説明

クランク機構、スイングレバー型バルブ及び内燃機関

【課題】アクチュエータ等の直線移動部材の直線運動の移動量に応じて、単位移動量に対する回転軸の回転角度の大きさと伝達される回転トルクの大きさとを段階的に変化させることができるクランク機構を提供する。
【解決手段】回転軸14に固定又は枢支した回転レバー13に受動部13a,13bを設けると共に、駆動部側の直線移動部材18の直線運動を前記受動部13a,13bを介して前記回転軸14の回転運動に変換するクランク機構において、前記受動部13a,13bを前記回転軸14の中心14cとの距離Laを変化させて複数設け、前記直線移動部材18の直線運動の移動量S1に応じて、前記複数の受動部13a,13bの内から力を伝達する受動部を選択し、この選択した受動部のみで前記直線移動部材18と前記回転レバー13の間で力を伝達させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ等の直線運動の単位移動量に対する回転角度の大きさと力に対する回転トルクの大きさの割合を段階的に変更できるクランク機構と、このクランク機構を備えたスイングレバー式バルブと、このスイングレバー式バルブを備えた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載されるエンジン(内燃機関)の2ステージターボシステム(2段過給システム)では、図10に示すように、エンジン(E)1の排気マニホールド2に接続して高圧段ターボチャージャ3を設けると共に、排気マニホールド2と高圧段ターボチャージャ3のタービン3tの出口の合流部に排気切替バルブ10Xを設け、この排気切替バルブ10Xの下流に低圧段ターボチャージャ4のタービン4tを連結している。
【0003】
これらのタービン3t、4tの作動に関しては、2ステージターボシステムでは、次のように、高圧段排気調整バルブ3vと排気切替バルブ10Xの弁開度を制御することで、高圧段タービン3tと低圧段タービン4tの仕事を分配し、それぞれの仕事量を調整している。
【0004】
排気切替バルブ10Xが閉じている段階では、高圧段排気調整バルブ3vが全閉の時に排気ガスGの全量が高圧段タービン3tを通って仕事をし、その後、低圧段タービン4tに入って仕事をする。そして、高圧段排気調整バルブ3vが開き出すと、排気ガスGの一部が高圧段タービン3tを迂回して直接低圧段タービン4tに流入するようになるので、高圧段タービン3tの仕事量は減り、低圧段タービン4tの仕事量が増える。
【0005】
更に、排気切替バルブ10Xが開き始めると、低圧段タービン4tの仕事量が増える。そして、排気切替バルブ10Xが全開になると、排気ガスGの全量が高圧段タービン3tを迂回して低圧段タービン4tに流れ、高圧段タービン3tは仕事をしないで、低圧段タービン4tだけが仕事をすることになる。
【0006】
この排気切替バルブ10Xは、高圧段タービン3tが仕事をしている時は閉弁され、排気マニホールド2内の高いガス圧をシールする。また、排気切替バルブ10Xは、低圧段タービン4tが仕事をしている時には開弁されるが、この開弁時は、高負荷運転時に相当し、800℃近い排気ガスGの全量がこの排気切替バルブ10Xを流れるので、この排気切替バルブ10Xのバルブ部分は、高温の排気ガスの流れに直接曝されることになる。
【0007】
図11に、従来技術の排気切替バルブ10Xの構造を示す。図11に示すように、この排気切替バルブ10Xは、スイングレバー式バルブであり、アクチュエータ11とその受圧面11bに接続された第1リンク12と、この第1リンク12にピン12aで連結する回転レバー13と、この回転レバー13が固定された回転軸14と、この回転軸14に固定された第2リンク15と、第2リンク15の先に固定された弁体16と、この弁体16が当接してシールを行う弁座17とを有して構成される。
【0008】
そして、この排気振替バルブ10Xが閉弁されている時は、アクチュエータ11の内部に設置されたスプリング11aの付勢力F1により第1リンク12は、図2の下方向に力F1を与え、回転レバー13を押し下げて、回転軸14を図2の反時計回りの回転トルクR1を作用させる。この回転トルクR1は回転軸14と一体化した第2のリンク15を介して弁体16を図2の右方向に力F2で弁座17に押し付ける。この弁座17に押し付けた弁体16により、排気切替バルブ10の高圧側P1と低圧側P2を隔てるシールを形成する。この弁体16でシールするための力F2は高圧側のガス圧P1と低圧側のガス圧P2の差(バルブシール面前後のガス圧Pg)に係数k(kは1以上)を掛けた数値(k(P1−P2))を超える値に設定される。つまり、この力F2が、F2=F1×La/Lb>k(P1−P2)になるようにする。
