなるので好ましい。
【0015】
本発明で用いるポリプロピレンは、市販のものを使用できる。また、市販のポリプロピレンの流動性を有機過酸化物で調整したものや、複数のものを混合したものも使用できる。なお、これらは後述する樹脂組成物の成分としても、希釈ブレンド用樹脂としても使用できる。
【0016】
市販のポリプロピレンの例として以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(1)出光石油化学(株)製
プロピレン単独重合体:J−2003GP(MFR=21)、J−2000GP(MFR=21)、J−903GP(MFR=13)、J−900GP(MFR=13)、J−700GP(MFR=8)、J−3003GV(MFR=30)、J−3000GV(MFR=30)、J−3000GP(MFR=30)、H−50000(MFR=500)、H−100M(MFR=0.5)、H−700(MFR=7)、Y−2000GP(MFR=20)、Y−6005GM(MFR=60)、E−105GM(MFR=0.5)、F−300SV(MFR=3)、Y−400GP(MFR=4)、E−100GV(MFR=0.5)
プロピレン・エチレンブロック共重合体:J−6083HP(MFR=60)、J−5066HP(MFR=50)、J−5085H(MFR=50)、J−5051HP(MFR=50)、J−3054HP(MFR=40)、J−3056HP(MFR=40)、J−950HP(MFR=32)、J−762HP(MFR=13)、J−466HP(MFR=3)、JR3070HP(MFR=30)、J−786HV(MFR=13)、J−785H(MFR=13)、J−784HV(MFR=13)
プロピレン・エチレンランダム共重合体:J−3021GA(MFR=30)、J−3021GR(MFR=30)、J−2021GR(MFR=20)
【0017】
(2)サンアロマー(株)製
プロピレン単独重合体:PM900M(MFR=30)、PM900A(MFR=30)、PM802A(MFR=20)、PM801Z(MFR=13)、PM600Z(MFR=7.5)、PM600M(MFR=7.5)、PM600H(MFR=7.5)、PM600A(MFR=7.5)、PF−611(MFR=30)、PF−814(MFR=3)
プロピレン・エチレンブロック共重合体:PMB70X(MFR=63)、PMB65X(MFR=63)、PMB60W(MFR=63)、PMB60A(MFR=63)、PMA60Z(MFR=45)、PMA80X(MFR=43)、PMA60A(MFR=43)、PM965C(MFR=35)、PM953M(MFR=30)、PM761A(MFR=9.5)
プロピレン・エチレンランダム共重合体:PVC20M(MFR=85)、PMC20M(MFR=85)、PMA20V(MFR=45)、PV940M(MFR=30)、PM822V(MFR=20)、PM811M(MFR=13)、PM731V(MFR=9.5)
【0018】
(3)日本ポリプロ(株)製(ノバテックPP)
プロピレン単独重合体:MA3(MFR=11)、MA3AH(MFR=12)、MA03(MFR=25)、SA05(MFR=50)
プロピレン・エチレンブロック共重合体:BC06C(MFR=60)、BC05B(MFR=50)、BC03GS(MFR=30)、BC03B(MFR=30)、BC03C(MFR=30)、BC2E(MFR=16)、BC3L(MFR=10)、BC3H(MFR=8.5)、BC3F(MFR=8.5)、BC4ASW(MFR=5)、BC6DR(MFR=2.5)、BC6C(MFR=2.5)、BC8(MFR=1.8)、BC03HRS (MFR=30)
【0019】
(4)三井化学(株)製(三井ポリプロ)
プロピレン単独重合体:J139(MFR=50)、J136(MFR=20)、CJ700(MFR=10)、J108M(MFR=45)、J107G(MFR=30)、J106G(MFR=15)、J105G(MFR=9)、S119(MFR=50)、S128G(MFR=50)、J105H(MFR=9)
プロピレン・エチレンブロック共重合体:J709UG(MFR=55)、J708UG(MFR=45)、J830HV(MFR=30)、J717ZG(MFR=32)、J707EG(MFR=30)、J707G(MFR=30)、J715M(MFR=9)、J705UG(MFR=9)、J704UG(MFR=5)、J702LB(MFR=1.8)
プロピレン・エチレンランダム共重合体:J229E(MFR=52)、J226E(MFR=20)
【0020】
(I−2)酸
上記ポリオレフィン系樹脂を酸変性させるために用いる酸としては、通常、カルボン酸又はその誘導体等のカルボキシル基あるいはその誘導体(無水物等)を持つものが挙げられる。
また、飽和カルボン酸よりも不飽和カルボン酸の方がポリオレフィン系樹脂に付加させやすいため、不飽和カルボン酸又はその誘導体がより好ましい。
不飽和カルボン酸あるいはその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸等が挙げられる。
不飽和カルボン酸あるいはその誘導体の中でも融点が30〜280℃のものがさらに好ましく、融点が50〜210℃のものが特に好ましい。
中でもマレイン酸あるいは無水マレイン酸が最も好ましい。
【0021】
また、変性前のポリオレフィン系樹脂に対する変性に使用する酸の割合は、通常、0.1〜30質量部の範囲内、好ましくは0.2〜6質量部、より好ましくは0.3〜4質量部、さらに好ましくは0.4〜2質量部、特に好ましくは0.5〜1質量部、最も好ましくは0.6〜0.9質量部の範囲内である。酸の割合が0.1質量部より少ないと付加量が不足し、30質量部より多いと副生成物や未反応物の発生が増え、性能が低下するおそれがある。
【0022】
(I−3)酸変性ポリオレフィン系樹脂
酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、カルボン酸又はその誘導体で変性された酸変性ポリプロピレン系樹脂が好ましく、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
【0023】
酸変性ポリオレフィン系樹脂は、以下の(a)〜(c)の特性を有することを必須とし、さらに(d)以降の特性又は添加物を有することが好ましい。
【0024】
(a)沸騰メチルエトンケトン(MEK)抽出量が、8質量%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下である。沸騰メチルエトンケトン(MEK)抽出量が8質量%より大きいと、極性のある低分子量成分がガラス繊維の処理に用いるカップリング剤と結合してしまうおそれがある。そのためこれを用いてガラス繊維を処理し強化ポリプロピレン系樹脂を作製しても、その成形品の振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0025】
(a−1)沸騰メチルエチルケトン抽出量の測定方法
酸変性ポリオレフィン系樹脂(サンプル)を、すり鉢で粉砕した後、ソックスレー抽出機を用い沸騰メチルエチルケトンで6時間抽出を行い抽出物の質量を測定し、下記式により沸騰メチルエチルケトン抽出量を求める。
沸騰メチルエチルケトン抽出量(質量%)=(抽出物の質量)/(元のサンプルの質量)
【0026】
(a−2)沸騰メチルエチルケトン可溶分の除去方法
沸騰MEK可溶分(低分子極性成分)を、8質量%以下に低減するための除去方法は特に限定されないが、例えば、次の方法を用いることができる
(1)脱気:ベント減圧(押出し機使用の場合)、減圧(真空)加熱、熱風乾燥
(2)洗浄:溶剤洗浄、スチーム洗浄、温水洗浄
(3)精製:加熱溶剤(パラキシレン、キシレン、トルエン、ベンゼン、n−ヘプタン、クロルベンゼン等)に溶解させ、再沈溶剤(アセトン、アセトン/メタノール混合溶剤等)に投入して再度沈殿させる。濾過後、真空乾燥などで乾燥させる。
脱気の時期としては、(i)変性時(押出機等使用の場合、ベント減圧等を行なう)、(ii)変性後(酸変性ポリオレフィン系樹脂を得た後、減圧加熱、真空加熱、熱風乾燥等を行う)に行うことができる。品質の安定性の点から(ii)の変性後に脱気することが好ましい。
(ii)の変性後に脱気する場合、温度は50〜150℃が好ましく、60〜145℃がより好ましく、70〜140℃が特に好ましい。温度は50℃より低いと除去に時間がかかり、150℃以上では樹脂が固着するおそれがある。
【0027】
(1)脱気では揮発性の低い成分は除去され難いため、(2)洗浄又は(3)精製がより好ましい。さらに、30〜120℃の加熱溶剤を用いて洗浄することが低コストで実施できるため工業的には好ましい。また、精製によれば沸騰MEK可溶分は、ほぼ完全に除去できるため、性能向上のためには最も好ましい。
【0028】
また、製造条件によって沸騰MEK可溶分(低分子極性成分)の発生を抑えることが、除去工程を省いたり簡略化したりすることができ好ましい。そのため、変性前のポリオレフィン系樹脂(100質量部)に対する変性に使用する酸の割合は、6質量部以下が好ましく、4質量部以下がより好ましく、2質量部以下がさらに好ましく、1質量部以下が特に好ましく、0.9質量部以下が最も好ましい。
【0029】
また、付加反応に使用する反応の開始剤としては、通常、有機過酸化物を用いる。有機過酸化物としては、一分間半減期温度が80〜260℃のものが好ましく、90〜220℃のものがより好ましく、100〜200℃のものがさらに好ましく、110〜180℃のものが特に好ましい。有機過酸化物は、一分間半減期温度が上記範囲のものを複数組み合わせて使用してもよい。一分間半減期温度が80℃より低いと、急速に分解してしまうため、有機過酸化物の添加量を増加させなければならず、沸騰MEK可溶分を増加させてしまうおそれがあり、260℃を超えると、未反応の有機過酸化物が残留するおそれがある。
変性前のポリオレフィン系樹脂(100質量部)に対する有機過酸化物の添加量は、通常、0.01〜20質量部、好ましくは0.03〜8質量部、より好ましくは0.06〜4質量部、さらに好ましくは0.1〜3質量部、特に好ましくは0.12〜1.5質量部、最も好ましくは0.15〜0.8質量部である。0.01部より少ないと付加が不十分となるおそれがあり、20部より多いと残留過酸化物が増えたり低分子極性成分が増えたりするおそれがある。
【0030】
有機過酸化物の分子量は、通常、90〜600、好ましくは150〜500、より好ましくは170〜450、特に好ましくは180〜400である。上記範囲外のものは取り扱いが難しい。
【0031】