【0009】
この排気切替バルブ10Xを開弁する場合は、アクチュエータ11の上部に負圧(P3<P4)を導入し、アクチュエータ11内の受圧面11bで仕切られた下室11cと上室11dとの圧力差(P4−P3)で内部の受圧面11bをスプリング11aを縮める方向に動かし、受圧面11b及び第1リンク12の上方向移動により排気切替バルブ10Xの弁体16を開弁する。排気切替バルブ10Xの弁開度αは、受圧面11bと第1リンク12の上下動の移動量S1により調整される。この従来技術の排気切替バルブ10Xの構造では、受圧面11bと第1リンク12のストロークS1と弁開度αは、図12に示すように直線関係になる。
【0010】
この2ステージターボシステムでは、高圧段ターボチャージャ3tを使用する時に、排気マニホールド2内(高圧段タービン入口)のガス圧P1が非常に高い値となるので、これをシールするためには、弁体16を弁座17に押圧する力F2を大きくする必要がある。この大きな力F2を得る方法には、アクチュエータ11のスプリング11aの付勢力F1を大きくする方法と、図11の回転レバー13のレバー長さLaを大きくする方法とがある。
【0011】
しかしながら、前者の場合は、アクチュエータ11の作動力を大きくするためにアクチュエータ11が大型化し、また、後者の場合も、弁開度αを確保するために、アクチュエータ11の移動量を大きくする必要があるので、アクチュエータ11が大型化する。
【0012】
つまり、後者の場合、図13及び図14に示すように、回転レバー13のレバー長さLaを長く取るほど、弁体16を弁座(シール面)17に押し付ける力(シール力)F2は大きくなるが、アクチュエータ11のストローク量S1に対する回転軸14の回転角度αは少なくなる。この回転軸14の回転角度(弁開度)αを充分に取ることができないと、図15に示すように、ガス流れGfは弁体16のバルブ面16fに当たり、大きな圧力損失が発生するので、エンジン1の排気マニホールド2の内圧が上がり、燃費等のエンジン性能が悪化するという問題が生じる。
【0013】
この回転角度をα大きくするためにはアクチュエータ11のストロークS1を大きくする必要があるが、従来技術の構造のままで、ストロークS1を大きくしようとすると、アクチュエータ11も大型化する。この従来技術の構造では、小さいアクチュエータ11を用いて高いシール力F2を得ることと,弁体16の大きな弁角度αを得ることは相反するため、所定の弁開度αを確保しようとすると、アクチュエータ11が大型化し、コストの高いものとなってしまう。
【0014】
なお、上記のようなスイングレバー式バルブの構造の例としては、使用場所が、排気切替バルブではなく、図10に示す高圧段排気調整バルブ3vに相当するが、ダイヤフラムの動作によって開閉するスイングバルブがある(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【特許文献1】特開昭58−178825号公報
【特許文献2】特開昭60−88824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、アクチュエータ等の直線移動部材の移動量(ストローク)に応じて、単位移動量に対する回転軸の回転角度の大きさと、力に対する伝達される回転トルクの大きさの割合とを段階的に変化させることができるクランク機構を提供することにある。
【0016】
また、更なる目的は、このクランク機構で、排気切替バルブを駆動するアクチュエータと排気切替バルブの回転軸とを接続して、この回転軸に回転トルクを与える回転レバーのレバー長さを、全閉時には長く取ってバルブのシール力を高め、弁開時にはレバー長さを短く取って、アクチュエータの移動量に対する回転軸の回転角度を大きすることにより、小型で低コストのアクチュエータを用いても、高いシール力の発生と弁開度(作動)の広い範囲の確保とを両立させることができるスイングレバー型バルブを提供することにある。
【0017】