有機過酸化物の活性化エネルギーは、通常、100〜200kj/mol、好ましくは110〜180kj/mol、より好ましくは120〜170kj/mol、特に好ましくは130〜160kj/molの範囲内である。100kj/mol未満では、反応性が低下し、200kj/molを超えものは工業的に製造が困難である。
【0032】
有機過酸化物の種類としては、ジアルキルパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーカボネイト類等が挙げられるが、ジアルキルパーオキサイド類、アルキルパーエステル類、パーカボネイト類、パーオキシケタール類が沸騰MEK可溶分の発生が少なく好ましい。
【0033】
低分子極性成生の発生を減らすには、反応温度を低めに、反応時間を長めにすることが好ましい。
反応温度(溶液温度やシリンダー温度)は、100〜230℃の範囲内が好ましく、120〜210℃がより好ましく、130〜200℃がさらに好ましく、135〜185℃が特に好ましく、155〜175℃が最も好ましい。
反応温度が100℃より低いと付加反応が十分に起こらないおそれがある。230℃より高いと、分解反応が早く進みすぎるおそれがある。
また有機化酸化物の一分間半減期温度(t1/2)と、反応温度(t)との関係は、通常、t1/2−80<t<t1/2+50、好ましくはt1/2−30<t<t1/2+40、より好ましくはt1/2−20<t<t1/2+30、特に好ましくはt1/2−15<t<t1/2+20である。
また、反応時間は通常0.5〜300分、好ましくは1〜180分、より好ましくは1.5〜30分、さらに好ましくは2〜15分、特に好ましくは2.5〜10分、最も好ましくは3〜6分である。押出機を用いて反応させる場合は、押出条件(吐出量を下げる等)に加え、押出機のL/Dを長くしたり、混練回数を増やすことで反応時間を長くできる。反応時間が0.5分より小さいと、未反応物や副生成物が多量に発生し、物性が低下するおそれがある。300分以上では生産性が低下し、工業的に実用化が難しい。
【0034】
(b)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)が、6,000〜48,000の範囲内、好ましくは8,000〜46,000、より好ましくは11,000〜42,000、更に好ましくは13,000〜38,000、特に好ましくは15,000〜34,000、最も好ましくは17,000〜32,000の範囲内である。数平均分子量(Mn)が6,000より小さいと酸変性ポリオレフィン系樹脂のポリオレフィン鎖の長さが不十分となり酸変性ポリオレフィン系樹脂と未変性ポリオレフィン系樹脂間の強度が不十分となるおそれがある。そのためこれを用いてガラス繊維を表面処理し強化ポリプロピレン系樹脂を作製しても、その成形品の振動疲労強度が不十分となるおそれがある。また、48,000より大きいとシランカップリング剤と均等に分散せず、振動疲労強度が低下したり、エマルジョン化し難くなったり、ガラス繊維の処理に用いることができないおそれがある。
【0035】
(c)フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)で測定した酸付加量(MEK不溶分)が、0.1〜12質量%の範囲内、好ましくは0.3〜10、より好ましくは0.4〜8、更に好ましくは0.5〜6、特に好ましくは0.7〜3.8、最も好ましくは0.9〜2.9の範囲内である。酸付加量が0.1質量%より小さいと酸変性ポリオレフィン系樹脂がガラス繊維と結合しづらくなるおそれや、エマルジョン化し難くなるおそれがある。12質量%以上では分子当たりの官能基数が多くなりすぎ、これを用いてガラス繊維を表面処理し強化ポリプロピレン系樹脂を作製しても、その成形品の振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0036】
(c−1)酸付加量の測定方法
酸付加量の測定は、ドデカルコハク酸と濃度調整用のポリプロピレンパウダー(商品名:H−700;出光石油化学(株)製)を用いて、ピーク面積とマレイン酸量との関係式を算出して検量線とする。 次に、酸変性ポリオレフィン系樹脂の試料から、230℃の熱プレスにより、10分余熱後、4分間加圧(5MPa)、冷却プレスにより3分間加圧(5MPa)を行い、厚みが0.1mm程度のフィルムを作製する。
その後、このフィルムの一部(15mm×20mm×0.1mm)をメチルエチルケトン(MEK)100mL中に70℃で3時間浸し、洗浄後、フィルムを取り出し風乾した後、130℃で2時間真空乾燥する。
乾燥後2時間以内に、フィルムのFT−IR透過スペクトルを測定し、FR−IRスペクトルの1670〜1810cm−1におけるピーク面積を計算し、上記検量線と比較して、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂のカルボン酸付加量(MEK不溶分)(b)を求める。
【0037】
(d)本発明のガラス繊維処理用樹脂は、全体として水溶液、エマルジョン、あるいは水分散液の形態で使用されることが好ましい。その場合、特開2003−191236のように、ワックスや界面活性剤等の潤滑剤や帯電防止剤を含有してもよいし、ウレタン樹脂等他の樹脂を併用してもよい。
【0038】
(e)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量分布(Mw/Mn)が、通常2〜10の範囲内、好ましくは2〜6、より好ましくは2.2〜5、特に好ましくは2.4〜4.5、最も好ましくは2.5〜4の範囲内である。分子量分布(Mw/Mn)が2未満だと成形性が悪くなるおそれが有り、10より大きいと極性基を持った低分子量成分が増え振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0039】
(f)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量10,000以下の成分が、通常20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは8%以下である。分子量10,000以下の成分が20%より多いと、極性基を持った低分子量成分が増え、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0040】
(g)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量5,000以下の成分が、通常10%以下、好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下、特に好ましくは3%以下である。分子量5,000以下の成分が10%より多いと極性基を持った低分子量成分が増え、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0041】
(h)フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)で測定した官能基付加量(酸付加量)及びGPCで測定した数平均分子量(Mn)から計算した「1分子当たりの平均官能基数」が、通常1.0〜10個/分子の範囲内、好ましくは1.2〜7、より好ましくは1.4〜5、さらに好ましくは1.6〜4、特に好ましくは1.8〜3の範囲内である。「1分子当たりの平均官能基数」が1.0以下だとエマルジョン化が困難となるおそれがあり、10以上だと複数の結合点が発生して強度が低下するおそれがある。
【0042】
(h−1)「1分子当たりの平均官能基数」の計算方法
1分子当たりの官能基数=(0.01×A/Mr)/(1/Mn)
=0.01×A×Mn/Mr
式中、A:官能基付加量(質量%)
Mr:官能基の分子量
Mn:官能基含有ポリオレフィン系樹脂の数平均分子量
である。
官能基がマレイン酸基(Mr=98)の場合、
1分子当たりの官能基数≒A×Mn/10,000
となる。
【0043】
(i)フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)で測定した酸付加量の測定において、メチルエチルケトン(MEK)にて70℃3時間処理した前後の酸付加量の変化が、1.6質量%以下、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。酸付加量の変化が、1.6質量%より多いと、極性基を持った低分子量成分が増え振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0044】
(j)ゲル量(溶融加圧透過法で5μミリポアフィルターを通過しない量)が、2質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下である。ゲル量が2%より多いとブツ状の欠陥(樹脂中の未溶融物であり、成形品の表面の小さな突起物となり外観を悪化させる)となり外観を悪化させたり、エマルジョン化が困難となるおそれがある。
【0045】
(k)揮発性有機化合物として含まれる、トルエン、キシレン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等の各々の含有量が、通常1000ppm以下、700ppm以下のものが好ましく、300ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、30ppm以下が特に好ましい。揮発性有機化合物の含有量が300ppm以上だと成形品から揮発性有機化合物が発生するおそれがある。
【0046】
(l)黄色度(YI:JIS K7105−1981に準拠し測定)が、通常0〜80の範囲内、好ましくは0〜50、より好ましくは0〜30、特に好ましくは0〜20、最も好ましくは0〜15の範囲内である。黄色度が80以上だと、成形品が黄変し外観が悪化するおそれがある。
【0047】
(m)低分子量成分(キシレン溶融し、スラリー化してアセトンで洗浄し、その洗浄液を濃縮乾固して重量を測定)が、通常8質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量以下、特に好ましくは0.3質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。低分子量成分が8%より多いと、低分子量化のため、衝撃強度が低下したり、極性基を持った低分子量成分が増えたりして振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0048】
(n)揮発分(過剰乾燥前後の重量を比較)が、通常2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下、最も好ましくは0.2質量%以下である。揮発分が2.0%より多いと臭気が発生し商品性を低下させるおそれがある。また、振動疲労強度、引張り強度が低下するおそれがある。
【0049】
(o)示査走査熱量測定装置(DSC)で測定した結晶化温度Tc(C)が、通常80〜130℃の範囲内、好ましくは90〜125℃、より好ましくは100〜122℃さらに好ましくは105〜120℃、特に好ましくは110〜118℃の範囲内である。結晶化温度Tcが80℃より低かったり、130℃より高い場合は、成形品の物性(強度)が十分でないおそれがある。
【0050】
(p)極限粘度(135℃デカリン中で測定)が、通常0.2〜1.8の範囲内、好ましくは0.25〜1.00、より好ましくは0.3〜0.9、さらに好ましくは0.35〜0.7、特に好ましくは0.37〜0.65、最も好ましくは0.4〜0.6の範囲内である。極限粘度が0.2より小さいと、低分子量化のため、衝撃強度が低下したり、極性基を持った低分子量成分が増えたりして、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。また、1.8より大きいと、表面処理をするためのエマルジョン化が難しくなったり、物性が低下するおそれがある。
また、精製処理前後の極限粘度(135℃デカリン中で測定)の増加は、通常0.18以下、好ましくは0.12以下、より好ましくは0.09以下、さらに好ましくは0.06以下、特に好ましくは0.03以下、最も好ましくは0.02以下である。0.18より大きいと低分子極性成分が増え、振動疲労強度や引張り強度が低下するおそれがある。
【0051】
(q)無機系中和剤を、0.001〜0.5質量%の範囲内、好ましくは0.01〜0.1%の範囲内、より好ましくは0.05%含む。無機系中和剤の含有量が0.01質量%以下では触媒残渣により成形機の金型等が腐食するおそれがあり、0.5質量%以上では強度が低下するおそれがある。無機系中和剤としては、特開2003−238748号公報等に記載ものも含み、ハイドロタルサイト類が特に好ましい。
【0052】
(I−4)酸変性ポリオレフィン系樹脂の製造方法
酸変性ポリオレフィン系樹脂(官能基含有ポリオレフィン系樹脂)の製造方法としては、特開平8−143739号公報、特開2002−20560号公報、特開平7−316239号公報、特開平8−127697号公報、特開平7−232324号公報等に記載の公知の方法を使用することができる。
【0053】
製造方式は特に制限されず、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂を製造する場合には、例えば、
(1)有機過酸化物、マレイン酸、ポリプロピレンを溶媒中で反応させる(溶液法)
(2)有機過酸化物、マレイン酸、ポリプロピレンをバンバリーミキサーや押出し機などで溶融混練する(溶融法)
(3)熱分解したポリプロピレンにマレイン酸を反応させる(熱分解法)
等の方法が挙げられ、(1)溶液法や(3)熱分解法では、溶媒や触媒残渣が残り、臭気等の問題が発生するおそれがあるため、上記(2)の溶融法が好ましい。押出機を用いて溶融混練して製造すると、生産性が高く、特に好ましい。
【0054】
前記特性を有する酸変性ポリオレフィン系樹脂を得るには、例えば、ポリプロピレンの分子量(特開2002−20560号公報を参照)、反応温度、マレイン酸及び有機過酸化物の濃度、橋かけ型ポリマー(ポリブタジエン等)の添加(特開平8−143739号公報を参照)により調整することができる。
【0055】
本発明の処理用樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲内で、種々の添加物を加えることができる。このような添加物としては、例えば、酸化防止剤、中和剤、造核剤、滑剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0056】
II.表面処理ガラス繊維
本発明の表面処理ガラス繊維は、上記本発明のガラス繊維処理用酸変性ポリオレフィン系樹脂を含むサイジング剤で処理されており、ガラス繊維の繊維径が3〜30μmの範囲内であることを特徴とする。
【0057】
(II−1)サイジング剤
本発明で用いるサイジング剤は、上記本発明のガラス繊維処理用酸変性ポリオレフィン系樹脂及びシランカップリング剤を含む。
【0058】
本発明で用いるサイジング剤において、上記本発明のガラス繊維処理用樹脂は、処理対象であるガラス繊維を収束させて、取り扱いを容易にし、また、ガラス繊維の破断を生じ難くする機能を有する。シランカップリング剤は、ガラス繊維面とガラス繊維処理用樹脂との結合を強固なものとする機能を有する。
【0059】
本発明で用いるサイジング剤には、中和剤や潤滑剤を加えてもよい。中和剤としてはエチレンジアミンなどアミン類が好ましい(特開2003−253563号公報を参照)。
また、サイジング剤の調整方法としては、平均粒子系3〜10μmのポリオレフィン粒子を利用する(特開2003−277103号公報)、ポリウレタン樹脂エマルジョンと変性ポリプロピレン樹脂エマルジョン等を併用する(特開2000−281391号公報)、アミノ基・アミド基含有化合物く利用する(特表2004−505883)、安定剤等を使用する(特表平09−510427)等の公知な方法を利用できる。
【0060】
(II−2)シランカップリング剤
本発明で用いるシランカップリング剤としては、アミノシランカップリング剤が好ましく、ジアミノシランカップリング剤が特に好ましい。
【0061】
本発明で用いるシランカップリング剤の具体例としては、例えば、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、クロム系、ジルコニウム系、ボラン系カップリング剤等が挙げられるが、これらの中で好ましくはシラン系カップリング剤及びチタネート系カップリング剤であり、特に好ましくはシラン系カップリング剤である。
【0062】
シラン系カップリング剤としては、例えば、トリエトキシシラン、ビニルとリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でもγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類が好適である。
【0063】
また、本発明で用いることができるシランカップリング剤の市販品としては、例えば、下記表1に記載のものが挙げられる。これらはいずれも信越化学工業(株)製である。
これらのうちKBE−903、KBM−603が好ましい。
【0064】
【表1】

【0065】
(II−3)表面処理用樹脂とシランカップリング剤の配合比率
表面処理用樹脂/シランカップリング剤比率(=ガラス繊維処理用樹脂の質量÷シランカップリング剤の質量)は、通常1〜20の範囲、好ましくは2〜10、より好ましくは4〜8、特に好ましくは5〜7の範囲である。この比率が1より小さいとガラス繊維処理用樹脂が不足するため収束性が低下し、ペレット製造時に繊維破断が起きるおそれがあり、20より大きいと、シランカップリング剤が不足し成形品の強度が低下するおそれがある。
【0066】
(II−4)ガラス繊維
本発明で用いるガラス繊維としては、特に制限されないが、C−ガラス又はE−ガラスが好ましく、E−ガラスが特に好ましい。
ガラス繊維の形態は、ロービング・ケーキ・ヤーン等の巻き形態としたものやチョップドストランド、ミルドファイバー、カットファイバー、クロス、マット、テープ等公知の形態をとることができる。繊維長の長い成形品が得やすいことから、巻き形態としたものが好ましく、撚りを掛けていないロービング(ダイレクトロービング)・ケーキ等の形態が特に好ましい。
【0067】
ガラス繊維の繊維径は、通常3〜30μmの範囲内、好ましくは9〜30、より好ましくは11〜30、さらに好ましくは15〜30、特に好ましくは16〜24μmの範囲内である。繊維径が3μmより小さいと繊維が折れやすくなったり、ガラス繊維の製造が困難となりコスト高となるおそれがある。30μmより大きいとアスペクト比が小さくなり、これを用いた繊維強化ポリオレフィン系樹脂からなる成形品の振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0068】
(II−5)サイジング剤とガラス繊維との配合割合
(1)サイジング剤のガラス繊維への付着量(強熱減量、平均値)は、使用するガラス繊維の質量100質量%に対し、0.03〜2.0質量%の範囲内、好ましくは0.05〜1.0、より好ましくは0.2〜0.8、さらに好ましくは0.3〜0.6、特に好ましくは0.3〜0.5、最も好ましくは0.36〜0.44%の範囲内である。サイジング剤のガラス繊維への付着量が0.03質量%より少ないと、カップリング剤の密度が不十分となり成形品の強度が低下するおそれがある。また、ガラス繊維の収束性が低下し繊維破断が起きやすくなるおそれがある。2.0質量%より多いと過剰のカップリング剤が自己縮合を起こし、酸変性ポリプロピレン系樹脂と結合して官能基を失活させ強度が低下するおそれがある。また、工業的にはコストアップとなる。
【0069】
(2)シランカップリング剤のガラス繊維への固着量は、通常0.01〜0.5質量%の範囲内、好ましくは0.03〜0.2質量%、より好ましくは0.04〜0.16質量%、さらに好ましくは0.05〜0.12質量%、特に好ましくは0.06〜0.08質量%の範囲内である。シランカップリング剤の固着量が0.01質量%より少ないと、成形品の強度が低下するおそれがあり、0.5質量%より多いと、長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットの製造時に繊維の破断が増加したり、シランカップリング剤の樹脂への含浸が不十分となったりするおそれがある。また、成形品の強度が低下するおそれがある。
【0070】
(2−1)シランカップリング剤の固着分量の算出方法
シランカップリング剤の固着分量Cは、下記式によって算出する。
シランカップリング剤の固着分量C(質量%)=Ca×(Kc/Ka)
上記式中、
Ka(質量%):サイジング剤中の全固形分量
Kc(質量%):シランカップリング剤の使用量
Ca(質量%):サイジング剤のガラス繊維固着分量
である。
【0071】