また、更なる目的は、このスイングレバー型バルブの使用により、内燃機関の2ステージターボシステムの排気切替バルブのシールに関する信頼性を向上することができ、2ステージターボシステムの本来の目的である低燃費、低エミッションを実現することができる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記のような目的を達成するためのクランク機構は、回転軸に固定又は枢支した回転レバーに受動部を設けると共に、駆動部側の直線移動部材の直線運動を前記受動部を介して前記回転軸の回転運動に変換するクランク機構において、前記受動部を前記回転軸の中心との距離を変化させて複数設けると共に、前記直線移動部材の直線運動の移動量に応じて、前記複数の受動部の内から力を伝達する受動部を選択し、この選択した受動部のみで前記直線移動部材と前記回転レバーの間で力を伝達させると共に、選択外の受動部では前記直線移動部材と前記回転レバーの間で力を伝達させないように構成する。
【0019】
この構成によれば、直線移動部材の直線運動の移動量に応じて、直線運動部材との間で力を伝達する受動部が変化し、力の作用点となる受動部と回転軸の中心との距離(レバー長さ)が変化するので、直線移動部材の直線運動の移動量に応じて、単位移動量に対する回転角度の大きさと、力の大きさに対する伝達される回転トルクの大きさを段階的に変化させることができる。
【0020】
また、上記のクランク機構において、前記受動部を前記回転レバーに固定したピンで形成すると共に、該ピンに係合する前記直線移動部材側のガイド部を、前記直線移動部材と前記回転レバーの間で力を伝達させている間は、前記選択された受動部の前記ピンと摺動するように形成し、前記直線移動部材と前記回転レバーの間で力を伝達させていない間は、前記選択された受動部の前記ピンとの間に隙間を設けて摺動しないように形成して構成すると、比較的簡単な構成で、受動部とガイド部を構成できる。なお、ここで「摺動させる」とは、互いに接触しながら、力を伝達していることを言い、「摺動させていない」とは、互いに離間して力を伝達していない場合と、接触しながらも力を殆ど伝達していない場合の両方を含めて言う。
【0021】
上記のクランク機構において、前記受動部の選択に際して、前記直線移動部材の直線運動の移動量の増加に伴って、前記回転軸の中心からの距離が大きくなるように、前記受動部を順番に変化させるように構成すると、直線移動部材の移動初期においては、単位移動量に対する回転角度が小さくなり、移動後期においては、単位移動量に対する回転角度が大きくなる。また、直線移動部材の移動初期においては、直線運動側の力に対する回転トルクの割合が大きくなり、移動後期においては、直線運動側の力に対する回転トルクの割合が小さくなる。
【0022】
上記のクランク機構において、前記ガイド部における前記ピンと摺動方向を、前記直線移動部材の移動方向に対して直角方向とすると、他の方向に形成した場合よりも、全体的に見て、伝達される回転トルクを大きくすることができる。
【0023】
上記のクランク機構において、前記受動部を前記回転レバーに固定した第1ピンと第2ピンで形成し、前記ガイド部を前記第1ピンと係合する第1ガイド部と、前記第2ピンと係合する第2ガイド部とで形成すると共に、前記第1ピンに係合する第1ガイド部における摺動部分を、前記直線移動部材の移動方向に対して直角方向に形成された第1の長孔で形成し、前記第1ガイド部における非摺動部分を前記第1の長孔に連続する第1の遊嵌孔で形成し、更に、前記第2ピンに係合する第2ガイド部における非摺動部分を、第2の遊嵌孔で形成し、前記第2ガイド部における摺動部分を、前記直線移動部材の移動方向に対して直角方向に形成され、かつ、前記第2の遊嵌孔に連続する第2の長孔で形成すると、比較的簡単な構成で、2段階で直線運動と回転運動との間の伝達を行うことができるようになる。なお、遊嵌孔とは、遊びがある状態で嵌め合わされる孔であり、嵌めたピンと嵌められた孔との間に間隔がある孔のことを言う。
【0024】
そして、上記のクランク機構を備えて、前記回転軸の回転により弁体を弁座に当接及び離間させるようにスイングレバー型バルブを構成すると、直線運動の初期では、単位移動量に対する回転角度は小さいが、力に対する回転トルクが大きいので、大きな力で弁体を弁座に押圧して、流体の漏れを防止でき、直線運動の後期では、力に対する回転トルクは小さいが、単位移動量に対する回転角度が大きいので、少ない直線運動量で弁体を弁座から引き離す量、即ち、弁開度を大きくすることができる。
【0025】