(3)サイジング剤のガラス繊維固着分量から計算したガラス繊維表面上のシランカップリング剤の表面密度(N)は、通常1.0×10−5〜12×10−5mol/mの範囲内、好ましくは1.6×10−5〜8.0×10−5、より好ましくは2.4×10−5〜8.0×10−5、さらに好ましくは2.7×10−5〜8.0×10−5、特に好ましくは2.7×10−5〜6.0×10−5、最も好ましくは2.8×10−5〜4.0×10−5mol/mの範囲内である。シランカップリング剤の表面密度(N)が1.0×10−5mol/mより少ないと、ガラス表面の結合点が十分形成されず、成形品の振動疲労強度や静強度が低下するおそれがある。また、12×10−5mol/mよりも多いと、シランカップリング剤同士の縮合反応が増加し、ガラス繊維の界面の強度が低下し、成形品の振動疲労強度や静強度が低下するおそれがある。
【0072】
(3−1)シランカップリング剤の表面密度(N)の算出方法
シランカップリング剤の表面密度(N)は、下記式によって算出する。
【数1】

【0073】
(II−6)ガラス繊維の表面処理方法
本発明の表面処理ガラス繊維は、溶液(一般には水溶液)にしたサイジング剤を、ローラー等で塗布あるいは噴霧した後に、所定の形状に巻き取り乾燥させる等の方法で製造することができる。
ガラス繊維の表面処理方法としては、サイジング処理し収束された繊維束をケーキ巻きにして乾燥(特許第3453393号公報)、チョップドストランドを切断後に直接乾燥させ、又は集めて流動床連続工程式乾燥機で乾燥させる(特表平09−510427号公報)等公知の方法を制限なく利用できる。
生産性及び品質の安定性の観点から、紡糸直後にサイジング処理し、収束された400〜10,000本の繊維からなる繊維束をロービングあるいはケーキ巻きにした後、乾燥させることが好ましい。その場合の乾燥温度は、通常60〜180℃、好ましくは80〜160℃、より好ましくは90〜150℃、特に好ましくは100〜140℃である。
乾燥時間は、通常1〜100時間、好ましくは2〜80時間、より好ましくは3〜60時間、さらに好ましくは6〜40時間、特に好ましくは10〜30時間である。
【0074】
III.繊維強化ポリオレフィン系樹脂
本発明の繊維強化ポリオレフィン系樹脂(以下、本発明の強化樹脂という)は、上記本発明の表面処理ガラス繊維及びポリオレフィン系樹脂を含むことを特徴とする。
【0075】
本発明の強化樹脂は、実質的に上記表面処理ガラス繊維、並びにポリオレフィン系樹脂及び/又は酸変性ポリオレフィン系樹脂を含む。
【0076】
(III−1)表面処理ガラス繊維
本発明の強化樹脂に用いる表面処理ガラス繊維は、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が、50〜6000の範囲内、好ましくは70〜2000、より好ましくは150〜1500、特に好ましくは250〜1200の範囲内である。アスペクト比が50より小さいと成形品の強度が不十分となるおそれがある。6000より大きいと、成形時の流動性が低下するおそれがある。
【0077】
(III−2)ポリオレフィン系樹脂
本発明の強化樹脂に用いるポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン系樹脂、特にプロピレン系単独重合体又はエチレン・プロピレンブロック共重合体が好ましく、プロピレン単独重合体であることが好ましい。
ポリプロピレン系樹脂は、1種単独でも、複数のものを組み合わせてもよいが、有機過酸化物による分解工程を経ていないものが最も好ましい。分解工程を経たものを利用する場合は、使用された有機過酸化物の量がポリプロピレン系樹脂に対して0.5質量部以下のものが好ましく、0.1質量部以下のものがより好ましく、0.05質量部以下のものがさらに好ましく、0.02質量部以下が特に好ましい。0.5質量部を超えるものを用いると、副生成物が増え臭気が発生したり、色相が悪化するおそれがある。
ポリオレフィン系樹脂は、下記特性を有することが好ましい。
【0078】
(i)メルトフローレート(MFR)が、1〜600g/10分の範囲内、好ましくは10〜400、より好ましくは30〜300、さらに好ましくは40〜200g/10分、特に好ましくは50〜150g/10分、最も好ましくは60〜120g/10分の範囲内である。MFRが1g/10分より小さいと成形が困難となるおそれがあり、また繊維強化ポリオレフィン系樹脂の製造が困難となるおそれがある。600g/10分より大きいと靭性が低下したり衝撃強度が低下するおそれがある。
【0079】
(ii)単独重合部(ホモ)の立体規則性(mmmm分率)が、通常90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは96%以上、特に好ましくは98%以上である。単独重合部(ホモ)の立体規則性(mmmm分率)が90%未満だと剛性(曲げ弾性率、引張り弾性率)が不十分となるおそれがある。
【0080】
(iii)示査走査熱量測定装置(DSC)で測定した結晶化温度Tc(B)が、通常80〜130℃の範囲内、好ましくは90〜125℃、より好ましくは100〜122℃、さらに好ましくは105〜120℃、特に好ましくは110〜118℃の範囲内である。結晶化温度Tc(B)が80℃より低かったり、130℃より高い場合は、成形品の物性(強度)が十分でないおそれがある。
【0081】
(iv)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量1,000,000以上の成分が、通常0.5%以上、好ましくは1%以上、特に好ましくは2%以上である。分子量1,000,000以上の成分が0.5%未満では剛性(曲げ弾性率、引張り弾性率)や強度(曲げ強度、引張り強度)が不十分となるおそれがある。
【0082】
(v)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量分布(Mw/Mn)が、通常2〜10の範囲内、好ましくは2〜6、特に好ましくは3〜5の範囲内である。分子量分布(Mw/Mn)が2未満だと成形性が悪くなるおそれが有り、10より大きいと極性基を持った低分子量成分が増加し、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0083】
(vi)無機系中和剤を、0.001〜0.5質量%の範囲内、好ましくは0.01〜0.1%、より好ましくは0.05%含む。無機系中和剤の含有量が0.001質量%以下では触媒残渣により成形機の金型などが腐食するおそれがあり、0.5質量%以上では強度が低下するおそれがある。無機系中和剤としては、特開2003−238748号公報等に記載ものも含み、ハイドロタルサイト類が特に好ましい。
【0084】
(III−3)ポリプロピレン系樹脂の市販品の例
本発明の強化樹脂に用いるポリプロピレ系樹脂の市販品の例としては、前記本発明の処理用樹脂についての説明(I−1)で記載したものと同じものが挙げられる。
【0085】
(III−4)酸変性ポリオレフィン系樹脂
本発明の強化樹脂に用いる酸変性ポリオレフィン系樹脂を製造するための、酸変性前のポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、特にプロピレン単独重合体又はエチレン・プロピレンランダム共重合体が好ましく、特にプロピレン単独重合体が好ましい。
【0086】
ポリオレフィン系樹脂の酸変性に用いる酸としては、本発明の表面処理用樹脂で記載したのと同じものが挙げられる。
【0087】
本発明の強化樹脂に用いる酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂が好ましく、前記本発明の表面処理用樹脂で説明した製造方法によって製造できる。
【0088】
本発明の強化樹脂に用いる酸変性ポリオレフィン系樹脂は、次の特性を有することが好ましい。
【0089】
(I)沸騰メチルエチルケトン(MEK)抽出量が8質量%以下、好ましくは6質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。
MEK抽出量が8質量%より多いと、極性を有する低分子量成分がガラス表面のカップリング剤と結合し、このような酸変性ポリオレフィン系樹脂を用いても、成形品の振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0090】
(II)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)が、10,000〜80,000の範囲内、好ましくは12,000〜70,000、より好ましくは14,000〜60,000、さらに好ましくは16,000〜54,000、特に好ましくは18,000〜48,000、最も好ましくは20,000〜42,000の範囲内である。
数平均分子量(Mn)が10,000より小さいとガラス繊維表面と結合できなかったり、低分子量成分により、成形品の靭性が失われるおそれがある。80,000より大きいと流動性が低下し成形が困難となるおそれがある。
【0091】
(III)フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)で測定した酸付加量(MEK不溶分)が0.1〜12質量%の範囲内、好ましくは0.3〜10質量%、より好ましくは0.4〜8質量%、さらに好ましくは0.5〜2.9質量%、特に好ましくは0.6〜2.9質量%、最も好ましくは0.7〜2.0質量%の範囲内である。
酸付加量が0.1質量%より少ないと成形品の強度が低下するおそれがあり、12質量%より多いと分散不良を起こすおそれがある。
【0092】
(IV)フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)で測定した酸付加量の測定において、「メチルエチルケトン(MEK)にて70℃、3時間処理した前後の酸付加量の変化」が、1.6質量%以下、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。
酸付加量の変化が1.6質量%より多いと極性を有する低分子量成分が多くなるおそれがあり、成形品の振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0093】
(V)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量分布(Mw/Mn)が、通常2〜10の範囲内、好ましくは2〜6、より好ましくは2.2〜5、さらに好ましくは2.4〜4.5、特に好ましくは2.5〜3.5の範囲内である。分子量分布(Mw/Mn)が2未満だと成形性が悪くなるおそれが有り、10より大きいと極性基を持った低分子量成分が増加し、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0094】