この構成のスイングレバー型バルブは、アクチュエータの直線運動でバルブを開閉するレバー比の変更が可能なバルブとなる。つまり、このバルブは、アクチュエータ始動初期には、レバー比を大きくして、作動範囲は小さいが、回転トルクを大とすることができ、所定作動後に、レバー比を小さくして、回転トルクは小さいが、作動範囲を大きくすることができる。そのため、2段過給等の排気切替用のスイングバルブに適したバルブとなる。
【0026】
そして、上記のスイングレバー型バルブを、内燃機関の2ステージターボシステムの排気切替部に使用するように構成すると、この排気切替部のシールに関する信頼性を向上することができる。その結果、2ステージターボシステムの本来の目的である低燃費、低エミッションを実現することできるようになる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るクランク機構によれば、アクチュエータ等の直線移動部材の移動量に応じて、単位移動量に対する回転軸の回転角度の大きさと、力に対する伝達される回転トルクの大きさの割合とを段階的に変化させることができる。
【0028】
また、このクランク機構を備えたスイングレバー型バルブによれば、小型で低コストのアクチュエータを用いても、高いシール力の発生とバルブの大きな作動範囲の確保とを両立させることができる。
【0029】
そのため、このスイングレバー型バルブを備えた内燃機関では、このスイングレバー型バルブの使用により、2ステージターボシステムの排気切替バルブのシールに関する信頼性を向上することができる。その結果、2ステージターボシステムの本来の目的である低燃費、低エミッションを実現することできるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施の形態のクランク機構とスイングレバー型バルブと内燃機関について、2ステージターボシステムの高圧段ターボチャージャの排気切替バルブを例にして図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の実施の形態のクランク機構及びスイングレバー型バルブの構成を示す。なお、図面の方向に従って、上下方向、横方向等の用語を使用するが、必ずしも実際には、クランク機構やスイングレバー型バルブは、図面の方向通りに配置されないので、これらの方向は便宜的なものであり、実際の配置における方向を示すものではない。
【0031】
図1に示すように、本発明の実施の形態のスイングレバー型バルブ10は、アクチュエータ11とその受圧面11bに接続された第1リンク12と、この第1リンク12に連結されたガイド板(直線移動部材)18と、このガイド板18に係合する回転レバー13と、この回転レバー13が固定された回転軸14と、この回転軸14に固定された第2リンク15と、第2リンク15の先に固定された弁体16と、この弁体16が当接する弁座17とを有して構成される。なお、ここでは、回転レバー13と第2リンク15とは回転軸14に固定されたものとして説明するが、本発明は、回転軸14への固定に限定されるものではなく、回転レバー13と第2リンク15とが回転軸14に枢支、即ち、回転軸14回りに同時に回転するように支持されらものであってもよい。この構成の例としては、回転軸14回りに回転する回転体に回転レバー13と第2リンク15を固定した構成がある。
【0032】
図2に示すように、回転レバー13には、受動部となる第1ピン13aと第2ピン13bを固定して設ける。この第1ピン13aと回転軸14の中心14cとの距離La1を、第2ピン13bと回転軸14の中心14cとの距離La2よりも大きくなるように設定する(La1>La2)。
【0033】
また、図3に示すように、ガイド板18には、第1ピン13aに係合する第1ガイド部18aと第2ピン13bに係合する第2ガイド部18bとを設ける。このガイド部18a,18bは、ピン13a,13bが挿入可能な溝や孔で形成するが、ピン13a,13bの移動を案内し、ガイド板18とピン13a,13bの間で力の伝達ができる構成であればよく、溝や孔に限定されない。
【0034】
この第1ガイド部18aは、ガイド板18の移動方向に対して直角方向に形成された第1の長孔18a1で形成される摺動部分と、この第1の長孔18a1に連続する第1の遊嵌孔18a2で形成される非摺動部分とからなる。この摺動部分では、第1ピン13aと第1の長孔18a1とが摺動しながら、言い換えれば、接触しながら相対的な位置を変更し、第1の長孔18a1と第1ピン13aとの間で力の伝達を行う。また、非摺動部分では、第1ピン13aと第1の遊嵌孔18a2とが力の伝達をすることなく相対的な位置を変更する。
【0035】
また、第2ガイド部18bは、第2ピン13bが遊嵌する第2の遊嵌孔18b1で形成される非摺動部分と、ガイド板18の移動方向に対して直角方向に形成され、かつ、第2の遊嵌孔18b1に連続する第2の長孔18b2で形成される摺動部分とからなる。この非摺動部分では、第2ピン13bと第2の遊嵌孔18b1とが力の伝達をすることなく相対的な位置を変更し、摺動部分では、第2ピン13bと第2の長孔18b2とが摺動しながら、即ち、接触しつつ相対的な位置を変更しながら、第2の長孔18b2と第2ピン13bとの間で力の伝達を行う。
【0036】
言い換えれば、回転軸14が回転初期(α0=0)から所定の第1角度α1まで回転する間は、ガイド板18に設ける第1ピン13a用の第1ガイド部18aでは、第1ピン13aにアクチュエータ11の移動量(ストローク)S1と力F1を伝えるように横方向に第1の長孔18a1を設ける。一方、第2ピン13b用の第2ガイド部18bでは、第2ピン13bとガイド板18が接触しないように、回転軸14の中心14cに対して第1ピン13aがアクチュエータ11の移動量S1に対応して動くときに、第2ピン13bがガイド板18上に描く軌跡(二点鎖線で示す)に沿うか、この軌跡を含み、かつ、軌跡より大きなガイド部として、第2の遊嵌孔18b1を設ける。
【0037】
そして、回転軸14が所定の第1角度α1から所定の第2角度まで回転する間は、ガイド板18に設ける第2ピン13b用の第2ガイド部18bでは、第2ピン13bにアクチュエータ11の移動量S1と力F1を伝えるように横方向に第2の長孔18b2を設ける。一方、第1ピン13a用の第1ガイド部18aでは、第1ピン13aとガイド板18が接触しないように、回転軸14の中心14cに対して第2ピン13bがアクチュエータ11の移動量S1に対応して動くときに、第1ピン13aがガイド板18上に描く軌跡(二点鎖線で示す)に沿うか、この軌跡を含み、かつ、軌跡より大きなガイド部として、第1の遊嵌孔18a2を設ける。
【0038】
そして、図4〜図8に示すように、ガイド板18の移動量S1の大きさに応じて、回転レバー13との係合が、第1ピン13aと第1ガイド部18aの摺動部分から、第2ピン13bと第2ガイド部18bの摺動部分に円滑に移行するように構成する。また、このガイド板18は、第1ピン13a、第2ピン13bとの間で力F1の伝達を行うため、回転レバー13が傾斜する(α>0)と、横方向の力が発生するので、ガイド19を設けて、横方向への移動を防止する。
【0039】
これにより、排気切替バルブ10は、ガス通路を開閉する弁体16とこの弁体16を回転させる回転軸14と、この回転軸14に連結され、回転軸14の中心14cからの距離が異なる複数(図面では2個)のピン13a,13bを持つ回転レバー13と、このピン13a,13bにアクチュエータ11からの力を伝達するピン用ガイド部18a,18bを持つガイド板18と、このガイド板18に繋がるアクチュエータ11の第1リンク12と、弁体16を駆動させるためのアクチュエータ11とから構成されることになる。
【0040】
次に、この構成のスイングレバー型バルブ10の開閉とクランク機構の働きについて、図4〜図9を参照しながら説明する。
【0041】
スイングレバー型バルブ10が閉弁している時には、図4に示すように、ガイド板18の移動量(ストローク)S1がゼロで、回転レバー13が回転角度αがゼロ(α0=0)であり、この場合は、第1ピン13aは、第1ガイド部18aの最左端に位置して、第1の長孔18a1の上端で接触している。アクチュエータ11のスプリング11aの付勢力F1は第1リンク12、ガイド板18、第1の長孔18a1、第1ピン13a、回転レバー13、回転軸14、第2リンク15を介して伝達され、力F2(=La1/Lb×F1)で弁体16を弁座17に押し付ける。この弁座17に押し付けた弁体16により、排気切替バルブ10のシールを形成し、高圧側P1と低圧側P2を隔てる。
【0042】
スイングレバー型バルブ10の開弁初期では、図5に示すように、アクチュエータ11の上部に負圧(P3<P4)を導入し、アクチュエータ11内の受圧面11bで仕切られた下室11cと上室11dとの圧力差(P4−P3)で内部の受圧面11bをスプリング11aを縮める上方向に動かし、第1リンク12の上移動により、回転レバー13を上方向に、即ち、回転軸14を時計周り方向に移動させて弁体16を開弁する。