(VI)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量10,000以下の成分が、通常20%以下、好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは7%以下である。分子量10,000以下の成分が20%より多いと、極性基を持った低分子量成分が増加し、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0095】
(VII)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量5,000以下の成分が、通常10%以下、好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下、特に好ましくは3%以下である。分子量5,000以下の成分が10%より多いと、極性基を持った低分子量成分が増加し、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0096】
(VIII)フーリエ変換赤外線分光法(FT−IR)で測定した官能基付加量及びガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量から計算した「1分子当たりの平均官能基数」が、通常0.8〜10個/分子の範囲内、好ましくは1.2〜7、より好ましくは1.4〜5、さらに好ましくは1.6〜4、特に好ましくは1.8〜3の範囲内である。「1分子当たりの平均官能基数」が0.8未満だと強度が不十分となり、10を超えると凝集して分散しづらくなる。
「1分子当たりの平均官能基数」の算出方法は、前記したとおりである。
【0097】
(IX)揮発性有機化合物である、トルエン、キシレン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドの含有量が、通常1000ppm以下であり、700ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましく、30ppm以下であることが特に好ましい。揮発性有機化合物の含有量が1000ppmを超えると成形品から揮発性有機化合物が発生するおそれがある。
【0098】
(X)極限粘度(135℃デカリン中で測定)が、通常0.3〜1.8の範囲内、好ましくは0.4〜1.2、より好ましくは0.50〜1.00、さらに好ましくは0.60〜0.95、特に好ましくは0.70〜0.90の範囲内である。極限粘度が0.3より小さいと低分子量化の為衝撃強度が低下したり、極性基を持った低分子量成分が増加したりして、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。また、1.8より大きいと樹脂含浸不良による外観不良が発生するおそれがある。
また、精製処理前後の極限粘度(135℃デカリン中で測定)の増加は、通常0.18以下、好ましくは0.12以下、より好ましくは0.09以下、さらに好ましくは0.06以下、特に好ましくは0.03以下、最も好ましくは0.02以下である。0.18より大きいと、低分子極性成分が増え、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
尚、繊維強化ポリオレフィン系樹脂の(VI)極限粘度は、前記酸変性ポリオレフィン系樹脂の(p)極限粘度よりも大きい方が好ましい。
【0099】
(XI)メルトフローレート(MFR)(ASTM D−1238に準拠して測定、荷重:2.16kg、温度:230℃)が、通常20〜2000の範囲内、好ましくは60〜1500、より好ましくは130〜1000、さらに好ましくは180〜750、特に好ましくは260〜550の範囲内である。メルトフローレートが20より小さいとガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂の製造が困難であるか、又は樹脂の含浸不良による外観不良が発生するおそれがある。2000より大きいと靭性が低下したり衝撃強度が低下するおそれがある。
【0100】
(XII)示査走査熱量測定装置(DSC)で測定した結晶化温度Tc(C)が、通常80〜130℃の範囲内、好ましくは90〜125℃、より好ましくは100〜122℃、さらに好ましくは105〜120℃、特に好ましくは110〜118℃の範囲内である。さらに、好ましくはTc(C)<Tc(B)+5℃、特に好ましくはTc(C)<Tc(B)、最も好ましくはTc(C)<Tc(B)−3℃である。ここで、Tc(B)は、前記本発明の強化樹脂において説明したとおりである。
【0101】
(XIII)残留過酸化物量が、通常1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。残留過酸化物量が1000ppmより多いと成形時の流動性が不安定となるおそれがある。
【0102】
(XIV)黄色度(YI:JIS K7105−1981に準拠し測定)が、通常0〜80の範囲内、好ましくは0〜50、より好ましくは0〜30、特に好ましくは0〜20の範囲内である。黄色度が80以上だと成形品が黄変し外観が悪化するおそれがある。
【0103】
(XV)低分子量成分(キシレン溶融し、スラリー化してアセトンで洗浄し、その洗浄液を濃縮乾固して重量を測定)が、通常8質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。低分子量成分が8%より多いと低分子量化の為衝撃強度が低下したり、極性基を持った低分子量成分が増加したりして、振動疲労強度が不十分となるおそれがある。
【0104】
(XVI)揮発分(過剰乾燥前後の重量を比較)が、通常2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.3質量%以下、最も好ましくは0.2質量%以下である。揮発分が2.0%より多いと臭気が発生し商品性を低下させるおそれがある。また、振動疲労強度、引張り強度が低下するおそれがある。
【0105】
(XVII)ゲル量(溶融加圧透過法で5μミリポアフィルターを通過しない量)が、通常2質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下である。ゲル量が2%より多いとブツ状の欠陥となり外観を悪化指せるおそれがある。
【0106】
(III−5)各成分の配合割合
本発明の強化樹脂中の、(A)表面処理ガラス繊維、(B)ポリオレフィン系樹脂及び(C)酸変性ポリオレフィン系樹脂の配合割合は次のとおりである。
【0107】
(A):[(B)+(C)]が、通常5〜80:95〜20の範囲内、好ましくは10〜70:90〜30、さらに好ましくは30〜59:70〜41、特に好ましくは、35〜55:65〜45の範囲内である。ここで、(B)+(C)は、強化樹脂中の樹脂成分を意味する。(A)表面処理ガラスが5質量%より少ないと補強効果が不十分となるおそれがあり、また分散不良が生じやすくなるおそれがある。80質量%より多いと成形が困難となるおそれがあり、また繊維の固まりが発生し物性低下を起こすおそれがある。また、80質量%より多いと比重が大きくなり過ぎ繊維強化樹脂の特性(比剛性、比強度)が失われるおそれがある。
【0108】
また、(B):(C)が、通常0〜100:100〜0の範囲内であり、好ましくは50〜99.8:50〜0.2、より好ましくは80〜99:20〜1、さらに好ましくは91〜98.4:9.0〜1.6、特に好ましくは93.0〜98.0:7.0〜2.0、最も好ましくは94.2〜97.0:5.8〜3.0の範囲内である。
【0109】
さらに、本発明の強化樹脂で用いる(C)酸変性ポリオレフィン系樹脂の配合量は次のとおりである。
「酸変性ポリオレフィン系樹脂の、ガラス繊維積当たりの量(M)」が、0.5×10−5〜10×10−5mol/mの範囲内、好ましくは0.8×10−5〜6×10−5、より好ましくは1.2×10−5〜6×10−5、さらに好ましくは1.3×10−5〜×10−5、特に好ましくは1.3×10−5〜4×10−5、最も好ましくは1.4×10−5〜3.5×10−5mol/mの範囲内である。「酸変性ポリオレフィン系樹脂の、ガラス繊維表面面積当たりの量(M)」が0.5×10−5mol/mより少ないと酸変性ポリオレフィン系樹脂が不足し振動疲労が低下するおそれがある。10×10−5mol/mより多いとガラス繊維の表面に対して酸変性ポリオレフィン系樹脂が過剰となりガラス繊維に結合できない、遊離の酸変性ポリオレフィン系樹脂によって、剛性や曲げ強度など物性が低下するおそれがある。
【0110】
酸変性ポリオレフィン系樹脂の、ガラス繊維表面積当たりの量(M)と前記したサイジング剤のガラス繊維固着分量から計算したガラス繊維表面上のシランカップリング剤の表面密度(N)との比((M)/(N))が、0.2〜5の範囲内、好ましくは0.3〜3、より好ましくは0.4〜2、さらに好ましくは0.45〜1.5、特に好ましくは0.5〜1.2、最も好ましくは0.6〜1の範囲内である。(M)/(N)が0.2より小さいと酸変性ポリオレフィン系樹脂が不足し振動疲労が低下するおそれがある。5より大きいとガラス繊維の表面に対して酸変性ポリオレフィン系樹脂が過剰となり、ガラス繊維に結合できない、遊離の酸変性ポリオレフィン系樹脂により剛性や曲げ強度等の物性が低下するおそれがある。
【0111】
(III−6)強化樹脂の製造方法
本発明の強化樹脂は、長繊維強化ポリプロピレン系樹脂ペレットであることが好ましく、その製造方法については後述する。
【0112】
本発明の強化樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲内で、種々の添加剤を加えることができる。このような添加剤としては、例えば、分散剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶化促進剤(造核剤)、金属不活性剤等の改質用添加剤;顔料、染料等の着色剤;カーボンブラック、酸化チタン、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、黒鉛等の粒子状充填剤;ワラストナイト、バサル繊維、セルロースファイバー等の短繊維状充填剤、チタン酸カリウム等のウィスカー等の公知の添加剤が挙げられる。
また、衝撃強度を上げるため、各種エラストマーやオレフィン系TPO等のTPO(サーモプラスチックポリオレフィン)を加えることができ、特開2002−3616号公報に記載のようなオレフィン系エラストマーが好ましい。