【0043】
この場合は、第1リンク12が上方向に移動し、第1リンク12に連結したガイド板18が力F1で上方向に移動すると、第1ピン13aは第1ガイド部18aの第1の長孔18a1と接触する。この状態で、上向きの力F1は、第1リンク12、ガイド板18、第1の長孔18a1、第1ピン13a、回転レバー13、回転軸14、第2リンク15を介して弁体16に伝達され、力F2(=La1/Lb×F1)で、弁体16を弁座17から引き離す。
【0044】
なお、実機で使用している場合では、排気振替バルブ10の開弁時には、弁体16に圧力(P1−P2)が加わっているので、受圧面11bに加わる負圧(P4−P3)とスプリング11aの付勢力と弁体16に加わる圧力(P1−P2)とのバランスによっては、力F1が伝達されるというよりも、逆に力F2が逆方向に伝達されるという言い方の方が相応しい場合もある。
【0045】
図4及び図5に示すような、回転軸14の回転角度αがα0≦α<α1の間は、第2ピン13bと第2の遊嵌孔18b1とが遊嵌し、第1ピン13aと第1の長孔18a1とが接触して力F1を伝達する。この場合は、力の伝達のレバー比のLa1/Lbは、La2/Lbに比べて大きくなり、単位移動量ΔS1に対する回転角度Δαは、図9に示すように比較的小さく、その一方で、伝達される力F1に対する伝達された力F2は比較的大きくなる。なお、逆方向に力が伝達される場合には、伝達される力F2に対する伝達された力F1は比較的小さくなる。
【0046】
そして、図6に示すように、回転軸14の回転角度αが所定の第1角度α1となる(α=α1)と、第1ピン13aと第1の長孔18a1とが接触して力F1を伝達すると共に、同時に、第2ピン13aと第2の長孔18b2とが接触して力F1を伝達する。
【0047】
そして、図7及び図8に示すような、回転軸14の回転角度αがα1<α≦α2の間は、第1ピン13aと第1の遊嵌孔18a2とが遊嵌し、第2ピン13bと第2の長孔18b2とが接触して力F1を伝達する。この場合は、力の伝達のレバー比のLa2/Lbは、La1/Lbに比べて小さくなり、単位移動量ΔS1に対する回転角度Δαは、図9に示すように比較的大きく、その一方で、伝達される力F1に対する伝達された力F2は比較的小さくなる。なお、逆方向に力が伝達される場合には、伝達される力F2に対する伝達された力F1は比較的大きくなる。
【0048】
そして、このクランク機構によれば、アクチュエータ11のガイド部材(直線移動部材)18の直線方向の移動量S1に応じて、単位移動量ΔS1に対する回転軸14の回転角度Δαの大きさと、力F1の大きさに対する伝達される回転トルクR1の大きさの割合とを二段階に変化させることができる。
【0049】
また、このクランク機構を備えたスイングレバー型バルブ10によれば、閉弁時は、第1ピン13aを介してスプリング11aの付勢力に起因する力F1を、長いレバー長さLa1で伝達して、比較的大きな力F2で弁体16を弁座17のシール面に押し付けることができる。また、小ストローク時は、回転角度αが所定の第1角度α1になるまで、第1ピン13aを介して、長いレバー長さLa1を用いて、アクチュエータ11の移動により回転軸14を比較的小さな回転角度αで回転させることができ、回転角度αが所定の第1角度α1を越えて所定の第2角度α2になるまでの中ストローク以降は、第1ピン13aは、第1ガイド部18aの摺動部分である第1の長孔18a1から外れ、第2ピン13bを介して短いレバー長さLa2を用いて、アクチュエータ11の移動により回転軸14を比較的大きな回転角度αで回転させることができる。
【0050】
従って、スイングレバー式バルブ10の開弁初期時には、レバー長さLaを長い方La1に切り替えて、シールに寄与する押圧力F2を大きくすることができ、更に、アクチュエータ11が作動して、所定の第1開度α1以上開いた時から、レバー長さを短い方La2に切り替えて、圧力損失の低減に寄与する弁体16の開きの度合を大きくすることができる。その結果、小型で低コストのアクチュエータ11を用いても、高いシール力F2の発生と弁開度αの大きな作動範囲の確保とを両立させることができる。
【0051】