【0113】
(IV)長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット
本発明の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットは、前記本発明の強化樹脂からなり、ペレット長が2〜200mmの範囲内であり、かつペレット径が0.5〜4.0mmの範囲内であることを特徴とする。ペレット長が2mmより小さいと含まれる繊維の長さが短くなり成形品の強度が低下するおそれがある。200mmより大きいと成形時にホッパーなどで詰まったり、分級したりするおそれがある。
【0114】
なお、ペレット長は、好ましくは3〜20mm、より好ましくは4〜12mm、さらに好ましくは5〜10mm、特に好ましくは6〜9mmの範囲内であり、ペレット径は、好ましくは1.0〜3.0mm、より好ましくは1.5〜2.8mm、特に好ましくは1.8〜2.6mmの範囲内である。
【0115】
(IV−1)長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットの製造方法
本発明の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットは、特許第3234877号公報、文献(成形加工、第5巻、第7号、454(1993))等に記載の方法やその他の公知の方法で製造することができるが、例えば、以下の方法で製造できる。
【0116】
長繊維強化樹脂ペレットは、400〜40,000本の繊維(フィラメント)からなる強化繊維の繊維束を含浸ダイスに導き、フィラメント間に溶融したポリオレフィン系樹脂を含浸させた後、冷却し必要な長さに切断することにより容易に得ることができる。
【0117】
例えば、押出機先端に設けられた含浸ダイス中に、押出機より溶融樹脂を供給する一方、連続状ガラス繊維束を通過させ、ガラス繊維束に溶融樹脂を含浸させた後、ノズルを通して引き抜き、所定の長さにペレタイズする。ポリオレフィン系樹脂、変性剤、有機過酸化物等をドライブレンドして押出機のホッパーに投入し、変性も同時に行いながら供給する方法でもよい。
【0118】
含浸させる方法としては、特に制限はなく、強化繊維のロービングをポリオレフィン系樹脂粉体流動槽中に通して、これにポリオレフィン系樹脂粉体を付着させた後、ポリオレフィン系樹脂の融点以上に加熱してポリオレフィン系樹脂を含浸させる方法(特開昭46−4545号公報)、クロスヘッドダイを用いて強化繊維のロービングに溶融させたポリオレフィン系樹脂を含浸させる方法(特開昭62−60625号公報、特開昭63−132036号公報、特開昭63−264326号公報、特開平1−208118号公報)、樹脂繊維と強化樹脂繊維のロービングとを混繊した後、樹脂の融点以上に加熱して樹脂を含浸させる方法(特開昭61−118235号公報)、ダイ内部に複数のロッドを配置し、これにロービングをじぐざぐ状に巻き掛けて開繊させ、溶融樹脂を含浸させる方法(特開平10−264152号公報)、開繊ピン対の間をピンに接触させずに通過させる方法(WO97/19805号公報)、ローラーによって撚りを与えて含浸させる方法(特開平5−169445号公報)、ガラス繊維とポリオレフィン系樹脂の混合系を作り、加熱する方法(Vetrotex社)、吸気エアーを利用する方法(特開平9−323322号公報)、ガラスフィラメントの直径の変動を一定内に制御する方法(特開2003−192911号公報)等、何れの方法も用いることができる。
また、異形断面(楕円形、まゆ型、扁平)ガラス繊維を用いると、含浸性が向上し好ましい。
【0119】
(V)ドライブレンド混合物
本発明のドライブレンド混合物は、前記本発明の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット及び熱可塑性樹脂をドライブレンドしたことを特徴とする。
【0120】
本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂やポリオレフィン系エラストマーやプラストマーが好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましく、特にマレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂を含んだポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0121】
熱可塑性樹脂として用いるポリオレフィン系樹脂及びマレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂は、前記本発明の繊維強化ポリオレフィン系樹脂の説明に記載したものと同様のものを使用することができる。
【0122】
本発明のドライブレンド混合物における、長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット:熱可塑性樹脂の配合割合は、通常99.5:0.5〜10:90の範囲内、好ましくは95:5〜15:85、より好ましくは90:10〜20:80の範囲内である。
【0123】
長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットと熱可塑性樹脂のドライブレンドは、タンブラー、リボンミキサー等の公知の装置を用いて行うことができる。また、成形機上でブレンド(直上混合)してもよい。
【0124】
(VI)長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットの製造方法
本発明の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットの製造方法(以下、本発明の製造方法という)は、上記本発明のガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂を含有するサイジング剤で一旦サイジング処理された繊維束の連続物を引きながら、オレフィン系樹脂成分を該繊維束中に含浸させ、組成物中に5〜80質量%のガラス繊維を含有させることを特徴とする。
【0125】
本発明の製造方法によって製造される長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットは、組成物中に5〜80質量%、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは30〜59質量%、特に好ましくは35〜55質量%のガラス繊維を含有する。5質量%より少ないと剛性が十分に得られず、また、物性がばらつくおそれがある。80質量%より多いと流動性が低下し、成形が困難となるおそれがある。
【0126】
本発明の製造方法をより具体的に説明する。
溶融したガラスをブッシング等を通し繊維化した後、上記本発明のガラス線処理用ポリオレフィン系樹脂及びシランカップリング剤を含むサイジング剤を塗布し収束させ繊維束(通常400〜10,000本発明の繊維(フィラメント)からなる)とする。
この繊維束を乾燥させ、表面処理ガラス繊維とする。乾燥は、一旦ロービングやケーキ等の形態に巻き取ってから行っても、連続して行ってもよい。また、乾燥条件は通常60〜180℃の範囲内、好ましくは80〜160℃、より好ましくは100〜140℃、特に好ましくは110〜130℃の範囲内である。上記温度範囲内であれば、カップリング剤の結合が無理なく行われ、界面の強度が出やすい。
【0127】
作製した表面処理ガラス繊維の繊維束を含浸ダイス(含浸箱)に導き、フィラメント間に溶融したポリオレフィン系樹脂を含浸させる。ポリオレフィン系樹脂中には、酸変性ポリオレフィン系樹脂を含んでいてもいなくてもよいが、0.2〜50質量%の範囲内で含んでいることが好ましく、1〜20質量%がより好ましく、1.6〜9.0質量%がさらに好ましく、2.0〜7.0質量%が特に好ましく、3.0〜5.8質量%含んでいることが最も好ましい。50質量%以上含んでいると含浸ダイ等金属部との接着性が発生して繊維束が切れやすくなるおそれがある。
【0128】
含浸ダイ内の樹脂の滞留時間(=ダイ容積÷樹脂流入量)は、適宜選択すればよいが、通常0.5〜120分の範囲内であり、0.5〜60分の範囲内が好ましく、1〜30分がより好ましく、1.5〜20分がさらに好ましく、2〜15分の範囲内が特に好ましい。0.5分未満では樹脂が十分含浸せず、成形品中で分散不良を起こし、成形品の振動疲労強度が低下するおそれがある。120分より長いと、樹脂が劣化するおそれがある。
繊維束の含浸ダイ内の通過時間は、適宜選択すればよいが、0.3〜30秒の範囲内が好ましく、0.5〜15秒がより好ましく、1.0〜10秒がさらに好ましく、1.5〜6秒が特に好ましい。0.3秒より短いと樹脂が十分含浸せず、成形品中で分散不良を起こし、成形品の振動疲労強度が低下するおそれがある。30秒以上では、ガラス繊維の表面処理が劣化したり、樹脂の滞留時間がながくなったりして、成形品の振動疲労強度が低下するおそれがある。
【0129】
本発明のガラス繊維処理用ポリオレフィン系樹脂において説明した沸騰MEK可能分を除去する方法のように、脱気で揮発性低分子量極性成分を減らすことができる。特に長繊維強化ポリオレフィン系樹脂の製造時に脱気する場合は、含浸ダイス(含浸箱)に開口部を設け、含浸ダイス(含浸箱)内に一定時間以上滞留させ低分子量成分を揮発させることが好ましい。開口部の面積は、通常合計で1cm以上、好ましくは4cm以上、より好ましくは12cm以上、さらに好ましくは36cm以上、特に好ましくは100cm以上である。樹脂の平均滞留時間は、通常3〜120分の範囲内、好ましくは6〜90分、より好ましくは8〜60分、さらに好ましくは9〜45分、特に好ましくは10〜30分の範囲内である。3分より短いと脱気が不十分となるおそれがあり、120分より長いと樹脂が劣化するおそれがある。
尚、開口部は、繊維の引入れ口と兼用してもよい。
【0130】
開口部は直接大気と接しても、不活性ガス(窒素ガス等)と接していても、真空(減圧)引きしてもよい。樹脂劣化を低減するため、不活性ガスと接しているか、真空(減圧)引きすることが好ましく、脱気効率から真空(減圧)引きするのがより好ましい。
また、押出機を用いて樹脂を溶融して含浸ダイス(含浸箱)に送り込む場合、ベント付き押出機を用いることが好ましい。
【0131】
ポリオレフィン系樹脂を含浸させた繊維束を、含浸ダイス(含浸箱)から引き出し、冷却して樹脂を固化させ、所望の長さに切断することによって長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットを得る。