なお、上記と同様に、受動部とそれに係合するガイド部とをそれぞれ3以上設けて、上記と同じように摺動部分の長孔と非摺動部分の遊嵌孔を設けることにより、容易に、3段以上の段階的に回転軸を回転させることができるクランク機構とスイングレバー式バルブを得ることができる。なお、各受動部に係合する各ガイド部は必ずしも独立している必要はなく、製作上の容易性等を考慮して連続した形状に形成してもよい。
【0052】
次に、このスイングレバー式バルブ10を備えた内燃機関について説明する。図10に示すように、この内燃機関1は、自動車等に搭載される2ステージターボシステム(2段過給システム)の内燃機関であり、エンジン(E)1の排気マニホールド2に接続して高圧段ターボチャージャ3を設けると共に、排気マニホールド2と高圧段ターボチャージャ3のタービン3tの出口の合流部に排気切替バルブ10を設け、排気切替バルブ10の下流に低圧段ターボチャージャ4のタービン4tを連結している。なお、高圧段ターボチャージャ3のタービン3tには、高圧段排気調整バルブ3vを備えたバイパス通路が設けられる。
【0053】
この2ステージターボシステムでは、吸気Aは吸気管6を経由して低圧段コンプレッサー4cと高圧段コンプレッサー3cで昇圧される。その後、吸気切替バルブ7を経由して吸気マニホールド8に入る。一方、エンジン1の排気マニホールド2から排出されるガスGは、排気管5を経由して高圧段タービン3tと低圧段タービン4tで仕事をする。この排気ガスGによる、高圧段タービン3tと低圧段タービン4tの仕事量は、エンジン制御装置(ECU)9によって高圧段排気調整バルブ3vと排気切替バルブ10の開度を制御することで、分配調整される。
【0054】
排気切替バルブ10が閉じている段階では、高圧段排気調整バルブ3vが全閉の時に排気ガスGの全量が高圧段タービン3tを通って仕事をし、その後、低圧段タービン4tに入って仕事をする。そして、高圧段排気調整バルブ3vが開き出すと、排気ガスGの一部が高圧段タービン3tを迂回して直接低圧段タービン4tに流入するようになるので、高圧段タービン3tの仕事量は減り、低圧段タービン4tの仕事量が増える。
【0055】
更に、排気切替バルブ10が開き始めると、低圧段タービン4tの仕事量が増える。そして、排気切替バルブ10が全開になると、排気ガスGの全量が高圧段タービン3tを迂回して低圧段タービン4tに流れ、高圧段タービン3tは仕事をしないで、低圧段タービン4tだけが仕事をすることになる。
【0056】
本発明の内燃機関では、この排気切替バルブ10に上記のスイングレバー式バルブ10を用いる。これにより、この排気切替バルブ10は、高圧段タービン3tが仕事をしている時は閉弁されて、排気マニホールド2内の高いガス圧に対して大きな押圧力F2でシールすることができ、2ステージターボシステムの排気切替部のシールに関する信頼性を向上することができる。また、この排気切替バルブ10は、低圧段タービン4tが仕事をしている時には開弁されるが、この開弁時には、大きな弁開度で、高負荷運転で生じる高温の排気ガスGの全量を、大きな圧力損失を生じることなく、流すことができ、2ステージターボシステムの本来の目的である低燃費、低エミッションを実現することできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る実施の形態のスイングレバー式バルブの構成を模式的に示す図である。
【図2】図1の回転レバーの構成を示す図である。
【図3】図1のガイド板の構成を示す図である。
【図4】図1のスイングレバー式バルブの閉弁時の回転レバーとガイド板の係合の状態を示す図である。
【図5】図1のスイングレバー式バルブの開弁初期時の回転レバーとガイド板の係合の状態を示す図である。
【図6】図1のスイングレバー式バルブの開弁中期時の回転レバーとガイド板の係合の状態を示す図である。
【図7】図1のスイングレバー式バルブの開弁中期以後の回転レバーとガイド板の係合の状態を示す図である。
【図8】図1のスイングレバー式バルブの開弁終期の回転レバーとガイド板の係合の状態を示す図である。
【図9】図1のスイングレバー式バルブのアクチュエータのストロークと回転軸の回転角度との関係を示す図である。
【図10】2ステージターボシステムの内燃機関の構成を模式的に示す図である。
【図11】従来技術のスイングレバー式バルブの構成を模式的に示す図である。
【図12】図11のスイングレバー式バルブのアクチュエータのストロークと回転軸の回転角度との関係を示す図である。
【図13】回転レバーのレバー長さとストロークと回転角度の関係を説明するための図である。