【0132】
(VII)成形品
本発明の成形品は、前記本発明の繊維強化ポリオレフィン系樹脂、長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット又はドライブレンド混合物を成形して得られることを特徴とする。
【0133】
本発明の成形品中のガラス繊維の平均残存繊維長は、通常0.4mm以上、好ましくは0.8mm以上、より好ましくは1.2mm、さらに好ましくは1.6mm以上、特に好ましくは1.8mm以上である。成形品中のガラス繊維の平均残存繊維長が0.4mmより短いと成形品の強度が低下するおそれがある。
成形品のトルエン、キシレン、アセトアルデヒドの各々の発生量は、通常300μg/m以下、好ましくは100μg/m以下、より好ましくは50μg/m以下、さらに好ましくは40μg/m以下、特に好ましくは30μg/m以下、最も好ましくは20μg/m以下である。300μg/mより多いと臭気が悪くなるおそれがある。
【0134】
(VII−1)成形品の成形方法
本発明の成形品の成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0135】
成形方法としては、射出成形法、射出圧縮成形法、圧縮成形法、ガス注入射出成形、発泡射出成形、膨張成形法、押出し成形法、中空成形法等の公知の方法を何ら制限なく使用できる。なかでも、生産性や品質安定性の点から射出成形機を用いる成形法が好ましい。
また、本発明の表面処理ガラス繊維を用いて、マット(ガラスマットシート)やプレプリグを経て成形品を得たり、成形Plastics Info World 11/2002 P20-35に記載されているようなインラインコンパウンド、直接コンパウンディング等の射出コンパウンディングで成形品を得ることもできる。
生産性や品質安定性の点から、樹脂ペレット、特に長繊維強化樹脂ペレットあるいはそのブレンド物を経て成形品を得ることが好ましい。
【0136】
(VII−2)成形品の特性
(1)振動疲労強度
図2に示す形状の試験片(成形品)を樹脂温度240℃、型温度40℃の成形条件で作製し、一定条件下、振動疲労引張り(片振りモード)で、試験片が破断するまでの振動回数を測定することにより求める。
【0137】
(2)引張り破壊応力
JIS K 7161−1994に準拠して測定する。
【0138】
(3)トルエン、キシレン及びホルムアルデヒド発生量
加熱発生ガスのガスクロマトグラフィー(GC)を測定することによって得られる。ガスクロマトグラフィーでの測定条件は次の通りである。
トランスファーライン温度:300℃
TDS熱抽出温度:80℃(30分)
カラム:HP−SMS
キャリアガス:He、31cm/sec
検出器(FID)温度:330℃
【実施例】
【0139】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0140】
製造例1:ガラス繊維処理用酸変性ポリプロピレン系樹脂
(1)マレイン酸変性ポリプロピレン(EM)の製造
(1−1)変性方法−1:溶融法(EM−1〜9、EM−11及びEM−12)
下記表2に示すように、ベント付き二軸押出し機に、ポリプロピレン、マレイン酸及び有機過酸化物を投入し、所定条件で溶融混練してマレイン酸変性ポリプロピレンを製造した。
得られたマレイン酸変性ポリプロピレン中に含まれる沸騰メチルエチルケトン抽出可能成分を、下記の精製方法又は洗浄方法によって除去した。
【0141】
(1−2)精製方法(EM−1〜8)
上記で得られたマレイン酸変性ポリプロピレンを、p−キシレン中で攪拌しながら加熱(130℃程度)して完全に溶解させ、この溶液をメチルエチルケトンに投入して再沈殿させた。濾過後、真空乾燥(130℃×6時間)させた。
【0142】
(1−3)洗浄方法(EM−9及び11)
上記で得られたマレイン酸変性ポリプロピレン1kgを、10リットルのオートクレーブ中のアセトン(3リットル)/ヘプタン(3リットル)混合溶液中で85℃×2時間洗浄後、一旦、液を抜出し、10リットルのアセトン中で12時間放置した。液抜き後、130℃で6時間真空乾燥した。
【0143】
(1−4)溶液法(EM−10)
EM−10については、ポリプロピレン単独重合体(J−700G;出光石油化学(株)製、MFR=7g/10分)100phr、ポリブタジエン(ポリbd R−45HT;出光石油化学(株)製)2phr、無水マレイン酸((株)日本触媒製)10phr、ジ−t−ブチルパーオキサイド(パーブチルD、有機過酸化物;化薬アクゾ(株)製)0.4phrを、4リットルのオートクレーブ中(トルエン)に仕込み、145℃まで昇温し反応させた。冷却後、2リットルのメチルエチルケトンに抜出した樹脂を、遠心分離にて分離した。常温のメチルエチルケトンを噴霧して洗浄後、60℃×24時間真空乾燥させた。
【0144】
(1−5)EM−12については、沸騰メチルエチルケトン抽出可能成分の除去を行わなかった。
【0145】
(1−6)EM−13は、マレイン酸変性ポリプロピレンの市販品である、ユーメックス1010(三洋化成(株)製)をそのまま用いた。
【0146】
(2)マレイン酸変性ポリプロピレンの物性評価
EM−1〜13について、下記物性を測定し、得られた結果を下記表3に示す。
【0147】
(2−1)数平均分子量(Mn)
数平均分子量は、特開平11−71431号公報に記載の方法に準拠して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法でポリスチレン基準の分子量分布曲線から求めた。測定条件は、以下の通りである。
検量線:Universal Calibration
カラム:TOSOH GMHHR−H(S)HT 2本
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
温度:145℃
流速:1.0mL/min
検出器:RI(Waters alliance GPC2000)
解析プログラム:HTGPC(v 1.00)
【0148】
(2−2)沸騰メチルエチルケトン(MEK)抽出量
上記EMのサンプルを、すり鉢で粉砕した後、ソックスレー抽出機を用い沸騰メチルエチルケトンで6時間抽出を行い抽出物の質量を測定した。
「(抽出物の質量)/(元のサンプルの質量)」(質量%)を沸騰メチルエチルケトン抽出量とした。
【0149】
(2−3)全マレイン酸付加量(a)
ドデカルコハク酸と濃度調整用のポリプロピレンパウダー(商品名:H−700;出光石油化学(株)製)を用いて、ピーク面積とマレイン酸量との関係式を算出して検量線とした。
【0150】
上記EMから、230℃の熱プレスにより、10分余熱後、4分間加圧(5MPa)、冷却プレスにより3分間加圧(5MPa)を行ない、厚みが0.1mm程度のフィルムを作成した。
【0151】
フィルム作成後2時間以内に、フィルムのFT−IR透過スペクトルを測定し、FT−IRスペクトルの1670〜1810cm−1のピーク面積を計算し、上記で作成した検量線と比較して全マレイン酸付加量(a)を求めた。
【0152】
(2−4)マレイン酸付加量(b)(メチルエチルケトン不溶分)
ドデカルコハク酸と濃度調整用のポリプロピレンパウダー(商品名:H−700;出光石油化学(株)製)を用いて、ピーク面積とマレイン酸量との関係式を算出して検量線とした。
【0153】
上記EMから、230℃の熱プレスにより、10分余熱後、4分間加圧(5MPa)、冷却プレスにより3分間加圧(5MPa)を行ない、厚みが0.1mm程度のフィルムを作成した。
【0154】
上記フィルムの一部をメチルエチルケトン(MEK)にて70℃で3時間洗浄後、110℃で2時間真空乾燥した。
【0155】
乾燥後2時間以内に、フィルムのFT−IR透過スペクトルを測定し、FT−IRスペクトルの1670〜1810cm−1のピーク面積を計算し、上記で作成した検量線と比較して「マレイン酸付加量(b)(MEK不溶分)」を求めた。
【0156】
(2−5)低分子カルボン酸基含有成分量(a)−(b)(=MEKにて70℃、3時間処理した前後の酸付加量の変化量)
上記(2−3)で求めた全マレイン酸付加量(a)から上記(2−4)で求めたマレイン酸付加量(b)(MEK不溶分)を引いて、「低分子カルボン酸基含有成分量(=MEKにて70℃、3時間処理した前後の酸付加量の変化量)」を求めた。
【0157】
(2−6)極限粘度(η)
135℃のデカリン中で測定した。
【0158】
(2−7)分子量10,000未満の成分量(質量%)
特開平11−71431号公報に記載の方法に準拠して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法でポリスチレン基準の分子量分布曲線から求めた。測定条件は以下の通りである。
検量線:Universal Calibration
カラム:TOSOH GMHHR−H(S)HT 2本
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
温度:145℃
流速:1.0mL/min
【0159】
(2−8)1分子当たりのマレイン酸基数
官能基(マレイン酸基)付加量A(質量%)、官能基の分子量Mr(マレイン酸基:Mr=98)及び酸変性ポリプロピレン系樹脂の数平均分子量Mnとして、
1分子辺りの官能基数=(0.01×A÷Mr)÷(1÷Mn)
=0.01×A×Mn/Mr
≒A×Mn/10,000
となる。
【0160】
(2−9)揮発性有機物発生量(ppm)
加熱発生ガスのガスクロマトグラムを測定して、トルエン、キシレンの発生量を求めた。測定条件は以下の通りである。
トランスファーライン温度:300℃
TDS熱抽出温度:80℃(30分)
カラム:HP−SMS
キャリアガス:He、31cm/sec
検出器(FID)温度:330℃
【0161】
【表2】

【0162】
表2中の、ポリプロピレン及び有機過酸化物は、下記のとおりである。
ポリプロピレン:
A:H−100M;出光石油化学(株)製;MFR=0.5g/10分
B:H−700;出光石油化学(株)製;MFR=8g/10分
有機過酸化物:
C:PC14/40C;化薬アクゾ(株)製
D:AD−2;化薬アクゾ(株)製
E:パーカドックス14;化薬アクゾ(株)製
【0163】
【表3】

【0164】
製造例2:表面処理ガラス繊維(GFEM)の製造
直径17μmのE−ガラス繊維(比重2.55g/cm)を、下記表4に示すとおり、上記製造例1で製造したガラス繊維処理用マレイン酸変性ポリプロピレン及びシランカップリング剤を含むサイジング剤で処理した後、加熱乾燥し、ロービングとした。