【図14】レバー長さとアクチュエータのストロークと回転軸の回転角度との関係を示す図である。
【図15】弁体の回転角度の大きさと圧力損失の関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0058】
1 内燃機関(エンジン)
10 スイングレバー型バルブ
11 アクチュエータ
11a スプリング
11b 受圧面
12 第1リンク
13 回転レバー
13a 第1ピン(受動部)
13b 第2ピン(受動部)
14 回転軸
14c 回転軸の中心
15 第2リンク
16 弁体
17 弁座
18 ガイド板(直線移動部材)
18a 第1ガイド部
18a1 第1の長孔(摺動部分)
18a2 第1の遊嵌孔(非摺動部分)
18b 第2ガイド部
18b1 第2の遊嵌孔(非摺動部分)
18b2 第2の長孔(摺動部分)
19 ガイド
La レバー長さ
La1 回転軸の中心と第1ピンとの間の距離
La2 回転軸の中心と第2ピンとの間の距離
α 回転軸の回転角度(弁開度)
α1 所定の第1角度
α2 所定の第2角度
F1 力
F2 力(押圧力)
P1 バルブの高圧側
P2 バルブの低圧側
S1 アクチュエータのストローク
S2 弁体のストローク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定又は枢支した回転レバーに受動部を設けると共に、駆動部側の直線移動部材の直線運動を前記受動部を介して前記回転軸の回転運動に変換するクランク機構において、
前記受動部を前記回転軸の中心との距離を変化させて複数設けると共に、
前記直線移動部材の直線運動の移動量に応じて、前記複数の受動部の内から力を伝達する受動部を選択し、この選択した受動部のみで前記直線移動部材と前記回転レバーの間で力を伝達させると共に、選択外の受動部では前記直線移動部材と前記回転レバーの間で力を伝達させないように構成したことを特徴としたクランク機構。
【請求項2】
前記受動部を前記回転レバーに固定したピンで形成すると共に、
該ピンに係合する前記直線移動部材側のガイド部を、
前記直線移動部材と前記回転レバーの間で力を伝達させている間は、前記選択された受動部の前記ピンと摺動するように形成し、
前記直線移動部材と前記回転レバーの間で力を伝達させていない間は、前記選択された受動部の前記ピンとの間に隙間を設けて摺動しないように形成したことを特徴とした請求項1記載のクランク機構。
【請求項3】
前記受動部の選択に際して、前記直線移動部材の直線運動の移動量の増加に伴って、前記回転軸の中心からの距離が大きくなるように、前記受動部を順番に変化させたことを特徴とする請求項1又は2記載のクランク機構。
【請求項4】
前記ガイド部における前記ピンと摺動方向を、前記直線移動部材の移動方向に対して直角方向としたことを特徴とする請求項2又は3記載のクランク機構。
【請求項5】
前記受動部を前記回転レバーに固定した第1ピンと第2ピンで形成し、前記ガイド部を前記第1ピンと係合する第1ガイド部と、前記第2ピンと係合する第2ガイド部とで形成すると共に、
前記第1ピンに係合する第1ガイド部における摺動部分を、前記直線移動部材の移動方向に対して直角方向に形成された第1の長孔で形成し、前記第1ガイド部における非摺動部分を前記第1の長孔に連続する第1の遊嵌孔で形成し、
更に、前記第2ピンに係合する第2ガイド部における非摺動部分を、第2の遊嵌孔で形成し、前記第2ガイド部における摺動部分を、前記直線移動部材の移動方向に対して直角方向に形成され、かつ、前記第2の遊嵌孔に連続する第2の長孔で形成したことを特徴とする請求項4記載のリンク機構。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載のクランク機構を備えて、前記回転軸の回転により弁体を弁座に当接及び離間させるように構成したことを特徴とするスイングレバー型バルブ。
【請求項7】
請求項6のスイングレバー型バルブを、内燃機関の2ステージターボシステムの排気切替部に使用したことを特徴とする内燃機関。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−8203(P2009−8203A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171675(P2007−171675)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】