【0165】
【表4】

【0166】
表4中のシランカップリング剤は、下記のとおりである。
CP−1:3−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE−903;信越化学(株)製;分子量221.4、最小被覆面積353m/g)
CP−2:N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−603;信越化学(株)製;分子量222.4、最小被覆面積351m/g)
【0167】
製造例3:長繊維強化ポリプロピレン系樹脂ペレット(GFMB)の製造
上記製造例2で製造した表面処理ガラス繊維を用い、図1に示す製造装置により、下記表5に示すとおり、下記製造条件で、ペレット長8mm、ペレット平均径(直径)2.1mmの長繊維強化ポリプロピレン系樹脂ペレットを製造した。
【0168】
<製造条件>
引取り速度:25m/分
余熱温度:200℃
樹脂温度:260℃
冷却温度:35℃
ダイス径:2.3φ
【0169】
【表5】

【0170】
表5中のポリプロピレン及び変性ポリプロピレンは下記のとおりである。
ポリプロピレン:
PP−1:J−3000GV(出光石油化学(株)製)(100%)と有機過酸化物パーカドックス14(化薬アクゾ(株)製)(0.02%)を、2軸押出し機で、200℃で溶融混練して作製;MFR=120
PP−2:H−50000(出光石油化学(株)製;MFR=500)(50%)/J−3000GV(50%)を、2軸押出し機で、200℃で溶融混練して作製;MFR=120
【0171】
変性ポリプロピレン:
長繊維強化ポリプロピレン系樹脂ペレットの製造に用いたマレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂(MPP)の製造方法を、下記表6に示す。マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂の製造方法及び沸騰メチルエチルケトン抽出成分の除去方法の詳細は、前記製造例1と同様である。また、マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂(MPP)の物性を表7に示す。各種物性の測定方法等は、上記製造例1(2)に記載したとおりである。
【0172】
【表6】

【0173】
表6中の、ポリプロピレン及び有機過酸化物は、下記のとおりである。
ポリプロピレン:
A:H−100M;出光石油化学(株)製;MFR=0.5g/10分
B:H−700;出光石油化学(株)製;MFR=8g/10分
有機過酸化物:
C:PC14/40C;化薬アクゾ(株)製
D:AD−2;化薬アクゾ(株)製
E:パーカドックス14;化薬アクゾ(株)製
【0174】
【表7】

【0175】
実施例1〜27及び比較例1〜3
下記表8に記載の配合割合で、製造例3で製造した長繊維強化樹脂ペレット(GFMB)を用い、下記条件で成形品サンプルを作製し、成形品の下記物性を測定した。結果を表8に示す。
【0176】
<成形品の物性測定方法>
(1)振動疲労強度(回数):
図2に示す形状(R=50の射出ダンベル)の試験片(成形品)を、樹脂温度240℃、型温度40℃の成形条件で作製し、下記装置及び測定条件に従い、振動疲労引張り(片振りモード)で、破断するまでの振動回数を測定することによって求めた。
<使用装置及び測定条件>
使用装置:島津サーボパルサEHF−ED10KN−10L型((株)島津製作所製)
チャック間距離:60mm
温度:23℃
周波数:10Hz
最大応力(=応力振幅×2):80MPa
【0177】
(2)引張り破壊応力:
JIS K 7161−1994に準拠して測定した。
【0178】
(3)トルエン、キシレン及びアセトアルデヒド発生量(μg/m):
小型チャンバー法(JIS A 1901:2003)に準じて測定した。
【0179】
【表8】

【0180】
表8中の記号は下記の通りである。
希釈樹脂:
PP−3:J−3000GV、出光石油化学(株)製、MFR=30
PP−4:J−6083HP、出光石油化学(株)製、MFR=60
M−MB:上記PP−3(80質量部)及び前記表6に記載の変性ポリプロピレンMPP−1(120質量部)を、ベント付き2軸押出し機を用いて、200℃で溶融混練して作製
【0181】
表8の結果から、本発明の表面処理用樹脂を用いて製造された表面処理ガラス繊維を含む繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットから製造された成形品は、振動疲労強度(80MPa、10Hz)は、5,000回以上となっていることがわかる。
80MPaでの振動疲労強度が5,000回は、35MPaでは10回(=1,000万回)に相当し、10回は、車両の寿命レベルに相当する。従って、本発明によれば、ほぼ車両の寿命まで35MPaの振動疲労に耐えることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物から製造された成形品は、振動疲労強度が飛躍的に改善されており、長期に渡って高い信頼性を保持しうる。
【0183】
本発明のガラス繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物は、自動車部品(フロントエンド、ファンシェラウド、クーリングファン、エンジンアンダーカバー、エンジンカバー、ラジエターボックス、サイドドア、バックドアインナー、バックドアアウター、外板、ルーフレール、ドアハンドル、ラゲージボックス、ホイールカバー、ハンドル、クーリングモジュール、エアークリーナー部品、エアークリーナーケース、ペダル)、二輪・自転車部品(ラゲージボックス、ハンドル、ホイール)、住宅関連部品(温水洗浄弁座部品、浴室部品、椅子の脚、バルブ類、メーターボックス)、その他(洗濯機部品や洗濯乾燥機部品(バランスリング、脱水受けカバー、脱水受け、排気口ガイド等)、電動工具部品、草刈り機ハンドル、ホースジョイント、樹脂ボルト、コンクリート型枠)を製造するのに有用であり、特にラゲージボックス・サイドドア・エアクリーナーケース・バックドアインナー・フロントエンドモジュール(ファンシェラウド・ファン・クーリングモジュールを含む)等の自動車部品、メーターボックス・配電盤・エンジンカバーを製造するのに最適である。
【図面の簡単な説明】
【0184】
【図1】製造例3で用いた長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットの製造装置の模式図である。
【図2】実施例及び比較例における、振動疲労強度を測定するための試験片の形状を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)沸騰メチルエチルケトン抽出量が8質量%以下であり、
(2)ガスパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(Mn)が6,000〜48,000の範囲内であり、かつ、
(3)フーリエ変換赤外線分光法で測定した酸付加量が0.1〜12質量%の範囲内である、ガラス繊維処理用酸変性ポリオレフィン系樹脂。
【請求項2】
マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂である、請求項1に記載のガラス繊維処理用酸変性ポリオレフィン系樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂を含むサイジング剤で処理された、ガラス繊維の繊維径が3〜30μmの範囲内である表面処理ガラス繊維。
【請求項4】
請求項3に記載の表面処理ガラス繊維を含む、ガラス繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が50〜6000である繊維強化ポリオレフィン系樹脂。
【請求項5】
ポリプロピレン系樹脂である、請求項4に記載の繊維強化ポリオレフィン系樹脂。
【請求項6】
請求項3に記載の表面処理ガラス繊維を用いたペレット長2〜200mmの長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット。
【請求項7】
樹脂成分中に0.2〜50質量%の酸変性ポリオレフィン系樹脂を含む請求項6に記載の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット。
【請求項8】
ポリプロピレン系樹脂である、請求項6又は7に記載の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレット。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットと熱可塑性樹脂とをドライブレンドしたドライブレンド混合物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である請求項9に記載のドライブレンド混合物。
【請求項11】
熱可塑性樹脂が、マレイン酸変性樹脂を含んだポリオレフィン系樹脂である、請求項9又は10に記載のドライブレンド混合物。
【請求項12】
ポリプロピレン系樹脂100質量部、一分間半減期(t1/2)80〜260℃の有機過酸化物0.01〜20質量部、及び不飽和カルボン酸0.1〜30質量部を、シリンダー温度100〜230℃で溶融反応させた後、脱気・洗浄・精製のうち1以上の低分子極性成分の除去(削減)処理を行なう酸変性ポリプロピレン系樹脂の製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂を含有するサイジング剤で一旦サイジング処理された繊維束の連続物を引きながら、オレフィン系樹脂成分を該繊維束中に含浸させ、組成物中に5〜80質量%のガラス繊維を含有させる、長繊維強化ポリオレフィン系樹脂ペレットの製造方法。
【請求項14】
請求項4〜11のいずれかに記載の繊維強化ポリオレフィン系樹脂、長繊維強化樹脂ペレット又はドライブレンド混合物を成形してなる成形品。
【請求項15】
平均残存繊維長が0.4mm以上である、請求項14に記載の成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−117839(P2006−117839A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308485(P2004−308485)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】